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特許7437225減速機ケース、減速機、及び、減速機ケースの製造方法
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  • 特許-減速機ケース、減速機、及び、減速機ケースの製造方法 図1
  • 特許-減速機ケース、減速機、及び、減速機ケースの製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】減速機ケース、減速機、及び、減速機ケースの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20240215BHJP
   F16H 57/023 20120101ALI20240215BHJP
   F16H 57/032 20120101ALI20240215BHJP
【FI】
F16H1/32 A
F16H57/023
F16H57/032
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020080574
(22)【出願日】2020-04-30
(65)【公開番号】P2021173400
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(72)【発明者】
【氏名】牧角 知祥
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-132363(JP,A)
【文献】特開昭61-024854(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
F16H 57/023
F16H 57/032
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に内歯を有する減速機ケースであって、
前記内歯を含む内歯部と、
前記内歯部を支持するケース本体部と、を備え、
前記内歯部は、前記ケース本体部よりも滑り性に優れた素材で構成され、
前記ケース本体部は、前記内歯部よりも硬度の高い素材で構成され
前記ケース本体部は、少なくとも前記内歯部の径方向外側領域を覆う筒状に形成され、
前記ケース本体部の内周側には、環状溝が形成され、
前記環状溝には、前記内歯が内周側に露出するように、前記内歯部を形成する素材が充填されている減速機ケース。
【請求項2】
前記ケース本体部は、前記内歯部よりも融点の高い素材によって構成されている請求項1に記載の減速機ケース。
【請求項3】
前記内歯部の前記内歯は、柱状の内歯ピンが摺動可能に保持されるピン溝である請求項1または2に記載の減速機ケース。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の減速機ケースと、
前記減速機ケースの内側に配置される減速機構部と、
を備えている減速機。
【請求項5】
内周に内歯を有する減速機ケースの製造方法において、
前記内歯を含む内歯部を、当該内歯部を支持するケース本体部よりも滑り性に優れた素材で構成するとともに、前記ケース本体部を、前記内歯部より硬度の高い素材で構成し、
前記ケース本体部を先に形成しておき、
前記ケース本体部を成形型内にセットして前記内歯部を射出成形する減速機ケースの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速機ケース、減速機、及び、減速機ケースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用ロボットや工作機械等においては、モーター等の回転駆動源の回転を減速するために減速機が用いられる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の減速機は、円筒状の減速機ケースの内周側に内歯である複数のピン溝が配置され、各ピン溝に柱状の内歯ピンが摺動可能に保持されている。減速機ケースの内側に収容された減速機構部の外歯は、複数の内歯ピンと噛み合い、適宜入力回転を減速して出力側に回転を伝達する。減速機ケースの内周側に配置されるピン溝(内歯)は、減速機ケースの内周面に一体に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-109264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の減速機ケースは、そのケースの内周面にピン溝(内歯)が一体に形成されているため、ケースの強度を高めるためにケース全体をアルミニウム合金等によって形成すると、ピン溝(内歯)の滑り性が悪化してしまう。一方、ピン溝(内歯)の滑り性を良好にするために、ケース全体をエンジニアリングプラスチック等によって形成すると、ケース全体の強度を充分に高く維持することが難しくなる。
【0006】
本発明は、全体の強度の低下を抑制しつつ、内歯の滑り性を高めることができる減速機ケース、減速機、及び、減速機ケースの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る減速機ケースは、内周に内歯を有する減速機ケースであって、前記内歯を含む内歯部と、前記内歯部を支持するケース本体部と、を備え、前記内歯部は、前記ケース本体部よりも滑り性に優れた素材で構成され、前記ケース本体部は、前記内歯部よりも硬度の高い素材で構成され、前記ケース本体部は、少なくとも前記内歯部の径方向外側領域を覆う筒状に形成され、前記ケース本体部の内周側には、環状溝が形成され、前記環状溝には、前記内歯が内周側に露出するように、前記内歯部を形成する素材が充填されている。
【0008】
前記ケース本体部は、前記内歯部よりも融点の高い素材によって構成されるようにしても良い。
【0010】
前記内歯部の前記内歯は、柱状の内歯ピンが摺動可能に保持されるピン溝であっても良い。
【0011】
本発明の一態様に係る減速機は、上記のいずれかの減速機ケースと、前記減速機ケースの内側に配置される減速機構部と、を備えている。
【0012】
本発明の一態様に係る減速機ケースの製造方法は、内周に内歯を有する減速機ケースの製造方法において、前記内歯を含む内歯部を、当該内歯部を支持するケース本体部よりも滑り性に優れた素材で構成するとともに、前記ケース本体部を、前記内歯部より硬度の高い素材で構成し、前記ケース本体部を先に形成しておき、前記ケース本体部を成形型内にセットして前記内歯部を射出成形する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一形態に係る減速機ケースは、減速機ケースによって全体の強度を確保し、かつ、内歯部によって内歯の滑り性を確保することができる。したがって、本発明の一形態に係る減速機ケースを採用した場合には、全体の強度の低下を抑制しつつ、内歯の滑り性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態の減速機の縦断面図。
図2】実施形態の減速機ケースの斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態の減速機10の縦断面図である。
本実施形態の減速機10は、例えば、産業用ロボットの関節可動部等にモーター等の回転駆動源とともに用いられる。減速機10の入力側には図示しない回転駆動源が接続されている。
【0016】
減速機10は、略円筒状の減速機ケース11と、減速機ケース11の軸心部に回転可能に配置された入力シャフト12と、入力シャフト12の回転を減速する減速機構部13と、減速機構部13で減速された回転を出力する出力回転体14と、を備えている。
【0017】
減速機ケース11は、ロボットの関節可動部等に取り付けられる主ケース11Aと、主ケース11Aの軸方向の一方の端面に図示しないボルトによって締結固定された円環状の端部ブロック11Bと、を有する。
【0018】
入力シャフト12は、軸方向の一端部側に図示しない回転駆動源が接続され、軸方向の他端部側が出力回転体14の軸心孔14aに軸受16を介して回転可能に支持されている。入力シャフト12は、軸方向の中央領域に、入力シャフト12の中心軸線o1に対して径方向に偏心した一対の偏心部12A,12Bを有する。一対の偏心部12A,12Bは、中心軸線o1の回りに位相が相互に180°ずれるように偏心している。各偏心部12A,12Bは、断面円形状に形成され、その外周面に偏心部軸受17が取り付けられている。
【0019】
減速機構部13は、外周に外歯20を有し、入力シャフト12の回転に応じて揺動回転(旋回)する第1揺動歯車18A及び第2揺動歯車18Bと、主ケース11Aの内周に形成された内歯であるピン溝30と、ピン溝30に保持された複数の内歯ピン19と、を備えている。ピン溝30は、例えば、インボリュート歯によって構成されている。各内歯ピン19は、主ケース11Aの内周のピン溝30に、中心軸線o1と平行になるように転動可能に保持されている。第1揺動歯車18Aと第2揺動歯車18Bは、減速機ケース11の内径よりも若干小さい外径に形成されている。第1揺動歯車18Aと第2揺動歯車18Bの各外周面に形成された外歯20の歯数は、内歯ピン19の数よりも僅かに少なく(例えば、一つ少なく)設定されている。
【0020】
第1揺動歯車18Aと第2揺動歯車18Bの各中心部には、それぞれ所定内径の貫通孔21が形成されている。各貫通孔21には、入力シャフト12の各偏心部12A,12Bに取り付けられた偏心部軸受17が嵌入されている。第1揺動歯車18Aと第2揺動歯車18Bは、偏心部軸受17を介して入力シャフト12の各偏心部12A,12Bに回転可能に支持されている。
【0021】
入力シャフト12が図示しない回転駆動源から駆動力を受けて回転すると、入力シャフト12の各偏心部12A,12Bが所定の半径で同方向に揺動回転(旋回)し、それに伴って第1揺動歯車18Aと第2揺動歯車18Bが同じ半径で同方向に揺動回転(旋回)する。このとき、第1揺動歯車18Aと第2揺動歯車18Bの各外歯20が、主ケース11Aの内周の複数の内歯ピン19と噛み合うように接触する。本実施形態の減速機構部13は、第1揺動歯車18Aと第2揺動歯車18Bの各外歯20の歯数が、主ケース11A側の内歯ピン19の数よりも僅かに少なく設定されているため、第1揺動歯車18Aと第2揺動歯車18Bが一揺動回転(一旋回)する間に、第1揺動歯車18Aと第2揺動歯車18Bが主ケース11A側の内歯ピン19から回転方向の反力を受け、揺動回転方向(旋回方向)と逆方向に所定のピッチ分だけ自転する。したがって、本実施形態の減速機構部13では、入力シャフト12の回転が所定の減速比に減速されて第1揺動歯車18Aと第2揺動歯車18Bを自転させる。
【0022】
出力回転体14は、中心部に軸心孔14aを有する短軸円柱状に形成されている。出力回転体14は、減速機ケース11内の第2揺動歯車18Bと隣接する位置に配置されている。出力回転体14は、例えば、クロスローラーベアリング等の軸受22を介して減速機ケース11に回転可能に支持されている。
【0023】
また、出力回転体14の外周縁部には、複数のピン嵌入孔23が円周方向に等間隔に離間して形成されている。複数のピン嵌入孔23は、出力回転体14の軸心(入力シャフト12の中心軸線o1)を中心とした同心円上に配置されている。各ピン嵌入孔23は、出力回転体14の軸心(入力シャフト12の中心軸線o1)と平行になるように出力回転体14を貫通している。各ピン嵌入孔23には、第1揺動歯車18Aと第2揺動歯車18Bの自転を出力回転体14に伝達するための回転伝達ピン24が嵌入されている。回転伝達ピン24は、略一定外径の軸部24aと、軸部24aの軸方向の一端側から径方向外側に張り出すフランジ部24bと、軸部24aの軸方向の他端側から軸部24aと同軸に突出する雄ねじ部24cと、を有する。雄ねじ部24cは、軸部24aよりも小径に形成され、外周面に雄ねじが切られている。
【0024】
第1揺動歯車18Aと第2揺動歯車18Bの出力回転体14の各ピン嵌入孔23に対応する位置には、ピン嵌入孔23よりも内径の大きい円形の回転伝達孔25が形成されている。第1揺動歯車18Aと第2揺動歯車18Bの各回転伝達孔25には、対応する回転伝達ピン24の軸部24aが挿通されている。回転伝達ピン24の軸部24aは、基部側が出力回転体14のピン嵌入孔23に嵌合され、先端部側が第1揺動歯車18Aと第2揺動歯車18Bの各回転伝達孔25に挿通されている。軸部24aの先端側の外周面には、外周面の摩擦抵抗の小さい一対の摺動リング26が嵌合されている。各摺動リング26は、第1揺動歯車18Aと第2揺動歯車18Bが前述のように揺動回転(旋回)しつつ自転する際に、対応する回転伝達孔25の内面に摺接する。これにより、第1揺動歯車18Aと第2揺動歯車18Bの自転の回転力を回転伝達ピン24に伝達する。回転伝達ピン24に伝達された回転力は、回転伝達ピン24の軸方向の一端側を保持する出力回転体14に伝達される。
【0025】
また、減速機10の出力回転体14の位置される側と逆側の軸方向の端部には、円環状の端部プレート27が配置されている。端部プレート27には、複数の挿通孔28が形成されている。各挿通孔28には、第1揺動歯車18Aの回転伝達孔25から突出した回転伝達ピン24の雄ねじ部24cが挿通されている。挿通孔28から突出した雄ねじ部24cの先端部には締結用のナット29が締め込まれている。これにより、端部プレート27は、複数の回転伝達ピン24の端部に一体に締結固定されている。したがって、端部プレート27は、出力回転体14と常時一体に回転する。
【0026】
図2は、減速機ケース11の主ケース11Aの斜視図である。
主ケース11Aは、内周側に複数のピン溝30を有する略円筒状の内歯部35と、内歯部35を外側から支持するケース本体部36と、を備えている。ケース本体部36は、内歯部35の径方向外側領域と軸方向の両側の側部を覆うように筒状に形成されている。ケース本体部36は、例えば、アルミニウム合金等の比強度の高い軽金属によって構成されている。これに対し、内歯部35は、表面の滑り性に優れたエンジニリングプラスチック等の硬質樹脂によって構成されている。
内歯部35は、ケース本体部36よりも滑り性に優れた素材によって構成され、ケース本体部36は、内歯部35よりも硬度の高い素材によって構成されている。また、ケース本体部36は、内歯部35を構成する素材よりも融点の高い素材によって構成されている。
【0027】
図1にも示すように、ケース本体部36の内周側には、所定の軸方向幅の環状溝40が形成されている。内歯部35は、複数のピン溝30が内周側に露出するようにケース本体部36の環状溝40内に配置されている。
【0028】
主ケース11Aは、例えば、以下のようにして製造することができる。
比強度の高い軽金属から成るケース本体部36を先に鋳造等によって形成しておく。
次に、ケース本体部36を成形型内にセットし、その成形型内に内歯部35を造形するための硬質樹脂を射出する。このとき、内歯部35のピン溝30は、成形型の内面によって造形され、射出された硬質樹脂は、ケース本体部36の環状溝40内に隙間なく充填される。この後、硬質樹脂の硬化を待って成形型内から製品を取り出す。取り出された製品は、ケース本体部36に内歯部35が一体化され、内歯部35のピン溝30は滑らかな射出成形面となる。
なお、内歯部35を構成する樹脂は繊維強化樹脂であっても良い。
【0029】
また、減速機ケース11の端部ブロック11Bは、ピン溝30を持たないため、アルミニウム合金等の比強度の高い軽金属によって鋳造される。なお、主ケース11Aのケース本体部36や端部ブロック11Bは、切削等によって適宜形状が加工される。
【0030】
以上のように本実施形態の減速機ケース11は、内歯部35がケース本体部36よりも滑り性に優れた素材で構成され、ケース本体部36が内歯部35よりも硬度の高い素材で構成されている。このため、ケース本体部36によって全体の強度を確保し、内歯部35によってピン溝30(内歯)の滑り性を高めることができる。したがって、本実施形態の減速機ケース11を採用した場合には、減速機ケース11の強度低下を抑制しつつ、ピン溝30の滑り性を高めることができる。
【0031】
また、本実施形態の減速機ケース11は、ケース本体部36が内歯部35よりも融点の高い素材によって構成されている。このため、上述のように予め造形したケース本体部36を成形型内にセットし、その状態で成形型内に内歯部造形用の樹脂を射出したときに、溶融樹脂の熱によってケース本体部36が変形するのを防ぐことができる。したがって、ケース本体部36を形状を安定させ、減速機ケース11の強度を確保することができる。
【0032】
さらに、本実施形態の減速機ケース11は、ケース本体部36が内歯部35の径方向外側領域を覆う筒状に形成されている。このため、内歯部35の内周側に第1,第2揺動歯車18A,18Bから大きなトルクが作用しても、強度の高い筒状のケース本体部36によって内歯部35の広がり方向(径方向外側方向)の変形を規制することができる。したがって、本実施形態の減速機ケース11を採用した場合には、減速機10の減速精度を高く維持することができる。
【0033】
また、本実施形態の減速機ケース11は、内歯部35のピン溝30に柱状の内歯ピン19が摺動可能に保持される構造とされている。このため、ピン溝30と内歯ピンの滑り性を良好に保ち、減速機10の減速精度をより高めることができる。
【0034】
また、上述した減速機ケースの製造方法は、ケース本体部36を先に形成しておき、ケース本体部36を成形型内にセットして内歯部35を射出成形する。このため、この製造方法を採用した場合には、内歯部35をケース本体部36に密着した状態で一体化することができるうえ、内歯部35のピン溝30(内歯)の表面を成形型に接触する滑らかな射出成形面にすることができる。
【0035】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
例えば、上記の実施形態では、減速機ケース11が主ケース11Aと端部ブロック11Bの二部品から構成されているが、減速機ケースは一部品や三部品以上の部品によって構成するようにしても良い。また、内歯部35とケース本体部36を構成する素材は、例示した素材に限定されるものでなく、例えば、ケース本体部36は鉄系の金属や樹脂によって形成することも可能である。
【符号の説明】
【0036】
10…減速機、11…減速機ケース、13…減速機構部、19…内歯ピン、30…ピン溝(内歯)、35…内歯部、36…ケース本体部。
図1
図2