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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】電線及びコイル
(51)【国際特許分類】
   H01F 5/00 20060101AFI20240215BHJP
   H01B 7/30 20060101ALI20240215BHJP
   H01F 38/14 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
H01F5/00 F
H01B7/30
H01F38/14
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020184521
(22)【出願日】2020-11-04
(65)【公開番号】P2021100102
(43)【公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-01-18
【審判番号】
【審判請求日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2019231702
(32)【優先日】2019-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000108742
【氏名又は名称】タツタ電線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 祥充
【合議体】
【審判長】井上 信一
【審判官】山田 正文
【審判官】山本 章裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-52061(JP,A)
【文献】国際公開第2010/038297(WO,A1)
【文献】特開2019-79870(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F5/00
H01F17/00
H01F27/00
H01F38/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線が中心軸の周りを複数回にわたって巻回されたコイルであって、
前記コイルは、前記中心軸に直交する平面に沿って前記電線が巻回する巻回部を備え、
前記電線は、長さ方向に直交する平面での断面形状が非円形となる導体を備え、
前記断面形状は、上下方向における中央から上側の領域であって左右のいずれか一方向に曲がるように形成された上側領域と、前記上下方向における中央から下側の領域であって前記上側領域と同方向に曲がるように形成された下側領域とを有し、
前記巻回部の少なくとも最内周に配された電線は、前記導体の前記断面形状における前記上側領域及び前記下側領域が前記コイルの前記中心軸から離れて曲がるように配された、コイル。
【請求項2】
前記巻回部の少なくとも最外周に配された電線は、前記導体の前記断面形状における前記上側領域及び前記下側領域が前記コイルの前記中心軸に向かって曲がるように配された、請求項に記載のコイル。
【請求項3】
非接触給電用コイルである、請求項又はに記載のコイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線に関し、特に、コイルに用いられる電線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、長さ方向に直交する平面での断面形状が円形となる導体を備えた電線が汎用されている。しかし、かかる電線は、表皮効果及び近接効果によって電流の流れに偏在が生じることが知られている。このため、かかる電線に交流電流が流されると、これらの効果に起因する損失が生じ、電力の伝送効率が低下するという問題があり、特に、コイル形成時にこのような問題が顕著になる。
【0003】
そこで、電線における上記損失を低減することが検討されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-79870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の電線は、表皮効果及び近接効果による損失の低減が十分ではないという問題点がある。具体的には、本発明者らが導体の断面形状について検討したところ、断面形状の違いによって、逆流電流が生じやすくなる部分が導体に生じ、この逆流電流に起因して損失が大きくなることを見出した。
【0006】
上記問題点に鑑み、本発明は、従来技術と比較して、表皮効果及び近接効果による損失の低減に優れた電線を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る電線は、
長さ方向に直交する平面での断面形状が非円形となる導体を備え、
前記断面形状は、上下方向における中央から上側の領域であって左右のいずれか一方向に曲がるように形成された上側領域と、上下方向における中央から下側の領域であって前記上側領域と同方向に曲がるように形成された下側領域とを有する。
【0008】
斯かる構成によれば、導体の断面形状が上記のように形成されていることによって、コイル形成時などの電線が並行するように配置されて用いられる場合、逆流電流が生じにくくなる。従って、表皮効果及び近接効果による損失が低減される。
【0009】
前記電線は、好ましくは、
前記断面形状は、前記上側領域及び前記下側領域のそれぞれが、曲線的に形成されているか、又は、前記上下方向に対して傾斜する方向に直線的に延びている。
【0010】
斯かる構成によれば、導体の断面形状における上側領域及び下側領域のそれぞれが、曲線的に形成されているか、又は、上下方向に対して傾斜する方向に直線的に延びていることによって、逆流電流がさらに生じにくくなり、さらに損失が低減される。
【0011】
前記電線は、好ましくは、
前記断面形状は、前記一方向に曲がる角部を有し、該角部の外側がR面取りされた形状である。
【0012】
ここで、導体の断面形状に尖った部分がある場合、この部分に電流の偏在が生じやすくなり、損失が大きくなる。
従って、斯かる構成によれば、導体の断面形状における該角部の外側がR面取りされた形状であることによって、導体における電流の偏在が抑制されるため、より確実に損失が低減される。
【0013】
また、本発明に係るコイルは、電線が複数回にわたって巻回されたコイルであって、
前記コイルの少なくとも最内周に配された電線は、上記のいずれかの電線であり、前記導体の前記断面形状における前記上側領域及び前記下側領域が前記コイルの中心軸から離れて曲がるように配されている。
【0014】
斯かる構成によれば、コイルの少なくとも最内周に配された電線が、導体の前記断面形状における前記上側領域及び前記下側領域が前記コイルの中心軸から離れて曲がるように配されていることによって、逆流電流が生じにくくなるため、表皮効果及び近接効果による損失が低減される。
【0015】
また、本発明に係るコイルは、好ましくは、
前記コイルの少なくとも最外周に配された電線は、上記のいずれかの電線であり、前記導体の前記断面形状における前記上側領域及び前記下側領域が前記コイルの中心軸に向かって曲がるように配されている。
【0016】
斯かる構成によれば、コイルの少なくとも最外周に配された電線が、前記導体の前記断面形状における前記上側領域及び前記下側領域が前記コイルの中心軸に向かって曲がるように配されていることによって、電流の偏在が抑制されるため、損失がさらに低減される。
【発明の効果】
【0017】
以上の通り、本発明によれば、従来技術と比較して、表皮効果及び近接効果による損失の低減に優れた電線を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、一実施形態に係る電線により形成されたコイルの概略平面図を示す。
図2図2は、一実施形態に係る電線が備える導体の断面形状を示す。
図3図3は、別の態様の導体の断面形状を示す。
図4図4は、導体の全体が被覆材に被覆された電線の断面形状を示す。
図5図5は、導体の一部が被覆材に被覆された電線の断面形状を示す。
図6図6は、複数の導体が1つの絶縁材に被覆された電線の断面形状を示す。
図7図7は、コイルにおける電線(導体)の配置例を示す。
図8図8は、コイルにおける電線(導体)のより好ましい配置例を示す。
図9図9は、別の態様の導体の断面形状を示す。
図10図10は、比較例1における電線の導体における100kHzでの電流分布を示す。
図11図11は、比較例2における電線の導体における100kHzでの電流分布を示す。
図12図12は、参考例1~6における各電線の導体における100kHzでの電流分布を示す。
図13図13は、参考例7~12における各電線の導体における100kHzでの電流分布を示す。
図14図14は、参考例13~18及び参考例27における各電線の導体における100kHzでの電流分布を示す。
図15図15は、参考例19~26における各電線の導体における100kHzでの電流分布を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係る電線について説明する。
【0020】
本実施形態の電線1は、図1に示されるようなコイル100を形成するために用いられるものである。本実施形態の電線1によって形成されるコイル100は、電線1が複数回にわたって巻回されている巻回部110を有している。すなわち、コイル100は、中心軸の周りを周回するように配された電線1を備えている。コイル100の前記中心軸は、巻回部110の巻回中心を通っている。巻回部110は、前記中心軸に直交する平面に沿って電線1が配されており、巻回部110では前記中心軸に最も近い位置を起点とした際に、前記中心軸から徐々に遠ざかりながら前記中心軸周りを周回するように電線1が配されている。言い換えれば、本実施形態では、巻回部110において、電線1が渦巻状となっている。
なお、以下においては、前記中心軸に沿った方向を上下方向と称し、前記中心軸に直交する径方向を横方向と称することがある。また、以下においては、前記中心軸から遠ざかる方向を外方向、前記中心軸に近付く方向を内方向と称することがある。
【0021】
本実施形態では、巻回部110は、径方向における電線1の間隔dが一定となっている。なお、本実施形態では、間隔dは、電線1の中心間距離を意味するものとする。
【0022】
図2に示されるように、電線1は、長さ方向に直交する平面での断面形状Aが非円形となる導体10を備えている。
【0023】
導体10は、コイル100形成時、逆流電流が流れやすくなる箇所及び電流が流れにくくなる箇所を回避又は迂回するような断面形状Aを有している。すなわち、断面形状Aは、上下方向における中央から上側の領域であって左右のいずれか一方向(図2では右方向)に曲がるように形成された上側領域11と、上下方向における中央から下側の領域であって上側領域11と同方向に曲がるように形成された下側領域12とを有している。本実施形態では、断面形状Aは、上側領域11と下側領域12とが同形状となるように形成されている。言い換えれば、上側領域11と下側領域12とは、それぞれを区画する境界線を介して線対称となるように形成されている。
【0024】
断面形状Aは、上側領域11及び下側領域12それぞれの先端部として、上側端部15及び下側端部16を有している。上側端部15及び下側端部16が先細りとなっている場合、この部分に電流の偏在が生じやすくなり、特にコイル100形成時において、この現象が顕著になる。よって、上側端部15及び下側端部16は、全体が丸みを帯びた状態となるように先細りに形成されていることが好ましい。
【0025】
断面形状Aは、上側領域11と下側領域12とが同方向に曲がるように形成されていることによって、内周縁13と外周縁14とを有している。導体10における逆流電流の発生及び電流の偏在を抑制する上で、少なくとも外周縁14は円弧状に形成されていることが好ましい。また、内周縁13及び外周縁14ともに円弧状に形成されていることがより好ましい。さらに、断面形状Aは、内周縁13と外周縁14との間隔tが一定となるように形成されていることが好ましい。
【0026】
内周縁13及び/又は外周縁14が円弧状に形成されている場合、後述の実施例の100kHzにおける、導体の断面形状が円形の電線に対する損失増加率の比より(間隔dが3mmか6mmか関わらず)、中心角θは15~210°であることが好ましく、15~195°であることがより好ましく、30~180°であることがさらに好ましく、75~135°であることが最も好ましい。中心角θが上記値であることによって、導体10における逆流電流の発生がより効果的に抑制され得る。また、特にコイル形成時においては、電流が流れにくくなる箇所を回避又は迂回するような導体10の効率的な配置が可能となる。
なお、中心角θは、例えば、電線1の任意の位置10箇所の断面形状Aにおける当該角度の測定値の算術平均値として算出される。
【0027】
内周縁13と外周縁14との間隔tは使用周波数における表皮深さ(電流が表面電流の1/eになる深さ)の2倍以下であることが好ましい。これによって、逆流電流が流れにくくなる効果がある。内周縁13と外周縁14との間隔tが一定である場合、内周縁13が形成する円弧の中心Cから内周縁13までの距離をrとしたときに、間隔tに対する距離rの比率は、間隔tと中心角θと必要とされる導体断面積(断面形状Aの面積)とにより算出される。
例えば、銅板から作製された導体であって、100kHzの周波数で2mm相当の導体断面積が必要である場合、t=0.4mm(100kHzにおける銅の表皮深さ0.21mmの約2倍)の銅板を導体として使用するときに、中心角θを90°とすると、距離rは約2.98mmとなり、間隔tに対する距離rの比率は約7.46となる。
なお、間隔t及び距離rは、例えば、電線1の任意の位置10箇所の断面形状Aにおける各測定値の算術平均値として算出される。
【0028】
断面形状Aは、図3に示されるように、上側領域11及び下側領域12のそれぞれが上下方向に対して傾斜する方向に直線的に延びるようなV字形状(V字を90°回転させた形状)であってもよい。この場合、断面形状Aは、上側領域11と下側領域12との間に角部17を有するものとなる。角部17が尖っている場合、この部分に電流の偏在が生じやすくなり、特にコイル100形成時においては、角部17の外側での電流の偏在が大きくなるため、角部17は、外側がR面取りされた形状であることが好ましい。また、断面形状Aは、内周縁13と外周縁14との間隔tが一定となるように形成されていることが好ましい。
【0029】
後述の実施例の100kHzにおける、導体の断面形状が円形の電線に対する損失増加率の比より(間隔dが3mmか6mmかに関わらず)、角部17の内側に形成される角度θは、90~165°であることが好ましく、105~165°であることがより好ましく、120~150°であることがさらに好ましい。
【0030】
内周縁13と外周縁14との間隔tは使用周波数における表皮深さ(電流が表面電流の1/eになる深さ)の2倍以下であることが好ましい。これによって、逆流電流が流れにくくなる効果がある。図3では、断面形状Aは、内周縁13と外周縁14との間隔tが一定となるように形成されている。この場合、内周縁13の長さの半分の長さをlとしたときに、間隔tに対する長さlの比率は、間隔tと角部17の内側に形成される角度θと必要とされる導体断面積(断面形状Aの面積)とにより算出される。
例えば、銅板から作製された導体であって、100kHzの周波数で2mm相当の導体断面積が必要である場合、t=0.4mm(100kHzにおける銅の表皮深さ0.21mmの約2倍)の銅板を導体として使用するときに、角度θを90°とすると、長さlは2.3mmとなり、間隔tに対する長さlの比率は5.75となる。
【0031】
導体10を形成するための材料としては、例えば、平編銅線、銅板、銅テープなどが挙げられ、銅以外の金属も使用可能である。また、導体10は、素線が撚り合わされて形成されたリッツ線であってもよく、この場合、各素線は絶縁被覆されていてもよい。
比較的低い周波数たる低周波数で用いられるコイル100を形成する上では、導体10は平編リッツ線により形成されていることが好ましい。前記低周波数とは、好ましくは1MHzよりも小さい周波数であり、より好ましくは100kHz以下の周波数である。
一方、比較的高い周波数たる高周波数で用いられるコイル100を形成する上では、導体10は平編銅線により形成されていることが好ましい。前記高周波数とは、好ましくは1MHz以上の周波数であり、より好ましくは5MHz以上の周波数である。
前記高周波数において平編リッツ線よりも平編銅線の方が好ましい理由としては、平編リッツ線では表皮厚さが素線径よりも小さくなるような高周波数になると電流分布に偏りが生じ、個々の素線間の近接効果により素線内部に逆流電流が流れ易くなり、その結果、平編リッツ線では損失が増加し易くなることが挙げられる。また、これに対して、平編銅線では、各素線同士が短絡しているため、素線間の近接効果が発生しにくく、その結果、損失が増加しにくいことが挙げられる。
【0032】
電線1は、導体10が絶縁材20によって被覆されていてもよく、被覆されていなくてもよい(すなわち、導体10は裸導体であってもよい)。
【0033】
導体10が絶縁材20に被覆されている場合、導体10の全体が絶縁材20に完全に被覆されていてもよい。例えば、図4(a)に示されるように、電線1の長さ方向に直交する平面での断面形状Bは、導体10の周縁と絶縁材20の周縁とが対応した形状となっていてもよい。また、図4(b)に示されるように、断面形状Bは、絶縁材20の周縁が矩形状となっていてもよい。
【0034】
また、導体10が絶縁材20に被覆されている場合、導体10の一部のみが絶縁材20に被覆されていてもよい。例えば、図5(a)に示されるように、断面形状Bは、導体10の内周縁13が中空円筒状の絶縁材20の外周縁の一部に接するような形状となっていてもよい。また、図5(b)に示されるように、断面形状Bは、導体10の外周縁14が中空円筒状の絶縁材20の内周縁の一部に接するような形状となっていてもよい。これによって、コイル形成時の巻回部110における電線1の間隔dを一定に調節することが容易となる。また、絶縁材20が中空の円筒状であるため、必要に応じて絶縁材20の一部を切り取ることが容易となり、コイル形成時の巻回部110における電線1の間隔dを任意に調節し易くなる。
【0035】
さらに、導体10が絶縁材20に被覆されている場合、図6に示されるように、複数の導体10が1つの絶縁材20に被覆されていてもよい。例えば、図6(a)では、断面形状Bにおいて、2つの導体10の内周縁13と外周縁14とが対向するように配置された状態で、矩形状の周縁を有する1つの絶縁材20に被覆されている。また、図6(b)では、断面形状Bにおいて、2つの導体10の内周縁13同士が対向するように配置された状態で、矩形状の周縁を有する1つの絶縁材20に被覆されている。これによって、2芯ケーブルとして高周波で使用した場合、損失が低減され得る。
【0036】
絶縁材20を形成する材料は、以下に限定されないが、電気絶縁性のポリマー組成物であることが好ましく、1×1012Ω・cm以上の体積抵抗率を有するポリマー組成物であることが好ましい。
【0037】
次に、本実施形態に係る電線1がコイル100を形成する場合における、電線1の配置例について説明する。
【0038】
図7及び図8に示されるように、巻回部110の少なくとも最内周に配された電線1は、導体10の断面形状Aにおける上側領域11及び下側領域12が、コイル100の前記中心軸から離れて曲がるように配されている。これによって、コイル100の内方向側に配置された電線における逆流電流及び電流の偏在が効果的に抑制されるため、損失が低減される。なお、以下では、上側領域11及び下側領域12が前記中心軸から離れて曲がるように配された状態を、第1の配置状態Oと呼ぶことがある。
また、巻回部110の少なくとも最外周に配された電線1は、導体10の断面形状Aにおける上側領域11及び下側領域12が、コイル100の前記中心軸に向かって曲がるように配置されていることが好ましい。これによって、コイル100の外方向側に配置された電線における電流の偏在が効果的に抑制されるため、損失が低減される。なお、以下では、上側領域11及び下側領域12が前記中心軸に向かって曲がるように配された状態を、第2の配置状態Iと呼ぶことがある。
【0039】
例えば、図7に示される配置例では、全ての導体10が第1の配置状態Oとなっている。また、図8に示されるより好ましい配置例では、最内周を含む内方向側の導体10は第1の配置状態Oとなっており、最外周を含む外方向側の導体10は第2の配置状態Iとなっている。言い換えれば、図8の配置例では、最内周を含む内方向側に配された電線1の一部と最外周を含む外方向側に配された電線1の一部とは、導体10の断面形状Aが反転したように(内周縁13同士が対向するように)配されている。これによって、導体10の先端部(上側端部15及び下側端部16)における電流の偏在が抑制され得る。なお、かかる反転は、1つの電線1がねじられることによってなされてもよく、2つの電線1が反転した状態で接合されることによってなされてもよい。
【0040】
より具体的には、巻回部110を構成する電線1を、最内周から外方向に向かって順に1・・・N番目としたときに、1~M番目(Mは0.5N~Nの範囲とする)に配された電線1が第1の配置状態Oであり、M番目より外方向側に配された電線1が第2の配置状態Iであることが好ましい。なお、Mは、四捨五入により整数とされた数とする。図8に示される配置例では、1~7番目に配された電線1が第1の配置状態Oであり、8~10番目に配された電線1が第2の配置状態Iとなっている。すなわち、図8の配置例では、M=0.7Nとなっている。
Mの最適な値は、電線を取り巻く磁場の状況により適宜変更され得る。例えば、コイル内径が大きい場合、最適なMは0.5Nに近づけることが好ましく、コイル内径が小さい場合、最適なMはNに近づけることが好ましい。例えば、図2に示される断面形状Aを有し、内周縁13と外周縁14との間隔t=0.4mm、中心角θ=90°、内周縁13が形成する円弧の中心Oから内周縁13までの距離r=10/π-0.2mm(≒2.98mm)である導体10を備えた電線1(実施例における参考例18)を、巻回部110における各電線の間隔d=3mmに設定して10回にわたって巻回させたコイル100に関して、電線1に1Aの電流が流れると想定した場合、コイル内径が900mm以上のとき、最適なMは0.5Nであり、コイル内径が12mm以下のとき、最適なMは0.9Nである。コイル内径に対するコイル外径の比率は、コイル内径900mm(コイル外径954mm)のとき、1.06であり、コイル内径12mm(コイル外径66mm)のとき、5.5である。
【0041】
上記のように構成されたコイル100は、非接触給電用コイルとして好適に用いられ得る。非接触給電用コイルとしては、例えば、比較的小型のスマートフォン充電用コイルや、比較的大型の電気自動車のバッテリー充電用コイルが挙げられる。また、このような非接触給電用コイルでは、通常85kHzの交流電流が流され、本実施形態のコイル100は、10kHz以上又は100kHz以上の交流電流が流される用途において、好適に用いられ得る。
【0042】
以上のように、例示として実施形態を示したが、本発明に係る電線は、上記実施形態の構成に限定されるものではない。また、本発明に係る電線は、上記作用効果により限定されるものでもない。本発明に係る電線は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0043】
例えば、上記実施形態では、断面形状Aが円弧状やV字状のものを示したが、断面形状Aは、図9に示されるようなC字状であってもよい。すなわち、図9では、断面形状Aは、上側領域11及び下側領域12それぞれが中央から上下方向に沿って延びるように形成された直線部18と、直線部18の両先端部から曲がるように形成された対をなす直線状の曲部19とを有している。この場合、断面形状Aは、直線部18と各曲部19との間に、2つの角部17を有するものとなる。図9(a)では、角部17の内側に形成された角度θは90°であり、図9(b)では、角度θは90°より大きく形成されており、この場合、後述の実施例の100kHzにおける、導体の断面形状が円形の電線に対する損失増加率の比より(間隔dが3mmか6mmかに関わらず)、角度θは90~165°であることが好ましく、120~165°であることがより好ましい。角部17が尖っている場合、この部分に電流の偏在が生じやすくなり、特にコイル100形成時においては、角部17の外側での電流の偏在が大きくなるため、角部17は、外側がR面取りされた形状であることが好ましい。なお、断面形状Aの角部17が多くなるにつれて、円弧状に近づき、電流の偏在が生じにくくなるため、断面形状Aの角部17の数は多い方が好ましい。
【実施例
【0044】
以下、実施例により本発明をさらに説明する。
【0045】
まず、解析ソフトFemtet(登録商標)(Version 2018.1.2.70140)を用い、表1に示される解析条件で、導体の断面形状について評価した。より具体的には、表2に示されるような断面形状Aを有する導体を備えた電線を10回にわたって巻回させたコイルを想定し、電線に1Aの電流が流れると想定して、1Hz~100MHzの各周波数における損失のシミュレーションを行った。
なお、コイル内径は50mmとし、巻回部における各電線の間隔dは、3mm又は6mmに設定した。
表2の参考例1~26のコイルに関しては、図7のように、巻回部を形成する1~10番目の全ての電線が、第1の配置状態Oとなるように配置した。これに対して、参考例27に関しては、図8のように、1~7番目の電線が第1の配置状態Oとなるように且つ8~10番目の電線が第2の配置状態Iとなるように配置した。
表3及び表4に、各周波数における損失及び損失増加率(各周波数における損失を1Hzにおける損失で割った値)、並びに、断面形状が円形の導体を備えた電線に対する損失増加率の比を示した。
【0046】
図10に示したように(間隔dが3mmのものを示す)、導体の断面形状が円形の比較例1では、コイルの内方向側(特に最内周)に配された導体における、外方向側に逆電流が生じ且つ内方向側に電流の偏在が観察された。また、図11に示したように、導体の断面形状がI型(直線状)の比較例2では、導体の断面形状における上側端部及び下側端部において、電流の偏在が顕著であった。
これらの現象に起因して、表3及び表4に示したように、比較例1及び比較例2では、10kHz以上の交流電流を流した場合に、比較的大きな損失が観察された。
【0047】
一方、図12~15に示したように(間隔dが3mmのものを示す)、導体の断面形状がV字状の参考例2~6、C字状の参考例9~12及び円弧状の参考例13~25及び27では、逆流電流が生じにくく、電流の偏在が比較的抑制されており、比較例1及び比較例2と比較して均一な電流が流れることが観察された。特に、図12図15の電流分布図において、V字状でθ=105~165°の参考例2~6、C字状でθ=120~165°の参考例9~12及び円弧状でθ=15~195°の参考例13~25では電流が均一に流れることが認められた。
これに起因して、表3(間隔dが3mmのものを示す)及び表4(間隔dが6mmのものを示す)に示したように、参考例のコイルでは、損失が低減され、特に高周波における損失の低減が認められた。また、間隔dが6mmの場合、3mmの場合と比較して損失がさらに低減されることが認められ、参考例1~27の全てにおいて、比較例1及び比較例2と比較して損失が低減されることが認められた。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
【表4】
【0052】
次に、上記シミュレーション結果を参考にして、電線及びコイルを実際に作製し、その評価を行うこととした。
【0053】
まず、表5に示した平編銅線又は平編リッツ線を用い、表6に示した断面形状を有する導体を備える電線を4種作製した。より具体的には、平編銅線及び平編リッツ線を用いて、断面形状がI字状の導体を一対ずつ作製した。一対のI字状の導体のうちの一方は、そのままI字状の導体を有する電線として用い(比較例3及び比較例4)、もう一方は、折り曲げることによって断面形状において直線部及び曲部を有するC字状の導体を有する電線として用いた(実施例1及び実施例2)。
【0054】
次に、上記で作製した各電線を用いて、コイル内径85mm、コイル外径150mmとし、巻回部における各電線の間隔dを約7mmとし、且つ、巻回部がN=5となるように、コイルを作製した。コイル形状を保持するために、導体の断面形状に対応した形状のポリオレフィン製のスペーサーを用い、該スペーサーに電線をテープによって固定した。なお、断面形状がC字状の電線により形成したコイルについては、全ての電線が第1の配置状態Oとなるようにした。
【0055】
【表5】
【0056】
【表6】
【0057】
作製した4種のコイルに直流電流並びに100kHz及び5MHzの交流電流を流した際の抵抗値を測定した。直流電流の抵抗値の測定には、デジタルオームメータ(DAC-MRG-1 SOKEN)を用いた。また、交流電流の抵抗値の測定には、ベクトルネットワークアナライザ(nanoVNA)を用いた。測定した各抵抗値から、抵抗増加率(交流電流の抵抗値を直流電流の抵抗値で割った値)、及び、断面形状がI字状の導体を備えた電線に対する損失増加率の比を求めた。結果を表7に示した。
【0058】
表7に示されるように、低周波数(100kHz)の交流電流では、平編リッツ線を用いて作製した電線の方が、所望の効果に優れることがわかった。一方、高周波数(5MHz)の交流電流では、平編銅線を用いて作製した電線の方が、所望の効果に優れることがわかった。
【0059】
【表7】
【0060】
ここで、比較例3は、上記シミュレーションの比較例2に相当し、実施例1及び実施例2は上記シミュレーションの参考例10に相当するものと考えられる。そこで、上記シミュレーション結果と、表7の結果とを比較し易くするために、表3及び表4における比較例2及び参考例10の結果を用いて、I字状に対する損失増加率の比を求めた。この結果を表8に示した。
【0061】
【表8】
【0062】
表7における抵抗増加率の比は、表8における損失増加率の比(特に間隔d=6mmの場合)と同様の傾向を示した。よって、上記シミュレーション結果は、実際の電線及びコイルの作製の指標として的確なものであることがわかった。すなわち、上記シミュレーションに関する表3及び表4などから把握される傾向は、実際に製造した電線及びコイルに当てはめることができることがわかった。よって、上記シミュレーション結果によって表皮効果及び近接効果による損失の低減に優れると評価された形態に基づいて実際に作製された電線及びコイルは、同様の有利な効果を有するものになるはずである。
【符号の説明】
【0063】
1:電線、
10:導体、11:上側領域、12:下側領域、13:内周縁、14:外周縁、
15:上側端部、16:下側端部、17:角部、18:直線部、19:曲部、
20:絶縁材、
100:コイル、110:巻回部、
O:第1の配置状態、I:第2の配置状態
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
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図15