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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】溶接装置および溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/12 20060101AFI20240215BHJP
【FI】
B23K9/12 350F
B23K9/12 350A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020020810
(22)【出願日】2020-02-10
(65)【公開番号】P2021126660
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2023-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】屋嘉比 圭太
(72)【発明者】
【氏名】上野 仁史
(72)【発明者】
【氏名】森 浩樹
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-095780(JP,A)
【文献】特開昭58-221672(JP,A)
【文献】特開2008-200725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接処理を実行する溶接トーチと、
前記溶接トーチを溶接線に対してウィービング動作させる駆動部と、
コーナー部の溶接において、前記溶接トーチの位置に応じて前記溶接線の進行方向に対するウィービングの振幅方向を変化させるように前記駆動部に指示するコントローラとを備え
前記コントローラは、
前記コーナー部の溶接において、前記溶接トーチの進行速度を調整するように前記駆動部に指示し、
前記コーナー部の内側の溶接において、前記溶接トーチの進行速度を直線部の溶接における前記溶接トーチの進行速度よりも速くする、溶接装置。
【請求項2】
前記コントローラは、前記コーナー部の溶接において、前記溶接トーチの位置に応じて前記溶接トーチのウィービングの振幅を、直線部の溶接における前記ウィービングの振幅よりも大きくするように前記駆動部に指示する、請求項1記載の溶接装置。
【請求項3】
前記コントローラは、前記コーナー部の溶接において、前記溶接トーチの位置に応じて前記溶接線に直交する方向の前記溶接トーチのウィービングの振幅が前記直線部の溶接線における前記溶接トーチのウィービングの振幅と同じになるように前記駆動部に指示する、請求項2記載の溶接装置。
【請求項4】
前記コントローラは、前記コーナー部の外側の溶接において、前記溶接トーチの進行速度を直線部の溶接における前記溶接トーチの進行速度よりも遅くする、請求項記載の溶接装置。
【請求項5】
溶接処理を実行する溶接トーチを溶接線に対してウィービング動作させるステップと、
コーナー部の溶接において、前記溶接トーチの位置に応じて前記溶接線の進行方向に対するウィービングの振幅方向を変化させるステップと、
前記コーナー部の内側の溶接において、前記溶接トーチの進行速度を直線部の溶接における前記溶接トーチの進行速度よりも速くするステップとを備える、溶接方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、溶接トーチの先端を母材のコーナー部に沿って回転移動させる回し溶接が行われている。
【0003】
回し溶接では、母材の直線部の溶接と同じく、母材のコーナー部においても可能な限り溶接ビード幅を一定に保つことが求められている。
【0004】
したがって、溶接トーチの進行方向が変化する際の溶接電流や溶接トーチの移動速度を制御する方式が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-200725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、溶接ビードの品質の低下を抑制するために溶接線に対して溶接トーチを揺動するウィービング動作を実行する溶接装置が提案されている。
【0007】
この点で、従来の方式では、溶接装置によりウィービング動作を実行しながら回し溶接をする場合、溶接線を単純に母線に沿わせると、コーナー部における溶接ビードの形状(溶接品質の一つ)を整えるのに難があった。
【0008】
本開示は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ウィービング動作を実行しながら回し溶接をする場合に、コーナー部における溶接品質を向上させることが可能な溶接装置および溶接方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の溶接装置は、溶接処理を実行する溶接トーチと、溶接トーチを溶接線に対してウィービング動作させる駆動部と、コーナー部の溶接において、溶接トーチの位置に応じて溶接線の進行方向に対するウィービングの振幅方向を変化させるように駆動部に指示するコントローラとを備える。
【0010】
本開示の溶接方法は、溶接処理を実行する溶接トーチを溶接線に対してウィービング動作させるステップと、コーナー部の溶接において、溶接トーチの位置に応じて溶接線の進行方向に対するウィービングの振幅方向を変化させるステップとを備える。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように本開示の溶接装置および溶接方法によれば、ウィービング動作を実行しながら回し溶接をする場合に、コーナー部における溶接品質を向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態に基づく溶接装置1を説明する図である。
図2】実施形態に従う回し溶接について説明する図である。
図3】比較例として通常のウィービング動作で廻し溶接を実行する場合を説明する図である。
図4】実施形態に従うウィービング動作で廻し溶接を実行する場合を説明する図である。
図5】実施形態に従うコーナー部における溶接トーチ30のウィービングの振幅調整について説明する図である。
図6】実施形態に従うコーナー部における溶接トーチ30のウィービングの振幅変化を説明する図である。
図7】実施形態に従うコーナー部における溶接トーチ30の進行速度の調整について説明する図である。
図8】実施形態に従うティーチング設定処理について説明する図である。
図9】実施形態に従う溶接装置1の溶接ロボット20の制御について説明するフロー図である。
図10】実施形態に従うティーチング処理のサブフローを説明する図である。
図11】実施形態に従うロボット動作処理のサブフローを説明する図である。
図12】実施形態に従うロボット動作制御部15の移動区間Mnのパラメータ初期値設定処理について説明するフロー図である。
図13】実施形態に従うロボット動作制御部15の移動区間Mnの補正前半区間パラメータ算出処理について説明するサブフロー図である。
図14】実施形態に従うロボット動作制御部15の補正後半区間パラメータ算出処理について説明するサブフロー図である。
図15】実施形態に従うロボット動作制御部15のウィービング動作処理について説明するサブフロー図である。
図16】実施形態に従う別の溶接例(その1)について説明する図である。
図17】実施形態に従うさらに別の溶接例(その2)について説明する図である。
図18】実施形態に従うさらに別の溶接例(その3)について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0014】
<溶接装置の全体構成>
図1は、実施形態に基づく溶接装置1を説明する図である。
【0015】
図1を参照して、実施形態に基づく溶接装置1は、工場内の床面などに据え付けられた溶接ロボット20と、溶接電源装置13と、溶接制御装置10と、ワイヤ送給装置40と、溶接電流計測器50とを備えている。ここで、溶接ロボット20は、溶接ワイヤWと部材100との間に発生させたアーク放電による熱を利用して溶接を行うためのアーク溶接ロボットである。溶接ロボット20は、各々が所定の方向に回動する複数の関節を介して連結された連結アーム21と、連結アーム21の先端部に取り付けられた溶接トーチ30と、連結アーム21を動作させて溶接トーチ30を移動させるアクチュエータ22とを備えた多関節型ロボットである。ワイヤ送給装置40は、アーク溶接が行われる際に、所定の速度で溶接ワイヤWを繰り出し、溶接トーチ30に供給されるように構成されている。
【0016】
溶接制御装置10は、溶接ロボット20および溶接電源装置13の動作制御を行うために設けられている。
【0017】
溶接制御装置10は、複数の機能ブロックを有する。具体的には、溶接制御装置10は、溶接電源制御部11と、溶接制御部14と、記憶部62と、ロボット動作制御部15と、A/D変換部12と、設定部64とを含む。
【0018】
記憶部62は、各種のプログラムおよびデータを記憶する。
設定部64は、外部から入力されるパラメータおよびティーチング処理に従って溶接トーチ30の軌跡を設定する。
【0019】
溶接制御部14は、記憶部62に格納されているプログラムに基づいて溶接動作を実行する。溶接制御部14は、記憶部62に格納されている溶接条件および設定部64で設定された軌跡に基づいて溶接動作を実行するために各部に対する各種指示を出力する。
【0020】
溶接電源制御部11は、溶接制御部14からの指示に従って溶接電源装置13に対して、アークを制御するための指令信号を出力する。指令信号は、溶接ワイヤWの送給速度を規定する指令電流信号と、アークの両端間の電圧を規定する指令電圧信号とを含む。
【0021】
溶接電源装置13は、溶接制御装置10からの制御指令に基づいて所定の動作を行うように構成されている。
【0022】
溶接電源装置13は、ワイヤ送給装置40から繰り出される溶接ワイヤWの供給速度を制御する機能を有するとともに、給電ケーブルCB(+)およびCB(-)を用いて溶接トーチ30および部材100間に所定の大きさの電力(入熱)を供給する機能を有している。具体的には、溶接電圧印加用の給電ケーブルCB(+)がワイヤ送給装置40と接続され、給電ケーブルCB(-)が部材100と接続される。溶接電源装置13は、溶接電源制御部11からの指令信号に対応して調整された電力をワイヤ送給装置40に出力して、溶接ワイヤWと部材100との間にアーク放電を発生させるように構成されている。
【0023】
溶接電流計測器50は、給電ケーブルCB(-)側に設けられ、溶接動作が行われている際の溶接電流を計測する。溶接電流計測器50は、計測結果を溶接制御装置10にフィードバックする。A/D変換部12は、溶接電流計測器50からのアナログ信号をデジタル信号に変換して、溶接制御部14に出力する。
【0024】
溶接電源制御部11は、溶接制御部14からの指示に従って溶接電源装置13に対してワイヤ送給装置40から繰り出される溶接ワイヤWの供給速度を調整するための指令電流信号を出力する。指令電流信号は電流値を指令する。溶接ワイヤWの供給速度は、指令の電流値により規定される。ワイヤ送給装置40は、溶接電源装置13からの指令電流信号に従って溶接ワイヤWの供給速度を調整する。
【0025】
ロボット動作制御部15は、溶接制御部14からの指示に従ってアクチュエータ22を制御する。ロボット動作制御部15は、アクチュエータ22に対して溶接トーチ30を位置制御するための動作指令を出力する。アクチュエータ22は、溶接制御装置10から送信された動作指令に基づいて連結アーム21および溶接トーチ30を動作させ、溶接トーチ30を所定の位置に動作させる。
【0026】
なお、溶接電源制御部11、溶接トーチ30、アクチュエータ22およびロボット動作制御部15は、本開示の「溶接トーチ」、「駆動部」および「コントローラ」の一例である。
【0027】
<回し溶接>
図2は、実施形態に従う回し溶接について説明する図である。
【0028】
図2に示されるように、回し溶接は、部材100Aと部材100Bとを溶接する際のコーナー部の溶接である。本例においては、コーナー部に沿う溶接線に従って溶接トーチ30を移動させたことにより溶接ビード200が形成される場合が示されている。溶接線は、ビード或いは溶接部を示す仮想の一つの線である。溶接線は、ウィ-ビング中心において溶接ワイヤWの先端が動作すべき目標軌跡である。溶接線は、通常、被溶接個所である部材100Aと部材100Bの境界線に一定の間隔で離れて沿う線である。
【0029】
図3は、比較例として通常のウィービング動作で廻し溶接を実行する場合を説明する図である。
【0030】
図3(A)には、部材100Aと部材100Bとを溶接する際のコーナー部の目標とする溶接ビード200の形状が示されている。当該溶接ビード200の形状は、部材100Aおよび部材100Bの上から上視した場合が示されている。
【0031】
図3(B)には、目標とする溶接ビード200を形成するために溶接トーチ30の位置の軌跡を設定するティーチング処理を実行する場合が示されている。
【0032】
具体的には、複数のティーチング地点APを設定する。ティーチング地点間を結んだ線が溶接線302に設定される。本例においては、コーナー部における折れ曲がり点により溶接線302の方向が変化する場合が示されている。
【0033】
図3(C)には、溶接線302に対してウィービング動作を実行する場合の溶接トーチ30の軌跡が示されている。
【0034】
溶接トーチ30は、溶接線302に対して垂直方向に揺動するとともに、所定の進行速度で進行するため波打った形状の軌跡となる。
【0035】
溶接線302が変化する折れ曲がり点でウィービング動作の振幅方向は変化する。本例においては溶接線302が折れ曲がり点で90°変化するためウィービング動作の振幅方向も折れ曲がり点で90°変化する。
【0036】
したがって、コーナー部の折れ曲がり点におけるウィービング動作の振幅方向の急峻な変化により溶接トーチ30の軌跡が急峻に変化する。
【0037】
具体的には、コーナー部の折れ曲がり点付近のウィービング動作による溶接トーチ30の軌跡の連続性が維持されなくなる。コーナー部の折れ曲がり点付近の周囲領域の一部において溶接トーチ30が移動しない領域が生じる。
【0038】
図3(D)には、コーナー部の溶接ビード210の形状が示されている。コーナー部の折れ曲がり点付近の周囲領域の一部において溶接トーチ30が移動しない領域が生じるため、溶接ビード210が一部欠損した形状となる。したがって、コーナー部における溶接ビード210の形状は不均一となるため溶接品質が低下する可能性がある。
【0039】
図4は、実施形態に従うウィービング動作で廻し溶接を実行する場合を説明する図である。
【0040】
図4(A)には、部材100Aと部材100Bとを溶接する際のコーナー部の目標とする溶接ビード200の形状が示されている。当該溶接ビード200の形状は、部材100Aおよび部材100Bの上から上視した場合が示されている。
【0041】
図4(B)には、目標とする溶接ビード200を形成するために溶接トーチ30の位置の軌跡を設定するティーチング処理を実行する場合が示されている。
【0042】
具体的には、複数のティーチング地点APを設定する。ティーチング地点間を結んだ線が溶接線302に設定される。本例においては、コーナー部における折れ曲がり点により溶接線302の方向が変化する場合が示されている。
【0043】
図4(C)には、溶接線302に対してウィービング動作を実行する場合の溶接トーチ30の軌跡が示されている。
【0044】
溶接トーチ30は、溶接線302に対して垂直方向に揺動するとともに、所定の進行速度で進行するため波打った形状の軌跡となる。
【0045】
本例においては、溶接トーチ30の位置は、溶接線に対して揺動するウィービング動作の基準点とする。
【0046】
実施形態においては、コーナー部の溶接において、溶接トーチ30の位置に応じて溶接線302の進行方向に対するウィービングの振幅方向を変化させる。
【0047】
具体的には、溶接線302の方向が変化する前の位置からコーナー部の溶接トーチ30の位置に応じて溶接線302の進行方向に対する溶接トーチ30のウィービングの振幅方向を徐々に変化させる。
【0048】
一例として、溶接トーチ30の位置がコーナー部の溶接線302の方向が変化する折れ曲がり点よりも前の位置から折れ曲がり点に移動するまでの所定区間の間に溶接線302の進行方向に対するウィービングの振幅方向を垂直方向から45°傾斜するように徐々に変化させる。
【0049】
そして、溶接トーチ30の位置がコーナー部の溶接線302の方向が変化する折れ曲がり点から変化した後の位置に移動するまでの所定区間の間に溶接線302の進行方向に対するウィービングの振幅方向を垂直方向から45°傾斜した位置から垂直方向となるように徐々に変化させる。
【0050】
コーナー部の溶接線302の方向が変化する前の位置および溶接線302の方向が変化した後の位置において、溶接トーチ30の位置に応じて溶接線302の進行方向に対するウィービングの振幅方向を徐々に変化させることにより、折れ曲がり点付近のウィービングの振幅方向の急峻な変化を抑制することが可能である。
【0051】
これによりコーナー部の折れ曲がり点付近のウィービング動作による溶接トーチ30の軌跡の連続性が維持される。したがって、コーナー部の折れ曲がり点付近の周囲領域全体において溶接トーチ30が移動する。
【0052】
図4(D)には、コーナー部の溶接ビード220の形状が示されている。コーナー部の折れ曲がり点付近の周囲領域全体において溶接トーチ30が移動するため、コーナー部における溶接ビードの形状は均一となるため溶接品質を維持することが可能となる。
【0053】
<振幅調整>
図5は、実施形態に従うコーナー部における溶接トーチ30のウィービングの振幅調整について説明する図である。
【0054】
図5(A)には、コーナー部における溶接トーチ30のウィービングの振幅調整の例が示されている。
【0055】
本例においては、溶接トーチ30が溶接線302に対するティーチング地点APからティーチング地点AP1(折れ曲がり点)を経由してティーチング地点AP2に移動する場合が示されている。
【0056】
図5(B)には、コーナー部における溶接トーチ30のウィービングの振幅変化を拡大した場合が示されている。
【0057】
ティーチング地点AP1を含むコーナー部においては、ウィービングの振幅を直線部の振幅よりも大きくする。
【0058】
溶接トーチ30の位置に応じて溶接線302の進行方向に対するウィービングの振幅方向を徐々に変化させる。
【0059】
具体的には、溶接線302の進行方向に対するウィービングの振幅方向を垂直方向から傾斜した傾斜角度θに従ってウィービングの振幅を変化させる。
【0060】
実施形態に従うコーナー部の溶接において、溶接トーチ30の位置に応じて溶接線302に直交する方向の溶接トーチ30のウィービングの振幅が直線部の溶接線302における溶接トーチ30のウィービングの振幅と同じになるように設定する。
【0061】
コーナー部の振幅Ampに対して、Amp×cosθが直線部の振幅Ampsと等しくなるように設定する。
【0062】
これにより、コーナー部の溶接において、ウィービングの振幅方向を垂直方向から傾斜させた場合であっても溶接ビードの幅を溶接線の進行方向に対して直線部と同じ幅に一定に維持することが可能となる。
【0063】
図6は、実施形態に従うコーナー部における溶接トーチ30のウィービングの振幅変化を説明する概念図である。
【0064】
図6を参照して、本例においては、溶接トーチ30がティーチング地点AP0からティーチング地点AP2に移動する場合のウィービングの振幅変化が示されている。
【0065】
コーナー部において、溶接トーチ30が折れ曲がり点であるティーチング地点AP1に近づくに従って直線部の振幅から徐々にウィービングの振幅が増加する。溶接トーチ30のウィービングの振幅は、ティーチング地点AP1(折れ曲がり点)で最大になる。そして、溶接トーチ30が折れ曲がり点であるティーチング地点AP1から遠ざかるに従ってウィービングの振幅が徐々に減少して、直線部の振幅と同じ振幅に戻る。
【0066】
<速度調整>
図7は、実施形態に従うコーナー部における溶接トーチ30の進行速度の調整について説明する図である。
【0067】
図7を参照して、本例においては、溶接トーチ30が溶接線302に対するティーチング地点AP0からティーチング地点AP1(折れ曲がり点)を経由してティーチング地点AP2に移動する場合の速度の変化が示されている。
【0068】
実施形態に従うコーナー部の溶接において、溶接トーチ30の進行速度を調整する。
一例として、ティーチング地点AP1を含むコーナー部においては、溶接トーチ30の進行速度を直線部の進行速度よりも遅くする。
【0069】
溶接トーチ30の位置に応じて溶接線302の進行方向に対する溶接トーチ30の進行速度を徐々に変化させる。溶接トーチ30の位置は、溶接線に対して揺動するウィービング動作の基準点とする。
【0070】
コーナー部において、溶接トーチ30の位置が折れ曲がり点であるティーチング地点AP1に近づくに従って、溶接トーチ30の進行速度を直線部の進行速度から徐々に減少させる。溶接トーチ30の進行速度は、ティーチング地点AP1(折れ曲がり点)で最小になる。そして、溶接トーチ30の位置が折れ曲がり点であるティーチング地点AP1から遠ざかるに従って溶接トーチ30の進行速度を徐々に増加させる。そして、溶接トーチ30の進行速度は、直線部の溶接トーチ30の進行速度に戻る。
【0071】
コーナー部の溶接においては溶接ビードの形状が変化するため、直線部の溶接と異なる溶接金属量を供給してもよい。
【0072】
この点で、コーナー部の外側の溶接においては、溶接ビードを形成する溶接金属がコーナー部の外側に円弧状に広がるため直線部の溶接よりも溶接金属量を増加させるようにしてもよい。具体的には、溶接トーチ30の進行速度を直線部の溶接トーチ30の進行速度よりも遅くすることにより溶接金属量を増加させることが可能である。
【0073】
一方で、コーナー部の内側の溶接においては、溶接ビードを形成する溶接金属がコーナー部の内側に溜まるため直線部の溶接よりも溶接金属量を減少させるようにしてもよい。具体的には、溶接トーチ30の進行速度を直線部の溶接トーチ30の進行速度よりも早くすることにより溶接金属量を減少させることが可能である。
【0074】
<ティーチング設定処理>
図8は、実施形態に従うティーチング設定処理について説明する図である。
【0075】
図8を参照して、本例においては、4つのティーチング地点が設定されている場合について説明する。具体的には、ティーチング地点APn-2と、ティーチング地点APn-1と、ティーチング地点APnと、ティーチング地点APn+1とを設定する。
【0076】
一例として、nは、2以上の任意の値である。ティーチング地点間を順番に結ぶことにより溶接線Lが設定される。
【0077】
ティーチング地点APn-2とティーチング地点APn-1との間の溶接線Ln-1の区間を移動区間Mn-1とする。ティーチング地点APn-1とティーチング地点APnとの間の溶接線Lnの区間を移動区間Mnとする。ティーチング地点APnとティーチング地点APn+1との間の溶接線Ln+1の区間を移動区間Mn+1とする。
【0078】
次に、移動区間における基準ベクトルを設定する。移動区間Mn-1における基準ベクトルQn-1は、溶接線Ln-1に対して垂直なベクトルである。
【0079】
移動区間Mnにおける基準ベクトルQnは、溶接線Lnに対して垂直なベクトルである。
【0080】
移動区間Mn+1における基準ベクトルQn+1は、溶接線Ln+1に対して垂直なベクトルである。
【0081】
ある任意のティーチング地点APに対して隣接する移動区間Mの基準ベクトルQ同士を比較する。隣接する移動区間Mの基準ベクトルQ同士が同一である場合には、ある任意のティーチング地点APを介して隣接する移動区間Mは直線部を形成する。
【0082】
一方、隣接する移動区間Mの基準ベクトルQがそれぞれ異なる場合には、あるティーチング地点APは折れ曲がり点であり、隣接する移動区間Mは、当該ティーチング地点APを介してコーナー部を形成する。
【0083】
隣接する移動区間Mの基準ベクトルQ同士の角度がコーナー部の角度θとなる。コーナー部の角度θは、隣接する移動区間Mの進行方向の折れ曲がり角度と同じである。
【0084】
本例においては、ティーチング地点APn-1において、隣接する移動区間Mn-1の基準ベクトルQnと移動区間Mnの基準ベクトルQnとを比較した場合、基準ベクトル同士が異なる。したがって、移動区間Mn-1および移動区間Mnは、ティーチング地点APn-1を介してコーナー部を形成する。
【0085】
ティーチング地点APがコーナー部を形成する場合に、隣接する移動区間Mは、ウィービングの振幅方向を補正する補正区間をそれぞれ有する。
【0086】
本例においては、移動区間の前半に補正する区間を補正前半区間に設定する。また、移動区間の後半に補正する区間を補正後半区間に設定する。
【0087】
補正区間は、一例としてウィービングの振幅Ampを基準に設定する。
本例においては、コーナー部におけるティーチング地点APn-1から振幅Amp前までの区間を移動区間Mn-1の補正後半区間に設定する。コーナー部におけるティーチング地点APn-1から振幅Amp後までの区間を移動区間Mnの補正前半区間に設定する。コーナー部におけるティーチング地点APnから振幅Amp前までの区間を移動区間Mnの補正後半区間に設定する。コーナー部におけるティーチング地点APnから振幅Amp後までの区間を移動区間Mn+1の補正前半区間に設定する。
【0088】
補正区間において、溶接トーチ30の位置に応じて溶接線の進行方向に対するウィービングの振幅方向を変化させる。
【0089】
移動区間Mの補正後半区間において、溶接トーチ30の位置に応じて溶接線の進行方向に対するウィービングの振幅方向を溶接線に対して垂直方向から徐々に変化させる。溶接トーチ30の位置に応じて溶接線の進行方向に対するウィービングの振幅方向を垂直方向からコーナー部の角度θの1/2傾斜した方向に徐々に変化させる。
【0090】
次の移動区間Mの補正前半区間において、溶接トーチ30の位置に応じて溶接線の進行方向に対するウィービングの振幅方向を溶接線に対してコーナー部の角度θの1/2傾斜した方向から徐々に変化させる。溶接トーチ30の位置に応じて溶接線の進行方向に対するウィービングの振幅方向をコーナー部の角度θの1/2傾斜した方向から垂直方向に徐々に変化させる。
【0091】
移動区間Mn-1の補正後半区間において、溶接トーチ30の位置に応じて溶接線の進行方向に対するウィービングの振幅方向を垂直方向からコーナー部の角度θn-1の1/2傾斜した方向に徐々に変化させる。
【0092】
移動区間Mnの補正前半区間において、溶接トーチ30の位置に応じて溶接線の進行方向に対するウィービングの振幅方向をコーナー部の角度θn-1の1/2傾斜した方向から垂直方向に徐々に変化させる。
【0093】
移動区間Mnの補正後半区間において、溶接トーチ30の位置に応じて溶接線の進行方向に対するウィービングの振幅方向を垂直方向からコーナー部の角度θnの1/2傾斜した方向に徐々に変化させる。
【0094】
移動区間Mn+1の補正前半区間において、溶接トーチ30の位置に応じて溶接線の進行方向に対するウィービングの振幅方向をコーナー部の角度θnの1/2傾斜した方向から垂直方向に徐々に変化させる。
【0095】
コーナー部の溶接線の方向が変化する前の補正区間および溶接線の方向が変化した後の補正区間において、溶接トーチ30の位置に応じて溶接線の進行方向に対する溶接トーチ30のウィービングの振幅方向を徐々に変化させる。
【0096】
これにより、コーナー部のウィービング動作の振幅方向の急峻な変化が抑制される。図4で説明したようにコーナー部のウィービング動作による溶接トーチ30の軌跡の連続性が維持される。コーナー部の周囲領域全体において溶接トーチ30が移動するため、コーナー部における溶接ビードの形状は均一となるため溶接品質を維持することが可能となる。
【0097】
<動作フロー>
図9は、実施形態に従う溶接装置1の溶接ロボット20の制御について説明するフロー図である。
【0098】
図9を参照して、溶接装置1は、溶接トーチ30の軌跡を設定するティーチング処理を実行する(ステップS2)。
【0099】
具体的には、設定部64は、後述するティーチング処理を実行する。
溶接装置1は、ティーチング処理で設定した溶接トーチ30の軌跡に関する情報に基づいてロボット動作処理を実行する(ステップS4)。
【0100】
具体的には、ロボット動作制御部15は、ティーチング処理で設定した溶接トーチ30の軌跡に関する情報に基づいて後述するロボット動作処理を実行する。
【0101】
そして、処理を終了する(エンド)。
図10は、実施形態に従うティーチング処理のサブフローを説明する図である。
【0102】
図10を参照して、設定部64は、ティーチング地点APを設定する(ステップS10)。具体的には、複数のティーチング地点AP(AP0,AP1,・・・,APn)を設定する。例えば、ユーザのデータ入力に基づいて複数のティーチング地点AP(AP0,AP1,・・・,APn)を設定してもよいし、いわゆるティーチングプレイバック方式を用いてティーチング地点APを設定してもよい。
【0103】
次に、設定部64は、溶接線Lを設定する(ステップS11)。具体的には、複数のティーチング地点AP(AP0,AP1,・・・,APn)間を結んだ溶接線L(L1,・・・,Ln)を設定する。
【0104】
次に、設定部64は、移動区間Mを設定する(ステップS12)。具体的には、移動区間M(M1,・・・,Mn)を設定する。
【0105】
次に、設定部64は、移動区間Mの基準ベクトルQを設定する(ステップS14)。具体的には、移動区間M(M1,・・・,Mn)にそれぞれ対応して溶接線L(L1,・・・,Ln)に対して垂直な基準ベクトルQ(Q1,・・・,Qn)を設定する。
【0106】
次に、設定部64は、コーナー部の判定を実行する(ステップS15)。具体的には、ある任意のティーチング地点APnに対して隣接する移動区間Mnの基準ベクトルQnと移動区間Mn+1の基準ベクトルQn+1とを比較する。ある任意のティーチング地点APnに対して隣接する移動区間Mnの基準ベクトルQnと移動区間Mn+1の基準ベクトルQn+1とを比較した場合に、隣接する移動区間Mの基準ベクトルQ同士が同一である場合には、ティーチング地点APnを介して隣接する移動区間Mnおよび移動区間Mn+1は直線部を形成している。したがって、コーナー部は形成されていない。
【0107】
一方、ある任意のティーチング地点APnに対して隣接する移動区間Mnの基準ベクトルQnと移動区間Mn+1の基準ベクトルQn+1とを比較した場合に、隣接する移動区間Mの基準ベクトルQ同士が異なる場合には、ティーチング地点APnを介して隣接する移動区間Mnおよび移動区間Mn+1はコーナー部を形成している。この場合、ティーチング地点APnがコーナー部を形成すると判定してコーナー部の角度θおよび補正区間を設定する。
【0108】
次に、設定部64は、コーナー部の角度θを設定する(ステップS16)。
具体的には、ある任意のティーチング地点APnがコーナー部を形成する場合、隣接する移動区間Mnの基準ベクトルQnと移動区間Mn+1の基準ベクトルQn+1との角度がコーナー部の角度θとなる。コーナー部の角度θは、隣接する移動区間Mnと移動区間Mn+1との進行方向の折れ曲がり角度と同じである。
【0109】
次に、設定部64は、補正区間を設定する(ステップS18)。
具体的には、ある任意のティーチング地点APnがコーナー部を形成する場合、隣接する移動区間Mnと移動区間Mn+1とは、ウィービングの振幅方向を補正する補正区間をそれぞれ有する。
【0110】
移動区間Mの前半に補正する区間を補正前半区間に設定する。移動区間Mの後半に補正する区間を補正後半区間に設定する。補正区間は、一例としてウィービングの振幅Ampを基準に設定する。
【0111】
そして、処理を終了する(リターン)。
設定部64は、ティーチング処理により設定した溶接トーチ30の軌跡に関する情報を溶接制御部14に出力する。溶接制御部14は、ロボット動作制御部15に当該溶接トーチ30の軌跡に関する情報を出力するとともに、記憶部62に格納されているパラメータの初期値を読み出して、ロボット動作制御部15に出力する。なお、設定部64は、ティーチング処理により設定した溶接トーチ30の軌跡に関する情報を記憶部62に格納するようにしてもよい。そして、溶接制御部14は、記憶部62に格納されているパラメータとともに溶接トーチ30の軌跡に関する情報をロボット動作制御部15に出力するようにしてもよい。
【0112】
ロボット動作制御部15は、溶接制御部14からの指示に従って溶接処理の際にロボット動作処理を実行する。
【0113】
図11は、実施形態に従うロボット動作処理のサブフローを説明する図である。
図11を参照して、ロボット動作制御部15は、パラメータ初期値設定処理を実行する(ステップS20)。パラメータ初期値設定処理の詳細については後述する。
【0114】
次に、ロボット動作制御部15は、移動区間Mnの移動を開始する(ステップS22)。
【0115】
次に、ロボット動作制御部15は、溶接トーチ30の位置Pgが移動区間Mnの補正前半区間であるか否かを判断する(ステップS24)。溶接トーチ30は、溶接線を基準にウィービングを実行する。溶接トーチ30の位置Pgは、移動区間Mnの溶接線に対して揺動するウィービングの基準点である。本例においては、直線部において溶接トーチ30の位置Pgは、進行速度Spdsで移動区間Mnの溶接線に対して進む。
【0116】
ステップS24において、ロボット動作制御部15は、溶接トーチ30の位置Pgが移動区間Mnの補正前半区間であると判断した場合(ステップS24においてYES)には、移動区間Mnの補正前半区間パラメータ算出処理を実行する(ステップS36)。移動区間Mnの補正前半区間パラメータ算出処理については後述する。そして、ステップS28に進む。
【0117】
次に、ロボット動作制御部15は、溶接トーチ30の位置Pgが移動区間Mnの補正前半区間でないと判断した場合(ステップS24においてNO)には、溶接トーチの位置Pgが移動区間Mnの補正後半区間であるか否かを判断する(ステップS26)。
【0118】
ステップS26において、ロボット動作制御部15は、溶接トーチ30の位置Pgが補正後半区間であると判断した場合(ステップS26においてYES)には、移動区間Mnの補正後半区間パラメータ算出処理を実行する(ステップS34)。移動区間Mnの補正後半区間パラメータ算出処理については後述する。そして、ステップS28に進む。
【0119】
次に、ロボット動作制御部15は、溶接トーチ30の位置Pgが補正後半区間で無いと判断した場合(ステップS26においてNO)には、ステップS28に進む。
【0120】
ステップS28において、ロボット動作制御部15は、各種パラメータに基づいてウィービング動作処理を実行する(ステップS28)。ウィービング動作処理の詳細については後述する。
【0121】
次に、ロボット動作制御部15は、移動区間Mnの移動が完了したか否かを判断する(ステップS30)。具体的には、溶接トーチ30の位置Pgがティーチング地点APn-1からティーチング地点APに移動したか否かを判断する。
【0122】
ステップS30において、ロボット動作制御部15は、移動区間Mnの移動が完了したと判断した場合(ステップS30においてYES)には、次の移動区間があるか否かを判断する(ステップS32)。
【0123】
一方、ステップS30において、ロボット動作制御部15は、移動区間Mnの移動が完了していないと判断した場合(ステップS30においてNO)には、ステップS24に戻り、上記処理を移動区間Mnの移動が完了するまで繰り返す。
【0124】
次に、ステップS32において、ロボット動作制御部15は、次の移動区間があると判断した場合(ステップS32においてYES)には、n=n+1に設定する(ステップS38)。
【0125】
そして、ステップS22に戻り、次の移動区間Mnの移動を開始する。
一方、ステップS32において、次の移動区間が無いと判断した場合(ステップS32においてNO)には、処理を終了する(リターン)。
【0126】
図12は、実施形態に従うロボット動作制御部15の移動区間Mnのパラメータ初期値設定処理について説明するフロー図である。
【0127】
図12を参照して、ロボット動作制御部15は、一例として変数nを1に設定する(ステップS42)。
【0128】
次に、ロボット動作制御部15は、補正係数r=0に設定する(ステップS44)。
次に、ロボット動作制御部15は、傾斜角度θr=0に設定する。
【0129】
次に、ロボット動作制御部15は、進行速度Spd=Spdsに設定する。「Spds」は、一例として、溶接トーチ30がウィービング動作する場合の直線部を移動する際に設定される進行速度の初期値である。
【0130】
次に、ロボット動作制御部15は、ウィービングの振幅AmpをAmpsに設定する。「Amps」は、一例として溶接トーチ30がウィービングする場合の直線部を移動する際に設定されるウィービングの振幅の初期値である。
【0131】
そして、処理を終了する(リターン)。
図13は、実施形態に従うロボット動作制御部15の移動区間Mnの補正前半区間パラメータ算出処理について説明するサブフロー図である。
【0132】
図13を参照して、ロボット動作制御部15は、移動区間Mnの補正前半区間の補正係数rの算出処理を実行する(ステップS50)。補正前半区間の補正係数rは、0≦r≦1である。
【0133】
ティーチング地点APn-1とティーチング地点APnとの間の移動区間Mnにおける補正前半区間は、上述したようにティーチング地点APn-1とティーチング地点APnとの間の移動区間Mnにおいて、コーナー部におけるティーチング地点APn-1から振幅Amp後までの区間である。
【0134】
一例として、r=(1-(|Pg-APn-1|)/Amps)として算出される。
Pgは、移動区間Mnの溶接線に対して揺動するウィービングの基準点である。
【0135】
|Pg-APn-1|は、溶接トーチ30のウィービングの基準点とティーチング地点APn-1との間の距離を示す。
【0136】
したがって、補正係数rは、移動区間Mnの補正前半区間において、溶接トーチ30のウィービングの基準点がティーチング地点APn-1にある場合には1となり、溶接トーチ30のウィービングの基準点がティーチング地点APn-1から移動するに従って徐々に0に近づくことになる。補正係数rは、溶接トーチ30のウィービングの基準点がティーチング地点APn-1から振幅Amp進んだ場合に0になる。
【0137】
次に、ロボット動作制御部15は、移動区間Mnの補正前半区間の進行速度Spdの算出処理を実行する(ステップS52)。
【0138】
一例として、Spd=r×(Spds×cos(θr)-Spds)+Spdsとして算出される。
【0139】
したがって、進行速度Spdは、移動区間Mnの補正前半区間において、溶接トーチ30のウィービングの基準点がティーチング地点APn-1にある場合にはSpd=Spds/√2となる。進行速度Spdは、溶接トーチ30のウィービングの基準点がティーチング地点APn-1から移動するに従って徐々に上昇する。進行速度Spdは、溶接トーチ30のウィービングの基準点がティーチング地点APn-1から振幅Amp進んだ場合にSpd=Spdsになる。
【0140】
次に、ロボット動作制御部15は、移動区間Mnの補正前半区間の基準ベクトルに対するウィービングの振幅方向の傾斜角度θrの算出処理を実行する(ステップS54)。
【0141】
一例として、θr=r×(-θn-1/2)として算出される。
したがって、基準ベクトルに対するウィービングの振幅方向の傾斜角度θrは、移動区間Mnの補正前半区間において、溶接トーチ30のウィービングの基準点がティーチング地点APn-1にある場合には(-θn-1/2)となり、溶接トーチ30のウィービングの基準点がティーチング地点APn-1から移動するに従って徐々に0に近づくことになる。基準ベクトルに対するウィービングの振幅方向の傾斜角度θrは、溶接トーチ30のウィービングの基準点がティーチング地点APn-1から振幅Amp進んだ場合に0になる。
【0142】
次に、ロボット動作制御部15は、移動区間Mnの補正前半区間のウィービングの振幅Ampの算出処理を実行する(ステップS58)。
【0143】
一例として、Amp=Amps/cos(θr)として算出される。
したがって、ウィービングの振幅Ampは、移動区間Mnの補正前半区間において、溶接トーチ30のウィービングの基準点がティーチング地点APn-1にある場合にはAmps/cos(-θn-1/2)となる。ウィービングの振幅Ampは、溶接トーチ30のウィービングの基準点がティーチング地点APn-1から移動するに従って徐々に小さくなる。ウィービングの振幅Ampは、溶接トーチ30のウィービングの基準点がティーチング地点APn-1から振幅Amp進んだ場合にAmp=Ampsになる。
【0144】
そして、処理を終了する(リターン)。
移動区間Mnの補正後半区間パラメータ算出処理についても移動区間Mnの補正前半区間パラメータ算出処理と同様の方式に従って算出する。
【0145】
図14は、実施形態に従うロボット動作制御部15の補正後半区間パラメータ算出処理について説明するサブフロー図である。
【0146】
図14を参照して、ロボット動作制御部15は、補正係数rの算出処理を実行する(ステップS60)。補正後半区間の補正係数rは、0≦r≦1である。
【0147】
ティーチング地点APn-1とティーチング地点APnとの間の移動区間Mnにおける補正後半区間は、上述したようにティーチング地点APn-1とティーチング地点APnとの間の移動区間Mnにおいて、コーナー部におけるティーチング地点APnから振幅Amp前までの区間である。
【0148】
一例として、r=(1-(|APn-Pg|)/Amps)として算出される。
Pgは、移動区間Mnの溶接線に対して揺動するウィービングの基準点である。
【0149】
|APn-Pg|は、溶接トーチ30のウィービングの基準点とティーチング地点APnとの間の距離を示す。
【0150】
したがって、補正係数rは、移動区間Mnの補正後半区間において、溶接トーチ30のウィービングの基準点がティーチング地点APnから振幅Amp前にある場合には0となり、溶接トーチ30のウィービングの基準点がティーチング地点APnに近づくに従って徐々に1に近づくことになる。補正係数rは、溶接トーチ30のウィービングの基準点がティーチング地点APnに進んだ場合に1になる。
【0151】
次に、ロボット動作制御部15は、移動区間Mnの補正後半区間の進行速度Spdの算出処理を実行する(ステップS62)。
【0152】
一例として、Spd=r×(Spds×cos(θr)-Spds)+Spdsとして算出される。
【0153】
したがって、進行速度Spdは、移動区間Mnの補正後半区間において、溶接トーチ30のウィービングの基準点がティーチング地点APnから振幅Amp前にある場合にはSpdsとなる。進行速度Spdは、溶接トーチ30のウィービングの基準点がティーチング地点APnに近づくに従って徐々に減少する。進行速度Spdは、溶接トーチ30のウィービングの基準点がティーチング地点APnに進んだ場合にSpd=Spds/√2になる。
【0154】
次に、ロボット動作制御部15は、移動区間Mnの補正後半区間の基準ベクトルに対するウィービングの振幅方向の傾斜角度θrの算出処理を実行する(ステップS64)。
【0155】
一例として、θr=r×(θn/2)として算出される。
したがって、基準ベクトルに対するウィービングの振幅方向の傾斜角度θrは、移動区間Mnの補正後半区間において、溶接トーチ30のウィービングの基準点がティーチング地点APnから振幅Amp前にある場合には0となり、溶接トーチ30のウィービングの基準点がティーチング地点APnに近づくに従って徐々に大きくなる。基準ベクトルに対するウィービングの振幅方向の傾斜角度θrは、溶接トーチ30のウィービングの基準点がティーチング地点APnに進んだ場合にθn/2になる。
【0156】
次に、ロボット動作制御部15は、移動区間Mnの補正後半区間のウィービングの振幅Ampの算出処理を実行する(ステップS68)。
【0157】
一例として、Amp=Amps/cos(θr)として算出される。
したがって、ウィービングの振幅Ampは、移動区間Mnの補正後半区間において、溶接トーチ30のウィービングの基準点がティーチング地点APnから振幅Amp前にある場合にはAmpsとなる。ウィービングの振幅Ampは、溶接トーチ30のウィービングの基準点がティーチング地点APnに近づくに従って徐々に大きくなる。ウィービングの振幅Ampは、溶接トーチ30のウィービングの基準点がティーチング地点APnに進んだ場合にAmp=Amps/cos(θn/2)になる。
【0158】
そして、処理を終了する(リターン)。
図15は、実施形態に従うロボット動作制御部15のウィービング動作処理について説明するサブフロー図である。
【0159】
図15を参照して、ロボット動作制御部15は、移動区間Mnのウィービングの振幅方向を設定する(ステップS70)。
【0160】
次に、ロボット動作制御部15は、溶接トーチ30を進行方向に進行速度Spdで進ませながら設定されたウィービングの振幅方向に振幅Ampで揺動させる(ステップS72)。
【0161】
そして、処理を終了する(リターン)。
ロボット動作制御部15は、移動区間Mnにおいて溶接トーチ30のウィービングの基準点が補正前半区間および補正後半区間に無い場合には、初期値である傾斜角度θr=0に従ってウィービングの振幅方向を設定する。
【0162】
そして、ロボット動作制御部15は、溶接トーチ30を進行方向に初期値である進行速度Spdsで進ませながら設定されたウィービングの振幅方向に初期値である振幅Ampsで揺動させるウィービング動作を実行する。
【0163】
ロボット動作制御部15は、移動区間Mnにおいて溶接トーチ30のウィービングの基準点が補正前半区間および補正後半区間にある場合には、算出された傾斜角度θrにウィービングの振幅方向を設定する。
【0164】
そして、ロボット動作制御部15は、溶接トーチ30を進行方向に算出された進行速度Spdで進ませながら設定されたウィービングの振幅方向に振幅Ampで揺動させるウィービング動作を実行する。
【0165】
具体的には、移動区間Mnの補正前半区間において、溶接トーチ30の位置に応じて溶接線の進行方向に対するウィービングの振幅方向をコーナー部の角度θn-1の1/2傾斜した方向から垂直方向に徐々に変化させる。
【0166】
移動区間Mnの補正後半区間において、溶接トーチ30の位置に応じて溶接線の進行方向に対するウィービングの振幅方向を垂直方向からコーナー部の角度θnの1/2傾斜した方向に徐々に変化させる。
【0167】
これにより、コーナー部のウィービング動作の振幅方向の急峻な変化が抑制される。図4で説明したようにコーナー部のウィービング動作による溶接トーチ30の軌跡の連続性が維持される。コーナー部の周囲領域全体において溶接トーチ30が移動するため、コーナー部における溶接ビードの形状は均一となるため溶接品質を維持することが可能となる。
【0168】
なお、上記のフローにおいては、溶接トーチ30の位置に応じて溶接線の進行方向に対するウィービングの振幅方向を変化させるとともに、進行速度および振幅を変化させる場合について説明したが、ウィービングの振幅方向のみを変化させて、進行速度Spdおよび振幅Ampを初期値のまま変化させないようにしてもよい。また、ウィービングの振幅方向の変化とともに、進行速度Spdおよび振幅Ampのいずれか一方とを組み合わせてコーナー部のウィービング動作を実行することも可能である。
【0169】
(その他の形態)
図16は、実施形態に従う別の溶接例(その1)について説明する図である。
【0170】
図16を参照して、部材100Aと部材100Bとを溶接する際のコーナー部の溶接が示されており、多層盛の水平隅肉溶接の例が示されている。
【0171】
図16(A)は、1層目の部材100Aと部材100Bとを溶接する際のコーナー部の溶接が示されており、溶接ビード230が形成されている。
【0172】
図16(B)は、2層目の部材100Aと部材100Bとを溶接する際のコーナー部の溶接が示されており、溶接ビード240が形成されている。
【0173】
図16(C)は、3層目の部材100Aと部材100Bとを溶接する際のコーナー部の溶接が示されており、溶接ビード250が形成されている。
【0174】
当該多層盛の水平隅肉溶接を実行する場合にも上記の方式を適用することが可能であり、コーナー部における溶接品質を向上させることが可能である。
【0175】
なお、3層に限られずさらに複数層の多層盛を実行する場合にも同様に適用可能である。
【0176】
図17は、実施形態に従うさらに別の溶接例(その2)について説明する図である。
図17を参照して、部材110Aと部材110Bと部材110Cとの間の開先を溶接する際のコーナー部の溶接が示されている。部材110Aと部材110Bと部材110Cとの間の溝を埋める溶接であり、溶接ビード260が形成されている。
【0177】
当該開先の溶接を実行する場合にも上記の方式を適用することが可能であり、溝を埋める際のコーナー部における溶接品質を向上させることが可能である。
【0178】
図18は、実施形態に従うさらに別の溶接例(その3)について説明する図である。
図18を参照して、部材120Aと部材120Bと部材120Bと部材120Cとを溶接する際のコーナー部の溶接が示されている。部材120Aと部材120Bとの部材のコーナー部の内側を溶接する場合が示されており、溶接ビード270が形成されている。
【0179】
当該コーナー部の内側の溶接を実行する場合にも上記の方式を適用することが可能であり、コーナー部の内側における溶接品質を向上させることが可能である。
【0180】
なお、上記したように、コーナー部の内側の溶接においては、溶接ビードを形成する溶接金属がコーナー部の内側に溜まるため直線部の溶接よりも溶接金属量を減少させるようにしてもよい。したがって、コーナー部の内側の溶接においては、溶接トーチ30の進行速度Spdを直線部の溶接トーチ30の進行速度Spdsよりも早くすることにより溶接金属量を減少させることが可能である。
【0181】
なお、上記においては、補正区間は、一例としてウィービングの振幅Ampを基準に設定する場合について説明したが特にこれに限られる訳ではなく任意の値に設定することが可能である。一般的に溶接ビードの大きさに応じてコーナー部の大小も設定される。具体的には、溶接ビードが大きくなればなるほどコーナー部は大きくなり、小さい場合にはコーナー部は小さくなる。また、溶接ビードの大きさに基づいて振幅Ampが設定される。したがって、補正区間をウィービングの振幅Ampを基準に設定することによりコーナー部の大きさに比例した補正区間に適切に設定することが可能となる。
【0182】
上記の実施形態においては、多関節型ロボットである溶接ロボット20を用いてアーク溶接する方式について説明したが、溶接ロボット20は、溶接トーチ30をウィービング動作可能な駆動機構を有していればよく、特に多関節ロボットに限定されない。溶接ロボット20は、三軸マニピュレータよりなる直交型ロボットであってもよい。
【0183】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0184】
1 溶接装置、10 溶接制御装置、11 溶接電源制御部、12 A/D変換部、13 溶接電源装置、14 溶接制御部、15 ロボット動作制御部、20 溶接ロボット、21 連結アーム、22 アクチュエータ、30 溶接トーチ、40 ワイヤ送給装置、50 溶接電流計測器、62 記憶部、64 設定部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18