(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】ブラシレスモータ
(51)【国際特許分類】
H02K 3/50 20060101AFI20240215BHJP
H02K 3/04 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
H02K3/50 A
H02K3/04 J
(21)【出願番号】P 2019229000
(22)【出願日】2019-12-19
【審査請求日】2022-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000144027
【氏名又は名称】株式会社ミツバ
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 恭平
【審査官】稲葉 礼子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/102643(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/030480(WO,A1)
【文献】特開2009-290922(JP,A)
【文献】特開2019-017211(JP,A)
【文献】国際公開第2018/220936(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/50
H02K 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多相ブラシレスモータであって、
ケースと、
前記ケース内に設けられ、複数の磁極を形成し、軸方向を規定する回転軸まわりに回転可能なロータと、
前記ケース内に設けられ、ステータコア及びステータコイルを有するステータと、
前記ステータに対し前記軸方向の一端側に設けられるバスバユニットと、を備え、
前記ステータコアは、複数のティースを有し、
前記ステータコイルは、前記複数のティースに巻装される複数の巻装部と、複数のコイル端子部とを有し、
複数の相を複数の系統で形成し、
前記複数の巻装部は、系統ごとの同相同士が周方向で隣接しかつ巻線により結線され、
前記バスバユニットは、中性点に電気的に接続されるバスバと、前記バスバを封止する樹脂部とを備え、
前記バスバは、前記回転軸まわりに延在する板状の金属部材であり、前記系統の数に対応する数だけ設けられ、
前記ステータコイルは、中性点と各相間を結線する渡り部を、前記バスバと協動して形成する複数の結線用導体部を更に有し、
前記複数のコイル端子部のそれぞれは、前記複数の巻装部における前記軸方向の一端側から前記軸方向に延在する直線状の形態であり、
前記樹脂部は、前記複数のコイル端子部が前記軸方向に挿通される複数の挿通穴を有する、ブラシレスモータ。
【請求項2】
前記ケースは、円筒状の側面部と、前記樹脂部を覆う端面部とを有し、
前記樹脂部は、前記軸方向で前記端面部に隣接する、請求項1に記載のブラシレスモータ。
【請求項3】
前記端面部は、前記軸方向に貫通する複数の貫通穴を有し、
前記樹脂部は、前記軸方向に延在しかつ前記複数の挿通穴を形成する筒状の複数の中空ガイド部を有し、
前記複数の中空ガイド部は、前記複数の貫通穴を介して前記ケースの外側に露出する、請求項2に記載のブラシレスモータ。
【請求項4】
前記ステータは、前記ケースに圧入により固定され、
前記複数の貫通穴は、前記軸方向に垂直な平面で切断したときの穴形状が、同平面で切断したときの、前記複数の中空ガイド部の外形よりも大きい、請求項3に記載のブラシレスモータ。
【請求項5】
前記複数の中空ガイド部は、前記軸方向に視て、前記回転軸まわりに非回転対称に配置される、請求項3または請求項4に記載のブラシレスモータ。
【請求項6】
前記複数の中空ガイド部のそれぞれは、前記軸方向で前記ステータコアに近い側の端部において、前記軸方向に垂直な平面で切断したときの、前記挿通穴の断面積が、前記軸方向で前記ステータコアに近くなるほど広くなる、請求項3~請求項5のいずれか1項に記載のブラシレスモータ。
【請求項7】
前記ロータは、前記ステータに対して径方向内側に配置され、
前記樹脂部は、前記回転軸まわりの円環状の形態の本体部と、前記本体部の外周まわりの一部の区間において前記本体部から径方向外側に突出する複数のフランジ部とを備え、
前記複数の中空ガイド部は、前記複数のフランジ部に設けられる、請求項3~請求項6のいずれか1項に記載のブラシレスモータ。
【請求項8】
前記複数の結線用導体部のそれぞれは、前記複数の巻装部における前記軸方向の一端側から前記軸方向に延在する直線状の形態であり、
前記バスバは、前記本体部の外周まわりにおける、前記複数のフランジ部が形成されない区間において、前記本体部から径方向外側に突出する複数の接合部を有し、
前記複数の接合部は、前記複数の結線用導体部と溶接により接合される、請求項7に記載のブラシレスモータ。
【請求項9】
前記複数のフランジ部のそれぞれは、周方向両側に壁部を有し、
前記壁部は、前記軸方向で、前記複数の中空ガイド部よりも前記ステータコアに近い位置まで延在する、請求項8に記載のブラシレスモータ。
【請求項10】
前記壁部は、周方向に視たときの外形が、台形を含み、
該台形は、周方向に視たとき、前記軸方向に交差する方向に延在する上底と下底とを有し、
前記下底は、前記軸方向で前記本体部における前記ステータコアに近い側の表面又はその近傍に位置し、
前記上底は、前記軸方向で前記複数のフランジ部に近い側に位置し、かつ、前記下底よりも長い、請求項9に記載のブラシレスモータ。
【請求項11】
前記ステータコイルは、複数の相を複数の系統で形成し、
前記複数の系統は、第1系統と第2系統とを含み、
前記複数の巻装部のうちの、前記第1系統に係る同相に係る2つの巻装部は、周方向で隣接しかつ前記ティースまわりの巻き方向が互いに逆であり、
前記複数の巻装部のうちの、前記第2系統に係る同相に係る2つの巻装部は、周方向で隣接しかつ前記ティースまわりの巻き方向が互いに逆であり、
前記第1系統に係る一の相に係る前記2つの巻装部のうちの、中性点側の巻装部と、前記第2系統に係る該一の相に係る前記2つの巻装部のうちの、中性点側の巻装部とは、前記ティースまわりの巻き方向が逆である、請求項1~
請求項10のいずれか1項に記載のブラシレスモータ。
【請求項12】
多相ブラシレスモータであって、
ケースと、
前記ケース内に設けられ、複数の磁極を形成し、軸方向を規定する回転軸まわりに回転可能なロータと、
前記ケース内に設けられ、ステータコア及びステータコイルを有するステータと、
前記ステータに対し前記軸方向の一端側に設けられるバスバユニットと、を備え、
前記ステータコアは、複数のティースを有し、
前記ステータコイルは、前記複数のティースに巻装される複数の巻装部と、複数のコイル端子部とを有し、
前記バスバユニットは、中性点に電気的に接続されるバスバと、前記バスバを封止する樹脂部とを備え、
前記複数のコイル端子部のそれぞれは、前記複数の巻装部における前記軸方向の一端側から前記軸方向に延在する直線状の形態であり、
前記樹脂部は、前記回転軸まわりの円環状の形態の本体部と、前記本体部の外周まわりの一部の区間において前記本体部から径方向外側に突出する複数のフランジ部とを備え、
前記複数のフランジ部には、前記軸方向に延在しかつ複数の挿通穴を形成する筒状の複数の中空ガイド部が設けられ、前記複数の挿通穴には、前記複数のコイル端子部が挿通し、
前記複数のフランジ部のそれぞれは、周方向両側に壁部を有し、
前記壁部は、前記軸方向で、前記複数の中空ガイド部よりも前記ステータコアに近い位置まで延在する、ブラシレスモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシレスモータに関し、特に多相ブラシレスモータに関する。
【背景技術】
【0002】
ステータに対し軸方向の一端側に、バスバを樹脂部で封止してなるバスバユニットを設ける技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
モータを軸方向の一端側でバスバを介して外部機器(例えば制御装置)に電気的に接続する構成では、バスバユニットに起因して軸方向の体格が大きくなりやすい。特に、これは、バスバユニット内で複数のバスバが軸方向に積層される場合に顕著となる。この場合、バスバ数(軸方向の段数)が増えるほど、バスバユニットの軸方向の厚みが大きくなる傾向となる。
【0005】
本発明は、上記問題を解決すべくなされたもので、その目的は、バスバユニットを備えるブラシレスモータの軸方向の体格の低減を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題を解決するために、本発明の一態様は、多相ブラシレスモータであって、
ケースと、
前記ケース内に設けられ、複数の磁極を形成し、軸方向を規定する回転軸まわりに回転可能なロータと、
前記ケース内に設けられ、ステータコア及びステータコイルを有するステータと、
前記ステータに対し前記軸方向の一端側に設けられるバスバユニットと、を備え、
前記ステータコアは、複数のティースを有し、
前記ステータコイルは、前記複数のティースに巻装される複数の巻装部と、複数のコイル端子部とを有し、
前記バスバユニットは、中性点に電気的に接続されるバスバと、前記バスバを封止する樹脂部とを備え、
前記複数のコイル端子部のそれぞれは、前記複数の巻装部における前記軸方向の一端側から前記軸方向に延在する直線状の形態であり、
前記樹脂部は、前記複数のコイル端子部が前記軸方向に挿通される複数の挿通穴を有する、ブラシレスモータが提供される。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、バスバユニットを備えるブラシレスモータの軸方向の体格の低減を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A】車両用操舵装置の一例を概略的に示す全体図である。
【
図1B】ECUの主要な入出力の一例を示す図である。
【
図2】一実施形態による多相ブラシレスモータの外観を示す斜視図である。
【
図3】
図2の多相ブラシレスモータのケースを取り外した状態を示す斜視図である。
【
図5】回転軸に垂直な平面で切断した際の多相ブラシレスモータの断面図である。
【
図6】第1系統及び第2系統における各相の巻線に係る結線の説明図である。
【
図8】バスバと、複数のコイル端子部と、複数の結線用導体部との関係を示す斜視図である。
【
図9】中空ガイド部の説明図であり、特定の一の中空ガイド部の中心を通る断面図である。
【
図10】本実施形態の多相ブラシレスモータの製造方法の流れの概略フローチャートである。
【
図11A】周方向に視たときの、本実施形態による壁部の外形を示す図である。
【
図11B】周方向に視たときの壁部の外形の他の一例を示す図である。
【
図11C】周方向に視たときの壁部の外形の他の一例を示す図である。
【
図13】バスバユニットに係るバスバ部分の組み付け状態の斜視図である。
【
図14】バスバユニットに係るバスバ部分の分解状態の斜視図である。
【
図15】バスバユニットの透視による側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0010】
図1Aは、車両用操舵装置10の一例を概略的に示す全体図である。車両用操舵装置10は、運転者が操作するステアリングホイール11を含むステアリングコラム12を備える。ステアリングコラム12は、ステアリングホイール11の回転軸となるステアリングシャフト14を回転可能に支持する。ステアリングシャフト14は、ゴムカップリング13等を介して中間シャフト(インターミディエイトシャフト)16に接続される。中間シャフト16はピニオンシャフト(出力軸)に接続され、ステアリングギアボックス31内でピニオンシャフトのピニオン17がステアリングラック(ラックバー)18に噛合される。ステアリングラック18の両端には、それぞれタイロッド19の一端が接続されるとともに各タイロッド19の他端にはナックルアーム等(図示せず)を介して転舵輪(図示せず)が接続されている。また、中間シャフト16又はステアリングシャフト14には、ステアリングホイール11の操舵角に応じた信号を発生する舵角センサ26や、ステアリングシャフト14に付与される操舵トルクに応じた信号を発生するトルクセンサ15が設けられる。
【0011】
車両用操舵装置10は、電動パワーステアリング装置20を備える。電動パワーステアリング装置20は、電動モータ22を備える。電動モータ22は、例えば3相ブラシレスモータで構成される。電動モータ22は、ステアリングギアボックス31内にステアリングラック18と同軸に設けられてよい。例えば、電動モータ22は、ボールねじナットを介してステアリングラック18に噛合されてよい。電動モータ22は、その駆動力によりステアリングラック18の移動を助勢又は減勢する。すなわち、電動モータ22の作動時、ロータ5の回転によりボールねじナットが回転し、これにより、ステアリングラック18をその軸方向に移動(助勢又は減勢)させる。電動パワーステアリング装置20の機械的な構成自体は、電動モータ22の配置場所を含め、任意であってよい。例えば、電動モータ22は、ステアリングシャフト14(ピニオンシャフト等)に噛合されてもよい。また、電動モータ22の回転動力は、減速機構を介して伝達されてもよい。
【0012】
図1Bは、ECU(Electronic Control Unit)80の主要な入出力の一例を示す図である。車両用操舵装置10は、各種制御を行う制御装置としてのECU80を備える。ECU80は、例えばマイクロコンピュータを含んでなり、例えば、CPU(Central Processing Unit)、制御プログラムを格納するROM(Read Only Memory)、演算結果等を格納する読み書き可能なRAM(Random Access Memory)、タイマ、カウンタ、入力インターフェイス、及び出力インターフェイス等を有する。
【0013】
ECU80の機能は、操舵システムを統括する単一のECUにより実現されてもよいし、2つ以上のECUにより協動して実現されてもよい。ECU80には、各種制御を実現するための情報ないしデータが入力される。例えば、ECU80には、トルクセンサ15、回転角センサ24、舵角センサ26、車速センサ(図示せず)、画像センサやレーダセンサのような周辺監視センサ(図示せず)等から各種のセンサ値が所定周期ごとに入力されてよい。また、ECU80には、電動モータ22の各相の相電流を検出する電流センサ(図示せず)が接続される。また、ECU80には、制御対象として電動モータ22が接続されている。
【0014】
ECU80は、トルクセンサ15や回転角センサ24等の出力信号に基づいて、電動モータ22で発生させるべき回転トルク(回転動力)に関する目標値を決定する。回転トルクに関する目標値は、電流や電圧等を含む任意の物理量であってよく、例えば、電動モータ22に印加するモータ電流値(モータ駆動用のデューティ指示値)であってよい。回転トルクに関する目標値は、任意の態様で決定されてもよい。例えば、速度感応式ステアリングアシスト制御の場合、回転トルクに関する目標値は、運転者による操舵トルクτの増加に応じて回転トルクが大きくなるように決定され、車速Vが大きい場合は小さい場合より回転トルクが小さくなるように決定されてもよい。また、電動モータ22に印加されるモータ電流値は、電動モータ22(ロータ)の回転角度θを検出する回転角センサ24の出力信号や電流センサの出力信号(相電流検出値Iu、Iv、Iw)に基づいてフィードバック制御されてよい。なお、電動モータ22を利用した制御も多様でありえ、例えば、電動モータ22は、速度感応式ステアリングアシスト制御に加えて又は代えて、車両が車線内の適切な横位置での走行を維持できるようにアシストする車線維持支援システム(LKA)等で利用されてよい。
【0015】
図2は、一実施形態による多相ブラシレスモータ1の外観を示す斜視図である。
図2には、回転軸Iに平行なX方向が定義されている。X方向は、多相ブラシレスモータ1の軸方向に対応し、以下の説明では、適宜、X1側及びX2側という用語で、X方向に沿った要素間の相対的な位置関係を示す場合がある。また、「径方向」及び「周方向」の各用語は、回転軸Iを基準とする。
図3は、
図2の多相ブラシレスモータ1のケース4を取り外した状態を示す斜視図である。
図4は、多相ブラシレスモータ1の分解斜視図である。
図4では、図面の複雑化を低減するための都合上、一部の部品(ステータ6のインシュレータ68等)の図示は省略されている。
図5は、極数とスロット数の一例の説明図であり、回転軸Iに垂直な平面で切断した際の多相ブラシレスモータ1の断面図である。
図6は、第1系統及び第2系統における各相の巻線に係る結線の説明図である。
図7は、バスバ70の単品状態を示す斜視図である。
図8は、バスバ70と、複数のコイル端子部622と、複数の結線用導体部623との関係を示す斜視図である。
図9は、中空ガイド部728の説明図であり、特定の一の中空ガイド部728の中心を通る断面図である。
【0016】
多相ブラシレスモータ1は、上述した電動モータ22(
図1A参照)として好適に利用できる。ただし、多相ブラシレスモータ1は、他の用途に利用されてもよい。多相ブラシレスモータ1は、例えば軸方向を規定する回転軸Iを有する。
【0017】
本実施形態では、多相ブラシレスモータ1は、一例として、10極12スロットの構成であり、U相、V相、及びW相の3相を2系統で有する。以下では、第1系統に係るU相、V相、及びW相と、第2系統に係るU相、V相、及びW相とは、第1系統に「(1)」を付し第2系統に「(2)」を付すことで表記上、区別する場合がある。
【0018】
多相ブラシレスモータ1は、ケース4と、ロータ5と、ステータ6と、バスバユニット7と、ブラケット8とを含む。
【0019】
ケース4は、ステータ6、ロータ5、及びバスバユニット7の一部を収容する。ケース4は、有底の円筒状の形態であり、円筒状の側面部40と、端面部42とを有する。なお、
図2では、ケース4には、固定用のフランジ体4aが固定されている。
【0020】
端面部42は、X方向でバスバユニット7に隣接する。すなわち、端面部42は、バスバユニット7にX方向X1側から隣接する。端面部42は、X方向に貫通する複数の貫通穴422を有する。
【0021】
ロータ5は、インナーロータタイプであり、ステータ6の径方向内側に配置される。ロータ5は、回転軸Iを形成するシャフト52を備える。なお、シャフト52には、回転角センサ24(
図2以降では図示せず)が設けられてよい。ロータ5は、複数の磁極を形成するように、外周部に、磁極を形成する磁石(図示せず)を有し、更に、当該磁石を径方向外側から覆うカバー磁石54を有する。本実施形態では、ロータ5は、10極を形成する。
【0022】
ステータ6は、ステータコア61と、ステータコイル62と、インシュレータ68とを有する。
【0023】
ステータコア61は、例えば積層鋼板により形成される。ステータコア61は、周方向で分離された分割コアタイプであるが、一体タイプであってもよい。ステータコア61は、複数のティース613により形成される複数のスロット612を有する。複数のスロット612は、周方向で複数のティース613間に形成され、径方向内側が開口する。スロット612は、回転軸Iまわりに回転対称な位置関係で配置される。スロット612の数は、任意であるが、本実施形態では、12個である。
【0024】
ステータコイル62は、巻装部621と、複数のコイル端子部622と、複数の結線用導体部623とを含む。
【0025】
巻装部621は、例えば断面が円形の銅線により形成される。巻装部621は、複数のスロット612に挿入される態様(複数のティース613に巻回される態様)でステータコア61に巻装される。巻装部621は、ティース613ごとを一単位として、ティース613の数(=スロット612の数)に対応して複数設けられる。複数の巻装部621は、第1系統に係るU相、V相、及びW相と、第2系統に係るU相、V相、及びW相とを、それぞれ対で形成する。本実施形態では、一例として、複数の巻装部621は、
図5に示すような態様で、第1系統に係るU相、V相、及びW相と、第2系統に係るU相、V相、及びW相とを、それぞれ対で形成する。例えば、ステータコア61のティース6131まわりに巻回される巻装部621は、第2系統に係るU相(-U(2))を形成し、ステータコア61のティース6132まわりに巻回される巻装部621は、第1系統に係るV相(-V(1))を形成し、以下同様である。本実施形態では、
図5に示すように、第1系統に係るU相、V相、及びW相と、第2系統に係るU相、V相、及びW相は、同相が2つずつ隣接する態様で、周方向に交互に配置される。また、隣接する同相同士は、巻き方が逆とされる(
図5の表記“-”は、巻き方が逆であることを表す)。
【0026】
ところで、本実施形態とは異なり8極12スロットの場合、それぞれの相を点対称に配置し、かつ2系統を均等に配置できる。これに対して、本実施形態のような10極12スロットの場合、それぞれの相が点対称にならず、また2系統を均等に配置できない。この点で、10極12スロットの場合の方が、8極12スロットの場合よりも、必要なバスバ数が増加する傾向となり、その結果、X方向のレイアウトスペースの低減を図ることが難しい傾向となる。この点、本実施形態は、以下で説明するようにバスバ数を効率的に低減できるので、10極12スロットの場合に好適であるが、8極12スロットの場合や他の構成にも適用可能である。
【0027】
本実施形態では、複数の巻装部621は、系統ごとの同相同士が周方向で隣接しかつ巻線により結線される。
図5に示す例では、例えば第1系統のU相に関して、巻装部621Aと、巻装部621Bとは、互いに巻線により結線される。すなわち、隣り合う同相同士を、バスバを用いずに、巻線の連続によって形成する。これにより、隣り合う同相同士を、バスバを用いて電気的に接続する構成に比べて、バスバ数(軸方向の段数)を低減できる。
【0028】
図6には、第1系統と第2系統のそれぞれについて、スター結線された各相の巻装部621が示されている。
図6では、隣り合う同相同士であって、上述のように巻線により結成される箇所は、符号(b)、(d)、(f)、(i)、(k)、(m)で示されている。
【0029】
複数のコイル端子部622のそれぞれは、複数の巻装部621におけるX方向X1側からX方向に延在する直線状の形態である。複数のコイル端子部622のそれぞれは、巻装部621と同一のコイル線(例えば断面が円形の銅線)により形成されてよい。複数のコイル端子部622は、第1系統に係るU相、V相、及びW相と、第2系統に係るU相、V相、及びW相とを、ECU80(
図1B)に電気的に接続するための外部端子を形成する。
図6では、複数のコイル端子部622により形成される箇所は、符号(a)、(e)、(g)、(h)、(l)、(n)で示されている。従って、本実施形態では、複数のコイル端子部622は、合計6本であり、複数の巻装部621のうちの、対応する巻装部621(ECU80に電気的に接続される巻装部621)のX方向X1側から、X方向にX1側に向かって直線状に延在する。例えば、第1系統のU相に係るコイル端子部622は、第1系統のU相に係る一の巻装部621のX方向X1側から、X方向にX1側に向かって直線状に延在する。なお、複数のコイル端子部622は、複数の巻装部621と同じ巻線で連続的に形成されてもよいし、他の形態の導体線により形成されてもよい。
【0030】
複数の結線用導体部623は、複数の巻装部621におけるX方向X1側からX方向に延在する直線状の形態である。複数の結線用導体部623のそれぞれは、巻装部621と同一のコイル線(例えば断面が円形の銅線)により形成されてよい。複数の結線用導体部623は、複数のコイル端子部622に対して周方向でオフセットした位置に設けられる。複数の結線用導体部623は、中性点と各相間を結線する渡り部の一部を形成する。
図6では、複数の結線用導体部623により形成される箇所は、符号(c)、(j)で示される中点に向かう各結線である。従って、本実施形態では、複数の結線用導体部623は、合計6本であり、複数の巻装部621のうちの、対応する巻装部621(中性点に電気的に接続される巻装部621)のX方向X1側から、X方向にX1側に向かって直線状に延在する。複数の結線用導体部623は、複数のコイル端子部622よりもX方向X2側で終端する。すなわち、複数の結線用導体部623は、複数のコイル端子部622よりもX方向の長さが短い。
【0031】
インシュレータ68は、ステータコア61とステータコイル62との間の絶縁を確保する。インシュレータ68は、例えば各スロット612を形成するティース613(
図4参照)に嵌合されてよい。
【0032】
バスバユニット7は、ステータ6に対しX方向X1側に設けられる。バスバユニット7は、ステータ6のインシュレータ68(
図3参照)のX方向X1側の端面上に支持(載置)されてよい。なお、バスバユニット7が載置されるインシュレータ68の端面は、巻装部621よりも径方向内側に位置し、かつ、X方向で巻装部621よりもわずかにX1側に位置する。これにより、インシュレータ68と巻装部621との間のX方向の必要なクリアランスを確保しつつ、多相ブラシレスモータ1のX方向の寸法の低減を図ることができる。
【0033】
バスバユニット7は、バスバ70と、樹脂部72とを含む。
【0034】
バスバ70は、
図7に示すように、回転軸Iまわりに延在する板状の金属部材である。バスバ70は、例えば板金部材からプレス成形により形成されてよい。バスバ70は、ステータコイル62の中性点に電気的に接続される。バスバ70は、系統の数に対応する数だけ設けられる。従って、本実施形態では、2つバスバ70A、70Bが設けられる。バスバ70A、70Bは、
図7に示すように、互いに所定の絶縁距離だけX方向に離間するように、X方向にオフセットして配置される。バスバ70A、70Bは、それぞれ、
図4に示すように、複数の接合部704(本実施形態では、3つの接合部704)を有する。複数の接合部704は、複数の結線用導体部623と接合される。このようにして、バスバ70A、70Bは、複数の結線用導体部623と協動して、中性点と各相間を結線する渡り部を形成する。なお、
図6では、バスバ70A、70B(及び上述した複数の結線用導体部623)により形成される箇所は、符号(c)、(j)で示される中点に向かう各結線である。
【0035】
複数の接合部704のそれぞれは、
図7等に示すように、径方向外側に向かって延在する。複数の接合部704の周方向の位置は、複数の結線用導体部623の周方向の位置にそれぞれ対応する。従って、複数の接合部704の周方向の位置は、複数のコイル端子部622の周方向の位置に対して周方向にオフセットする。複数の接合部704のそれぞれは、好ましくは、径方向外側の先端部に、結線用導体部623を挟持できる切り欠き7041を有する。切り欠き7041は、X方向に貫通し、周方向に、結線用導体部623の線径に対応した隙間を有する。この場合、切り欠き7041に結線用導体部623を挟持した状態(
図8参照)で、両者を溶接により接合できるので、溶接時の作業性が良好であるとともに、溶接部の信頼性を高めることができる。
【0036】
樹脂部72は、バスバ70A、70Bを封止する。この際、樹脂部72は、好ましくは、バスバ70A、70Bにおける複数の接合部704以外の全体を封止する。これにより、樹脂部72にバスバ70A、70Bを強固に固定できるので、バスバ70A、70B間のX方向の隙間を最小化でき、バスバユニット7のX方向の寸法(樹脂部72の本体部720のX方向の寸法)の低減を図ることができる。
【0037】
樹脂部72は、X方向でケース4の端面部42に隣接する。具体的には、バスバユニット7は、樹脂部72の本体部720がケース4の端面部42にX方向X2側からX方向に当接する態様で、ケース4に対して配置される。これにより、バスバユニット7の樹脂部72の本体部720とケース4との間に、別のインシュレータ(例えばケースインシュレータ)を設ける場合に比べて、多相ブラシレスモータ1のX方向の寸法の低減を図ることができる。すなわち、本実施形態によれば、バスバユニット7は、ケースインシュレータとしても機能するので、多相ブラシレスモータ1のX方向の寸法を効率的に低減できる。
【0038】
樹脂部72は、本体部720と、フランジ部725とを含む。
【0039】
本体部720は、回転軸Iまわりの円環状の形態である。本体部720は、好ましくは、バスバ70A、70Bを適切に封止するのに必要な最小限のX方向の寸法を有する。本体部720は、バスバ70A、70Bのうちの、接合部704以外の部分を封止する。
【0040】
フランジ部725は、バスバ70A、70Bを封止しない部分であり、
図3及び
図4に示すように、本体部720の外周まわりの一部の区間において本体部720から径方向外側に突出する。すなわち、フランジ部725は、本体部720の外周まわりの全体にわたり延在する鍔状の形態ではなく、周方向で離間する態様で複数設けられる。本実施形態では、一例として、4つのフランジ部725が設けられる。フランジ部725は、周方向で複数の接合部704に対してオフセットして設けられる。すなわち、フランジ部725は、X方向に視て、複数の接合部704のいずれとも重なることがない範囲に設けられる。更に換言すると、バスバ70A、70Bは、本体部720の外周まわりにおける、複数のフランジ部725が形成されない区間において複数の接合部704を有する。これにより、複数の接合部704と複数の結線用導体部623との間の溶接の作業性が、フランジ部725の影響を受け難くなり良好となる。
【0041】
複数のフランジ部725のそれぞれには、
図3及び
図4に示すように、中空ガイド部728が設けられる。なお、本実施形態では、複数のフランジ部725は、1つの中空ガイド部728が設けられる2つのフランジ部725Aと、2つの中空ガイド部728がそれぞれ設けられる2つのフランジ部725Bとを含む。なお、2つのフランジ部725Bのそれぞれは、2つのフランジ部725Aのそれぞれよりも周方向の長さが長い。
【0042】
中空ガイド部728のそれぞれは、筒状の形態であり、X方向に延在する。中空ガイド部728のそれぞれの中空部には、複数のコイル端子部622のそれぞれがX方向に挿通される。すなわち、中空ガイド部728のそれぞれの中空部は、複数のコイル端子部622のそれぞれがX方向に挿通される挿通穴7281(
図9参照)を形成する。従って、複数の中空ガイド部728は、複数のコイル端子部622と同じ数で、複数のコイル端子部622に対応する位置(回転軸Iまわりの周方向の位置)に形成される。なお、挿通穴7281は、X方向に垂直な平面で切断したときの断面積が、コイル端子部622よりもわずかに大きい。
【0043】
複数の中空ガイド部728のそれぞれは、
図9に示すように、X方向X2側の端部において、X方向に垂直な平面で切断したときの、挿通穴7281の断面積が、X方向X2側に向かうほど広くなる。これにより、挿通穴7281へのX方向X2側からのコイル端子部622の挿通(テーパ形状によるガイド機能が実現されるため)が容易となる。
【0044】
複数の中空ガイド部728のそれぞれは、それぞれに挿通されるコイル端子部622を、ケース4の外側(X方向X1側の外側)へとガイドする機能を有する。具体的には、複数の中空ガイド部728のそれぞれは、
図2に示すように、ケース4の複数の貫通穴422を介してケース4の外側に露出する。なお、この目的のため、複数の貫通穴422は、複数の中空ガイド部728と同じ数で、複数の中空ガイド部728に対応する位置(回転軸Iまわりの周方向の位置)に形成される。また、X方向に垂直な平面で切断した際の、貫通穴422のそれぞれの穴形状は、中空ガイド部728のそれぞれの外形よりも有意に大きい。
【0045】
また、複数の中空ガイド部728のそれぞれは、コイル端子部622を保護する機能も有する。すなわち、複数の中空ガイド部728のそれぞれは、ケース4の端面部42をX方向X1側に超えて延在するので、コイル端子部622がケース4の貫通穴422まわりに接触することや、他の部材等と干渉することを、効果的に抑制できる。
【0046】
ブラケット8は、ロータ5及びステータ6のX方向X2側に設けられる。ブラケット8は、ケース4の端面部42に軸方向で対向するように設けられる。ブラケット8は、ケース4の端面部42とともに、ロータ5のシャフト52を回転可能に支持する。
【0047】
次に、
図10を参照して本実施形態の多相ブラシレスモータ1の製造方法を概説しつつ、
図11A以降を更に参照して、製造方法に関連した多相ブラシレスモータ1の好ましい構成について更に説明する。
【0048】
図10は、本実施形態の多相ブラシレスモータ1の製造方法の流れの概略フローチャートである。
図11Aは、周方向に視たときの、本実施形態による壁部7251の外形を示す図である。
図11Bは、周方向に視たときの壁部7251Bの外形の他の一例を示す図である。
図11Cは、周方向に視たときの壁部7251Cの外形の他の一例を示す図である。
図12は、貫通穴422の穴形状の説明図である。
【0049】
図10に示す本実施形態の多相ブラシレスモータ1の製造方法は、ステータ6を準備し(S10)、次いで、ステータ6のX方向X1側にバスバユニット7を組み付ける(S12)ことを含む。この際、上述したように、接合部704のそれぞれの切り欠き7041に、対応する結線用導体部623を挟持させる(
図8参照)。
【0050】
ここで、バスバユニット7を組み付ける際、中空ガイド部728の挿通穴7281内に、ステータ6のコイル端子部622が挿通される。ここで、複数のコイル端子部622及びそれに伴い複数の中空ガイド部728は、好ましくは、X方向に視て、回転軸Iまわりに非回転対称に配置される。すなわち、複数のコイル端子部622及びそれに伴い複数の中空ガイド部728は、好ましくは、周方向に不均等な間隔をおいて配置される。これにより、ステータ6に対するバスバユニット7の組み付けの際の適切な向き(回転方向の向き)が一意に決まることになり、誤った組み付けを効果的に防止できる。
【0051】
特に本実施形態では、1つの中空ガイド部728を備える2つのフランジ部725Aと、2つの中空ガイド部728を備える2つのフランジ部725Bとが、1つずつ周方向に交互に配置されるのではなく、
図3及び
図4に示すように、2つが対をなす態様で配置される。これにより、バスバユニット7の周方向の向きが把握しやすくなり、組み付け性が向上する。
【0052】
この点について、
図5及び
図6を再度参照しつつ、詳説する。
図5には、各ティース613に対応付けて○付きの数字“1”~“12”が示され、
図6では、第1系統及び第2系統のそれぞれにおいて、各巻装部621に対応付けたカッコ内に、相と巻き方向とを表す記号“U”、“V”、“W”又は“-U”、“-V”、“-W”が付与されている。また、
図6には、各巻装部621に対応付けて、各ティース613に対応付けられた○付きの数字“1”~“12”が示されている。
【0053】
実施形態においては、第1系統において、3つのコイル端子部622が引き出される3つの巻装部621は、
図6に示すように、各相に係る同じ巻き方向(ここでは、U、V、W)の巻装部621である。従って、第1系統において、3つのコイル端子部622が引き出される3つの巻装部621は、
図5に示す○内の数字が“1”、“9”、“5”のティース613に位置する。他方、第2系統において、3つのコイル端子部622が引き出される3つの巻装部621は、
図6に示すように、U相だけV相及びW相に対して逆の巻き方向(ここでは、-U、V、W)である。従って、第2系統において、3つのコイル端子部622が引き出される3つの巻装部621は、
図5に示す○内の数字が“7”、“2”、“10”のティース613に位置する。よって、これらを合わせると、6つコイル端子部622は、
図5に示す○内の数字が“1”、“2”、“5”、“7”、“9”、“10”のティース613に位置する。すなわち、周方向に不均等な間隔をおいて配置される。
【0054】
なお、本実施形態とは異なり、第2系統においても、3つのコイル端子部622が引き出される3つの巻装部621が、各相に係る同じ巻き方向である場合(例えば、第1系統と同じである場合)、第2系統において、3つのコイル端子部622が引き出される3つの巻装部621は、
図5に示す○内の数字が“6”、“2”、“10”のティース613に位置することになる。この場合、第1系統と第2系統を合わせると、6つコイル端子部622は、
図5に示す○内の数字が“1”、“2”、“5”、“6”、“9”、“10”のティース613に位置する。すなわち、隣り合う2つが対になって、隣接する対同士の周方向の間隔が2つのティース613分で同じとなる(すなわち均等な間隔をおいて配置される)。
【0055】
このようにして、本実施形態によれば、第1系統と第2系統と間で各相の巻き方向を異ならせることで、周方向に不均等な間隔に、複数のコイル端子部622を配置できる。この結果、上述のように、誤った組み付けを効果的に防止できる。なお、本実施形態では、第2系統において、3つのコイル端子部622が引き出される3つの巻装部621は、
図6に示すように、U相だけV相及びW相に対して逆の巻き方向(ここでは、-U、V、W)とされているが、これに限られない。例えば、第2系統において、3つのコイル端子部622が引き出される3つの巻装部621は、V相だけU相及びW相に対して逆の巻き方向とされてもよいし、W相だけV相及びW相に対して逆の巻き方向とされてもよい。
【0056】
次いで、
図10に示す製造方法は、接合部704と結線用導体部623との間を溶接により接合する(S14)ことを含む。溶接方法は、例えばTIG(Tungsten Inert Gas)溶接又はその類であってよい。以下では、この段階で形成される組立体を、「組立体」とも称する。
【0057】
ところで、TIG溶接のような溶接を行う場合、スパッタの飛散が問題となりうる。この点、本実施形態では、
図8に示すように、複数の結線用導体部623(及びそれに伴い複数の接合部704)は、複数のコイル端子部622と周方向でオフセットしている。これにより、複数のコイル端子部622にスパッタが当たる可能性を低減できる。なお、複数のコイル端子部622にスパッタが当たると、コイル端子部622がダメージを受け、所期の信頼性を確保できなくなる可能性が生じる。
【0058】
本実施形態では、更に、複数のフランジ部725のそれぞれは、
図4に一部が示されるように、周方向両側に壁部7251を有する。壁部7251は、X方向で、複数の中空ガイド部728よりもX2側まで延在する。このようにして壁部7251は、複数のコイル端子部622に向かうスパッタの経路内に位置することで、中空ガイド部728よりもX方向X2側で複数のコイル端子部622にスパッタが当たることを抑制する機能(以下、「スパッタ遮断機能」とも称する)を有する。このようして、本実施形態によれば、壁部7251を設けることで、複数のコイル端子部622にスパッタが当たる可能性を更に低減できる。
【0059】
本実施形態では、壁部7251は、
図11Aに示すように、周方向に視たときの外形が台形を含み、具体的には、X方向X2側の台形と、X方向X1側の矩形とを組み合わせた形状である。X方向X1側を「上」とすると、X方向X2側の台形の上底L1は、X方向X1側の矩形の下辺を形成する。X方向X2側の台形は、上底L1が下底L2よりも長い。
図11Aに示す例では、上底L1の長さは、フランジ部725の径方向の長さと同じであり、下底L2の長さは、本体部720の外周面からコイル端子部622の中心位置までの径方向の距離程度である。なお、下底L2の長さは、壁部7251のX方向X2側端部の少なくとも一部(径方向内側の一部)が、周方向で結線用導体部623とコイル端子部622との間に位置するように設定されてよい。また、X方向の下底L2の位置は、本体部720のX方向X2側の表面7201の近傍に位置する。すなわち、
図11Aでは、本体部720のX方向X2側の外周角部は、面取り(面取り部7202参照)されているので、壁部7251における下底L2を形成する表面は、面取り部7202のX方向X1側に繋がる。ただし、変形例では、面取り部7202が省略され、壁部7251における下底L2を形成する表面は、本体部720のX方向X2側の表面7201に連続する態様で繋がってもよい。
【0060】
なお、本実施形態では、壁部7251は、周方向に視たときの外形が上述したように台形を含むが、これに限られない。例えば、
図11Bに示す例では、壁部7251Bは、周方向に視たときの外形がX方向X2側の三角形を含む。この場合、壁部7251Bにおける三角形の斜辺L3を形成する表面は、本体部720の外周面(例えば面取り部7202のX方向X1側の位置)に繋がる。また、
図11Cに示す例では、壁部7251Cは、周方向に視たときの外形がX方向X2側の矩形を含む。この場合、矩形の下辺L4の長さは、フランジ部725の径方向の長さと同じである。このような、壁部7251B、7251Cによっても、スパッタ遮断機能が実現されるので、複数のコイル端子部622にスパッタが当たる可能性を更に低減できる。ただし、本実施形態による壁部7251の場合、壁部7251Bの場合に比べて、コイル端子部622の遮断領域を効率的に大きくできるので、スパッタ遮断機能を高めることができる。また、本実施形態による壁部7251の場合、壁部7251Bの場合に比べて、X方向の寸法を、径方向外側においても比較的大きくできるので、成形時の樹脂の流れ性(流動性)が向上する。また、本実施形態による壁部7251の場合、壁部7251Cの場合に比べて、質量の増加を抑制できる。このようにして、本実施形態による壁部7251の場合、必要なスパッタ遮断機能や成形時の樹脂の流れ性を確保しつつ、質量の増加を抑制できる。また、本実施形態による壁部7251は、フランジ部725の強度・剛性を高める役割も果たし、中空ガイド部728の反り等のような望ましくない変形を効果的に抑制できる。この点は、壁部7251Bや壁部7251Cの場合も同様である。
【0061】
また、本実施形態では、壁部7251は、一のフランジ部725の周方向の両側に、所定の周方向の長さ(厚み)で形成されるので、一のフランジ部725の周方向の3箇所以上に形成される場合や、一のフランジ部725の周方向の全体にわたり形成される場合に比べて、質量の増加を抑制できる点で有利である。しかしながら、変形例では、このような、一のフランジ部725の周方向の3箇所以上に形成される構成や、一のフランジ部725の周方向の全体にわたり形成される構成(すなわち、挿通穴7281以外は樹脂で埋められる構成)が実現されてもよい。
【0062】
次いで、
図10に示す製造方法は、組立体にケース4を圧入により組み付ける(S16)ことを含む。この場合、ケース4を、組立体に対してX方向X1側から相対的に移動させることで、ケース4の径方向内側に組立体を圧入する。この際、貫通穴422から中空ガイド部728が露出する。
【0063】
ところで、圧入により組み付ける際に、貫通穴422の内周壁に中空ガイド部728が干渉すると、組み付け性が悪化するおそれがある。この点、本実施形態では、複数の貫通穴422及びそれに伴い複数の中空ガイド部728は、X方向に視て、回転軸Iまわりに非回転対称に配置される。これにより、組立体にケース4を圧入する際の、両者の回転方向の適切な位置関係が一意に決まることになり、誤った組み付けに起因した干渉を効果的に防止できる。
【0064】
また、本実施形態では、更に、
図12に示すように、各貫通穴422は、X方向に垂直な平面で切断したときの穴形状が、同平面で切断したときの、各中空ガイド部728の外形よりも有意に大きい。
図12に示す例では、各貫通穴422は、周方向に長い長穴であり、各中空ガイド部728に対するクリアランスは、径方向よりも周方向の方が大きく設定されている。これにより、周方向の組み付け誤差が公差範囲内で比較的大きくなった場合でも、貫通穴422の内周壁と中空ガイド部728との間の干渉の可能性を効果的に低減できる。なお、クリアランスの具体的な寸法は、適合値であるが、例えば、周方向に1度程度、かつ、径方向に0.4mm程度が好ましい。
【0065】
次いで、
図10に示す製造方法は、ロータ5等のその他の組み付けを行う(S18)ことで、
図2に示す状態を形成することを含む。
【0066】
次に、特定の比較例との対比で、本実施形態の効果について説明する。
【0067】
図13から
図15は、比較例によるバスバユニット1700の説明図であり、
図13は、バスバユニット1700に係るバスバ部分の組み付け状態の斜視図であり、
図14は、バスバユニット1700に係るバスバ部分の分解状態の斜視図であり、
図15は、バスバユニット1700の透視による側面図である。
【0068】
比較例によるバスバユニット1700は、
図14に示すように、5段構成である。具体的には、バスバユニット1700の場合、
図6に示した結線の説明図においては、1段目は、符号(a)、(g)、(h)、(n)で示される箇所を形成し、2段目は、符号(e)、(i)で示される箇所を形成する。また、バスバユニット1700において、3段目は、符号(b)、(d)、(f)、(i)、(k)、(m)で示される箇所を形成し、4段目は、符号(c)で示される箇所を形成し、5段目は、符号(j)で示される箇所を形成する。
【0069】
このような5段構成のバスバユニット1700は、樹脂部1720で封止された状態では、
図15に示すように、比較的大きい厚み(X方向の寸法H)となる。比較例の場合、樹脂部1720の本体部に係るX方向の寸法Hは、8.4mm程度である。
【0070】
これに対して、本実施形態によるバスバユニット7は、上述したように、バスバ70A、70Bの2段構成であるので、比較例に比べて、X方向の寸法Hを大幅に低減できる。すなわち、本実施形態によれば、比較例によるバスバユニット1700における1段目と2段目に係る機能が、複数のコイル端子部622により実現されるので、比較例によるバスバユニット1700における1段目と2段目をなくすことができる。また、本実施形態によれば、比較例によるバスバユニット1700における3段目に係る機能が、隣接する同相同士が連続的な巻線により結線されることで実現されるので、比較例によるバスバユニット1700における3段目をなくすことができる。このようにして、本実施形態によれば、バスバユニット7に含まれるバスバ数(段数)を低減でき、バスバユニット7のX方向の寸法を大幅に低減できる。例えば、本実施形態の場合、樹脂部72の本体部720に係るX方向の寸法Hは、3.9mm程度であり、比較例に比べて40%以上も低減できる。
【0071】
なお、以上の本発明の実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0072】
(付記1)
多相ブラシレスモータ(1)であって、
ケース(4)と、
前記ケース内に設けられ、複数の磁極を形成し、軸方向(X)を規定する回転軸(I)まわりに回転可能なロータ(5)と、
前記ケース内に設けられ、ステータコア(61)及びステータコイル(62)を有するステータ(6)と、
前記ステータに対し前記軸方向の一端側に設けられるバスバユニット(7)と、を備え、
前記ステータコアは、複数のティース(613)を有し、
前記ステータコイルは、前記複数のティースに巻装される複数の巻装部(621)と、複数のコイル端子部(622)とを有し、
前記バスバユニットは、中性点に電気的に接続されるバスバ(70A、70B)と、前記バスバを封止する樹脂部(72)とを備え、
前記複数のコイル端子部のそれぞれは、前記複数の巻装部における前記軸方向の一端側から前記軸方向に延在する直線状の形態であり、
前記樹脂部は、前記複数のコイル端子部が前記軸方向に挿通される複数の挿通穴(7281)を有する、ブラシレスモータ。
【0073】
付記1の構成によれば、複数のコイル端子部のそれぞれは、複数の巻装部における軸方向の一端側から軸方向に延在する直線状の形態であるので、回転軸まわりに延在するバスバを用いて同様のコイル端子部を形成する場合に比べて、バスバ数を低減できる。この結果、バスバユニットを備えるブラシレスモータの軸方向の体格の低減を図ることが可能となる。
【0074】
(付記2)
前記ケースは、円筒状の側面部(40)と、前記樹脂部を覆う端面部(42)とを有し、
前記樹脂部は、前記軸方向で前記端面部に隣接する、付記1に記載のブラシレスモータ。
【0075】
付記2の構成によれば、バスバユニットとケースとの間に、別のインシュレータを設ける場合に比べて、バスバユニットを備えるブラシレスモータの軸方向の体格の低減を図ることができる。
【0076】
(付記3)
前記端面部は、前記軸方向に貫通する複数の貫通穴(422)を有し、
前記樹脂部は、前記軸方向に延在しかつ前記複数の挿通穴を形成する筒状の複数の中空ガイド部(728)を有し、
前記複数の中空ガイド部は、前記複数の貫通穴を介して前記ケースの外側に露出する、付記2に記載のブラシレスモータ。
【0077】
付記3の構成によれば、中空ガイド部により複数のコイル端子部を保護しつつ、ケースの外側へとガイドできる。
【0078】
(付記4)
前記ステータは、前記ケースに圧入により固定され、
前記複数の貫通穴は、前記軸方向に垂直な平面で切断したときの穴形状が、同平面で切断したときの、前記複数の中空ガイド部の外形よりも大きい、付記3に記載のブラシレスモータ。
【0079】
付記4の構成によれば、圧入の際に、貫通穴の内周壁と中空ガイド部とが干渉する可能性を低減できる。
【0080】
(付記5)
前記複数の中空ガイド部は、前記軸方向に視て、前記回転軸まわりに非回転対称に配置される、付記3または付記4に記載のブラシレスモータ。
【0081】
付記5の構成によれば、回転軸まわりの適切な組み付けの向き(バスバユニットとステータとの間の周方向の位置関係)が一意に定まるので、誤った組み付けを容易に防止できる。
【0082】
(付記6)
前記複数の中空ガイド部のそれぞれは、前記軸方向で前記ステータコアに近い側の端部において、前記軸方向に垂直な平面で切断したときの、前記挿通穴の断面積が、前記軸方向で前記ステータコアに近くなるほど広くなる、付記3~付記5のいずれか1項に記載のブラシレスモータ。
【0083】
付記6の構成によれば、挿通穴の端部(挿通側の端部)がテーパ形状となるので、軸方向でステータコア側からコイル端子部を中空ガイド部の挿通穴に挿通する作業性が良好となる。
【0084】
(付記7)
前記ロータは、前記ステータに対して径方向内側に配置され、
前記樹脂部は、前記回転軸まわりの円環状の形態の本体部(720)と、前記本体部の外周まわりの一部の区間において前記本体部から径方向外側に突出する複数のフランジ部(725)とを備え、
前記複数の中空ガイド部は、前記複数のフランジ部に設けられる、付記3~付記6のいずれか1項に記載のブラシレスモータ。
【0085】
付記7の構成によれば、本体部から径方向外側に突出するフランジ部を利用して、中空ガイド部を形成できる。
【0086】
(付記8)
前記ステータコイルは、中性点と各相間を結線する渡り部を、前記バスバと協動して形成する複数の結線用導体部(623)を更に有し、
前記複数の結線用導体部のそれぞれは、前記複数の巻装部における前記軸方向の一端側から前記軸方向に延在する直線状の形態であり、
前記バスバは、前記本体部の外周まわりにおける、前記複数のフランジ部が形成されない区間において、前記本体部から径方向外側に突出する複数の接合部(704)を有し、
前記複数の接合部は、前記複数の結線用導体部と溶接により接合される、付記7に記載のブラシレスモータ。
【0087】
付記8の構成によれば、中性点と各相間を結線する渡り部を、結線用導体部とバスバを利用して実現できる。また、複数のフランジ部が形成されない区間を利用して、接合部を形成できる。これにより、接合部と中空ガイド部(及びそれに伴いコイル端子部)とを周方向でオフセットさせることができる。その結果、接合部での溶接の際に生じうるスパッタがコイル端子部に当たる可能性を効果的に低減できる。
【0088】
(付記9)
前記複数のフランジ部のそれぞれは、周方向両側に壁部(7251、7251B、7251C)を有し、
前記壁部は、前記軸方向で、前記複数の中空ガイド部よりも前記ステータコアに近い位置まで延在する、付記8に記載のブラシレスモータ。
【0089】
付記9の構成によれば、溶接の際に生じうるスパッタがコイル端子部に当たる可能性を更に効果的に低減できる。
【0090】
(付記10)
前記壁部は、周方向に視たときの外形が、台形を含み、
該台形は、周方向に視たとき、前記軸方向に交差する方向(例えば径方向)に延在する上底(L1)と下底(L2)とを有し、
前記下底は、前記軸方向で前記本体部における前記ステータコアに近い側の表面又はその近傍に位置し、
前記上底は、前記軸方向で前記複数のフランジ部に近い側に位置し、かつ、前記下底よりも長い、付記9に記載のブラシレスモータ。
【0091】
付記10の構成によれば、溶接の際に生じうるスパッタがコイル端子部に当たる可能性を低減しつつ、壁部に起因した質量の増加を抑制し、かつ、フランジ部の強度・剛性を高めることができる。また、比較的大きな幅の樹脂流路(モールド時の流路)を確保できるので、壁部の成形に起因して樹脂の流動性が損なわれる可能性を低減できる。
【0092】
(付記11)
前記ステータコイルは、複数の相を複数の系統で形成し、
前記複数の巻装部は、系統ごとの同相同士が周方向で隣接しかつ巻線により結線され、
前記バスバは、前記回転軸まわりに延在する板状の金属部材であり、前記系統の数に対応する数だけ設けられる、付記1~付記10のいずれか1項に記載のブラシレスモータ。
【0093】
付記11の構成によれば、系統ごとの同相同士を接続するためのバスバをなくすことができる。これにより、複数の相を複数の系統で形成した場合でも、バスバ数を比較的少なくすることができる。この結果、バスバユニットを備えるブラシレスモータの軸方向の体格の低減を図ることができる。
【0094】
(付記12)
前記ステータコイルは、複数の相を複数の系統で形成し、
前記複数の系統は、第1系統と第2系統とを含み、
前記複数の巻装部のうちの、前記第1系統に係る同相に係る2つの巻装部は、周方向で隣接しかつ前記ティースまわりの巻き方向が互いに逆であり、
前記複数の巻装部のうちの、前記第2系統に係る同相に係る2つの巻装部は、周方向で隣接しかつ前記ティースまわりの巻き方向が互いに逆であり、
前記第1系統に係る一の相に係る前記2つの巻装部のうちの、中性点側の巻装部と、前記第2系統に係る該一の相に係る前記2つの巻装部のうちの、中性点側の巻装部とは、前記ティースまわりの巻き方向が逆である、付記1~付記11のいずれか1項に記載のブラシレスモータ。
【0095】
付記12の構成によれば、複数の相を複数の系統で形成した場合に、複数の巻装部の巻き方向を系統間で異ならせることで、複数のコイル端子部(及びそれに伴い複数の中空ガイド部)を、軸方向に視て回転軸まわりに非回転対称に配置することが容易となる。この結果、回転軸まわりの適切な組み付けの向き(バスバユニットとステータとの間の周方向の位置関係)が一意に定まるので、誤った組み付けを容易に防止できる。
【0096】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0097】
1 多相ブラシレスモータ
4 ケース
4a フランジ体
40 側面部
42 端面部
422 貫通穴
5 ロータ
52 シャフト
54 カバー磁石
6 ステータ
61 ステータコア
612 スロット
613 ティース
62 ステータコイル
621 巻装部
622 コイル端子部
623 結線用導体部
68 インシュレータ
7 バスバユニット
70(70A、70B) バスバ
704 接合部
72 樹脂部
720 本体部
725 フランジ部
725A フランジ部
725B フランジ部
728 中空ガイド部
7251、7251B、7251C 壁部
7281 挿通穴
8 ブラケット
10 車両用操舵装置