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特許7437030肉厚測定システム、肉厚測定方法、肉厚測定プログラム及び肉厚測定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】肉厚測定システム、肉厚測定方法、肉厚測定プログラム及び肉厚測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/90 20210101AFI20240215BHJP
   G01B 7/06 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
G01N27/90
G01B7/06 M
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020113742
(22)【出願日】2020-07-01
(65)【公開番号】P2022012140
(43)【公開日】2022-01-17
【審査請求日】2023-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000133733
【氏名又は名称】株式会社テイエルブイ
(72)【発明者】
【氏名】時岡 良宜
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-222194(JP,A)
【文献】特開2013-217894(JP,A)
【文献】特開平09-274017(JP,A)
【文献】米国特許第4990851(US,A)
【文献】特開2011-229815(JP,A)
【文献】特許第6725778(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/72-27/9093
G01B 7/00-7/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信コイル及び受信コイルを有するパルス電流プローブを備え、被測定箇所に誘導電流を発生させて該被測定箇所の肉厚を算出する肉厚測定システムであって、
前記被測定箇所の基準肉厚の情報を記憶する記憶部と、
前記基準肉厚に基づいて、前記受信コイルに生じた誘導起電力である検出信号の積算回数を決定する回数決定部と、
1回あたり所定期間だけパルス電流を前記送信コイルに出力する制御部であって、前記積算回数だけ該パルス電流の出力を繰り返す出力制御部と、
前記送信コイルへのパルス電流の出力停止後に前記受信コイルに生じた誘導起電力を検出する検出部であって、前記積算回数だけ該誘導起電力の検出を繰り返す誘導起電力検出部と、
前記積算回数だけ検出された誘導起電力である検出信号を積算する積算部と、
前記積算された検出信号に基づいて前記被測定箇所の肉厚を算出する肉厚算出部と、
を備えた肉厚測定システム。
【請求項2】
前記記憶部は、肉厚と積算回数とが対応付けられた決定情報を記憶し、
前記回数決定部は、前記基準肉厚及び前記決定情報に基づいて前記積算回数を決定する、
請求項1に記載の肉厚測定システム。
【請求項3】
前記回数決定部は、前記基準肉厚が厚いほど、積算回数を多くする、
請求項1又は請求項2に記載の肉厚測定システム。
【請求項4】
前記回数決定部は、前記基準肉厚に対する前記算出された肉厚の減少割合に応じて前記積算回数を変更する、
請求項1~3のいずれかに記載の肉厚測定システム。
【請求項5】
前記出力制御部及び前記誘導起電力検出部は、前記パルス電流プローブに設けられ、
前記積算部は、前記パルス電流プローブ又は第一装置に設けられ、
前記記憶部、前記回数決定部及び前記肉厚算出部は、前記第一装置と別個体の第二装置に設けられている請求項1~4のいずれかに記載の肉厚測定システム。
【請求項6】
送信コイル及び受信コイルを有するパルス電流プローブを用いて被測定箇所に誘導電流を発生させて該被測定箇所の肉厚を算出する肉厚測定方法であって、
記憶部に記憶された前記被測定箇所の基準肉厚に基づいて、前記受信コイルに生じた誘導起電力である検出信号の積算回数を決定する回数決定工程と、
1回あたり所定期間だけパルス電流を前記送信コイルに出力する制御工程であって、前記積算回数だけ該パルス電流の出力を繰り返す出力制御工程と、
前記送信コイルへのパルス電流の出力停止後に前記受信コイルに生じた誘導起電力を検出する検出工程であって、前記積算回数だけ該誘導起電力の検出を繰り返す誘導起電力検出工程と、
前記積算回数だけ検出された誘導起電力である検出信号を積算する積算工程と、
前記積算された検出信号に基づいて前記被測定箇所の肉厚を算出する肉厚算出工程と、
を含む肉厚測定方法。
【請求項7】
送信コイル及び受信コイルを有するパルス電流プローブを用いて被測定箇所に誘導電流を発生させて該被測定箇所の肉厚を算出するコンピュータに、
記憶部に記憶された前記被測定箇所の基準肉厚に基づいて、前記受信コイルに生じた誘導起電力である検出信号の積算回数を決定する回数決定手段と、
1回あたり所定期間だけパルス電流を前記送信コイルに出力する制御手段であって、前記積算回数だけ該パルス電流の出力を繰り返す出力制御手段と、
前記送信コイルへのパルス電流の出力停止後に前記受信コイルに生じた誘導起電力を検出する検出手段であって、前記積算回数だけ該誘導起電力の検出を繰り返す誘導起電力検出手段と、
前記積算回数だけ検出された誘導起電力である検出信号を積算する積算手段と、
前記積算された検出信号に基づいて前記被測定箇所の肉厚を算出する肉厚算出手段と、
を実現させる肉厚測定プログラム。
【請求項8】
送信コイル及び受信コイルを有するパルス電流プローブを備え、被測定箇所に誘導電流を発生させて該被測定箇所の肉厚を算出する肉厚測定装置であって、
前記被測定箇所の基準肉厚の情報を記憶する記憶部と、
前記基準肉厚に基づいて、前記受信コイルに生じた誘導起電力である検出信号の積算回数を決定する回数決定部と、
1回あたり所定期間だけパルス電流を前記送信コイルに出力する制御部であって、前記積算回数だけ該パルス電流の出力を繰り返す出力制御部と、
前記送信コイルへのパルス電流の出力停止後に前記受信コイルに生じた誘導起電力を検出する検出部であって、前記積算回数だけ該誘導起電力の検出を繰り返す誘導起電力検出部と、
前記積算回数だけ検出された誘導起電力である検出信号を積算する積算部と、
前記積算された検出信号に基づいて前記被測定箇所の肉厚を算出する肉厚算出部と、
を備えた肉厚測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、パルス電流プローブを備え、被測定箇所に誘導電流を発生させて被測定箇所の肉厚を算出する肉厚測定システム等に関する。
【背景技術】
【0002】
配管等の金属物品の被測定物の傷の有無や肉厚等を検査する方法として、電流を使用したパルス流探傷法が知られている(例えば、特許文献1参照)。このパルス流探傷法を適用したパルス流探傷装置では、被測定物に電流(誘導電流)を発生させる。この電流によって、プローブ(受信コイル)に誘導起電力が発生する。そして、受信コイルに生じた誘導起電力(検出信号)を検出する。この検出信号に基づいて、傷の有無や肉厚の測定等が行われる。また、特許文献1では、測定精度(S/N比)の改善された複数の検出信号から欠陥の有無及び等級を判定する構成が記載されている。S/N(signal/noise)比を改善する方法としては、複数の検出信号を積算する方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平09-274017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のパルス電流探傷法において、複数の検出信号を積算する構成では、積算回数が多くなると、S/N比は向上するがデータ量が多くなる。データ量が多くなると、通信やデータ処理の負荷が増大してしまう。
【0005】
この発明は、検出信号(流探傷信号)の測定精度(S/N比)を高く維持しつつ、通信やデータ処理の負荷の増大を抑制する肉厚測定システム等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の側面によって提供される肉厚測定システムは、送信コイル及び受信コイルを有するパルス電流プローブを備え、被測定箇所に誘導電流を発生させて被測定箇所の肉厚を算出する。また、肉厚測定システムは、記憶部、回数決定部、出力制御部、誘導電起電力検出部、積算部及び肉厚算出部を備える。記憶部は、被測定箇所の基準肉厚の情報を記憶する。回数決定部は、基準肉厚に基づいて、受信コイルに生じた誘導起電力である検出信号の積算回数を決定する。出力制御部は、1回あたり所定期間だけパルス電流を送信コイルに出力する制御部であって、積算回数だけパルス電流の出力を繰り返す。誘導起電力検出部は、送信コイルへのパルス電流の出力停止後に受信コイルに生じた誘導起電力を検出する検出部であって、積算回数だけ誘導起電力の検出を繰り返す。積算部は、積算回数だけ検出された誘導起電力である検出信号を積算する。肉厚算出部は、積算された検出信号に基づいて被測定箇所の肉厚を算出する。
【0007】
上記記憶部は、肉厚と積算回数とが対応付けられた決定情報を記憶し、上記回数決定部は、基準肉厚及び決定情報に基づいて積算回数を決定するようにしてもよい。
【0008】
上記回数決定部は、基準肉厚が厚いほど、積算回数を多くするようにしてもよい。
【0009】
上記回数決定部は、基準肉厚に対する算出された肉厚の減少割合に応じて積算回数を変更するようにしてもよい。
【0010】
上記出力制御部及び誘導起電力検出部は、パルス電流プローブに設けられ、上記積算部は、パルス電流プローブ又は第一装置に設けられ、上記記憶部、回数決定部及び肉厚算出部は、第一装置と別個体の第二装置に設けられていてもよい。
【0011】
本発明の第2の側面によって提供される肉厚測定方法は、送信コイル及び受信コイルを有するパルス電流プローブを用いて被測定箇所に誘導電流を発生させて被測定箇所の肉厚を算出する方法であって、記憶部に記憶された被測定箇所の基準肉厚に基づいて、受信コイルに生じた誘導起電力である検出信号の積算回数を決定する回数決定工程と、1回あたり所定期間だけパルス電流を送信コイルに出力する制御工程であって、積算回数だけパルス電流の出力を繰り返す出力制御工程と、送信コイルへのパルス電流の出力停止後に受信コイルに生じた誘導起電力を検出する検出工程であって、積算回数だけ誘導起電力の検出を繰り返す誘導起電力検出工程と、積算回数だけ検出された誘導起電力である検出信号を積算する積算工程と、積算された検出信号に基づいて被測定箇所の肉厚を算出する肉厚算出工程と、を含む。
【0012】
本発明の第3の側面によって提供される肉厚測定プログラムは、送信コイル及び受信コイルを有するパルス電流プローブを用いて被測定箇所に誘導電流を発生させて被測定箇所の肉厚を算出するコンピュータに、記憶部に記憶された被測定箇所の基準肉厚に基づいて、受信コイルに生じた誘導起電力である検出信号の積算回数を決定する回数決定手段と、1回あたり所定期間だけパルス電流を送信コイルに出力する制御手段であって、積算回数だけパルス電流の出力を繰り返す出力制御手段と、送信コイルへのパルス電流の出力停止後に受信コイルに生じた誘導起電力を検出する検出手段であって、積算回数だけ誘導起電力の検出を繰り返す誘導起電力検出手段と、積算回数だけ検出された誘導起電力である検出信号を積算する積算手段と、積算された検出信号に基づいて被測定箇所の肉厚を算出する肉厚算出手段と、を実現させる。
【0013】
本発明の第4の側面によって提供される肉厚測定装置は、送信コイル及び受信コイルを有するパルス電流プローブを備え、被測定箇所に誘導電流を発生させて被測定箇所の肉厚を算出する。また、肉厚測定装置は、記憶部、回数決定部、出力制御部、誘導電起電力検出部、積算部及び肉厚算出部を備える。記憶部は、被測定箇所の基準肉厚の情報を記憶する。回数決定部は、基準肉厚に基づいて、受信コイルに生じた誘導起電力である検出信号の積算回数を決定する。出力制御部は、1回あたり所定期間だけパルス電流を前記送信コイルに出力する制御部であって、積算回数だけパルス電流の出力を繰り返す。誘導起電力検出部は、送信コイルへのパルス電流の出力停止後に受信コイルに生じた誘導起電力を検出する検出部であって、積算回数だけ誘導起電力の検出を繰り返す。積算部は、積算回数だけ検出された誘導起電力である検出信号を積算する。肉厚算出部は、積算された検出信号に基づいて被測定箇所の肉厚を算出する。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、被測定箇所の基準肉厚に基づいて積算回数が決定されるので、被測定箇所に対して適切な積算回数で積算された検出信号に基づいて被測定箇所の肉厚が算出される。したがって、検出信号(流探傷信号)の測定精度(S/N比)を高く維持しつつ、通信やデータ処理の負荷の増大を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】この発明の実施形態に係る肉厚測定システムの概要を示す斜視図である。
図2】この発明の実施形態に係る肉厚測定システムの構成図である。
図3】積算検出信号(誘導起電力)の減衰曲線の一例を示す図である。
図4】この発明の実施形態に係る肉厚測定システムが記憶する決定テーブルの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図面を参照してこの発明の実施形態に係る肉厚測定システム(肉厚測定方法、肉厚測定プログラム、肉厚測定装置)について説明する。なお、この発明の構成は、実施形態に限定されるものではない。
【0017】
図1は、この発明の実施形態に係る肉厚測定システム1の概要を示す図である。図2は、この発明の実施形態に係る肉厚測定システムの構成図である。本実施形態の肉厚測定システム(測定システム)1は、化学プラント等に設置された配管(被測定物)Pの肉厚を測定する。測定システム1は、複数のパルス電流プローブ2、ハブ端末3(第一装置の例)及びサーバ装置4(第二装置の例)等を備える。
【0018】
複数のパルス電流プローブ2は、配管Pに設定されたそれぞれ異なる被測定箇所(配管Pの外周面)に当接するように設置されている。複数のパルス電流プローブ2とハブ端末3とは有線接続されており、接続線Lを介して電力供給及び情報通信が行われる。ハブ端末3とサーバ装置4とは、互いに無線通信可能に構成されている。
【0019】
パルス電流プローブ2は、図2に示すように、送信コイル21、受信コイル22及びマイクロコントローラ23等を有する。マイクロコントローラ23の給電制御部(出力制御部)231は、ハブ端末3の測定制御部311からの制御信号に従って、送信コイル21にパルス電流を流すように制御する。具体的には、給電制御部231は、1回あたり所定期間だけパルス電流を流す(出力する)ように制御する。送信コイル21へのパルス電流が遮断されると、急激な磁界変化によって、パルス電流プローブ2が当接する被測定箇所に誘導電流(電流)が発生する。
【0020】
また、給電制御部231は、上述の送信コイル21への所定期間のパルス電流の出力(電流出力)を1回とし、この電流出力を積算回数だけ繰り返し行う。具体的には、給電制御部231は、電流の遮断期間を挟んで積算回数だけ電流出力を繰り返し行う。例えば、積算回数が2回の場合、給電制御部231は、最初に、所定期間だけパルス電流を出力し(1回目の電流出力)、電流遮断(出力停止)後から遮断期間の経過後、再び、所定期間だけパルス電流を送信コイル2に出力する(2回目の電流出力)。なお、遮断期間は、後述する誘導起電力の検出期間以上の期間を設定すればよい。また、積算回数は、ハブ端末3の測定制御部311から送信される制御信号に含まれる。
【0021】
受信コイル22は、被測定箇所で発生した誘導電流による磁界によって、誘導起電力を発生させる。誘導起電力検出部232は、電流出力の停止後、受信コイル22に生じた誘導起電力を電圧信号(検出信号)として検出する。誘導起電力検出部232は、受信コイル22による電圧信号の検出を所定期間(検出期間)だけ継続し、検出結果を記憶部(不図示)に記憶させる。なお、検出期間は、パルス電流の出力停止後、受信コイル22に誘導起電力が発生しなくなる程度の期間を設定すればよい。
【0022】
また、誘導起電力検出部232は、上述の積算回数だけ誘導起電力の検出を繰り返し行う。すなわち、誘導起電力検出部232は、送信コイル21への電流出力が停止される毎に、誘導起電力の検出を繰り返し行う。
【0023】
例えば、上述した積算回数が2回の場合、1回目の電流出力の停止後、誘導起電力検出部232は、1回目の誘導起電力の検出を行って、検出結果を記憶部に記憶させる。その後、2回目の電流出力の停止後、誘導起電力検出部232は、2回目の誘導起電力の検出を行って、検出結果を記憶部に記憶させる。
【0024】
なお、パルス電流プローブ2の各個体は、識別情報Idにより識別される。識別情報Idは、例えば、ハブ端末3から近い順に01、02、03、…としてディップスイッチを用いて設定可能である。また、各パルス電流プローブ2の識別情報Idは、被測定箇所を特定する識別情報でもある。以下の説明では、識別情報Idにより特定されるパルス電流プローブ2が設置された被測定箇所を、単に識別情報Idにより特定される被測定箇所という場合がある。
【0025】
なお、以下の説明では、給電制御部231が積算回数だけ送信コイル21にパルス電流を流すように制御し、誘導起電力検出部232が積算回数だけ受信コイル22に生じた誘導起電力を検出する一連の動作を、「肉厚測定を実行する」という場合がある。
【0026】
次に、ハブ端末3について説明する。ハブ端末3は、ハブ側演算装置31及びハブ側通信部32等を有する。ハブ側演算装置31は、測定制御部311、積算部312及び減衰解析部313を含む。ハブ側演算装置31は、例えばマイクロコントローラとして実装される。ハブ端末3は、電源(不図示)から電力供給を受けて動作するとともに、各パルス電流プローブ2に電力を供給する。
【0027】
測定制御部311は、複数のパルス電流プローブ2のうち、いずれのパルス電流プローブ2を用いた肉厚測定を実行するかを制御する。具体的には、測定制御部311は、一つのパルス電流プローブ2を選択し、選択されたパルス電流プローブ2にパルス電流が流れるように指示する制御信号を発信する。
【0028】
制御信号には、選択されたパルス電流プローブ2を識別する識別情報Id、及び、積算回数がが含まれる。選択されたパルス電流プローブ2のマイクロコントローラ23は、識別情報Idに基づいて当該制御信号が自身宛であることを認識し、積算回数に応じて送信コイル21にパルス電流を流す制御を実行する。なお、各被測定箇所(パルス電流プローブ2)の積算回数を示す積算回数テーブルは、サーバ装置4の積算回数決定部411により生成される。測定制御部311は、積算回数テーブルを参照し、選択されたパルス電流プローブ2に対する積算回数を制御信号に含める。
【0029】
また、測定制御部311は、サーバ装置4の測定回数分配部413により算出された測定実行回数に基づいて、パルス電流プローブ2を制御する。測定制御部311は、各パルス電流プローブ2に分配された測定実行回数が充足されるように、複数のパルス電流プローブ2の送信コイル21に順次パルス電流が流れるようにパルス電流プローブ2を制御する。
【0030】
積算部312は、積算回数だけ検出された各誘導起電力の検出信号を、誘導起電力検出部232から取得して積算する。例えば、或る被測定箇所では、積算回数が200回として、200の検出信号が積算される。図3は、積算検出信号の減衰曲線の一例を示す図である。
【0031】
図3の積算検出信号MS1は、上述の200の検出信号が積算された検出信号である。なお、図3には、比較例として、積算回数を10回とした場合の積算検出信号MS2も図示されている。なお、積算検出信号MS1,MS2は、同一の被測定箇所での積算検出信号である。
【0032】
図3に示すように、誘導起電力(検出信号)は、t-n(tは時間)に比例する曲線部分(急激な減衰を示す曲線部分)S2と、t-nから外れる曲線部分(緩やかな減少を示す曲線部分)S1とに区分される。後述する減衰解析部313は、曲線部分S1と曲線部分S2との境界(変化点)の時刻を特定し、これに基づいて継続時間τを決定する。
【0033】
検出信号における上記変化点は、ノイズフロアに近い。特に、被測定箇所の肉厚が厚いほど、上記変化点はノイズフロアに近くなる。しかし、積算検出信号MS1と積算検出信号MS2とから把握できるように、積算回数が多ければ変化点が明確になる。ただし、単に(一律に)積算回数を多くしてしまうと、データ量が多くなり、通信やデータ処理の負荷が増大してしまう。そのため、本実施形態では、サーバ装置4(積算回数決定部411)が、被測定箇所の肉厚に応じて、より適切な積算回数を決定している。詳細は後述する。
【0034】
減衰解析部313は、積算検出信号の継続時間τを算出する。減衰解析部313は、図3を参照して説明したように、減衰曲線の形状を解析して曲線部分S1と曲線部分S2との境界の時刻を特定し、これに基づいて継続時間τを決定する。
【0035】
ハブ側通信部32は、サーバ装置4のサーバ側通信部43と無線通信可能に構成される。ハブ側通信部32は、減衰解析部312が算出した継続時間τに、測定制御部311が選択したパルス電流プローブ2を特定する識別情報Id及び測定日時(肉厚の算出に用いられた継続時間τを測定した日時。)を付して、サーバ装置4に送出する。また、積算回数決定部(回数決定部)411が決定した各被測定箇所の積算回数を受信する。具体的には、識別情報Idと積算回数とが対応付けられた積算回数テーブルを受信する。さらに、測定回数分配部413が決定した各パルス電流プローブ2の測定実行回数を表す測定回数テーブルを受信する。
【0036】
次に、サーバ装置4について説明する。サーバ装置4は、サーバ側演算装置41、記憶部42及びサーバ側通信部43等を有する。サーバ側演算装置41は、積算回数決定部411、肉厚演算部412及び測定回数分配部413を含む演算装置である。サーバ側演算装置41は、例えばCPUとして実装される。
【0037】
記憶部42には、肉厚演算部411により算出された肉厚及び継続時間τが、被測定箇所(パルス電流プローブ2)を特定する識別情報Id及び測定日時に関連付けられて記憶されている。また、記憶部42には、それぞれの被測定箇所について当初肉厚(基準肉厚)及び下限肉厚が記憶されている。当初肉厚は、配管Pが設置された当初の各被測定箇所の肉厚である。下限肉厚は、使用不可となる下限の肉厚である。当初肉厚及び下限肉厚は、識別情報Idに関連付けられている。当初肉厚は、配管P(パルス電流プローブ2)の設置時、例えば作業者が超音波探傷検査(超音波探傷器)を用いて測定した値が設定される。
【0038】
さらに、記憶部42には、積算回数を決定するために参照される決定テーブル(決定情報)が記憶されている。決定テーブルは、図4に示すように、肉厚と積算回数とが対応付けられている。図4は、決定テーブルの一例を示す図である。
【0039】
サーバ側通信部43は、ハブ端末3のハブ側通信部32と無線通信可能に構成にされる。サーバ側通信部43は、各被測定箇所の積算回数(積算回数テーブル)及び測定回数テーブルをハブ端末3に送出する。また、ハブ端末3から継続時間τを受け取る。なお、積算回数テーブルは、測定回数テーブルと合わせて送出しても、別々に送出してもよい。また、積算回数テーブルの送出タイミングは、被測定箇所の測定が実行されるまでに送出される構成であれば、任意のタイミングを採用可能である。
【0040】
積算回数決定部(回数決定部)411は、当初肉厚(基準肉厚)に基づいて、受信コイル22に生じた誘導起電力である検出信号の積算回数を決定する。具体的には、積算回数決定部411は、被測定箇所の当初肉厚に合致する積算回数を、決定テーブルから特定する。また、特定された積算回数は、積算回数テーブルとして、被測定箇所(パルス電流プローブ2)を特定する識別情報Idに対応づけて記憶部42に記憶される。積算回数決定部411は、被測定箇所ごとに積算回数を決定する。なお、積算回数決定部411は、例えば、パルス電流プローブ2の設置後、各被測定箇所の肉厚の測定が開始されるまでに、被測定箇所ごとの積算回数を決定すればよい。
【0041】
例えば、図3で例示した積算検出信号MS1の或る被測定箇所は、当初肉厚が12.5(mm)である。したがって、積算回数が200回である。
【0042】
決定テーブルでは、被測定箇所の肉厚が厚くなるほど積算回数が多くなり、肉厚が薄くなるほど積算回数が少なくなるように設定されている。被測定箇所の肉厚が薄い場合、肉厚が厚い場合と比較して積算回数が少なくても上記変化点は明確になるためである。なお、決定テーブルの積算回数等の数値は、任意に設定可能である。
【0043】
肉厚演算部412(肉厚算出部)は、ハブ端末3から送出された継続時間τに基づいて、識別情報Idにより特定される被測定箇所の肉厚を算出する。具体的には、継続時間τと肉厚とがおおむね比例関係にあることに基づいて肉厚を算出する。算出された肉厚は、識別情報Id及び測定日時と関連付けられて記憶部42に記憶される。
【0044】
また、肉厚演算部412は、コロージョンレート及び減肉厚率等をも算出し、記憶部42に記憶させる。測定回数分配部413は、コロージョンレート及び減肉厚率に基づいて、複数のパルス電流プローブ2のそれぞれについて、肉厚測定を実行する回数を決定する。
【0045】
以上のように、被測定箇所の基準肉厚に基づいて積算回数が決定されるので、被測定箇所に対して適切な積算回数で積算された検出信号に基づいて被測定箇所の肉厚が算出される。したがって、検出信号(流探傷信号)の測定精度(S/N比)を高く維持しつつ、通信やデータ処理の負荷の増大を抑制することができる。
【0046】
なお、上述の実施形態では、被測定箇所の当初肉厚(基準肉厚)に基づいて積算回数が決定された場合、この積算回数は変更されないが、変更される構成としてもよい。例えば、決定された積算回数が、被測定箇所の肉厚の減少割合に応じて変更される構成としてもよい。具体的には、被測定箇所において、当初肉厚を1として、現在の肉厚が30%減肉するごとに決定テーブルでの積算回数を1段階ずつ下げていく。なお、現在の肉厚は、肉厚演算部が算出した値を用いればよい。
【0047】
例えば、当初肉厚が12.5(mm)の被測定箇所について説明する。この場合、積算回数決定部は、当初肉厚及び決定テーブルに基づいて、積算回数の初期設定を200回に決定する。その後、この被測定箇所が当初肉厚12.5(mm)×0.7=8.75(mm)にまで現在の肉厚が減肉した場合、12.5(mm)から30%減肉した状態となる。したがって、積算回数決定部は、決定テーブルの積算回数200回から1段階下げ、積算回数100回を、この被測定箇所の積算回数とする(積算回数テーブルを変更する)。
【0048】
さらに、現在の肉厚が8.75(mm)から30%減肉した場合には、積算回数決定部は、決定テーブルの積算回数100回から1段階下げ、積算回数50回を、この被測定箇所の積算回数とする(積算回数テーブルを変更する)。具体的には、12.5(mm)×0.7×0.7=6.125(mm)にまで現在の肉厚が減肉した場合、この被測定箇所の積算回数が50回に変更される。
【0049】
また、サーバ側通信部43は、更新された積算回数テーブルをハブ端末3に送出する。なお、積算回数決定部は、例えば、各被測定箇所について、30%減肉するごとの肉厚を識別情報Idに対応付けて記憶部に記憶させればよい。上記例の場合には、第一段階:8.75(mm)、第二段階:6.125(mm)を記憶部に記憶させておけばよい。そして、積算回数決定部は、上述のように、現在の肉厚と比較して積算回数を変更する変更処理を、定期的に行えばよい。なお、被測定箇所の肉厚の減少割合は、30%でなくてもよい。任意の割合を採用可能である。また、積算回数決定部は、現在の肉厚が30%減肉していなければ、変更処理を行わない。
【0050】
これにより、1回の肉厚測定に要する時間が短くなるので、測定頻度を増加させることができる。また、積算回数を1段回下げたプローブ(被測定箇所)は、1回の肉厚測定に要する時間が短くなるので、1日あたりの測定回数を1回増加させるように変更でき、測定頻度を上げることもできる。また、通信やデータ処理の負荷の増大をさらに抑制することができる。
【0051】
上述の実施形態の肉厚測定システムは、複数のパルス電流プローブ、ハブ端末及びサーバ装置等を備える構成を説明したが、特にこれに限定されるものではない。肉厚測定システムにおける給電制御部、誘導起電力検出部及び測定制御部等の各部を設ける機器の振り分けは任意である。例えば、給電制御部、誘導起電力検出部及び測定制御部をハブ端末(第一装置)に設け、積算部、減衰解析部、積算回数決定部、肉厚演算部及び測定回数分配部をサーバ装置に設けてもよい。また、給電制御部、誘導起電力検出部、測定制御部、積算部、減衰解析部、積算回数決定部、肉厚演算部及び測定回数分配部を全て一台の装置に設けてもよい。また、例えば、パルス電流プローブを備える単一の肉厚測定装置に本発明を適用してもよい。この場合、肉厚測定装置は、1の被測定箇所を測定するので、測定回数分配部は設けなくてもよい。肉厚装置装置は、例えば、搭載したバッテリで駆動する。
【0052】
また、例えば、積算部をパルス電流プローブに設けてもよい。この場合、パルス電流プローブとハブ端末との間のデータ転送量を低減することができる。さらに、積算部をパルス電流プローブとハブ端末との双方に設けてもよい。これにより、パルス電流プローブで積算した検出信号を、さらにハブ端末で積算することができる。具体的を挙げると、パルス電流プローブで検出信号を10回積算するたびに、ハブ端末に積算データを送信してハブ端末で10回分の積算データをさらに積算していくことにより、10回のデータ転送で100回分の積算データを得ることができる。
【0053】
上述の実施形態では、パルス電流プローブとハブ端末とが有線接続され、ハブ端末とサーバ装置とが無線通信可能に構成されていたが、特にこれに限定されるものではない。装置間の通信接続は、有線接続であっても無線接続であってもよい。例えば、パルス電流プローブとハブ端末との間で無線通信を可能にする無線通信モジュールを設けてもよい。この場合、パルス電流プローブに電力供給用のバッテリを搭載すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0054】
この発明は、被測定箇所に誘導起電力を発生させて被測定箇所の肉厚を算出する肉厚測定システム等において、検出信号(流探傷信号)の測定精度(S/N比)を高く維持しつつ、通信やデータ処理の負荷の増大を抑制するのに有用である。
【符号の説明】
【0055】
1 肉厚測定システム
2 パルス電流プローブ
3 ハブ端末
4 サーバ装置
21 送信コイル
22 受信コイル
231 給電制御部(出力制御部)
232 誘導起電力検出部
312 積算部
411 積算回数決定部(回数決定部)
P 配管
図1
図2
図3
図4