(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】積層構造体、及び積層構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 31/0224 20060101AFI20240215BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20240215BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20240215BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20240215BHJP
C23C 16/24 20060101ALI20240215BHJP
H01L 31/0747 20120101ALI20240215BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20240215BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20240215BHJP
H10K 30/40 20230101ALI20240215BHJP
H10K 30/50 20230101ALI20240215BHJP
H10K 30/81 20230101ALI20240215BHJP
【FI】
H01L31/04 260
B32B7/025
B32B9/00 A
C23C14/08 D
C23C16/24
H01L31/06 455
H05B33/10
H05B33/14 A
H10K30/40
H10K30/50
H10K30/81
(21)【出願番号】P 2021542916
(86)(22)【出願日】2020-08-25
(86)【国際出願番号】 JP2020031961
(87)【国際公開番号】W WO2021039764
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2019157956
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】506263882
【氏名又は名称】京浜ラムテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】岩田 寛
【審査官】桂城 厚
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-152695(JP,A)
【文献】特開2017-028279(JP,A)
【文献】国際公開第2013/061637(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/195722(WO,A1)
【文献】特開2015-072938(JP,A)
【文献】特許第6440884(JP,B1)
【文献】国際公開第2012/043124(WO,A1)
【文献】特開2016-106440(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0329443(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00-31/078
H01L 31/18-31/20
H10K 30/00-99/00
H05B 33/00-33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層構造体であって、
前記積層構造体は、
導電性を有するとともに、隣接する層へ拡散可能な拡散成分を含む導電層と、
前記導電層と隣接するように設けられ、導電性を有するように少なくとも1種の金属又は金属酸化物を含むとともに、希ガスを含む導電性拡散防止層と
を有し、
前記拡散成分は、前記希ガスよりも原子量の小さい非金属元素であり、
前記導電性拡散防止層は、
前記少なくとも1種の金属又は金属酸化物における主金属の原子数に対する前記希ガスの原子数の比率が0.40以上であるように前記希ガスを含むことにより、前記拡散成分としての前記非金属元素が前記導電層から前記導電性拡散防止層へ拡散することを防止乃至抑制する
ように構成されている
積層構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の積層構造体であって、
前記非金属元素は、水素、ホウ素、炭素、窒素、リン、酸素、硫黄、セレン、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素からなる群から選択される少なくとも1種の元素である、
積層構造体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の積層構造体であって、
前記導電層は、前記拡散成分により終端されたダングリングボンドを含む、
積層構造体。
【請求項4】
請求項
1~3のいずれか1に記載の積層構造体であって、
前記希ガスは、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノン及びクリプトンからなる群から選択される少なくとも1種である、
積層構造体。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1に記載の積層構造体であって、
前記積層構造体は、光電変換装置である、
積層構造体。
【請求項6】
請求項
5に記載の積層構造体であって、
前記光電変換装置は、ヘテロ接合型光電変換装置である、
積層構造体。
【請求項7】
請求項
5に記載の積層構造体であって、
前記光電変換装置は、ペロブスカイト型光電変換装置である、
積層構造体。
【請求項8】
請求項
5に記載の積層構造体であって、
前記光電変換装置は、有機物光電変換装置である、
積層構造体。
【請求項9】
請求項
5に記載の積層構造体であって、
前記光電変換装置は、有機エレクトロルミネッセンス型発光装置である、
積層構造体。
【請求項10】
請求項
5~
7のいずれか1に記載の積層構造体であって、
前記導電層は、前記拡散成分として水素を含むパッシベーション層である、
積層構造体。
【請求項11】
請求項
5、
8又は
9に記載の積層構造体であって、
前記導電層は、有機物からなる、
積層構造体。
【請求項12】
請求項
5~
11のいずれか1に記載の積層構造体であって、
前記導電性拡散防止層は、透明であり且つ導電性を有する透明導電層である、
積層構造体。
【請求項13】
請求項
5~
12のいずれか1に記載の積層構造体であって、
前記導電性拡散防止層は、前記主金属として、インジウム、亜鉛及び錫からなる群から選択される、少なくとも1つの元素を含む、
積層構造体。
【請求項14】
積層構造体の製造方法であって、
前記積層構造体は、
導電性を有するとともに、隣接する層へ拡散可能な拡散成分を含む導電層と、
前記導電層と隣接するように設けられ、導電性を有するように少なくとも1種の金属又は金属酸化物を含むとともに、希ガスを含む導電性拡散防止層と
を有し、
前記拡散成分は、前記希ガスよりも原子量の小さい非金属元素であり、
前記導電性拡散防止層は、
前記希ガスを含むことにより、前記拡散成分としての前記非金属元素が前記導電層から前記導電性拡散防止層へ拡散することを防止乃至抑制する
ように構成され、
前記製造方法は、
導電層が形成された構造体を準備する工程と、
横断面形状が互いに対向する一対の長辺部を有する管状の形状を有し、前記少なくとも1種の金属又は金属酸化物を含むエロージョン面が内側を向いているスパッタリングターゲットを有するスパッタリングカソードを用い、前記スパッタリングターゲットの軸線方向において前記スパッタリングターゲットと間隔を空けて前記構造体を配置し、前記スパッタリングターゲットの内面に沿って周回するプラズマが発生するように放電を行って、前記希ガスを含むスパッタリングガスにより発生するプラズマ中のイオンにより前記スパッタリングターゲットの前記長辺部の内面をスパッタリングすることにより、前記構造体の前記導電層上に、前記導電層と隣接するように前記導電性拡散防止層を形成する工程と
を有する、
製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載の積層構造体の製造方法であって、
前記非金属元素は、水素、ホウ素、炭素、窒素、リン、酸素、硫黄、セレン、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素からなる群から選択される少なくとも1種の元素である、
製造方法。
【請求項16】
請求項14又は15に記載の積層構造体の製造方法であって、
前記導電層は、前記拡散成分により終端されたダングリングボンドを含む、
製造方法。
【請求項17】
請求項
14~16のいずれか1に記載の積層構造体の製造方法であって、
前記導電性拡散防止層は、前記少なくとも1種の金属又は金属酸化物における主金属の原子数に対する原子数の比率が0.40以上の前記希ガスを含む、
製造方法。
【請求項18】
請求項
14~17のいずれか1に記載の積層構造体の製造方法であって、
前記希ガスは、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノン及びクリプトンからなる群から選択される少なくとも1種である、
製造方法。
【請求項19】
請求項
14~
18のいずれか1に記載の積層構造体の製造方法であって、
前記積層構造体は、光電変換装置である、
製造方法。
【請求項20】
請求項
19に記載の積層構造体の製造方法であって、
前記光電変換装置は、ヘテロ接合型光電変換装置である、
製造方法。
【請求項21】
請求項
19に記載の積層構造体の製造方法であって、
前記光電変換装置は、ペロブスカイト型光電変換装置である、
製造方法。
【請求項22】
請求項
19に記載の積層構造体の製造方法であって、
前記光電変換装置は、有機物光電変換装置である、
製造方法。
【請求項23】
請求項
19に記載の積層構造体の製造方法であって、
前記光電変換装置は、有機エレクトロルミネッセンス型発光装置である、
製造方法。
【請求項24】
請求項
19~
21のいずれか1に記載の積層構造体の製造方法であって、
前記導電層は、前記拡散成分として水素を含むパッシベーション層である、
製造方法。
【請求項25】
請求項
19、
22又は
23に記載の積層構造体の製造方法であって、
前記導電層は、有機物からなる、
製造方法。
【請求項26】
請求項
19~
25のいずれか1に記載の積層構造体の製造方法であって、
前記導電性拡散防止層は、透明であり且つ導電性を有する透明導電層である、
製造方法。
【請求項27】
請求項
19~
26のいずれか1に記載の積層構造体の製造方法であって、
前記導電性拡散防止層は、主金属として、インジウム、亜鉛及び錫からなる群から選択される、少なくとも1つの元素を含む、
製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層構造体、及び積層構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層構造体は、複数の層が互いに隣接するように重ね合わされることにより構成される。積層構造体においては、各層が、導電性或いは半導電性乃至絶縁性等の機能を有する。各層の機能の組合せにより、積層構造体全体としての機能が実現される。このような積層構造体においては、一つの層が有する拡散可能な拡散成分が、当該一つの層と隣接する他の層へ拡散してしまい、その結果、積層構造体全体としての性能が低下するという問題が生じる場合があった。
【0003】
積層構造体の一例として、ヘテロ接合型光電変換装置が挙げられる(例えば特許文献1参照)。特許文献1に記載のヘテロ接合型光電変換装置は、水素終端アモルファスシリコンからなるパッシベーション層と、パッシベーション層と隣接するように設けられ、ITO(酸化インジウム錫)からなる透明導電層とを有している。このようなヘテロ接合型光電変換装置では、例えば製造工程において、パッシベーション層から透明導電層へ水素が拡散してしまい、その結果、光電変換装置の性能(例えば発電効率)が低下するという問題が生じる場合があった。この問題は、ヘテロ接合型光電変換装置に限らず、積層構造体において生じ得る問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、拡散成分を含む層から、当該層と隣接する層への当該拡散成分の拡散を防止乃至抑制することが可能な積層構造体、及び該積層構造体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の構成を採用する。
【0007】
本発明の積層構造体は、
導電性を有するとともに、隣接する層へ拡散可能な拡散成分を含む導電層と、
前記導電層と隣接するように設けられ、導電性を有するように少なくとも1種の金属又は金属酸化物を含むとともに、前記少なくとも1種の金属又は金属酸化物における主金属の原子数に対する原子数の比率が0.40以上の希ガスを含む導電性拡散防止層と
を有する。
【0008】
本発明の積層構造体において、導電性拡散防止層は、多量の希ガスを含む。希ガスは、化学的に安定している。多量の希ガスが、導電性拡散防止層内において、単原子分子として安定的に存在する。これにより、導電層から導電性拡散防止層への拡散成分の拡散が防止乃至抑制され得る。例えば、積層構造体の製造工程における拡散成分の拡散が防止乃至抑制され得る。その結果、拡散成分の拡散に起因する積層構造体の性能低下が防止乃至抑制され得る。化学的に安定な希ガスが用いられるので、積層構造体の性能への影響は防止乃至抑制され得る。
【0009】
主金属とは、導電性拡散防止層を構成する少なくとも1種の金属又は金属酸化物のうち、最も原子数の多い金属(元素)をいう。導電性拡散防止層における主金属の原子数に対する希ガスの原子数の比率は、0.40以上である。当該比率は、0.50以上であることが好ましく、0.60以上であることがより好ましく、0.70以上であることが更に好ましい。より多くの希ガスを導入することにより、拡散抑制効果を向上させることができる。また、当該比率は、1.0以下であることが好ましく、0.82以下であることがより好ましい。導電性拡散防止層およびその下地層となる拡散成分を含む層へのダメージを抑制乃至防止しつつ、希ガスを導入できる。なお、導電性拡散防止層は、製造された時点において、導電層に含有される拡散成分と同種の拡散成分を含有していてもよい。製造時点での導電性拡散防止層における拡散成分の含有量の調整によっても、導電層から導電性拡散防止層への拡散成分の拡散が防止乃至抑制され得る。導電性拡散防止層における拡散成分の含有量の調整と別に又は組み合わせて、本発明による多量の希ガスの導入は適用され得る。導電性拡散防止層における拡散成分の含有量の調整に加えて、導電性拡散防止層への多量の希ガスの導入が適用されることにより、導電層から導電性拡散防止層への拡散成分の拡散がより効果的に防止乃至抑制され得る。また、本発明によれば、化学的に安定で且つ反応性の低い希ガスにより拡散成分の拡散を防止乃至抑制できる。そのため、導電性拡散防止層における拡散成分の含有量の調整が適用し難い場合等においても、本発明により、導電層から導電性拡散防止層への拡散成分の拡散が防止乃至抑制され得る。
【0010】
本発明の積層構造体の製造方法において、
前記積層構造体は、
導電性を有するとともに、隣接する層へ拡散可能な成分を含む導電層と、
前記導電層と隣接するように設けられ、導電性を有するように少なくとも1種の金属又は金属酸化物を含むとともに、希ガスを含む導電性拡散防止層と
を有し、
前記製造方法は、
導電層が形成された構造体を準備する工程と、
横断面形状が互いに対向する一対の長辺部を有する管状の形状を有し、前記少なくとも1種の金属又は金属酸化物を含むエロージョン面が内側を向いているスパッタリングターゲットを有するスパッタリングカソードを用い、前記スパッタリングターゲットの軸線方向において前記スパッタリングターゲットと間隔を空けて前記構造体を配置し、前記スパッタリングターゲットの内面に沿って周回するプラズマが発生するように放電を行って、前記希ガスを含むスパッタリングガスにより発生するプラズマ中のイオンにより前記スパッタリングターゲットの前記長辺部の内面をスパッタリングすることにより、前記構造体の前記導電層上に、前記導電層と隣接するように前記導電性拡散防止層を形成する工程と
を有する。
【0011】
本発明の積層構造体の製造方法において、導電性拡散防止層は、上述のスパッタリングカソードにより形成される。当該スパッタリングカソードにより形成された導電性拡散防止層は、多量の希ガスを含む。加えて、当該製造方法によれば、希ガス導入時に、スパッタリングによる導電性拡散防止層およびその下地層となる拡散成分を含む層へのダメージを低減できる。よって、本発明の積層構造体の製造方法によれば、導電性拡散防止層およびその下地層となる拡散成分を含む層へのダメージを低減しつつ、多量の希ガスを導電性拡散防止層内に存在させることができる。これにより、導電層から導電性拡散防止層への拡散成分の拡散が防止乃至抑制され得る。本発明の積層構造体の製造方法により、導電性拡散防止層は、例えば、少なくとも1種の金属又は金属酸化物における主金属の原子数に対する原子数の比率が0.40以上の希ガスを含むことができる。これにより、導電層から導電性拡散防止層への拡散成分の拡散がより効果的に防止乃至抑制され得る。例えば、積層構造体の製造工程における拡散成分の拡散がより効果的に防止乃至抑制され得る。その結果、拡散成分の拡散に起因する積層構造体の性能低下がより効果的に防止乃至抑制され得る。なお、一対の長辺部は、ロータリーターゲットにより構成されていてもよい。ロータリーターゲットは、円筒形状を有し、所定の回転機構により、その回転軸の周りに回転可能に設けられる。ロータリーターゲットは、円筒回転式スパッタリングターゲットである。回転機構としては、例えば、従来公知の回転機構が採用され得る。
【0012】
さらに、上述の積層構造体及び積層構造体の製造方法に関して、本発明は、以下の構成を採用することができる。導電層の厚さとしては、特に限定されず、例えば、100nm以下であってもよく、50nm以下であってもよい。導電層の厚さとしては、特に限定されず、例えば、1nm以上であってもよく、5nm以上であってもよい。導電性拡散防止層の厚さとしては、特に限定されず、例えば、5~100nm以下であってもよい。
【0013】
一実施形態において、前記希ガスは、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノン及びクリプトンからなる群から選択される少なくとも1種である。これにより、導電性拡散防止層への拡散成分の拡散が、より効果的に防止乃至抑制され得る。一実施形態において、希ガスとしては、ヘリウム、ネオン、アルゴンからなる群から選択される少なくとも1種である。特に、希ガスとしては、アルゴンが好ましい。
【0014】
前記拡散成分に関して、一実施形態において、前記拡散成分は、スパッタリングガスに含まれる希ガスと異なる元素である。一実施形態において、前記拡散成分は、前記希ガスよりも原子量の小さい元素である。前記希ガスよりも原子量の小さい元素は、例えば、水素、リチウム、ナトリウム、ホウ素、セレン、リン、マグネシウム、ベリリウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。また、一実施形態において、前記希ガスよりも原子量の小さい元素は、例えば、水素、リチウム、ナトリウム、ホウ素、リン、マグネシウム、ベリリウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。一実施形態において、前記拡散成分は、前記希ガスよりも原子量の小さい非金属元素である。前記非金属元素は、希ガスを含んでいてもよく、含まなくてもよい。前記非金属元素は、例えば、水素、ホウ素、炭素、窒素、リン、酸素、硫黄、セレン、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素からなる群から選択される少なくとも1種の元素である。また、一実施形態において、前記拡散成分は、前記希ガスよりも原子量の小さいアルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素である。前記アルカリ金属元素は、例えば、リチウム及びナトリウムの少なくとも1種の元素である。前記アルカリ土類金属元素は、例えば、マグネシウム及びベリリウムの少なくとも1種の元素である。導電性拡散防止層は、このような拡散成分の拡散を、より効果的に防止乃至抑制できる。特に、拡散成分としては、水素が好ましい。
【0015】
一実施形態において、積層構造体は、光電変換装置である。本発明は、光電変換装置に好適に適用され得る。光電変換装置の性能低下が効果的に防止乃至抑制され得る。光電変換装置は、例えば、光電効果により、光エネルギーを電気エネルギーに変換する、又は電気エネルギーを光エネルギーに変換するように構成される。ここでいう光電効果は、例えば、内部光電効果である。ここでいう光電効果は、例えば、内部光電効果に代えて又は加えて、外部光電効果を含んでもよい。ここでいう光電効果は、例えば、光起電力効果を含む。光電変換装置としては、特に限定されず、例えば、光起電力装置、エレクトロルミネッセンス装置が挙げられる。光電変換装置は、光電変換を実現するための光電変換層を有する。光電変換層は、単一の層からなってもよく、複数の層から構成されていてもよい。導電性拡散防止層は、例えば、光電変換装置の電極(例えば透明導電層)を構成する。導電拡散防止層は、例えば、光電変換層に含まれない。導電層は、導電性拡散防止層と隣接する。導電層は、例えば、光電変換装置の電極を構成しない。導電層は、例えば、光電変換層に含まれてもよく、光電変換層に含まれずに光電変換層と電極との間に設けられてもよい。
【0016】
光起電力装置(所謂太陽電池)としての光電変換装置は、特に限定されず、例えば、シリコン系光電変換装置、化合物系光電変換装置、有機系光光電変換装置を含む。シリコン系光電変換装置としては、例えば、単結晶シリコン光電変換装置、多結晶シリコン光電変換装置、薄膜系シリコン光電変換装置が挙げられる。化合物系光電変換装置としては、例えば、CIS系光電変換装置、CdTe系光電変換装置、III-V族系光電変換装置が挙げられる。有機物光電変換装置としては、例えば、色素増感型光電変換装置、有機薄膜型光電変換装置が挙げられる。また、光電変換装置としては、例えば、ヘテロ接合型光電変換装置、ペロブスカイト型光電変換装置が挙げられる。エレクトロルミネッセンス装置としては、例えば、有機エレクトロルミネッセンス装置、無機エレクトロルミネッセンス装置が挙げられる。
【0017】
光電変換装置は、ヘテロ接合型光電変換装置、ペロブスカイト型光電変換装置、有機物光電変換装置、又は有機エレクトロルミネッセンス型発光装置であることが好ましい。本発明は、このような光電変換装置により好適に適用され得る。光電変換装置の性能低下がより効果的に防止乃至抑制され得る。有機物光電変換装置では、各層が導電性有機物からなる。導電性有機物は、例えば、金属ドーパントを含む有機化合物、有機金属化合物を含む。
【0018】
導電層は、例えば、拡散成分として水素を含むパッシベーション層であってもよく、有機物からなる層であってもよい。導電性拡散防止層は、このような導電層からの拡散成分の拡散をより効果的に防止乃至抑制できる。その結果、光電変換装置の性能低下がより効果的に防止乃至抑制され得る。拡散成分として水素を含むパッシベーション層としては、例えば、a-Si:H層、a-SiC:H層、a-SiO:H層、a-SiF:H層、a-SiN:H層が挙げられる。これらの層については後述する。導電層は、例えば、拡散成分により終端されたダングリングボンドを含む。
【0019】
導電性拡散防止層は、透明であり且つ導電性を有する透明導電層であってもよく、前記主金属として、インジウム、亜鉛及び錫からなる群から選択される、少なくとも1つの元素を含む層であってもよい。導電性拡散防止層の具体例としては、例えば、以下の材料からなる群から選択される、少なくとも1種の材料からなる層、主成分として当該少なくとも1種の材料を含む層、又は実質的に当該少なくとも1種の材料からなる層が挙げられる。酸化インジウム錫(Indium Tin Oxide)(酸化インジウムと酸化錫との混合酸化物)
酸化インジウム亜鉛(Indium Zinc Oxide)(酸化インジウムと酸化亜鉛との混合酸化物)
酸化亜鉛アルミニウム(Zinc Aluminum Oxide)(酸化亜鉛と酸化アルミニウムとの混合酸化物)
酸化亜鉛マグネシウム(Zinc Magnesium Oxide)(酸化亜鉛と酸化マグネシウムとの混合酸化物)
酸化亜鉛ホウ素(Zinc Boron Oxide)(酸化亜鉛と酸化ホウ素との混合酸化物)
酸化亜鉛ベリリウム(Zinc Beryllium Oxide)(酸化亜鉛と酸化ベリリウムとの混合酸化物)
フッ素ドープ酸化錫(Fluorine-doped tin oxide)
酸化インジウム(Indium Oxide)
酸化錫(Tin Oxide)
酸化インジウムガリウム亜鉛(Indium Gallium Zinc Oxide)(酸化インジウムと酸化ガリウムと酸化亜鉛との混合酸化物)
なお、ここで、主成分は、当該少なくとも1種の化合物の含有率(質量%)が最も大きいことを意味する。また、実質的は、ドーパント材料等の添加成分が許容されることを意味する。ドーパント材については後述する。本発明は、このような導電性拡散防止層に好適に適用され得る。
【発明の効果】
【0020】
本発明の積層構造体によれば、拡散成分を含む層から、当該層と隣接する層への当該拡散成分の拡散を防止乃至抑制することができる。また、本発明の積層構造体の製造方法によれば、導電性拡散防止層およびその下地層となる拡散成分を含む層へのダメージを低減しつつ、拡散成分を含む層から、当該層と隣接する層への当該拡散成分の拡散を防止乃至抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、実施形態に係る光電変換装置の概略構成を示す断面図である。
【
図2】
図2(a)~(d)は、実施形態に係る光電変換装置の製造方法における手順の一例を示す断面図である。
【
図3】
図3(a)~(b)は、実施形態に係る光電変換装置の製造方法における手順の一例を示す断面図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係る光電変換装置の製造方法に用いられるスパッタリング装置を示す縦断面図である。
【
図5】
図5は、
図4に示すスパッタリング装置におけるスパッタリングカソードを示す平面図である。
【
図6】
図6は、
図4に示すスパッタリング装置においてスパッタリングターゲットの表面近傍にプラズマが発生した状態を示す縦断面図である。
【
図7】
図7は、
図4に示すスパッタリング装置においてスパッタリングターゲットの表面近傍にプラズマが発生した状態を示す平面図である。
【
図8】
図8は、EPMAによる希ガス及び主金属の検出結果の一例を示す図である。
【
図9】
図9(a)は、実施例1及び比較例1に係る光電変換装置の開放電圧Vocを示す図であり、
図9(b)は、実施例1及び比較例1に係る光電変換装置におけるキャリアライフタイムを示す図である。
【
図10】
図10は、他の実施形態に係る光電変換装置の概略構成を示す断面図である。
【
図11】
図11(a)~(c)の各々は、他の実施形態に係る光電変換装置の概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<<積層構造体>>
以下、発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という)について図面を参照しながら説明する。以下においては、光電変換装置について説明する。光電変換装置は、「積層構造体」の一例である。積層構造体は、光電変換装置に限定されない。
【0023】
図1は、実施形態に係る光電変換装置の概略構成を示す断面図である。光電変換装置1は、第1導電型単結晶半導体基板11と、第1導電型単結晶半導体基板11に隣接するように設けられたパッシベーション層12と、パッシベーション層12と隣接するように設けられた第1透明導電層14とを有する。パッシベーション層12は、第1導電型単結晶半導体基板11に隣接するように設けられた実質的に真性なi型非晶質水素含有半導体層121と、i型非晶質水素含有半導体層121と隣接するように設けられた第2導電型非晶質水素含有半導体層122とを有する。第1透明導電層14上には、櫛型の第1集電極15が形成されている。また、光電変換装置1は、第1導電型単結晶半導体基板11におけるパッシベーション層12が設けられた面と反対側の面に隣接するように設けられたパッシベーション層16と、パッシベーション層16と隣接するように設けられた第2透明導電層17を有する。パッシベーション層16は、第1導電型単結晶半導体基板11と隣接するように設けられたi型非晶質半導体層161と、i型非晶質半導体層161と隣接するように設けられた第1導電型非晶質半導体層162とを有する。パッシベーション層12、16は、キャリアの再結合を抑制乃至防止可能である。第2透明導電層17上には第2集電極18が形成されている。
【0024】
第1導電型単結晶半導体基板11は、例えば、n型単結晶シリコン(以下、c-Siという)基板である。また、n型c-Si基板の表面には、光電変換装置1へ入射してきた光の反射を低減し、光閉じ込め効果を向上させる凹凸構造が設けられてもよい。
【0025】
パッシベーション層12は、i型非晶質水素含有半導体層121と、第2導電型非晶質水素含有半導体層122とを含む。パッシベーション層12は、導電性を有する。パッシベーション層12は、例えば、水素で終端されたダングリングボンドを有するシリコンを含む。パッシベーション層12は、「導電層」の一例である。
【0026】
i型非晶質水素含有半導体層121は、例えば、a-Si:H層、a-SiC:H層、a-SiO:H層、a-SiF:H層、又はa-SiN:H層である。なお、i型非晶質水素含有半導体層121は、単一の光学的バンドギャップを有する半導体材料、第1導電型単結晶半導体基板11側から連続的に光学的バンドギャップが広くなる半導体材料、又は、第1導電型単結晶半導体基板11側から段階的に光学的バンドギャップが広くなるように積層された複数の半導体材料により構成されてもよい。
a-Si:H層は、i型非晶質水素含有シリコン層を指す。
a-SiC:H層は、i型非晶質水素含有シリコンカーバイド層を指す。
a-SiO:H層は、i型非晶質水素含有シリコンオキサイド層を指す。
a-SiF:H層は、i型非晶質水素含有フッ化シリコン層を指す。
a-SiN:H層は、i型非晶質水素含有シリコンナイトライド層を指す。
また、i型非晶質水素含有半導体層121の厚さは、例えば15nm以下である。なお、この実施形態において用いるi型、第1導電型および第2導電型の非晶質シリコン層には、完全な非晶質層だけではなく、微結晶シリコン等の層中に部分的に結晶構造を有する層も含まれる。
【0027】
第2導電型非晶質水素含有半導体層122は、例えば、p型a-Si:H層、p型a-SiC:H層、p型a-SiO:H層、p型a-SiF:H層、又はp型a-SiN:H層である。なお、第2導電型非晶質水素含有半導体層122は、i型非晶質水素含有半導体層121の場合と同様に、単一の光学的バンドギャップを有する半導体材料によって構成されていてもよいし、i型非晶質水素含有半導体層121側から連続的に又は段階的に光学的バンドギャップが広くなるように構成されていてもよい。第2導電型非晶質水素含有半導体層122の厚さは、例えば20nm以下である。
【0028】
第1透明導電層14は、「導電性拡散防止層」の一例である。第1透明導電層14は、少なくとも1種の金属又は金属酸化物を含む。第1透明導電層14は、例えば、少なくとも1種の金属、金属酸化物又はこれらの組合せからなる。本実施形態において、第1透明導電層14は、酸化インジウム錫(ITO)からなる。酸化インジウム錫は、酸化インジウム(In2O3)と、酸化錫(SnO2)との無機混合物である。本実施形態において、酸化インジウム錫の主金属は、インジウムである。なお、主金属とは、導電性拡散防止層を構成する金属又は金属酸化物のうち、最も原子数が多い金属をいう。第1透明導電層14は、上述の例に限定されない。第1透明導電層14は、酸化インジウムにより構成されてもよい。この場合、主金属は、インジウムである。第1透明導電層14は、酸化亜鉛(ZnO)により構成されてもよい。この場合、主金属は、亜鉛である。第1透明導電層14は、酸化錫により構成されてもよい。この場合、主金属は、錫である。また、導電性拡散防止層には、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、硼素(B)、窒素(N)等の周知のドーパント材料から選択される少なくとも1種類以上の元素が添加されてもよい。第1透明電極層14は、製造された時点において、パッシベーション層12に含まれる拡散成分と同種の拡散成分を含有していてもよい。
【0029】
第1透明導電層14は、第1透明導電層14を構成する金属又は金属酸化物における主金属の原子数に対する原子数の比率が0.40以上の希ガスを含む。希ガスは、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノン及びクリプトンからなる群から選択される少なくとも1種である。本実施形態において、希ガスは、アルゴンである。主金属の原子数に対する希ガスの原子数の比率は、0.50以上であることが好ましく、0.60以上であることがより好ましく、0.70以上であることが更に好ましい。主金属の原子数に対する希ガスの原子数の比率は、1.0以下であることが好ましく、0.82以下であることがより好ましい。第1透明導電層14の厚さは、例えば、5~100nmである。原子数は、例えば、電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)によって計測可能である。
【0030】
櫛型の第1集電極15は、例えば、銀(Ag)、Al(アルミニウム)、金(Au)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、ロジウム(Rh)、白金(Pt)、パラジウム(Pr)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)等から選択される少なくとも1種類以上の元素又は合金からなる。
【0031】
パッシベーション層16は、i型非晶質半導体層161と、第1導電型非晶質半導体層162とを含む。パッシベーション層16は、導電性を有する。パッシベーション層16は、例えば、水素で終端されたダングリングボンドを有するシリコンを含む。パッシベーション層16は、「導電層」の一例である。
【0032】
i型非晶質半導体層161は、例えば、i型a-Si:H層、i型a-SiC:H層、i型a-SiO:H層、i型a-SiF:H層、又はi型a-SiN:H層である。i型非晶質半導体層161の厚さは、例えば、15nm以下である。
【0033】
第1導電型非晶質半導体層162は、例えば、n型a-Si:H層、n型a-SiC:H層、n型a-SiO:H層、n型a-SiF:H層、又はn型a-SiN:H層である。第1導電型非晶質半導体層162の厚さは、例えば、20nm以下である。
【0034】
なお、i型非晶質半導体層161と第1導電型非晶質半導体層162は、i型非晶質水素含有半導体層121の場合と同様に、単一の光学的バンドギャップを有する半導体材料によって構成されていてもよいし、第1導電型単結晶半導体基板11側に向かうにつれて連続的に又は段階的に光学的バンドギャップが広くなるように構成されていてもよい。
【0035】
第2透明導電層17は、第1導電型単結晶半導体基板11の受光面とは反対の裏面に形成される。第2透明導電層17は、「導電性拡散防止層」の一例である。第2透明導電層17は、第1透明導電層14と同様に形成され得る。第2透明導電層17は、表面に凹凸が形成された表面テクスチャを有してもよい。この表面テクスチャは、入射した光を散乱させ、主たる発電層である第1導電型単結晶半導体基板11での光利用効率を高めることができる。第1透明電極層17は、製造された時点において、パッシベーション層16に含まれる拡散成分と同種の拡散成分を含有していてもよい。
【0036】
第2集電極18は、Ag,Al,Au,Cu,Ni,Rh,Pt,Pr,Cr,Ti,Mo等から選択される少なくとも1種類以上の元素又は合金からなる。なお、
図1では、第2集電極18は櫛型状に形成されているが、第2透明導電層17上の全面を覆うように形成されてもよい。
【0037】
なお、上記では、第1導電型をn型とし、第2導電型をp型とした材料例を示したが、逆に、上記の材料において、第1導電型をp型とし、第2導電型をn型としてもよい。
【0038】
このような構造の光電変換装置1における動作の概要について説明する。ただし、ここでは
図1の各層において第1導電型をn型とし、第2導電型をp型として説明を行う。光電変換装置1では、光が第1の面側から入射すると、第1導電型(n型)単結晶半導体基板11でキャリアが生成される。キャリアである電子とホールとは、第1導電型(n型)単結晶半導体基板11と第2導電型(p型)非晶質水素含有半導体層122とで形成される内部電界によって分離される。電子は、第1導電型(n型)単結晶半導体基板11に向かって移動し、パッシベーション層16を通って第2透明導電層17へと到達する。ホールは、第2導電型(p型)非晶質水素含有半導体層122に向かって移動し、第1透明導電層14へと到達する。その結果、第1集電極15がプラス極となり、第2集電極18がマイナス極となって、外部に電力が取り出される。
【0039】
次に、このような構造の光電変換装置1の製造方法について説明する。
図2~
図3は、実施形態による光電変換装置の製造方法の手順の一例を模式的に示す断面図である。まず、第1導電型単結晶半導体基板11(n型c-Si基板11a)を用意する。n型c-Si基板11aの両面に、数μmから数十μmの高さを有するピラミッド状の凹凸構造を形成してもよい。ピラミッド状の凹凸構造は、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)や水酸化カリウム(KOH)等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチングによって形成され得る。
【0040】
次に、洗浄を行う。n型c-Si基板11aを第1の真空チャンバ内へ移動する。200℃以下の基板温度で真空加熱して基板表面に付着した水分を除去する。例えば、基板温度170℃で加熱処理する。その後、第1の真空チャンバ内に水素(H2)ガスを導入する。プラズマ放電によってn型c-Si基板11aの片面のクリーニングを行う。
【0041】
ついで、
図2(a)に示されるように、n型c-Si基板11aの片面に、i型非晶質水素含有半導体層121としてのi型a-Si:H層121aを形成する。i型a-Si:H層121aは、例えば、第1の真空チャンバ内にシラン(SiH
4)ガスとH
2ガスが導入され、且つ基板温度が170℃に保持される状況下において、プラズマ化学気相成長(CVD:Chemial Vapor Deposition)法によって形成される。
【0042】
その後、
図2(b)に示されるように、i型a-Si:H層121a上に、第2導電型非晶質水素含有半導体層122としてのp型a-Si:H層122aを形成する。この処理では、先ず、n型c-Si基板11aを第2の真空チャンバ内へ移動する。p型a-Si:H層122aは、第2の真空チャンバ内に、SiH
4ガス、H
2ガス、ジボラン(B
2H
6)ガスが導入される状況下において、プラズマCVD法によって形成される。このとき、基板温度は、例えば、170℃以下である。B
2H
6ガスの流量は、例えば、SiH
4ガスの流量に対して1%程度とする。i型a-Si:H層121aとp型a-Si:H層122aとによってパッシベーション層12が形成される。
【0043】
ついで、n型c-Si基板11aを第3の真空チャンバへ移動する。第3の真空チャンバ内にH2ガスを導入する。基板温度を170℃にして、プラズマ放電によるn型c-Si基板11aの第2の面のクリーニングを行う。
【0044】
その後、
図2(c)に示されるように、n型c-Si基板11aの第2の面上にi型非晶質半導体層161としてのi型a-Si:H層161aを形成する。i型a-Si:H層161aは、第3の真空チャンバ内にSiH
4ガスおよびH
2ガスが導入され、且つ基板温度が170℃に保持される状況下において、i型a-Si:H層121aと同様に、プラズマCVD法によって形成される。
【0045】
続いて、
図2(d)に示されるように、i型a-Si:H層161a上に第1導電型非晶質半導体層162としてのn型a-Si:H層162aを形成する。この処理では、先ず、n型c-Si基板11aを第4の真空チャンバへ移動する。n型a-Si:H層162aは、第4の真空チャンバ内にSiH
4ガス、H
2ガス、およびホスフィン(PH
3)ガスが導入され、且つ基板温度が170℃に保持される状況下において、プラズマCVD法によって形成される。i型a-Si:H層161aとn型a-Si:H層162aとによってパッシベーション層16が形成される。
【0046】
次に、
図3(a)に示されるように、p型a-Si:H層122a上に、第1透明導電層14としてのITO層14aを形成する。ITO層14aは、ITOターゲットを用いたスパッタリング法により形成され得る。ITO層14aは、第5の真空チャンバへ、希ガス、例えば、アルゴン(Ar)ガスが導入され、且つ基板温度が室温程度である状況下において、スパッタリング法によって、p型a-Si:H層122a上に、ITO層14aを堆積する。希ガスに加えて、O
2ガス及び/又はH
2ガスが導入されてもよい。さらに、窒素(N
2)ガスが導入されてもよい。この実施形態で用いる室温程度とは、外部から意図的に加熱を行わないことを意味する。ITO層14aは、反応性プラズマ蒸着(RPD)法により形成されてもよい。ITO層14aの形成方法は、必ずしも、これらの方法に限定されない。スパッタリング法において用いられるスパッタリング装置については、後で
図4~
図7を用いて説明する。これにより、ITO層14aは、上述したように多量の希ガスを含むことができる。即ち、
図4~
図7に示すようなスパッタリング装置を用いることにより、導電性拡散防止層(ITO層14a)を生成しつつ、当該層に多量の希ガスを含ませることができる。これにより、当該層およびその下地層となる拡散成分を含む層(121a+122a)へのダメージを低減しつつ、拡散成分の拡散を防止乃至抑制できる。導電性拡散防止層は、上述のスパッタリング装置を用いた製造方法以外の方法により生成されてもよい。そのような方法としては、例えば、上述のRPD法等、従来公知の方法を採用可能である。他の方法による当該層の生成後に、当該層内の希ガス含有量を高める処理を施してもよい。そのような処理としては、例えば、イオン注入法が挙げられる。これにより、多量の希ガスを当該層内に導入できる。
【0047】
ついで、
図3(b)に示されるように、n型a-Si:H層162a上に、第2透明導電層17としてのITO層17aを形成する。この処理では、先ず、n型c-Si基板11aを第6の真空チャンバに移動する。ITO層17aは、例えば、スパッタリング法、電子ビーム堆積法、原子層堆積法、CVD法、低圧CVD法、MOCVD法、ゾルゲル法、印刷法、スプレー法等の種々の方法により作製可能である。
【0048】
そして、ITO層14a上に第1集電極15を形成する。さらに、ITO層17a上に第2集電極18を形成する。第1集電極15および第2集電極18は、印刷法により銀ペーストなどの導電性ペーストを櫛型に塗布した後、基板温度200℃で90分間焼成することによって作製され得る。また、第2集電極18は、高い反射率と導電性を有するAg,Al,Au,Cu,Ni,Rh,Pt,Pr,Cr,Ti,Mo等から選択される少なくとも1種類以上の元素又は合金からなる層により構成されてもよい。第2集電極18は、ITO層17a上の全面を覆うように形成されてもよい。以上のようにして、
図1に示される構造の光電変換装置1が得られる。
【0049】
ここでは、1つの半導体光電変換層を有する光電変換装置1を例にとって説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。つまり、本発明は結晶シリコンと非晶質シリコンとのヘテロ接合を有する光電変換装置に限定されることなく、例えば所定の導電型の半導体層上に透明導電層が形成される構造を有する光電変換装置にも適用することができる。
【0050】
<<スパッタリング装置>>
次に、上述したスパッタリング法に用いられるスパッタリング装置について説明する。本実施形態に係るスパッタリング装置は、少なくとも透明導電層の生成に用いられ得る。当該スパッタリング装置により、受光面側の透明導電層14、受光面と反対側の透明導電層17、又はそれらの両方のいずれが生成されてもよい。
【0051】
図4および
図5は、本実施形態に係るスパッタリング装置を示す縦断面図および平面図である。
図4及び
図5は、スパッタリング装置の真空容器の内部に設けられたスパッタリングカソードおよびアノード付近の構成を示す。
図4は、
図5のW-W線に沿った断面図である。
図6は、
図4に示すスパッタリング装置においてスパッタリングターゲットの表面近傍にプラズマが発生した状態を示す縦断面図である。
図7は、
図4に示すスパッタリング装置においてスパッタリングターゲットの表面近傍にプラズマが発生した状態を示す平面図である。
【0052】
X方向は、スパッタリングカソード1の長手方向である。Y方向は、スパッタリングカソード1の短手方向である。Z方向は、スパッタリングターゲット210の軸線方向である。X、Y及びZ方向は、互いに直交する。X方向及びY方向は、スパッタリングターゲット210の径方向に該当する。スパッタリングカソード201が設けられたスパッタリング装置においては、X方向は、水平方向である。Y方向は、鉛直方向である。Z方向は、スパッタリングカソード1と被処理体Eとが互いに向かい合う方向である。但し、Z方向が鉛直方向であってもよい。即ち、スパッタダウン、サイドスパッタ、スパッタアップのいずれも採用可能である。
【0053】
図4および
図5に示すように、本実施形態に係るスパッタリング装置は、横断面形状が矩形の角管状の形状を有し、エロージョン面が内側を向いているスパッタリングターゲット210と、このスパッタリングターゲット210の外側に設けられた永久磁石220と、この永久磁石220の外側に設けられたヨーク230とを有する。スパッタリングターゲット210は、透明導電層(14,17)を形成するための材料により構成されている。スパッタリングターゲット210、永久磁石220およびヨーク230により、スパッタリングカソード201が形成されている。スパッタリングカソード201は、一般的には、電気的に絶縁された状態で真空容器(図示せず)に対して固定される。また、永久磁石220およびヨーク230により磁気回路MF(
図6参照)が形成されている。永久磁石220の極性は
図4に示す通りであるが、各々が全く逆の極性でも何ら差し支えない。スパッタリングターゲット210と永久磁石220との間には、好適には冷却用のバッキングプレート(図示せず)が設けられ、このバッキングプレートの内部に設けられた流路に冷媒(例えば冷却水)が流される。スパッタリングターゲット210により囲まれた直方体状の空間の近傍に、スパッタリングターゲット210のエロージョン面が露出するようにL字型の断面形状を有するアノード240が設けられている。このアノード240は、一般的には、接地された真空容器に接続される。また、スパッタリングターゲット210により囲まれた直方体状の空間の近傍に、スパッタリングターゲット210のエロージョン面が露出するようにL字型の断面形状を有する光線遮断シールド250が設けられている。光線遮断シールド250は導電体、典型的には金属により形成される。光線遮断シールド250はアノードを兼用し、アノード240と同様に、一般的には、接地された真空容器に接続される。
【0054】
図5に示すように、スパッタリングターゲット210の互いに対向する一対の長辺部の間の距離をa、スパッタリングターゲット210の互いに対向する一対の短辺部の間の距離をbとすると、例えば、b/aは2以上に選ばれ、一般的には40以下に選ばれる。aは、例えば、一般的には50mm以上150mm以下に選ばれる。
【0055】
このスパッタリング装置は、スパッタリングターゲット210により囲まれた空間と対向するように当該空間から間隔を空けて離れた位置に位置する基板Sに対して成膜を行うように構成されている。基板Sは、スパッタリング装置に設けられた所定の搬送機構(図示せず)により保持される。成膜は、基板Sを、スパッタリングターゲット210に対し、スパッタリングターゲット210の長辺部を横断する方向(X方向)に移動させながら行う。基板Sとしては、特に限定されず、いわゆるロールツーロールプロセスで用いられるロールに巻かれた長尺のフィルムであってもよく、基板であってもよい。
【0056】
真空容器を真空ポンプにより高真空に排気した後、スパッタリングターゲット210により囲まれた空間にスパッタリングガスとして希ガスを導入する。アノード240とスパッタリングカソード201との間に、所定の電源によりプラズマ発生に必要な、一般的には直流の高電圧を印加する。一般的には、アノード240が接地され、スパッタリングカソードに負の高電圧(例えば、-400V)が印加される。これによって、
図6および
図7に示すように、スパッタリングターゲット210の表面近傍にこのスパッタリングターゲット210の内面に沿って周回するプラズマ260が発生する。
【0057】
成膜時のスパッタリング条件としては、特に限定されないが、導電性拡散防止層(透明導電層)の希ガス含有量を高めるために、例えば、以下のような条件が採用されることが好ましい。希ガス流量(例えばアルゴン流量)は、50sccm以上であることが好ましい。希ガス流量(例えばアルゴン流量)は、500sccm以下であることが好ましい。希ガスと共に酸素が供給される場合には、酸素流量は、2sccm以上であることが好ましい。酸素流量は、20sccm以下であることが好ましい。スパッタリング電力は、500W以上であることが好ましい。スパッタリング電力は、5000W以下であることが好ましい。直流放電電圧(絶対値)は、250V以上であることが好ましい。直流放電電圧(絶対値)は、1000V以下であることが好ましい。なお、直流放電には、パルス放電が適用されてもよい。スパッタリング圧力は、0.1Pa以上であることが好ましい。スパッタリング圧力は、1Pa以下であることが好ましい。T-Sは、30mm以上であることが好ましい。T-Sは、300mm以下であることが好ましい。なお、T-Sは、スパッタリングターゲット210と基板Sとの距離を示す。基板Sの温度は、10℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましい。基板Sの温度は、70℃以下であることが好ましく、60℃以下であることがより好ましい。
【0058】
スパッタリングターゲット210の内面に沿って周回するプラズマ260中における希ガスのイオンにより、スパッタリングターゲット210がスパッタリングされる結果、スパッタリングターゲット210を構成する原子がスパッタリングターゲット210により囲まれた空間から飛び出す。このとき、スパッタリングターゲット210のエロージョン面のうちプラズマ260の近傍の部分から原子が飛び出す。しかし、スパッタリングターゲット210の内側の短辺部のエロージョン面から飛び出す原子は、例えば、成膜に使用されない。これを実現するためには、スパッタリングターゲット210の長辺方向の両端部を遮蔽するようにスパッタリングターゲット210の上方に水平遮蔽板を設けることにより、スパッタリングターゲット210の短辺部のエロージョン面から飛び出す原子が成膜時に基板Sに到達しないようにすればよい。あるいは、スパッタリングターゲット210の長手方向の幅bを基板Sの幅より十分に大きくすることにより、スパッタリングターゲット210の短辺部のエロージョン面から飛び出す原子が成膜時に基板Sに到達しないようにしてもよい。スパッタリングターゲット210から飛び出る原子の一部は光線遮断シールド250により遮られる結果、スパッタリングターゲット210の長辺部のエロージョン面から、
図6に示すようなスパッタ粒子束270、280が得られる。スパッタ粒子束270、280は、スパッタリングターゲット210の長手方向にほぼ均一な強度分布を有する。
【0059】
安定なスパッタ粒子束270、280が得られるようになった時点で、基板Sを、スパッタリングターゲット210に対し、スパッタリングターゲット210の長辺部を横断する方向(X方向)に移動させながら、スパッタ粒子束270、280により成膜を行う。基板Sが、スパッタリングターゲット210により囲まれた空間と対向する位置に向かって移動すると、まずスパッタ粒子束270が基板Sに入射して成膜が開始する。基板Sがさらに移動し、スパッタ粒子束280が入射するようになると、スパッタ粒子束270に加えてスパッタ粒子束280も成膜に寄与するようになる。その結果、基板Sにスパッタ粒子束270、280が入射して成膜が行われる。こうして成膜を行いながら基板Sをさらに移動させる。そして、基板Sが、スパッタリングターゲット210により囲まれた空間から離れ、基板Sに対してスパッタ粒子束270、280が入射しなくなる位置まで移動させる。これにより、成膜が完了する。
【0060】
上述したスパッタリングカソード201を用いることにより、導電性拡散防止層としての透明電極層14、17は、多量の希ガスを含有するように形成される。
【0061】
<<実施例>>
実施形態に示される構造の光電変換装置の実施例について、比較例とともに示す。
【0062】
<実施例1>
第1導電型単結晶半導体基板11としてのn型c-Si基板11aを準備した。次に、n型c-Si基板11a上を真空チャンバへ導入し、200℃で加熱を行って基板表面に付着した水分を除去した。その後、真空チャンバ内に水素ガスを導入し、プラズマ放電により基板表面のクリーニングを行った。続いて、基板温度を約150℃とし、SiH
4ガスおよびH
2ガスを真空チャンバ内に導入して、RFプラズマCVD法によって、i型a-Si:H層121aを形成した。続いて、SiH
4ガス、H
2ガスおよびB
2H
6ガスを導入して、p型a-Si:H層122aを形成した。次に、p型a-Si:H層122a上に、スパッタリング法によりITO層14aを形成した。ITO層14aは、第1透明導電層14の一例である。ITO層14aは、SnO
2が添加されたIn
2O
3からなる。ITO層14aは、基板温度を室温程度とし、
図4~
図7に示したスパッタリングカソード201を有するスパッタリング装置を用いて形成した。その後、プラズマCVD法によって、n型c-Si基板11aの反対側の面上に、i型a-Si:H層161aを形成した。さらに、ドーピングガスとしてPH
3ガスを導入し、i型a-Si:H層161a上に、n型a-Si:H層162aを形成した。ついで、n型a-Si:H層162a上に、室温程度の基板温度で、
図4~
図7に示したスパッタリングカソード201を有するスパッタリング装置によって、ITO層17aを形成した。ITO層17aは、第2透明導電層17の一例である。その後、真空チャンバへArガスを導入し、約200℃の基板温度で約2時間の加熱処理を行った。そして、ITO層14a、17aの上面の所定領域に、スクリーン印刷法により銀ペーストから成る櫛型の第1集電極15及び第2集電極18を形成した。それによって、光電変換装置1の製造を完了した。なお、ITO層14a、17aの生成時におけるスパッタリング条件は、以下の通りであった。
アルゴン流量:200sccm
酸素流量:6sccm
スパッタリング電力:1500W
直流放電電圧(絶対値):370V
スパッタリング圧力:0.4Pa
T-S:100mm
【0063】
<実施例2>
ITO層14a、17aの生成時におけるスパッタリング圧力が、1.0Paに設定されたこと以外については、実施例1と同様の条件により、光電変換装置1を製造した。
【0064】
<実施例3>
ITO層14a、17aの生成時におけるスパッタリング圧力が、0.1Paに設定されたこと以外については、実施例1と同様の条件により、光電変換装置1を製造した。
【0065】
<比較例1>
ITO層14a、17aを、プレーナーマグネトロンスパッタリング法により形成したこと以外については、実施例1と同様にして、光電変換装置1を製造した。なお、プレーナーマグネトロンスパッタリング法については、以下の条件で処理を行った。
アルゴン流量:200sccm
酸素流量:5sccm
スパッタリング電力:1200W
直流放電電圧(絶対値):360V
スパッタリング圧力:0.4Pa
T-S:100mm
【0066】
<<評価方法>>
<希ガス/主金属の原子数比>
先ず、フィールドエミッション電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)(日本電子株式会社製「JXA-8500F」)を用いてITO層14aに対して測定を行った。測定条件は、以下の通りであった。
加速電圧:20kV
照射電流:約0.2μm
測定面積:約10μm
得られた結果は、
図8に示す通りであった。
図8は、EPMAによる希ガス及び主金属の検出結果の一例を示す。縦軸は、特性X線強度を示す。特性X線強度は、主金属(In)のピークが1となるように示されている。横軸は、特性X線波長(nm)を示す。実施例1のデータは、実線により示されている。比較例1のデータは、破線により示されている。Mは、実施例1のデータのベースラインを示す。Kは、比較例1のデータのベースラインを示す。なお、
図8に示すベースラインM、Kは、計測方法を説明するために模式的に描かれた線である。Pは、実施例1におけるベースラインMからの主金属(In)のピーク高さを示す。Qは、比較例1におけるベースラインKからの主金属(In)のピーク高さを示す。Sは、実施例1におけるベースラインMからの希ガス(Ar)のピーク高さを示す。Rは、比較例1におけるベースラインKからの希ガス(Ar)のピーク高さを示す。S/Pにより、実施例1における原子数比(Ar/In)を得た。R/Qにより、比較例1における原子数比(Ar/In)を得た。実施例2、3についても、同様の方法により、原子数比(Ar/In)を得た。
【0067】
<発電効率>
発電効率の評価については、開放電圧Vocとキャリアライフタイムとを測定することにより実施した。
【0068】
発電効率は、下記(1)式により表される。
発電効率=(Jsc×Voc×FF(%))/入射光強度・・・(1)
(Jsc:短絡電流密度、FF:フィルファクタ)
短絡電流密度Jscは、下記(2)式により表される。
Jsc=n0・q・{exp(qV/kT)-1}・・・(2)
(n0:少数キャリア密度、q:単位電荷、V:電位差、k:ボツルマン定数、T:温度)
少数キャリア密度n0は、キャリアライフタイムに比例する。従って、上記(1)及び(2)式から明らかなように、発電効率は、開放電圧Voc及びキャリアライフタイムに比例する。そこで、開放電圧Vocとキャリアライフタイムとを測定することにより、発電効率を評価した。
【0069】
<開放電圧Voc>
開放電圧Vocは、光電変換装置1に電流が流れていない時の電圧である。光が照射されることにより電流が流れている光電変換装置1に対して、当該電流と逆向きに電圧を印加し、電圧を徐々に上げていく。印加される電圧が0である時に流れている電流の密度が、短絡電流密度Jscである。電流が流れなくなった時に印加されている電圧が、開放電圧Vocである。なお、開放電圧は、スパッタリングによる成膜前、スパッタリングによる成膜直後、及び加熱処理(アニーリング)直後において測定された。さらに、開放電圧は、経過日数に応じて測定された。
【0070】
<キャリアライフタイム>
キャリアライフタイムについては、μ-PCD法により測定した。光電変換装置1にレーザ光をパルス照射すると過剰キャリア(電子・正孔対)が生成される。過剰キャリアの密度の上昇に応じてパルス照射表面のマイクロ波反射率が上昇する。この現象を利用して、マイクロ波反射率の時間変化を計測することにより、キャリアライフタイムを測定した。本測定において、キャリアライフタイムは、パルスレーザ光照射完了時刻から、マイクロ波反射率が1/eに減少するまでに要する時間として定義される。なお、eは、ネイピア数である。本測定では、波長904nmの半導体レーザを用いてレーザ光を得た。また、周波数10GHzのシングル導波管を用いてマイクロ波を得た。なお、キャリアライフタイムは、スパッタリングによる成膜前、スパッタリングによる成膜直後、及び加熱処理(アニーリング)直後において測定された。さらに、キャリアライフタイムは、経過日数に応じて測定された。
【0071】
<<評価結果>>
<希ガス/主金属の原子数比>
実施例1の原子数比(Ar/In)は、0.66であった。実施例2の原子数比(Ar/In)は、0.40であった。実施例3の原子数比(Ar/In)は、0.82であった。比較例1の原子数比(Ar/In)は、0.30であった。
【0072】
<開放電圧Voc>
図9(a)は、実施例1及び比較例1に係る光電変換装置の開放電圧Voc及び経過時間を示す。実線は、実施例1のデータを示す。破線は、比較例1のデータを示す。実施例1では、比較例1よりも、高い開放電圧Vocが得られた。加えて、実施例1では、長期間にわたって、高い開放電圧Vocが維持された。実施例2、3(図示せず)についても、実施例1と同様に、長期間にわたって、高い開放電圧Vocが維持された。
【0073】
<キャリアライフタイム>
図9(b)は、実施例1及び比較例1に係る光電変換装置におけるキャリアライフタイム及び経過日数を示す。実線は、実施例1のデータを示す。破線は、比較例1のデータを示す。実施例1では、比較例1よりも、長いキャリアライフタイムが得られた。加えて、実施例1では、長期間にわたって、長いキャリアライフタイムが維持された。実施例2、3(図示せず)についても、実施例1と同様に、長期間において、長いキャリアライフタイムが維持された。
【0074】
また、実施例1~3及び比較例1に関して、スパッタリング前、スパッタリング直後及びアニーリング直後における開放電圧Voc及びキャリアライフタイムは、下表の通りであった。
【0075】
【0076】
「スパッタリングによる変化量」(減少量)が示すように、開放電圧及びキャリアライフタイムの両方が、スパッタリングによって減少した。この理由は、例えば、水素終端されたダングリングボンドがダメージを受けたためであると考えられる。開放電圧及びキャリアライフタイムの両方に関して、実施例1~3の「スパッタリングによる変化量」(減少量)は、比較例1の「スパッタリングによる変化量」(減少量)よりも少なかった。これは、生成中の透明導電層(ITO層)に多く含まれる希ガス(アルゴン)が、パッシベーション層からの拡散成分(水素)の拡散を抑制したためであると考えられる。
「アニーリングによる変化値」(増加量)が示すように、開放電圧及びキャリアライフタイムの両方が、アニーリングによって増加した。この理由は、例えば、ダングリングボンドが、層内に吸蔵されている水素により再び終端されたためであると考えられる。開放電圧に関して、実施例1、2の「アニーリングによる変化値」(増加量)は、比較例1の「アニーリングによる変化値」(増加量)よりも少なかった。これは、実施例1、2におけるスパッタリングによるダメージが小さかったため、その回復による増加量も小さくなったことに起因していると考えられる。一方、実施例3の「アニーリングによる変化値」(増加量)は、比較例1の「アニーリングによる変化値」(増加量)よりも多かった。実施例3におけるスパッタリングによるダメージは、実施例1、2と同様に小さいが、実施例3では、回復によって、大きな増加量が得られたためである、と考えられる。一方、キャリアライフタイムに関して、実施例1、3の「アニーリングによる変化値」(増加量)は、比較例1の「アニーリングによる変化値」(増加量)の3倍以上であった。さらに、キャリアライフタイムに関して、実施例2の「アニーリングによる変化値」(増加量)は、比較例1の「アニーリングによる変化値」(増加量)の約2倍であった。これは、生成された透明導電層(ITO層)に多く含まれる希ガス(アルゴン)が、パッシベーション層からの拡散成分(水素)の拡散を抑制したためであると考えられる。比較例1においても、上述したように、アニーリングによってダングリングボンドの水素終端が生じるが、水素の拡散も生じるため、実施例1~3と比べて、増加量が少なくなったと考えられる。
このように、スパッタリング及びアニーリングによる開放電圧及びキャリアライフタイムの変化量によっても、多量の希ガスを含有する透明導電層による拡散成分の拡散の抑制乃至防止が確認された。
【0077】
以上のように、実施例1~3に係る光電変換装置は、比較例1に係る光電変換装置と比べて、高い原子数比(Ar/In)を有し、高い開放電圧Voc及び長いキャリアライフタイムを得ることができ、優れた発電効率を実現できた。
【0078】
実施例1~3では、ITO層14a、17aを生成する時にスパッタリングカソード201が用いられている。スパッタリングカソード201では、スパッタリングターゲット210が、互いに対向するエロージョン面を有している。言い換えると、スパッタリングターゲット201は、互いに対向する一対の長辺部を有している。そのため、反跳希ガス(例えば反跳Ar)が複数回ターゲットに衝突する事態が生じる。衝突の度に、反跳希ガスの一部がスパッタリング粒子に取り込まれる。その結果、より多くの希ガスを含有するスパッタリング粒子が生成されたり、希ガスを含有するスパッタリング粒子がより多く生成されたりする。これにより、より多くの希ガスを含有するITO層14a、17aが形成される。これに対して、比較例1のプレーナーマグネトロンスパッタリング法では、スパッタリングターゲットが、互いに対向する部分(エロージョン面)を有さない。そのため、スパッタリングターゲットへの希ガスの衝突は、通常、一回である。その結果、比較例1では、希ガスの含有量が、実施例1よりも低くなる。
このように、
図4~
図7に示すスパッタリングカソード201を用いて導電性拡散防止層を形成することにより、導電性拡散防止層の希ガス含有量を高めることができる。
【0079】
実施例1~3及び比較例1のような光電変換装置1においては、パッシベーション層の性能が高いほど、キャリアライフタイムが長くなる。パッシベーション層の性能は、水素によるダングリングボンドの終端の最適化の程度に依存する。パッシベーション層上に形成される層により、パッシベーション層における水素によるダングリングボンドの終端が最適化された状態を維持できれば、キャリアライフタイムをより長く保つことができる。ダングリングボンドの終端の状態は、水素の拡散の増加に伴って、より大きく変化したり、より変化し易くなったりして、最適化された状態から逸脱し、これにより、キャリアライフタイムが減少する。実施例1~3に係る光電変換装置1では、ITO層14a、17aにおける希ガス/主金属の原子数比が高く、ITO層14a、17aは、比較例1と比べて、より多くの希ガスを含有している。その希ガスが水素の拡散を抑制する作用を生じさせている。
このように、導電性拡散防止層の希ガス含有量を高めることにより、導電層から導電性拡散防止層への拡散成分の拡散を抑制乃至防止できる。
【0080】
<<変形例>>
本発明の積層構造体は、
図1に示す例に限定されない。本発明の積層構造体としては、例えば、
図10及び
図11(a)~(c)の各々に示す光電変換装置が挙げられる。
【0081】
図10は、他の実施形態に係る光電変換装置の概略構成を示す断面図である。
図10に示す積層構造体1は、パッシベーション層12、16が単一層であることを除いて、
図1に示す積層構造体1と同様の積層構造を有する。ここでは、
図1に示す積層構造体1との相違点について説明し、当該相違点以外についての説明は省略する。
【0082】
パッシベーション層12は、i型非晶質水素含有半導体層からなる。パッシベーション層12は、第1導電型単結晶半導体基板11と第1透明導電層14との間において、第1導電型単結晶半導体基板11及び第1透明導電層14の両方と接触するように設けられている。i型非晶質水素含有半導体層は、上述したi型非晶質水素含有半導体層121と同じように形成され得る。
【0083】
パッシベーション層16は、i型非晶質半導体層からなる。パッシベーション層16は、第1導電型単結晶半導体基板11と第2透明導電層17との間において、第1導電型単結晶半導体基板11及び第2透明導電層17の両方と接触するように設けられている。i型非晶質半導体層は、上述したi型非晶質半導体層161と同じように形成され得る。
【0084】
図11(a)~(c)の各々は、他の実施形態に係る光電変換装置の概略構成を示す断面図である。
図11(a)~(c)の各々に係る光電変換装置301は、有機エレクトロルミネッセンス装置である。
【0085】
図11(a)に示す光電変換装置301では、発光層311(EML)の受光面(図中の上面)には、電子輸送層312(ETL)、電荷生成層313(CGL)、正孔輸送層314(HTL)、保護層315及び透明導電層316が、図中における下から上に向けてこの順に、隣り合う層が互いに接触するように積層されている。発光層311(EML)の受光面と反対側の面(図中の下面)には、正孔輸送層317(HTL)、正孔注入層318(HIL)及び金属電極層319が、図中における上から下に向けてこの順に、隣り合う層が互いに接触するように積層されている。保護層315は、拡散成分(例えば水素)を含有し、透明導電層316が、上述したように多量の希ガスを含有する。その点を除いて、各層311~319としては、例えば、公知の構成が採用され得る。保護層315は、例えば、導電性有機物からなる。導電性有機物は、例えば、金属ドーパントを含む有機化合物、金属有機化合物を含み、より具体的には、例えば、金属フタロシアニン等の有機金属錯体を含む。透明導電層316としては、例えば、上述した透明導電層14、17と同様の構成が採用され得る。
図11(a)に示す光電変換装置301において、保護層315は、「導電層」の一例であり、透明導電層316は、「導電性拡散防止層」の一例である。
【0086】
図11(b)に示す光電変換装置301は、保護層315を有さない点を除いて、
図11(a)に示す光電変換装置301と同様であるから、以下においては相違点について説明し、相違点以外については説明を省略する。正孔輸送層317は、拡散成分(例えば水素)を含有し、透明電極層316は、上述したように多量の希ガスを含有する。
図11(b)に示す光電変換装置301において、正孔輸送層314は、「導電層」の一例であり、透明導電層316は、「導電性拡散防止層」の一例である。
【0087】
図11(c)に示す光電変換装置301は、電荷生成層313及び正孔輸送層314を有さない点を除いて、
図11(b)に示す光電変換装置301と同様であるから、以下においては相違点について説明し、相違点以外については説明を省略する。電子輸送層312は、拡散成分(例えば水素)を含有し、透明電極層316は、上述したように多量の希ガスを含有する。
図11(c)に示す光電変換装置301において、電子輸送層312は、「導電層」の一例であり、透明導電層316は、「導電性拡散防止層」の一例である。
【0088】
上述の実施形態および実施例において挙げた数値、材料、構造、形状などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じて、これらと異なる数値、材料、構造、形状などを用いてもよい。
【符号の説明】
【0089】
1 光電変換装置
11 第1導電型単結晶半導体基板
12 パッシベーション層
121 i型非晶質水素含有半導体層
122 第2導電型非晶質水素含有半導体層
14 第1透明導電層
15 第1集電極
16 パッシベーション層
161 i型非晶質半導体層
162 第1導電型非晶質半導体層
17 第2透明導電層
18 第2集電極