(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】診断装置、診断方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20240215BHJP
【FI】
G05B23/02 T
(21)【出願番号】P 2020000427
(22)【出願日】2020-01-06
【審査請求日】2022-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】永野 一郎
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 真由美
(72)【発明者】
【氏名】江口 慶治
(72)【発明者】
【氏名】青山 邦明
【審査官】西井 香織
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/124367(WO,A1)
【文献】特開2011-170518(JP,A)
【文献】特開2009-186463(JP,A)
【文献】特開2006-039978(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出値のマハラノビス距離(以下、MD値という)を算出するマハラノビス距離算出部と、
前記MD値に基づいて異常の有無を判定する異常判定部と、
を備え、
前記異常判定部は、単位空間のサンプル数に応じた自由度のt分布の累積確率と、前記t分布の累積確率に対応する正規分布の累積確率とに基づいて前記MD値を第2MD値に補正し、前記第2MD値と所定の閾値を比較した結果に基づき、前記異常の有無を判定し、
前記異常判定部は、前記t分布で前記MD値までのt分布累積確率を求めた後、
前記正規分布において、求めた前記t分布累積確率と等しい累積確率になるような前記第2MD値を求める、
診断装置。
【請求項2】
検出値のマハラノビス距離(以下、MD値という)を算出するマハラノビス距離算出部と、
前記MD値に基づいて異常の有無を判定する異常判定部と、
を備え、
前記異常判定部は、正規分布で所定の閾値(MDc)までの累積確率を求め、前記累積確率と等しい累積確率となる、単位空間のサンプル数に応じた自由度のt分布での前記閾値(MDc)に対応する対応値(MDt)を求め、前記MD値をMDc/Mdt倍した第2MD値と、前記閾値(MDc)とを比較した結果に基づき、前記異常の有無を判定する
診断装置。
【請求項3】
検出値のマハラノビス距離(以下、MD値という)を算出するマハラノビス距離算出部と、
前記MD値に基づいて異常の有無を判定する異常判定部と、
を備え、
前記異常判定部は、単位空間のサンプル数に応じた自由度のt分布における前記MD値までの累積確率と、予め定めた閾値に対応する正規分布の累積確率閾値とを比較し、比較した結果に基づいて前記異常の有無を判定する
診断装置。
【請求項4】
診断装置が、検出値のマハラノビス距離(以下、MD値という)を算出するステップと、
前記診断装置が、前記MD値に基づいて異常の有無を判定するステップと、
を備え、
前記異常の有無を判定するステップにおいて、前記診断装置は、単位空間のサンプル数に応じた自由度のt分布の累積確率と、前記t分布の累積確率に対応する正規分布の累積確率とに基づいて前記MD値を第2MD値に補正し、前記第2MD値と所定の閾値を比較した結果に基づき、前記異常の有無を判定し、
前記異常の有無を判定するステップでは、前記t分布で前記MD値までのt分布累積確率を求めた後、
前記正規分布において、求めた前記t分布累積確率と等しい累積確率になるような前記第2MD値を求める、
診断方法。
【請求項5】
コンピュータに、
検出値のマハラノビス距離(以下、MD値という)を算出するステップと、
前記MD値に基づいて異常の有無を判定するステップと、
を実行させるプログラムであって、
前記異常の有無を判定するステップでは、単位空間のサンプル数に応じた自由度のt分布の累積確率と、前記t分布の累積確率に対応する正規分布の累積確率とに基づいて前記MD値を第2MD値に補正し、前記第2MD値と所定の閾値を比較した結果に基づき、前記異常の有無を判定し、
前記異常の有無を判定するステップでは、前記t分布で前記MD値までのt分布累積確率を求めた後、
前記正規分布において、求めた前記t分布累積確率と等しい累積確率になるような前記第2MD値を求める、
プログラム。
【請求項6】
診断装置が、検出値のマハラノビス距離(以下、MD値という)を算出するステップと、
前記診断装置が、前記MD値に基づいて異常の有無を判定するステップと、
を備え、
前記異常の有無を判定するステップにおいて、前記診断装置は、正規分布で所定の閾値(MDc)までの累積確率を求め、前記累積確率と等しい累積確率となる、単位空間のサンプル数に応じた自由度のt分布での前記閾値(MDc)に対応する対応値(MDt)を求め、前記MD値をMDc/Mdt倍した第2MD値と、前記閾値(MDc)とを比較した結果に基づき、前記異常の有無を判定する、
診断方法。
【請求項7】
コンピュータに、
検出値のマハラノビス距離(以下、MD値という)を算出するステップと、
前記MD値に基づいて異常の有無を判定するステップと、
を実行させるプログラムであって、
前記異常の有無を判定するステップでは、正規分布で所定の閾値(MDc)までの累積確率を求め、前記累積確率と等しい累積確率となる、単位空間のサンプル数に応じた自由度のt分布での前記閾値(MDc)に対応する対応値(MDt)を求め、前記MD値をMDc/Mdt倍した第2MD値と、前記閾値(MDc)とを比較した結果に基づき、前記異常の有無を判定する、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、診断装置、診断方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
発電設備や遠隔監視システムでの異常検知知システムでは、マハラノビス距離を用いたMT法(Maharanobis Taguchi System)が広く利用されている(例えば特許文献1)。特許文献1に記載されているように、マハラノビス距離は、正常データが正規分布に従うことを前提とした手法であり、現実のデータにおいては、正規分布に従わないことが多々ある。そこで、特許文献1に記載されている異常検出前処理装置では、正常時に測定された所定期間内の2変数に関する分布データが、正規分布に従った分布になるか否かが判定され、正規分布に従う分布でないと判定された分布データのうち所定数選定された分布データが仮の非線形モデルにフィッティングされ、仮の非線形モデルと回帰直線との差によって、分布データを補正する補正項が算出される。この補正項により補正された分布データが、最も正規分布に従う分布をもたらす仮の非線形モデルが、異常検出で使用する場合の異常検出モデルとして選定され、異常検出モデルに基づいて算出された補正項を異常検出に用いる補正項として選定される。
【0003】
また、特許文献1に記載されている異常検出装置は、異常検出前処理装置によって選定された補正項に基づいて、正常異常の判定対象となる測定データである判定データを補正した補正判定データを算出し、補正判定データをマハラノビス距離に基づいて、異常か否かを判定する。特許文献1に記載されている異常検出前処理装置および異常検出装置によれば、正常データの正規分布性を定量的に評価し、正常時に測定された分布データに基づいて、異常検出モデルおよび異常検出に用いる補正項が選定されるので、正常時に得られる測定データから逸脱したデータ(つまり、異常データ)を精度よく検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、特許文献1に記載されている異常検出前処理装置では、データの分布が正規分布に従っているか否かを判定した結果に基づいて補正項が選出される。そのため、正規分布に従っているか否かを判定できるだけの複数のデータが必要となる。しかしながら、特許文献1に一例として示されているガスタービン設備のように、1度起動するとしばらく(例えば数ヶ月)運転し続けるような場合がある設備では、1回の起動で1つのデータしか計測することができないようなデータ(例えば、起動時における所定の状態変化に要する時間、起動時におけるデータの最大値、最小値、平均値や合計値等)については、複数データの収集に長期間を要することになるという課題があった。
【0006】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものであって、データが少ない場合やデータ数が変動する場合でも精度良く異常を検出することができる診断装置、診断方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示に係る診断装置は、検出値のマハラノビス距離(以下、MD値という。)を算出するマハラノビス距離算出部と、前記MD値に基づいて異常の有無を判定する異常判定部と、を備え、前記異常判定部は、単位空間のサンプル数が少ないほど、前記サンプル数がより多い場合と比較して異常が無いと判定され易くなるようにして、前記異常の有無を判定する。
【0008】
また、本開示に係る診断方法は、検出値のMD値を算出するステップと、単位空間のサンプル数が少ないほど、前記サンプル数がより多い場合と比較して異常が無いと判定され易くなるようにして、前記MD値に基づき異常の有無を判定するステップとを有する。
【0009】
また、本開示に係るプログラムは、検出値のMD値を算出するステップと、単位空間のサンプル数が少ないほど、前記サンプル数がより多い場合と比較して異常が無いと判定され易くなるようにして、前記MD値に基づき異常の有無を判定するステップとをコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0010】
本開示の診断装置、診断方法およびプログラムによれば、データが少ない場合やデータ数が変動する場合でも精度良く異常を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の第1実施形態に係る診断装置の構成例を示す図である。
【
図2】本開示の第1実施形態に係る診断装置の動作例を示すフローチャートである。
【
図3】本開示の第2実施形態に係る診断装置を説明するための模式図である。
【
図4】本開示の第2実施形態に係る診断装置の動作例を示すフローチャートである。
【
図5】本開示の第2実施形態に係る診断装置の動作例を示すシステムフロー図である。
【
図6】本開示の第3実施形態に係る診断装置を説明するための模式図である。
【
図7】本開示の第3実施形態に係る診断装置の動作例を示すフローチャートである。
【
図8】本開示の第3実施形態に係る診断装置の動作例を示すシステムフロー図である。
【
図9】本開示の第4実施形態に係る診断装置の動作例を示すシステムフロー図である。
【
図10】少なくとも1つの実施形態に係るコンピュータの構成を示す概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第1実施形態>
(診断装置の構成)
以下、本開示の実施形態に係る診断装置について、
図1および
図2を参照して説明する。なお、各図において同一または対応する構成には同一の符号を用いて説明を適宜省略する。なお、本実施形態では、診断装置10を、ガスタービンを監視する監視センターに設け、ガスタービンの異常の検出に用いる場合を想定して説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0013】
図1は、本開示の第1実施形態に係る診断装置10の構成例を示す図である。
図1に示す診断装置10は、例えば、発電所に設けられるガスタービン設備31を監視し、異常の有無を診断する装置である。ガスタービン設備31と診断装置10とは、情報の授受可能にネットワーク32を介して接続されている。例えば、診断装置10は、ガスタービン設備31から所定のタイミングで送信されるガスタービンの運転データ、アラーム情報、および問い合わせ情報等を受信する。診断装置10は、取得した各種情報を記憶部13(詳細は後述する)に記憶させる。本実施形態においては、ガスタービン設備31からネットワーク32を介した遠隔地に診断装置10を設けることとして説明しているが、診断装置10の位置はこれに限定されない。
【0014】
診断装置10は、例えば、サーバ、パーソナルコンピュータ等のコンピュータとその周辺装置等を用いて構成することができる。診断装置10は、コンピュータとその周辺装置等のハードウェアと、コンピュータが実行するプログラム等のソフトウェアとの組み合わせで構成される機能的構成として、マハラノビス距離算出部11と、異常判定部12と、記憶部13を備える。
【0015】
記憶部13には、ガスタービン設備31の複数箇所に設けられる計測器から得られた所定期間内の測定データ(運転データ等)が記憶されている。測定データには、例えば、ガスタービンの起動時など、正常データが特にバラつく非定常的な状態で測定された所定期間内の測定データと、ガスタービン設備の正常異常の判定対象となる測定データとが含まれる。また、本実施形態において、ガスタービン設備の複数箇所とは、例えば、燃焼器、圧縮機等であり、測定データは、それら複数箇所から得られる温度、電圧、電流、回転速度、圧力値、起動時等における所定の状態変化に要する時間、起動時等におけるデータの最大値、最小値、平均値や合計値等の情報である。また、記憶部13は、MT法において単位空間に係るサンプル数(データ数)、平均値、標準偏差、相関行列の逆行列、異常判定の閾値等の値を記憶する。
【0016】
マハラノビス距離算出部11は、測定データ(検出値)のMD値を算出する。マハラノビス距離算出部11は、k次元のMD値を、以下の式により求める。ここで、kは項目数、i、jは1~k、αijは相関行列の逆行列のi,j成分、mi、mj、σi、σjはそれぞれ単位空間における平均値および標準偏差である。単位空間は、正常時の測定データに基づく複数のMD値からなる基準データ群であり、k項目の測定データの組の複数のサンプルに基づいて算出される。単位空間は、例えばマハラノビス距離算出部11によって、新たな測定データに基づき更新される。
【0017】
【0018】
なお、マハラノビス距離を用いた判定とは、ある集団の特徴量(多変数)を一つのパラメータ(マハラノビス距離)で表し、ある測定データの良・不良を、健全な集団(正常時の測定データ)の基本データからの距離で評価する方法である。ある測定データが不良であれば、健全な集団からの距離は大きくなり、測定データが良であれば健全な集団からの距離は小さくなる。
【0019】
異常判定部12は、マハラノビス距離算出部11が算出したMD値に基づいて異常の有無を判定する。その際、異常判定部12は、単位空間のサンプル数が少ないほど、サンプル数がより多い場合と比較して異常が無いと判定され易くなるようにして、異常の有無を判定する。異常判定部12は、例えば、マハラノビス距離に閾値(MD閾値ともいう)を設け、閾値以下であれば正常とし、閾値より大きい場合には異常として判定する。
【0020】
(診断装置の動作)
次に、
図2を参照して、
図1に示す診断装置10の基本的な動作について説明する。
図2は、本開示の第1実施形態に係る診断装置の動作例を示すフローチャートである。
【0021】
図2に示す処理は、例えばオペレータの所定の操作入力に従って開始される。なお、記憶部13には、ガスタービン設備31で測定されたガスタービンの運転に関する測定データが記憶されているものとする。診断装置10では、まず、マハラノビス距離算出部11が、測定データ(検出値)のMD値を算出する(ステップS11)。次に、異常判定部12が、単位空間のサンプル数が少ないほど、サンプル数がより多い場合と比較して異常が無いと判定され易くなるようにして、異常の有無を判定する(ステップS12)。
【0022】
ステップS12において、異常判定部12は、例えば、単位空間のサンプル数が少ないほど、MD値に対する異常判定の閾値を大きくして、異常の有無を判定する。閾値が大きくなると、MD値が大きい場合に異常有りと判定される場合が少なくなる。あるいは、異常判定部12は、例えば、単位空間のサンプル数が少ないほど、マハラノビス距離算出部11が算出したMD値に対して、値が小さくなる係数を乗算するなどして、MD値が小さくなるように補正してもよい。MD値が小さくなると、異常判定の閾値が変化しなくても、異常有りと判定される場合が少なくなる。あるいは、異常判定部12は、閾値の補正と、MD値の補正を組み合わせてもよい。
【0023】
サンプル数が少ないと、単位空間の基となったMD値の分布が正規分布に従わない場合が多くなる。この場合、例えば、正規分布を仮定して閾値を設定した場合、正常であるにも関わらずMD値が閾値を超えてしまうときが多くなってしまうと考えられる。これに対し、単位空間のサンプル数が少ないほど、サンプル数がより多い場合と比較して異常が無いと判定され易くなるようにすることで、本実施形態では、正常であるにも関わらず異常であると誤検出してしまう場合を少なくすることができる。すなわち、誤検出の発生を抑え、異常検出の精度を向上させることができる。なお、異常判定部12は、例えば特許文献1に記載されている異常検出の手法を組み合わせて用いることで、異常であるにも関わらず、正常であると判定される誤検出の発生を防止することができる。
【0024】
異常判定部12による異常の有無の判定結果は、例えば、記憶部13に記憶したり、診断装置10が備える図示していない表示装置、印刷装置、音響出力装置等から出力したり、診断装置10が備える図示していない通信装置を介して外部の端末へ送信したりすることができる。
【0025】
<第2実施形態>
図3~
図5を参照して、本開示の第2実施形態について説明する。
図3は、本開示の第2実施形態に係る診断装置を説明するための模式図である。
図4は、本開示の第2実施形態に係る診断装置の動作例を示すフローチャートである。
図5は、本開示の第2実施形態に係る診断装置の動作例を示すシステムフロー図である。
【0026】
第2実施形態の診断装置の基本的な構成は、
図1に示す第1実施形態の診断装置10と同一である。第2実施形態は、第1実施形態と比較して、
図1に示す異常判定部12の動作の一部が詳細化されている。
【0027】
図3は、マハラノビス距離MDの確率分布を正規分布とn(またはStudent’s t-distribution)で模式的に表した図である。また、
図3は、網掛けによって、MD≧3の正規分布累積確率(正規分布の逆累積分布関数)と、MD≧5のt分布累積確率(t分布の逆累積分布関数)を表している。
【0028】
数学的に正しい確率密度関数は、標本が少なければt分布で、多いと正規分布に近づく。サンプル数が無限大でt分布と正規分布は一致する。また、センサー数が少なく1の場合、t-検定と等しくなる。同じMDであっても、仮定する確率密度関数によって累積確率は変わる。特に、t分布は正規分布よりも広く分布する。「3<MD値で異常」と診断する場合に、データ数が少なく、t分布のときは「3<MD値」であることも比較的ありふれた事象にもかかわらず「異常」としてしまう。誤検知が多い。
【0029】
そこで、第2実施形態では、異常判定部12が、サンプル数に応じた自由度のt分布の累積確率(以下、t分布累積確率という。)と、t分布累積確率に対応する正規分布の累積確率とに基づいてマハラノビス距離算出部11が算出したMD値をMD’値(第2MD値)に補正し、MD’値と所定の閾値を比較した結果に基づき、異常の有無を判定する。
【0030】
図4に示すように、第2実施形態では、まず、マハラノビス距離算出部11が、測定データ(検出値)のMD値を算出する(ステップS21)。この場合、MD値は「5」であったとする。
【0031】
次に、異常判定部12が、マハラノビス距離算出部11がMT法で算出したMD値について、t分布でMD値(「5」)までのt分布累積確率を求める(ステップS22)。
【0032】
次に、異常判定部12が、正規分布において、求めたt分布累積確率と、等しい累積確率(正規分布累積確率)になるようなMD’値を求める(ステップS23)。この場合、MD’値は「3」であったとする。
【0033】
次に、異常判定部12が、MD’値と閾値を比較して異常診断する(ステップS24)。
【0034】
なお、異常判定部12は、例えば下式を用いて補正後のMD値であるMD’値を求めることができる。
【0035】
【0036】
ここで、tcdfはt分布の累積分布関数、erfinvは誤差関数の逆関数、νは自由度で(N-A)、Nは単位空間のサンプル数(データ数)、Aはセンサー数である。
【0037】
なお、
図5に示すように、異常判定部12は、MDマハラノビス距離算出部11がMT法で算出したMD値(101)と、サンプル数(標本数)(102)に基づき、t分布累積確率(103)を算出する。また、異常判定部12は、同じ累積確率となる正規分布でのMD’値(104)を算出する。そして、異常判定部12は、MD’値(104)とMD閾値(105)を比較する。
【0038】
以上のように、第2実施形態によれば、第1実施形態と同様に、正常であるにも関わらず異常であると誤検出してしまう場合を少なくすることができる。また、上式を用いることで、サンプル数が少ないときから多いときまで、同じ計算式で対応することができる。
【0039】
<第3実施形態>
図6~
図8を参照して、本開示の第3実施形態について説明する。
図6は、本開示の第3実施形態に係る診断装置を説明するための模式図である。
図7は、本開示の第3実施形態に係る診断装置の動作例を示すフローチャートである。
図8は、本開示の第3実施形態に係る診断装置の動作例を示すシステムフロー図である。
【0040】
第3実施形態の診断装置の基本的な構成は、
図1に示す第1実施形態の診断装置10と同一である。第3実施形態は、第1実施形態と比較して、
図1に示す異常判定部12の動作の一部が詳細化されている。
【0041】
図6は、
図3と同様に、マハラノビス距離MDの確率分布を正規分布とt分布で模式的に表した図である。また、
図6は、網掛けによって、MD≧3の正規分布累積確率(正規分布の逆累積分布関数)と、MD≧5のt分布累積確率を表している。なお、
図6では、閾値MDcの値が「3」である。
【0042】
第3実施形態では、異常判定部12が、正規分布で所定の閾値MDcまでの累積確率(正規分布累積確率)を求め、正規分布累積確率と等しいt分布累積確率となるサンプル数に応じた自由度のt分布での閾値MDcに対応する対応値MDtを求め、閾値MDcと対応値MDtに基づいてMD値を補正したMD’値(第2MD値)と、閾値MDcとを比較した結果に基づき、異常の有無を判定する。
図6に示す例では、閾値MDc「3」に対応する対応値MDtは「5」であるとしている。この場合、例えば、MD値に3/5を乗じた値(MD’値)と、閾値MDcとが比較される。
【0043】
図7に示すように、第3実施形態では、まず、マハラノビス距離算出部11が、測定データ(検出値)のMD値を算出する(ステップS31)。次に、異常判定部12が、正規分布での閾値(MDc)までの累積確率を求める(ステップS32)。次に、異常判定部12が、t分布において、求めた正規分布の累積確率と等しい累積確率になるような対応値(MDt)を求める(ステップS33)。
図6ではMDc=3、MDt=5。ここから、正規分布のMD=3は、t分布では事象の発生確率的にはMD=5相当であることが分かる。ただし、t分布の対応値は、サンプル数によって変化する。
【0044】
次に、異常判定部12は、マハラノビス距離算出部11がMT法で算出したMD値を、MDc/MDt倍してMD’値(第2MD値)とする(ステップS34)。
図6に示す例では、MD’値=MD値×3/5となる。次に、異常判定部12は、MD’値とMD閾値(MDc)を比較して異常診断する(ステップS35)。
【0045】
なお、異常判定部12は、例えば下式を用いて補正後のMD値であるMD’値を求めることができる。
【0046】
【0047】
ここで、MDcはMT法の閾値、tinvはt分布の逆累積分布関数、erfは誤差関数、νは自由度(N-A)、Nは単位空間のサンプル数(データ数)、Aはセンサー数である。
【0048】
なお、
図8に示すように、第3実施形態の異常判定部12は、MDマハラノビス距離算出部11がMT法で算出したMD(MD値)(201)と、サンプル数(標本数)(205)に基づき正規分布用MD閾値(203)またはt分布用MD閾値(204)から選択したMD閾値とを比較するようにしてもよい。この場合、t分布用MD閾値(204)は、正規分布用MD閾値(203)より小さく、サンプル数が少ない場合に選択される。すなわち、第3実施形態では、異常判定部12は、サンプル数が少ない場合にMD値と比較される所定の閾値を大きくし、MD値が閾値より大きいときに異常が有ると判定する。
【0049】
以上のように、第3実施形態によれば、第1実施形態と同様に、正常であるにも関わらず異常であると誤検出してしまう場合を少なくすることができる。また、上式を用いることで、計算処理を簡素化することができ(関数のパラメータをMD値ではなく定数である閾値MDcとすることができ)、第2実施形態と比べて処理負荷が低減できる。
【0050】
<第4実施形態>
図9を参照して、本開示の第4実施形態について説明する。
図9は、本開示の第4実施形態に係る診断装置の動作例を示すシステムフロー図である。第4実施形態の診断装置の基本的な構成は、
図1に示す第1実施形態の診断装置10と同一である。第4実施形態は、第1実施形態と比較して、
図1に示す異常判定部12の動作の一部が詳細化されている。
【0051】
図9に示すように、第4実施形態の異常判定部12は、MDマハラノビス距離算出部11がMT法で算出したMD値(301)と、サンプル数(標本数)(302)に基づき、t分布累積確率(303)を算出し、t分布累積確率(303)と予め定めた閾値に対応する正規分布の累積確率である累積確率閾値(304)とを比較して異常判定を行う。すなわち、第4実施形態の診断装置10は、マハラノビス距離算出部11が測定データ(検出値)のMD値を算出する。そして、異常判定部12は、単位空間のサンプル数に応じて求めたMD値までの累積確率と、所定の累積確率閾値とを比較し、比較した結果に基づいて異常の有無を判定することで、MD値に基づいて異常の有無を判定する。
【0052】
(その他の実施形態)
以上、本開示の実施の形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0053】
〈コンピュータ構成〉
図10は、少なくとも1つの実施形態に係るコンピュータの構成を示す概略ブロック図である。
コンピュータ90は、プロセッサ91、メインメモリ92、ストレージ93、インタフェース94を備える。
上述の診断装置10は、コンピュータ90に実装される。そして、上述した各処理部の動作は、プログラムの形式でストレージ93に記憶されている。プロセッサ91は、プログラムをストレージ93から読み出してメインメモリ92に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、プロセッサ91は、プログラムに従って、上述した各記憶部に対応する記憶領域をメインメモリ92に確保する。
【0054】
プログラムは、コンピュータ90に発揮させる機能の一部を実現するためのものであってもよい。例えば、プログラムは、ストレージに既に記憶されている他のプログラムとの組み合わせ、または他の装置に実装された他のプログラムとの組み合わせによって機能を発揮させるものであってもよい。なお、他の実施形態においては、コンピュータは、上記構成に加えて、または上記構成に代えてPLD(Programmable Logic Device)などのカスタムLSI(Large Scale Integrated Circuit)を備えてもよい。PLDの例としては、PAL(Programmable Array Logic)、GAL(Generic Array Logic)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)が挙げられる。この場合、プロセッサによって実現される機能の一部または全部が当該集積回路によって実現されてよい。
【0055】
ストレージ93の例としては、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disc Read Only Memory)、半導体メモリ等が挙げられる。ストレージ93は、コンピュータ90のバスに直接接続された内部メディアであってもよいし、インタフェース94または通信回線を介してコンピュータ90に接続される外部メディアであってもよい。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ90に配信される場合、配信を受けたコンピュータ90が当該プログラムをメインメモリ92に展開し、上記処理を実行してもよい。少なくとも1つの実施形態において、ストレージ93は、一時的でない有形の記憶媒体である。
【0056】
<付記>
各実施形態に係る診断装置10は、例えば以下のように把握される。
【0057】
(1)第1の態様に係る診断装置10は、測定データ(検出値)のMD値を算出するマハラノビス距離算出部11と、MD値に基づいて異常の有無を判定する異常判定部12と、を備え、異常判定部12は、単位空間のサンプル数が少ないほど、サンプル数がより多い場合と比較して異常が無いと判定され易くなるようにして、異常の有無を判定する。
【0058】
(2)第2の態様の診断装置10は、(1)の診断装置10であって、異常判定部12は、サンプル数に応じた自由度のt分布累積確率と、t分布累積確率に対応する正規分布の累積確率とに基づいてMD値をMD’値(第2MD値)に補正し、MD’値(第2MD値)と所定の閾値を比較した結果に基づき、異常の有無を判定する。
【0059】
(3)第3の態様の診断装置は、(1)の診断装置10であって、異常判定部12は、正規分布で所定の閾値MDcまでの累積確率を求め、その累積確率と等しい累積確率となるサンプル数に応じた自由度のt分布での閾値に対応する対応値MDtを求め、閾値Mdcと対応値MDtに基づいてMD値を補正したMD’値(第2MD値)と、閾値MDcとを比較した結果に基づき、異常の有無を判定する。
(4)第4の態様の診断装置は、(1)の診断装置10であって、異常判定部12は、サンプル数が少ない場合にMD値と比較される所定の閾値を大きくし、MD値が閾値より大きいときに、異常が有ると判定する。
【0060】
(5)第4の態様の診断装置は、測定データ(検出値)のマハラノビス距離を算出するマハラノビス距離算出部11と、MD値に基づいて異常の有無を判定する異常判定部12と、を備え、異常判定部12は、単位空間のサンプル数に応じて求めたMD値までの累積確率(303)と、所定の累積確率閾値(304)とを比較し、比較した結果に基づいて異常の有無を判定する。
【0061】
上記各態様によれば、サンプル数(単位空間の算出に用いるデータ)が少ない場合に正常値を異常値であると判定する誤検出を少なくし、検出精度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0062】
10 診断装置
11 マハラノビス距離算出部
12 異常判定部