(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】ステップ踏板検査装置及びステップ踏板検査方法
(51)【国際特許分類】
B66B 31/00 20060101AFI20240215BHJP
B66B 29/00 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
B66B31/00 D
B66B29/00 D
(21)【出願番号】P 2020208114
(22)【出願日】2020-12-16
【審査請求日】2023-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 隆行
【審査官】須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-128447(JP,A)
【文献】特開2012-210994(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 31/00
B66B 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗客コンベアのステップに設けられた踏板におけるフレーム本体からの浮き上がりを検査するステップ踏板検査装置において、
前記ステップが反転した箇所において、前記ステップに設けられた踏板が鉛直方向の下方を向いた状態で、前記踏板と対向して配置され、前記踏板との距離を計測する非接触式のセンサと、
前記センサが計測した情報に基づいて、前記踏板における前記フレーム本体からの浮き上がりの有無を判定する情報処理部と、
前記センサが設けられ、前記乗客コンベアの枠体に設置される取り付けベースと、
を備え
、
前記取り付けベースは、前記乗客コンベアの幅方向に沿って伸縮可能に構成される
ステップ踏板検査装置。
【請求項2】
前記情報処理部は、
前記センサが計測した複数のステップの前記踏板との距離の平均値を算出する平均値算出部と、
前記平均値算出部が算出した前記平均値に基づいて、正常範囲を算出する正常範囲算出部と、
前記正常範囲算出部が算出した前記正常範囲に基づいて、前記踏板における前記ステップからの浮き上がりの有無を判定する判定部と、を有する
請求項1に記載のステップ踏板検査装置。
【請求項3】
前記情報処理部は、
前記センサが測定したセンサ出力値から前記ステップに相当するセンサ出力値を判別するステップ判別部と、
前記ステップ判別部が判別した前記センサ出力値に対して、検査を開始する時に前記ステップに付与された識別可能な番号を設定する識別番号設定部と、
前記判定部の判定結果が表示される表示部と、を有し、
前記判定部は、複数の前記ステップのうち前記判定部により正常であると判定されたステップと、異常であると判定されたステップに対して、前記識別番号を用いて正常判定と異常判定が判別可能に前記表示部に表示させる
請求項
2に記載のステップ踏板検査装置。
【請求項4】
乗客コンベアのステップに設けられた踏板におけるフレーム本体からの浮き上がりを検査するステップ踏板検査方法において、
前記ステップが反転した箇所において、前記ステップに設けられた踏板が鉛直方向の下方を向いた状態で、前記踏板と対向して非接触式のセンサを配置する処理と、
前記乗客コンベアの複数のステップを少なくとも一周させて、前記センサにより複数のステップにおける前記踏板との距離を計測する処理と、
前記センサが計測した複数のステップの前記踏板との距離の平均値を算出する処理と、
前記平均値に基づいて、正常範囲を算出する処理と、
前記正常範囲に基づいて、前記踏板における前記フレーム本体からの浮き上がりの有無を判定する処理と、
を含むステップ踏板検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗客コンベアに設けられたステップの踏板の浮き上がりを検査するステップ踏板検査装置及びステップ踏板検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
乗客コンベアは、建築構造物に設置されるフレームと、このフレーム内に設けられて循環移動する無端状に連結された複数のステップとを備えている。複数のステップには、無端状のチェーンが連結されており、このチェーンが回転駆動することで、複数のステップが循環移動する。
【0003】
また、特許文献1には、ステップの踏板の状態を検出する技術が記載されている。特許文献1には、踏段の走行方向の反転部の一方の側で、移動する踏段と相対して、かつ、踏段の横幅方向に所定の間隔で配置され、それぞれ相対する踏段の部位との間の距離を検出する複数の距離センサと、乗客コンベア制御盤と、を備えた技術が記載されている。そして、乗客コンベア制御盤は、所定時間経過する毎に複数の距離センサの検出距離に基づいて踏段の状態の異常有無の判定を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、ステップの踏板は、経年使用により固定ボルトの緩みや、溶接がはがれることで、ステップの踏板がフレーム本体から浮き上がるおそれがあった。特許文献1に記載された技術では、ステップの踏板の破損や欠落は検知しているが、踏板のフレーム本体からの浮き上がりは検出していなかった。
【0006】
上記の問題点を考慮し、踏板におけるフレーム本体からの浮き上がりを検出することができるステップ踏板検査装置及びステップ踏板検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、ステップ踏板検査装置は、乗客コンベアのステップに設けられた踏板におけるフレーム本体からの浮き上がりを検査するステップ踏板検査装置である。ステップ踏板検査装置は、非接触式のセンサと、情報処理部と、を備えている。センサは、ステップが反転した箇所において、ステップに設けられた踏板が鉛直方向の下方を向いた状態で、踏板と対向して配置され、踏板との距離を計測する。情報処理部は、センサが計測した情報に基づいて、踏板におけるフレーム本体からの浮き上がりの有無を判定する。
【0008】
また、ステップ踏板検査方法は、乗客コンベアのステップに設けられた踏板におけるフレーム本体からの浮き上がりを検査するステップ踏板検査方法であって、以下(1)から(5)に示す工程を含んでいる。
(1)ステップが反転した箇所において、ステップに設けられた踏板が鉛直方向の下方を向いた状態で、踏板と対向して非接触式のセンサを配置する処理。
(2)乗客コンベアの複数のステップを少なくとも一周させて、センサにより複数のステップにおける踏板との距離を計測する処理。
(3)センサが計測した複数のステップの踏板との距離の平均値を算出する処理。
(4)平均値に基づいて、正常範囲を算出する処理。
(5)正常範囲に基づいて、踏板におけるフレーム本体からの浮き上がりの有無を判定する処理。
【発明の効果】
【0009】
上記構成のステップ踏板検査装置及びステップ踏板検査方法によれば、踏板におけるフレーム本体からの浮き上がりを検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態例にかかるステップ踏板検査装置が用いられる乗客コンベアの構成例を示す概略構成図である。
【
図2】乗客コンベアのステップを示す斜視図である。
【
図3】乗客コンベアのステップにおける踏段を示す平面図である。
【
図4】実施の形態例にかかるステップ踏板検査装置を示す斜視図である。
【
図5】実施の形態例にかかるステップ踏板検査装置を乗客コンベアに設置した状態を示す斜視図である。
【
図6】実施の形態例にかかるステップ踏板検査装置の情報処理部の構成を示すブロック図である。
【
図7】実施の形態例にかかるステップ踏板検査装置における踏板の検査箇所を示す平面図である。
【
図8】実施の形態例にかかるステップ踏板検査装置の判定方法を示すもので、センサが計測した波形データの一例を示す図である。
【
図9】実施の形態例にかかるステップ踏板検査装置の検査動作を示すフローチャートである。
【
図10】実施の形態例にかかるステップ踏板検査装置のセンサが計測した波形データの一例を示すもので、
図10Aは左側に設置されたセンサの波形データを示し、
図10Bは右側に設置されたセンサの波形データを示すものである。
【
図11】実施の形態例にかかるステップ踏板検査装置の判定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、ステップ踏板検査装置及びステップ踏板検査方法の実施の形態例について、
図1~
図11を参照して説明する。なお、各図において共通の部材には、同一の符号を付している。
【0012】
1.実施の形態例
1-1.乗客コンベアの構成例
まず、実施の形態例(以下、「本例」という。)にかかるステップ踏板検査装置が用いられる乗客コンベアの構成について、
図1から
図3を参照して説明する。
図1は、乗客コンベアを示す概略構成図である。
【0013】
図1に示す乗客コンベア1は、建築構造物の上階床と下階床に設置される傾斜型の乗客コンベア、いわゆるエスカレーターである。
図1に示すように、乗客コンベア1は、建築構造物に設置された枠体2と、制御盤3と、欄干部4と、複数のステップ5と、ハンドレール6と、駆動機構7とを備えている。また、乗客コンベア1は、伝達チェーン8と、駆動スプロケット9と、従動スプロケット10と、ドライビングチェーン11とを備えている。
【0014】
枠体2における上階床側には、駆動機構7と、制御盤3と、駆動スプロケット9が配置されている。また、枠体2における下階床側には、従動スプロケット10が配置されている。
【0015】
駆動機構7は、電動機及び減速機により構成されている。電動機には、制御盤3から電力が供給される。そして、電動機は、制御盤3によりその動作が制御される。電動機の駆動プーリには、ベルト部材が巻き掛けられている。また、このベルト部材は、減速機の従動プーリに巻き掛けられている。これにより、電動機の回転力は、ベルト部材を介して減速機に伝達される。
【0016】
さらに、減速機の伝達スプロケットには、伝達チェーン8が巻き掛けられている。この伝達チェーン8は、駆動スプロケット9に巻き掛けられている。そして、駆動機構7の駆動力が伝達チェーン8を介して駆動スプロケット9に伝達され、駆動スプロケット9が回転する。
【0017】
駆動スプロケット9と従動スプロケット10には、ドライビングチェーン11が巻き掛けられている。そして、駆動スプロケット9が回転することで、従動スプロケット10及びドライビングチェーン11が回転する。
【0018】
また、駆動スプロケット9には、不図示のハンドレール駆動チェーンが巻き掛けられている。ハンドレール駆動チェーンは、複数の伝達プーリに巻き掛けられると共に、ハンドレール駆動装置の駆動ローラーに備えられたスプロケットに巻き掛けられている。
【0019】
また、枠体2には、不図示のガイド部材が設けられている。そして、複数のステップ5は、不図示のガイド部材に移動可能に支持される。また、複数のステップ5は、ドライビングチェーン11を介して無端状に連結されている。複数のステップ5は、枠体2に取り付けられたガイド部材に案内されて往路側と復路側を循環移動する。乗客は、往路側を移動するステップ5に乗って搬送される。
【0020】
欄干部4は、枠体2の上部に支持されており、枠体2の幅方向の両側に配置されている。欄干部4には、無端状のハンドレール6が取り付けられている。ハンドレール6は、欄干部4に移動可能に支持されている。ハンドレール6は、ハンドレール駆動装置によって、複数のステップ5と同一方向に、複数のステップ5と同期して循環移動する。
【0021】
以下、複数のステップ5が移動する方向を第1の方向X、ステップ5の幅方向を第2の方向Y、第2の方向Yと直交する鉛直方向を第3の方向Zとする。
【0022】
図2は、ステップ5を示す斜視図、
図3は、ステップ5の踏板を示す正面図である。
図2に示すように、ステップ5は、フレーム本体5aと、踏板5bとを備えている。踏板5bは、複数の凹凸が設けられた略平板状に形成されている。踏板5bは、フレーム本体5aの上端部である上面部に、複数の固定ボルト12により固定されている。
【0023】
図3は、ステップ5の踏板5bを上方から見た平面図である。
図3に示すように、踏板5bは、第1の方向Xの長さよりも第2の方向Yの長さが長い矩形状に形成されている。また、踏板5bは、左踏板5cと、右踏板5dの2分割構造となっている。左踏板5cは、フレーム本体5aの第2の方向Yの一側(左側)に固定されており、右踏板5dは、フレーム本体5aの第2の方向Yの他側(右側)に固定されている。また、左踏板5c及び右踏板5dにおける第1の方向Xの両端部、すなわちステップ5の前輪側及び後輪側の端部は、固定ボルト12によってフレーム本体5aに固定されている。
【0024】
なお、本例では、踏板5bをフレーム本体5aに固定ボルト12を用いて固定した例を説明したが、これに限定されるものではなく、踏板5bをフレーム本体5aに溶接により固定してもよい。
【0025】
1-2.ステップ踏板検査装置の構成
次に、上述した乗客コンベア1のステップ5を検査する際に用いられる本例のステップ踏板検査装置13の構成例について
図4から
図6を参照して説明する。
図4は、ステップ踏板検査装置13を示す斜視図、
図5は、ステップ踏板検査装置13を設置した状態を示す斜視図である。
【0026】
図4に示すように、ステップ踏板検査装置(以下、単に「検査装置」と称す。)13は、2つのセンサ14、15と、取り付けベース16と、2つの固定部材17と、情報処理部100(
図6参照)を有している。
【0027】
図5に示すように、2つのセンサ14、15は、ステップ5の踏板5bと対向して配置され、踏板5bまでの距離を計測する。2つのセンサ14、15としては、例えば、レーザー、ミリ波、超音波等を踏板5bに照射し、踏板5bから反射したレーザー、ミリ波、超音波等を受信することで、踏板5bとの距離を計測する非接触式の距離計である。2つのセンサ14、15は、計測した情報を後述する情報処理部100に出力する。
【0028】
なお、センサ14、15としては、踏板5bを撮影するカメラを用いてもよい。そして、カメラが撮影した画像データから踏板5bまでの距離を計測してもよい。センサ14、15としてカメラを適用した場合、検査装置13に照明を設置する必要があるため、センサ14、15としては、レーザーを照射するレーザー方式の距離計が好ましい。
【0029】
2つのセンサ14、15は、第2の方向Yに間隔を空けて取り付けベース16に固定されている。取り付けベース16は、第2の方向Yに沿って伸縮可能に構成されている。取り付けベース16における第2の方向Yの両端部には、固定部材17が設けられている。
【0030】
図5に示すように、検査装置13は、枠体2における第2の方向Yで対向する2つの下枠2aに設置される。また、検査装置13は、枠体2におけるステップ5が反転し、踏板5bが第3の方向Zの下方を向く箇所に配置される。
図5に示す例では、検査装置13は、下階床側の従動スプロケット10の近傍に配置される。なお、検査装置13を上階床側の駆動スプロケット9の近傍に配置してもよい。
【0031】
また、作業者は、取り付けベース16を、枠体2における下枠2aの第2の方向Yの間隔に応じて伸縮させる。そして、取り付けベース16の両端部に設けた固定部材17は、下枠2aに押し当てられる。これにより、取り付けベース16を枠体2に保持することができる。このように、取り付けベース16を第2の方向Yに沿って伸縮可能に構成することで、第2の方向Yの長さが異なる様々なサイズの乗客コンベアに検査装置13を設置することができる。
【0032】
また、取り付けベース16を枠体2に設置した際、2つのセンサ14、15は、ステップ5の踏板5bと対向して配置される。センサ14、15は、踏板5bと対向し、センサ14は、左踏板5cと対向し、センサ15は、右踏板5dと対向する。ここで、検査装置13が配置されるステップ5が反転する箇所では、踏板5bは、第3の方向Zの下方を向く。そのため、固定ボルト12に緩みが発生した場合、踏板5bは、自重によりフレーム本体5aから離れる方向に移動する。
【0033】
なお、検査装置13を配置する位置は、乗客コンベア1における駆動スプロケット9又は従動スプロケット10の近傍である下階床側や上階床側に限定されるものではない。検査装置13は、ステップ5が反転した箇所、すなわちステップ5の踏板5bが第3の方向Z(鉛直方向)の下方を向く位置に配置されていればよく、例えば、乗客コンベア1における傾斜区間において、ステップ5の踏板5bが第3の方向Zの下方を向く位置に配置してもよい。
【0034】
また、ステップ5が反転した直後では、固定ボルト12や踏板5bの引っ掛かりにより、踏板5bがフレーム本体5aから離れないおそれがある。そのため、乗客コンベア1が上り運転する際は、検査装置13を下階床側に設置し、乗客コンベア1が下り運転する際は、検査装置13を上階床側に設置することが好ましい。これにより、ステップ5が反転してから検査装置13が踏板5bを検出するまでの時間を確保することができる。その結果、固定ボルト12に緩みが生じた場合、踏板5bが自重によりフレーム本体5aから確実に離反した状態で、ステップ5の状態を検査装置13で検査することができ、検査精度の向上を図ることができる。
【0035】
次に、
図6を参照して情報処理部100の構成について説明する。
図6は、情報処理部100の構成を示すブロック図である。
図6に示すように、情報処理部100は、平均値算出部101と、正常範囲算出部102と、判定部103と、受信部104と、表示部105と、ステップ判別部107と、識別番号設定部108と、入力部109を備えている。情報処理部100としては、パーソナルコンピューターや、携帯情報端末等が適用される。
【0036】
また、情報処理部100を構成する各構成要素、機能、処理部等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路の設計などによりハードウエアで実現してもよい。また、上記の各構成要素、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウエアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリやハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、又はICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【0037】
受信部104は、センサ14、15を有線又は無線により接続される。そして、受信部104は、センサ14、15が計測した情報を受信する。受信部104は、受信した情報をステップ判別部107に出力する。
【0038】
ステップ判別部107は、受信部104が受信した情報に基づいて、ステップ5を判別する。具体的には、ステップ判別部107は、センサ14、15のセンサ出力値のうちステップ5を示すセンサ出力値を抽出する。なお、ステップ判別部107におけるステップ5の判別方法については、後述する。そして、ステップ判別部107は、識別番号設定部108に接続されており、判別した情報を識別番号設定部108に出力する。
【0039】
識別番号設定部108は、ステップ判別部107によりステップ5であると判別されたセンサ出力値に、識別番号(ステップNo.)を設定する。識別番号設定部108は、設定した情報を平均値算出部101、判定部103及び表示部105に出力する。
【0040】
平均値算出部101は、ステップ判別部107により判別されたステップ5を示すセンサ出力値の平均値を算出する。すなわち、平均値算出部101は、全てのステップ5の踏板5bまでの距離の平均値を算出する。そして、平均値算出部101は、算出した平均値を正常範囲算出部102及び表示部105に出力する。
【0041】
正常範囲算出部102は、平均値算出部101が算出した平均値に基づいて、ステップ5の正常及び異常判定を行う正常範囲を算出する。正常範囲算出部102は、例えば、平均値算出部101が算出した平均値に所定の値を加算及び減算することで正常範囲を算出する。そして、正常範囲算出部102は、算出した正常範囲を判定部103及び表示部105に出力する。
【0042】
判定部103は、正常範囲算出部102が算出した正常範囲に基づいて、センサ14、15が計測した各ステップ5の踏板5bまでの距離が正常範囲内であるか否かを判断する。そして、判定部103は、踏板5bまでの距離が正常範囲内である場合、当該ステップ5は正常であると判定し、踏板5bまでの距離が正常範囲を外れている場合、当該ステップ5が異常であると判定する。また、判定部103は、判定結果を表示部105に出力する。
【0043】
表示部105は、判定部103の判定結果や、センサ14、15が計測した情報、平均値算出部101が算出した平均値、識別番号設定部108が設定した識別番号等の各種情報を表示する。なお、表示部105としては、パーソナルコンピューターや携帯情報端末等に設けられた表示画面が適用される。
【0044】
入力部109は、例えば、パーソナルコンピューターに設けられたキーボードや、表示画面に表示されたタッチパネル等により構成されている。入力部109には、作業者から検査を行う乗客コンベア1のステップ5の総数や、検査を開始するステップ5の情報等が入力される。入力部109に入力された情報は、識別番号設定部108や表示部105等に出力される。
【0045】
1-3.検査装置の検査箇所
次に、
図7を参照して本例の検査装置13における踏板5bの異常検査を行う箇所について説明する。
図7は、検査装置13の検査箇所を示す平面図である。
【0046】
図7に示すように、本例の踏板5bは、左踏板5cと、右踏板5dからなる2分割構造となっている。上述したように、左踏板5c及び右踏板5dは、第1の方向Xの両端部、すなわちステップ5の前輪側及び後輪側の端部において、固定ボルト12でフレーム本体5aに固定されている。そのため、経年使用により固定ボルト12が緩むと、踏板5bは、左前輪側L1、左後輪側L2、右前輪側R1、右後輪側R2の4箇所のいずれかがフレーム本体5aから浮き上がる(離れる)。そして、センサ14は、踏板5bにおける左前輪側L1及び左後輪側L2の距離を計測し、センサ15は、踏板5bにおける右前輪側R1及び右後輪側R2の距離を計測する。
【0047】
2.ステップ踏板検査装置による検査動作例
次に、上述した構成を有するステップ踏板検査装置13を用いたステップ5の検査動作例について
図8~
図11を参照して説明する。
まず、
図8を参照してステップ踏板検査装置13のステップ判別部107におけるステップ5の判別方法について説明する。
図8は、センサ14、15が計測した波形データの一例を示す図である。横軸に時間(データ数)を示し、縦軸に距離を示している。
【0048】
検査装置13を乗客コンベア1に設置し、乗客コンベア1を駆動させると、ステップ5が検査装置13のセンサ14、15の上を通過する。その際、センサ14、15とステップ5の踏板5bの距離が近くなるため、
図8に示すように、センサ14、15は、ステップ5が通過するまでの期間、あるセンサ出力値を出力する。この期間のセンサ出力値を第1センサ出力値22と称す。
【0049】
また、ステップ5とステップ5との間には、隙間がある。そのため、ステップ5がセンサ14、15の上を通過し終わると、ステップ5とステップ5の隙間の区間は、センサ14、15からステップ5までの距離が遠くなる。そのため、その期間では、
図8に示すように、ステップ14、15は、予め設定されたステップ判別閾値を超えたセンサ出力値を出力する。この期間のセンサ出力値を第2センサ出力値23と称す。
【0050】
ステップ判別部107は、センサ出力値のうち予め設定された判別閾値を超えたセンサ出力値をステップ5とステップ5の境目の区間を示す第2センサ出力値23であると判別する。そして、ステップ判別部107は、センサ出力値のうち第2センサ出力値23を除いたセンサ出力値がステップ5を示す第1センサ出力値22であると判別する。これにより、複数のステップ5を1枚ごとに検査することができる。
【0051】
ここで、センサ出力値が第2センサ出力値23から第1センサ出力値22に変化する点が、1枚のステップ5の検査開始点、いわゆるステップ開始点24となる。このステップ開始点24は、ステップ5における第1の方向Xの先端部、すなわちステップ5の左前輪側L1及び右前輪側R1に相当する。また、センサ出力値が第1センサ出力値22から第2センサ出力値に変化する点が、1枚のステップ5の検査終了点、いわゆるステップ終了点25となる。このステップ終了点25は、ステップ5における第1の方向Xの先端部、すなわちステップ5の左後輪側L2及び右後輪側R2に相当する。
【0052】
情報処理部100は、平均値算出部101によって全てのステップ5のステップ開始点24又はステップ終了点25のセンサ出力値の平均値を算出し、正常範囲算出部102は、この平均値から正常範囲h1を算出する。そして、情報処理部100の判定部103は、各ステップ5のステップ開始点24とステップ終了点25のセンサ出力値が、正常範囲h1内か否かによりステップ5の正常及び異常を判定する。
【0053】
次に、
図9から
図11を参照して検査動作例について説明する。
図9は、検査動作を示すフローチャート、
図10A及び
図10Bは、センサ14、15が計測した波形データの一例を示す図である。
図10Aはセンサ14が計測した波形データであり、ステップ5の左踏板側を示す波形データである。
図10Bはセンサ15が計測した波形データであり、ステップ5の右踏板側を示す波形データである。そして、
図11は、検査装置13の判定結果を示す図である。
【0054】
図9に示すように、作業者は、乗客コンベア1の枠体2における第1の方向Xの長さにあわせて取り付けベース16を伸長させる。そして、
図5に示すように、固定部材17を枠体2の下枠2aに押し当てて、取り付けベース16を固定する(S11)。次に、作業者は、取り付けベース16にセンサ14、15を設置する(S12)。このとき、センサ14、15は、ステップ5の踏板5bが第3の方向Zの下方を向いた状態で、踏板5bと対向する。
【0055】
次に、作業者は、情報処理部100を操作し、複数のステップ5のうち検査を開始するステップNo.や、全ステップNo.等の情報を入力する(S13)。すなわち、S13の処理では、作業者は、情報処理部100の入力部109を介して検査を開始するステップ5と、検査を行う乗客コンベア1のステップ5の総数Nを入力する。また、作業者は、検査を行う乗客コンベア1の複数のステップ5に対して、識別番号(ステップNo.)を示すマークやシールを貼り付ける。
【0056】
そして、計測準備が完了すると、作業者は、情報処理部100を操作し、センサ14、15に計測の開始司令を送信し(S14)、乗客コンベア1を駆動させて複数のステップ5を1周させる(S15)。
【0057】
次に、複数のステップ5が一周し、計測が終了するとセンサ14、15は、センサ出力値を情報処理部100に受信部104に送信する。そして、情報処理部100は、受信部104が受信したセンサ14、15からのセンサ出力値に基づいて、判定処理を行う(S16)。
【0058】
S16に示す判定処理では、まずステップ判別部107が、センサ14、15のセンサ出力値から第1センサ出力値22と第2センサ出力値23を判別し、ステップ5に相当するセンサ出力値、すなわち複数の第1センサ出力値22を抽出する。次に、識別番号設定部108は、ステップ判別部107が判別した複数の第1センサ出力値22に対して、順番に識別番号を設定する。例えば、識別番号設定部108は、複数の第1センサ出力値22のうち、最初の第1センサ出力値22に対して識別番号として「ステップNo.1」を設定する。そして、識別番号設定部108は、複数の第1センサ出力値22に対して、順番に識別番号として「ステップNo.2」、「ステップNo.3」、「ステップNo.4」・・・「ステップNo.N」を設定する。ここで、Nは、入力部109に入力された検査を行う乗客コンベア1におけるステップ5の総数である。
【0059】
次に、平均値算出部101により、全てのステップ5における左前輪側L1及び左後輪側L2、右前輪側R1、右後輪側R2それぞれのセンサ出力値の平均値を算出する。そして、正常範囲算出部102は、
図10A及び
図10Bに示すように、左前輪側L1の第1正常範囲h2、左後輪側L2の第2正常範囲h3、右前輪側R1の第3正常範囲h4、右後輪側R2の第4正常範囲h5をそれぞれ独立して算出する。
【0060】
次に、判定部103は、各ステップ5の左前輪側L1及び左後輪側L2、右前輪側R1、右後輪側R2が、第1正常範囲h2、第2正常範囲h3、第3正常範囲h4、第4正常範囲h5の範囲内か否かを判定する。
【0061】
例えば、
図10Aに示すように、判定部103は、ステップ5の左踏板5c側において、「ステップNo.3」~「ステップNo.5」に相当するステップ5はいずれも第1正常範囲h2及び第2正常範囲h3の範囲内であるため、「ステップNo.3」~「ステップNo.5」に相当するステップ5の左踏板5c側は正常であると判定する。これに対して、「ステップNo.6」に相当するステップ5の左前輪側L1及び左後輪側L2は、いずれも第1正常範囲h2及び第2正常範囲h3の範囲外であるため、判定部103は、「ステップNo.6」に相当するステップ5の左踏板5c側に異常があると判定する。
【0062】
また、
図10Bに示すように、判定部103は、ステップ5の右踏板5d側において、「ステップNo.3」及び「ステップNo.5」、「ステップNo.6」に相当するステップ5はいずれも第3正常範囲h4及び第4正常範囲h5の範囲内である。そのため、判定部103は、「ステップNo.3」及び「ステップNo.5」、「ステップNo.6」に相当するステップ5の右踏板5d側は正常であると判定する。これに対して、「ステップNo.4」に相当するステップ5の右後輪側R2は、第4正常範囲h5の範囲外である。そのため、判定部103は、「ステップNo.4」に相当するステップ5の右後輪側R2に異常があると判定する。
【0063】
次に、判定部103は、判定結果を表示部105に出力する。そして、表示部105は、
図11に示すような判定部103の判定結果を表示し、情報処理部100は判定内容を確認する(S17)。
図11に示すように、例えば、正常であると判定された「ステップNo.」には、「○」が表示され、異常であると判定された「ステップNo.」には「×」が表示される。また、判定結果だけでなく、異常が発生した箇所も表示される。
【0064】
上述したように、検査を行う乗客コンベア1の複数のステップ5には、作業者により識別番号(ステップNo.)を示すマークやシールが貼り付けられている。これにより、複数のステップ5のうち異常が発生しているステップ5と、正常であると判定されたステップ5とを容易に判別することができる。
【0065】
また、本例では、識別番号として「ステップNo.」を適用した例を説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、単純な番号でもよく、あるいは複数の英数字からなるIDでもよく、作業者が識別可能な番号であればよい。さらに、本例では、作業者が、検査を行う乗客コンベア1のステップ5に対して識別番号を示すマークやシールを貼り付ける例を説明したが、これに限定されるものではない。複数のステップ5のうち、検査を開始するステップ5と、任意の間隔(例えば、3つや5つ毎)にマークやシールを貼り付けてもよい。あるいは、検査を開始するステップ5にのみマークやシールを貼り付けてもよい。
【0066】
なお、表示部105に表示例としては、
図11に示す例に限定されるものではなく、その他各種の表示例が適用されるものである。情報処理部100は、複数のステップ5のうち正常であると判定されたステップ5と、異常であると判定されたステップ5とを作業者が判別可能に表示部105に表示できればよい。
【0067】
次に、情報処理部100は、全てのステップ5が正常であるか否かを判断する(S18)。なお、S18の判断処理は、作業者が表示部105に表示された判定結果に基づいて判断してもよい。
【0068】
S18の処理において、全てのステップ5が正常であると判断した場合(S18のYES判定)、作業者は、検査装置13を乗客コンベア1から取り外し、確認作業を実施する(S19)。これに対して、S18の処理において、異常があるステップ5が存在した場合(S18のNO判定)、作業者は、表示部105から異常がある判定された「ステップNo.」から対象となるステップ5を確認し、固定ボルト12の増し締めを実施する(S20)。これにより、検査装置13を用いた乗客コンベア1のステップ5の検査動作が完了する。
【0069】
上述したように、本例の検査装置13によれば、踏板5bが第3の方向Z(鉛直方向)の下方を向いた位置にセンサ14、15を設置している。これにより、経年使用により固定ボルト12に緩みが発生すると、踏板5bが自重によりフレーム本体5aから離れる(浮き上がる)ため、踏板5bの浮き上がりをセンサ14、15により確実に検出することができる。
【0070】
さらに、正常範囲算出部102において、踏板5bの左前輪側L1、左後輪側L2、右前輪側R1、右後輪側R2におうじてそれぞれ第1正常範囲h2、第2正常範囲h3、第3正常範囲h4、第4正常範囲h5をそれぞれ独立して設定している。これにより、ステップ5の異常の有無だけでなく、踏板5bにおける異常が発生している箇所までも特定することができる。
【0071】
また、正常範囲算出部102において、検査を行う乗客コンベア1の複数のステップ5の平均値から判定に用いる正常範囲h2、h3、h4、h5を算出している。これにより、検査を行う乗客コンベア1に応じた正常範囲を設定することができ、予め閾値を設定する必要がなくなり、センサ14、15を設置する位置を予め設定した閾値に応じて厳密に調整する必要もなくなる。その結果、センサ14、15の設置作業を容易に行うことができ、検査作業を容易に実施できる。また、センサ14、15は、複数のステップ5が一周する間だけ枠体2に保持されていればよいため、センサ14、15を保持する取り付けベース16及び固定部材17の構成の簡略化を図ることも可能となる。
【0072】
さらに、本例の検査装置13によれば、2つのセンサ14、15を設け、センサ14で踏板5bの左踏板5cを検出し、センサ15で踏板5bの右踏板5dを検出している。これにより、乗客コンベア1を一周させるだけで、踏板5bの左踏板5cと右踏板5dの状態を同時に検査することができ、検査時間の短縮を図ることができる。
【0073】
なお、本例の検査装置13では、センサを2つ設けた例を説明したが、これに限定されるものではなく、センサの数は、1つだけ、あるいは3つ以上設けてもよい。しかしながら、センサの数が1つだけの場合、踏板5bの左側と右側を検査するためには、センサの位置を変えて乗客コンベア1を2周させる必要がある。そのため、センサの数は、2つ以上設けることが好ましい。
【0074】
なお、上述しかつ図面に示した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0075】
上述した実施の形態例では、傾斜型の乗客コンベアとして、踏段間に段差が生じるエスカレーターを例に挙げて説明したが、本発明の乗客コンベアとしては、踏段間に段差が生じない複数の踏段を有する電動道路、いわゆる動く歩道にも適用できるものである。
【0076】
また、傾斜区間の少なくとも一部に、上水平区間及び下水平区間に対して平行な箇所を設けたフレームを有する乗客コンベアにも適用できるものである。さらに、傾斜区間の延設方向が湾曲して変化することで、上水平区間と下水平区間の延設方向が異なるフレームを有する乗客コンベアに対しても同様に適用できるものである。
【0077】
なお、本明細書において、「平行」及び「直交」等の単語を使用したが、これらは厳密な「平行」及び「直交」のみを意味するものではなく、「平行」及び「直交」を含み、さらにその機能を発揮し得る範囲にある、「略平行」や「略直交」の状態であってもよい。
【符号の説明】
【0078】
1…乗客コンベア、 2…枠体、 2a…下枠、 3…制御盤、 4…欄干部、 5a…フレーム本体、 5b…踏板、 5c…左踏板、 5d…右踏板、 6…ハンドレール、 7…駆動機構、 9…駆動スプロケット、 10…従動スプロケット、 12…固定ボルト、 13…ステップ踏板検査装置(検査装置) 14、15…センサ、 16…取り付けベース、 17…固定部材、 22…第1センサ出力値、 23…第2センサ出力値、 24…ステップ開始点、 25…ステップ終了点、 100…情報処理部、 101…平均値算出部、 102…正常範囲算出部、 103…判定部、 104…受信部、 105…表示部、 107…ステップ判別部、 108…識別番号設定部、 109…入力部、 h1…正常範囲、 h2…第1正常範囲、 h3…第2正常範囲、 h4…第3正常範囲、 h5…第4正常範囲、 L1…左前輪側、 L2…左後輪側、 R1…右前輪側、 R2…右後輪側