(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】橋梁構築方法
(51)【国際特許分類】
E01D 21/00 20060101AFI20240215BHJP
【FI】
E01D21/00 B
(21)【出願番号】P 2020145416
(22)【出願日】2020-08-31
【審査請求日】2023-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】317018169
【氏名又は名称】ヒロセ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】松浦 正典
(72)【発明者】
【氏名】中村 隆一郎
(72)【発明者】
【氏名】三室 恵史
(72)【発明者】
【氏名】中谷 行博
(72)【発明者】
【氏名】卜部 淳一
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-131978(JP,A)
【文献】特開昭59-068410(JP,A)
【文献】特開2017-190607(JP,A)
【文献】特開平08-209652(JP,A)
【文献】特開2001-131938(JP,A)
【文献】特開2015-113581(JP,A)
【文献】特開2016-199956(JP,A)
【文献】特開2012-162862(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋梁の既設部分の前方に
、根元部と着脱部を有するガイド材を延ばすように、前記既設部分に前記ガイド材を取付ける工程(a)と、
前記ガイド材を足場として前記ガイド材の長手方向の中間部と前部で橋脚の杭を打設する工程(b)と、
前記既設部分から前記橋脚の上に橋梁の床部を架設する工程(c)と、
を繰り返すことで橋梁を構築し、
前記杭が合わせて3本以上存在し、各杭が平面において多角形の各頂点となる位置にあり、
前記工程(b)で各杭の打設を行った後、前記ガイド材において前記各杭で囲まれた範囲に位置する
前記着脱部を取り外し、
当該着脱部を取り外した後の前記範囲に配置されるゴンドラを使用して隣り合う前記杭の間にブレースを設けることを特徴とする橋梁構築方法。
【請求項2】
前記ガイド材から前記
着脱部を取り外した後、前記ガイド材を前記既設部分から抜き取り、
前記工程(a)において、抜き取った前記ガイド材に取り外した前記
着脱部を取り付けて当該ガイド材を再利用することを特徴とする請求項1記載の橋梁構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、山岳部などで桟橋を施工する方法として、ガイド材を桟橋の既設スパン部分から延設し、このガイド材の中間部で橋脚の後部の杭を打設するとともに、ガイド材の前部で橋脚の前部の杭をさらに打設することで、平面において三角形の頂点にあたる位置に配置された3本の杭による橋脚を構築することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、隣り合う杭の間にブレースを設けるため、杭で囲まれた平面三角形状の範囲に作業用のゴンドラを吊り降ろす。当該範囲にガイド材が残ったままだとゴンドラの吊り降ろしに干渉するので、特許文献1では、クレーンでガイド材を吊りつつこれを後退させ、上記範囲から事前に退避する。しかしながら、この退避作業は難しく、施工性の面で課題があった。
【0005】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、桟橋等を容易に構築できる橋梁構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した課題を解決するための本発明は、橋梁の既設部分の前方に、根元部と着脱部を有するガイド材を延ばすように、前記既設部分に前記ガイド材を取付ける工程(a)と、前記ガイド材を足場として前記ガイド材の長手方向の中間部と前部で橋脚の杭を打設する工程(b)と、前記既設部分から前記橋脚の上に橋梁の床部を架設する工程(c)と、を繰り返すことで橋梁を構築し、前記杭が合わせて3本以上存在し、各杭が平面において多角形の各頂点となる位置にあり、前記工程(b)で各杭の打設を行った後、前記ガイド材において前記各杭で囲まれた範囲に位置する前記着脱部を取り外し、当該着脱部を取り外した後の前記範囲に配置されるゴンドラを使用して隣り合う前記杭の間にブレースを設けることを特徴とする橋梁構築方法である。
【0007】
本発明では、橋梁の既設部分からガイド材を延設し、その中間部と前部で橋脚の杭を打設することで、剛性の高い平面多角形状の橋脚を構築する。隣り合う杭の間にはブレースを設けるが、この際、前記のようにガイド材を後退させるのでなく、ガイド材の杭で囲まれた範囲に位置する部分を取り外すことで、ガイド材を当該範囲から容易に退避でき、ブレースの設置のために当該範囲で行われる作業との干渉を避けることができる。これにより、桟橋等の橋梁を容易に構築できる。
【0008】
前記ガイド材から前記着脱部を取り外した後、前記ガイド材を前記既設部分から抜き取り、前記工程(a)において、抜き取った前記ガイド材に取り外した前記着脱部を取り付けて当該ガイド材を再利用することが望ましい。
これにより、前記の工程で構築した橋梁の部分を既設部分としてさらにその次の部分を構築する際に、上記ガイド材を転用できるようになる。
【0009】
また本発明では、杭で囲まれた範囲に配置したゴンドラを利用し、杭間にブレースを設置することにより、ブレースの設置作業を容易且つ安全に行うことができる。また、ゴンドラを配置する前にガイド材を上記範囲から退避しているので、ブレースの設置時にガイド材とゴンドラの干渉を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、桟橋等を容易に構築できる橋梁構築方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0013】
(1.桟橋1)
図1、2は本発明の実施形態に係る橋梁構築方法で構築される桟橋1(橋梁)を示す図である。
図1は桟橋1の斜視図である。
図2(a)は桟橋1を上から見た図であり、
図2(b)は桟橋1を側方から見た図である。
【0014】
図1、2に示すように桟橋1は複数のスパン部分10から構成され、
図1、2ではその一部を示している。桟橋1の各スパン部分10は、橋脚3の上に主桁5を配置し、主桁5上に覆工板7を載せた構成を有する。主桁5および覆工板7は本発明において桟橋1の床部を構成する。
【0015】
橋脚3は、平面において三角形の各頂点にあたる位置に配置された3本の杭31の間にブレース32を取付けた構成を有し、前部の2本の杭31の上部の間に仮受桁34が設けられ、当該2本の杭31と後部の1本の杭31の頂部の間に、床部(主桁5と覆工板7)を支持するためのV字状の受桁33が架け渡される。
【0016】
また、V字状の受桁33の間には横桁35が架け渡され、後部の杭31の杭頭にはH形鋼等の鋼材37が配置される。上記の受桁33は鋼材37の上に載置される。本実施形態では上記の三角形が正三角形となっており、各方向からの外力に対し橋脚3がバランスよく抵抗できる。
【0017】
主桁5は、隣り合う橋脚3の横桁35の上に架け渡すように設けられる。本実施形態では、桟橋1の幅方向(
図2(a)の上下方向に対応する。以下桟橋幅方向という)に間隔を空けて4本の主桁5が設けられる。
【0018】
覆工板7は、桟橋幅方向の両側に配置される覆工板7aと、桟橋幅方向の中央部に配置される覆工板7bを含む。
【0019】
(2.橋梁構築方法)
次に、
図3~
図13を参照して本発明の実施形態に係る橋梁構築方法について説明する。各図において、(a)は桟橋1を上から見た図であり、(b)は桟橋1を側方から見た図である。
【0020】
本実施形態では、まず
図3に示すように、桟橋1の既設スパン部分10(既設部分)の前方にガイド桁20(ガイド材)を延ばすように、既設スパン部分10にガイド桁20を取付ける。
【0021】
ここでは、既設スパン部分10の先端の橋脚3の受桁33と仮受桁34の間にガイド桁20の後部を挿入し、当該後部を受桁33と仮受桁34に仮固定する。仮固定にはブルマン(登録商標)などの狭締具を用いることができる。ガイド桁20は予め地組し、クレーン(不図示)によって吊り上げ、角度を調整しながら挿入する。なお、「後」とは既設スパン部分10側を指すものとし、「前」とはその逆側を指すものとする。
【0022】
ガイド桁20は、桟橋幅方向の両側に配置されたスパン方向(
図3(a)、(b)の左右方向に対応する)の2本の鋼材21の前方に、同じく桟橋幅方向の両側に配置されたスパン方向の2本の鋼材23を設けた構成を有し、鋼材23の根元部23aが、鋼材21の前部の下に取付けられる。鋼材23は根元部23aとその前方の着脱部23bとに分割され、着脱部23bを根元部23aにボルト等で着脱可能に取り付けた構成となっている。
【0023】
鋼材21の間には作業用の足場板22が設けられる。また、鋼材21の前方且つ鋼材23の根元部23aにあたる箇所に桟橋幅方向の横桁24が設けられる。
【0024】
次に、
図4に示すように、桟橋1の既設スパン部分10の次スパン部分の橋脚の後部の杭31を、ガイド桁20の長手方向の中間部で打設する。杭31はガイド桁20の横桁24で位置決めし、当該横桁24の前で鋼材23の間に挿入する。杭31としては鋼管杭を用いるが、これに限ることはない。
【0025】
その後、杭31に取付けたブラケット50により、ガイド桁20を鋼材23の根元部23aにあたる部分で杭31に仮固定する。これにより、ガイド桁20を中間部で支持する。
【0026】
本実施形態では、次に、
図5に示すように、ガイド桁20の鋼材23の着脱部23bの間に作業用の足場板27を設け、桟橋1の次スパン部分の橋脚の前部の2本の杭31をガイド桁20の長手方向の前部で打設する。ここでは、当該前部に桟橋幅方向の2本の横桁25を設け、杭31は横桁25の先端の間で位置決めして当該先端の間に挿入する。横桁25の間には作業用の足場板26が配置されるが、横桁25の両端は足場板26から露出している。
【0027】
その後、3本の杭31の杭頭処理を行い、
図6に示すようにガイド桁20の横桁25と足場板26を撤去し、3本の杭31の頂部に前記した受桁33を設置する。
【0028】
杭頭処理は受桁33の設置のため行われ、後部の杭31は、杭頭を切断した後でその頂部にH形鋼等の鋼材37を設置する。受桁33は2本の鋼材をV字型に突き合わせた部材であり、後部の杭31はそのV字の頂点に位置することから、上記の鋼材37はその上に載置する受桁33の載置可能範囲を広くとるために後部の杭31の頂部に設置している。ガイド桁20の鋼材23が鋼材21より一段下に配置されているのは、鋼材23間から当該杭31の杭頭を露出させ、この杭頭処理を容易に行えるようにするためである。
【0029】
一方、前部の2本の杭31は、杭頭切断後、その頂部にプレート(不図示)を設置する。前記した足場板26は、杭頭処理を容易とするためこれらの杭31の杭頭より低い位置に設置されている(
図5参照)。
【0030】
その後、
図7に示すように、3本の杭31で囲まれた範囲に位置する鋼材23の着脱部23bと着脱部23bの間の足場板27を取り外す。
【0031】
そして、
図8に示すように予め地組したゴンドラ42を3本の杭31で囲まれた範囲に配置する。ここでは、ゴンドラ42の吊降部41を受桁33の上に設置して固定し、ゴンドラ42は吊降部41からワイヤ43によって上記範囲に吊り降ろす。
【0032】
そして、
図9に示すようにゴンドラ42を利用して隣り合う杭31の間にブレース32と仮受桁34を設置する。ゴンドラ42には、ブレース32等の取付のため、外側に延びる延長足場44が進退可能に設けられている。なお、ブレース32の設置はゴンドラ42を利用するものに限らず、その他の足場を用いて行ってもよい。
【0033】
この後、
図10に示すようにゴンドラ42等を撤去し、受桁33上に横桁35を設置することで、既設スパン部分10の前方に次スパン部分の橋脚3が構築される。横桁35はV字状の受桁33の間に架け渡される。
【0034】
また、
図11に示すように、4本の主桁5を桟橋幅方向の両側に2本ずつ設置する。主桁5は、既設スパン部分10の橋脚3の横桁35から、上記で新たに設置した横桁35に架設される。
【0035】
そして、
図12に示すように、桟橋幅方向の両側の2本の主桁5の間に覆工板7aをそれぞれ設置し、覆工板7a間の隙間からガイド桁20を前方に抜き取る。ガイド桁20はクレーン(不図示)によって前方斜め上に角度をつけながら既設スパン部分10から抜き取る。なお、ガイド桁20は、抜き取り前に既設スパン部分10の橋脚3の受桁33と仮受桁34への仮固定、およびブラケット50による杭31への仮固定を解除し、足場板22や横桁24等を撤去しておく。
【0036】
その後、
図13に示すように覆工板7aの間の隙間の上部に覆工板7bを設置し、手摺等(不図示)を取付けることで、桟橋1の次スパン部分10が構築される。抜き取ったガイド桁20は、鋼材23の着脱部23bを再度取り付けたうえで、次スパン部分10の橋脚3の受桁33と仮受桁34の間に後部を挿入し、仮固定することで、当該次スパン部分10を既設スパン部分10としてその次のスパン部分を構築する際に再利用することができる。前記の足場板22や横桁24はガイド桁20に再び取付けておく。
【0037】
以下、
図3~
図13の工程を繰り返すことで、桟橋1が延長して構築されてゆく。なお、図示は省略しているが、前記した各工程では必要に応じて適当な箇所に仮設足場(不図示)が設けられる。
【0038】
以上説明したように、本実施形態によれば、桟橋1の既設スパン部分10からガイド桁20を延設し、その中間部と前部で橋脚3の杭31を打設することで、剛性の高い平面三角形状の橋脚3を構築する。隣り合う杭31の間にはブレース32を設けるが、この際、前記のようにガイド桁20を後退させるのでなく、ガイド桁20の杭31で囲まれた範囲に位置する部分(鋼材23の着脱部23b)を取り外すことで、ガイド桁20を当該範囲から容易に退避でき、ブレース32の設置のために当該範囲で行われる作業との干渉を避けることができる。これにより、桟橋1を容易に構築できる。
【0039】
特に本実施形態では、杭31で囲まれた範囲に配置したゴンドラ42を利用し、杭31間にブレース32を設置することにより、ブレース32の設置作業を容易且つ安全に行うことができる。前記のように、ガイド桁20はゴンドラ42を配置する前に上記範囲から退避しているので、ブレース32の設置時にガイド桁20とゴンドラ42の干渉を防ぐことができる。
【0040】
さらに本実施形態では、ガイド桁20を桟橋1の既設スパン部分10から抜き取った後、一旦取り外していた鋼材23の着脱部23bを再度取り付け、前記の工程で構築した桟橋1の次スパン部分10を既設スパン部分10としてさらにその次のスパン部分を構築する際に、ガイド桁20を転用できる。
【0041】
しかしながら、本発明は以上の実施形態に限らない。例えば本実施形態では計3本の杭31が平面において三角形の各頂点にあたる位置に配置されており、これにより剛性の高い橋脚3を杭31の本数を最小限としつつ得ることができるが、橋脚3の構成は、3本以上の杭31を多角形の頂点にあたる位置に配置したものであればよく、特に限定されない。例えば4本の杭31から平面四角形状の橋脚3を構成することも可能であり、多角形の向きも様々に定めることができる。
【0042】
ガイド桁20は、このような杭31の配置のバリエーションに応じたものを用いればよく、杭31で囲まれた範囲に位置する部分が取り外し可能であればその構成は特に限定されない。
【0043】
また本発明は山岳部に限らず、その他の種々の位置に桟橋1を構築する際に適用することが可能である。さらに、桟橋1に限らずその他の橋梁を構築する際にも適用することが可能である。
【0044】
以上、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0045】
1:桟橋
3:橋脚
5:主桁
7、7a、7b:覆工板
10:スパン部分
20:ガイド桁
21、23、37:鋼材
22、26、27:足場板
23a:根元部
23b:着脱部
24、25、35:横桁
31:杭
32:ブレース
33:受桁
34:仮受桁
42:ゴンドラ
50:ブラケット