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特許7437407単一分子イメージングのための生体分子のグラフェンによるカプセル化
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】単一分子イメージングのための生体分子のグラフェンによるカプセル化
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/28 20060101AFI20240215BHJP
   C01B 32/182 20170101ALI20240215BHJP
【FI】
G01N1/28 W
C01B32/182
G01N1/28 J
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021547472
(86)(22)【出願日】2020-02-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-30
(86)【国際出願番号】 IB2020051145
(87)【国際公開番号】W WO2020165800
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2022-12-07
(31)【優先権主張番号】62/804,856
(32)【優先日】2019-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518283469
【氏名又は名称】ブルカー エイエックスエス ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ オーリンジャー
(72)【発明者】
【氏名】ロジャー ディー.ダースト
【審査官】佐々木 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-229401(JP,A)
【文献】Yuda Zhao 他,Enhanced SERS Stability of R6G Molecules with Monolayer Graphene,[Online]The Journal of Physical Chemistry,2014年05月14日,11827-11832,https://pubs.acs.org/doi/epdf/10.1021/jp503487a
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00- 1/44
C01B32/00-32/991
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料のイメージング試験において使用する、対象となる生体物質の単一分子の試料を準備する方法であって、
前記単一分子の前記試料をグラフェン基板上に付着することと、
前記単一分子を取り巻く余分なバルク流体を除去することと、
グラフェンの包囲層を堆積し、前記単一分子の前記試料をカプセル化するように前記包囲層を前記グラフェン基板に封入することと、
を備えた方法。
【請求項2】
前記単一分子の前記試料がナノピペッティングによって付着される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記試料の前記付着の前に、前記グラフェン基板、及び、前記単一分子と束縛される化学的リンカーを前記グラフェン基板上に付着する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記単一分子を取り巻く余分なバルク流体を前記除去することが、メカニカルブロッティングを備える、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記単一分子を取り巻く余分なバルク流体を前記除去することが、制御された蒸発を備える、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記グラフェン基板が、導電性キャリア、及び、前記単一分子の前記試料と電気的に接触している、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記グラフェン基板が、電気的に接触した導電性支持グリッド上に載上され、前記単一分子と電気的に接触している、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記導電性キャリアが第1の導電性キャリアであり、グラフェンの前記包囲層が、第2の導電性キャリア、及び、前記単一分子の前記試料と電気的に接触している、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記第2の導電性キャリアが、単一の照射開口部を有する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記第2の導電性キャリアが、導電性支持グリッドを有する、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
グラフェンの前記包囲層を堆積することが、前記包囲層を水浴の表面上に浮かせ、前記グラフェン基板と接触するように前記包囲層を動かすことを備える、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記グラフェン基板と前記グラフェンの包囲層は、それぞれ異なる導電性キャリア上に載上され、前記導電性キャリアは前記単一分子の前記試料の前記カプセル化をするために互いに結合されている、請求項1乃至11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
試料のイメージング試験の対象である生体物質の単一分子の試料のためのカプセル化構造であって、
導電性キャリアと、
前記導電性キャリアと電気的に接触し、前記試料が付着されるグラフェン基板と、
前記試料を覆い、前記グラフェン基板と束縛されるグラフェンの包囲層と、
を備え
前記導電性キャリアは、前記グラフェン基板がその上に載上される導電性支持グリッドを備える、カプセル化構造。
【請求項14】
前記導電性キャリアが、第1の導電性キャリアであり、前記グラフェンの包囲層が導電的に接触している第2の導電性キャリアをさらに有する、請求項13に記載のカプセル化構造。
【請求項15】
前記第2の導電性キャリアは、単一の照射開口部を除き、前記イメージング試験に用いられる照射対して不透明である、請求項14に記載のカプセル化構造。
【請求項16】
前記導電性支持グリッドは第1の導電性支持グリッドであり、
前記導電性キャリアは第1の導電性キャリアであり、前記カプセル化構造は、前記グラフェンの包囲層が電気的に接触している第2の導電性キャリアをさらに備え、
前記第2の導電性キャリアは第2の導電性支持グリッドを有し、
前記第1の導電性キャリア及び前記第2の導電性キャリア、前記第1の導電性支持グリッドと前記第2の導電性支持グリッドとが、カプセル化の際、互いに整列するように配置される、請求項13に記載のカプセル化構造。
【請求項17】
前記グラフェン基板と前記単一分子と束縛され、前記グラフェン基板上に付着された化学的リンカーをさらに備えた、請求項13乃至16のいずれか一項に記載のカプセル化構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、単一分子イメージングのための生体分子のグラフェンによるカプセル化に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは、電子に対して実質的に透明であり、機械的に強固であり、また、真空中における脱水から試料を保護できるという点で、電子イメージングにとって好適な基板であることが知られている。例えば、非特許文献1では、電子顕微鏡において細胞と細胞小器官を保護するためのグラフェンの使用が述べられている。
【0003】
生体試料の真空からの保護以外にも、グラフェンは生体試料をフリーラジカルによる損傷から保護できることが知られている。すなわち、電子照射下では、水分子は加水分解され、生体試料を損傷させ得るフリーラジカルを生成する。グラフェンは、例えば、非特許文献2で論じられるように、このようなフリーラジカルを除去することが知られており、それゆえ、生体試料を保護する。
【0004】
単一の生体分子をイオン化による照射損傷から保護するために、グラフェンの自立したシート上に載上されることが可能であることが提案されている(例えば、非特許文献3参照)。非特許文献4は、2層のグラフェン間に付着した単層のMoS2が、単層のグラフェン上に付着した同じ層と比較して、照射損傷が軽減されることを述べている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】M. Wojcik et al, “Graphene-enabled electron microscopy and correlated super-resolution microscopy of wet cells”, Nature Communications, 6 (2015)
【文献】H. Cho et al., “The Use of Graphene and Its Derivatives for Liquid-Phase Transmission Electron Microscopy of Radiation-Sensitive Specimens”, Nano Lett., 17 (1), pp 414-420 (2017)
【文献】E. Fill et al., “Single-molecule electron diffraction imaging with charge replacement”, New Journal of Physics, 10 (2008)
【文献】R. Zan et al., “Control of Radiation Damage in MoS2 by Graphene Encapsulation”, ACS Nano, 7 (11), pp 10167-10174 (2013)
【文献】G. Rinke, et al., “Soft-landing electrospray ion beam deposition of sensitive oligoynes on surfaces in vacuum”, International Journal of Mass Spectrometry, Volume 377, pages 228-234 (2015)
【発明の概要】
【0006】
本質的に不規則である、または複数の構造をとる生体分子は、低温電子顕微鏡法や結晶学などの従来の構造解析技術では検査することができない。これに対し、X線や電子線を用いたコヒーレント回折イメージング(CDI)は単一分子イメージングのために提案されている技術の1つである。特に電子は、非弾性散乱に対する弾性散乱の割合が非常に高いため、CDIに有利な可能性を有する。しかしながら、電子CDIには実用上の課題もある。特に、生体分子は非常に破壊されやすく、試験の際は保護される必要がある。
【0007】
電子CDIの試験では、X線とは異なり、電子はバックガス中では伝播しないため、タンパク質のような試料分子は真空中で載上される必要がある。しかしながら、脱水はタンパク質の構造を変化できることが知られている。したがって、本発明は、脱水から試料を保護するために向けられる。さらに、本発明は、以下のようないくつかのメカニズムを介して発生し得る入射電子ビームによる照射損傷から試料を保護する。
1)分子を取り囲む水の加水分解(これにより、フリーラジカルによる損傷が発生する)
2)分子のイオン化
3)分子内における原子変位
【0008】
試料を真空や照射から保護することに加え、試料の分子が可能な限り自然な状態に保たれることが重要である。そこで、本発明は、分子を取り巻くバルク流体を除去しながら、分子が自然な水和シェル(すなわち、自然な構造)を保持するように、グラフェン基板上に単一分子を付着させることを含む。さらに、試料は試料と電気的に接触している第2のグラフェンシートで覆われる。したがって、試料は四方を高導電性グラフェン層に囲まれる。このような構成は、照射損傷を最大限に保護することを与え、真空中における脱水に対しても試料を保護する。
【0009】
本発明では、単一の生体分子は、本来の水和シェルはそのままに、任意の外部のバルク流体は除去される方法でグラフェンの層に付着される。水和シェルを維持することは、タンパク質が本来の環境にできるだけ近づくことが可能であることを保証し、それゆえ、自然な構造が保たれる。バルク流体を除去することは、水の加水分解による外部からの照射損傷を軽減する。また、電荷交換時間を短縮するために試料の分子とグラフェン層の間の電気的な接触を改善し、照射保護をさらに改善する。最終的には、バルク流体を除去することで、CDIの試験のS/N比を低下させる原因となる外部からの電子散乱も低減できる。
【0010】
第2のグラフェンの層は、試料をカプセル化するように適用される。これは、分子との電気的な接触が向上することを与え、照射保護が改善し、分子を真空脱水から保護する。改善された電気的な接触は、1枚のグラフェンでは十分な電気的な接触が得られない可能性がある物理的に大きな分子の場合、特に重要である。
【0011】
一実施形態では、対象となる分子は、周囲の溶液の液滴中に分子を滴下させるナノピペットを使用するなどによってグラフェン基板上に付着される。グラフェン基板は導電性グリッドで支持されてよく、分子は分子に向けられた電子照射を妨げないよう、グリッドの構造要素の間に付着される。付着後、分子を取り囲む余分な流体は、制御された蒸発やブロッティングなどによって除去され、分子だけが水和シェルに残る。その後、分子をグラフェンの囲いの中に封入するためにグラフェンのカバー層が追加され、水和状態を維持する。
【0012】
代替の実施形態では、対象となる分子とグラフェン基板を結合するためにリンカー分子が用いられてもよい。本実施形態では、まず、リンカーを含む溶液の液滴をナノピペッティングするなどの方法を用いて、リンカー分子がグラフェン基板上に付着される。リンカー分子は、導電性支持グリッドの隣接する構造要素の間など、基板の邪魔にならない領域に付着するように配置される。その後、リンカー分子を囲む余分な流体が除去され、対象となる分子を含む溶液がリンカーの位置にスポットされる。対象となる分子がリンカーに付着するまでの適切な時間を待った後、余分な溶液が洗浄され、リンカー分子と付着した対象となる分子が残る。その後、分子をカプセル化するために第2のグラフェンシートが適用される。
【0013】
本発明は、グリッド、及び、キャリアがグラフェン基板と電気的に接触するように、導電性グリッドが載上された導電性キャリアを用いるようにされてもよい。また、グラフェンの包囲層は導電性キャリアに載上されてもよく、基板層にカプセル化層を適用する場合、2つの導電性キャリアは一つにまとめられる。カプセル化グラフェン層に対する導電性キャリアは、基板キャリアと同様の支持グリッドを有してもよく、2つのキャリアは、カプセル化の際、支持グリッドが互いに整列するように配置される。カプセル化層に対する導電性キャリアは、イメージング試験で使用される照射に対して不透明であってもよいが、対象となる分子の位置に合わせた単一の照射開口部は例外である。
【0014】
イオン化を介した照射損傷を低減するためにグラフェンを単層で使用する先行技術は、分子の片側にしか十分な保護が得られないという点で限定される。電荷交換率は、分子内の電荷の伝導によって制限されるため、下層のグラフェン基板から幾何学的に離れた分子の部分は、損傷に対する保護が少なくなる。また、真空脱水に対する生体分子の保護もない。
【0015】
液体セル、すなわち、少量の水や流体に巻き込まれた試料において、照射損傷を低減するためにグラフェンカプセル化を用いることは、支配的な照射損傷メカニズムが照射加水分解によってバルク流体中に生成されるフリーラジカルであるという事実によって制限される。バルク流体の除去が行われないため、このような損傷が発生し、バルク流体による電子散乱は大きくなる。これらの要因により、フリーラジカルによる損傷と散乱レベルが高すぎて、高解像度での分子構造の決定ができないため、単一分子イメージングには不向きな構成となっている。
【0016】
照射損傷を低減するために、2枚のグラフェンの間にMoS2をカプセル化する先行技術は、2次元の結晶試料について述べられているが、単一の生体分子については述べられていない。したがって、バルク流体の存在による照射加水分解電子散乱を介したフリーラジカル損傷由来の照射損傷については考慮されていない。同様に、生体分子の単一分子イメージングに必要となる真空脱水に対する保護もない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A】本発明によるグラフェンカプセル化のためのクラムシェルアレンジメントの上半分を示す概略図である。
図1B図1Aに示される上半分に結合された、前述のグラフェンカプセル化に対するクラムシェルアレンジメントの下半分の概略図である。
図2A】本発明の第1の実施形態による、グラフェン基板上への対象となる分子を含む溶液のピペッティングを示す概略図である。
図2B図2Aのグラフェン基板上にピペッティングされた、対象となる分子を含む液滴を示す模式図である。
図2C】周囲の余分な流体の除去後における、図2Bに示される分子の概略図である。
図2D】カプセル化グラフェン層を適用した図2Cの分子の概略図である。
図3A】本発明の第2の実施形態による、グラフェン基板上へのリンカー分子を含む溶液のピペッティングを示す概略図である。
図3B図3Aのグラフェン基板上にピペッティングされたリンカー分子を含む液滴の模式図である。
図3C】周囲の余分な流体の除去後における、図3Bに示されるリンカー分子の模式図である。
図3D図3Cのリンカー分子が配置されているグラフェン基板上への対象となる分子を含む溶液の適用を示す模式図である。
図3E】余分な溶液の洗浄後における、図3Dのグラフェン基板上に付着したリンカー分子および対象となる分子の模式図である。
図3F】カプセル化グラフェン層が適用された、図3Eに示される付加されたリンカー分子および対象となる分子の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の例示的な実施形態では、いくつかの技術(例えば、エレクトロスプレイオンビーム蒸着(ES-IBD)または原子間力顕微鏡(AFM)を用いたナノピペッティングまたはナノスポッティングのうちの一つを用いて、単一分子がグラフェン基板上に付着される。ES-IBDでは(例えば、非特許文献5で論じられるように)、純粋なタンパク質イオンのビームが、真空中で基板上に堆積される。したがって、ES-IBDは、上述の通り、場合によっては対象となるタンパク質の構造を変化させ得る分子を脱水する傾向がある。
【0019】
本発明で用いられる好適なアプローチは、ナノピペッティングである。この場合、タンパク質を含む非常に少量の流体(例えば、フェムトリットル範囲)をグラフェン上に付着させるために、中空なAFMチップが用いられる。これは、タンパク質が常に水和状態であるという利点を有する。また、ES-IBDとは異なり、タンパク質を格子状の開口部の中心に正確に置くことができるため、その後のイメージングに最適である。
【0020】
本発明による例示的なナノピペッティングおよびカプセル化の方法を、図2Aから図2Dに模式的に示す。第1のグラフェン基板11は支持グリッド12上に配置され、構造部材のいくつかのみが断面で示されている。図2Aに示すように、ピペット20は、グリッド12による電子放射の妨げがないように、グリッドの隣接する構造部材の間のグラフェン基板の領域上に、タンパク質分子24を含む溶液の液滴22を吐出するために使用される。本発明の例示的な実施形態では、ピペット20は、サブミクロンサイズの出口ポートを有する中空の原子間力顕微鏡(AFM)チップである。液滴22は、図2Bに示されるように、グラフェン基板11にわたって同様な位置に付着され、同じ基板配置で複数の試験を行えるようにしてもよい。
【0021】
試料の付着後、図2Cに示されるように、蒸発などにより余分な流体が除去され、水和シェルの中にタンパク質分子24だけが残る。その後、分子24をカプセル化するために、グラフェンのカバー層26が追加される。これは、それぞれの水和層を持つ分子24をグラフェンの包囲の中に封入し、それによって水和状態が保持され、本明細書で述べられるように、分子にさらなる保護を与える。タンパク質を付着する別の方法は、まずグラフェン表面上に化学的リンカーを付着することである。このリンカーは、グラフェン表面と束縛され、対象となるタンパク質とも束縛される小分子である。このリンカーは、上述のナノピペッティング法を用いてグラフェン基板上に付着され得る。リンカーが付着された後は、タンパク質溶液はリンカーの位置にスポッティングされることができ、タンパク質はリンカーと結合する。その後、表面は、余分なタンパク質や溶媒を除去するために純水で洗浄されることができる。この代替実施形態の一例が図3Aから図3Fに示される。
【0022】
図3Aでは、図2Aのピペットと同様に、サブミクロンサイズの出口ポートを有する中空の原子間力顕微鏡(AFM)チップを使用し得るピペット30が、対象となるタンパク質分子に選択的に付着するリンカー分子34を含む液滴32を吐出する。液滴32は、グラフェン基板11上の、下層の支持グリッド12の構造要素の間の位置に付着される。その後、リンカー分子34を囲むバルク流体は、蒸発または本明細書で述べられる任意の他の方法によって除去され、図3Cに示されるように、リンカー分子は、グラフェン基板11上の所定の位置に束縛されたそれぞれの水和層とともに残る。
【0023】
図3Dに示されるように、タンパク質分子38を含むタンパク質溶液36がグラフェン基板11上に広げられ、リンカー分子34を覆う。次いで、溶液36中のタンパク質分子38がリンカー分子34に付着するのに適切な時間が与えられ、その後、余分な溶液が洗浄され、図3Eに示されるように、グラフェン基板11の表面上にリンカー分子/タンパク質分子の組み合わせ34/38が残る。続いて、図3Fに示されるように、第2のグラフェンの層がカプセル化層40として適用される。図2Aから図2Dの実施形態の図2Dに示されるステップと同様に、この第2のグラフェンシートの適用は、それぞれの水和層を有するリンカー分子/タンパク質分子34/38をグラフェンの包囲の中に封入し、それによって、それらの水和状態が保持され、本明細書の他の箇所で述べられるように保護される。
【0024】
上述したナノスケールのスポッティングアプローチは、タンパク質の脱水をもたらすものではない。しかしながら、タンパク質は余分な流体内に付着されており、この余分な流体は、水和シェルを保持しながら除去される必要がある。これを成す一つ方法は、吸収性の高い表面が余分な液体を吸収するために使われるメカニカルブロッティングを介することである。この場合、タンパク質を乱したり、グラフェンに機械的な損傷を引き起こしたりしないよう、ブロッターが液体に接触させられるべきだが、グラフェン自体には接触させないことが望ましい。すなわち、ブロッターとグラフェン層との間には、小さな機械的ギャップが残っているべきである。
【0025】
余分な流体を除去するための別のアプローチは、湿度と温度が固定された環境で水溶液中のタンパク質を蒸発させる、制御された蒸発を介することである。水和層は分子に化学的に結合しているため、バルク流体よりもゆっくりと蒸発する。これは、分子が余分なバルク液層を有さないことを結果的にもたらす。バルク流体層の除去は、流体中におけるフリーラジカルによる照射損傷を排除し、実効的な分解能を低下させる電子ビームの散乱も減少させる。また、グラフェン層との電気的な接触を最大化し、それによって、イオン化の中和率が増加する。
【0026】
グラフェン基板上への試料の付着後、その上にグラフェンの第2層を付着する。このカプセル化を成す一つの方法は、第2のカバーグラフェン層を水面から浮かせることである。すなわち、第2のグラフェンの層が水浴の表面に浮かべられる。載上されたタンパク質の試料を含む第1のグラフェンの表面を、浮いているグラフェンに接触させると、グラフェンが付着する。
【0027】
別のアプローチは、クラムシェルアレンジメントを使用することである。すなわち、第1の例では、図1Aに示されるように、キャリアフレームに配置されたグラフェン層上にタンパク質が付着される。図1Aでは、導電性キャリア10は、グラフェン層が上に堆積されている支持グリッド12をともなう領域を有する。図中では、キャリアは円形として示されているが、当業者であれば、他の形状も使用されてよいことを理解するであろう。別の導電性キャリア14では、図1Bに示されるように、第2のグラフェン層がマッチングフレーム16上に載上される。図1Bでは、グラフェン層は、導電性キャリア14の開口した領域の上に付着される。その後、2つのフレームは、圧着または類似の技術を用いて接着される。
【0028】
本実施形態において、図1Aおよび図1Bの楕円形の領域は、それぞれ導電性キャリア材料10および14の開口部を表している。図1Aの支持グリッド12は、キャリア材料10の開口した領域の全体を覆っており、グリッドの開口部のいずれかを照射が通過できるようになっている。本発明のこの形では、マッチングフレーム16は、その中心に1つの開口部18のみを有する。これは、照射が開口した領域の他の部分の通過を阻止するため、グリッド12内の1つの場所だけを撮像することを与える。代替的に、キャリア10のグリッド12のようなグリッドをキャリア14に使用して、クラムシェルアレンジメントの2つの半分にマッチング面を作り、それによって開口した領域の領域全体の複数の場所で照射による撮像を与えることもできる。両側のいずれかまたは両方のグリッド材料は、導電性キャリアとは別の導電性材料であるが、代替的な実施形態では、グリッドは同じ材料であってもよく、場合によってはキャリア材料と一体化していてもよい。これら2つの構造体の形態にかかわらず、それぞれのキャリア上のグラフェン層は、構造体の内部に試料分子を封入し、照射損傷や脱水に対する望ましい保護を提供する。
【0029】
図1Aおよび図1Bに示される構造の2つの半分のアッセンブリは、キャリア10および14の対向する表面を接着することによって行われる。例示的な実施形態では、キャリアの表面は感圧接着剤でコーティングされ、試料付着後に押し合わされるが、当業者は他の同様な方法も存在することを認識するであろう。本明細書で述べられるカプセル化の方法により、試料はその表面全体においてグラフェンと密接に電気的に接触し、その結果、可能な限り最大の電荷交換率を有する。これは、順次、イオン化損傷に対する優れた保護効果を提供する。さらに、この第2のグラフェンの層は、CDI中の電子線照射時の真空中における脱水からも試料を保護する。
【0030】
本発明は、十分な解像度でコヒーレント電子を用いて単一の生体分子をイメージングするには、分子を破壊することなく通常耐えられるよりもはるかに高い電子の線量が必要であることを認識している。したがって、本明細書で述べられている実施形態では、照射損傷の原因を顕著に最小化する。グラフェン内への試料分子のカプセル化は、導電性グラフェンが分子全体の高速電荷交換源となり、分子はグラフェンに四方を囲まれるため、イオン化損傷を最小化する。また、グラフェンは、周囲の液体の加水分解によって生じるフリーラジカルを除去する。また、主要な電子エネルギーは、分子の原子は電子の衝突によって放出されるノックオンダメージを引き起こし得るレベル以下に維持される。本実施形態では、その最大電子エネルギーレベルは、有機結合に対して約20keVであるが、当業者であれば、異なる条件では他のレベルがより適切であり得ると認識するであろう。上述の照射損傷の保護に加えて、バルク流体の除去、および水和シェルだけで分子をカプセル化することは、フリーラジカルの発生を最小化し、分子が構造を維持するのに十分な水和状態を保つ。
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F