IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 四国計測工業株式会社の特許一覧

特許7437189試験装置および有接点リレーの劣化判定方法
<>
  • 特許-試験装置および有接点リレーの劣化判定方法 図1
  • 特許-試験装置および有接点リレーの劣化判定方法 図2
  • 特許-試験装置および有接点リレーの劣化判定方法 図3
  • 特許-試験装置および有接点リレーの劣化判定方法 図4
  • 特許-試験装置および有接点リレーの劣化判定方法 図5
  • 特許-試験装置および有接点リレーの劣化判定方法 図6
  • 特許-試験装置および有接点リレーの劣化判定方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】試験装置および有接点リレーの劣化判定方法
(51)【国際特許分類】
   H01H 47/00 20060101AFI20240215BHJP
【FI】
H01H47/00 E
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020033175
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2021136195
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000180313
【氏名又は名称】四国計測工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(72)【発明者】
【氏名】中井 敦志
(72)【発明者】
【氏名】福田 賢司
【審査官】関 信之
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-230675(JP,A)
【文献】特開2011-210546(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 47/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の有接点リレーと、
前記有接点リレーのコイルに印加する電圧を制御する電圧制御部と、
前記有接点リレーの駆動を制御する駆動制御部と、
前記駆動制御部により前記有接点リレーをオン状態とし、試験対象物に所定の試験電圧または試験電流を印加することで、試験対象物の電気的特性を判定する試験処理部と、
前記駆動制御部が前記有接点リレーをオン状態とするための駆動制御を開始してから前記有接点リレーがオン状態となるまでの動作時間、または、前記駆動制御部が前記有接点リレーをオフ状態にするための駆動制御を開始してから前記有接点リレーがオフ状態となるまでの復帰時間に基づいて、前記有接点リレーの劣化を判定する劣化判定部と、を有し、
前記劣化判定部は、前記電圧制御部に、前記有接点リレーの劣化を判定する場合の劣化判定電圧として、前記試験電圧よりも低い電圧を印加させる、試験装置。
【請求項2】
前記試験電圧が定格電圧以上の電圧である、請求項1に記載の試験装置。
【請求項3】
前記劣化判定電圧は、前記試験電圧の80%以下の電圧である、請求項1または2に記載の試験装置。
【請求項4】
前記劣化判定部は、前記復帰時間の平均値に対して100μsを超えた有接点リレーを劣化していると判定する、請求項1ないし3のいずれかに記載の試験装置。
【請求項5】
前記劣化判定部は、初期状態の前記動作時間または前記復帰時間と、劣化判定時の前記動作時間または前記復帰時間とを比較することで、前記有接点リレーの劣化を判定する、請求項1ないし4のいずれかに記載の試験装置。
【請求項6】
前記劣化判定部は、復帰動作における前記有接点リレーの最小動作電圧を測定し、劣化判定時の復帰動作の最小動作電圧と初期の復帰動作の最小動作電圧との差が所定の動作閾値以下である場合に、前記有接点リレーが劣化していると判定する、請求項1ないし5のいずれかに記載の試験装置。
【請求項7】
有接点リレーをオン状態とするためのリレー駆動信号を送信してから、前記有接点リレーがオン状態となるまでの動作時間、または、前記有接点リレーをオフ状態とするためのリレー駆動信号を開始してから前記有接点リレーがオフ状態となるまでの復帰時間に基づいて、前記有接点リレーの劣化を判定する場合に、前記有接点リレーに、試験対象物の電気的特性を試験する場合よりも低い電圧を印加する、有接点リレーの劣化判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有接点リレーを用いて電子部品を試験する試験装置であって、有接点リレーの劣化を高い精度で予測することが可能な試験装置、および有接点リレーの劣化判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などのパワーデバイスに代表される半導体素子などの電子部品の電気的特性を試験するための試験装置が知られている(たとえば特許文献1~3参照)。このような試験装置では、試験装置から導出された接触針を半導体素子の電極に接続させて、電気的ストレスを半導体素子に印加し、ストレスによる半導体素子の電気的特性を試験する信頼性試験が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-103984号公報
【文献】特開2015-505472号公報
【文献】特開2000-98000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような試験装置において、電気的ストレスを印加するための機構として、リードリレーや水銀リレーなどの有接点リレーを用いる装置が知られている。有接点リレーは機械的可動部位であり、使用に伴い経年劣化するものであるが、実装される回路により、接点の開閉頻度、接点開閉エネルギー条件、突入電流等の使用条件に伴い大きな差異があるため、接点部位の消耗度合いも異なる。そのため、劣化の度合いには個別差があり、当初のリレー部品寿命回数以前においても、一部の有接点リレーの接点面が劣化などし、有接点リレーの開閉動作が不良となったり、不安定となったり、間欠不良となるものがある。そして、このような不良動作の有接点リレーを使用する場合、不良品デバイスが良品デバイスとして判定されてしまうおそれもある。そのため、有接点リレーの劣化を高精度に判定する技術が所望されている。
【0005】
特許文献3では、試験対象リレーの接点がオン状態からオフする方向へ駆動し、オフ方向駆動直後からリレーのスイッチ接点が電気的にオフするまでのスイッチング特性から、接点が電気的にオフするまでのブレイク時間値を求め、ブレイク時間値とリレー品種の基準ブレイク時間値からの偏差によってリレーの劣化を判定する技術、および、試験対象リレーの接点をオフ状態からオンする方向へ駆動し、オン方向駆動直後から当該リレーのスイッチ接点が電気的にオンするまでのスイッチング特性から、スイッチ接点が電気的にオンするまでのメイク時間値を求め、該メイク時間値と当該リレー品種の基準メイク時間値からの偏差によって当該リレーの劣化を判定する技術が開示されている。しかしながら、特許文献3に記載の発明では、劣化したリレーと正常なリレーとの差が大きく出ない場合があり、劣化したリレーを判定することが困難な場合があった。
【0006】
本発明は、有接点リレーの劣化を高い精度で予測可能な試験装置、および有接点リレーの劣化判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る試験装置は、複数の有接点リレーと、前記有接点リレーのコイルに印加する電圧を制御する電圧制御部と、前記有接点リレーの駆動を制御する駆動制御部と、前記駆動制御部により前記有接点リレーをオン状態とし、試験対象物に所定の試験電圧または試験電流を印加することで、試験対象物の電気的特性を判定する試験処理部と、前記駆動制御部が前記有接点リレーをオン状態とするための駆動制御を開始してから前記有接点リレーがオン状態となるまでの動作時間、または、前記駆動制御部が前記有接点リレーをオフ状態とするための駆動制御を開始してから前記有接点リレーがオフ状態となるまでの復帰時間に基づいて、前記有接点リレーの劣化を判定する劣化判定部と、を有し、前記劣化判定部は、前記電圧制御部に、前記有接点リレーの劣化を判定する場合の劣化判定電圧として、前記試験電圧よりも低い電圧を印加させる。
上記試験装置において、前記試験電圧が定格電圧以上の電圧である構成とすることができる。
上記試験装置において、前記劣化判定電圧は、前記試験電圧の80%以下の電圧である構成とすることができる。
上記試験装置において、前記劣化判定部は、前記復帰時間の平均値に対して100μsを超えた有接点リレーを劣化していると判定する構成とすることができる。
上記試験装置において、前記劣化判定部は、初期状態の前記動作時間または前記復帰時間と、劣化判定時の前記動作時間または前記復帰時間とを比較することで、前記有接点リレーの劣化を判定するように構成することができる。
上記試験装置において、前記劣化判定部は、前記復帰動作における前記有接点リレーの最小動作電圧を測定し、劣化判定時の復帰動作の最小動作電圧と初期の復帰動作の最小動作電圧との差が所定の動作閾値以下である場合に、前記有接点リレーが劣化していると判定する構成とすることができる。
本発明に係る有接点リレーの劣化判定方法は、有接点リレーをオン状態とするためのリレー駆動信号を送信してから、前記有接点リレーがオン状態となるまでの動作時間、または、前記有接点リレーをオフ状態とするためのリレー駆動信号を開始してから前記有接点リレーがオフ状態となるまでの復帰時間に基づいて、前記有接点リレーの劣化を判定する場合に、前記有接点リレーに、試験対象物の電気的特性を試験する場合よりも低い電圧を印加する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、有接点リレーの劣化を高い精度で予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係る試験装置の構成を示すブロック図である。
図2】本実施形態に係るリードリレーの劣化判定方法を説明するための図である。
図3】水平方向に配置したリードリレーに対する動作時間の測定結果の一例を示す図である。
図4】垂直方向に配置したリードリレーに対する動作時間の測定結果の一例を示す図である。
図5】水平方向に配置したリードリレーに対する復帰時間の測定結果の一例を示す図である。
図6】垂直方向に配置したリードリレーに対する復帰時間の測定結果の一例を示す図である。
図7】復帰動作時の最小動作電圧の測定結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る試験装置の実施形態を図に基づいて説明する。なお、本実施形態においては、半導体素子などの電子部品の電気的特性を試験するとともに、有接点リレーの劣化を判定することが可能な試験装置を例示して説明する。また、本実施形態では、有接点リレーとしてリードリレーを例示して説明するが、有接点リレーは特に限定されず、たとえば水銀リレーであってもよい。
【0011】
図1は、本実施形態に係る試験装置1の構成図である。図1に示すように、本実施形態に係る試験装置1は、制御装置10と、トランジスタアレイ20と、リードリレー30と、電源40と、電圧切替回路41と、測定装置50とを有する。なお、図1においては、トランジスタアレイ20に接続する8個のリードリレー30~30のうち30および30のみを図示している。また、以下においては、リードリレー30~30を単にリードリレー30とも称して説明する。
【0012】
制御装置10は、電子部品の電気的特性を試験する。具体的には、制御装置10は、トランジスタアレイ20と電気的に接続しており、トランジスタアレイ20の各トランジスタのオン/オフ状態を制御することで、各リードリレー30のオン/オフ状態を制御し、リードリレー30と接続する電子部品に電気的ストレスを印加することで、電子部品の電気的特性を試験する。特に、本実施形態において、制御装置10は、定格電圧以上の電圧を試験電圧VEとして電子部品に印加することで、電子部品の電気的特性の試験を行う。なお、上記以外の電子部品の試験方法については、公知の方法を用いることができる。
【0013】
また、本実施形態において、制御装置10は、リードリレー30の劣化判定も行う。リードリレー30の劣化を判定する場合、制御装置10は、0V/5Vのパルス信号(リレー制御信号)をトランジスタアレイ20に出力することで、トランジスタアレイ20の各トランジスタのオン/オフ状態を制御し、これにより、各リードリレー30のオン/オフ状態を制御する。なお、パルス信号(リレー制御信号)の周波数は、特に限定されないが、たとえば周波数50Hz~100Hzとすることができる。リードリレー30の通電状態(オン状態/オフ状態)は測定装置50により監視されており、制御装置10は、リードリレー30の通電状態を測定装置50から取得する。そして、制御装置10は、リレー制御信号を出力したタイミングと、測定装置50から取得したリードリレー30の通電状態(オン状態/オフ状態)が変化したタイミングとに基づいて、リードリレー30が劣化しているかを判定する。なお、制御装置10によるリードリレー30の判定方法の詳細については後述する。
【0014】
トランジスタアレイ20は、トランジスタを集合したものであり、複数のリードリレー30とそれぞれ接続されている。制御装置10から出力されたパルス信号はトランジスタアレイ20へと入力されると、トランジスタアレイ20の各トランジスタがオンとなる。これにより、リードリレー30を駆動するための電源40から電力が供給され、リードリレー30のコイルに通電が行われることとなる。なお、本実施形態では、制御装置10により、トランジスタアレイ20のどのトランジスタをオン/オフとするかを制御することが可能となっており、これにより、どのリードリレー30をオン/オフとするかを制御することが可能となっている。本実施形態において、制御装置10は、それぞれのリードリレー30のオン/オフ制御を順次行うことで、各リードリレー30の劣化を順次判定することができる。
【0015】
リードリレー30は、コイルを内蔵し、当該コイルと接続するトランジスタアレイ20のトランジスタがオン状態となると、電源40からの電力がコイルへと供給され、コイルが通電される。そして、コイルが通電した状態になるとコイルの電磁作用によりリードリレー30のリード片が駆動してリード片同士が接触し、リードリレー30の通電状態がオン状態(通電可能な状態)となる。これにより、試験対象の電子部品をリードリレー30と電気的に接続し、リードリレー30に電流や電圧を印加することで、電子部品に電気的ストレスを付与することができる。一方、電子部品への電気的ストレスを停止する場合、リードリレー30に印加される電流や電圧を停止し、その後、トランジスタアレイ20によりトランジスタの通電が遮断され、当該トランジスタと接続するコイルへの通電も遮断される。これにより、リードリレー30の通電状態はオン状態からオフ状態(通電不能な状態)へと切り替わる。
【0016】
測定装置50は、たとえば、電流や電圧を測定するロガーなどの装置である。測定装置50は、図1に示すように、それぞれのリードリレー30と電気的に接続しており、リードリレー30の劣化を判定する場合に、リードリレー30が通電状態であるか否かを判定するための電圧をリードリレー30のリード片に印加することで、各リードリレー30の通電状態(リード片の接触/非接触によるリードリレー30のオン状態/オフ状態)を検出する。そして、測定装置50は、検出したリードリレー30の通電状態を制御装置10へと出力する。
【0017】
また、制御装置10は、リレー制御信号(リードリレー30の通電状態をオン状態とするためのリレーオン信号およびオフ状態とするためのリレーオフ信号)を出力し、検査対象とするリードリレー30の通電状態をオフ状態からオン状態とした後にオン状態からオフ状態へと戻すことで、制御装置10がリレー制御信号(リレーオン信号およびリレーオフ信号)を出力したタイミングと、測定装置50により検出されたリードリレー30の通電状態が変化したタイミングとに基づいて、リードリレー30が劣化しているか否かを判断する。図2は、リードリレー30の劣化の判定方法を説明するための図であり、リレー制御信号の出力と、リードリレー30の通電状態の一例を示している。リードリレー30の通電状態をオフ状態からオン状態へとする場合、まず、制御装置10により、検査対象となるリードリレー30を通電可能とさせるためのリレーオン信号が出力され、検査対象のリードリレー30のコイルに通電が行われ、コイルの電磁作用によりリード片が駆動しリード片同士が接触することで、検査対象のリードリレー30が通電可能な状態となる。また、本実施形態では、制御装置10によりリードリレー30にリードオン信号が出力されると、測定装置50によりリードリレー30のリード片に所定の電圧が印加され、リードリレー30が通電可能となると同時にリードリレー30の通電が行われる。このように、リレーオン信号が出力されてからリードリレー30が通電するまでに一定のタイムラグ(以下、動作時間という)が生じる。たとえば、図2に示す例においては、時刻t1においてリードリレー30のリレーオン信号が出力され、時刻t2においてリードリレー30の通電が開始されているため、動作時間は図2に示す“a”となる。
【0018】
また、リードリレー30の通電状態をオン状態からオフ状態へとする場合、まず、制御装置10により検査対象のリードリレー30を通電不能な状態にするためのリレーオフ信号が出力され、検査対象のリードリレー30のコイルへの通電が遮断され、コイルの電磁作用が喪失する。これにより、リード片同士の接触が解除され、検査対象のリードリレー30の通電状態がオフ状態となる。このように、リレーオフ信号が出力されてからリードリレー30の通電状態がオフ状態となるまでも、一定のタイムラグ(以下、復帰時間という)が生じる。たとえば、図2に示す例においては、時刻t3においてリードリレー30のリレーオフ信号が出力され、時刻t4においてリードリレー30がオフ状態へと変化しているため、復帰時間は“c”となる。
【0019】
動作時間および復帰時間は、リードリレー30の経年劣化に伴い、時間が長くなる傾向にある。そのため、本実施形態において、制御装置10は、後述するように、動作時間または復帰時間が所定の長さ以上である場合に、リードリレー30が劣化していると判定する。そして、制御装置10は、リードリレー30が劣化していると判定した場合には、ユーザにメッセージや警告を表示するなどを行う構成とすることができる。
【0020】
ここで、本実施形態に係る試験装置1では、リードリレー30の劣化を判定する場合に、電子部品の電気的特性を試験する試験電圧VEよりも低い劣化判定電圧VJを用いて、リードリレー30の劣化を判定する。具体的には、劣化判定電圧VJを、試験電圧VEの80%以下の電圧、好ましくは試験電圧VEの70%以下の電圧、より好ましくは試験電圧VEの60%以下の電圧に設定し、リードリレー30の劣化を判定する。なお、劣化判定電圧VJは、トランジスタアレイ20やリードリレー30の最小動作電圧以上とされる。本実施形態では、電子部品の電気的特性を試験する場合には、トランジスタアレイ20における出力飽和電圧や経路損失分を考慮して、定格電圧12Vよりも高い13Vの電圧を試験電圧VEとして用いている。そのため、試験装置1は、リードリレー30の劣化を判定する場合には、試験電圧VEである13Vよりも低い電圧、たとえば10Vや8Vの電圧を劣化判定電圧VJとして用いて、リードリレー30の劣化を判定する。なお、制御装置10は、電源40に接続された電圧切替回路41を制御することで、リードリレー30のコイルに入力される電圧を10Vまたは8Vに切り替えることができる。
【0021】
このように、本実施形態に係る試験装置1では、リードリレー30の劣化を判定する場合に、リードリレー30のコイルに入力される電圧を10Vまたは8Vまで低下させることで、リードリレー30の動作時間および復帰時間を長くすることができ、劣化したリードリレー30と正常なリードリレー30との差を明確にすることができる。以下に、実施例に基づいて、リードリレー30の劣化を判定する場合において、電子部品の電気的特性を試験する場合よりも低い電圧を用いて、リードリレー30の劣化を判定することの効果について説明する。
【実施例
【0022】
本実施例では、制御装置10に代えてファンクジョンジェネレータ(FG120、横河計測株式会社製)を用いてリレー制御信号の出力制御を行った。また、トランジスタアレイ20(TD62083AP、東芝セミコンダクター社製)、リードリレー30(URM-26212GTNB-70、サンユー工業株式会社製)、電源40(P4L36-1、松定プレシジョン株式会社製)、電圧切替回路41としてマルチメータ(34410A、アジレント・テクノロジー株式会社製)を使用した。また、測定装置50としては、ロガーに代えて、オシロスコープ(TPS2024、テクトロニクス社製)を使用した。また、リレー回数をカウントするためのカウンタ(H7EC、オムロン株式会社製)を使用した。なお、リードリレー30は8枚の基板に4個ずつ搭載し、計32個のリードリレー30を用いて試験を行った。
【0023】
また、本実施例では、32個のリードリレー30~3032のうち、リードリレー30~30においては100万回リレーを行った後の動作時間および復帰時間を測定した。同様に、リードリレー30~30は500万回リレーを行った後、リードリレー30~30は1000万回リレーを行った後、リードリレー3010~3012は5000万回リレーを行った後、リードリレー3013~3015は1億回リレーを行った後、リードリレー3016~3018は1億5000万回リレーを行った後、リードリレー3019~3021は2億回リレーを行った後、リードリレー3022~3024は3億回リレーを行った後、リードリレー3025~3027は4億回リレー後、リードリレー3028~3032は5億回リレーを行った後の動作時間および復帰時間を測定した。さらに、リードリレー3022~3032においては6億回リレーを行った後、および、リードリレー3025~3032においては7億回リレーを行った後も動作時間および復帰時間を測定した。なお、本実施例では、別のリードリレーを用いて同条件での測定を2回繰り返し行った。また、本実施例では、リードリレーの動作時間および復帰時間を測定する場合に、リードリレー30を水平面に置いた場合(水平方向)と垂直に立てた場合(垂直方向)との2回で測定を行った。
【0024】
図3は、水平方向に配置したリードリレー30に対する動作時間(リレーオン信号を出力してからリードリレー30の通電が行われるまでのタイムラグ)の測定結果の一例を示すグラフである。また、図3に示すグラフにおいて、(A)はリードリレー30のコイルに印加する劣化判定電圧VJを試験電圧である13Vとした場合の動作時間を、(B)は劣化判定電圧VJを10Vとした場合の動作時間を、(C)は劣化判定電圧VJを8Vとした場合の動作時間を示す。図3に示すように、13Vでリレーを行った(A)と比べて、10Vでリレーを行った(B)の場合では、動作時間が長くなる傾向にあるとともに、動作時間のバラツキが見られた。また、さらに、8Vでリレーを行った(C)では、3億回リレーを起こった程度から、いくつかのリードリレー30において動作時間が1msを超えており、これらのリードリレー30について劣化が進行している可能性が考えられる。また、図4は、垂直方向に配置したリードリレーに対する動作時間の測定結果の一例を示すグラフである。図4においても、図3と同様に、リードリレー30のコイルに印加する劣化判定電圧を、試験電圧よりも低くすることで、動作時間が長くなる傾向にあり、動作時間にバラツキが見られる。また、8Vでリレーを行った(C)では、3億回リレー後から、いくつかのリードリレーにおいて動作時間が1msを超えており、劣化が進んでいることがわかる。そのため、たとえば、制御装置10は、動作時間が1msを超えたリードリレーを劣化していると判定し、判定結果を出力する構成とすることができる。
【0025】
図5は、水平方向に配置したリードリレー30に対する復帰時間(リレーオフ信号を出力してから、リードリレー30が非通電状態となるまでのタイムラグ)の測定結果の一例を示すグラフである。また、図5に示すグラフにおいて、(A)はリードリレー30のコイルに印加する劣化判定電圧VJを試験電圧である13Vとした場合の復帰時間を、(B)は劣化判定電圧VJを10Vとした場合の復帰時間を、(C)は劣化判定電圧VJを8Vとした場合の復帰時間を示す。図5に示すように、正常なリードリレー30(図5に示す劣化しているリードリレー30以外のリードリレー30)では、13Vでリレーを行った(A)と、10Vでリレーを行った(B)とで、復帰時間が長さや復帰時間のバラツキに大きな変化は見られなかった。一方、劣化しているリードリレー30では、図5に示すように、13Vでリレーを行った(A)では、劣化しているリードリレー30と正常なリードリレー30とで復帰時間に大きな差はみられなかったが、10Vでリレーを行った(B)では、劣化しているリードリレー30と正常なリードリレー30とで復帰時間に大きな差が得られた。また、8Vでリレーを行った(C)には、劣化しているリードリレー30と正常なリードリレー30とで復帰時間の差はさらに大きくなった。特に、劣化しているリードリレー30は、10Vでリレーを行った(B)では、復帰時間の平均値との差が100μs程度となり、8Vでリレーを行った(C)では、復帰時間の平均値との差が300μs程度と大きくなり、リレー30のコイルに印加した劣化判定電圧が低いほど正常なリードリレー30との差が大きくなることが分かった。また、図6は、垂直方向に配置したリードリレー30における復帰時間の測定結果の一例を示したグラフである。図6においても、図5と同様に、13Vでリレーを行った(A)では、劣化しているリードリレー30と正常なリードリレーとで復帰時間に大きな差はみられなかったが、10Vでリレーを行った(B)では、劣化しているリードリレー30と正常なリードリレーとで復帰時間と大きな差が得られ、8Vでリレーを行った(C)においは、劣化しているリードリレー30と正常なリードリレーの復帰時間とにより大きな差が得られた。そのため、たとえば、制御装置10は、リードリレー30の復帰時間の平均値に対して、所定の時間(たとえば100μsまたは300μs)を超えたリードリレー30を劣化していると判定し、判定結果を出力する構成とすることができる。
【0026】
以上のように、本実施形態に係る試験装置1では、電子部品の電気的特性を試験する場合の試験電圧VE(定格電圧以上の電圧)よりも低い劣化判定電圧VJを印加して、リードリレー30の劣化を判定することで、劣化しているリードリレー30の判定精度を高めることができる。特に、劣化判定電圧VJは、試験電圧VEの80%以下の電圧が好ましく、試験電圧VEの70%以下の電圧がより好ましく、試験電圧VEの60%以下の電圧がさらに好ましい。このようにリードリレー30の劣化判定を行うことで、たとえば、試験装置1は、劣化判定電圧VJが8Vの場合に動作時間が1msを超えたリードリレー30を劣化していると判定することや、復帰時間の平均値に対して100μsを超えたリードリレー30を劣化していると判定することができる。なお、本実施形態に係る試験装置1では、リードリレー30の劣化を判定する際にリレー30のコイルに印加する劣化判定電圧を変更するだけでリードリレー30の劣化精度を高めることができるため、既存の試験装置1の構成を変更する必要がなく、リードリレー30の劣化判定精度を向上させるためのコストも抑制することができる。また、本実施形態では、劣化の判定精度を高めることができるため、水銀リレーによりも、比較的寿命が短く、劣化判定が重要となる、リードリレーにおいて特に有用であると考えられる。
【0027】
以上、本発明の好ましい実施形態例について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態の記載に限定されるものではない。上記実施形態例には様々な変更・改良を加えることが可能であり、そのような変更または改良を加えた形態のものも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0028】
たとえば、上述した実施形態では、動作時間または復帰時間が所定の長さ以上である場合に、リードリレー30が劣化していると判定する構成を例示したが、この構成に限定されず、リードリレー30の初期状態における動作時間または復帰時間を記憶しておき、初期状態における動作時間または復帰時間と、リードリレー30の劣化判定時における動作時間または復帰時間とを比較することで、リードリレー30が劣化しているかを判定する構成とすることもできる。たとえば、リードリレー30の初期状態における動作時間と劣化判定時における動作時間との差である相対時間が所定の基準時間以上である場合に、リードリレー30が劣化していると判定することができる。たとえば、リードリレー30の初期状態における動作時間が1.0msであり、1年後の劣化判定時における動作時間が2.0msである場合、相対時間は1.0ms(2.0ms-1.0ms=1.0ms)となり、所定の基準時間が0.5msである場合には、相対時間1.0ms>基準時間0.5msのため、劣化していると判定することができる。また、1年後の劣化判定時における動作時間が1.1msである場合には、相対時間は0.1ms(1.1ms-1.0ms=0.1ms)となり、相対時間0.1ms<基準時間0.5msのため、劣化していないと判定することができる。同様に、リードリレー30の初期状態における復帰時間と劣化判定時における復帰時間との差である相対時間が所定の基準時間以上である場合に、リードリレー30が劣化していると判定することもできる。たとえば、リードリレー30の初期状態における復帰時間が1.5msであり、1年後の劣化判定時における動作時間が2.2msである場合、相対時間は0.7ms(2.2ms-1.5ms=0.7ms)となり、所定の基準時間が0.5msである場合には、相対時間0.7ms>基準時間0.5msのため、劣化していると判定することができる。また、1年後の劣化判定時における復帰時間が1.6msである場合には、相対時間は0.1ms(1.6ms-1.5ms=0.1ms)となり、相対時間0.1ms<基準時間0.5msのため、劣化していないと判定することができる。
【0029】
さらに、上述した実施形態では、制御装置10が、リードリレー30の劣化判定に加えて、電子部品の試験に関する制御も行う構成を例示したが、制御装置10が有接点リレーの劣化判定を行い、電子部品の試験に関する制御を別の装置で行う構成としてもよい。また、上述した実施形態では、リードリレー30の劣化判定を行う場合も、電子部品の試験に関する制御を行う場合も、電源40から電力を供給する構成を例示したが、この構成に限定されず、リードリレー30の劣化判定を行う場合と、電子部品の試験に関する制御を行う場合とで異なる電圧の電源を用いる構成としてもよい。この場合、リードリレー30の劣化判定用の電圧と、電子部品試験用の電源を切り替える制御が不要となる。また、本実施形態では、測定装置50によりリードリレー30の通電状態(オン/オフ状態)が検出され、検出結果が制御装置10に出力される構成を例示したが、この構成に限定されず、制御装置10を各リードリレー30と直接接続することで、リードリレー30の通電状態(オン/オフ状態)を直接検出する構成としてもよい。
【0030】
また、上述した実施形態では、電子部品の電気的特性を試験する場合の試験電圧VEとして13Vの電圧を、劣化判定電圧VJとして10Vまたは8Vの電圧を用いる構成を例示したが、この構成に限定されず、劣化判定電圧VJを、試験電圧VEよりも所定値だけ低い電圧とする構成としてもよい。たとえば、試験電圧VEの値に関わらず、劣化判定電圧VJを、試験電圧VEよりも3V以上低い電圧、好ましくは試験電圧VEよりも5V以上低い電圧とすることができる。
【0031】
加えて、上述した実施形態では、トランジスタアレイ20を有する構成を例示したが、この構成に限定されず、各リードリレーに対応するトランジスタやFET(電界効果トランジスタ)を有する構成としてもよい。
【0032】
さらに、上述した実施形態に加えて、オシロスコープなどの電圧値を測定可能な装置をさらに備え、復帰動作時のリードリレー30の最小動作電圧を測定し、最小動作電圧の変化量を加味して、リードリレー30の劣化を判定する構成とすることができる。ここで、図7に、復帰動作時の最小動作電圧の測定結果を、初期と5億回までの所定の回数(100万回、500万回、1000万回、1億回、1億5000万回、2億回、3億回、4億回、5億回)リレーを行った後とで測定した測定結果の一例を示す。なお、図7においては、初期の復帰動作の最小動作電圧値と所定回数リレーを行った後の復帰動作の最小動作電圧値との差(所定回数後の復帰動作の最小動作電圧値-初期の復帰動作の最小動作電圧値)を表示している。また、図7において、(A)は、リードリレー30を水平面に置いた場合(水平方向)の復帰動作の最小動作電圧値の測定結果であり、(B)は、リードリレー30を垂直に立てた場合(垂直方向)の復帰動作の最小動作電圧値の測定結果である。
【0033】
図7に示すように、劣化しているリードリレー30では、正常なリードリレー30と比べて、復帰動作時の最小動作電圧値が、初期よりも所定回数リレーを行った後の方が小さくなることが分かった(初期の復帰動作の最小電圧値と所定回数リレーを行った後の復帰動作の最小電圧値との差がマイナス方向に大きくなることが分かった)。また、水平方向にリードリレーを配置する場合よりも、垂直方向にリードリレーを配置する場合に、所定回数後の復帰動作の最小電圧値と初期の復帰動作の最小電圧値との差が大きくなることが分かった。このことから、制御装置10は、動作時間や復帰時間に加えて、劣化判定時の復帰動作の最小動作電圧と初期の復帰動作の最小動作電圧との差が所定の動作閾値以下である場合に、リードリレー30が劣化していると判定することで、リードリレーの劣化をより高い精度で判定する構成とすることができる。
【符号の説明】
【0034】
1…試験装置
10…制御装置
20…トランジスタアレイ
30…リードリレー
40…電源
41…電圧切替回路
50…測定装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7