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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】錠剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/40 20060101AFI20240215BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20240215BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20240215BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240215BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20240215BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20240215BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20240215BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240215BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
A61K31/40
A61K9/20
A61K47/12
A61K47/26
A61K47/32
A61K47/36
A61K47/38
A61P3/10
A61P43/00 111
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021040429
(22)【出願日】2021-03-12
(65)【公開番号】P2022139865
(43)【公開日】2022-09-26
【審査請求日】2023-07-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】398058382
【氏名又は名称】日新製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148541
【弁理士】
【氏名又は名称】大串 寿人
(74)【代理人】
【識別番号】100183069
【弁理士】
【氏名又は名称】辻 茉莉子
(74)【代理人】
【識別番号】100172018
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 圭一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 哲平
【審査官】新留 素子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/012322(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/097234(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/089760(WO,A1)
【文献】特開2017-222592(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02468256(EP,A1)
【文献】特表2012-530135(JP,A)
【文献】Asian Journal of Pharmaceutics,2015年,Vol.9, No.4,pp.298-306
【文献】International Journal of Current Pharmaceutical Research,2014年,Vol.6, Issue 4,pp.69-75
【文献】European Journal of Biomedical and Pharmaceutical Sciences,2015年,Vol.2, Issue 7,pp.393-398
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(2S)-1-{[(3-ヒドロキシトリシクロ[3.3.1.13,7]デク-1-イル)アミノ]アセチル}-ピロリジン-2-カルボニトリル又はその薬学的に受容可能な塩のみを含む活性成分と、希釈剤と、結合剤と、崩壊剤とを含有する湿式造粒されてなる主薬顆粒と、成形剤と、滑沢剤とを含む錠剤であって、
前記結合剤はヒプロメロースであり、
前記成形剤は結晶セルロースであり、
前記成形剤の含有量が10~27質量%であり、
錠剤中の添加剤の含有量が28~50質量%であり、
1錠当たりの質量が70~100mgである錠剤。
【請求項2】
前記希釈剤は、乳糖、マンニトール、トレハロース及びトウモロコシデンプンからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1に記載の錠剤。
【請求項3】
前記希釈剤の含有量が、8~30質量%である請求項1又は2に記載の錠剤。
【請求項4】
前記結合剤の含有量が、0.1~3.0質量%である請求項1~3のいずれかに記載の錠剤。
【請求項5】
前記崩壊剤は、クロスポビドンである請求項1~4のいずれかに記載の錠剤。
【請求項6】
前記崩壊剤の含有量が、2~10質量%である請求項1~5のいずれかに記載の錠剤。
【請求項7】
前記滑沢剤は、ステアリン酸マグネシウム及び/又はステアリン酸カルシウムである請求項1~6のいずれかに記載の錠剤。
【請求項8】
前記滑沢剤の含有量が、0.5~3.0質量%である請求項1~7のいずれかに記載の錠剤。
【請求項9】
(2S)-1-{[(3-ヒドロキシトリシクロ[3.3.1.13,7]デク-1-イル)アミノ]アセチル}-ピロリジン-2-カルボニトリル又はその薬学的に受容可能な塩のみを含む活性成分と、希釈剤と、結合剤と、崩壊剤とを含有する湿式造粒されてなる主薬顆粒と、成形剤と、滑沢剤とを含む錠剤であって、
錠剤中の添加剤の含有量が28~50質量%であり、
乳糖、マンニトール、トレハロース及びトウモロコシデンプンからなる群から選択される少なくとも1種の希釈剤を8~30質量%、
ヒプロメロースである結合剤を0.1~3.0質量%、
クロスポビドンである崩壊剤を2~10質量%、
ステアリン酸マグネシウム及び/又はステアリン酸カルシウムである滑沢剤を0.5~3.0質量%、及び
結晶セルロースである成形剤を10~27質量%含み、
1錠当たりの質量が70~100mgである錠剤。
【請求項10】
(2S)-1-{[(3-ヒドロキシトリシクロ[3.3.1.13,7]デク-1-イル)アミノ]アセチル}-ピロリジン-2-カルボニトリルの1錠当たりの含有量が50mgである、請求項1~9のいずれかに記載の錠剤。
【請求項11】
(2S)-1-{[(3-ヒドロキシトリシクロ[3.3.1.1 3,7 ]デク-1-イル)アミノ]アセチル}-ピロリジン-2-カルボニトリル又はその薬学的に受容可能な塩のみを含む活性成分と、希釈剤と、結合剤と、崩壊剤とを含有する主薬顆粒を湿式造粒法により製造する工程、及び、前記主薬顆粒と、成形剤と、滑沢剤とを混合する工程を含む錠剤の製造方法であって、
前記結合剤はヒプロメロースであり、
前記成形剤は結晶セルロースであり、
前記成形剤の含有量が10~27質量%であり、
錠剤中の添加剤の含有量が28~50質量%であり、
1錠当たりの質量が70~100mgである錠剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(2S)-1-{[(3-ヒドロキシトリシクロ[3.3.1.13,7]デク-1-イル)アミノ]アセチル}-ピロリジン-2-カルボニトリル又はその薬学的に受容可能な塩を含む錠剤に関する。
【背景技術】
【0002】
(2S)-1-{[(3-ヒドロキシトリシクロ[3.3.1.13,7]デク-1-イル)アミノ]アセチル}-ピロリジン-2-カルボニトリル(以下、「化合物A」とも言う。)は、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP-4)阻害剤であり、2型糖尿病の治療に使用される錠剤が市販されている(非特許文献1)。
化合物Aは、水分や特定の添加剤との接触により、不純物が増加することが知られている(特許文献1及び2)。
【0003】
特許文献1には、化合物Aと、マンニトール、乳糖及びコーンスターチからなる群から選択される少なくとも1種とを含有し、前記マンニトール、乳糖及びコーンスターチからなる群から選択される少なくとも1種の合計含有量が50質量%以上であることを特徴とする化合物A含有医薬組成物が記載されている。
【0004】
特許文献2には、化合物A並びに結合剤を含有する固形製剤であって、当該結合剤がアルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース及びカルメロースナトリウムから選ばれることを特徴とする固形製剤が記載されている。
【0005】
特許文献3には、(a)乾燥重量ベースで5-60重量%の遊離型または酸付加塩形態のDPP-IV阻害物質;(b)乾燥重量ベースで40-95重量%の薬学的に許容される希釈剤;(c)乾燥重量ベースで0-20重量%の薬学的に許容される崩壊剤;および、所望により(d)乾燥重量ベースで0.1-10重量%の薬学的に許容される潤滑剤を含む、医薬組成物が記載されている。実施例には、化合物Aが水分と接触しない直接圧縮法により製造される、化合物Aを含有する錠剤が記載されている。
【0006】
特許文献4には、(a)化合物Aまたはその医薬上許容される塩、(b)1%溶液で存在するときに見かけの粘度が80,000cP~120,000cPであるヒドロキシプロピルメチルセルロース、(c)微晶質セルロース、および(d)ステアリン酸マグネシウムを含む医薬錠剤製剤が記載されている。実施例には、化合物Aが水分と接触しない直接圧縮法により製造される、化合物Aを含有する錠剤が記載されている。
【0007】
特許文献5には、活性成分が化合物Aおよびメトホルミンまたは各々の場合のその薬学的に許容される塩からなり、乾燥重量に基づいて50から98重量%の間、60から98重量%の間、70から98重量%または80から98重量%の間の活性成分を含む医薬組成物が記載されている。実施例には、造粒されていない化合物A、メトホルミンを含む顆粒及び添加物を混合して圧縮して得られる錠剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2017-222592号公報
【文献】特開2019-182756号公報
【文献】特表2007-518760号公報
【文献】特表2008-543773号公報
【文献】特表2009-510068号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】エクア(登録商標)錠 添付文書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、本発明者が検討した結果、特許文献3~5に記載された造粒されていない化合物Aを含有する錠剤は、高温及び高湿度の環境下で保存された場合、不純物が大幅に増加することが分かった。
次に、化合物Aを湿式造粒して錠剤とした場合は、直接圧縮法で得られた錠剤と比較して、高温及び高湿度の環境下で保存した後の不純物が著しく増加することが分かった。
【0011】
また、高齢者などの嚥下困難な患者等でも服用し易いように、錠剤の小型化が求められている。しかしながら、非特許文献1に記載された市販の化合物A含有錠剤は、1錠質量が200mg、直径が8.0mm、厚さが3.6mmであり、特許文献1~5の実施例に記載された錠剤はいずれも1錠質量が200mg以上であり、服用し易さに改善の余地があった。
また、直接圧縮法では、錠剤に含まれる添加剤量を減らしていった場合、割れ、欠け等の打錠障害が発生し、小型化することが困難であることが分かった。
すなわち、小型化しても割れ、欠け等の打錠障害が発生せず、実用的な硬度を有し、かつ、高温及び高湿度の環境下での安定性に優れる化合物Aを含有する錠剤は知られていなかった。
【0012】
そこで、本発明は、小型化しても割れ、欠け等の打錠障害が発生せず、実用的な硬度を有し、かつ、高温及び高湿度の環境下での安定性に優れる化合物Aを含有する錠剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らが鋭意検討した結果、化合物A、希釈剤、結合剤及び崩壊剤を含有する湿式造粒されてなる主薬顆粒と、成形剤と、滑沢剤とを含み、錠剤中の添加剤の合計の含有量を28~50質量%とすることにより、小型化しても割れ、欠け等の打錠障害が発生せず、実用的な硬度を有し、かつ、高温及び高湿度の環境下での安定性に優れる化合物Aを含有する錠剤を得ることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
本発明は、具体的には下記のとおりである。
(1)(2S)-1-{[(3-ヒドロキシトリシクロ[3.3.1.13,7]デク-1-イル)アミノ]アセチル}-ピロリジン-2-カルボニトリル又はその薬学的に受容可能な塩を含む活性成分と、希釈剤と、結合剤と、崩壊剤とを含有する湿式造粒されてなる主薬顆粒と、成形剤と、滑沢剤とを含む錠剤であって、
前記結合剤はヒプロメロースであり、
前記成形剤は結晶セルロースであり、
錠剤中の添加剤の含有量が28~50質量%である錠剤。
(2)前記希釈剤は、乳糖、マンニトール、トレハロース及びトウモロコシデンプンからなる群から選択される少なくとも1種である上記(1)に記載の錠剤。
(3)前記希釈剤の含有量が、8~30質量%である上記(1)又は(2)に記載の錠剤。
(4)前記結合剤の含有量が、0.1~3.0質量%である上記(1)~(3)のいずれかに記載の錠剤。
(5)前記崩壊剤は、クロスポビドンである上記(1)~(4)のいずれかに記載の錠剤。
(6)前記崩壊剤の含有量が、2~10質量%である上記(1)~(5)のいずれかに記載の錠剤。
(7)前記滑沢剤は、ステアリン酸マグネシウム及び/又はステアリン酸カルシウムである上記(1)~(6)のいずれかに記載の錠剤。
(8)前記滑沢剤の含有量が、0.5~3.0質量%である上記(1)~(7)のいずれかに記載の錠剤。
(9)前記成形剤の含有量が、10~27質量%である上記(1)~(8)のいずれかに記載の錠剤。
(10)(2S)-1-{[(3-ヒドロキシトリシクロ[3.3.1.13,7]デク-1-イル)アミノ]アセチル}-ピロリジン-2-カルボニトリル又はその薬学的に受容可能な塩を含む活性成分と、希釈剤と、結合剤と、崩壊剤とを含有する湿式造粒されてなる主薬顆粒と、成形剤と、滑沢剤とを含む錠剤であって、
錠剤中の添加剤の含有量が28~50質量%であり、
乳糖、マンニトール、トレハロースからなる群から選択される少なくとも1種の希釈剤を8~30質量%、
ヒプロメロースである結合剤を0.1~3.0質量%、
クロスポビドンである崩壊剤を2~10質量%、
ステアリン酸マグネシウム及び/又はステアリン酸カルシウムである滑沢剤を0.5~3.0質量%、及び
結晶セルロースである成形剤を10~27質量%含む、錠剤。
(11)1錠当たりの質量が、70~100mgである上記(1)~(10)のいずれかに記載の錠剤。
(12)ビルダグリプチン又はその薬学的に受容可能な塩の他に活性成分を含有しない上記(1)~(11)のいずれかに記載の錠剤。
(13)(2S)-1-{[(3-ヒドロキシトリシクロ[3.3.1.13,7]デク-1-イル)アミノ]アセチル}-ピロリジン-2-カルボニトリルの1錠当たりの含有量が25~50mgである、上記(1)~(12)のいずれかに記載の錠剤。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、割れ、欠け等の打錠障害が発生せず、高温及び高湿度の環境下で保存した後の不純物の増加を抑制することができ、小型で、実用的な硬度を有する、化合物Aを含有する錠剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の錠剤の一実施形態は、化合物A又はその薬学的に受容可能な塩を含む活性成分と、希釈剤と、結合剤と、崩壊剤とを含有する湿式造粒されてなる主薬顆粒と、成形剤と、滑沢剤とを含む錠剤であって、結合剤はヒプロメロースであり、成形剤は結晶セルロースであり、錠剤中の添加剤の含有量が28~50質量%である錠剤である。
錠剤としては、普通錠、口腔内崩壊錠等が挙げられる。本発明においては、錠剤を小型化することができ、口腔内で崩壊させなくても服用し易いため、普通錠であることが好ましい。
【0017】
[活性成分]
化合物Aは、非特許文献1に記載のDPP-4阻害剤であり、2型糖尿病の治療に使用されている。
【0018】
本発明の経口固形製剤における化合物Aの含有量は、特に限定されず、治療用途や対象患者等に応じて適宜設定することができるが、2型糖尿病の治療に用いる場合は、1錠当たり25mg~50mgであることが好ましく、50mgであることがより好ましい。
【0019】
本発明の錠剤は、化合物A又はその薬学的に受容可能な塩の他に活性成分を含有しないことが好ましい実施形態の一つであるが、本発明の目的を逸脱しない範囲で、他の活性成分を適宜用いることができる。
他の活性成分としては、例えば、ビグアナイド薬、チアゾリジン薬、α-グルコシダーゼ阻害薬、SGLT2阻害薬、スルホニル尿素薬、速効型インスリン分泌促進薬等の糖尿病治療薬が挙げられ、好ましくはビグアナイド薬、より好ましくはメトホルミン塩酸塩が挙げられる。
【0020】
[添加剤]
本発明に用いられる添加剤は、活性成分以外の医薬品に用いられる添加物であれば特に限定されず、後述する希釈剤、結合剤、崩壊剤、成形剤及び滑沢剤を含むことが好ましい。これらの添加剤は、主薬顆粒に含まれていてもよく、主薬顆粒外に用いられてもよいが、希釈剤、結合剤及び崩壊剤は主薬顆粒に含まれていることが好ましく、成形剤及び滑沢剤は主薬顆粒外に含まれていることが好ましい。
【0021】
本発明の錠剤は、活性成分を除く全ての添加剤の含有量(但し、製造時に用いる水及び溶媒を除く)の合計が、28~50質量%であることにより、打錠障害が発生せず、高温及び高湿度の環境下で保存した後の不純物の増加を抑制することができ、小型で、実用的な硬度を有する錠剤を得ることができる。添加剤の含有量は、錠剤硬度の観点からは、好ましくは40~50質量%であり、より好ましくは45~50質量%である。また、添加剤の含有量は、高温及び高湿度の環境下で保存された場合の安定性、小型化の観点からは、好ましくは28~45質量%であり、より好ましくは28~40質量%である。
【0022】
(希釈剤)
希釈剤は、増量、希釈等を目的に加えられる添加剤であり、例えば、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、アルファー化デンプン、トレハロース、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、無水リン酸カルシウム、沈降炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、乳酸カルシウム、乳糖、果糖、マンニトール、エリスリトール、キシリトール、マルトース、ソルビトール、マルチトール等が挙げられる。好ましくは、乳糖、マンニトール、トレハロース、トウモロコシデンプンであり、より好ましくはマンニトールである。
【0023】
希釈剤の含有量は、特に限定されないが、高温及び高湿度の環境下で保存された場合の安定性、錠剤の小型化、打錠性、硬度等の点から、8~30質量%であることが好ましく、12~25質量%であることがより好ましく、15~20質量%であることが更に好ましい。
【0024】
(成形剤)
成形剤は、成形性の改善等を目的に加えられる添加剤であり、本発明では結晶セルロースを用いることができる。
成形剤の含有量は、高温及び高湿度の環境下で保存された場合の安定性、錠剤硬度等の点から、10~27質量%であることが好ましく、14~25質量%であることがより好ましく、20~25質量%であることが更に好ましい。
【0025】
(崩壊剤)
崩壊剤としては、例えば、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスカルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウム、カルメロース、部分アルファー化デンプン、クロスポビドン等が挙げられ、好ましくは、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスポビドンが挙げられ、より好ましくはクロスポビドンが挙げられる。
【0026】
崩壊剤の含有量は、特に限定されないが、崩壊性、高温及び高湿度の環境下で保存された場合の安定性、錠剤の小型化等の点から、2~10質量%であることが好ましく、3~8質量%であることがより好ましく、4~7質量%であることが更に好ましい。
【0027】
(滑沢剤)
滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、タルク、軽質無水ケイ酸、庶糖脂肪酸エステル、フマル酸ステアリルナトリウム、ポリエチレングリコール、モノステアリン酸グリセリン等が挙げられ、好ましくは、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウムが挙げられる。
【0028】
滑沢剤の含有量は、特に限定されないが、打錠性、含量均一性、高温及び高湿度の環境下で保存された場合の安定性、錠剤の小型化等の点から、0.5~3.0質量%であることが好ましく、0.6~2.5質量%であることがより好ましく、0.7~2.0質量%であることが更に好ましい。
【0029】
(結合剤)
結合剤としては、本発明ではヒプロメロースを用いることができる。
【0030】
結合剤の含有量は、特に限定されないが、強度、溶出性、高温及び高湿度の環境下で保存された場合の安定性、錠剤の小型化等の点から、0.1~3.0質量%であることが好ましく、0.2~2.0質量%であることがより好ましく、0.3~1.0質量%であることが更に好ましい。
【0031】
(他の添加剤)
本発明の錠剤は、本発明の目的を逸脱しない範囲で、上述した成分以外に、着色剤、酸味剤、矯味剤等の添加剤を適宜用いることができる。これらの添加剤は、主薬顆粒に含まれていてもよく、主薬顆粒外に用いられてもよい。
【0032】
着色剤としては、例えば、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、黄酸化鉄、褐色酸化鉄、食用黄色4号、食用黄色5号、食用黄色4号アルミニウムレーキ、食用赤色2号、食用赤色3号、食用赤色102号、カルミン、リボフラビン等が挙げられる。
【0033】
酸味剤としては、例えば、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、アスコルビン酸等が挙げられる。
【0034】
矯味剤としては、例えば、L-アスパラギン酸、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カルシウム、L-グルタミン酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。
【0035】
本発明の錠剤の好ましい一実施形態は、化合物A又はその薬学的に受容可能な塩を含む活性成分と、希釈剤と、結合剤と、崩壊剤とを含有する湿式造粒されてなる主薬顆粒と、成形剤と、滑沢剤とを含む錠剤であって、錠剤中の添加剤の含有量が28~50質量%であり、乳糖、マンニトール、トレハロース及びトウモロコシデンプンからなる群から選択される少なくとも1種の希釈剤を8~30質量%、ヒプロメロースである結合剤を0.1~3.0質量%、クロスポビドンである崩壊剤を2~10質量%、ステアリン酸マグネシウム及び/又はステアリン酸カルシウムである滑沢剤を0.5~3.0質量%、及び結晶セルロースである成形剤を10~27質量%含む、錠剤である。
【0036】
(製造方法等)
上記主薬顆粒は、湿式造粒法により製造することが好ましい。好ましい本発明の錠剤の製造方法は、化合物A又はその薬学的に受容可能な塩を含む活性成分、並びに、希釈剤、結合剤及び崩壊剤を含む添加物を混合し、水を含む造粒液を加えて造粒し、主薬顆粒を得る工程、並びに、得られた主薬顆粒、成形剤及び滑沢剤を含む添加物を混合し、打錠する工程を含む。
湿式造粒法としては、撹拌造粒法、流動層造粒法等を用いることができる。
【0037】
本発明の錠剤の1錠当たりの質量は、高温及び高湿度の環境下で保存された場合の安定性、錠剤の小型化、錠剤硬度等の点から、70~100mgであることが好ましく、90~100mgであることがより好ましい。
【実施例
【0038】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例により限定されるものではない。
【0039】
[錠剤物性]
下記の各錠剤(割線なしの丸形である素錠)を検体として、製造直後に、直径及び厚さを測定し、硬度計で硬度を測定した。
【0040】
[打錠性]
また、検体製造(打錠)時の錠剤の割れ、欠け等の打錠障害の有無を確認した。
【0041】
[純度試験]
下記の各錠剤を検体として、開始時(製造直後)、及び、ガラス瓶に入れて密封し60℃で14日間保存した後に、液体クロマトグラフィーにより試験を行い、各々のピーク面積を自動積分法により測定し、化合物Aの総不純物量(面積百分率法による)を求めた。
なお、ガラス瓶に入れて密封し60℃で保存した場合、錠剤に含まれる水分等により、容器内部は高温及び高湿度の環境となる。
【0042】
[比較例1~3 直接圧縮法;添加剤量の検証]
特許文献3の実施例2を参考にして、下記表1に示す量比で化合物A及び添加剤を混合した後、単発打錠機を用いて打錠し、比較例1の錠剤を得た。
また、結晶セルロース及びステアリン酸マグネシウムの量を下記表1に示す量(比較例2は比較例1の半量、比較例3は比較例1の1/4の量)に減らした以外は、比較例1と同様にして錠剤を得た。
得られた比較例1~3の錠剤について、錠剤物性、純度試験結果及び打錠障害の有無を下記表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
直接圧縮法により製造された比較例1の錠剤は、60℃密封で14日後の不純物が開始時に比べて大幅に増加した。
結晶セルロース及びステアリン酸マグネシウムの量を比較例1の半量に減らした比較例2の錠剤は、比較例1ほどではないが不純物が大幅に増加した。また、打錠障害が発生し、歩留まりが低下した。
結晶セルロース及びステアリン酸マグネシウムの量を比較例1の1/4の量に減らした比較例3の錠剤は、比較例1に比べて不純物の増加を大幅に抑制することができたが、打錠障害が発生し、歩留まりが大幅に低下し、硬度も低下した。
【0045】
[比較例4及び5、参考例1 湿式造粒;添加剤量の検証]
比較例1と同じ添加剤の種類及び量で、湿式造粒法により比較例4の錠剤を調製した。
具体的には下記表2に示す量比で、化合物A、乳糖水和物及びデンプングリコール酸ナトリウムを乳鉢で混合し、そこに精製水を加えて造粒、乾燥し、主薬顆粒を得た。次に、得られた主薬顆粒、結晶セルロース及びステアリン酸マグネシウムを混合した後、単発打錠機を用いて打錠し、比較例4の錠剤を得た。
【0046】
また、結晶セルロース及びステアリン酸マグネシウムの量を下記表2に示す量(比較例4の半量)に減らした以外は、比較例4と同様にして、比較例5の錠剤を得た。
また、乳糖水和物、デンプングリコール酸ナトリウム、精製水、結晶セルロース及びステアリン酸マグネシウムの量を下記表2に示す量(比較例5の半量)に減らした以外は、比較例5と同様にして、参考例1の錠剤を得た。
得られた比較例4~5及び参考例1の錠剤について、錠剤物性、純度試験結果及び打錠障害の有無を下記表2に示す。
【0047】
【表2】
【0048】
比較例1と同じ添加剤の種類及び量で、湿式造粒法により製造した比較例4の錠剤は、60℃密封で14日後の不純物量が比較例1と比べて増加した。
結晶セルロース及びステアリン酸マグネシウムの量を比較例4の半量に減らした比較例5の錠剤は、比較例4ほどではないが不純物が大幅に増加した。
乳糖水和物、デンプングリコール酸ナトリウム、精製水、結晶セルロース及びステアリン酸マグネシウムの量を比較例5の半量に減らした参考例1の錠剤は、比較例4及び5に比べて不純物の増加を抑制することができた。また、1錠当たりの質量を比較例4の200mgから100mgまで減らすことができ、錠剤を小型化することができ、硬度も良好だった。更に、打錠障害が発生することはなかった。
【0049】
[参考例2、実施例1、参考例3 湿式造粒;結合剤の検証]
参考例1の主薬顆粒中に結合剤としてヒドロキシプロピルセルロースを追加し、添加剤の種類及び量を微調整し、1錠質量を100mgとした参考例2の錠剤を調製した。
具体的には下記表3に示す量比で、化合物A、乳糖水和物、デンプングリコール酸ナトリウム及びヒドロキシプロピルセルロースを乳鉢で混合し、そこに精製水を加えて造粒、乾燥し、主薬顆粒を得た。次に、得られた主薬顆粒、結晶セルロース及びステアリン酸マグネシウムを混合した後、単発打錠機を用いて打錠し、参考例2の錠剤を得た。
【0050】
また、ヒドロキシプロピルセルロースをヒプロメロース又はポリビニルアルコールに変更した以外は、参考例2と同様にして、実施例1及び参考例3の錠剤を得た。
得られた参考例2、実施例1、参考例3の錠剤について、錠剤物性、純度試験結果及び打錠障害の有無を下記表3に示す。
【0051】
【表3】
【0052】
結合剤として、ヒドロキシプロピルセルロースを含有する参考例2、ヒプロメロースを含有する実施例1及びポリビニルアルコールを含有する参考例3は、いずれも不純物の増加を抑制することができた。また、1錠当たりの質量を100mgまで減らすことができ、錠剤を小型化することができ、硬度も良好だった。更に、打錠障害が発生することもなかった。
これらの結果から、いずれの結合剤を用いた場合でも、高温及び高湿度の環境下で保存された場合の化合物Aの安定性を改善することができ、更に、小型で服用し易く、硬度も良好な化合物Aを含有する錠剤を提供できることが分かった。特にヒプロメロースを用いた場合は硬度が良好であった。
【0053】
[実施例2及び3 湿式造粒;希釈剤の検証]
希釈剤を乳糖水和物からD-マンニトールに変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2の錠剤を調製した。
具体的には下記表4に示す量比で、化合物A、D-マンニトール、デンプングリコール酸ナトリウム及びヒプロメロースを乳鉢で混合し、そこに精製水を加えて造粒、乾燥し、主薬顆粒を得た。次に、得られた主薬顆粒、結晶セルロース及びステアリン酸マグネシウムを混合した後、単発打錠機を用いて打錠し、実施例2の錠剤を得た。
【0054】
また、D-マンニトールをトレハロースに変更した以外は、実施例2と同様にして、実施例3の錠剤を得た。
得られた実施例2及び3の錠剤について、錠剤物性、純度試験結果及び打錠障害の有無を下記表4に示す。
【0055】
【表4】
【0056】
希釈剤として、乳糖水和物を含有する実施例1、D-マンニトールを含有する実施例2及びトレハロースを含有する実施例3は、いずれも不純物の増加を大幅に抑制することができた。また、1錠当たりの質量を100mgまで減らすことができ、錠剤を小型化することができ、硬度も良好だった。更に、打錠障害が発生することもなかった。
これらの結果から、いずれの希釈剤を用いた場合でも、高温及び高湿度の環境下で保存された場合の化合物Aの安定性を改善することができ、更に、小型で服用し易く、打錠性の良い硬度も良好な、化合物Aを含有する錠剤を提供できることが分かった。
【0057】
[実施例4 湿式造粒;崩壊剤の検証]
崩壊剤をデンプングリコール酸ナトリウムからクロスポビドンに変更した以外は、実施例2と同様にして、実施例4の錠剤を調製した。
得られた実施例4の錠剤について、錠剤物性、純度試験結果及び打錠障害の有無を下記表5に示す。
【0058】
【表5】
【0059】
崩壊剤として、デンプングリコール酸ナトリウムを含有する実施例2、クロスポビドンを含有する実施例4は、いずれも不純物の増加を大幅に抑制することができた。また、1錠当たりの質量を100mgまで減らすことができ、錠剤を小型化することができ、硬度も良好だった。更に、打錠障害が発生することもなかった。
これらの結果から、いずれの崩壊剤を用いた場合でも、高温及び高湿度の環境下で保存された場合の化合物Aの安定性を改善することができ、更に、小型で服用し易く、硬度も良好な、化合物Aを含有する錠剤を提供できることが分かった。
特に、崩壊剤としてクロスポビドンを用いた実施例4の錠剤は、高温及び高湿度の環境下で保存された場合の化合物Aの安定性を著しく改善することができた。
【0060】
[実施例5~7 湿式造粒;添加剤量の検証]
実施例4で使用した添加剤の量を下記表6に示す量に減らした以外は、実施例4と同様にして、実施例5~7の錠剤を得た。
得られた実施例5~7の錠剤について、錠剤物性、純度試験結果及び打錠障害の有無を下記表6に示す。
【0061】
【表6】
【0062】
各添加剤の量を減らした実施例5~7の錠剤は、実施例4と同様、不純物の増加を大幅に抑制することができた。また、錠剤を小型化することができ、打錠障害が発生することもなかった。なお、実施例5~7の錠剤は錠剤硬度がやや低めであるが、十分実用的な範囲の硬度(20N以上)であった。