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特許7437169速度補償機能を有する航空機用補助動力装置(APU)制御システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】速度補償機能を有する航空機用補助動力装置(APU)制御システム
(51)【国際特許分類】
   B64D 41/00 20060101AFI20240215BHJP
   F01D 17/04 20060101ALI20240215BHJP
   F01D 17/08 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
B64D41/00
F01D17/04
F01D17/08 A
【請求項の数】 15
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020006522
(22)【出願日】2020-01-20
(65)【公開番号】P2020125105
(43)【公開日】2020-08-20
【審査請求日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】16/260,305
(32)【優先日】2019-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500520743
【氏名又は名称】ザ・ボーイング・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100086380
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100103078
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 達也
(74)【代理人】
【識別番号】100130650
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 泰光
(74)【代理人】
【識別番号】100168099
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 伸太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【弁理士】
【氏名又は名称】小淵 景太
(74)【代理人】
【識別番号】100200609
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 智和
(72)【発明者】
【氏名】ジェフリー ジェイ.ホワイト
【審査官】諸星 圭祐
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第03179077(EP,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03101252(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0126864(US,A1)
【文献】特開2008-132973(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0058998(US,A1)
【文献】特表2016-536191(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0054718(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0075442(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0204544(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0205302(US,A1)
【文献】米国特許第06777822(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0283908(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0137307(US,A1)
【文献】特開2008-274874(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0273458(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64D 41/00
F01D 17/04
F01D 17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機用の補助動力装置(APU)制御システムであって、APUを含むとともに、
1つ以上のプロセッサと、
前記1つ以上のプロセッサに接続されたメモリと、を備え、前記メモリは、データベース及びプログラムコードを含むデータを格納しており、前記プログラムコードは、前記1つ以上のプロセッサにより実行されると、前記APU制御システムに、
空気密度値を示す1つ以上の環境信号、及び、前記APUにより生成された特定の大きさの動力を示す1つ以上の動力信号を受け取ることと、
前記空気密度値に基づいて、前記APUの可変回転速度を決定することと、
前記可変回転速度で動作するよう前記APUに指示することと、を実行させるものであり、前記APUは、前記可変回転速度で動作中は、前記特定の大きさの動力を継続的に生成するとともに、前記空気密度値が低下した場合でも、出力される動力を一定に維持するものであり
前記1つ以上のプロセッサは、
前記航空機が地上にあるかを判定するよう指示する命令と、
前記航空機が地上にあると判定した場合に、個々の主体によって指定された離散的な回転速度、又は、回転速度の範囲であるユーザ指定速度で動作するよう前記APUに指示する命令と、を実行する、APU制御システム。
【請求項2】
前記1つ以上のプロセッサは、
温度信号及び高度信号を受け取るよう指示する命令と、
前記温度信号及び前記高度信号に基づいて、前記空気密度値を特定するよう指示する命令と、を実行する、請求項1に記載のAPU制御システム。
【請求項3】
航空機用の補助動力装置(APU)制御システムであって、APUを含むとともに、
1つ以上のプロセッサと、
前記1つ以上のプロセッサに接続されたメモリと、を備え、前記メモリは、データベース及びプログラムコードを含むデータを格納しており、前記プログラムコードは、前記1つ以上のプロセッサにより実行されると、前記APU制御システムに、
空気密度値を示す1つ以上の環境信号、及び、前記APUにより生成された特定の大きさの動力を示す1つ以上の動力信号を受け取ることと、
前記空気密度値に基づいて、前記APUの可変回転速度を決定することと、
前記可変回転速度で動作するよう前記APUに指示することと、を実行させるものであり、前記APUは、前記可変回転速度で動作中は、前記特定の大きさの動力を継続的に生成し、
前記APUの出力軸によって駆動される1つ以上の発電機をさらに備え、前記1つ以上のプロセッサは、
前記1つ以上の発電機の電気負荷需要を示す電気負荷信号を受け取るよう指示する命令と、
前記1つ以上の発電機の前記電気負荷需要に基づいて、前記APUの前記可変回転速度を調整するよう指示する命令と、
前記1つ以上の発電機の前記電気負荷需要が増加しているか、又は、減少しているかを判定するよう指示する命令と、
前記1つ以上の発電機の前記電気負荷需要が増加していると判定した場合に、前記電気負荷需要と前記APUの前記可変回転速度との比例関係に基づいて、前記APUの前記可変回転速度を増加させるよう指示する命令と、
前記1つ以上の発電機の前記電気負荷需要が減少していると判定した場合に、前記APUの前記可変回転速度を減少させるよう指示する命令と、を実行する、APU制御システム。
【請求項4】
前記1つ以上のプロセッサは、
最小回転速度と最大回転速度の間で調整可能な前記APUの所与の空気密度値における前記可変回転速度を、前記電気負荷需要の大きさに比例して動的に調整するよう指示する命令を実行し、前記最小回転速度は、前記1つ以上の発電機の最小電力需要閾値に対応し、前記最大回転速度は、前記1つ以上の発電機の最大電力需要閾値に対応する、請求項3に記載のAPU制御システム。
【請求項5】
航空機用の補助動力装置(APU)制御システムであって、APUを含むとともに、
1つ以上のプロセッサと、
前記1つ以上のプロセッサに接続されたメモリと、を備え、前記メモリは、データベース及びプログラムコードを含むデータを格納しており、前記プログラムコードは、前記1つ以上のプロセッサにより実行されると、前記APU制御システムに、
空気密度値を示す1つ以上の環境信号、及び、前記APUにより生成された特定の大きさの動力を示す1つ以上の動力信号を受け取ることと、
前記空気密度値に基づいて、前記APUの可変回転速度を決定することと、
前記可変回転速度で動作するよう前記APUに指示することと、を実行させるものであり、前記APUは、前記可変回転速度で動作中は、前記特定の大きさの動力を継続的に生成し、
前記メモリは、前記航空機の飛行計画を格納し、前記1つ以上のプロセッサは、
前記航空機の油圧負荷を変化させる操縦翼面に係る需要に基づく予測電気負荷を、前記飛行計画に基づいて算出するよう指示する命令と、
前記予測電気負荷に基づいて、前記APUの前記可変回転速度を調整するよう指示する命令と、を実行する、APU制御システム。
【請求項6】
航空機用の補助動力装置(APU)制御システムであって、APUを含むとともに、
1つ以上のプロセッサと、
前記1つ以上のプロセッサに接続されたメモリと、を備え、前記メモリは、データベース及びプログラムコードを含むデータを格納しており、前記プログラムコードは、前記1つ以上のプロセッサにより実行されると、前記APU制御システムに、
空気密度値を示す1つ以上の環境信号、及び、前記APUにより生成された特定の大きさの動力を示す1つ以上の動力信号を受け取ることと、
前記空気密度値に基づいて、前記APUの可変回転速度を決定することと、
前記可変回転速度で動作するよう前記APUに指示することと、を実行させるものであり、前記APUは、前記可変回転速度で動作中は、前記特定の大きさの動力を継続的に生成し、
前記1つ以上のプロセッサは、
所与の空気密度値の空気中における音速に比較した航空機速度を示す速度信号を受け取るよう指示する命令と、
前記航空機速度が最大値未満であるかを判定するよう指示する命令と、
前記航空機速度が前記最大値未満であると判定した場合に、前記航空機速度と前記APUの前記可変回転速度との線形的な反比例の関係に基づいて、前記APUの前記可変回転速度を調整するよう指示する命令と、を実行する、APU制御システム。
【請求項7】
航空機用の補助動力装置(APU)制御システムであって、APUを含むとともに、
1つ以上のプロセッサと、
前記1つ以上のプロセッサに接続されたメモリと、を備え、前記メモリは、データベース及びプログラムコードを含むデータを格納しており、前記プログラムコードは、前記1つ以上のプロセッサにより実行されると、前記APU制御システムに、
空気密度値を示す1つ以上の環境信号、及び、前記APUにより生成された特定の大きさの動力を示す1つ以上の動力信号を受け取ることと、
前記空気密度値に基づいて、前記APUの可変回転速度を決定することと、
前記可変回転速度で動作するよう前記APUに指示することと、を実行させるものであり、前記APUは、前記可変回転速度で動作中は、前記特定の大きさの動力を継続的に生成し、
前記1つ以上のプロセッサは、
所与の空気密度値の空気中における音速に比較した航空機速度を示す速度信号を受け取るよう指示する命令と、
前記航空機速度が最大値であるかを判定するよう指示する命令と、
前記航空機速度が前記最大値であると判定した場合に、前記APUの前記可変回転速度をそのまま維持するよう指示する命令と、を実行する、APU制御システム。
【請求項8】
航空機用の補助動力装置(APU)制御システムであって、APUを含むとともに、
1つ以上のプロセッサと、
前記1つ以上のプロセッサに接続されたメモリと、を備え、前記メモリは、データベース及びプログラムコードを含むデータを格納しており、前記プログラムコードは、前記1つ以上のプロセッサにより実行されると、前記APU制御システムに、
空気密度値を示す1つ以上の環境信号、及び、前記APUにより生成された特定の大きさの動力を示す1つ以上の動力信号を受け取ることと、
前記空気密度値に基づいて、前記APUの可変回転速度を決定することと、
前記可変回転速度で動作するよう前記APUに指示することと、を実行させるものであり、前記APUは、前記可変回転速度で動作中は、前記特定の大きさの動力を継続的に生成し、
前記1つ以上のプロセッサは、
所与の空気密度の空気の絶対湿度を示す環境湿度信号を受け取るよう指示する命令と、
前記環境湿度信号に基づいて、前記空気の絶対湿度を特定するよう指示する命令と、
前記APUの動力出力と反比例の関係にある前記絶対湿度に基づいて、前記APUの前記可変回転速度を調整するよう指示する命令と、を実行する、APU制御システム。
【請求項9】
航空機用の補助動力装置(APU)制御システムであって、APUを含むとともに、
1つ以上のプロセッサと、
前記1つ以上のプロセッサに接続されたメモリと、を備え、前記メモリは、データベース及びプログラムコードを含むデータを格納しており、前記プログラムコードは、前記1つ以上のプロセッサにより実行されると、前記APU制御システムに、
空気密度値を示す1つ以上の環境信号、及び、前記APUにより生成された特定の大きさの動力を示す1つ以上の動力信号を受け取ることと、
前記空気密度値に基づいて、前記APUの可変回転速度を決定することと、
前記可変回転速度で動作するよう前記APUに指示することと、を実行させるものであり、前記APUは、前記可変回転速度で動作中は、前記特定の大きさの動力を継続的に生成し、
前記1つ以上のプロセッサは、
前記航空機が地上にあるかを判定するよう指示する命令と、
前記航空機が地上にあると判定した場合に、航空機地上支援機材の電源に適応する分布幅を有する回転速度で動作するよう前記APUに指示する命令と、を実行する、APU制御システム。
【請求項10】
前記1つ以上のプロセッサは、
前記航空機が地上にあるかを判定するよう指示する命令と、
前記航空機が地上にあると判定した場合に、個々の主体によって指定された離散的な回転速度、又は、回転速度の範囲であるユーザ指定速度で動作するよう前記APUに指示する命令と、を実行する、請求項~8のいずれかに記載のAPU制御システム。
【請求項11】
航空機におけるAPUの可変回転速度を調整する方法であって、
空気密度値を示す1つ以上の環境信号、及び、前記APUにより生成された特定の大きさの動力を示す1つ以上の動力信号を、コンピュータによって受け取ることと、
前記APUの可変回転速度を前記空気密度値に基づいて、前記コンピュータによって決定することと、
前記可変回転速度で動作するよう前記APUに指示することと、を含み、前記APUは、前記可変回転速度で動作中は、前記特定の大きさの動力を継続的に生成するものであるとともに、前記空気密度値が低下した場合でも、出力される動力を一定に維持するものであり
前記コンピュータは、
前記航空機が地上にあるかを判定し、
前記航空機が地上にあると判定した場合に、個々の主体によって指定された離散的な回転速度、又は、回転速度の範囲であるユーザ指定速度で動作するよう前記APUに指示する、方法。
【請求項12】
温度信号及び高度信号を受け取ることと、
前記温度信号及び前記高度信号に基づいて、前記空気密度値を特定することと、をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記APUに駆動可能に接続された1つ以上の発電機の電気負荷需要を示す電気負荷信号を受け取ることと、
前記1つ以上の発電機の前記電気負荷需要に基づいて、前記APUの前記可変回転速度を動的に調整することと、をさらに含む、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
航空機におけるAPUの可変回転速度を調整する方法であって、
空気密度値を示す1つ以上の環境信号、及び、前記APUにより生成された特定の大きさの動力を示す1つ以上の動力信号を、コンピュータによって受け取ることと、
前記APUの可変回転速度を前記空気密度値に基づいて、前記コンピュータによって決定することと、
前記可変回転速度で動作するよう前記APUに指示することと、
つ以上の発電機の電気負荷需要が増加しているか、又は、減少しているかを判定することと、
前記1つ以上の発電機の前記電気負荷需要が増加していると判定した場合に、前記電気負荷需要と前記APUの前記可変回転速度との比例関係に基づいて、前記APUの前記可変回転速度を増加させることと、
前記1つ以上の発電機の前記電気負荷需要が減少していると判定した場合に、前記電気負荷需要と前記APUの前記可変回転速度との前記比例関係に基づいて、前記APUの前記可変回転速度を減少させることと、を含み、
前記APUは、前記可変回転速度で動作中は、前記特定の大きさの動力を継続的に生成する、方法。
【請求項15】
航空機におけるAPUの可変回転速度を調整する方法であって、
空気密度値を示す1つ以上の環境信号、及び、前記APUにより生成された特定の大きさの動力を示す1つ以上の動力信号を、コンピュータによって受け取ることと、
前記APUの可変回転速度を前記空気密度値に基づいて、前記コンピュータによって決定することと、
前記可変回転速度で動作するよう前記APUに指示することと、
所与の空気密度値の空気中における音速に比較した航空機速度を示す速度信号を受け取ることと、
前記航空機速度が最大値未満であるかを判定することと、
前記航空機速度が前記最大値未満であると判定した場合に、前記航空機速度と前記APUの前記可変回転速度との線形的な反比例の関係に基づいて、前記APUの前記可変回転速度を調整することと、を含み、
前記APUは、前記可変回転速度で動作中は、前記特定の大きさの動力を継続的に生成する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、航空機用の補助動力装置(APU)制御システムに関する。より具体的には、本開示は、APUの回転速度を補償することで動力の出力を実質的に一定に維持するためのAPU制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
航空機は、補助動力装置(APU)としてガスタービンを備える。大型の民間航空機のAPUには、電力だけでなく抽気を供給するものもある。抽気は、APUの負荷圧縮機によって抽出される。ただし、APUが抽気を供給するのは、地上において、或いは、高度が非常に低い場合のみに限られる。別の構成として、電力推進航空機は、電力のみを供給するAPUを備える。電力推進航空機のAPUは、負荷圧縮機を備えておらず、よって、抽気を供給することはできない。なお、電力推進航空機について記載しているが、このような構成は、推進系以外のすべてのシステムに電力を使用する航空機においても採用される。
【0003】
ガスタービンは、通常は、一定の出力速度で動作して、動力と、少なくともある種の航空機においては、抽気を供給する。ガスタービンの性能は、環境条件(ambient conditions)の影響を受ける。具体的には、ガスタービンの動力の出力及び効率は、高度、大気温度、湿度、及び、空気密度などの環境条件に依存する。ガスタービンからの動力の出力は、高度の上昇に比例して減少する。例えば、海抜ゼロ地点における空気密度は、高度40,000フィート(約12,192メートル)における空気密度の約4倍である。空気密度が低いと、ガスタービンに流れ込む空気の質量流量が減少する。したがって、高度40,000フィートでは、ガスタービンは、海抜ゼロ地点の約1/4の動力しか生成できない。
【0004】
航空機に使用されている既存のAPUは、負荷需要(load demand)が短時間のうちに大幅に増加した場合に発生する衝撃負荷(shock load)の可能性に備えて、通常、大きめに設定されている。より具体的には、タービンは、衝撃負荷が発生した場合でも回転速度が所定の回転数を下回ることのないように、十分なロータ慣性を有するようなサイズに設定されている。しかしながら、大きめのAPUの搭載は、航空機の質量の増加を意味する。
【0005】
本開示は、これらの事項を考慮して、また、その他の事項を考慮して成されたものである。
【発明の概要】
【0006】
いくつかの態様によれば、航空機用の補助動力装置(APU)制御システムが開示されている。前記APU制御システムは、APUと、1つ以上のプロセッサと、前記1つ以上のプロセッサに接続されたメモリと、を備える。前記メモリは、データベース及びプログラムコードを含むデータを格納しており、前記プログラムコードは、前記1つ以上のプロセッサにより実行されると、前記APU制御システムに、空気密度値を示す1つ以上の環境信号、及び、前記APUにより生成された特定の大きさの動力を示す1つ以上の動力信号を受け取ることを実行させる。さらに、前記APUの可変回転速度を前記空気密度値に基づいて決定することを、前記システムに実行させる。さらに、に前記可変回転速度で動作するよう前記APUに命令することを、前記システムに実行させる。前記APUは、前記可変回転速度で動作中は、前記特定の大きさの動力を継続的に生成する。
【0007】
本開示の別の態様によれば、航空機が開示されている。前記航空機は、補助動力装置(APU)制御システムと、出力軸を含むAPUと、前記APUの前記出力軸に駆動可能に接続された1つ以上の発電機と、前記APUに電気的に接続された1つ以上のプロセッサと、前記1つ以上のプロセッサに接続されたメモリと、を備える。前記メモリは、データベース及びプログラムコードを含むデータを格納しており、前記プログラムコードは、前記1つ以上のプロセッサにより実行されると、前記APU制御システムに、空気密度値を示す1つ以上の環境信号、及び、前記APUにより生成された特定の大きさの動力を示す1つ以上の動力信号を受け取ることを実行させる。さらに、前記APUの可変回転速度を前記空気密度値に基づいて決定するようことを、前記システムに実行させる。さらに、前記可変回転速度で動作するよう前記APUに命令することを、前記システムに実行させる。前記APUは、前記可変回転速度で動作中は、前記特定の大きさの動力を継続的に生成する。
【0008】
本開示のさらに別の態様によれば、航空機におけるAPUの可変回転速度を調整する方法が開示されている。本方法は、空気密度値を示す1つ以上の環境信号、及び、前記APUにより生成された特定の大きさの動力を示す1つ以上の動力信号を、コンピュータによって受け取ることを含む。本方法は、さらに、前記APUの可変回転速度を前記空気密度値に基づいて、前記コンピュータによって決定することを含む。本方法は、さらに、前記可変回転速度で動作するよう前記APUに命令することを含む。前記APUは、前記可変回転速度で動作中は、前記特定の大きさの動力を継続的に生成する。
【0009】
上述の特徴、機能、利点は、様々な実施例において個別に達成することも可能であるし、他の実施例と組み合わせて達成することも可能である。その詳細は、以下の説明及び図面を参照すれば明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本明細書に記載する図面は、あくまでも例示を目的としたものであり、本開示の範囲を限定することを意図したものではない。
【0011】
図1】本開示の例示的な実施例による補助動力装置(APU)を含む航空機の概略図である。
図2】例示的な実施例による負荷圧縮機を含む、図1のAPUの概略図である。
図3】例示的な実施例による、電力推進航空機用の別のAPUの概略図である。
図4】例示的な実施例による、空気密度に基づく速度補償曲線を示すグラフである。
図5】速度補償曲線を示す図4のグラフにおいて、例示的な実施例による動力の正の補償及び負の補償を示す図である。
図6】本開示の例示的な実施例によるAPUのタービン速度曲線を示すグラフである。
図7】速度補償曲線を示す図4のグラフにおいて、例示的な実施例による航空機速度の正の補償及び負の補償を示す図である。
図8】例示的な実施例による、APUの回転速度を調整するための方法を示すフロー図である。
図9】例示的な実施例による、電力推進航空機における速度補償のための方法を示すフロー図である。
図10】例示的な実施例による、図1のAPU制御システムが用いるコンピュータシステムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示は、航空機用の補助動力装置(APU)制御システムに関し、この場合の補助動力装置は、ガスタービンである。APU制御システムは、APUの性能に影響を与える、航空機の環境条件及び動作パラメータ(operating parameter)が変化した場合でも、APUの回転速度を変化させることで、動力の出力を実質的に一定に維持する。具体的には、例えば、空気密度、外気温度、湿度、及び、高度などの環境条件の変化は、APUの性能に悪影響を及ぼす可能性がある。例えば、航空機の高度が上昇すると、空気密度が低下するため、APUに供給される空気の質量流量が減少する。APU制御システムは、APUの回転速度を調整することで、空気密度の低下を補償する。したがって、入口空気密度が低下しても、APUの動力出力を実質的に一定に維持することができる。APU制御システムは、空気密度だけでなく、例えば、航空機速度及び湿度など、他の環境条件にも基づいて、APUの回転速度を調整する。
【0013】
また、APU制御システムは、電気負荷需要(electrical load demand)に基づく回転速度の補償も行うので、これによりAPUの効率が改善される。具体的には、全負荷需要(full-load demand)がある状態では、APUの回転速度を増加させるが、負荷需要が小さい場合には、APUの回転速度を小さくする。これにより、本開示のAPU制御システムは、動作速度が固定されたガスタービンを用いる従来のシステムと同様の機能を、より小さなAPUで実現することができる。一実施例では、本開示のAPU制御システムは、電力推進航空機、或いは、推進系以外の全システムにおいて電力を使用する航空機に利用可能である。
【0014】
以下の説明は、あくまでも例示的な性質のものに過ぎず、本開示、本出願、或いは、その用途を限定することを意図したものではない。
【0015】
図1を参照すると、航空機20の補助動力装置(APU)制御システム18の概略図が示されている。APU制御システム18は、APU22と、APU22によって駆動される1つ以上の発電機24と、APU22及び発電機24に電気的に接続された制御モジュール28と、を含む。APU22は、燃料を機械的エネルギーに変換するよう構成されたガスタービンである。なお、図1では、APU22に駆動可能に接続された1つ以上の発電機24が示されているが、APU22が他の機器を駆動する構成も可能である。例えば、APU22には、空気圧縮機又は油圧ポンプなどの機器が駆動可能に接続されていてもよい。制御モジュール28は、航空機20における1つ以上の他の制御モジュール40にも電気的に接続されている。一実施例では、制御モジュール40は、フライトコンピュータ制御モジュールを含む。
【0016】
詳細については後述するが、APU制御システム18は、航空機20の環境条件及び操作パラメータに基づいて、APU22の回転速度を動的に調整する。具体的には、APU制御システム18は、APU22の回転速度を調整することで、動力の出力を実質的に一定に維持する速度補償モードを有する。一実施例では、APU制御システム18は、速度補償モードに加えて、可変速地上モード又はメンテナンスモード、或いは、可変速地上モードとメンテナンスモードの両方を有する。可変速地上モード及びメンテナンスモードは、いずれも、航空機20が地上にある場合にのみ実行される。これに対し、速度補償モードは、航空機が地上にあるときでも、飛行中でも実行可能である。
【0017】
図2は、APU22及び発電機24の例示的な実施例の概略図である。図2に示す実施例では、APU22は、動力圧縮機(power compressor)42と、燃焼器44と、動力タービン(power turbine)46と、APU22に駆動可能に接続された負荷圧縮機(load compressor)48と、を含む。なお、図2は、あくまでも例示的な性質のものに過ぎず、異なる構成のガスタービンも使用可能である。例えば、図3に示す別の実施例では、APU22は、負荷圧縮機を含んでいない。後述するように、図3に示すAPU22は、例えば、電力推進航空機、又は、推進系以外の全システムにおいて電力を使用する航空機など、航空機20における1つ以上の空気圧負荷68に抽気を供給しない航空機の一部を構成する。空気圧負荷68としては、例えば、環境制御システム(ECS)、及び、1つ以上の主エンジンを始動させるための空気が含まれる。
【0018】
図2を再び参照すると、APU22の動作中、動力圧縮機42は、外気Aを入口50から取り込み、外気Aを圧縮し、燃焼器44に圧縮空気を供給する。燃焼器44は、動力圧縮機42から圧縮空気の供給を受けるとともに、燃料調節弁62から燃料Fの供給を受ける。燃料Fと圧縮空気は、燃焼器44内で混合及び燃焼される。これにより、燃焼ガスが生成され、動力タービン46に供給される。燃焼ガスは、膨張しながら動力タービン46を通過して、タービン羽根(図示せず)に吹き付けられて、動力タービン46を回転させる。
【0019】
動力タービン46は、動力圧縮機42、負荷圧縮機48、及び、発電機24を駆動する出力軸64を含む。APU22は、この出力軸64によって発電機24に駆動可能に接続されている。なお、図2では、出力軸64が発電機24に接続された一軸構成を示しているが、別の実施例では、発電機24と負荷圧縮機48とを別々の出力軸で駆動する二軸構成を用いてもよい。さらに別の実施例では、補機歯車装置を用いて発電機24と負荷圧縮機48を駆動してもよい。負荷圧縮機48は、複数の入口案内翼67によって入口66から外気Aを取り込んで、外気Aを圧縮する。圧縮された外気は、抽気弁70によって空気圧負荷68に供給される。なお、図3に示した実施例は、航空機20の空気圧負荷68に抽気を供給するための負荷圧縮機48を含まない構成である。図3に示すAPU22は、航空機20が電動の客室用空気圧縮機(つまり、電動モータ駆動型の空気圧縮機)を用いる構成である場合に利用される。図3に示す実施例では、APU22には、発電機24だけが接続されている。一実施例では、航空機20は、空気圧負荷68に必要な空気を供給するために、負荷圧縮機の代わりに、電動圧縮機72を含んでもよい。
【0020】
図1及び図2を参照すると、制御モジュール28は、APU22の全体の動作を制御するよう構成されている。具体的には、制御モジュール28は、後で詳しく説明するように、APU22の出力軸64の回転速度を、航空機の様々な環境条件及び動作パラメータに基づいて制御する。なお、APU22の出力軸64の回転速度は、回転速度信号に基づいて制御可能なことは理解されよう。ただし、出力軸64の回転速度は、他の操作パラメータによっても制御可能である。例えば、制御モジュール28は、燃焼器44に供給される燃料流量を制御したり、発電機24の電力出力38を制御したり、或いは、出力軸64の動力出力を制御することによって、出力軸64を特定の回転速度にすることができる。
【0021】
制御モジュール28は、航空機20の様々な環境条件及び動作に関するデータを入力として受け取る。具体的には、制御モジュール28は、空気密度値を示す環境信号、環境湿度信号、航空機速度信号、電気負荷信号76、APU22の(出力軸64において測定された)回転速度を示す信号、APU22の(出力軸64における)出力トルクを示す信号、及び、1つ以上のフライトデッキコマンドのうちの1つ以上を入力として受け取る。制御モジュール28への入力信号は、航空機20に搭載された1つ以上のセンサ84から、或いは、他の制御モジュール40(例えば、飛行制御モジュール)から送られる。
【0022】
一実施例では、空気密度値を示す環境信号は、測定値を示す。換言すると、空気密度値は、計測機器によって直接に測定された値である。例えば、アネロイド気圧計を用いて、空気密度を直接に測定することができる。或いは、別の実施例では、空気密度値は、算出して得た値でもよい。具体的には、空気密度値を示す環境信号は、温度信号と高度信号であってもよい。制御モジュール28は、入力として、空気密度信号を受け取るか、或いは、温度信号と高度信号を受け取る。制御モジュール28は、温度信号と高度信号に基づいて、空気密度値を算出する。さらに、一実施例では、測定された空気密度値(即ち、アネロイド気圧計によって測定された空気密度)と、算出された(即ち、高度及び温度に基づく)空気密度値とを比較して、冗長性を確保する。例えば、空気密度値を測定するための1つ又は複数のセンサが動作不能になった場合には、制御モジュール28は、温度信号及び高度信号に基づいて空気密度信号を算出することができる。
【0023】
電気負荷信号76は、制御モジュール28によって、或いは、航空機20における他の制御モジュール40によって決定される。電気負荷信号76は、発電機24の電気負荷需要を示す。電気負荷信号76には、励磁電流及び励磁制御などの特性を含んでもよい。一実施例では、電気負荷信号76は、発電機制御モジュール78から受信される電力伝送ペンディング信号(power transfer pending signal)86を含む。発電機制御モジュール78は、航空機20における1つ以上の主発電機80に接続されている。主発電機80は、APU22の出力軸64によって駆動される。電力伝送ペンディング信号86は、航空機20の主発電機80から発電機24への電力伝送を示す。なお、航空機20の主発電機80が、航空機20の主エンジン82によって駆動されることは理解されよう。電力伝送の間、発電機24の電気負荷は、無負荷(或いは、比較的低負荷)状態から高負荷に遷移する。電気負荷信号76は、電力伝送ペンディング信号86を含む。したがって、制御モジュール28は、主発電機80からの電力伝送による負荷の増加を予測して、APU22の動作を調整するよう構成されている。
【0024】
次に、可変速地上モード及びメンテナンスモードでの動作について説明する。航空機20が地上にある場合、APU制御システム18は、これらのモードのいずれかで動作する。可変速地上モードでは、APU22は、燃料を節約するよう機能する。先ず、制御モジュール28は、航空機20が地上において、乗客が航空機20に搭乗するためのゲート又は待機エリアに駐機中であるかを判定する。次いで、制御モジュール28は、航空機20において地上支援機材が使用されることの通知を受け取る。制御モジュール28は、地上支援機材が間もなく使用されることの通知を受け取ると、可変速地上モードを開始する。いくつかの実施例では、地上支援機材には、限定するものではないが、掃除機、及び、航空貨物の取扱機器が含まれる。可変速地上モードでは、制御モジュール28は、分布幅を有する回転速度(bandwidth rotational speed)で動作するようAPU22に指示する。分布幅を有する回転速度は、航空機の地上支援機材(例えば、掃除機、及び、航空貨物の取扱機器)の電源に対応した回転速度の範囲を含む。一実施例では、限定するものではないが、分布幅を有する回転速度は、約370ヘルツから約440ヘルツの範囲の周波数で動作する地上支援機材に電力を供給するよう構成されている。ただし、当然ながら他の範囲も使用可能である。
【0025】
メンテナンスモードで動作する場合、APU制御システム18は、APU22の健全性監視チェックを実行する。制御モジュール28は、先ず、航空機20が地上にあるかを判定する。制御モジュール28は、次いで、メンテナンスモードが間もなく開始される旨の通知を受け取る。メンテナンスモードが間もなく開始される旨の通知を受け取ると、制御モジュール28は、ユーザ指定の速度で動作するようAPU22に指示する。ユーザ指定の速度は、ユーザ生成信号(user-generated signal)によって示される。ユーザ指定の速度は、例えば、メンテナンス担当者などの個々の主体よって指定された、離散的な回転速度、又は、回転速度の範囲である。例えば、特定の回転速度、又は、回転速度範囲において、望ましくない振動や共鳴が発生する場合には、APU22の不具合を解消するような速度又は速度範囲をユーザ生成信号で指定することができる。
【0026】
次に、速度補償モードについて説明する。図2に示した実施例では、航空機20は、負荷圧縮機(即ち、負荷圧縮機48)を含む。図3に示した実施例とは異なり、図2の航空機20は、1つ以上の空気圧負荷68に抽気を供給するよう構成されている。なお、速度補償モードでは、航空機20が地上にある間も、飛行中も、刻々と変化する航空機20の様々な環境パラメータ及び動作パラメータに基づく補償が実行される。例えば、航空機20の上昇飛行中であれば、高度が上がるのにともなって、空気密度及び温度が低くなる。ただし、航空機20が飛行中でなくとも、航空機20が位置する空港の標高や地上の地形によって、空気密度及び温度は変化する。例えば、海抜ゼロ地点での空気密度は、温度が-40oC(-40oF)のときは、同じ高度であっても約48.9oC(120oF)のときと比べて、約35パーセント高くなる。速度補償モードで動作するAPU制御システム18は、APU22の回転速度を変化させて状況の変化に対して補償することで、動力出力を実質的に一定に維持する。具体的には、制御モジュール28は、APU22の回転速度を、少なくとも空気密度値に基づいて調整する。
【0027】
図4は、例示的な速度補償曲線88を示すグラフ90であり、APU22(図1)の可変回転速度と空気密度値との関係を表している。空気密度値が最小値92(例えば、0.3kg/m3)に近づくと、APU22の回転速度の補償が大きくなる。同様に、空気密度値が最大値94(例えば、1.51kg/m3)に近づくと、APU22の回転速度の補償が小さくなる。速度補償曲線88には、最大タービン動作速度96と最小タービン動作速度98との間の値が含まれる。速度補償曲線88には、APU22の公称動作点(nominal operating point)100も含まれる。APU22の可変回転速度は、空気密度値に反比例する。換言すると、制御モジュール28は、APU22の可変回転速度と空気密度値との反比例の関係に基づいて、APU22の可変回転速度を決定する。なお、寒い日の海抜ゼロ地点での空気密度の値(1.51kg/m3)と、高度40,000フィートでの空気密度の値(0.3kg/m3)は、約5対1の比率で異なる。したがって、一定の速度で動作する従来のAPUの場合、高い高度(即ち、40,000フィート)で生成される動力は、海抜ゼロ地点での動力の出力に比べて約80パーセント少なくなる。これに対し、本開示のAPU制御システム18は、高度の上昇に伴う空気密度の低下を、回転速度を上げることで補償することができる。
【0028】
限定するものではないが、図4に示す実施例では、速度補償曲線88は、線形的である。ただし、図4は、あくまでも例示的な性質のものに過ぎず、APU22(図1)の可変回転速度と空気密度値との関係は、線形的でない場合もありうる。APU22の回転速度と空気密度値との具体的な関係は、ガスタービンの種類又は型式に依存する。したがって、空気密度値と可変回転速度との関係は、ガスタービンの具体的な特性によって変わる。さらに、図4では、1つの速度補償曲線88のみが示されているが、当然ながら、曲線群や複数の曲線を設定し、それぞれの曲線が特定の動作点に対応しているとすることも可能である。空気密度値と可変回転速度との関係に影響を及ぼすガスタービンの特性には、空気取り入れ口の形状や構成が含まれる。加えて、ガスタービンにおける動翼のサイズ、形状、数、案内翼の数、及び、動力圧縮機42の段数も、空気密度と可変回転速度との関係に影響を及ぼす可能性がある。
【0029】
次に、空気密度値に基づいたAPU22の回転速度の調整について説明する。図1図2及び図4を参照すると、制御モジュール28は、空気密度値を示す1つ以上の環境信号、及び、APU22により生成された特定の大きさの動力を示す1つ以上の動力信号を受け取る。上述したように、環境信号は、空気密度値を示す測定値(即ち、アネロイド気圧計によって測定された値)であるか、或いは、環境信号は、温度信号と高度信号に基づいて算出される。一実施例では、動力信号は、出力軸64の回転速度を示す速度信号、及び、出力軸64の出力トルクを示すトルク信号を含む。制御モジュール28は、出力軸64の回転速度と出力トルクに基づいて、APU22により生成された動力の特定の大きさを算出する。或いは、制御モジュール28は、発電機24の出力電圧と電流から、出力軸64の動力を算出する。
【0030】
制御モジュール28は、空気密度値に基づいて、APU22の可変回転速度を決定する。具体的には、図4に示すように、速度補償曲線88において、空気密度値には、APU22の特定の回転速度値が対応する。APU22の回転速度が決定されると、制御モジュール28は、その可変回転速度で動作するようAPU22に指示する。APU22は、当該可変回転速度で動作する間は、特定の大きさの動力を継続的に生成する。換言すると、制御モジュール28は、環境パラメータ及び操作パラメータが変化した場合でも、APU22の回転速度を変えることで、動力の出力を実質的に一定に維持する。高度が増加して外気の空気密度が下がれば、これに比例して、APU22の回転速度を増加させる。
【0031】
図1及び図2を参照すると、制御モジュール28は、APU22に送られた調速信号110に基づく可変回転速度で動作するようAPU22に指示する。一実施例では、調速信号110は、APU22の出力軸64の回転速度を調節するように設定されている。ただし、別の実施例では、燃料調節弁62の位置を制御して燃焼器44に供給される燃料流量を調節することによって、APU22を同様に制御することができる。或いは、別の実施例では、発電機24の電力出力を調節するか、或いは、出力軸64の動力出力を調整することによっても、APU22を同様に制御することができる。
【0032】
APU22の可変回転速度は、空気密度値だけでなく、発電機24の電気負荷需要に基づいても動的に調整される。制御モジュール28は、電気負荷信号76を受け取る。制御モジュール28は、発電機24の電気負荷需要に基づいて、APU22の可変回転速度を調整する。なお、APU22の回転速度は、先ずは、空気密度について補償するように調整されることは理解されよう。例えば、一手法においては、APU22の回転速度は、先ず、約40,000フィートという高い高度に基づいて調整される。この際に、発電機24の電気負荷需要は、比較的低い可能性がある。例えば、発電機24にかかる負荷が、公称電力の約20パーセントのみであるとする。したがって、APU22の回転速度は、次に、発電機24の負荷需要が低いことに基づいて調整される(即ち、減速される)。これにより、燃料効率が向上する。
【0033】
図5は、速度補償曲線88、例示的な最大電力調整曲線120、及び、例示的な最小電力調整曲線122を示している。後述するように、制御モジュール28は、電気負荷需要とAPU22の可変回転速度との比例関係に基づいて、APU22の可変回転速度を増加或いは減少させるよう構成されている。制御モジュール28は、電力需要が増加すれば、APU22の可変回転速度を速度補償曲線88に対して増加させて適応するよう構成されている。同様に、制御モジュール28は、電力需要が減少すれば、APU22の可変回転速度を速度補償曲線88に対して減少させて適応するよう構成されている。
【0034】
図1図2及び図5を参照すると、一実施例では、制御モジュール28は、電気負荷需要を示す電気負荷信号76を受け取る。いくつかの実施例では、制御モジュール28は、発電機24の電気負荷需要が増加しているかを判定する。発電機24の電気負荷需要が増加していると判定すると、制御モジュール28は、APU22の可変回転速度を増加させる。図5を参照すると、制御モジュール28は、APU22の所与の空気密度値130における可変回転速度が最大回転速度132に到達するまで、可変回転速度を継続して引き上げることができる。つまり、制御モジュール28は、APU22の所与の空気密度値における可変回転速度を段階的に調整して、APU22が現在生成している大きさの動力を維持するよう構成されている。最大回転速度132は、最大電力調整曲線120上に位置している。APU22の最大回転速度132は、最大電力需要値閾値に関連する。
【0035】
いくつかの実施例では、制御モジュール28は、発電機24の電気負荷需要が減少しているかを判定する。発電機24の電気負荷需要が減少していると判定すると、制御モジュール28は、APU22の可変回転速度を減少させる。具体的には、図5に示すように、制御モジュール28は、APU22の所与の空気密度値130における可変回転速度が最小回転速度134に到達するまで、APU22の可変回転速度を継続的に引き下げることができる。最小回転速度134は、最小電力調整曲線122上に位置しており、最小電力需要閾値に関連する。したがって、制御モジュール28は、APU22の所与の空気密度値130における可変回転速度を、電気負荷需要の大きさに比例して動的に調整する。なお、APU22の可変回転速度は、最小回転速度134と最大回転速度132との間で調整可能である。最小回転速度134は、発電機24の最小電力需要閾値に対応し、最大回転速度132は、発電機24の最大電力需要閾値に対応する。
【0036】
最大電力需要値閾値、及び、最小電力需要閾値の値は、1つ以上の要因に依存し、具体的には、航空機の種類又は型式、発電機24のサイズ、発電機24の最大電力出力、発電機24の力率、発電機24の電力供給を受ける装置の負荷の種類、及び、最大電力需要値及び最小電力需要閾値のそれぞれに対応する負荷の組み合わせのうちの1つ以上の要因に依存する。発電機24の電力供給を受ける負荷の種類には、抵抗負荷、及び、無効負荷(即ち、電動モータを含んでおり、始動時により多くの電力を必要とする負荷)が含まれる。一実施例では、限定するものではないが、最大電力需要値閾値は、発電機24の最大出力電力の約60パーセントから約80パーセントの範囲であり、最小電力需要閾値は、発電機24の最大出力電力の約20パーセントから約40パーセントの範囲である。ただし、これらの値は、あくまでも例示的な性質のものに過ぎない。さらに別の実施例では、最大及び最小の電力需要閾値は、ルックアップテーブルに基づいて決定される。さらに別の実施例では、最大及び最小の電力需要閾値は、航空機20の飛行計画に基づいて変わる。
【0037】
図5に示した例では、限定するものではないが、最大電力調整曲線120及び最小電力調整曲線122は、いずれも速度補償曲線88に沿っている。換言すると、最大電力調整曲線120及び最小電力調整曲線122は、いずれも速度補償曲線88の変化量と同じだけ値が変化する。ただし、当然ながら、最大電力調整曲線120及び最小電力調整曲線122は、速度補償曲線88とは異なる割合で変化してもよい。換言すると、最大電力調整曲線120、最小電力調整曲線122、及び、速度補償曲線88は、傾きがそれぞれ異なっていてもよい。さらに、別の実施例では、速度補償曲線88は、線形的でなくてもよく、また、最大電力調整曲線120、及び、最小電力調整曲線122も線形的でなくてもよい。
【0038】
図6は、APU22のタービン速度曲線138の例を示すグラフ128である。タービン速度曲線138は、エンジンモデルによるシミュレーションに基づいて、また、テストデータに基づいて決定される。なお、図6に示すタービン速度曲線138は、あくまでも例示的な性質のものに過ぎず、タービン速度曲線の具体的な形状は、限定するものではないが、例えば、タービンのサイズ及びスプールの数などの要素によって異なる。図6に示す実施例では、比較的低い高度140(例えば、海抜約2,000フィート、即ち、609.6メートル)でAPU22の回転速度を増加させると、比較的高い高度142でAPUの回転速度を同じだけ増加させるよりも、出力は大きく増加する。比較的高い高度としては、約35,000フィート(10,668メートル)を超える任意の値である最大高度値も含まれる。例えば、比較的低い高度140においてAPU22の回転速度を約10パーセントから約23パーセントに引き上げると、出力が20パーセント増加する。これに対し、比較的高い高度142では、APU22の回転速度をエンジン速度で約40パーセント分、引き上げても、出力の増加は同じ(即ち、20パーセント)である。タービン速度曲線138は、航空機速度や湿度などの環境条件に基づいて変化する。したがって、タービン速度曲線138は、環境条件に基づいて再計算される。
【0039】
別の実施例では、制御モジュール28は、航空機20の飛行計画に基づいて、APUの可変回転速度を調整する。一実施例では、飛行計画は、飛行制御モジュールのメモリに格納されており、制御モジュール28に送られる。制御モジュール28は、飛行計画に基づいて推定又は予測される電気負荷を算出するよう構成されている。この予測電気負荷は、航空機20の油圧負荷を変化させる、操縦翼面に係る需要(control surface demand)に基づくものである。制御モジュール28は、この予測電気負荷に基づいて、APU22の可変回転速度を調整する。航空機の油圧負荷は、限定するものではないが例えば、フラップの展開及び退避、逆推力の生成(thrust reverse)、及び、自動ギャップフラップ駆動(auto-gap flap actuation)などの操縦翼面コマンドによって増減する。自動ギャップフラップ駆動は、航空機20の迎角、対気速度、及び、フラップ位置に基づいて、自動でフラップを動作させる機能を表す。
【0040】
なお、電力推進航空機は、空力フラップなどの操縦翼面を備えない可能性がある。その場合、制御モジュール28は、航空機20の姿勢又は角速度を制御するために実行する複数の電動モータの速度変化に基づいて予測負荷を算出するよう構成されている。具体的には、電力推進航空機は、モータからの推力の向きを操作することで姿勢又は角速度を制御する推力偏向(thrust vectoring)と呼ばれる方法に基づいて操縦される。よって、制御モジュール28は、航空機20の電動モータの需要に基づいて。APU22の可変回転速度を調整する。
【0041】
さらに別の実施例では、制御モジュール28は、APU22の可変回転速度を、航空機速度に基づいて調整する。一実施例では、航空機速度は、音速との比であるマッハの単位で表される。図7は、例示的な速度調整ライン150を示す図であり、航空機速度とAPU22の可変回転速度との線形的な反比例の関係を示している。航空機速度が増加すれば、それに伴ってAPU22の可変回転速度を低下させるが、APU22は、略同じ動力を変わらずに出力する。航空機速度が最大値154である0.8マッハに到達すると、その後のAPU22の可変回転速度は、そのまま維持される。同様に、航空機速度が減少すれば、これに伴って、APUの可変回転速度を増加させる。
【0042】
図1図2及び図7を参照すると、一実施例では、制御モジュール28は、所与の空気密度値の空気中における音速との比で航空機速度を示す速度信号を受け取る。制御モジュール28は、航空機速度に基づいて、APU22の可変回転速度を調整する。航空機速度とAPU22の可変回転速度との関係(即ち、速度調整ライン150)は、航空機速度の最小値152と最大値154のそれぞれにおいて、APU22に供給される空気の入口質量流量の比率に基づく。図7に示すように、航空機速度の最小値152は、マッハ約0.3であり、航空機速度の最大値154は、マッハ約0.8である。限定するものではないが、図示の例では、APU22に供給される空気の入口質量流量の比率は、1.96:1である。つまり、マッハ0.8のときのAPU22の入口質量流量は、マッハ0.3のときの入口質量流量の1.96倍である。なお、この比率1.96:1は、高度の変化に関わらず、実質的に一定である。したがって、速度調整ライン150は、高度に関わらず同じである。なお、当然ながら、入口空気の質量流量の比率1.96は、航空機20の最大速度及び最小速度に基づいて変わる。
【0043】
図7に示すように、最大タービン速度係数156は、航空機速度の最小値152に関連し、最小タービン速度係数158は、航空機速度の最大値154に関連する。一実施例では、制御モジュール28は、航空機速度が最大値154未満であるかを判定する。航空機速度が最大値154未満であると判定すると、制御モジュール28は、航空機速度とAPU22の可変回転速度との線形的な反比例の関係に基づいて、APU22の可変回転速度を調整する。これに対し、別の実施例では、制御モジュール28は、航空機速度が最大値154であるかを判定する。航空機速度が最大値154であると判定すると、制御モジュール28は、APU22の可変回転速度をそのまま維持すると決定する。換言すると、APU22の可変回転速度は、最小タービン速度係数158を1.0として、調節される。
【0044】
図1及び図2を参照すると、さらに別の実施例では、APU22の可変回転速度を、環境湿度に基づいてさらに調整する。環境湿度とガスタービンの動力出力とは、反比例の関係にある。したがって、環境湿度が高くなると、APU22の動力出力はこれに比例して減少する。なお、環境湿度は、所与の体積又は質量の空気中に含まれる水蒸気の総量である絶対湿度を表す。制御モジュール28は、所与の空気密度の空気の絶対湿度を示す環境湿度信号を受け取る。制御モジュール28は、環境湿度信号に基づいて絶対湿度を特定する。次いで、制御モジュール28は、APU22の動力出力と反比例の関係にある絶対湿度に基づいてAPU22の可変回転速度を調節する。一実施例では、湿度信号は、降雨、着氷、降雪などの降水(precipitation)の発生及びその量を表す。制御モジュール28は、APU22の可変回転速度に対し、降水の発生及びその量に基づく調整も行う。
【0045】
図8は、速度補償モードにおいて、APU22の可変回転速度を調整する例示的な方法200の処理フロー図である。なお、方法200のブロック208、210、212、214、216及び218は、任意であり、実施例によっては、省略することも可能である。概ね図1図2図4及び図8を参照すると、方法200は、ブロック202で開始される。ブロック202において、制御モジュール28は、空気密度値を示す1つ以上の環境信号、及び、APU22により生成された特定の大きさの動力を示す1つ以上の動力信号を入力として受け取る。上述したように、環境信号は、測定値(即ち、アネロイド気圧計によって測定された値)であるか、或いは、算出された値(即ち、温度信号と高度信号に基づく値)である。一実施例では、冗長性を確かめるため、測定により得た空気密度値を、算出により得た空気密度値と比較する。方法200は、次に、ブロック204に進む。
【0046】
ブロック204において、制御モジュール28は、APUの可変回転速度を空気密度値に基づいて決定する。一実施例では、図4に示す速度補償曲線88を用いて、APUの可変回転速度を空気密度値に基づいて決定する。方法200は、次に、ブロック206に進む。
【0047】
ブロック206において、制御モジュール28は、当該可変回転速度で動作するようAPU22に指示する。APU22は、当該可変回転速度で動作する間は、特定の大きさの動力を継続的に生成する。一実施例では、その後、方法200を終了し、APU22は、次に地上メンテナンスモードで動作する。ただし、実施例によっては、制御モジュール28は、発電機24の電気負荷需要、航空機速度、又は、湿度に基づく速度補正、或いは、負荷、航空機速度、又は、湿度の任意の組み合わせに基づく速度補正も実行する。なお、図8は、APU22の可変回転速度を特定の順序で調整する処理を含むが、実行順序は特に限定されない。したがって、一実施例では、方法200は、次にブロック208に進むことも可能である。
【0048】
ブロック208において、制御モジュール28は、1つ以上の発電機24の電気負荷需要を示す電気負荷信号76を受け取る。方法200は、次に、ブロック210に進む。
【0049】
ブロック210において、制御モジュール28は、1つ以上の発電機24の電気負荷需要に基づいて、APU22の可変回転速度を調整する。なお、この処理は、図5に示して既に説明したものである。方法200は、次に、ブロック212に進む。
【0050】
ブロック212において、制御モジュール28は、航空機20の速度を空気中の音速との比で示した速度信号を受け取る。方法200は、次に、ブロック214に進む。
【0051】
ブロック214において、制御モジュール28は、航空機20の速度に基づいて、APU22の可変回転速度を調整する。なお、この処理は、図6に示して既に説明したものである。方法200は、次に、ブロック216に進む。
【0052】
ブロック216において、制御モジュール28は、環境湿度を示す環境湿度信号を受け取る。方法200は、次に、ブロック218に進む。
【0053】
ブロック218において、制御モジュール28は、環境湿度に基づいてAPU22の可変回転速度を調整する。なお、この処理は、既に説明したものである。方法200は、その後、終了するか、ブロック202に戻る。
【0054】
次に、図1図3及び図9を参照して、電力推進航空機用の、或いは、推進系以外のすべてのシステムにおいて電力を使用する航空機用のAPU22の可変回転速度の補償について説明する。具体的には、電力推進の航空機20の場合には、APU22の可変回転速度は、先ず、空気密度値に基づいて調整される。次いで、可変回転速度は、航空機20の速度及び環境湿度など、他の条件に基づいて調節される。次に、APU22の可変回転速度は、発電機24の電気負荷需要に基づいて調整される。このようにする理由は、空気密度値、航空機20の速度、及び、湿度などの環境条件の値は、通常は、突然大きく変化或いは変動をしないからである。例えば、航空機の上昇飛行時には、空気密度は徐々に低くなる。これに対し、発電機24の電気負荷需要は、突如増加する可能性がある。よって、変化が段階的である環境条件に基づく調整を先に行うことによって、APU22の可変回転速度(及び、それに伴う電力機能(power capability))が、急激な負荷の変化に対して、固定速度のAPUの場合に比べて容易に対応可能である。制御モジュール28が、飛行計画に基づいて電気負荷を予測する構成であれば、制御モジュール28は、APU22の可変回転速度を予測電気負荷に基づいて決定することができる。
【0055】
制御モジュール28は、先ず、空気密度値に基づく補償を実行すべく、第1可変回転速度で動作するようAPU22に指示する。制御モジュール28は、APU22に第1可変回転速度での動作を指示した後、航空機20の1つ以上の環境条件に基づいて、APU22の第1可変回転速度を調整する。具体的には、航空機20の環境条件は、限定するものではないが、空気中の音速との比で表した航空機20の速度、及び、環境湿度を含む。航空機20の環境条件に基づく補償を行った後、制御モジュール28は、発電機24の電気負荷需要に基づく補償を実行すべく、第2可変回転速度で動作するようAPU22に指示する。換言すると、制御モジュール28は、APU22の第1可変回転速度を航空機20の環境条件に基づいて調整した場合にのみ、APU22の第2可変回転速度を決定する。つまり、第2可変回転速度は、空気密度値、航空機の環境条件、及び、発電機24の電気負荷需要に基づくものである。
【0056】
次に、図9を参照すると、同図は、電力推進航空機におけるAPU22の回転速度を調整するための例示的な方法300を示す例示的な処理フロー図である。概ね図1図3及び図9を参照すると、方法300は、ブロック302で開始される。ブロック302において、制御モジュール28は、空気密度値を示す1つ以上の環境信号、及び、APU22により生成された特定の大きさの動力を示す1つ以上の動力信号を入力として受け取る。方法300は、次に、ブロック304に進む。
【0057】
ブロック304において、制御モジュール28は、空気密度値に基づいてAPUの第1可変回転速度を決定する。方法300は、次に、ブロック306に進む。
【0058】
ブロック306において、制御モジュール28は、第1可変回転速度で動作するようAPU22に指示する。APU22は、当該可変回転速度で動作する間は、特定の大きさの動力を継続的に生成する。方法300は、次に、ブロック308に進む。
【0059】
判定ブロック308では、APU22の可変回転速度を別の環境条件に基づいてさらに補償する場合には、方法は、ブロック310に進む。そうでない場合には、方法300は、ブロック320に進み、発電機24の電気負荷需要に基づく補償を行う。
【0060】
ブロック310において、制御モジュール28は、航空機20の速度を空気中の音速との比で示す速度信号を受け取る。方法300は、次に、ブロック312に進む。
【0061】
ブロック312において、制御モジュール28は、APU22の第1回転速度を、航空機20の速度に基づいて調整する。なお、この処理は、図6に示して既に説明したものである。方法300は、次に、ブロック314に進む。
【0062】
ブロック314において、制御モジュール28は、環境湿度を示す環境湿度信号を受け取る。方法300は、次に、ブロック316に進む。
【0063】
ブロック316において、制御モジュール28は、APU22の第1回転速度を、環境湿度に基づいて調整する。なお、この処理は、既に説明したものである。方法300は、次に、ブロック318に進む。
【0064】
ブロック318において、制御モジュール28は、1つ以上の発電機24の電気負荷需要を示す電気負荷信号76を受け取る。方法300は、次に、ブロック320に進む。
【0065】
ブロック320において、制御モジュール28は、APU22の第2回転速度を、1つ以上の発電機24の電気負荷需要に基づいて決定する。換言すると、制御モジュール28は、APU22の可変回転速度を、先ず、環境条件(例えば、空気密度、湿度、航空機20の速度)に基づいて調整し、次に、APU22の可変回転速度を、電気負荷需要に基づいて調整する。方法300は、次に、ブロック322に進む。
【0066】
ブロック322において、制御モジュール28は、第2回転速度で動作するようAPU22に指示する。方法300は、その後、終了するか、ブロック302に戻る。
【0067】
すべての図面を参照すると、本開示のAPU制御システムの技術的効果及び利点としては、固定速度のAPUに比べて、ガスタービンが小型かつ軽量であり、必要な燃料が少なくて済むことがある。具体的には、本開示のAPUによれば、動力の出力に悪影響を及ぼす環境条件を打ち消すことができる。したがって、より小型のガスタービンを用いても、より重量のある固定速度のガスタービンと同様の機能を実行することができる。加えて、本開示のAPU制御システムは、電気負荷需要に基づいて回転速度を補償する機能も備えており、これによりAPUの効率が改善される。
【0068】
次に、図10を参照すると、APU制御システム18は、例示的なコンピュータシステム1030などの、1つ以上のコンピュータ装置又はコンピュータシステムにおいて実現することができる。コンピュータシステム1030は、プロセッサ1032、メモリ1034、大容量記憶装置1036、入出力(I/O)インターフェース1038、及び、ヒューマンマシンインタフェース1040を含む。コンピュータシステム1030は、1つ以上の外部リソース1042に、ネットワーク1026又は入出力インターフェース1038を介して動作可能に接続される。外部リソースとしては、限定するものではないが例えば、サーバ、データベース、大容量記憶装置、周辺機器、クラウドベースのネットワークサービス、又は、コンピュータシステム1030によって利用可能な他の適当なコンピュータリソースが含まれる。
【0069】
プロセッサ1032には、マイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、デジタル信号プロセッサ、マイクロコンピュータ、中央処理装置、フィールドプログラマブルゲートアレイ、プログラマブル論理デバイス、状態マシン、論理回路、アナログ回路、デジタル回路、又は、メモリ1034に格納された動作命令にしたがって信号(アナログ又はデジタル)を操作可能な他の適当なデバイスが含まれる。メモリ1034には、1つ又は複数のメモリデバイスが含まれる。メモリデバイスには、限定するものではないが例えば、リードオンリーメモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、揮発性メモリ、不揮発性メモリ、スタティックランダムアクセスメモリ(SRAM)、ダイナミックランダムアクセスメモリ(DRAM)、フラッシュメモリ、キャッシュメモリ、又は、情報を格納可能な他のデバイスが含まれる。大容量記憶装置136には、ハードドライブ、光学ドライブ、テープドライブ、揮発性又は不揮発性のソリッドステートドライブ、又は、情報を格納可能な他の適当なデバイスなどの、データ記憶装置が含まれる。
【0070】
プロセッサ1032は、メモリ1034に含まれるオペレーティングシステム1046の制御下で動作する。オペレーティングシステム1046は、コンピュータリソースを管理して、メモリ1034に含まれるアプリケーション1048などのコンピュータソフトウェアアプリケーションの1つ以上において具体化されたコンピュータプログラムコードの命令をプロセッサ1032に実行させる。別の実施例では、プロセッサ1032は、アプリケーション1048を直接実行してもよい。この場合、オペレーティングシステム1046は、不要になる。メモリ1034には、1つ以上のデータ構造1049も含まれており、データの格納あるいは処理に際して、プロセッサ1032、オペレーティングシステム1046、又は、アプリケーション1048によって使用される。
【0071】
入出力インターフェース1038は、例えば、ネットワーク1026又は外部リソース1042などの他のデバイス及びシステムに対して、プロセッサ1032を動作可能に接続するマシンインターフェスを提供する。これにより、アプリケーション1048は、入出力インターフェース1038を経由した通信を介してネットワーク1026又は外部リソース1042と協同して機能して、本開示の実施例を構成する様々な特徴、用途、プロセス、又は、モジュールを提供する。アプリケーション1048は、1つ以上の外部リソース1042によって実行されるプログラムコードも含み、或いは、コンピュータシステム1030の外部にある他のシステムやネットワークのコンポーネントによって提供される機能や信号に依存する。実際のところ、利用可能なハードウェア構成及びソフトウェア構成はほぼ無限にあるので、当業者であれば、コンピュータシステム1030の外部に位置するアプリケーション、複数のコンピュータ又は他の外部リソース1042に分散されたアプリケーション、或いは、クラウドコンピューティングサービスなど、ネットワーク1026経由のサービスであるコンピュータリソース(ハードウェア及びソフトウェア)によって提供されるアプリケーションが本開示の実施例に包含されうることは理解されよう。
【0072】
HMI1040は、コンピュータシステム1030のプロセッサ1032に、既知の態様で、動作可能に接続されており、ユーザがコンピュータシステム1030と直接にやり取りを行うことを可能にする。HMI1040には、映像や英数字ディスプレイ、タッチスクリーン、スピーカ、及び、ユーザにデータを提示可能な他の適当な音声及び映像表示機器が含まれる。また、HMI1040には、ユーザから命令や入力を受け付け、入力された内容をプロセッサ1032に伝送することのできる入力装置及びコントローラが含まれ、例えば、英数字キーボード、ポインティングデバイス、キーパッド、押しボタン、操作ノブ、マイクなどが含まれる。
【0073】
データベース1044は、大容量記憶装置1036に存在してもよく、本明細書に記載の様々なシステム及びモジュールによって使用されるデータを収集及び管理するために使用することができる。データベース1044は、例えば、データと、当該データを格納、管理するための補助データ構造と、を含む。具体的には、データベース1044は、任意の構成又は構造のデータベースとして構成することができ、限定するものではないが例えば、リレーショナルデータベース、階層型データベース、ネットワークデータベース、又は、その組み合わせを含む。プロセッサ1032上で命令群として実行されるコンピュータソフトウェアアプリケーションの形態のデータベース管理システムは、クエリを受けて、データベース1044のレコードに記録された情報やデータにアクセスする際に利用することができる。クエリは、例えば、オペレーティングシステム1046、他のアプリケーション1048、又は、1つ以上のモジュールによって動的に決定され、実行される。
【0074】
本開示は、下記の付記による実施例も包含する。
【0075】
1. 航空機(20)用の補助動力装置(APU)制御システム(18)であって、APU(22)を含むとともに、
1つ以上のプロセッサ(1032)と、
前記1つ以上のプロセッサに接続されたメモリ(1034)と、を備え、前記メモリは、データベース(1044)及びプログラムコードを含むデータを格納しており、前記プログラムコードは、前記1つ以上のプロセッサにより実行されると、前記APU制御システムに、
空気密度値を示す1つ以上の環境信号、及び、前記APUにより生成された特定の大きさの動力を示す1つ以上の動力信号を受け取ることと、
前記空気密度値に基づいて、前記APUの可変回転速度を決定することと、
前記可変回転速度で動作するよう前記APUに指示することと、を実行させるものであり、前記APUは、前記可変回転速度で動作中は、前記特定の大きさの動力を継続的に生成する、APU制御システム。
【0076】
2. 前記1つ以上のプロセッサ(1032)は、
温度信号及び高度信号を受け取るよう指示する命令と、
前記温度信号及び前記高度信号に基づいて、前記空気密度値を特定するよう指示する命令と、を実行する、付記1に記載のAPU制御システム(18)。
【0077】
3. 前記APU(22)の出力軸(64)によって駆動される1つ以上の発電機(24)をさらに備え、前記1つ以上のプロセッサ(1032)は、
前記1つ以上の発電機の電気負荷需要を示す電気負荷信号(76)を受け取るよう指示する命令と、
前記1つ以上の発電機の前記電気負荷需要に基づいて、前記APUの前記可変回転速度を調整するよう指示する命令と、を実行する、付記1又は2に記載のAPU制御システム(18)。
【0078】
4. 前記1つ以上のプロセッサ(1032)は、
前記1つ以上の発電機(24)の前記電気負荷需要が増加しているか、又は、減少しているかを判定するよう指示する命令と、
前記1つ以上の発電機の前記電気負荷需要が増加していると判定した場合に、前記電気負荷需要と前記APU(22)の前記可変回転速度との比例関係に基づいて、前記APUの前記可変回転速度を増加させるよう指示する命令と、
前記1つ以上の発電機の前記電気負荷需要が減少していると判定した場合に、前記APUの前記可変回転速度を減少させるよう指示する命令と、を実行する、付記3に記載のAPU制御システム(18)。
【0079】
5. 前記1つ以上のプロセッサ(1032)は、
最小回転速度(134)と最大回転速度(132)の間で調整可能な前記APU(22)の所与の空気密度値における前記可変回転速度を、前記電気負荷需要の大きさに比例して動的に調整するよう指示する命令を実行する、付記3に記載のAPU制御システム(18)。
【0080】
6. 前記最小回転速度(134)は、前記1つ以上の発電機(24)の最小電力需要閾値に対応し、前記最大回転速度(132)は、前記1つ以上の発電機の最大電力需要閾値に対応する、付記5に記載のAPU制御システム(18)。
【0081】
7. 前記メモリ(1034)は、前記航空機(20)の飛行計画を格納し、前記1つ以上のプロセッサ(1032)は、
前記航空機の油圧負荷を変化させる操縦翼面に係る需要に基づく予測電気負荷を、前記飛行計画に基づいて算出するよう指示する命令と、
前記予測電気負荷に基づいて、前記APU(22)の前記可変回転速度を調整するよう指示する命令と、を実行する、付記1~6のいずれかに記載のAPU制御システム(18)。
【0082】
8. 前記1つ以上のプロセッサ(1032)は、
所与の空気密度値の空気中における音速に比較した航空機速度を示す速度信号を受け取るよう指示する命令と、
前記航空機(20)速度が最大値未満であるかを判定するよう指示する命令と、
前記航空機速度が前記最大値未満であると判定した場合に、前記航空機速度と前記APU(22)の前記可変回転速度との線形的な反比例の関係に基づいて、前記APUの前記可変回転速度を調整するよう指示する命令と、を実行する、付記1~7のいずれかに記載のAPU制御システム(18)。
【0083】
9. 前記1つ以上のプロセッサ(1032)は、
所与の空気密度値の空気中における音速に比較した航空機速度を示す速度信号を受け取るよう指示する命令と、
前記航空機(20)速度が最大値であるかを判定するよう指示する命令と、
前記航空機速度が前記最大値であると判定した場合に、前記APU(22)の前記可変回転速度をそのまま維持するよう指示する命令と、を実行する、付記1~7のいずれかに記載のAPU制御システム(18)。
【0084】
10. 前記1つ以上のプロセッサ(1032)は、
所与の空気密度の空気の絶対湿度を示す環境湿度信号を受け取るよう指示する命令と、
前記環境湿度信号に基づいて、前記空気の絶対湿度を特定するよう指示する命令と、
前記APU(22)の動力出力と反比例の関係にある前記絶対湿度に基づいて、前記APUの前記可変回転速度を調整するよう指示する命令と、を実行する、付記1~9のいずれかに記載のAPU制御システム(18)。
【0085】
11. 前記1つ以上のプロセッサ(1032)は、
前記航空機(20)が地上にあるかを判定するよう指示する命令と、
前記航空機が地上にあると判定した場合に、航空機地上支援機材の電源に適応する分布幅を有する回転速度で動作するよう前記APU(22)に指示する命令と、を実行する、付記1~10のいずれかに記載のAPU制御システム(18)。
【0086】
12. 前記1つ以上のプロセッサ(1032)は、
前記航空機(20)が地上にあるかを判定するよう指示する命令と、
前記航空機が地上にあると判定した場合に、個々の主体よって指定された離散的な回転速度、又は、回転速度の範囲であるユーザ指定速度で動作するよう前記APUに指示する命令と、を実行する、付記1~10のいずれかに記載のAPU制御システム(18)。
【0087】
13. 補助動力装置(APU)制御システム(18)を含む航空機(20)であって、
出力軸(64)を含むAPU(22)と、
前記APUの前記出力軸に駆動可能に接続された1つ以上の発電機(24)と、
前記APUに電気的に接続された1つ以上のプロセッサ(1032)と、
前記1つ以上のプロセッサに接続されたメモリ(1034)と、を備え、前記メモリは、データベース(1044)及びプログラムコードを含むデータを格納しており、前記プログラムコードは、前記1つ以上のプロセッサにより実行されると、前記APU制御システムに、
空気密度値を示す1つ以上の環境信号、及び、前記APUにより生成された特定の大きさの動力を示す1つ以上の動力信号を受け取ることと、
前記空気密度値に基づいて、前記APUの可変回転速度を決定することと、
前記可変回転速度で動作するよう前記APUに指示することと、を実行させるものであり、前記APUは、前記可変回転速度で動作中は、前記特定の大きさの動力を継続的に生成するものである、航空機。
【0088】
14. 前記1つ以上のプロセッサ(1032)は、
温度信号及び高度信号を受け取るよう指示する命令と、
前記温度信号及び前記高度信号に基づいて、前記空気密度値を特定するよう指示する命令と、を実行する、付記13に記載の航空機(20)。
【0089】
15. 前記1つ以上のプロセッサ(1032)は、
前記1つ以上の発電機(24)の電気負荷需要を示す電気負荷信号(76)を受け取るよう指示する命令と、
前記1つ以上の発電機の前記電気負荷需要に基づいて、前記APU(22)の可変回転速度を動的に調整するよう指示する命令と、を実行する、付記13又は14に記載の航空機(20)。
【0090】
16. 航空機(20)におけるAPU(22)の可変回転速度を調整する方法であって、
空気密度値を示す1つ以上の環境信号、及び、前記APUにより生成された特定の大きさの動力を示す1つ以上の動力信号を、コンピュータ(1030)によって受け取ることと、
前記APUの可変回転速度を前記空気密度値に基づいて、前記コンピュータによって決定することと、
前記可変回転速度で動作するよう前記APUに指示することと、を含み、前記APUは、前記可変回転速度で動作中は、前記特定の大きさの動力を継続的に生成するものである、方法。
【0091】
17. 温度信号及び高度信号を受け取ることと、
前記温度信号及び前記高度信号に基づいて、前記空気密度値を特定することと、をさらに含む、付記16に記載の方法。
【0092】
18. 前記APU(22)に駆動可能に接続された1つ以上の発電機(24)の電気負荷需要を示す電気負荷信号(76)を受け取ることと、
前記1つ以上の発電機の前記電気負荷需要に基づいて、前記APUの前記可変回転速度を動的に調整することと、をさらに含む、付記16又は17に記載の方法。
【0093】
19. 前記1つ以上の発電機(24)の前記電気負荷需要が増加しているか、又は、減少しているかを判定することと、
前記1つ以上の発電機の前記電気負荷需要が増加していると判定した場合に、前記電気負荷需要と前記APU(22)の前記可変回転速度との比例関係に基づいて、前記APUの前記可変回転速度を増加させることと、
前記1つ以上の発電機の前記電気負荷需要が減少していると判定した場合に、前記電気負荷需要と前記APUの前記可変回転速度との前記比例関係に基づいて、前記APUの前記可変回転速度を減少させることと、をさらに含む、付記18に記載の方法。
【0094】
20. 所与の空気密度値の空気中における音速に比較した航空機速度を示す速度信号を受け取ることと、
前記航空機(20)速度が最大値未満であるかを判定することと、
前記航空機速度が前記最大値未満であると判定した場合に、前記航空機速度と前記APU(22)の前記可変回転速度との線形的な反比例の関係に基づいて、前記APUの前記可変回転速度を調整することと、をさらに含む、付記16~19のいずれかに記載の方法。
【0095】
本開示の説明は、あくまでも例示的な性質のものに過ぎず、本開示の要旨から逸脱しない変形も、本開示の範囲に包含されるべきである。そのような変形は、本開示の思想及び範囲から逸脱すると解釈されるべきではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10