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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】水処理装置及び水処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/12 20230101AFI20240215BHJP
   C02F 1/44 20230101ALI20240215BHJP
   C02F 3/20 20230101ALI20240215BHJP
【FI】
C02F3/12 A
C02F1/44 F
C02F3/12 B
C02F3/12 S
C02F3/20 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019209037
(22)【出願日】2019-11-19
(65)【公開番号】P2021079335
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】507036050
【氏名又は名称】住友重機械エンバイロメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】北辻 桂
【審査官】高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-153733(JP,A)
【文献】特開2010-012458(JP,A)
【文献】特開平11-290886(JP,A)
【文献】特開2018-153731(JP,A)
【文献】特開2014-128784(JP,A)
【文献】特開2006-255505(JP,A)
【文献】特開2015-20150(JP,A)
【文献】特開2004-249235(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107867755(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105152479(CN,A)
【文献】米国特許第6616843(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/12
3/14 - 3/26
1/44
B01D 61/00 - 71/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MABRを用いて被処理水の好気処理を行う反応部と、
前記反応部の後段で膜により固液分離を行う固液分離部と、
前記固液分離部で前記膜を透過しなかった未処理液を前記反応部へ循環させる循環経路と、を備え、
前記循環経路は、水封されていることを特徴とする、水処理装置。
【請求項2】
前記被処理水の流入速度よりも速い速度で、前記循環経路から前記反応部へ前記未処理液が循環されることを特徴とする、請求項1に記載の水処理装置。
【請求項3】
MABRを用いて被処理水の好気処理を行う反応工程と、
前記反応工程の後段で膜により固液分離を行う固液分離工程と、
前記固液分離工程で前記膜を透過しなかった未処理液を前記反応工程へ循環させる循環工程と、を備え、
前記循環工程は、水封された状態で前記未処理液を前記反応工程へ循環させることを特徴とする、水処理方法。
【請求項4】
MABRを用いて被処理水の好気処理を行う反応部と、
前記反応部の後段で、前記MABRの外部に設けられた、膜により固液分離を行う固液分離部と、
前記固液分離で前記膜を透過しなかった未処理液を前記反応部へ循環させる循環経路と、を備え、
前記反応部から流出した好気処理水は、前記固液分離部に直接流入することを特徴とする水処理装置。
【請求項5】
MABRを用いて被処理水の好気処理を行う反応工程と、
前記反応工程の後段で、前記MABRの外部に設けられた、膜により固液分離を行う固液分離工程と、
前記固液分離工程で前記膜を透過しなかった未処理液を前記反応工程へ循環させる循環工程と、を備え、
前記反応工程から流出した好気処理水は、前記固液分離工程に直接流入することを特徴とする水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理装置及び水処理方法に関するものである。更に詳しくは、被処理水の好気処理を行う水処理装置及び水処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水処理方法の一つとして、好気性微生物を用いた生物処理(以下、「好気処理」と呼ぶ)が知られている。好気処理に必要な酸素を供給する手段としては、処理槽内に曝気装置を設け、空気などの気体を微細な気泡として被処理水中に分散させ、被処理水中の溶存酸素量を高めることが広く行われている。このとき、曝気装置としては、ブロワなどの送風機を備える送風部により供給された気体を処理槽内に供給するものが広く用いられている。
【0003】
しかし、このような曝気装置を用いる場合、曝気装置の駆動に係る消費電力が大きく、処理全体における消費電力の中でも高い割合を占めている。また、曝気装置によって空気などの気体を気泡として分散させる場合、大半の気泡はそのまま系外へ放出されてしまう。そのため、曝気装置に係る装置構造の工夫などの対応が考えられているが、被処理水中への酸素溶解効率を十分に高めるには至っていない。したがって、省エネルギー化及び処理効率向上の観点から、曝気装置によらない好気処理の技術が求められている。
【0004】
近年、このような好気処理の一つとして、酸素を透過する膜やフィルム(以下、「酸素透過膜」と呼ぶ)を用いたメンブレンエアーレーションバイオリアクター(以下、「MABR」と呼ぶ)を利用した好気処理が検討されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、空気を内部に取り入れるための空気取り入れ部を有し、かつ内部に取り入れられた空気を廃水に供給する空気供給部を備え、空気供給部は透気性及び防水性を有するフィルム(酸素透過膜)が貼られた状態で廃水中に浸漬されて用いることを特徴とする廃水処理装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-33681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されるように、MABRによる好気処理では、酸素透過膜を介し、廃水中に空気を供給することで、気泡発生を伴うことなく、廃水中に空気中の酸素を溶解させることが可能となる。特に、微生物を用いた好気処理においては、酸素透過膜表面で直接微生物に酸素を供給することができるため、酸素の利用効率が格段に向上する。これにより、従来の曝気装置を用いた好気処理と比較して、エネルギー消費量を低減させ、処理効率を向上させることが可能となる。
【0008】
一方、特許文献1に記載された廃水処理装置では、酸素透過膜表面に微生物による生物膜が形成されるため、生物膜が厚くなり過ぎると生物膜自体により酸素供給が阻害され、酸素透過膜を介した酸素供給能力が低下するという問題が生じる。さらに、微生物によるバイオフィルムが酸素透過膜表面に形成され、酸素供給能力が低下することもある。したがって、処理効率を維持するためには、酸素透過膜表面に微生物が過度に付着しないような状態とすることが必要となる。
また、一般的な好気処理においては、排水中に含まれる処理対象成分(主に有機物など)を好気性微生物によって分解処理するものであり、処理効率の向上には、好気性微生物に対して酸素とともに処理対象物との接触効率を上げることが必要となる。
しかしながら、特許文献1には、酸素透過膜表面に対する微生物の過度な付着を抑制することや、微生物と処理対象成分の接触効率向上については何ら記載されていない。このため、MABRを用いた好気処理において、従来の曝気装置を用いた好気処理よりも省エネルギー化が可能であるという利点を十分に生かすことができないという問題がある。
【0009】
本発明の課題は、好気処理を伴う水処理において、曝気に係る動力を抑制し、かつ処理効率の維持・向上が可能となる水処理装置及び水処理方法を提供することである。特に、MABRを用いた好気処理を伴う水処理において、省エネルギー化及び処理効率の維持・向上が可能となる水処理装置及び水処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題について鋭意検討した結果、好気処理を伴う水処理において、MABRを用いた好気処理を行う反応部に対して溶液の循環経路を設けることにより、反応部における撹拌流を形成させることで、MABRの利点である省エネルギー化を実現し、かつ処理効率の維持・向上が可能な水処理装置及び水処理方法を見出して、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の水処理装置及び水処理方法である。
【0011】
上記課題を解決するための本発明の水処理装置は、MABRを用いて被処理水の好気処理を行う反応部と、反応部の後段でメンブレンバイオリアクター(以下、「MBR」と呼ぶ)により固液分離を行う固液分離部と、固液分離部から未処理液を反応部へ循環させる循環経路とを備えることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の水処理装置によれば、MABRにより好気処理を行った後、MBRによる固液分離処理を行うことで、MABRでは処理し切れなかった被処理水の処理を進行させることができ、得られる処理水の水質を高めることが可能となる。また、固液分離部(MBR)で生じる未処理液を反応部へ循環させることで、結果として反応部内を撹拌する撹拌流を形成することが可能となる。これにより、MABRにおける酸素透過膜表面への過度な微生物の付着を抑制するとともに、微生物と処理対象成分(有機物など)の接触効率を向上させ、MABRによる水処理装置の省エネルギー化とともに、処理効率の維持・向上が可能となる。また、反応部内に機械式の撹拌装置を設けることなく、反応部内の撹拌が可能となるため、水処理装置内に撹拌装置のためのスペースを設ける必要がなく、かつ機械式の撹拌装置の駆動に係る運転コストが不要であるという効果も奏する。
【0013】
また、本発明の水処理装置の一実施態様としては、被処理水の流入速度よりも速い速度で、循環経路から反応部へ未処理液が循環されるという特徴を有する。
この特徴によれば、循環経路から反応部へ導入される未処理液の流速を上げることで、反応部内で形成される撹拌流の速度を上げることができ、MABRを用いる反応部における撹拌の効果をより確実に得ることが可能となる。
【0014】
また、本発明の水処理装置の一実施態様としては、循環経路が水封されているという特徴を有する。
この特徴によれば、循環経路内に外部から気体が混入しないため、反応部内で安定した撹拌流を形成することができ、MABRを用いる反応部における撹拌の効果をより確実に得ることが可能となる。
【0015】
上記課題を解決するための本発明の他の水処理装置は、MABRを用いて被処理水の好気処理を行う反応部と、反応部内を撹拌するために撹拌流を形成する撹拌部とを備え、撹拌部は、反応部内に導入されている被処理溶液を抜き出し、抜き出した被処理溶液を反応部内へ循環させる循環手段を備えるという特徴を有する。
本発明の水処理装置によれば、MABRを用いる反応部内に存在している被処理溶液を一度抜き出し、再度反応部内に返送して循環させることにより、反応部内を撹拌する撹拌流を形成することが可能となる。これにより、MABRにおける酸素透過膜表面への過度な微生物の付着を抑制するとともに、微生物と処理対象成分(有機物など)の接触効率を向上させ、MABRによる水処理装置の省エネルギー化とともに、処理効率の維持・向上が可能となる。また、反応部内に機械式の撹拌装置を設けることなく、反応部内の撹拌が可能となるため、水処理装置内に撹拌装置のためのスペースを設ける必要がなく、かつ機械式の撹拌装置の駆動に係る運転コストが不要であるという効果も奏する。
【0016】
また、本発明の水処理装置の一実施態様としては、撹拌部は、ポンプと、固液分離部と、循環経路とからなり、固液分離部は、MBRであるという特徴を有する。
この特徴によれば、反応部における撹拌の効果を得ることに加え、MABRにより好気処理を行った後、MBRによる固液分離処理を行うことで、MABRでは処理し切れなかった被処理水の処理を進行させることができ、得られる処理水の水質を高めることが可能となる。これにより、MABRによる水処理装置の省エネルギー化とともに、処理効率の維持・向上がより一層確実に実施可能となる。
【0017】
上記課題を解決するための本発明の水処理方法は、MABRを用いて被処理水の好気処理を行う反応工程と、反応工程内において撹拌流を形成する撹拌工程とを備え、撹拌工程は、反応工程に導入されている被処理溶液を抜き出し、抜き出した被処理溶液を反応工程内で循環させる循環手段を備えるという特徴を有する。
本発明の水処理方法によれば、MABRを用いた反応工程内に存在している被処理溶液を一度抜き出し、再度反応工程内に返送して循環させることにより、反応工程内で撹拌流を形成することが可能となる。これにより、MABRにおける酸素透過膜表面への過度な微生物の付着を抑制するとともに、微生物と処理対象成分(有機物など)の接触効率を向上させ、MABRによる水処理の省エネルギー化とともに、処理効率の維持・向上が可能となる。また、撹拌工程として、機械式の撹拌装置を設ける必要がないため、水処理装置の省スペースが可能となるとともに、かつ機械式の撹拌装置の駆動に係る運転コストが不要であるという効果も奏する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、好気処理を伴う水処理において、曝気に係る動力を抑制し、かつ処理効率の維持・向上が可能となる水処理装置及び水処理方法を提供することができる。特に、MABRを用いた好気処理を伴う水処理において、省エネルギー化及び処理効率の維持・向上が可能となる水処理装置及び水処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1の実施態様の水処理装置を示す概略説明図である。
図2】本発明の第1の実施態様の水処理装置における反応部の構造を示す概略説明図である。
図3】本発明の第2の実施態様の水処理装置を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る水処理装置及び水処理方法の実施態様を詳細に説明する。なお、実施態様に記載する水処理装置の構造については、本発明に係る水処理装置を説明するために例示したにすぎず、これに限定されるものではない。また、本発明に係る水処理方法については、本発明に係る水処理装置の構造及び作動の説明に置き換えるものとする。
【0021】
本発明の水処理装置及び水処理方法は、好気処理を伴う水処理に係るものである。好気処理を伴う水処理の具体的な内容としては、特に限定されないが、例えば、工場排水や生活排水(下水)などの排水処理などが挙げられる。特に、処理対象成分として有機物を含む排水等の被処理水を活性汚泥により生物処理する水処理に対し、本発明を好適に利用することができる。
【0022】
[第1の実施態様]
図1は、本発明の実施態様の水処理装置の構造を示す概略説明図である。
本実施態様に係る水処理装置1Aは、図1に示すように、反応部2と、反応部2の後段に設けられた固液分離部3と、固液分離部3の未処理液W2を反応部2へ循環させる循環経路4とを備えている。また、反応部2に被処理水W0を導入するラインL1と、反応部2で好気処理された好気処理水W1を固液分離部3に導入するラインL2と、固液分離部3で処理された処理水Wを系外に排出するラインL3を備えている。
【0023】
本実施態様の水処理装置1Aでは、被処理水W0に対し、反応部2でMABRによる好気処理を行った後、固液分離部3でMBRによる固液分離処理を行うものである。また、固液分離部3における未処理液W2は、循環経路4を介して反応部2に返送され、循環されるものである。
以下、水処理装置1Aの各構成について詳細に説明する。
【0024】
反応部2は、被処理水W0の好気処理を行うためのものであり、特に、MABRによる好気処理を行うためのものである。
反応部2としては、反応槽20内にラインL1を介して導入された被処理水W0に対して、MABRによる好気処理を行うものであれば特に限定されない。例えば、図1には、MABRを用いた反応部2に係る構成として、反応槽20と、酸素透過膜21とを備え、酸素透過膜21にはラインL4を介してブロワBからの気体が供給されるものを示している。
【0025】
反応槽20は、好気処理を行う処理槽として公知の構成を用いることができる。例えば、反応槽20は、槽内に生物処理に用いられる各種微生物や活性汚泥を収容した生物処理槽とすることなどが挙げられる。
また、反応槽20は、1つの槽のみからなるものであってもよく、反応槽20内を複数設けるものであってもよい。反応槽20の個数は、被処理水W0の性質や処理量などに応じて適宜設定することができる。
【0026】
酸素透過膜21は、被処理水W0に対し酸素を供給するためのものであり、反応槽20内に設けられている。
酸素透過膜21としては、後述するブロワBから供給された気体中の酸素を、被処理水W0に対し供給することができるものであればよく、形状や材質については特に限定されない。
酸素透過膜21としては、例えば、中空糸膜、平膜、スパイラル膜などが挙げられる。このとき、酸素透過膜21の材質としては、シリコン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリウレタンなどのほか、複数の素材からなるコンポジット膜を用いることが挙げられる。また、酸素透過膜21の他の例としては、透気性と防水性を有するシート状フィルムなどが挙げられる。このとき、酸素透過膜21の材質としては、ポリオレフィン樹脂などの耐水性樹脂を多孔化した多孔質耐水性フィルムなどが挙げられる。
【0027】
また、酸素透過膜21の規模や個数など、酸素透過膜21の配置に係る形態については特に限定されない。酸素透過膜21の配置については、例えば、反応槽20の規模や、水処理装置1Aとして必要な処理効率等に応じ、酸素透過膜21の規模や個数などを設定して配置範囲を定めるものとすることなどが挙げられる。
【0028】
また、酸素透過膜21の設置手段については、特に限定されない。例えば、酸素透過膜21を収容する筐体や、酸素透過膜21を保持する枠体などを用い、酸素透過膜21をユニット(モジュール)化することが挙げられる。これにより、反応槽20内に酸素透過膜21を容易に設置することが可能となる。なお、ユニット化した酸素透過膜21の設置に際しては、例えば、酸素透過膜21のユニット自体に反応槽20の底部あるいは側面に設置可能な構造を設けることや、反応槽20の底部あるいは側面に酸素透過膜21のユニットを固定するための構造を設けることなどが挙げられる。
【0029】
ブロワBは、反応槽20内の酸素透過膜21に対して気体を供給するためのものであり、例えば、図1に示すように、ラインL4を介して酸素透過膜21に気体を供給するように配置することが挙げられる。
【0030】
ブロワBから供給される気体は、少なくとも酸素を含むものであればよく、例えば、空気、酸素などが挙げられる。なお、気体の調達や取り扱いに係るコストを考慮すると、空気を用いることが好ましい。
【0031】
ブロワBとしては、気体を圧送することができるものであれば特に限定されず、例えば、送風機を用いることが挙げられる。なお、本発明において、「送風機」とは、送風機及び圧縮機を含むものである。
また、図1においては、ブロワBは、反応槽20の下方側から上方側に向かって酸素透過膜21に気体を供給しているが、気体の供給方向はこれに限定されるものではない。ブロワBによる気体の供給方向は、酸素透過膜21の配置やユニットの構造に合わせて選択することが可能であり、例えば、反応槽20の上方側から下方側に向かって酸素透過膜21に気体を供給するものであってもよい。
【0032】
反応部2における好気処理は、MABRとして知られている好気処理の原理に基づくものである。以下、本実施態様の反応部2における好気処理の概要について説明する。
図2は、本実施態様の水処理装置における反応部の構造を模式的に示した概略説明図である。なお、図2は、反応部の酸素透過膜近傍における拡大図である。
図2に示すように、本実施態様における反応部2では、ブロワBから供給された気体(図2中では空気)がシート状フィルムからなる2枚の酸素透過膜21の間に形成された空間に供給される。なお、酸素透過膜21の上部は、気体が供給される空間内に被処理水W0が流入しない構造を有している(不図示)。そして、気体中の酸素は、気体が供給される空間側の酸素透過膜表面21aから、被処理水W0側の酸素透過膜表面21bを通過して、被処理水W0中に移動する。このとき、酸素透過膜表面21bから気泡は発生せず、ブロワBから供給された気体中の酸素は効率的に被処理水W0中に溶解する。また、酸素透過膜表面21b近傍に存在する微生物Mに直接酸素を渡すことも可能となる。したがって、本実施態様におけるブロワBの出力は、従来の曝気装置による気体供給における送風機の出力よりも格段に低減させることが可能となるものである。
なお、図2は、反応部2におけるMABRによる好気処理の一例を示したものであり、図2に示した反応部2の構造に限定するものではない。特に、酸素透過膜21の構造については、これに限定されるものではなく、上述したように、酸素透過膜21として中空糸膜やスパイラル膜等を用いることのほか、酸素透過膜21を収容する筐体や酸素透過膜21を保持する枠体などを用い、酸素透過膜21をユニット化することなどが挙げられる。
【0033】
反応部2で好気処理された被処理水W0は、好気処理水W1としてラインL2を介して固液分離部3に導入される。
【0034】
固液分離部3は、好気処理水W1の固液分離処理を行うためのものであり、特に、MBRによる固液分離処理を行うためのものである。
固液分離部3としては、ラインL2を介して導入された好気処理水W1に対して、MBRによる固液分離処理を行うものであれば特に限定されない。例えば、図1には、MBRを用いた固液分離部3に係る構成として、MF膜30を備え、ラインL2上に設けたポンプPを介して好気処理水W1が導入されるものを示している。
【0035】
固液分離部3は、MBRとして公知の構成を用いることができる。したがって、MF膜30の構造としては、例えば、平膜、管状膜、中空糸膜などが挙げられる。また、例えば、MF膜30の代わりに、UF膜を用いることなどが挙げられる。
【0036】
また、本実施態様における固液分離部3としては、浸漬型MBRや槽外型MBRとして知られている公知の構成を用いることが好ましい。
【0037】
浸漬型MBRは、槽内に分離膜を浸漬させて用いるものであり、MBRの構成として広く用いられている。浸漬型MBRでは、膜の閉塞を抑制し、膜流速を維持するための膜洗浄用として曝気が必要となる。しかし、本実施態様の水処理装置1Aにおいて必要となるのは膜洗浄用の曝気のみであるため、仮に浸漬型MBRの膜洗浄用に曝気装置を設けたとしても、曝気装置の駆動に係る電力コストは、一般的な好気処理における曝気に係る電力コストと比較して格段に抑制することが可能となる。
【0038】
一方、槽外型MBRは、膜内を通過する溶液の流速によって、膜流速を維持するものである。そのため、本実施態様における水処理装置1Aのように、好気処理において曝気装置を用いない場合、本実施態様の固液分離部3としては、安定した固液分離処理を行うために曝気を必要としない槽外型MBRの構成を用いることがより好ましい。また、従来、槽外型MBRは、膜流速を維持するために、浸漬型MBRと比べて多量の溶液を膜内に通過させる必要があるとされていたが、本実施態様の水処理装置1Aにおいては、反応部2から十分な溶液(好気処理水W1)が固液分離部3に供給される。したがって、本実施態様の固液分離部3としては、槽外型MBRを特に好適に利用することができる。
【0039】
MF膜30により、好気処理水W1は、MF膜30を透過した処理水Wと、MF膜30を透過しなかった未処理液W2に分離される。そして、処理水Wは、ラインL3を介して系外へ排出される。また、未処理液W2は、後述する循環経路4に導入され、反応部2に返送されて循環する。なお、好気処理水W1及び未処理液W2は、主に溶液からなるものである。ただし、反応部2において活性汚泥を用いた好気処理を行う場合、好気処理水W1及び未処理液W2は、活性汚泥などの固体分が含まれる溶液であってもよい。なお、固体分を含む未処理液W2を循環経路4に導入する際には、後述するように、未処理液W2中の固体分を減少させるための手段を設けることが好ましい。
【0040】
本実施態様の固液分離部3として、MBRによる固液分離を行うことで、沈殿槽と比べて省スペース化が可能になるとともに、得られる処理水Wの水質を向上させることが可能となる。
【0041】
循環経路4は、固液分離部3の未処理液W2を反応部2へ循環させるためのものである。
循環経路4としては、未処理液W2を反応部2に返送、循環させることができるものであればよく、具体的な構造については特に限定されない。例えば、図1に示すように、配管40の端部40aを固液分離部3の側面に接続し、もう一方の配管40の端部40bをラインL1と循環経路4が平行となるように、反応槽20に接続することが挙げられる。これにより、端部40a側から固液分離部3の未処理液W2を回収し、端部40b側から反応槽20内に未処理液W2を導入して循環させることができる。
【0042】
このとき、循環させた未処理液W2により、反応槽20内を撹拌する撹拌流を形成することができる。これにより、酸素透過膜21に対して微生物Mが過度に付着することを抑制するとともに、反応槽20内において、微生物Mと被処理水W0中の処理対象成分(有機物など)の接触効率を向上させることができる。
したがって、循環経路4を設けて未処理液W2を循環させ、反応槽20内に撹拌流を形成することで、酸素透過膜21における酸素供給効率の低下を抑制し、MABRを用いた好気処理の処理効率の維持・向上が可能となる。また、MABRを用いることによる省エネルギー化の効果を十分に生かすことが可能となる。
【0043】
循環経路4の端部40aには、固体分の流入を抑制するための構造を設けるものとしてもよい。これにより、未処理液W2中に活性汚泥などの固体分が含まれている場合、循環経路4内を移動する未処理液W2を主に溶液からなるものとすることができ、未処理液W2を反応部2に返送、循環した際に、反応槽20内を撹拌する撹拌流をより確実に形成させることができる。
なお、他の例としては、端部40aに固体分の流入を抑制するための構造を設ける代わりに、端部40aの接続位置を調整可能な機構を設け、未処理液W2として固体分を含まない上澄み分を回収することで、配管40内への固体分の流入を抑制すること等が挙げられる。
【0044】
循環経路4の端部40bは、図1に示すように、ラインL1と循環経路4が平行となるように、反応槽20に接続することに限定されない。例えば、端部40bを反応槽20の上部に接続するものや、端部40bをラインL1に直接接続するものなどが挙げられる。なお、反応槽20内で安定した撹拌流を形成させるためには、ラインL1を介して導入される被処理水W0の流れ方向と、端部40bから導入される未処理液W2の流れ方向が同一方向となることが好ましい。したがって、図1に示すように、端部40bはラインL1と循環経路4が平行になるように接続することが好ましい。
【0045】
本実施態様の循環経路4は、配管40上に、ポンプや流量調節弁などを設け、端部40bから反応槽20内に導入する未処理液W2の流速を制御可能とすることが好ましい。また、反応槽20内に導入する未処理液W2の流速は、ラインL1を介して反応槽20内に導入する被処理水W0の流入速度よりも速くすることが好ましい。これにより、未処理液W2を反応槽20内に導入した際に、反応槽20内を撹拌する撹拌流を確実に形成させることが可能となるとともに、撹拌流の流速を制御することも可能となる。なお、撹拌流の流速については特に限定されない。例えば、酸素透過膜表面21b上に微生物Mの堆積が生じない程度とすることや、反応槽20内の固体分(活性汚泥など)が流動する程度とすることなどが挙げられる。
【0046】
また、循環経路4は、全て水封された状態とすることが好ましい。これにより、循環経路4内に外部から気体が混入しないため、反応部2内で安定した撹拌流を形成することが可能となる。
循環経路4を水封する手段は特に限定されないが、例えば、配管40の端部40aを、固液分離部3における未処理液W2が確実に貯留される水位に応じた高さに接続することや、端部40bを、反応槽20内に被処理水W0が確実に貯留される水位に応じた高さに接続することなどが挙げられる。また、他の例としては、配管40の端部40a、40bをそれぞれ固液分離部3の未処理液W2内及び反応部2の被処理水W0内で移動可能な構造とし、それぞれの水位に応じて端部40a、40bを移動させるものとすること等が挙げられる。
【0047】
以上のように、本実施態様の水処理装置及び水処理方法により、MABRによる好気処理を伴う水処理において、MBRによる固液分離を組み合わせることで、得られる処理水の水質を高めることが可能となる。また、固液分離における未処理液を反応部側へ返送して循環させることで、MABRを用いる反応部内を撹拌する撹拌流を形成することが可能となる。これにより、MABRによる水処理装置の省エネルギー化の効果を十分に生かすことができるとともに、MABRを用いた好気処理の処理効率の維持・向上が可能となる。また、反応部内に機械式の撹拌装置を設けることなく、反応部内の撹拌が可能となるため、水処理装置内に撹拌装置のためのスペースを設ける必要がなく、かつ機械式の撹拌装置の駆動に係る運転コストが不要であるという効果も奏するものである。
【0048】
[第2の実施態様]
図3は、本発明の実施態様の水処理装置の構造を示す概略説明図である。
本実施態様に係る水処理装置1Bは、図3に示すように、反応部2と、反応部2内を撹拌するための撹拌流を形成する撹拌部5を備えている。また、撹拌部5は、反応部2内に導入されている被処理溶液Sを抜き出し、再度反応部2内に返送して循環させる循環手段50を備えている。さらに、反応部2に被処理水W0を導入するラインL1と、反応部2で好気処理された処理水Wを系外に排出するラインL5を備えている。なお、第1の実施態様の構成と同じものについては、説明を省略する。
【0049】
本実施態様の水処理装置1Bでは、被処理水W0に対し、反応部2でMABRによる好気処理を行うものである。また、反応部2内に導入されている被処理溶液Sを抜き出し、再度反応部2に返送して循環させることで、反応部2内を撹拌する撹拌流を形成するものである。
【0050】
本実施態様の水処理装置1Bにおける反応部2は、MABRによる好気処理を行うためのものであり、上述した第1の実施態様の水処理装置1Aにおける反応部2と同様の構成を用いることができる。なお、反応部2で処理した被処理水W0は、図3に示したように、処理水WとしてラインL5を介して系外に排出することに限定されない。他の例としては、反応部2で処理した被処理水W0は、好気処理水W1としてラインL5を介して他の水処理装置に導入することなどが挙げられる。
【0051】
撹拌部5は、反応部2内を撹拌するための撹拌流を形成するためのものである。また、撹拌部5は、反応部2内に導入されている被処理溶液Sを抜き出し、再度反応部2内に返送して循環させる循環手段50を備えている。
【0052】
被処理溶液Sは、反応部2内に導入されている溶液全体を指し、反応部2における処理が行われているか否かは問わないものである。したがって、図3に示すように、被処理溶液Sは、少なくとも反応槽20内にある溶液であればよく、処理水Wとして反応槽20外に排出される直前の溶液を含んでもよい。
【0053】
循環手段50は、被処理溶液Sを反応槽20内から抜き出し、再度反応槽20内に返送して循環させるものである。
循環手段50は、図3に示すように、被処理溶液Sを反応部2から一旦抜き出し、その後、返送、循環させることができるものであればよく、具体的な構造については特に限定されない。例えば、図3に示すように、配管51の端部51aを反応槽20の側面に接続し、もう一方の配管51の端部51bをラインL1と配管51が平行となるように、反応槽20に接続することが挙げられる。これにより、反応槽20内の被処理溶液Sを一旦抜き出し、端部40b側から反応槽20内に再度被処理溶液Sを導入して循環させることができる。
【0054】
このとき、循環させた被処理溶液Sにより、反応槽20内を撹拌する撹拌流を形成することができる。これにより、酸素透過膜21に対して微生物Mが過度に付着することを抑制するとともに、反応槽20内において、微生物Mと被処理水W0中の処理対象成分(有機物など)の接触効率を向上させることができる。
したがって、撹拌部5として循環手段50を設けて被処理溶液Sを循環させ、反応槽20内に撹拌流を形成することで、酸素透過膜21における酸素供給効率の低下を抑制し、MABRを用いた好気処理の処理効率の維持・向上が可能となる。また、MABRを用いることによる省エネルギー化の効果を十分に生かすことが可能となる。
【0055】
なお、循環手段50には、上述した第1の実施態様における循環経路4と同様の機能を備えるものとしてもよい。
例えば、配管51の端部51aに、固体分の流入を抑制するための構造や機構を設けるものとしてもよい。これにより、配管51内を移動する被処理溶液Sを主に溶液からなるものとすることができ、被処理溶液Sを反応部2に返送、循環した際に、反応槽20内を撹拌する撹拌流をより確実に形成させることができる。
また、配管51上に、ポンプや流量調節弁などを設け、端部51bから反応槽20内に導入する被処理溶液Sの流速を制御可能とするものとしてもよい。さらに、反応槽20内に導入する被処理溶液Sの流速は、ラインL1を介して反応槽20内に導入する被処理水W0の流入速度よりも速くすることが好ましい。これにより、被処理溶液Sを反応槽20内に導入した際に、反応槽20内を撹拌する撹拌流を確実に形成させることが可能となるとともに、撹拌流の流速を制御することも可能となる。なお、撹拌流の流速については特に限定されない。例えば、酸素透過膜表面21b上に微生物Mの堆積が生じない程度とすることや、反応槽20内の固体分(活性汚泥など)が流動する程度とすることなどが挙げられる。
【0056】
本実施態様の水処理装置1Bにおける撹拌部5は、ポンプと、固液分離部と、循環経路とからなるものとしてもよい。また、このときの固液分離部としては、MBRを用いることが好ましい。これにより、MABRによる好気処理に加えて、MBRによる固液分離処理が行われるため、得られる処理水の水質が高められるという効果を奏する。なお、撹拌部5として用いるポンプ、固液分離部、循環経路の具体的な構造は、特に限定されない。例えば、上述した第1の実施態様と同様の構造を用いるものとすることができる。
【0057】
以上のように、本実施態様の水処理装置及び水処理方法により、MABRによる好気処理を伴う水処理において、好気処理を行う反応部内に導入されている被処理溶液を一旦抜き出し、再度反応部側へ返送して循環させる撹拌部を設けることで、MABRを用いる反応部内を撹拌する撹拌流を形成することが可能となる。これにより、MABRによる水処理装置の省エネルギー化の効果を十分に生かすことができるとともに、MABRを用いた好気処理の処理効率の維持・向上が可能となる。また、反応部内に機械式の撹拌装置を設けることなく、反応部内の撹拌が可能となるため、水処理装置内に撹拌装置のためのスペースを設ける必要がなく、かつ機械式の撹拌装置の駆動に係る運転コストが不要であるという効果も奏するものである。
【0058】
なお、上述した実施態様は水処理装置及び水処理方法の一例を示すものである。本発明に係る水処理装置及び水処理方法は、上述した実施態様に限られるものではなく、要旨を変更しない範囲で、上述した実施態様に係る水処理装置及び水処理方法を変形してもよい。
【0059】
例えば、本実施態様の水処理装置において、固液分離部は、MBRの代わりに沈殿槽とし、反応部に循環させる溶液として、沈殿槽の上澄み液を用いるものとしてもよい。これにより、曝気槽と沈殿槽の組み合わせからなる従来の水処理装置の更新時に、既設の曝気槽を、本実施態様におけるMABRを用いた反応槽とすることで、省エネルギー化及び処理効率の維持・向上が可能となる本発明の水処理装置に相当する構成を容易に得ることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の水処理装置及び水処理方法は、好気処理を伴う水処理に利用することができる。特に、排水等の被処理水を活性汚泥により生物処理を行う水処理に対し、本発明を好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0061】
1A,1B 水処理装置、2 反応部、20 反応槽、21 酸素透過膜、21a,21b 酸素透過膜表面、3 固液分離部、30 MF膜、4 循環経路、40 配管、40a,40b 配管の端部、5 撹拌部、50 循環手段、51 配管、51a,51b 配管の端部、L1~L5 ライン、B ブロワ、M 微生物、P ポンプ、S 被処理溶液、W0 被処理水、W1 好気処理水、W2 未処理液、W 処理水
図1
図2
図3