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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】建屋内搬送システム及び建屋構造
(51)【国際特許分類】
   G05D 1/467 20240101AFI20240215BHJP
【FI】
G05D1/467
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020024275
(22)【出願日】2020-02-17
(65)【公開番号】P2021128681
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091306
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 友一
(74)【代理人】
【識別番号】100174609
【弁理士】
【氏名又は名称】関 博
(72)【発明者】
【氏名】清水 友理
(72)【発明者】
【氏名】森 直樹
(72)【発明者】
【氏名】谷 翼
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大樹
(72)【発明者】
【氏名】庄司 研
【審査官】大古 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-193022(JP,A)
【文献】特開2018-169787(JP,A)
【文献】特開2008-102939(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/00 - 1/87
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物内で荷物の搬送を行うシステムであって、
前記建物内のフロアマップが記録されていると共に、前記フロアマップにおける現在位置情報を取得するための位置情報検出部を備え、前記荷物の保持、及び搬送を担う無人移動体と、
前記建物内のフロアマップを表示可能とし、前記フロアマップで指定した位置に前記無人移動体を移動させる指令信号を出力可能な操作手段と、を有し、
前記無人移動体は、前記記録されたフロアマップに基づいて、現在位置と前記操作手段を介して定めた指定位置とを認識して移動ルートを求め、
前記建物内のフロアを構成する室内空間と天井裏空間とを移動体出入口を介して行き来し、前記フロアにおける移動に天井裏空間を利用する構成とし、前記天井裏空間の移動ルートに存在する梁には、梁せいに対して前記無人移動体を通過させる貫通孔を設け、
前記貫通孔には、当該貫通孔に対する前記無人移動体の接近を検出し、検出した前記無人移動体に対して検出時刻順貫通孔通過制御と、同時期に検出した前記無人移動体が複数である場合に無人移動体に優先度をつけて、「待機」、「通行可」の指令信号を出力する優先度順の貫通孔通過制御とを行う移動体検出装置を備えたことを特徴とする搬送システム。
【請求項2】
前記無人移動体は、前記指定位置に最も近い位置に存在する前記移動体出入口を第1目的地として移動し、
前記第1目的地への到着に基づく信号を前記移動体出入口に送信することで、扉の開放が成されることを特徴とする請求項1に記載の搬送システム。
【請求項3】
前記移動体出入口には、固有の位置特定手段が付されており、
前記無人移動体には、前記位置特定手段を読み取る読取手段が備えられ、
前記到着に基づく信号は、前記位置特定手段を認識した旨の信号であることを特徴とする請求項2に記載の搬送システム。
【請求項4】
建物内で荷物の搬送を行う際、天井裏空間を利用して移動を行う無人移動体を用いる搬送システムを適用する際の梁構造であって、
前記梁の梁せいに対して、前記無人移動体を通過させる貫通孔を設け、
前記貫通孔には、当該貫通孔に対する前記無人移動体の接近を検出し、検出した前記無人移動体に対して検出時刻順貫通孔通過制御と、同時期に検出した前記無人移動体が複数である場合に無人移動体に優先度をつけて、「待機」、「通行可」の指令信号を出力する優先度順の貫通孔通過制御とを行う移動体検出装置を備えたことを特徴とする搬送システムを適用可能な建物の梁構造。
【請求項5】
前記貫通孔は、前記梁の長手方向中央近傍に設けられていることを特徴とする請求項4に記載の搬送システムを適用可能な建物の梁構造。
【請求項6】
前記貫通孔の形状をマンサード型としたことを特徴とする請求項4または5に記載の搬送システムを適用可能な建物の梁構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷物等の搬送に係り、特にオフィスビルなどの建屋内における執務者の手元まで荷物を搬送する際に好適な搬送システム、及びこのシステムを適用可能な建屋構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ネットショッピングの拡大に起因して荷物の搬送数が増加し、荷物の搬送を担う人員の不足が問題となっている。そのため、宅配のラストワンマイル(配送センターから自宅の玄関まで)の効率化の提案がなされている。例えば特許文献1には、自律移動体を巡回経路上に走らせ、依頼主からの連絡により依頼主宅に向かわせると共に、荷物を送り先へ搬送するというシステムが開示されている。ここで、自律移動体は様々なセンサ等を備えると共に、荷物を搭載する荷室にはロック機構が備えられ、搬送中や、送り先以外での荷物の取出し、盗難等が防止できるように構成されている。
【0003】
一方で、このような自律移動体による搬送システムは、宅配業者等の配送センター、あるいは依頼主から送り先の玄関先までの搬送行為を行うものであり、ビルなどの建物にあっては、荷物が手元に届くまでにはさらに時間がかかることとなる。そうした中、特許文献2には、工場や倉庫などにおいて、建物内にドローン(無人移動体)を飛ばし、建物内を移動する自律移動体を誘導し、建物内における荷物の搬送を支援するという事が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-119537号公報
【文献】特許第6628296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
確かに誘導等があれば、自律移動体が建物内を移動する事も可能かもしれない。しかし、特許文献2に開示されている建物は、工場や倉庫といった、比較的フラットな環境が確保された場所である。一方で、ビルなどの一般的な建物はロボット等の自律移動体が動作することを前提に作られていない。このため、エレベータやインターフォンはもちろん、階段等の段差に対応することができない。
【0006】
また、移動支援のために用いていたドローンも、倉庫や工場といった、比較的広い空間が確保され、人の行き来が少ない環境であるために利用可能としていたに過ぎない。このため、人が混在する有人環境下において、ドローンにより荷物を搬送させるといった行為も実質的に難しい。
【0007】
そこで本発明では、建物内において、荷物の搬送の効率化を図る事のできる搬送システム、及びこの搬送システムを適用可能な建物の梁構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る搬送システムは、建物内で荷物の搬送を行うシステムであって、前記建物内のフロアマップが記録されていると共に、前記フロアマップにおける現在位置情報を取得するための位置情報検出部を備え、前記荷物の保持、及び搬送を担う無人移動体と、前記建物内のフロアマップを表示可能とし、前記フロアマップで指定した位置に前記無人移動体を移動させる指令信号を出力可能な操作手段と、を有し、前記無人移動体は、前記記録されたフロアマップに基づいて、現在位置と前記操作手段を介して定めた指定位置とを認識して移動ルートを求め、前記フロアを構成する室内空間と天井裏空間とを移動体出入口を介して行き来し、前記フロアにおける移動に天井裏空間を利用する構成としたことを特徴とする。
【0009】
また、上記のような特徴を有する搬送システムにおいて前記無人移動体は、前記指定位置に最も近い位置に存在する前記移動体出入口を第1目的地として移動し、前記第1目的地への到着に基づく信号を前記移動体出入口に送信することで、扉の開放が成されることを特徴とする。このような特徴を有する事によれば、第1目的地とする移動体出入口の近くに無人移動体が来たタイミングで移動体出入口を開くことができる。
【0010】
さらに、上記のような特徴を有する搬送システムにおいて前記移動体出入口には、固有の位置特定手段が付されており、前記無人移動体には、前記位置特定手段を読み取る読取手段が備えられ、前記到着に基づく信号は、前記位置特定手段を認識した旨の信号であることを特徴とする。このような特徴を有する事によれば、無人移動体による位置特定手段の認識を、移動体出入口の開放タイミングのトリガとすることができる。
【0011】
また、上記目的を達成するための本発明に係る搬送システムを適用可能な建物の梁構造は、建物内で荷物の搬送を行う際、天井裏空間を利用して移動を行う無人移動体を用いる搬送システムを適用する際の梁構造であって、前記梁の梁せいに対して、前記無人移動体を通過させる貫通孔を設けたことを特徴とする。
【0012】
また、上記のような特徴を有する搬送システムを適用可能な建物の梁構造において前記貫通孔は、前記梁の長手方向中央近傍に設けられていることを特徴とする。このような特徴を有する事によれば、設計上の耐力への影響を小さくすることができる。
【0013】
さらに、上記のような特徴を有する搬送システムを適用可能な建物の梁構造では、前記貫通孔の形状をマンサード型としたことを特徴とする。このような特徴を有する事によれば、構造的な耐力を確保したまま、開口部の開口面積を大きくとる事が可能となる。
【発明の効果】
【0016】
上記のような特徴を有する搬送システムによれば、建物内において、荷物の搬送の効率化を図る事ができる。また、上記のような特徴を有する梁構造によれば、発明に係る搬送システムを適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態に係る搬送システムの構成を示す図である。
図2】天井裏空間における梁の配置構造を示す図である。
図3】梁に設ける貫通孔の形状(構造)を示す図である。
図4】フロアにおける天井裏空間の一例を示す図である。
図5】移動体出入口の構造を示す平面図である。
図6】移動体出入口の構造を示す側面断面図である。
図7】実施形態に係る搬送システムの運用例を説明するためのフローである。
図8】梁に設ける貫通孔に具備する部品を示す図である。
図9】実施形態に係る貫通孔の搬送システムの運用例を説明するためのフローである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の搬送システム、及び搬送システムを適用可能な建物の梁構造に係る実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態に係る搬送システムにおいて荷物の搬送を行うステージは、ビルなどの建物内であることを前提としている。
【0019】
[搬送システム]
まず、図1を参照して、本実施形態に係る搬送システム10の構成について説明する。本実施形態に係る搬送システム10は、少なくとも無人移動体12(いわゆるドローン等の飛行体の他、無人移動車両等も含む)と、操作手段14、及び位置情報特定手段16とを有する。
【0020】
無人移動体12は、荷物50の保持、及び搬送を担う移動体である。無人移動体12をドローンとした場合、飛行のための制御部の他、記憶部や位置情報検出部(具体的には、IMUユニット(加速度等センサ)やLiDAR:いずれも不図示)、及び荷物保持機構12a、並びにカメラ等の検知手段12bを備えていれば良い。制御部は、プロペラ等の回転制御の他、飛行ルートの作成や、各種信号を受信した際の判定などを行うための要素である。また、記憶部には、建物内のフロアマップや、各種処理に必要なプログラム等が記録されている。なお、無人移動体12の記憶部に記録されているフロアマップには、詳細を後述する天井裏空間における飛行可能ルートも記録されている。
【0021】
位置情報検出部は、詳細を後述する位置情報特定手段16から出力される電波に基づいて自己の位置情報を検出することが可能な要素であれば良い。位置情報検出部によって検出された自己の位置情報を、記憶部に記録されているフロアマップに投影することで、自己の位置を認識し、自律移動(飛行)が可能となるからである。
【0022】
荷物保持機構12aは、搬送する荷物50を保持する事ができる構造であれば、詳細を限定するものでは無い。例えば、機体の下部にフックを設けるなどの構成であっても良い。
【0023】
また、無人移動体12に備える検知手段12bとしては、カメラの他、超音波センサ等を付加し、自律飛行時における障害物回避機能を備えるようにしても良い。
【0024】
操作手段14は、無人移動体12に対して荷物50を搬送させる指示を出力するための手段である。具体的には、パソコンの他、高機能型携帯電話(いわゆるスマートフォン)や、タブレット型端末等、通信機能、入力機能、及び表示機能等を備えた端末であれば良い。
【0025】
また、操作手段14は、上記機能の他、少なくとも記憶部や演算部(いずれも不図示)などを備え、建物のフロアマップや、搬送指示に必要な処理を行うためのアプリケーションソフト等を記録すると共に、アプリケーションソフトを起動させ、入力内容に応じた制御処理、及び指令の出力を行う事が可能なものとする。
【0026】
このような機能、及び構成とされる操作手段14であれば、アプリケーションソフトを起動させ、フロアマップを表示し、荷物50を搬送して欲しい位置を指定することができ、無人移動体12に対して搬送先の位置情報を指定、出力することが可能となる。
【0027】
位置情報特定手段16は、GPS(Global Positioning System)の電波が到達し辛い建物内において、無人移動体12や荷物50の搬送を依頼する人(執務者:操作手段14を操作する人)の位置情報を特定する事ができる要素であれば良い(なお、以下の実施形態においては、無人移動体12の位置情報の特定に、位置情報特定手段16は用いていない)。
【0028】
一例としては、Beaconなどの短距離無線通信用の電波を出力する発信機を採用すると良い。建物内において位置情報が特定可能な複数個所(少なくとも3箇所)にBeaconを設置することで、3点測量の原理により、操作手段14の位置を特定することが可能となる。
【0029】
また、無人移動体12の位置情報を特定する手段として一例を挙げる場合、無人移動体12に具備したIMUユニット(加速度等センサ)によるX,Y,Z軸の移動量推定による自己位置推定や、LiDARセンサーの赤外線照射により壁や障害物との距離を測定することで環境地図を作成し、環境地図の中から自己位置推定するSLAM方式(Simultaneous Localization And Mappingの略)により、位置情報を算出することが可能となる。
【0030】
[作用]
このような構成の搬送システム10であれば、執務者が操作手段14を介してアプリケーションソフトを起動し、フロアマップ上の特定箇所を指定することで、無人移動体12が指定箇所へ荷物50を搬送することが可能となる。
【0031】
[梁構造]
本発明に係る搬送システム10では、建物のフロアを構成する室内空間の上部に位置する天井裏空間を、各フロアにおける無人移動体12の移動空間として利用する。室内空間の無柱化が進む昨今のビルなどの建物では、柱間のスパンが大きくなり、梁せいも大きくなる傾向にある。このため、天井と梁の隙間は狭くなってしまっている。さらに、図2(A)に示すように、柱20間に梁わたされる大梁22の間には、複数の小梁24が配置されている。このため、天井裏空間は一般的に、自由な移動スペースを確保し辛い空間となっている。
【0032】
本実施形態では、上記のような構成の搬送システム10を適用するにあたり、図2(B)に示すように、小梁24をスパンの大きい大梁22と平行に配置する構成とした。このような構成とすることで、強度を確保したまま、小梁24の本数を減らすことができ、移動スペースの確保に寄与することができるからである。
【0033】
また、本実施形態では図3に示すように、梁せいに対して貫通孔26を設け、無人移動体12を通過させる構成とした。貫通孔26は、梁の長手方向中央近傍に設けるようにすると良い。梁に作用する応力は一般的に、重力などに起因する長期的なものと、地震や風などに起因する突発的(短期的)なものとに分けることができる。長期的に作用する応力では、曲げモーメントは、梁の端部、及び中央部に大きく作用すると言われている。また、せん断力は、梁の端部で大きく、中央部で小さくなると言われている。一方、短期的に作用する応力では、曲げモーメントは、梁の端部で大きく、中央部では小さく作用すると言われている。また、せん断力は、梁全体で一様となると言われている。
【0034】
ここで、梁に対して貫通孔26を設けることは、梁のせん断耐力を低下させることになる。このため、長期的に作用する応力によるせん断力が小さいとされる梁の中央近傍に貫通孔26を設けることで、設計上の耐力への影響を小さくすることができる。なお、梁の中央近傍に貫通孔26を設ける場合であっても、地震時などの短期的な応力が作用した際、せん断力が梁の左右に伝達されるような断面構造とする。
【0035】
貫通孔26の形状は、荷物50を搭載した無人移動体12が通過することができるものであれば良いが、大きな開口部と耐力の維持の双方を確保するために、マンサード型の開口構造とすることが望ましい。マンサード型の開口部は図3に示すように、五角形の開口部と、開口部の周りの補強構造(補強フランジ28)により、開口面積と耐力の双方を効果的に確保することが可能となる。
【0036】
また、貫通孔26の付近では、両側から貫通孔26を通過しようとする無人移動体12が複数存在する場合、道路でいう侵入と停止を制御するいわゆる“信号”の機能が必要となる。そのため、無人移動体12が貫通孔26付近に接近したことを検出する移動体検出装置42により、無人移動体12の接近を検出する。(図8、及び図9のフロー参照)移動体検出装置42は、例えば画像センサで移動体の形を事前に学習させることにより、学習した形状が一定の大きさ以上となった事を検出した場合、貫通孔26の近傍に無人移動体12が接近したと判定する等の処理を行うことができるようにすれば良い。
【0037】
移動体検出装置42による無人移動体12の検出には、無人移動体12「有」と検出した時刻を記録して検出された時刻順に貫通孔通過制御を行うようにしたり、無人移動体12に優先度をつけて、優先度順で貫通孔通過制御を行うようにすれば良い。これにより、複数台の無人移動体12が検出された場合や、貫通孔26(大梁22、小梁24)の両側で無人移動体12が検出された場合であっても、優先制御が可能となる。
【0038】
無人移動体12「有」として一定の大きさ以上の学習形状を検出した場合、無人移動体12「有」と判定した移動体検出装置42に対して貫通孔26の反対側に設けられた信号送信装置44から、「待機」の信号を出力する。出力信号については、貫通孔26を介した双方の側面に伝わることがないように、信号送信装置44には、指向性アンテナを用いてもよい。
【0039】
このような処理を行うことで、貫通孔26の反対側に接近してきた無人移動体12は「待機」信号を受信することで停止する。停止時には、貫通孔26と自己の機体との間に、貫通孔26の反対側から通過してくる無人移動体12の移動動線を確保できる一定距離を確保する必要がある。このため、無人移動体12と貫通孔26との間の距離を移動体検出装置42により計測し、無人移動体12が所定の距離に接近した際に「待機」信号を出力すると良い。なお、「待機」信号を出力しない場合には、停止線を意味するマーカーを設置する構成としても良い。
【0040】
これにより、貫通孔26を通過しようとしていた無人移動体12(通過の優先度が高い無人移動体12)は、貫通孔26の反対側に存在する無人移動体12(優先度が低い無人移動体12)が待機状態になったことを受けて、移動を開始する。無人移動体12による貫通孔26の通過が完了すると、移動体検出装置42は、貫通孔26付近で検出した無人移動体12が非検出となることから貫通孔26の通過が完了したと判定し、貫通孔26の反対側で待機している無人移動体12へ「通行可」の信号を出力する。これにより、複数台の無人移動体12が同一の貫通孔26付近に接近した場合であっても、貫通孔通過制御が可能となる。
【0041】
また、貫通孔26の大きさに関わらず、貫通孔26が同時に複数の無人移動体12が通れるほどの大きさである場合であっても、無人移動体12が貫通孔26の同じ側に複数存在する場合が生じ得る。このような場合には、図9の「移動体の数量」が「複数」の場合のフローになり、複数の無人移動体12に対して「移動体の大きさ」の検出を行う。
【0042】
大きさが検出された無人移動体12のうち、大きさが最大であると判定された移動体(A)に対しては検出側の信号を「通行可」として(A)に対して出力し、貫通孔26の反対側で信号送信装置44が出力する信号を「待機」とする。また、検出側における移動体(A)以外の移動体群(B)に対しては、信号送信装置44から「待機」の信号が出力される。これにより、貫通孔26の同じ側に複数台の無人移動体12が検出された場合であっても貫通孔通過制御が可能になる。
【0043】
[移動体出入口の開閉構造]
また、本実施形態では、無人移動体12が室内空間と天井裏空間を行き来する際に利用する開口部を移動体出入口30とする(図4に示す天井裏空間の概略構成を参照)。移動体出入口30は、天井裏空間が設けられているフロアには、必ず設けられる要素だからである。
【0044】
本実施形態では、移動体出入口30の構造を図5図6に示すような引戸型としている。扉が下方に開く構造とした場合、扉の直下に人が居た場合に、扉が人に接触する可能性が生じるからである。実施形態に係る移動体出入口30の構造としては、開口部32の対向する一対の辺のそれぞれに平行に、一対のレール34を設けている。レール34の長手方向長さは、開口部32の辺の長さよりも長くし、望ましくは開口部32の辺の長さの2倍程度とすると良い。扉36を開いた際、平面視において開口部32と扉36の重なり部分を無くし、開口部32の開口面積を最大限活かすことが可能となるからである。
【0045】
扉36には、レール34との対向面に、スライダや車輪(いずれも不図示)を備え、レール34に沿ってスライド移動する事が可能な構成とすると良い。また、実施形態に係る移動体出入口30には、駆動部と、制御部、及び通信部を有する駆動通信制御手段38が備えられている。
【0046】
通信部を介して無人移動体12と信号の送受信を行い、制御部が駆動部を作動させ、扉36の開閉を図る構成とすることで、執務者が手動で扉36の開け閉めをする必要が無くなる。また、扉36は、開口部32に対面する側面と反対側の面、すなわち天井裏空間側の側面に、固有の位置特定手段40を付するようにしても良い。
【0047】
無人移動体12が移動体出入口30に接近した際、検知手段12bで位置特定手段40を読み取り、駆動通信制御手段30の通信部へ位置特定手段40を認識した旨の信号を出力すれば、制御部が駆動部を稼働させ、扉36を開放させることができる。ここで、位置特定手段40とは、例えば二次元コードのような図柄の他、RFIDやBeacon等の短距離無線通信を可能とするタグであっても良い。位置特定手段40を短距離無線通信タグとする場合には、無人移動体12に対し、受信手段を備えるようにすると良い。
【0048】
なお、上記実施形態では、位置情報特定手段(例えばBeacon)16の配置位置については特に限定していないが、フロアに3つ以上の移動体出入口30がある場合には、各移動体出入口30に位置情報特定手段16を配置する構成としても良い。また当然に、位置情報特定手段16は、短距離無線の信号が到達する範囲で、フロアの任意の複数個所に配置する構成としても良い。
【0049】
[搬送システムの運用]
上記のような梁構造、及び移動体出入口30の構造を有する建物において、実施形態に係る搬送システム10を運用する場合、図7に示すような流れとなる。
まず、荷物50の搬送を依頼する執務者は、操作手段14を介してアプリケーションソフトを起動する(ステップ10)。次に、アプリケーションソフトの指示に従い、荷物50の受け取り位置を指定する(ステップ20)。受け取り位置の指定は、フロアマップ上における指定で行うことができるが、執務者が受け取り位置に居る場合には、操作手段14の位置情報を測位する事によっても指定することができる。よって、執務者は、いずれの方法で受け取り位置を指定するかの選択を行う(ステップ30)。
【0050】
まず、フロアマップから受け取り位置の指定を行う場合、執務者は、操作手段14に表示されるフロアマップ上で受け取り位置を選択する(ステップ40)。受け取り位置が指定されると、操作手段14の演算部は、フロアマップ上において受け取り位置に最も近い移動体出入口30の位置を算出し、この移動体出入口30を第1目的地と定め、無人移動体12に対して、第1目的地として定めた移動体出入口30の位置情報(フロアマップ上での座標位置)と、フロアマップ上での受け取り位置の位置情報(座標位置:第2目的地)を送信し、無人移動体側では第1目的地が決定される(ステップ70)。
【0051】
第1目的地の位置情報を受信した無人移動体12は、自己の現在位置を推定し、第1目的地の位置情報を比較し、飛行可能ルール(例えば図4参照)に沿った飛行ルートを算出した上で、自律飛行により第1目的地まで飛行する(ステップ90)。
【0052】
受け取り位置を指定した後、操作手段14側では、荷物50を受け取るための認証コードとしての受け取りマーカー(受け取り用の位置特定手段)の発行を行う(ステップ80)。無人移動体12は、第1目的地として指定された移動体出入口30近傍に到達すると、扉36に表示されている位置特定手段40を読み取り、駆動通信制御手段38に対して位置特定手段40を認識した旨の信号を出力する(ステップ100)。
【0053】
認識信号を受信した移動体出入口30は、駆動部を稼働させて扉36を開放する。これにより、無人移動体12は、室内空間へと移動することができる(ステップ110)。
【0054】
室内空間へ移動した無人移動体12は、受け取り位置として指定された位置(フロアマップ上の座標位置)へ移動し、執務者が保有する操作手段14に表示される受け取りマーカーを認識することで、降下し、荷物の受け渡しを行う(ステップ120)。
【0055】
一方、受け取り位置の指定時に操作手段14の位置情報を測位する事を指定した場合、フロア内に配置された3つ以上(例えば4つ)のBeacon等の短距離無線通信により、フロアマップ上における操作手段14の位置情報を得るための測量が行われる(ステップ50)。短距離無線通信を利用した測量が終了すると、フロアマップ上における操作手段14の位置情報(フロアマップ上における座標位置)が算出される(ステップ60)。
【0056】
操作手段14の位置情報、すなわち受け取り位置の位置情報が得られた後は、上述したフロアマップ上における受け取り位置の指定と同様に、受け取り位置に最も近い移動体出入口30の位置を算出し、この移動体出入口30を第1目的地と定め、無人移動体12に第1目的地として定めた移動体出入口30の位置情報(フロアマップ上での座標位置)と、フロアマップ上での受け取り位置の座標位置(第2目的地)を送信する(ステップ70)。
【0057】
なお、荷物の搬送、受け取りに関するその後の処理は、上述したフロアマップ上における受け取り位置の指定を行った場合と同様であるため省略する。
【0058】
[効果]
上記のような搬送システム10によれば、ポストやドア前といった特定位置ではなく、人(執務者)が指定する、建物内の任意の位置へ荷物を搬送することが可能となる。また、Beacon等のセンサを利用した位置測位技術を利用することで、荷物の搬送を依頼する人(執務者)は、自身の現在位置を意識する事なく直感的な操作を行う事が可能となる。さらに、フロアマップを用いて任意の位置を受け取り位置として指定することを可能としたことで、荷物50の搬送を依頼する人(執務者)がその場に居ない場合であっても、所望する場所に荷物50の搬送を依頼することができる。
【0059】
また、上記のような梁(大梁22、小梁24)の構造を有する天井裏空間を利用して無人移動体12を飛行させることによれば、室内空間に搬送経路を混在させないようにすることができる。よって、無人移動体12のトラブル等に起因して、人に危害が及ぶ事を避けることが可能となる。
【0060】
また、室内空間と天井裏空間との行き来に移動体出入口30を採用し、受け取り位置に最も近い移動体出入口30を利用して室内空間に介入するようにしたことで、室内空間における搬送経路を最短化することができ、安全かつ迅速な搬送を期待することができるようになる。さらに、室内空間には移動体出入口30の開口が、室内側に扉部分が飛び出すことなく自動開閉するため、搬送システム10を適用した場合であっても、移動体出入口30の下を通過する人への圧迫感が無い。
【0061】
また、移動体出入口30の構造として、引戸型の開閉機構とした事で、開閉時に室内空間に扉36が突出するという事態を避けることができる。これにより、移動体出入口30の下を通過する人(執務者)に不安を与えることが無くなる。
【0062】
また、引戸型の開閉機構とした事により、無人移動体12が行き来する開口(出入口開口)の大きさを最大限に活かすことが可能となる。
【符号の説明】
【0063】
10………搬送システム、12………無人移動体、12a………荷物保持機構、12b………検知手段、14………操作手段、16………位置情報特定手段、20………柱、22………大梁、24………小梁、26………貫通孔、30………移動体出入口、32………開口部、34………レール、36………扉、38………駆動通信制御手段、40………位置特定手段、42………移動体検出装置、44………信号送信装置、50………荷物。
図1
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図9