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特許7437157輸液療法のための容量ベース流量補償技術
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】輸液療法のための容量ベース流量補償技術
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/142 20060101AFI20240215BHJP
   A61M 5/168 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
A61M5/142 500
A61M5/168 500
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019543314
(86)(22)【出願日】2018-02-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-03-12
(86)【国際出願番号】 US2018017447
(87)【国際公開番号】W WO2018148427
(87)【国際公開日】2018-08-16
【審査請求日】2020-11-19
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-08
(31)【優先権主張番号】62/457,648
(32)【優先日】2017-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591013229
【氏名又は名称】バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BAXTER INTERNATIONAL INCORP0RATED
(73)【特許権者】
【識別番号】501453189
【氏名又は名称】バクスター・ヘルスケヤー・ソシエテ・アノニム
【氏名又は名称原語表記】Baxter Healthcare S.A.
【住所又は居所原語表記】Thurgauerstr.130 CH-8152 Glattpark (Opfikon) Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホプキンス,パトリック ミカエル
(72)【発明者】
【氏名】ウェーバー,ハリー ジョン
(72)【発明者】
【氏名】サン,ハオナン
【合議体】
【審判長】内藤 真徳
【審判官】後藤 泰輔
【審判官】安井 寿儀
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-57663(JP,A)
【文献】特開平3-184559(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/14-5/175
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定時間にわたってチューブ投薬セットを通して所望流量で液体をポンプ移送するように構成された輸液ポンプであって、
前記チューブ投薬セットを取り外し可能に受け、前記チューブ投薬セットの一部にパルス力を加えて、これにより前記チューブ投薬セットの一部を押付けて前記チューブ投薬セットの出口から液体の流れを作るようにされたポンピング機構と、
前記ポンピング機構に接続され、前記ポンピング機構を作動させるように構成されたコントローラと、を有してなり、
前記コントローラは、
前記所望流量に基づいて第1のパルス周波数を決定し、
流量精度と輸液された液体容量との間の相関関係によりチューブ劣化関数を作り、前記チューブ劣化関数に基づいて前記第1のパルス周波数を調整して第2のパルス周波数を提供し、
前記第2のパルス周波数に基づき、前記ポンピング機構を作動させる制御信号を前記ポンピング機構に出力するように構成され、
前記チューブ投薬セットから輸液された液体容量を示すセンサの入力を受信し、
前記所望流量に基いて前記第1のパルス周波数を決定するに、前記チューブ投薬セットを形成するために使用される材料の種類についての入力を考慮し、
前記第2のパルス周波数は、前記チューブ投薬セットの前記材料の劣化を補償することによって前記所望流量を維持することを特徴とする輸液ポンプ。
【請求項2】
前記第1のパルス周波数の調整は、前記第1のパルス周波数を増加させることを特徴とする請求項1に記載の輸液ポンプ。
【請求項3】
前記コントローラはさらに、受け取った前記センサの入力に基づいて、ある時間にわたって前記チューブ投薬セットの出口から輸液された液体容量を決定するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の輸液ポンプ。
【請求項4】
前記コントローラは、プロセッサと、前記プロセッサに接続されたメモリを有し、
前記メモリに記憶され、前記プロセッサによって実行可能な前記メモリに備えられた命令が、前記チューブ劣化関数に基づいて前記第2のパルス周波数を決定し、そして決定された前記第2のパルス周波数に基づいて前記ポンピング機構を作動させる制御信号を前記ポンピング機構に出力することを特徴とする請求項1に記載の輸液ポンプ。
【請求項5】
チューブ投薬セットおよびポンピング機構を有する輸液ポンプの前記ポンピング機構を制御する方法であって、
前記チューブ投薬セットを取外し可能に受けて、前記チューブ投薬セットにパルス力を及ぼして、これにより前記チューブ投薬セットの一部を押付けて前記チューブ投薬セットの出口からの液体の流れを作り、前記ポンピング機構を制御して、液体を特定時間にわたって前記チューブ投薬セットから所望流量で排出させ、コントローラが前記ポンピング機構に接続され、前記ポンピング機構を作動させるように構成され、
前記コントローラを使用することで、
前記所望流量に基づいて第1のパルス周波数を決定する、
流量精度と輸液された液体容量との間の相関関係によりチューブ劣化関数を作り、前記チューブ劣化関数に基づいて前記第1のパルス周波数を調整して第2のパルス周波数を提供することを特徴とする方法であって、
前記第2のパルス周波数に基づき前記ポンピング機構を作動させる制御信号を前記ポンピング機構に出力する、
前記チューブ投薬セットから輸液された液体容量を示すセンサの入力を受信する、
前記所望流量に基づいて前記第1のパルス周波数を決定するに、前記チューブ投薬セットを形成するために使用される材料の種類についての入力を考慮する方法であって、
前記第2のパルス周波数は、前記チューブ投薬セットの前記材料の劣化を補償することによって前記所望流量を維持することを特徴とする方法。
【請求項6】
前記第1のパルス周波数の調整は、前記第1のパルス周波数を増加させることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
さらに、
受取った前記センサの入力に基づいて、ある時間にわたって前記チューブ投薬セットの出口から輸液された液体容量を決定する、ことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項8】
メモリに格納されたコンピュータ実行可能命令と、前記命令がプロセッサによって実行されるとき、
コントローラが輸液された液体容量と、所望流量とに基づいて、パルス周波数を決定する装置であって、
ポンピング機構は、チューブ投薬セットを取外し可能に受け、前記チューブ投薬セットにパルス力を及ぼして前記チューブ投薬セットの出口からの液体の流れを作り、
前記パルス周波数を決定することは、
前記所望流量に基づいて第1のパルス周波数を決定し、
流量精度と前記輸液された液体容量との間の相関関係によりチューブ劣化関数を作り、前記チューブ劣化関数に基づいて前記第1のパルス周波数を調整して第2のパルス周波数を提供し、
前記第2のパルス周波数に基づき、前記ポンピング機構を作動させる制御信号を前記ポンピング機構に出力し、
前記第2のパルス周波数は、前記チューブ投薬セットの材料の劣化を補償することによって前記所望流量を維持することを特徴とする装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤送達に使用されるシステムに関し、より詳細には、輸液療法(infusion therapy)により、長期間にわたって薬剤をより正確に送達するように設計されたシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
蠕動ポンプなどの輸液ポンプ(infusion pump)を用い、従来から行われている輸液療法(点滴療法)を介して、様々な薬剤を患者に提供することができる。典型的には、薬剤を送達する投薬セットを直接操作するのに蠕動ポンプを作動させている。当該技術分野において周知であるように、輸液セットの主要構成要素は、薬剤、生理食塩水などの供給に接続するための取付け具を備えた長いプラスチックチューブである。この取付け具は、重力流によって、あるいは注射器を使用するなどの注射によって薬剤を受け取るように構成されている。時間を経ると、チューブの操作は、輸液ポンプによって操作される領域内で投薬セットの物理的劣化を引き起こす。すなわち、蠕動ポンプによる投薬セットの長期間の物理的操作は、投薬セットチューブのスプリングバック、すなわち可撓性の低下を引き起こし、それによってポンピングサイクル毎に液体容量が小さくなっていく。
【0003】
さらに、疾病管理センターによって発行されたガイドラインは、輸液ポンプは、1週間以内で同じ投薬セットを使用することを示唆している。したがって、輸液ポンプ製造業者は、長期間にわたって(例えば、72~96時間)輸液液体を正確に送達することができるポンプを提供している。しかしながら、上述したようにポンプ性能特性および新しいチューブの使用を考慮すると、投薬セットの疲労により予想されるよりも少ない量の液体がポンプ移送されるので、時間を経ると大きな誤差となってくる。
【0004】
この精度低下に対する1つの解決策は、投薬セットをより頻繁に代えることである。しかしながら、これら頻繁に投薬セットを代えるのは、消費される物理的リソース(すなわち、各患者に対してより多くの投薬セットが使用される)と患者の治療に要する時間(治療をする側で、頻繁な投薬セットの取り換えにより、患者それぞれにより多くの時間を費やす必要がある)の両方を増加させることにより病院費用を上昇させることになる。
【0005】
輸液療法のマーケットでは、PVCのような炭化水素系プラスチック製の投薬セットを使用するのが好ましい。1つの利点はコストである。PVCセットは、一般に連続したチューブとして押し出されるので製造が簡単で安価である。PVCセットが連続しているのは、セット全体にわたって連続的に無菌バリアができるというさらなる利点を有する。PVCセットのさらなる利点は、それらがポンプベースの治療および手動/重力での適用で交換可能に使用できることである。
【0006】
PVCセットの代替物は、シリコーンなどのポリマーベース材料で作られたセットである。これらのセットは、非ポンピングセグメントにジョイントで接続された特別のシリコーンポンピングセグメントを使用する。シリコーンセグメントは、PVCチューブと比較して、輸液中に比較的安定した正確な性能を発揮する。しかしながら、シリコーンセグメントおよび接続ジョイントは、より多くの部品と組み立て時間を必要とし、それによってセットのコストを高くする。さらに、余分なジョイントは、PVCベースのセットと比較して、液漏れの危険性を高め、細菌の汚れ懸念を引き起こす。シリコーンベースのセットは、手動/重力療法に使用するのにより多くの困難を伴い、高価である。
【0007】
PVCのような材料で作られたセットを使用する大容量非経口(LVP:Large Volume Parenteral)輸液ポンプは、短期間の輸液に対して好ましい精度を示す。しかしながら、上記のように、長期間にわたって輸液を行っていると、チューブは回復性を失い、輸液不足および流量精度の劣化をもたらす。各ポンピングサイクルには、送達段階と充填段階の2つの主要な段階がある。送達段階では、ポンピング機構によって、チューブに能動的な力を加えてチューブを押付けて液体を下流に移動させる。充填段階の間では、ポンピング機構はチューブを解放させ、再び充填することを可能にする。しかしながら、このプロセスは、チューブの回復に受動的に依存して、その全内径をスプリングバックさせ、次のサイクルのために再充填される。
【0008】
ポンピングサイクルを繰り返した後、チューブは恒久的な材料特性の変化を受け、回復力が減り、事実上サイクル毎に充填量が減少していく。チューブがその全容量を満たすことができないと、ポンプが各サイクルで送達できる最大量は相応して制限され、輸液不足および精度の劣化をもたらす。この挙動は、セットに適用されるポンピングサイクル数の関数である。
【0009】
上記した性能低下は、臨床医が治療中にポンプチャンネル内にセットされたチューブの位置を「新しい部分」に移動させると、潜在的に治療の中断をもたらし、あるいはより頻繁にセットを変更すると、潜在的に治療の中断および/または細菌汚染の危険性を高めることになる。現在、ポンプ取扱説明書では、短期間でのセット移動を推奨している。
【0010】
経時的にチューブが劣化する問題は業界ではよく知られているが、医学的に有効で費用効率の高い解決策を見出すために様々なアプローチが行われてきた。ある輸液ポンプの製造者は、特別のシリコーンポンプセグメントを有する投薬セットを開発することによって精度を改善することを選択した。シリコーンは、回復性を有し、それ故に多回のポンプサイクルにわたって充填量を維持している。しかし、シリコンチューブは、長期間にわたっての精度は向上するが、この策略にはいくつかの重大な欠点がある。
【0011】
特別のポンピングセグメントと非ポンピングセグメントを有するセットは、これらのセグメントを互いに接合するための複数の接合部を有し、それによって部品の追加と組み立て時間/労力の追加があって製造コストを増加させる。一方、PVCセットは、伝統的に単一の連続したチューブで構成されており、セットの長さを通して無菌バリアを作るが、特別のポンプセグメントとセットにした接続ジョイントを使用するこの選択は、液体漏れのリスクを高め、細菌の汚れ懸念を引き起こす。シリコーンチューブセットの別の欠点は、製造作業において、チューブの流路に潜在的に浸出する可能性がある潜在的に有害な硬化剤がしばしば使用されることである。さらに、シリコーンは多孔質であり、空気の侵入を許す可能性があり、細菌汚染の懸念がある。
【0012】
製造者はまた、ポンピング機構を修正してチューブを充填位置に能動的に戻すように変更することによって、投薬セットのチューブ疲労の問題に取り組んできた。ある製造者は、受動的なチューブの回復に頼るのではなく、チューブを充填位置に能動的に戻すシャトル機構を採用している。しかしながら、この改良は、設計および製造の複雑さ、コストおよび重量を増した。加えられた動きはまた、ポンプからより多くのエネルギーを必要とし、それは装置のバッテリー寿命を減少させている。
【0013】
チューブ劣化問題へのさらに別のアプローチは、下記の式に見られるように、温度、背圧、および流量を考慮した流量補償アルゴリズムが開発されたソフトウェアにより補償を行っている。
【0014】
【数1】
【0015】
上記のアルゴリズムにおける数の大きさと指数の累乗の正確な値は、特定の輸液ポンプに固有のものであるが、補償を保証する流量の精度に重大な影響を与えるのは、温度、背圧、および流量の3つのみである。係数の大きさと指数の累乗によって証明されるように、上記のアルゴリズムは、温度が流量精度に最も影響を与えると考え、次に背圧がより少ない程度で続き、流量は精度に与える影響を少ない。他の要因は補償されない。
【0016】
したがって、輸液ポンプのより広範囲に適用可能な輸液投薬チューブセットの劣化問題に対して、より単純でより普遍的なアプローチが必要とされている。
【発明の概要】
【0017】
上に挙げた必要性は、輸液療法(点滴療法)のための本発明の容量ベースの流量補償によって満たされる、あるいはそれを超えるものである。本発明は、投薬セットで輸液(点滴)された容量に基づいて輸液ポンプパルス周波数を調整するように設計された改良操作ソフトウェアを備えたコントローラを特徴とした改良輸液ポンプの形態で提供される。輸液された液体容量をモニターし、過去のチューブ性能を輸液された容量と相関させるチューブ劣化関数を適用し、それに応じてパルス周波数を調整することによって、ポンプ目標量と比較した実際の輸液量のパーセント誤差は、上述した従来の輸液ポンプシステムと比較して低いことがわかった。本輸液ポンプによって適用される技術は、パルス周波数を、時間または流量を関数とする相関誤差に基づいて調整する従来のシステムとは対照的である。
【0018】
本輸液ポンプの重要な特徴および本容量ベース流量精度補償技術の利点は、ソフトウェアが開発され実行されるとコストがかからないことである。部品の追加、ハードウェアの変更、製造プロセスやサービスプロセスの変更がないので、ポンプのコストは上がらない。ソフトウェアが開発され実装されると、追加のコストや投資は必要ない。この技術は、広い範囲の輸液ポンプに適用できる可能性もある。
【0019】
本輸液ポンプは、臨床医がPVCのような材料の投薬セットを長期間使用することを可能にし、それによってより高価なセットを有する競合他社よりも費用および販売上に莫大な利点をもたらす。これと相まって、ポンプのコストでの増加がない。臨床医は、短期間にセットを移動する必要がなくなり、病院や診療所の物理的な時間と運用コストが削減される。また、容量を関数として流量を調整するのは、簡単で一般化された流量精度の改善手段となる。これは、プログラムされた流量とは関係なく適用可能である。さらに、輸液ポンプは、輸液された容量を追跡する能力を既に有しており、提案された技術の簡単な実施を可能にしている。
【0020】
より具体的には、所定持続時間にわたって所望流量でチューブ投薬セットを通して液体をポンプ移送するように構成され、チューブ投薬セットを取外し可能に受け、かつチューブ投薬セットにパルス力を及ぼすように構成および配置されたポンピング機構を有する輸液ポンプを提供する。これにより、チューブ投薬セットの一部を押付けて、出口から液体の流れを作っている。コントローラは、ポンピング機構に接続され、所定時間の一部にわたって輸液された液体容量と所望流量に基づいてパルス周波数を決定し、ポンピング機構に出力して、決定されたパルス周波数に基づいてポンピング機構を作動させるように構成している。パルス周波数は、所望流量に基づいて第1のパルス周波数を決定し、輸液(点滴)された液体容量に基づいて第1のパルス周波数を調整して第2のパルス周波数を出力する。第2のパルス周波数は、第1のパルス周波数とは異なっている。
【0021】
別の実施形態では、チューブ投薬セットおよびポンピング機構を有する輸液ポンプのポンピング機構を制御する方法が提供され、ポンピング機構は、チューブ投薬セットを取外し可能に受け入れ、チューブ投薬セットにパルス力を及ぼして、チューブ投薬セットの出口から液体の流れを作り出すための投薬セットでなっている。この方法は、特定時間にわたって所望流量でチューブ投薬セットから液体をポンプで出すポンピング機構を制御している。この方法は、所定時間の一部にわたり輸液された液体容量と所望の液体速度に基づいてパルス周波数を決定し、決定されたパルス周波数に基づいてポンピング機構を作動させる制御信号をポンピング機構に出力する。すなわち、所望の流量に基づく第1のパルス周波数、および輸液された液体容量に基づいて第1のパルス周波数を調整して第2のパルス周波数を出す。第2のパルス周波数は、第1のパルス周波数とは異なっている。
【0022】
さらに別の実施形態では、非一時的媒体に記憶されたコンピュータ実行可能命令を有する装置が提供される。ここで、命令は、プロセッサによって実行されるとき、プロセッサに、ある時間にわたってチューブ輸液セットの出口から輸液された液体容量を決定し、ある時間にわたってチューブ投薬セットの出口から輸液された液体の液体容量とチューブ投薬セットから輸液された液体の所望流量に基づいてパルス周波数を決定し、その決定された周波数に基づいて、制御信号をポンピング機構に出力してポンプ投薬セットを作動させる。ここで、ポンピング機構は、チューブ投薬セットを取外し可能に受け、チューブ投薬セットにパルス力を及ぼしてチューブ投薬セットの出口から液体の流れを作る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】チューブ投薬セットに接続された本輸液ポンプの正面図である。
図2】本輸液ポンプの概略図である。
図3】性能精度パーセント誤差と輸液時間のグラフである。
図4】性能精度パーセント誤差と輸液容量のグラフである。
図5】チューブ劣化関数の初期バージョンを作るのに使用したデータ生成曲線のグラフである。
図6図5の基本曲線のグラフであり、これは、実験データを使用して調整し、コントローラでの使用に適したアルゴリズムに変換するのに望ましい関数に変換するためのより正確なフォーマットにしている。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1図2を参照すると、輸液ポンプ液体移送システムを10としている。この輸液システム10は、薬剤容器12(典型的にはバッグ、ボトル、シリンジ、または液体薬剤を収容するに使用されるその他標準的な容器)に保管された薬剤の調剤に使用するように設計されている。どの容器12を使用するかに関して特に制限はない。当技術分野で知られているように、薬剤容器12は、ある長さのフレキシブルプラスチックチューブ16と、医療処置者が患者に投与する前に補完薬剤のような補足的な液体を入れる少なくとも1つの任意のルアーフィッティング18を有する投薬セット、すなわちチューブセット14が接続されている。当技術分野で知られているように、投薬セット14には、限定するものではないが、ラインクランプ19を含むその他取り付け具および接続具を任意に設けられる。
【0025】
輸液ポンプ20は、チャンバ22を有していて、チューブ16の一部を受け、その一部に周期的なパルスまたは押圧を与えて分離された量の液体をチューブを通して押し出す。最終的に、チューブ16は、患者に接続するためのカテーテル24とも呼ばれる投薬セット出口に接続される。このカテーテル24は、患者で使用される任意の標準的機器と考えられる。例えば、カテーテル24は、末梢静脈に挿入される一時的カテーテル、末梢挿入される中心カテーテル、中心静脈カテーテル、あるいは当業者に知られているその他カテーテルである。
【0026】
図2に示すように、輸液ポンプ20は、液体を静脈内投与するに使用される任意の公知なポンプである。このポンプ20は、このシステム10を通る液体の流れを調整するのに使用され、例えば時間および/または患者の要求に基づいて輸液量を変えるのに使用できる。ポンプ20は、1つまたは複数の「流路」を持っていてもよく、それぞれの流路で、別個のチューブセットを通して別個の薬剤容器からの液体の流れを調整するのに使用される。
【0027】
図2を参照すると、当技術分野で周知の線形蠕動輸液ポンプなどの輸液ポンプ20を概略的に示している。輸液ポンプ20は、チャンバ22内に位置するチューブ16の一部を押付けて周期的パルスを発生するように構成された少なくともポンピング機構26を有している。ポンピング機構26を制御する信号は、少なくともメモリ30、プロセッサ32、1つまたは複数のセンサ34、入力装置36、ディスプレイ38、および好ましくはネットワークまたはその他通信インタフェース40をもつコンピュータ化された装置などのコントローラ28によって発生される。輸液ポンプ20には、電源42も組み込むのが好ましい。
【0028】
ポンピング機構26は、大容量輸液ポンプ内の液体の流れをよくするに使用できる任意のポンプ機構である。限定しないが例として、線形蠕動ポンプが適していると考えられる。別の限定しない例には、マルチフィンガーペリスタルティックポンピング機構があり、これは、チューブの長さ方向に作用するシングルフィンガーペリスタルティックポンピング機構とロータリーポンプが、チューブを流れる液体を押し出している。コントローラ28は、輸液ポンプ20に組み込まれることが好ましく、ポンピング機構26を制御するのに使用される。より具体的には、コントローラ28は、ポンピング機構26に接続され、チューブセット14に及ぼすパルス周波数を決定するように構成する。
【0029】
メモリ30は、読み取り専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、ハードディスク、不揮発性フラッシュメモリ、あるいはその他電子的に消去可能なプログラム可能読み取り可能メモリ(EEPROMs)、あるいは光または光磁気メモリ記憶媒体などの非一時的コンピュータ読取り可能記録媒体であることが好ましい。好ましくは、メモリ30は、少なくとも実行されるとポンピング機構26の制御を容易にする命令を記憶する。プロセッサ32は、メモリ30に記憶された命令を実行することができるマイクロプロセッサまたはその他中央処理装置であるのが好ましい。
【0030】
コントローラ28はまた、輸液ポンプ20の状態に関する少なくとも1つの特性値をモニターするに使用される1つまたは複数のセンサ34を有する。この特性値の限定しない例には、輸液プロセスを行っている時の経過時間量、および輸液ポンプ20を組み込んだ投薬セット14から送り出される液体の目標容量がある。当業者は、本発明の範囲から逸脱することなく他の特性値をモニターすることができることを理解するであろう。センサ34はそれぞれ、輸液ポンプのポンピングプロセスに関する特性値をモニターするので、ポンピング機構26を操作できるように接続される。
【0031】
ユーザにより入力されたデータを受けとるキーパッドまたは同様の装置は、入力装置36として機能する。ディスプレイ38は、好ましくは、液晶ディスプレイ、陰極線管、プラズマディスプレイ、またはメモリとプロセッサからのデータを、ユーザが簡単に識別できる方法で出力することができるその他装置である。また別に、入力装置36およびディスプレイ38は、タッチスクリーンディスプレイのように単一の入力/出力装置に組み込まれてもよい。入力装置36および/またはディスプレイ38は、任意に、輸液ポンプ20と一体となっていてもよく、あるいは、輸液ポンプと接続されて、入力装置および/またはディスプレイが輸液ポンプと二方向に通信できるようになっていれば互いに離れていてもよい。
【0032】
ネットワーク通信インタフェース40は、輸液ポンプ20がローカルエリアネットワーク(LAN)、ワイドエリアネットワーク(WAN)、および/またはインターネットに接続可能にする。このネットワーク接続は、例えばIEEE 802.3規格を使用した有線接続、あるいはIEEE 802.11a/b/g/n/acなどの規格を使用した無線接続、またはこれらに代わる任意の新たに開発された規格であることができる。さらに、ネットワーク接続40は、LTE、WiMAX、UMTS、CDMA、HSPA、HSPA+、GPRSなどのプロトコルを使用したセルラ/モバイルデータネットワークに接続することができる。電源42は、ポンピング機構26とコントローラ28の両方に電力を供給するのに十分な任意の既知の電源である。限定しない例として、電源42は、バッテリー、燃料電池、および電力線への接続の1つ以上である。
【0033】
操作しているとき、ポンプ20は、液体を、上流の供給源容器12から投薬セット14のチューブ16を通って下流方向に、カテーテルまたはアクセス部位24を通して患者の体内に送るのに使用される。従来の蠕動ポンプは、フレキシブルチューブ16のポンピング部分を順次押付ける1つまたは複数のフィンガーまたはオクルダー(occluder)に依っている。プライムされたチューブ(既に液体で満たされたもの)を用いて、上流のオクルダーがチューブを押付け、続いて次の下流のオクルダーが押付けて、そこにあるオクルダーがそれぞれ順番に押付けていく。オクルダーがチューブ16に圧力を加えると、チューブの押付けられた部分が挟まれて閉じられ(閉塞され)、それにより液体を、チューブ内の下流に強制的に移動させる。
【0034】
全てのオクルダーによる押付けが終わるまたはほぼ終わると、上流側のオクルダーは、チューブ16を再び開く、すなわち押付けを解放し始める。オクルダーの開放もまた、上流から下流方向に向かって順次行われる。オクルダーの押付けがなくなるとチューブ16は押付けが解かれ、すなわち再び自然の状態に開くので、液体は、重力および大気圧で原料容器12からチューブのポンピング部位に流れていく。チューブ16のポンピング部位が再び開く程度は、チューブのポンピング部位の現在の弾性に依存している。したがって、オクルダーの押付けがなくなった時またはその後にポンピング部位に流入する液体容量もまた、チューブ16のポンピング部位の弾性に依っている。
【0035】
しかしながら、時間が経つにつれて、オクルダーによるフレキシブルチューブ16の機械的操作は、チューブの物理的破壊をもたらし、それによりフレキシブルチューブは最早最初の形状に迄完全には再び開かない。ポンプのコントローラ28は、新しい、フレッシュチューブ16の性能を考慮して、チューブ直径とパルス数、すなわちオクルーション数の関数として送り出される液体の意図する容量をモニターするようにプログラムされている。従って、チューブ16が経時的に撓み続けて劣化すると、ポンプ20の各サイクルによって移送される液体容量が減り、患者に提供される輸液が全体的に減少していく。
【0036】
さらに、従来の輸液ポンプは、パルス数により流量を維持するために開ループ制御に依っていて、供給された容量の減少を考慮に入れていない。したがって、ポンプの精度は、時間とともに低下してくる。上記したオクルダーによる押付け周期では、当該技術分野で知られている自由流動の状態を防止するために、常に少なくとも1つのオクルダーが所定時間押付けていることに留意されたい。また、ポンピングは、単一の閉塞部材で達成することができる。この場合、追加で、閉塞部材の上流に上流弁を配置し、閉塞部材の下流に下流弁を配置することができる。上流弁、閉塞部材および下流弁の押付けおよび解放は、当技術分野で知られているように、順に並べて所望する液体の移送を行っている。
【0037】
投薬セット14を輸液ポンプ20に適切に装填した後、投薬セットを形成するに使用された材料を特定する。これは、特定の材料(例えば、DEHPまたは非DEHP可塑剤のいずれかで可塑化されたPVC、ポリエチレン、シリコーンなど)の入力、および/または入力装置を使用する装填されたセットに対応する型番など、ユーザによる手動での特定化が必要とされる。また別に、ある実施形態は、入力装置の場合のように、投薬セットのモデルを入力するためにバーコード、QRコード、またはその他同様の機械的読取り可能コードを読み取ることができるリーダーがある。輸液ポンプのさらに他の実施形態は、特定の材料から形成された投薬セットのみ、または投薬セットの特定のモデルのみと共に使用するのに適している。この場合、ユーザの操作を必要とせず、材料が自動的に特定される、あるいは推定される。
【0038】
本輸液ポンプ20の主な特徴は、ポンプコントローラ28が、チューブセット16に及ぼされるパルス周波数を決定するだけでなく、チューブ劣化関数と呼ばれるアルゴリズム、すなわち数学的機能も備えて輸液の所望容量または目標容量を得ている。そして、チューブ劣化関数に従ってパルス周波数を調整し、この投薬セットによって送られる目標液体容量を得るように構成され配置されている。
【0039】
操作しているとき、輸液(点滴)を行っている間に、ポンプ速度またはパルス周波数は、予め定めた量により調整され(すなわち、より速くまたはより遅く)、投薬セットの性能低下、劣化および材料特性の変化を補償する。この予め定めた量は、他の用途で以前に行われてきたように時間または流量の関数として%誤差を相関させることとは対照的に、流量精度(%誤差)を輸液(点滴)された容量と相関させた履歴データに基づいて計算される。
【実施例
【0040】
〔実施したデータとテスト〕
図3および4を参照して、3つの異なる流量(25、125、および400mL/時)を、同じ条件(輸液(点滴)された液体、製品コード、製造ロット、周囲条件、ヘッドの高さ)を使用してテストした。臨床的に72時間または12Lのどちらか早い方の適切な限界までテストするために、輸液継続時間は、テスト毎に変えた。流量データを集め、流量精度を各時点での1時間移送平均を用いて評価して、輸液の各時間の精度を得た。
【0041】
〔データ分析〕
図3に示すように、選択された流量の流量精度(%誤差)を、時間の関数としてプロットすると、データが広範囲に拡がり、性能の変化を調整するに使用することができるような信頼できる傾向をもたらしていない。どの時点でも、流量間の精度は最大10%変動する可能性があり、時間ベースでの調整は有効でない。
【0042】
図4を参照すると、本ポンプコントローラ28は、時間ベースの調整とは対照的に、輸液(点滴)された容量に基づくパルス周波数の調整によって投薬セットのチューブ劣化を補償するように構成されている。図4において、プロットは、図3と同じ精度データで示しているが、x軸として時間の代わりに、このデータは、輸液容量に対してプロットした。この結果は、プログラムされた流量に関係なく、輸液された容量に対しての%誤差を相関させて、非常に一貫した挙動を示している。どの容量ポイントでも、流量間の精度の差は最大で約3.5%(時間ベースのアプローチより大略3倍の一貫性がある)であり、この手法を、一般にポンプの予想輸液速度に適用することができる。
【0043】
図4に示す傾向を用いて。輸液された容量に基づいて輸液を行っている時のポンプ速度を調整するためのアルゴリズムを作ることができる。25~400mL/時のスパンでのデータの一貫性によって証明されるように、この技術は一般に広範囲の流量に適用することができる。さらに、補償アルゴリズムへの主入力は、これは輸液ポンプが追跡している「輸液された容量」であり、簡単な実施でできる。
【0044】
当然のことながら、本システムは、チューブごとに性能のばらつきがあるため、同じ種類のチューブセットの2つのサンプルが同じように機能しないと理解される。同様に、特定の製造元のモデル番号の個々の輸液ポンプでは、わずかな性能の違いがある。これらの違いにも拘わらず、容量ベースの制御方式を採用する本ポンプは、時間ベースの制御方式とは対照的に、様々な流量にわたって比較的一貫した性能を達成することが分かっていた。図4に示したように、図3に示した所定時間における10%スパンと比較して、特定プレセット容量において3.5%スパンの精度がある。
【0045】
実験データを使用してチューブ劣化関数を生成する限り、流量精度と輸液された容量との間の相関関係を確立することができる。そこで、ルックアップテーブルを作成して、輸液容量(V1、V2、…Vn)、その輸液容量での誤差値(E1、E2、…En)、および予測誤差に対する対応する調整値(A1、A2、…An)を保存する。ポンプが既知の望ましくない精度Enに対応する容量Vnを輸液すると、そのポンプは次に、所望範囲内に流量精度を維持するために、調整値Anによってその流量を調整する。
【0046】
【表1】
【0047】
従って、調整値は、チューブ劣化関数の形体をとり、これは、ポンプをポンプにプログラムされた元の周波数とは異なる調整されたパルス周波数で作動させる。目標容量が投薬されると、調整されたパルス周波数が任意に周期的に更新されると理解される。
【0048】
図5および図6を参照すると、代替技術として、実験データを使用して、図5に示すように、流量精度と輸液された容量の間の相関関係を確立することができる。次いで、輸液の過程にわたって所定容量の時点で、ポンプ速度は、流量精度を所望範囲内に維持するためにポンプ速度を既知量だけ調整する。図6に見られるように、図5のデータは、図6微調整を行うことにより、流量精度と輸液された容量との間の相関関係を確立し、チューブ劣化関数となる補償式を作ることができる。すでに輸液容量を追跡しているポンプは、チューブ劣化関数に基づいて所定間隔でパルス周波数を変更する形に輸液速度を調整し、流量誤差を補償するための連続調整をする。このようにして、調整されたパルス周波数は、輸液の過程にわたって変化していくと考えられる。
【0049】
輸液療法のための容量ベースの流量補償の特定の実施形態をここに記載したが、本発明から逸脱することなくより広い態様で、および以下の特許請求の範囲内で変更および修正がなされ得ることは当業者によって理解されよう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6