(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】無機-有機複合医科材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 6/887 20200101AFI20240215BHJP
A61K 6/849 20200101ALI20240215BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20240215BHJP
A61L 27/02 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
A61K6/887
A61K6/849
A61L27/16
A61L27/02
(21)【出願番号】P 2020050215
(22)【出願日】2020-03-19
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】592093578
【氏名又は名称】サンメディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【氏名又は名称】岡本 寛之
(74)【代理人】
【識別番号】100149607
【氏名又は名称】宇田 新一
(72)【発明者】
【氏名】池田 弘
(72)【発明者】
【氏名】清水 博史
(72)【発明者】
【氏名】上木 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】上田 克明
(72)【発明者】
【氏名】八尾 勉
【審査官】鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/212321(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00-6/90
A61L 27/00-27/60
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連通孔を有する無機物と、前記連通孔内に充填される有機高分子との2相共連続構造を有する無機-有機複合医科材料の製造方法であって、
水酸基含有光重合性モノマーと、ポリオキシアルキレン基含有光重合性モノマーと、アルコール類とを含有する液材を調製する工程と、
前記液材に無機ナノ粒子を分散させる工程と、
前記水酸基含有光重合性モノマーと前記ポリオキシアルキレン基含有光重合性モノマーとを光重合して、前記水酸基含有光重合性モノマーと前記ポリオキシアルキレン基含有光重合性モノマーとのポリマーマトリックスに、前記無機ナノ粒子が分散する粒子分散体を調製する工程と、
前記粒子分散体から前記アルコール類を除去する工程と、
前記アルコール類が除去された前記粒子分散体を焼成して、連通孔を有する無機物を形成する工程と、
前記無機物の前記連通孔に有機高分子を充填する工程と、を含む
ことを特徴とする、無機-有機複合医科材料の製造方法。
【請求項2】
前記液材に無機ナノ粒子を分散させる工程において、前記無機ナノ粒子の分散割合は、前記液材および前記無機ナノ粒子の総和に対して、20質量%以上である
ことを特徴とする、請求項1に記載の無機-有機複合医科材料の製造方法。
【請求項3】
前記液材に無機ナノ粒子を分散させる工程において、前記無機ナノ粒子の分散割合は、前記液材および前記無機ナノ粒子の総和に対して、60質量%以下である
ことを特徴とする、請求項1または2に記載の無機-有機複合医科材料の製造方法。
【請求項4】
前記無機ナノ粒子の平均一次粒子径は、40nm以上である
ことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の無機-有機複合医科材料の製造方法。
【請求項5】
前記無機ナノ粒子は、球形状を有する
ことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の無機-有機複合医科材料の製造方法。
【請求項6】
前記液材における前記水酸基含有光重合性モノマーの含有割合は、前記水酸基含有光重合性モノマーおよび前記ポリオキシアルキレン基含有光重合性モノマーの総和に対して、75質量%以上98質量%以下であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の無機-有機複合医科材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機-有機複合医科材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療において、人体の欠損部位の形態および機能を人工物で補うこと(補綴)が知られている。例えば、歯科治療では、虫歯などにより欠損した歯冠を、歯科材料により修復する。そのような歯科材料として、要求される機械特性を確保すべく、無機材料と有機材料との複合材料が検討されている。
【0003】
しかるに、歯冠を修復する歯科材料は、咬合において、対合歯のエナメル質(天然ヒトエナメル質)と接触する。このとき、歯科材料の硬さがエナメル質よりも小さいと、歯科材料が摩耗(咬耗)し、歯科材料の硬さがエナメル質よりも大きいと、対合歯のエナメル質が摩耗(咬耗)する。そこで、エナメル質と同程度の硬さを有する複合材料が望まれている。
【0004】
そのような複合材料として、例えば、連通孔を有する無機物と、連通孔内に充填される有機高分子との2相共連続構造を有する、無機-有機複合医科材料が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
そのような無機-有機複合医科材料は、無機ナノ粒子および水溶性高分子を分散媒に配合して、無機ナノ粒子を分散媒に分散させて無機粒子分散液を調製した後、無機粒子分散液を乾燥させて、ゲル状の多孔質前駆体を調製し、次いで、多孔質前駆体を焼成して、連通孔を有する無機焼成体を形成し、その後、無機焼成体の連通孔に有機高分子を充填することにより製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の無機-有機複合医科材料の製造方法では、無機-有機複合医科材料の製造効率の向上を図るには限度があり、かつ、無機-有機複合医科材料を所望の形状に形成することが困難である。
【0008】
そこで、本発明は、無機物を所望の形状に形成できながら、無機-有機複合医科材料の製造効率の向上を図ることができる無機-有機複合医科材料の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明[1]は、連通孔を有する無機物と、前記連通孔内に充填される有機高分子との2相共連続構造を有する無機-有機複合医科材料の製造方法であって、水酸基含有光重合性モノマーと、ポリオキシアルキレン基含有光重合性モノマーと、アルコール類とを含有する液材を調製する工程と、前記液材に無機ナノ粒子を分散させる工程と、前記水酸基含有光重合性モノマーと前記ポリオキシアルキレン基含有光重合性モノマーとを光重合して、前記水酸基含有光重合性モノマーと前記ポリオキシアルキレン基含有光重合性モノマーとのポリマーマトリックスに、前記無機ナノ粒子が分散する粒子分散体を調製する工程と、前記粒子分散体から前記アルコール類を除去する工程と、前記アルコール類が除去された前記粒子分散体を焼成して、連通孔を有する無機物を形成する工程と、前記無機物の前記連通孔に有機高分子を充填する工程とを含む、無機-有機複合医科材料の製造方法を含んでいる。
【0010】
このような方法によれば、水酸基含有光重合性モノマーおよびポリオキシアルキレン基含有光重合性モノマー(以下、モノマー成分とする。)と、アルコール類とを含有する液材に、無機ナノ粒子を分散させる。そして、モノマー成分を光重合して、ポリマーマトリックスに無機ナノ粒子が分散する粒子分散体を調製する。そのため、モノマー成分の光重合により、粒子分散体を所望の形状に形成することができる。
【0011】
その後、所望の形状を有する粒子分散体からアルコール類を除去し、その粒子分散体を焼成して、連通孔を有する無機物を形成する。そのため、無機物は、粒子分散体と同じ所望の形状を有する。そして、その無機物の連通孔に有機高分子を充填して、無機-有機複合医科材料を製造する。
【0012】
その結果、無機物を所望の形状に形成できながら、無機-有機複合医科材料の製造効率の向上を図ることができる。
【0013】
本発明[2]は、前記液材に無機ナノ粒子を分散させる工程において、前記無機ナノ粒子の分散割合は、前記液材および前記無機ナノ粒子の総和に対して、20質量%以上である、上記[1]に記載の無機-有機複合医科材料の製造方法を含んでいる。
【0014】
このような方法によれば、無機ナノ粒子の分散割合が上記下限以上であるので、無機物の形成不良を安定して抑制できる。
【0015】
本発明[3]は、前記液材に無機ナノ粒子を分散させる工程において、前記無機ナノ粒子の分散割合は、前記液材および前記無機ナノ粒子の総和に対して、60質量%以下である、上記[1]または[2]に記載の無機-有機複合医科材料の製造方法を含んでいる。
【0016】
このような方法によれば、無機ナノ粒子の分散割合が上記上限以下であるので、粒子分散体を安定して所望の形状に形成できながら、無機物の形成不良をより安定して抑制できる。
【0017】
本発明[4]は、前記無機ナノ粒子の平均一次粒子径は、40nm以上である、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載の無機-有機複合医科材料の製造方法を含んでいる。
【0018】
このような方法によれば、無機ナノ粒子の平均一次粒子径が上記下限以上であるので、液材に無機ナノ粒子を安定して分散させることができ、無機ナノ粒子の分散割合を上記下限以上に安定して調整できる。
【0019】
本発明[5]は、前記無機ナノ粒子は、球形状を有する、上記[1]~[4]のいずれか一項に記載の無機-有機複合医科材料の製造方法を含んでいる。
【0020】
このような方法によれば、無機ナノ粒子が球形状を有するので、粒子分散体の成形性の向上を図ることができる。
【0021】
本発明[6]は、前記液材における前記水酸基含有光重合性モノマーの含有割合は、前記水酸基含有光重合性モノマーおよび前記ポリオキシアルキレン基含有光重合性モノマーの総和に対して、75質量%以上98質量%以下である、上記[1]~[5]のいずれか一項に記載の無機-有機複合医科材料の製造方法を含んでいる。
【0022】
このような方法によれば、水酸基含有光重合性モノマーの含有割合が上記下限以上であるので、無機物の形成不良をより一層安定して抑制できる。また、水酸基含有光重合性モノマーの含有割合が上記上限以下であるので、無機-有機複合医科材料の硬さを所望の範囲に安定して調整できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の無機-有機複合医科材料の製造方法によれば、無機物を所望の形状に形成できながら、無機-有機複合医科材料の製造効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明の無機-有機複合医科材料の製造方法により製造される無機-有機複合医科材料の一実施形態としてのナノコンポジットレジンの平断面模式図を示す。
【
図2】
図2Aは、
図1に示すナノコンポジットレジンの製造方法を説明するための説明図であって、液材に無機ナノ粒子を分散させる工程を示す。
図2Bは、
図2Aに続いて、モノマー成分を光重合して、ポリマーマトリックスに無機ナノ粒子が分散する粒子分散体を調製する工程を示す。
図2Cは、
図2Bに続いて、粒子分散体を焼成して無機物を形成する工程を示す。
図2Dは、
図2Cに続いて、無機物の連通孔に有機高分子を充填する工程を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<無機-有機複合医科材料の製造方法>
図1~
図2Dを参照して、本発明の無機-有機複合医科材料の製造方法の一実施形態としてのナノコンポジットレジン1の製造方法を説明する。
【0026】
図1に示すように、ナノコンポジットレジン1は、連通孔22を有する無機物2と、連通孔22内に充填される有機高分子3との2相共連続構造を有する。ナノコンポジットレジン1において、無機物2および有機高分子3は、それぞれが3次元的に連続している。なお、無機物2および有機高分子3は、互いに相分離していてもよく、グラフト化処理などにより化学的に互いに結合していてもよい。
【0027】
図2A~
図2Dに示すように、ナノコンポジットレジン1の製造方法は、モノマー成分およびアルコール類を含有する液材20を調製する工程と、液材20に無機ナノ粒子23を分散させて無機粒子分散液26を調製する工程と、モノマー成分を光重合して、ポリマーマトリックス25に無機ナノ粒子23が分散する粒子分散体24を調製する工程と、粒子分散体24からアルコール類を除去する工程と、粒子分散体24を焼成して無機物2を形成する工程と、無機物2の連通孔22に有機高分子3を充填する工程と、を順に含む。
【0028】
(1)液材を調製する工程
図2Aに示すように、液材20を調製するには、モノマー成分とアルコール類とを混合する。
【0029】
モノマー成分は、水酸基含有光重合性モノマーと、ポリオキシアルキレン基含有光重合性モノマーとを、少なくとも含有する。
【0030】
モノマー成分が水酸基含有光重合性モノマーを含有すると、無機粒子分散液26の粘度を好適な範囲に調整でき、粒子分散体24を所望の形状に形成できる。モノマー成分がポリオキシアルキレン基含有光重合性モノマーを含有すると、無機物2の形成不良(例えば、亀裂など)を抑制できる。
【0031】
水酸基含有光重合性モノマーは、分子中に、光重合性基と水酸基とを有する。
【0032】
光重合性基は、例えば、水酸基含有光重合性モノマーの分子中において、一方の末端に位置する。
【0033】
光重合性基は、エチレン性不飽和二重結合を含む。光重合性基として、例えば、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミド基、ビニル基、シアン化ビニル基などが挙げられ、好ましくは、(メタ)アクリロイルオキシ基が挙げられる。つまり、水酸基含有光重合性モノマーは、好ましくは、(メタ)アクリロイルオキシ基を含む。なお、(メタ)アクリロイルとは、メタクリロイルおよび/またはアククリロイルを含む。
【0034】
水酸基含有光重合性モノマーにおける光重合性基の官能基数は、例えば、1以上、例えば、4以下、好ましくは、2以下である。
【0035】
水酸基は、例えば、水酸基含有光重合性モノマーの分子中において、水酸基と反対側の末端(他方の末端)に位置する。水酸基含有光重合性モノマーにおける水酸基の官能基数は、例えば、1以上、例えば、4以下、好ましくは、2以下である。
【0036】
水酸基含有光重合性モノマーの分子量は、例えば、70以上、好ましくは、120以上、例えば、500以下、好ましくは、300以下である。
【0037】
水酸基含有光重合性モノマーとして、例えば、水酸基含有モノ(メタ)アクリレート(例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジヒドロキシプロピルモノ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、エリトリトールモノ(メタ)アクリレートなど)、水酸基含有ジ(メタ)アクリレート(例えば、2,2-ビス〔4-(3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン、1,2-ビス〔3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ〕エタン、ペンタエリトリトールジ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ1,3-ジメタクリロキシプロパンなど)、水酸基含有(メタ)アクリルアミド(例えば、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-(ジヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミドなど)などが挙げられる。
【0038】
水酸基含有光重合性モノマーは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0039】
このような水酸基含有光重合性モノマーのなかでは、好ましくは、水酸基含有モノ(メタ)アクリレートが挙げられ、より好ましくは、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが挙げられ、さらに好ましくは、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)が挙げられる。
【0040】
水酸基含有光重合性モノマーの含有割合は、水酸基含有光重合性モノマーおよびポリオキシアルキレン基含有光重合性モノマーの総和に対して、例えば、50.0質量%以上、好ましくは、70.0質量%以上、より好ましくは、75.0質量%以上、さらに駒しくは、80.0質量%以上、例えば、99.5質量%以下、好ましくは、99.0質量%以下、より好ましくは、98.0質量%以下である。
【0041】
水酸基含有光重合性モノマーの含有割合が上記下限以上であると、無機物2の形成不良をより安定して抑制できる。また、水酸基含有光重合性モノマーの含有割合が上記上限以下であると、ナノコンポジットレジン1の硬さを所望の範囲(後述)に安定して調整できる。
【0042】
ポリオキシアルキレン基含有光重合性モノマーは、分子中に、上記した光重合性基と、ポリオキシアルキレン基とを有する。
【0043】
上記した光重合性基は、例えば、水酸基含有光重合性モノマーの分子の両末端の少なくともいずれか一方に位置し、好ましくは、水酸基含有光重合性モノマーの分子の両末端に位置する。ポリオキシアルキレン基含有光重合性モノマーにおける光重合性基の官能基数は、例えば、1以上、好ましくは、2以上、例えば、4以下、好ましくは、3以下である。
【0044】
ポリオキシアルキレン基含有光重合性モノマーが複数の光重合性基を有する場合、複数の光重合性基は、1種の光重合性基のみを有してもよく、2種以上の光重合性基を有してもよい。複数の光重合性基は、好ましくは、1種の光重合性基のみを有する。
【0045】
ポリオキシアルキレン基含有光重合性モノマーが有する光重合性基は、好ましくは、水酸基含有光重合性モノマーが有する光重合性基と同じである。上記した光重合性基のなかでは、好ましくは、(メタ)アクリロイルオキシ基が挙げられる。
【0046】
ポリオキシアルキレン基は、少なくとも2つ連続したオキシアルキレン基である。ポリオキシアルキレン基は、例えば、水酸基含有光重合性モノマーの分子において、光重合性基と連続する。光重合性基が水酸基含有光重合性モノマーの分子の両末端に位置する場合、ポリオキシアルキレン基は、2つの光重合性基の間に位置する。
【0047】
ポリオキシアルキレン基が含むオキシアルキレン基の数は、例えば、2以上、好ましくは、3以上、例えば、9以下、好ましくは、4以下である。
【0048】
オキシアルキレン基として、例えば、炭素数1以上4以下のオキシアルキレン基が挙げられ、好ましくは、オキシエチレン基、オキシプロピレン基が挙げられ、より好ましくは、オキシエチレン基が挙げられる。
【0049】
ポリオキシアルキレン基は、1種のオキシアルキレン基のみを有してもよく、2種以上のオキシアルキレン基を有してもよい。ポリオキシアルキレン基は、好ましくは、1種のオキシアルキレン基のみを有する。
【0050】
ポリオキシアルキレン基含有光重合性モノマーの分子量は、例えば、100以上、好ましくは、200以上、例えば、600以下、好ましくは、400以下である。
【0051】
ポリオキシアルキレン基含有光重合性モノマーとして、例えば、ポリオキシエチレン基含有ジ(メタ)アクリレート(例えば、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなど)、ポリオキシエチレン基含有(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン基含有ジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0052】
ポリオキシアルキレン基含有光重合性モノマーは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0053】
ポリオキシアルキレン基含有光重合性モノマーのなかでは、好ましくは、ポリオキシエチレン基含有ジ(メタ)アクリレートが挙げられ、より好ましくは、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0054】
ポリオキシアルキレン基含有光重合性モノマーの含有割合は、水酸基含有光重合性モノマーおよびポリオキシアルキレン基含有光重合性モノマーの総和に対して、例えば、0.5質量%以上、好ましくは、1.0質量%以上、より好ましくは、2.0質量%以上、例えば、50.0質量%以下、好ましくは、30.0質量%以下、より好ましくは、25.0質量%以下、さらに好ましくは、20.0質量%以下である。
【0055】
また、モノマー成分は、任意成分として、その他の光重合性モノマー(例えば、水酸基およびポリオキシエチレン基を含有しない(メタ)アクリレートなど)を、本発明の効果を阻害しない範囲で含有することもできる。
【0056】
その他の光重合性モノマーの含有割合は、水酸基含有光重合性モノマーおよびポリオキシアルキレン基含有光重合性モノマーの総和100質量部に対して、例えば、0質量部以上、例えば、5質量部以下、好ましくは、1質量部以下である。
【0057】
また、モノマー成分は、より好ましくは、その他の光重合性モノマーを含まず、水酸基含有光重合性モノマーおよびポリオキシアルキレン基含有光重合性モノマーからなる。
【0058】
アルコール類として、例えば、第一級~第三級の1価のアルコールが挙げられ、より具体的には、芳香族アルコール、脂肪族アルコールなどが挙げられる。
【0059】
芳香族アルコールは、芳香族環を含む1価のアルコールであって、例えば、フェノール、ヒドロキシトルエン、ビフェニルアルコール、フェノキシエタノール、ベンジルアルコールなどが挙げられる。
【0060】
脂肪族アルコールは、直鎖状または分岐鎖状のアルキル基を有する1価のアルコールであって、例えば、直鎖状の脂肪族アルコール(例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、1-ブタノール、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、1-ヘプタノールなど)、分岐状の脂肪族アルコール(例えば、iso-プロパノール、iso-ブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、iso-ペンタノール、sec-ペンタノール、2-エチルヘキサノールなど)などが挙げられる。
【0061】
アルコール類は、単独使用または2種類以上併用できる。
【0062】
アルコール類は、好ましくは、芳香族アルコールを少なくとも含み、より好ましくは、芳香族アルコールおよび脂肪族アルコールを含み、さらに好ましくは、芳香族アルコールおよび脂肪族アルコールからなる。また、芳香族アルコールとして、好ましくは、フェノキシエタノールが挙げられる。脂肪族アルコールとして、好ましくは、1-プロパノールが挙げられる。
【0063】
アルコール類が芳香族アルコールおよび脂肪族アルコールを含むと、液材20に無機ナノ粒子23をより安定して分散させることができ、無機ナノ粒子23の分散割合(後述)の向上を図ることができる。そのため、無機物2の形成不良を安定して抑制できる。
【0064】
アルコール類が芳香族アルコールおよび脂肪族アルコールを含む場合、アルコール類における芳香族アルコールの含有割合は、例えば、5.0質量%以上、好ましくは、10.0質量%以上、例えば、40.0質量%以下、好ましくは、30.0質量%以下であり、アルコール類における脂肪族アルコールの含有割合は、例えば、60.0質量%以上、好ましくは、70.0質量%以上、例えば、95.0質量%以下、好ましくは、90.0質量%以下である。
【0065】
そして、アルコール類を、モノマー成分と下記の混合割合となるように混合する。
【0066】
アルコール類の混合割合は、モノマー成分100質量部に対して、例えば、80質量部以上、好ましくは、90質量部以上、例えば、120質量部以下、好ましくは、110質量部以下である。
【0067】
これによって、液材20が調製される。
【0068】
液材20におけるモノマー成分の含有割合は、例えば、15.0質量%以上、好ましくは、25.0質量%以上、例えば、75.0質量%以下、好ましくは、65.0質量%以下である。
【0069】
液材20における水酸基含有光重合性モノマーの含有割合は、例えば、20.0質量%以上、好ましくは、30.0質量%以上、より好ましくは、40.0質量%以上、例えば、70.0質量%以下、好ましくは、60.0質量%以下である。
【0070】
液材20におけるポリオキシアルキレン基含有光重合性モノマーの含有割合は、例えば、0.1質量%以上、好ましくは、0.5質量%以上、より好ましくは、2.0質量%以上、例えば、30.0質量%以下、好ましくは、20.0質量%以下、より好ましくは、10.0質量%以下である。
【0071】
液材20におけるアルコール類の含有割合は、例えば、25.0質量%以上、好ましくは、35.0質量%以上、例えば、85.0質量%以下、好ましくは、75.0質量%以下である。
【0072】
(2)液材20に無機ナノ粒子23を分散する工程
次いで、液材20に無機ナノ粒子23を分散させて、無機粒子分散液26を調製する。
【0073】
無機ナノ粒子23は、無機物2の原料であって、無機材料から形成される粒子である。
【0074】
無機材料は、特に制限されず、医療材料に用いられる公知の無機物が挙げられる。無機材料として、例えば、金属材料、非金属材料(セラミックス)が挙げられる。
【0075】
金属材料として、例えば、金、銀、白金、パラジウム、コバルト、クロム、チタン、アルミニウム、鉄、および、それらの合金などが挙げられる。
【0076】
非金属材料(セラミックス)として、例えば、金属酸化物、炭化物、窒化物、リン酸塩、硫酸塩、フッ化物などが挙げられる。
【0077】
金属酸化物は、金属元素(例えば、Al、Ti、Zrなど)および半金属元素(例えば、Si、B、Geなど)のうち1つの元素のみを含む単一金属酸化物と、金属元素および半金属元素のうち2つ以上の元素を含む複合金属酸化物とを含む。
【0078】
単一金属酸化物として、例えば、シリカ(SiO2)、チタニア(TiO2)、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)などが挙げられる。複合金属酸化物として、例えば、シリカ-ジルコニア、シリカ-チタニア、シリカ-アルミナ、アルミナ-ジルコニアなどが挙げられる。
【0079】
炭化物として、例えば、炭化ケイ素などが挙げられる。窒化物として、例えば、窒化ケイ素などが挙げられる。リン酸塩として、例えば、リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイトなどが挙げられる。硫酸塩として、例えば、硫酸バリウムなどが挙げられる。フッ化物として、例えば、フッ化カルシウム、フッ化イッテルビウム、フッ化イットリウムなどが挙げられる。
【0080】
無機材料は、単独または2種以上併用することができる。
【0081】
無機材料のなかでは、好ましくは、非金属材料が挙げられ、より好ましくは、金属酸化物が挙げられ、さらに好ましくは、単一金属酸化物が挙げられ、とりわけ好ましくは、シリカが挙げられる。
【0082】
無機ナノ粒子23の形状として、例えば、球形状、不定形状などが挙げられ、好ましくは、球形状が挙げられる。
【0083】
無機ナノ粒子23が球形状を有すると、粒子分散体の成形性の向上を図ることができる。
【0084】
無機ナノ粒子23は、ナノオーダーの一次粒子径を有する。詳しくは、無機ナノ粒子23の一次粒子径の範囲(粒度分布)は、例えば、5nm以上、好ましくは、10nm以上、例えば、120nm以下、好ましくは、100nm以下である。なお、無機ナノ粒子23の一次粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)により測定できる。
【0085】
無機ナノ粒子23の平均一次粒子径は、例えば、5nm以上、好ましくは、10nm以上、好ましくは、40nm以上、例えば、150nm以下、好ましくは、50nm以下である。なお、無機ナノ粒子23の平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)により測定できる。
【0086】
無機ナノ粒子23の平均一次粒子径が上記下限以上であると、無機ナノ粒子23を液材20に安定して分散させることができ、後述する無機ナノ粒子の分散割合の向上を図ることができる。そのため、無機物2の形成不良をより安定して抑制できる。無機ナノ粒子23の平均一次粒子径が上記上限以下であると、粒子分散体のチクソ性がより向上し、粒子分散体の成形性を向上することができる。
【0087】
無機ナノ粒子23を液材20に分散させる方法は、特に制限されず、例えば、超音波分散、自転公転撹拌機、真空撹拌脱泡機、撹拌子による分散などが挙げられ、無機ナノ粒子23の凝集を抑制する観点から好ましくは、超音波分散が挙げられる。
【0088】
これによって、無機ナノ粒子23が互いに凝集することなく液材20に均一に分散されて、無機粒子分散液26が調製される。
【0089】
無機ナノ粒子23の分散割合は、液材20および無機ナノ粒子23の総和に対して、例えば、10質量%以上、好ましくは、20質量%以上、より好ましくは、40質量%以上、さらに好ましくは、50質量%以上、とりわけ好ましくは、55質量%以上、例えば、80質量%以下、好ましくは、70質量%以下、より好ましくは、60質量%以下である。
【0090】
無機ナノ粒子23の分散割合が上記下限以上であれば、無機物2の形成不良を抑制できる。無機ナノ粒子23の分散割合が上記上限以下であれば、粒子分散体24を安定して所望の形状に成形できながら、無機物2の形成不良を安定して抑制できる。
【0091】
無機粒子分散液26の粘度(@25℃)は、例えば、10cP以上、好ましくは、1000cP以上、例えば、30000cP以下、好ましくは、15000cP以下である。なお、無機粒子分散液26の粘度は、コーンプレート型粘度計により測定できる。
【0092】
無機粒子分散液26の粘度が上記の範囲であると、後述する形成方法により、粒子分散体24を所望の形状に安定して形成できる。
【0093】
また、無機粒子分散液26には、好ましくは、無機ナノ粒子23とともに光重合開始剤が配合される。
【0094】
光重合開始剤は、光(例えば、紫外線、可視光など)によって増感される化合物であって、例えば、α-ケトカルボニル化合物、アシルホスフィンオキサイド化合物などが挙げられる。
【0095】
α-ケトカルボニル化合物として、例えば、α-ジケトン(例えば、ジアセチル、ベンジル、カンファーキノンなど)、α-ケトアルデヒド(例えば、メチルグリオキザール、フェニルグリオキザールなど)、ピルビン酸などが挙げられる。
【0096】
アシルホスフィンオキサイド化合物として、例えば、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6-ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキサイド、2,3,5,6-テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ベンゾイルジ-(2,6-ジメチルフェニル)ホスホネートなどが挙げられる。
【0097】
光重合開始剤は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0098】
光重合開始剤のなかでは、好ましくは、アシルホスフィンオキサイド化合物が挙げられ、より好ましくは、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(BAPO)が挙げられる。
【0099】
光重合開始剤の添加割合は、液材20および無機ナノ粒子23の総和100質量部に対して、例えば、0.1質量部以上、好ましくは、0.5質量部以上、例えば、5.0質量部以下、好ましくは、2.0質量部以下である。
【0100】
(3)粒子分散体を調製する工程
次いで、
図2Bに示すように、無機粒子分散液26に光を照射して、モノマー成分を光重合させて、ポリマーマトリックス25に無機ナノ粒子23が分散する粒子分散体24を調製する。このとき、粒子分散体24を所望の形状に形成する。
【0101】
粒子分散体24を所望の形状に形成するには、例えば、無機粒子分散液26を所定のモールドに注入した後、公知の光照射装置により、モノマー成分(水酸基含有光重合性モノマーおよびポリオキシアルキレン基含有光重合性モノマー)の光重合が完了するまで、無機粒子分散液26に光(例えば、紫外線、可視光など)を照射する。
【0102】
これによって、所望の形状を有する粒子分散体24が調製される。なお、
図2Bでは、粒子分散体24は、便宜上、歯冠形状を有しているが、所望の形状は特に制限されない。
【0103】
粒子分散体24は、ポリマーマトリックス25と、無機ナノ粒子23と、アルコール類27とを備える。
【0104】
ポリマーマトリックス25は、モノマー成分(水酸基含有光重合性モノマーおよびポリオキシアルキレン基含有光重合性モノマー)の光重合体である。ポリマーマトリックス25は、所望の外形形状を有する。ポリマーマトリックス25は、その内部において、隙間25Aを有する。
【0105】
無機ナノ粒子23は、ポリマーマトリックス25に分散している。
【0106】
このような粒子分散体24は、光造形方式(例えば、レーザ方式など)による三次元造形装置(例えば、3Dプリンタ)によっても調製できる。
【0107】
(4)粒子分散体からアルコール類を除去する工程
次いで、
図2Cに示すように、粒子分散体24からアルコール類27を除去する。具体的には、粒子分散体24を加熱乾燥する。
【0108】
粒子分散体24の乾燥温度は、アルコール類27を除去できれば特に制限されず、例えば、20℃以上、好ましくは、60℃以上、例えば、150℃以下、好ましくは、100℃以下である。粒子分散体24の乾燥時間は、例えば、7時間以上、好ましくは、12時間以上、例えば、168時間以下、好ましくは、36時間以下である。
【0109】
これによって、アルコール類27が、ポリマーマトリックス25の隙間25Aから除去される。なお、粒子分散体からアルコール類を除去する工程は、大気圧下において実施してもよく、減圧下において実施してもよい。
【0110】
(5)粒子分散体を焼成して無機物を形成する工程
次いで、粒子分散体24を、例えば、大気中において焼成して、連通孔22を有する無機物2を形成する。無機物2は、粒子分散体24と同じ所望の形状を有する。
【0111】
粒子分散体24の焼成条件は、例えば、無機物2が、連通孔22を有さない緻密な無機物2となる条件よりも緩和された条件である。このような緩和された焼成条件により、無機物2が有する連通孔22の平均孔径を後述の範囲に調整する。
【0112】
具体的には、粒子分散体24の焼成温度は、例えば、200℃以上、好ましくは、600℃以上、より好ましくは、1000℃以上、さらに好ましくは、1100℃以上、例えば、1700℃以下、好ましくは、1200℃以下である。粒子分散体24の焼成時間は、例えば、1時間以上、好ましくは、2時間以上、より好ましくは、3時間以上、さらに好ましくは、4時間以上、例えば、20時間以下、好ましくは、15時間以下である。
【0113】
粒子分散体24の焼成は、上記の条件において一度のみ実施してもよく、複数回実施してもよい。例えば、粒子分散体24の焼成を3回実施する場合、200℃以上400℃以下において一次焼成した後、500℃以上700℃以下において二次焼成し、900℃以上1200℃以下において三次焼成する。
【0114】
これにより、ポリマーマトリックス25が燃焼するとともに、複数の無機ナノ粒子23が焼成により互いに焼結して、連通孔22を有する無機物2(無機焼結体)が調製される。
【0115】
このような無機物2は、複数の無機ナノ粒子23が焼成により互いに接合する焼結体である。無機物2は、モノリス型構造を有する多孔質体であり、3次元網目状に連続する骨格21と、その骨格21により区画される連通孔22とを備える。
【0116】
骨格21は、上記した無機材料から形成されている。骨格21における無機材料の結晶状態は、単結晶体、多結晶体および非晶質体のいずれであってもよく、好ましくは、多結晶体または非晶質体である。
【0117】
無機物2の骨格21は、より好ましくは、非金属材料の非晶質体からなり、さらに好ましくは、金属酸化物の非晶質体からなり、とりわけ好ましくは、シリカの非晶質体(シリカガラス)からなる。
【0118】
連通孔22は、無機物2における骨格21以外の空間部分である。連通孔22は、複数の気孔が3次元網目状に互いに連通して形成されており、無機物2の全体にわたって広がっている。また、連通孔22は、無機物2の表面において、無機物2の外部空間と連通するように開口している。
【0119】
また、連通孔22は、ナノオーダーの孔径を有している。孔径は、連通孔22の延びる方向に対する直交方向の断面の径である。連通孔22の孔径の範囲(細孔分布)は、例えば、0.5nm以上、好ましくは、1nm以上、例えば、300nm以下、好ましくは、200nm以下、より好ましくは、150nm以下である。
【0120】
連通孔22の平均孔径は、例えば、1nm以上、好ましくは、5nm以上、より好ましくは、10nm以上、例えば、100nm以下、好ましくは、50nm以下、より好ましくは、30nm以下、さらに好ましくは、20nm以下である。なお、連通孔22の細孔分布および平均孔径は、窒素ガス吸着法の測定結果を、BJH(Barrett-Joyner-Halenda)法によって解析することによって算出できる。
【0121】
また、無機物2における連通孔22の容積は、無機物2の単位質量当たり、例えば、0.01cm3/g以上、好ましくは、0.03cm3/g以上、より好ましくは、0.05cm3/g以上、例えば、1.00cm3/g以下、好ましくは、0.40cm3/g以下、より好ましくは、0.20cm3/g以下である。なお、連通孔22の容積は、窒素ガス吸着法の測定結果を、BJH法によって解析することによって算出できる。
【0122】
また、無機物2の比表面積は、無機物2の単位質量当たり、例えば、0.1m2/g以上、好ましくは、1m2/g以上、より好ましくは、10m2/g以上、100m2/g以下、好ましくは、50m2/g以下である。なお、無機物2の比表面積は、窒素ガス吸着法の測定結果を、BET法によって解析することによって算出できる。
【0123】
なお、無機物2は、好ましくは、気孔として連通孔22のみを有し、外部と連通せずに骨格21内に孤立する閉気孔を有しない。また、例え、無機物2が閉気孔を有しても、閉気孔の容積割合は、連通孔22の容積と閉気孔の容積との総和に対して、50%以下である。また、無機物2の連通化率は、例えば、50%以上、好ましくは、90%以上である。
【0124】
(6)連通孔に有機高分子を充填する工程
次いで、
図2Dに示すように、無機物2の連通孔22に有機高分子3を充填する。
【0125】
連通孔22に有機高分子3を充填するには、例えば、有機高分子3の原料モノマー31を連通孔22に導入した後、連通孔22に導入した原料モノマー31を重合して、有機高分子3を形成する(
図1参照)。
【0126】
また、連通孔22に対する原料モノマー31の導入に先立って、無機物2の表面(連通孔22の内面)は、好ましくは、シランカップリング処理される。
【0127】
例えば、シランカップリング剤を溶媒に溶解した溶液を調製し、無機物2を、シランカップリング剤の溶液に浸漬する。このとき、シランカップリング剤の加水分解を促進させるために、酸を添加してもよい。酸として、例えば、無機酸および有機酸が挙げられる。また、事前にシランカップリング剤と酸とを混合し、シランカップリング剤の加水分解水溶液を調製し、それを溶媒に溶解した溶液を用いてもよい。
【0128】
シランカップリング剤として、例えば、メタクリロキシ系シランカップリング剤(例えば、γ―メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、8―メタクリロキシオクチルトリメトキシシランなど)、アミン系シランカップリング剤(例えば、γ-アミノプロピルトリエトキシシランなど)などが挙げられる。
【0129】
シランカップリング剤は、単独使用または2種類以上併用できる。
【0130】
シランカップリング剤のなかでは、好ましくは、メタクリロキシ系シランカップリング剤が挙げられ、より好ましくは、γ―メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(γ-MPTS)が挙げられる。
【0131】
溶媒は、シランカップリング剤を溶解できれば特に制限されない。溶媒として、例えば、上記した脂肪族アルコールなどが挙げられ、好ましくは、直鎖状の脂肪族アルコール、より好ましくは、エタノールが挙げられる。
【0132】
シランカップリング剤の溶液の濃度は、例えば、1.0質量%以上、好ましくは、3.0質量%以上、例えば、10.0質量%以下、好ましくは、8.0質量%以下である。
【0133】
無機物2の浸漬温度は、例えば、10℃以上40℃以下である。無機物2の浸漬時間は、例えば、10分以上24時間以下である。
【0134】
その後、無機物2は、必要に応じて乾燥される。これによって、無機物2は、シランカップリング処理される。その後、原料モノマー31が連通孔22に導入される。
【0135】
原料モノマー31は、特に制限されず、医療材料に用いられる公知の重合性モノマーが挙げられる。原料モノマー31として、例えば、光重合性モノマーが挙げられ、好ましくは、エチレン性不飽和二重結合を有する光重合性モノマーが挙げられる。
【0136】
光重合性モノマーとして、例えば、α、β-不飽和カルボン酸、芳香族ビニル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0137】
α、β-不飽和カルボン酸として、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、α-ハロゲン化アクリル酸、クロトン酸、桂皮酸、ソルビン酸、マレイン酸、イタコン酸などが挙げられる。芳香族ビニルとして、例えば、スチレンなどが挙げられる。(メタ)アクリルアミドとして、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミドなどが挙げられる。
【0138】
(メタ)アクリレートとして、例えば、1つの(メタ)アクリロイル基を有する一官能(メタ)アクリレート、2つの(メタ)アクリロイル基を有する二官能(メタ)アクリレート、3つの(メタ)アクリロイル基を有する三官能(メタ)アクリレートなどが挙げられる。なお、(メタ)アクリレートとは、メタクリレートおよび/またはアクリレートを含む。
【0139】
一官能(メタ)アクリレートとして、例えば、アルキルモノ(メタ)アクリレート(例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートなど)、アリールモノ(メタ)アクリレート(例えば、ベンジル(メタ)アクリレートなど)、アミノ基含有モノ(メタ)アクリレート(例えば、2-(N,N-ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレートなど)、ハロゲン化アルキル含有モノ(メタ)アクリレート(例えば、2,3-ジブロモプロピル(メタ)アクリレートなど)、四級アンモニウム塩基含有モノ(メタ)アクリレート(例えば、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルピリジニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシデシルアンモニウムクロライドなど)、カルボキシ基含有モノ(メタ)アクリレート(例えば、2-メタクリロイルオキシエチルフタル酸、2-メタクリロイルオキシプロピルフタル酸など)、リン酸基含有モノ(メタ)アクリレート(例えば、EO変性リン酸モノ(メタ)アクリレートなど)、上記した水酸基含有モノ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0140】
二官能(メタ)アクリレートとして、例えば、アルキレンジ(メタ)アクリレート(例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレートなど)、上記したポリエチレン基含有ジ(メタ)アクリレート、芳香環含有ジ(メタ)アクリレート(例えば、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジル(メタ)アクリレート(2,2-ビス[4-〔3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]プロパン)、2,2-ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル〕プロパンなど)、ウレタンジメタクリレート(例えば、[2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)]ジメタクリレートなど)、リン酸基含有ジ(メタ)アクリレート(例えば、EO変性リン酸ジ(メタ)アクリレートなど)、リン酸エステル含有ジ(メタ)アクリレート(例えば、ビス(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)リン酸エステルなど)、上記した水酸基含有ジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0141】
三官能(メタ)アクリレートとして、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0142】
原料モノマー31は、単独または2種以上併用することができる。
【0143】
原料モノマー31のなかでは、好ましくは、(メタ)アクリレートが挙げられ、より好ましくは、一官能(メタ)アクリレートが挙げられ、さらに好ましくは、アルキルモノ(メタ)アクリレートが挙げられ、とりわけ好ましくは、メチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0144】
原料モノマー31の粘度(@25℃)は、例えば、0.1cP以上、例えば、40,000cP以下、好ましくは、15,000cP以下である。なお、原料モノマー31の粘度は、E型粘度計により測定できる。
【0145】
また、原料モノマー31には、必要に応じて、重合開始剤が添加される。
【0146】
重合開始剤として、例えば、上記した光重合開始剤、有機過酸化物(例えば、過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキサイドなど)などが挙げられ、好ましくは、有機過酸化物が挙げられる。重合開始剤は、単独または2種以上併用することができる。重合開始剤の添加割合は、原料モノマー100質量部に対して、例えば、0.1質量部以上20質量部以下である。
【0147】
そして、原料モノマー31を連通孔22に導入するには、例えば、無機物2を原料モノマー31に浸漬する。
【0148】
浸漬圧力は、例えば、10kPa以上、好ましくは、50kPa以上、例えば、10,000kPa以下、好ましくは、1,000kPa以下、より好ましくは、大気圧(101kPa)である。
【0149】
浸漬温度は、例えば、1℃以上、好ましくは、10℃以上、例えば、50℃以下、好ましくは、30℃以下、より好ましくは、室温(25℃)である。
【0150】
浸漬時間は、例えば、1時間以上、好ましくは、10時間以上、例えば、50時間以下、好ましくは、30時間以下である。
【0151】
これによって、原料モノマー31が連通孔22に導入される。
【0152】
次いで、連通孔22に導入した原料モノマー31を、例えば、加熱により重合させる。
【0153】
加熱温度は、例えば、40℃以上、好ましくは、50℃以上、例えば、100℃以下、好ましくは、70℃以下である。加熱時間は、例えば、1時間以上、好ましくは、40時間以上、例えば、100時間以下、好ましくは、60時間以下である。
【0154】
これによって、
図1に示すように、有機高分子3が形成する。
【0155】
有機高分子3は、連通孔22内に空隙が生じないように、連通孔22内に密に充填されている。有機高分子3は、3次元網目状に連続しており、無機物2の骨格21と互いに絡み合っている。
【0156】
なお、上記では、原料モノマーを加熱により重合させたが、これに限定されず、原料モノマーを、加熱なしに光照射で重合させることもでき、加熱および光照射で重合させることもできる。また、本実施形態では、原料モノマーがラジカル重合性モノマーであるが、これに限定されず、原料モノマーは縮合性モノマーであってもよい。例えば、縮合性モノマーであるポリカルボン酸およびポリオールを、連通孔に導入した後、重合させることもできる。
【0157】
また、本実施形態では、原料モノマーを連通孔に導入した後、原料モノマーを重合して、有機高分子を形成するが、これに限定されず、有機高分子を直接、連通孔に導入することもできる。
【0158】
以上によって、無機物2の連通孔22に有機高分子3が充填されて、連通孔22を有する無機物2と、連通孔22内に充填される有機高分子3との2相共連続構造を有するナノコンポジットレジン1が製造される。
【0159】
このようなナノコンポジットレジン1は、補綴物として好適な硬さを有する。
【0160】
ナノコンポジットレジン1のビッカース硬さは、例えば、100Hv以上、好ましくは、200Hv以上、例えば、800Hv以下、好ましくは、650Hv以下、より好ましくは、600HV以下、さらに好ましくは、500Hv以下である。なお、ビッカース硬さは、JIS Z 2244:2009のビッカース硬さ試験に準拠して測定することができる。
【0161】
また、ナノコンポジットレジン1のビッカース硬さは、好ましくは、歯のエナメル質のビッカース硬さと同程度である。なお、歯のエナメル質のビッカース硬さは、患者の年齢や歯の部位によって変化するが、例えば、200HV以上500HV以下である。そして、ナノコンポジットレジン1のビッカース硬さの範囲は、好ましくは、エナメル質のビッカース硬さに対して±50HVである。
【0162】
また、ナノコンポジットレジン1の密度は、例えば、1.70g/cm3以上、好ましくは、1.76g/cm3以上、例えば、2.20g/cm3以下、好ましくは、2.20g/cm3未満、より好ましくは、2.00g/cm3以下である。なお、ナノコンポジットレジン1の密度は、乾式自動密度計アキュピックII1340により測定できる。
【0163】
<ナノコンポジットレジンの用途>
このようなナノコンポジットレジン1は、各種医療分野における補綴物として好適に利用できる。ナノコンポジットレジン1の用途として、例えば、医療用人工骨、骨補てん剤、歯科材料、医療用教材などが挙げられ、好ましくは、歯科材料(無機-有機複合歯科材料)が挙げられ、より好ましくは、CAD/CAM用歯科修復材料が挙げられる。
【0164】
<作用効果>
図2A~
図2Dに示すように、上記したナノコンポジットレジン1の製造方法では、まず、モノマー成分(水酸基含有光重合性モノマーおよびポリオキシアルキレン基含有光重合性モノマー)と、アルコール類とを含有する液材20に、無機ナノ粒子23を分散させて、無機粒子分散液26を調製する。そして、無機粒子分散液26のモノマー成分を光重合させて、粒子分散体24を形成する。
【0165】
しかるに、液材20が水酸基含有光重合性モノマーを含有しない場合、無機粒子分散液26の粘度が過度に上昇して、上記した形成方法により、粒子分散体24を所望の形状に形成できない場合がある。
【0166】
一方、上記の方法では、液材20が水酸基含有光重合性モノマーを含有するので、無機粒子分散液26の粘度を好適な範囲に調整でき、上記した形成方法により、無機粒子分散液26から粒子分散体24を所望の形状に安定して形成することができる。
【0167】
そして、所望の形状を有する粒子分散体24からアルコール類27を除去した後、その粒子分散体24を焼成して、連通孔22を有する無機物2を形成する。
【0168】
しかるに、上記した液材20がポリオキシアルキレン基含有光重合性モノマーまたはアルコール類を含有しない場合、粒子分散体24を焼成して無機物2を形成したときに、無機物2に形成不良(例えば、亀裂など)が生じて、無機物2を所望の形状に維持できない場合がある。
【0169】
一方、上記の方法では、液材20がポリオキシアルキレン基含有光重合性モノマーおよびアルコール類を含有するので、無機物2に形成不良(例えば、亀裂など)が生じることを抑制でき、無機物2を、粒子分散体24と同じ所望の形状に維持することができる。
【0170】
その後、その無機物2の連通孔22に有機高分子3を充填して、ナノコンポジットレジン1を製造する。
【0171】
その結果、無機物2を所望の形状に成形できながら、ナノコンポジットレジン1の製造効率の向上を図ることができる。
【0172】
また、
図2Aに示すように、無機粒子分散液26において、無機ナノ粒子23の分散割合は、上記下限以上である。そのため、無機物2の形成不良を安定して抑制できる。
【0173】
また、
図2Aに示すように、無機粒子分散液26において、無機ナノ粒子23の分散割合は、上記上限以下である。そのため、モノマー成分を光重合するときに、粒子分散体24を安定して所望の形状に成形できながら、無機物2の形成不良をより安定して抑制できる。
【0174】
また、無機ナノ粒子23の平均一次粒子径は、上記下限以上である。そのため、液材20に無機ナノ粒子23を安定して分散させることができ、無機粒子分散液26における無機ナノ粒子23の分散割合の向上を図ることができる。そのため、無機物2の形成不良をより安定して抑制できる。
【0175】
また、無機ナノ粒子23は、好ましくは、球形状を有する。そのため、粒子分散体の成形性の向上を図ることができる。
【0176】
また、液材20における水酸基含有光重合性モノマーの含有割合は、上記下限以上である。そのため、無機物2の形成不良をより一層安定して抑制できる。また、液材20における水酸基含有光重合性モノマーの含有割合は上記上限以下である。そのため、ナノコンポジットレジン1の硬さを所望の範囲に安定して調整できる。
【実施例】
【0177】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、それらに限定されない。以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。
【0178】
(実施例1~3、5~8および10)
表1に示す処方となるように、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA、水酸基含有光重合性モノマー)と、トリエチレングリコールジメタクリレート(商品名3G、新中村化学工業社製、ポリオキシアルキレン基含有光重合性モノマー)と、フェノキシエタノール(POE、アルコール類)と、1-プロパノール(PrOH、アルコール類)とを混合して、液材を調製した。
【0179】
次いで、その液材に超音波を照射しながら、シリカ粒子(商品名OX50、日本アエロジル社製、平均一次粒子径40nm、球状)を、表1に示す処方となるように複数回に分けて添加および混合した。そして、シリカ粒子のダマがなくなるまで、超音波の照射を継続して、液材にシリカ粒子を分散させた後、超音波の照射を停止した。その後、シリカ粒子が分散した液材(無機粒子分散液)に、表1に示す処方となるように、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(BAPO、光重合開始剤)を添加して溶解させた。
【0180】
次いで、BAPOを含む無機粒子分散液を、円柱状のモールド(直径20mm、高さ20mm)に注入した後、光照射装置(商品名α―ライトV,モリタ製作所社製)により、15分間光照射して、HEMAおよび3Gを光重合および硬化させた。
【0181】
これにより、HEMAおよび3Gのポリマーマトリックスに、シリカ粒子が分散する粒子分散体を調製した。
【0182】
なお、粒子分散体の成形性を下記の基準で評価した。その結果を表1に示す。
〇:円柱形モールドに無機粒子分散液を容易に充填できる。
△:円柱形モールドへの無機粒子分散液の充填が困難であるが、手指などによって押し込むことで充填できる。
×:円柱形モールドへの充填が手指などによる押し込みでも困難である。
【0183】
次いで、粒子分散体を室温(25℃)にて24時間静置して乾燥した後、オーブンにより80℃まで昇温して24時間乾燥させて、粒子分散体から、POEおよびPrOHを除去した。これにより、粒子分散体の全体が白濁した。
【0184】
次いで、乾燥後の粒子分散体を焼成した。具体的には、粒子分散体を焼成炉内に配置して、焼成炉内を100℃/hの昇温速度で室温(25℃)から220℃まで昇温した後、4時間維持した。その後、さらに600℃まで昇温して3時間維持し、次いで、さらに1150℃まで昇温して3時間維持した。
【0185】
これにより、ポリマーマトリックスを燃焼させるとともに、複数のシリカ粒子を互いに接合させて、連通孔を有するシリカガラスの(多孔質シリカ)を得た。その後、焼成炉内を室温(25℃)まで降温して、多孔質シリカを焼成炉から取り出した。
【0186】
なお、多孔質シリカの状態を下記の基準で評価した。その結果を表1に示す。
〇:多孔質シリカに亀裂(形成不良)が生じておらず、多孔質シリカは、粒子分散体と同様の所望の形状を維持できている。
△:多孔質シリカの一部に亀裂(形成不良)が生じているが、多孔質シリカは、粒子分散体と同様の形状を維持できている。
×:多孔質シリカに多数の亀裂(形成不良)が生じ、多孔質シリカは、粒子分散体と同様の形状を維持できていない。
【0187】
次いで、多孔質シリカを5質量%のγ―メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(γ-MPTS)のエタノール溶液に、室温(25℃)で3時間浸漬した。その後、多孔質シリカを、γ-MPTSのエタノール溶液から取り出し、80℃にて3時間乾燥させた。これによって、多孔質シリカの表面をシランカップリング処理した。
【0188】
次いで、メチルメタクリレート(MMA、原料単量体)10gを準備し、そのMMAに、過酸化ベンゾイル(BPO、重合開始剤)0.05gを溶解した。
【0189】
次いで、多孔質シリカを、BPOが溶解されたMMAに、大気圧下において、室温(25℃)で12時間浸漬させた。これによって、MMAが、多孔質シリカの連通孔内に導入された。
【0190】
その後、MMAが導入された多孔質シリカを、60℃に加熱して、48時間保持した。これによって、MMAが重合して、ポリメチルメタクリレート(PMMA、有機高分子)が形成した。
【0191】
以上によって、多孔質シリカ(連通孔を有するシリカガラスの焼結体)と、連通孔内に充填されるPMMAとの2相共連続構造を有するナノコンポジットレジンを製造した。
【0192】
(実施例4)
シリカ粒子(商品名OX50、日本アエロジル社製、平均一次粒子径40nm、球状)を、シリカ粒子(商品名Aerosil 200、日本アエロジル社製、平均一次粒子径12nm、球状)に変更したこと以外は、実施例1と同様に実施して、ナノコンポジットレジンを製造した。実施例4では、シリカ粒子が液材40質量部に対して、40質量部以下でなければ分散しなかった。そのため、シリカ粒子の添加割合を40質量部とした。また、上記と同様にして、粒子分散体の成形性および多孔質シリカの状態を評価した。その結果を表1に示す。
【0193】
(実施例9)
PrOHを使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、ナノコンポジットレジンを製造した。実施例9では、シリカ粒子が液材40質量部に対して、50質量部以下でなければ分散しなかった。そのため、シリカ粒子の添加割合を50質量部とした。また、上記と同様にして、粒子分散体の成形性および多孔質シリカの状態を評価した。その結果を表1に示す。
【0194】
(比較例1)
HEMAを使用しなかったこと以外は、実施例1と同様に実施して、BAPOを含む無機粒子分散液を調製した。比較例1では、BAPOを含む無機粒子分散液をモールドに注入できず、粒子分散体を成形できなかった(成形性:×)。
【0195】
(比較例2)
3Gを使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、多孔質シリカを製造した。比較例2では、多孔質シリカに多数の亀裂(形成不良)が生じ、多孔質シリカは、粒子分散体と同様の形状を維持できなかった(状態:×)。
【0196】
(比較例3)
POEおよびPrOHを使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、多孔質シリカを製造した。比較例3では、多孔質シリカに多数の亀裂(形成不良)が生じ、多孔質シリカは、粒子分散体と同様の形状を維持できなかった(状態:×)。
【0197】
<評価>
<<ビッカース硬さ>>
各実施例および各比較例のナノコンポジットレジンのビッカース硬さ(Hv)を、JIS Z 2244:2009に準拠して測定した。そして、各ナノコンポジットレジンのビッカース硬さを、下記の基準で評価した。その結果を、表1に示す。
〇:ビッカース硬さ(Hv)が200以上500以下、
△:ビッカース硬さ(Hv)が100以上200未満、または、ビッカース硬さ(Hv)が500超過800以下、
×:ビッカース硬さ(Hv)が100未満、または、ビッカース硬さ(Hv)が800を超過。
【0198】
【符号の説明】
【0199】
1 ナノコンポジットレジン
2 無機物
3 有機高分子
20 液材
22 連通孔
23 無機ナノ粒子
24 粒子分散体
25 ポリマーマトリックス