(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】電動機及びこの電動機を備えた密閉型電動圧縮機
(51)【国際特許分類】
H02K 3/38 20060101AFI20240215BHJP
H02K 7/14 20060101ALI20240215BHJP
H02K 3/34 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
H02K3/38 Z
H02K7/14 B
H02K3/34 Z
(21)【出願番号】P 2021152083
(22)【出願日】2021-09-17
【審査請求日】2023-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】平山 宏
【審査官】三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0279178(US,A1)
【文献】特開2017-195647(JP,A)
【文献】特開2020-080580(JP,A)
【文献】特表2017-538389(JP,A)
【文献】国際公開第2019/004116(WO,A1)
【文献】特開2011-200050(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105703511(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111614186(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/38
H02K 7/14
H02K 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータと、前記ステータの内部で回転するロータとを備え、
前記ステータは、ステータコアと、前記ステータコアを覆うインシュレータとを備え、
前記ステータコアに形成された複数のティース部には、前記インシュレータを介してコイルが巻装された電動機であって、
前記インシュレータ
の外周壁部には、
前記コイルの中性線を接続する中性点端子台と、回転軸方向に開口を有し前記コイルの
電源線が挿入される溝部と、前記溝部に挿入された前記
電源線の抜け出しを抑制する一対の係止突起
と、前記インシュレータの外周壁部から回転軸方向に突出した突起部と、前記インシュレータの外周壁部の外周面から径方向外側に向かって突出すると共に周方向の位置において前記中性点端子台と前記突起部との間に形成されたガイド突起部と、を備え、
前記一対の係止突起と前記溝部は、回転軸方向から見て、径方向にずらした位置に配置し
、
前記中性線は、前記インシュレータの外周壁部に導かれ、前記ガイド突起部の外周面に掛けられた後、前記中性点端子台に接続され、
前記電源線は、前記突起部に巻き付けた後、前記溝部に導くようにしたことを特徴とする電動機。
【請求項2】
請求項1において、
前記一対の係止突起は、前記インシュレータの外周壁部の外周面から径方向外側に向かって突出、若しくは前記インシュレータの外周壁部の内周面から径方向内側に向かって突出するように形成したことを特徴とする電動機。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記一対の係止突起には、前記溝部の開口から底部に向かうに従い距離が近づくように形成された傾斜面を備えたことを特徴とする電動機。
【請求項4】
請求項3において、
前記傾斜面の先端部同士の距離は、前記溝部の開口幅よりも狭くなるように配置したことを特徴とする電動機。
【請求項5】
ステータと、前記ステータの内部で回転するロータとを備え、
前記ステータは、ステータコアと、前記ステータコアを覆うインシュレータとを備え、
前記ステータコアに形成された複数のティース部には、前記インシュレータを介してコイルが巻装された電動機であって、
前記インシュレータ
の外周壁部には、
前記コイルの中性線を接続する中性点端子台と、回転軸方向に開口を有し前記コイルの
電源線が挿入される溝部と、前記溝部に挿入された前記
電源線の抜け出しを抑制する一対の係止突起
と、前記インシュレータの外周壁部から回転軸方向に突出した突起部と、前記インシュレータの外周壁部の外周面から径方向外側に向かって突出すると共に周方向の位置において前記中性点端子台と前記突起部との間に形成されたガイド突起部と、を備え、
前記一対の係止突起は、前記溝部を挟むように、前記インシュレータの回転軸方向から突出して形成され、
前記一対の係止突起には、前記溝部の開口から底部に向うに従い互いの距離が近づくように形成された傾斜面を備え、
前記傾斜面と前記溝部は、回転軸方向から見て、径方向にずらした位置に配置し
、
前記中性線は、前記インシュレータの外周壁部に導かれ、前記ガイド突起部の外周面に掛けられた後、前記中性点端子台に接続され、
前記電源線は、前記突起部に巻き付けた後、前記溝部に導くようにしたことを特徴とする電動機。
【請求項6】
作動流体を圧縮する圧縮機構部と、前記圧縮機構部を駆動する電動機と、前記圧縮機構部及び前記電動機を内包するケーシングを備えた密閉型電動圧縮機であって、
前記電動機は、請求項1乃至
5の何れか1項に記載の電動機であることを特徴とする密閉型電動圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機及びこの電動機を備えた密閉型電動圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電動機として、例えば特許文献1に記載の技術が提案されている。特許文献1では、ステータコアを分割して構成し、分割された分割コアに絶縁用のインシュレータを装着している。インシュレータは、ステータコアのティース部を覆い、コイルが巻装されるティース被覆部と、コイルの外周側と分割ヨークとの間を絶縁する外鍔と、コイルの内周側とティース部の内側先端から張り出したシュー部とを絶縁する内鍔とから構成されている。
【0003】
外鍔の上部には、コイルの端末線を挿入するための、径方向に延び、上方が開口した溝が形成されている。溝には、溝の両側壁部から、互いに周方向に対向して突出する一対の係止突起が備えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インシュレータは、絶縁性を有する樹脂材で構成されている。インシュレータを樹脂材で成形する場合、金型が必要となる。ティース被覆部、外鍔、内鍔を成形するにあたっては、金型に樹脂を充填後、金型を回転軸方向に移動させて成形品を離型することにより、ティース被覆部、外鍔、内鍔を成形することができる。
【0006】
溝をティース被覆部、外鍔、内鍔と共に成型しようとする場合、係止突起がアンダーカットとなり、金型を回転軸方向に移動させて成形品を離型することができない。このため、係止突起を成形するにあたっては、回転軸方向と交差する方向に移動させるスライドコアが必要となる。
【0007】
特許文献1に記載の技術においては、係止突起を成形するためのスライドコアを用いる必要があるため、金型の構造が複雑となり、作業工程が増加するといった課題があった。
【0008】
本発明の目的は、上記課題を解決し、金型の構造を簡素化し、作業工程の増加を抑制した電動機及びこの電動機を備えた密閉型圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明は、ステータと、前記ステータの内部で回転するロータとを備え、前記ステータは、ステータコアと、前記ステータコアを覆うインシュレータとを備え、前記ステータコアに形成された複数のティース部には、前記インシュレータを介してコイルが巻装された電動機であって、前記インシュレータの外周壁部には、前記コイルの中性線を接続する中性点端子台と、回転軸方向に開口を有し前記コイルの電源線が挿入される溝部と、前記溝部に挿入された前記電源線の抜け出しを抑制する一対の係止突起と、前記インシュレータの外周壁部から回転軸方向に突出した突起部と、前記インシュレータの外周壁部の外周面から径方向外側に向かって突出すると共に周方向の位置において前記中性点端子台と前記突起部との間に形成されたガイド突起部と、を備え、前記一対の係止突起と前記溝部は、回転軸方向から見て、径方向にずらした位置に配置し、前記中性線は、前記インシュレータの外周壁部に導かれ、前記ガイド突起部の外周面に掛けられた後、前記中性点端子台に接続され、前記電源線は、前記突起部に巻き付けた後、前記溝部に導くようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、金型の構造を簡素化し、作業工程の増加を抑制した電動機及びこの電動機を備えた密閉型圧縮機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施例1に係るスクロール圧縮機の縦断面図である。
【
図2】本発明の実施例1に係る電動機の一部を構成するステータの分解斜視図である。
【
図3】本発明の実施例1に係るステータコアの斜視図である。
【
図4A】本発明の実施例1に係る上インシュレータを上方斜めから見た上方斜視図である。
【
図4B】本発明の実施例1に係る上インシュレータを下方斜めから見た下方斜視図である。
【
図5A】本発明の実施例1に係る下インシュレータを上方斜めから見た上方斜視図である。
【
図5B】本発明の実施例1に係る下インシュレータを下方斜めから見た下方斜視図である。
【
図6】本発明の実施例1に係るステータを上方斜めから見た斜視図である。
【
図9】本発明の実施例1に係る係止突起を上方から見た上面図である。
【
図10A】本発明の実施例1に係る係止突起及び溝部を外周側(径方向外側)から見た図である。
【
図10B】本発明の実施例1に係る溝部を内周側(径方向内側)から見た状態におけるインシュレータの成形金型の配置図である。
【
図10C】本発明の実施例1に係る溝部を外周側(径方向外側)から見た状態におけるインシュレータの成形金型の配置図である。
【
図11】本発明の実施例2に係る上インシュレータを径方向外側から見た係止突起の拡大斜視図である。
【
図12】本発明の実施例2に係る上インシュレータを径方向内側から見た係止突起の拡大斜視図である。
【
図13】本発明の実施例2に係る上インシュレータを上方から見た係止突起の拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施例について添付の図面を参照しつつ説明する。同様の構成要素には同様の符号を付し、同様の説明は繰り返さない。
【0013】
本発明の各種の構成要素は必ずしも個々に独立した存在である必要はなく、一の構成要素が複数の部材から成ること、複数の構成要素が一の部材から成ること、或る構成要素が別の構成要素の一部であること、或る構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複すること、などを許容する。
【実施例1】
【0014】
<スクロール圧縮機の概要>
図1は、本発明の実施例1に係るスクロール圧縮機の縦断面図である。本発明のスクロール圧縮機は、例えば給湯機の冷凍サイクル機器に用いられる。
【0015】
スクロール圧縮機1は、作動流体を圧縮する固定スクロール2と、旋回スクロール3と、旋回スクロール3を回転させるクランク軸6、クランク軸6の主軸受7を有するフレーム4と、クランク軸6に回転力を付与する電動機10と、これらを内包するケーシング8とを備えている。固定スクロール2と、旋回スクロール3は圧縮機構部を構成している。
【0016】
スクロール圧縮機1は、一端がスクロール圧縮機の外部に、他端が吸込口2sに繋がる吸込パイプ9を有する。吸込パイプ9の一端から作動流体がスクロール圧縮機1内部に取り込まれると、他端の吸込口2sから、固定スクロール2と旋回スクロール3とによって形成される吸込室(不図示)に作動流体が導入される。吸込室に導入された作動流体は、スクロールにより圧縮されて、固定スクロール2の上部に位置する固定背面室11に吐出される。吐出された圧縮流体はケーシング8下方に流れて、ケーシング8下方に貯留された貯油部12の油を昇圧する。
【0017】
クランク軸6には、貯油部12に浸された給油パイプ6xの下端が配されており、旋回スクロール3とフレーム4との間に形成された背圧室13にまで貯油部12の油を汲み上げることで、背圧室13は油溜部として機能できる。背圧室13へ流入する油の圧力は、上述の経緯により吐出圧Pdとなるため、その油の流入によって背圧室13が昇圧する。背圧室13が昇圧し、これにより旋回スクロール3は固定スクロール2に押し付けられる。また、クランク軸6の上端に位置する偏心部6aは、旋回スクロール3下面の旋回軸受14に挿入される。旋回スクロール3は、クランク軸6の回転に伴い旋回運動して固定スクロール2に対して相対運動する。
【0018】
固定背面室11へ流出した作動流体の圧力を吐出圧Pdとする。固定背面室11へ流出した作動流体は、ケーシング8下方である貯油部12側の空間に流れて貯油部12に吐出圧Pdを加えるとともに吐出パイプ15から外部へ吐出される。貯油部12に加えられた圧力により、油はクランク軸内に設けられた給油穴6bを上昇していく。この油によって昇圧されるため、背圧室13の圧力(背圧という。)は、吸込口2sの圧力である吸込圧Psより高くなる。
【0019】
<ステータの構成>
スクロール圧縮機1に用いる電動機の構成について以下説明する。
図2は、本発明の実施例1に係る電動機の一部を構成するステータの分解斜視図である。
【0020】
電動機10は、ステータ10aと、ステータ10aの内部で回転するロータ10b(
図1参照)とから構成されている。図示はしないが、ロータ10bは永久磁石を6個備えたものを用いる。ステータ10aは、複数枚の電磁鋼板を積層されて構成されたステータコア110と、ステータコア110を覆うインシュレータ120と、ステータコア110に形成された複数のスロット114に挿入されるスロット絶縁紙130を備えている。インシュレータ120は、ステータコア110の上方を覆う上インシュレータ120aと、ステータコア110の下方を覆う下インシュレータ120bとから構成されている。
【0021】
<ステータコアの構成>
図3は、本発明の実施例1に係るステータコアの斜視図である。ステータコア110は、複数枚の電磁鋼板を積層されて構成され、外周部を構成するヨーク部111と、ヨーク部111から内周側に突出した複数(9本)のティース部112と、ロータ10bの外周面と対向するティース先端部113と、複数のティース部112の間に形成されたスロット114とを備えている。
【0022】
ヨーク部111は、円筒状に形成されている。複数のティース部112は、柱状に形成されている。
【0023】
ティース部112は、ヨーク部111の内周面に連続して形成され、内周面からロータ10b側(内周側)に向かって突出するように形成されている。複数のティース部112には、インシュレータ120を介してコイル140(
図6)が巻装される。
【0024】
ティース先端部113は、ティース部112のロータ10b側(内周側)に形成されている。ティース先端部113の周方向の幅は、ティース部112の周方向に幅よりも広くなるように形成されている。ティース先端部113は、ロータ10bの外周面と対向する。
【0025】
複数のティース部112の間に形成されたスロット114には、ティース部112に巻装されたコイル140が収容される。
【0026】
なお、本実施例では、ステータコア110の軸方向上端部及び下端部のスロットサイズが軸方向中央部よりも拡大した拡大スロット部114a及び拡大スロット部114bを有しており、これによりティース部112の上部側面112a及び下部側面112bを形成している。
【0027】
<インシュレータの構成>
図4Aは、本発明の実施例1に係る上インシュレータを上方斜めから見た上方斜視図である。
図4Bは、本発明の実施例1に係る上インシュレータを下方斜めから見た下方斜視図である。
【0028】
まず、インシュレータ120の材質について説明する。給湯機、冷蔵庫等の冷凍サイクルで使用される冷媒はHFCのR410AやR407C及びCO2等であり、この場合の冷凍機油はHFC系冷媒では相溶性の良いポリオールエステル油であり、CO2冷媒系ではポリオールエステル油、ポリアルキレングリコール油、ポリアルファオレフィン油、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油等がある。冷凍機油としては、40℃の時の粘度が20~180cStのものとする。モータに使用する絶縁体はCO2共存下における超臨界状態で構造的に安定なPPS(ポリフェニレンサルファイド)若しくはLCP(液晶ポリマー)を使用する。これらの絶縁体はオリゴマの抽出量が殆ど見られず、従来モータに使用しているPETフィルムと比較してもオリゴマの抽出量は大幅に低減されている。PPSについてはリニアタイプと架橋タイプが存在するが、架橋タイプではオリゴマの抽出が多いためヒートポンプ絶縁体としてはガラス繊維なしのものが好ましいが、強度保持のためにガラス繊維を10~40%添加した場合でも問題ない。
【0029】
PBT(ポリブチレンテレフタレート)やPET(ポリエチレンテレフタレート)の一般グレードではオリゴマの抽出が高く、摺動部摩耗やキャピラリ閉塞による冷却不良をおこす懸念があるため、末端の活性基(‐OH、-COOH)を封鎖した低オリゴマグレードの仕様は必要である。
【0030】
インシュレータ120は、上インシュレータ120aと、下インシュレータ120bから構成されている。上インシュレータ120aはステータコア110の上部に配置され、下インシュレータ120bはステータコア110の下部に配置され、上インシュレータ120a及び下インシュレータ120bによってステータコア110を挟み込むようにしている。
【0031】
上インシュレータ120aの構成について説明する。上インシュレータ120aは、円環状に形成された外周壁部121aと、外周壁部121aの内周面からロータ10b側(内周側)に向かって突出するように形成され、ティース部112の上部を覆うティース被覆部122aと、ティース被覆部122aの内周側端部から上方に向かって延び、ティース先端部113の上部を覆うティース先端被覆部123aを備えている。また、ティース被覆部122aは、ティース部112の上部側面112aを覆うように、下方に向かって突出するように形成されたティース被覆部側壁122a1を備えている。
【0032】
外周壁部121aの上部には、コイル140の中性線を接続する複数の中性点端子台124と、外周壁部121aの上部から上方に突出(外周壁部121aから回転軸方向に突出)して形成され、コイル140の電源線を巻き付ける複数の突起部125と、外周壁部121aの上部から下方(回転軸方向)に向かって切欠かれ、電源線142を保持する溝部126が形成されている。溝部126は回転軸方向に開口を有し、上インシュレータ120aの径方向に延びるように形成されている。溝部126が位置する外周壁部121aの外周側には、外周壁部121aから径方向外側に向かって突出した一対の係止突起127が備えられている。係止突起127の構成については後述する。
【0033】
さらに、外周壁部121aの外周面には、この外周面から径方向外側に向かって突出したガイド突起部128が形成されている。ガイド突起部128は、中性点端子台124と突起部125との間に位置し、中性点端子台124側に寄せて配置している。
【0034】
次に、下インシュレータ120bの構成について説明する。
図5Aは、本発明の実施例1に係る下インシュレータを上方斜めから見た上方斜視図である。
図5Bは、本発明の実施例1に係る下インシュレータを下方斜めから見た下方斜視図である。
【0035】
下インシュレータ120bは、円環状に形成された外周壁部121bと、外周壁部121bの内周面からロータ10b側(内周側)に向かって突出するように形成され、ティース部112の下部を覆うティース被覆部122bと、ティース被覆部122bの内周側端部から下方に向かって延び、ティース先端部113の下部を覆うティース先端被覆部123bを備えている。また、ティース被覆部122bは、ティース部112の下部側面112bを覆うように、上方に向かって突出するように形成されたティース被覆部側壁122b1を備えている。
【0036】
<組み立てられたステータの構成>
図6は、本発明の実施例1に係るステータを上方斜めから見た斜視図である。
図7は、
図6に示すVII部の要部拡大図である。
図8は、
図6に示すVIII部の矢視図である。
図9は、本発明の実施例1に係る係止突起を上方から見た上面図である。
【0037】
ステータコア110には、インシュレータ120(上インシュレータ120a、下インシュレータ120b)を配置し、さらにスロット114にスロット絶縁紙130を配置する。この状態において、ステータコア110のティース部112にティース被覆部122a,122b及びスロット絶縁紙130を介してコイル140が巻装される。ティース先端被覆部123a,123bは、コイル140をティース部112に巻装した際、コイル140が内周側(ロータ10b側)に移動するのを規制する規制部材として機能する。ティース先端部113の径方向内側は、インシュレータ120で覆われることなく、ロータ10bと対向するように露出している。
【0038】
本実施例の圧縮機には、三相交流電動機が使用される。本実施例のステータコア110には9本のティース部112が備えられており、U相、V相、W相を構成するコイル140が3個ずつ9本のティース部112に巻装される。
【0039】
複数のティース部112にそれぞれコイル140が巻装された後、コイル140の巻き始め部と巻き終わり部の端末線は、中性線141及び電源線142に分けられステータのコイルエンド上及びインシュレータ120を引き回される。
【0040】
中性線141は中性点端子台124の端子に接続される。中性点端子台124の端子に接続される中性線141の一部は、外周壁部121aの外周側に導かれ、ガイド突起部128の外周面に掛けられ、張力を与えながら配線される。このように配線することにより、中性線141の弛みを抑制している。
【0041】
電源線142は、外周壁部121aの上部に備えられた突起部125に張力を与えながら数回巻き付けた後、PET、PENなどの材質の絶縁フィルムを筒状に形成した絶縁チューブ143に挿入され、絶縁チューブ143と共に溝部126に導かれ、挿入される。溝部126が形成される外周壁部121aの外周側には、外周壁部121aから径方向外側に突出した一対の係止突起127a,127bが備えられ、電源線142の抜けを抑止している。電源線142が巻き付けられる突起部125は、外周壁部121aの上部に備えられている。本実施例では、突起部125を外周壁部121aの上部に配置しているので、中性線141との絶縁距離を確保することができる。
【0042】
一対の係止突起127a,127bの対向する面には、それぞれ傾斜面127a1,127b1が形成されている。傾斜面127a1,127b1は、溝部126の開口から底部に向かうに従い互いの距離が近づくように形成されている。傾斜面127a1,127b1(係止突起127)の先端部127a2,127b2同士の距離は、溝部126の開口幅よりも狭くなるように配置している(
図9、
図10A参照)。
【0043】
絶縁チューブ143に挿入された電源線142は、傾斜面127a1,127b1に沿って溝部126に挿入する。そして、傾斜面127a1,127b1の先端部127a2,127b2において、絶縁チューブ143が弾性変形し、電源線142が溝部126の底に収まる。先端部127a2,127b2同士の距離は、溝部126の開口幅よりも狭くなっているので、電源線142が溝部126から抜け出すのを抑制することができる。
【0044】
溝部126に挿入された電源線142は、コイル140の上に配線され、複数の電源線142を束ねて接続端子150に接続される。
【0045】
<インシュレータの成形方法>
前述したように、給湯機、冷蔵庫に用いる圧縮機用電動機のインシュレータ材質には、高耐熱性と低オリゴマー性が要求される。この特性に優れた材質としてLCP、PPS、PBTが使用されている。
【0046】
一方、インシュレータの成形性を考慮した場合、LCP材が最も流動性が高く、他の材料に比べ、低い成形圧力で射出成形ができるが、コストが高いという課題がある。比較的安価なPPS材やPBT材を使用する場合は、流動性が悪いため、薄板部の末端まで樹脂を行き渡らせるためには、成形圧力を高くする必要があるため、成形品の金型パーティングライン部にバリが発生しやすくなる。
【0047】
圧縮機用電動機の場合、インシュレータに発生したバリは通常バリ取り作業により除去されるが、この工程で除去されずにバリが残った場合、バリ発生箇所に電動機の口出し線が引き回されることでエナメル線の被覆が傷付いたり、圧縮機容器内の冷凍機油内にバリが脱落し給油経路に沿ってバリが摺動部に噛みこむことで圧縮機に信頼性を著しく低下させる恐れがある。
【0048】
金型の離型方向に溝部と係止突起を重なるように構成した場合、溝に対して係止突起がアンダーカットとなり、金型を回転軸方向に移動させて成形品を離型することができない。このため、係止突起を成形するにあたっては、回転軸方向と交差する方向に移動させるスライドコアが必要となる。スライドコアを用いると、コストが増加すると共に、金型パーティングライン部が増え、バリの発生箇所が増加するという課題がある。
【0049】
この課題を解決するための手段について
図8乃至
図10Cを用いて説明する。
図10Aは、本発明の実施例1に係る係止突起及び溝部を外周側(径方向外側)から見た図である。
図10Bは、本発明の実施例1に係る溝部を内周側(径方向内側)から見た状態におけるインシュレータの成形金型の配置図である。
図10Cは、本発明の実施例1に係る溝部を外周側(径方向外側)から見た状態におけるインシュレータの成形金型の配置図である。
【0050】
図10Aに示すように、係止突起及び溝部を外周側(径方向外側)から見て、傾斜面127a1,127b1(係止突起127)の先端部127a2,127b2同士の距離は、溝部126の開口幅よりも狭くなるような位置関係にある。インシュレータ120を金型で成型する場合、係止突起127の先端部127a2,127b2同士の距離が溝部126の開口幅よりも狭いので、先端部127a2,127b2が引っ掛かり、金型からインシュレータ120を離型できない。
【0051】
そこで、本実施例では
図8及び
図9に示すように、係止突起127は外周壁部121aの外周面から、外周側(径方向外側)に向かって突出するように備えられている。換言すると、溝部126と係止突起127は、
図9に示すように、上方(回転軸方向)から見て重ならない位置、すなわち径方向にずらした位置に配置している。
【0052】
インシュレータ120は円環状に形成されている。インシュレータ120を成形するにあたっては、回転軸方向に対向する2つの金型を用意する。金型に樹脂を充填し成形後、金型を回転軸方向に移動し、インシュレータ120を離型する。この際、溝部126は金型の上型で成形し、係止突起127は金型の上型及び下型で成形する。
【0053】
溝部126を成形する上型は、溝部126の形状に沿うよう形状を分割面として形成する。
【0054】
一方、係止突起127を成形する上型及び下型は、傾斜面127a1,127b1の先端部127a2,127b2の位置を互いの分割面として形成する。係止突起127を成形する上型及び下型には、アンダーカットとなる部分が存在しないので、上型及び下型からインシュレータ120を離型することができる。
【0055】
実施例1によれば、溝部126と係止突起127は、上方(回転軸方向)から見て径方向にずらした位置に配置しているので、径方向と直交する回転軸方向に移動する金型を用いて溝部126と係止突起127を成形する場合であってもアンダーカットとなる部分を回避できる。
【0056】
実施例1によれば、回転軸方向と交差する方向に移動させるスライドコアが不要となり、金型の構造を簡素化し、作業工程の増加を抑制した電動機及びこの電動機を備えた密閉型圧縮機を提供することができる。また、実施例1によれば、スライドコアが不要となるので、金型パーティングライン部の増加が抑制され、バリの発生箇所を抑止することができる。
【0057】
実施例1では、係止突起127を、外周壁部121aの外周面から外周側(径方向外側)に向かって突出するように設けたが、外周壁部121aの内周面から内周側(径方向内側)に向かって突出するように設けるようにしても良い。
【実施例2】
【0058】
本発明の実施例2について
図11乃至
図13を用いて説明する。
図11は、本発明の実施例2に係る上インシュレータを径方向外側から見た係止突起の拡大斜視図である。
図12は、本発明の実施例2に係る上インシュレータを径方向内側から見た係止突起の拡大斜視図である。
図13は、本発明の実施例2に係る上インシュレータを上方から見た係止突起の拡大斜視図である。実施例1と同一の構成については同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0059】
実施例1では、係止突起127を上インシュレータ120aの外周壁部121aから径方向外側に向かって突出するように形成したが、実施例2では、係止突起127を上インシュレータ120aの外周壁部121aの上部から上方(回転軸方向)に向かって突出するように形成した。
【0060】
溝部126が形成された上インシュレータ120aの外周壁部121aの上部(回転軸方向)には、溝部126を挟むように一対の係止突起127c,127dが形成されている。係止突起127c,127dは上インシュレータ120aの外周壁部121aの上部から上方に向かって突出している。
【0061】
一対の係止突起127c,127dの対向する面には、それぞれ傾斜面127c1,127d1が形成されている。傾斜面127c1,127d1は、溝部126の開口から底部に向うに従い互いの距離が近づくように形成されている。傾斜面127c1,127d1(係止突起127)の先端部127c2,127d2同士の距離は、溝部126の開口幅よりも狭くなるように位置している(
図12、
図13参照)。
【0062】
絶縁チューブ143に挿入された電源線142は、傾斜面127c1,127d1に沿って溝部126に挿入する。そして、電源線142の挿入に伴い、係止突起127c,127dは、互いが離れるように弾性変形すると共に、傾斜面127c1,127d1の先端部127c2,127d2において、絶縁チューブ143が弾性変形し、電源線142が溝部126の底に収まる。先端部127c2,127d2同士の距離は、溝部126の開口幅よりも狭くなっているので、電源線142が溝部126から抜け出すのを抑制することができる。
【0063】
また、係止突起127dには、外周壁部121aの外周面から径方向外側に突出した電源線支持部127d3が形成されている。電源線支持部127d3は傾斜面127d1よりも径方向外側に突出している。そして、電源線支持部127d3の上部には、絶縁チューブ143に挿入された電源線142を載置し、溝部126に導くようにしている。また、電源線支持部127d3の下部には、ガイド突起部128の外周面に掛けられた中性線141を導き、張力を与えながら配線する。
【0064】
上インシュレータ120aを上方(回転軸方向)から見て、係止突起127c,127dの傾斜面127c1,127d1は、は外周壁部121aの外周面から径方向外側に突出するように配置している。換言すると、溝部126と傾斜面127c1,127d1は、
図13に示すように上方(回転軸方向)から見て重ならないように径方向にずらした位置に配置している。
【0065】
インシュレータ120を成形するにあたっては、回転軸方向に対向する2つの金型を用意する。金型に樹脂を充填し成形後、金型を回転軸方向に移動し、インシュレータ120を離型する。この際、溝部126及び傾斜面127c1,127d1を除く係止突起127は金型の上型で成形し、傾斜面127c1,127d1は金型の上型及び下型で成形する。
【0066】
溝部126を成形する上型は、溝部126及び傾斜面127c1,127d1を除く係止突起127の形状に沿うよう形状を分割面として形成する。
【0067】
一方、傾斜面127c1,127d1を成形する上型及び下型は、傾斜面127c1,127d1の先端部127c2,127d2の位置を互いの分割面として形成する。傾斜面127c1,127d1を成形する上型及び下型には、アンダーカットとなる部分が存在しないので、上型及び下型からインシュレータ120を離型することができる。
【0068】
実施例2によれば、実施例1の効果に加え、上インシュレータ120aの外周壁部121aの上部に一対の係止突起127c,127dが形成し、電源線142の挿入に伴い、係止突起127c,127dは、互いが離れるように弾性変形するようにしているので、傾斜面127c1,127d1の先端部127c2,127d2による電源線142の傷付きを抑制することができる。
【0069】
また、実施例2によれば、溝部126と傾斜面127c1,127d1を上方から見て径方向にずらした位置に配置しているので、径方向と直交する回転軸方向に移動する金型を用いて溝部126と係止突起127を成形する場合であってもアンダーカットとなる部分を回避できる。
【0070】
さらに実施例2によれば、回転軸方向と交差する方向に移動させるスライドコアが不要となり、金型の構造を簡素化し、作業工程の増加を抑制した電動機及びこの電動機を備えた密閉型圧縮機を提供することができる。また、実施例2によれば、スライドコアが不要となるので、金型パーティングライン部の増加が抑制され、バリの発生箇所を抑止することができる。
【0071】
なお、本発明は、上述した実施例に限定するものではなく、様々な変形例が含まれる。上述した実施例は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定するものではない。例えば、6極9スロットの電動機の例で説明したが、極数とスロット数はこれに限定されるものではない。また、圧縮機の種類はスクロール圧縮機に限定されるものではなく、ロータリ圧縮機、レシプロ圧縮機等の密閉型電動圧縮機にも適用可能である。上述した実施例では、本発明の特徴を備えた上インシュレータと、本発明の特徴を備えない下インシュレータとで別形状としたが、金型の共用化の為、下インシュレータを上インシュレータと同じものを用いてもよい。
【符号の説明】
【0072】
1…スクロール圧縮機、2…固定スクロール、2s…吸込口、3…旋回スクロール、4…フレーム、6…クランク軸、6a…偏心部、6b…給油穴、6x…給油パイプ、7…主軸受、8…ケーシング、9…吸込パイプ、10…電動機、10a…ステータ、10b…ロータ、11…固定背面室、12…貯油部、13…背圧室、14…旋回軸受、15…吐出パイプ、110…ステータコア、111…ヨーク部、112…ティース部、112a…上部側面、112b…下部側面、113…ティース先端部、114…スロット、114a,114b…拡大スロット部、120…インシュレータ、120a…上インシュレータ、120b…下インシュレータ、121a,121b…外周壁部、122a,122b…ティース被覆部、122a1,122b1…ティース被覆部側壁、123a,123b…ティース先端被覆部、124…中性点端子台、125…突起部、126…溝部、127,127a,127b,127c,127d…係止突起、127a1,127b1,127c1,127d1…傾斜面、127a2,127b2,127c2,127d2…先端部、127d3…電源線支持部、128…ガイド突起部、130…スロット絶縁紙、140…コイル、141…中性線、142…電源線、143…絶縁チューブ、150…接続端子