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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】熱可塑性ポリウレタンフィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/40 20060101AFI20240215BHJP
   C08G 18/75 20060101ALI20240215BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240215BHJP
   C08J 7/04 20200101ALI20240215BHJP
【FI】
B32B27/40
C08G18/75 080
C08J5/18 CFF
C08J7/04 V
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020211041
(22)【出願日】2020-12-21
(62)【分割の表示】P 2019221575の分割
【原出願日】2019-12-06
(65)【公開番号】P2021091902
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】591012392
【氏名又は名称】日本マタイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154335
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 秀彦
(72)【発明者】
【氏名】有馬 智則
(72)【発明者】
【氏名】小林 悠里
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-120642(JP,A)
【文献】国際公開第2020/107001(WO,A1)
【文献】特開平01-315414(JP,A)
【文献】特開昭60-018541(JP,A)
【文献】特表2000-511231(JP,A)
【文献】特開2015-098574(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00- 43/00
C08G 18/00- 18/87
C08G 71/00- 71/04
C08J 5/00- 7/18
C08F 6/00-246/00
C08F301/00
C09J 7/00- 7/50
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/08
C08C 19/00- 19/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)と下記のポリエーテルジオール、ポリエステルジオールおよびポリカーボネートジオールのうちのいずれかのポリオール成分とを用いた反応生成物である熱可塑性ポリウレタンからなり、一方の面にウレタン結合を有する表面コート層が形成されることにより、曲面を有する被着体を保護するために用いられることを特徴とする熱可塑性ポリウレタンフィルム。
ポリエーテルジオール:ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール(PPG)、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとの共重合体、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)
ポリエステルジオール:ポリ(エチレンアジペート)ジオール、ポリ(プロピレンアジペート)ジオール、ポリ(ブチレンアジペート)ジオール(PBA)、ポリ(ヘキサメチレンアジペート)ジオール、ポリ(ブチレンイソフタレート)ジオール、ポリ-ε-カプロラクトンジオール(PCL)
ポリカーボネートジオール:ポリヘキサメチレンカーボネートジオール(PHC)、ポリヘキサメチレンカーボネートジオールと上述のポリエステルジオールおよびポリエーテルジオールの少なくともいずれかとの共縮合物
【請求項2】
JIS K7244-4による損失正接の値を、-60℃から最高で60℃まで温度を上げて測定した際に、この測定値が下記(1)および(2)の条件を満たす請求項1に記載の熱可塑性ポリウレタンフィルム。
(1)15~60℃の温度環境下において最大値を示すこと
(2)0℃以下の温度環境下において最小値を示すこと
【請求項3】
JIS K7244-4による損失正接の値を、-60℃から最高で60℃まで温度を上げて測定した際に、この測定値が、0~25℃まで温度を上げた際に小さくなることなく、一定または大きくなる請求項2に記載の熱可塑性ポリウレタンフィルム。
【請求項4】
23℃±2℃の温度条件下で、40%伸ばした状態で停止してから30秒経過後の負荷(残留応力)が20N/25mm以下であり、当該状態で停止してから3分経過後の応力緩和率が25%以上である請求項1から3のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタンフィルム。
【請求項5】
JIS K7361-1による全光線透過率が90%以上である請求項1から4のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタンフィルム。
【請求項6】
JIS K7136によるヘイズ値が3.0以下である請求項1から5のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタンフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装保護シートあるいは表面保護シートとして好適に用いられる熱可塑性ポリウレタンフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の乗り物外装部の擦り傷、飛び石による傷防止や、天候による劣化防止のための塗装保護シートあるいは表面保護シートとして用いられる粘着シートは、自動車の塗装面、ヘッドライト、窓ガラス等の保護として用いられるため、曲面にも沿って貼付ける必要がある。このことから、追従性、延伸性が求められ、熱可塑性のポリウレタンフィルムをベースにすることが多い。
【0003】
このポリウレタンフィルムは、ベタつきがあり、屋外環境で使用した場合、表面に砂、埃等の汚れが付着すると、汚れが定着し除去できないことから、上述した保護シートは、ポリウレタンフィルムの表面に汚れ防止のコート層を設けて多層フィルムとすることが一般的である。
【0004】
一方、自動車等、保護対象の外装では曲面部が多く、貼り付ける際にフィルムを引き延ばしながら、貼り付ける必要があるが、ポリウレタンのフィルム特性によっては、引き延ばす際に過剰な応力が必要であったり、元に戻ろうとする応力が高く、貼り付け難いフィルムがある。つまり、曲面への貼り付けの際、伸ばし難いフィルムや伸ばした際に復元性の高いフィルムは、戻る力により曲面に馴染めず、シワ等が発生し得るので、ポリウレタンフィルムにも伸ばしやすく、戻る力が低いフィルムが求められている。
【0005】
この戻る力の高低は、応力緩和率と相関があるため、スムーズに貼り付けるには応力緩和性を向上させることが必要となる。応力緩和性を得るために、ポリウレタンフィルムは、ポリエステル系、ポリカプロラクトン系、ポリカーボネート系等、ポリオールの種類によって定義されることが多い(たとえば特許文献1~6参照)。
【0006】
また、このような熱可塑性フィルムとしては、軟質ポリ塩化ビニルを用いることが多かった。これは、可塑剤を加えて軟質化させると、損失正接(tanδ)が常温とその前後の温度になる0~60℃の環境下にて最大値(ピーク値)を示すとともに(非特許文献1参照)、応力-ひずみ(S-S)曲線が一次関数的でなだらかな右肩上がりになり(特許文献7参照)、応力緩和性に優れるためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2005-272558号公報
【文献】特表2008-539107号公報
【文献】特開2015-98574号公報
【文献】特開2015-52100号公報
【文献】特開2014-166748号公報
【文献】特開2018-53193号公報
【文献】特開2018-188652号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】「ネットワークポリマー」Vol.32 No.6、2011年、p.362-367
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献1~6のようにポリウレタンフィルムを使用する場合、そのポリウレタンの特性を確認してポリオールの種類を決定する必要があり、ポリオールの種類に関わらず応力緩和性が得られるポリウレタン原料については提案されていなかった。
【0010】
また、表面コート層も、ポリウレタンに追従する延伸性が必要とされるが、表面コート層の延伸性が高すぎると粘性が強くなることから、汚れが付着し易くなり、貼り付けが可能な範囲の延伸性が求められている。
【0011】
一方、軟質ポリ塩化ビニルは、可塑剤が溶け出すことにより人体に与える悪影響や燃焼時にダイオキシンを発生する懸念から、社会的に使用を控える動きが進んでおり、熱可塑性フィルムにおいても、軟質ポリ塩化ビニルと同等の優れた応力緩和性を示すような代替品の開発が望まれていた。
【0012】
本発明の第1の目的は、ポリオールの種類に関わらず応力緩和性が得られ、貼り付け作業性が良好な熱可塑性ポリウレタンフィルムを提供することにある。
【0013】
また、本発明の第2の目的は、塩化ビニルと同等の優れた応力緩和性を示し、塩化ビニルに代わり得る熱可塑性ポリウレタンフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上述の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、以下の知見を得た。
【0015】
つまり、熱可塑性ポリウレタンフィルムを、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)を用いた反応生成物により構成すると、ポリオールの種類に関わらず良好な応力緩和性を有し、貼付け作業性に優れ、これに表面コート層を形成しても、貼付け作業性に優れる多層フィルムとすることができると言う知見である。
【0016】
また、熱可塑性ポリウレタンフィルムを、H12MDIを用いた反応生成物により構成すると、軟質ポリ塩化ビニルと同程度の優れた応力緩和性を示すと言う知見である。
【0017】
本発明は、この本発明者の知見に基づき、上述の課題を解決するための手段は以下の通りである。
【0018】
<1> ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)とポリエーテルジオール、ポリエステルジオールおよびポリカーボネートジオールのうちのいずれかのポリオール成分とを用いた反応生成物である熱可塑性ポリウレタンからなり、一方の面に表面コート層が形成されることにより、曲面を有する被着体を保護するために用いられることを特徴とする熱可塑性ポリウレタンフィルムである。
【0019】
<2> JIS K7244-4による損失正接の値を、-60℃から最高で60℃まで温度を上げて測定した際に、この測定値が下記(1)および(2)の条件を満たす<1>に記載の熱可塑性ポリウレタンフィルムである。
(1)15~60℃の温度環境下において最大値を示すこと
(2)0℃以下の温度環境下において最小値を示すこと
【0020】
<3> JIS K7244-4による損失正接の値を、-60℃から最高で60℃まで温度を上げて測定した際に、この測定値が、0~25℃まで温度を上げた際に小さくなることなく、一定または大きくなる<2>に記載の熱可塑性ポリウレタンフィルムである。
【0021】
<4> 23℃±2℃の温度条件下で、40%伸ばした状態で停止してから30秒経過後の負荷(残留応力)が20N/25mm以下であり、当該状態で停止してから3分経過後の応力緩和率が25%以上である<1>から<3>のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタンフィルムである。
【0022】
<5> JIS K7361-1による全光線透過率が90%以上である<1>から<4>のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタンフィルムである。
【0023】
<6> JIS K7136によるヘイズ値が3.0以下である<1>から<5>のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタンフィルムである。
【0024】
<7> 前記表面コート層がウレタン結合を有する<1>から<6>のいずれかにに記載の熱可塑性ポリウレタンフィルムである。
【発明の効果】
【0025】
本発明の熱可塑性ポリウレタンフィルムは、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)を用いた反応生成物からなるので、ポリオールの種類に関わらず応力緩和性を得られ、貼り付け作業性を良好とすることが可能となる。
【0026】
また、本発明の熱可塑性ポリウレタンフィルムは、熱可塑性ポリウレタン層が、H12MDIを用いた反応生成物である熱可塑性ポリウレタンからなるので、損失正接の最大値を示す温度範囲や応力-ひずみ曲線の示す形状が軟質ポリ塩化ビニルに近く、同程度の優れた応力緩和性を示し、その代替品として使用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、本発明の多層フィルムの層構成の一形態を示す図である。
図2図2は、本発明の多層フィルムの被着体への貼付け例を示す図である。
図3図3は、本発明の多層フィルムの被着体への他の貼付け例を示す図である。
図4図4は、実施例1~4の-60~60℃における損失正接データを示すグラフである。
図5図5は、比較例1~3の-60~60℃における損失正接データを示すグラフである。
図6図6は、比較例4~6の-60~60℃における損失正接データを示すグラフである。
図7図7は、実施例1~4の応力-ひずみ曲線を示すグラフである。
図8図8は、比較例1~3の応力-ひずみ曲線を示すグラフである。
図9図9は、比較例4~6の応力-ひずみ曲線を示すグラフである。
図10図10は、実施例5の貼付け作業性の結果を示す写真である。
図11図11は、比較例7の貼付け作業性の結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(熱可塑性ポリウレタンフィルム)
本発明において、熱可塑性ポリウレタンとは、ポリイソシアネートと、鎖延長剤およびポリオールを重合することで得られるブロック共重合体である。本発明では、ポリイソシアネート成分として、脂肪族系のジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(以下「H12MDI」と言う。)が選択される。なお、H12MDIは主成分として含有していればよく、H12MDIにより奏する本発明の効果に影響ない範囲で、他のポリイソシアネート成分を含んでいてもよい。
【0029】
12MDIとしては、4,4′-、2,4′-または2,2′-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートもしくはその混合物や誘導体などが挙げられる。これらポリイソシアネートは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0030】
他のポリイソシアネート成分としては、たとえば、脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート、ポリイソシアネートと活性水素基含有化合物との反応によるイソシアネート基末端化合物、ポリイソシアネートの反応によるポリイソシアネート変性体、活性水素を分子内に1個有するブロック剤で一部を安定化したポリイソシアネートが挙げられる。脂肪族ジイソシアネートとしては、たとえば、ドデカンジイソシアネート、トリメチル-ヘキサメチレンジイソシアネートなどが挙げられる。脂環式ジイソシアネートとしては、たとえば、シクロヘキサンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ノルボルナン-ジイソシアネートメチル、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンなどが挙げられる。ポリイソシアネートの反応としては、たとえば、カルボジイミド化反応などが挙げられる。活性水素を分子内に1個有するブロック剤としては、たとえば、メタノール、n-ブタノール、ベンジルアルコール、アセト酢酸エチル、ε-カプロラクタム、メチルエチルケトンオキシム、フェノール、クレゾールなどが挙げられる。
【0031】
鎖延長剤としては、分子量500以下の化合物が挙げられる。このような化合物としては、たとえば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4-ブチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼンなどが挙げられる。なお、これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0032】
ポリオール成分は、1分子中に2個の水酸基を有する分子量200~10,000程度の化合物であれば特に制限はなく、たとえば、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオールなどが挙げられる。
【0033】
具体的には、ポリエーテルジオールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール(PPG)、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとの共重合体、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)などが挙げられる。
【0034】
ポリエステルジオールとしては、ポリ(エチレンアジペート)ジオール、ポリ(プロピレンアジペート)ジオール、ポリ(ブチレンアジペート)ジオール(PBA)、ポリ(ヘキサメチレンアジペート)ジオール、ポリ(ブチレンイソフタレート)ジオール、ポリ-ε-カプロラクトンジオール(PCL)などが挙げられる。
【0035】
ポリカーボネートジオールとしては、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール(PHC)、ポリヘキサメチレンカーボネートジオールと他のポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリエーテル・エステルジオールとの共縮合物等が挙げられる。
【0036】
熱可塑性ポリウレタンは、ワンショット法、プレポリマー法等の公知の方法によって合成され、バッチ反応法、連続反応法等の公知の方法によってペレット状に製造可能である。
【0037】
熱可塑性ポリウレタンの市販品としては、たとえば、ルーブリゾール(Lubrizol)社の商品名「ESTANE(登録商標)」シリーズ、BASFジャパン社の「エラストラン(登録商標)」シリーズ、ハンツマン(Huntsman)社の商品名「KRYSTALGRAN」シリーズなどを使用することができる。
【0038】
得られた熱可塑性ポリウレタンフィルムは、23℃±2℃の温度条件下で、40%伸ばした状態で停止してから30秒経過後の負荷(残留応力)が、通常20N/25mm以下であり、18N/25mm以下が好ましく、16N/25mm以下が、より好ましい。通常、多層フィルムを作製して曲面に貼り付ける際には、一部分を被着体に貼り付けた後、片手でフィルムを引き伸ばしながら曲面に沿わせ、反対の手に持ったスキージーによって被着体とフィルムを密着させる。そのため、この残留応力が20N/25mmより大きいと、貼付け時にフィルムの引き戻す力が大きく、片手でフィルムを延伸させた状態で位置を固定することが困難であったり、糊ずれが起こったりして、取扱い難くなるおそれがある。
【0039】
得られた熱可塑性ポリウレタンフィルムは、23℃±2℃の温度条件下で、40%伸ばした状態で停止してから3分経過後の応力緩和率が、通常25%以上であり、30%以上が好ましく、35%以上が、より好ましい。この応力緩和率が25%より小さいと、多層フィルムを作製した際に、曲面への貼付け時に引き延ばすと生じる歪みが緩和できず、シワとなることがある。また、多層フィルムを貼り付けた後、浮きが生じるおそれがある。
【0040】
なお、これらの負荷は、たとえば、サンプルを適度な大きさに切り出し、市販の引張り試験機にて40%伸ばすことで測定することができ、応力緩和率は、3分経過後に測定された負荷の停止直後の負荷に対する百分率を算出することで求めることができる。
【0041】
これらの物性を得るために、熱可塑性ポリウレタンフィルムは、損失正接の値が、その温度による変化を、-60℃から最高で60℃まで温度を上げて測定した際に、この測定値が下記(1)~(3)の条件を満たすことが好ましい。ここで、損失正接は、応力およびひずみの位相(正弦波)の波形ピーク値と時間軸上における位相差(ひずみの遅れ)との関係に基づく物体の粘性要素と弾性要素の指標(tanδ)であり、JIS K7244-4にしたがって測定することができる。
(1)15~60℃、好ましくは25~50℃の温度環境下において最大値(ピーク値)を示すこと
(2)0℃以下の温度環境下において最小値を示すこと
(3)0~25℃まで温度を上げた際に値が小さくなることなく、一定または大きくなること
【0042】
測定値が、上述の条件を満たす、つまり、なだらかな右肩上がりのtanδの波形を有することで、フィルムの貼付け作業をする環境下でフィルムの物性の変化が小さく、応力緩和性に優れるようになる。また、tanδの最大値、つまりガラス転移点が常温とその前後の温度である15~60℃の範囲にあることによって、フィルムの貼付け作業をする環境下で、フィルムを構成する分子の運動性が低くなり、フィルムを延伸させた時に低反発性を示し、貼付け作業性に優れるようになる。
【0043】
熱可塑性ポリウレタンフィルムの損失正接の値が、これらの要件を満たすポリイソシアネート成分として、上述したH12MDIが好適に挙げられる。
【0044】
つまり、通常であれば、使用するポリオールによる熱可塑性ポリウレタン種で応力緩和性が異なるとされ、ポリオール由来の特定の熱可塑性ポリウレタン種を使用することが有効とされてきた。これに対し、本発明では、ジイソシアネート成分にH12MDIを使用することで、そのような特性を考慮することなく、様々なポリオール成分を組み合わせても、その反応生成物の熱可塑性ポリウレタンにより、良好な応力緩和性を得ることができる。
【0045】
また、H12MDIを使用することで、得られた熱可塑性ポリウレタン層は、損失正接(tanδ)が上述のように15~60℃の環境下で最大値を示し、かつ応力-ひずみ(S-S)が一次関数的でなだらかな右肩上がりとなるため、軟質ポリ塩化ビニルのそれと近似し、社会的に使用が控えられつつある軟質ポリ塩化ビニルの代替品となり得る。
【0046】
得られた熱可塑性ポリウレタンフィルムは、23℃±2℃の温度条件下で、フィルムを10%伸ばした状態の応力値は、20N/25mm以下が好ましく、15N/25mm以下が、より好ましい。この応力値が20N/25mmよりも大きくなると、フィルムが硬く、引き伸ばし難く、シワになるなど、貼付け作業性が悪くなることがある。
【0047】
熱可塑性ポリウレタンフィルムの硬度は、特に限定されないが、通常ショアA硬度70~ショアD硬度65の範囲であり、ショアA硬度80~ショアD硬度60が好ましく、ショアA硬度85~95が、より好ましい。硬度がショアD硬度65より大きいと、フィルムを40%伸ばした状態で停止してから30秒経過後の負荷(残留応力)や、フィルムを10%伸ばした状態の応力値が高くなり、多層フィルムを作製した際の貼付け時に、フィルムが硬く、曲面追従性が得られないおそれがある。ショアA硬度70より小さいと、コシが弱く、貼付けの際、取扱い難くなるおそれがある。なお、ショアA硬度は一般ゴムの硬さを測定する規格で、ショアD硬度はショアA硬度95を超える高硬度のゴム用の同様の規格であり、いずれも、デュロメータ(スプリング式ゴム硬度計)を用い、JIS K7311にしたがって測定することができる。
【0048】
熱可塑性ポリウレタンフィルムの光学特性は、全光線透過率が90%以上、好ましくは92%以上であり、ヘイズ値が3.0以下、好ましくは2.0以下である。全光線透過率が90%より小さく、ヘイズ値が3.0より大きくなると、自動車等の光沢のある塗装面に貼り付けた際、白っぽく見えることがある。なお、全光線透過率およびヘイズ値の測定は、ヘイズメーターを用い、全光線透過率はJIS K7361-1、ヘイズ値はJIS K7136に、それぞれしたがって測定することができる。
【0049】
熱可塑性ポリウレタンフィルムは、たとえば、Tダイキャスト成形法、Tダイニップ成形法、インフレーション成形法、カレンダー成形法等の公知の方法によって層状に形成可能であるが、特にTダイニップ法が好ましい。
【0050】
熱可塑性ポリウレタンフィルムは、Tダイニップ法で形成する場合、フラットダイから押し出された溶融状態の樹脂の片面もしくは両面に、セパレーターを添わせて冷却ロールを通過させて製造することができる。
【0051】
このセパレーターを形成する材料としては、たとえば、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系樹脂、ポリイミド(PI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、紙などが挙げられる。
【0052】
セパレーターと熱可塑性ポリウレタンとの積層フィルムから、セパレーターを容易に剥離できない場合は、セパレーターの表面に剥離処理をしたものを用いることが好ましい。剥離処理の方法としては、たとえば、そのセパレーターの表面に、シリコーン系、フッ素系、アクリル系、メラミン系、アルキド系等の剥離剤を用いてコーティングする方法、ポリエチレンまたはポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂をラミネートする方法が挙げられる。特に、ポリエチレンテレフタレートフィルムに剥離剤を処理したものが好適に用いられる。また、シリコーン系は、熱可塑性ポリウレタン層に剥離剤が移行して、粘着剤や被着体との密着ないしは接着を阻害するおそれがあるので、非シリコーン系が好ましい。
【0053】
熱可塑性ポリウレタンフィルムの層の厚さは、特に制限はないが、通常は50~500μmであり、好ましくは100~300μm、より好ましくは100~200μmである。50μmよりも薄いと、貼付けの際に取扱い難くなり、飛び石による傷がつきやすくなるおそれがある。500μmよりも厚いと、貼り付け難く、曲面への追従性が得られないおそれがある。
【0054】
熱可塑性ポリウレタンフィルムは、紫外線吸収剤を含むことが好ましい。紫外線吸収剤を含むことで、屋外で使用した際に、ポリウレタン層の劣化や粘着剤等を塗布して使用する際の粘着剤の劣化などを軽減したり、紫外線を遮断することが必要とされる農業用のフィルムや紫外線を視認出来る鳥獣類の防止対策として使用することができる。
【0055】
紫外線吸収剤としては、従来公知のものであれば特に制限されないが、例えば、ベンゾトリアゾ-ル系、トリアジン系、ベンゾフェノン系のものが好ましい。
【0056】
ベンゾトリアゾ-ル系としては、たとえば、2-(2′-ヒドロキシ-5′-メチルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(2′-ヒドロキシ-5′-メチルフェニル)-5,6-ジクロルベンゾトリアゾ-ル)、2-(2′-ヒドロキシ-5′-t-ブチルフェニル)、ベンゾトリアゾ-ル、2-(2′-ヒドロキシ-3′-メチル-5′-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(2′-ヒドロキシ-3′,5′-ジ-t-ブチルフェニル)-5-クロル-ベンゾトリアゾ-ル、2-(2′-ヒドロキシ-5′-フェニルフェニル)-5-クロルベンゾトリアゾ-ル、2-(2′-ヒドロキシ-3′,5′-ジ-t-ブチルフェニル)-5-クロロロベンゾトリアゾ-ル、2-(2′-ヒドロキシ-3′-t-ブチル-5′-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾ-ル、2-(2′-ヒドロキシ-3′,5′-ジ-t-アミルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(2′-ヒドロキシ-3′,5′-ジ-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(2′-ヒドロキシ-5′-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-{2′-ヒドロキシ-3′-(3″,4″,5″,6″-テトラヒドロフタルイミドメチル)-5′-メチルフェニル}ベンゾトリアゾ-ル、2-{2-ヒドロキシ-3,5-ビス(α,α′-ジメチルベンジル)フェニル}-2-ヒドロキシベンゾトリアゾ-ル等や、これらの混合物、変性物、重合物、誘導体が挙げられる。
【0057】
トリアジン系としては、たとえば、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]-フェノール、2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-ドデシルオキシプロピル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-トリデシルオキシプロピル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-6-(2-ヒドロキシ-4-イソ-オクチルオキシフェニル)-s-トリアジン等やこれらの混合物、変性物、重合物、誘導体が挙げられる。
【0058】
ベンゾフェノン系としては、たとえば、2,3′-ジヒドロキシ-4,4′- ジメトキシベンゾフェノン、2,2′-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2′,4,4′-テトラヒドロキシベンゾフェノン等が挙げられる。
【0059】
また、熱可塑性ポリウレタンフィルムには、これらの紫外線吸収剤に光安定剤や酸化防止剤を併用することが好ましい。
【0060】
光安定剤としては、たとえば、ポリ〔{6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル}{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}〕、コハク酸ジメチル-1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン重縮合物、ビス(1-オクチロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート等のヒンダードアミン系光安定剤が挙げられる。
【0061】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン酸系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤などが使用でき、たとえば、BASFジャパン株式会社製、商品名イルガノックス1010、イルガノックス1076等のヒンダードフェノール系酸化防止剤、株式会社ADEKA製、商品名アデカスタブPEP8等のリン系酸化防止剤などが挙げられる。
【0062】
熱可塑性ポリウレタンフィルムは、JIS R3106に準拠して自記分光光度計で測定したデータを、JIS S3107に準拠して算出した光線透過率が、300~380nmの波長の透過率が25%以下であり、15%以下であることが好ましく、10%以下であることが、より好ましい。
【0063】
(多層フィルム)
本発明の多層フィルムは、少なくとも本発明の熱可塑性のポリウレタンフィルムによる層(以下「熱可塑性ポリウレタン層」という。)と、この一方の面に形成されて熱可塑性ポリウレタン層の表面をコートする表面コート層とを有する。
【0064】
図1は本発明の多層フィルムの層構成の一形態例を示した図、図2は本発明の多層フィルムの被着体への貼付け例を示す図、図3は本発明の多層フィルムの被着体への他の貼付け例を示す図である。
【0065】
図1に示す多層フィルム10は、中央の熱可塑性ポリウレタン層11と、この表面に形成された表面コート層12とから構成されている。
【0066】
多層フィルム10は、保護対象物への貼付けの際には、熱可塑性ポリウレタン層11および表面コート層12を基材として、図2に示すように、表面コート層のない反対面の熱可塑性ポリウレタン面に粘着層13を設けて、被着体aに基材層を貼り付ける。これにより、たとえば自動車の塗装面、ヘッドライト、窓ガラス等の乗り物外装部などの保護対象物の傷防止や劣化防止をするために用いられる。
【0067】
また、多層フィルム10は、ポリウレタンが熱可塑性であり、熱溶融により接着性も得られることから、図3に示すように、粘着層を設けずに、被着体aに直接熱溶融しながら貼り付けて使用することもできる。
【0068】
<熱可塑性ポリウレタン層>
本発明における熱可塑性ポリウレタン層は、本発明の熱可塑性ポリウレタンフィルムであり、詳細は既に述べた通りである。
【0069】
<表面コート層>
本発明における表面コート層は、通常、主鎖中にウレタン結合を含有する。ウレタン結合を含有することで、曲面への貼付け時に、熱可塑性ポリウレタン層の伸びに表面コート層が追従し易くなるとともに、フィルムを伸長した際の表面コート層の割れ(クラック)を防ぐことができる。
【0070】
表面コート層の延伸性は、多層フィルムを伸長させることで確認できる。具体的には、熱可塑性ポリウレタン層に表面コート層を形成して得られた多層フィルムを短冊状に切り出した後、引張試験機に固定して伸長させ、表面コート層にクラックが入り始める伸び率(表面コート層割れ伸度)から確認できる。表面コート層割れ伸度は、特に限定されないが、通常は60%以上であり、好ましくは80%以上、より好ましくは100%以上である。
【0071】
表面コート層に用いられる膜形成用樹脂組成物としては、ウレタン結合を含んでいれば特に制限はないが、ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物を使用時に混合させて得られる2液硬化型が好ましく、熱硬化型がより好ましい。
【0072】
イソシアネート化合物としては、たとえば、脂肪族ジイソシアネート、環状脂肪族ジイソシアネート、3官能以上のイソシアネート化合物等が挙げられる。脂肪族ジイソシアネートとしては、たとえば、リジンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサンジイソシアネート等が挙げられる。環状脂肪族ジイソシアネートとしては、たとえば、水素添加キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチルシクロヘキサン-2,4-(または2,6)-ジイソシアネート、4,4'-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、1,3-(イソシアナトメチル)シクロヘキサン等が挙げられる。3官能以上のものとしては、たとえばリジントリイソシアネート等が挙げられる。
【0073】
また、イソシアネート化合物としては、いわゆるイソシアヌレート体、ビウレット体、アダクト体、アロファネート体などのイソシアネート多量体や、イソシアネート化合物を多価アルコールまたは低分子量ポリエステル樹脂に付加したものを挙げることもできる。
【0074】
なお、イソシアネート化合物は、ジオールと反応する限り、いわゆるブロックイソシアネートの形態であってもよい。
【0075】
ポリオール化合物は、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカプロラクタムポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオールおよびフッ素ポリオールからなる群より選択される少なくともいずれかであることが好ましい。
【0076】
また、ポリオール化合物にフッ素成分、シリコーン成分などを共重合したブロック重合体や、フッ素成分やシリコーン成分などを側鎖として結合させたグラフト重合体や、それらを組み合わせたブロック・グラフト重合体も膜形成用樹脂組成物として挙げられる。
【0077】
表面コート層に用いられる膜形成用樹脂組成物には、通常用いられる公知の希釈溶媒を適宜添加してもよい。この希釈溶媒としては、特に制限はないが、たとえば、メチルイソブチルケトン(MIBK)、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン(MEK)、トルエンなどが好適に挙げられる。
【0078】
表面コート層に用いられる塗膜形成用樹脂組成物の市販品としては、たとえば、大日精化工業株式会社、株式会社トクシキ、荒川化学工業株式会社などから商業的に入手可能である。
【0079】
表面コート層は、膜形成用樹脂組成物(溶剤を含むもの)を、熱可塑性ポリウレタン層の表面に塗布し、溶剤や水を乾燥させ、公知の方法で硬化させることができる。
【0080】
硬化の方法としては、たとえば、熱硬化、光硬化、電子線硬化、湿気硬化、酸化硬化などが挙げられる。ここで、光硬化は、紫外線によって硬化させるUV硬化も可能であるが、屋外で使用する際は紫外線吸収剤等の耐候剤を使用する必要があり、その使用が制限されることがある。そのため、これらの中でも、特に、加熱することにより架橋構造を形成し、硬化させる熱硬化が好ましい。
【0081】
塗布の方法としては特に制限はなく、たとえば、バーコーター、スプレーコーター、エアーナイフコーター、キスロールコーター、メタリングバーコーター、グラビアロールコーター、リバースロールコーター、ディップコーター、ダイコーター等の公知の塗工装置を用いて塗布することができる。また、乾燥の方法も特に制限はなく、たとえば、公知のフィルム塗工の乾燥技術を、適宜に用いることができる。
【0082】
熱硬化の温度や時間は、熱可塑性ポリウレタン層の変形などがない範囲で適宜に設定すればよい。温度は、たとえば40~120℃、時間は、たとえば10分~1週間である。熱硬化の方法としては、熱風や、公知のコーティングマシンの乾燥炉(ドライヤー)、エージングルームを用いる等の方法を挙げることができる。
【0083】
表面コート層の厚さは特に限定されないが、好ましくは3~50μm、より好ましくは5~20μmである。厚さが、3μm未満であると、表面コート層が所望の性能が得られないことがあり、50μmよりも厚いと、曲面への貼付け時に、熱可塑性ポリウレタン層の伸びに表面コート層が追従せず、表面コート層が割れてしまうことがある。
【0084】
表面コート層には、表面コート層の保護と平滑性を付与することを目的として、セパレーターが貼り付けられていることが好ましい。
【0085】
セパレーターを形成する材料としては、たとえば、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系樹脂、ポリイミド(PI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、紙などが挙げられる。
【0086】
セパレーターの表面は、処理をしたものを用いることが好ましい。処理の方法としては、たとえば、そのセパレーターの表面に、シリコーン系、フッ素系、アクリル系、メラミン系、アルキド系等の剥離剤を用いてコーティングする方法、ポリエチレンまたはポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂をラミネートする方法が挙げられる。特に、ポリエチレンテレフタレートフィルムに剥離剤を処理したものが好適に用いられる。
【0087】
セパレーターは、表面が平滑であることが望ましい。セパレーターの表面コート層が接する面の表面粗さRaは、20nm以下であることが好ましく、15nm以下であることがさらに好ましい。この表面粗さRaが20nmよりも大きいと、自動車等の光沢のある塗装面に貼り付けた際、白っぽく見えることがある。
【0088】
貼り付け後、白っぽく見えるか否かは、目視による評価だけでなく、反射ヘイズによっても評価することができる。反射ヘイズは、コニカミノルタジャパン(株)製の表面分析計「Rhopoint IQ-S」などで測定することができる。反射ヘイズは2.0(%)以下が好ましく、1.5以下がより好ましい。
【0089】
<粘着層>
粘着層を設けて使用する場合は、公知の粘着剤を用いることができる。粘着剤としては、たとえば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ウレタン系粘着剤等、一般的なものを使用できる。これらの中でも、好適な粘着力、耐久性等を発揮し得るアクリル系粘着剤が好ましい。
【0090】
また、熱可塑性ポリウレタン層、表面コート層、粘着層には、上述した成分以外にも、たとえば、難燃剤、耐熱向上剤、可塑剤、滑剤、帯電防止剤、導電付与剤、着色剤、無機および有機充填剤、繊維系補強剤、反応遅延剤など、通常、上述した成分に添加され得る材料を、物性に影響を与えない範囲で添加してもよい。
【0091】
本発明の多層フィルムの光学特性は、保護対象物の視認に影響が及ばないようにするには、全光線透過率が90%以上、ヘイズ値が3.0以下であることが、それぞれ好ましい。なお、全光線透過率およびヘイズ値の測定は、ヘイズメーターを用い、全光線透過率はJIS K7361-1、ヘイズ値はJIS K7136に、それぞれしたがって測定することができる。
【0092】
本発明の多層フィルムは、本発明の熱可塑性ポリウレタン層を用いるので応力緩和性に優れ、さらに、ウレタン結合を含む表面コート層を有することで、適度な延伸性が得られ、熱可塑性ポリウレタン層への追従性が良好となり、保護対象物への貼付けをスムーズに行うことができる。
【0093】
そのため、本発明の多層フィルムは、自動車等の乗り物外装部の擦り傷、飛び石による傷防止や、天候による劣化防止のための塗装保護シートあるいは表面保護シートはもとより、フレキシブル液晶等の曲面部に貼り付けて画面を保護するフィルムと言った、曲面を有する被着体を保護するために広く用いることができる。
【実施例
【0094】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記実施例に限定されない。
【0095】
検証1.熱可塑性ポリウレタン層の物性について
まず、本発明者は、使用したポリイソシアネート成分により、得られる熱可塑性ポリウレタンフィルムについて、どのように物性が変化するかを、下記のように検証した。
【0096】
[熱可塑性ポリウレタンフィルムの調製]
(実施例1)
ポリイソシアネート成分のH12MDIとしてのジシクロヘキシルメタンジイソシアネートと、ポリオール成分としてのポリ-ε-カプロラクトンジオールとの共重合により反応生成した熱可塑性ポリウレタンを押出機に供給し、溶融および混練後、押出機の先端に取り付けたTダイから押し出した。その両面をセパレーターとしてのPETフィルムで挟んだ状態でニップし、厚さ150μmの層状の実施例1の熱可塑性ポリウレタンフィルム(熱可塑性ポリウレタン層)を作製した。
【0097】
(実施例2)
ポリオール成分をポリヘキサメチレンカーボネートジオール(PHC)とした以外は実施例1と同様にして、実施例2の熱可塑性ポリウレタンフィルム(熱可塑性ポリウレタン層)を作製した。
【0098】
(実施例3)
ポリオール成分をポリエチレングリコールとした以外は実施例1と同様にして、実施例3の熱可塑性ポリウレタンフィルム(熱可塑性ポリウレタン層)を作製した。
【0099】
(実施例4)
ポリオール成分をポリ(エチレンアジペート)ジオールとした以外は実施例1と同様にして、実施例4の熱可塑性ポリウレタンフィルム(熱可塑性ポリウレタン層)を作製した。
【0100】
(比較例1)
ポリイソシアネート成分をヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)とした以外は実施例1と同様にして、比較例1の熱可塑性ポリウレタンフィルム(熱可塑性ポリウレタン層)を作製した。
【0101】
(比較例2)
ポリイソシアネート成分をヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)とした以外は実施例3と同様にして、比較例2の熱可塑性ポリウレタンフィルム(熱可塑性ポリウレタン層)を作製した。
【0102】
(比較例3)
ポリイソシアネート成分をヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)とした以外は実施例2と同様にして、比較例3の熱可塑性ポリウレタンフィルム(熱可塑性ポリウレタン層)を作製した。
【0103】
(比較例4)
ポリイソシアネート成分を1,4-水素添加キシリレンジイソシアネート(1,4HXDI)とした以外は実施例1と同様にして、比較例4の熱可塑性ポリウレタンフィルム(熱可塑性ポリウレタン層)を作製した。
【0104】
(比較例5)
ポリイソシアネート成分を1,4-水素添加キシレンジイソシアネート(1,4HXDI)とした以外は実施例3と同様にして、比較例5の熱可塑性ポリウレタンフィルム(熱可塑性ポリウレタン層)を作製した。
【0105】
(比較例6)
ポリイソシアネート成分を1,4-水素添加キシレンジイソシアネート(1,4HXDI)とした以外は実施例2と同様にして、比較例6の熱可塑性ポリウレタンフィルム(熱可塑性ポリウレタン層)を作製した。
【0106】
[各物性の測定]
作製した熱可塑性ポリウレタンフィルムの各サンプルについて、下記の各物性を測定した。なお、硬度は、既に述べたように、デュロメータ(スプリング式ゴム硬度計)を用い、JIS K7311にしたがって測定した。結果を表1および表2に示す。また、損失正接の温度による変化は、図4図6のグラフに示す。さらに、応力-ひずみ曲線は、図7図9のグラフに示す。
【0107】
<損失正接>
測定用サンプルを長さ3cmおよび幅5mmに切りとり、-60℃から温度を上げて最高で60℃までの範囲の損失正接tanδを、動的粘弾性測定装置(DMAQ850:ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製)を用いて測定した。詳しくは、JIS K7244-4にしたがって、昇温速度3℃/min、周波数3Hz、引張りモードで貯蔵弾性率(E’)と損失弾性率(E”)を測定し、損失正接tanδ=(E”)/(E’)で表される式に基づいて算出した。また、その際の最大値および最小値と、それを示した際の温度(ピーク温度)を記録した。さらに、実施例1~4と比較例6については、最大値を最小値で除した数値、および最大値を示した温度と最小値を示した温度との温度差を記録した。
【0108】
<応力緩和性>
測定用サンプルを幅25mm、長さ150mmに切り出し、チャック間の距離が100mmになるように、引張り試験機(オートグラフAG-X:(株)島津製作所製)に固定した。つづいて、23℃±2℃の温度条件下で、速度200mm/分で引っ張り、チャック間距離が140mmとなって40%伸ばした状態(最初の長さの1.4倍の伸張状態)としてから停止し、その停止から30秒経過後の負荷(残留応力)をN単位で測定した。
また、停止から3分経過後の負荷も同様に測定し、停止直後の負荷に対する百分率を算出した。
【0109】
<引張特性>
測定用サンプルを幅25mm、長さ100mmに切り出し、チャック間の距離が50mmになるように、引張り試験機(オートグラフAG-X:(株)島津製作所製)に固定した。つづいて、23℃±2℃の温度条件下で、速度300mm/分で引っ張り、10%伸ばした状態の応力をN単位で測定した。
また、チャック間距離の変位(ひずみ)(%)が0%から200%までの範囲の応力-ひずみ(S-S)曲線を作成した。
【0110】
<光学特性>
ヘイズメーター(NDH7000:日本電色工業(株)製)を用いて、JIS K7361-1:1997に準じて全光線透過率(%)を測定するとともに、JIS K7136:2000に準じてヘイズ値(%)を測定した。
【0111】
【表1】
【0112】
【表2】
【0113】
表1および表2に示すように、本発明である実施例1~4の熱可塑性ポリウレタン層では、停止直後の負荷に対する3分経過後の負荷との百分率(%)が39%以上あり、比較例の熱可塑性ポリウレタン層の数値に対して1.2~3倍程の高い値となった。そのため、ポリイソシアネート成分としてH12MDIを用いると、どのようなポリオール成分を組み合わせても、その反応生成物であるポリウレタンは、応力緩和性に優れることがわかった。
【0114】
また、応力緩和性における残留応力の値と、引張特性における応力値とが、いずれも、本発明が15N/25mm以下であるのに対し、比較例では20N/25mmを超えるものが多く、本発明は、表面コート層を形成して多層フィルムを作製した場合であっても、貼付け作業性を良好にさせることが推定できる。なお、硬度は、いずれの例も好適な範囲内にあり、光学特性も、全光線透過率90%以上、ヘイズ値2.0以下であり、いずれの例も良好であった。
【0115】
さらに、実施例1~4の熱可塑性ポリウレタン層では、図4に示すように、いずれも損失正接のtanδ値が15~60℃の範囲の常温付近の温度、さらに言えば25~50℃の範囲で最大値を示し、かつ0℃以下で最小値を示し、その波形が、なだらかな右肩上がりとなった。これに対し、図5および図6に示すように、比較例の熱可塑性ポリウレタン層では、0℃未満で最大値を示した例が多く、最大値を示したピーク温度が最も高かった比較例6でも12℃に留まった。
これらのことから、本発明の熱可塑性ポリウレタンフィルムは、損失正接が、15~60℃の範囲の常温付近の温度で最大値を示し、かつ0℃以下で最小値を示し、0~25℃まで温度を上げた際に値が小さくなることなく、一定または大きくなることにより、ポリオール成分の組み合わせに関わらず、優れた応力緩和性を発揮していると考えられる。
【0116】
また、0℃~60℃の範囲で最大値を示し、かつ0℃以下で最小値を示した実施例1~4と比較例6について、最大値を最小値で除した数値、および最大値を示した温度と最小値を示した温度との温度差を比べると、最大値を最小値で除した数値は実施例1~4の方が小さい一方、最大値を示した温度と最小値を示した温度の温度差は実施例1~4の方が大きかった。そのため、tanδの値としては変化が小さい一方、最大値と最小値との間の温度が大きいことで、なだらかにtanδの値が上がる傾向を示し、結果として、応力緩和性を良好にすることに寄与していると考えられる。
【0117】
さらに、図7図9に示すように、本発明の実施例1~4の熱可塑性ポリウレタン層は、S-S曲線が、比較例よりも一次関数的でなだらかな右肩上がりの形状を示した。
ここで、応力緩和性に優れることが知られている軟質ポリ塩化ビニルでは、-60℃~60℃程度の温度環境下で損失正接を測定した場合、0~60℃の範囲の常温付近の温度で最大値を示し、その値が最小値と大きく変わらないことが知られている(「ネットワークポリマー」Vol.32 No.6(2011)p363 Fig.6参照)。また、S-S曲線を作成すると、一次関数的でなだらかな右肩上がりの形状を示すことが知られている(特開2018-188652号公報 図3参照)。
これらのことから、本発明の熱可塑性ポリウレタンフィルムは、人体に与える影響を低減させながら、軟質ポリ塩化ビニルと同程度の優れた応力緩和性を発揮し、これに代わるものとして使用し得ることがわかった。
【0118】
検証2.多層フィルムの物性について
次に、本発明者は、さらに表面コート層を形成して多層フィルム(基材層)とした場合に、使用したポリイソシアネート成分により、どのように物性が変化するかを、下記のように検証した。
【0119】
[多層フィルムの調製]
(実施例5)
表面コート層の塗膜形成用塗布液として、フッ素変性アクリルポリオール(固形分率30%)に、イソシアネート系硬化剤(固形分率60%)と、希釈溶媒としてメチルイソブチルケトン(MIBK)とを添加し、38:23:39の質量分率で配合したフッ素変性アクリルウレタン樹脂Aの塗布液を調製した。
この表面コート層用塗布液を、実施例1で作製した熱可塑性ポリウレタン層の片側のPETフィルムを剥離し、乾燥後の厚みが10μmとなるよう塗布して、実施例5の多層フィルム(基材層)を作製した。
【0120】
(実施例6)
表面コート層の塗膜形成用塗布液として、フッ素変性アクリルポリオール(固形分率30%)に、イソシアネート系硬化剤(固形分率60%)と、希釈溶媒としてメチルイソブチルケトン(MIBK)とを添加し、44:20:36の質量分率で配合したフッ素変性アクリルウレタン樹脂Bの塗布液を調製した。
この表面コート層用塗布液を、実施例1で作製した熱可塑性ポリウレタン層の片側のPETフィルムを剥離し、乾燥後の厚みが10μmとなるよう塗布して、実施例5の多層フィルム(基材層)を作製した。
【0121】
(実施例7)
表面コート層の塗膜形成用塗布液として、変性アクリルポリオール(固形分率50%)に、イソシアネート系硬化剤(固形分率45%)と、希釈溶媒として酢酸エチルとを添加し、32:20:48の質量分率で配合した変性アクリルウレタン樹脂の塗布液を調製した。
この表面コート層用塗布液を、実施例1で作製した熱可塑性ポリウレタン層の片側のPETフィルムを剥離し、乾燥後の厚みが10μmとなるよう塗布して、実施例7の多層フィルム(基材層)を作製した。
【0122】
(実施例8)
表面コート層の塗膜形成用塗布液として、シリコン変性アクリルポリオール(固形分率33%)に、イソシアネート系硬化剤(固形分率75%)と、希釈溶媒としてメチルエチルケトン(MEK)とを添加し、55:9:36の質量分率で配合したシリコン変性アクリルウレタン樹脂の塗布液を調製した。
この表面コート層用塗布液を、実施例1で作製した熱可塑性ポリウレタン層の片側のPETフィルムを剥離し、乾燥後の厚みが10μmとなるよう塗布して、実施例8の多層フィルム(基材層)を作製した。
【0123】
(実施例9)
表面コート層の塗膜形成用塗布液として、官能基を有するシリコン・フッ素共重合樹脂(固形分率10%)にイソシアネート系硬化剤(固形分率75%)を添加し、93:7の質量分率で配合したシリコン・フッ素共重合樹脂の塗布液を調製した。
この表面コート層用塗布液を、実施例1で作製した熱可塑性ポリウレタン層の片側のPETフィルムを剥離し、乾燥後の厚みが10μmとなるよう塗布して、実施例9の多層フィルム(基材層)を作製した。
【0124】
(実施例10)
実施例5において、表面コート層用塗布液を、実施例3で作製した熱可塑性ポリウレタン層上に塗布した以外は、実施例5と同様にして、実施例10の多層フィルム(基材層)を作製した。
【0125】
(実施例11)
実施例5において、表面コート層用塗布液を、実施例4で作製した熱可塑性ポリウレタン層上に塗布した以外は、実施例5と同様にして、実施例11の多層フィルム(基材層)を作製した。
【0126】
(比較例7)
実施例5において、表面コート層用塗布液を、比較例4で作製した熱可塑性ポリウレタン層上に塗布した以外は、実施例5と同様にして、比較例7の多層フィルム(基材層)を作製した。
【0127】
(比較例8)
実施例5において、表面コート層用塗布液を、比較例6で作製した熱可塑性ポリウレタン層上に塗布した以外は、実施例5と同様にして、比較例8の多層フィルム(基材層)を作製した。
【0128】
(比較例9)
実施例5において、表面コート層用塗布液を、比較例1で作製した熱可塑性ポリウレタン層上に塗布した以外は、実施例5と同様にして、比較例9の多層フィルム(基材層)を作製した。
【0129】
(比較例10)
実施例5において、表面コート層用塗布液を、比較例2で作製した熱可塑性ポリウレタン層上に塗布した以外は、実施例5と同様にして、比較例10の多層フィルム(基材層)を作製した。
【0130】
[各物性の測定および評価]
作製した多層フィルムの各基材層サンプルについて、上述した熱可塑性ポリウレタンフィルムと同様にして、応力緩和性、引張特性および光学特性を測定するとともに、引張特性については耐クラック性の指標となる表面コート層の割れ伸度を測定した。また、下記のようにして多層フィルムの保護対象物への貼付け作業性を評価した。結果を表3および表4に示す。なお、表中の硬度は、熱可塑性ポリウレタン層の調製時に判明していた値を記載している。
【0131】
<表面コート層割れ伸度>
測定用サンプルを幅25mm、長さ100mmに切り出し、チャック間の距離が50mmになるように、引張り試験機(オートグラフAG-X:(株)島津製作所製)に固定した。つづいて、23℃±2℃の温度条件下で、速度300mm/分で引っ張り、表面コート層にクラックが入り始める伸び率(表面コート層割れ伸度)を測定した。
【0132】
<貼付け作業性>
作製した各多層フィルムのサンプルを幅30mm、長さ100mmに10個ずつ切り出し、熱可塑性ポリウレタン層側のPETを剥がしてアクリル粘着剤を施した後、3人に保護対象物としての自動車のドアミラーの曲面に貼り付けてもらった。3人全員シワが発生することなくスムーズに貼り付けられた場合には〇、1人でもシワが発生してスムーズに貼り付けられなかった場合は×として、評価した。
なお、例として、貼付け作業性が〇と評価された実施例5の貼付け後の写真を図10に、同作業性が×と評価された比較例7の貼付け後の写真を図11に、それぞれ示す。
【0133】
【表3】
【0134】
【表4】
【0135】
表3および表4に示すように、本発明である実施例5~11の多層フィルムの基材層では、停止直後の負荷対する3分後の百分率(%)が34%以上あり、比較例の熱可塑性ポリウレタンフィルムの数値に対して1.13~1.69倍程の高い値となった。そのため、ポリイソシアネート成分としてH12MDIの反応生成物であるポリウレタンからなる熱可塑性ポリウレタン層を有する多層フィルムでは、熱可塑性ポリウレタン層の優れた応力緩和性により、基材層としても応力緩和性に優れることがわかった。
【0136】
また、実施例5~11の基材層は、3人全員がスムーズに保護対象物に貼り付けられた一方で、比較例ではスムーズに貼り付けられなかった。図10および図11の写真を観ても、図10の実施例5では、シワが発生することなく、スムーズにドアミラーに貼り付けられているのに対し、図11の比較例7では、大きなシワが発生していることが判る。
【0137】
ここで、実施例5~11の基材層では、応力緩和性における残留応力の値と、引張特性における応力値とが、いずれも、20N/25mm以下であるのに対し、比較例8~10の基材層は20N/25mmよりも大きくなっている。そのため、実施例5~11では、表面コート層を形成した場合でも、その貼付け作業性が良好であったと考えられる。また、表面コート層はいずれもウレタン結合を有するため、コート層の割れは見られず、熱可塑性ポリウレタンフィルムに追従した。なお、光学特性は、全光線透過率90%以上、ヘイズ値3.0以下であり、いずれの例も良好であった。
【0138】
以上、本発明の実施の形態および実施例を詳細に説明したが、本発明の熱可塑性ポリウレタンフィルムおよび多層フィルムは、上記実施の形態に限定されず、その範囲内で想定されるあらゆる技術的思想を含んでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明は、自動車等の乗り物外装部の擦り傷、飛び石による傷防止や、天候による劣化防止のための塗装保護シートあるいは表面保護シート、フレキシブル液晶等の曲面部に貼り付けて画面を保護するフィルムなど、曲面を有する被着体を保護するために用いることができる。また、軟質ポリ塩化ビニルに代わる代替フィルムとして用いることができる。
【符号の説明】
【0140】
10 多層フィルム
11 熱可塑性ポリウレタン層(熱可塑性ポリウレタンフィルム)
12 表面コート層
13 粘着層
a 被着体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11