(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】炎症制御材料
(51)【国際特許分類】
A61K 31/78 20060101AFI20240215BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240215BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20240215BHJP
A61L 27/34 20060101ALI20240215BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
A61K31/78
A61P29/00
A61L27/16
A61L27/34
A61P43/00 107
(21)【出願番号】P 2020029580
(22)【出願日】2020-02-25
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】田畑 泰彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 直記
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-214840(JP,A)
【文献】特開2017-102038(JP,A)
【文献】特開2015-022175(JP,A)
【文献】特開2014-141611(JP,A)
【文献】特開2013-224452(JP,A)
【文献】Acta Biomaterialia,2019年,Vol.89,pp.152-165
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
A61L 27/00
C08F 20/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1);
【化1】
(式中、Zは、
置換基を有していてもよい炭素数1~24の炭化水素基であって、置換基は-(OR
1
)
n2
-OR
2
(式中、R
1
は2価の炭化水素基を表し、R
2
は水素原子又は1価の環状エーテル構造を含んでいてもよい炭化水素基を表す。n2は、0~15の数を表す。)で表される基を表す。)で表される繰り返し単位を有する
重合体を含む炎症制御
用添加剤。
【請求項2】
下記一般式(1);
【化2】
(式中、Zは、置換基を有していてもよい炭素数1~24の炭化水素基であって、置換基は-(OR
1
)
n2
-OR
2
(式中、R
1
は2価の炭化水素基を表し、R
2
は水素原子又は1価の環状エーテル構造を含んでいてもよい炭化水素基を表す。n2は、0~15の数を表す。)で表される基を表す。)で表される繰り返し単位を有する重合体を含む炎症制御材料の微粒子からなるマクロファージ活性化剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症制御材料に関する。より詳しくは、マクロファージによる炎症を制御する炎症制御材料に関する。
【背景技術】
【0002】
マクロファージは、大食細胞、貪食細胞、組織球とも呼ばれる白血球の1種の免疫系細胞であり、炎症と治癒のサイクルに密接に関わっているとされている。
マクロファージの活性化にはインターフェロン-γ等のTh1タイプのサイトカインによる活性化と、IL-4、IL-13等のTh2タイプのサイトカインによる活性化の2つの経路が存在し、Th1タイプのサイトカインによって活性化されたものは、抗菌、抗ウイルス活性、抗腫瘍効果を発揮するM1マクロファージと呼ばれ、Th2タイプのサイトカインによって活性化されたものは炎症の抑制、炎症後の組織修復、寄生虫感染や脂質代謝等に関与するM2マクロファージと呼ばれる。
【0003】
このように生体内で異なる役割を果たす2つの活性化経路を有するマクロファージは、時に人体にとって望ましくない影響を生じることがある。例えば、人体にプラスチックや金属製の医療機器を移植すると、マクロファージが医療機器を異物として認識することで活性化され、非細菌性の慢性炎症が生じることがある。このようなマクロファージについて、形質を制御する技術が研究されており、所定の凹凸パターンを有する細胞培養基材を用いることでマクロファージを一定の形質に誘導する技術が報告されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のとおり、マクロファージの形質を制御する技術が報告されているが、この技術は細胞培養基材上でマクロファージを一定の形質に誘導する技術であり、上述した生体内に移植された医療機器に対する炎症の発生のような問題を解決するものではない。このため、様々な用途に適用できるマクロファージの炎症制御技術が求められていた。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、多くの用途に適用可能なマクロファージによる炎症を制御する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、多くの用途に適用可能なマクロファージによる炎症を制御する技術について種々検討したところ、主鎖にテトラヒドロフラン環を有する繰り返し単位を有する重合体が抗炎症性のM2マクロファージを増加させる作用を有することを見出し、この作用を利用することで様々な用途においてマクロファージによる炎症を制御することが可能となることを見出し、本発明に到達したものである。
【0008】
すなわち本発明は、下記一般式(1);
【0009】
【0010】
(式中、Zは、水素原子、1~6価の炭素数1~24の有機基、金属原子、又は、アンモニウム基を表す。)で表される繰り返し単位を有することを特徴とする炎症制御材料である。
【0011】
上記一般式(1)のZにおける炭素数1~24の有機基は、炭素数1~24の炭化水素基、鎖状エーテル構造含有基、環状エーテル構造含有基のいずれかであることが好ましい。
【0012】
本発明はまた、下記一般式(1);
【0013】
【0014】
(式中、Zは、水素原子、1~6価の炭素数1~24の有機基、金属原子、又は、アンモニウム基を表す。)で表される繰り返し単位を有する炎症制御材料を用いて炎症を制御する方法でもある。
【発明の効果】
【0015】
本発明の炎症制御材料は、抗炎症性のM2マクロファージを増加させる作用を有し、これによりマクロファージによる炎症性を制御することができる有用な材料である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0017】
本発明の炎症制御材料は、上記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する重合体(以下、重合体Aとも記載する)を含むことを特徴とする。
このような繰り返し単位を有する重合体Aが抗炎症性のM2マクロファージを増加させる作用を有する理由は明らかではないが、重合体Aの構造および官能基に起因する細胞への直接的な接触刺激、もしくは間接的な材料表面の吸着タンパク質を介した刺激がマクロファージに伝わっているものと推定される。
【0018】
上記重合体Aは、上記一般式(1)で表される繰り返し単位を構造中に複数有するが、当該複数の繰り返し単位におけるZは、同一であってもよく、異なっていてもよい。また、炎症制御材料は、上記一般式(1)で表される繰り返し単位のみからなるものであってもよく、一般式(1)で表される繰り返し単位以外の他の繰り返し単位を有していてもよい。
【0019】
上記一般式(1)中、Zは、水素原子、1~6価の炭素数1~24の有機基、金属原子、又は、アンモニウム基を表す。Zが、2~6価の炭素数1~24の有機基である場合、一般式(1)で表される繰り返し単位が炭素数1~24の有機基を介して1~5個の別の構造と結合していることになる。そのような場合としては、2~6個の一般式(1)で表される繰り返し単位を有する重合鎖がZを介して結合している場合が挙げられる。この場合、重合体Aは、主鎖にTHF環構造を有する複数の重合鎖が-CO-O-Z(-O-CO-)n1(n1は、1~5の数である。)で架橋した構造のものとなる。
Zが2~6価の炭素数1~24の有機基である場合の重合体が、2~6個の一般式(1)で表される繰り返し単位を有する重合鎖がZを介して結合している構造のみからなるとすると、重合体Aは、下記一般式(2);
【0020】
【0021】
(式中、Zは、一般式(1)と同様である。nは、1~6の数を表す。)の繰り返し単位を有する重合体と表すこともできる。
式(2)におけるnが2~6である場合、Zは、2~6価の炭素数1~24の有機基であり、Zの有機基の価数は、nの数と同じである。
【0022】
上記一般式(1)において、Zは-CO-O-Zが親水性基となるようなZが好ましく、そのようなZとしては、水素原子、1~6価の炭素数1~24の親水性有機基、金属原子、アンモニウム基が挙げられる。
有機基の価数は、好ましくは1~3価であり、さらに好ましくは、1~2価であり、最も好ましくは1価である。
【0023】
上記一般式(1)において、Zが1~6価の有機基である場合、有機基の炭素数は1~24であるが、炭素数は1~12であることが好ましい。より好ましくは、1~6であり、更に好ましくは、3~5である。
また、有機基としては、置換基を有していてもよい炭化水素基が挙げられ、置換基としては有機基Zが親水性となるような置換基が好ましく、そのような置換基としては、アルコキシ基、ヒドロキシ基、シアノ基、アミノ基、アミド基、リン酸構造含有基、スルホン酸構造含有基、4級アンモニウム構造含有基、4級ホスホニウム構造含有基、ベタイン構造含有基等が挙げられる。なお、本発明でいうアルコキシ基は-(OR1)n2-OR2(式中、R1は2価の炭化水素基を表し、R2は水素原子又は1価の環状エーテル構造を含んでいてもよい炭化水素基を表す。n2は、0~15の数を表す。)で表される基を意味する。
上記リン酸構造含有基、スルホン酸構造含有基としては、アルキル基の末端にリン酸構造やスルホン酸構造が結合した基が好ましい。
上記4級アンモニウム構造含有基、4級ホスホニウム構造含有基としては、4級アンモニウム塩や4級ホスホニウム塩のアルキル基又はアリール基の1つから水素原子を除いた基が好ましい。
上記ベタイン構造含有基としては、トリメチルグリシンのメチル基の1つから水素原子を除いた基が好ましい。
【0024】
上記置換基を有していてもよい炭化水素基の具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル等の直鎖又は分岐状の鎖状飽和炭化水素基;メトキシエチル、メトキシエトキシエチル、メトキシエトキシエトキシエチル、3-メトキシブチル、エトキシエチル、エトキシエトキシエチル、フェノキシエチル、フェノキシエトキシエチル等の鎖状飽和炭化水素基の水素原子の一部をアルコキシ基で置き換えたアルコキシ置換鎖状飽和炭化水素基;ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル、ヒドロキシブチル、2,3-ジヒドロキシプロピル等の鎖状飽和炭化水素基の水素原子の一部をヒドロキシ基で置き換えたヒドロキシ置換鎖状飽和炭化水素基;ジメチルアミノエチル、ジエチルアミノエチル等の鎖状飽和炭化水素基の水素原子の一部をアミノ基で置き換えたアミノ置換鎖状飽和炭化水素基;アセトアミドエチル、N-メチルアセトアミドエチル、プロピオアミドエチル、ピロリドニルエチル等の鎖状飽和炭化水素基の水素原子の一部をアミド基で置き換えたアミド置換鎖状飽和炭化水素基;シクロヘキシル、イソボルニル等の脂環式炭化水素基、及びその水素原子の一部をアルコキシ基、ヒドロキシ基やアミノ基で置き換えた脂環式炭化水素基;テトラヒドロフルフリル、テトラヒドロフルフリルオキシエチル、テトラヒドロフルフリルオキシエトキシエチル、テトラヒドロピラニル、ジオキサニル等の脂環式炭化水素基の炭素原子を酸素原子で置き換えた環状エーテル構造を有する環状エーテル構造含有基;フェニル、ベンジル、ナフチル等の芳香族炭化水素基、及びその水素原子の一部をアルコキシ基、ヒドロキシ基やアミノ基で置き換えた芳香族炭化水素基;これらの炭化水素基を2つ以上組み合わせたもの等が挙げられる。なお、本発明において、鎖状構造には、直鎖状構造だけでなく、分岐鎖を有する構造も含まれる。
これらの中でも、炭化水素基、アルコキシ置換鎖状飽和炭化水素基、環状エーテル構造含有基のいずれかが好ましい。アルコキシ置換鎖状飽和炭化水素基は、鎖状エーテル構造含有基ともいうことができる。
置換基を有していてもよい2~6価の炭化水素基の具体例としては、上述した置換基を有していてもよい1価の炭化水素基の炭化水素基部分から水素原子を1~5個除去して得られる2~6価の炭化水素基が挙げられる。
【0025】
上記一般式(1)において、Zが金属原子である場合、金属原子としては、典型金属原子が好ましく、リチウム、ナトリウム、カリウム等の周期表第1族の金属原子;マグネシウム、カルシウム、バリウム等の周期表第2族の金属原子、亜鉛、アルミニウム等の周期表第12および第13族の金属原子が挙げられる。
【0026】
上記一般式(1)において、Zは-CO-O-Zが親水性基となるようなZが好ましく、中でも、水素原子、炭化水素基、鎖状エーテル構造含有基、環状エーテル構造含有基が好ましい。このため、一般式(1)におけるZが、水素原子、炭化水素基、鎖状エーテル構造含有基、環状エーテル構造含有基のいずれかであることは、本発明の好適な実施形態の1つである。
環状エーテル構造としては、1,3-プロピレンオキシド環、テトラヒドロフラン環、テトラヒドロピラン環、1,4-ジオキサン環、12-クラウン-4環、ベンゾ-12-クラウン-4環、15-クラウン-5環、18-クラウン-6環等の炭素数3~20の環状エーテル構造が好ましい。
【0027】
上記一般式(1)におけるZが炭素数1~24の1価の鎖状エーテル構造含有基(アルコキシ置換鎖状飽和炭化水素基)である場合の上記一般式(1)で表される繰り返し単位は、下記一般式(3);
【0028】
【0029】
(式中、R3は、同一又は異なって、炭素数2~8の2価の炭化水素基を表す。R4は、水素原子、又は、環状エーテル構造を含んでいてもよい炭化水素基を表す。mは、1~12の数を表す。R4とm個のR3とに含まれる炭素数の合計は24以下である。)で表される構造であることが好ましい。
上記重合体Aが、一般式(3)で表される繰り返し単位を有することは、本発明の好適な実施形態の1つである。
上記一般式(3)におけるR3の炭化水素基の炭素数は、2~4が好ましく、より好ましくは、2~3である。R3の炭化水素基としては、アルキレン基が好ましい。
上記一般式(3)におけるR4の環状エーテル構造を含んでいてもよい炭化水素基の炭素数は、1~8が好ましく、より好ましくは、1~6である。R4の炭化水素基としては、アルキル基、環状エーテル構造含有基、芳香族基のいずれかが好ましい。
上記一般式(3)におけるmは、1~10であることが好ましい。より好ましくは、1~5である。
上記一般式(3)におけるR4が環状エーテル構造を含む炭化水素基である場合の一般式(3)で表される繰り返し単位の具体例としては、例えば、下記一般式(4)で表される繰り返し単位が挙げられる。
【0030】
【化5】
(式中、mは、一般式(3)と同様である。)
【0031】
上記重合体Aは、一般式(1)で表される繰り返し単位を有する重合体が形成されることになる限り、原料となる単量体は特に制限されないが、下記一般式(5);
【0032】
【0033】
(式中、Zは、一般式(1)と同様である。)で表されるα-アリルオキシメチルアクリレート類を単量体として用い、環化重合で製造されることが好ましい。このような方法を用いると、重合体Aを効率的に製造することができる。
一般式(5)におけるZの構造の具体例や好ましい構造は、一般式(1)におけるZと同様である。
【0034】
上記一般式(5)において、Zが1~6価の炭素数1~24の有機基である場合、一般式(5)で表されるα-アリルオキシメチルアクリレート類は、α-アリルオキシメチルアクリル酸又はそのエステルと炭素数1~24の有機基を有する1~6価のアルコールとの脱水反応又はエステル交換反応により得ることができる。
また上記一般式(5)において、Zが金属原子、又は、アンモニウム基である場合、一般式(5)で表されるα-アリルオキシメチルアクリレート類は、α-アリルオキシメチルアクリル酸と金属水酸化物やアンモニウム化合物との中和反応や、α-アリルオキシメチルアクリル酸エステルの加水分解反応により得ることができる。
【0035】
上記一般式(5)におけるZが1~6価の炭化水素基である場合、一般式(5)で表されるα-アリルオキシメチルアクリレート類を製造するために使用できる1~6価のアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、テトラヒドロフルフリルアルコール等の炭素数1~24の環状エーテル構造を含んでいてもよい炭化水素基を有する1価アルコール、又は、環状エーテル構造を含んでいてもよい炭化水素基を有する1価アルコールにエチレンオキシド、プロピレンオキシド等のアルキレンオキシドを付加したもの;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等の炭素数1~24の環状エーテル構造を含んでいてもよい炭化水素基を有する2価アルコール、又は、環状エーテル構造を含んでいてもよい炭化水素基を有する2価アルコールにエチレンオキシド、プロピレンオキシド等のアルキレンオキシドを付加したもの;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等の炭素数1~24の環状エーテル構造を含んでいてもよい炭化水素基を有する3価アルコール、又は、環状エーテル構造を含んでいてもよい炭化水素基を有する3価アルコールにエチレンオキシド、プロピレンオキシド等のアルキレンオキシドを付加したもの;エリスリトール、ペンタエリスリトール等の炭素数1~24の環状エーテル構造を含んでいてもよい炭化水素基を有する4価アルコール、又は、環状エーテル構造を含んでいてもよい炭化水素基を有する4価アルコールにエチレンオキシド、プロピレンオキシド等のアルキレンオキシドを付加したもの;アラビトール、キシリトール等の炭素数1~24の環状エーテル構造を含んでいてもよい炭化水素基を有する5価アルコール、又は、環状エーテル構造を含んでいてもよい炭化水素基を有する5価アルコールにエチレンオキシド、プロピレンオキシド等のアルキレンオキシドを付加したもの;ソルビトール、ジペンタエリスリトール等の炭素数1~24の環状エーテル構造を含んでいてもよい炭化水素基を有する6価アルコール、又は、環状エーテル構造を含んでいてもよい炭化水素基を有する6価アルコールにエチレンオキシド、プロピレンオキシド等のアルキレンオキシドを付加したもの等が挙げられる。
上記炭化水素基としては、直鎖、分岐、環状のいずれの炭化水素基であってもよく、置換基を有していてもよい。置換基としては、アルコキシ基、ヒドロキシ基、シアノ基、アミノ基、アミド基等が挙げられる。
【0036】
上記一般式(5)で表される化合物のうち、Zが水素原子、又は、1価の置換基を有していてもよい炭化水素基である化合物の具体例としては、α-アリルオキシメチルアクリル酸、α-アリルオキシメチルアクリル酸メチル、α-アリルオキシメチルアクリル酸エチル、α-アリルオキシメチルアクリル酸n-プロピル、α-アリルオキシメチルアクリル酸i-プロピル、α-アリルオキシメチルアクリル酸n-ブチル、α-アリルオキシメチルアクリル酸s-ブチル、α-アリルオキシメチルアクリル酸t-ブチル、α-アリルオキシメチルアクリル酸n-ヘキシル、α-アリルオキシメチルアクリル酸2-エチルヘキシル、α-アリルオキシメチルアクリル酸メトキシエチル、α-アリルオキシメチルアクリル酸メトキシエトキシエチル、α-アリルオキシメチルアクリル酸メトキシエトキシエトキシエチル、α-アリルオキシメチルアクリル酸3-メトキシブチル、α-アリルオキシメチルアクリル酸エトキシエチル、α-アリルオキシメチルアクリル酸エトキシエトキシエチル、α-アリルオキシメチルアクリル酸フェノキシエチル、α-アリルオキシメチルアクリル酸フェノキシエトキシエチル、α-アリルオキシメチルアクリル酸ヒドロキシエチル、α-アリルオキシメチルアクリル酸ヒドロキシプロピル、α-アリルオキシメチルアクリル酸ヒドロキシブチル、α-アリルオキシメチルアクリル酸2,3-ジヒドロキシプロピル、α-アリルオキシメチルアクリル酸ジメチルアミノエチル、α-アリルオキシメチルアクリル酸ジエチルアミノエチル、α-アリルオキシメチルアクリル酸アセトアミドエチル、α-アリルオキシメチルアクリル酸N-メチルアセトアミドエチル、α-アリルオキシメチルアクリル酸プロピオアミドエチル、α-アリルオキシメチルアクリル酸ピロリドニルエチル、α-アリルオキシメチルアクリル酸シクロヘキシル、α-アリルオキシメチルアクリル酸イソボルニル、α-アリルオキシメチルアクリル酸テトラヒドロフルフリル、α-アリルオキシメチルアクリル酸テトラヒドロフルフリルオキシエチル、α-アリルオキシメチルアクリル酸テトラヒドロフルフリルオキシエトキシエチル、α-アリルオキシメチルアクリル酸テトラヒドロピラニル、α-アリルオキシメチルアクリル酸(5-メチル-5-m-ジオキサニル)メチル、α-アリルオキシメチルアクリル酸フェニル、α-アリルオキシメチルアクリル酸ベンジル、α-アリルオキシメチルアクリル酸ナフチル等が挙げられる。
【0037】
上記重合体Aは、一般式(1)で表される繰り返し単位のみからなる重合体であってもよく、一般式(1)で表される繰り返し単位以外の他の単量体由来の繰り返し単位を有する共重合体であってもよい。
重合体Aが一般式(1)で表される繰り返し単位以外の他の単量体由来の繰り返し単位を有する共重合体である場合、他の単量体は、特に制限されないが、置換基を有していてもよい炭素数1~24のビニル基含有化合物が好ましい。置換基としては、一般式(1)のZにおける置換基と同様、アルコキシ基、ヒドロキシ基、シアノ基、アミノ基、アミド基、リン酸構造含有基、スルホン酸構造含有基、4級アンモニウム構造含有基、4級ホスホニウム構造含有基、ベタイン構造含有基等が挙げられる。
上記重合体Aが、一般式(1)で表される繰り返し単位以外の他の単量体由来の繰り返し単位を有するものである場合、他の単量体由来の繰り返し単位は1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0038】
上記他の単量体の具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸i-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸s-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-アミル、(メタ)アクリル酸s-アミル、(メタ)アクリル酸t-アミル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸の直鎖、分岐又は環状アルキルエステル;(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル等の(メタ)アクリル酸の芳香族エステル;(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸トリシクロデカニル等の(メタ)アクリル酸の多環式アルキルエステル;(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2,3-ジヒドロキシプロピル等の(メタ)アクリル酸のヒドロキシ置換アルキルエステル;(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル等の(メタ)アクリル酸のアルコキシ置換アルキルエステル;(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸β-メチルグリシジル、(メタ)アクリル酸β-エチルグリシジル、(メタ)アクリル酸(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル等の(メタ)アクリル酸の複素環を有する鎖状又は環状アルキルエステル;(メタ)アクリル酸N,N-ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N-ジエチルアミノエチル等の(メタ)アクリル酸のアミノ置換アルキルエステル;(メタ)アクリル酸アセトアミドエチル、(メタ)アクリル酸N-メチルアセトアミドエチル、(メタ)アクリル酸ピロリドニルエチル等の(メタ)アクリル酸のアミド置換アルキルエステル;
【0039】
N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、けい皮酸、ビニル安息香酸等の不飽和モノカルボン酸類;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸等の不飽和多価カルボン酸類;コハク酸モノ(2-アクリロイルオキシエチル)、コハク酸モノ(2-メタクリロイルオキシエチル)等の不飽和基とカルボキシル基の間が鎖延長されている不飽和モノカルボン酸類;無水マレイン酸、無水イタコン酸などの不飽和酸無水物類;スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、メトキシスチレン等の芳香族ビニル類;メチルマレイミド、エチルマレイミド、イソプロピルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド、フェニルマレイミド、ベンジルマレイミド、ナフチルマレイミドなどのN置換マレイミド類;ポリスチレン、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリシロキサン、ポリカプロラクトン、ポリカプロラクタム等の重合体分子鎖の片末端に(メタ)アクリロイル基を有するマクロモノマー類;1,3-ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等の共役ジエン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル、n-ノニルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル、エトキシエチルビニルエーテル、メトキシエトキシエチルビニルエーテル、メトキシポリエチレングリコールビニルエーテル、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルイミダゾール、N-ビニルモルフォリン、N-ビニルアセトアミド等のN-ビニル化合物類;(メタ)アクリル酸イソシアナトエチル、アリルイソシアネート等の不飽和イソシアネート類などが挙げられる。
また、必要に応じて、他の単量体として多価(メタ)アクリル酸エステルなどの多価ビニル基含有化合物を用いてもよい。多価ビニル基含有化合物を用いると、容易に不溶化できる。
【0040】
上記他の単量体としては、上述したものの中でも、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド類、不飽和モノカルボン酸類、不飽和多価カルボン酸類、不飽和酸無水物類、芳香族ビニル類、N-ビニル化合物類のいずれかが好ましい。より好ましくは、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド類、不飽和モノカルボン酸類、不飽和多価カルボン酸類、不飽和酸無水物類、N-ビニル化合物類のいずれかである。
【0041】
上記重合体Aにおける一般式(1)で表される繰り返し単位の割合は、重合体Aを構成する全繰り返し単位100重量部に対して、10~100重量部であることが好ましい。より好ましくは、20~100重量部であり、更に好ましくは、30~100重量部、最も好ましくは40~100重量部である。
【0042】
上記重合体Aを可溶性重合体とする場合の重量平均分子量は、3000~1000000であることが好ましい。重量平均分子量がこのような範囲であると、取扱い性が良好で且つ生体に対する安全性が高い。より好ましくは、4000~600000であり、更に好ましくは、5000~400000である。
重合体Aの重量平均分子量は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0043】
上記重合体Aのガラス転移温度(Tg)は、-40~100℃であることが好ましい。ガラス転移温度がこのような範囲であると、取扱い・加工性が良好で且つ優れた生体適合性を発現し易い。重合体AのTgは、より好ましくは、-35~80℃であり、更に好ましくは、-30~60℃である。
重合体AのTgは、JIS K7121に準拠し、下記の示差走査熱量計及び条件で測定し、中点法により求めることができる。
・装置:DSC3100(ブルカー・エイエックスエス(株)製)
・昇温速度10℃/分
・窒素フロー50mL/分
【0044】
上記重合体Aの重合方法としては、バルク重合、溶液重合、乳化重合等、公知の重合方法のいずれを用いてもよく、目的、用途に応じて適宜選択すればよいが、分子量等の構造調整も容易である点で溶液重合が好ましい。重合機構としては、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合、配位重合等、公知の機構に基づいた重合方法を用いることができるが、ラジカル重合機構に基づく重合方法が、環化率(一般式(3)で表される単量体から式(1)で表される構成単位が生成する割合)が高く、また工業的にも有利であるため、好ましい。
【0045】
上記重合体Aを製造する際の重合開始方法は特に制限されず、公知の方法のいずれも用いることができるが、熱や電磁波(赤外線、紫外線、X線等)、電子線等のエネルギー源から重合開始に必要なエネルギーを単量体成分に供給すればよく、さらに重合開始剤を併用すれば重合開始に必要なエネルギーを大きく下げることができ、かつ反応制御が容易となり好ましい。
【0046】
分子量の制御方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、重合開始剤の量や種類、重合温度、連鎖移動剤の種類や量の調整などにより制御できる。
【0047】
上記重合体Aの原料となる単量体成分を溶液重合法により重合する場合、重合に使用する溶媒としては、重合反応に不活性なものであれば特に限定されるものではなく、重合機構、使用する単量体の種類や量、重合温度、重合濃度等の重合条件に応じて適宜設定すればよい。溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、s-ブタノール等のモノアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類;テトラヒドロフラン,ジオキサン等の環状エーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、3-メトキシブタノール等のグリコールモノエーテル類;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル等のグリコールエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、3-メトキシブチルアセテート等のグリコールモノエーテルのエステル類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-メトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル等のアルキルエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類、水等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0048】
上記溶媒の使用量としては、全単量体成分100重量部に対して、40~1000重量部が好ましく、100~400重量部がより好ましい。
【0049】
上記単量体成分をラジカル重合機構により重合する場合、熱によりラジカルを発生する重合開始剤を併用するのが工業的に有利で好ましい。そのような重合開始剤としては、熱エネルギーを供給することによりラジカルを発生するものであれば特に限定されるものではなく、重合温度や溶媒、重合させる単量体の種類等の重合条件に応じて、適宜選択すればよい。
重合開始剤としては、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、アゾビスイソブチロニトリル、1,1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、過酸化水素、過硫酸塩等、公知の過酸化物やアゾ化合物等が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。また、重合開始剤とともに遷移金属塩やアミン類などの還元剤を併用してもよい。
【0050】
重合開始剤の使用量は、使用する単量体の種類や量、重合温度、重合濃度等の重合条件、目標とする重合体の分子量等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、重量平均分子量が数千~数万の重合体を得るには、全単量体成分100重量部に対して、0.1~20重量部が好ましく、0.5~15重量部がより好ましい。
【0051】
上記単量体成分をラジカル重合機構により重合する場合、必要に応じて、公知の連鎖移動剤を使用してもよく、ラジカル重合開始剤と併用するのがより好ましい。重合時に連鎖移動剤を使用すると、分子量分布の増大やゲル化を抑制できる傾向にある。このような連鎖移動剤としては、具体的には、例えば、メルカプト酢酸、3-メルカプトプロピオン酸等のメルカプトカルボン酸類;メルカプト酢酸メチル、3-メルカプトプロピオン酸メチル、3-メルカプトプロピオン酸2-エチルヘキシル、3-メルカプトプロピオン酸n-オクチル、3-メルカプトプロピオン酸メトキシブチル、3-メルカプトプロピオン酸ステアリル、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)等のメルカプトカルボン酸エステル類;エチルメルカプタン、t-ブチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、1,2-ジメルカプトエタン等のアルキルメルカプタン類;2-メルカプトエタノール、4-メルカプト-1-ブタノール等のメルカプトアルコール類;ベンゼンチオール、m-トルエンチオール、p-トルエンチオール、2-ナフタレンチオール等の芳香族メルカプタン類;トリス〔(3-メルカプトプロピオニロキシ)-エチル〕イソシアヌレート等のメルカプトイソシアヌレート類;2-ヒドロキシエチルジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド等のジスルフィド類;ベンジルジエチルジチオカルバメート等のジチオカルバメート類;α-メチルスチレンダイマー等の単量体ダイマー類;四臭化炭素等のハロゲン化アルキル類などが挙げられる。これらの中では、入手性、架橋防止能、重合速度低下の度合いが小さいなどの点で、メルカプトカルボン酸類、メルカプトカルボン酸エステル類、アルキルメルカプタン類、メルカプトアルコール類、芳香族メルカプタン類;メルカプトイソシアヌレート類などのメルカプト基を有する化合物が好ましい。これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0052】
上記連鎖移動剤の使用量は、使用する単量体の種類や量、重合温度、重合濃度等の重合条件、目標とする重合体の分子量等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、重量平均分子量が数千~数万の重合体を得るには、全単量体成分100重量部に対して、0.1~20重量部が好ましく、0.5~15重量部がより好ましい。
【0053】
上記単量体成分をラジカル重合機構により、熱によりラジカルを発生する重合開始剤を用いて重合する際の重合温度としては、使用する単量体の種類や量、重合開始剤の種類や量等に応じて適宜設定すればよいが、40~200℃が好ましく、60~150℃がより好ましい。
【0054】
上記重合体Aを製造する方法は、原料となる単量体成分を重合する工程以外の他の工程を含んでいてもよい。単量体成分を重合する工程以外の工程としては、公知の重合体の製造方法で行われる工程が挙げられ、例えば、再沈殿や分液、ろ過、透析などの精製工程、溶媒の除去或いは追加による重合体の濃度を調整する工程などを必要に応じ用いることができる。
【0055】
本発明の炎症制御材料は上記重合体Aを含むことを特徴とし、重合体Aのみからなるものであってもよいが、医療用具等に加工することを容易にする観点から、上記重合体A以外に溶剤や分散媒を含んでいてもよい。溶剤としては例えば、上記溶液重合法で重合する場合に用いる溶媒が挙げられる。分散媒としては例えば、乳化重合法で重合する場合に用いる水が挙げられる。
【0056】
本発明の炎症制御材料は、炎症性M1タイプのマクロファージに接触した場合に抗炎症性のM2タイプのマクロファージを産出させることができる特性を有し、これによりマクロファージの炎症性を制御することができる。このような、上記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する炎症制御材料を用いて炎症を制御する方法もまた、本発明の1つである。
本発明の炎症制御材料の使用方法は特に制限されず、マクロファージの炎症制御が求められる部材を本発明の炎症制御材料を用いて製造してもよく、本発明の炎症制御材料を医療機器等の他の材料でできた部材の表面処理材として使用してもよい。また、本発明の炎症制御材料をマクロファージの活性化制御用の細胞培養基材として使用してもよく、本発明の炎症制御材料を微粒子化し、マクロファージに取り込ませてマクロファージの形質を制御するマクロファージ活性化剤や、他の薬剤と組み合わせた添加剤や担体として使用することもできる。
このような、本発明の炎症制御材料を用いてなる炎症制御部材であって、該炎症制御部材は、マクロファージの炎症制御が求められる部分の少なくとも一部が本発明の炎症制御材料を用いて構成される炎症制御部材もまた、本発明の1つであり、本発明の炎症制御材料を用いた表面処理材、炎症制御用の細胞培養基材、炎症制御用添加剤もまた本発明の1つである。
【0057】
本発明の炎症制御材料を用いて他の材料でできた部材の表面処理をする方法としては、部材の表面を炎症制御材料でコーティングする方法、放射線、電子線、紫外線等の活性エネルギー線によるグラフト重合を利用して部材の表面と炎症制御材料とを結合させる方法、部材の表面の官能基と炎症制御材料とを反応させて結合させる方法等、種々の方法を用いることができる。コーティング法を用いる場合、炎症制御材料をコーティングする方法として、塗布法、スプレー法、ディップ法等のいずれの方法を用いてもよい。
【0058】
本発明の炎症制御材料を用いてマクロファージの炎症制御が求められる部材を製造する場合や本発明の炎症制御材料を用いて他の材料でできた部材の表面処理をする場合、当該部材のうち、マクロファージの炎症制御が求められる部分の50%以上(面積比)が本発明の炎症制御材料を用いて構成されていることが好ましい。より好ましくは、80%以上が本発明の炎症制御材料を用いて構成されていることであり、さらに好ましくは90%以上であり、最も好ましくは100%である。
【0059】
本発明の炎症制御材料で表面処理をする部材の材質は特に制限されず、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ハロゲン化ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアミド、アクリル樹脂、スチロール樹脂、シリコン樹脂等の樹脂系材料;チタン、ステンレスなどの金属系材料;ガラス、ハイドロキシアパタイト等の無機系材料;のいずれの材質のものであってもよい。
【0060】
本発明の炎症制御材料を用いて炎症制御用の細胞培養基材を製造する場合、炎症制御材料をそのまま用いてもよく、所定の基材上にコーティングして用いてもよい。
基材の材質は特に制限されず、木綿、麻等の天然高分子、ポリエステル、ナイロン、オレフィン、ポリアミド、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリ(メタ)アクリレート等の合成高分子等を用いることができる。
基材の形態も特に制限されず、成形体、繊維、不織布、多孔質体、粒子、フィルム、シート、チューブ、中空糸や粉末等のいずれの形態でもよい。
【0061】
本発明の炎症制御材料は、マクロファージ活性化剤やマクロファージ活性化培養用の培養基材等として適用することができる。
【実施例】
【0062】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0063】
<単量体の合成>
[合成例1] α-アリルオキシメチルアクリル酸メトキシエチル(AOMA-ME)の合成
撹拌子を入れた反応容器にガス導入管、温度計、冷却管および留出液受器に繋げたトの字管を付し、2-メトキシエタノール220g、α-アリルオキシメチルアクリル酸メチル(AOMA-M)90g、シクロヘキサン150gを仕込み、ガス導入管を通して酸素/窒素混合ガス(酸素濃度7%)を吹き込みながら反応溶液を攪拌し、オイルバス(バス温100℃)で加熱を開始した。留出液に水が出てこなくなってから、チタンテトライソプロポキシド1.5gを反応容器に添加し、エステル交換反応を開始させた。生成してくるメタノールをシクロヘキサンで共沸留去しながら、ガスクロマトグラフィ(GC)分析によりAOMA-ME/AOMA-Mの面積比を追跡した。GC分析でAOMA-ME/AOMA-Mの面積比が9/1を超えるまで、3時間おきにチタンテトライソプロポキシド1.5gとシクロヘキサン25gを追加した。減圧してシクロヘキサンを除去してから、室温まで冷却した。5%硫酸80gと抽出溶媒としてn-ヘキサンを加え、分液漏斗に移し、有機層と水層を分離した。有機層に合成吸着剤キョーワード300(協和化学工業社製)を10g添加して撹拌した後、濾過して得た濾液を蒸留精製することにより、AOMA-ME(沸点:104~108℃/0.8~0.9kPa)を84g得た。
【0064】
[合成例2] α-アリルオキシメチルアクリル酸テトラヒドロフルフリル(AOMA-THF)の合成
撹拌子を入れた反応容器にガス導入管、温度計、冷却管および留出液受器に繋げたトの字管を付し、テトラヒドロフルフリルアルコール125g、AOMA-M40g、シクロヘキサン80gを仕込み、ガス導入管を通して酸素/窒素混合ガス(酸素濃度7%)を吹き込みながら反応溶液を攪拌し、オイルバス(バス温100℃)で加熱を開始した。留出液に水が出てこなくなってから、チタンテトライソプロポキシド0.8gを反応容器に添加しエステル交換反応を開始させた。生成してくるメタノールをシクロヘキサンで共沸留去しながら、GC分析によりAOMA-THF/AOMA-Mの面積比を追跡した。GC分析でAOMA-THF/AOMA-Mの面積比が9/1を超えるまで、3時間おきにチタンテトライソプロポキシド0.8gとシクロヘキサン15gを追加した。減圧してシクロヘキサンを除去してから、室温まで冷却した。5%硫酸50gと抽出溶媒としてn-ヘキサンを加え、分液漏斗に移し、有機層と水層を分離した。有機層にキョーワード300を5g添加して撹拌した後、濾過して得た濾液を減圧・加熱してn-ヘキサンと大半のテトラヒドロフルフリルアルコールを除去した。n-ヘキサンとイオン交換水を加えて分液漏斗に移し、残存しているジエチレングリコールモノメチルエーテルを水層に移行させ分液した後、有機層からn-ヘキサンを留去してAOMA-THFを40g得た。
【0065】
<重合体の合成および分子量測定・マクロファージ抗炎症性試験>
[実施例1]
攪拌翼、ガス導入管、温度計、冷却管を付した反応容器に、単量体として合成例1で合成したAOMA-ME10.0g、溶媒としてアセトニトリル10.0gを仕込み、窒素ガスを流しながら攪拌、昇温を開始した。内温が70℃で安定したのを確認した後、アゾ系ラジカル重合開始剤0.005g(富士フイルム和光純薬社製、商品名:V-601)を添加し、重合を開始した。内温が69℃~71℃になるよう調整しながら、GC分析によりAOMA-MEの転化率を追跡した。転化率が80%を超えるまで、2時間おきに0.005gのV-601を追加し、重合を続けた。室温まで冷却した後、希釈溶媒としてテトラヒドロフラン、貧溶媒としてn-ヘキサンを用いて再沈殿操作を行い、沈殿物を得た。減圧乾燥器を用いて沈殿物を減圧下80℃で2時間乾燥し、AOMA-MEの単独重合体(P(AOMA-ME))を得た。得られた重合体の重量平均分子量(Mw)を以下のようにして測定した。更に、以下のようにしてマクロファージ細胞培養試験を行い、抗炎症性を評価した。結果を表1に示す。
【0066】
(重量平均分子量の測定)
重合体をテトラヒドロフランで溶解・希釈し孔径0.45μmのフィルターで濾過したものを、下記ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)装置、及び条件で測定した。
・装置:HLC-8320GPC(東ソー社製)
・溶出溶媒:テトラヒドロフラン
・標準物質:標準ポリスチレン(東ソー社製)
・分離カラム:TSKgel SuperH5000,TSKgel SuperH4000,TSKgel SuperH3000(東ソー社製)
【0067】
(マクロファージ抗炎症性試験)
試験を行う材料をそれぞれ、0.2%メタノール溶液として、直径15mmのカバーグラス(松浪硝子工業社製)上にスピンコートによって塗布、乾燥したものを試料とした。得られたポリマーコートカバーグラスを、Costar社製24ウェル細胞培養処理マルチウェルプレートの各ウェルに1枚ずつ、コート面が上になる様に配置した。
マクロファージはマウスC57BL/6n(雌、7週齢)の腹腔から採取し、培養4日後にポリスチレンディッシュ上に接着した細胞を使用した。回収したマクロファージをDMEM培地(5%ウシ血清含有)に懸濁し、0.5×105個/ウェルとなるように、サンプルのカバーグラスを配置した細胞培養プレートに播種し、37℃のインキュベーター内で3時間静置した。続いて培地をアスピレートして未接着細胞を除去した後、大腸菌由来リポ多糖(LPS)10ng/mlを含む新たなDMEM培地を加え、さらにインキュベーター内で24時間培養を行った。
培養後、培地上清を回収し、続いてポリマーコートカバーグラス表面に接着した細胞の数をカウントするため、核染色用色素Hoechst 33342(10μmol/L)を200μl加えて15分間インキュベートして細胞核を染色した。細胞核の数を、蛍光顕微鏡を用いてカウントし、細胞の数とした。また、回収した培地上清中の抗炎症性サイトカインIL-10及び炎症性サイトカインTNF-αの量をELISAキット(R&Dシステムズ社製)を用いてそれぞれ定量し、細胞数で割ることで、細胞1000個当たりのIL-10及びTNF-α産生量を求めた。
【0068】
[実施例2]
実施例1において単量体としてAOMA-MEの代わりに合成例2で合成したAOMA-THF10.0gを用いたこと以外は実施例1と同様にしてP(AOMA-THF)を作製した。得られたP(AOMA-THF)について、実施例1と同様にして分子量測定を行った。また、マクロファージ細胞培養試験を行い、抗炎症性を評価した。結果を表1に示す。
【0069】
[実施例3]
実施例1において単量体としてAOMA-MEの代わりにAOMA-M10.0gを用いたこと以外は実施例1と同様にしてP(AOMA-M)を作製した。得られたP(AOMA-M)について、実施例1と同様にして分子量測定を行った。また、マクロファージ細胞培養試験を行い、抗炎症性を評価した。結果を表1に示す。
【0070】
[比較例1、2]
ポリマーコート処理を行っていないカバーグラスを比較例1、サンプルカバーグラスを配置していないポリスチレンプレートのウェルを比較例2とした。比較例1、2についても実施例1と同様にしてマクロファージ細胞培養試験を行い、抗炎症性を評価した。結果を表1に示す。
【0071】
【0072】
表1の結果から本発明の炎症制御材料は、炎症を促進させるLPSが存在する条件下でも、抗炎症性のM2マクロファージの増加を示す液性因子IL-10を多く産生させる作用を有することが確認された。