(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】マーカー分子に基づいて、アミロイド陽性認知症を罹患していると、または発症するリスクがあると個体を同定する方法、および関連する使用
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20240215BHJP
【FI】
G01N33/53 D
(21)【出願番号】P 2021502867
(86)(22)【出願日】2019-07-17
(86)【国際出願番号】 EP2019069257
(87)【国際公開番号】W WO2020016304
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-07-01
(32)【優先日】2018-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507147345
【氏名又は名称】ジェネンテック,インコーポレーテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(72)【発明者】
【氏名】ビットネル,トビアス
(72)【発明者】
【氏名】カール,ヨハン
(72)【発明者】
【氏名】リフケ,バレリア
(72)【発明者】
【氏名】ステッフェン,ヘレナ
(72)【発明者】
【氏名】ヨシャム,マルティナ
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-532592(JP,A)
【文献】特表2013-527919(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0164217(US,A1)
【文献】TZEN Kai-Yuan et al.,Plasma Aβ but Not Tau is Related to Brain PiB Retention in Early Alzheimer’s Disease,ACS Chemical Neuroscience,2014年08月13日,Vol. 5, No. 9,p.830-836,DOI: 10.1021/cn500101j
【文献】MATTSSON Niklas et al.,Plasma tau in Alzheimer disease,Neurology,2016年09月30日,Vol. 87, No. 17,p.1827-1835,DOI: 10.1212/WNL.0000000000003246
【文献】ZETTERBERG Henrik et al.,Plasma tau levels in Alzheimer's disease,Alzheimer's Research & Therapy,2013年,Vol. 5, No. 2,p.9,DOI: 10.1186/alzrt163
【文献】NAKAMURA Akinori et al.,High performance plasma amyloid-β biomarkers for Alzheimer’s disease,Nature,2018年01月31日,Vol. 554, No. 7691,p.249-254,DOI: 10.1038/nature25456
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/53、33/68,
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミロイド陽性認知症を罹患していると、または発症するリスクがあると個体を同定するための指標を提供する方法であって、
a)個体から得られる試料において、マーカー分子であるアミロイドβ40(Aβ40)、アミロイドβ42(Aβ42)、および総タウ(tTau)の量または濃度を測定するステップ、および
b)ステップ(a)で決定されたマーカーの合算値を対照値と比較することにより、アミロイド陽性認知症を罹患していると、または発症するリスクがあると個体を同定するための指標を提供するステップであって、対照値に対する合算値の増加が、アミロイド陽性認知症を罹患している、または発症するリスクがあるとの指標である、ステップ、
を含み、
試料が、脳試料でも脳脊髄液試料でもなく、
合算値が、試料中のマーカー分子の量または濃度の加重計算によって得られ、
マーカー分子がタンパク質レベルで測定される、
方法。
【請求項2】
合算値vが、以下の式
v=a
*[Aβ40]+b
*[Aβ42]+c
*[tTau]+d
(式中、a、b、およびcは重み係数を表し、dは切片を表す)に従い、
Aβ40のレベル(量または濃度)([Aβ40])、Aβ42のレベル(量または濃度)([Aβ42])およびtTauのレベル(量または濃度)([tTau])に基づく加重計算によって得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
a、b、およびcの重み係数が、1つまたは複数の参照集団を分析することによって得られている、請求項
2に記載の方法。
【請求項4】
対照値が、アミロイド陰性対照集団、またはアミロイド陽性対照集団、またはそれらの組み合わせから得られている、請求項1から
3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
個体が、認知機能的正常(CN)である、主観的認知機能低下(SCD)を罹患している、軽度認知機能障害(MCI)を罹患している、またはアルツハイマー病(AD)を罹患している、請求項1から
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
試料が血液試料である、請求項1から
5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
血液試料が、血清、血漿、および全血からなる群から選択される、請求項
6に記載の方法。
【請求項8】
個体がヒトである、請求項1から
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
アミロイド陽性認知症を罹患している、または発症するリスクがある個体の同定のためのマーカーの組み合わせとしてのAβ40、Aβ42、およびtTauの使用であって、
対照値と比較して、個体から得られる試料におけるマーカーの組み合わせの合算値の増加の検出が、アミロイド陽性認知症を罹患している、または発症するリスクがあることを示し、試料が、脳試料でも脳脊髄液試料でもなく、
合算値が、
個体の試料中のマーカー分子の量または濃度の加重計算によって得られ、
マーカー分子がタンパク質レベルで測定される、
使用。
【請求項10】
合算値vが、以下の式
v=a
*[Aβ40]+b
*[Aβ42]+c
*[tTau]+d
(式中、a、b、およびcは重み係数を表し、dは切片を表す)に従い、
Aβ40のレベル(量または濃度)([Aβ40])、Aβ42のレベル(量または濃度)([Aβ42])およびtTauのレベル(量または濃度)([tTau])に基づく加重計算によって得られる、請求項
9に記載の使用。
【請求項11】
a、b、およびcの重み係数が、1つまたは複数の参照集団を分析することによって得られている、請求項
10に記載の使用。
【請求項12】
対照値が、アミロイド陰性対照集団、またはアミロイド陽性対照集団、またはそれらの組み合わせから得られている、請求項
9から
11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
個体が、認知機能的正常(CN)である、主観的認知機能低下(SCD)を罹患している、軽度認知機能障害(MCI)を罹患している、またはアルツハイマー病(AD)を罹患している、請求項
9から
12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
試料が血液試料である、請求項
9から
13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
血液試料が、血清、血漿、および全血からなる群から選択される、請求項
14に記載の使用。
【請求項16】
個体がヒトである、請求項
9から
15のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の要約:
本発明は、マーカー分子であるアミロイドβ40(Aβ40)、アミロイドβ42(Aβ42)および総タウ(tTau)に基づいて、アミロイド陽性認知症を罹患していると、または発症するリスクがあると個体を同定すること、アミロイド陽性認知症を罹患している、または発症するリスクがある個体の同定のための該マーカー分子の使用、および該マーカー分子の組み合わせの値の増加を有する個体を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景:
アルツハイマー病(AD)は、通常はゆっくりと始まり、経時的に悪化する慢性神経変性疾患である。これは、認知症の症状の60~70%にあたる。最も一般的な初期症状は、最近の出来事を思い出すのが困難であることである(短期記憶喪失)。疾患が進行するにつれて、症状には、言語の問題、見当識障害(迷子になりやすいことを含む)、気分のむら、やる気の喪失、セルフケアの管理の欠如、および行動の問題を含む。その人の状態が悪化するにつれて、家族および社会から引きこもることが多い。徐々に身体機能が失われ、最終的には死に至る。進行の速度は変化し得るが、診断後の一般的な平均余命は3~9年である。
【0003】
アルツハイマー病は通常、その人の病歴、親戚の病歴、および行動観察に基づいて診断される。特徴的な神経学的および神経心理学的な特徴の存在、並びに代替的症状の不在は支持的である。コンピューター断層撮影(CT)または磁気共鳴画像化(MRI)、および単一光子放射コンピューター断層撮影(SPECT)または陽電子放出断層撮影(PET)を用いた高度な医療画像化は、他の脳病理または認知症の亜型を除外するために使用することが可能である。さらに、医療画像化により、前駆期(軽度認知機能障害)からアルツハイマー病への転換を予測し得る。記憶力検査を含む知的機能の評価により、疾患の状態をさらに特徴付けることができる。医療機関は、開業医の診断プロセスを容易にし、かつ標準化するための診断基準を作成してきた。脳物質が利用可能であり、かつ組織学的に検査可能である死後に、この診断は非常に高い精度で確認することができる。
【0004】
アルツハイマー病の最も初期の病理学的痕跡は、脳内のAβ40およびAβ42などのアミロイドβタンパク質の沈着であり、これを同定するための唯一の有効な方法は、アミロイドβの陽電子放出断層撮影(PET)画像化または脳脊髄液中のアミロイドβの測定である。
【0005】
また、アミロイド陽性患者を同定するために、血液検査が当技術分野において提案されている。質量分析と組み合わせた免疫沈降による高性能血漿アミロイドβバイオマーカーの測定が記載されており、ここではアミロイドβ前駆体タンパク質(APP)669-711/Aβ42の比率およびAβ40/Aβ42の比率は、患者の個々の脳アミロイドβ陽性状態またはアミロイドβ陰性状態を予測するために使用された(Nakamuraら、2018、Nature554:249~254)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、現在提案されているインビトロ試験は、本出願人よって設定される基準を満たしていない。特に、目的とする高い感度(そのように正しく同定される実際の陽性の割合)および高い特異度(そのように正しく同定される実際の陰性の割合)には達していない。
【0007】
したがって、アミロイド陽性認知症を罹患していると、または発症するリスクがあると個体を同定する適切な方法が依然として必要とされる。好ましくは、この方法は、安価で、堅牢で、かつ簡単である必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の詳細な説明:
驚くべきことに、本発明者らは、マーカー分子であるアミロイドβ40(Aβ40)、アミロイドβ42(Aβ42)、および総タウ(tTau)の組み合わせの使用が分析の品質を高めることを見出した。これは、個体の試料で決定されるマーカー分子の量または濃度の加重計算が使用される場合に特に当てはまる。回帰モデルの重み係数を決定するために、様々な集団を使用した。上記のマーカーであるAβ40、Aβ42およびtTauの組み合わせの2つのモデル(v=a*[Aβ40]+b*[Aβ42]+c*[tTau]+d(モデル1)、およびv=e*[Aβ42]/[Aβ40]+f*[tTau]+g(モデル2))は、確立された標準([Aβ42]/[Aβ40])よりも優れていたことを示すことができた(要約表5を参照)。
【発明を実施するための形態】
【0009】
したがって、第1の態様において、本発明は、アミロイド陽性認知症を罹患していると、または発症するリスクがあると個体を同定する方法であって、
a)個体から得られる試料において、マーカー分子であるアミロイドβ40(Aβ40)、アミロイドβ42(Aβ42)、および総タウ(tTau)の量または濃度を測定するステップ、および
b)ステップ(a)で決定されたマーカーの合算値を、対照値と比較することにより、アミロイド陽性認知症を罹患していると、または発症するリスクがあると個体を同定するステップであって、対照値に対する合算値の増加が、アミロイド陽性認知症を示している、ステップ、
を含み、
該試料が、脳試料でも脳脊髄液試料でもない、方法に関する。
【0010】
認知症は、日常生活に支障をきたすほど深刻な記憶および他の精神的能力の喪失の総称である。認知症は、脳の物理的変化によって引き起こされる。アルツハイマー病、血管性認知症、レビー小体型認知症、または前頭側頭葉型認知症など、様々な種類の認知症が存在する。認知症は、アミロイド陽性認知症およびアミロイド陰性認知症の2つの群に分けることができる。アミロイド陽性認知症は、脳内のアミロイドプラークを特徴とし、アルツハイマー病が最も顕著な形態である。
【0011】
アルツハイマー病は、脳内の異常に折りたたまれたアミロイドβタンパク質のプラークおよびタウタンパク質のもつれによって引き起こされるタンパク質ミスフォールディング病(プロテオパチー)と同定されている。プラークは、アミロイドβペプチド(Aβ)と呼ばれる、長さが39~43のアミノ酸の小ペプチドで構成される。Aβは、ニューロンの膜を貫通する膜貫通タンパク質である、より大きなアミロイドβ前駆体タンパク質(APP)の断片の群を指す。APPは、ニューロンの成長、生存、および損傷後の修復に不可欠である。アルツハイマー病では、APPがより小さな断片へ分割されることを引き起こすタンパク質分解プロセスにおいて、ガンマセクレターゼおよびベータセクレターゼが一緒に作用する。これらの断片の1つは、アミロイドβの原線維を生じさせ、次いで老人性プラークとして知られるニューロンの外側に高密形成で沈着する塊を形成する。もつれは、通常はリン酸化されると細胞骨格の微小管を安定化させるタウタンパク質の異常な凝集によって引き起こされる。アルツハイマー病では、タウは過剰リン酸化が行われるようになり、そして他の繊維と対になり始め、神経原線維のもつれを形成し、そしてニューロンの輸送システムを崩壊する。
【0012】
アミロイドβペプチドの産生および凝集の障害がどのようにしてアルツハイマー病の病理をもたらすのかは正確にはわかっていない。アミロイド仮説では従来、ニューロン変性を引き起こす中心的な事象としてアミロイドβペプチドの蓄積を指摘している。細胞のカルシウムイオン恒常性を破壊する原因となるタンパク質の毒性形態であると考えられる凝集したアミロイド原線維の蓄積は、プログラムされた細胞死(アポトーシス)を誘導する。Aβはアルツハイマー病の影響を受けた脳の細胞のミトコンドリアに選択的に形成され、特定の酵素の機能およびニューロンによるグルコースの利用を阻害することも知られている。
【0013】
本発明の目的は、アミロイド陽性認知症を罹患していると、または発症するリスクがあると個体を確実に同定する方法を提供することである。したがって、個体はすでに認知症の徴候および症状を示している場合があり、この方法は、本認知症をアミロイド陽性またはアミロイド陰性と同定するために使用され得る。あるいは、個体は未だに認知症の徴候および症状を示していない場合がある。この場合、この方法は、アミロイド陽性認知症を発症するリスクがあると個体を同定するために使用され得る。
【0014】
アルツハイマー病または混合型認知症などのアミロイド陽性認知症を罹患していると、または発症するリスクがあると個体を同定するために、試料が個体から取得され、該試料は、脳試料でも脳脊髄液試料でもない。本発明による個体は、任意のヒトまたは非ヒト動物、特に哺乳類、特にヒトであり得る。
【0015】
本発明では、個体から得られる試料が使用される。試料は、本発明によるマーカーを測定するために適した任意の試料であり得、そしてインビトロでの評価の目的のために得られる生物学的試料を指す。しかしながら、試料は、脳試料でも脳脊髄液試料でもない。試料には、個体と特異的に関連することができ、個体に関する特異的な情報を決定、計算、または推測することができる材料を含む。試料は、個体の生物学的材料の全部または一部から構成されることが可能である。試料はまた、個体に関する情報を提供する試料上で試験を実施することを可能にするように、個体に接触した材料であることも可能である(例えば、綿棒)。試料は、好ましくは、任意の体液を含み得る。試料は、安価で、堅牢で、かつ簡単な試験を可能にするために、簡単に利用できることが好ましい。例示的な試験試料には、血液、血清、血漿、尿、および唾液を含む。試料は、液体または固体であり得、例えば、血液試料は流動性であってもよく、または乾燥した血液スポットであってもよい。試料は、個体から採取してすぐに使用する、または測定ステップa)の前に処理することができる。処理には、精製(例えば、遠心分離などの分離)、濃縮、希釈、溶出(例えば、固体担体材料から)、細胞成分の溶解、凍結、酸性化、保存などを含み得る。非常に好ましい試料は、全血、血清、または血漿であり、最も好ましい種類の試料の代表は血漿である。
【0016】
本発明の方法の第1のステップとして、マーカー分子であるアミロイドβ40(Aβ40)、アミロイドβ42(Aβ42)および総タウ(tTau)の量または濃度が試料中で測定される。
【0017】
アミロイドβペプチドの2つの最も豊富なアロフォーム(alloform)(脳のアミロイド沈着物に見られる)は、40および42のアミノ酸長である(それぞれAβ40およびAβ42と指定される)。これら2つのペプチド間の小さな構造の違いにもかかわらず、これらは区別できる臨床的、生物学的、および生物物理学的挙動を表す。
【0018】
ヒトAβ40およびAβ42は、タンパク質APPのうち、それぞれアミノ酸672-711およびアミノ酸672-713からなる(データベースUniProtKBアクセッション番号:P05067を参照)。AD患者の脳脊髄液(CSF)においてAβ42濃度の統計的に有意な減少が、いくつかの研究で確認された。CSFのAβ42の減少はまた、軽度認識機能障害(MCI)の患者においても観察されている。いくつかの研究では、ADにおけるAβ40のCSFのレベルに変化がないことを示している。他の研究では、CSFのAβ比率の値(Aβ40/Aβ42)が、AD患者と対照もしくは他の認知症の患者との間により良い判別を提供することを報告している。この2つのタンパク質はまた、血漿試料中のバイオマーカーの候補として提案されている(Okerekeら、2009、J Alzheimers Dis 16(2):277~285)。通常、このタンパク質の比率は、アルツハイマー病の特徴評価に使用される(Spiesら、2010、Curr Alzheimer Res 7(5):470~476)(Janelidzeら、2016、Scientific Reports6、記事番号:26801;doi:10.1038/srep26801)。
【0019】
タウタンパク質は、微小管を安定化させるタンパク質である。タウタンパク質は、中枢神経系(CNS)のニューロンに豊富にあり、他の場所ではあまり一般的ではないが、CNSのアストロサイトおよびオリゴデンドロサイトにおいて非常に低レベルにおいても発現される。アルツハイマー病およびパーキンソン病などの神経系の病理および認知症は、欠陥となり、もはや微小管を適切に安定化しなくなったタウタンパク質に関連している。タウタンパク質は、ヒトではMAPT(微小管関連タンパク質タウ)と指定され、17番染色体上に位置する単一遺伝子の選択的スプライシングの産物である。これまでに、6つのタウのアイソフォームがヒトの脳組織で同定されており、それらは結合ドメインの数によって区別される。タウのアイソフォームの詳細は、Hampelら、2010、Exp Gerontol45、30~44に記載されている。3つのアイソフォームは3つの結合ドメインを有し、他の3つのアイソフォームは4つの結合ドメインを有する。4つの結合ドメインを有するアイソフォームは、3つの結合ドメインを有するアイソフォームよりも微小管の安定化に優れている。アイソフォームは、タウ遺伝子のエクソン2、3、および10における選択的スプライシングの結果である。タウは、最長のタウアイソフォーム上に79か所の潜在的なセリン(Ser)およびスレオニン(Thr)のリン酸化部位を有するリンタンパク質である。リン酸化は、正常なタウタンパク質のこれらの部位の約30か所で報告されている。6つの全てのアイソフォームにおけるリン酸化の程度は、ホスファターゼの活性化により年齢とともに減少する。タウタンパク質の過剰リン酸化は(タウ封入体、pTau)、アルツハイマー病、前頭側頭型認知症、および他のタウオパチーの病理に関与する、対合らせん状フィラメントおよび直線状フィラメントのもつれの自己組織化を引き起こすことが可能である。6つの全てのタウアイソフォームは、アルツハイマー病の脳の対合らせん状フィラメントに頻繁に過剰リン酸化された状態で存在する。誤って折りたたまれる場合、他では非常に可溶性であるこのタンパク質は、多くの神経変性疾患に寄与する、極度に不溶性である凝集体を形成することが可能である。タウタンパク質は、形成されて神経シナプスを遮断するもつれによって引き起こされる生細胞の破壊に直接的に影響を及ぼす。もつれは、タウタンパク質の塊であり、互いにくっついて、脳内の細胞に分配される必要のある必須栄養素を遮断し、細胞を死に至らしめる。したがって、脳脊髄液中のタウの全てのリン酸化アイソフォームおよび非リン酸化アイソフォームを指す総タウ(tTau)、および過剰リン酸化タウ(p-Tau)並びにAβ42は、前認知症および前臨床段階を含むアルツハイマー病の診断におけるバイオマーカーとして推奨されている(Jackら、2011、Alzheimer’s&Dementia 7:257~262)。
【0020】
本発明によれば、マーカーの量または濃度は、アミロイド陽性認知症を罹患していると、または発症するリスクがあると個体を同定するために決定される。物質の量は、原子、分子、電子、およびその他の粒子などの要素粒子の集合の大きさを測定する基準が定義された量である。それは化学量と呼ばれることもある。国際単位系(SI)は、存在する要素粒子の数に比例する物質量を定義する。物質量のSI単位はモルである。モルは、単位記号はmolである。物質の濃度は、混合物の総体積で割った成分の量である。質量濃度、モル濃度、数濃度、および体積濃度と、いくつかの種類の数学的記述に分類することができる。濃度という用語は、あらゆる種類の化学混合物に適用できるが、ほとんどの場合、溶液中の溶質および溶媒を指す。モル(量)濃度には、規定濃度および浸透圧濃度などの異形がある。
【0021】
マーカー分子(特にAβ40、Aβ42およびtTau)を測定する様々な方法が当技術分野で公知であり、これらのいずれも使用することができる。例示的な方法は、実施例に記載されている。好ましくは、マーカーは、特異的な結合物質を使用することにより、液体試料から特異的に測定される。
【0022】
特異的な結合物質は、例えば、マーカーに対する抗体、またはマーカータンパク質に関連する核酸に相補的な核酸(例えば、マーカーのmRNAまたはその関連部分に相補的な核酸)である。好ましくは、マーカー分子は、タンパク質レベルで測定される。
【0023】
マーカーポリペプチドの結合相手としてのタンパク質の決定は、タンパク質またはポリペプチドと特異的に相互作用するタンパク質を同定および取得する任意のいくつかの公知の方法、例えば、米国特許第5,283,173号および米国特許第5,468,614号または同等のものに記載されているような、酵母ツーハイブリッドスクリーニングシステムを使用して実施することができる。特異的な結合物質は、好ましくは、対応するその標的分子に対して少なくとも107l/molの親和性を有する。特異的な結合物質は、好ましくは、その標的分子に対して108l/molの親和性、またはさらにより好ましくは109l/molの親和性を有する。当業者が理解するとおり、特異的という用語は、試料中に存在する他の生体分子が、マーカーに特異的な結合物質に有意に結合しないことを指すために使用される。好ましくは、標的分子以外の生体分子への結合のレベルは、それぞれ標的分子への親和性のわずか10%以下、より好ましくはわずか5%以下である結合親和性となる。好ましい特異的な結合物質は、親和性および特異性に関する上記の最小基準の両方を満たすであろう。
【0024】
特異的な結合物質は、好ましくは、マーカーであるAβ40、Aβ42またはtTauのいずれかと反応する抗体である。抗体という用語は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、そのような抗体の抗原結合フラグメント、一本鎖抗体、並びに抗体の結合ドメインを含む遺伝子構築物を指す。
【0025】
「抗体」という用語は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、F(ab’)2断片、およびFab断片などのそれらの断片、並びにAβ40、Aβ42、またはtTauのポリペプチドに特異的に結合する分子である天然に存在する、または組換えにより産生される結合相手を含む。特異的な結合物質の上記の基準を保持する任意の抗体断片が使用され得る。抗体は、例えば、Tijssen(Tijssen,P.、Practice and theory of enzyme immunoassays、Elsevier Science Publishers B.V.、アムステルダム(1990)、本全体、特に43~78頁)に記載されるとおり、最先端の手順によって生成される。さらに、当業者は、抗体の特異的単離に使用することが可能な免疫吸着剤に基づく方法を十分に知っている。これらの手段により、ポリクローナル抗体の品質、したがってイムノアッセイにおけるポリクローナル抗体の性能を高めることができる(Tijssen,P.、前出、108~115頁)。
【0026】
本発明に開示されるとおり達成するために、例えば、ヤギにおいて産生されるポリクローナル抗体が使用され得る。しかしながら、明らかに、異なる種、例えばラット、ウサギ、またはモルモットからのポリクローナル抗体、並びにモノクローナル抗体も使用することが可能である。モノクローナル抗体は一定の特性を有して必要とされる任意の量にて生産することができるため、それらは臨床ルーチンのアッセイを開発することにおいて理想的なツールとなる。
【0027】
測定のために、個体から得られる試料は、結合物質マーカー複合体の形成に適切な条件下で、対象とされるマーカーに特異的な結合物質と共にインキュベートされる。発明的な取り組みが全くない当業者がそのような適切なインキュベーション条件を容易に特定することができるため、そのような条件が特定される必要はない。結合物質マーカー複合体の量が測定され、そして本発明の方法および使用において使用される。当業者が理解するとおり、特異的な結合物質マーカー複合体の量を測定する多くの方法が存在し、全て関連する教科書に詳細に記載されている(例えば、上記のTijssen P.、またはDiamandis,E.P.およびChristopoulos,T.K.(編)、Immunoassay、Academic Press、ボストン(1996)参照)。
【0028】
特に、マーカー(Aβ40、Aβ42およびtTau)に対するモノクローナル抗体は、定量的(マーカーの量または濃度が決定される)イムノアッセイで使用される。
好ましくは、対象とされるマーカーは、サンドイッチ型アッセイ形式で検出される。そのようなアッセイでは、第1の特異的な結合物質が、一方の側で対象とされるマーカーを捕捉するために使用され、他方の側で、直接的または間接的に検出可能であるように標識化された第2の特異的な結合物質(例えば、二次抗体)が使用される。第2の特異的な結合物質は、酵素、色素、放射性核種、発光基、蛍光基またはビオチンなどの検出可能なレポーター部分または標識を含有し得る。いずれのレポーター部分または標識は、そのようなシグナルが洗浄後に支持体上に残っている結合物質の量に直接関連付く、または比例する限り、本明細書に開示される方法を用いて使用されることが可能である。よって、固体支持体に結合したまま残る第2の結合物質の量が、特異的に検出可能なレポーター部分または標識に適切な方法を使用して決定される。放射性基の場合、シンチレーション計数またはオートラジオグラフィー法が一般的に適切である。抗体-酵素コンジュゲートは、様々なカップリング技術を使用して調製することができる(報告については、例えば、Scouten,W.H.、Methods in Enzymology 135:30~65、1987を参照)。分光法は、色素(例えば、酵素反応の比色生成物を含む)、発光基、および蛍光基を検出するために使用することができる。ビオチンは、アビジンまたはストレプトアビジンを使用して検出することが可能であり、異なるレポーター基(通常は放射性もしくは蛍光性基または酵素)へ結合される。酵素レポーター基は、一般に、基質の添加によって(通常は特定の期間)、続いて反応生成物の分光分析、分光光度分析、または他の分析によって検出することが可能である。標準液および標準添加液は、周知の技術を使用して、試料中の抗原のレベルを決定するために使用することができる。
【0029】
上記のとおり、Aβ40レベルを測定する様々な方法が存在する。Aβ40のアッセイは、Aβ40を特異的に測定するが、例えばAβ42またはAβ43は測定しない。Aβ40の測定は、通常、Aβ配列1-40のCOOH末端に特異的に結合することに基づいている。Aβ40を測定するための市販の製品には、Amyloid beta40 Human ELISA Kit(Thermo Fisher Scientific、Waltham、MA、USA)、Simoa(商標)Aβ40イムノアッセイ(Quanterix Corporation、Lexington、MA、USA)、およびAmyloid β1-40 Assay Kit(Cisbo Assays、Codolet、France)を含む。実施例で使用されるAβ40アッセイでは、Aβ40のアミノ酸25-40に結合する特異的なモノクローナル抗体23C2が使用される。好ましくは、Aβ40は、製造業者の指示に従い、かつ実施例に詳述されているとおり、Elesys(登録商標)測定セルにおいてElesys(登録商標)ECL技術を使用して測定される。
【0030】
また、Aβ42レベルの測定には、様々なアッセイが存在する。Aβ42を測定するための市販の製品には、Amyloid beta42 Human ELISA Kit(Thermo Fisher Scientific、Waltham、MA、USA)、Simoa(商標)Aβ42イムノアッセイ(Quanterix Corporation、Lexington、MA、USA)、INNOTEST(登録商標)アミロイドβ(1-42)(Fujirebio、Gent、BE)およびElecsys(登録商標)β-Amyloid(1-42)CSFアッセイ(識別番号06986811-190、Roche Diagnostics AG;CH)を含む。ドイツのRoche Diagnostics社製のAβ42アッセイでは、特異的なモノクローナル抗体21F12および3D6が使用される。好ましくは、Aβ42は、製造業者の指示に従い、かつ実施例に詳述されているとおり、Elesys(登録商標)測定セルにおいてElesys(登録商標)ECL技術を使用して測定される。
【0031】
tTauのレベルは、任意の適切な方法で決定することができる。tTauを測定する市販の製品には、Tau(Total)Human ELISA Kit(Thermo Fisher Scientific、Waltham、MA、USA)、Simoa(商標)Human Total Tau2.0イムノアッセイ(Quanterix Corporation、Lexington、MA、USA)、Total Tau ELISA Kit(ヒト)(Dinova GmbH、Hamburg、DE)およびElecsys(登録商標)Total-Tau CSFアッセイ(識別番号07356994-190、Roche Diagnostics AG;CH)を含む。ドイツのRoche Diagnostics社製のtTauアッセイでは、特異的なモノクローナル抗体5.28.464、4.35.411およびPC1C6が使用される。好ましくは、tTauは、製造業者の指示に従い、実施例に詳述されているとおり、Elesys(登録商標)測定セルにおいてElesys(登録商標)ECL技術を使用して測定される。
【0032】
マーカーのレベルを測定するステップは、以下のとおり実施することができる。試料、および任意にキャリブレータおよび/または対照は、マーカーに対する結合物質の結合を可能にする条件下で、結合物質(例えば、固相上に固定化することができる)と接触し得る。任意に、結合していない結合物質は、分離ステップ(例えば、1つまたは複数の洗浄ステップ)によって除去され得る。この結合した結合物質を検出するために第2の物質(例えば、標識化された物質)が添加され、これに結合して定量することが可能になり得る。任意に、結合していない第2の物質は除去され得る。マーカーの量に比例する第2の結合物質の量は、例えば、標識に基づいて定量され得る。定量は、例えば、各キャリブレータの濃度に対して測定値をプロットすることにより、各アッセイに作成されたキャリブレーション曲線に基づいて行われ得る。よって試料中のマーカーの濃度または量が、キャリブレーション曲線から読み取られ得る。
【0033】
第2のステップのとおり、ステップ(a)で決定されたマーカーの合算値を対照値と比較することにより、アミロイド陽性認知症を罹患していると、または発症するリスクがあると個体が同定され、ここで対照値に対する合算値の増加はアミロイド陽性認知症を示している。マーカーの量または濃度を測定した後(ステップa)、ステップ(a)で測定したマーカー分子の量または濃度の値は、合算値を得るために合算され、そして得られた値は、対照値と比較される。ステップ(a)で決定されたマーカーの合算値が対照値に対して増加している場合、個体はアミロイド陽性認知症を罹患していると、または発症するリスクがあると同定される。
【0034】
本発明の文脈における「合算値を得るために合算する」は、数学的手順を指す。合算値は、数学演算、好ましくはAβ40の量/濃度、Aβ42の量/濃度、およびtTauの量/濃度を使用する算術演算に従って計算される。演算の結果は、値、つまり合算値である。合算値は、同じ数学的手順を使用して得られている対照の合算値と比較される。本発明では、通常、個体および対照の合算値を得るために、全てのマーカーの量または濃度のいずれか、好ましくは濃度が使用される。好ましくは、合算値は、マーカーの濃度について得られた値を加算することによって得られる。別の好ましい実施形態では、合算値は、試料中のマーカー分子の量または濃度の加重計算によって得られる。これは、数学的手順においてマーカーは異なる重みが与えられることを意味する。
【0035】
例えば、ロジスティック回帰分析は、バイナリ結果である「アミロイド陽性」と「アミロイド陰性」とを従属変数として、Aβ40、Aβ42、およびtTauの組み合わせを独立変数として用いて実行され得る。分類の精度は、ROC(受信者動作特性)曲線下面積(AUC)によって評価され得、感度および特異度が計算され得る(以下を参照)。
【0036】
対照値は、当業者に公知であるとおり、様々な方式で、かつ様々な試験設計を使用して得ることができる。これは、連続結果(本明細書では合算値)をカテゴリーに分割するために使用される。本発明において、カテゴリーは、陽性(個体がアミロイド陽性認知症を罹患している、または発症するリスクがあることを示す)と、陰性(個体がアミロイド陽性認知症を発症していない、または発症するリスクがないことを示す)であり、対照を超える値は、カテゴリーは「陽性」の結果となる。一般的に、外部対照が使用される(つまり、試験された個体から得られるものではない1つまたは複数の試料)。
【0037】
本発明の一実施形態では、対照値は、所定の条件がないことが知られている個体、すなわち、好ましくは認知症のないアミロイド陰性の個体から、または好ましくは個体の対照集団(参照集団とも呼ばれる)から得られる対照試料を使用して確立される。あるいは、対照値は、特定の状態(アミロイド陽性認知症)を罹患していることが知られている個体の集団の分析に基づいて定義される。本明細書における対照値は、この集団の一般的に決定される値未満であるように選択される必要がある。最後に、対照値は、健康な集団(アミロイド陰性)および罹患した集団(アミロイド陽性認知症)を評価することによって得られ、そしてアミロイド陽性認知症を罹患しているとして、もしくは発症するリスクがあるとして、またはアミロイド陰性/健康として、個体をカテゴリー化するためにカットオフ値を確立し得る。適切な対照試料/集団および/またはそれに確立されるマーカーの対照値を選択することは、開業医の技能の範囲内である。例示的な集団は、実施例に記載される。
【0038】
対照で確立されるマーカーの絶対値は、使用するアッセイに依存することが当業者によって理解されるであろう。好ましくは、適切な対照/参照集団からの100人以上の十分に特徴付けられた個体からの試料が、対照値を確立するために使用される。または、好ましい対照/参照集団は、少なくとも20、30、50、200、500または1000人の個体からなるように選択され得る。健康な個体は、対照値を確立するための好ましい参照集団を表す。
【0039】
本発明によれば、合算値の増加は、将来または現在のアミロイド陽性認知症を示している。この値が増加する場合、アミロイド陽性認知症は、すでに存在する、または将来発生する可能性がある。それにより同定された個体は、さらなる血液試験、CSF試験、PETのような画像化方法、行動研究または薬剤の投与を含む、さらなる診断または治療方法の対象となり得る。熟練した開業医は、一般的な国の医療行為に応じて適切な手段を選択することができるであろう。
【0040】
一実施形態では、この値が、対照値に対して、少なくとも110%、より好ましくは少なくとも120%、より好ましくは少なくとも130%、より好ましくは少なくとも140%、より好ましくは少なくとも150%、より好ましくは少なくとも160%、より好ましくは少なくとも170%、より好ましくは少なくとも180%、さらにより好ましくは少なくとも190%に達する場合、この値は増加である。
【0041】
本発明の場合では、3つのマーカー、すなわち、Aβ40、Aβ42およびtTauが、本発明の方法で使用される。したがって、Aβ40の量/濃度、Aβ42の量/濃度、およびtTauの量/濃度を使用して合算値が計算される。合算値は、同じ数学的手順を使用して得られている対照の合算値と比較される。
【0042】
好ましい実施形態では、合算値は、試料中のマーカー分子の量または濃度の加重計算によって得られる。これは、マーカーのそれぞれが、他のマーカーよりも高い、または低いことが可能な個別の重み係数が与えられることを意味する。
【0043】
より好ましい実施形態では、合算値vは、以下の式に従うAβ40のレベル(量または濃度)([Aβ40])、Aβ42のレベル(量または濃度)([Aβ42])およびtTauのレベル(量または濃度)([tTau])に基づく加重計算によって得られる。
【0044】
v=a*[Aβ40]+b*[Aβ42]+c*[tTau]+d、
式中、a、bおよびcは重み係数を表し、dは切片を表す。切片がない場合もある。好ましくは、重み係数は、参照集団を分析することによって得られている。適切な手順は、実施例に記載される。
【0045】
別の好ましい実施形態では、合算値vは、以下の式に従うAβ40のレベル(量または濃度)([Aβ40])、Aβ42のレベル(量または濃度)([Aβ42])およびtTauのレベル(量または濃度)([tTau])に基づく加重計算によって得られる。
【0046】
v=e*[Aβ42]/[Aβ40]+f*[tTau]+g、
式中、eおよびfは重み係数を表し、gは切片を表す。切片がない場合もある。好ましくは、重み係数は、参照集団を分析することによって得られている。適切な手順は、実施例に記載される。
【0047】
例えば、Aβ40、Aβ42、およびtTauの合算値は、参照群の各試料について決定され、その後、合算値の中央値または適切なカットオフを、当業者に公知であるとおり計算することができる。(a)適切な参照集団では、Aβ40、Aβ42、およびtTauを独立変数として使用して、適切な結果の測定(例えば、アミロイド陽性認知症)を従属変数として用いて回帰モデルを計算することができる。
【0048】
次いで、集団における各個体の合算値vを計算するために、Aβ40、Aβ42、およびtTauの回帰モデルによって与えられる回帰係数は、それぞれ重み係数i)a、b、およびc、またはii)eおよびfとして、および切片i)d、またはii)gとして、使用することができる。これらの合算値vにおいて、対照、例えばカットオフを計算することができる(集団におけるvの中央値など)。
【0049】
v値が対照値またはカットオフを超える個体は、アミロイド陽性認知症を罹患していると、または発症するリスクがあると見なされ、対照値またはカットオフ未満の個体は、アミロイド陽性認知症を罹患していないと、または発症するリスクがないと見なされる。
【0050】
上記の統計的方法は、アミロイド陽性の個体を同定する統計的方法の例にすぎない。熟練した統計学者は、一般的なデータを分析し、次いで適切な対照値またはカットオフを提供するための適切な方法を理解しているであろう。
【0051】
したがって、好ましい実施形態では、マーカーの合算値がカットオフ値を超える場合、個体は、アミロイド陽性認知症を罹患していると、または発症するリスクがあると同定される。参照集団で測定されるようなマーカーであるAβ40、Aβ42、およびtTauの値は、カットオフ値を確立するために使用される。そのようなカットオフ値を超える値は、アミロイド陽性認知症を罹患している、または発症するリスクがある個体を示していると見なされる。一実施形態では、固定されたカットオフ値は、個体の試験の前に確立される、またはすでに確立されていた。このようなカットオフ値は、目的の診断の課題に一致するように選択される。好ましくは、このカットオフは、アミロイド陽性およびアミロイド陰性の個体を含む参照集団の中央値である。適切な中央値またはカットオフ値は、アミロイド陽性認知症を罹患していると、または発症するリスクがあると同定することが期待されていた個体の数に応じて選択され得る。「アミロイド陽性認知症」に選択される個体の数が多いほど、疾患のある、またはリスクのある個体を健康であると誤って特徴付けるリスクが減少し、したがって感度が増加する(真陽性率)。他方、それは、アミロイド陽性認知症を罹患していると、または発症するリスクがあると個体を誤って特徴付けるリスクを高め、したがって特異度を低下させる(真陰性率)。「アミロイド陽性認知症」に選択される個体の数が少ない場合、逆のことが当てはまる。いずれの試験も、通常、測定値間にトレードオフが存在する。例えば、安全に対する潜在的な脅威を試験している空港のセキュリティ設定では、スキャナーは、航空機および搭乗している人に脅威を与える物を逃すリスクを減らすために、ベルトのバックルおよび鍵などのリスクの低い品目(高感度)で作動するように設定され得る(特異度が低い)。このトレードオフは、受信者動作特性曲線として図示することができる(以下を参照)。完全な予測器は、100%の感度(例えば、全ての病気の人が病気であると同定される)、および100%の特異度(例えば、全ての健康な人が病気であると同定されない)として記載されるであろう。しかしながら、理論的には、いずれの予測器もベイズ誤り率として知られる最小誤り限界を保有する。カットオフは、感度または特異度のいずれかを高めるために設定され得る。
【0052】
統計では、受信者動作特性(ROC)またはROC曲線は、弁別閾値が変動するような二項分類器システムの性能を示すグラフプロットである。この曲線は、様々な閾値設定での偽陽性率(FPR)に対して真陽性率(TPR)をプロットすることによって作成される。上で詳述したとおり、真陽性率は、感度または感度指数d’としても知られ、信号検出および生物医学情報学では「dプライム」、または機械学習では再現率として知られている。偽陽性率はフォールアウトとしても知られ、(1-特異度)として計算することができる。ROC曲線は、二分された結果を予測する能力について、値の範囲全体で、感度を特異度に対して比較する。曲線下面積(AUC)は、試験性能を比較するための全体的な精度を示している(Florkowski CM、2008、Clin Biochem Rev29(Suppl1):S83~S87)。感度とは、個体を有病として正しく分類する試験の能力である。個体を無病として正しく分類する試験の能力は、特異度と呼ばれる(Fawcett T、2006、Pattern Recognition Letters27:861~874)。
【0053】
ROC分析は、費用状況(cost context)またはクラス分布から独立して(かつそれを特定する前に)、できる限り最適なモデルを選択し、準最適なモデルを捨てるためのツールを提供する。ROC分析は、診断意思決定の費用対効果分析に直接的かつ自然な様式で関連している。
【0054】
上で詳述したとおり、重み係数は、1つまたは複数の参照集団を分析することによって得ることができる。したがって、好ましい実施形態では、重み係数は、1つまたは複数の参照集団を分析することによって得られている。上記によれば、対照値は、アミロイド陰性対照集団もしくはアミロイド陽性対照集団、またはそれらの組み合わせ、すなわち、アミロイド陰性対照集団およびアミロイド陽性対照集団から得られていることがある。
【0055】
上で詳述したとおり、AD関連認知症は、脳内のアミロイドベータ沈着に関連している。アミロイドベータ沈着および影響を受けた脳領域を呈する個体の割合は、該疾患の進行とともに増加する。したがって、認知機能的正常(CN)であり、かつリスクのある個体と見なされる、いずれのAD症状も未だ示さないアミロイド陽性の個体は、ごく一部である。この割合は主観的認知機能低下(SCD)および軽度認知機能障害(MCI)を有する個体に対して増加する。最後にADは、定義上、アミロイドプラークを特徴とし、それ故アミロイド陽性認知症を特徴とする。ADは、混合型認知症、例えば、血管性認知症、レビー小体型認知症および/または前頭側頭葉型認知症との組み合わせの一部であり得る。したがって、好ましい実施形態では、個体は、認知機能的正常(CN)である、主観的認知機能低下(SCD)を罹患している、軽度認知機能障害(MCI)を罹患している、またはアルツハイマー病(AD)、任意に、他の種類の認知症と組み合わされた、特に血管性認知症、レビー小体型認知症、および/または前頭側頭葉型認知症と混合された、AD(混合型認知症)を罹患している。
【0056】
上に詳述したとおり、本発明で分析される試料は、本発明によるマーカーを測定するために適した任意の試料であり得、かつ脳試料でも脳脊髄液試料でもない。一般的には、血液関連試料が、本発明の文脈での使用のための好ましい試験試料である。このため、血液は、静脈から、通常は肘の内側または手の甲から取ることができる。この血液は、例えば、ピペットへ、またはスライドもしくは試験紙上に回収することができる。したがって、本発明の好ましい実施形態では、個体から得られる試料は、特に血清、血漿、および全血からなる群から選択される血液試料であり、特に血漿である。
【0057】
上で詳述したとおり、マーカー分子は、異なる方法および異なるレベルで測定することができる。好ましくは、マーカー分子は、タンパク質レベルで測定される。
上で詳述したとおり、本発明による個体は、任意のヒトまたは非ヒト動物、特に哺乳動物であり得、特にヒトであり得る。したがって、本明細書に記載の方法および使用は、ヒトおよび獣医学の両方の疾患に適用可能である。明らかに、特に目的の非ヒト哺乳動物には、家畜、ペット、および商業的価値のある動物(例えば、ウマなどの家畜)または個人的価値のある動物(例えば、イヌ、ネコなどのペット)を含む。診断方法が通常採用されるヒト個体で、この方法は特に好まれる。それ故、特に好ましい実施形態では、個体はヒトである。
【0058】
個体がアミロイド陽性認知症を罹患していると、または発症するリスクがあると同定された後に、適切なステップが推奨され得る、または行われ得る。診断は、脳脊髄液(liquor)試験または脳陽電子放出断層撮影(PET)分析によって確認することができる。さらに、このステップは認知症の発生を予防するため、認知症の悪化を予防するため、または該疾患の症状を改善するためである。また、個体の状態の定期的な管理もしくは監視、またはさらなる診断試験が適切な場合がある。予防的手段には、非ステロイド性抗炎症薬の投与、閉経期のホルモン補充療法の回避、ライフスタイルの変化(例えば、より多くの知的活動または適切な食事)を含み得る。ADに関連する認知機能問題の医薬には、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤(テリン、リバスチグミン、ガランタミン、およびドネペジルなど)、並びにNMDA受容体拮抗薬(メマンチン)を含む。非定型抗精神病薬は、アルツハイマー病の人々の攻撃性および精神病を軽減することにおいて多少有用である。フペルジンAもまた役立ち得る。心理社会的な発明は、単独で、または他の治療と組み合わせて使用することができる。
【0059】
第2の態様において、本発明は、アミロイド陽性認知症を罹患している、または発症するリスクがある個体の同定のためのマーカーの組み合わせとしてのAβ40、Aβ42およびtTauの使用であって、1つまたは複数の参照集団で確立された合算値(対照値)と比較して、個体から得られる試料におけるマーカーの組み合わせの合算値の増加が検出されることが、アミロイド陽性認知症を示し、該試料が、脳試料でも脳脊髄液試料でもない、使用に関する。
【0060】
第2の態様による使用は、本発明の第1の態様の方法に規定されるとおりにさらに定義することができる。特に、本開示の第2の態様で使用される用語に関して、本開示の第2の態様にも適用可能である、本開示の第1の態様で使用される用語、実施例、および特定の実施形態が参照される。
【0061】
第3の態様において、本発明は、マーカーの組み合わせの値の増加を有する個体を検出する方法であって、
a)個体から得られる試料において、マーカー分子であるAβ40、Aβ42、およびtTauの量または濃度を測定するステップ、および
b)1つまたは複数の参照集団で確立されるとおりの合算値(対照値)と比較して、ステップ(a)で決定されたマーカーの合算値の増加を検出するステップ、
を含み、
該試料が、脳試料でも脳脊髄液試料でもない、方法に関する。
【0062】
第3の態様による方法は、本発明の第1の態様の方法に規定されるとおりにさらに定義することができる。特に、本開示の第3の態様で使用される用語に関して、本開示の第3の態様にも適用可能である、本開示の第1の態様で使用される用語、実施例、および特定の実施形態が参照される。
【0063】
全体として、本開示は、本明細書に記載の特定の方法論、手順、および試薬が変化し得るために、それらに限定されない。さらに、本明細書で使用される専門用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的としており、本開示の範囲を限定することを意図するものではない。本明細書および添付の特許請求の範囲で使用されるとおり、単数形「a」、「an」、および「the」は、その内容について別段の明確な指示がない限り、複数参照を含む。同様に、「含む(comprise)」、「含有する(contain)」、「包含する(encompass)」という言葉は、排他的ではなく包括的に解釈される。
【0064】
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語および頭字語は、本開示の分野における当業者によって通常理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載されているものと類似または同等の任意の方法および材料は、本明細書に提示されているとおり実際に使用することができるが、特定の方法および材料が本明細書に記載されている。
【0065】
本開示は、以下の図および実施例によってさらに説明されるが、図および実施例は、単に説明の目的で含まれており、特に明記しない限り、本開示の範囲を限定することを意図するものではないことが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【
図1】
図1~
図4は、ヒト個体の4つの異なる集団のROC曲線を示す図である。
図1:集団1:実施例1で定義されるとおり、認知機能正常、神経疾患、および異なる種類の認知症の患者
【
図2】
図1~
図4は、ヒト個体の4つの異なる集団のROC曲線を示す図である。
図2:集団2:実施例2で定義されるとおり、認知機能正常、およびアルツハイマー病の様々な病期の患者
【
図3】
図1~
図4は、ヒト個体の4つの異なる集団のROC曲線を示す図である。
図3:集団3:実施例3で定義されるとおり、認知機能正常、および軽度認知障害のある患者
【
図4】
図1~
図4は、ヒト個体の4つの異なる集団のROC曲線を示す図である。
図4:集団4:実施例4で定義されるとおり、認知機能正常、および軽度認知機能障害または軽度アルツハイマー病の患者
【実施例】
【0067】
実施例1
Elecsys(登録商標)サンドイッチアッセイの一般的な説明
Elecsys(登録商標)サンドイッチアッセイは、Elecsys(登録商標)システムで実施されるイムノアッセイである。これは、抗体-抗原-抗体のサンドイッチの形成と、ストレプトアビジンでコーティングされた微粒子へのその結合に基づいている。一次および二次のモノクローナル抗体は、目的の標的抗原(β40、Aβ42またはtTau)に結合させるために使用される(使用したインキュベーション時間:9分)。一次抗体はビオチン化され、二次抗体はルテニウム標識化されるルテニル化(ruthenylated)がされている。さらに、ストレプトアビジンでコーティングされた微粒子は(9分間続く第2のインキュベーションステップでの添加を使用して)存在している。2つの抗体が標的抗原に結合し、ストレプトアビジンがビオチンに結合すると、以下を含む複合体:
微粒子 - 一次抗体 - 標的 - 二次抗体 - ルテニウム
が形成され、該複合体は、特に該微粒子を使用して電極の表面に(例えば、該微粒子が常磁性である場合、磁場を適用することによって)検出装置に固定化することができ、これはルテニウム標識を使用して化学発光に基づいて測定セルにおいて検出することができる。
【0068】
1.1 CSFアッセイ
1.1.1 Elecsys(登録商標)総Tau CSFアッセイ
Elecsys(登録商標)総Tau CSFアッセイ(識別番号07356994-190、Roche Diagnostics AG;CH)を、脳脊髄液(CSF)試料中のtTauを決定するために使用した。
【0069】
第1のインキュベーション(9分):50μLの試料、2つのビオチン化モノクローナルTau特異的抗体(5.28.464および4.35.411、Roche Diagnostics AG;CH)、およびルテニウム錯体(トリス(2,2’-ビピリジル)ルテニウム(II)-錯体;Ru(bpy))で標識化されたモノクローナルTau特異的抗体(PC1C6;MAB3420;例えばMerck KGaA、DEから入手可能)を共培養し、2つのビオチン化抗体、tTau、およびルテニル化抗体を含むサンドイッチ複合体を形成した。
【0070】
第2のインキュベーション(9分):ストレプトアビジンでコーティングされた微粒子(Elecsys(登録商標)ビーズ)を第1のインキュベーションのステップの混合物に添加し、この第2のインキュベーション中に、ビオチン化抗体、タウ、およびルテニル化抗体を含む複合体を、ビオチンとストレプトアビジンとの相互作用を介して固相に結合させた。
【0071】
測定:反応混合物を測定セル中へ吸引し、微粒子を電極の表面に磁気的に捕捉した。次いで、結合していない物質をProCell/ProCell Mで除去した。電極に電圧を印可すると、化学発光が誘導され、これを光電子増倍管により測定した。結果は、2点キャリブレーションによって特別に生成される手段であるキャリブレーション曲線と、試薬バーコードまたは電子バーコードを介して提供されるマスター曲線を介して決定した。
【0072】
1.1.2 Elecsys(登録商標)β-アミロイド(1-42)CSFアッセイ
Elecsys(登録商標)β-アミロイド(1-42)CSFアッセイ(識別番号06986811-190、Roche Diagnostics AG;CH)を、脳脊髄液試料中のAβ42を決定するために使用した。
【0073】
第1のインキュベーション(9分):50μLの試料、ビオチン化モノクローナルβ-アミロイド(1-42)特異的抗体(21F12)、およびルテニウム錯体で標識化されたモノクローナルβ-アミロイド特異的抗体(3D6)を共培養し、ビオチン化抗体、Aβ42、およびルテニル化抗体を含むサンドイッチ複合体を形成した。
【0074】
第2のインキュベーション(9分):ストレプトアビジンでコーティングされた微粒子(Elecsys(登録商標)ビーズ)を第1のインキュベーションのステップの混合物に添加し、この第2のインキュベーション中に、ビオチン化抗体、Aβ42、およびルテニル化抗体を含む複合体を、ビオチンとストレプトアビジンとの相互作用を介して固相に結合させた。
【0075】
測定:反応混合物を測定セル中へ吸引し、微粒子を電極の表面に磁気的に捕捉した。次いで、結合していない物質をProCell/ProCell Mで除去した。電極に電圧を印可すると、化学発光が誘導され、これを光電子増倍管により測定した。結果は、2点キャリブレーションによって特別に生成される手段であるキャリブレーション曲線と、試薬バーコードまたは電子バーコードを介して提供されるマスター曲線を介して決定した。
【0076】
1.2.血漿アッセイ
1.2.1 Elecsys(登録商標)総Tau血漿アッセイ
この血漿の適用では、CSFアッセイ(1.1.1を参照)と同じ試薬を使用した。
・ R1=ビオチン化抗体を含有する、すぐに使用できる液体試薬
・ R2=Ru標識抗体を含有する、すぐに使用できる液体試薬
・ M=ストレプトアビジンでコーティングされた微粒子を含有する、すぐに使用できる液体試薬
CSFアッセイと比較すれば、血漿における様々な試料マトリックスおよび様々な分析対象物のレベルを克服するために、他のキャリブレータおよび対照のみを使用した。化学的に合成されたタウ抗原(CSFアッセイと同じ)を、タンパク質含有TRIS緩衝液に約0、30、100、500、および5000pg/mlの濃度で添加した。これらのキャリブレータを、使用前に-80℃にて冷凍した。
【0077】
第1のインキュベーション、第2のインキュベーション、および測定は、結果を5点のキャリブレーション曲線によって生成されるキャリブレーション曲線を介して決定したことを除いて、1.1.1で詳述されるとおりに実施した。
【0078】
1.2.2 Elecsys(登録商標)β-アミロイド(1-42)血漿アッセイ
この血漿の適用では、CSFアッセイ(1.1.2を参照)と同じ試薬を使用した。
・ R1=ビオチン化抗体を含有する、すぐに使用できる液体試薬
・ R2=Ru標識抗体を含有する、すぐに使用できる液体試薬
・ M=ストレプトアビジンでコーティングされた微粒子を含有する、すぐに使用できる液体試薬
CSFアッセイと比較すれば、血漿における様々な試料マトリックスおよび様々な分析対象物のレベルを克服するために、他のキャリブレータおよび対照のみを使用した。化学的に合成されたAβ42抗原(CSFアッセイと同じ)をウマ血清に約0、20、50、250および1200pg/mlの濃度で添加した。これらのキャリブレータを、使用前に-80℃にて冷凍した。
【0079】
第1のインキュベーション、第2のインキュベーション、および測定は、結果を5点のキャリブレーション曲線によって生成されるキャリブレーション曲線を介して決定したことを除いて、1.1.2で詳述されるとおりに実施した。
【0080】
1.2.3 Elecsys(登録商標)β-アミロイド(1-40)血漿アッセイ
第1のインキュベーション(9分):50μLの試料、ビオチン化モノクローナルAβ40特異的抗体(23C2)、およびルテニウム錯体で標識化されたモノクローナルβ-アミロイド特異的抗体(3D6)を共培養し、ビオチン化抗体、Aβ40およびルテニル化抗体を含むサンドイッチ複合体を形成した。
【0081】
第2のインキュベーション(9分):ストレプトアビジンでコーティングされた微粒子(Elecsys(登録商標)ビーズ)を第1のインキュベーションのステップの混合物に添加し、この第2のインキュベーション中に、ビオチン化抗体、Aβ40、およびルテニル化抗体を含む複合体を、ビオチンとストレプトアビジンとの相互作用を介して固相に結合させた。
【0082】
測定:反応混合物を測定セル中に吸引し、微粒子を電極の表面に磁気的に捕捉した。次いで、結合していない物質をProCell/ProCell Mで除去した。電極に電圧を印可すると、化学発光が誘導され、これを光電子増倍管により測定した。結果を、5点のキャリブレーション曲線によって生成されるキャリブレーション曲線を介して決定した。
【0083】
キャリブレータおよび対照
0.4g/LのBSAを含有するリン酸緩衝生理食塩水に、エピトープ1~12および25~40を認識する両方の抗体を含有する化学合成されたAβ40抗原を添加した。以下のレベル、0、250、500、2500、および10.000pg/mLのAβ40を生成した。
【0084】
実施例2
試料集団
アルツハイマー病(AD)、前頭側頭型認知症などの他の認知症、軽度認知機能障害(MCI)、神経疾患、および認知機能正常の患者からなる大規模な試料集団を、数年前に将来を見越して収集した。全ての患者から、同じ時点で脳脊髄液およびEDTA血漿もまた並行して収集した。脳のアミロイドβ陽性またはアミロイドβ陰性の状態を測定するためのPET画像化が利用できなかったため、Roche Diagnostics社製のイムノアッセイβ-アミロイド(1-42)およびtTAUを使用して該CSF試料を測定した。
【0085】
試料をアミロイド陽性(>0.28)およびアミロイド陰性(<0.28)に分類するための参照として、カットオフ値が0.28を有するCSFにおけるtTAU/Abeta42比率を使用した。この比率は、AUCが94%で読み取られたアミロイドのPETの外観と高い一致を示した(tTAUアッセイの方法書を参照、識別番号07356994 190、Roche Diagnostics AG、CH)。
【0086】
以下の患者の試料を測定した。
【0087】
【0088】
アミロイド陽性/陰性の定義のために、試料をアミロイド+(>0.28)とアミロイド-(<0.28)とに分類するための参照として、カットオフ値が0.28のCSFにおけるtTau/Abeta42比率を使用した。
【0089】
実施例3
データ分析
予測力を、様々なモデルを使用して比較した。最も基本的な「モデル」は、2つ以上のバイオマーカーの比率である(一方のバイオマーカーの値をもう一方の値で除算する)。2つ以上のマーカー間の非線形関係を可能にするために、異なるマーカーの組み合わせを有するロジスティック回帰モデルを導入した。より特に、以下の比率およびモデルを比較した。
・ Ab42/Ab40比率(参照)
・ tTau/Ab42比率
・ Ab42/Ab40(比率)+tTau(モデル2、加重計算)
・ Ab42+Ab40+tTau(モデル1、加重計算)
ロジスティック回帰(またはlogit回帰)は、バイナリ従属変数を記載するモデルを推定するための統計的方法である。事象の確率の対数オッズは、予測変数の線形結合である。推定された応答は、予測変数(本明細書ではバイオマーカー)に基づくバイナリ応答(本明細書ではアミロイド+/-)の確率である。これは、それらの独立変数レベルに基づいて新しい試料のクラスを予測するための分類器として使用することができる。
【0090】
モデルは次のように解釈することができる:
logit(p)=β0+β1X1+β2X2+β3X3
ここで、pは、アミロイド+である確率であり、Xは、予測バイオマーカー(血漿Ab42、血漿Ab40、血漿tTau、または血漿比率)であり、βは係数(重み係数とも呼ばれる)である。
【0091】
したがって、
【0092】
【0093】
および
【0094】
【0095】
バイオマーカーであるAb42、Ab40、およびtTauの3つの全てに関与する分析では、以下の式を使用して重み付け係数(a~e)を計算した:
v=a
*[Aβ40]+b
*[Aβ42]+c
*[tTau]+d(モデル1)
v=e
*[Aβ42]/[Aβ40]+f
*[tTau]+g(モデル2)
さらに、受信者動作特性(ROC)曲線が、偽陽性率に対して真陽性率をプロットすることによって確立されている(
図1~4を参照)。真陽性率は感度としても知られる。偽陽性率は、フォールアウトまたは誤警報確率としても知られており、(1-特異度)として計算することができる。曲線下面積(AUC)を、試験を特徴付けるために決定した。
【0096】
実施例4
結果
1.集団1:全ての測定された患者:認知機能正常者、神経疾患者、および様々な種類の認知症の患者
以下の表1aに示すとおり構成された623人のヒト(373人のアミロイド陽性および250人のアミロイド陰性)の集団を第1のデータ分析に使用した:
【0097】
【0098】
集団は、上記のとおり、認知機能正常(NAなし)、並びに様々な種類の認知症の患者を含む。分析の結果は、以下の表1bに要約される。
【0099】
【0100】
したがって、モデル1(Ab42+Ab40+tTau)は、
logit(p)=0.97+0.11*[tTau]-0.25*[Aβ42]+11.04*[Aβ40]
と記述することができ、
モデル2(Ab42/Ab40+tTau)は、
logit(p)=1.80+0.09*[tTau]-43.19*[Aβ42]/[Aβ40]
と記述することができる。
【0101】
4つの異なるマーカーの組み合わせの分析の品質は、
図1に示され、表1cに明記されるとおり感度と特異度によって特徴付けることができる。
【0102】
【0103】
明らかに、現在使用されているマーカーの標準的な組み合わせ(Ab42/Ab40)を改善することができる。Aβ42、Aβ40、およびtTauのマーカーの組み合わせは、標準の組み合わせよりも優れており、モデル1が最良の結果を与える。
【0104】
2.集団2:認知機能正常者およびアルツハイマー病の様々な病期の患者
以下の表2aに示すとおり構成された、381人のヒトの集団を、第2のデータ分析で使用した。
【0105】
【0106】
集団は、認知機能正常者、並びにアルツハイマー病の様々な病期の患者を含むが、他の形態の認知症および神経疾患は除外される。分析の結果は、以下の表2bに要約される。
【0107】
【0108】
したがって、モデル1(Ab42+Ab40+tTau)は、
logit(p)=2.33+0.13*[tTau]-0.39*[Aβ42]+16.95*[Aβ40]
と記述することができ、
モデル2(Ab42/Ab40+tTau)は、
logit(p)=3.70+0.09*[tTau]+66.44*[Aβ42]/[Aβ40]
と記述することができる。
【0109】
4つの異なるマーカーの組み合わせの分析の品質は、
図2に示され、表2cに明記されるとおり感度と特異度によって特徴付けることができる。
【0110】
【0111】
明らかに、現在使用されているマーカーの標準的な組み合わせ(Ab42/Ab40)を改善することができる。Aβ42、Aβ40、およびtTauのマーカーの組み合わせは、標準の組み合わせよりも優れており、モデル1が最良の結果を与える。集団1においては、認知症患者が認知症診断において偽認知症群に割り当てられていた可能性があるため、他の認知症の患者を除外した集団の分析は、より良い結果につながり得ると仮定される。この仮定は、アミロイド陰性認知症を患っている患者の脳脊髄液試料がアミロイド陽性であることが判明したという事実に基づいている(表1aを参照)。
【0112】
3.集団3:認知機能正常者および軽度認知機能障害の患者
以下の表3aに示すとおり構成された、151人のヒトの集団を、第3のデータ分析で使用した。
【0113】
【0114】
集団は、上記のとおり、認知機能正常者、並びに軽度の認知機能障害の患者を含む。分析の結果は、以下の表3bに要約される。
【0115】
【0116】
したがって、モデル1(Ab42+Ab40+tTau)は、
logit(p)=2.69+0.03*[tTau]-0.38*[Aβ42]+16.28*[Aβ40]
と記述することができ、
モデル2(Ab42/Ab40+tTau)は、
logit(p)=4.50+0*[tTau]+76.09*[Aβ42]/[Aβ40]
と記述することができる。
【0117】
4つの異なるマーカーの組み合わせの分析の品質は、
図3に示され、表3cに明記されるとおり感度と特異度によって特徴付けることができる。
【0118】
【0119】
明らかに、現在使用されているマーカーの標準的な組み合わせ(Ab42/Ab40)を改善することができる。Aβ42、Aβ40、およびtTauのマーカーの組み合わせは、標準の組み合わせよりも優れており、モデル1が最良の結果を与える。集団3は、アルツハイマー病の非常に初期の病期としてのMCIの検出において特に診断的に関心があるものである。
【0120】
4.集団4:認知機能正常者、および軽度認知機能障害または軽度アルツハイマー病の患者
以下の表4aに示すとおり構成された、251人のヒトの集団を、第4のデータ分析で使用した。
【0121】
【0122】
集団は、上記のとおり、認知機能正常(NAなし)、並びに軽度認知機能障害または軽度アルツハイマー病の患者を含む。分析の結果は、以下の表4bに要約される。
【0123】
【0124】
したがって、モデル1(Ab42+Ab40+tTau)は、
logit(p)=3.00+0.06*[tTau]-0.46*[Aβ42]+20.90*[Aβ40]
と記述することができ、
モデル2(Ab42/Ab40+tTau)は、
logit(p)=5.13+0.04*[tTau]+85.46*[Aβ42]/[Aβ40]
と記述することができる。
【0125】
4つの異なるマーカーの組み合わせの分析の品質は、
図4に示され、表4cに明記されるとおり感度と特異度によって特徴付けることができる。
【0126】
【0127】
明らかに、現在使用されているマーカーの標準的な組み合わせ(Ab42/Ab40)を改善することができる。Aβ42、Aβ40、およびtTauのマーカーの組み合わせは、標準の組み合わせよりも優れており、モデル1が最良の結果を与える。集団4は、MCIを含むADの初期病期の検出において特に診断的に関心があるものである。
【0128】
5.概要の表
【0129】