(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】イオン交換体の分析方法及びイオン交換体の前処理装置
(51)【国際特許分類】
G01N 33/44 20060101AFI20240215BHJP
B01J 47/00 20170101ALI20240215BHJP
B01J 47/14 20170101ALI20240215BHJP
B01J 49/00 20170101ALI20240215BHJP
【FI】
G01N33/44
B01J47/00
B01J47/14
B01J49/00
(21)【出願番号】P 2020157224
(22)【出願日】2020-09-18
【審査請求日】2023-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 智子
(72)【発明者】
【氏名】横田 治雄
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-118408(JP,A)
【文献】特開2019-188300(JP,A)
【文献】特開2019-081885(JP,A)
【文献】特開2001-114717(JP,A)
【文献】特開2002-102719(JP,A)
【文献】特開2014-028370(JP,A)
【文献】特表2019-509882(JP,A)
【文献】特開2011-161303(JP,A)
【文献】国際公開第2009/044425(WO,A1)
【文献】特開平09-210977(JP,A)
【文献】特開2019-027936(JP,A)
【文献】特開2020-105632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/44,
G01N 30/00,30/96,
B01J 47/00,
B01J 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
精製対象の有機溶媒をイオン交換体により形成されているイオン交換体層に通液し、該精製対象の有機溶媒を精製した後の、該イオン交換体層内に残存する該精製対象の有機溶媒を、純水で置換する前処理工程と、
該イオン交換体層から、イオン交換体を抜き出すイオン交換体抜出工程と、
抜き出された該イオン交換体に吸着しているイオン性不純物を溶離し、溶離液中の該イオン性不純物の濃度を分析することにより、該イオン交換体に吸着されているイオン性不純物を定量するイオン性不純物分析工程と、
を有することを特徴とするイオン交換体の分析方法。
【請求項2】
前記精製対象の有機溶媒が極性有機溶媒であり、
前記前処理工程において、前記イオン交換体層内に、前記純水を通液することにより、該イオン交換体層内の該極性有機溶媒を該純水に置換すること、
を特徴とする請求項1記載のイオン交換体の分析方法。
【請求項3】
前記精製対象の有機溶媒が極性有機溶媒であり、
前記前処理工程において、前記イオン交換体層内に、不活性ガスを導入して、該イオン交換体層内に残存する精製対象の極性有機溶媒を押し出した後、該イオン交換体層内に前記純水を通液することにより、該イオン交換体層内に残存する該精製対象の極性有機溶媒を該純水に置換すること、
を特徴とする請求項1記載のイオン交換体の分析方法。
【請求項4】
前記精製対象の有機溶媒が非極性有機溶媒であり、
前記前処理工程において、前記イオン交換体層内に、高純度極性有機溶媒を通液して、該イオン交換体層内に残存する精製対象の非極性有機溶媒を、該高純度極性有機溶媒に置換し、次いで、該イオン交換体層内に、前記純水を通液することにより、該イオン交換体層内の該高純度極性有機溶媒を該純水に置換すること、
を特徴とする請求項1記載のイオン交換体の分析方法。
【請求項5】
前記精製対象の有機溶媒が非極性有機溶媒であり、
前記前処理工程において、前記イオン交換体層に、不活性ガスを導入して、該イオン交換体層内の該非極性有機溶媒を押し出した後、該イオン交換体層内に、高純度極性有機溶媒を通液して、該イオン交換体層内に残存する精製対象の非極性有機溶媒を、該高純度極性有機溶媒に置換し、次いで、該イオン交換体層内に、不活性ガスを導入して、該イオン交換体層内の該高純度極性有機溶媒を押し出した後、該イオン交換体層内に前記純水を通液することにより、該イオン交換体層内の該高純度極性有機溶媒を該純水に置換すること、
を特徴とする請求項1記載のイオン交換体の分析方法。
【請求項6】
前記イオン交換体は、イオン交換基を有する多孔性吸着材であり、カチオン交換体、アニオン交換体及びキレート交換体のうちのいずれかまたはそれらを組み合わせた吸着剤であることを特徴とする請求項1~5いずれか1項記載のイオン交換体の分析方法。
【請求項7】
前記イオン性不純物分析工程を行った後、前記イオン交換体の水分保有能力を分析する水分保持量分析工程を行うことを特徴とする請求項1~6いずれか1項記載のイオン交換体の分析方法。
【請求項8】
前記イオン交換体抜出工程において、前記イオン交換体層を、通液方向に複数の区分に区分けして、区分毎に該イオン交換体を抜き出し、前記イオン性不純物分析工程において、区分毎に、該イオン交換体に吸着されているイオン性不純物を定量することを特徴とする請求項1~7いずれか1項記載のイオン交換体の分析方法。
【請求項9】
前記イオン性不純物分析工程において、鉱酸を用いて、前記イオン交換体に吸着されているイオン性不純物を溶離することを特徴とする請求項1~8いずれか1項記載のイオン交換体の分析方法。
【請求項10】
有機溶媒の精製に用いられたイオン交換体の分析前に、該イオン交換体の前処理を行うイオン交換体の前処理装置であって、
該イオン交換体により形成されているイオン交換体層が充填されているイオン交換体層充填容器と、
純水貯留槽と、
一端が該純水貯留槽に繋がり、他端が該イオン交換体層充填容器に繋がる、該イオン交換充填容器内に純水を供給するための純水供給管と、
を有すること、
を特徴とするイオン交換体の前処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン交換体の分析方法に関し、特に、有機溶媒の精製に用いられたイオン交換体に吸着されているイオン性不純物の吸着量を分析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程で用いられる有機溶媒には、イオン性不純物の含有量をpptレベルまで低減することが求められている。有機溶媒中のイオン性不純物の除去には、イオン交換体、例えば、イオン交換樹脂が用いられている。
【0003】
有機溶媒中では、イオン性不純物である金属イオンは、水中に比べ、拡散速度が非常に遅いので、有機溶媒の精製の場合は、水処理の場合に比べてイオン交換体層のイオン交換帯が非常に長くなり、pptレベルの精製においては、イオン交換体層の総イオン交換容量の大半を消費する前に、金属イオンがリークしてしまう。そのため、イオン交換体充填カラム又はカートリッジ内のイオン交換体層の総イオン交換量からは、金属イオンがリークするまでの期間(すなわち、イオン交換体充填カラム又はカートリッジ内のイオン交換体層の寿命)を把握することはできない。
【0004】
そこで、イオン交換体充填カラム又はカートリッジ内のイオン交換体層の寿命を把握するためには、イオン交換体充填カラム又はカートリッジ内のイオン交換体層の負荷状況、すなわち、イオン交換体層に吸着されているイオン性不純物の吸着量と、イオン交換体層のどの位置にどの程度、イオン性不純物が吸着されているかという分布を調べる必要がある。しかしながら、有機溶媒の精製に用いられたイオン交換体層の負荷状況を調べる方法として、現在のところ、確立されたものはない。
【0005】
水処理に用いられるイオン交換体充填カラム又はカートリッジ内のイオン交換体層の負荷状況を調べる方法としては、特許文献1に、イオン交換装置内のイオン交換樹脂層からイオン交換樹脂を取り出し、該イオン交換樹脂の負荷を解析する方法であって、前記イオン交換樹脂層を通水方向に複数領域に区分し、各領域からイオン交換樹脂を取り出し、該イオン交換樹脂に吸着している吸着物質の組成分析を行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の方法では、水処理に用いられたイオン交換樹脂を採取した後、溶離液として、塩化カルシウム、硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム等を用いて、イオン交換体から吸着物質を溶離し、吸着した不純物の種類と交換容量に対する割合で組成分析を行っている。
【0008】
一方、有機溶媒の精製に用いられたイオン交換体については、特許文献1のような方法で、イオン交換体に吸着されているイオン性不純物の定量分析を正確に行うことが難しい。有機溶媒の精製に用いられたイオン交換体では、イオン性不純物の吸着量が僅かであるため、ICP-MSのような高感度の分析装置で金属濃度を分析する必要がある。
【0009】
そして、ICP-MSにより、イオン交換体に吸着された微量のイオン性不純物を分析するために、イオン交換体に吸着された微量のイオンを溶離するため及び高純度品が市販されていることから分析精度が良いという観点から、溶離液として、塩酸、硝酸、硫酸等の鉱酸が有効である。
【0010】
ところが、可燃性の有機溶媒と硝酸、硫酸等の酸化性物質を混合することは、危険な場合がある。例えば、イソプロピルアルコールと硝酸の組み合わせには、有毒ガスの発生の危険性がある。また、溶離液に有機溶媒が混在すると、ICP-MS分析において、そのような有機溶媒中の炭素原子が、分析装置の汚染源になってしまう。
【0011】
従って、本発明は、有機溶媒の精製に用いられたイオン交換体層のイオン性不純物の吸着状態の分析において、溶離液として用いる鉱酸と有機溶媒との混合による有毒ガスの発生の問題及び溶離液への有機溶媒の混入の問題がない、イオン交換体の分析方法を提供することにある。また、該イオン交換体の分析方法を行うための前処理方法及びそれを実施するための前処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような技術背景のもと、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、精製工程を行った後のイオン交換体層内に存在する精製対象の有機溶媒を、純水で置換してから、イオン交換体を取り出すことにより、溶離液として用いる鉱酸と有機溶媒との混合による有毒ガス発生の問題及び溶離液への有機溶媒の混入の問題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明(1)は、精製対象の有機溶媒を、イオン交換体により形成されているイオン交換体層に通液し、該精製対象の有機溶媒を精製する精製工程を行った後の、該イオン交換体層内に残存する該精製対象の有機溶媒を、純水で置換する前処理工程と、
該イオン交換体層から、イオン交換体を抜き出すイオン交換体抜出工程と、
抜き出された該イオン交換体に吸着しているイオン性不純物を溶離し、溶離液中の該イオン性不純物の濃度を分析することにより、該イオン交換体に吸着されているイオン性不純物を定量するイオン性不純物分析工程と、
を有することを特徴とするイオン交換体の分析方法を提供するものである。
【0014】
また、本発明(2)は、有機溶媒の精製に用いられたイオン交換体の分析前に行われるイオン交換体の前処理方法であって、
精製対象の有機溶媒をイオン交換体により形成されているイオン交換体層に通液し、該精製対象の有機溶媒を精製した後の、該イオン交換体層内に残存する該精製対象の有機溶媒を、純水で置換する前処理工程を有すること、
を特徴とするイオン交換体の前処理方法を提供することにある。
【0015】
また、本発明(3)は、有機溶媒の精製に用いられたイオン交換体の分析前に、該イオン交換体の前処理を行うイオン交換体の前処理装置であって、
該イオン交換体により形成されているイオン交換体層が充填されているイオン交換体層充填容器と、
純水貯留槽と、
一端が該純水貯留槽に繋がり、他端が該イオン交換体層充填容器に繋がる、該イオン交換充填容器内に純水を供給するための純水供給管と、
を有すること、
を特徴とするイオン交換体の前処理装置を提供することにある。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、有機溶媒の精製に用いられたイオン交換体層のイオン性不純物の吸着状態の分析において、溶離液として用いる鉱酸と有機溶媒との混合による有毒ガスの発生の問題及び溶離液への有機溶媒の混入の問題がない、イオン交換体の分析方法を提供することができる。また、本発明によれば、該イオン交換体の分析方法を行うためのイオン交換体の前処理方法及びそれを実施するためのイオン交換体の前処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明のイオン交換体の前処理装置の形態例を含む有機溶媒の精製兼イオン交換体の前処理装置の形態例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のイオン交換体の分析方法は、精製対象の有機溶媒をイオン交換体により形成されているイオン交換体層に通液し、該精製対象の有機溶媒を精製した後の、該イオン交換体層内に残存する該精製対象の有機溶媒を、純水で置換する前処理工程と、
該イオン交換体層から、イオン交換体を抜き出すイオン交換体抜出工程と、
抜き出された該イオン交換体に吸着しているイオン性不純物を溶離し、溶離液中の該イオン性不純物の濃度を分析することにより、該イオン交換体に吸着されているイオン性不純物を定量するイオン性不純物分析工程と、
を有することを特徴とするイオン交換体の分析方法である。
【0019】
本発明のイオン交換体の分析方法は、少なくとも、前処理工程と、イオン交換体抜出工程と、イオン性不純物分析工程と、を有する。
【0020】
前処理工程は、精製対象の有機溶媒の精製工程を行った後の、イオン交換体層内に残存する精製対象の有機溶媒を、純水で置換する工程である。
【0021】
精製対象の有機溶媒としては、特に制限されないが、例えば、イソプロピルアルコール、メタノール、エタノール等のアルコール類、シクロヘキサンノン、メチルイソブチルケトン、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン、2-フェニル-1-プロペン等のアルケン系有機溶媒、N-メチルピロリドン及びこれらの混合有機溶媒が挙げられる。精製対象の有機溶媒としては、極性有機溶媒及び非極性有機溶媒のいずれであってもよい。また、極性有機溶媒としては、プロトン性の極性有機溶媒であっても、非プロトン性の極性有機溶媒であってもよい。
【0022】
精製対象の有機溶媒は、イオン性不純物として、Na、K、Li等の1価のイオン性金属不純物、Cr、As、Ca、Cu、Fe、Mg、Mn、Ni、Pb、Zn等の2価以上のイオン性金属不純物等のカチオン性の不純物、及び/又は硫酸イオン、硝酸イオン、塩素イオン、ホウ素、フッ素、ギ酸、酢酸などの有機酸等のアニオン性の不純物を含有する。
【0023】
精製対象の有機溶媒中の各イオン性不純物の含有量は、特に制限されないが、通常、100質量ppb~20質量ppt程度である。
【0024】
イオン交換体層を形成するイオン交換体、すなわち、本発明のイオン交換体の分析方法で、精製工程後に、イオン性不純物の吸着量の分析が行われるイオン交換体は、イオン交換基を有する多孔性吸着材であり、カチオン交換体、アニオン交換体及びキレート交換体のうちのいずれか、又はこれらのうちの2以上の組み合わせである。イオン交換基を有する多孔性吸着材としては、イオン交換基を有する多孔質合成吸着体、活性炭、炭化樹脂、ゼオライト、粒状のイオン交換樹脂が挙げられる。粒状のイオン交換樹脂としては、カチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂、キレート交換樹脂が挙げられる。
【0025】
活性炭で検出される官能基の種類としては、カルボキシル基、フェノール性ヒドロキシル基、キノン形カルボニル基等がある。
【0026】
カチオン交換体としては、強酸性カチオン交換体、弱酸性カチオン交換体が挙げられる。強酸性カチオン交換体に導入されているカチオン交換基としては、特に制限されず、例えば、スルホン酸基等が挙げられる。弱酸性カチオン交換体に導入されているカチオン交換基としては、特に制限されず、例えば、カルボキシル基等が挙げられる。カチオン交換体のカチオン交換基は、H形が好ましい。
【0027】
キレート交換体に導入されているキレート交換基としては、特に制限されず、例えば、イミノジ酢酸基、アミノメチルリン酸基、イミノプロピオン酸基等のアミノ基を有する官能基、チオール基等が挙げられる。キレート交換樹脂は、H形が好ましく、H形キレート交換体は、Na形、Ca形、Mg形等の金属イオン形のキレート交換体を、鉱酸と接触させることにより、酸処理されて、H形に変換されたものである。
【0028】
粒状の強酸性カチオン交換樹脂としては、例えば、ダウケミカル社製のアンバーライトIR120B、IR124、200CT252、アンバージェット1020、1024、1060、1220、三菱ケミカル社製のダイヤイオンSK104、SK1B、SK110、SK112、PK208、PK212L、PK216、PK218、PK220、PK228、UBK08、UBK10、UBK12、オルガノ製のDS-1、DS-4、ピュロライト社製のC100、C100E、C120E、C100x10、C100x12MB、C150、C160、SGC650、レバチット社製のモノプラスS108H、SP112、S1668等が挙げられる。
【0029】
粒状の弱酸性カチオン交換樹脂としては、例えば、オルガノ製のFPC3500、IRC76、三菱ケミカル社製のダイヤイオンWK10、WK11、WK100、WK40L、ピュロライト社製のC104、C106、C107E、C115E、SSTC104、レバチット社製のCNP80WS等が挙げられる。
【0030】
粒状のキレート樹脂としては、例えば、金属イオン形のキレート交換樹脂としては、三菱化学社製のCR-10、CR-11、住化ケムテックス社製のデュオライトC-467、住友化学社製のMC-700、ランクセス社製のレバチットTP207、レバチットTP208、レバチットTP260、ピュロライト社製のS930、S950、オルガノ製のDS-21、DS-22が挙げられる。
【0031】
アニオン交換体としては、強塩基性アニオン交換体、弱塩基性アニオン交換体が挙げられる。強塩基性アニオン交換体に導入されているアニオン交換基としては、特に制限されず、例えば、OH形の四級アンモニウム基等が挙げられる。弱塩基性アニオン交換体に導入されているアニオン交換基としては、特に制限されず、例えば、遊離塩基形の三級アミノ基、二級アミノ基、一級アミノ基、ポリアミン基等が挙げられる。
【0032】
粒状のアニオン交換樹脂としては、例えば、ダウケミカル社製のアンバーライトIRA900、402、96SB、98、アンバージェット4400、4002、4010、三菱ケミカル社製のダイヤイオンUBA120、PA306S、PA308、PA312、PA316、PA318L、WA21J、WA30、オルガノ社製のDS-2、DS-5、DS-6、ピュロライト社製のA400、A600、SGA550、A500、A501P、A502PS、A503、A100、A103S、A110、A111S、A133S、レバチット社製のモノプラスM500、M800、MP62WS、MP64等が挙げられる。
【0033】
粒状のイオン交換樹脂の基体樹脂としては、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体等が挙げられる。イオン交換樹脂としては、特に制限されないが、有機高分子を母体とする有機高分子系のイオン交換体が好ましく、母体となる有機高分子としては、スチレン系樹脂またはアクリル系樹脂が挙げられる。
【0034】
粒状のイオン交換体は、ゲル型構造、マクロポーラス型構造、ポーラス型構造のいずれの構造でもよい。
【0035】
イオン交換体層は、イオン交換体充填用のカラム、カートリッジ等のイオン交換装置内に形成されている。つまり、イオン交換装置内に、イオン交換体層を形成するようにイオン交換体が充填されている。
【0036】
イオン交換体層としては、イオン交換基を有する合成吸着材層、活性炭層、カチオン交換樹脂の単床、アニオン交換樹脂の単床、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂の混床又は複床が挙げられ、これらのうち、カチオン交換樹脂の単床又はカチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂の混床若しくは複床が好ましい。また、カチオン交換樹脂の単床、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂の混床又は複床に用いられるカチオン交換樹脂は、1種であっても、2種以上の組み合わせであってもよく、また、アニオン交換樹脂の単床、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂の混床又は複床に用いられるアニオン交換樹脂は、1種であっても、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0037】
イオン交換装置内に形成されているイオン交換体層に、精製対象の有機溶媒を通液する方法は、特に制限されず、通常、イオン交換体による有機溶媒の精製において用いられている方法が、適宜用いられる。
【0038】
精製工程では、精製対象の有機溶媒をイオン交樹脂層に通液し、イオン交換体に精製対象の有機溶媒を接触させることにより、精製対象の有機溶媒中のイオン性不純物を吸着除去して、精製対象の有機溶媒の精製を行う。
【0039】
そして、前処理工程では、精製工程を行った後に、イオン交換体層内に残存する精製対象の有機溶媒を、純水で置換する。
【0040】
前処理工程で用いられる純水としては、半導体製造に用いられる純水等が挙げられ、金属不純物濃度が3ppt以下の水である。
【0041】
精製対象の有機溶媒が極性有機溶媒の場合、前処理工程としては、以下の方法が挙げられる。例えば、(I)イオン交換体層内に残存する精製対象の極性有機溶媒を抜くことなく、イオン交換体層内に、純水を通液して、イオン交換体層内に残存する精製対象の極性有機溶媒を、純水で置換する方法が挙げられる。
【0042】
また、精製対象の有機溶媒が極性有機溶媒の場合、前処理工程としては、(II)先ず(1)イオン交換体層内を大気圧下にして放置し、重力により、イオン交換体層内に残存する精製対象の極性有機溶媒を落下させ、イオン交換体層の下方から、精製対象の極性有機溶媒を抜く方法、(2)イオン交換体層内に、不活性ガス等のガスを導入して、ガスによりイオン交換体層内に残存する精製対象の極性有機溶媒を押し出す方法、(3)イオン交換体層内を大気圧下にして放置し、重力により、イオン交換体層内に残存する精製対象の極性有機溶媒を落下させ、イオン交換体層の下方から、精製対象の極性有機溶媒を抜いた後、イオン交換体層内に、不活性ガス等のガスを導入して、ガスによりイオン交換体層内に残存している精製対象の極性有機溶媒を押し出す方法などにより、イオン交換体層内から、精製対象の極性有機溶媒を抜き、次いで、精製対象の極性有機溶媒が抜かれたイオン交換体層内に純水を通液する方法が挙げられる。
【0043】
このようにして、前処理工程では、イオン交換体層内に残存する精製対象の極性有機溶媒を、純水で置換する。
【0044】
イオン交換体層内から、精製対象の極性有機溶媒を抜く方法のうち、(II)の(2)又は(3)のように、不活性ガス等のガスを導入して、ガスによりイオン交換体層内に残存する精製対象の極性有機溶媒を押し出すことが、イオン交換体の粒子間の空隙及びイオン交換体の細孔内に残留する精製対象の極性有機溶媒を少なくすることができる点で、好ましい。不活性ガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガスが挙げられる。
【0045】
また、精製対象の有機溶媒が非極性有機溶媒の場合、前処理工程としては、例えば、先ず、イオン交換体層内に残存する精製対象の非極性有機溶媒を高純度極性有機溶媒に置換し、次いで、イオン交換体層内の高純度極性有機溶媒を純水に置換する方法が挙げられる。
【0046】
イオン交換体層内に残存する精製対象の非極性有機溶媒を高純度極性有機溶媒に置換する方法としては、例えば、(I)イオン交換体層内に残存する精製対象の非極性有機溶媒を抜くことなく、イオン交換体層内に、高純度極性有機溶媒を通液して、イオン交換体層内に残存する精製対象の非極性有機溶媒を、高純度極性有機溶媒で置換する方法が挙げられる。
【0047】
(I)で用いられる高純度極性有機溶媒としては、特に制限されず、例えば、イソプロピルアルコール、メタノール、エタノール等のアルコール類、シクロヘキサンノン、メチルイソブチルケトン、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類などが挙げられる。高純度極性有機溶媒の不純物濃度は、好ましくは5ppt以下である。
【0048】
また、イオン交換体層内に残存する精製対象の非極性有機溶媒を高純度極性有機溶媒に置換する方法としては、例えば、(II)先ず(a)イオン交換体層内から精製対象の非極性有機溶媒を抜き、次いで、(b)イオン交換体層内に高純度極性有機溶媒を通液して、イオン交換体層内に残存する精製対象の非極性有機溶媒を、高純度極性有機溶媒に置換する方法が挙げられる。
【0049】
(II)の(a)のイオン交換体層内から精製対象の非極性有機溶媒を抜く方法としては、例えば、(a1)イオン交換体層内を大気圧下にして放置し、重力により、イオン交換体層内に残存する精製対象の非極性有機溶媒を落下させ、イオン交換体層の下方から、精製対象の非極性有機溶媒を抜く方法、(a2)イオン交換体層内に、不活性ガス等のガスを導入して、ガスによりイオン交換体層内に残存する精製対象の非極性有機溶媒を押し出す方法、(a3)イオン交換体層内を大気圧下にして放置し、重力により、イオン交換体層内に残存する精製対象の非極性有機溶媒を落下させ、イオン交換体層の下方から、精製対象の非極性有機溶媒を抜いた後、イオン交換体層内に、不活性ガス等のガスを導入して、ガスによりイオン交換体層内に残存している精製対象の非極性有機溶媒を押し出す方法などが挙げられる。
【0050】
(II)の(a)のイオン交換体層内から、精製対象の非極性有機溶媒を抜く方法のうち、(a2)又は(a3)のように、不活性ガス等のガスを導入して、ガスによりイオン交換体層内に残存する精製対象の非極性有機溶媒を押し出すことが、イオン交換体の粒子間の空隙及びイオン交換体の細孔内に残留する精製対象の非極性有機溶媒を少なくすることができる点で、好ましい。不活性ガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガスが挙げられる。
【0051】
(II)の(b)で用いられる高純度極性有機溶媒としては、特に制限されず、例えば、イソプロピルアルコール、メタノール、エタノール等のアルコール類、シクロヘキサンノン、メチルイソブチルケトン、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類などが挙げられる。高純度極性有機溶媒の不純物濃度は、好ましくは5ppt以下である。
【0052】
精製対象の有機溶媒が非極性有機溶媒の場合、イオン交換体層内に残存する精製対象の非極性有機溶媒を高純度極性有機溶媒に置換した後に、イオン交換体層内の高純度極性有機溶媒を純水に置換する方法としては、例えば、(I)イオン交換体層内の高純度極性有機溶媒を抜くことなく、イオン交換体層内に、純水を通液して、イオン交換体層内の高純度極性有機溶媒を、純水で置換する方法が挙げられる。
【0053】
精製対象の有機溶媒が非極性有機溶媒の場合、イオン交換体層内に残存する精製対象の非極性有機溶媒を高純度極性有機溶媒に置換した後に、イオン交換体層内の高純度極性有機溶媒を純水に置換する方法としては、例えば、(II)先ず(c)イオン交換体層内から高純度極性有機溶媒を抜き、次いで、(d)イオン交換体層内に、純水を通液することにより、イオン交換体層内の高純度極性有機溶媒を純水に置換する方法が挙げられる。
【0054】
(II)の(c)のイオン交換体層内から高純度極性有機溶媒を抜く方法としては、例えば、(c1)イオン交換体層内を大気圧下にして放置し、重力により、イオン交換体層内の高純度極性有機溶媒を落下させ、イオン交換体層の下方から、高純度極性有機溶媒を抜く方法、(c2)イオン交換体層内に、不活性ガス等のガスを導入して、ガスによりイオン交換体層内の高純度極性有機溶媒を押し出す方法、(c3)イオン交換体層内を大気圧下にして放置し、重力により、イオン交換体層内の高純度極性有機溶媒を落下させ、イオン交換体層の下方から、高純度極性有機溶媒を抜いた後、イオン交換体層内に、不活性ガス等のガスを導入して、ガスによりイオン交換体層内に残存している高純度極性有機溶媒を押し出す方法などが挙げられる。
【0055】
(II)の(c)のイオン交換体層内から、高純度極性有機溶媒を抜く方法のうち、(c2)又は(c3)のように、不活性ガス等のガスを導入して、ガスによりイオン交換体層内の高純度極性有機溶媒を押し出すことが、イオン交換体の粒子間の空隙及びイオン交換体の細孔内に残留する高純度極性有機溶媒を少なくすることができる点で、好ましい。不活性ガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガスが挙げられる。
【0056】
このようにして、前処理工程では、イオン交換体層内に残存する精製対象の非極性有機溶媒を、純水で置換する。
【0057】
精製対象の有機溶媒が非極性有機溶媒の場合、イオン交換体の表面が、純水とは親和性の低い有機物で覆われた状態となっているため、イオン交換体層内の非極性有機溶媒を直接純水で置換しようとしても、非極性有機溶媒が純水に置き換わり難い。そこで、精製対象の有機溶媒が非極性有機溶媒の場合は、前処理工程では、イオン交換体層内に残存する精製対象の非極性有機溶媒を、一旦、極性有機溶媒に置換してから、極性有機溶媒を純水に置換することが好ましい。
【0058】
前処理工程において、イオン交換体層内に純水を通液するときに、気泡が発生し易いので、イオン交換体層が充填されている容器又は装置内を脱気しながら、容器又は装置内に純水を供給し、イオン交換体層に純水を通液することが好ましい。あるいは、前処理工程において、有機溶媒を一旦抜き出した後に、イオン交換体層内に純水を通液するときに、純水として、脱気水を用いること、すなわち、イオン交換体層に純水の脱気水を通液することが、イオン交換体内の有機溶媒が純水で置換される際に気泡が発生することが防がれる、また、樹脂層内の気泡を脱気水に溶解させることで気泡を消失させることができる点で好ましい。
【0059】
イオン交換体抜出工程は、精製対象の有機溶媒が純水で置換されたイオン交換体層から、イオン交換体を抜き出す工程である。
【0060】
イオン交換体抜出工程において、イオン交換体層から、イオン交換体を抜き出す方法としては、特に制限されない。例えば、イオン交換体層に、通液方向に、抜出用のチューブを差し込み、チューブ内に、分析対象のイオン交換体を取り込み、チューブ内に取り込まれたイオン交換体が出ないような方法(例えば、チューブ内を吸引しながら引き抜く方法)で、イオン交換体をチューブごとイオン交換体層から引き抜くことで、分析対象の部位に存在するイオン交換体を抜き出す方法(イオン交換体の抜き出し方法の第一形態とも記載する。)が挙げられる。この方法では、イオン交換体層から引き抜いたチューブ内には、イオン交換体層のイオン交換体の順序と同じ順序で、イオン交換体が存在している。そのため、チューブ内のイオン交換体を取り出すときに、通液方向に、複数の区分に区分けして、チューブの先から、区分毎にイオン交換体を取り分ければ、イオン交換体層を、通液方向に複数の区分に区分けして、区分毎にイオン交換体を抜き出すことができる。このような方法の具体例としては、特開2014-256406号公報に記載されている方法が挙げられる。なお、このような方法においては、イオン交換体層にチューブを差し込むときの速度、及びイオン交換体層からチューブを引き抜くときの速度は、上下の区分のイオン交換体が混合しないような速度が、適宜選択される。
【0061】
また、イオン交換体抜出工程において、イオン交換体層から、イオン交換体を抜き出す方法としては、例えば、イオン交換体層が充填されている容器、例えば、イオン交換体が充填されているカートリッジ、カラム等の底部を解放して、重力によりイオン交換体を落下させ、容器の下から出てきたイオン交換体を、予め定めた分量毎に採取して、区分毎に取り分ける方法(イオン交換体の抜き出し方法の第二形態とも記載する。)が挙げられる。この方法によれば、容器内のイオン交換体層を、通液方向に、複数の区分に区分けして、容器の底から取り出して、区分毎に、イオン交換体を取り分ければ、イオン交換体層を、通液方向に複数の区分に区分けし、区分毎にイオン交換体を抜き出すことができる。
【0062】
また、イオン交換体抜出工程において、イオン交換体層から、イオン交換体を抜き出す方法としては、例えば、イオン交換体層が充填されている容器のうち、各区分に対応する位置にそれぞれ抜出口を設け、各抜出口からイオン交換体を抜き出す方法が挙げられる。
【0063】
イオン交換体の抜き出し方法の第一形態及び第二形態によれば、通液方向に区分されている区分毎に、イオン交換体に吸着しているイオン性不純物の定量分析が可能となるので、イオン性不純物分析工程で、イオン交換体に吸着されているイオン性不純物を定量することにより、イオン交換体層全体のイオン性不純物の吸着状況を把握できる。よって、イオン交換体の抜き出し方法の第一形態及び第二形態によれば、イオン交換体層の負荷解析を行うことができる。また、イオン交換体層の最下流近傍のイオン交換体に吸着されているイオン性不純物を定量することにより、イオン交換体層の最下流近傍まで、イオン交換帯が伸びて来ているか否かの判断ができるので、イオン交換体層が寿命に達しているか否かの判断をすることができる。そして、最下流近傍のイオン交換体の分析後、分析結果に基づいて、イオン交換体層が寿命に達したと判断される場合には、精製対象の有機溶媒中の不純物濃度及びそれまでに処理した処理量から、寿命に達するまでの吸着量(X)を把握し、その吸着量(X)を基に、それ以降の有機溶媒の精製におけるイオン交換体層の寿命の予測をすることができる。また、イオン交換体層の最下流近傍のイオン交換体の分析後、分析結果に基づいて、イオン交換体層が寿命に達したとして、以降の使用を中止することができ、あるいは、まだ寿命に達していないとして、有機溶媒の精製を再開することができる。
【0064】
また、イオン交換体抜出工程において、イオン交換体層から、イオン交換体を抜き出す方法としては、イオン交換体層の通液方向の最下流近傍のイオン交換体を抜き出す方法(イオン交換体の抜き出し方法の第三形態とも記載する。)が挙げられる。イオン交換体の抜き出し方法の第三形態において、イオン交換体層からイオン交換体を採取する方法としては、イオン交換体層にチューブを差し込み、次いで、チューブ内のイオン交換体が出ないようにして、チューブを引き抜く方法が挙げられる。また、イオン交換体の抜き出し方法の第三形態においては、スプーン等でイオン交換体層の最下流近傍のイオン交換体の一部採取してもよい。また、イオン交換体層が充填されている容器のうち、イオン交換体層の最下流近傍の位置に抜出口を設け、抜出口からイオン交換体を抜き出す方法が挙げられる。
【0065】
イオン交換体の抜き出し方法の第三形態によれば、イオン交換体層の最下流近傍のイオン交換体に吸着しているイオン性不純物の組成分析が可能となるので、イオン性不純物分析工程で、イオン交換体に吸着されているイオン性不純物を定量することにより、イオン交換体層の最下流近傍まで、イオン交換帯が伸びて来ているか否かの判断ができるので、イオン交換体層が寿命に達しているか否かの判断をすることができる。そして、イオン交換体層の最下流近傍のイオン交換体の分析後、分析結果に基づいて、イオン交換体層が寿命に達したとして、以降の使用を中止することができ、あるいは、まだ寿命に達していないとして、有機溶媒の精製を再開することができる。
【0066】
イオン性不純物分析工程は、イオン交換体抜出工程を行い抜き出されたイオン交換体から、イオン交換体に吸着されているイオン性不純物を溶離し、次いで、得られる溶離液中のイオン性不純物の濃度を分析することにより、イオン交換体に吸着されているイオン性不純物を定量する工程である。
【0067】
イオン不純物分析工程において、イオン交換体抜出工程を行い抜き出されたイオン交換体から、イオン交換体に吸着されているイオン性不純物を溶離する方法としては、特に制限されず、イオン交換体に吸着されているイオン性不純物を的確に溶離できる方法であればよい。溶離方法としては、採取したイオン交換体を、塩酸、硫酸、硝酸等の鉱酸の水溶液に浸漬し、鉱酸の水溶液に、イオン性不純物を溶出させることにより、溶離液を得る方法が挙げられる。鉱酸の種類、濃度、使用量、浸漬時間等の溶離条件は、適宜選択される。また、溶離方法としては、採取したイオン交換体を、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)等有機アルカリの水溶液に浸漬し、有機アルカリの水溶液に、イオン性不純物を溶出させることにより、溶離液を得る方法が挙げられる。有機アルカリの種類、濃度、使用量、浸漬時間等の溶離条件は、適宜選択される。
【0068】
イオン性不純物分析工程では、次いで、得られた溶離液中の各イオン性不純物の量を、ICP-MSを用いて定量分析する。ICP-MSを用いた定量分析には、常法の分析条件が適宜用いられる。
【0069】
そして、採取した区分毎に、イオン交換体に吸着されている各イオン性不純物を定量する。
【0070】
このようにして、本発明のイオン交換体の分析方法では、イオン交換体層を区分に分けて、イオン交換体層中のイオン交換体に吸着されているイオン性不純物の吸着状況を、把握することができるので、イオン交換体層の負荷解析を行うことができる(イオン交換体抜出工程の第一形態又は第二形態を用いる場合)、あるいは、イオン交換体層が寿命に達しているか否かの判断をすることができる(イオン交換体抜出工程の第三形態を用いる場合)。
【0071】
そして、本発明のイオン交換体の分析方法では、鉱酸を溶離液として用いる場合、鉱酸を用いて溶離させる前に、精製対象の有機溶媒を純水に置換するので、溶離液として鉱酸の水溶液を用いても、溶離液中に有機溶媒が混入することはない。そのため、鉱酸と有機溶媒との混合による有毒ガスの発生の問題を防ぐことができる。また、溶離液への有機溶媒の混入の問題を防ぐことができる。
【0072】
本発明のイオン交換体の分析方法では、イオン性不純物分析工程において、イオン性不純物を溶離した後のイオン交換体について、水分保有能力の分析を行う水分保有能力分析工程を行うことができる。イオン交換体の細孔が、不純物の有機物により塞がれていると、イオン交換体の水分保持能力が低下するので、イオン交換体の水分保有能力を分析することにより、有機物によるイオン交換体の細孔の閉塞度合いを把握することができる。
【0073】
イオン交換体の水分保有能力の分析方法は、イオン性不純物の溶離を行った後のイオン交換体を、25℃で相対湿度100%の大気に、30分以上接触させて、飽和水湿潤状態にする。その後、飽和水湿潤状態の樹脂を恒温乾燥器で105℃、16時間乾燥させることで、乾燥状態の樹脂を得る。そして、水分保有能力(%)=「((乾燥前の飽和水湿潤状態のイオン交換体の質量-乾燥状態のイオン交換体の質量)/乾燥前の飽和水湿潤状態のイオン交換体の質量)×100」の式により、水分保有能力を求める。
【0074】
本発明のイオン交換体の分析方法を行った後、前処理工程において純水と接触させたイオン交換体のうち、イオン性不純物分析工程において分析に使用されなかったイオン交換体を、再生液で再生する再生工程を行うことができる。
【0075】
再生工程で用いる再生液としては、水酸化ナトリウム、水酸化テトラアンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、塩酸、硫酸、硝酸等が挙げられる。
【0076】
そして、再生工程では、前処理工程において純水と接触させたイオン交換体のうち、イオン性不純物分析工程において分析に使用されなかったイオン交換体に、再生液を接触させることにより、イオン交換体の再生を行う。イオン交換体に再生液を接触させる方法としては、特に制限されず、例えば、イオン性不純物分析工程に用いられる分のイオン交換体が抜き取られた後のイオン交換体層が充填されている容器又は装置内に、再生液を通液することにより、イオン交換体に再生液を接触させる方法が挙げられる。
【0077】
本発明のイオン交換体の分析方法で、イオン交換体の分析を行うことにより、イオン交換体の負荷状況を正確に把握できるので、その後の再生工程において、再生に使用する薬品量を正確に調節することができる。また、本発明のイオン交換体の分析方法を行った後、再生工程を行うことにより、再生による繰り返し使用の効果(金属量の変化)の確認を行うことができる。
【0078】
本発明のイオン交換体の再生方法は、少なくとも、前処理工程と、イオン性不純物分析工程と、該前処理工程において純水と接触させたイオン交換体のうち、該イオン性不純物分析工程において分析に使用されなかったイオン交換体に、再生液を接触させる再生工程と、を有することを特徴とするイオン交換体の再生方法である。つまり、本発明のイオン交換体の再生方法では、本発明のイオン交換体の分析方法を行った後、分析に使用されなかったイオン交換体に、再生液を接触させて、イオン交換体の再生を行う。
【0079】
本発明のイオン交換体の再生方法に係る前処理工程及びイオン性不純物分析工程は、本発明のイオン交換体の分析方法に係る前処理工程及びイオン性不純物分析工程と同様である。また、本発明のイオン交換体の再生方法に係る再生工程は、上記再生工程と同様である。
【0080】
本発明のイオン交換体の再生方法によれば、再生に使用する薬品量を正確に調節することができるので、再生液の無駄がなく、再生の終了時の把握が容易となる。またイオン交換体層の寿命を事前に分析確認することで、再生のタイミングを調整できるので、イオン交換体層を効率的に使用することができる。
【0081】
本発明のイオン交換体の前処理方法は、イオン交換体の有機溶媒の精製に用いられたイオン交換体の分析前に行われるイオン交換体の前処理方法であって、
精製対象の有機溶媒をイオン交換体により形成されているイオン交換体層に通液し、該精製対象の有機溶媒を精製した後の、該イオン交換体層内に残存する該精製対象の有機溶媒を、純水で置換する前処理工程を有すること、
を特徴とするイオン交換体の前処理方法である。
【0082】
本発明のイオン交換体の前処理方法は、イオン交換体の有機溶媒の精製に用いられたイオン交換体を分析する前に、イオン交換体を分析に適した状態にするために行われるイオン交換体の前処理方法である。
【0083】
本発明のイオン交換体の前処理方法は、前処理工程を有する。そして、本発明のイオン交換体の前処理方法に係る前処理工程は、本発明のイオン交換体の分析方法に係る前処理工程と同様である。
【0084】
本発明のイオン交換体の前処理装置は、有機溶媒の精製に用いられたイオン交換体の分析前に、該イオン交換体の前処理を行うイオン交換体の前処理装置であって、
該イオン交換体により形成されているイオン交換体層が充填されているイオン交換体層充填容器と、
純水貯留槽と、
一端が該純水貯留槽に繋がり、他端が該イオン交換体層充填容器に繋がる、該イオン交換充填容器内に純水を供給するための純水供給管と、
を有すること、
を特徴とするイオン交換体の前処理装置である。つまり、本発明のイオン交換体の前処理装置は、少なくとも、イオン交換体層充填容器と、純水貯留槽と、純水供給管と、を有する。また、必要に応じて、本発明のイオン交換体の前処理装置は、不活性ガスボンベ及び不活性ガス供給管を有することができる。また、必要に応じて、本発明のイオン交換体の前処理装置は、高純度極性有機溶媒貯留槽及び高純度極性有機溶媒供給管を有することができる。
【0085】
本発明のイオン交換体の前処理装置について、
図1を参照して説明する。
図1は、本発明のイオン交換体の前処理装置の形態例を含む有機溶媒の精製兼イオ交換体の前処理装置の形態例を示す模式図である。
【0086】
図1中、有機溶媒の精製兼イオン交換体の前処理装置1は、
イオン交換体層が充填されているイオン交換体層充填容器5と、
精製対象の有機溶媒が貯留されている被処理有機溶媒貯留槽6、一端が被処理有機溶媒貯留槽6に繋がり、他端がイオン交換体層充填容器5に繋がり、被処理有機溶媒貯留槽6内の被処理有機溶媒をイオン交換体層充填容器5に供給するための被処理有機溶媒供給管7、被処理有機溶媒供給管7に付設されている開閉弁8、及び図示しない送液ポンプからなる被処理有機溶媒供給部と、
純水が貯留されている純水貯留槽2A、一端が純水貯留槽2Aに繋がり、他端がイオン交換体層充填容器5に繋がり、純水貯留槽2A内の純水をイオン交換体層充填容器5に供給するための純水供給管2C、純水供給管2Cに付設されている開閉弁2B、及び図示しない送液ポンプからなる純水供給部と、
不活性ガスが貯留されている不活性ガスボンベ3A、一端が不活性ガスボンベ3Aに繋がり、他端がイオン交換体層充填容器5に繋がり、不活性ガスボンベ3A内の不活性ガスをイオン交換体層充填容器5に供給するための不活性ガス供給管3C、及び不活性ガス供給管3Cに付設されている開閉弁3Bからなる不活性ガス供給部と、
高純度極性有機溶媒が貯留されている高純度極性有機溶媒貯留槽4A、一端が高純度極性有機溶媒貯留槽4Aに繋がり、他端がイオン交換体層充填容器5に繋がり、高純度極性有機溶媒貯留槽4A内の高純度極性有機溶媒をイオン交換体層充填容器5に供給するための高純度極性有機溶媒供給管4C、高純度極性有機溶媒供給管4Cに付設されている開閉弁4B、及び図示しない送液ポンプからなる高純度極性有機溶媒供給部と、
一端がイオン交換体層充填容器5に繋がり、イオン交換体層に通液された液を排出する排出管9と、
を有する。
【0087】
有機溶媒の精製兼イオン交換体の前処理装置1は、開閉弁8、開閉弁2B、開閉弁3B、開閉弁4Bのそれぞれに、電気的に繋がる制御部10を有する。そして、開閉弁8、開閉弁2B、開閉弁3B、開閉弁4Bは、それぞれ、制御部10により開閉駆動される。なお、
図1では、電気的な繋がりを点線で示す。
【0088】
有機溶媒の精製兼イオン交換体の前処理装置1を用いて行われる有機溶媒の精製及びイオン交換体の前処理について説明する。
【0089】
<精製対象の有機溶媒が極性有機溶媒の場合>
先ず、制御部10により被処理有機溶媒供給管7に付設されている開閉弁8が開かれ、図示しない送液ポンプで、精製対象の有機溶媒が、被処理有機溶媒貯留槽6から、被処理有機溶媒供給管7を経て、イオン交換体層充填容器5内に供給される。イオン交換体層充填容器5内に供給された精製対象の有機溶媒は、イオン交換体層充填容器5内のイオン交換体に接触し、精製対象の有機溶媒中のイオン性不純物が吸着除去される。イオン交換体に接触することにより精製された精製有機溶媒13は、排出管9から排出される。そして、所定量又は所定時間、精製対象の有機溶媒の精製が、有機溶媒の精製兼イオン交換体の前処理装置1において行われる。
【0090】
次いで、制御部10により開閉弁8が閉じられ、不活性ガス供給管3Cに付設されている開閉弁3Bが開かれ、不活性ガスが、不活性ガスボンベ3Aから、不活性ガス供給管3Cを経て、イオン交換体層充填容器5内に供給される。イオン交換体層充填容器5内に供給された不活性ガスは、イオン交換体層を通過する際に、残存している有機溶媒を伴って、イオン交換体層を通過し、排出管9から、排出ガス15となって排出される。
【0091】
次いで、制御部10により開閉弁3Bが閉じられ、純水供給管2Cに付設されている開閉弁2Bが開かれ、図示しない送液ポンプで、純水が、純水貯留槽2Aから、純水供給管2Cを経て、イオン交換体層充填容器5内に供給される。イオン交換体層充填容器5内に供給された純水は、イオン交換体層充填容器5内のイオン交換体に接触し、イオン交換体層に残存する有機溶媒及び不活性ガスを伴って、排出管9から排出液14となって排出されると共に、イオン交換体層充填容器が純水で満たされる。このことにより、イオン交換体層に残存する有機溶媒が水に置換される。
【0092】
なお、上記方法においては、不活性ガスの導入は任意であり、精製対象の有機溶媒の精製を行った後、イオン交換体層充填容器に、不活性ガスを導入することなく、純水を供給して、イオン交換体層に残存する有機溶媒を水に置換してもよい。
【0093】
<精製対象の有機溶媒が非極性有機溶媒の場合>
先ず、制御部10により被処理有機溶媒供給管7に付設されている開閉弁8が開かれ、図示しない送液ポンプで、精製対象の有機溶媒が、被処理有機溶媒貯留槽6から、被処理有機溶媒供給管7を経て、イオン交換体層充填容器5内に供給される。イオン交換体層充填容器5内に供給された精製対象の有機溶媒は、イオン交換体層充填容器5内のイオン交換体に接触し、精製対象の有機溶媒中のイオン性不純物が吸着除去される。イオン交換体に接触することにより精製された精製有機溶媒13は、排出管9から排出される。そして、所定量又は所定時間、精製対象の有機溶媒の精製が、有機溶媒の精製兼イオン交換体の前処理装置1において行われる。
【0094】
次いで、制御部10により開閉弁8が閉じられ、不活性ガス供給管3Cに付設されている開閉弁3Bが開かれ、不活性ガスが、不活性ガスボンベ3Aから、不活性ガス供給管3Cを経て、イオン交換体層充填容器5内に供給される。イオン交換体層充填容器5内に供給された不活性ガスは、イオン交換体層を通過する際に、残存している有機溶媒を伴って、イオン交換体層を通過し、排出管9から排出ガス15となって排出される。
【0095】
次いで、制御部10により開閉弁3Bが閉じられ、高純度極性有機溶媒供給管4Cに付設されている開閉弁4Bが開かれ、図示しない送液ポンプで、高純度極性有機溶媒が、高純度極性有機溶媒貯留槽4Aから、高純度極性有機溶媒供給管4Cを経て、イオン交換体層充填容器5内に供給される。イオン交換体層充填容器5内に供給された高純度極性有機溶媒は、イオン交換体層充填容器5内のイオン交換体に接触し、イオン交換体層に残存する有機溶媒及び不活性ガスを伴って、排出管9から排出液16となって排出されると共に、イオン交換体層充填容器が高純度極性有機溶媒で満たされる。このことにより、イオン交換体層に残存する有機溶媒が高純度極性有機溶媒に置換される。
【0096】
次いで、制御部10により開閉弁4Bが閉じられ、不活性ガス供給管3Cに付設されている開閉弁3Bが開かれ、不活性ガスが、不活性ガスボンベ3Aから、不活性ガス供給管3Cを経て、イオン交換体層充填容器5内に供給される。イオン交換体層充填容器5内に供給された不活性ガスは、イオン交換体層を通過する際に、残存している高純度極性有機溶媒を伴って、イオン交換体層を通過し、排出管9から排出ガス15となって排出される。
【0097】
次いで、制御部10により開閉弁3Bが閉じられ、純水供給管2Cに付設されている開閉弁2Bが開かれ、図示しない送液ポンプで、純水が、純水貯留槽2Aから、純水供給管2Cを経て、イオン交換体層充填容器5内に供給される。イオン交換体層充填容器5内に供給された純水は、イオン交換体層充填容器5内のイオン交換体に接触し、イオン交換体層に残存する高純度極性有機溶媒及び不活性ガスを伴って、排出管9から排出液14となって排出されると共に、イオン交換体層充填容器が純水で満たされる。このことにより、イオン交換体層に残存する有機溶媒が水に置換される。
【0098】
なお、上記方法においては、不活性ガスの導入は任意であり、精製対象の有機溶媒の精製を行った後、イオン交換体層充填容器に、不活性ガスを導入することなく、高純度極性有機溶媒を供給してもよい。また、高純度極性有機溶媒の供給を行った後、イオン交換体層充填容器に、不活性ガスを導入することなく、純水を供給し、イオン交換体層に残存する有機溶媒を水に置換してもよい。
【0099】
このように、有機溶媒の精製兼イオン交換体の前処理装置1においては、イオン交換体層充填容器5、イオン交換体層充填容器5内に充填されているイオン交換体層、被処理有機溶媒貯留槽6、被処理有機溶媒供給管7、開閉弁8、排出管9及び制御部10が、有機溶媒の精製装置に該当する。また、有機溶媒の精製兼イオン交換体の前処理装置1においては、イオン交換体層充填容器5、純水貯留槽2A、開閉弁2B、純水供給管2C、不活性ガスボンベ3A、開閉弁3B、不活性ガス供給管3C、高純度極性有機溶媒貯留槽4A、開閉弁4B、高純度極性有機溶媒供給管4C、排出管9及び制御部10が、本発明のイオン交換体の前処理装置に該当する。
【0100】
本発明のイオン交換体の前処理装置においては、高純度極性有機溶媒供給部の設置は、任意である。高純度極性有機溶媒供給部は、精製対象の有機溶媒として非極性有機溶媒を精製した後の前処理工程おいて、イオン交換体層内に純水を通液する前に、先に、高純度極性有機溶媒を通液し、次いで、純水を通液する場合に設置される。
【0101】
また、本発明のイオン交換体の前処理装置においては、不活性ガス供給部の設置は、任意である。不活性ガス供給部は、前処理工程において、イオン交換体層に純水又は高純度極性有機溶媒を通液する前に、先に、不活性ガスを導入する場合に設置される。
【0102】
このように、本発明のイオン交換体の前処理装置は、少なくとも、イオン交換体層充填容器と、純水貯留槽と、純水供給管と、を有する。また、必要に応じて、本発明のイオン交換体の前処理装置は、不活性ガスボンベ及び不活性ガス供給管を有することができる。また、必要に応じて、本発明のイオン交換体の前処理装置は、高純度極性有機溶媒貯留槽及び高純度極性有機溶媒供給管を有することができる。
【0103】
また、他のイオン交換体の分析方法としては、精製対象の有機溶媒をイオン交換体により形成されているイオン交換体層に通液し、該精製対象の有機溶媒を精製した後に、該イオン交換体層から、イオン交換体を抜き出す工程と、
抜き出された該イオン交換体に付着している該精製対象の有機溶媒を、純水で洗浄する工程と、
洗浄された該イオン交換体に吸着しているイオン性不純物を溶離し、溶離液中の該イオン性不純物の濃度を分析することにより、該イオン交換体に吸着されているイオン性不純物を定量する工程と、
を有することを特徴とするイオン交換体の分析方法が挙げられる。
【0104】
上記他のイオン交換体の分析方法において、精製対象の有機溶媒を精製した後に、イオン交換体層から、イオン交換体を抜き出し、次いで、抜き出されたイオン交換体に付着している該精製対象の有機溶媒を、純水で洗浄し、次いで、洗浄されたイオン交換体に吸着しているイオン性不純物を溶離し、溶離液を得る方法としては、例えば、精製対象の有機溶媒を精製した後のイオン交換体層に、パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂製のチューブの上部にPFAメッシュを目板で挟んだ接続部品を取り付けて刺し、次いで、チューブ内を吸引等しながらチューブをイオン交換体層から抜き、チューブ内のイオン交換体が、チューブ内から出ないようにPFAメッシュを目板で挟んだ接続部品をチューブの下部に取り付けて、次いで、チューブの一端から洗浄水を通液し、他端より排出することにより、チューブ内のイオン交換体を洗浄し、次いで、チューブの一端から溶離液を通液し、他端より溶離液を排出して回収することにより、溶離液を得る方法が挙げられる。
【0105】
以下では、実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。
【実施例】
【0106】
(実施例1)
<イオン交換樹脂層の調製>
カチオン交換樹脂(H形、湿潤状態、溶出金属濃度が各元素0.5mg/L-Resin以下に低減された樹脂)を50mL、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)製カラムに充填した。
次いで、水分濃度20ppm以下のイソプロピルアルコールを、カラムの上部から下部へ向けて通液し、カラム出口の水分濃度が30ppm以下に低下するまで通液を続けた。
【0107】
<精製工程>
イソプロピルアルコール(IPA XE、トクヤマ社製)に、ICP-AES/ICP-MS用標準液で、パラフィンオイルベースの有機金属標準液を添加し、各元素1ppb程度のIPA模擬液を調製した。
次いで、IPA模擬液を、カラム内のカチオン交換樹脂層に、SV5h-1(1時間当たり樹脂体積の5倍、250mL/h)で通液し、70BV(樹脂体積の70倍)通液したところで、処理液をサンプリングし、ICP-MS8900(Agilent製)で、金属濃度を測定した。その結果を表1に示す。70BV通液後も、処理液中の金属濃度は、全て40ppt未満であった。また、IPA模擬液及び処理液の水分含有量を測定したところ、いずれも、30ppm以下であった。
【0108】
【0109】
<前処理工程>
精製工程を行った後のカラムに、純水(不純物含有量1ppt以下)を、下向流、SV5h-1で16時間通液した。通液後、(カラム出口)の導電率は1μg/L以下であった。
【0110】
<イオン交換体抜き出し工程>
カラムの底部を解放して、重力によりカチオン交換樹脂を落下させ、容器の下から出てきたカチオン交換樹脂を、5mL毎に採取して、第1区分から第10区分までの10区分に区分けして取り分けた。
【0111】
<イオン性不純物分析工程>
各区分のカチオン交換樹脂を、それぞれ、酸水溶液に浸漬して、イオン性不純物の溶離を行い、各区分の溶離液を得、次いで、得られた溶離液中の各金属濃度を、ICP-MSを用いて分析した。
次いで、得られた分析結果から、各区分におけるカチオン交換樹脂層に吸着されていた各金属不純物の吸着量を算出した。その結果を表2に示す。なお、表2中、区分番号が小さい方が上流側であり、区分番号が大きい方が下流側である。
【0112】
【0113】
上記分析結果より、Na、Feは交換帯が長く、樹脂層の通液方向の全体に金属が吸着していることがわかった。一方、Na、Fe以外は、樹脂層の通液方向の上流側にのみ吸着しており、交換帯が短く、除去し易いことがわかった。なお、樹脂層の最下流側の区分10では、全ての金属不純物の吸着量が1μeq/L-Resin以下であり、寿命に達していないことが確認された。
【0114】
<水分保有能力分析工程>
イオン性不純物の溶離を行った後のカチオン交換体を、25℃で相対湿度100%の大気に、30分以上接触させて、飽和水湿潤状態にした。次いで、飽和水湿潤状態の樹脂を恒温乾燥器で105℃、16時間乾燥させて、乾燥状態の樹脂を得た。次いで、水分保有能力(%)=「((乾燥前の飽和水湿潤状態のイオン交換体の質量-乾燥状態のイオン交換体の質量)/乾燥前の飽和水湿潤状態のイオン交換体の質量)×100」の式により、水分保有能力を求めた。
また、精製工程を行う前のカチオン交換樹脂についても、水分保有能力を求めた。
その結果、精製工程を行う前の水分保有能力は47%であり、精製工程を行った後の水分保有能力は47%であり、精製工程を行う前と精製工程を行った後で、カチオン交換樹脂の水分保有能力の差は、5%以下であった。この結果からカチオン交換樹脂の母体の健全性が確認された。