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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】地上子
(51)【国際特許分類】
   B61L 3/12 20060101AFI20240215BHJP
   H03H 5/02 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
B61L3/12 A
H03H5/02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020178537
(22)【出願日】2020-10-26
(65)【公開番号】P2022069731
(43)【公開日】2022-05-12
【審査請求日】2023-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001292
【氏名又は名称】株式会社京三製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【弁理士】
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(72)【発明者】
【氏名】關 淳史
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-188045(JP,A)
【文献】特開2002-198723(JP,A)
【文献】特開2005-073226(JP,A)
【文献】特開2008-283404(JP,A)
【文献】特開2003-249820(JP,A)
【文献】特開2000-351370(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 1/00 - 99/00
H03H 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のインダクタを有し、車上子からの送信信号に対して第1の共振周波数で共振する第1の共振回路と、
第2のインダクタを有し、前記送信信号に対して第2の共振周波数で共振する第2の共振回路と、
を備え、
前記第1のインダクタは、列車走行方向を前後方向とした上面視において、前後方向の長さが短くなるように左右中央部が凹んでおり、
前記第2のインダクタは、前記上面視において、左右方向の長さが短くなるように前後中央部が凹んでおり、
前記第1のインダクタと前記第2のインダクタとが重ねて配置されている、
地上子。
【請求項2】
前記第1のインダクタは、前記上面視において、前記左右中央部が、前後両方向から凹んでおり、
前記第2のインダクタは、前記上面視において、前記前後中央部が、左右両方向から凹んでいる、
請求項1に記載の地上子。
【請求項3】
前記第1のインダクタと前記第2のインダクタとは、前記上面視において、それぞれの中央部が重なるように配置されている、
請求項1又は2に記載の地上子。
【請求項4】
前記第1のインダクタおよび前記第2のインダクタは、前記上面視において左右対称の形状である、
請求項1~3の何れか一項に記載の地上子。
【請求項5】
前記第2のインダクタは、前記上面視において、前記第1のインダクタを時計回り又は反時計回りに90度回転させた形状と所定の近似条件を満たす形状である、
請求項1~4の何れか一項に記載の地上子。
【請求項6】
前記第1のインダクタおよび前記第2のインダクタは、前記上面視において重畳する領域の面積が、前記送信信号に対する共振時の前記第1のインダクタと前記第2のインダクタとの間の電磁結合状態が所定の低減状態となる面積である、
請求項1~5の何れか一項に記載の地上子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地上子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、変周式の地上子を地上側に設置し、車上側で地上子を検知して列車の停止制御や速度制御等を行う技術が知られている。車上側は、車上子が地上子と接近したときに当該地上子と電磁結合し、その結果車上子の共振周波数が変化することを利用して、地上側からの情報を受信する。
【0003】
また、伝送可能な情報量を増やすために、複数(例えば2つ)のインダクタを所定の重なり幅で重ねて配置した構成の地上子も知られている(特許文献1を参照)。この地上子は、上方を車上子が通過したときに当該車上子からの送信信号に対して2種類の共振周波数で同時に共振する。よって、2種類の共振周波数の組み合わせの情報を車上側へと伝送することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-188045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の技術では、車上子の通過位置によって地上子の共振周波数特性が変化し、車上側で地上子を正しく検知できない事態が生じる場合が起こり得た。すなわち、当該地上子における2つのインダクタは、列車走行方向と交差する方向(まくらぎ方向)に、各々の内側領域が所定の重なり幅の分だけが重なるようにずらして配置されている。そのため、地上子上を車上子が通過するタイミングで列車が動揺する等して車上子の通過位置がインダクタの配置方向(まくらぎ方向)にずれが生じる場合があると、2つのインダクタそれぞれに対する車上子通過位置の相対距離が大きく異なる場合が起きる可能性が考えられた。その場合、それぞれのインダクタに係る共振周波数特性(主に共振周波数での信号振幅)の変動量が異なってしまうため、地上子を適正に検知できなくなる可能性がゼロとは言えない。
【0006】
なお、変周式の応用方式として共振式が知られている。変周式が、発振周波数を変化させる方式であるのに対して、共振式は、地上子側に送信された複数の周波数のうちの共振周波数の振幅を大きくさせる方式(例えば、スペクトラム拡散方式や、新変周式とも称される方式、合成波方式等)のことを指す。広義においては、共振式も変周式に含めることができると考えるが、変周式を狭義と解釈されることをおそれ、念のため、本明細書では別用語として記載する。
【0007】
本発明の課題は、伝送可能な情報量を増やしつつ、車上側で地上子を適正に検知することができる地上子の技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための第1の発明は、第1のインダクタを有し、車上子からの送信信号に対して第1の共振周波数で共振する第1の共振回路と、第2のインダクタを有し、前記送信信号に対して第2の共振周波数で共振する第2の共振回路と、を備え、前記第1のインダクタは、列車走行方向を前後方向とした上面視において、前後方向の長さが短くなるように左右中央部が凹んでおり、前記第2のインダクタは、前記上面視において、左右方向の長さが短くなるように前後中央部が凹んでおり、前記第1のインダクタと前記第2のインダクタとが重ねて配置されている、地上子である。
【0009】
第1の発明によれば、第1の共振回路を構成する第1のインダクタと、第2の共振回路を構成する第2のインダクタとが重ねて配置される。そして、一方の第1のインダクタは、その前後方向の長さが短くなるように左右中央部が凹んでおり、他方の第2のインダクタは、その左右方向の長さが短くなるように前後中央部が凹んでいる。このため、第1のインダクタと第2のインダクタとを重ねて配置した場合であっても、第1のインダクタの巻線内部の磁束通過領域と第2のインダクタの巻線内部の磁束通過領域との重複面積を小さくすることができる。これによれば、特許文献1の技術のように、第1のインダクタと第2のインダクタとをまくらぎ方向に大きくずらして配置する必要がなくなる。よって、列車が動揺する等して車上子の通過位置がまくらぎ方向にずれたとしても、第1のインダクタおよび第2のインダクタそれぞれに対する車上子が通過する位置の相対距離を略同等にすることができるため、それぞれのインダクタに係る共振周波数特性の変動量が略同等となる結果、地上子を適正に検知することができる。
【0010】
また、この地上子は、車上子からの送信信号に対して第1の共振周波数および第2の共振周波数の2種類の共振周波数で共振する。よって、第1の共振周波数と第2の共振周波数との組み合わせの情報を地上側から車上側へと伝送できる。
【0011】
また、第2の発明は、前記第1のインダクタは、前記上面視において、前記左右中央部が、前後両方向から凹んでおり、前記第2のインダクタは、前記上面視において、前記前後中央部が、左右両方向から凹んでいる、第1の発明の地上子である。
【0012】
第2の発明によれば、第1のインダクタを、その左右中央部が前後両方向から凹んだ形状とし、第2のインダクタを、その前後中央部が左右両方向から凹んだ形状とすることができる。
【0013】
また、第3の発明は、前記第1のインダクタと前記第2のインダクタとは、前記上面視において、それぞれの中央部が重なるように配置されている、第1又は第2の発明の地上子である。
【0014】
第3の発明によれば、第1のインダクタと第2のインダクタとが、それぞれの中央部が重なるように配置されることから、上方を通過する車上子の通過位置にかかわらず、当該車上子と各インダクタの中央部との間の距離が同じになる。よって、車上子の通過位置が左右方向(まくらぎ方向)にずれて中央部から離れたとしても、2つの共振回路に係る共振周波数特性が大きく変わることがない。
【0015】
また、第4の発明は、前記第1のインダクタおよび前記第2のインダクタは、前記上面視において左右対称の形状である、第1~第3の何れかの発明の地上子である。
【0016】
第4の発明によれば、車上子の通過位置と各インダクタの中央部との間の距離に対する共振周波数の信号レベルの低減特性は、左右どちらも同じになる。つまり、車上子が中央部よりも左側を通過した場合と、中央部よりも右側を通過した場合の何れの場合も、中央部から離れた距離が同じであれば同じような信号レベルになる。したがって、地上子の左右向きやレールに対する設置位置を厳密に定めなくとも、2つの共振回路に係る共振周波数を同等に検出することができ、ひいては地上子の適正な検知が可能となる。
【0017】
また、第5の発明は、前記第2のインダクタは、前記上面視において、前記第1のインダクタを時計回り又は反時計回りに90度回転させた形状と所定の近似条件を満たす形状である、第1~第4の何れかの発明の地上子である。
【0018】
第5の発明によれば、所定の近似条件を満たす形状の2つのインダクタの一方を90度回転させて配置して、地上子を構成することできる。
【0019】
また、第6の発明は、前記第1のインダクタおよび前記第2のインダクタは、前記上面視において重畳する領域の面積が、前記送信信号に対する共振時の前記第1のインダクタと前記第2のインダクタとの間の電磁結合状態が所定の低減状態となる面積である、第1~第5の何れかの発明の地上子である。
【0020】
第6の発明によれば、第1のインダクタおよび第2のインダクタの地上子の上面視において重畳する領域の面積を、車上子からの送信信号に対する共振時の第1のインダクタと第2のインダクタとの間の電磁結合状態が所定の低減状態となる面積として、各インダクタを重ねて配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】地上子の概略回路構成および当該地上子を設置した軌道の概略を示す模式図。
図2】第1のインダクタおよび第2のインダクタを説明する模式図。
図3図2の第1のインダクタを抜き出して示す図。
図4図2の第2のインダクタを抜き出して示す図。
図5】上面視重畳領域の面積と電磁結合の度合いとの関係を説明する図。
図6】地上子の共振周波数特性を示す図。
図7】変形例における地上子の第1のインダクタおよび第2のインダクタを説明する模式図。
図8】他の変形例における地上子の第1のインダクタおよび第2のインダクタを説明する模式図。
図9図8の第1のインダクタを抜き出して示す図。
図10図8の第2のインダクタを抜き出して示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、以下説明する実施形態によって本発明が限定されるものではなく、本発明を適用可能な形態が以下の実施形態に限定されるものでもない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付す。
【0023】
図1は、本実施形態における地上子1の概略回路構成および当該地上子1を設置した軌道の概略を示す模式図である。図1に示すように、地上子1は、一対のレール3,3を支持するまくらぎ5の上部やまくらぎ5の間等において、左右のレール3,3間に設置される。より詳細には、地上子1は、第1のインダクタL1および第2のインダクタL2の配置方向が列車走行方向(レール3,3に沿う方向)と交差する方向に沿う向きで、左右のレール3,3間に設置される。
【0024】
地上子1は、変周式又は共振式の地上子であり、上方を通過する列車の車上子からの送信信号に対して第1の共振周波数f1で共振する第1の共振回路11と、当該送信信号に対して第2の共振周波数f2で共振する第2の共振回路13と、を備える。第1の共振回路11は、第1のインダクタL1とコンデンサC1とを有し、第2の共振回路13は、第2のインダクタL2とコンデンサC2とを有する。この地上子1は、受動素子で回路が構成されており、電源を必要とせず、演算回路等のいわゆる電子回路やリレー等を搭載しておらず、他装置とのケーブル接続の必要のない、単体装置のみで設置完了となる装置である。
【0025】
図2は、地上子1の俯瞰図であり、地上子1の上面視でみた第1のインダクタL1および第2のインダクタL2を模式的に示している。ここで、列車走行方向を前後方向とし、列車走行方向と交差する第1のインダクタL1および第2のインダクタL2の配置方向を左右方向と定義する。
【0026】
図2に示すように、第1のインダクタL1で囲む領域と第2のインダクタL2で囲む領域とは、地上子1の上面視において一部の領域が重畳する形状を有する。そして、当該重畳する領域(以下「上面視重畳領域」という)の面積が、所定の面積とされる。図2では、上面視重畳領域にハッチングを付して示している。なお、このハッチングはベタパターンという意味ではなく、単に理解を容易にするための図示であり、実際の地上子1にはハッチングに相当する部材があるわけではない。第1のインダクタL1と第2のインダクタL2とは、例えば、それぞれ渦巻き状のコイルパターンを基板15に印刷して実装される。コイルパターンの巻き数は適宜設定することができ、基板15の内層を増やしスルーホールを形成して各内層のコイルパターンを接続して増やすこともできる。
【0027】
第1のインダクタL1で囲む領域は、第1のインダクタL1の巻線内部の磁束通過領域と言うことができる。同じく、第2のインダクタL2で囲む領域は、第2のインダクタL2の巻線内部の磁束通過領域と言うことができる。そして、上面視重畳領域は、第1のインダクタL1の巻線内部の磁束通過領域と、第2のインダクタL2の巻線内部の磁束通過領域との重畳領域である。もしも仮に、第1のインダクタL1および第2のインダクタL2の巻線形状を単純な円形や長方形とした場合、第1のインダクタL1の中央部と第2のインダクタL2の中央部とを重ねるように配置すると、上面視重畳領域が大きくなってしまう。上面視重畳領域を小さくしたければ、第1のインダクタL1と第2のインダクタL2とを大きくずらして配置せざるを得ない。
【0028】
しかし、本実施形態によれば、第1のインダクタL1および第2のインダクタL2を特異な形状としたため、中央部を重ねるように配置した図2の場合であっても、上面視重畳領域を小さくすることができる。列車が動揺する等して車上子の通過位置がまくらぎ方向にずれたとしても、第1のインダクタL1および第2のインダクタL2それぞれに対する車上子が通過する位置の相対距離を略同等にすることができるため、それぞれのインダクタに係る共振周波数特性の変動量が略同等となる結果、地上子1を適正に検知することが可能となる。
【0029】
より詳細に説明する。
図3に、図2中の第1のインダクタL1を抜き出して示し、図4に、図2中の第2のインダクタL2を抜き出して示す。
【0030】
(1)各インダクタの形状について
先ず、第1のインダクタL1は、図3に示すように、地上子1の上面視において左右中央部の前後方向の長さが左側部および右側部の前後方向の長さL23より短くなるように、その左右中央部が凹んだ形状を有する。図3の例では、左右中央部の前後方向の長さは、第1のインダクタL1の中央部(中心付近)において最も短い長さL21とされている。一方、第2のインダクタL2は、図4に示すように、当該上面視において、前後中央部の左右方向の長さが、前方部および後方部の左右方向の長さL33より短くなるように凹んでいる。図4の例では、前後中央部の左右方向の長さは、第2のインダクタL2の中央部において最も短い長さL31とされている。
【0031】
これは、次のように表現することもできる。すなわち、第1のインダクタL1は、上面視において、上辺の左右中央部分と、下辺の左右中央部分とが、互いに当該第1のインダクタL1の中央部に向かって接近するように、凹形状に屈曲した形状である。一方、第2のインダクタL2は、上面視において、左辺の上下中央部分と、右辺の上下中央部分とが、互いに当該第2のインダクタL2の中央部に向かって接近するように凹形状に屈曲した形状である。
【0032】
本実施形態では、第1のインダクタL1および第2のインダクタL2は、左右対称の形状であって、一方のインダクタである第2のインダクタL2が、地上子1の上面視において、他方の第1のインダクタL1を時計回り又は反時計回りに90度回転させた形状と所定の近似条件を満たす形状を有する。
【0033】
具体的には、例えば、図2図4に示すように、第1のインダクタL1の形状は、地上子1の上面視において、左右中央部が、当該第1のインダクタL1の中央部を残して前後対称に山形状に切り欠かれた形状であり、第2のインダクタL2の形状は、当該上面視において、前後中央部が、当該第2のインダクタL2の中央部を残して左右対称に山形状に切り欠かれた形状となっており、外観として互いに近似する形状となっている。
【0034】
そして、これら第1のインダクタL1と第2のインダクタL2とは、重ねて配置されている。本実施形態では、当該上面視において各々の中央部が重なるように配置されている。
【0035】
(2)上面視重畳領域の面積について
次に、第1のインダクタL1および第2のインダクタL2の図2中にハッチングを付して示した上面視重畳領域の面積は、車上子からの送信信号に対する共振時の第1のインダクタL1と第2のインダクタL2との間の電磁結合状態が、所定の低減状態となる面積とされる。低減状態とは、当該共振時の第1のインダクタL1と第2のインダクタL2との間の電磁結合状態が、無視できる程度に十分に小さい状態をいう。当該共振時における第1のインダクタL1と第2のインダクタL2との電磁結合の度合いは、上面視重畳領域の面積によって増減する。
【0036】
ここで、図5を参照し、上面視重畳領域の面積と電磁結合の度合いとの関係について説明する。図5では、簡単な説明のため、2つのインダクタL1,L2を有する地上子10であって、各インダクタL1,L2が上面視でみて長方形状を有し、互いにその内側の所定面積の領域が上面視重畳領域として重なるように配置されて構成された地上子10を示している。図5に示す地上子10は、特許文献1に開示された従来の構成の地上子である。
【0037】
例えば、当該共振時に第1のインダクタL1に生じる磁束に着目すると、この第1のインダクタL1に生じる磁束の第2のインダクタL2を貫く向きが、第2のインダクタL2の内側領域のうちの第1のインダクタL1と重なった上面視重畳領域の部分(ハッチングを付した部分)131と、第1のインダクタL1と重なっていない部分(破線で囲った部分)133とで逆になり、各部分131,133の磁束が打ち消し合ってその総和が変動する。当該共振時に第2のインダクタL2に生じた磁束の第1のインダクタL1を貫く向きについても同様のことがいえる。したがって、各部分131,133の磁束の総和が0(ゼロ)になる(或いはゼロ相当になる)ように、換言すると、上面視重畳領域の面積を部分131と部分133とで磁束が等しくなるような面積とすれば、当該共振時の第1のインダクタL1と第2のインダクタL2との電磁結合をほぼ0の状態(ゼロ相当状態)とすることができる。
【0038】
ゼロ相当状態について別の観点から説明する。一般的に、インダクタにおける磁束密度は、巻線内部で高く、巻線外部においてはインダクタから離れるに従って低くなる。図2に示すように、本実施形態の地上子1では、その上面視において、第1のインダクタL1の中央部と第2のインダクタL2の中央部とが重なるように配置され、上面視重畳領域は、インダクタL1およびインダクタL2の何れにおいても巻線の内部領域となる。例えば、第1のインダクタL1に着目すれば、上面視重畳領域となる部分(第1のインダクタL1の内部)の磁束密度は、上面視重畳領域とならない部分(例えばインダクタL2の内部領域であり、インダクタL1の外部領域である部分)の磁束密度と比べて高い。第2のインダクタL1に着目した場合も同様である。一方、ゼロ相当状態とは、図5を参照して説明した通り、上面視重畳領域の部分131と、第1のインダクタL1と重なっていない部分133とにおいて、それぞれの磁束の総和が0(ゼロ)になる(或いはゼロ相当になる)状態のことである。上面視重畳領域の部分131は磁束密度が高いため、ゼロ相当状態にするためには、上面視重畳領域とならない部分の面積に対して上面視重畳領域の面積をやや小さくするだけでは足りず、磁束が等しくなるような相対面積比となる特定の面積にまで上面視重畳領域の面積を小さくする必要がある。
【0039】
よって、事前に電磁界解析を行って電磁結合状態をゼロ相当状態とする上面視重畳領域の面積を特定し、実際の上面視重畳領域の面積が特定した面積に対して所定の誤差範囲に収まるようにすれば、電磁結合状態の低減状態を実現できる。
【0040】
そこで、本実施形態では、第1のインダクタL1および第2のインダクタL2を、図2図4を参照して説明したような特異な形状とする。その上で、図2中にハッチングを付して示す上面視重畳領域の面積が前述の誤差範囲に収まるように、第1のインダクタL1および第2のインダクタL2の寸法が規定される。具体的には、左側部および右側部の幅(左右方向の長さ)や前方部および後方部の幅(前後方向の長さ)、左右中央部や前後中央部の切り欠きの深さ等が規定される。これによれば、車上子からの送信信号に対する共振時にインダクタL1,L2間が電磁結合し、各共振回路11,13の共振周波数特性(図3を参照)に影響し合う事態を抑制できる。よって、共振周波数f1,f2の組み合わせの情報を地上側へと正確に伝送することが可能となる。
【0041】
また、インダクタの製造は、従来のような電線を手巻きする方式ではなく、基板15への銅箔等のパターン実装によって行う。したがって、重なり幅W1に関する地上子1の製造バラツキを、設計幅に対して5mm以下の誤差範囲に抑えることができ、特定の2つの共振周波数f1,f2で確実に共振する高品質な地上子の量産を容易かつ現実的に実現可能とすることができる。
【0042】
図6に、地上子1の共振周波数特性と、共振周波数f1,f2を検出するために車上子が送信する送信信号との概略を示す。図6に示すように、車上子は、複数の周波数成分を含んだ所定の周波数帯域f~fの合成信号を送信信号として出力する。周波数帯域f~fは、50kHz~300kHzの範囲内で適宜設定される。一方、地上子1は、上方を車上子が通過したときに、当該車上子からの送信信号に対して第1の共振周波数f1および第2の共振周波数f2の2種類の共振周波数で同時に共振する。したがって、車上側では、当該送信信号に対する地上子1の共振時に車上子に生じた周波数信号を解析することで、地上子1の共振周波数特性から振幅の大きい2種類の共振周波数f1,f2をほぼ同時に一度に検出することができる。
【0043】
図1の説明に戻り、コンデンサC1,C2は、対応する共振周波数f1,f2に応じた必要な容量値を有する。例えば、予め用意される共振周波数の異なる複数種類(例えば9種類)のコンデンサ素子の中から異なる共振周波数に対応する2つを選択して地上子1に搭載することとして各インダクタL1,L2に接続して用いることができる。あるいは、複数種類のコンデンサ素子を地上子1に搭載しておき、コンデンサ素子を選択あるいは組み合わせるスイッチを介して選択的に各インダクタL1,L2と接続する構成でもよい。
【0044】
これによれば、インダクタL1,L2は変えずにコンデンサC1,C2を変更することで、所望の2つの共振周波数f1,f2で共振する地上子1を簡単に構成できる。インダクタL1,L2が実装された基板15は共通して利用することができるため、基板15を製造するコスト面でも有利である。したがって、地上子1は、異なる共振周波数f1,f2の組み合わせが示す情報を車上側へと伝送することができる。組み合わせの総数は、共振周波数の種類をM種類、共振回路の数をNとすると、通りとなる。例えば、共振回路の数が2つ(N=2)で、用意されるコンデンサ素子が9種類(M=9)の場合、36通りの情報が伝送可能となる。
【0045】
以上説明したように、本実施形態によれば、車上子からの送信信号に対し、第1の共振周波数f1で共振する第1の共振回路11と、第2の共振周波数f2で共振する第2の共振回路13とを備えた地上子1を実現できる。そして、その第1のインダクタL1および第2のインダクタL2を、上面視重畳領域の面積が所定の面積となるように重ねて配置することができる。本実施形態では、第1のインダクタL1と、第2のインダクタL2とが地上子1の上面視において中央部が重なる位置に配置される。しかも、第1のインダクタL1は、その前後方向の長さが短くなるように左右中央部が凹んでおり、第2のインダクタL2は、その左右方向の長さが短くなるように前後中央部が凹んでいる。このため、第1のインダクタL1と第2のインダクタL2とを重ねて配置した場合であっても、第1のインダクタL1の巻線内部の磁束通過領域と第2のインダクタL2の巻線内部の磁束通過領域との重複面積である上面視重畳領域の面積を小さくすることができる。本実施形態では、当該面積を、車上子からの送信信号に対する共振時の第1のインダクタL1と第2のインダクタL2との間の電磁結合状態が、所定の低減状態となる面積とすることができる。これにより、上面視重畳領域の面積を小さくしつつ、第1のインダクタL1の中央部と第2のインダクタL2の中央部とが重なった配置を実現している。よって、従来技術のように、第1のインダクタと第2のインダクタとをまくらぎ方向に大きくずらして配置する必要がなくなる。
【0046】
すなわち、図5に例示した従来の構成の地上子10では、上述したように、車上子の通過位置によって地上子10の共振周波数特性が変化し、車上側で地上子10を正しく検知できない場合があった。図5の地上子10は2つのインダクタを前後方向(列車走行方向)と交差する左右方向(まくらぎ方向)に所定の重なり幅で重ねて配置した構成であるため、車上子の通過位置が左右方向にずれると車上子から各インダクタの中央部までの距離が変わってしまい、図6に示す共振周波数特性が得られない事態が生じ得たのである。
【0047】
これに対し、本実施形態の地上子1では、第1のインダクタL1と第2のインダクタL2とが地上子1の上面視において中央部が重なる位置に配置される。しかし、第1のインダクタL1および第2のインダクタL2は特異な形状を有しているため、上面視重畳領域の面積を小さく、共振時の第1のインダクタL1と第2のインダクタL2との間の電磁結合状態が所定の低減状態となる面積とすることができる。よって、列車が動揺する等して車上子の通過位置がまくらぎ方向にずれたとしても、第1のインダクタL1および第2のインダクタL2それぞれに対する車上子が通過する位置の相対距離を略同等にすることができるため、それぞれのインダクタに係る共振周波数特性の変動量が略同等となる結果、地上子を適正に検知することができる。したがって、車上子の通過位置が左右方向(まくらぎ方向)にずれて中央部から離れたとしても、車上側で地上子を適正に検知することができる。
【0048】
しかも、第1の共振周波数f1と第2の共振周波数f2との組み合わせの情報を一度に地上側から車上側へと伝送できるので、当該組み合わせによって伝送可能な情報量を増やすことが可能となり、当該組み合わせが示す情報を一度に確実に車上側へ伝送できる。伝送可能な情報量を増やしつつ、車上側が地上子を適正に検知することが可能となる。
【0049】
また、本実施形態では、第1のインダクタL1および第2のインダクタL2が、地上子1の上面視において左右対称の形状を有する。よって、車上子の通過位置と各インダクタの中央部との間の距離に対する共振周波数の信号レベルの低減特性は、車上子が中央部よりも左側を通過した場合と、中央部よりも右側を通過した場合の何れの場合も、中央部から離れた距離が同じであれば同じような信号レベルになる。したがって、地上子1の左右向きやレール3,3に対する設置位置を厳密に定めることなく、地上子を適正に検知できる。
【0050】
なお、地上子の上面視における第1のインダクタL1および第2のインダクタL2の形状は、図2図4に示した上記実施形態の形状に限定されない。例えば、図7に示すように、第1のインダクタL1の形状を、地上子1aの上面視において、左右中央部が、当該第1のインダクタL1の中央部を残して前後対称に矩形状に切り欠かれた形状(H字状)とし、第2のインダクタL2の形状を、当該上面視において、前後中央部が、当該第2のインダクタL2の中央部を残して左右対称に矩形状に切り欠かれた形状(H字状)とすることもできる。山形状や矩形状の他にも、図示しないが、円形状や多角形状に切り欠いた形状としてもよい。
【0051】
図7に示す形状であっても、第1のインダクタL1は、上面視において、左右中央部の前後方向の長さが、左側部および右側部の前後方向の長さより短い長さとされる。また、第2のインダクタL2は、上面視において、前後中央部の左右方向の長さが、前方部および後方部の左右方向の長さより短い長さとされる。そして、これら第1のインダクタL1と第2のインダクタL2とは、当該上面視において中央部が重なる位置に配置される。
【0052】
また、図2図7では、各々の中央部(中心付近)が重なる位置で第1のインダクタL1と第2のインダクタL2とが重ねて配置された例を示したが、両者の位置関係は、当該上面視において中心位置が完全に重なる位置関係に限らず、当該上面視において中心位置が多少ずれて配置されていてもよい。具体的には、車上子において振幅の大きい2種類の共振周波数f1,f2をほぼ同時に検出できるように、上面視重畳領域の面積が所定の低減状態となる位置関係で配置されていればよい。第1のインダクタL1の凹んだ左右中央部と、第2のインダクタL2の凹んだ前後中央部の一部又は全部が重なるように配置するとよい。
【0053】
形状についても、第1のインダクタL1を左右対称の形状とし、第2のインダクタL2を上下対称の形状とする構成に限定されない。図8は、本変形例における地上子1bの第1のインダクタL1および第2のインダクタL2を説明する模式図である。地上子1bの上面視における第1のインダクタL1および第2のインダクタL2の形状は、図8に示すような形状とすることもできる。図9に、図8中の第1のインダクタL1を抜き出して示し、図10に、図8中の第2のインダクタL2を抜き出して示す。
【0054】
すなわち、第1のインダクタL1と第2のインダクタL2とは、上面視重畳領域の面積が所定の低減状態となる面積となるように両者を重ねて配置することで、2種類の共振周波数f1,f2をほぼ同時に検出できる構成であればよい。そのため、例えば、図8図10に示すように、第1のインダクタL1の左右の形状や第2のインダクタL2の上下の形状がそれぞれ非対称の異なる形状で構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1,1a 地上子、11 第1の共振回路、L1 第1のインダクタ、C1 コンデンサ、13 第2の共振回路、L2 第2のインダクタ、C2 コンデンサ、15 基板、f1 第1の共振周波数、f2 第2の共振周波数、3 レール、5 まくらぎ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10