(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】腸内細菌叢の改善剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/48 20060101AFI20240215BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20240215BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240215BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20240215BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20240215BHJP
A61K 131/00 20060101ALN20240215BHJP
【FI】
A61K36/48
A61P3/00
A61P43/00 111
A61P1/00
A23L33/105
A61K131:00
(21)【出願番号】P 2020059098
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2022-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】591183625
【氏名又は名称】フジッコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 真通
(72)【発明者】
【氏名】難波 文男
(72)【発明者】
【氏名】小阪 英樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 利雄
【審査官】横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-155374(JP,A)
【文献】World J Gastroenterol,2019年,25巻8号,p.955-966
【文献】J Food Drug Anal,2017年,25巻3号,p.478-487
【文献】British Journal of Nutrition,2008年,99巻4号,p.782-792
【文献】The FASEB Journal,2019年,33巻S1号,p.lb542
【文献】J Agric Food Chem,2001年,49巻12号,p.5848-5851
【文献】Food Funct,2018年,9巻10号,p.5362-5370
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00
A23L 33/105
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒大豆種皮ポリフェノールを58質量%以上含む黒大豆種皮抽出物を有効成分として含有する腸内細菌叢の改善剤
であって、
下記(A)~(C)からなる群より選択される少なくとも1つの用途に使用されるものである前記腸内細菌叢の改善剤
:
(A)腸内細菌中のエクオール産生菌の存在割合を増加する用途、
(B)腸内細菌中の短鎖脂肪酸産生菌Blautia属の細菌の存在割合を増加する用途、
(C)腸内細菌中のDesulfovibrionaceae科に属する病原性細菌の存在割合を低減する用途。
【請求項2】
前記エクオール産生菌が、Adlercreutzia属の細
菌である、請求項
1に記載する腸内細菌叢の改善剤。
【請求項3】
前記腸内細菌叢の改善剤が、
腸内の短鎖脂肪酸産生菌Blautia属の細菌の
増加剤であるか、又は/及び、
腸内のDesulfovibrionaceae科に属する病原性細菌の低減剤である、
請求項1
又は2に記載される腸内細菌叢の改善剤。
【請求項4】
黒大豆種皮ポリフェノールを58質量%以上含む黒大豆種皮抽出物を経口組成物に配合して、当該経口組成物に対して腸内細菌叢を改善する作用を付与するための、
前記黒大豆種皮抽出物の使用方法
であって、
腸内細菌叢の改善が下記(A)~(C)の少なくとも1つになるように腸内細菌叢の細菌構成比を調整することである、前記使用方法:
(A)腸内細菌中のエクオール産生菌の存在割合の増加、
(B)腸内細菌中の短鎖脂肪酸産生菌Blautia属の細菌の存在割合の増加、
(C)腸内細菌中のDesulfovibrionaceae科に属する病原性細菌の存在割合の低減。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸内細菌叢を改善するために好適に使用される経口組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
腸内細菌叢は、腸内フローラともいわれ、腸内の細菌が構成する体内の生態系である。腸内細菌叢は、腸管上皮を介して宿主と相互作用しており、例えば、便秘、下痢、感染症、アレルギー性疾患、炎症性腸疾患、肥満及び糖尿病などの種々の疾患に関係することが明らかになっている。腸内細菌叢は、個体毎に異なっており、またその個体の健康状態や摂取する飲食物によっても変化し得ることが知られている。例えば、ヒトの肥満時には、腸内細菌叢でBacteroidetes属の細菌の構成比率が低く、Firmicutes(ファーミキューテス門)に属する細菌の構成比率が高いことが知られている。体重の減少に伴って、Bacteroidetes属の細菌の構成比率が高くなり、Firmicutesに属する細菌の構成比率が低下する。このため、腸内細菌叢を改善することで、その個体の健康状態を良好な状態に改善することができるものと考えられており、そのための研究が種々行われている(例えば、特許文献1~4等)。
【0003】
ところで、短鎖脂肪酸(SCFA)は、腸内細菌によって生成される有機酸であり、ヒトをはじめとする哺乳動物の健康維持に欠かせない役割を果たしていることが知られている。ヒトの場合、酢酸、プロピオン酸、及び酪酸の3種が代表的な短鎖脂肪酸であり、ヒト大腸において腸内細菌により作られ、大腸の粘膜上皮から吸収される。酪酸は、大腸上皮細胞のエネルギー源として、酪酸とプロピオン酸は主に肝臓や筋肉で代謝されて利用される。また、短鎖脂肪酸は、大腸において、腸内のpHを低下させることで病原性微生物が生育しにくい環境とし、腸内細菌叢のバランスを整える効果が知られている。その他、腸管上皮のバリア機能を強化し、感染防御の手助けとなること(以上、非特許文献1)、腸管を刺激して腸の蠕動運動を高めて便通を促す(非特許文献2)等の効果が知られている。こうした短鎖脂肪酸の効果に着目して、腸内での短鎖脂肪酸の生成増加を目指した研究も種々行われている(例えば、特許文献5~6等)。
【0004】
またエクオールは、代表的なイソフラボンであるダイゼインの代謝産物であるO-デスメチルアンゴレンシン(O-DMA)と比較してエストロゲン様作用が高い等の様々な特徴を有する化合物であり、従来から、骨粗鬆症への治療や予防作用(例えば、特許文献7等)、更年期症状の緩和、メタボリックシンドロームの予防、肌のしわやたるみの改善、乳がんなどの予防作用等が報告されている(例えば、非特許文献3等)。またエクオールは、その他にも抗酸化作用(シミの改善、美白)や抗アンドロゲン作用(前立腺がん等の予防、脱毛改善)が報告されている。
【0005】
かかるエクオールは、イソフラボンのアグリコンであるダイゼインが腸内で腸内細菌により代謝されることで生成する代謝物である。しかし、腸内細菌叢や腸内のエクオール産生菌の量は人によって区々であり、体内でエクオールを産生する能力は個人差があることが知られている。このため、腸内細菌叢に影響を与えることで、エクオールの産生効率を高める試みもなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-163980号公報
【文献】特開2018-50526号公報
【文献】特開2018-184363号公報
【文献】特開2018-52896号公報
【文献】特開2004-346043号公報
【文献】特開2019-170335号公報
【文献】特開2005-232074号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Fukuda S, Toh H, Hase K, et al., Nature. 2011: 469: 543-547
【文献】日本家政学会誌 Vol. 44, 4245-4254 (1993)
【文献】「化学と生物」、日本農芸化学会発行,Vol.44,No.3、p.151-153(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、腸内細菌叢を改善するために好適に使用される経口組成物を提供することを課題とする。より詳細には、腸内細菌叢を改善することと同時に、腸内細菌中の短鎖脂肪酸産生菌の存在割合を増加する;腸内細菌中のエクオール産生菌の存在割合を増加する;及び/又は、腸内細菌中の病原性細菌の存在割合を低減することができる、経口組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねていたところ、黒大豆種皮抽出物を摂取すると、腸内細菌叢における細菌構成比が変わり、腸内細菌中のエクオール産生菌の存在割合が増加すること、腸内細菌中の短鎖脂肪酸産生菌の存在割合が増加すること、及び/又は、腸内細菌中の病原性菌の存在割合が低下することを見出した。このことから、黒大豆種皮抽出物を摂取することで、腸内細菌叢が改善されて、健康増進を図ることができると考えられる。
【0010】
本発明はこれらの知見に基づいて完成したものであり、下記の実施形態を包含するものである。
(I)腸内細菌叢の改善剤
(I-1)黒大豆種皮抽出物を有効成分として含有する腸内細菌叢の改善剤。
(I-2)下記(A)~(C)からなる群より選択される少なくとも1つの作用効果を発揮する(I-1)に記載する腸内細菌叢の改善剤:
(A)腸内細菌中のエクオール産生菌の存在割合の増加、
(B)腸内細菌中の短鎖脂肪酸産生菌の存在割合の増加、
(C)腸内細菌中の病原性細菌の存在割合の低減。
(I-3)前記エクオール産生菌が、Adlercreutzia属の細菌、
前記短鎖脂肪酸産生菌が、Parabacteroides属の細菌、Blautia属の細菌、及びRuminococcaceae科に属する細菌からなる群より選択される少なくとも1つの細菌、及び/又は
前記病原性細菌が、Desulfovibrionaceae科に属する細菌である、
(I-2)に記載する腸内細菌叢の改善剤。
(I-4)腸内の短鎖脂肪酸産生菌の増加剤として使用される、(I-1)~(I-3)のいずれか一項に記載される腸内細菌叢の改善剤。
当該(I-4)に記載する発明は、「黒大豆種皮抽出物を有効成分として含有する、腸内の短鎖脂肪酸産生菌の増加剤」と言い換えることができる。
(I-5)腸内の病原性細菌の低減剤として使用される、(I-1)~(I-3)のいずれか一項に記載される腸内細菌叢の改善剤。
当該(I-5)に記載する発明は、「黒大豆種皮抽出物を有効成分として含有する、腸内の病原性細菌の低減剤」と言い換えることができる。
【0011】
(II)黒大豆種皮抽出物の使用方法
(II-1)黒大豆種皮抽出物を経口組成物に配合して、当該経口組成物に対して腸内細菌叢の改善作用を付与するための、黒大豆種皮抽出物の使用方法。
(II-2)前記腸内細菌叢の改善が、下記(A)~(C)の少なくとも1つになるように腸内細菌叢の細菌構成比を調整することである(II-1)の使用方法:
(A)腸内細菌中のエクオール産生菌の存在割合が増加、
(B)腸内細菌中の短鎖脂肪酸産生菌の存在割合が増加、
(C)腸内細菌中の病原性細菌の存在割合が低減。
(II-3)前記エクオール産生菌が、Adlercreutzia属の細菌、
前記短鎖脂肪酸産生菌が、Parabacteroides属の細菌、Blautia属の細菌、及びRuminococcaceae科に属する細菌からなる群より選択される少なくとも1つの細菌、及び/又は
前記病原性細菌が、Desulfovibrionaceae科に属する細菌である、
(II-2)に記載する使用方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の黒大豆種皮抽出物を含有する組成物を経口摂取することで、腸内細菌叢を改善し、腸内細菌叢に存在するエクオール産生菌の割合を増加させることができる。その結果、イソフラボンの存在下において腸内でのエクオール産生を促し、体内のエクオールの量を増大させることができ、エクオールによる薬理学的作用や健康増進作用を享受することができる。
また、本発明の黒大豆種皮抽出物を含有する組成物を経口摂取することで、腸内細菌叢を改善すると同時に、腸内の短鎖脂肪酸産生菌、特にコハク酸産生菌、酢酸・乳酸産生菌、酪酸産生菌の存在割合を増加させることができる。その結果、腸内の短鎖脂肪酸の産生量を増大させ、腸内環境を弱酸性下に改善することができ、短鎖脂肪酸による薬理学的作用や健康増進作用を享受することができる。短鎖脂肪酸は腸内細菌により代謝され腸内細菌叢を増やすことができる。
さらに、本発明の黒大豆種皮抽出物を含有する組成物を経口摂取することで、腸内細菌叢を改善し、腸内の病原性細菌の存在割合を低減させることができる。その結果、腸内の病原性細菌による身体への悪影響を抑止することができ、健康維持に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】黒大豆種皮抽出物を摂取させたマウスの盲腸内容物におけるエクオール産生菌(Adlercreutzia属)の盲腸内存在比(%)を示す。平均値±標準誤差(n=5又は6)、Tukey HSD検定で異なる文字は群間で有意差があることを示す(p<0.05)(
図2及び3も同じ)。
【
図2】黒大豆種皮抽出物を摂取させたマウスの盲腸内容物における短鎖脂肪酸産生菌の盲腸内存在比(%)を示す。(A)コハク酸産生菌(Parabacteroides属の細菌)の盲腸内存在比(%)、(B)酢酸・乳酸産生菌(Blautia属の細菌)の盲腸内存在比(%)、(C)酪酸産生菌(Ruminococcaceae科に属する細菌)の盲腸内存在比(%)。
【
図3】黒大豆種皮抽出物を摂取させたマウスの盲腸内容物における病原性細菌の盲腸内存在比(%)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(I)腸内細菌叢の改善剤
本発明の腸内細菌叢の改善剤(以下、単に「本改善剤」とも称する)は、黒大豆種皮の抽出物、好ましくは可食性の抽出物を有効成分とすることを特徴とする。
【0015】
本発明において用いられる黒大豆とは、マメ科ダイズ属Glycine max(L.)Merrillに属する短日性の一年生草木の黒い種子(子実)(黒大豆)である。黒大豆には、例えば中生光黒、トカチクロ、いわいくろ、玉大黒、丹波黒、信濃黒及び雁喰などの品種があるが、黒大豆であればどの品種の種子を使用しても良い。
【0016】
黒大豆を、例えば分別機等に供することで種皮と胚(子葉および胚軸)とに分別することができる。本発明では当該分別により得られる黒大豆の種皮を加工原料として使用することができる。加工処理に際して、黒大豆の種皮は、分別したそのままの状態(生または乾燥物)のものであっても、またそれを破砕若しくは粉砕した状態のもの(破砕物、粉砕物、及び粉末状物を含む)であってもよい。
【0017】
黒大豆種皮からの抽出方法としては、一般に用いられる方法を利用することができる。制限はされないが、例えば水溶性溶媒中に生または乾燥処理した黒大豆種皮(そのままの形状、若しくは粗末、細切、破砕、粉砕状)を浸漬する方法;必要に応じて攪拌しながら抽出する方法;またはパーコレーション法等を挙げることができる。抽出に使用する温度条件は、特に制限されず、低温、常温、加温条件(高温を含む)のいずれの条件でもよいが、好ましくは加温条件(高温を含む)である。より具体的には、後述の含水低級アルコールで抽出する場合は30℃以上、好ましくは40℃~60℃の範囲であり、制限されないものの、かかる温度条件での抽出を60分以上、好ましくは90分~120分程度行う。また、酸性水溶液で抽出する場合は、50℃以上、好ましくは50~80℃の範囲であり、制限されないものの、かかる温度条件での抽出を10分以上、好ましくは20分~120分程度行う。
【0018】
抽出に使用する水溶性溶媒としては、特に制限されないが、水、低級アルコール、またはこれらの混合物を挙げることができる。低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール及びイソプロピルアルコール、ブタノール等の炭素数1~4の低級アルコールを例示することができる。低級アルコールとして好ましくはエタノールを挙げることができる。水溶性溶媒として好ましくは、水、または含水低級アルコール(特に含水エタノール)であり、より好ましくは水である。尚、含水低級アルコールを溶媒として使用する場合、それに含まれる低級アルコール量は80容量%以下であることが好ましい。
【0019】
抽出に使用する水溶性溶媒は酸性に調整されていることが好ましい。特に制限されないが、水溶性溶媒のpH範囲は、好ましくはpH1~4程度の範囲であり、特にpH1~2の範囲であることが好ましい。水溶性溶媒のpHを、かかる範囲になるように調整するため、通常、有機酸や無機酸などの適当な酸性物質を用いることができる。
【0020】
酸性物質として、具体的には、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸などの無機酸;並びにメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、10-カンファースフホン酸、フルオロスルホン酸(以上、スルホン酸)、ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸(以上、カルボン酸)などの有機酸を挙げることができる。好ましくはスルホ基を有する酸であり、具体的には硫酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、10-カンファースフホン酸、及びフルオロスルホン酸を挙げることができる。中でも好ましくは硫酸である。なお、水溶性溶媒における酸の規定度は、水溶性溶媒が上記pH範囲になるような範囲であれば特に制限されないものの、好ましくは0.01~0.5Nの範囲、より好ましくは0.03~0.5Nの範囲である。
【0021】
本発明の効果を奏することを限度として、得られた抽出液に対し、必要に応じて、さらにろ過、共沈または遠心分離による固形物の除去、抽出処理、吸着処理等の精製処理を行ってもよい。
【0022】
斯くして調製される黒大豆種皮抽出物は、本発明の効果を奏することを限度として、さらに必要に応じて、UHT殺菌、レトルト殺菌処理といった公知の方法による殺菌処理を行ってもよい。
【0023】
本改善剤は、経口投与形態であれば、その形態を特に問わない。また経口投与(経口摂取)形態を有するものである限り、その用途の別(医薬品、医薬部外品、飲食物[特定保健用食品、機能性表示食品、栄養機能性食品などの保健機能性食品やサプリメントを含む])は、特に制限されるものではない。好ましくは飲食物であり、より好ましくは、その作用や効果を標榜することができる特定保健用食品、または機能性表示食品である。また、本改善剤は、ヒト以外の動物(非ヒト動物:家畜や家禽、ペットを含む)を対象とした飼料やペットフードに適用されるものであってもよい。さらに本改善剤は、医薬品、医薬部外品、飲食物、飼料またはペットフードに対して添加される添加剤であってもよい。
【0024】
経口投与形態として、具体的には、上記抽出方法により調製される抽出液を液剤(エキス形態やシロップを含む)またはゼリー剤の形態に調製したもの;抽出液を常法により粉末状または顆粒状に製剤化した散剤、細粒剤、または顆粒剤;液剤や散剤または顆粒剤をカプセルに充填したカプセル剤(硬質カプセル剤、軟質カプセル剤);または粉末または顆粒をさらに打錠して錠剤形態としたものなどを挙げることができる(固形製剤)。
【0025】
本改善剤は、上記黒大豆種皮抽出物と薬学的に、または食品や飼料として許容される従来公知の可食性の担体、賦形剤等を組み合わせて各種剤型(経口投与形態)に調製することもできる。
【0026】
本改善剤を液状製剤の形態とする場合、凍結保存することもでき、また凍結乾燥等により水分を除去して保存してもよい。凍結乾燥製剤やドライシロップ等は、使用時に滅菌水等を加え、再度溶解して使用される。
【0027】
本改善剤を固形剤の形態とする場合、例えば、錠剤の場合であれば、担体として当該分野で従来公知のものを広く使用することができる。このような担体としては、例えば乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、ケイ酸等の賦形剤;水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、アルギン酸ナトリウム等の結合剤;乾燥デンプン、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、クロスポビドン、ポビドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等の崩壊剤;ステアリン、カカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤;第4級アンモニウム塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤;グリセリン等の保湿剤;デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤;精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコール等の滑沢剤等を使用できる。さらに錠剤は、必要に応じ通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠あるいは二重錠、多層錠とすることができる。また、前記有効成分を含有する組成物を、ゼラチン、プルラン、デンプン、アラビアガム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)等を原料とする従来公知のカプセルに充填して、カプセル剤とすることができる。
【0028】
また、丸剤の形態とする場合、担体として当該分野で従来公知のものを広く使用できる。その例としては、例えばブドウ糖、乳糖、デンプン、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルク等の賦形剤、アラビアゴム末、トラガント末、ゼラチン、エタノール等の結合剤、ラミナラン、カンテン等の崩壊剤等を使用できる。
【0029】
上記以外に、添加剤として、例えば、界面活性剤、吸収促進剤、吸着剤、充填剤、防腐剤、安定剤、乳化剤、可溶化剤など、製剤の形態に応じて適宜選択し使用することができる。
【0030】
これらの形態はいずれも当該分野における通常の方法を用いて調製でき、例えば、錠剤は、上記有効成分とその他錠剤を得るために必要な賦形剤等を適宜添加し、よく混合分散させたのち打錠して得ることができる。また、散剤は、上記有効成分とその他散剤を得る為に必要な賦形剤等を適宜添加し、好適な方法にて混合、粉体化して得ることができる。
【0031】
本改善剤は、前述する製剤形態のほか、通常の飲食物の形態を有するものであってもよい。当該飲食物は、前述する黒大豆種皮抽出物または後述する黒大豆種皮抽出物を含有する添加剤を種々の飲食物に添加することにより製造することができる。飲食物は、溶液、懸濁液、乳濁液、ゼリー(ゲル)、ゾル、粉末、固体成形物など、経口摂取可能な形態であればよく、特に限定されない。具体的には、例えば、即席麺、レトルト食品、缶詰、電子レンジ食品、即席スープ・みそ汁類、フリーズドライ食品などの即席食品類;清涼飲料、果汁飲料、野菜飲料、豆乳飲料、コーヒー飲料、茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、栄養飲料、アルコール飲料などの飲料類;パン、パスタ、麺、ケーキミックス、唐揚げ粉、パン粉などの小麦粉製品;飴、キャラメル、チューイングガム、チョコレート、クッキー、ビスケット、ケーキ、パイ、スナック、クラッカー、和菓子、デザート菓子などの菓子類;ソース、トマト加工調味料、風味調味料、調理ミックス、たれ類、ドレッシング類、つゆ類、カレー・シチューの素類などの調味料;加工油脂、バター、マーガリン、マヨネーズなどの油脂類;乳飲料、ヨーグルト類、チーズ、発酵乳、乳酸菌飲料、アイスクリーム類、クリーム類などの乳製品;プリンやマヨネーズなどの卵加工品;魚肉ハム・ソーセージ、水産練り製品などの水産加工品;畜肉ハム・ソーセージなどの畜産加工品;農産缶詰、ジャム・マーマレード類、漬け物、煮豆、シリアルなどの農産加工品;冷凍食品、栄養食品などを挙げることができる。制限されないものの、黒大豆種皮抽出物由来のポリフェノールの沈殿や色味の低下を抑制するという点からは、好ましくは酸性の食品である。
【0032】
また本改善剤は、通常の飼料やペットフードの形態を有するものであってもよい。これらの当該飼料やペットフードも、前述する黒大豆種皮抽出物を種々の飼料やペットフードに添加することにより製造することができる。
【0033】
本改善剤における黒大豆種皮抽出物の含有量は、100質量%を上限として、前述する形態の種類や用途の種類(医薬品、食品、飼料・ペットフード等)等に応じて適宜設定することができる。本改善剤の投与量(摂取量)は、ヒトや動物の種類、被験者の性別や年齢、被験者の状態や症状の程度によって適宜変更され得る。制限されないものの、例えば、ヒト成人一人(体重50kg)に対する1日あたりの投与量(摂取量)は、本改善剤に含まれる黒大豆種皮抽出物(乾燥量)の量に換算して通常10~500mg程度を挙げることができる。通常、一日1回または2~3回に分けて経口投与(摂取)の形態で用いられる。服用時刻は、特に限定されず、例えば朝、昼、晩の食事時のいずれか1以上の時間帯を例示することができる。また制限されないが、食事と一緒、または食前若しくは食後の30分以内であってもよい。
【0034】
(腸内細菌叢改善剤の作用)
本改善剤の対象者は、ヒトまたは非ヒト動物である。好ましくはヒトである。非ヒト動物としては、ペット(愛玩動物)、実験動物、動物園や水族館で飼育されている動物を挙げることができる。本改善剤をヒトまたは非ヒト動物に投与する(摂取させる)ことで、当該ヒトまたは非ヒト動物の腸内細菌叢の細菌構成比を調整して、生体に有益な細菌の存在割合を高め、生体に悪影響のある細菌の存在割合を下げることが可能である。また、高脂肪食を摂取することで生じる腸内細菌叢の細菌構成比の変化、特に生体に悪影響のある細菌の存在割合の増加を低下することで、高脂肪食を摂取する前またはそれに近い状態に戻すか、それ以上によい状態に戻すことが可能である。
【0035】
本改善剤を摂取することで、腸内細菌叢において、例えば、下記の変化が誘導される。
生体に有益な腸内細菌の存在割合の増加
(A)腸内細菌中のエクオール産生菌の存在割合の増加
本改善剤をヒトまたは非ヒト動物が摂取することで、腸内に存在するエクオール産生菌の存在割合を増加することができる。エクオール産生菌は、体内に摂取されたダイゼイン等のイソフラボンを、よりエストロゲン様活性の高いエクオールに変化させる作用を有する。つまり、本改善剤は、体内に取り込まれることで、腸内に存在するエクオール産生菌の存在割合を増加させて、それによりイソフラボンの代謝や活性化を促進することでエクオール産生を促進する。エクオール産生菌としては、好ましくはAdlercreutzia属の細菌、より好ましくはAdlercreutzia equolifaciensを挙げることができる。
【0036】
なお、イソフラボンとは、フラボノイドの一種でありダイゼイン及びその類縁体であるグリシテイン、ゲニステインのアグリコン骨格を基本とする化合物の総称である。イソフラボンにはアグリコンの他、配糖体並びにそのアセチル化体、およびマロニル化体を含む。具体的には、イソフラボンアグリコンとしてダイゼイン、グリシテインおよびゲニステイン、イソフラボン配糖体としてダイジン、グリシチンおよびゲニスチン、イソフラボン配糖体のアセチル化体としてアセチルダイジン、アセチルグリシチンおよびアセチルゲニステイン、イソフラボン配糖体のマロニル化体としてマロニルダイジン、マロニルグリシチンおよびマロニルゲニステインが挙げられる。これらのイソフラボンは1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。イソフラボンを含む可食性素材としては、例えば、イソフラボンを含む植物(例えば、大豆等の豆科植物)のイソフラボン含有部位(大豆、大豆胚軸等)、その処理物(例えば、乾燥物や抽出物)、それらの加工食品(例えば、豆腐、豆乳、発酵豆乳、納豆等)を挙げることができる。
【0037】
このように、本改善剤によれば、ヒトまたは非ヒト動物の腸内細菌叢を改善し、エクオール産生菌の存在割合を増やすように腸内細菌叢の細菌構成比を調整することで、イソフラボンからエクオールの生成を高めてエクオールに基づく作用効果を発揮することが可能になる。なお、エクオールに基づく作用効果としては、制限されないものの、更年期障害の症状(のぼせ・ほてり、頭痛、めまい、自律神経失調症様の症状、頻脈、血圧変動など)の緩和;過酸化脂質産生の抑制;皮脂の過剰分泌の抑制(にきびや吹き出物の予防または改善);がん(乳がん、子宮体がン、前立腺がん、胃がんなど)の予防;II型糖尿病(空腹時血糖値、インスリン耐性)の予防または改善;生活習慣病(糖尿病、高脂血症、動脈硬化、高コレステロールなど)の予防または改善;骨粗鬆症の予防または改善、骨密度の増加、骨中ミネラル濃度の増加;皮膚の老化(肌のハリや弾力性の低下、シミ、シワ、たるみ)の予防または改善;血流改善(冷え症、肩こり、緊張性頭痛、肌のくすみや乾燥などの予防または改善);男性型脱毛の予防または改善等から選択される少なくとも1つの作用効果を期待することができる。
【0038】
(B)腸内細菌中の短鎖脂肪酸産生菌の存在割合の増加
本改善剤をヒトまたは非ヒト動物が摂取することで、腸内に存在する短鎖脂肪酸産生菌の存在割合を増加することができる。具体的には、短鎖脂肪酸産生菌としては、コハク酸を産生するParabacteroides属の細菌、酢酸・乳酸を産生するBlautia属の細菌、及び酪酸を産生するRuminococcaceae科の細菌からなる群より選択される少なくとも1つを挙げることができる。これらの短鎖脂肪酸産生菌によれば、腸内で有用な機能を発揮する短鎖脂肪酸の腸内における存在量を増加させることができる。つまり、本改善剤によれば、ヒトまたは非ヒト動物の腸内細菌叢を改善し、腸内で有用な機能を発揮する短鎖脂肪酸の腸内における存在割合を増やすように腸内細菌叢の細菌構成比を調整することで、短鎖脂肪酸に基づく作用効果を発揮することが可能になる。
腸内における短鎖脂肪酸の作用効果や健康との関わりを下記に説明する。
【0039】
a.有害物質からのバリア機能の強化
酢酸には大腸のバリア機能を高める働きがあると言われている。また酪酸にも、腸管細胞のMUC2遺伝子を活性化することで、粘膜物質であるムチンの分泌を促し、大腸を保護する作用があると言われている。
【0040】
b.発がん予防
短鎖脂肪酸は腸内を弱酸性にすることで有害な二次胆汁酸をできにくくするため、大腸癌の予防につながると言われている。また、酪酸には、大腸細胞の異常な増殖を抑える、アポトーシスを促す、大腸細胞の病変を抑えるなどの作用で大腸癌の発症を抑えるといわれている。
【0041】
c.肥満の予防
短鎖脂肪酸は脂肪細胞にある短鎖脂肪酸受容体に作用して脂肪細胞へのエネルギーの取り込みを抑え、脂肪細胞の肥大化を防ぐ。また、神経細胞にある短鎖脂肪酸受容体にも作用し、交感神経系を介してエネルギー消費を促すなど、エネルギーバランスを整える働きがある。
【0042】
d.糖尿病の予防
酪酸には腸管にあるL細胞に作用して、腸管ホルモンであるGLP-1の分泌を促す作用がある。GLP-1は糖尿病を予防・改善する作用があり、インスリンを分泌する膵臓β細胞数の減少を抑えたり、インスリン分泌を促す作用がある。
【0043】
e.食欲の抑制
酪酸は腸管のL細胞からGLP-1のほかPYYのような腸管ホルモンも分泌する。GLP-1やPYYは、脳に作用して食欲を抑える働きがあり、満腹感を持続させて過食を防ぐことが知られている。
【0044】
f.免疫機能の調節
腸は全身の免疫細胞のおよそ60%が集中し、腸の免疫バランスの崩れ(特に過剰な免疫反応)が全身に影響すると言われている。酪酸には過剰な免疫反応を抑えるTreg細胞という免疫細胞を増やす効果があり、これには酪酸が大腸上皮細胞のヒストンのアセチル化を促進する働きが関与していることが分かっている。また腸の免疫疾患である炎症性腸疾患にも酪酸が有用であるといわれている。さらに自己免疫疾患の予防や改善に腸内に存在する乳酸菌が有用であるといわれている。
【0045】
g.その他
腸内に存在する乳酸菌の割合が増加することにより、前述する自己免疫疾患の予防または改善に加えて、感冒罹患の予防または改善や、善玉菌の増加および悪玉菌の抑制による整腸、下痢、便通等の改善を期待することができる。
【0046】
生体に悪影響のある腸内細菌の存在割合の低減
(C)腸内細菌中の病原性細菌の存在割合の低減
本改善剤をヒトまたは非ヒト動物が摂取することで、腸内に存在する病原性細菌の存在割合を低減することができる。このため、本改善剤によれば、ヒトまたは非ヒト動物の腸内細菌叢を改善し、病原性細菌を減らすように腸内細菌叢の細菌構成比を調整することで、健康の維持増進を図ることが可能になる。
病原性細菌としては、具体的には、Desulfovibrionaceae科の細菌を挙げることができる。なお、高脂肪食の摂取によって腸内細菌叢が崩壊または乱れることが知られている。後述する実験例(
図3参照)に示すように、高脂肪食に見たてた一次胆汁酸を摂取させて、腸内細菌叢を崩壊させることで、腸内細菌叢中のDesulfovibrionaceae科の細菌も増加する。こうした状態であっても、本改善剤を摂取することで、腸内細菌叢中のDesulfovibrionaceae科の細菌を低減することができ、腸内細菌叢をもとの状態またはそれ以上の良好な状態に改善することが可能である。
【0047】
本改善剤を適用する対象者は、上記の作用効果を享受する必要がある者であればよく、この限りにおいて特に制限されない。制限されないものの、一例として、腸内細菌叢の細菌構成比を変える要因である高脂肪食を摂取する者を広く対象とすることができる。好ましくは高脂肪食を好んで摂取する者であり、より好ましくは肥満または肥満傾向がある者である。なお、脂肪食とは、脂肪を多く含む食事であり、厳格に定義するものではないが、総摂取エネルギーのうち脂肪が占める割合(脂肪エネルギー比率)がおおよそ30~40%以上である食事を挙げることができる。例えば、牛バラ、牛ロース、牛挽き肉、コンビーフ(牛)、豚バラ、豚ロース、ベーコン(豚)、ソーセージ(豚)等の肉類;あんきも、鮪トロ、うなぎの蒲焼き、さんま、ぶり等の魚介類;卵黄、生クリーム(乳脂肪性)、及びカマンベールチーズ等の卵・乳製品;クロワッサン、デニッシュペストリ―、コーンスナック、ポテトチップスなどの穀物類;マカデミアンナッツ、落花生、アーモンド、カシューナッツ等のナッツ類;油揚げ、きな粉、マヨネーズ、フレンチドレッシング、オリーブ油、ゴマ油、有塩バター、マーガリン等の油脂含有食材を多く含む食事は、高脂肪食となりやすい。肥満は、BMI(Body Mass Index:体重[kg]/身長[m]の2乗)に基づいて判断され、BMIが30以上を肥満、25以上30未満を肥満傾向(肥満気味)と評価することができる。
【0048】
本改善剤の服用(投与、摂取)により、腸内細菌叢が改善されるか否かは、糞便中に含まれる腸内細菌を解析することで評価、確認することができる。また非ヒト動物を用いて評価する場合は、後述する実験例に示すように、盲腸内容物を用いて腸内細菌叢解析を行うことで評価、確認することができる。
【0049】
(II)黒大豆種皮抽出物の使用方法
本発明はまた、黒大豆種皮抽出物の使用方法を提供する。
その使用方法の1つは、経口組成物に対して、腸内細菌叢を改善する作用を付与するための黒大豆種皮抽出物の使用方法である。
本発明が対象とする腸内細菌叢の改善とは、具体的には、腸内細菌叢における細菌構成比が、(A)腸内細菌中のエクオール産生菌の存在割合が増加、(B)腸内細菌中の短鎖脂肪酸産生菌の存在割合が増加、及び/又は(C)腸内細菌中の病原性細菌の存在割合が低減するように、腸内細菌叢が調整されることを意味する。
エクオール産生菌としては、好ましくはAdlercreutzia属の細菌、より好ましくはAdlercreutzia equolifaciensを挙げることができる。短鎖脂肪酸産生菌としては、コハク酸を産生するParabacteroides属の細菌、酢酸・乳酸を産生するBlautia属の細菌、及び酪酸を産生するRuminococcaceae科の細菌からなる群より選択される少なくとも1つを挙げることができる。病原性細菌としては、具体的には、Desulfovibrionaceae科の細菌を挙げることができる。
【0050】
当該方法は、黒大豆種皮抽出物を、対象とする経口組成物に配合することで実施することができる。なお、黒大豆種皮抽出物に代えて、黒大豆種皮抽出物を有効成分とする前述する本改善剤を用いることもできる。
【0051】
対象とする経口組成物には、人に対して経口的に投与する組成物または人が摂取する組成物、具体的には経口医薬品、経口医薬部外品、及び飲食物が含まれる。好ましくは飲食物である。また非ヒト動物を対象とする場合、経口組成物として、飼料やペットフードを用いることができる。
【0052】
本発明の方法で用いる黒大豆種皮抽出物の原料として使用する黒大豆の種類、黒大豆種皮の取得方法、黒大豆種皮抽出物、特に抽出物の好適な一態様である黒大豆種皮酸性抽出物の調製方法は、上記(I)で説明した通りであり、本欄において援用することができる。経口組成物に対する黒大豆種皮抽出物の配合量は、経口組成物に、腸内細菌によるエクオール産生能を増強する作用が付与できる量であればよく、その限りにおいて特に制限されない。その評価は、被験者に黒大豆種皮抽出物を配合した経口組成物(対象組成物)を継続的に摂取させた場合と、被験者に黒大豆種皮抽出物を配合しない経口組成物(比較組成物)を継続的に摂取させた場合とで、腸内細菌叢の細菌構成比を比較することで行うことができる。対象組成物を継続的に摂取させた場合における腸内細菌叢の細菌構成比が、比較組成物を継続的に摂取させた場合における腸内細菌叢の細菌構成比と比較して、前述する(A)~(C)の傾向のうち少なくとも1つ、好ましくは2つ以上、より好ましくは3つが認められた場合、経口組成物に黒大豆種皮抽出物を配合することで、経口組成物に対して、腸内細菌叢の改善作用が付与されていると判断することができる。
【0053】
以上、本明細書において、「含む」及び「含有する」の用語には、「からなる」及び「から実質的になる」という意味が含まれる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明の構成及び効果について、その理解を助けるために、実験例を用いて本発明を説明する。但し、本発明はこれらの実験例によって何ら制限を受けるものではない。以下の実験は、特に言及しない限り、室温(25±5℃)、及び大気圧条件下で実施した。なお、特に言及しない限り、以下に記載する「%」は「質量%」、「部」は「質量部」を意味する。
【0055】
実験例1 黒大豆種皮抽出物摂取試験(腸内細菌叢に対する影響)
被験動物(マウス)に、黒大豆種皮抽出物を摂取させて、体重、摂食量、盲腸内容物量を測定するとともに、盲腸内容物中からゲノムDNAを抽出し、腸内細菌叢解析を行った。
【0056】
(1)被験動物
動物:雄C57BL/6Jマウス8週齢(日本SLCより購入)
飼育環境:室温25℃、湿度55%、照明は室内の蛍光灯を午前7時~午後7時の12時間周期で点灯した。
飼育期間:動物搬入後、通常食固形試料による2週間の馴化期間を経た後に、各群の平均体重が均等になるように、下記の試験区(a)~(d)に群分けした(各群 n=6~7)。飼育期間中、各飼料と飲料水は自由に摂取させた
【0057】
試験区:
(a)コントロール群:飼料(通常食:固形試料D12450J:Research Diet社、以下同じ。)+飲料水(蒸留水、以下同じ。)を摂取
(b)コントロールA群:飼料(通常食)+0.3%コール酸添加飲料水を摂取
(c)黒大豆種皮抽出物群:飼料(通常食+1.7%黒大豆種皮抽出物)+0.3%コール酸添加飲料水を摂取
【0058】
前記「黒大豆種皮抽出物」としてクロノケア(フジッコ株式会社製)を使用した。なお、クロノケアは、黒大豆種皮ポリフェノールを58質量%以上含む黒大豆種皮の酸性抽出物であり、約15質量%の割合で賦形剤が含まれている。黒大豆種皮ポリフェノールには、例えば、Procyanidin B2、Procyanidin C1、Procyanidin A2、Procyanidin B5、エピカテキン、およびシアニジン-3-グルコシドが含まれる。なお、上記「1.7%黒大豆種皮抽出物」の「1.7%」とは、クロノケア中に含まれる黒大豆種皮抽出物含量に換算した量である。
【0059】
(2)試験方法とその結果
1.体重、摂食量、盲腸内容物量
各試験区の被験動物について、各飼料及び飲用水を2週間自由に摂取させた後に、体重、盲腸内容物量、及び1日あたりの摂食量(g/day/mice)を測定した。結果を、各群の平均値として表1に示す。
【表1】
【0060】
上記表1に示すように、(a)コントロール群、及び(b)コントロールA群の両群と比べて、(c)黒大豆種皮抽出物群において、盲腸内容物量が有意に増加する傾向が認められた。一方、体重及び摂食量は各群間で大きな差は認められなかった。
【0061】
2.盲腸内容物中の腸内細菌叢解析
各試験区の被験動物について、各飼料及び飲用水を2週間自由に摂取させた後に採取した盲腸内容物から、定法に従ってDNAを抽出し、株式会社生物技研に依頼して16S rRNA遺伝子のV3-V4領域を増幅し、Illumina MiSeqによるメタ16S菌叢解析を行った。得られた17サンプルの合計871,376リード(平均51,258リード)QIIME(Quantitave Insights Into Microbial Ecology)を用いて菌叢解析を行った。得られた菌叢解析から、科・属レベルの菌叢構成を求めた。
【0062】
エクオール産生菌であるAdlercreutzia属の細菌の盲腸内存在比(%)を
図1に示す。同様に、短鎖脂肪酸のうちコハク酸を産生する菌(Parabacteroides属の細菌)の盲腸内存在比(%)を
図2(A)、酢酸や乳酸を産生する菌(Blautia属の細菌)の盲腸内存在比(%)を
図2(B)、酪酸を産生する菌(Ruminococcaceae科に属する細菌)の盲腸内存在比(%)を
図2(C)に示す。また、病原性細菌であるDesulfovibrionaceae科に属する細菌の盲腸内存在比(%)を
図3に示す。
【0063】
図1に示すように、(a)コントロール群、及び(b)コントロールA群と比較して、(c)黒大豆種皮抽出物群は、腸内のエクオール産生菌が顕著に増加していることが確認された。また
図2(A)~(C)に示すように、(a)コントロール群、及び(b)コントロールA群と比較して、(c)黒大豆種皮抽出物群は、腸内の短鎖脂肪酸産生菌(コハク酸産生菌、酢酸・乳酸産生菌、酪酸産生菌)が顕著に増加していることが確認された。一方、
図3に示すように、(a)コントロール群、及び(b)コントロールA群と比較して、(c)黒大豆種皮抽出物群は、腸内の病原性細菌が顕著に低下していることが確認された。
【0064】
なお、高脂肪食を摂取しつづけると、腸内細菌叢が崩壊することが知られている。本実験では、高脂肪食の摂取に代えて、被験動物((b)コントロールA群、(c)黒大豆種皮抽出物群)に一次胆汁酸(コール酸)を含む飲料水を摂取させることで、腸内細菌叢を崩壊した状態または崩壊し得る状態で実験を行った。
図1~3に示すように、こうした状態でも、黒大豆種皮抽出物を摂取させることで、腸内のエクオール産生菌や短鎖脂肪酸産生菌などの有用菌が顕著に増加し(
図1及び2参照)、一方、一次胆汁酸を摂取させることで増加した病原性細菌が、黒大豆種皮抽出物を摂取させることで有意に減少した(
図3参照)。これらのことから、黒大豆種皮抽出物を経口的に摂取することで、腸内細菌叢の細菌構成比が改善され、それに応じて健康増進をもたらすことができることが示唆された。