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特許7437061生育環境予測装置、生育環境制御システムおよび生育環境予測方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】生育環境予測装置、生育環境制御システムおよび生育環境予測方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/00 20060101AFI20240215BHJP
   A01G 9/24 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
A01G7/00 601Z
A01G9/24 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022059622
(22)【出願日】2022-03-31
(65)【公開番号】P2023150493
(43)【公開日】2023-10-16
【審査請求日】2022-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】510179227
【氏名又は名称】ディーピーティー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水落 智
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 輝基
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特許第6942790(JP,B2)
【文献】特開2021-108585(JP,A)
【文献】特開2023-70588(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00
A01G 9/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物を生育する生育施設の内部環境を表わす少なくとも一つの物理量を計測する計測部からの計測値の時系列データを取得する計測値データ取得部と、
前記生育施設の内部空間に働き掛けて、前記少なくとも一つの物理量を変更する複数種類の変更装置の駆動量の時系列データを取得する駆動量データ取得部と、
前記生育施設に対応する対応施設における少なくとも一つの物理量の時系列データと前記対応施設における複数種類の変更装置の駆動量の時系列データとの関係を教師データとした機械学習を行なうことで得られた機械学習済みモデルを用いて、前記生育施設において取得された前記計測値の時系列データと前記駆動量の時系列データとに基づいて、前記少なくとも一つの前記物理量の現時点から所定時間後の値である予測値を予測する予測部と、
前記物理量の前記予測値を、利用可能な形態で出力する出力部と、
を備え、
前記生育施設に対応する前記対応施設は、前記生育施設および前記生育施設の環境との間で前記機械学習可能な共通性を有する施設の少なくとも一方を含む、生育環境予測装置。
【請求項2】
前記機械学習済みモデルは、訓練用モデルに前記機械学習を行なったものであり、
前記訓練用モデルは、回帰型ニューラルネットワーク(RNN)を備える、
請求項1に記載の生育環境予測装置。
【請求項3】
前記訓練用モデルは、前記回帰型ニューラルネットワークの後段に、ディープラーニングを行なう複数層のニューラルネットワークを備える、請求項2に記載の生育環境予測装置。
【請求項4】
前記回帰型ニューラルネットワークには、前記対応施設における少なくとも一つの物理量の時系列データと前記対応施設における複数種類の変更装置の駆動量の時系列データとを入力し、
前記複数層のニューラルネットワークには、前記回帰型ニューラルネットワークの出力と、前記対応施設における前記複数種類の前記変更装置の次の駆動量とを入力し、
前記次の駆動量に対応する前記少なくとも一つの物理量をラベルとして、前記訓練用モデルの学習を行なって、得られた機械学習済みモデルを用いて、前記予測値の予測を行なう、
請求項3に記載の生育環境予測装置。
【請求項5】
前記機械学習済みモデルの前記回帰型ニューラルネットワークに前記生育施設において取得された前記計測値の時系列データと前記駆動量の時系列データとを入力し、前記複数層のニューラルネットワークに、前記回帰型ニューラルネットワークの出力と、前記生育施設における前記複数種類の前記変更装置の次の駆動量として用意された複数の組み合わせとを入力し、前記複数の組み合わせ毎に、前記予測値の予測を行なう、請求項4に記載の生育環境予測装置。
【請求項6】
前記複数種類の変更装置は、
前記生育施設おいて、前記内部空間に熱量を付与する加熱装置、前記内部空間の熱量を奪う冷却装置、前記内部空間に水蒸気を付与する加湿装置、前記内部空間の水蒸気を奪う乾燥装置、前記内部空間にミストを付与するミスト付与装置、前記内部空間に二酸化炭素を付与する二酸化炭素発生装置、前記内部空間と外部との気体の交換を行なう換気装置、前記内部空間内の気体の循環を図る循環装置、前記内部空間への日照の入射量を変更する遮光装置、前記内部空間に備えられた培養土に水を供給する灌水装置、前記生育施設の天井または壁面に設けられた窓の開口量を調整する開口量調整装置のうちの少なくとも二つを備える、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の生育環境予測装置。
【請求項7】
前記計測部は、前記生育施設において、前記内部空間の温度を計測する温度センサ、前記内部空間の湿度を計測する湿度センサ、前記内部空間の二酸化炭素濃度を計測する二酸化炭素センサ、前記内部空間と外部との間で交換される気体の換気量を計測する換気センサ、前記内部空間内の気体の循環量を計測する循環量センサ、前記内部空間への日照の入射量を計測する日照センサ、前記内部空間に備えられた培養土が含有する水分量を計測する水分量センサ、のうちの少なくとも一つを備える、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の生育環境予測装置。
【請求項8】
前記機械学習済みモデルに対して、前記生育施設での少なくとも一つの前記物理量の時系列データと前記生育施設における前記複数種類の変更装置の駆動量の時系列データとの関係を教師データとして追加学習を行なって、前記機械学習済みモデルの更新を行なう更新装置を備える、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の生育環境予測装置。
【請求項9】
更に、所定時間の間の前記生育施設での少なくとも一つの前記物理量の時系列データと前記生育施設における前記複数種類の変更装置の駆動量の時系列データとの関係を所定期間に亘って蓄積する蓄積部を備え、
前記更新装置は、前記所定期間の経過後、前記蓄積された前記関係を用いて前記追加学習を行なう、
請求項8に記載の生育環境予測装置。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の生育環境予測装置と、
前記計測された物理量の内の少なくとも一つと、前記生育環境予測装置から出力された前記物理量の前記予測値とを比較し、両者の差が最も小さい駆動パターンで前記複数種類の変更装置を駆動する駆動部と、
を備えた生育環境制御システム。
【請求項11】
生物を生育する生育施設の内部環境を表わす少なくとも一つの物理量を計測し、
前記生育施設の内部空間に働き掛けて、前記少なくとも一つの物理量を変更する複数種類の変更装置の駆動量の時系列データを取得し、
前記生育施設および前記生育施設の環境との間で前記機械学習可能な共通性を有する施設の少なくとも一方を含む対応施設における少なくとも一つの物理量の時系列データと前記対応施設における複数種類の変更装置の駆動量の時系列データとの関係を教師データとした機械学習を行なうことで得られた機械学習済みモデルを用いて、前記生育施設において取得された前記駆動量の時系列データに基づいて、前記少なくとも一つの前記物理量の現時点から所定時間後の値である予測値を予測し、
前記物理量の前記予測値を、利用可能な形態で出力する、
生育環境予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生物の生育環境を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から各種生物を環境が調整できる空間で生育することが、農業や林業、漁業、更には畜産業などの分野で行なわれている。例を挙げれば、ビニールハウス内での野菜や茸類の栽培や繁殖、生け簀の中での魚類・甲殻類・貝類の養殖、大規模施設内での鶏の飼育や採卵などがある。近年、生物の生育環境に対してセンサや空調装置などを組み合わせて様々な支援を行なう技術が検討されている。例えば、特許文献1は、農地の温度を予測して、栽培を支援しようとする技術を開示している。また、特許文献2は、植物を栽培するビニールハウス内にセンサなどを設け、植物の栽培状況を目標に近づけるため、温度が高い場合には、空調装置を用いて温度を下げるといった制御について提案している。なお、本明細書では、「生育」は動物の「成育」を含む概念を示すものとして用いる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-170971号公報
【文献】特開2019-170359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
こうした生物の生育は、工場のように完全に人工的な空間で行なわれることは少なく、外部の環境を取り込んで行なわれることが多い。これは、構造的に、ビニールハウス等では、季節的な気温の変動を無視して生育環境を一定にすることは困難だし、一定にしようとすれば、膨大なコストがかかってしまい、農業としての経済性を毀損する場合が多いからである。このため、生育環境の温度を生育に適切な温度に制御する場合、空調装置にのみに拠るのではなく、窓を開けて外気を取り込むことで温度の上昇または下降を図り、あるいは日照を利用してハウス内の温度上昇を図るといったことが行なわれる。このため、生育環境の制御は極めて複雑なものになり、従来の技術では、温度や湿度などの生育環境を高精度に予測して目標通りに制御することは困難であった。また、精度が低いまま、生育環境の制御を徒に自動化すると、生育環境が適切な環境範囲から外れてしまい、却って生物の生育を阻害することもあり得た。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0006】
(1)本開示の第1の態様は、生育環境予測装置としての態様である。この生育環境予測装置は、生物を生育する生育施設の内部環境を表わす少なくとも一つの物理量を計測する計測部からの前記計測値の時系列データを取得する計測値データ取得部と、前記生育施設の内部空間に働き掛けて、前記少なくとも一つの物理量を変更する複数種類の変更装置の駆動量の時系列データを取得する駆動量データ取得部と、前記生育施設に対応する対応施設における少なくとも一つの物理量の時系列データと前記対応施設における複数種類の変更装置の駆動量の時系列データとの関係を教師データとした機械学習を行なうことで得られた機械学習済みモデルを用いて、前記生育施設において取得された前記計測値の時系列データと前記駆動量の時系列データとに基づいて、前記少なくとも一つの前記物理量の現時点から所定時間後の値である予測値を予測する予測部と、前記物理量の前記予測値を、利用可能な形態で出力する出力部と、を備える。ここで、前記生育施設に対応する前記対応施設は、前記生育施設および前記生育施設の環境との間で前記機械学習可能な共通性を有する施設の少なくとも一方を含む。
【0007】
(2)本開示第2態様は、生育施設制御システムとしての態様である。この生育施設制御システムは、上記の生育環境予測装置と、前記計測された物理量の内の少なくとも一つと、前記生育環境予測装置から出力された前記物理量の前記予測値とを比較し、両者の差が最も小さい駆動パターンで前記複数の変更装置を駆動する駆動部と、を備える。
【0008】
(3)本開示の第3の態様は、生育環境予測方法としての態様である。この生育環境予測方法は、生物を生育する生育施設の内部環境を表わす少なくとも一つの物理量を計測し、前記生育施設の内部空間に働き掛けて、前記少なくとも一つの物理量を変更する複数種類の変更装置の駆動量の時系列データを取得し、前記生育施設および前記生育施設の環境との間で前記機械学習可能な共通性を有する施設の少なくとも一方を含む対応施設における少なくとも一つの物理量の時系列データと前記施設における複数種類の変更装置の駆動量の時系列データとの関係を教師データとした機械学習を行なうことで得られた機械学習済みモデルを用いて、前記生育施設において取得された前記駆動量の時系列データに基づいて、前記少なくとも一つの前記物理量の現時点から所定時間後の値である予測値を予測し、前記物理量の前記予測値を、利用可能な形態で出力する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態における生育施設制御システムを模式的に示す説明図。
図2】計測ノードの構成を示す説明図。
図3】データテーブルの一例を示す説明図。
図4】制御ノードの構成を示す説明図。
図5A】コマンドテーブルの一例を示す説明図。
図5B】変更装置の駆動状態の推移の一例を示す説明図。
図6】手動制御モード時に端末装置に表示されるユーザインタフェースの一例を示す説明図。
図7】手動制御部の動作を示すフローチャート。
図8】予測なし制御モード時に端末装置に表示されるユーザインタフェースの一例を示す説明図。
図9】予測なし制御部の動作を示すフローチャート。
図10】機械学習済みモデルを準備し、予測あり制御部を構成する工程を示す工程図。
図11】訓練用学習モデルの説明図。
図12】教師データの収集について説明する説明図。
図13】教師付き機械学習の内容を示すフローチャート。
図14】機械学習の一例を示す説明図。
図15】機械学習済みモデルを用いた制御の様子を示す説明図。
図16】予測あり制御部の処理を示すフローチャート。
図17】駆動パターンを決定する仕組みを説明する説明図。
図18】予測なし制御と予測あり制御との制御の様子を示す説明図。
図19】第2実施形態の管理装置の予測あり自動制御部の構成を示すブロック図。
図20】機械学習済みモデルの追加学習の処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
A.第1実施形態:
(A1)生育施設制御システム100の全体構成:
図1は、生育施設制御システム100を模式的に示す説明図である。この生育施設制御システム100には、本開示の生育環境予測装置90が組み込まれている。この生育環境予測装置90は、RNN(回帰型ニューラルネットワーク、Recurrent Neural Network)を用いたものであり、いわゆるAIの技術を利用したものである。この生育環境予測装置90の構成と働きについては、後で詳述する。生育施設制御システム100は、こうした生育環境予測装置90を用いて生育施設200の内部環境を制御する。そこで、まず生育施設制御システム100の構成と各部の働きについて説明する。
【0011】
図1に示したように、生育施設制御システム100は、生物を生育するための生育施設200の内部空間201の環境状態を制御する。生物を生育するとは、野菜や果物などの植物を栽培すること、茸などの菌類を栽培すること、鶏や牛などの動物を飼育すること、および、魚介類や海藻などの水棲生物を養殖することを含む意味である。本実施形態では、生育施設200は、野菜や果物などの植物を栽培するための圃場を内側に有するビニールハウスである。
【0012】
生育施設制御システム100は、上述した生育施設200に加えて、複数種類の変更装置300と、制御ノード301と、複数種類のセンサ400と、計測ノード401と、通信装置500と、管理装置101と、端末装置600と、を備えている。
【0013】
複数種類の変更装置300は、生育施設200の内部空間201に設けられている。複数種類の変更装置300は、それぞれ、内部空間201の環境状態を変更する。本実施形態では、複数種類の変更装置300には、加熱装置310と、冷却装置315と、加湿装置320と、乾燥装置325と、二酸化炭素発生装置330と、換気装置340と、循環装置345と、遮光装置350と、窓開閉装置355と、灌水装置360と、土壌加熱装置365と、が含まれている。上述した各種変更装置310~365は、制御ノード301の制御下で駆動される。制御ノード301の構成については後述する。なお、上述した各種変更装置310~365の一部が、生育施設200の内部空間201ではなく、生育施設200の外部に設けられてもよい。
【0014】
加熱装置310は、生育施設200の内部空間201に熱量を付与する。加熱装置310には、例えば、温風を発生させる暖房を用いることができる。冷却装置315は、生育施設200の内部空間201の熱量を奪う。本実施形態では、加熱装置310は、オンオフ制御によって動作する。冷却装置315には、例えば、生育施設200の内部空間201の熱量を生育施設200の外部に排出するヒートポンプ式の冷房を用いることができる。本実施形態では、冷却装置315は、オンオフ制御によって動作する。なお、加熱装置310と冷却装置315とが1台の空調装置で構成されてもよい。
【0015】
加湿装置320は、生育施設200の内部空間201に水蒸気を付与する。加湿装置320には、例えば、一定の放出量で水蒸気を放出するミスト発生装置を用いることができる。本実施形態では、加湿装置320は、オンオフ制御によって動作する。乾燥装置325は、内部空間201の水蒸気を奪う。乾燥装置325は、例えば、一定の除去量で水蒸気を除去する。本実施形態では、乾燥装置325は、オンオフ制御によって動作する。
【0016】
二酸化炭素発生装置330は、生育施設200の内部空間201に二酸化炭素を付与する。二酸化炭素発生装置330には、例えば、オンオフ制御によって動作し、重油を燃焼させることにより一定の放出量で二酸化炭素を発生させるボイラーを用いることができる。
【0017】
換気装置340は、生育施設200の内部空間201と生育施設200の外部との気体の交換を行なう。換気装置340には、例えば、生育施設200の側壁面に設けられた換気扇を用いることができる。本実施形態では、換気装置340は、オンオフ制御によって動作する。循環装置345は、生育施設200の内部空間201内の気体の循環を図る。循環装置345には、例えば、内部空間201に設けられた循環扇を用いることができる。本実施形態では、循環装置345は、オンオフ制御によって動作する。
【0018】
遮光装置350は、生育施設200の内部空間201への日照の入射量を変更する。遮光装置350は、例えば、生育施設200に設けられた遮光カーテンを開閉する。本実施形態では、遮光装置350は、オンオフ制御によって動作する。
【0019】
窓開閉装置355は、生育施設200に設けられた窓を開閉する。窓開閉装置355は、例えば、天窓の開閉量、および、側窓の開閉量を、それぞれ独立に制御する。開閉量は、全開を6/6、全閉を0/6とし、1/6刻みで制御可能である。なお、窓開閉装置355は、オンオフ制御、つまり天窓等を全開と全閉に制御するものであってもよいし、更に細かく開度を制御できるものであってもよい。
【0020】
灌水装置360は、生育施設200の内部空間201に備えられた培養土に水を供給する。灌水装置360には、例えば、スプリンクラーを用いることができる。本実施形態では、灌水装置360は、オンオフ制御によって動作する。土壌加熱装置365は、生育施設200の内部空間201に備えられた培養土を加熱する。土壌加熱装置365には、例えば、培養土に埋設された電熱線を用いることができる。本実施形態では、土壌加熱装置365は、オンオフ制御によって動作する。
【0021】
生育施設制御システム100は、上述した各種変更装置310~365の全てを備えていなくてもよい。但し、生育施設制御システム100は、上述した各種変更装置310~365のうちの少なくとも二つを備えている。本実施形態では、加熱装置310などは、オンオフ制御するものとして説明したが、これらの装置は、オンの場合に強弱など、2以上の複数の段階に制御できるものであってもよい。各種変更装置310~365について、これらをまとめて扱う場合や、各装置の種類を区別する必要がない場合には、これらを単に変更装置300と呼ぶことがある。
【0022】
複数種類のセンサ400は、生育施設200の内部空間201に設けられている。複数種類のセンサ400は、それぞれ、内部空間201の環境状態を反映する複数種類の物理量を計測するために用いられる。本実施形態では、複数種類のセンサ400には、内部空間201の温度を計測する温度センサ410と、内部空間201の湿度を計測する湿度センサ420と、内部空間201の二酸化炭素濃度を計測する二酸化炭素センサ430と、内部空間201と外部との間で交換される気体の換気量を計測する換気センサ440と、内部空間201内の気体の循環量を計測する循環量センサ445と、内部空間201への日照の入射量を計測する日照センサ450と、内部空間201に備えられた培養土が含有する水分量を計測する土壌水分量センサ460と、内部空間201に備えられた培養土の温度を計測する土壌温度センサ465と、が含まれている。上述した各種センサ410~465によって計測された物理量を表すデータは、計測ノード401に送信される。計測ノード401の構成については後述する。
【0023】
生育施設制御システム100は、上述した各種センサ410~465の全てを備えていなくてもよい。但し、生育施設制御システム100は、上述した各種センサ410~465のうちの少なくとも二つを備えている。生育施設200の周辺には、生育施設200の外部の環境状態を計測するためのセンサが設けられてもよい。例えば、生育施設200の周辺の気温を計測するための温度センサ、生育施設200の周辺の湿度を計測するための湿度センサ、生育施設200の周辺の風向を計測するための風向センサ、生育施設200の周辺の風速を計測するための風速センサが設けられてもよい。アメダスなど、気象状況を集約しているサイトからデータを取得するようにしてもよい。
【0024】
通信装置500は、生育施設200内、あるいは、生育施設200の近傍に配置されている。通信装置500は、管理装置101、制御ノード301、および、計測ノード401と通信可能に構成されている。本実施形態では、通信装置500は、インターネットを介して管理装置101と通信し、通信装置500は、近距離無線通信によって制御ノード301および計測ノード401と通信するように構成されている。もとより、これらの通信は有線・無線を問わないし、その通信プロトコルも、TCP/IPなどに限らず、種々のプロトコルを採用可能である。
【0025】
管理装置101は、生育環境制御システム100を管理する管理会社の管理会社の建物内に配置されている。なお、管理装置101は、生育施設200の近傍に配置されてもよい。管理装置101は、CPU10と、メモリ20と、入出力インタフェース30とを備えるコンピュータで構成されている。なお、管理装置101は、生育施設200の近傍に設けられてもよい。
【0026】
管理装置101は、手動制御部110と、予測なし自動制御部120と、予測あり自動制御部130と、書込部140と、通信部150と、切替部160と、を備えている。管理装置101の具体的な構成については後述する。
【0027】
書込部140は、データテーブル142とコマンドテーブル141とを有している。データテーブル142には、上述した各種センサ410~465によって計測された各種物理量の時系列データが書き込まれる。コマンドテーブル141には、上述した各種変更装置310~365の駆動パターンが書き込まれる。
【0028】
切替部160は、管理装置101の動作モードを切り替える。本実施形態では、管理装置101は、動作モードとして、手動制御モードと、予測なし制御モードと、予測付き制御モードとを有している。手動制御モードは、手動制御部110が書込部140のコマンドテーブル141に駆動パターンを書き込む動作モードである。予測なし制御モードは、予測なし制御部120がコマンドテーブルに駆動パターンを書き込む動作モードである。予測付き制御モードは、予測付き制御部130がコマンドテーブルに駆動パターンを書き込む動作モードである。切替部160は、利用者の求めに応じて、管理装置101の動作モードを、手動制御モード、予測なし制御モード、予測付き制御モードのいずれかに切り替える。
【0029】
端末装置600は、管理装置101と通信可能に構成されている。本実施形態では、端末装置600は、インターネットを介して管理装置101と通信する。端末装置600には、例えば、スマートフォン、タブレット、ノート型PC、あるいは、デスクトップ型PCを用いることができる。端末装置600は、生育施設200にて生物を生育するユーザによって操作される。
【0030】
図2は、計測ノード401の構成を示す説明図である。計測ノード401は、CPU402と、メモリ403と、入出力インタフェース404とを備えるコンピュータで構成されている。計測ノード401には、上述した各種センサ410~465が接続されている。計測ノード401のCPU402は、各種センサ410~465から物理量のデータを取得し、メモリ403に記憶させる。メモリ403は、例えば、リングバッファを有しており、各種センサ410~465から取得された最新のデータは、リングバッファに記憶されている最古のデータに上書きされる。CPU402は、例えば、5分間隔などの所定の時間間隔で、メモリ403に記憶されたデータを、通信装置500を介して管理装置101に送信する。この時間間隔は、リングバッファに記憶されているデータが管理装置101に送信される前に上書きされない間隔に設定される。管理装置101に送信されたデータは、書込部140のデータテーブル142に書き込まれる。
【0031】
図3は、データテーブル142の一例を示す説明図である。データテーブル142には、計測ノード401から送信されたデータが書き込まれる。図3に示すように、データテーブル142には、図3には、左から順に、各種センサ410~465によって物理量が計測された時刻、温度センサ410によって計測された温度、湿度センサ420によって計測された湿度、土壌温度センサ465によって計測された地温、および、二酸化炭素センサ430によって計測された二酸化炭素濃度が表されている。湿度センサ420によって計測された湿度は、相対湿度で表されている。二酸化炭素センサ430によって計測された二酸化炭素濃度は、百万分率(ppm)で表されている。データテーブル142には、最上段が最新のデータになるように、時系列に沿って、物理量のデータが表されている。なお、本実施形態では、データテーブル142に一旦書き込まれた情報は、管理装置101内の各制御部110,120,130のいずれからも読み出すことができ、また、利用者は端末装置600を用いていつでも閲覧できる。
【0032】
図4は、制御ノード301の構成を示す説明図である。制御ノード301は、CPU302と、メモリ303と、入出力インタフェース304とを備えるコンピュータで構成されている。制御ノード301には、上述した各種変更装置310~365が接続されている。制御ノード301は、例えば、1分間隔などの所定の時間間隔で、通信装置500を介して、書込部140のコマンドテーブル141を参照し、コマンドテーブル141に書き込まれている駆動パターンに従って、各種変更装置310~365を動作させる。
【0033】
図5Aは、コマンドテーブル141の一例を示す説明図である。図5Aに示した例では、コマンドテーブル141には、左から順に、制御番号、制御機器、制御フラグ、制御種別、制御時刻を書き込む欄が設けられている。制御番号の欄には、制御IDが書き込まれる。制御機器の欄には、生育施設200の名称、および、管理装置101の管理下で制御される各種変更装置300の名称が書き込まれる。この例では、「ハウス2」という名称の生育施設200に設けられた加熱装置310と換気装置340とが管理装置101の管理下で制御される。
【0034】
制御フラグの欄には、各種変更装置300の駆動パターンが書き込まれる。この例では、加熱装置310と換気装置350との駆動パターンが2桁の数字で表されている。数字の1桁目は、加熱装置310のオンオフを表しており、数字の2桁目は、換気装置350のオンオフを表している。オンオフは、「1」と「0」とで表されており、「1」がオンを意味しており、「0」がオフを意味している。
【0035】
制御種別の欄には、手動制御部110と予測なし制御部120と予測あり制御部130とのうちのいずれによってコマンドテーブル141に駆動パターンの書き込みが実行されたかが表される。この例では、手動制御部110によって駆動パターンが書き込まれた場合には「A」と表されており、予測なし制御部120によって駆動パターンが書き込まれた場合には「B」と表されており、予測あり制御部130によって駆動パターンが書き込まれた場合には「C」と表されている。制御時刻の欄には、コマンドテーブル141への駆動パターンの書き込みが実行された時刻が表示される。コマンドテーブル141には、例えば、5分間隔などの所定の時間間隔で、各種変更装置300の駆動パターンが書き込まれる。なお、本実施形態では、コマンドテーブル141に一旦書き込まれた情報は、管理装置101内の各制御部110,120,130のいずれからも読み出すことができ、また、利用者は端末装置600を用いていつでも閲覧することができる。
【0036】
図5Bは、各変更装置300の駆動状態の推移の一例を示す説明図である。図には、左から順に、時刻と、加熱装置310のオンオフと、二酸化炭素発生装置330のオンオフと、窓開閉装置355によって開閉される天窓と側窓の開閉量とが表されている。制御ノード301は、コマンドテーブル141を参照することで、最新の駆動パターンに従って、各種変更装置300を制御する。そのため、コマンドテーブル141に新たに書き込まれた駆動パターンが従前の駆動パターンから変更された場合に、制御ノード301によって各種変更装置300の駆動状態が変更される。書込部140は、管理装置101内の各制御部110,120,130がコマンドテーブル141の各欄に書き込んだコマンドを、図5Bの形態に整理し、現在の駆動パターンとして保持しているので、管理装置101内の各制御部110,120,130は、これを読み出すことにより、現在の駆動パターンを知ることができる。
【0037】
(A2)手動制御および予測なし制御の概要:
図6は、手動制御モード時に端末装置600に表示されるユーザインタフェースUI1の一例を示す説明図である。ユーザインタフェースUI1には、動作モード選択領域R1と、計測値表示領域R2と、駆動状態選択領域R3とが設けられている。動作モード選択領域R1には、動作モードを切り替えるためのボタンが設けられている。計測値表示領域R2には、各種センサ410~465によって計測された計測値が表示される。図6に示した例では、計測値表示領域R2には、上から順に、温度センサ410によって計測された温度と、湿度センサ420によって計測された湿度と、土壌温度センサ465によって計測された温度と、二酸化炭素センサ430によって計測された二酸化炭素濃度とが表されている。駆動状態選択領域R3には、各種変更装置310~365の駆動状態を切り替えるためのボタンが設けられている。図6に示した例では、駆動状態選択領域R3には、上から順に、加熱装置310のオンオフを選択するためのボタンと、二酸化炭素発生装置330のオンオフを選択するためのボタンと、換気装置340の天窓および側窓の開度を選択するためのボタンとが表されている。
【0038】
次に、手動制御部110の動作について説明する。手動制御部110は、既に説明した様に、メモリ20に記憶された手動制御用のプログラムをCPU10が実行することにより、実現される。図7は、CPU10が実行する処理内容を示すフローチャートである。この処理は、管理装置101が手動制御モードで動作している場合に、例えば、5分間隔などの所定の時間間隔で、繰り返し実行され、手動制御部110としての機能を実現する。まず、ステップS110にて、手動制御部110は、ユーザによって端末装置600に入力された駆動パターンを取得する。ステップS120にて、手動制御部110は、各種変更装置310~365の駆動パターンをコマンドテーブル141に書き込む。その後、手動制御部110は、この処理を終了する。管理装置101の動作モードが予測なし制御モードあるいは予測付き制御モードに切り替えられるまで、手動制御部110は、この処理を繰り返し実行する。
【0039】
図8は、予測なし制御モード時に端末装置600に表示されるユーザインタフェースUI2の一例を示す説明図である。ユーザインタフェースUI2には、動作モード選択領域R1と、計測値表示領域R2と、目標値入力領域R4と、駆動状態表示領域R5とが設けられている。動作モード選択領域R1および計測値表示領域R2の構成は、手動制御モード時のユーザインタフェースUI1における動作モード選択領域R1および計測値表示領域R2と同様である。目標値選択領域R4は、各物理量の目標値を入力する欄が設けられている。図8に示した例では、目標値入力領域R4には、上から順に、温度センサ410によって計測される温度の目標値と、湿度センサ420によって計測される湿度の目標値と、土壌温度センサ465によって計測される温度の目標値と、二酸化炭素センサ430によって計測される二酸化炭素濃度の目標値とが表されている。駆動状態表示領域R5には、各種変更装置310~365の駆動状態が表示される。
【0040】
次に、予測なし制御部120の動作について説明する。予測なし制御部120は、既に説明した様に、メモリ20に記憶された予測なし制御用のプログラムをCPU10が実行することにより、実現される。図9は、CPU10が実行する処理内容を示すフローチャートである。この処理は、管理装置101が予測なし制御モードで動作している場合に、例えば、5分間隔などの所定の時間間隔で、繰り返し実行され、予測なし制御部120としての機能を実現する。まず、ステップ210にて、予測なし制御部120は、端末装置600によって入力された各種物理量の目標値を取得する。次に、ステップS220にて、予測なし制御部120は、各種物理量の計測値を取得する。本実施形態では、予測なし制御部は、データテーブル142を参照することによって、各種物理量の計測値を取得する。
【0041】
ステップS230にて、予測なし制御部120は、各種物理量の目標値と計測値とを比較して、各種変更装置310~365の駆動パターンを決定する。予測なし制御部120は、例えば、温度の目標値と計測値とを比較して加熱装置310のオンオフを決定し、湿度の目標値と計測値とを比較して加湿装置320のオンオフを決定し、二酸化炭素濃度の目標値と計測値とを比較して二酸化炭素発生装置330のオンオフを決定する。ステップS240にて、予測なし制御部120は、コマンドテーブル141に駆動パターンを書き込む。その後、予測なし制御部120は、この処理を終了する。管理装置101の動作モードが手動制御モードあるいは予測付き制御モードに切り替えられるまで、予測なし制御部120は、この処理を繰り返し実行する。
【0042】
(A3)予測あり制御の概要:
次に、予測あり自動制御部130の構成と働きについて説明する。予測あり自動制御部130は、既に説明した様に、メモリ20に記憶された予測あり制御用のプログラムをCPU10が実行することにより実現される。フローチャートを用いたCPU10の処理については、後述する。予測あり自動制御部130は、生育施設200における各種変更装置310~365の過去の駆動量と、各種計測部400が測定している温度などの物理量の計測値とから、将来の内部環境を予測して、各種変更装置310~365の駆動量の制御を行なう。こうした処理において、生育施設200の将来の内部環境を予測する部分を、生育環境予測装置90と呼ぶ。
【0043】
予測に用いてる各種変更装置310~365の駆動量とは、
(A)各種変更装置310~365のオンオフ、
(B)オンの場合のパワー、
(C)窓開閉装置355のように開閉量が調整可能な場合は調整量、
等を含む。各種変更装置310~365のこれらの駆動量の組合わせを、以下、駆動パターンと呼ぶ。この予測あり自動制御部130は、内部にニューラルネットワークを用いた機械学習済みモデルを持ち、この機械学習済みモデルにより、2以上の変更装置300を複数の駆動パターンで駆動した場合の現在時点から所定時間後(本実施形態では5分後)の生育施設200の内部空間201の温度などの物理量を、駆動パターン毎に予測する。その上で、予測した物理量が目標値に最も近くなる駆動パターンで、各種変更装置310~365を駆動する。
【0044】
予測あり自動制御部130は、その動作のために、機械学習済みモデルを必要とするため、予め機械学習を行なうことが必要になる。そこで、予測あり自動制御部130としての機能を実現するために必要となる工程について、図10を用いて説明する。
【0045】
まず、訓練用学習モデルTTMを準備し(工程T1)、更に教師データTDを準備する(工程T2)。予測を可能とする訓練用学習モデルTTMの一例を、図11に示した。本実施形態の訓練用学習モデルTTMに対して、後述する教師データを用いた機械学習を行なわせることで、機械学習済みモデル701が生成される。一旦学習が行なわれて、機械学習済みモデル701が得られれば、この機械学習済みモデル701に過去の駆動パターンおよび計測値の時系列データを入力し、これと、その時点での駆動パターンとから、所定時間後の物理量を予測することが可能となる。本実施形態での以下の説明では、時系列データ等は5分毎のデータであり、予測される物理量は、計測部400の温度センサ410が検出する生育施設200内の温度の推定値Tmである。同一の訓練用学習モデルTTMを用いても、学習の結果得られるものは、その予測結果が異なる。このため、教師付きの機械学習が終わったものは、機械学習済みモデル701として、訓練用学習モデルTTMとは区別する。
【0046】
訓練用学習モデルTTMは、内部に複数層のニューラルネットワークを備える。ニューラルネットワークの入力側は、RNN(回帰型ニューラルネットワーク、Recurrent Neural Network)として構成されている。RNNは、図示するように、入力層LR1と中間層LR2と出力層LR3とを備え、中間層LR2が自己回帰構造を備える。自己回帰構造とは、時系列的に読み込まれるデータを、一度処理した後、時間的に後続する次のデータの入力の際に、回帰的に再入力して処理するニューラルネットワークである。訓練用学習モデルTTMの後半は、RNNからの出力および実際の駆動パターンから、その駆動パターンで制御された場合の5分後の温度Thsを予測する2層以上の処理層LL1~LLnを備える。ニューラルネットワークは、RNNの各層LR1、LR2、LR3、および後段のLL1~LLnに複数のノードを備え、隣接する層のノードとの間に重み付けされたリンクを備える。「学習済み」とはこの重み付けの設定が完了した状態を意味する。
【0047】
この訓練用学習モデルTTMに学習させるデータを教師データTDと呼ぶ。教師付きとは、そのデータを用いて学習させる際の結果をラベルとして備えるからである。教師付きの機械学習のための教師データは、過去の駆動パターンおよび計測値の時系列データと、次の駆動パターンのデータと、これらのデータに対応するラベルである所定時間後の実際の温度のデータTnとを含む。機械学習は、こうした教師データを多数用意し、各教師データを訓練用学習モデルTTMに入力した際、最終的な出力層LLnの出力ノードop1の出力値Tmが、実際の温度のデータTnと一致する様に、各層間の重み付けの設定を繰り返すことを言う。一般に、処理層LLnの出力ノードop1に現われる値は、値0~値1の間に正規化される。従って、教師データTDに含まれる温度のデータTnが、例えば18℃~30℃の範囲にあるとした場合、教師データTDに含まれる温度のデータTnが18℃であれば、出力ノードop1が値0となり、教師データTDに含まれる温度のデータTnが30℃であれば、出力ノードop1が値1となるように、各層間の重み付けが設定される。これが、訓練用学習モデルTTMの学習処理(工程3)である。
【0048】
学習用の教師データTDは、既設の生育施設において、実際に行なわれた制御のデータを用いる。図12は、既存の生育施設からのデータを取得する管理装置101が教師データTDを用意する様子を示す説明図である。図示するように、予測あり自動制御部130を備えるか否かを問わず、管理装置101には、地区Aに設置された複数の生育施設202~207と、地区Bに設置された生育施設212~217が接続されており、各生育施設202~217の内部環境の制御が行なわれている。このため、管理装置101には、複数の生育施設202~217からの駆動パターンと計測値の5分おきのデータである時系列データが収集されている。管理装置101は、この時系列データを用いて、手動制御または予測なし自動制御120を行なっており、時系列データを取得・記憶する。この時系列データは、管理装置101に接続されたサーバ700に集められ、ここで教師データTDとして集約され、記憶装置710に記憶される。なお、管理装置101は、各生育施設毎に設けられていてもよい。この場合には、サーバ700は、複数の管理装置から時系列データを集めるように構成すればよい。
【0049】
記憶装置710に用意された教師データTDは、訓練用学習モデルTTMの学習に用いられる。ここで学習されるのは、制御の対象である生育施設200用の学習モデルである。図示したように、新設する生育施設200とは別に既設の生育施設202~217が存在する。これら既設の生育施設202~217は、新たな生育施設200と同じ地域Aに存在する場合もあるし、異なる地域Bに存在する場合もある。本実施形態では、新たな生育施設200と同じ地域Aに存在する生育施設202~207における制御のデータを教師データTDとして利用する。もとより他の地区Bの生育施設212~217からのデータを併せて用いることも可能である。また、生育施設200が既設であり、従来、手動制御部110および予測なし自動制御120による制御を行なっており、新たに予測あり自動制御部130を導入する場合には、生育施設200について記憶装置710に記憶した時系列データのみを、教師データTDとして用いてもよい。
【0050】
訓練用学習モデルTTMと教師データTDとを準備した上で行なう教師付きの機械学習処理(工程T3)の詳細を、図13のフローチャートに示した。このフローチャートに基づいて、教師付きの機械学習処理について説明する。この機械学習は、管理装置101とは異なるサーバ700に設けられた専用のコンピュータにより行なわれる。
【0051】
訓練用学習モデルTTMは、学習が行なわれる前は、各層のノード間の接続に設定された重み付けは均一の値、またはランダムな値とされている。図13に示した処理が開始されると、予め記憶装置710に準備された教師データTDを取得する処理を行なう(ステップS500)。上述したように、この処理を開始するまでに、地域Aに存在する実際の複数の生育施設202等から取得された時系列データが教師データTDとして収集されている。教師データTDは駆動パターンと計測値とを含む時系列データである。本実施形態では、駆動パターンとしては、各種変更装置310~365の駆動量の組合わせであり、計測値は、温度、湿度、CO2濃度など、計測部400によって計測している全計測値である。
【0052】
この教師データTDを取得すると、続いて、訓練用学習モデルTTMを用いた機械学習処理(ステップS510)を、汎化が完了するまで(ステップS520)行なう。訓練用学習モデルTTMに対して教師データTDを与えて機械学習をすることにより、機械学習済みモデル701が生成されるので、最後にこれを生育施設200用の機械学習済みモデルとして保存する(ステップS530)。保存された機械学習済みモデル701は、ネットワークを介してあるいは直接的に、生育施設制御システム100の管理装置101のメモリ20内に、予測あり自動制御部130から参照可能に保存される。
【0053】
以上のようにして、全ての教師データTDに対して、既定回数の重み付けの修正が行われると、訓練用学習モデルTTMの汎化が完了したか否かを判定する(ステップS520)。すなわち、教師データTDを用いて訓練用学習モデルTTMの入力と出力とが一致している度合いを取得し、一致していない度合い、つまり教師データと訓練用学習モデルTTMの出力との誤差を誤差関数を用いて評価し、誤差が予め定めた閾値未満である場合には汎化が完了したと判定する。
【0054】
汎化が完了したと判断されなければ、機械学習処理(ステップS510)が繰り返される。つまり、さらに重みを修正する処理が行なわれ、誤差関数を用いた学習誤差の演算と評価が繰り返される。汎化が完了したと判断されると、学習済みの機械学習済みモデル701が生成される。この機械学習済みモデル701を、管理装置101のメモリ20に保存することで(ステップS530)、予測あり自動制御部130が構成される(工程T4)。以上で、機械学習済みモデル701が生成され、予測あり自動制御部130が構成される。
【0055】
図11に示した訓練用学習モデルTTMを用いた機械学習の一例を、図14に示す。図示するように、訓練用学習モデルTTMに時系列データを順次読み込ませる。図では、25分前のデータDp25~着目時間Dp0までの時系列データを示している。時間tがマイナス符号「-」付きで示されているのは、着目時間(t=0)から遡った時間であることを示す。また、時系列データDp25~Dp0には、計測ノード401により計測されて保存されたその時間の各種計測値DS25~DS0、例えば生育施設200の内部空間201の温度や湿度などと、制御ノード301により駆動される各種変更装置300、例えば加熱装置310や二酸化炭素発生装置330などの動作状態を示す駆動パターンデータDD25~DD0が含まれる。なお、図では、加熱装置310を「暖房」として示した。天窓や側窓は、窓開閉装置355により天窓や側窓が開閉される割合を、1/6や、4/6として示す。
【0056】
学習の際には、訓練用学習モデルTTMに5分毎の時系列データDp25~Dp0を順次入力し、更に、次の駆動パターンデータDf5とその駆動パターンデータDf5で制御した5分後の気温が21℃であったという結果をラベルとするデータを入力する。これらの入力を受けて、最終的な出力ノードop1に21℃に対応する値が出力されるように、訓練用学習モデルTTM内部のRNNおよび処理層LL1~LLnの各処理層間の重み付けを学習する。
【0057】
以上の学習処理を行なうことで、機械学習済みモデル701が生成される。予測あり自動制御部130には、この機械学習済みモデル701が保存されている。そこで、次にこの機械学習済みモデル701を用いた予測あり自動制御部130の動作について説明する。図15は、機械学習済みモデルを用いた生育環境予測装置90の概略構成を示す説明図である。この図は、機械学習の様子を示した図14と類似しているが、用いられるのは、訓練用学習モデルTTMではなく機械学習済みモデル701である。この機械学習済みモデル701は、既に説明した学習を済ませているので、時系列データDp25~Dp0を順次入力した段階で、次の駆動パターンデータDPDの一つを入力すると、5分後の生育施設200の内部空間201の予測温度Tmを出力ノードop1から出力する。なお、出力ノードop1の出力値を予測温度Tmに換算して読み取るとき、制御に見合った精度で読み取ればよく、例えば1℃刻みで予測するものとしてもよく、0.1℃刻みで読み取ってもよい。あるいは制御に支障がなければ、2℃刻みなどの粗い刻みで読み取ってもよい。
【0058】
管理装置101のCPU10は、図16に示す処理を実行することで、この機械学習済みモデル701を用いた生育環境予測装置90によって、生育施設200の内部環境の一つとして、内部空間201の5分後の温度を予測する。更に、管理装置101はこの予測値を用いて、各種変更装置310~365の駆動パターンを決定する。図16は、予測あり制御部の処理を示すフローチャートであり、この処理は5分毎に実行される。処理が開始されると、まず目標値Ttを取得する(ステップS700)。ここで目標値は、内部空間201の5分後の温度である。目標値Ttは、図8に例示したように、端末装置600に表示された各種計測値の目標値の一つである。なお、予測あり自動制御部130では同時2種類以上の物理量を目標値として扱えるが、ここでは、説明の便を図って、単一の物理量として温度を取り上げ、内部空間201の温度を目標値Ttに制御するものとして。以下説明する。複数種類の物理量を目標値に制御する場合には、各物理量毎に機械学習済みモデルを用意し、それらの出力を結合する結合層を設けて、制御すればよい。
【0059】
生育施設200の内部空間201の温度を目標値Ttとして取得した後、次の直近の時系列データDp0を取得する(ステップS710)。時系列データDp0は、既に説明した様に、計測ノード401により計測されて保存されたその時間の各種計測値DS0、例えば生育施設200の内部空間201の温度や湿度などのデータと、制御ノード301により駆動される各種変更装置300、例えば加熱装置310や二酸化炭素発生装置330などの動作状態を示す駆動パターンデータDD0が含まれる。これらのデータは、メモリ20に用意されたコマンドテーブル141とデータテーブル142を読み取ることにより取得できる。この時系列データDp0を機械学習済みモデル701のRNNに入力し(ステップS720)、その後、5分後の温度を推定する処理(ステップS730~S750)を繰り返し実行する。
【0060】
温度の推定を行なう繰り返しの処理(RPTs~RPTe)は、駆動パターンを読み込む処理(ステップS730)、推定値Tnを取得する処理(ステップS740)、推定値を記憶する処理(ステップS750)からなる。温度の推定処理では、これらの処理を、駆動パターンの全てを尽くすまで繰り返す。駆動パターンとは、各種変更装置300に含まれる各装置のオンオフや駆動量の組み合わせである。図15には、パターン1として、パターンの一部であるが、加熱装置310をOFF(暖房しない)とし、二酸化炭素発生装置330をOFF、遮光装置350により天窓を全閉(0/6)かつ側窓を2/6だけ開いた、という組み合わせを示した。図では、パターン1~4の4つを示したが、全ての組合わせを駆動パターンとして用意し、各駆動パターンでの内部空間201の温度を推定する。なお、駆動パターンの全ての組み合わせに代えて、実際に温度を制御する場合に影響を与える各種変更装置310~365の動作状態の組み合わせだけを駆動パターンとして取り上げてもよいし、教師付き学習の際に学習の対象とした組み合わせだけを駆動パターンとして取り上げてもよい。
【0061】
全ての駆動パターンを読み込んで(ステップS730)、温度の推定値Tnを求め(ステップS740)、これを記憶する(ステップS750)。この結果、駆動パターンがn個あれば、n個の推定値T1、T2、・・・Tnがメモリ20に記憶される。全ての駆動パターンについての上記処理が完了すると、次に、得られた推定値Tnの内で、目標値Ttに最も近い推定値を探し、その推定値Tnに対応する駆動パターンを選択する(ステップS760)。この様子を、図17に示した。この例では、目標値Ttを21℃としている。駆動パターンテーブルDPDに含まれる駆動パターン1から順に機械学習済みモデル701に入力して、温度の推定値を取得し記憶する。温度の推定値を記憶した推定結果テーブルRSTには、駆動パターン毎の推定温度が記憶されているから、これと目標温度Tt(21℃)とを突き合わせることで、駆動パターン4が選択される。この結果を受けて、予測あり自動制御部130は、その駆動パターン(この例では駆動パターン4)で各種変更装置310~365を駆動する(ステップS770)。実際の各種変更装置300の駆動制御は、既に説明した様に、コマンドテーブル141に各種変更装置310~365のオンオフや駆動量を書き込むことにより実現される。
【0062】
以上説明した第1実施形態の生育環境予測装置90によれば、植物などを生育する生育施設200の内部環境を、過去の時系列データから精度良く予測し、この予測値に対応する各種変更装置310~365の駆動パターンを選択して、これらを駆動することで、生育施設200の内部空間201の温度を安定に制御することができる。予測なし自動制御120による制御と予測あり自動制御部130による制御の一例を、図18に例示した。図において、破線TG1は目標温度Ttを示し、実線J1は予測なし自動制御120による制御例を示し、二点鎖線B1は予測あり自動制御部130による制御の想定例を示す。図示するように、目標温度Ttが一定の場合には、予測なし自動制御120による制御でも、内部空間201の温度は一定の範囲に入っているが、目標温度Ttが変化すると、予測なし自動制御120による制御では、内部空間201の温度がハンチングを繰り返すといった挙動が見られる場合があった。他方、生育環境予測装置90を組み込んだ予測あり自動制御部130による制御では、シミュレーションによる想定結果である二点鎖線B1として示したように、目標温度に対して大きなオーバシュートやアンダシュートなしで追従できるものと想定できる。この結果は、予測あり自動制御部130に組み込まれた生育環境予測装置90による所定時間後の物理量(ここでは、5分後の内部空間201の温度)の予測の精度が高いことを示していると言える。
【0063】
B.第2実施形態:
次に本開示の第2実施形態について説明する。第2実施形態の生育環境予測装置90Bは、第1実施形態の生育環境予測装置90と比べて、追加学習の仕組みを有する点で異なり、他はほぼ同様の構成を備える。第2実施形態の生育環境予測装置90Bの要部を、図19に示す。図示するように、第2実施形態における管理装置101や予測あり自動制御部130は、第1実施形態と変わる所はない。第2実施形態の生育環境予測装置90Bは、予測あり自動制御部130が用いる機械学習済みモデル701を更新する更新装置900を備える点で、第1実施形態と相違する。
【0064】
生育環境予測装置90Bの更新装置900は、追加学習用の教師データATDを記憶する追加データ蓄積部910と、追加学習を行なう追加学習部920とを備える。追加データ蓄積部910は、追加学習部920指示を受けて、管理装置101のメモリ20のコマンドテーブル141やデータテーブル142から追加学習に必要な時系列データを取得する。追加学習部920は、追加学習の処理を行なう。
【0065】
図20は、追加学習部920が実行する追加学習処理を示すフローチャートである。この処理は、管理装置101とはネットワークNWを介して接続された更新装置900において実行される。更新装置900はこの処理を実行する際、内部に現在管理装置101において用いられている学習済みモデル701と同じものを保存している。追加学習は、本実施形態では、1日に1回行なわれ、現在管理装置101で用いられる機械学習済みモデル701を更新する。つまり、追加学習が行なわれる前には、前日更新された機械学習済みモデル701が、更新装置900に保存されており、追加学習が行なわれて内容が刷新された追加学習済みの機械学習済みモデル701は、管理装置101にコピーされるが、同じものが更新装置900に残されており、翌日の追加学習の際には、この機械学習済みモデル701が用いられる。こうして次第に機械学習済みモデル701は学習が重ねられることになる。
【0066】
更新装置900の図示しないCPUは、図20に示した処理を、所定時間毎、例えば5分毎に実行する。処理が開始されると、まず処理のタイミングについて判定する(ステップS800)。処理のタイミングとは、追加学習を行なうタイミングか、駆動量および計測値のデータの取得・蓄積を行なうタイミングか、のいずれかである。追加学習は一日に1回、例えば生育施設200の外気温が安定する夜間の予め定めたタイミングで行なわれる。これ以外のタイミングであれば、ステップS810に移行し、ネットワークNWを介して、管理装置101のメモリ20から駆動量と計測値のデータを取得する処理を行なう(ステップS810)。続いて、このデータを追加学習用の時系列データとして、追加データ蓄積部910に保存する処理を行なう(ステップS815)。このとき、追加学習部920は、取得したデータを追加学習用における教師データATDとして、ラベル付与などの整形を併せて行なう。以上の処理の後、「RTN」に抜けて、本処理ルーチンを一旦終了する。
【0067】
管理装置においても本実施形態では、5分毎に各種変更装置310~365を駆動する処理が行なわれ、コマンドテーブル141やデータテーブル142が書き換えられていくから、一日が経過すると、
(60分÷5分)×24時間=12×24=288
個の時系列データが、追加学習用の教師データATDとして、追加データ蓄積部910に用意されることになる。
【0068】
そこで、ステップS800の判断において、追加学習のタイミングであると判断されると、次に追加学習処理を行なう(ステップS820)。追加学習処理は、既に図10図14を用いて説明した学習処理と同様の処理である。図10図14を用いて説明した学習処理では、学習の対象は訓練用学習モデルTTMを用いて学習したが、追加学習処理では、既に一度学習された機械学習済みモデル701を対象として学習を行なう。こうした学習済みのモデルの学習は、再学習と呼ぶこともある。いずれにせよ、最新のデータに基づいて用意された追加学習用の教師データATDを用いて、機械学習済みモデル701の各処理層間の結合の重み付けを修正する。追加学習(ステップS820)が終了したら、ネットワークNWを介して、予測あり自動制御部130に作動停止をリクエストする(ステップS830)。
【0069】
このリクエストを受けると、予測あり自動制御部130は動作を停止する。この場合、生育施設200の内部環境の制御は、予測なし自動制御120が行なうものとすればよい。予測あり自動制御部130の動作をネットワークNWを介して監視し、停止したと判断すれば(ステップS840:「YES」)、追加学習が行なわれた機械学習済みモデル701をネットワークNWを介して、予測あり自動制御部130に送信し、予測あり自動制御部130に内蔵された機械学習済みモデル701を更新する(ステップS850)。その後、「RTN」に抜けて、本処理ルーチンを終了する。
【0070】
こうして機械学習済みモデル701が更新されると、その後、予測あり自動制御部130は制御可能な状態に復し、必要に応じて、生育施設200の内部空間201の各物理量の制御を担う。
【0071】
以上説明した第2実施形態の生育環境予測装置90Bでは、一日に行なわれた制御に基づいて機械学習済みモデル701を追加で学習する追加の教師データATDを用意し、追加学習を行なうので、機械学習済みモデル701が日々更新され、生育施設200が設置された場所毎に異なる外部環境に適合した制御が可能となる。図12に示したように、内部環境の予測と制御を行なおうとする生育施設200が特定の地域Aに設置されており、生育施設200において生育環境予測装置90Bによる予測と予測あり自動制御部130による制御が行なわれる前に存在した生育施設202~207からの時系列データを利用して、訓練用学習モデルTTMを学習したとしても、生育施設202~207は生育施設200と同一ではあり得ない。設置場所が違えば、外気温や日照、風量などの条件はもとより、内部空間201の大きさや、各種変更装置300の効率、内部空間201における設置場所なども異なる。従って、実際に制御の対象となる生育施設200において取得された時系列データに基づいて用意された教師データATDを用いて追加学習を行なうことにより、予測精度の向上を図り、延いては制御の高精度化や安定化を図ることが可能となる。
【0072】
本実施形態では、追加学習は、教師データATDをまとめて保存しておき、一日に一度のタイミングで行なうものとしたが、管理装置101による制御が行なわれて新たな時系列データが得られたタイミングで逐次行なうようにしてもよい。また、一週間や一か月など、長期間毎に追加学習を行なうようにしたり、手動で、追加学習の指示を受けて追加学習するようにしたりしても良い。また、管理装置101のCPU10や付設したGPUなどの性能が高ければ、追加学習を管理装置101内で行なうようにしてもよい。追加学習に代えて、訓練用学習モデルTTMを学習して、別の機械学習済みモデルを生成し、これと既設の機械学習済みモデル701とを連結して予測させるようにしてもよい。
【0073】
C.他の実施形態:
(1)本開示の他の実施形態の一つは、生物を生育する生育施設の内部環境を表わす少なくとも一つの物理量を計測する計測部からの計測値の時系列データを取得する計測値データ取得部と、前記生育施設の内部空間に働き掛けて、前記内部環境を変更する複数種類の変更装置の駆動量の時系列データを取得する駆動量データ取得部と、前記生育施設に対応する施設における少なくとも一つの物理量の時系列データと前記施設における複数種類の変更装置の駆動量の時系列データとの関係を教師データとした機械学習を行なうことで得られた機械学習済みモデルを用いて、前記生育施設において取得された前記計測値の時系列データと前記駆動量の時系列データとに基づいて、前記少なくとも一つの前記物理量の現時点から所定時間後の値である予測値を予測する予測部と、前記物理量の前記予測値を、利用可能な形態で出力する出力部とを備える。こうすれば、生育施設のように外部環境と接しており、内部空間の環境を予測しがたいものであっても、少なくとも一つの前記物理量の現時点から所定時間後の値である予測値を予測でき、これを表示や制御に利用できる。
【0074】
こうした生育環境予測装置は、農業や林業、漁業、更には畜産業などの分野で利用できる。対象となる生育施設としては、野菜や茸類の栽培や繁殖を行なうビニールハウス、魚類・甲殻類・貝類の養殖を行なう生け簀、鶏の飼育や採卵などを行なう大規模施設などがある。生育施設に対応する施設は、その生育施設そのものでもよいし、予測の対象となる生育施設とは別の生育施設でもよい。他の生育施設は、予測の対象となる生育施設と、環境に共通点を有する地域に存在するものであれば、初期の機械学習の結果が近いものとなり、好ましいが、多数の教師データで学習を行なうという観点や、汎用性の高い機械学習済みモデルを利用するという観点では、共通性は低くても差し支えない。
【0075】
生育施設の内部環境を表わす少なくとも一つの物理量としては、温度、湿度、気圧、日射量など、種々のものを想定できる。また、内部環境を表わしていれば、計測部としてはどのようなセンサでもよい。こうした物理量は2以上であってもよい。この場合、複数の物理量の組合わせを予測することになり、複数の物理量の組み合わせの数を扱えるだけの大きさを備えた訓練用学習モデルを用意するか、各物理量毎に訓練用学習モデルを用意して、各訓練用学習モデルの出力層を結合して両者の予測値を出力する最終層を用意するなどの対応をとることができる。
【0076】
内部環境を変更する複数種類の変更装置の駆動量としては、単純なオンオフに対応した駆動量や、多段階あるいは無段階に調整できる駆動量などがあり得る。駆動量は、オンオフといったステータスとして把握してもよいし、駆動時間として把握してもよいし、変更装置が駆動した総エネルギなどにより把握してもよい。全開から全閉までを、何等分かして、つまり全駆動量に対する割合として把握してもよい。
【0077】
(2)こうした構成において、前記機械学習済みモデルは、訓練用モデルに前記機械学習を行なったものであり、前記訓練用モデルは、回帰型ニューラルネットワーク(RNN)を備えるものとしてもよい。こうすれば、時系列データの処理が容易になる。もとより時系列データを個々に扱うニューラルネットワークを用意し、これらを統合する出力層を設けた構成を採用してもよい。
【0078】
(3)こうした上記(1)や(2)の構成において、前記訓練用モデルは、前記回帰型ニューラルネットワークの後段に、ディープラーニングを行なう複数層のニューラルネットワークを備えるものとしてよい。こうすれば、回帰型ニューラルネットワークの後段に設けられた複数層のニューラルネットワークをディープラーニングさせることで、生育施設における駆動量の時系列データに基づいて、少なくとも一つの物理量の現時点から所定時間後の値である予測値を予測するための学習が容易となる。
【0079】
(4)こうした上記(1)~(3)の構成において、前記回帰型ニューラルネットワークには、前記生育施設に対応する施設における少なくとも一つの物理量の時系列データと前記施設における複数種類の変更装置の駆動量の時系列データとを入力し、前記複数層のニューラルネットワークには、前記回帰型ニューラルネットワークの出力と、前記生育施設に対応する施設における前記複数種類の前記変更装置の次の駆動量とを入力し、前記次の駆動量に対応する前記少なくとも一つの物理量をラベルとして、前記訓練用モデルの学習を行なって、得られた機械学習済みモデルを用いて、前記予測値の予測を行なうものとしてよい。こうすれば、生育施設対応する施設における時系列データと生育施設に対応する施設における複数種類の変更装置の次の駆動量とに基づいて予測を行なう機械学習済みモデルを生成でき、この機械学習済みモデルを用いた予測の精度を高めることができる。訓練用学習モデルの回帰型ニューラルネットワークの入力層のノードの数を増やして、複数種類の変更装置の次の駆動量も、他の時系列データと共に、回帰型ニューラルネットワークに入力するようにしてもよい。
【0080】
(5)こうした上記(1)~(4)の構成において、前記機械学習済みモデルの前記回帰型ニューラルネットワークに前記生育施設において取得された前記計測値の時系列データと前記駆動量の時系列データとを入力し、前記複数層のニューラルネットワークに、前記回帰型ニューラルネットワークの出力と、前記生育施設における前記複数種類の前記変更装置の次の駆動量として用意された複数の組み合わせとを入力し、前記複数の組み合わせ毎に、前記予測値の予測を行なうものとしてよい。こうすれば、生育施設における複数種類の変更装置の次の駆動量として用意された複数の組み合わせ毎に、予測値の予測を行なうので、得られた予測値と複数の変更装置の駆動量の組合わせとが把握でき、いずれの駆動量の組合わせを用いればよいかを知ることができる。このため、出力部により出力された複数の予測値を用いて利用者が変更装置の動作を設定してもよいし、複数の予測値を用いて、自動制御を行なうといったことも可能になる。こうした複数の組み合わせとしては、複数種類の変更装置の駆動量のある得る全ての組み合わせでもよいし、学習時に用いた組み合わせでもよい。あるいは予測する少なくとも一つの物理量に影響を与えるとして予め準備した組み合わせでもよい。
【0081】
(6)こうした上記(1)~(5)の構成において、前記複数種類の変更装置は、前記生育施設おいて、前記内部空間に熱量を付与する加熱装置、前記内部空間の熱量を奪う冷却装置、前記内部空間に水蒸気を付与する加湿装置、前記内部空間の水蒸気を奪う乾燥装置、前記内部空間にミストを付与するミスト付与装置、前記内部空間に二酸化炭素を付与する二酸化炭素発生装置、前記内部空間と外部との気体の交換を行なう換気装置、前記内部空間内の気体の循環を図る循環装置、前記内部空間への日照の入射量を変更する遮光装置、前記内部空間に備えられた培養土に水を供給する灌水装置、前記生育施設の天井または壁面に設けられた窓の開口量を調整する開口量調整装置のうちの少なくとも二つを備えるものとしてよい。こうすれば、生育施設の内部空間の環境の制御を種々行なうことができる。もとより変更装置としては、複数種類備えられていればよく、3種類以上備えても差し支えない。
【0082】
(7)こうした上記(1)~(6)の構成において、前記計測部は、前記生育施設において、前記内部空間の温度を計測する温度センサ、前記内部空間の湿度を計測する湿度センサ、前記内部空間の二酸化炭素濃度を計測する二酸化炭素センサ、前記内部空間と外部との間で交換される気体の換気量を計測する換気センサ、前記内部空間内の気体の循環量を計測する循環量センサ、前記内部空間への日照の入射量を計測する日照センサ、前記内部空間に備えられた培養土が含有する水分量を計測する水分量センサ、のうちの少なくとも一つを備えるものとしてよい。もとより、複数のセンサを備えることも差し支えない。
【0083】
(8)こうした上記(1)~(7)の構成において、前記機械学習済みモデルに対して、前記生育施設での少なくとも一つの前記物理量の時系列データと前記生育施設における前記複数種類の変更装置の駆動量の時系列データとの関係を教師データとして追加学習を行なって、前記機械学習済みモデルの更新を行なう更新装置を備えるものとしてよい。こうすれば、生育施設での生物の生育が行なわれるにしたがって、予測の精度を高めることができる。特に、訓練用学習モデルの学習を行なった教師データが、対象となる生育施設自体のものではなく、生育施設に対応する施設のものであった場合には、こうした追加学習の効果は大きい。生育施設に生育環境予測装置を付設する場合、生物の生育を開始する時点では、地域や全国の施設、あるいは内部空間の大きさや備えられた変更装置の種類や能力が異なる施設から取得した時系列データに基づく教師データで学習した機械学習済みモデルを用意せざるを得ない場合があり、こうした場合に、生物の生育を繰り返すことで、生育施設が存在する場所に固有の機械学習済みモデルに成長させることができる。従って、生物の生育を繰り返すことで、次第に予測の精度を高められる。
【0084】
(9)こうした上記(1)~(8)の構成において、更に、所定時間の間の前記生育施設での少なくとも一つの前記物理量の時系列データと前記生育施設における前記複数種類の変更装置の駆動量の時系列データとの関係を所定期間に亘って蓄積する蓄積部を備え、前記更新装置は、前記所定期間の経過後、前記蓄積された前記関係を用いて前記追加学習を行なうものとしてよい。こうすれば、まとめて追加学習を行なうことができ、効率的に機械学習済みモデルを更新できる。もとより、生育環境予測装置の処理能力が十分に高ければ、更新装置を生育環境予測装置内に設け、時系列データを蓄積せず、新たな時系列データが得られる度に追加学習を行なうものとしてもよい。
【0085】
(10)本開示は生育環境制御システムとしても実施可能である。この生育環境制御システムは、上記(1)~(9)に記載の生育環境予測装置と、前記計測された物理量の内の少なくとも一つと、前記生育環境予測装置から出力された前記物理量の前記予測値とを比較し、両者の差が最も小さい駆動パターンで前記複数種類の変更装置を駆動する駆動部とを備える。こうすれば、生育施設の内部環境を表わす少なくとも一つの物理量を目標値に制御する処理を行なうことができる。
【0086】
(11)本開示は、生育環境予測方法としても実施可能である。この生育環境予測方法は、生物を生育する生育施設の内部環境を表わす少なくとも一つの物理量を計測し、前記生育施設の内部空間に働き掛けて、前記内部環境を変更する複数種類の変更装置の駆動量の時系列データを取得し、前記生育施設に対応する施設における少なくとも一つの物理量の時系列データと前記施設における複数種類の変更装置の駆動量の時系列データとの関係を教師データとした機械学習を行なうことで得られた機械学習済みモデルを用いて、前記生育施設において取得された前記駆動量の時系列データに基づいて、前記少なくとも一つの前記物理量の現時点から所定時間後の値である予測値を予測し、前記物理量の前記予測値を、利用可能な形態で出力する。こうすれば、生育施設のように外部環境と接しており、内部空間の環境を予測しがたいものであっても、少なくとも一つの前記物理量の現時点から所定時間後の値である予測値を予測でき、これを表示や制御に利用できる。
【0087】
(12)上記各実施形態において、ハードウェアによって実現されていた構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよい。ソフトウェアによって実現されていた構成の少なくとも一部は、ディスクリートな回路構成により実現することも可能である。また、本開示の機能の一部または全部がソフトウェアで実現される場合には、そのソフトウェア(コンピュータプログラム)は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納された形で提供することができる。「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスクやCD-ROMのような携帯型の記録媒体に限らず、各種のRAMやROM等のコンピュータ内の内部記憶装置や、ハードディスク等のコンピュータに固定されている外部記憶装置も含んでいる。すなわち、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、データパケットを一時的ではなく固定可能な任意の記録媒体を含む広い意味を有している。
【0088】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0089】
10…CPU、20…メモリ、30…入出力インタフェース、90,90B…生育環境予測装置、100…生育施設制御システム、101…管理装置、110…手動制御部、120…予測なし自動制御部、130…予測あり自動制御部、140…書込部、141…コマンドテーブル、142…データテーブル、150…通信部、160…切替部、200…生育施設、201…内部空間、202~207,212~217…生育施設、300…変更装置、301…制御ノード、302…CPU、303…メモリ、304…入出力インタフェース、310…加熱装置、315…冷却装置、320…加湿装置、325…乾燥装置、330…二酸化炭素発生装置、340…換気装置、345…循環装置、350…遮光装置、355…窓開閉装置、360…灌水装置、365…土壌加熱装置、400…計測部、401…計測ノード、402…CPU、403…メモリ、404…入出力インタフェース、410…温度センサ、420…湿度センサ、430…二酸化炭素センサ、440…換気センサ、445…循環量センサ、450…日照センサ、460…土壌水分量センサ、465…土壌温度センサ、500…通信装置、600…端末装置、700…サーバ、701…機械学習済みモデル、710…記憶装置、900…更新装置、910…追加データ蓄積部、920…追加学習部、TTM…訓練用学習モデル
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20