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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】左右輪駆動装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 48/36 20120101AFI20240215BHJP
   F16H 48/10 20120101ALI20240215BHJP
   F16H 48/34 20120101ALI20240215BHJP
【FI】
F16H48/36
F16H48/10
F16H48/34
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021503428
(86)(22)【出願日】2019-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2019050664
(87)【国際公開番号】W WO2020179202
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-07-29
【審判番号】
【審判請求日】2023-08-09
(31)【優先権主張番号】P 2019040350
(32)【優先日】2019-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183689
【弁理士】
【氏名又は名称】諏訪 華子
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 直樹
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 公伸
(72)【発明者】
【氏名】千葉 元晴
【合議体】
【審判長】中屋 裕一郎
【審判官】小川 恭司
【審判官】尾崎 和寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-84315(JP,A)
【文献】特開2018-54099(JP,A)
【文献】特開2017-203503(JP,A)
【文献】特開平11-240349(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0162215(US,A1)
【文献】特表2015-508353(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 48/10
F16H 48/36
F16H 1/22
B60L 15/20
B60K 1/02
B60L 9/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の左右輪を駆動する第一モータ及び第二モータと、前記第一モータ及び前記第二モータのトルク差を増幅して前記左右輪の各々に伝達する歯車機構とを具備する左右輪駆動装置において、
前記第一モータ及び前記第二モータの各回転軸が同軸に配置されているとともに、
前記各回転軸と同軸上に位置し、モータ歯車が介装されたモータ軸と、
前記モータ軸と平行に配置され、前記モータ歯車と噛合する第一中間歯車及び前記第一中間歯車よりも小径の第二中間歯車が介装されたカウンタ軸と、
前記モータ軸と平行に配置され、前記第二中間歯車と噛合する出力歯車が介装された出力軸と、を備え、
前記出力軸は、その一端側に前記歯車機構が配置され、その他端側に前記左右輪の一方が配置されているとともに、側面視で、前記出力歯車の一部が前記第一モータ及び前記第二モータと重なるように配置され、
前記カウンタ軸は、側面視で、前記モータ軸と前記出力軸とを結ぶ仮想的な直線よりも車両下方に配置されているとともに、側面視で、前記第一中間歯車が前記第一モータ及び前記第二モータの外周面よりも径方向内側に位置するように配置されている
ことを特徴とする、左右輪駆動装置。
【請求項2】
前記モータ軸は、前記第一モータ及び前記第二モータの間に位置し、
前記第二中間歯車は、前記第一中間歯車よりも前記モータ側に配置され、
前記歯車機構は、前記第一モータ側の前記出力歯車と前記第二モータ側の前記出力歯車との間に配置されている
ことを特徴とする、請求項1記載の左右輪駆動装置
【請求項3】
前記第一モータ及び前記第二モータの各モータハウジングに連結されて少なくとも前記モータ軸を収容するケーシングと、
前記ケーシングの上部に設けられ、前記各モータハウジングの内部及び前記ケーシングの内部にオイルを供給するための注入口と、を備え、
前記モータ軸は、前記第一モータ及び前記第二モータの間に配置され、
前記注入口は、二つの前記モータハウジングの間の空間に配置されている
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の左右輪駆動装置。
【請求項4】
前記出力軸は、互いに離隔する二つの軸受により軸支されるとともに、車幅方向外側の端部に設けられたジョイント部を有し、
前記ジョイント部は、前記第一モータ及び前記第二モータの端面よりも車幅方向外側に配置されている
ことを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載の左右輪駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の左右輪を駆動する二つのモータと、これらのモータのトルク差を増幅して左右輪の各々に伝達する歯車機構とを備えた左右輪駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、独立した二つのモータからの駆動トルクを左右の駆動輪に伝達する際に、二つの駆動トルクの差(トルク差)を増幅して伝達する増幅機構を備えた車両が知られている。増幅機構を備えることで、大きなトルク差を左右輪に与えられるというメリットがある一方、駆動装置全体が大型化するというデメリットがある。例えば、二つのモータを車軸上に配置した場合には車幅方向の寸法増大を回避しにくい。このため、モータを車軸上には配置せず、モータからの駆動トルクの差を増幅機構に伝達するようにした車両駆動装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-203503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の特許文献1の第一実施形態(図1図2等)の構成では、モータから左右の駆動輪までの動力伝達経路が長く、小型化が難しいという課題がある。また、上記の特許文献1の第二実施形態(図7図8等)や第三実施形態(図11図12等)の構成では、モータから左右の駆動輪までの動力伝達経路は第一実施形態のものより短いものの、モータの回転速度を減速するギヤ列が一段しか存在せず(カウンタギヤのギヤ列が一段しか存在せず)、十分なトルク(トルク差)を左右輪に伝達するためには改善の余地がある。
【0005】
本件は、このような課題に鑑み案出されたもので、モータの回転速度を減速する減速ギヤ列及び二つのモータのトルク差を増幅する歯車機構を内蔵した小型な駆動装置を提供することを目的の一つとする。なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)ここで開示する左右輪駆動装置は、車両の左右輪を駆動する第一モータ及び第二モータと、前記第一モータ及び前記第二モータのトルク差を増幅して前記左右輪の各々に伝達する歯車機構とを具備する。この左右輪駆動装置では、前記第一モータ及び前記第二モータの各回転軸が同軸に配置されている。また、前記左右輪駆動装置は、前記各回転軸と同軸上に位置し、モータ歯車が介装されたモータ軸と、前記モータ軸と平行に配置され、前記モータ歯車と噛合する第一中間歯車及び前記第一中間歯車よりも小径の第二中間歯車が介装されたカウンタ軸と、前記モータ軸と平行に配置され、前記第二中間歯車と噛合する出力歯車が介装された出力軸と、を備える。前記出力軸は、その一端側に前記歯車機構が配置され、その他端側に前記左右輪の一方が配置されているとともに、側面視で、前記出力歯車の一部が前記第一モータ及び前記第二モータと重なるように配置され、前記カウンタ軸は、側面視で、前記モータ軸と前記出力軸とを結ぶ仮想的な直線よりも車両下方に配置されているとともに、側面視で、前記第一中間歯車が前記第一モータ及び前記第二モータの外周面よりも径方向内側に位置するように配置されている
【0007】
(2)前記モータ軸は、前記第一モータ及び前記第二モータの間に位置し、前記第二中間歯車は、前記第一中間歯車よりも前記モータ側に配置され、前記歯車機構は、前記第一モータ側の前記出力歯車と前記第二モータ側の前記出力歯車との間に配置されていることが好ましい
【0009】
)前記左右輪駆動装置は、前記第一モータ及び前記第二モータの各モータハウジングに連結されて少なくとも前記モータ軸を収容するケーシングと、前記ケーシングの上部に設けられ、前記各モータハウジングの内部及び前記ケーシングの内部にオイルを供給するための注入口と、を備えることが好ましい。この場合、前記モータ軸は、前記第一モータ及び前記第二モータの間に配置され、前記注入口は、二つの前記モータハウジングの間の空間に配置されていることが好ましい。
【0010】
)前記出力軸は、互いに離隔する二つの軸受により軸支されるとともに、車幅方向外側の端部に設けられたジョイント部を有し、前記ジョイント部は、前記第一モータ及び前記第二モータの端面よりも車幅方向外側に配置されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
開示の左右輪駆動装置によれば、モータの回転速度を減速する減速ギヤ列及びトルク差増幅機能を持つ歯車機構を内蔵した小型な左右輪駆動装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態に係る左右輪駆動装置の構成を説明するための模式図である。
図2】実施形態に係る左右輪駆動装置を例示するスケルトン図である。
図3図1のA-A矢視断面図である。
図4】変形例に係る左右輪駆動装置を例示するスケルトン図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図面を参照して、実施形態としての左右輪駆動装置について説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0014】
[1.構成]
本実施形態の左右輪駆動装置(以下「駆動装置10」という)を図1に示す。この駆動装置10は、AYC(アクティブヨーコントロール)機能を持った車両用のディファレンシャル装置であり、左右輪の間に介装される。AYC機能とは、左右駆動輪における駆動力(駆動トルク)の分担割合を主体的に制御することでヨーモーメントの大きさを調節し、これを以て車両のヨー方向の姿勢を安定させる機能である。本実施形態の駆動装置10は、AYC機能だけでなく、駆動トルクを左右輪に伝達して車両を走行させる機能と、車両旋回時に発生する左右輪の回転数差を受動的に吸収する機能とを併せ持つ。
【0015】
駆動装置10は、左右輪を駆動する第一モータ1及び第二モータ2と、第一モータ1及び第二モータ2の回転速度を減速しながら伝達する減速ギヤ列と、第一モータ1及び第二モータ2のトルク差を増幅して左右輪の各々に伝達する歯車機構3とを備える。第一モータ1は車両の左側に配置され、第二モータ2は右側に配置される。これらの第一モータ1及び第二モータ2は、図示しないバッテリの電力で駆動される交流モータであり、好ましくは出力特性がほぼ同一とされる。左右駆動輪のトルクは可変であり、第一モータ1と第二モータ2とのトルク差が、歯車機構3において増幅されて左右輪の各々に伝達される。
【0016】
第一モータ1には、回転軸1Aと一体で回転するロータ1Bと、モータハウジング1Dに固定されたステータ1Cとが設けられる。同様に、第二モータ2には、回転軸2Aと一体で回転するロータ2Bと、モータハウジング2Dに固定されたステータ2Cとが設けられる。第一モータ1及び第二モータ2は、二つの回転軸1A,2Aがいずれも車幅方向に延びる姿勢で、互いに離隔して対向配置される。各回転軸1A,2Aは回転中心C1が一致するように同軸上に配置される。
【0017】
歯車機構3は、所定の増幅率でトルク差を増幅する機能を持ち、例えば差動機構や遊星歯車機構等で構成される。図2に、遊星歯車機構で構成された歯車機構3の一例を示す。この歯車機構3は、サンギヤ3S1及びリングギヤ3Rが入力要素であり、サンギヤ3S2及びキャリア3Cが出力要素であるダブルピニオン遊星歯車である。サンギヤ3S1には第一モータ1からのトルクが入力され、リングギヤ3Rには第二モータ2からのトルクが入力される。入力要素は後述する出力歯車24と一体回転するよう設けられ、出力要素は後述する出力軸13と一体回転するように設けられる。なお、歯車機構3の構成はこれに限られず、様々な構成の遊星歯車機構や遊星歯車機構以外の機構を採用可能である。
【0018】
図1及び図2に示すように、本実施形態の駆動装置10には、いずれも平行に配置された三つの軸が二組設けられ、これら三つの軸に二段階で減速する減速ギヤ列が設けられる。以下、三つの軸を、各モータ1,2から左右輪への動力伝達経路の上流側から順に、モータ軸11,カウンタ軸12,出力軸13と呼ぶ。これらの軸11~13は二つずつ設けられる。図1に示すように、左右に位置する二つのモータ軸11,二つのカウンタ軸12,二つの出力軸13は、それぞれが同様に(左右対称に)構成される。また、これらの軸11~13に設けられる減速ギヤ列も左右で同様に(左右対称に)構成される。
【0019】
モータ軸11は、回転中心C1を持つ中空円筒形状に形成され、左右のモータ1,2の各回転軸1A,2Aと同軸上に位置する。本実施形態のモータ軸11は回転軸1A,2Aと一体で設けられているが、これらが別体で設けられて接合,連結されたものであってもよい。モータ軸11には、モータ歯車21が介装される。モータ軸11は、第一モータ1及び第二モータ2の間に位置し、図示しない軸受により回転自在に支持される。
【0020】
カウンタ軸12は、回転中心C2を持つ中空円筒状に形成され、モータ軸11と平行に配置される。カウンタ軸12には、モータ歯車21と噛合する第一中間歯車22と、第一中間歯車22よりも小径の第二中間歯車23とが介装される。左側の第二中間歯車23は、左側の第一中間歯車22よりも第一モータ1側(左側)に配置され、右側の第二中間歯車23は、右側の第一中間歯車22よりも第二モータ2側(右側)に配置される。すなわち、大径の第一中間歯車22の方が小径の第二中間歯車23よりも車幅方向内側に配置される。なお、これらの中間歯車22,23は互いに近接配置されることが好ましい。また、モータ歯車21と第一中間歯車22とで、一段目の減速ギヤ列が構成される。
【0021】
カウンタ軸12は、第一モータ1及び第二モータ2の間に位置し、図示しない軸受により回転自在に支持される。また、図3に示すように、カウンタ軸12は側面視で、第一中間歯車22が第一モータ1及び第二モータ2の外周面1f,2fよりも径方向内側に位置するように配置される。つまり、カウンタ軸12上の歯車22,23は、車両側方から見ると、モータ1,2と完全に重なっている。さらに本実施形態のカウンタ軸12は、側面視で、モータ軸11と出力軸13とを結ぶ仮想的な直線L(二点鎖線)よりも車両下方に配置される。
【0022】
図1に示すように、出力軸13は、回転中心C3を持つ中空円筒状に形成され、モータ軸11と平行に配置される。出力軸13には、第二中間歯車23と噛合する出力歯車24が介装される。第二中間歯車23と出力歯車24とで、二段目の減速ギヤ列が構成される。これらの各歯車21~24は、左右のモータ1,2から左右輪への動力伝達経路上に位置する。
【0023】
本実施形態の出力歯車24は、外歯が形成された歯部24aと一体で設けられた円筒部24bを有し、円筒部24bが出力軸13の外周面の一部に摺動可能に外嵌されることで出力軸13に介装される。出力歯車24は、例えば弦巻線状の歯筋を有するはすば歯車であり、駆動装置10に内装される最大径のギヤである。
【0024】
出力軸13の一端側(車幅方向内側)には歯車機構3が配置され、出力軸13の他端側(車幅方向外側)には左右輪の一方が配置される。つまり、駆動装置10では、左右のモータ1,2が、左右輪が設けられる出力軸13上に配置されず、出力軸13からオフセットして配置される。なお、図1には左右輪の図示を省略し、左右輪に連結されるジョイント部14を図示している。
【0025】
歯車機構3は、第一モータ1側の出力歯車24と第二モータ2側の出力歯車24との間に配置される。歯車機構3が遊星歯車機構である場合には、歯車機構3の出力要素と出力軸13とが一体回転するよう設けられる。例えば図2に示すように、歯車機構3の出力要素(サンギヤ3S2,キャリア3C)と出力軸13とが一体回転するように設けられる。なお、出力軸13と歯車機構3との連結方法は図2に示すものに限られない。
【0026】
図1に示すように、出力軸13は、互いに離隔する二つの軸受25,26により軸支される。本実施形態の出力軸13は、出力軸13に外嵌された円筒部24bが軸受25,26により軸支されることで、ケーシング15に対して回転可能に支持される。一端側(車幅方向内側)の軸受25は歯部24aに近接配置され、他端側(車幅方向外側)の軸受26は円筒部24bの端部に配置される。このように二つの軸受25,26の間隔を広く確保することで、出力軸13が安定する。
【0027】
出力軸13の車幅方向外側の端部には、ジョイント部14が設けられる。本実施形態のジョイント部14は、第一モータ1及び第二モータ2の端面1e,2eよりも車幅方向外側に配置される。言い換えると、ジョイント部14が各モータ1,2の端面1e,2eよりも車幅方向外側に位置するように、出力軸13の長さが設定される。また、図3に示すように、出力軸13は側面視で、出力歯車24の一部が第一モータ1及び第二モータ2と重なるように配置される。
【0028】
図1に示すように、本実施形態のケーシング15は、第一モータ1及び第二モータ2の各モータハウジング1D,2Dに連結され、各軸11~13や歯車機構3等を収容するものである。ケーシング15は一体ものであってもよいし、複数のパーツが組み合わされて構成されたものであってもよい。ケーシング15の上面は、各モータハウジング1D,2Dの外周面1f,2fよりも回転中心C1側に位置する。これにより、駆動装置10には、第一モータ1及び第二モータ2の間であってケーシング15の上部に位置する凹部16が設けられる。凹部16は、左右のモータ1,2の間に空間を形成する部位であり、ケーシング15の内方向へ凹設された部位ともいえる。
【0029】
ところで、各モータ1,2のロータ1B,2B及びステータ1C,2Cは作動に伴い発熱するため、冷却が必要である。また、各軸11~13を支持する軸受や歯車機構3内の軸受は、滑らかに動作するために潤滑が必要である。したがって、駆動装置10には、冷却及び潤滑のためのオイルを注入するための注入口17と、注入されたオイルをモータ1,2や軸受に導くための経路と、オイルを貯留するための貯留部18とが設けられる。
【0030】
注入口17は、ケーシング15の上部に二つ設けられ、オイルが注入される開口(入口)である。各注入口17から注入されたオイルは、各モータハウジング1D,2Dの内部及びケーシング15の内部に供給される。本実施形態の注入口17は、二つのモータハウジング1D,2Dの間の空間(凹部16内)に配置されており、凹部16に形成された突起部に設けられる。なお、二つの注入口17のうちの一方から注入されたオイルは第一モータ1側(左側)へ導かれ、他方から注入されたオイルは第二モータ2側(右側)へ導かれる。図1では、二つの注入口17が紙面に直交する方向に二つ並設されている場合を例示しているが、二つの注入口17が車幅方向に並設されていてもよい。
【0031】
本実施形態の駆動装置10では、オイルを導くための経路が大きく分けて三つ存在する。第一経路は、おもに各モータ1,2のロータ1B,2B及びステータ1C,2Cを冷却する機能を持つ。第一経路は、例えば、第一モータ1及び第二モータ2の各回転軸1A,2Aの内部空間と、各回転軸1A,2Aの複数個所で放射状に穿孔された孔部(図示略)とから構成される。
【0032】
第二経路は、おもに各軸11~13を支持する軸受を潤滑する機能を持つ。第二経路は、例えば、ケーシング15における注入口17の下方に位置する部分や各モータ軸11にスリット状に形成された開口部(図示略)から構成される。第三経路は、おもに歯車機構3内の軸受を潤滑する機能を持つ。第三経路は、例えば、出力軸13を径方向に貫通する孔部(図示略)と、出力軸13と円筒部24bとの間において軸方向に延設される隙間とから構成される。なお、オイルを導くための経路の構成はこれらに限られない。
【0033】
貯留部18は、ケーシング15の下部に設けられ、下方に落下してきたオイルを貯留する容器形状の部位である。貯留部18には吸引口(図示略)が設けられ、吸引口にはオイル通路(図示略)が接続される。貯留部18内のオイルは、この吸引口から外部へ吸引され、オイル通路上に介装されたオイルポンプ及びオイルクーラ(何れも図示略)を介して再び注入口17から注入される。
【0034】
[2.作用,効果]
(1)上述した駆動装置10では、左右のモータ1,2が出力軸13上に配置されない(出力軸13からオフセットして配置される)ことから、左右のモータが出力軸上に配置される構成と比較して駆動装置10の車幅方向寸法を短くすることができる。さらに、カウンタ軸12には二つの中間歯車22,23が介装され、モータ軸11,カウンタ軸12,出力軸13がいずれも平行に配置された三軸構造であることから、モータ1,2の回転速度を減速する減速ギヤ列及びトルク差増幅機能を持つ歯車機構3を内蔵した小型な駆動装置10を実現できる。
【0035】
(2)上述した駆動装置10では、カウンタ軸12に設けられる二つの中間歯車22,23のうち小径の第二中間歯車23がモータ1,2側(車幅方向外側)に配置されるため、これに噛み合う左右の出力歯車24が互いに間隔をあけて配置される。そして、この左右の出力歯車24の間の空間に歯車機構3が配置されることから、出力歯車24と歯車機構3とを近接配置することができる。したがって、駆動装置10をより小型化することができる。
【0036】
(3)上述したカウンタ軸12は、側面視で、大径の第一中間歯車22が左右のモータ1,2の外周面1f,2fよりも径方向内側に位置するように配置される。つまり、カウンタ軸12及びこれに介装される二つの中間歯車22,23が全てモータ1,2の径内に収まる。したがって、駆動装置10をより小型化することができる。
【0037】
(4)また、上述した出力軸13は、側面視で、出力歯車24の一部が左右のモータ1,2の両方と重なるように配置される。すなわち、カウンタ軸12と出力歯車24とが近接するように出力軸13が配置されるため、駆動装置10をより小型化することができる。
【0038】
(5)上述したカウンタ軸12は、側面視で、モータ軸11と出力軸13とを結ぶ仮想的な直線L(図3中の二点鎖線)よりも車両下方に配置される。このように、カウンタ軸12を直線L上からずらすことで駆動装置10を小型化でき、さらにカウンタ軸12を下方に配置することでカウンタ軸12を支持する軸受にオイルが供給されやすくなり、潤滑性能を高めることもできる。
【0039】
(6)上述した駆動装置10では、ケーシング15の上部の注入口17が二つのモータハウジング1D,2Dの間の空間(凹部16)に配置されるため、デッドスペースを有効活用でき、駆動装置10の小型化に寄与できる。さらに、ケーシング15の上部に注入口17を設けることで、重力も利用してケーシング15内及びモータハウジング1D,2D内にオイルを供給することができ、潤滑性能を高めることもできる。
【0040】
(7)上述した出力軸13は、互いに離隔する二つの軸受25,26により軸支されており、その端部に設けられたジョイント部14が各モータ1,2の端面1e,2eよりも車幅方向外側に配置される。これにより、二つの軸受25,26間の距離を広く確保できるため、出力軸13の安定化を図ることができる。さらに、ジョイント部14が各モータ1,2に干渉することがない。したがって、駆動装置10を小型化しつつ出力軸13の干渉防止をも図ることができる。
【0041】
[3.変形例]
上述した駆動装置10の構成は一例であって、上述したものに限られない。例えば、側面視で、カウンタ軸12がモータ軸11と出力軸13とを結ぶ直線Lよりも上方に配置されてもよいし、二つの中間歯車22,23の一部がモータ1,2と重ならないようにカウンタ軸12が配置されてもよい。また、出力歯車24がモータ1,2と重ならないように出力軸13が配置されてもよい。なお、二つの中間歯車22,23の配置が上記と逆(大径の第一中間歯車22がモータ1,2側に)配置されてもよい。また、モータ軸11,カウンタ軸12,出力軸13がいずれも中空状である場合を例示したが、各軸11~13の形状は特に限られない。
【0042】
上述した駆動装置10では、左右のモータ1,2の間に各モータ軸11が配置されるように左右のモータ1,2が互いに離隔して対向配置されているが、モータ1,2の配置はこれに限られない。例えば図4に示すように、左右のモータ1,2の車幅方向外側に、モータ軸11及びカウンタ軸12が配置されてもよい。この場合の歯車機構3′では、右の出力歯車24がリングギヤ3Rとは別体で設けられ、これらを繋ぐ円筒部が設けられる。
【0043】
このような駆動装置10′であっても、上述した実施形態と同様、左右のモータ1,2が出力軸13上に配置されないことから、駆動装置10′の車幅方向寸法を短くすることができる。さらに、カウンタ軸12には二つの中間歯車22,23が介装され、モータ軸11,カウンタ軸12,出力軸13がいずれも平行に配置された三軸構造であることから、モータ1,2の回転速度を減速する減速ギヤ列及びトルク差増幅機能を持つ歯車機構3′を内蔵した小型な駆動装置10′を実現できる。
【0044】
上述したケーシング15の形状や注入口17の配置は特に限られないが、ケーシング15が一体ものではなく分割構造の場合、少なくともモータ軸11を収容するケーシング(ケーシング部)に、注入口17が設けられていることが好ましい。なお、注入口17からケーシング15内及びモータハウジング1D,2D内に供給したオイルの経路は上述したものに限られない。また、ジョイント部14が、モータ1,2の各端面1e,2eよりも車幅方向内側に位置するように出力軸13の車幅方向寸法が設定されていてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 第一モータ
1A 回転軸
1D モータハウジング
1e 端面
1f 外周面
2 第二モータ
2A 回転軸
2D モータハウジング
2e 端面
2f 外周面
3,3′ 歯車機構
10,10′ 駆動装置(左右輪駆動装置)
11 モータ軸
12 カウンタ軸
13 出力軸
14 ジョイント部
15 ケーシング
16 凹部
17 注入口
21 モータ歯車
22 第一中間歯車
23 第二中間歯車
24 出力歯車
図1
図2
図3
図4