(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】フロードリルねじ
(51)【国際特許分類】
F16B 25/10 20060101AFI20240215BHJP
【FI】
F16B25/10 B
(21)【出願番号】P 2018243780
(22)【出願日】2018-12-26
【審査請求日】2021-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000227467
【氏名又は名称】日東精工株式会社
(72)【発明者】
【氏名】四方 裕和
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 慎悟
【審査官】松林 芳輝
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0312817(US,A1)
【文献】特開昭59-082136(JP,A)
【文献】特開平03-066910(JP,A)
【文献】特開2009-150534(JP,A)
【文献】特開2001-247937(JP,A)
【文献】特開2007-182984(JP,A)
【文献】特開平11-247817(JP,A)
【文献】特開2014-109382(JP,A)
【文献】特開2013-228029(JP,A)
【文献】特開2009-209644(JP,A)
【文献】特開2004-036791(JP,A)
【文献】実開昭58-042409(JP,U)
【文献】特開平10-047324(JP,A)
【文献】特表平04-506243(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0289752(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 25/04-25/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
頭部と、この頭部に連設され、外周にねじ山が成形されたねじ部と、このねじ部に連設され、先端が略三角錐形状に成形されたドリル部とで構成されるフロードリルねじにおいて、
前記ねじ部が、頭部と連設する円形ねじ部と、これと連続し、ドリル部と連設する非円形ねじ部とから構成され、非円形ねじ部は、軸線と直交する横断面が丸みを帯びた略三角形状をなし、
前記ドリル部は、非円形ねじ部と連続する略三角柱形状のパイロット部と、このパイロット部の先端に連続する略三角錐形状の穴形成部を有し、
前記パイロット部の軸方向の寸法は、ワークの厚さ方向の寸法より長く構成されており、
前記穴形成部から前記非円形ねじ部に至るまで前記横断面の三角形状の頂部が同じ位相を向くよう構成されていることを特徴とするフロードリルねじ。
【請求項2】
円形ねじ部は、軸方向の寸法がワークの厚さ方向の寸法より長いことを特徴とする請求項1記載のフロードリルねじ。
【請求項3】
ドリル部は、硬化処理が施されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載のフロードリルねじ。
【請求項4】
ねじ部は、その外周に成形されたねじ山に不完全ねじ山を備えることを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れかに記載のフロードリルねじ。
【請求項5】
ねじ部は、硬化処理が施されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4に記載のフロードリルねじ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はあらかじめ下穴の用意されていないワークに対して、下穴とめねじを成形しながらねじ込まれるフロードリルねじに関する。
【背景技術】
【0002】
ワークに下穴をあけ、締結するドリルねじの中には、特許文献1に示すような先端が錐形に成形されたフロードリルねじも多く使用されている。これは、ねじ締め工具と係合可能な頭部と、これと一体に成形されており、外周にねじ山が成形されたねじ部と、これに連設された錐形のドリル部とからなる。このフロードリルねじを、ねじ締め工具等によりワークに圧接した状態で回転させることで、ワークとの間で摩擦熱が発生する。ワークは、前述の摩擦熱によって部分的に軟化、塑性変形し、下穴が成形される。このような下穴成形過程において、フロードリルねじは、切削屑を発生させない特徴があり、ワークとして所定の厚みの金属板同士を固定する場合等に使用されている。このフロードリルねじは先端に配置されたドリル部により下穴を成形した後、ドリル部に連設されたねじ部によってめねじを成形して所定の締付けトルクによって締め付けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、従来のフロードリルねじは、ねじ部の断面形状が円形で、下穴の内周面との接触面積が広く、摩擦による抵抗が大きいため、めねじを成形する際のねじ込みトルクが高く、精度の高いねじ締め結果が得られないという課題があった。
【0005】
そこで本発明は上記のような問題点を解決することを課題とし、比較的低いねじ込みトルクでめねじ成形が可能なフロードリルねじの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明のフロードリルねじは、頭部と、この頭部に連設され、外周にねじ山が成形されたねじ部と、このねじ部に連設され、先端が略三角錐形状に成形されたドリル部とで構成されるフロードリルねじにおいて、前記ねじ部が、頭部と連設する円形ねじ部と、これと連続し、ドリル部と連設する非円形ねじ部とから構成され、非円形ねじ部は、軸線と直交する横断面が丸みを帯びた略多角形状をなし、前記ドリル部から前記非円形ねじ部に至るまで前記横断面の三角形状の頂部が同じ位相を向くよう構成されていることを特徴とする。なお、前記円形ねじ部は、軸方向の寸法がワークの厚さ方向の寸法より長いことが好ましく、ドリル部は、硬化処理が施されていることが好ましい。また、前記ねじ部は、その外周に成形されたねじ山に不完全ねじ山を備え、硬化処理が施されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明のフロードリルねじは、ねじ部がドリル部側では横断面三角形状に、頭部側では横断面円形状に成形されている。これにより、めねじ成形時のねじ込みトルクを低下させつつも、破断トルクを低下させない等の効果が得られ、精度の高い締め付けを行うことが可能となる。また、ドリル部とねじ部に対して焼入れ等による硬化処理が行われており、破損しにくい等の効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に係るフロードリルねじの構造を示す一部切り欠き図
【
図6】本発明に係るフロードリルねじの下穴成形中の状態を示す一部切り欠き図
【
図7】本発明に係るフロードリルねじの下穴成形後の状態を示す一部切り欠き図
【
図8】本発明に係るフロードリルねじの締結後の状態を示す一部切り欠き図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図1において、1はワーク50,50´を締結するためのフロードリルねじであり、頭部20と、この頭部20に連設して一体成形されたねじ部30と、このねじ部30と一体成形されたドリル部40とから構成される。また、このフロードリルねじ1はワーク50,50´より高い融点を有する鋼材等で構成され、ワーク50,50´の材質等によりその材質および焼入れ等による硬化処理を種々変更が可能である。
【0010】
前記頭部20は、ねじ締め工具等と係合可能な六角柱形状の係合部21と、この係合部21の座面に成形され、係合部21より大径の座部22とからなり、座部22の座面にはテーパ形状の環状溝23が設けられている。この環状溝23は前記ねじ部30と滑らかに連なり、後記環状凸部54を内包できる容積に構成される。また、この環状溝23とねじ部30の接合部は後記パイロット部41の外接円より小径に構成されている。なお、係合部21は、ねじ締め工具と係合可能であれば、六角柱形状に制限せず四角柱等でも問題なく、その上面にドライバビット等と係合する十字溝等が設けられていても良い。
【0011】
前記ねじ部30は、頭部20に連設され、横断面が円形状に成形された円形ねじ部31と、この円形ねじ部31に連設し、横断面が三角形状に成形された非円形ねじ部33とで構成される。
【0012】
前記円形ねじ部31は、頭部20に連設され、その外周にねじ山32が成形される。この円形ねじ部31は軸線と直交する横断面が
図2に示すように、円形に成形され、その軸線方向の寸法がワーク50,50´の板厚以上になるよう構成されている。これにより、締結時及び締結後において、非円形ねじ部33およびドリル部40がワーク50,50´から突出するよう構成されている。
【0013】
前記非円形ねじ部33は、外周にねじ山34が前記ねじ山32と連続して成形されており、軸線と直交する横断面が
図3に示すように、頂点に丸みを帯びた略三角形状になるように構成されている。これにより、めねじ53の成形時において、下穴52の内周面との接触面積が減少し、低いねじ込みトルクでめねじ53の成形を可能とする。また、ねじ山34は、ドリル40側から一山程度にわたって不完全ねじ山35を具備し、ねじ込み時にワーク50,50´の下穴52に進入しやすく構成されている。さらに、この不完全ねじ山35と前記ドリル部40は、高周波焼入れや浸炭焼入れ等による表面を硬化する処理が施され、下穴52成形時及びめねじ53成形時にこれらの部位が破損し難く構成されている。なお、本実施形態において、硬化処理が施されている部位は、ドリル部40と不完全ねじ山35のみであるがこれに限定せず、ねじ部30全体に渡って硬化処理が施されていても良い。
【0014】
ドリル部40は、頭部20側に設けられ、前記非円形ねじ部33と連設するパイロット部41と、このパイロット部41と連続する穴成形部42とで構成される。
【0015】
前記パイロット部41は、
図4に示すように軸線と直交する横断面が頂点に丸みを帯びた略三角形状に成形され、その外接円が穴成形部42の外接円の最大径と同径でねじ部30の外径と谷径の間に構成される。これにより、下穴52との接触面積が小さくなり、めねじ53の成形初期において、パイロット部41とワーク50,50´との摩擦による抵抗が小さく、低いねじ込みトルクでめねじ53の成形を可能とする。また、このパイロット部41は軸線方向の寸法がワーク50,50´の板厚以上になるよう設定され、非円形ねじ部33と穴成形部42が同時にワーク50,50´に接触することを防止する。
【0016】
前記穴成形部42は、パイロット部41に連続する略三角錐形状に構成されており、
図5に示すように、その横断面は外周方向に湾曲した略三角形状に構成される。
【0017】
次に
図6ないし
図8に基づき、フロードリルねじ1をワーク50,50´に締結する場合の作用について述べる。ワーク50,50´は
図6ないし
図8に示すように、鉄板等の金属製の薄板であり、冶具60に支持される。
【0018】
ねじ締め機(図示せず)等によりフロードリルねじ1をワーク50,50´に圧接しながら高速回転させると、前記穴成形部42とワーク50,50´との圧接部分51で摩擦熱が発生する。この摩擦熱によりワーク50,50´の圧接部51周囲を部分的に軟化、塑性変形させ、穴形成部42と連続するパイロット部41の外接円と同一径の下穴52を成形する。この際、ワーク50の上面では、穴成形部42がワーク50,50´に喰い込むことにより、押し広げられた余肉によって、環状凸部54が成形される。また、ワーク50´の下面では、穴成形部42に押圧されることによりワーク50´が変形し、環状凸部55が成形される。
【0019】
この下穴52成形過程においては、所望の摩擦熱を発生させるために後述するめねじ53成形時よりかなり早い回転速度が必要となる。そのため、パイロット部41は、軸線方向の寸法がワーク50,50´の板厚以上の寸法に構成され、穴成形部42と、非円形ねじ部33とが同時にワークに接触することを防止する。これにより、下穴52成形後、非円形ねじ部33がワーク50に干渉するまでに回転速度を低下させることができ、非円形ねじ部33またはワーク50,50´が破損することを防ぐことができる。
【0020】
上記回転速度低下後、ドリル部40に連続する非円形ねじ部33のねじ山34が下穴52の内周面と係合し、めねじ53を成形する。このめねじ53成形初期において、ねじ山34の先端に設けられた不完全ねじ山35により、ワークとの食いつきがよくなる。また、ねじ山34が三角形状であり、その頂点で徐々にめねじ53を成形するため、フロードリルねじ1とワーク50,50´との接触面積が小さくなり摩擦による抵抗が減少する。これにより、低いねじ込みトルクでめねじ53の成形が可能となる。この時、前記環状凸部54、55の内周面にもめねじ53が成形されることにより、十分な数のねじ山を有しためねじ53を成形でき、締結後においてフロードリルねじ1が緩み難い。このめねじ53の成形後、非円形ねじ部33に連続する円形ねじ部31がめねじ53に螺合することで、フロードリルねじ1はワーク50,50´に締め付けられる。この際、ねじ部30と滑らかに連続する環状溝23が下穴52の周縁部に成形された環状凸部54を内包するため、座部22がワーク50に当接し、充分な締付けトルクを得ることができる。また、円形ねじ部31の軸線方向の寸法がワーク50,50´の板厚以上の寸法に構成されているため、断面円形状で破断トルクが高い円形ねじ部31のみによる締付けが可能となる。
【0021】
なお、本発明に係るフロードリルねじ1は、前述したものに限定するものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、ねじ山32と、これに連続するねじ山34は実施形態では1条ねじであるが、これを2条ねじにしてもよく、ピッチ等を変更してもよい。また、非円形ねじ部33の軸線と直交する横断面形状は略三角形状に限定するものではなく、他の多角形状でも同様の効果を得ることができる。さらに、ワーク50に円形ねじ部31の外径より大径の下穴が形成されており、ワーク50´のみを締結する場合も同様に効果を発揮する。
【符号の説明】
【0022】
1 フロードリルねじ
20 頭部
31 円形ねじ部
33 非円形ねじ部
41 パイロット部
42 穴成形部
50 ワーク