(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】リポ蛋白コレステロールの定量方法およびキット
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/26 20060101AFI20240215BHJP
C12Q 1/44 20060101ALI20240215BHJP
C12Q 1/28 20060101ALI20240215BHJP
C12Q 1/30 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
C12Q1/26
C12Q1/44
C12Q1/28
C12Q1/30
(21)【出願番号】P 2020096248
(22)【出願日】2020-06-02
【審査請求日】2023-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 康樹
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-174257(JP,A)
【文献】国際公開第2014/048143(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/049518(WO,A1)
【文献】宮本郁弓,他,LDL-C 試薬・KL「コクサイ」の性能評価,Sysmex Journal Web[オンライン],2007年02月26日,pp. 1-7,インターネット:<URL:https://www.sysmex.co.jp/products_solutions/library/journal/vol8_no1/bfvlfm000000d5id-att/vol8_1_04.pdf>,[検索日 2021.07.15]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リポ蛋白中コレステロールを2つの工程で定量する方法において用いる、
(1)コレステロールエステラーゼ、コレステロールオキシダーゼを有し、測定対象以外のリポ蛋白中のコレステロールを反応系外に導くための第1試薬組成物と、
(2)測定対象リポ蛋白中コレステロールを定量するための第2試薬組成物と、
を含む被検体試料中のリポ蛋白
中コレステロール定量キットであって、
第1試薬組成物および第2試薬組成物のいずれかに、少なくともカップラー、鉄錯体、ペルオキシダーゼ、水素供与体および界面活性剤が含まれ、カップラーと水素供与体が同一の試薬組成物中に含まれることはなく、第1試薬組成物および第2試薬組成物のいずれかの試薬組成物において同一試薬組成物中にカップラー、鉄錯体、およびペルオキシダーゼを共存させないことを特徴とするリポ蛋白
中コレステロール定量キット。
【請求項2】
リポ蛋白中コレステロールを2つの工程で定量する方法において用いる、
(1)コレステロールエステラーゼ、コレステロールオキシダーゼを有し、測定対象以外のリポ蛋白中のコレステロールを反応系外に導くための第1試薬組成物と、
(2)リポ蛋白中コレステロールを定量するための第2試薬組成物と、
を含む被検体試料中のリポ蛋白
中コレステロール定量キットであって、
第1試薬組成物および第2試薬組成物のいずれかに、少なくともカップラー、鉄錯体、ペルオキシダーゼ、水素供与体および界面活性剤が含まれ、カップラーと水素供与体が同一の試薬組成物中に含まれることはなく、第1試薬組成物および第2試薬組成物のいずれかの試薬組成物において同一試薬組成物中にカップラーおよび鉄錯体を共存させないことを特徴とするキリポ蛋白
中コレステロール定量キット。
【請求項3】
第1試薬組成物がカタラーゼおよびカップラーを含み、第2試薬組成物が、水素供与体、鉄錯体およびペルオキシダーゼを含むことを特徴とする請求項1または2に記載のリポ蛋白
中コレステロール定量キット。
【請求項4】
第1試薬組成物がペルオキシダーゼおよびカップラーを含み、第2試薬組成物が、水素供与体および鉄錯体を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のリポ蛋白
中コレステロール定量キット。
【請求項5】
第1試薬組成物がカタラーゼ、カップラーおよび鉄錯体を含み、第2試薬組成物が、水素供与体およびペルオキシダーゼを含むことを特徴とする請求項1記載のリポ蛋白
中コレステロール定量キット。
【請求項6】
第1試薬組成物がペルオキシダーゼおよび水素供与体を含み、第2試薬組成物が、カップラーおよび鉄錯体を含むことを特徴とする請求項1記載のリポ蛋白
中コレステロール定量キット。
【請求項7】
第1試薬組成物がカタラーゼ、水素供与体および鉄錯体を含み、第2試薬組成物が、ペルオキシダーゼおよびカップラーを含むことを特徴とする請求項1または2に記載のリポ蛋白
中コレステロール定量キット。
【請求項8】
第1試薬組成物がペルオキシダーゼ、水素供与体および鉄錯体を含み、第2試薬組成物が、カップラーを含むことを特徴とする請求項1または2に記載のリポ蛋白
中コレステロール定量キット。
【請求項9】
第1試薬組成物が、さらにカタラーゼを含むことを特徴とする請求項4、6および8のいずれか1項に記載のリポ蛋白
中コレステロール定量キット。
【請求項10】
第1試薬組成物が、さらにリポ蛋白以外のリポ蛋白に作用する界面活性剤を含み、第2試薬組成物がさらに少なくともリポ蛋白に作用する界面活性剤を含むことを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載のリポ蛋白
中コレステロール定量キット。
【請求項11】
測定対象の前記リポ蛋白
中コレステロールが、LDLコレステロール、HDLコレステロール、HDL3コレステロール、レムナントコレステロールまたはapoE containing HDL-コレステロールである、請求項1~10のいずれか1項に記載のリポ蛋白
中コレステロール定量キット。
【請求項12】
第1試薬組成物に含まれる界面活性剤がポリオキシエチレン多環フェニルエーテル誘導体またはポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマーを含むことを特徴とする請求項10または11に記載のリポ蛋白
中コレステロール定量キット。
【請求項13】
ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル誘導体がポリオキシエチレンベンジルフェニルエーテル誘導体および/またはポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル誘導体を含むことを特徴とする請求項12記載のリポ蛋白
中コレステロール定量キット。
【請求項14】
リポ蛋白中コレステロールを2つの工程で定量する方法であって、
(1)コレステロールエステラーゼ、コレステロールオキシダーゼの存在下で測定対象以外のリポ蛋白中のコレステロールを反応系外に導く第1工程と、
(2)前記第1工程で残存する測定対象リポ蛋白中のコレステロールを定量する第2工程、
を含む被検体試料中のリポ蛋白
中コレステロール定量方法であって、
(1)の工程または(2)の工程のいずれかで、少なくともカップラー、鉄錯体、ペルオキシダーゼ、水素供与体および界面活性剤を用い、カップラーと水素供与体が同一の工程で用いられることはなく、
(1)または(2)いずれかの工程においてカップラー、鉄錯体、およびペルオキシダーゼを同時に用いないことを特徴とするリポ蛋白
中コレステロール定量方法。
【請求項15】
リポ蛋白中コレステロールを2つの工程で定量する方法であって、
(1)コレステロールエステラーゼ、コレステロールオキシダーゼの存在下で測定対象以外のリポ蛋白中のコレステロールを反応系外に導く第1工程と、
(2)前記第1工程で残存する測定対象リポ蛋白中のコレステロールを定量する第2工程、
を含む被検体試料中のリポ蛋白
中コレステロール定量方法であって、(1)または(2)いずれかの工程においてカップラーおよび鉄錯体を同時に用いないことを特徴とするリポ蛋白
中コレステロール定量方法。
【請求項16】
第1工程でカタラーゼおよびカップラーを用い、第2工程で、水素供与体、鉄錯体およびペルオキシダーゼを用いることを特徴とする請求項14または15に記載のリポ蛋白
中コレステロール定量方法。
【請求項17】
第1工程でペルオキシダーゼおよびカップラーを用い、第2工程で、水素供与体および鉄錯体を用いることを特徴とする請求項14または15に記載のリポ蛋白
中コレステロール定量方法。
【請求項18】
第1工程でカタラーゼ、カップラーおよび鉄錯体を用い、第2工程で、水素供与体およびペルオキシダーゼを用いることを特徴とする請求項14記載のリポ蛋白
中コレステロール定量方法。
【請求項19】
第1工程でペルオキシダーゼおよび水素供与体を用い、第2工程で、カップラーおよび鉄錯体を用いることを特徴とする請求項14記載のリポ蛋白
中コレステロール定量方法。
【請求項20】
第1工程でカタラーゼ、水素供与体および鉄錯体を用い、第2工程で、ペルオキシダーゼおよびカップラーを用いることを特徴とする請求項14または15に記載のリポ蛋白
中コレステロール定量方法。
【請求項21】
第1工程でペルオキシダーゼ、水素供与体および鉄錯体を用い、第2工程で、カップラーを用いることを特徴とする請求項14または15に記載のリポ蛋白
中コレステロール定量方法。
【請求項22】
第1工程でさらにカタラーゼを用いることを特徴とする請求項17、19および21のいずれか1項に記載のリポ蛋白
中コレステロール定量方法。
【請求項23】
第1工程で、さらに測定対象以外のリポ蛋白に作用する界面活性剤を含み、第2工程で、さらに少なくとも測定対象リポ蛋白に作用する界面活性剤を用いることを特徴とする請求項14から22のいずれか1項に記載のリポ蛋白
中コレステロール定量方法。
【請求項24】
測定対象の前記リポ蛋白
中コレステロールが、LDLコレステロール、HDLコレステロール、HDL3コレステロール、レムナントコレステロールまたはapoE containing HDL-コレステロールである、請求項14から23のいずれか1項に記載のリポ蛋白
中コレステロール定量方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リポ蛋白中のコレステロール測定方法および試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
コレステロールは細胞の主要な構成成分の1つだが、過剰なコレステロールは血管の内皮細胞下でマクロファージに取り込まれることにより泡沫細胞が形成され、動脈硬化の初期病変を呈することから臨床的に重要な成分である。コレステロールはリポ蛋白の形で血液中に運搬され、リポ蛋白には異なる機能を持ったVLDL、HDL、LDLなどが存在する。また各種リポ蛋白はさらに亜分画に分類される。リポ蛋白亜分画として、HDLは粒子サイズが小さくより高密度なHDL3と粒子サイズが大きく低密度なHDL2に分類される。またHDLはアポリポ蛋白質E(apoE)の含有率の違いからapoE containing HDLとapoE deficient HDLに分けることができる。VLDLには通常のサイズに対し、リポプロテインリパーゼにより分解され、小型化したレムナントが存在する。
【0003】
これらの亜分画を含めたリポ蛋白中コレステロールは汎用の自動分析装置を用いて測定することができる。
【0004】
リポ蛋白中コレステロールの測定技術が報告されている(特許文献1~5を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3164829号公報
【文献】特許第3058602号公報
【文献】特許第5706418号公報
【文献】特許第5706418号公報
【文献】特許第6054051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
リポ蛋白亜分画を含めたリポ蛋白中コレステロールの測定キットとしては、一般的に第1工程で用いられる第1試薬、第2工程で用いられる第2試薬を含む測定キットがあり、測定に必要な成分を第1試薬組成物、第2試薬組成物に分けて存在させる。
【0007】
しかしながら、これらのリポ蛋白中コレステロールを定量する測定キットに含まれる試薬は液状のため時間の経過とともに自然に黄色に発色してくるという問題があり、そのため試薬の保存安定性に問題があった。
【0008】
本発明の目的は、検体の前処理操作をすることなしに、自動分析装置を用いてリポ蛋白中コレステロールを2つの工程で定量する方法において、保管時の試薬の自然発色を抑える方法、およびこの方法に用いられる定量キットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意研究の結果、第1工程で用いる第1試薬組成物、および第2工程で用いる第2試薬組成物に含まれる酵素、水素供与体、カップラー、鉄錯体の各成分の組み合わせをコントロールすることにより、特に試薬中の自然発色を抑えることができ試薬安定性が改善されることを見いだした。
【0010】
すなわち、測定対象以外のリポ蛋白中のコレステロールを消去または保護するための第1試薬組成物、および測定対象リポ蛋白中コレステロールを定量するための第2試薬組成物において、カップラー、鉄錯体、ペルオキシダーゼを同一試薬組成物中に共存させることなく、特に、カップラーと鉄錯体を同一試薬組成物中に共存させることなく前記の成分を2つの試薬組成物中に分けて存在させることにより、試薬の自然発色を抑えることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] リポ蛋白中コレステロールを2つの工程で定量する方法において用いる、
(1)コレステロールエステラーゼ、コレステロールオキシダーゼを有し、測定対象以外のリポ蛋白中のコレステロールを反応系外に導くための第1試薬組成物と、
(2)測定対象リポ蛋白中コレステロールを定量するための第2試薬組成物と、
を含む被検体試料中のリポ蛋白コレステロール定量キットであって、
第1試薬組成物および第2試薬組成物のいずれかに、少なくともカップラー、鉄錯体、ペルオキシダーゼ、水素供与体および界面活性剤が含まれ、カップラーと水素供与体が同一の試薬組成物中に含まれることはなく、第1試薬組成物および第2試薬組成物のいずれかの試薬組成物において同一試薬組成物中にカップラー、鉄錯体、およびペルオキシダーゼを共存させないことを特徴とするリポ蛋白コレステロール定量キット。
[2] リポ蛋白中コレステロールを2つの工程で定量する方法において用いる、
(1)コレステロールエステラーゼ、コレステロールオキシダーゼを有し、測定対象以外のリポ蛋白中のコレステロールを反応系外に導くための第1試薬組成物と、
(2)リポ蛋白中コレステロールを定量するための第2試薬組成物と、
を含む被検体試料中のリポ蛋白コレステロール定量キットであって、
第1試薬組成物および第2試薬組成物のいずれかに、少なくともカップラー、鉄錯体、ペルオキシダーゼ、水素供与体および界面活性剤が含まれ、カップラーと水素供与体が同一の試薬組成物中に含まれることはなく、第1試薬組成物および第2試薬組成物のいずれかの試薬組成物において同一試薬組成物中にカップラーおよび鉄錯体を共存させないことを特徴とするリポ蛋白コレステロール定量キット。
[3]第1試薬組成物がカタラーゼおよびカップラーを含み、第2試薬組成物が、水素供与体、鉄錯体およびペルオキシダーゼを含むことを特徴とする[1]または[2]のリポ蛋白コレステロール定量キット。
[4]第1試薬組成物がペルオキシダーゼおよびカップラーを含み、第2試薬組成物が、水素供与体および鉄錯体を含むことを特徴とする[1]または[2]のリポ蛋白コレステロール定量キット。
[5]第1試薬組成物がカタラーゼ、カップラーおよび鉄錯体を含み、第2試薬組成物が、水素供与体およびペルオキシダーゼを含むことを特徴とする[1]のリポ蛋白コレステロール定量キット。
[6]第1試薬組成物がペルオキシダーゼおよび水素供与体を含み、第2試薬組成物が、カップラーおよび鉄錯体を含むことを特徴とする[1]のリポ蛋白コレステロール定量キット。
[7]第1試薬組成物がカタラーゼ、水素供与体および鉄錯体を含み、第2試薬組成物が、ペルオキシダーゼおよびカップラーを含むことを特徴とする[1]または[2]のリポ蛋白コレステロール定量キット。
[8]第1試薬組成物がペルオキシダーゼ、水素供与体および鉄錯体を含み、第2試薬組成物が、カップラーを含むことを特徴とする[1]または[2]のリポ蛋白コレステロール定量キット。
[9]第1試薬組成物が、さらにカタラーゼを含むことを特徴とする[4]、[6]および[8]のいずれかのリポ蛋白コレステロール定量キット。
[10]第1試薬組成物が、さらにリポ蛋白以外のリポ蛋白に作用する界面活性剤を含み、第2試薬組成物がさらに少なくともリポ蛋白に作用する界面活性剤を含むことを特徴とする[1]から[9]のいずれかのリポ蛋白コレステロール定量キット。
[11]測定対象の前記リポ蛋白コレステロールが、LDLコレステロール、HDLコレステロール、HDL3コレステロール、レムナントコレステロールまたはapoE containing HDL-コレステロールである、[1]から[10]のいずれかのリポ蛋白コレステロール定量キット。
[12]第1試薬組成物に含まれる界面活性剤がポリオキシエチレン多環フェニルエーテル誘導体またはポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマーを含むことを特徴とする[10]または[11]のリポ蛋白コレステロール定量キット。
[13]ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル誘導体がポリオキシエチレンベンジルフェニルエーテル誘導体および/またはポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル誘導体を含むことを特徴とする[12]のリポ蛋白コレステロール定量キット。
【0012】
[14] リポ蛋白中コレステロールを2つの工程で定量する方法であって、
(1)コレステロールエステラーゼ、コレステロールオキシダーゼを有し測定対象以外のリポ蛋白中のコレステロールを反応系外に導く第1工程と、
(2)前記第1工程で残存する測定対象リポ蛋白中のコレステロールを定量する第2工程、
を含む被検体試料中のリポ蛋白コレステロール定量方法であって、
(1)の工程または(2)の工程のいずれかで、少なくともカップラー、鉄錯体、ペルオキシダーゼ、水素供与体および界面活性剤を用い、カップラーと水素供与体が同一の工程で用いられることはなく、
(1)または(2)いずれかの工程においてカップラー、鉄錯体、およびペルオキシダーゼを同時に用いないことを特徴とするリポ蛋白コレステロール定量方法。
[15] リポ蛋白中コレステロールを2つの工程で定量する方法であって、
(1)コレステロールエステラーゼ、コレステロールオキシダーゼの存在下で測定対象以外のリポ蛋白中のコレステロールを反応系外に導く第1工程と、
(2)前記第1工程で残存する測定対象リポ蛋白中のコレステロールを定量する第2工程、
を含む被検体試料中のリポ蛋白コレステロール定量方法であって、(1)または(2)いずれかの工程においてカップラーおよび鉄錯体を同時に用いないことを特徴とするリポ蛋白コレステロール定量方法。
[16]第1工程でカタラーゼおよびカップラーを用い、第2工程で、水素供与体、鉄錯体およびペルオキシダーゼを用いることを特徴とする[14]または[15]のリポ蛋白コレステロール定量方法。
[17]第1工程でペルオキシダーゼおよびカップラーを用い、第2工程で、水素供与体および鉄錯体を用いることを特徴とする[14]または[15]のリポ蛋白コレステロール定量方法。
[18]第1工程でカタラーゼ、カップラーおよび鉄錯体を用い、第2工程で、水素供与体およびペルオキシダーゼを用いることを特徴とする[14]のリポ蛋白コレステロール定量方法。
[19]第1工程でペルオキシダーゼおよび水素供与体を用い、第2工程で、カップラーおよび鉄錯体を用いることを特徴とする[14]のリポ蛋白コレステロール定量方法。
[20]第1工程でカタラーゼ、水素供与体および鉄錯体を用い、第2工程で、ペルオキシダーゼおよびカップラーを用いることを特徴とする[14]または[15]のリポ蛋白コレステロール定量方法。
[21]第1工程でペルオキシダーゼ、水素供与体および鉄錯体を用い、第2工程で、カップラーを用いることを特徴とする[14]または[15]のリポ蛋白コレステロール定量方法。
[22]第1工程でさらにカタラーゼを用いることを特徴とする[17]、[19]および[21]のいずれかのリポ蛋白コレステロール定量方法。
[23]第1工程で、さらに測定対象以外のリポ蛋白に作用する界面活性剤を含み、第2工程で、さらに少なくとも測定対象リポ蛋白に作用する界面活性剤を用いることを特徴とする[14]から[22]のいずれかのリポ蛋白コレステロール定量方法。
[24][11]測定対象の前記リポ蛋白コレステロールが、LDLコレステロール、HDLコレステロール、HDL3コレステロール、レムナントコレステロールまたはapoE containing HDL-コレステロールである、[14]から[23]いずれかのリポ蛋白コレステロール定量方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、測定対象であるリポ蛋白中コレステロールを他の測定対象外のリポ蛋白中コレステロールと分けて分別測定する場合において、2つの試薬組成物の保存中の自然発色を抑え、安定性が改善され安定してリポ蛋白中コレステロールを定量する方法、およびこの方法に用いられる定量キットおよびこの方法を実施するための製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】比較例1における第2試薬組成物の調製直後および保存後の吸収スペクトルを示す図である。
【
図2】比較例2における第1試薬組成物の調製直後および保存後の吸収スペクトルを示す図である。
【
図3a】実施例1における第1試薬組成物の調製直後および保存後の吸収スペクトルを示す図である。
【
図3b】実施例1における第2試薬組成物の調製直後および保存後の吸収スペクトルを示す図である。
【
図4a】実施例2における第1試薬組成物の調製直後および保存後の吸収スペクトルを示す図である。
【
図4b】実施例2における第2試薬組成物の調製直後および保存後の吸収スペクトルを示す図である。
【
図5a】実施例3における第1試薬組成物の調製直後および保存後の吸収スペクトルを示す図である。
【
図5b】実施例3における第2試薬組成物の調製直後および保存後の吸収スペクトルを示す図である。
【
図6a】実施例4における第1試薬組成物の調製直後および保存後の吸収スペクトルを示す図である。
【
図6b】実施例4における第2試薬組成物の調製直後および保存後の吸収スペクトルを示す図である。
【
図7a】実施例5における第1試薬組成物の調製直後および保存後の吸収スペクトルを示す図である。
【
図7b】実施例5における第2試薬組成物の調製直後および保存後の吸収スペクトルを示す図である。
【
図8a】実施例6における第1試薬組成物の調製直後および保存後の吸収スペクトルを示す図である。
【
図8b】実施例6における第2試薬組成物の調製直後および保存後の吸収スペクトルを示す図である。
【
図9a】実施例7における第1試薬組成物の調製直後および保存後の吸収スペクトルを示す図である。
【
図9b】実施例7における第2試薬組成物の調製直後および保存後の吸収スペクトルを示す図である。
【
図10a】実施例8における第1試薬組成物の調製直後および保存後の吸収スペクトルを示す図である。
【
図10b】実施例8における第2試薬組成物の調製直後および保存後の吸収スペクトルを示す図である。
【
図11a】実施例9における第1試薬組成物の調製直後および保存後の吸収スペクトルを示す図である。
【
図11b】実施例9における第2試薬組成物の調製直後および保存後の吸収スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0016】
リポ蛋白は大きくCM、VLDL、LDLおよびHDLに分けられ、各リポ蛋白はさらに亜分画に分けられる。これらの分画および亜分画のいくつかは、粒子サイズまたは比重により区別できる。その粒子サイズの直径は、報告者により異なるがVLDLが30nm~80nm(30nm~75nm)で、LDLが22nm~28nm(19nm~30nm)、HDLが直径7nm~12nm、HDL亜分画であるHDL3は直径7nm~8.5nm、HDL2直径8.5nm~10nmである。比重はVLDLが1.006以下、LDLが1.019~1.063、HDLが1.063~1.21、HDL2が1.063~1.125、HDL3が1.125-1.210である。粒子直径はグラジエントゲル電気泳動(GGE)(JAMA, 260, p.1917-21, 1988)、NMR(HANDBOOK OF LIPOPROTEIN TESTING 2nd Edition、Nader Rifai他編、AACC PRESS:TheFats of Life Summer 2002、LVDD 15 YEAR ANNIVERSARY ISSUE、Volume AVI No.3、p.15-16)により測定でき、比重は超遠心分離による分析(Atherosclerosis, 106, p.241-253, 1994: Atherosclerosis, 83, p.59, 1990)に基づいて決定できる。HDL-コレステロール(HDL-C)、LDLコレステロール(LDL-C)は自動分析装置にて測定できる。
【0017】
HDLはApoEの含量比率の違いからApoE-Containing HDLとApoE deficient HDLの亜分画に分類することが出来る。通常、ApoE-Containing HDLはHDL中にApoEを含有したもの、ApoE deficient HDLはApoEを含有しないものを示す。ApoEが存在するか又は含有量が多いHDLをApoE-rich HDLと呼ぶことがあるが、これもApoE-containing HDLに含まれる。HDL内部に存在するApoE含有量の分布は連続しているので、リポ蛋白中のApoE含有比により、明確にApoE-Containing HDLとApoE deficient HDLを区別できるものではないが、例えばApoE-Containing HDL-C を含めた総HDL-Cを測定できる13%PEG法(J Lipid Research 38, 1204-16: 1997)からApoE-Containing HDL-Cを測定せずにApoE-deficient HDL-Cのみを測定できるリンタングステン酸-デキストラン硫酸-マグネシウム沈殿法(PT-DS-Mg法)(BIOCHEMICAL MEDICINE AND METABOLIC BIOLOGY 46, 329-343 (1991))を差し引くことによりapoE containing HDL-コレステロール(apoE containing HDL-C)を定量することができる。また界面活性剤の濃度による反応性の違いを利用してapoE containing HDL-Cを自動分析装置にて測定できる(Ann Clin Biochem 56, 123-132 (2019))。
【0018】
レムナント(レムナント様リポ蛋白:RLP)はメタボリックシンドロームなどで脂質代謝が滞った場合に発生する特殊リポ蛋白で、CMやVLDLがリポプロテインリパーゼの働きにより分解された代謝産物である。特定のサイズや比重により定義されないが、リポ蛋白中の構成アポ蛋白質に対する抗体の固定化ゲルや、リン脂質分解酵素または界面活性剤等を用いて定量することができる。またコレステロールエステラーゼの分子量による反応性の違いを利用してRLP-コレステロール(RLP-C)を自動分析装置にて測定できる(J Applied Laboratory Medicine 3,26-36, (2018))。
【0019】
本発明においては、HDL-コレステロール(HDL-C)、LDL-コレステロール(LDL-C)、HDL3-コレステロール(HDL3-C)、(RLP-C)、およびapoE containing HDL-Cが測定対象である。
【0020】
本発明の各種リポ蛋白定量キットは、リポ蛋白中コレステロールを2つの工程で定量する方法において用いられる。本発明の定量キットにおいて、第1試薬組成物は第1工程において用いられ、第2試薬組成物は第2工程において用いられる。
【0021】
本発明のリポ蛋白中コレステロール定量キットにおける第1試薬組成物は、コレステロールエステラーゼ、コレステロールオキシダーゼを含み、コレステロールエステラーゼ、コレステロールオキシダーゼの存在下で、測定対象以外のリポ蛋白中コレステロールを反応系外に導く。
【0022】
第1試薬組成物の成分としては、例えばアルブミン、緩衝液、界面活性剤、カタラーゼ、ペルオキシダーゼ、ポリオキシエチレン誘導体からなる界面活性剤、水素供与体、カップラー等を用いることができるが、これらに限定されない。
【0023】
本発明のリポ蛋白中コレステロール定量キットにおける第2試薬組成物は、測定対象リポ蛋白中コレステロールを定量するための成分を含む。第2試薬組成物の成分は、第1試薬組成物によって異なるが、リポ蛋白中コレステロールを定量できる成分であれば特に限定されず、公知の物質を用いることができる。
【0024】
第2試薬組成物の成分としては、例えばペルオキシダーゼ、ポリオキシエチレン誘導体、水素供与体、カップラーを用いることができるが、これらに限定されない。
【0025】
本発明の方法は2工程からなり、第1工程において、測定対象以外のリポ蛋白に作用し得る界面活性剤をコレステロールエステラーゼおよびコレステロールオキシダーゼの存在下で被検体試料に作用させ、リポ蛋白からの遊離により生じたコレステロールをコレステロールオキシダーゼと反応させ反応系外へ導く。この際、測定対象を保護する界面活性剤の存在下で測定対象リポ蛋白コレステロールが反応系外に導かれるのを防ぐことできる。さらに、第2工程において、第1工程で反応せずに残存したリポ蛋白中のコレステロールを定量する。
【0026】
第1試薬組成物および第2試薬組成物のいずれかに、少なくともカップラー、鉄錯体、ペルオキシダーゼ、カタラーゼ、水素供与体および界面活性剤が含まれ、カップラーと水素供与体が同一の試薬組成物中に含まれることはない。
【0027】
本発明の方法は通常、自動分析装置内で行われる。
【0028】
本発明の方法では、リポ蛋白コレステロールの濃度を定量する際に、水素供与体とカップラーをペルオキシダーゼの存在下でカップリング反応させ、生成した色素により特定波長の吸光度を測定する。その際反応促進剤として鉄錯体が使用される。しかしながら、カップラーとペルオキシダーゼ、鉄錯体が同一試薬組成物中に存在すると、試薬が徐々に自然発色し、リポ蛋白コレステロールの定量に影響を及ぼすという問題があった。そこで、本発明ではカップラー、ペルオキシダーゼ、および鉄錯体のうち、いずれかを他とは別の試薬組成物中に存在させることにより試薬の自然発色を抑え安定化させる事が可能となった。ここで、「ペルオキシダーゼが存在する」とは、ペルオキシダーゼ活性を持つ酵素が存在し、ペルオキシダーゼが触媒する反応が起こり得ることをいう。「ペルオキシダーゼが存在する」という語を「ペルオキシダーゼ活性が存在する」ということもできる。コレステロールエステラーゼ、コレステロールオキシダーゼ、カタラーゼについても同様である。ペルオキシダーゼ、コレステロールエステラーゼ、コレステロールオキシダーゼ、カタラーゼを含む場合、これらの活性が働くことにより測定に必要な触媒反応が起こる。従って、これらの酵素の存在は、これらの酵素活性を測定することで証明できる。
【0029】
本発明の方法においては、カップラー、ペルオキシダーゼ活性、および鉄錯体を、第1工程で用いる第1試薬組成物中と第2工程で用いる第2試薬組成物中に以下のように分離して存在させる。
(1)第1工程で用いる第1試薬組成物中にカップラーを存在させ、ペルオキシダーゼ活性および鉄錯体を第2工程で用いる第2試薬組成物中に存在させる。
(2)第1試薬組成物中にカップラーおよびペルオキシダーゼ活性を存在させ、鉄錯体を第2試薬組成物中に存在させる。
(3)第1試薬組成物中にペルオキシダーゼ活性を存在させ、カップラーおよび鉄錯体を第2試薬組成物中に存在させる。
(4)第1試薬組成物中にカップラーおよび鉄錯体を存在させ、ペルオキシダー活性を第2試薬組成物中に存在させる。
(5)第1試薬組成物中にペルオキシダー活性および鉄錯体を存在させ、カップラーゼを第2試薬組成物中に存在させる。
(6)第1試薬組成物中に鉄錯体を存在させ、ペルオキシダー活性およびカップラーゼを第2試薬組成物中に存在させる。
さらに、好ましくは、カップラーと水素供与体は別々の試薬組成物中に分離して存在させる。
【0030】
以下各工程について詳述する。
【0031】
本発明のキットは、測定対象以外のリポ蛋白中のコレステロールを反応系外に導く工程で用いる第1の試薬生成物、および測定対象リポ蛋白中コレステロールを測定する工程で用いる第2試薬生成物を含む。
【0032】
測定対象以外のリポ蛋白中コレステロールを反応系外に導く工程では、測定対象以外のリポ蛋白中コレステロールを消去し反応系外に導く、測定対象以外のリポ蛋白中を凝集させたり、後の工程で反応しないよう阻害したりする等の公知の技術を用いることができる。
【0033】
第1工程である、測定対象以外のリポ蛋白中コレステロールを消去し反応系外に導く工程は以下のいずれかの方法で行われる。
(1)これらのリポ蛋白中コレステロールより、コレステロールエステラーゼおよびコレステロールオキシダーゼにより過酸化水素を生成させ、カタラーゼの存在下で過酸化水素を水と酸素に分解させる方法、
(2)コレステロールエステラーゼおよびコレステロールオキシダーゼにより生じた過酸化水素、ならびにカップラーもしくは水素供与体の存在下で無色キノンを形成させる方法、ならびに
(3)カタラーゼの存在下で過酸化水素を分解させ、かつ同時にカップラーまたは水素供与体の存在下で無色キノンを形成させる方法。
【0034】
(1)のカタラーゼの存在下で過酸化水素を分解させる方法では第1工程を実施する第1試薬組成物中にカタラーゼが存在する必要がある。また、(2)の無色キノンを形成させる方法では少なくともカップラー、水素供与体の一方が第1試薬組成物中に存在している必要があり、さらにペルオキシダーゼが第1試薬組成物中に存在している必要がある。(3)のカタラーゼにより過酸化水素を分解させ、かつそれと同時にカップラーまたは水素供与体の存在下で無色キノンを形成させる方法では、カタラーゼおよびペルオキシダーゼならびにカップラーもしくは水素供与体が第1試薬組成物中に存在している必要がある。
【0035】
本発明で用いるカップリング反応に用いるカップラーとしては例えば4-アミノアンチピリン、アミノアンチピリン誘導体、バニリンジアミンスルホン酸、メチルベンズチアゾリノンヒドラゾン、スルホン化メチルベンズチアゾリノンヒドラゾン等を用いることができるが、これらに限定されない。
【0036】
本発明で用いる水素供与体としてはアニリン誘導体が好ましく、アニリン誘導体としてはN-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メチルアニリン(TOOS)、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメチルアニリン(MAOS)、N-エチル-N-(3-スルホプロピル)-3-メチルアニリン(TOPS)、N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン(HDAOS)、N-(3-スルホプロピル)アニリン(HALPS)、N-(3-スルホプロピル)-3-メトキシ-5-アニリン(HMMPS)、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-4-フルオロ-3,5-ジメトキシアニリン(FDAOS)、N-エチル-N-(3-メチルフェニル)-N’-サクシニルエチレンジアミン(EMSE)等があげられる。水素供与体の使用濃度は反応液中の最終濃度で0.1~8mmol/Lが好ましい。
【0037】
本発明に用いる鉄錯体としてフェロシアン化カリウム、フェロシアン化ナトリウム、ポルフィリン鉄錯体、EDTA-鉄錯体等があげられる。鉄錯体の濃度としては0.001~0.05mmol/Lが望ましい。
【0038】
本発明の方法の測定対象以外のリポ蛋白中コレステロールを消去し、反応系外に導くための第1工程においてはポリオキシエチレン誘導体からなる界面活性剤を用いる。さらに本発明におけるHDL3-C、RLP-C測定では、第1工程で用いる第1試薬組成物中にスフィンゴミエリナーゼが存在していても良い。「スフィンゴミエリナーゼが存在する」とはスフィンゴミエリナーゼ活性を持つ酵素が存在し、スフィンゴミエリンを分解する反応が起こり得ることをいう。「スフィンゴミエリナーゼが存在する」いう語を「スフィンゴミエリナーゼ活性が存在する」ということもできる。ホスフォリパーゼCやホスフォリパーゼDなどのホスフォリパーゼがスフィンゴミエリナーゼ活性を持つ場合は、これらの酵素も含まれる。スフィンゴミエリナーゼの試薬中濃度は0.1~100U/mLが好ましく、0.2~20U/mLがより好ましい。反応時の反応液中の濃度は、0.05~100U/mLが好ましく、0.1~20U/mLがより好ましい。スフィンゴミエリナーゼの好ましい具体例としては、SPC(旭化成社製)、Sphingomyelinase from bacillus cereus、Sphingomyelinase from staphylococcus aureus (SIGMA社製)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
測定対象以外のリポ蛋白中のコレステロールを消去する工程では測定対象以外のリポ蛋白に作用するが測定対象リポ蛋白とは反応しない界面活性剤の存在下で測定対象以外のリポ蛋白コレステロールを消去する。測定対象以外のリポ蛋白に作用反応する界面活性剤として、ポリオキシエチレン誘導体が挙げられる。ポリオキシエチレン誘導体の例としてはポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル誘導体、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマーを挙げることができる。ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル誘導体の好ましい例として、ポリオキシエチレンベンジルフェニル誘導体およびその硫酸エステル塩やポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル誘導体およびその硫酸エステル塩、特殊フェノールエトキシレートが挙げられる。ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル誘導体の具体例として、エマルゲンA-60、エマルゲンA-500、エマルゲンB-66、エマルゲンA-90(以上花王社製)、ニューコール703、ニューコール704、ニューコール706、ニューコール707、ニューコール708、ニューコール709、ニューコール710、ニューコール711、ニューコール712、ニューコール714、ニューコール719、ニューコール723、ニューコール729、ニューコール733、ニューコール740、ニューコール747、ニューコール780、ニューコール610、ニューコール2604、ニューコール2607、ニューコール2609、ニューコール2614(以上日本乳化剤社製)、ノイゲンEA-87、ノイゲンEA-137、ノイゲンEA-157、ノイゲンEA-167、ノイゲンEA-177、ノイゲンEA-197D、ノイゲンEA-207D(以上第一工業製薬社製)、ブラウノンDSP-9、ブラウノンDSP-12.5、ブラウノンTSP-7.5、ブラウノンTSP-16、ブラウノンTSP-50(以上青木油脂社製)等があげられる。ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩の具体例として、ハイテノールNF-08、ハイテノールNF-13、ハイテノールNF-17、ハイテノールNF0825(以上、第一工業製薬社製)、ニューコール707-SF、ニューコール707-SFC、ニューコール707-SN、ニューコール714-SF、ニューコール714-SN、ニューコール723-SF、ニューコール740-SF、ニューコール780-SF、ニューコール2607-SF、2614-SF(以上日本乳化剤社製)等が挙げられる。界面活性剤の試薬中濃度は0.3~5%(w/v)が好ましく、0.5~3%(w/v)がより好ましい。反応時の反応液中の濃度は、0.15~5%が好ましく、0.25~3%(w/v)がより好ましい。なお、試薬中の界面活性剤は、IR、NMR、LC-MS等を組み合わせて解析する方法によって同定できる。界面活性剤のイオン性(非イオン性、陰イオン性、陽イオン性)を確認する方法としては、酸性またはアルカリ性条件での有機溶媒による抽出法、固相抽出法があげられる。界面活性剤の構造を決定する方法としてはLC-MSMS、NMRを用いて解析する方法があげられる。
【0040】
上記測定対象以外のリポ蛋白中のコレステロールを消去する工程においては、測定対象以外のリポ蛋白に作用反応する界面活性剤の存在下で、コレステロールエステラーゼが測定対象以外のリポ蛋白に作用し、生じたコレステロールを、コレステロールオキシダーゼ、等のコレステロールと反応する酵素の存在下で反応させ消去することにより、これらリポ蛋白中のコレステロールを反応系外へ導く。ここで、「界面活性剤が作用(反応)する」とは、界面活性剤がリポ蛋白を分解し、リポ蛋白中のコレステロールが遊離することをいう。例えば「測定対象以外のリポ蛋白に作用(反応)する界面活性剤」という場合、界面活性剤がリポ蛋白に全く作用しないことは要求されず、主に測定対象以外のリポ蛋白に作用すればよい。「消去」とは、被検体試料中の物質を分解し、その分解物が次の工程において検出されないようにすることを意味する。すなわち、「測定対象以外のリポ蛋白中のコレステロールを消去する」とは、被検体試料中の測定対象以外のリポ蛋白を分解し、その分解産物であるこれらリポ蛋白中のコレステロールがその後の工程で検出されないようにすることをいう。
【0041】
本発明において、「反応系外に導く」とは、測定対象以外のリポ蛋白に含まれるコレステロールが測定対象リポ蛋白中コレステロールの定量に影響を及ぼさないように、コレステロールを消去、凝集させたり、後の工程で反応しないよう阻害したりする等のことを言う。
【0042】
当業者ならば、各測定対象リポ蛋白コレステロール以外のリポ蛋白コレステロールを反応系該に導くために適宜適切な界面活性剤を選択することができる。例えば、それぞれの測定対象のリポ蛋白コレステロールに対して以下の界面活性剤を用いることが好ましい。
HDL-C:ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマー
LDL-C:ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル
HDL3-C:ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマー
レムナント-C:ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル
apoE containing HDL-C:ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル
【0043】
上記界面活性剤の存在下でコレステロールエステラーゼ、コレステロールオキシダーゼを作用させコレステロールから過酸化水素を発生させ、発生した過酸化水素は消去される。反応液中のコレステロールエステラーゼ濃度は10~1000U/L程度が好ましい。また、コレステロールオキシダーゼは細菌や酵母由来のものを用いることができ、反応液中のコレステロールオキシダーゼの濃度は100~3500U/L程度が好ましい。さらに、カタラーゼの反応液中の濃度は40~2500U/L程度が好ましい。また、過酸化水素を無色キノンへ転化する場合の反応液中のペルオキシダーゼの濃度は400~2000U/Lが好ましい。
【0044】
測定対象以外のリポ蛋白中コレステロールを消去する工程において、上記界面活性剤およびコレステロールエステラーゼと作用・反応したリポ蛋白中のコレステロールはコレステロールオキシダーゼ等のコレステロール反応酵素と反応させ反応系外へ導くことができる。このような反応により、測定対象以外のリポ蛋白中のコレステロールを反応系外へ導くことにより、その後の工程においては、反応液中にリポ蛋白としては測定対象のみが残存することになる。本発明においては、このように測定対象以外のリポ蛋白を消去し、反応系外へ導き、その後の工程で測定対象以外のリポ蛋白のコレステロールを検出できないようにすることを、「測定対象以外のリポ蛋白と測定対象リポ蛋白を差別化する」ということがある。
【0045】
また測定対象以外のリポ蛋白中コレステロールを消去する工程では測定対象以外のリポ蛋白中コレステロールが完全に消去されていなくても良いが、その場合は測定対象リポ蛋白中コレステロールを定量する工程において、リポ蛋白中コレステロールが選択的に測定されるような界面活性剤を用いれば良い。
【0046】
コレステロールエステラーゼの測定対象以外のリポ蛋白中コレステロールを消去し反応系外に導く工程の反応液中の濃度として10 U/L~10000 U/Lが好ましく、300 U/L~2500U/Lがさらに好ましく、600 U/L~2000 U/Lが特に好ましい。本発明におけるコレステロールエステラーゼとしてはコレステロールエステルを加水分解する酵素であれば特に限定されず、動物または微生物由来のコレステロールエステラーゼを用いることができる。
【0047】
測定対象以外のリポ蛋白中コレステロールを消去する工程の反応液中には、各種リポ蛋白に対する作用を調整するために、任意的にリポ蛋白分解酵素を加えることもできる。リポ蛋白分解酵素としては、リポプロテインリパーゼを用いることができる。リポプロテインリパーゼはリポ蛋白質を分解する能力を有する酵素であれば特に限定されず動物または微生物由来のリポプロテインリパーゼを用いることができる。リポプロテインリパーゼの反応液中の濃度は10~10000U/Lが好ましく、10~5000U/Lがさらに好ましく、10~1000U/Lが特に好ましい。
【0048】
本発明では測定対象以外のリポ蛋白中のコレステロールを反応系外に導く工程において反応せずに残存したリポ蛋白中のコレステロールをその後の第2工程で定量する。この定量工程では従来から用いられている定量方法を用いることができる。例えば、凝集剤を添加して形成された特異的凝集物の含有量を比濁測定によって定量する方法、特異的な抗体による抗原抗体反応を用いる方法、酵素を用い分解生成物を定量する方法等がある。これらのうち、酵素を用い分解生成物を定量する方法が好ましい。
【0049】
該方法においては、コレステロールエステラーゼ、コレステロールオキシダーゼ等のコレステロール測定用酵素を加えてリポ蛋白のコレステロールを遊離・分解し、その反応生成物を定量する。この定量工程の際、第1工程で測定対象以外のリポ蛋白コレステロールが反応系外に導かれている場合は、測定対象のリポ蛋白中のコレステロールを定量するために、少なくとも測定対象リポ蛋白に作用する界面活性剤を用いればよい。少なくとも測定対象リポ蛋白に作用する界面活性剤とは測定対象リポ蛋白のみに作用する界面活性剤でもよいし、測定対象リポ蛋白以外に他のリポ蛋白にも作用する界面活性剤、全てのリポ蛋白に作用する界面活性剤であってもよい。
【0050】
第1工程で測定対象以外のリポ蛋白中のコレステロールが消去されずに、残っている場合は、第2工程では残ったリポ蛋白のうち測定対象のリポ蛋白のみに反応する界面活性剤を用いる必要がある。
【0051】
全てのリポ蛋白に作用する界面活性剤としては、ポリオキシエチレン誘導体をあげることができ、市販の総コレステロール測定用試薬等に用いられている界面活性剤であればどれでも使用することができる。具体的には、例えばポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(エマルゲン909(花王社製)、TritonX100)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(エマルゲン707(花王社製)、エマルゲン709(花王社製))、等が挙げられる。
【0052】
リポ蛋白を定量する工程で用いられる界面活性剤の反応液中の濃度は、好ましくは0.01~10%(w/v)程度であり、さらに好ましくは0.1~5%(w/v)程度である。
【0053】
本発明で用いるコレステロールエステラーゼ活性、コレステロールオキシダーゼ活性、スフィンゴミエリナーゼ活性、ペルオキシダーゼ活性、カタラーゼ活性は以下の方法にて測定できる。以下の記載は例示であり、公知のいかなる方法によっても測定することができる。
【0054】
コレステロールオキシダーゼ活性の測定では、基質液として6mMコレステロール溶液(イソプロパノールに溶解)を用いる。測定対象を2-4U/mLとなるように希釈液(0.1M リン酸緩衝液、TritonX100、pH7.0)を加え、希釈後の溶液3mLを37℃5分加温後に基質液0.05mLを加える。その後、混合液を37℃で反応させ波長240nm吸光度変化量を測定する。本発明では37℃反応後、2分から7分までの吸光度変化量を測定し、コレステロールオキシダーゼ活性を算出した。上記のとおり測定した吸光度変化量から換算した単位量あたりの酵素活性が3U/L以上あれば、測定対象はコレステロールオキシダーゼ活性が存在すると言え、言い換えれば、「コレステロールオキシダーゼ」が含まれているといえる。
【0055】
コレステロールエステラーゼ活性測定では、基質(0.04%リノレン酸コレステロール、1%TritonX100、0.6%コール酸ナトリウム溶液)、300U/mLコレステロールオキシダーゼ溶液、酵素希釈液(20mMリン酸緩衝液、0.5mM EDTA・2Na、2mM MgCl2、0.2% BSA、pH7.5)、反応液(0.06% 4アミノアンチピリン、0.4% フェノール、7.5KU/L ペルオキシダーゼ)を用いる。反応液1.75mLと基質液1.0mLを混合後、37℃で5分加温し、0.1mLコレステロールオキシダーゼ溶液を加える。37℃、2分加温後に希釈液で希釈した測定対象0.1mLを加え、混合液を37℃で反応させ波長500nmの吸光度変化量を測定する。本発明では37℃反応後、0分から3.5分までの吸光度変化量を測定し、コレステロールエステラーゼ活性を算出した。上記のとおり測定した吸光度変化量から換算した単位量あたりの酵素活性が8U/L以上あれば、測定対象はコレステロールエステラーゼ活性が存在すると言え、言い換えれば、「コレステロールエステラーゼ」が含まれているといえる。
【0056】
ペルオキシダーゼ活性測定では反応液1(1.5mM HDAOS、0.05% TritonX100、50mM リン酸緩衝液、pH7.0)、反応液2(5mM 4アミノアンチピリン、0.05% TritonX100、1% 過酸化水素、50mMリン酸緩衝液、pH7.0)、希釈液(50mM リン酸緩衝液、pH7.0)を用いる。0.3mLの反応液1と希釈液で希釈した測定対象0.08mLを混合し37℃で5分加温する。その後0.1mLの反応液2を加え、37℃で反応させ主波長600nm、副波長700nmの吸光度変化量を測定する。本発明では37℃反応後、2分から5分までの吸光度変化量を測定しペルオキシダーゼ活性を算出した。上記のとおり測定した吸光度変化量から換算した単位量あたりの酵素活性が10U/L以上あれば、測定対象はペルオキシダーゼ活性が存在すると言え、言い換えれば、「ペルオキシダーゼ」が含まれているといえる。
【0057】
カタラーゼ活性測定では基質(0.06% 過酸化水素、50mM リン酸緩衝液、pH7.0)を用いる。基質溶液2.9mLを25℃で予備加温後、測定対象0.1mLと混合し、240nmにおける吸光度変化量を測定した。本発明では25℃反応後、0分から3分までの吸光度変化量を測定しカタラーゼ活性を算出した。上記のとおり測定した吸光度変化量から換算した単位量あたりの酵素活性が100U/L以上あれば、測定対象はカタラーゼ活性が存在すると言え、言い換えれば、「カタラーゼ」が含まれているといえる。
【0058】
スフィンゴミエリナーゼ活性測定では、反応液(0.008% スフィンゴミエリン、0.05% TritonX100溶液、10U/mL アルカリ性フォスファターゼ、10U/mL コレステロールオキシダーゼ、2U/mL ペルオキシダーゼ、0.02% 4アミノアンチピリン、0.02% TODB混合液)、反応停止液(1% ドデシル硫酸ナトリウム溶液)、希釈液(10mM トリス緩衝液、0.1% TritonX100、pH8.0)を用いる。反応液0.08mLと希釈液で希釈した測定対象0.003mL を混合し37℃で5分加温後に反応停止液0.16mLを加える。反応停止後に主波長546nm、副波長700nmの吸光度変化量を測定し、スフィンゴミエリナーゼ活性を算出した。上記のとおり測定した吸光度変化量から換算した単位量あたりの酵素活性が2U/L以上あれば、測定対象はスフィンゴミエリナーゼ活性が存在すると言え、言い換えれば、「スフィンゴミエリナーゼ」が含まれているといえる。
【0059】
本発明の方法の測定対象以外のリポ蛋白中コレステロールを消去し反応系外に導く工程において、イオン強度調整剤として1価の陽イオンおよび/または2価の陽イオンまたはそれらの塩をさらに用いることができる。イオン強度調整剤を添加することにより、測定対象リポ蛋白とそれ以外のリポ蛋白を差別化しやすくなる。具体的には塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化マンガン、塩化カルシウム、塩化リチウム、塩化アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カリウム、硫酸リチウム、硫酸アンモニウム、酢酸マグネシウム等を用いることができる。イオン強度調整剤の反応時の濃度は0~100mMが好ましい。
【0060】
なお、試薬中の酵素は以下の方法でも同定できる。すなわち、標的酵素を含む試料をトリプシンで分解することにより得られた断片ペプチドをハイブリッド型質量分析計で検出する。質量分析計により得られたペプチドの質量、および質量分析計内でアルゴンガスと衝突させることにより得られたフラグメントイオンのスペクトル(MS/MSデータ)をデータベース検索(例えばMascot サーチ)することにより蛋白質を同定することができる。試料中のアミノ酸配列由来の断片ペプチドの配列がデータベースに登録されているアミノ酸配列とユニークな配列として一致する場合、対象酵素を含んでいると見なせる。
【0061】
また、試薬中の酵素は以下の方法による定量で同定できる。すなわち、標的酵素をトリプシンで分解することにより得られる断片ペプチドのうち標的酵素に特異的で、かつ質量分析において強いシグナルが得られるペプチドを定量対象ペプチドとして選択する。定量対象ペプチドについて、非標識のペプチドおよび内部標準としての安定同位体で標識したペプチドを化学合成によって作製する。標的酵素を含む試料をトリプシンによって完全に消化し、既知量の安定同位体標識ペプチドを添加して、HPLC に接続した三連四重極型質量分析計(LC-MS/MS)によりMRMモード(多重反応モニタリングモード)で測定する。定量対象ペプチドの非標識ペプチドと既知量の安定同位体標識ペプチドの混合液を同様に測定して内部標準の濃度比とピーク面積比の検量線を作成し、試料中の定量対象ペプチドの絶対量を計算することにより標的酵素を定量することができる。
【0062】
本発明の各工程における、反応温度は2℃~45℃で行うことが好ましく、25℃~40℃で行うことがさらに好ましい。
【0063】
反応時間は各工程とも1~10分間で行うことが好ましく、3~7分で行うことがさらに好ましい。
【0064】
本発明の被検体試料としては、血清、血漿を使用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0065】
本発明で用いる自動分析装置として、例えば、TBA-120FR・200FR(東芝)、JCA-BM1250・1650・2250(日本電子)、HITACHI7180・7170(日立)、AU2700・5800・680(OLYMPUS)、cobas c501・701(Roche)等が挙げられる。
【0066】
測定対象以外のリポ蛋白中コレステロールを消去し反応系外に導く工程、測定対象リポ蛋白を測定する工程の2つの工程がある場合、測定対象以外のリポ蛋白中コレステロールを消去し反応系外に導く工程に用いる試薬組成物には、測定対象以外のリポ蛋白に反応する界面活性剤が含まれる。リポ蛋白以外のリポ蛋白中コレステロールを消去する試薬組成物には、さらに、コレステロールエステラーゼやコレステロールオキシダーゼ等のコレステロールを分解する酵素、水素供与体またはカップラーのいずれか一方、過酸化水素を消去するカタラーゼ等を含ませればよい。測定対象リポ蛋白を測定する工程に用いる試薬組成物には、測定対象リポ蛋白のみに反応する界面活性剤もしくは全てのリポ蛋白に作用する界面活性剤、水素供与体またはカップラーでリポ蛋白以外のリポ蛋白中コレステロールを消去し反応系外に導く工程で用いられていない一方を含ませることができる。この際、第1試薬組成物または第2試薬組成物には、必要に応じて、1価の陽イオン、2価の陽イオンもしくはそれらの塩、またはポリアニオンを添加してもよい。また、第1試薬組成物または第2試薬組成物には、血清アルブミンが含まれていてもよい。各試薬組成物のpHは、中性付近、例えばpH6~pH8、好ましくはpH6.5~7.5であり、緩衝液を添加してpHを調整すればよい。
【0067】
本発明の方法を測定対象以外のリポ蛋白中コレステロールを消去し反応系外に導く工程、測定対象リポ蛋白を測定する工程の順で行う場合、被検体試料に測定対象以外のリポ蛋白中コレステロールを消去させる試薬組成物を添加し反応させ、次いで測定対象リポ蛋白を測定させる試薬組成物を添加し反応させ、吸光度を測定することにより行えばよい。
【0068】
被検体試料の量、各試薬組成物の量は限定されず、各試薬組成物中の試薬の濃度等を考慮して適宜決定できるが、自動分析装置に適用可能な範囲で行う。例えば、被検体試料1~10μL、第1試薬50~300μL、第2試薬25~200μLを用いればよい。
【実施例】
【0069】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
下記実施例および比較例で用いる成分は以下のとおりである。
下記実施例および比較例において、吸収スペクトルの測定には、HITACHI 社製のU-3900を用いた。
【0070】
水素供与体、カップラー、カタラーゼ、フェロシアン化カリウム、ペルオキシダーゼ以外の各種測定対象における第1試薬組成物または第2試薬組成物に含まれる物質の種類および濃度は以下の通りであった。
【0071】
測定対象:HDL-C
第1試薬組成物
BES緩衝液,pH7.0 100mM
コレステロールエステラーゼ 800U/L
コレステロールオキシダーゼ 1400U/L
ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマー 0.1%(w/v)
第2試薬組成物
BES緩衝液,pH7.0 100mM
ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル 1.0%(w/v)
【0072】
測定対象:LDL-C
第1試薬組成物
PIPES緩衝液,pH7.0 50mM
コレステロールエステラーゼ 600U/L
コレステロールオキシダーゼ 500U/L
ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル 0.2%(w/v)
BSA 1.0%(w/v)
第2試薬組成物
PIPES緩衝液,pH7.0 50mM
ポリオキシエチレンアルキルエーテル 1.0%(w/v)
【0073】
測定対象:HDL3-C
第1試薬組成物
BES緩衝液,pH7.0 100mM
コレステロールエステラーゼ 2000U/L
コレステロールオキシダーゼ 300U/L
スフィンゴミエリナーゼ 500U/L
ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマー 0.05%(w/v)
BSA 1.0%(w/v)
第2試薬組成物
BES緩衝液,pH7.0 100mM
ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル 2.0%(w/v)
【0074】
測定対象:RLP-C
第1試薬組成物
PIPES緩衝液,pH6.8 50mM
コレステロールエステラーゼ(高分子;CEBP-M(62kDa)) 5000U/L
コレステロールオキシダーゼ 2500U/L
スフィンゴミエリナーゼ 2500U/L
ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル 0.1%(w/v)
BSA 1.0%(w/v)
第2試薬組成物
PIPES緩衝液,pH6.8 50mM
コレステロールエステラーゼ(低分子;CEN(29.5kDa)) 4000U/L
ポリオキシエチレンアルキルエーテル 0.1%(w/v)
【0075】
測定対象:apoE containing HDL-C
第1試薬組成物
BES緩衝液,pH7.0 100mM
コレステロールエステラーゼ 800U/L
コレステロールオキシダーゼ 1600U/L
ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル 0.067%(w/v)
第2試薬組成物
BES緩衝液,pH7.0 100mM
ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル 1.0%(w/v)
【0076】
[比較例1]
第2工程を行う第2試薬組成物について、上述の各試薬成分に以下の成分を加え調製した。
第2試薬組成物
カップラー(4アミノアンチピリン) 4.0mM
ペルオキシダーゼ 2.4U/mL
フェロシアン化カリウム 0.11mM
アジ化ナトリウム 0.05%(w/v)
【0077】
第2試薬組成物を37℃にて2週間加速保存し、保存中の自然発色について波長320nm~480nmの吸収スペクトルを測定した。
【0078】
図1に調製直後、および37℃にて2週間加速保存した後の吸収スペクトルを示す。
図1に示すように、調製直後(0週)はいずれの測定対象の場合も吸光度の上昇は認められなかった。37℃にて2週間加速保存後の試薬は、360nm付近に極大吸収を示すピークが発生(試薬が淡黄色)した。37℃加速では1週間の保存が冷蔵1.5年間の保存と同等であった。
【0079】
[比較例2]
第1工程を行う第1試薬組成物について、上述の各試薬成分に以下の成分を加え調製した。
第1試薬組成物
カップラー(4アミノアンチピリン) 1.3mM
ペルオキシダーゼ 1.7U/mL
フェロシアン化カリウム 0.04mM
【0080】
第1試薬組成物を37℃にて2週間加速保存し、保存中の自然発色について波長320nm~480nmの吸収スペクトルを測定した。
【0081】
図2に調製直後および37℃にて2週間加速保存した後の吸収スペクトルを示す。
図2に示すように、調製直後(0週)はいずれの測定対象の場合も吸光度の上昇は認められなかった。37℃保存後の試薬は、360nm付近に極大吸収を示すピークが発生(試薬が淡黄色)した。
【0082】
[実施例1]
第1工程を行う第1試薬組成物、および第2工程を行う第2試薬組成物について、上述の各試薬成分に以下の成分を加え調製した。
第1試薬組成物
カタラーゼ 1200U/mL
4-アミノアンチピリン 1.3mM
第2試薬組成物
水素供与体
(HDAOS:HDL-C、apoE containing HDL-C) 2.1mM
(TOOS:LDL-C、HDL3-C、レムナント-C) 6.0mM
フェロシアン化カリウム 0.11mM
ペルオキシダーゼ 5.0U/mL
アジ化ナトリウム 0.05%(w/v)
【0083】
第1試薬組成物および第2試薬組成物を37℃にて2週間加速保存し、保存中の自然発色について320nm~480nmの吸収スペクトルを測定し、比較例1、2と比較した。
【0084】
図3aに調製直後、および37℃にて2週間加速保存した後の第1試薬組成物の吸収スペクトルを、
図3bに第2試薬組成物の吸収スペクトルを示す。
図3a、
図3bに示すように、調製直後(0週)および37℃にて2週間加速保存した後も大きな違いはなく、比較例1、2に比べ360nm付近の極大吸収を示すピークが減少、消失した。
【0085】
[実施例2]
第1工程を行う第1試薬組成物、および第2工程を行う第2試薬組成物について、上述の各試薬成分に以下の成分を加え調製した。
第1試薬組成物
ペルオキシダーゼ 1.7U/mL
4-アミノアンチピリン 1.3mM
第2試薬組成物
水素供与体
(HDAOS:HDL-C、apoE containing HDL-C) 2.1mM
(TOOS:LDL-C、HDL3-C、レムナント-C) 6.0mM
フェロシアン化カリウム 0.11mM
【0086】
第1試薬組成物および第2試薬組成物を37℃にて2週間加速保存し、保存中の自然発色について320nm~480nmの吸収スペクトルを測定し、比較例1、2と比較した。
【0087】
図4aに調製直後、および37℃にて2週間加速保存した後の第1試薬組成物の吸収スペクトルを、
図4bに第2試薬組成物の吸収スペクトルを示す。
図4a、
図4bに示すように、調製直後(0週)および37℃にて2週間加速保存した後も大きな違いはなく、比較例1、2に比べ360nm付近の極大吸収を示すピークが減少、消失した。
【0088】
[実施例3]
第1工程を行う第1試薬組成物、および第2工程を行う第2試薬組成物について、上述の各試薬成分に以下の成分を加え調製した。
第1試薬組成物
4-アミノアンチピリン 1.3mM
フェロシアン化カリウム 0.04mM
カタラーゼ 1200U/mL
第2試薬組成物
水素供与体
(HDAOS:HDL-C、apoE containing HDL-C) 2.1mM
(TOOS:LDL-C、HDL3-C、レムナント-C) 6.0mM
アジ化ナトリウム 0.05%(w/v)
ペルオキシダーゼ 5.0U/mL
【0089】
第1試薬組成物および第2試薬組成物を37℃にて2週間加速保存し、保存中の自然発色について320nm~480nmの吸収スペクトルを測定し、比較例1、2と比較した。
【0090】
図5aに調製直後、および37℃にて2週間加速保存した後の第1試薬組成物の吸収スペクトルを、
図5bに第2試薬組成物の吸収スペクトルを示す。
図5a、
図5bに示すように、調製直後(0週)および37℃にて2週間加速保存した後も大きな違いはなく、比較例1、2に比べ360nm付近の極大吸収を示すピークが減少、消失した。
【0091】
[実施例4]
第1工程を行う第1試薬組成物、および第2工程を行う第2試薬組成物について、上述の各試薬成分に以下の成分を加え調製した。
第1試薬組成物
ペルオキシダーゼ 1.7U/mL
水素供与体
(HDAOS:HDL-C、apoE containing HDL-C) 0.7mM
(TOOS:LDL-C、HDL3-C、レムナント-C) 2.0mM
第2試薬組成物
4-アミノアンチピリン 4.0mM
フェロシアン化カリウム 0.11mM
【0092】
第1試薬組成物および第2試薬組成物を37℃にて2週間加速保存し、保存中の自然発色について320nm~480nmの吸収スペクトルを測定し、比較例1、2と比較した。
【0093】
図6aに調製直後、および37℃にて2週間加速保存した後の第1試薬組成物の吸収スペクトルを、
図6bに第2試薬組成物の吸収スペクトルを示す。第1試薬組成物(
図6a)では調製直後(0週)および37℃にて2週間加速保存した後も大きな違いはなく、第2試薬組成物(
図6b)では、2週後にやや360nm付近の極大吸収を示すピークが高かったが、比較例1、2に比べ360nm付近の極大吸収を示すピークが減少、消失した。
【0094】
[実施例5]
第1工程を行う第1試薬組成物、および第2工程を行う第2試薬組成物について、上述の各試薬成分に以下の成分を加え調製した。
第1試薬組成物
水素供与体
(HDAOS:HDL-C、apoE containing HDL-C) 0.7mM
(TOOS:LDL-C、HDL3-C、レムナント-C) 2.0mM
フェロシアン化カリウム 0.04mM
カタラーゼ 1200U/mL
第2試薬組成物
4-アミノアンチピリン 4.0mM
ペルオキシダーゼ 5.0U/mL
アジ化ナトリウム 0.05%(w/v)
【0095】
第1試薬組成物および第2試薬組成物を37℃にて2週間加速保存し、保存中の自然発色について320nm~480nmの吸収スペクトルを測定し、比較例1、2と比較した。
【0096】
図7aに調製直後、および37℃にて2週間加速保存した後の第1試薬組成物の吸収スペクトルを、
図7bに第2試薬組成物の吸収スペクトルを示す。
図7a、
図7bに示すように、調製直後(0週)および37℃にて2週間加速保存した後も大きな違いはなく、比較例1、2に比べ360nm付近の極大吸収を示すピークが減少、消失した。
【0097】
[実施例6]
第1工程を行う第1試薬組成物、および第2工程を行う第2試薬組成物について、上述の各試薬成分に以下の成分を加え調製した。
第1試薬組成物
水素供与体
(HDAOS:HDL-C、apoE containing HDL-C) 0.7mM
(TOOS:LDL-C、HDL3-C、レムナント-C) 2.0mM
フェロシアン化カリウム 0.04mM
ペルオキシダーゼ 1.7U/mL
第2試薬組成物
4-アミノアンチピリン 4.0mmol/L
【0098】
第1試薬組成物および第2試薬組成物を37℃にて2週間加速保存し、保存中の自然発色について320nm~480nmの吸収スペクトルを測定し、比較例1、2と比較した。
【0099】
図8aに調製直後、および37℃にて2週間加速保存した後の第1試薬組成物の吸収スペクトルを、
図8bに第2試薬組成物の吸収スペクトルを示す。
図8a、
図8bに示すように、調製直後(0週)および37℃にて2週間加速保存した後も大きな違いはなく、比較例1、2に比べ360nm付近の極大吸収を示すピークが減少、消失した。
【0100】
[実施例7]
第1工程を行う第1試薬組成物、および第2工程を行う第2試薬組成物について、上述の各試薬成分に以下の成分を加え調製した。
第1試薬組成物
4-アミノアンチピリン 1.3mM
ペルオキシダーゼ 1.7U/mL
カタラーゼ 1200U/mL
第2試薬組成物
水素供与体
(HDAOS:HDL-C、apoE containing HDL-C) 2.1mM
(TOOS:LDL-C、HDL3-C、レムナント-C) 6.0mM
フェロシアン化カリウム 0.11mM
アジ化ナトリウム 0.05%(w/v)
【0101】
第1試薬組成物および第2試薬組成物を37℃にて2週間加速保存し、保存中の自然発色について320nm~480nmの吸収スペクトルを測定し、比較例1、2と比較した。
【0102】
図9aに調製直後、および37℃にて2週間加速保存した後の第1試薬組成物の吸収スペクトルを、
図9bに第2試薬組成物の吸収スペクトルを示す。
図9a、
図9bに示すように、調製直後(0週)および37℃にて2週間加速保存した後も大きな違いはなく、比較例1、2に比べ360nm付近の極大吸収を示すピークが減少、消失した。
【0103】
[実施例8]
第1工程を行う第1試薬組成物、および第2工程を行う第2試薬組成物について、上述の各試薬成分に以下の成分を加え調製した。
第1試薬組成物
水素供与体
(HDAOS:HDL-C、apoE containing HDL-C) 0.7mM
(TOOS:LDL-C、HDL3-C、レムナント-C) 2.0mM
ペルオキシダーゼ 1.7U/mL
カタラーゼ 1200U/mL
第2試薬組成物
4-アミノアンチピリン 4.0mM
フェロシアン化カリウム 0.11mM
アジ化ナトリウム 0.05%(w/v)
【0104】
第1試薬組成物および第2試薬組成物を37℃にて2週間加速保存し、保存中の自然発色について320nm~480nmの吸収スペクトルを測定し、比較例1、2と比較した。
【0105】
図10aに調製直後、および37℃にて2週間加速保存した後の第1試薬組成物の吸収スペクトルを、
図10bに第2試薬組成物の吸収スペクトルを示す。第1試薬組成物(
図10a)では調製直後(0週)および37℃にて2週間加速保存した後も大きな違いはなく、第2試薬組成物(
図10b)では、2週後にやや360nm付近の極大吸収を示すピークが高かったが、比較例1、2に比べ360nm付近の極大吸収を示すピークが減少、消失した。
【0106】
[実施例9]
第1工程を行う第1試薬組成物、および第2工程を行う第2試薬組成物について、上述の各試薬成分に以下の成分を加え調製した。
第1試薬組成物
水素供与体
(HDAOS:HDL-C、apoE containing HDL-C) 0.7mM
(TOOS:LDL-C、HDL3-C、レムナント-C) 2.0mM
フェロシアン化カリウム 0.04mM
ペルオキシダーゼ 1.7U/mL
カタラーゼ 1200U/mL
第2試薬組成物
4-アミノアンチピリン 4.0mM
アジ化ナトリウム 0.05%(w/v)
【0107】
第1試薬組成物および第2試薬組成物を37℃にて1週間2週間加速保存し、保存中の自然発色について320nm~480nmの吸収スペクトルを測定し、比較例1、2と比較した。
【0108】
図11aに調製直後、及び37℃にて2週間加速保存した後の第1試薬組成物の吸収スペクトルを、
図11bに第2試薬組成物の吸収スペクトルを示す。
図11a、
図11bに示すように、調製直後(0週)および37℃にて2週間加速保存した後も大きな違いはなく、比較例1、2に比べ360nm付近の極大吸収を示すピークが減少、消失した。
【0109】
[検証1]
実施例1から実施例9までの定量キットを用いてリポ蛋白コレステロールを測定した。比較対象法として、HDL-C、LDL-C、HDL3-Cはそれぞれデンカ社製のリポ蛋白コレステロール測定用試薬HDL-EX「生研」、LDL-EX「生研」、HDL3-C“SEIKEN”を、apoE containing HDL-CはAnn Clin Biochem 56, 123-132 (2019)の方法を、レムナント-CはAnn Clin Biochem 56, 123-132 (2019)の方法を用いてリポ蛋白コレステロール濃度を比較した。同じサンプルに対する、各実施例の各リポ蛋白中コレステロールの測定結果と各比較例の測定結果の相関係数を表1に示す。
【0110】
表1に示すように、本実施例の方法は比較対象法と良好な相関関係を示した。
【0111】
【0112】
この検証結果から、本発明の定量キットにより、HDL-C、LDL-C、HDL3-C、レムナント-C、apoE containing HDL-Cが良好に検出できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明のキットおよび方法により、試薬の安定性を損なうことなくリポ蛋白中コレステロールを定量することができる。