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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】電磁誘導加熱装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/12 20060101AFI20240215BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20240215BHJP
   H05B 6/04 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
H05B6/12 323
H02M7/48 Z
H05B6/04 321
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020137910
(22)【出願日】2020-08-18
(65)【公開番号】P2022034221
(43)【公開日】2022-03-03
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】庄司 浩幸
【審査官】杉浦 貴之
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-319296(JP,A)
【文献】特開2010-80356(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/12
H02M 7/48
H05B 6/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの被加熱物を誘導加熱する2つの加熱コイル(11、12)と、
直流電源(1)が出力する直流電圧を交流電圧に変換して前記2つの加熱コイルに供給するインバータ回路と、
を備えた電磁誘導加熱装置であって、
前記インバータ回路は、
前記直流電源の正電極(P)と負電極(N)の間に、
2個のスイッチング素子(5a、5b)の直列体である第一の上下アーム(51)と、
2個のスイッチング素子(5c、5d)の直列体である第二の上下アーム(52)を直列接続したものであり、
前記第一の上下アーム(51)の出力端子(O と前記上下アーム同士の接続点(O 間には、第一の加熱コイル(11)と非磁性体加熱用の共振コンデンサ(21b)の直列体が接続されており、
前記第二の上下アーム(52)の出力端子(O C )と前記直流電源の負電極(N)の間には、第二の加熱コイル(12)と非磁性体加熱用の共振コンデンサ(22b)の直列体が接続されており、
前記第一の上下アームの出力端子(O )と前記第二の上下アームの出力端子(O C の間には、前記第一の加熱コイル(11)と磁性体加熱用の共振コンデンサ(30)と前記第二の加熱コイル(12)の直列体が接続されていることを特徴とする電磁誘導加熱装置。
【請求項2】
1つの被加熱物を誘導加熱する4つの加熱コイル(11、12、13、14)と、
直流電源(1)が出力する直流電圧を交流電圧に変換して前記4つの加熱コイルに供給するインバータ回路と、
を備えた電磁誘導加熱装置であって、
前記インバータ回路は、
前記直流電源の正電極(P)と負電極(N)の間に、
2個のスイッチング素子(5a、5b)の直列体である第一の上下アーム(51)と、
2個のスイッチング素子(5c、5d)の直列体である第二の上下アーム(52)の直列体と、
2個のスイッチング素子(5e、5f)の直列体である第三の上下アーム(53)と、
2個のスイッチング素子(5g、5h)の直列体である第四の上下アーム(54)の直列体と、を接続し、
前記第一、第二の上下アーム(51、52)のスイッチング素子を駆動することで、ハーフブリッジ方式インバータとして動作する第一のインバータ回路と、
前記第三、第四の上下アーム(53、54)のスイッチング素子を駆動することで、ハーフブリッジ方式インバータとして動作する第二のインバータ回路と、
前記第一から第四の上下アーム(51~54)のスイッチング素子を駆動することで、フルブリッジ方式インバータとして動作する第三のインバータ回路と、
で構成されており、
前記第一の上下アーム(51)の出力端子(O A )と前記第二の上下アーム(52)の出力端子(O C )の間には、第一の加熱コイル(11)と第一の共振コンデンサ(21b)第二の共振コンデンサ(22a)と第二の加熱コイル(12)の直列体が接続され、
前記第三の上下アーム(53)の出力端子(O )と前記第四の上下アーム(54)の出力端子(O )の間には、第三の加熱コイル(13)と第三の共振コンデンサ(23b)第四の共振コンデンサ(24a)と第四の加熱コイル(14)の直列体が接続され、
前記第一の上下アーム(51)の出力端子(O A )と前記第三の上下アーム(53)の出力端子(O )の間には、前記第一の加熱コイル(11)と第五の共振コンデンサ(35)と前記第三の加熱コイル(13)の直列体が接続され、
前記第二の上下アーム(52)の出力端子(O )と前記第四の上下アーム(54)の出力端子(O )の間には、前記第二の加熱コイル(12)と第五の共振コンデンサ(36)と前記第四の加熱コイル(14)の直列体が接続され、
前記正電極(P)と前記第一の上下アームの出力端子(O )の間には、第一の共振コンデンサ(21a)と前記第一の加熱コイル(11)の直列体が接続され、
前記第二の上下アームの出力端子(O )と前記負電極(N)の間には、前記第二の加熱コイル(12)と第二の共振コンデンサ(22b)の直列体が接続され、
前記第一の共振コンデンサ(21b)と前記第二の共振コンデンサ(22a)の接続点と前記第一の上下アーム(51)と前記第二の上下アーム(52)の接続点(O )が接続され、
前記正電極(P)と前記第三の上下アームの出力端子(O )の間には、第三の共振コンデンサ(23a)と前記第三の加熱コイル(13)の直列体が接続され、
前記第四の上下アームの出力端子(O )と前記負電極(N)の間には、前記第四の加熱コイル(14)と第四の共振コンデンサ(24b)の直列体が接続され、
前記第三の共振コンデンサ(23b)と前記第四の共振コンデンサ(24a)の接続点と前記第三の上下アーム(53)と前記第四の上下アーム(54)の接続点(O )が接続され、
前記スイッチング素子(5a~5h)には並列にスナバ用コンデンサ兼電圧バランス用コンデンサ(6a~6h)が接続され
前記被加熱物が非磁性体の場合、前記第一から第四の上下アーム(51~54)の上アームであるスイッチング素子(5a、5c、5e、5f)が同時にオンしている期間と、下アームであるスイッチング素子(5b、5d、5f、5h)が同時にオンしている期間を設け、
前記被加熱物が磁性体の場合、前記第一、第二の上下アーム(51、52)の上アームであるスイッチング素子(5a、5c)が同時にオンしている期間と前記第三、第四の上下アーム(53、54)の下アームであるスイッチング素子(5f、5h)が同時にオンしている期間を設けるか、前記第一、第四の上下アーム(51、54)の上アームであるスイッチング素子(5a、5g)が同時にオンしている期間と前記第二、第三の上下アーム(52、53)の下アームであるスイッチング素子(5f、5d)が同時にオンしている期間を設けることを特徴とする電磁誘導加熱装置。
【請求項3】
1つの被加熱物を誘導加熱する4つの加熱コイル(11、12、13、14)と、
直流電源(1)が出力する直流電圧を交流電圧に変換して前記4つの加熱コイルに供給するインバータ回路と、
を備えた電磁誘導加熱装置であって、
前記インバータ回路は、
前記直流電源の正電極(P)と負電極(N)の間に、
2個のスイッチング素子(5a、5b)の直列体である第一の上下アーム(51)と、
2個のスイッチング素子(5c、5d)の直列体である第二の上下アーム(52)の直列体と、
2個のスイッチング素子(5e、5f)の直列体である第三の上下アーム(53)と、
2個のスイッチング素子(5g、5h)の直列体である第四の上下アーム(54)の直列体と、を接続し、
前記第一、第二の上下アーム(51、52)のスイッチング素子を駆動することで、ハーフブリッジ方式インバータとして動作する第一のインバータ回路と、
前記第三、第四の上下アーム(53、54)のスイッチング素子を駆動することで、ハーフブリッジ方式インバータとして動作する第二のインバータ回路と、
前記第一から第四の上下アーム(51~54)のスイッチング素子を駆動することで、フルブリッジ方式インバータとして動作する第三のインバータ回路と、
で構成されており、
前記第一の上下アーム(51)の出力端子(O A )と前記第二の上下アーム(52)の出力端子(O C )の間には、第五の共振コンデンサ(31)と第一の加熱コイル(11)と第一の共振コンデンサ(21b)第二の共振コンデンサ(22a)と第二の加熱コイル(12)と第五の共振コンデンサ(32)の直列体が接続され、
前記第三の上下アーム(53)の出力端子(O )と前記第四の上下アーム(54)の出力端子(O )の間には、第五の共振コンデンサ(33)と第三の加熱コイル(13)と第三の共振コンデンサ(23b)第四の共振コンデンサ(24a)と第四の加熱コイル(14)と第五の共振コンデンサ(34)の直列体が接続され、
前記第一の上下アーム(51)の出力端子(O A )と前記第三の上下アーム(53)の出力端子(O )の間には、第五の共振コンデンサ(31)と前記第一の加熱コイル(11)前記第三の加熱コイル(13)と前記第五の共振コンデンサ(33)との直列体が接続され、
前記第二の上下アーム(52)の出力端子(O )と前記第四の上下アーム(54)の出力端子(O )の間には、前記第五の共振コンデンサ(32)と前記第二の加熱コイル(12)と前記第四の加熱コイル(14)と前記第五の共振コンデンサ(34)の直列体が接続され、
前記正電極(P)と前記第一の上下アームの出力端子(O )の間には、第一の共振コンデンサ(21a)と前記第一の加熱コイル(11)と前記第五の共振コンデンサ(31)の直列体が接続され、
前記第二の上下アームの出力端子(O )と前記負電極(N)の間には、前記第五の共振コンデンサ(32)と前記第二の加熱コイル(12)と第二の共振コンデンサ(22b)の直列体が接続され、
前記第一の共振コンデンサ(21b)と前記第二の共振コンデンサ(22a)の接続点と前記第一の上下アーム(51)と前記第二の上下アーム(52)の接続点(O )が接続され、
前記正電極(P)と前記第三の上下アームの出力端子(O )の間には、第三の共振コンデンサ(23a)と前記第三の加熱コイル(13)と前記第五の共振コンデンサ(33)の直列体が接続され、
前記第四の上下アームの出力端子(O )と前記負電極(N)の間には、前記第五の共振コンデンサ(34)と前記第四の加熱コイル(14)と第四の共振コンデンサ(24b)の直列体が接続され、
前記第三の共振コンデンサ(23b)と前記第四の共振コンデンサ(24a)の接続点と前記第三の上下アーム(53)と前記第四の上下アーム(54)の接続点(O )が接続され、
前記スイッチング素子(5a~5h)には並列にスナバ用コンデンサ兼電圧バランス用コンデンサ(6a~6h)が接続され
前記被加熱物が非磁性体の場合、前記第一から第四の上下アーム(51~54)の上アームであるスイッチング素子(5a、5c、5e、5f)が同時にオンしている期間と、下アームであるスイッチング素子(5b、5d、5f、5h)が同時にオンしている期間を設け、
前記被加熱物が磁性体の場合、前記第一、第二の上下アーム(51、52)の上アームであるスイッチング素子(5a、5c)が同時にオンしている期間と前記第三、第四の上下アーム(53、54)の下アームであるスイッチング素子(5f、5h)が同時にオンしている期間を設けるか、前記第一、第四の上下アーム(51、54)の上アームであるスイッチング素子(5a、5g)が同時にオンしている期間と前記第二、第三の上下アーム(52、53)の下アームであるスイッチング素子(5f、5d)が同時にオンしている期間を設けることを特徴とする電磁誘導加熱装置。
【請求項4】
1つの被加熱物を誘導加熱する2つの加熱コイル(11、12)と、
直流電源(1)が出力する直流電圧を交流電圧に変換して前記2つの加熱コイルに供給するインバータ回路と、
を備えた電磁誘導加熱装置であって、
前記インバータ回路は、
前記直流電源の正電極(P)と負電極(N)の間に、
2個のスイッチング素子(5a、5b)の直列体である第一の上下アーム(51)と、
2個のスイッチング素子(5c、5d)の直列体である第二の上下アーム(52)を直列接続し
前記第一、第二の上下アーム(51、52)のスイッチング素子を駆動することで、ハーフブリッジ方式インバータとして動作する第一のインバータ回路と、
前記第一、第二の上下アーム(51、52)のスイッチング素子を駆動することで、ハーフブリッジ方式インバータとして動作する第三のインバータ回路と、
で構成されており、
前記第一のインバータ回路の前記第一の上下アームの出力端子(O )と前記第二の上下アームの出力端子(O C )の間には、第一の加熱コイル(11)と第一の共振コンデンサ(21b)第二の共振コンデンサ(22a)と第二の加熱コイル(12)の直列体が接続され、
前記第三のインバータ回路の前記第一の上下アームの出力端子(O )と前記第二の上下アームの出力端子(O C )の間には、前記第一、第二の加熱コイル(11、12)と第五の共振コンデンサ(30)の直列体が接続され、
前記正電極(P)と前記第一の上下アームの出力端子(O )の間には、第一の共振コンデンサ(21a)と前記第一の加熱コイル(11)の直列体が接続され、
前記第二の上下アームの出力端子(O )と前記負電極(N)の間には、前記第二の加熱コイル(12)と第二の共振コンデンサ(22b)の直列体が接続され、
前記第一の共振コンデンサ(21b)と前記第二の共振コンデンサ(22a)の接続点と前記上下アーム同士の接続点(O )が接続され、
前記スイッチング素子(5a~5d)には並列にスナバ用コンデンサ兼電圧バランス用コンデンサ(6a~6d)が接続され
前記被加熱物が非磁性体の場合、前記第一のインバータ回路は、前記第一、第二の上下アーム(51、52)の上アームであるスイッチング素子(5a、5c)が同時にオンしている期間と、下アームであるスイッチング素子(5b、5d)が同時にオンしている期間を設け、
前記被加熱物が磁性体の場合、前記第三のインバータ回路は、前記第一の上下アーム(51、)の上アームであるスイッチング素子(5a)と前記第二の上下アーム(52)の下アームである前記スイッチング素子(5d)が同時にオンオフし、前記第一の上下アーム(51)の下アームであるスイッチング素子(5b)と前記第二の上下アーム(52)の上アームである前記スイッチング素子(5c)が同時にオンオフすることを特徴とする電磁誘導加熱装置。
【請求項5】
1つの被加熱物を誘導加熱する2つの加熱コイル(11、12)と、
直流電源(1)が出力する直流電圧を交流電圧に変換して前記2つの加熱コイルに供給するインバータ回路と、
を備えた電磁誘導加熱装置であって、
前記インバータ回路は、
前記直流電源の正電極(P)と負電極(N)の間に、
2個のスイッチング素子(5a、5b)の直列体である第一の上下アーム(51)と、
2個のスイッチング素子(5c、5d)の直列体である第二の上下アーム(52)を直列接続し
前記第一、第二の上下アーム(51、52)のスイッチング素子を駆動することで、ハーフブリッジ方式インバータとして動作する第一のインバータ回路と、
前記第一、第二の上下アーム(51、52)のスイッチング素子を駆動することで、ハーフブリッジ方式インバータとして動作する第三のインバータ回路と、
で構成されており、
前記第一のインバータ回路の前記第一の上下アームの出力端子(O )と前記第二の上下アームの出力端子(O C )の間には、第五の共振コンデンサ(31)と第一の加熱コイル(11)と第一の共振コンデンサ(21b)第二の共振コンデンサ(22a)と第二の加熱コイル(12)と第五の共振コンデンサ(32)の直列体が接続され、
前記第三のインバータ回路の前記第一の上下アームの出力端子(O )と前記第二の上下アームの出力端子(O C )の間には、前記第一、第二の加熱コイル(11、12)と前記第五の共振コンデンサ(31、32)の直列体が接続され、
前記正電極(P)と前記第一の上下アームの出力端子(O )の間には、第一の共振コンデンサ(21a)と前記第一の加熱コイル(11)と前記第五の共振コンデンサ(31)の直列体が接続され、
前記第二の上下アームの出力端子(O )と前記負電極(N)の間には、前記第五の共振コンデンサ(32)と前記第二の加熱コイル(12)と第二の共振コンデンサ(22b)の直列体が接続され、
前記第一の共振コンデンサ(21b)と前記第二の共振コンデンサ(22a)の接続点と前記上下アーム同士の接続点(O )が接続され、
前記スイッチング素子(5a~5d)には並列にスナバ用コンデンサ兼電圧バランス用コンデンサ(6a~6d)が接続され
前記被加熱物が非磁性体の場合、前記第一のインバータ回路は、前記第一、第二の上下アーム(51、52)の上アームであるスイッチング素子(5a、5c)が同時にオンしている期間と、下アームであるスイッチング素子(5b、5d)が同時にオンしている期間を設け、
前記被加熱物が磁性体の場合、前記第三のインバータ回路は、前記第一の上下アーム(51、)の上アームであるスイッチング素子(5a)と前記第二の上下アーム(52)の下アームである前記スイッチング素子(5d)が同時にオンオフし、前記第一の上下アーム(51)の下アームであるスイッチング素子(5b)と前記第二の上下アーム(52)の上アームである前記スイッチング素子(5c)が同時にオンオフすることを特徴とする電磁誘導加熱装置。
【請求項6】
請求項2に記載の電磁誘導加熱装置において、
前記第一から第四の共振コンデンサは、前記第五の共振コンデンサよりも容量が小さいことを特徴とする電磁誘導加熱装置。
【請求項7】
請求項3から請求項5の何れか一項に記載の電磁誘導加熱装置において、
前記第一、第二の共振コンデンサは、前記第五の共振コンデンサよりも容量が小さいことを特徴とする電磁誘導加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体または非磁性体である被加熱物に対し所望の電力を供給して誘導加熱を行うインバータ方式の電磁誘導加熱装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、火を使わずに鍋などの被加熱物を加熱するインバータ方式の電磁誘導加熱装置が広く用いられるようになってきている。電磁誘導加熱装置は、加熱コイルに高周波電流を流し、加熱コイルに近接して配置された金属製の被加熱物(鍋など)に渦電流を発生させ、被加熱物自体の電気抵抗により発熱させるものである。一般的に、被加熱物が固有抵抗の大きい鉄等の磁性体である場合は加熱し易く、固有抵抗の小さい銅やアルミ等の非磁性体である場合は加熱し難い。
【0003】
被加熱物が磁性体と非磁性体の何れであっても適切に加熱できる従来例として、特許文献1に開示される電磁誘導加熱装置がある。この電磁誘導加熱装置は、調理鍋が磁性鍋か非磁性鍋かを判別し、その判別結果に応じてリレー(同文献の図1、符号20)を切り替えることで、高周波インバータの回路方式を、非磁性鍋の加熱時にはハーフブリッジ方式に、磁性鍋の加熱時にはフルブリッジ方式に変更すると共に、共振コンデンサの容量も同時に切り替え、異なる材質の被加熱物を誘導加熱するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4909968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、高抵抗の磁性鍋を加熱する場合には、高周波インバータの回路方式と共振コンデンサの容量を切り替えるスイッチ(リレー)をオン状態にし、インバータをフルブリッジ回路方式に切り替えると共に、第一の共振コンデンサ(同文献の図1、符号12)と第二の共振コンデンサ(同、符号15)および第三の共振コンデンサ(同、符号13)を利用して磁性鍋を誘導加熱する。
【0006】
一方、低抵抗の非磁性鍋を加熱する場合には、スイッチ(リレー)をオフ状態にし、インバータをハーフブリッジ回路方式に切り替えると共に、容量の大きい第三の共振コンデンサを完全に切り離し、容量の小さい第一の共振コンデンサと第二の共振コンデンサを利用して非磁性鍋を誘導加熱する。
【0007】
このようにすることで、特許文献1の電磁誘導加熱装置では、磁性鍋と非磁性鍋を買加熱することができるが、高周波インバータの回路方式と共振コンデンサの容量を切り替えるためにスイッチ(リレー)が必要となり、小型化の妨げになっていた。
【0008】
本発明の目的は、上記の課題に対処することであり、特に、インバータ方式や共振コンデンサを切り替えるためのスイッチ(リレー)を用いることなく、異なる材質の被加熱物に対して所望の電力を効率良く供給できるインバータ方式の電磁誘導加熱装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を達成するために、本発明の電磁誘導加熱装置は、1つの被加熱物を誘導加熱する複数の加熱コイルと、直流電源が出力する直流電圧を交流電圧に変換して前記複数の加熱コイルに供給するインバータ回路と、を備えた電磁誘導加熱装置であって、前記インバータ回路は、前記直流電源の正電極と負電極の間に、2個のスイッチング素子の直列体である上下アームを複数直列接続したものであり、前記インバータ回路の出力端子と前記上下アーム同士の接続点の間、または、前記インバータ回路の出力端子と前記直流電源の電極の間には、前記加熱コイルと非磁性体加熱用の共振コンデンサの直列体が接続されており、前記インバータ回路の出力端子同士の間には、前記加熱コイルと磁性体加熱用の共振コンデンサの直列体が接続されているものとした。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、インバータ方式や共振コンデンサを切り替えるためのスイッチ(リレー)を用いることなく、異なる材質の被加熱物対して所望の電力を効率良く供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1の電磁誘導加熱装置の回路構成図。
図2】実施例1の直流電源の回路構成図。
図3】実施例1の非磁性体加熱時の動作波形。
図4】実施例1の磁性体加熱時の動作波形。
図5】実施例2の電磁誘導加熱装置の回路構成図。
図6】実施例3の電磁誘導加熱装置の回路構成図。
図7】実施例4の電磁誘導加熱装置の回路構成図。
図8】実施例5の電磁誘導加熱装置の回路構成図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施例に係る電磁誘導加熱装置について、図面を用いながら説明する。なお、各図において、符号が同一のものは同一の構成要件あるいは類似の機能を備えた構成要件を示しており、適宜重複説明を省略している。
【実施例1】
【0013】
図1は、実施例1の電磁誘導加熱装置の回路構成図である。なお、本実施例の電磁誘導加熱装置は、金属筐体の上部に耐熱ガラス製のトッププレートを設置し、トッププレートの下方に配置した加熱コイルに高周波電流を供給することで、トッププレート上面の所定位置に載置した金属製の被加熱物を誘導加熱するものであるが、以下ではこのような周知構成の説明は省略する。
【0014】
図1において、直流電源1は200Vまたは100Vの商用交流電源から供給される交流電圧を整流し直流電圧を出力する電源である。この直流電源1の正電極Pと負電極Nとの間には、パワー半導体スイッチング素子(以下、単に「スイッチング素子」と称する)5aと5bが直列に接続された第一の上下アーム51と、スイッチング素子5cと5dが直列に接続された第二の上下アーム52が直列に接続されている。なお、以下では、スイッチング素子5a、5bの接続点を出力端子O、スイッチング素子5b、5cの接続点を接続点O、スイッチング素子5c、5dの接続点を出力端子Oと称することとする。
【0015】
スイッチング素子5a~5dのそれぞれにはダイオード6a~6dが逆方向に並列接続されており、また、スイッチング素子5a~5dのそれぞれにはコンデンサ7a~7dが並列に接続されている。このコンデンサ7a~7dは、スイッチング素子5a~5dのターンオフ時の遮断電流によって充電あるいは放電され、各スイッチング素子に印加される電圧の変化が低減することによりターンオフ損失を抑制するものである。また、スイッチング素子5a~5dのオフしているスイッチング素子に印加される電圧をバランスさせる役割がある。
【0016】
図1に示すように、第一の上下アーム51の出力端子Oには第一の加熱コイル11の一端が接続され、第一の加熱コイル11の他端と第一の上下アーム51と第二の上下アーム52の接続点Oの間には第一の共振コンデンサ21bが接続されている。同様に、第二の上下アーム52の出力端子Oには第二の加熱コイル12の一端が接続されており、第二の加熱コイル12の他端と直流電源1の負電極Nの間には第二の共振コンデンサ22bが接続されている。また、第一の加熱コイル11の他端と第二の加熱コイル12の他端との間には、第五の共振コンデンサ30が接続されている。
【0017】
なお、第一の加熱コイル11と第二の加熱コイル12は何れも、一つの被加熱物を加熱するために利用される加熱コイルであり、両者を同心円状に配置しても良いし、各々を半円状に巻き回し、両者を組み合わせることで環状の加熱コイルを形成しても良い。また、詳細は後述するが、第一の共振コンデンサ21bと第二の共振コンデンサ22bは、非磁性体加熱時に共振コンデンサとして機能するものであり、第五の共振コンデンサ30は、磁性体加熱時に共振コンデンサとして機能するものである。
【0018】
ここで、直流電源1は、例えば図2に示すような商用交流電源100から供給される交流電圧をダイオード101a~101dで整流し、インダクタ102aとコンデンサ103aから構成されるノーマルフィルタを介した後、昇圧用のインダクタ102bとスイッチング素子105、ダイオード106a、平滑用のコンデンサ103bからなる昇圧チョッパにより直流電圧を出力する電源である。
【0019】
加熱コイル11、12と被加熱物である金属製鍋(図示せず)は磁気的に結合するため、金属製鍋を加熱コイル11、12側からみた等価回路に変換すると、金属製鍋の等価抵抗と等価インダクタンスが直列に接続された構成になる。等価抵抗及び等価インダクタンスは、金属製鍋の材質によって異なり、低抵抗の非磁性体の場合は、等価抵抗及び等価インダクタンスのどちらも小さくなり、高抵抗の磁性体の場合は、どちらも大きくなる。
【0020】
本実施例の電磁誘導加熱装置では、被加熱物の材質や設定火力に応じて第一の上下アーム51と第二の上下アーム52の駆動方法を変更することにより被加熱物を加熱する。以下では、アルミに代表される非磁性体加熱時と、鉄に代表される磁性体加熱時の制御の違いを説明する。
【0021】
<非磁性体加熱時の制御>
まず、図3を用いて、非磁性体加熱時の制御を説明する。
【0022】
図3は、被加熱物がアルミ鍋等の非磁性体の場合の動作波形である。ここに示す波形は、上から順に、(a)スイッチング素子5a~5dのゲート駆動信号vg5a~vg5d、(b)スイッチング素子5b、5dに印加される電圧v5b、v5d、加熱コイル11、12の電流i11、i12、(c)共振コンデンサ21b、22bの電圧v21b、v22b、(d)上下アーム51、52の各素子の電流i5a~i5d、i6a~i6dである。なお、加熱コイル11、12に流れる電流i11、i12の向きは、図1に示す一点鎖線の矢印方向を正方向としている。
【0023】
本実施例では、被加熱物が銅鍋やアルミ鍋等の非磁性体の場合は、第一の上下アーム51と第二の上下アーム52の上アーム同士(スイッチング素子5a、5c)が同時にオンしている期間と、下アーム同士(スイッチング素子5b、5d)が同時にオンしている期間を設ける。これにより、第一の加熱コイル11と第一の共振コンデンサ21bからなる第一の共振負荷回路と、第二の加熱コイル12と第二の共振コンデンサ22bからなる第二の共振負荷回路の直列共振回路を負荷回路とする変形ハーフブリッジ方式インバータ回路として機能する。
【0024】
スイッチング素子5aと5cが同時にオンしている期間には、第一の加熱コイル11と第一の共振コンデンサ21bと第二の加熱コイル12と第二の共振コンデンサ22bの直列共振負荷回路には直流電源1の電圧Vが印加される。この時、コンデンサ7bと7dの容量が同じであればスイッチング素子5bと5dには直流電源1の電圧Vの約1/2の電圧がそれぞれ印加される。同様に、コンデンサ7aと7cの容量が同じであれば、スイッチング素子5bと5dが同時にオンしている期間にスイッチング素子5aと5cに印加される電圧は直流電源1の電圧Vの約1/2となる。加熱コイル11と加熱コイル12の電流の向きはともに正方向となる。
【0025】
図3では、スイッチング素子5a~5dは、ダイオード6a~6dに電流が流れている期間にターンオンさせることが出来ており、スイッチング損失の少ないソフトスイッチング動作が可能となる。
【0026】
前述のように、低抵抗の非磁性体は等価抵抗が小さいため所望の出力を得るには大きな電流を流す必要がある。被加熱物の表皮抵抗は周波数の平方根に比例する特徴があり、銅又はアルミなどの低抵抗の被加熱物を加熱する場合には、周波数を高くすることが有効である。従って、上下アーム51、52を例えば約90kHzの周波数で駆動できるように第一、第二の共振コンデンサ21b、22bの容量を設定することになる。
【0027】
低抵抗の非磁性体は等価抵抗が小さいため、周波数変化に対する電流変化の割合が大きく、また、電流が流れやすいため、共振負荷回路に印加する電圧を低く抑えて制御することが望ましい。本実施例では、非磁性体加熱時は図2に示す昇圧チョッパにより平滑コンデンサ103bの電圧、即ちインバータ2に印加する直流電源1の電圧を可変することによって加熱コイル電流を制御する。直流電源1には上下アーム51と上下アーム52が直列に接続されているため、第一の加熱コイル11と第一の共振コンデンサ21bからなる第一の共振負荷回路に印加される電圧は直流電源1の電圧Vの1/2となり、同様に第二の加熱コイル12と第二の共振コンデンサ22bからなる第二の共振負荷回路に印加される電圧も直流電源1の電圧Vの1/2となり、共振負荷回路に印加する電圧を低く抑えることができる。
【0028】
上記した特許文献1では、直流電源の電圧がそのまま第一の共振負荷回路と第二の共振負荷回路に印加されるため、直流電源1の電圧そのものを下げる必要がある。したがって、特許文献1の電源回路には降圧機能を設ける必要があり、電源回路が大型化していた。
【0029】
一方、本実施例では直流電源1の電圧は高い状態のまま、共振負荷回路の電圧を低く抑えた状態で非磁性体加熱が可能となる。更に、スイッチング素子5a~5dに印加される電圧は直流電源1の電圧Vの約1/2になるため、素子耐圧を下げることができ、オン抵抗の低いスイッチング素子を適用できることから低損失化に効果的である。
【0030】
<磁性体加熱時の制御>
次に、図4を用いて、磁性体加熱時の制御を説明する。
【0031】
図4は、被加熱物が鉄鍋等の磁性体の場合の動作波形である。なお、図4のvg5a等の意味は図3と同等である。
【0032】
本実施例では、被加熱物が鉄鍋等の磁性体の場合は、図4に示すように第一の上下アーム51の上アーム5aと第二の上下アーム52の下アーム5dを同時にオンオフし、第一の上下アーム51の下アーム5bと第二の上下アーム52の上アーム5cを同時にオンオフする。これにより、第一の加熱コイル11と第五の共振コンデンサ30と第二の加熱コイル12の直列共振回路を負荷回路とする変形ハーフブリッジ方式インバータ回路として機能する。
【0033】
スイッチング素子5aと5dが同時にオンしている期間、第一の加熱コイル11と第五の共振コンデンサ30と第二の加熱コイル12の直列共振負荷回路には直流電源1の電圧Vが印加される。この時、コンデンサ7bと7cの容量が同じであれば、スイッチング素子5bと5cには直流電源1の電圧Vの約1/2の電圧がそれぞれ印加される。同様に、コンデンサ7aと7dの容量が同じであれば、スイッチング素子5bと5cが同時にオンしている期間にスイッチング素子5aと5dに印加される電圧は直流電源1の電圧Vの約1/2となる。加熱コイル11の電流の向きは正方向、加熱コイル12の電流の向きは逆方向となる。
【0034】
図4でも、スイッチング素子5a~5dはダイオード6a~6dに電流が流れている期間にターンオンさせることが出来ており、スイッチング損失の少ないソフトスイッチング動作が可能となる。
【0035】
被加熱物が鉄の場合は元々抵抗が大きいため、約20kHzの周波数で第一の上下アーム51、第二の上下アーム52を駆動する。このため、第五の共振コンデンサ30の容量は、約20kHzの駆動周波数に合わせて設定することになり、第一、第二の共振コンデンサ21b、22bの容量よりも十分に大きい値になる。したがって、第一の共振コンデンサ21bと第二の共振コンデンサ22bが回路上に接続されていても、第一と第二の共振コンデンサ21b、22bの容量が第五の共振コンデンサ30の容量よりも十分に小さいため、電流は殆ど流れず動作への影響はない。
【0036】
前述のように、高抵抗の磁性体は等価抵抗が大きいため、スイッチング周波数の変化に対する電流変化の割合が小さく、インバータ回路の周波数制御によって容易に加熱コイル電流を制御できる。非磁性体加熱時のようにインバータに印加する直流電源1の電圧を可変し加熱コイル電流を制御しても構わない。
【0037】
以上で説明した制御を被加熱物の種別に応じて使い分けることで、本実施例の電磁誘導加熱装置は、特許文献1の回路構成で必須であったスイッチ(リレー)や降圧回路を設けることなく、磁性体加熱時も非磁性体加熱時も、設定火力の実現に必要な所望の電力を被加熱物に供給することができる。
【実施例2】
【0038】
図5は実施例2の電磁誘導加熱装置の回路構成図である。実施例1との共通点については重複説明を省略する。
【0039】
本実施例では、図1に示した実施例1の回路構成に対し、第一の加熱コイル11の他端と直流電源1の正電極Pの間に第一の共振コンデンサ21aが追加されており、第二の加熱コイル12の他端と接続点Oの間に第二の共振コンデンサ22aが追加されている。
【0040】
実施例1では、非磁性体加熱時に、スイッチング素子5a、5cが同時にオンした場合のみ直流電源1から電流が流れるが、本実施例では、スイッチング素子5b、5dがオンした場合にも直流電源1から電流が流れるハーフブリッジ回路方式インバータとなるため、直流電源1のリップル電流を低減することが可能となる。
【0041】
本実施例によれば、インバータ回路の前段に図2のようなコンバータが接続されている場合には、インバータ回路とコンバータの間にコンデンサ103bが接続されるため、リップル電流が小さくなることにより各コンデンサのサイズを小さくできる。また、各コンデンサの内部抵抗による発熱量を低減できるため、信頼性を向上することが可能である。
【実施例3】
【0042】
図6は実施例3の電磁誘導加熱装置の回路構成図である。実施例2との共通点については重複説明を省略する。
【0043】
本実施例では、図5に示した実施例2の回路構成に対し、出力端子Oと第一の加熱コイル11の一端の間に、第五の共振コンデンサ31を追加し、出力端子Oと第二の加熱コイル12の間に、第五の共振コンデンサ32を追加している。また、実施例2の第五の共振コンデンサ30を省略し、第一の加熱コイル11と第二の加熱コイル12の他端同士を短絡している。なお、図6に示す、第五の共振コンデンサ31と第一の加熱コイル11の位置、または、第五の共振コンデンサ32と第二の加熱コイル12の位置は入れ替えても良い。
【0044】
これにより、第一の上下アーム51の出力端子Oと第二の共振コンデンサ21aと21bの接続点の間に、第五の共振コンデンサ31と第一の加熱コイル11の直列回路が接続され、第二の上下アーム52の出力端子Oと第二の共振コンデンサ22aと22bの接続点の間に、第五の共振コンデンサ32と第二の加熱コイル12の直列回路が接続されることになる。
【0045】
このように、本実施例では、第五の共振コンデンサ31、32を含む共振負荷回路を備えたインバータユニットを直列に接続し、第一の共振コンデンサ21aと21bの接続点と第二の共振コンデンサ22aと22bの接続点を短絡する簡易な構造となるため、電磁誘導加熱装置への実装が容易になる。
【0046】
<非磁性体加熱時の制御>
本実施例では、前述の実施例と同様に被加熱物が銅鍋やアルミ鍋等の非磁性体の場合は、第一の上下アーム51と第二の上下アーム52の上アーム同士(スイッチング素子5a、5c)が同時にオンしている期間と、下アーム同士(スイッチング素子5b、5d)が同時にオンしている期間を設ける。これにより、第一の加熱コイル11と第一の共振コンデンサ21a、21bと第五の共振コンデンサ31からなる第一の共振負荷回路と、第二の加熱コイル12と第二の共振コンデンサ22a、22bと第五の共振コンデンサ32からなる第二の共振負荷回路の直列共振回路を負荷回路とするインバータ回路が構成される。
【0047】
前述のように、銅又はアルミなどの低抵抗の被加熱物を加熱する場合には、周波数を高くすることが有効であり、上下アーム51、52を例えば約90kHzの周波数で駆動できるように第一の共振コンデンサ21a、21bと第二の共振コンデンサ22a、22bの容量を設定する。ここで、本実施例では、第一の共振コンデンサ21a、21bに第五の共振コンデンサ31が直列に接続され、第二の共振コンデンサ22a、22bに第五の共振コンデンサ32が直列に接続される構成となる。後述するが、第五の共振コンデンサ31、32の容量は第一の共振コンデンサ21a、21bと第二の共振コンデンサ22a、22bより十分に大きい値となるため、共振周波数は主に第一、第二の共振コンデンサで定まる。
<磁性体加熱時の制御>
本実施例では、前述の実施例と同様に被加熱物が鉄鍋等の磁性体の場合は、第一の上下アーム51の上アーム5aと第二の上下アーム52の下アーム5dを同時にオンオフし、第一の上下アーム51の下アーム5bと第二の上下アーム52の上アーム5cを同時にオンオフする。これにより、第一の加熱コイル11と第二の加熱コイル12と第五の共振コンデンサ31、32の直列共振回路を負荷回路とするインバータ回路が構成される。
【0048】
前述のように、被加熱物が鉄の場合は元々抵抗が大きいため、約20kHzの周波数で第一の上下アーム51、第二の上下アーム52を駆動する。このため、第五の共振コンデンサ31、32の容量は、約20kHzの駆動周波数に合わせて設定することになり、第一の共振コンデンサ21a、21bと第二の共振コンデンサ22a、22bの容量よりも十分に大きい値になる。
【0049】
ここまでは1つの被加熱物の加熱に2つの加熱コイルを用いる電磁誘導加熱装置を示したが、加熱コイルには高い共振電圧が発生するため、電圧を抑える必要がある。
【実施例4】
【0050】
図7は実施例4の電磁誘導加熱装置の回路構成図である。実施例2との共通点については重複説明を省略する。
【0051】
図7に示す本実施例の回路構成は、概説すれば、図5に示す実施例2の回路構成にその鏡像となる回路構成を付加したものである。従って、本実施例の電磁誘導加熱装置は、4つの加熱コイルを利用して1つの被加熱物を加熱するものである。この概説と齟齬する構成もあるため、以下では、本実施例の回路構成を具体的に説明する。
【0052】
本実施例では、図5に示した実施例2の回路構成に対し、直流電源1の正電極Pと負電極Nとの間に、パワー半導体スイッチング素子5eと5fが直列に接続された第三の上下アーム53と、スイッチング素子5gと5hが直列に接続された第四の上下アーム54が直列に接続されている。なお、以下では、スイッチング素子5e、5fの接続点を出力端子O、スイッチング素子5f、5gの接続点を接続点O、スイッチング素子5g、5hの接続点を出力端子Oと称することとする。
【0053】
また、追加したスイッチング素子5e~5hのそれぞれにはダイオード6e~6hが逆方向に並列接続されており、スイッチング素子5e~5hのそれぞれにはコンデンサ7e~7hが並列に接続されている。このコンデンサ7e~7hは、スイッチング素子5e~5hのターンオフ時の遮断電流によって充電あるいは放電され、各スイッチング素子に印加される電圧の変化が低減することによりターンオフ損失を抑制するものである。また、スイッチング素子5e~5hのオフしているスイッチング素子に印加される電圧をバランスさせる役割がある。
【0054】
第三の上下アーム53の出力端子Oには、第三の加熱コイル13の一端が接続されており、第三の加熱コイル13の他端と直流電源1の正電極Pおよび接続点Oの間にはそれぞれ第三の共振コンデンサ23a、23bが接続されている。同様に、第四の上下アーム54の出力端子Oには、第四の加熱コイル14の一端が接続されており、第四の加熱コイル14の他端と接続点Oおよび直流電源1の負電極Nの間にはそれぞれ第四の共振コンデンサ24a、24bが接続されている。また、第一の加熱コイル11の他端と第三の加熱コイル13の他端の間には、第五の共振コンデンサ35が接続されており、第二の加熱コイル12の他端と第四の加熱コイル14の他端の間には、第五の共振コンデンサ36が接続されている。更に、接続点Oと接続点Oは短絡されている。
<非磁性体加熱時の制御>
本実施例では、被加熱物が銅鍋やアルミ鍋等の非磁性体の場合は、上下アーム51~54の上アーム同士(スイッチング素子5a、5c、5e、5g)が同時にオンしている期間と、下アーム同士(スイッチング素子5b、5d、5f、5h)が同時にオンしている期間を設ける。これにより、第一の加熱コイル11と第一の共振コンデンサ21a、21bからなる第一の共振負荷回路と、第二の加熱コイル12と第二の共振コンデンサ22a、22bからなる第二の共振負荷回路の直列共振回路を負荷回路とするハーフブリッジ回路方式インバータと、第三の加熱コイル13と第三の共振コンデンサ23a、23bからなる第三の共振負荷回路と、第四の加熱コイル14と第四の共振コンデンサ24a、24bからなる第四の共振負荷回路の直列共振回路を負荷回路とするハーフブリッジ回路方式インバータとして機能する。なお、加熱コイル11~14に流れる電流の向きは、図7に示す一点鎖線の矢印方向を正方向とすると、何れも正方向となる。
【0055】
前述のように、銅又はアルミなどの低抵抗の被加熱物を加熱する場合には、周波数を高くすることが有効であり、上下アーム51~54を例えば約90kHzの周波数で駆動できるように第一の共振コンデンサ21a、21bと第二の共振コンデンサ22a、22b、第三の共振コンデンサ23a、23bと第四の共振コンデンサ24a、24bの容量を設定する。
<磁性体加熱時の制御>
本実施例では、被加熱物が鉄鍋等の磁性体の場合は、上下アーム51、52の上アーム同士(スイッチング素子5a、5c)が同時にオンしている期間と上下アーム53、54の下アーム同士(スイッチング素子5f、5h)が同時にオンしている期間を設けるか、上下アーム51、54の上アーム同士(スイッチング素子5a、5g)が同時にオンしている期間と上下アーム52、53の下アーム同士(スイッチング素子5f、5d)が同時にオンしている期間を設ける。これにより、加熱コイル11~14と第五の共振コンデンサ35、36の直列共振回路を負荷回路とするフルフリッジ回路方式インバータとして機能する。
【0056】
上下アーム51、52の上アーム同士(スイッチング素子5a、5c)が同時にオンしている期間と上下アーム53、54の下アーム同士(スイッチング素子5f、5h)が同時にオンしている期間を設けた場合、加熱コイル11と12の電流の向きは正方向、加熱コイル13と14の電流の向きは逆方向となる。
【0057】
一方、上下アーム51、54の上アーム同士(スイッチング素子5a、5g)がオンしている同時に期間と上下アーム52、53の下アーム同士(スイッチング素子5f、5d)が同時にオンしている期間を設けた場合、加熱コイル11と14の電流の向きは正方向、加熱コイル12と13の電流の向きは逆方向となる。
【0058】
高抵抗の磁性体は等価抵抗が大きいため共振負荷回路には電流が流れ難い。従って、本実施例の回路構成のように、フルブリッジ回路方式に変更することによりインバータ回路の出力電圧をハーフブリッジ回路方式の2倍に高め所望の出力を得ることができる。
【実施例5】
【0059】
図8は実施例5の電磁誘導加熱装置の回路構成図である。実施例4との共通点については重複説明を省略する。
【0060】
図8では、図7に示した実施例4の回路構成に対し、加熱コイル11~14のそれぞれに、第五の共振コンデンサ31~34が直列に接続されている。また、実施例2の第五の共振コンデンサ35、36を省略した結果、第一の共振コンデンサ21aと21bの接続点と第三の共振コンデンサ23aと23bの接続点が短絡され、第二の共振コンデンサ22aと22bの接続点と第四の共振コンデンサ24aと24bの接続点が短絡されている。
【0061】
<非磁性体加熱時の制御>
本実施例においても、被加熱物が銅鍋やアルミ鍋等の非磁性体の場合は、上下アーム51~54の上アーム同士(スイッチング素子5a、5c、5e、5g)が同時にオンしている期間と下アーム同士(スイッチング素子5b、5d、5f、5h)が同時にオンしている期間を設ける。ここで、共振コンデンサ21aと23a、21bと23bは並列に接続される構成となり、第一の加熱コイル11と第三の加熱コイル13は共振コンデンサ21a、21b、23a、23bを共用した共振負荷回路となる。同様に、共振コンデンサ22aと24a、22bと24bは並列に接続される構成となり、第二の加熱コイル12と第四の加熱コイル14は共振コンデンサ22a、22b、24a、24bを共用した共振負荷回路となる。なお、加熱コイル11から14に流れる電流の向きは、図8に示す一点鎖線の矢印方向を正方向とすると、何れも正方向となる。
【0062】
前述のように、銅又はアルミなどの低抵抗の被加熱物を加熱する場合には、周波数を高くすることが有効であり、上下アーム51~54を例えば約90kHzの周波数で駆動できるように共振コンデンサ21a、21b、23a、23bと共振コンデンサ22a、22b、24a、24bの容量を設定する。
【0063】
このように、本実施例は、共振コンデンサ21a、21b、23a、23bを第一の加熱コイル11と第三の加熱コイル13で共用でき、共振コンデンサ22a、22b、24a、24bを第二の加熱コイル12と第四の加熱コイル14で共用できるため、部品数の削減につながる。
【0064】
<磁性体加熱時の制御>
本実施例においても、被加熱物が鉄鍋等の磁性体の場合は、上下アーム51、52の上アーム同士(スイッチング素子5a、5c)が同時にオンしている期間と上下アーム53、54の下アーム同士(スイッチング素子5f、5h)が同時にオンしている期間を設けるか、上下アーム51、54の上アーム同士(スイッチング素子5a、5g)が同時にオンしている期間と上下アーム52、53の下アーム同士(スイッチング素子5f、5d)が同時にオンしている期間を設ける。これにより、加熱コイル11~14と第五の共振コンデンサ31~34の直列共振回路を負荷回路とするフルフリッジ回路方式インバータとして機能する。
【0065】
上下アーム51、52の上アーム同士(スイッチング素子5a、5c)がオンしている期間と上下アーム53、54の下アーム同士(スイッチング素子5f、5h)がオンしている期間を設けた場合、加熱コイル11と12の電流の向きは正方向、加熱コイル13と14の電流の向きは逆方向となる。
【0066】
上下アーム51、54の上アーム同士(スイッチング素子5a、5g)がオンしている期間と上下アーム52、53の下アーム同士(スイッチング素子5f、5d)がオンしている期間を設けた場合、加熱コイル11と14の電流の向きは正方向、加熱コイル12と13の電流の向きは逆方向となる。
【符号の説明】
【0067】
1 直流電源、
2 インバータ
5a~5h、105 スイッチング素子、
6a~6h、101a~101d、106a、106b ダイオード、
7a~7h、103a、103b コンデンサ、
11 第一の加熱コイル、
12 第二の加熱コイル、
13 第三の加熱コイル、
14 第四の加熱コイル、
21a、21b 第一の共振コンデンサ、
22a、22b 第二の共振コンデンサ、
23a、23b 第三の共振コンデンサ、
24a、24b 第四の共振コンデンサ、
30、31~34 第五の共振コンデンサ、
51 第一の上下アーム、
52 第二の上下アーム、
53 第三の上下アーム、
54 第四の上下アーム、
100 商用交流電源、
102a、102b インダクタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8