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特許7437204木材含浸剤組成物、木材含浸剤キット及び黒色化木材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】木材含浸剤組成物、木材含浸剤キット及び黒色化木材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 61/06 20060101AFI20240215BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20240215BHJP
   C08K 3/11 20180101ALI20240215BHJP
   C08G 8/04 20060101ALI20240215BHJP
   B27K 3/52 20060101ALI20240215BHJP
   B27K 5/02 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
C08L61/06
C08K5/13
C08K3/11
C08G8/04
B27K3/52 D
B27K5/02 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020054263
(22)【出願日】2020-03-25
(65)【公開番号】P2021155485
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000165000
【氏名又は名称】群栄化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【弁理士】
【氏名又は名称】柳井 則子
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 尚史
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第02899242(EP,A1)
【文献】特開昭49-126803(JP,A)
【文献】特公昭45-008674(JP,B1)
【文献】特開昭54-105183(JP,A)
【文献】特開昭48-056802(JP,A)
【文献】特開昭52-044216(JP,A)
【文献】特開2009-102604(JP,A)
【文献】特表2002-502328(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 61/06
C08K 5/13
C08K 3/11
C08G 8/04
B27K 3/52
B27K 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が550以下のレゾール型フェノール樹脂と、タンニンと、水溶性鉄塩とを含み、
前記レゾール型フェノール樹脂の固形分と前記タンニンの固形分との合計に対する前記タンニンの固形分の割合が40~97質量%であり、
前記タンニンの固形分に対する前記水溶性鉄塩の鉄分の割合が0.4~1.6質量%である、木材含浸剤組成物。
【請求項2】
重量平均分子量が550以下のレゾール型フェノール樹脂と、タンニンとを含む第1剤が収容された第1の容器と、水溶性鉄塩を含む第2剤が収容された第2の容器とを備え、
前記レゾール型フェノール樹脂の固形分と前記タンニンの固形分との合計に対する前記タンニンの固形分の割合が40~97質量%であり、
前記タンニンの固形分に対する前記水溶性鉄塩の鉄分の割合が0.4~1.6質量%である、木材含浸剤キット。
【請求項3】
請求項1に記載の木材含浸剤組成物を木材に含浸し、熱硬化させる、黒色化木材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材含浸剤組成物、木材含浸剤キット及び黒色化木材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、木材の機械的強度、耐水性等を高めるために、木材を改質することが行われる。改質方法の一つとして、熱硬化性樹脂を含浸し、熱硬化する方法がある。熱硬化性樹脂としては、レゾール型フェノール樹脂が汎用されている。
しかし、レゾール型フェノール樹脂は一般に、黄褐色~赤褐色を呈し、熱硬化させると濃色化して濃黄褐色~濃赤褐色となるため、黒色の木材が要求される用途には適さない。
【0003】
木材を黒色化する手法としては、水溶性鉄塩及びタンニンを用いて染色する方法や、黒色染料を用いて染色する方法が知られている。タンニンは、水溶性鉄塩の鉄イオンと反応して発色する。水溶性鉄塩とタンニンとを同じ液中に含有させると、それらが反応して沈降物が発生する。そのため、水溶性鉄塩及びタンニンを用いる方法では一般に、水溶性鉄塩を含む薬液による処理と、タンニンを含む薬液による処理とが別々に行われる。
【0004】
木材に対し、黒色化及び改質の両方の処理を行うことがある。
特許文献1では、強化黒色積層材の製造において染色工程と積層工程とを同時に行うために、木材単板を水溶性鉄塩で処理し乾燥した後、タンニンと低級アルデヒドとの縮合物と、熱硬化性樹脂との混合物で処理し、積層して加圧加熱することが提案されている。
特許文献2では、樹脂含浸等の後処理により変色を起こさない木材薄板を製造する方法として、木材薄板を、塩基性物質水溶液で前処理した後、黒色直接性染料で染色する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭52-44216号公報
【文献】特開昭58-147307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の方法は、水溶性鉄塩溶液の木材への含浸処理に数日間を要し、その後、さらに混合物による処理を行うことから、処理時間が長く、生産性に劣る。
特許文献2の方法も、染色を数日にわたって繰り返すことから、処理時間が長く、生産性に劣る。その後、染色した木材を樹脂含浸等の後処理により改質する場合、処理時間がさらに長くなる。
【0007】
本発明は、1度の含浸処理で木材の黒色化及び改質が可能であり、得られる黒色化木材の漆黒性に優れる木材含浸剤組成物、及びこれを用いた黒色化木材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]重量平均分子量が550以下のレゾール型フェノール樹脂と、タンニンと、水溶性鉄塩とを含み、
前記レゾール型フェノール樹脂の固形分と前記タンニンの固形分との合計に対する前記タンニンの固形分の割合が40~97質量%であり、
前記タンニンの固形分に対する前記水溶性鉄塩の鉄分の割合が0.4~1.6質量%である、木材含浸剤組成物。
[2]重量平均分子量が550以下のレゾール型フェノール樹脂と、タンニンとを含む第1剤が収容された第1の容器と、水溶性鉄塩を含む第2剤が収容された第2の容器とを備え、
前記レゾール型フェノール樹脂の固形分と前記タンニンの固形分との合計に対する前記タンニンの固形分の割合が40~97質量%であり、
前記タンニンの固形分に対する前記水溶性鉄塩の鉄分の割合が0.4~1.6質量%である、木材含浸剤キット。
[3]前記[1]の木材含浸剤組成物を木材に含浸し、熱硬化させる、黒色化木材の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、1度の含浸処理で木材の黒色化及び改質が可能であり、得られる黒色化木材の漆黒性に優れる木材含浸剤組成物、及びこれを用いた黒色化木材の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】試験例2の黒色化評価結果(木材)を示す写真である。
図2】試験例3の黒色化評価結果(紙基材)を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において、「水溶性」とは、常温(例えば25℃)で中性の水に対し、1質量%以上溶解することを示す。
レゾール型フェノール樹脂の重量平均分子量(以下、「Mw」とも記す。)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(以下、「GPC」とも記す。)により測定される、標準ポリスチレン換算の値である。
レゾール型フェノール樹脂、タンニンそれぞれの固形分は、不揮発分を示す。不揮発分は、以下の測定方法により測定される。
不揮発分測定方法:アルミ箔製皿(内径50mm、高さ15mm)の質量C(g)を量り、そこに試料(レゾール型フェノール樹脂又はタンニン)を1.5±0.1gとなるように精秤し、当該試料の具体的な質量を乾燥前の試料質量S(g)とする。このアルミ箔製皿を、予め135±1℃に保った恒温器に入れ、60±2分間の乾燥処理を行った後、デシケーター中にて放冷し、その質量C(g)を量る。その結果から、次式(1)により乾燥後の試料質量D(乾燥処理後にアルミ箔製皿上に残った試料の質量)(g)を算出し、次式(2)により不揮発分を算出する。
D=C-C ・・・(1)
不揮発分(%)=D/S×100 ・・・(2)
pHは、特に記載がなければ、25℃における値である。
【0012】
〔木材含浸剤組成物〕
本発明の一態様に係る木材含浸剤組成物(以下、「本組成物」ともいう。)は、重量平均分子量が550以下のレゾール型フェノール樹脂と、タンニンと、水溶性鉄塩とを含む。
本組成物は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、他の成分をさらに含んでいてもよい。
【0013】
<レゾール型フェノール樹脂>
レゾール型フェノール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類とのアルカリ触媒存在下での反応生成物である。
フェノール類とアルデヒド類とをアルカリ触媒存在下で反応させると、フェノール類の芳香環にアルデヒド類が付加する付加反応が起き、その後縮合反応を経て高分子化する。
【0014】
フェノール類は、芳香環及び芳香環に結合した水酸基を有する化合物であり、例えば、フェノール、アルキルフェノール(o,m,pの各クレゾール、o,m,pの各エチルフェノール、キシレノールの各異性体等)、多芳香環フェノール類(α,βの各ナフトール等)、多価フェノール類(ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ピロガロール、レゾルシン、カテコール、ハイドロキノン等)等が挙げられる。これらのフェノール類は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、実用的な物質は、フェノール、o,m,pの各クレゾール、キシレノールの各異性体、レゾルシン、カテコールである。
【0015】
アルデヒド類は、ホルミル基を有する化合物及びその多量体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であり、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド、グリオキザール等が挙げられる。これらのアルデヒド類は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、実用的な物質は、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドである。
【0016】
フェノール類に対するアルデヒド類のモル比(アルデヒド類/フェノール類)(以下、「F/P」とも記す。)は、1.0~4.0であることが好ましく、1.5~2.5であることがより好ましい。ただし、アルデヒド類がパラホルムアルデヒドのような多量体である場合、F/Pは、単量体換算での値である。
F/Pが前記範囲の下限値以上であれば、未反応のフェノール類(遊離フェノール類)の揮散による臭気発生、又は歩留低下等の問題が生じない。F/Pが前記範囲の上限値以下であれば、未反応のアルデヒド類(遊離アルデヒド類)が多量に残留することなく、製造工程中の作業環境雰囲気下にホルムアルデヒドが揮発せず、作業員の健康を害さない。また、本組成物を用いて得られる黒色化木材からのアルデヒド類の放散量が少ない。
前記遊離のフェノール類とは、JIS K6910の5.16の規定に準じて測定される未反応のフェノール類である。
前記遊離のアルデヒド類とは、JIS K6910の5.17の規定に準じて測定される未反応のアルデヒド類である。
【0017】
アルカリ触媒としては、フェノール類とアルデヒド類との反応を進行させ得るものであれば特に制限はなく、種々のアルカリ性物質を用いることができる。具体例としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属の水酸化物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属の水酸化物(水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム等)、炭酸ナトリウム、アンモニア等の無機アルカリ性物質;トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリエタノールアミン等の第3級アミン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(DBU)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ-5-エン)(DBN)等の環式アミン等の有機アルカリ性物質;等が挙げられる。これらのアルカリ触媒は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
フェノール類とアルデヒド類とをアルカリ触媒存在下で反応させる方法は、公知の方法であってよい。例えば、攪拌機、還流器及び温度制御機構を有する反応容器にフェノール類、アルデヒド類、アルカリ触媒、水等を仕込み、任意の反応温度を任意の反応時間保持する方法が挙げられる。反応の開始後、必要に応じて、追加のアルカリ触媒及び任意の添加剤等を添加してもよい。
【0019】
反応温度は、50~100℃が好ましく、60~80℃がより好ましい。反応温度が前記範囲の下限値以上であれば、充分な反応速度が得られる。反応温度が前記範囲の上限値以下であれば、反応をコントロールしやすい。
反応時間は、例えば3~8時間、さらには4~6時間とすることができる。反応時間が前記範囲内であれば、高い収率で重量平均分子量が550以下のレゾール型フェノール樹脂が得られ、レゾール型フェノール樹脂の生産性が優れる。
【0020】
フェノール類とアルデヒド類とをアルカリ触媒存在下で反応させた後、必要に応じて、中和、希釈等の処理を行ってもよい。
中和に用いる酸としては、アルカリ触媒を中和可能であればよく、例えばホウ酸、硫酸、塩酸、リン酸、乳酸、ギ酸等が挙げられる。
アルカリ触媒を酸で中和する場合、アルカリ触媒と酸との組み合わせとしては、アルカリ触媒と酸との塩(中和塩)が水溶性であるものが好ましい。中和塩が水溶性であれば、本組成物の木材への含浸性がより優れる。このようなアルカリ触媒と酸との組み合わせとしては、例えば、水酸化ナトリウムとホウ酸との組み合わせが挙げられる。
【0021】
レゾール型フェノール樹脂の固形分濃度は、レゾール型フェノール樹脂100質量%に対し、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、100質量%であってもよい。
【0022】
レゾール型フェノール樹脂は、液状であってもよく固体であってもよい。及び他材料との混合性に優れる点で、液状レゾール型フェノール樹脂であることが好ましい。
【0023】
レゾール型フェノール樹脂のpHは、6.0~10.0が好ましく、7.0~8.0がより好ましい。pHが前記下限以上であれば、水への溶解性が良好であり、本組成物の木材への浸透性がより優れる。pHが前記上限以下であれば、アルカリ触媒の使用量の観点から経済的である。
【0024】
レゾール型フェノール樹脂のMwは、550以下であり、400以下が好ましく、350以下がより好ましい。レゾール型フェノール樹脂のMwが前記上限値以下であれば、レゾール型フェノール樹脂の水への溶解性、本組成物の木材への浸透性が優れる。
レゾール型フェノール樹脂のMwは、水への溶解性、木材への浸透性の点では低いほど好ましいが、毒劇物の観点では、300以上が好ましく、350以上がより好ましい。
レゾール型フェノール樹脂のMwは、フェノール類とアルデヒド類とをアルカリ触媒存在下で反応させる際の反応時間、反応温度、触媒量等により調整できる。
【0025】
<タンニン>
タンニンは、水溶性鉄塩の鉄イオンと反応し、水難溶性で黒色の塩を形成する。
タンニンとしては、水溶性であるものが好ましい。
【0026】
タンニンの例としては、タンニン酸(五倍子タンニン)、ミモザタンニン、カキタンニン、没食子タンニン等が挙げられる。これらの中でも、可溶性の点で、タンニン酸、ミモザタンニンが好ましい。これらのタンニンは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
<水溶性鉄塩>
水溶性鉄塩としては、塩化鉄(II)、硫酸鉄(II)、クエン酸鉄、乳酸鉄、クエン酸鉄ナトリウム、クエン酸鉄アンモニウム等が挙げられる。これらの中でも、可溶性、価格の点で、塩化鉄(II)、硫酸鉄(II)が好ましい。これらの水溶性鉄塩は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
<他の成分>
他の成分としては、特に限定されず、例えば、水、有機溶剤等の液状媒体;還元糖、非還元糖、硬化促進剤、界面活性剤、乳化安定化剤、難燃剤、防虫剤、防腐剤、尿素樹脂、メラミン樹脂等の添加剤が挙げられる。
【0029】
有機溶剤は、水と混和可能なものが好ましく、例えばメタノール、エタノール、ブタノール、プロパノール等のアルコール系溶剤が挙げられる。これらの有機溶剤は、1種を単独で用いても2種以上併用してもよい。
【0030】
硬化促進剤としては、アンモニウム塩(リン酸3アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、クエン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等)、リン酸塩(リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸3アンモニウム等のオルトリン酸塩、次亜リン酸ナトリウム等の次亜リン酸塩、縮合リン酸塩等)、炭酸塩(炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム等)、グリシン等が挙げられる。これらの硬化促進剤は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0031】
<本組成物の組成>
本組成物において、レゾール型フェノール樹脂の固形分とタンニンの固形分との合計100質量%に対するタンニンの固形分の割合(以下、「タンニン/樹脂比率」ともいう。)は、40~97質量%であり、50~90質量%が好ましく、60~85質量%がより好ましく、65~80質量%がさらに好ましい。タンニン/樹脂比率が前記下限値以上であれば、得られる黒色化木材の漆黒性、本組成物の液安定性に優れる。タンニン/樹脂比率が前記上限値以下であれば、レゾール型フェノール樹脂による改質効果が充分に得られ、黒色化木材の機械的強度に優れる。
【0032】
タンニンの固形分100質量%に対する水溶性鉄塩の鉄分(Fe)の割合(以下、「Fe/タンニン比率」ともいう。)は、0.4~1.6質量%であり、0.6~1.4質量%が好ましく、0.8~1.2質量%がより好ましい。Fe/タンニン比率が前記下限値以上であれば、得られる黒色化木材の漆黒性(黒色の濃さ)に優れる。Fe/タンニン比率が前記上限値以下であれば、本組成物の液安定性に優れ、得られる黒色化木材の色相を、ムラのない均一なものにできる。
【0033】
本組成物100質量%に対するレゾール型フェノール樹脂の固形分とタンニンの固形分と水溶性鉄塩との合計の割合は、20質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、100質量%であってもよい。
【0034】
他の成分のうち有機溶剤の含有量は、本組成物100質量%に対し、30質量%以下が好ましく、0質量%が特に好ましい。すなわち本組成物は有機溶剤を含まないことが特に好ましい。組成物が有機溶剤を含む場合、用途によっては使用できないことがある。本組成物中の水の含有量が前記上限値以下であれば、特に本組成物が有機溶剤を含まないものであれば、本組成物を多様な用途に適用できる。
【0035】
他の成分のうち添加剤の含有量は、レゾール型フェノール樹脂の固形分とタンニンの固形分との合計100質量%に対し、30質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。下限は特に限定されず、0質量%であってもよい。
【0036】
本組成物の固形分濃度は、木材への浸透性と求める改質木材の特性とのバランスを考慮して適宜設定できる。
例えば、本組成物の固形分濃度が低いほど、粘度が低くなり、木材に浸透しやすい傾向がある。一方、本組成物の固形分濃度が高いほど、本組成物を含浸することによる改質効果が得られやすく、例えば黒色化の度合いや機械的強度が向上する傾向がある。
本組成物をそのまま木材に含浸させる場合、本組成物の固形分濃度は、5~70質量%が好ましく、10~30質量%がより好ましい。
本組成物を、製造時には、木材に含浸する際の固形分濃度よりも高固形分濃度とし、使用時(木材への含浸時)に水等で希釈して目的の固形分濃度としてもよい。
【0037】
本組成物の粘度は、1~300mPa・sが好ましく、1~100mPa・sがより好ましく、1~50mPa・sがさらに好ましい。本組成物の粘度が前記下限値以上であれば、定着性がより優れ、前記上限値以下であれば、本組成物の木材への浸透性がより優れる。粘度は、25℃でB型粘度計により測定される値である。
【0038】
本組成物は、後述する黒色化木材の製造方法に用いられる。
本組成物は、例えば、レゾール型フェノール樹脂、タンニン、水溶性鉄塩、及び必要に応じて他の成分を混合することにより製造できる。
各成分の混合順序は特に限定されないが、レゾール型フェノール樹脂とタンニンとを混合した後、得られた混合物と水溶性鉄塩とを混合することが好ましい。タンニンを水溶性鉄塩と混合する前に予めレゾール型フェノール樹脂と混合することで、タンニンとレゾール型フェノール樹脂とを均一に混合でき、含浸性が向上する。
本組成物の好ましい製造方法の一例として、後述する木材含浸剤キットの第1剤と第2剤とを混合する方法が挙げられる。第1剤はレゾール型フェノール樹脂とタンニンとを含む。便宜上、タンニンのみでも第1剤と取り扱う場合がある。第2剤は水溶性鉄塩を含む。
本組成物は液安定性に優れるが、長期間(例えば30日以上)保存する場合、保存中にレゾール型フェノール樹脂とタンニンとが反応して沈降物が発生し、沈降物によって黒色化木材の色相にムラが発生することがある。レゾール型フェノール樹脂とタンニンとを含む第1剤と水溶性鉄塩を含む第2剤を、それらが混和しない状態で保存し、本組成物の木材への含浸処理を行う際に第1剤と第2剤とを混合して本組成物を調製することで、色相のムラの発生を抑制できる。第1剤と第2剤とを混合してから、本組成物の木材への含浸処理を開始するまでの時間は、6時間未満が好ましく、3時間以下がより好ましく、1時間以下が特に好ましい。
【0039】
以上説明した本組成物にあっては、レゾール型フェノール樹脂とタンニンと水溶性鉄塩とを含み、レゾール型フェノール樹脂の固形分とタンニンの固形分との合計に対するタンニンの固形分の割合(タンニン/樹脂比率)が40~97質量%であり、タンニンの固形分に対する水溶性鉄塩の鉄分の割合(Fe/タンニン比率)が0.4~1.6質量%であるため、1度の含浸処理で木材の黒色化及び改質が可能であり、得られる黒色化木材の漆黒性に優れる。また、タンニンと水溶性鉄塩とを同じ液中に含んでいながら、液安定性にも優れており、保存中に沈降物が生じにくい。そのため、沈降物による色相のムラの無い黒色化木材を得ることができる。さらに、本組成物を用いて得られる黒色化木材は、少なくとも表面及びその近傍に本組成物の硬化物を含むため、改質前の木材に比べて、機械的強度、耐水性、寸法安定性等に優れる。
【0040】
〔木材含浸剤キット〕
本発明の一態様に係る木材含浸剤キットは、重量平均分子量が550以下のレゾール型フェノール樹脂と、タンニンとを含む第1剤が収容された第1の容器と、水溶性鉄塩を含む第2剤が収容された第2の容器とを備える。また、前記レゾール型フェノール樹脂の固形分と前記タンニンの固形分との合計に対する前記タンニンの固形分の割合(タンニン/樹脂比率)が40~97質量%であり、前記タンニンの固形分に対する前記水溶性鉄塩の鉄分の割合(Fe/タンニン比率)が0.4~1.6質量%である。
第1剤、第2剤はそれぞれ、他の成分をさらに含んでいてもよい。
【0041】
レゾール型フェノール樹脂、タンニン、水溶性鉄塩、他の成分はそれぞれ前記のとおりであり、好ましい態様も同様である。
タンニン/樹脂比率、Fe/タンニン比率それぞれの好ましい範囲は前記したとおりである。
第1剤、第2剤それぞれの固形分濃度の好ましい範囲は、本組成物の固形分濃度の好ましい範囲と同様である。
第1剤は水溶性鉄塩を含まないことが好ましい。
第2剤は、タンニンを含まないことが好ましい。
【0042】
木材含浸剤キットは、第1剤と第2剤とが混合されて本組成物とされ、後述する黒色化木材の製造方法に用いられる。
【0043】
〔黒色化木材の製造方法〕
本発明の一態様に係る黒色化木材の製造方法では、本組成物を木材に含浸し、熱硬化させる。これにより、黒色化木材が得られる。
本組成物を木材に含浸した後、熱硬化させる前に、本組成物が含浸された木材を乾燥してもよい。
【0044】
木材としては、無垢材、木質材料等が挙げられる。
無垢材としては、桐材、杉材、桧材、松材、ヒバ材、サワラ材、パイン材等が挙げられる。無垢材の形態は、製材、ひき板等であってよい。
【0045】
木質材料は、無垢材を複数のエレメント(構成要素)に分解し、再構成した材料である。木質材料としては、木質軸材料、木質面材料等が挙げられる。
木質軸材料としては、集成材、直交集成材、単板積層材等が挙げられる。
木質面材料としては、合板、直交集成板、単板積層板、ブロックボード、べニア、木質ボード等が挙げられる。
【0046】
木質ボードとは、木質繊維又は木質小片をバインダーで固めた板状の製品である。木質小片とは、木材を小片化したものであり、チップ、フレーク、ウェファー、ストランド、その他の切削片、破砕片の総称である。木質繊維とは、木質小片を高温高圧蒸気で蒸煮し、リファイナー等によって解繊して繊維化したものである。
木質繊維を用いた木質ボード(繊維板)としては、IB(インシュレーションボード)、MDF(中密度繊維板)、HB(ハードボード)等が挙げられる。これらは主に密度によって区別される。
木質小片を用いた木質ボードとしては、パーティクルボード、OSB(オリエンテッドストランドボード)等が挙げられる。パーティクルボード、OSBでは、木質小片の大きさや形は、破砕工程等により不揃いなものとなるが、その後の製造工程において分級等によって品質管理される。
ただし、木質繊維又は木質小片の大きさや形、並べ方によって製品の性質はさまざまであり、製造過程が類似しているため中間的な製品も存在する。そのような製品も木質ボードに該当するものとする。
改質処理を行う木材は、目的に応じて、任意で選択することができる。
【0047】
本組成物の木材への含浸方法としては、特に限定されず、木材への薬液の含浸方法として公知の方法を適用できる。
含浸方法の例として、減圧加圧含浸処理、圧密加工による含浸処理、超音波を用いた含浸処理が挙げられる。
【0048】
減圧加圧含浸処理では、密閉可能な容器に木材及び本組成物を収容し、容器内を減圧した後、加圧する。その後、容器から木材を取り出し、必要に応じて乾燥する。
この方法では、減圧時に木材内の空気が除去され、その後の加圧時に本組成物が木材中に浸透する。
減圧加圧含浸処理は、例えば、公知の減圧加圧含浸装置を用い、JIS A 9002「木質材料の加圧式保存処理方法」に準拠して実施できる。
【0049】
圧密加工による含浸処理では、木材を圧密処理し、圧密処理された木材を常圧下で本組成物中に浸漬する。その後、本組成物中の木材を取り出し、必要に応じて乾燥する。
圧密処理は、例えばロールプレスにより実施できる。ロールプレスでは、1つ以上のロール対の間に板状の木材を通過させ、ロール対により木材を厚さ方向に圧縮する。圧密処理条件は特に限定されないが、例えば、板状の木材の場合、圧密処理後の木材の厚さが、圧密処理前の木材の厚さの40~50%程度となる条件が挙げられる。
木材を本組成物中に浸漬する際の浸漬条件は特に限定されないが、例えば35~40℃で3時間、又はこれと同程度に本組成物が浸漬する条件が挙げられる。
【0050】
超音波を用いた含浸処理では、木材を常圧下で本組成物中に浸漬し、木材に超音波振動を伝達するホーンにより木材を加圧し、この状態で超音波を印加する。その後、本組成物中の木材を取り出し、必要に応じて乾燥する。
この方法では、超音波の印加時に、ホーン先端が往復運動をし、木材に繰り返しの衝撃を加えることになる。これにより、木材に超音波の振動が伝わり、超音波の特性であるキャビテーション(空洞現象)と脱泡作用により木材中からの空気の排出促進が行われる。そのため、短時間に効果的に含浸が行われる。
【0051】
本組成物が含浸された木材を乾燥する場合、乾燥方法は、自然乾燥でも加熱による乾燥でもよく、これらの組み合わせでもよい。例えば1晩自然乾燥した後、加熱により乾燥してもよい。
乾燥時の加熱温度は、50~90℃が好ましい。加熱温度が前記下限値以上であれば、乾燥効率が良好であり、前記上限値以下であれば、本組成物の硬化が進行しにくい。乾燥時間は、乾燥温度によっても異なるが、例えば1~6時間である。
【0052】
本組成物を熱硬化させる際の硬化温度(加熱温度)は、120~220℃が好ましく、140~200℃がより好ましく、160~180℃がさらに好ましい。硬化温度が前記下限値以上であれば、本組成物の硬化反応が進行しやすく、前記上限値以下であれば、レゾール型フェノール樹脂の熱硬化時の濃色化を抑制でき、得られる黒色化木材の漆黒性がより優れる。
硬化時間(加熱時間)は、硬化温度によっても異なるが、例えば5~60分間である。
【実施例
【0053】
以下に、本発明を実施例によってさらに詳しく説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。以下の各例において「部」、「%」は、それぞれ、特に限定のない場合は「質量部」、「質量%」を示す。固形分は、前記した測定方法により測定した。
【0054】
タンニン:ミモザタンニン、UCL COMPANY (PTY) LTD社製「MIMOSA NT POWDER」、固形分100%。
水溶性鉄塩:硫酸鉄(II)七水和物、関東化学株式会社製、固形分100%。
フェノール樹脂:後述の製造例1で得た液状レゾール型フェノール樹脂、固形分50%、Mw=310、pH=7.5。
【0055】
(製造例1:フェノール樹脂の製造)
反応容器にホルムアルデヒド1300.0g及びフェノール1492.0g(ホルムアルデヒド/フェノールのモル比=1.80)を仕込み、そこに48%水酸化ナトリウム水溶液117.0g(フェノールに対し9.0%)を添加した。次いで、65℃に昇温し、4.5時間反応させた。その後、液温度を45℃に低下させ、ホウ酸をpH=7.5になるまで添加してフェノール樹脂を得た。得られたフェノール樹脂は水溶液状であり、不溶分は見られなかった。
【0056】
<試験例1>
(第1剤の調製)
タンニンとフェノール樹脂とを、タンニン/樹脂比率が80%、70%、50%又は30%となるように混合し、全体の固形分濃度が20%になるように水で希釈して実施例1~3、比較例1の第1剤を得た。
【0057】
(第1剤の液安定性の評価)
第1剤を、タンニンとフェノール樹脂との混合直後から25℃で30日間保存した。保存0日(タンニンとフェノール樹脂との混合直後)、7日、17日及び30日それぞれの時点で、第1剤を目視で観察し、析出物の発生の有無を評価した。結果を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
<試験例2>
(薬液の調製)
実施例2と同様にして第1剤を得た。別途、薬液(木材含浸剤組成物、以下同じ。)のFe/タンニン比率が1.0%となる量の水溶性鉄塩を量り、全体の固形分濃度が20%になるように水に溶解して第2剤を得た。第1剤と第2剤とを混合して実施例4の薬液を得た。
タンニンを、全体の固形分濃度が20%になるように水で希釈して第1剤を得た。別途、薬液のFe/タンニン比率が1.0%となる量の水溶性鉄塩を量り、全体の固形分濃度が20%になるように水に溶解して第2剤を得た。第1剤と第2剤とを混合して比較例2の薬液を得た。
【0060】
(黒色化の評価1:木材での評価)
減圧加圧含浸装置の容器内に杉単板(100mm×50mm×3mm)を収容し、25℃、圧力-90.66kPaの条件で15分間真空処理した。真空を掛けた状態で容器内に薬液を投入し、1時間保持した後、開圧し、35℃、常圧の条件下にて15分間静置した。その後、容器から杉単板を取出し、1晩自然乾燥し、さらに乾燥機にて60℃で1時間加熱乾燥した。この杉単板に対し、140℃で30分間の熱圧プレス処理を施して黒色化木材を得た。
得られた黒色化木材の写真を図1に示す。
【0061】
図1に示すとおり、比較例2の薬液(タンニン/樹脂比率100%)を用いて得た黒色化木材は、色相のムラが見られた。これに対し、実施例4の薬液(タンニン/樹脂比率70%)を用いて得た黒色化木材は、色相のムラが見られなかった。
【0062】
<試験例3>
(薬液の調製)
実施例4と同様にして実施例5の薬液を得た。
タンニン/樹脂比率が各々50%、30%となるようにしたこと以外は実施例4と同様にして実施例6、比較例3の薬液を得た。
【0063】
(黒色化の評価2:紙基材での評価)
薬液が色相に与える影響を簡易に評価するため、木材の代わりに紙基材を用いた。紙基材としては、ろ紙(ADVANTECH Pilter Paper 5C 90mm)を用いた。
紙基材を薬液に浸漬して紙基材に薬液を含浸させた。薬液から紙基材を取り出し、乾燥機にて140℃、160℃、180℃又は200℃で10分間加熱して黒色化紙基材を得た。
得られた黒色化紙基材の写真を図2に示す。
また、各黒色化紙基材の色相(L、a、b)を、色差計を用いて測定した。結果を表2に示す。L値が0に近いほど、漆黒性(黒色の濃さ)に優れる。
【0064】
【表2】
【0065】
図2及び表2に示すとおり、同じ薬液を用いた場合、硬化温度(加熱温度)が低い方が漆黒性に優れる傾向がある。硬化温度が同じ場合、実施例5~6の薬液を用いて得た改質紙基材は、比較例3の薬液を用いて得た改質紙基材に比べて漆黒性に優れていた。
【0066】
<試験例4>
(薬液の調製)
Fe/タンニン比率が表3に示す値になるようにしたこと以外は実施例4と同様にして実施例7~9、比較例4~6の薬液を得た。表3中、水溶性鉄塩添加量は、タンニンの固形分に対する水溶性鉄塩の質量割合を示す。
【0067】
(色相の評価)
得られた薬液を用いた以外は試験例2と同様にして黒色化木材を得た。得られた黒色化木材の色相について、黒色の濃さとムラの有無を評価した。結果を表3に示す。黒色が濃く、ムラが見られない場合を「良好」とし、黒色が薄い場合を「薄い」とし、ムラが見られる場合を「ムラ」とした。
【0068】
(液安定性の評価)
第1剤と第2剤との混合後、薬液を40℃の恒温槽に静置し、沈殿物の発生の有無により液安定性を評価した。結果を表3に示す。4時間の静置後に沈殿物の発生が見られない場合を「良好」とし、第1剤と第2剤との混合後まもなく沈殿物が発生した場合を「不安定」とした。
【0069】
【表3】
図1
図2