(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】マンガン添加ジルコン酸バリウム粒子およびそれを含む有機物分解触媒
(51)【国際特許分類】
C01G 45/00 20060101AFI20240215BHJP
B01J 23/34 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
C01G45/00
B01J23/34 M
(21)【出願番号】P 2020102202
(22)【出願日】2020-06-12
【審査請求日】2022-11-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 洋尚
(72)【発明者】
【氏名】米田 稔
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 秀人
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-195273(JP,A)
【文献】特開2015-229137(JP,A)
【文献】特開昭63-144116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 45/00
B01J 23/34
C01G 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式(I)
BaZr
1-xMn
xO
3-δ
(式中、xは0.08≦x≦0.25を満たす数であり、δは酸素欠損量を示す。)
で表され、結晶子径/比表面積換算粒子径が
0.455~1.090の範囲にあ
り、比表面積が8.2m
2
/g以上である、マンガン添加ジルコン酸バリウム粒子。
【請求項2】
請求項
1に記載のマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子を含む有機物分解触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子に関し、詳しくは、マンガンによるジルコニウムの置換率が8モル%以上であって、微細であり、高結晶性であって、有機物分解触媒として好適に用いることができるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機物を熱分解するための有機物分解触媒としてマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子が既に知られている(特許文献1参照)。上記マンガン添加ジルコン酸バリウム粒子は固相法によって製造されている。即ち、例えば、炭酸バリウムと酸化ジルコニウムと四酸化三マンガン(Mn3O4)をBa:Zr:Mnモル比を1:0.9:0.1として1100℃で熱処理し、得られた粉末を成形した後、1100℃で焼成し、粉砕することによって、ジルコニウムの10モル%がマンガンで置換されたマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子が得られる。
【0003】
マンガン添加ジルコン酸バリウム粒子は、これを有機物分解触媒として用いるには、比表面積が高い微粒子であることが望ましいが、しかし、よく知られているように、一般に、固相法によっては、マンガン添加ジルコン酸バリウム粒子を含めて、ペロブスカイト型複合酸化物を微粒子として得ることは困難である。
【0004】
また、一方、マンガン添加ジルコン酸バリウム粒子において、燃焼活性成分であるマンガンによるジルコニウムの置換率を高めることによって、有機物分解触媒として触媒活性が向上するが、しかし、上記置換率が高くなるにつれて、マンガン添加ジルコン酸バリウム粒子の結晶性が低下する。更に、マンガンの一部がジルコン酸バリウム中に固溶せずに、副生物を生じやすくなり、その結果、得られるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子は上記副生物との混相となる。このように結晶性が低く、又は混相のマンガン添加ジルコン酸バリウムは、有機物分解触媒としての活性が低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、特に、有機物分解触媒として用いられるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子における上述した問題を解決するためになされたものであって、マンガンによるジルコニウムの置換率が8モル%以上であり、比表面積が高く、微細であり、しかも、結晶子径/比表面積換算粒子径が0.3~1.1の範囲にあって、結晶性が高いマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子を提供することを目的とする。
【0007】
特に、本発明は、好ましくは、マンガンによるジルコニウムの置換率が実質的に10モル%以上であり、比表面積が高く、微細であり、結晶子径/比表面積換算粒子径が0.4~1.1の範囲にあって、結晶性が高く、有機物分解触媒として好適に用いることができるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、組成式(I)
BaZr1-xMnxO3-δ
(式中、xは0.08≦x≦0.25を満たす数であり、δは酸素欠損量を示す。)
で表され、結晶子径/比表面積換算粒子径が0.455~1.090の範囲にあり、比表面積が8.2m
2
/g以上であるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子が提供される。
【0009】
本発明によれば、マンガン添加ジルコン酸バリウム粒子は、好ましくは、8m2/g以上の比表面積を有する。
【0010】
更に、本発明によれば、上記マンガン添加ジルコン酸バリウム粒子を含む有機物分解触媒が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子は、マンガンによるジルコニウムの置換率が8モル%以上であり、比表面積が高く、微細であり、結晶子径/比表面積換算粒子径が0.3~1.1の範囲にあって、結晶性が高い。
【0012】
このようなマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子は、高い燃焼触媒活性を有する有機物分解触媒として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施例4と比較例2によるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子のそれぞれの粉末X線回折パターンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明によるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子は、組成式(I)
BaZr1-xMnxO3-δ
(式中、xは0.08≦x≦0.25を満たす数であり、δは酸素欠損量を示す。)
で表され、結晶子径/比表面積換算粒子径が0.3~1.1の範囲にある。
【0015】
本発明において、前記組成式(I)において、Mn/(Zr+Mn)モル比、即ち、xの値をマンガンによるジルコニウムの置換割合といい、Mn/(Zr+Mn)×100をマンガンによるジルコニウムの置換率(モル%)という。
【0016】
マンガンによるジルコニウムの置換割合xが0.08よりも小さいときは、そのようなマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子は有機物分解触媒として高い触媒活性をもたず、一方、xが0.25よりも大きいときは、そのようなマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子は、マンガンを含む副生成物に由来する異相乃至異物を含むこととなり、同様に、有機物分解触媒として高い触媒活性をもたない。
【0017】
上記結晶子径/比表面積換算粒子径は、マンガン添加ジルコン酸バリウム粒子の結晶性の尺度であり、本発明によるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子は、結晶子径/比表面積換算粒子径が0.3~1.1の範囲内にあって、高い結晶性を有する。
【0018】
一般に、粒子は、結晶子径/比表面積換算粒子径が1に近い値である程、幾何学的粒子径と単結晶の大きさが近いために、高結晶性である。
【0019】
通常、粒子における比表面積相当径は結晶子径より大きい。即ち、結晶子径/比表面積換算粒子径の値は1より小さいことが多いが、比表面積相当径は各粒子が真球状であると想定して算出されているため、粒子形状が真球でない場合は、実際の粒子形状との相違が影響し、結晶子径/比表面積換算粒子径の値が1より大きくなることがある。
【0020】
本発明によるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子は、好ましくは、8m2/g以上の比表面積を有し、微細であって、有機物分解触媒として好適に用いることができる。
【0021】
例えば、カーボンブラックを熱分解(燃焼)させる場合、カーボンブラックに熱分解触媒として本発明によるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子を混合し、熱重量分析を行い、カーボンブラックの熱分解挙動の指標として、熱重量変化の微分曲線によるピークトップ温度を活性の指標とすれば、後述するように、比較例によるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子を熱分解触媒として用いた場合に比べて、上記ピークトップ温度は大幅に低く、よって、本発明によるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子を熱分解触媒として用いることによって、カーボンブラックをより少ないエネルギーで燃焼させることができる。
【0022】
本発明による前記組成式(I)で表されるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子は、好ましくは、以下に述べる方法によって得ることができる。
【0023】
即ち、
(a)バリウム水酸化物とジルコニウム水酸化物とマンガン水酸化物と平均粒子径が2.0μm以下であるマンガン添加ジルコン酸バリウムの種結晶を水と共に混合して、第1のスラリーを得る工程、
(b)上記第1のスラリーを水熱反応させて、反応混合物としての第2のスラリーを得る工程、及び
(c)上記第2のスラリーを酸処理した後、水洗処理する工程
を含み、
上記工程(a)において、第1のスラリーの有するMn/(Zr+Mn)モル比を0.08~0.25の範囲とし、Ba/(Zr+Mn)モル比を1.0~2.0の範囲とするものである。
【0024】
上記工程(a)において、上記第1のスラリーの有するMn/(Zr+Mn)モル比が0.08よりも小さい値にてジルコニウム水酸化物とマンガン水酸化物を用いるときは、高い触媒活性を有する有機物分解触媒としてのマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子を得ることができない。一方、上記工程(a)において、Mn/(Zr+Mn)モル比が0.25よりも大きい値にてジルコニウム水酸化物とマンガン水酸化物を用いるときは、得られるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子が異物乃至異相を含むこととなるので好ましくない。
【0025】
また、上記工程(a)において、上記第1のスラリーの有するBa/(Zr+Mn)モル比が1.0よりも小さい値でバリウム水酸化物とジルコニウム水酸化物とマンガン水酸化物を用いるときは、比表面積の大きいマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子を得難い。しかし、上記Ba/(Zr+Mn)モル比が2.0よりも大きい値にてバリウム水酸化物とジルコニウム水酸化物とマンガン水酸化物を用いるときは、最終的に得られるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子が異相を含むこととなって、好ましくない。
【0026】
上述した本発明によるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子の製造において、上記工程(a)におけるMn/(Zr+Mn)モル比とBa/(Zr+Mn)モル比は、工程(a)において用いたバリウム水酸化物とジルコニウム水酸化物とマンガン水酸化物の量、即ち、仕込み量に基づく。一方、上述した方法によって最終的に得られたマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子におけるMn/(Zr+Mn)モル比は、後述する分析方法に基づく。
【0027】
本発明において、前記組成式(I)において、Mn/(Zr+Mn)モル比、即ち、xの値をマンガンによるジルコニウムの置換割合といい、Mn/(Zr+Mn)×100をマンガンによるジルコニウムの置換率(モル%)という。
【0028】
上述した製造方法によれば、工程(a)において、第1のスラリーの有するMn/(Zr+Mn)モル比を0.8~0.25の範囲とすると共に、Ba/(Zr+Mn)モル比を1.0~2.0の範囲とし、工程(b)にて上記第1のスラリーを水熱反応に供して、第2のスラリーを得、かくして得られた第2のスラリーを酸処理した後、水洗処理して、過剰のバリウム水酸化物を除去することによって、マンガンによるジルコニウム置換率が8モル%以上であり、比表面積が高く、微細であって、結晶子径/比表面積換算粒子径が0.3~1.1の範囲にある、前記組成式(I)で表されるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子を得ることができる。
【0029】
特に、前記工程(a)において、第1のスラリーの有するMn/(Zr+Mn)モル比を0.095~0.22の範囲とすると共に、Ba/(Zr+Mn)モル比を1.0~2.0の範囲とし、その後、同様に、工程(b)にて上記第1のスラリーを水熱反応に供して、第2のスラリーを得、かくして得られた第2のスラリーを酸処理した後、水洗処理して、過剰のバリウム水酸化物を除去することによって、本発明による好ましい態様としてのマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子、即ち、結晶子径/比表面積換算粒子径が0.4~1.1の範囲にある、組成式(Ia)
BaZr1-xMnxO3-δ
(式中、xは0.095≦x≦0.22を満たす数であり、δは酸素欠損量を示す。)
で表されるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子を得ることができる。
【0030】
上記組成式(Ia)で表されるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子においても、置換割合及び置換率に関する定義は前述と同じである。
【0031】
かくして、本発明の好ましい態様によれば、マンガンによるジルコニウム置換率が実質的に10モル%以上であり、比表面積が高く、微細であると共に、結晶子径/比表面積換算粒子径が0.4~1.1の範囲にあり、特に好ましい態様によれば、1に近く、高結晶性であって、有機物分解触媒として好適に用いることができるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子を得ることができる。
【0032】
特に、本発明の好ましい態様によれば、マンガン添加ジルコン酸バリウム粒子は、8m2/g以上の比表面積を有する。
【0033】
上述した本発明によるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子の製造において、上記バリウム水酸化物としては、水酸化バリウムの無水和物、1水和物、8水和物等を用いることができる。
【0034】
上記ジルコニウム水酸化物としては、水酸化ジルコニウムの無水和物や各種水和物の市販品を用いることができる。しかし、上記市販品は、吸水しやすく、不安定である。そこで、上記ジルコニウム水酸化物として、好ましくは、オキシ塩化ジルコニウム、酢酸ジルコニウム等の水溶性ジルコニウム化合物を水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水等のアルカリ性化合物の過剰量と水中で反応させて、ほぼ定量的にジルコニウム水酸化物を生成させ、このようにして得る湿潤ケーキとしてのジルコニウム水酸化物を用いることが好ましい。
【0035】
上記マンガン水酸化物としては、市販品を用いることができるが、しかし、マンガン水酸化物の市販品も吸水しやすく、不安定である。そこで、上記マンガン水酸化物として、好ましくは、塩化マンガン、硝酸マンガン等の水溶性マンガン化合物を水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水等のアルカリ性化合物の過剰量と水中で反応させて、ほぼ定量的にマンガン水酸化物を生成させ、このようにして得る湿潤ケーキとしてのマンガン水酸化物を用いることが好ましい。
【0036】
上記ジルコニウム水酸化物とマンガン水酸化物は、ジルコニウムとマンガンの混合水酸化物の湿潤ケーキを製造し、これを用いてもよい。
【0037】
前記工程(a)において用いる上記マンガン添加ジルコン酸バリウムの種結晶としては、前記組成式(I)で表されるものであれば、いずれでもよいが、しかし、平均粒子径が2.0μm以下であることが好ましい。上記種結晶の平均粒子径が2.0μmを超えるときは、得られるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子の比表面積が小さく、結晶性も低く、有機物分解触媒として高い触媒活性をもたない。種結晶の平均粒子径の下限値は、特に、制限されるものではないが、通常、0.1μmである。
【0038】
上記種結晶は、第1のスラリーの含むマンガンとジルコニウムの合計モル部数100モル部に対して1~20モル部の範囲で用いることが好ましい。種結晶の使用量が第1のスラリーの含むマンガンとジルコニウムの合計モル部数100モル部に対して1モル部を下回るときは、高い比表面積を有するマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子を得ることが困難である。一方、第1のスラリーの含むジルコニウム水酸化物中のジルコニウムのモル部数100モル部に対して20モル部を超える多量の種結晶を用いても、得られるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子の比表面積に変化はなく、かくして、種結晶をこのように多量に加えても、それに見合う効果が得られない。
【0039】
特に、上記種結晶は、第1のスラリーの含むマンガンとジルコニウムの合計モル部数100モル部に対して1~10モル部の範囲で用いることが好ましい。
【0040】
上記工程(b)は、工程(a)において得られた上記第1のスラリーを水熱反応させて、反応生成物としてマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子を含む反応混合物を第2のスラリーとして得る工程である。この水熱反応の温度は、通常、120~300℃の範囲であり、好ましくは、130~250℃の範囲であり、最も好ましくは、150~200℃の範囲である。
【0041】
上記第2のスラリーは、バリウム水酸化物とジルコニウム水酸化物とマンガン水酸化物の水熱反応によって生成したマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子を含む。この場合、Ba/(Zr+Mn)モル比を1.0として、バリウム水酸化物とジルコニウム水酸化物とマンガン水酸化物を水熱反応させても、ジルコニウムやマンガンに比べて、バリウムの反応性が低いことから、通常、得られるマンガン添加ジルコン酸バリウムにおけるBa/(Zr+Mn)モル比は1.0よりも小さく、従って、工程(b)において、水熱反応によって得られた反応混合物中には、未反応のバリウムが水酸化バリウム及び/又は炭酸バリウムとして残存している。
【0042】
そこで、工程(c)において、上記水熱反応によって得られた第2のスラリーに、例えば、硝酸のような酸を加えて酸処理した後、水洗して、得られたマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子から上記未反応のバリウムを、例えば、硝酸バリウムのような水溶性バリウム塩として除去するのである。
【0043】
一方、Ba/(Zr+Mn)モル比を1.0よりも高い条件にてバリウム水酸化物とジルコニウム水酸化物とマンガン水酸化物を水熱反応させても、有機物分解触媒活性に寄与しない水酸化バリウム及び/又は炭酸バリウムがそのまま、得られるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子中に残存して、その単位重量当たりの有機物分解触媒活性に有害な影響を及ぼすおそれがあるので、Ba/(Zr+Mn)モル比を1.0とした場合と同様に、工程(c)において、上記水熱反応によって得られた第2のスラリーを酸処理し、水洗することが好ましい。
【0044】
かくして、上記第2のスラリーを酸処理した後、水洗処理し、必要に応じて、ろ過、乾燥することによって、未反応のバリウムを異相として含まない単相のマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子を得ることができる。
【0045】
上記酸処理に用いる酸は、無機酸、有機酸のいずれでもよい。通常、硝酸、塩酸、酢酸等が好ましく用いられて、上記第2のスラリーpH5程度を有するように酸処理される。また、上記水洗処理には、イオン交換水や純水が好ましく用いられる。上記水洗処理は、ろ液の電気伝導率が5ms/m以下になるまで行うことが好ましい。
【0046】
上述した方法によって得られたマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子のバリウム量が欠損している場合、即ち、Ba/(Zr+Mn)モル比が1よりも小さい場合、上記マンガン添加ジルコン酸バリウム粒子にバリウムを補償して、所望のBa/(Zr+Mn)モル比を有するマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子を得ることができる。
【0047】
即ち、例えば、水熱反応の後、得られた反応混合物(固体)をろ過し、酸処理し、水洗して、反応混合物中、水に溶存しているバリウム水酸化物を除去した後、得られた反応生成物のBa/(Zr+Mn)モル比を分析し、次いで、所望のBa/(Zr+Mn)モル比になるように、上記反応生成物にバリウム化合物を添加剤として加えて、所望のBa/(Zr+Mn)モル比を有せしめ、これを焼結すれば、所望のBa/(Zr+Mn)モル比を有するマンガン添加ジルコン酸バリウム焼結体を得ることができる。
【0048】
ここに、上記添加剤としては、水への溶解度が低く、更に、このように添加剤を加えた反応混合物を焼結した際に、その添加剤が熱分解しても、バリウム以外のものが焼結体中に残存しないもの、例えば、炭酸塩、有機酸塩、酸化物等が好ましく用いられる。
【実施例】
【0049】
以下に本発明によるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子に関する実施例と共に比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら制限されるものではない。併せて、本発明によるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子の製造に用いるジルコニウムとマンガンの混合水酸化物又はそれぞれの水酸化物の製造例を挙げる。
【0050】
製造例1
(ジルコニウムとマンガンの混合水酸化物の湿潤ケーキの製造)
ガラスビーカーにオキシ塩化ジルコニウム8水塩(米山薬品工業(株)製)295.29gと塩化マンガン4水塩(富士フイルム和光純薬(株)製)18.62gをイオン交換水2Lに加え、撹拌してオキシ塩化ジルコニウム8水塩と塩化マンガン4水塩を水に溶解させてジルコニウム塩とマンガン塩の混合水溶液を得た。次いで、ナイロン製ビーカーに水酸化ナトリウム79.98g(富士フイルム和光純薬(株)製)とイオン交換水4Lを加え、撹拌、溶解して水酸化ナトリウム水溶液を得た。
【0051】
イオン交換水1Lを入れた別の撹拌機を備えたビーカーにチューブポンプを用いて上記混合水溶液を30mL/分で添加すると共に、pHが10.5~11.5となるように上記ビーカーに上記水酸化ナトリウム水溶液を別のチューブポンプを用いて添加した。
【0052】
添加終了後、そのまま、1時間撹拌してスラリーを得た。このスラリーをろ過して得られた固形物を水洗水電導度が10mS/m以下になるまでイオン交換水で水洗し、ジルコニウムとマンガンの混合水酸化物の湿潤ケーキ1321.5g(水酸化ジルコニウム濃度10.3%、水酸化マンガン濃度0.6%、Zr/(Zr+Mn)モル比0.907、水酸化ジルコニウムの収率93%、水酸化マンガンの収率95%)を得た。
【0053】
上記ジルコニウムとマンガンの混合水酸化物は吸湿しやすく、得られた湿潤ケーキ中の上記各水酸化物の濃度を正確に秤量することは困難であるので、上記湿潤ケーキ中のジルコニウムとマンガンの各水酸化物の濃度は下記のようにして求めた。即ち、上記湿潤ケーキを500℃に加熱したときの酸化物残渣中のジルコニウムとマンガンの各濃度を求め、これらを各水酸化物、即ち、Zr(OH)4 とMn(OH)2 に換算して、各水酸化物の濃度と収率を求めた。上記ケーキを500℃に加熱することによって、物理吸着水と水酸基が完全に除去され、酸化物が形成されることはX線回折にて確認した。
【0054】
(種結晶の製造)
上記ジルコニウムとマンガンの混合水酸化物の湿潤ケーキ51.25gをチタン製容器に入れ、これに水酸化バリウム8水塩(富士フイルム和光純薬(株)製)18.92gとイオン交換水0.1Lを加え、撹拌してスラリーとした。
【0055】
上記チタン製容器をオートクレーブに入れ、200℃で2時間加熱して、ジルコニウムとマンガンの混合水酸化物と水酸化バリウムを水熱反応させた。得られたスラリーを撹拌機を備えたポリエチレン製ビーカーに移し、これに0.2%硝酸水溶液を加えてスラリーのpHを5に調整し、そのまま30分間撹拌した。30分経過後、スラリーのpHが再度上昇したため、0.2%硝酸水溶液を追加添加して、pHを5に再調整した。
【0056】
このスラリーをろ過して得られた固形物を水洗水電導度が10mS/m以下になるまでイオン交換水で水洗した。水洗後、得られたケーキを温度150℃に設定した乾燥機で一晩乾燥し、組成式BaZr0.903Mn0.097O3-δで表されるマンガン添加ジルコン酸バリウムの種結晶粒子を得た。
【0057】
このようにして得られた種結晶粒子を100mL容量ポリ容器に0.11g(0.00040モル)を秤り取り、イオン交換水8mLを加えてスラリーとした。このスラリーに直径1.0mmのジルコニアビーズ8mLを加えた後、遊星ボールミル(フリッチュ社製P-5)に設置し、回転数210rpmで1時間稼動して上記スラリーを湿式粉砕した。篩を用いて、上記スラリーから上記ビーズを分離し、上記ビーズをイオン交換水2mLで洗浄し、この洗浄水を上記スラリーに戻して、スラリーの容量を合計10mLとした。かくして、平均粒子径0.19μm、スラリー濃度0.011g/mL(0.00004モル/mL)の種結晶の粉砕スラリーを得た。
【0058】
実施例1
(工程(a))
チタン製容器に前記製造例1において得られたジルコニウムとマンガンの混合水酸化物の湿潤ケーキ51.25gと水酸化バリウム8水塩(富士フイルム和光純薬(株)製)18.92gを秤り取り、イオン交換水0.09Lを加え、更に前記製造例1において得られた種結晶粉砕スラリー10mL(種結晶として0.00040モル、第1のスラリー中のジルコニウムとマンガン合計モル部数100モル部に対して1モル部)を加えて撹拌し、第1のスラリーとした。
【0059】
(工程(b))
上記チタン製容器をオートクレーブに入れて200℃で2時間加熱し、上記種結晶の粉砕物の存在下でジルコニウムとマンガンの混合水酸化物と水酸化バリウムを水熱反応させた。
【0060】
(工程(c))
このようにして得られたスラリーを撹拌機を備えたポリエチレン製ビーカーに移し、これに0.2%硝酸水溶液を加えてスラリーのpHを5に調整し、そのまま30分間撹拌した。30分経過後、スラリーのpHが再度上昇していたため、0.2%硝酸水溶液を追加添加して、pHを5に再調整した。
【0061】
このスラリーをろ過し、得られた固形物を水洗水電導度が10mS/m以下になるまでイオン交換水で水洗した。水洗後、得られたケーキを温度150℃に設定した乾燥機で一晩乾燥し、組成式BaZr0.903Mn0.097O3-δで表されるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子を得た。
【0062】
実施例2
前記製造例1において得られた種結晶粒子0.33g(0.0012モル)を100mL容量のポリ容器に秤り取り、イオン交換水8mLを加えてスラリーとした。このスラリーに直径1.0mmのジルコニアビーズ8mLを加えた後、遊星ボールミル(フリッチュ社製P-5)に設置し、回転数210rpmで1時間稼動して上記スラリーを湿式粉砕した。篩を用いて、上記スラリーから上記ビーズを分離し、上記ビーズをイオン交換水2mLで洗浄し、この洗浄水を上記スラリーに戻して、スラリーの容量を合計10mLとした。かくして、平均粒子径0.26μm、スラリー濃度0.033g/mL(0.00012モル/mL)の種結晶の粉砕スラリーを得た。
【0063】
上記種結晶の粉砕スラリー10mL(種結晶として0.0012モル、第1のスラリー中のジルコニウムとマンガン合計モル部数100モル部に対して3モル部)を用いた以外は、実施例1と同様にして、組成式BaZr0.903Mn0.097O3-δで表されるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子を得た。
【0064】
実施例3
前記製造例1において得られた種結晶粒子1.1g(0.0040モル)を100mL容量ポリ容器に秤り取り、イオン交換水8mLを加えてスラリーとした。このスラリーに直径1.0mmのジルコニアビーズ8mLを加えた後、遊星ボールミル(フリッチュ社製P-5)に設置し、回転数210rpmで1時間稼動して上記スラリーを湿式粉砕した。篩を用いて、上記スラリーから上記ビーズを分離し、上記ビーズをイオン交換水2mLで洗浄し、この洗浄水を上記スラリーに戻して、スラリーの容量を合計10mLとした。かくして、平均粒子径0.31μm、スラリー濃度0.11g/mL(0.00040モル/mL)の種結晶の粉砕スラリーを得た。
【0065】
上記種結晶の粉砕スラリー10mL(種結晶として0.0040モル、第1のスラリー中のジルコニウムとマンガン合計モル部数100モル部に対して10モル部)を用いた以外は、実施例1と同様にして、組成式BaZr0.903Mn0.097O3-δで表されるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子を得た。
【0066】
製造例2
(ジルコニウムとマンガンの混合水酸化物の湿潤ケーキの製造)
オキシ塩化ジルコニウム8水塩(米山薬品工業(株)製)257.87gと塩化マンガン4水塩(日本化学産業(株)製)39.53gを用いた以外は、製造例1と同様にして、ジルコニウムとマンガンの混合水酸化物の湿潤ケーキ1129.0g(水酸化ジルコニウム濃度10.5%、水酸化マンガン濃度1.5%、Zr/(Zr+Mn)モル比0.800、水酸化ジルコニウムの収率93%、水酸化マンガンの収率95%)を得た。湿潤ケーキ中の水酸化ジルコニウム濃度と水酸化マンガン濃度とそれぞれの収率は、製造例1におけると同様にして求めた。
【0067】
(種結晶の製造)
上記ジルコニウムとマンガンの混合水酸化物の湿潤ケーキ37.62gをチタン製容器に秤り取り、これに水酸化バリウム8水塩(富士フイルム和光純薬(株)製)18.92gとイオン交換水0.1Lを加え、撹拌してスラリーとした。
【0068】
上記チタン製容器をオートクレーブに入れて実施例1と同様の条件で、水熱反応と水熱反応で得られたスラリーのpH調整、水洗、乾燥を行った。このようにして、組成式BaZr0.807Mn0.193O3-δで表されるマンガン添加ジルコン酸バリウム種結晶粒子を得た。
【0069】
この種結晶粒子を100mL容量ポリ容器に0.11g(0.00040モル)を秤り取り、イオン交換水8mLを加えてスラリーとした。このスラリーに直径1.0mmのジルコニアビーズ8mLを加えた後、遊星ボールミル(フリッチュ社製P-5)に設置し、回転数210rpmで1時間稼動して上記スラリーを湿式粉砕した。篩を用いて、上記スラリーから上記ビーズを分離し、上記ビーズをイオン交換水2mLで洗浄し、この洗浄水を上記スラリーに戻して、スラリーの容量を合計10mLとした。かくして、平均粒子径0.25μm、スラリー濃度0.011g/mL(0.00004モル/mL)の種結晶の粉砕スラリーを得た。
【0070】
実施例4
前記製造例2において得られた種結晶の粉砕スラリー10mL(種結晶として0.00040モル、第1のスラリー中のジルコニウムとマンガン合計モル部数100モル部に対して1モル部)を用いると共に、前記製造例2において得られたジルコニウムとマンガンの混合水酸化物の湿潤ケーキ37.62gと水酸化バリウム8水塩18.92gを用いた以外は、実施例1と同様にして、組成式BaZr
0.797Mn
0.203O
3-δで表されるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子を得た。
図1に上記マンガン添加ジルコン酸バリウム粒子の粉末X線回折パターンを示す。
【0071】
実施例5
前記製造例1において得られた種結晶粒子0.11g(0.00040モル)を実施例1と同様にスラリー化して粉砕し、平均粒子径0.23μm、スラリー濃度0.011g/mL(0.00004モル/mL)の種結晶の粉砕スラリーを得た。上記種結晶の粉砕スラリー10mL(種結晶として0.00040モル、第1のスラリー中のジルコニウムとマンガン合計モル部数100モル部に対して1モル部)を用いると共に、工程(a)におけるBa/(Zr+Mn)モル比を1.0とした以外は、実施例1と同様にして、組成式BaZr0.901Mn0.099O3-δで表されるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子を得た。
【0072】
実施例6
前記製造例1において得られた種結晶粒子0.33g(0.0012モル)を実施例2と同様にスラリー化して粉砕し、平均粒子径0.20μm、スラリー濃度0.033g/mL(0.00012モル/mL)の種結晶の粉砕スラリーを得た。上記種結晶の粉砕スラリー10mL(種結晶として0.0012モル、第1のスラリー中のジルコニウムとマンガン合計モル部数100モル部に対して3モル部)を用いると共に、工程(a)におけるBa/(Zr+Mn)モル比を1.0とした以外は、実施例1と同様にして、組成式BaZr0.902Mn0.098O3-δで表されるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子を得た。
【0073】
実施例7
前記製造例1において得られた種結晶粒子1.1g(0.0040モル)を実施例3と同様にスラリー化して粉砕し、平均粒子径0.23μm、スラリー濃度0.11g/mL(0.00040モル/mL)の種結晶の粉砕スラリーを得た。上記種結晶の粉砕スラリー10mL(種結晶として0.0040モル、第1のスラリー中のジルコニウムとマンガン合計モル部数100モル部に対して10モル部)を用いると共に、工程(a)におけるBa/(Zr+Mn)モル比を1.0とした以外は、実施例1と同様にして、組成式BaZr0.901Mn0.099O3-δで表されるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子を得た。
【0074】
実施例8
前記製造例1において得られた種結晶粒子0.11g(0.00040モル)を実施例1と同様にスラリー化して粉砕し、平均粒子径0.26μm、スラリー濃度0.011g/mL(0.00004モル/mL)の種結晶の粉砕スラリーを得た。上記種結晶の粉砕スラリー10mL(種結晶として0.00040モル、第1のスラリー中のジルコニウムとマンガン合計モル部数100モル部に対して1モル部)を用いると共に、工程(a)におけるBa/(Zr+Mn)モル比を2.0とした以外は、実施例1と同様にして、組成式BaZr0.902Mn0.098O3-δで表されるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子を得た。
【0075】
実施例9
前記製造例1において得られた種結晶粒子0.33g(0.0012モル)を実施例2と同様にスラリー化して粉砕し、平均粒子径0.21μm、スラリー濃度0.033g/mL(0.00012モル/mL)の種結晶の粉砕スラリーを得た。上記種結晶の粉砕スラリー10mL(種結晶として0.0012モル、第1のスラリー中のジルコニウムとマンガン合計モル部数100モル部に対して3モル部)を用いると共に、工程(a)におけるBa/(Zr+Mn)モル比を2.0とした以外は、実施例1と同様にして、組成式BaZr0.901Mn0.099O3-δで表されるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子を得た。
【0076】
実施例10
前記製造例1において得られた種結晶粒子1.1g(0.0040モル)を実施例3と同様にスラリー化して粉砕し、平均粒子径0.24μm、スラリー濃度0.11g/mL(0.00040モル/mL)の種結晶の粉砕スラリーを得た。上記種結晶の粉砕スラリー10mL(種結晶として0.0040モル、第1のスラリー中のジルコニウムとマンガン合計モル部数100モル部に対して10モル部)を用いると共に、工程(a)におけるBa/(Zr+Mn)モル比を2.0とした以外は、実施例1と同様にして、組成式BaZr0.901Mn0.099O3-δで表されるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子を得た。
【0077】
実施例11
前記製造例1において得られた種結晶粒子0.33g(0.0012モル)を実施例2と同様にスラリー化し、直径1.0mmのジルコニアビーズ10mLを加えた後、遊星ボールミル(フリッチュ社製P-5)に設置し、回転数210rpmで2分間稼動してスラリーを粉砕した。このスラリーから篩でビーズを除去し、平均粒子径1.83μm、スラリー濃度0.033g/mL(0.00012モル/mL)の種結晶の粉砕スラリーを得た。
【0078】
上記種結晶の粉砕スラリーを10mL(種結晶として0.0012モル、第1のスラリー中のジルコニウムとマンガン合計モル部数100モル部に対して3モル部)を用いた以外は、実施例1と同様にして、組成式BaZr0.903Mn0.097O3-δで表されるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子を得た。
【0079】
製造例3
(ジルコニウム水酸化物の湿潤ケーキの製造)
ガラスビーカーにオキシ塩化ジルコニウム8水塩(米山薬品工業(株)製)295.29gをイオン交換水2Lに加え、撹拌してオキシ塩化ジルコニウム8水塩を水に溶解させた。次いで、ナイロン製ビーカーに水酸化ナトリウム79.98g(富士フイルム和光純薬(株)製)とイオン交換水4Lを加え、撹拌、溶解して水酸化ナトリウム水溶液を得た。
【0080】
イオン交換水1Lを入れた別の撹拌機を備えたビーカーにチューブポンプを用いて上記水溶液を30mL/分で添加すると共に、pHが10.5~11.5となるように上記ビーカーに上記水酸化ナトリウム水溶液を別のチューブポンプを用いて添加した。
【0081】
添加終了後、そのまま1時間撹拌してスラリーを得た。このスラリーをろ過して得られた固形物を水洗水電導度が10mS/m以下になるまでイオン交換水で水洗して、ジルコニウム水酸化物の湿潤ケーキ1669.0g(水酸化ジルコニウム濃度8.1%、収率93%)を得た。湿潤ケーキの水酸化ジルコニウム濃度と収率は、製造例1におけると同様にして求めた。
【0082】
(マンガン水酸化物の湿潤ケーキの製造)
ガラスビーカーに塩化マンガン4水塩(富士フイルム和光純薬(株)製)98.1gをイオン交換水500mLに加え、撹拌して塩化マンガン4水塩を水に溶解させた。次いで、ナイロン製ビーカーに水酸化ナトリウム79.98g(富士フイルム和光純薬(株)製)とイオン交換水4Lを加え、撹拌、溶解して水酸化ナトリウム水溶液を得た。
【0083】
イオン交換水100mLを入れた別の撹拌機を備えたビーカーにチューブポンプを用いて上記水溶液を30mL/分で添加すると共に、pHが10.5~11.5となるように上記ビーカーに上記水酸化ナトリウム水溶液を別のチューブポンプを用いて添加した。
【0084】
添加終了後、そのまま1時間撹拌してスラリーを得た。このスラリーをろ過して得られた固形物を水洗水電導度が10mS/m以下になるまでイオン交換水で水洗して、マンガン水酸化物の湿潤ケーキ535.8g(水酸化マンガン濃度7.8%、収率95%)を得た。湿潤ケーキの水酸化マンガン濃度と収率は、製造例1におけると同様にして求めた。
を得た。
【0085】
実施例12
前記製造例1において得られた種結晶粒子0.11g(0.00040モル)を実施例1と同様にスラリー化して粉砕し、平均粒子径0.23μm、スラリー濃度0.011g/mL(0.00004モル/mL)の種結晶の粉砕スラリーを得た。この種結晶スラリー10mL(種結晶として0.00040モル、第1のスラリー中のジルコニウムとマンガン合計モル部数100モル部に対して1モル部)を用い、前記製造例3において得られたジルコニウム水酸化物ケーキ40.62g、前記製造例3において得られたマンガン水酸化物ケーキ2.57g及び水酸化バリウム8水塩(富士フイルム和光純薬(株)製)18.92gを用いた以外は、実施例1と同様にして、組成式BaZr0.902Mn0.098O3-δで表されるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子を得た。
【0086】
比較例1
(固相法によるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子の製造)
炭酸バリウム(富士フイルム和光純薬(株)製)85.58gと酸化ジルコニウム(富士フイルム和光純薬(株)製)49.21gと炭酸マンガン(富士フイルム和光純薬(株)製)5.22gとイオン交換水210mLと直径3.0mmのジルコニアビーズ140mLを500mL容量のプラスチック容器に入れて、スラリーを得た。
【0087】
上記プラスチック容器を遊星ボールミル(フリッチュ社製P-5)に設置し、回転数180rpmで120分稼動して、上記スラリーを湿式粉砕した。得られたスラリーからビーズを篩にて除去し、得られたスラリーをそのまま温度150℃に設定した乾燥機で一晩乾燥した後、サンプルミル(協立理工(株)製、SK-10)で粉砕して、原料粉末を得た。
【0088】
上記得られた原料粉末をアルミナ製坩堝に充填し、電気炉にて温度1200℃大気雰囲気下で2時間焼成した。得られた焼成物を上記サンプルミルで粉砕し、組成式BaZr0.904Mn0.096O3-δで表されるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子を得た。
【0089】
比較例2
(固相法によるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子の製造)
炭酸バリウム(富士フイルム和光純薬(株)製)86.41gと酸化ジルコニウム(富士フイルム和光純薬(株)製)43.25gと炭酸マンガン(富士フイルム和光純薬(株)製)10.33gを用いた以外は、比較例1と同様にして、組成式BaZr
0.809Mn
0.191O
3-δで表されるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子を得た。
図1に上記マンガン添加ジルコン酸バリウム粒子の粉末X線回折パターンを示す。上記マンガン添加ジルコン酸バリウム粒子は異相を含むことが示されている。
【0090】
比較例3
(固相法によるジルコン酸バリウム粒子の製造)
炭酸マンガンを用いずに、炭酸バリウム(富士フイルム和光純薬(株)製)86.12gと酸化ジルコニウム(富士フイルム和光純薬(株)製)53.88gを用いた以外は、比較例1と同様にして、組成式BaZrO3で表されるジルコン酸バリウム粒子を得た。
【0091】
製造例4
(ジルコニウム水酸化物の湿潤ケーキの製造)
ガラスビーカーにオキシ塩化ジルコニウム8水塩(米山薬品工業(株)製)295.44gをイオン交換水1.8Lに加え、撹拌してオキシ塩化ジルコニウム8水塩を水に溶解させて水溶液を得た。次いで、ナイロン製ビーカーに水酸化ナトリウム79.98g(富士フイルム和光純薬(株)製)とイオン交換水4Lを加え、撹拌、溶解して水酸化ナトリウム水溶液を得た。
【0092】
イオン交換水1Lを入れた別の撹拌機を備えたビーカーにチューブポンプを用いて上記水溶液を30mL/分で添加すると共に、pHが8.5~9.5となるように上記ビーカーに上記水酸化ナトリウム水溶液を別のチューブポンプを用いて添加した。
【0093】
添加終了後、そのまま1時間撹拌してスラリーを得た。このスラリーをろ過して得られた固形物を水洗水電導度が10mS/m以下になるまでイオン交換水で水洗して、ジルコニウム水酸化物の湿潤ケーキ1564.8g(水酸化ジルコニウム濃度8.5%、収率91%)を得た。湿潤ケーキの水酸化ジルコニウム濃度と収率は、製造例1におけると同様にして求めた。
【0094】
(種結晶の製造)
炭酸マンガンを用いずに、上記ジルコニウム水酸化物ケーキ61.08gと水酸化バリウム8水塩18.92gを用いた以外は実施例1と同様にして、組成式BaZrO3で表されるジルコン酸バリウムの種結晶粒子を得た。
【0095】
上記種結晶粒子0.11g(0.00040モル)を100mL容量ポリ容器に秤り取り、イオン交換水8mLを加えてスラリーとした。このスラリーに直径1.0mmのジルコニアビーズ8mLを加えた後、遊星ボールミル(フリッチュ社製P-5)に設置し、回転数210rpmで1時間稼動して上記スラリーを湿式粉砕した。篩を用いて、上記スラリーから上記ビーズを分離し、上記ビーズをイオン交換水2mLで洗浄し、この洗浄水を上記スラリーに戻して、スラリーの容量を合計10mLとした。かくして、平均粒子径0.25μm、スラリー濃度0.011g/mL(0.00004モル/mL)の種結晶の粉砕スラリーを得た。
【0096】
比較例4
製造例4で得られた種結晶スラリー8mL(種結晶として0.00032モル、第1のスラリー中のジルコニウムのモル部数100モル部に対して1モル部))を用い、ジルコニウム水酸化物ケーキ61.08gと水酸化バリウム8水塩18.92gを用いた以外は、実施例1と同様にして、組成式BaZrO3で表されるジルコン酸バリウム粒子を得た。
【0097】
比較例5
種結晶の不存在下で水熱反応を行った以外は、実施例1と同様にして、組成式BaZr0.904Mn0.096O3-δで表されるマンガン添加ジルコン酸バリウムの種結晶粒子を得た。
【0098】
比較例6
前記製造例1おいて得られた種結晶粒子0.11g(0.00040モル)を実施例1と同様にしてスラリー化し、平均粒子径3.99μm、スラリー濃度0.011g/mL(0.00004モル/mL)の種結晶スラリーを得た。上記種結晶スラリー10mL(種結晶として0.00040モル、第1のスラリー中のジルコニウムとマンガン合計モル部数100モル部に対して1モル部)を用いた以外は、実施例1と同様にして、組成式BaZr0.904Mn0.096O3-δで表されるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子を得た。
【0099】
比較例7
前記製造例1において得られた種結晶粒子0.33g(0.0012モル)を実施例2と同様にしてスラリー化し、平均粒子径3.99μm、スラリー濃度0.033g/mL(0.00012モル/mL)の種結晶スラリーを得た。上記種結晶スラリー10mL(種結晶として0.0012モル、第1のスラリー中のジルコニウムとマンガン合計モル部数100モル部に対して3モル部)を用いた以外は、実施例1と同様にして、組成式BaZr0.903Mn0.097O3-δで表されるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子を得た。
【0100】
比較例8
前記製造例1において得られた種結晶粒子1.1g(0.0040モル)を実施例3と同様にしてスラリー化し、平均粒子径3.99μm、スラリー濃度0.11g/mL(0.00040モル/mL)の種結晶スラリーを得た。上記種結晶スラリー10mL(種結晶として0.0040モル、第1のスラリー中のジルコニウムとマンガン合計モル部数100モル部に対して10モル部)を用いた以外は、実施例1と同様にして、組成式BaZr0.903Mn0.097O3-δで表されるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子を得た。
【0101】
比較例9
前記製造例1において得られた種結晶粒子1.1g(0.0040モル)を実施例3と同様にスラリー化し、直径1.0mmのジルコニアビーズ10mLを加えた後、遊星ボールミル(フリッチュ社製P-5)に設置し、回転数210rpmで1分15秒間稼動してスラリーを粉砕した。このスラリーから篩でビーズを除去し、平均粒子径2.10μm、スラリー濃度0.11g/mL(0.00040モル/mL)の種結晶の粉砕スラリーを得た。
【0102】
上記種結晶スラリー10mL(種結晶として0.0040モル、第1のスラリー中のジルコニウムとマンガン合計モル部数100モル部に対して10モル部)を用いた以外は、実施例1と同様にして、組成式BaZr0.903Mn0.097O3-δで表されるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子を得た。
【0103】
比較例10
ジルコニウムとマンガンの混合水酸化物ケーキを用いず、代わりにオキシ塩化ジルコニウム8水塩(米山薬品工業(株)製)と塩化マンガン4水塩(富士フイルム和光純薬(株)製)を用いた以外は、実施例1と同様にして、水熱合成を行ったところ、目的とするマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子は得られなかった。
【0104】
以下に上記実施例及び比較例で得られたマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子又はジルコン酸バリウム粒子についての種々の測定方法を記載する。以下において、(マンガン添加)ジルコン酸バリウムは、マンガン添加ジルコン酸バリウム又はジルコン酸バリウムを意味する。
【0105】
有機物分解触媒活性の評価方法
上記実施例及び比較例で得られたそれぞれの(マンガン添加)ジルコン酸バリウム粉末1.0gにカーボンブラック(Sigma-Aldrich社製、CP)を0.2g加え、乳鉢で混合して、試料を作製した。
【0106】
上記試料10mgを(株)リガク製熱分析装置ThermoPlusEVO TG/DTA/Hを用いて、昇温速度10℃/分、測定雰囲気10%酸素、ガス流量0.4L/分の条件で熱重量分析を行った。有機物カーボンブラックの熱分解挙動の指標として、熱重量変化の微分曲線によるピークトップ温度を求めた。
【0107】
熱重量変化の微分曲線によるピークトップ温度は、カーボンブラックの燃焼が最も盛んに行われている温度であり、即ち、触媒活性が最大限に発揮されている温度であると考えられる。ピークトップ温度が低温であるほど、少ないエネルギーで燃焼効果が得られるということができる。
【0108】
(マンガン添加)ジルコン酸バリウムの種結晶粒子の平均粒子径
(マンガン添加)ジルコン酸バリウムの種結晶粒子を試料とし、これにヘキサメタリン酸ナトリウムを分散剤として加え、超音波ホモジナイザーで分散し、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置((株)堀場製作所製LA-950V2)を用いて、下記条件で測定した。
【0109】
粒子屈折率:2.4
溶媒屈折率:1.333
上記粒度分布の測定において得られた体積メジアン径を平均粒子径とした。
【0110】
(マンガン添加)ジルコン酸バリウム粒子の組成比の測定方法
(前処理)
白金坩堝に(マンガン添加)ジルコン酸バリウム0.6gを秤り取り、次いで、四ホウ酸リチウム(富士フイルム和光純薬(株))6.0gを秤り取った。ビーカーに臭化カリウム(富士フイルム和光純薬(株))を25.0g秤り取り、イオン交換水75mLを加えてガラス棒で撹拌溶解し、25%臭化カリウム水溶液とした。この25%臭化カリウム水溶液をマイクロピペッターで40μL取り、(マンガン添加)ジルコン酸バリウムと四ホウ酸リチウムを秤り取った白金坩堝中に加えた。
【0111】
白金坩堝をビード&フューズサンプラ((株)アメナテック製、TK-4100型高周波溶融装置)に取り付けた後、坩堝の内容物を1000℃で加熱溶融し、(マンガン添加)ジルコン酸バリウムのガラスビード試料を得た。
【0112】
(組成比測定)
上記ガラスビード試料を蛍光X線装置((株)リガク製、ZSX PrimusII)を用いて波長分散型蛍光X線分析法により各元素のモル濃度を測定し、検量線法によってモル比を算出した。測定条件は以下のとおりである。
【0113】
サンプルスピン:有り
ターゲット:Rh、50KV-60mA
【0114】
(マンガン添加)ジルコン酸バリウム粒子の比表面積の測定方法
得られた(マンガン添加)ジルコン酸バリウムの比表面積は、比表面積測定装置((株)マウンテック製、Macsorb HM-1220)を用いて、BET流動法により測定した。吸着ガスには純窒素を用い、230℃で30分間保持した。
【0115】
(マンガン添加)ジルコン酸バリウム粒子のX線回折パターンの測定方法
得られた(マンガン添加)ジルコン酸バリウム粒子のX線回折パターンは、粉末X線回折装置((株)リガク製、試料水平型強力X線回折装置RINT-TTRIII)により下記条件で測定した。
【0116】
光学系:平行ビーム光学系(長尺スリット:PSA200/開口角度:0.057°)
管電圧:50kV
電流:300mA
測定方法:平行法(連続)
測定範囲(2θ):10~70°
サンプリング幅:0.04°
スキャンスピード:5°/分
【0117】
(マンガン添加)ジルコン酸バリウム粒子の結晶子径の測定方法
上述した方法で測定した(マンガン添加)ジルコン酸バリウム粒子のX線回折パターンにおけるペロブスカイト相の(110)面に対する回折線の半価幅から、シェラーの式を用いて、(マンガン添加)ジルコン酸バリウム粒子の結晶子径を算出した。
【0118】
結晶子径=K×λ/βcosθ
K:シェラー定数(=0.94)
λ:X線の波長(Cu-Kα線 1.5418Å)
β:半価幅(ラジアン単位)
θ:ブラッグ(Bragg)角 (回折角2θの1/2)
【0119】
上記実施例及び比較例における反応条件と共に、得られた(マンガン添加)ジルコン酸バリウム粒子の物性を表1及び表2に示す。
【0120】
【0121】
【0122】
表1及び表2の実施例に示すように、水熱法によって得られた本発明によるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子はいずれも、比表面積が大きく、微細で且つ結晶子径/比表面積換算粒子径が1に近く、高結晶性であって、異相を含まず、単相の粒子である。
【0123】
特に、実施例4によるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子は、
図1の粉末X線回折パターンマンガンに示されているように、ジルコニウムの置換割合が20モル%であるにもかかわらず、異相を含まず、単相である。
【0124】
このような本発明によるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子は、有機物分解触媒として高い触媒活性を有する。即ち、前述したように、熱重量変化の微分曲線によるピークトップ温度が後述する比較例によるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子よりも約100℃も低く、少ないエネルギーで燃焼効果が得られる。
【0125】
これに対して、比較例による(マンガン添加)ジルコン酸バリウム粒子は、水熱法、固相法の製造方法の相違にかかわらず、概して、有機物分解触媒として高い触媒活性をもたない。
【0126】
より詳細には、比較例1~3は固相法によって得られた(マンガン添加)ジルコン酸バリウム粒子であり、特に、比較例2によるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子は、Zrのマンガン置換割合が20モル%に近く、異相を含むものであった。また、Mnを含まない比較例3によるジルコン酸バリウム粒子に比べて、比較例1及び2によるマンガン添加ジルコン酸バリウム粒子は結晶性が低く、比表面積も比較的高いにもかかわらず、有機物分解触媒としての触媒活性は比較例3によるものとほぼ同等である。
【0127】
比較例4~9は水熱法によって得られた(マンガン添加)ジルコン酸バリウム粒子を示す。比較例4はマンガンを含まないジルコン酸バリウム粒子の結果を示し、結晶性は比較的高いが、異相を含み、有機物分解触媒としての触媒活性は低い。
【0128】
比較例5は、種結晶を用いなかった以外は、実施例1と同様にして、マンガン添加ジルコン酸バリウム粒子を得たものであるが、比表面積が小さく、有機物分解触媒としての触媒活性も低い。
【0129】
比較例6~9は、用いた種結晶の平均粒子径が大きすぎた結果、いずれも比表面積が小さく、有機物分解触媒としての触媒活性も低い。