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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】微生物反応槽および排水処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/34 20230101AFI20240215BHJP
   B01D 63/02 20060101ALI20240215BHJP
   B01D 63/08 20060101ALI20240215BHJP
   B01D 69/08 20060101ALI20240215BHJP
   B01D 69/06 20060101ALI20240215BHJP
   C02F 1/44 20230101ALI20240215BHJP
【FI】
C02F3/34 101B
B01D63/02
B01D63/08
B01D69/08
B01D69/06
C02F1/44 F
C02F3/34 101C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020533527
(86)(22)【出願日】2019-07-29
(86)【国際出願番号】 JP2019029620
(87)【国際公開番号】W WO2020027036
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-07-29
(31)【優先権主張番号】P 2018143718
(32)【優先日】2018-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】391059883
【氏名又は名称】日本アルシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】藤野 清治
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/096583(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/132608(WO,A1)
【文献】特開平11-128987(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
61/00-71/82
C02F 1/44
3/28- 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外槽と、この外槽の内部に配置されて上下に開口部を有する円筒状内槽と、この円筒状内槽上部に設けられて被処理水の槽内循環率を制御する循環率制御装置と、前記円筒状内槽の内側の上部であって、前記被処理水の液面付近の下に設けられた被処理水濾過装置と、前記被処理水を撹拌する撹拌装置とを具備してなる微生物反応槽であって、
前記円筒状内槽は、連通孔を有する隔壁で円筒上部と円筒下部とに分割され、前記円筒上部は、前記隔壁上部に散気装置が設けられた好気微生物処理槽であり、前記円筒下部は前記隔壁下部に原水供給口を有する嫌気微生物処理槽であり、
前記循環率制御装置は、前記被処理水の液面レベルが、前記円筒状内槽の上部円周面に設けられた円筒長さ方向の短冊状の複数のスリットと、このスリット表面に密接して回動する同一スリット面を有する回転筒を有する液面調節バルブの全開時に、最も低くなるよう調節する液面調節バルブの開閉、前記液面レベルが、前記円筒状内槽の上部円周面に密接して上下する円筒状の液面調節板の最下位時に、最も低くなるよう調節する液面調節板の上下動、前記散気装置から吹込まれる空気量、および前記撹拌装置の撹拌羽根回転量から選ばれる少なくとも1つの量を制御する装置であり、
前記被処理水濾過装置は、濾過水を放流する処理水放出口を有する中空糸膜フィルタおよび平膜メンブランフィルタから選ばれる少なくとも1つのフィルタであり、
前記原水供給口より供給される原水が活性汚泥と共に前記円筒状内槽の内部と、前記円筒状内槽の外面とを経て槽内を槽内循環率3~20の範囲で循環することで嫌気微生物処理および好気微生物処理が連続してなされ、
前記円筒状内槽は、上面から底面まで円筒の長さ方向に同一の直径を有する直筒形状であることを特徴とする微生物反応槽。
【請求項2】
前記円筒下部は前記円筒上部の容積より1/10~1倍の容積を有することを特徴とする請求項1記載の微生物反応槽。
【請求項3】
前記撹拌装置が前記円筒状内槽の中心軸に取り付けられた撹拌翼であることを特徴とする請求項1記載の微生物反応槽。
【請求項4】
活性汚泥処理工程を含む処理工程により原水を処理する排水処理方法であって、
前記活性汚泥処理工程は、活性汚泥の循環流を形成させる汚泥循環工程と、この活性汚泥の循環流の中に原水を添加する原水添加工程とを含み、
前記活性汚泥の循環流は、嫌気微生物処理槽から該嫌気微生物処理槽の上部に配置された好気微生物処理槽を経由して循環する循環流であり、
前記活性汚泥処理工程は、請求項1記載の微生物反応槽を用いて処理される前記汚泥循環工程および原水添加工程であることを特徴とする排水処理方法。
【請求項5】
前記原水添加工程が嫌気微生物処理槽に原水を添加する工程であることを特徴とする請求項4記載の排水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微生物反応槽および排水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物化学的酸素要求量(以下、BODという)や浮遊物質濃度(以下、SSという)を高める高濃度の窒素成分やリン成分、有機物質などの汚濁物質が含まれる排水は、河川の汚染や赤潮発生等、環境汚染の原因となっている。従来、このような高濃度の汚濁物質を含む排水の処理方法として、好気嫌気循環法の一つである、いわゆる修正バーナード法が知られている。この方法は、脱窒反応の際に遊離するアルカリを硝化反応で再利用するために、活性汚泥処理工程において、脱窒工程を第一硝化槽の前後に位置する第一脱窒槽と第二脱窒槽と2段に分け、さらに第二脱窒槽の後に第二硝化槽を設け、第一および第二の硝化槽から流出する混合液を第一脱窒槽に循環する方法である。
【0003】
しかし、この方法による排水処理には次のような問題がある。
(1)高濃度のアンモニア性窒素は、それ自身殺菌性を有するので、活性汚泥処理工程で活性汚泥の活性を阻害する場合が多い。このため、活性汚泥処理が不十分になる。
(2)いわゆる修正バーナード法などでは、硝化槽において硝化反応が進行すると水素イオン濃度(以下、pHという)が低下するが、硝化反応はpHに依存するのでpHが低下すると硝化反応が遅くなる。その結果、やはり活性汚泥処理が不十分になり、リンの除去なども不十分になる。
(3)活性汚泥処理が不十分で脱窒反応が遅くなると、残存アンモニアや硝酸イオン、亜硝酸イオン濃度等が高くなる結果、これら窒素化合物に依存するBODが高くなり、排水処理が不十分になる。
(4)高濃度汚濁物質含有排水では、高濃度の活性汚泥が必要となり、必然的に活性汚泥浮遊物質(以下、MLSSという)の濃度が高くなる傾向にある。そのため、酸素の供給が困難になると共に、活性汚泥の攪拌、および、沈澱槽での固液分離が困難になる。
(5)低い有機汚濁物質濃度にもかかわらず、高い窒素成分を有する排水を活性汚泥処理で脱窒ならびに脱硝を行なう場合、pH低下や脱窒による汚泥の浮上などの問題が生じる。
【0004】
上記方法に対処するために、本願発明者は、高濃度の窒素成分やリン成分、有機物質などの汚濁物質が含まれている排水の活性汚泥処理を効率的に行なうことのできる微生物反応槽およびそれを用いた排水処理方法を提案している(特許文献1)。この微生物反応槽は、タービン羽根により連結された硝化反応部と脱窒反応部とを上下に有する内槽を備え、修正バーナード法などでは実現が困難であった槽内循環率を3~20の範囲で循環させている。
【0005】
しかしながら、上記従来の微生物反応槽は、内槽下部に形成される脱窒反応を行なう嫌気槽と内槽上部に形成される硝化反応を行なう好気槽とがタービン羽根のみにより連結されていたので、反応槽の容量が大きくなると、それぞれの槽での撹拌が不十分となり嫌気または好気反応が十分に進まないという問題があった。また、反応槽の建設費用が高くなったり、内槽を外槽内に固定するための費用が高くなったりするという問題があった。
【0006】
上記問題に対処するために、本願発明者は、上記従来の微生物反応槽の改良を行ない、反応槽の容量が大きくなっても嫌気・好気微生物処理を高い槽内循環率を維持して連続して行なうことができ、また、建設費用を抑えることができる微生物反応槽およびそれを用いた排水処理方法を提案している(特許文献2)。
【0007】
一方、活性汚泥槽内に、浸透型膜分離装置と、活性汚泥への酸素供給と前記膜分離装置の膜の洗浄を兼ねた散気装置と、前記膜の面に向けた水流を形成する水流形成装置を備えた膜分離活性汚泥装置(特許文献3)、好気性処理および無酸素処理を行う単一の反応槽と、その反応槽の内部に配置された浸漬膜分離ユニットと、曝気手段とを有する膜分離活性汚泥処理装置であって、反応槽は、底部が反応槽の底面から離間して設けられた仕切板によって複数個の区画に分割され、その複数個の区画内の少なくとも一つに浸漬膜分離ユニットおよび曝気手段が配置され、残りの区画内を好気状態から無酸素状態に、また、無酸素状態から好気状態に切り換えるための液位制御手段又は仕切板の高さ制御手段が設けられていることを特徴とする膜分離活性汚泥処理装置(特許文献4)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平11-128987号公報
【文献】国際公開第2013/132608号公報
【文献】特開2012-176396号公報
【文献】特開2004-261711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、本願発明者が提案する上記従来の微生物反応槽は、大型であっても建設費用を抑えることができるなどの利点があるもの、微生物反応槽の構造が従来よりもよりシンプルで製作費をより安価にすることが求められている。また、微生物反応槽の処理効率を上げることで、設置面積が少なくても大量の汚水を処理できる従来より小型の微生物反応槽が求められている。特に都市空間において、個々のビルなどの排水の再利用を図るために、ビル内に設置できる水処理方法が求められている。
【0010】
特許文献3および特許文献4に開示されている膜分離活性汚泥装置は活性汚泥装置内にに濾過装置を設けているものの汚泥の循環については考慮されていない。そのため、小型で効率的な装置を得ることが困難である。
【0011】
本発明はこのような問題に対処するためになされたもので、シンプルな構造のため従来より小型化が可能で、ビルなどに設置することで排水の再利用を図ることができる微生物反応槽およびそれを用いた排水処理方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の微生物反応槽は、外槽と、この外槽の内部に配置されて上下に開口部を有する円筒状内槽と、この円筒状内槽上部に設けられて被処理水の槽内循環率を制御する循環率制御装置と、上記円筒状内槽の外側および内側の少なくとも1つの側であって、上記被処理水の液面付近の下に設けられた被処理水濾過装置と、上記被処理水を撹拌する撹拌装置とを具備している。
上記円筒状内槽は、連通孔を有する隔壁で円筒上部と円筒下部とに分割され、上記円筒上部は、上記隔壁上部に散気装置が設けられた好気微生物処理槽であり、上記円筒下部は上記隔壁下部に原水供給口を有する嫌気微生物処理槽である。
上記循環率制御装置は、上記被処理水の液面レベルが液面調節バルブの全開時に最も低くなるよう調節する液面調節バルブの開閉、上記液面レベルが液面調節板の最下位時に最も低くなるよう調節する液面調節制御板の上下動、上記散気装置から吹込まれる空気量、および上記撹拌装置の撹拌羽根回転量から選ばれる少なくとも1つの量を制御する装置である。
上記被処理水濾過装置は、濾過水を放流する処理水放出部を有する中空糸膜フィルタおよび平膜メンブランフィルタから選ばれる少なくとも1つのフィルタである。
本発明の微生物反応槽は、上記原水供給口より供給される原水が活性汚泥と共に上記円筒状内槽の内部と、上記円筒状内槽の外面とを経て槽内を槽内循環率3~20の範囲で循環することで嫌気微生物処理および好気微生物処理が連続してなされることを特徴とする。ここで、槽内循環率(反応槽内の被処理水循環率とは、次式で定義される量をいう。

槽内循環率内槽上部から排出される被処理水量(m3/日)/原水供給量(m3/日)
【0013】
本発明の微生物反応槽は、上記円筒下部が上記円筒上部の容積より1/10~1倍の容積を有することを特徴とする。
また、上記撹拌装置が上記円筒状内槽の中心軸に取り付けられた撹拌翼であることを特徴とする。
【0014】
本発明の排水処理方法は、活性汚泥処理工程を含む処理工程により原水を処理する排水処理方法であって、この活性汚泥処理工程は、活性汚泥の循環流を形成させる汚泥循環工程と、この活性汚泥の循環流の中に原水を添加する原水添加工程とを含み、上記活性汚泥の循環流は、嫌気微生物処理槽から該嫌気微生物処理槽の上部に配置された好気微生物処理槽を経由して循環する循環流であり、上記活性汚泥処理工程は、上述の微生物反応槽を用いて処理される汚泥循環工程および原水添加工程であることを特徴とする。また、上記活性汚泥処理工程が上述の嫌気微生物処理槽に原水を添加する工程であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の微生物反応槽は、被処理水濾過装置を設けると共に、処理水および活性汚泥が槽内循環率3~20の範囲で循環するので、(1)構造が簡単になり、製作コストが安価になる、(2)容積が小さくとも大量の汚水処理ができる、(3)放流水のリサイクルができる。被処理水濾過装置の後段にUF膜を接続すると放流水を飲料水として使用可能なシステムとなる。
【0016】
本発明の排水処理方法は、上記本発明の微生物反応槽を用いるので、ビルの内部などに設置して、汚水のリサイクル設備として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】微生物反応槽の断面図である。
図2】微生物反応槽における被処理水および活性汚泥の循環経路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の微生物反応槽を図1により説明する。図1は微生物反応槽の断面図である。
微生物反応槽1は、外槽2と、この外槽2の内部に配置され、隔壁8により円筒上部3aと円筒下部3bとに分割されている円筒状内槽3と、この円筒状内槽3の上部に設けられた循環率制御装置4と、円筒状内槽3の内側であって、被処理水の液面5付近の下に設けられた被処理水濾過装置6と、被処理水を撹拌する撹拌羽根7a、7b、7cおよびこの撹拌羽根を回転させるための撹拌モータ7dから構成される撹拌装置7と、円筒状内槽3の隔壁8上部に配置されている散気装置9と、円筒状内槽3の下部に設けられた原水供給口10および被処理水濾過装置6からの処理水放出部11とから構成されている。なお、外槽2の底部に汚泥抜き出し口(図示を省略)を設けることができる。
【0019】
外槽2は、底面となる基盤2aに円筒形側面2bおよび上面部2cからなる真円筒状の外観を有している。円筒の中心には撹拌翼等を取り付けるための回転軸7eが設けられている。この回転軸7eは、基盤2aの円中心に設けられた架台2fおよび上面部2cの円中心に設けられた軸受2gにより回転自在に固定されている。また、回転軸7eは撹拌モータ7dにより回転される。上面部2cは回転軸7を回転自在に固定すると共に、円筒状内槽3および被処理水濾過装置6を支持具等で保持している。
【0020】
外槽2の底部には原水供給口10が設けられている。原水供給口10は、円筒状内槽3の下部開口面3cの下方に配置されている。また、原水供給口10は、円環状原水供給部に設けられた複数の吐出口またはスリットで構成される。原水供給口10をこのように配置することにより、嫌気汚泥の撹拌が十分になされる。
【0021】
横断面が略真円状の円筒状内槽3は、隔壁8で円筒上部3aと円筒下部3bとに分割されている。また、円筒状内槽3は真円筒状の外槽2の略中心に被処理水が十分に循環できる隙間を有して配置される。
隔壁8は円筒状内槽3内に固定して設けられ、この隔壁8の中心部には円筒上部3aと円筒下部3bとを連通する連通孔8aが設けられている。
この隔壁8の存在により、微生物反応槽の容積が大きくなった場合でも、円筒上部3aと円筒下部3bとが十分に分離されており、それぞれの槽内で活性汚泥処理を行なうことができる。円筒上部3a内にて好気微生物処理反応を、円筒下部3b内にて嫌気微生物処理反応を、それぞれ十分に行なわせることができる。隔壁8の面積が大きくなった場合、支持部材等で補強する。
連通孔8aは、嫌気微生物処理された活性汚泥が円筒下部3bから好気微生物処理槽である円筒上部3aに移動できる大きさの直径を有する。この連通孔8の径は微生物反応槽の容積、処理される原水の性質、量などによって調整される。
【0022】
円筒3は、上面3dおよび底面3cが開口した筒形状を有する。好ましくは上面3dから底面3cまで円筒の長さ方向に同一の直径を有する直筒形状である。
円筒上部3aは、内部に空気を吹き込む散気装置9が設けられた曝気部となる好気微生物処理槽である。散気装置9に設けられる空気噴出口9aは、中心軸7eの周囲であって、連通孔8a周囲に設けられ、隔壁8の上方に固定される。この空気噴出口9aは好ましくは下向きに配置されていることが、好気槽内の被処理水および汚泥の撹拌の向上、開口部の目詰まりを防止できるため好ましい。
【0023】
空気噴出口9aより吹込まれる空気量および撹拌羽根7a、7b、7cの回転量と、循環率制御装置4とを相互に連動させて制御することより、循環ポンプを用いることなく、被処理水の循環量を3~20の範囲内に変動させることができる。それにより適切な硝化条件による好気微生物処理および適切な脱窒条件による嫌気微生物処理が容易に設定できるので、好気・嫌気微生物処理反応を縦型の同一槽内で効率よく行なうことができる。
なお、好気槽内には、図示を省略したアルカリ供給口または酸の供給口を設けることができる。
【0024】
円筒下部3bは、円筒上部3aの容積より1/10~1倍の容積を有する嫌気微生物処理槽である。この容積範囲内であると、例えば高濃度窒素含有汚濁物質を含有する原水の好気微生物処理反応および嫌気微生物処理反応を効率よく行なうことができる。なお、嫌気微生物処理槽内には、図示を省略した脱窒菌栄養物供給口を設けることができる。
また、原水中に水素供与体が少なく、硝酸塩の窒素をメタノールや酢酸等の水素供与体を供給して脱窒する場合には、嫌気微生物処理槽の容積を大きくすることが好ましい。
【0025】
円筒状内槽3は、円筒上部3aである好気微生物処理槽内および円筒下部3bである嫌気微生物処理槽内において、被処理水と活性汚泥との処理反応を十分に行なうための撹拌装置が設けられている。
撹拌装置としては、円筒状内槽3の中心に取り付けられた回転軸7eに固定された撹拌翼7a、7bおよび7cであることが好ましい。撹拌翼7aおよび7bは円筒上部3a内に設けられ、好気微生物処理反応を十分に行なわせることができるタービン翼が好ましい。タービン翼以外にも、空気の吹き込み量により、曝気性能が著しく低下しない回転数が比較的少なくて、空気と水を混合できる形状の撹拌翼であれば、使用できる。撹拌翼7aおよび7bは空気と水とを撹拌して曝気効果を上げることができる。またこの2つの羽根の形状を適切に調整することで、槽内の汚泥流が短絡して窓外に出ないようにするため。例えば撹拌翼7bはターブンブレードであまり上昇流を作らないものを用い、撹拌翼7aは心持ち下降流を産む形状にすると流れの短絡を防止することができる。
撹拌翼7cは円筒下部3b内に設けられ、嫌気微生物処理反応を十分に行なわせることができる撹拌翼ならば、いずれも使用できるが、タービン翼やプロペラ翼が好ましい。この撹拌翼7cは、原水と汚泥との混合と上昇流を作ることができる。
【0026】
図1に示す微生物反応槽1内には、円筒状内槽3の内側であって、被処理水の液面5付近の下に被処理水濾過装置6が設けられている。被処理水濾過装置6は円筒状内槽3の外側に設けられていてもよい。被処理水濾過装置6には、濾過された処理水を放出する処理水放出部11を有している。
被処理水濾過装置6の配置は膜の洗浄効果が高いいわゆるクロスフロー効果が高い円筒状内槽内が好ましく、より好ましい配置場所はメンテナンスも含めて、円筒状内槽3の上部である。また、処理水放出部11の開口部を微生物反応槽1の下部に設置することにより、ポンプなしで排水を排出できる利点がある。
【0027】
被処理水濾過装置6に用いる濾過膜としては、精密濾過膜、限外濾過膜、ナノ濾過膜、逆浸透膜などを用いることができる。経済性の観点からは、濾過速度が高くコンパクト化が可能で、メンテナンスが容易である精密濾過膜、限外濾過膜が好ましい。膜の形状は平膜、中空糸膜が好ましい。被処理水濾過装置6としては、中空糸膜フィルタおよび/または平膜メンブランフィルタが用いられる。これらのフィルタは水処理の分野において知られており、市販もされている。
【0028】
円筒状内槽3の上部に被処理水の反応槽内循環率を制御する循環率制御装置4が設けられている。循環率制御装置4による被処理水の反応槽内循環率の制御は、具体的には液面調節バルブの開閉、あるいは液面調節板4aの上下動等によりなされる。円筒状内槽3の上部円周面に設けられた複数の円筒長さ方向短冊状スリットと、このスリット表面に密接して回動する同一スリット面を有する回転筒において、スリット面同士が重なったときが全開となる液面調節バルブの全開時、または円筒状内槽3の上部円周面に密接して上下する円筒状の液面調節板4aの最下位時に、被処理水の液面5のレベルが最も低くなる。
【0029】
反応槽内循環率の制御は、散気装置9から吹込まれる空気量によっても制御することができる。吹込まれる空気量を多くすると循環率が増加する。また、撹拌装置の撹拌羽根7aおよび7bの回転量によっても制御することができる。回転量を増加することで循環率が増加する。液面調節バルブの開閉、散気装置から吹込まれる空気量、および撹拌羽根の回転量を組み合わせることもできる。
【0030】
微生物反応槽1内には、被処理水質測定装置(図示を省略)が、円筒状内槽3の上部内外に設けられている。この被処理水質測定装置は、被処理水のpH、酸化還元電位(以下、ORPという)、溶存酸素量(以下、DOという)を測定する装置である。この測定結果に基づき反応槽内循環率を制御する。
【0031】
本発明の微生物反応槽内での被処理水の槽内循環率は3~20、好ましくは5~20である。被処理水の槽内循環率が3未満であると、好気微生物処理反応がより起こりやすくなり、また、20をこえると好気微生物処理反応と嫌気微生物処理反応とのバランスが崩れ、原水の脱窒、脱リンを行なうことができなくなる。すなわち、被処理水の槽内循環率をこの範囲とすることにより、被処理水質測定装置により測定される被処理水のORPを、嫌気微生物処理反応槽において-10mV以下、好ましくは-50mV以下、好気微生物処理反応槽において+10mV以上、好ましくは+100mV以上に維持することができる。その結果、好気微生物処理反応および嫌気微生物処理反応が十分に行なわれ、脱窒、脱リンが連続的になされる。なお、このような条件下において好気微生物処理反応槽でのpHは4.5~8.5、好ましくは5.5~7.5の範囲となる。
【0032】
以下、微生物反応槽1を用いる排水処理方法について図2により説明する。図2は微生物反応槽1における被処理水および活性汚泥の循環経路を示す図である。図2において、斜線部分は活性汚泥の濃度が高い部分であり、矢印は被処理水および活性汚泥の循環方向を表す。
ウェジワイヤースクリーンなどで固形分が分離された汚濁物質を含む被処理水としての原水は、微生物反応槽1の最下部に設けられている原水供給口10より連続的に供給される。
【0033】
微生物反応槽1には活性汚泥が固形分換算で5,000~12,000mg/L入れられており、原水は、まず円筒下部3b内にて嫌気状態で活性汚泥に接触し、脱窒反応が行なわれる。原水供給口10より供給される被処理水となる原水および循環している活性汚泥は、撹拌翼の回転または散気管よりの空気噴出により、円筒下部3b内を循環して嫌気微生物処理反応がなされる。
次いで空気が吹込まれている円筒上部3aに連通孔8aを通過して原水および活性汚泥が移動し、好気状態で円筒上部3a内の活性汚泥に接触しながら、撹拌翼の回転または空気吹込口9aよりの空気噴出により、円筒上部3a内を循環して好気微生物処理反応である消化反応が進行する。消化反応が進行するにつれ被処理水のpH等が低下する(処理水のORPが上昇する)。被処理液のpH、ORP、DOが処理水質測定装置で測定され、これらの値に基づき原水または被処理水の循環量が定められる。具体的には、ORPを、消化反応がなされる好気反応処理槽において+10mV以上、脱窒反応がなされる嫌気反応処理槽において-10mV以下に維持できるように空気吹込量などを調整して被処理水を循環する。循環量は、循環ポンプなどを使用することなく、空気量、撹拌量および/または循環率制御装置を制御することにより容易に行なうことができる。このため本発明の排水処理方法は省エネルギー型の排水処理方法である。また、本発明の微生物反応槽を含む設備は、微生物反応の各ユニットをそれぞれ調整できるので、これらの制御を予めプログラム化し、無人で自動運転することが容易であり、省力化プラントとしての特徴を有している。
【0034】
循環率制御装置4等により循環率が制御されて、図中矢印で示すように、被処理水および活性汚泥の一部は循環する。また、被処理水は被処理水濾過装置6を経て分離された処理水が処理水放出部11より放流される。
沈降した活性汚泥は外槽内面と内槽外周面との間に活性汚泥が濃縮されて堆積する。この堆積した活性汚泥は、被処理水と混合しながら嫌気微生物処理反応部へ移動して微生物反応槽内を循環する。
本発明の排水処理方法は、活性汚泥が濃縮されつつ嫌気・好気槽内を3~20の循環率で循環することにより、原水の負荷変動を容易に吸収できる。また、循環率をこの範囲に維持するので、活性汚泥が馴養されて排水処理に最適な活性汚泥となる。
【0035】
微生物反応槽1において、原水のBOD負荷が小さいにもかかわらず、窒素分濃度が高い場合は、プロトン供与体などの有機物質からなる脱窒菌栄養物、たとえばメタノールを嫌気反応処理槽に添加して処理することが好ましく、この場合、処理水のpHが上昇しやすいので、塩酸などの鉱酸を添加することが好ましい。
【0036】
本発明の排水処理方法は、微生物反応槽1を1槽用いてもよいが、また複数槽用いることもできる。この場合、第1槽からの放流水を第2槽の原水供給口に導入する。また、たとえば2つの微生物反応槽を直列で連結する場合は、第2槽における硝化反応部の容積と脱窒反応部の容積との比率を第1槽における比率と変えることにより、より効果的に排水処理を行なうことができる。具体的には、容積比を第1槽のそれより小さくすることにより、脱窒・脱リンを行なうことができる。
【0037】
また、本発明の排水処理方法を、従来の排水処理方法と組合わせて行うことができる。たとえば、既設の好気硝化槽と嫌気脱窒槽の連結からなる排水処理設備において、それぞれの槽からの流出液を本発明の微生物反応槽に供給することにより、より効果的に汚泥負荷の消化ならびに脱窒・脱リンを行なうことができる。
【0038】
微生物反応槽において、原水のBOD負荷が小さいにもかかわらず、窒素分濃度が高い場合は、プロトン供与体などの有機物質からなる脱窒菌栄養物、たとえばメタノールを嫌気反応処理槽に添加して処理することが好ましく、この場合、処理水のpHが上昇しやすいので、塩酸などの鉱酸を添加することが好ましい。
【0039】
本発明の排水処理方法は、微生物反応槽を1槽用いてもよいが、また複数槽用いることもできる。この場合、第1槽からの放流水を第2槽の原水供給口に導入する。また、たとえば2つの微生物反応槽を直列で連結する場合は、第2槽における硝化反応部の容積と脱窒反応部の容積との比率を第1槽における比率と変えることにより、より効果的に排水処理を行なうことができる。具体的には、容積比を第1槽のそれより小さくすることにより、脱窒・脱リンを行なうことができる。
【0040】
また、本発明の排水処理方法を、従来の排水処理方法と組み合わせて行うことができる。たとえば、既設の好気硝化槽と嫌気脱窒槽の連結からなる排水処理設備において、それぞれの槽からの流出液を本発明の微生物反応槽に供給することにより、より効果的に汚泥負荷の消化ならびに脱窒・脱リンを行なうことができる。
【0041】
本発明の微生物反応槽は、小規模のものから、大規模のものまで適応できるが、その効果が著しく発揮されるのは、微生物反応槽1が1m3以上、好ましくは4~2200m3の内容積を有する微生物反応槽に適用した場合である。処理槽の容積が2200m3を超えるようになると循環流を作るのが困難になる。また、1m3に満たない小規模の場合は、微生物反応槽1内で汚泥を上下に循環させる優位性が少なくなる。
【0042】
本発明の微生物反応槽は、被処理水濾過装置6を設けることと、かつ処理水が活性汚泥と共に円筒状内槽3の内部と、円筒状内槽3の外面とを経て槽内を槽内循環率3~20の範囲で循環することにより、嫌気微生物処理および好気微生物処理が連続してなされるので、小型化が容易である。そのため、ビルの内部などに設置して、汚水のリサイクル設備として利用できる。例えば、本発明の微生物反応槽の大きさと下水道の汚水やビル・家庭排水における処理が可能な処理量を表1に示す。
【0043】
【表1】
【実施例
【0044】
実施例1
ビル内部に設置してビル排水を図1に示す微生物反応槽を用いてリサイクル処理した。 処理前の排水は、BODが1200mg/L、化学的酸素要求量(以下、CODという)が750mg/L、T-Nが130mg/L、n‐Hexが250mg/L、SSが200mg/Lであり、被処理水量は1500m3/日である。
【0045】
微生物処理設備で、大きさが、直径12m、高さ(円筒長さ)9mの本発明の微生物反応槽は、150m3の嫌気微生物処理槽と、容積330m3の好気微生物処理槽とを有している。微生物反応槽内の槽内循環率は3~6の範囲で循環させた。処理水の分離には平膜のメンブラン(濾過性能0.5~0.8m3/m2)を幅1m、長さ2mの膜を両面から貼り付けたユニットを撹拌軸に垂直に合計2200m2になるように設置した。
前処理として目びらきが0.2mmのウエッジワイヤースクリーンを通った原水を250m3の原水調整槽を兼ねた曝気調整槽にて、予め、2~4時間曝気調整された処理原水を微生物反応槽へ送り処理した。なおこの曝気調整槽には、本発明の微生物反応槽より平均汚泥濃度が1000mg/L程度を維持できるように、汚泥を定量的に5.5m3/時間の流速で抜き出した。微生物反応槽内において、嫌気微生物処理槽でのpHは6.9、ORPは-350mV、DOは0、好気微生物処理槽でのpHは7.1、ORPは+210mV、DOは2.3mg/Lであった。好気微生物処理槽と嫌気微生物処理槽の微生物濃度は11,400mg/Lであった。また、この時使用したブロワーは45Kwターボブロワー1台使用してインバーターで空気量を調整しながら散気設備である空気吹込口9を液面下7.2mに接続し運転した。通常の空気吹込量は38m3/分であった。
微生物反応槽より放出される放流水の水質は、BODが8mg/L、CODが15mg/L、n‐Hexが0.8mg/L、T-Nが2mg/L、SSが8mg/Lであった。この放流水はビル内の洗濯用水、清掃水、トイレ用水等にリサイクルできた。また、脱水ケーキの発生は実質的にみられなかった。
【0046】
上記方法による排水処理は、微生物反応槽において、有害ガスの発生を抑制して嫌気好気運転ができるので菌体の自己消化能率が向上する。また、汚泥の循環を通じて、原水中の汚泥物質を選択的に分解できる菌体が馴養されて難分解性汚濁物質が容易に処理できる。その結果、脱水ケーキの排出量を殆ど0にできる効果がみられた。
また、この実施例による排水処理は、下記比較例に示す通常の押し流れの処理方式に比較して、曝気風量を少なくできるので、少なくとも電気代が約半分程度で同量を処理できるので、単に省スペースに留まることなく、省エネルギーにも大きく貢献できた。
【0047】
実施例2
ショッピングモール内部に設置して、ビル排水を図1に示す微生物反応槽を用いて、処理した。処理前の排水は、BODが250mg/L、CODが150mg/L、T-Nが30mg/L、n‐Hexが28mg/L、SSが120mg/Lであり、被処理水量は平均330m3/日である。
ここで用いた、微生物反応槽の大きさは、直径7m、高さ(円筒長さ)8mで、本発明の微生物反応槽内部には、50m3の嫌気微生物処理槽と、容積200m3の好気微生物処理槽とを有している。微生物反応槽内の槽内循環率は3~4の範囲で循環させた。処理水の分離には平膜のメンブラン(濾過性能0.5~0.8m3/m2)を幅1m、長さ2mの膜を両面から貼り付けたユニットを撹拌軸に垂直に放射状に合計700m2になるように設置した。
前処理として目びらきが0.2mmのウエッジワイヤースクリーンを通った原水を180m3の原水調整槽を兼ねた曝気調整槽にて、予め、4時間以上曝気調整された処理原水を本発明の微生物反応槽へ送り処理した。なおこの曝気調整槽には、本発明の微生物反応槽より平均汚泥濃度が1000mg/L程度を維持できるように、汚泥を定量的に1.26m3/時間の流速で抜き出した。微生物反応槽内において、嫌気微生物処理槽でのpHは6.9、ORPは-350mV、DOは0、好気微生物処理槽でのpHは7.1、ORPは+210mV、DOは2.8mg/Lであった。好気微生物処理槽と嫌気微生物処理槽の微生物濃度は10,900mg/Lであった。また、この時使用したブロワーは22Kwターボブロワー1台使用してインバーターで空気量を調整しながら散気設備である空気吹込口9を液面下6.8mに接続し運転した。通常の空気吹込量は3m3/分であった。
微生物反応槽より放出される放流水の水質は、BODが9mg/L、CODが16mg/L、n‐Hexが0.8mg/L、T-Nが2mg/L、SSが8mg/Lであった。この放流水はビル内の洗濯用水、清掃水、造園散水、トイレ用水等にリサイクルできた。また、本微生物処理槽からの余剰汚泥の発生は実質的にみられなかった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の微生物反応槽およびこの反応槽を用いた排水処理方法は、実質的に余剰汚泥量を排出することなく、反応槽の容量を小さくできるので、ビルの内部などに設置して、汚水のリサイクル設備として利用できる。また、本設備の処理水を限外濾過膜とを組み合わせて飲料水用としての排水処理設備を提供できる。
【符号の説明】
【0049】
1 微生物反応槽
2 外槽
3 円筒状内槽
4 循環率制御装置
5 被処理水の液面
6 被処理水濾過装置
7 撹拌装置
8 隔壁
9 散気装置
10 原水供給口
11 処理水放出部
図1
図2