(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】再充電可能な電池セル
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0563 20100101AFI20240215BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20240215BHJP
H01M 4/136 20100101ALI20240215BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240215BHJP
H01M 4/80 20060101ALI20240215BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240215BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20240215BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20240215BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20240215BHJP
H01M 10/0525 20100101ALI20240215BHJP
【FI】
H01M10/0563
H01M4/58
H01M4/136
H01M4/13
H01M4/80 C
H01M4/62 Z
H01M4/133
H01M10/0568
H01M10/0585
H01M10/0525
(21)【出願番号】P 2021564387
(86)(22)【出願日】2020-04-07
(86)【国際出願番号】 EP2020059913
(87)【国際公開番号】W WO2020221564
(87)【国際公開日】2020-11-05
【審査請求日】2021-12-27
(32)【優先日】2019-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521380247
【氏名又は名称】インノリス・テクノロジー・アー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】INNOLITH TECHNOLOGY AG
【住所又は居所原語表記】HIRZBODENWEG 95, 4052 BASEL, SWITZERLAND
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】ツィンク,ローラン
(72)【発明者】
【氏名】プスツォッラ,クリスチアン
【審査官】多田 達也
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-519968(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104466174(CN,A)
【文献】特開2018-056107(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0276705(US,A1)
【文献】High rate capability by sulfur-doping into LiFePO4 matrix,RSC Advances,2018年,vol.8, No.11,p.5848-5853
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 10/36-10/39
H01M 4/00- 4/62
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング(1)、セパレーター(11)で互いに分離されている少なくとも1つの正極(4)およ
び少なくとも1つの負極(5)、ならびに少なくとも1つの導電性塩を含む電解質を有する再充電可能な電池セルであって、
前記負極(5)が、活物質として炭素を含み、
前記電解質がSO
2をベースとし、前記電解質の中で前記導電性塩のイオンの移動度の少なくとも一部がSO
2によって保証され、かつ、
前記SO
2
をベースとする電解質が、導電性塩1モル当たり、少なくとも1.5モルのSO
2
を含有し、
前記正極が、組成L
iFe(PO
4-mS
n)の活物質を含む再充電可能な電池セルにおいて
、
nが0より大きく、ならびに、
mが0.001以上n以下である、再充電可能な電池セル。
【請求項2】
mが、少なくとも0.005の値を取ることを特徴とする、請求項1に記載の再充電可能な電池セル。
【請求項3】
前記正極(4)の厚さが、少なくとも0.25mmであることを特徴とする、請求項1または2に記載の再充電可能な電池セル。
【請求項4】
前記正極(4)が、その面積に基づいて、少なくとも30mg/cm
2の活物質を含むことを特徴とする、請求項1~3のうちいずれか一項に記載の再充電可能な電池セル。
【請求項5】
許容電流が、前記正極(4)の面積に基づいて、少なくとも10mA/cm
2であることを特徴とする、請求項1~4のうちいずれか一項に記載の再充電可能な電池セル。
【請求項6】
前記正極(4)が多孔質であり、前記正極の空隙率が、多くとも50%であることを特徴とする、請求項1~5のうちいずれか一項に記載の再充電可能な電池セル。
【請求項7】
前記負極(5)が多孔質であり、前記負極の空隙率が、多くとも50%であることを特徴とする、請求項1~6のうちいずれか一項に記載の再充電可能な電池セル。
【請求項8】
前記正極(4)および/または前記負極(5)が、三次元多孔質金属構造を有する集電体を有することを特徴とする、請求項1~7のうちいずれか一項に記載の再充電可能な電池セル。
【請求項9】
前記正極(4)の前記活物質および/または前記負極(5)の
前記活物質が、前記
三次元多孔質金属構造中に均一に分散していることを特徴とする、請求項8に記載の再充電可能な電池セル。
【請求項10】
前記正極(4)および/または前記負極(5)が、
フッ素化バインダー、
共役カルボン酸のモノマー構造単位、もしくはこの共役カルボン酸のアルカリ塩、アルカリ土類塩、もしくはアンモニウム塩、もしくはこれらの組み合わせから構成されるポリマーからなるバインダー、
スチレンおよびブタジエンのモノマー構造単位をベースとするポリマーからなるバインダー、および、
カルボキシアルキルセルロース類の群からのバインダー、
からなる群から選択されるバインダーを含み、
前記バインダーが
、電極の総重量に基づいて、多くとも20重量%の濃度で存在することを特徴とする、請求項1~9のうちいずれか一項に記載の再充電可能な電池セル。
【請求項11】
前記負極(5)の厚さが、少なくとも0.2mmであることを特徴とする、請求項1~1
0のうちいずれか一項に記載の再充電可能な電池セル。
【請求項12】
前記負極(5)の前記活物質の量が、その面積に基づいて、少なくとも10mg/cm
2であることを特徴とする、請求項1~1
1のうちいずれか一項に記載の再充電可能な電池セル。
【請求項13】
前記導電性塩が、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のアルミン酸塩、ハロゲン化物、シュウ酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、ヒ酸塩、もしくは没食子酸塩であることを特徴とする、請求項1~1
2のうちいずれか一項に記載の再充電可能な電池セル。
【請求項14】
前記再充電可能な電池セルが、前記ハウジング(1)内に交互に積み重ねられて配置されている複数の負極(5)および複数の正極(4)を含み、各正極(4)が被覆に覆われていることを特徴とする、請求項1~1
3のうちいずれか一項に記載の再充電可能な電池セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウジング、少なくとも1つの正極、少なくとも1つの負極、および少なくとも1つの導電性塩を含む電解質を有する再充電可能な電池セルに関する。
【背景技術】
【0002】
再充電可能な電池セルは、多くの技術分野で非常に重要である。こうした電池セルはしばしば、比較的わずかの電流強度しか必要でない用途に、例えば携帯電話の運用において使用される。それに加え、大電流用途向けの電池セルに対する需要も大きく、この場合、エネルギーの大量貯蔵がとりわけ重要となる。
【0003】
このような再充電可能な電池セルで重要な要件となるのが、高いエネルギー密度である。つまり、再充電可能な電池セルが、単位重量および単位体積当たり、できるだけ多くの電気エネルギーを内蔵することである。これには、活性金属であるリチウムが特に有利であることがわかっている。再充電可能な電池セルの活性金属とされるのは、再充電可能な電池セルの充放電時に、電解質内で負極または正極に移動し、そこで直接的または間接的に外部回路に電子を放出、または外部回路から電子を受け取るという電気化学的プロセスに関与するイオンを有する金属である。このため、実用において再充電可能な電池セルは、ほぼリチウムイオンセルのみである。リチウムイオンセルの正極も負極も挿入電極として形成されている。本発明の意味において、「挿入電極」という用語は、再充電可能な電池セルの作動時に、活物質のイオンがその中に流入および流出できる結晶構造を有する電極と理解される。つまり、電極の表面だけでなく、結晶構造内部でも電極プロセスが起こり得る。リチウムイオンセルの負極は、銅からなる集電体に炭素コーティングを施して構成されている。リチウムイオンセルの正極は、アルミニウムからなる集電体にコバルト酸リチウム(LiCoO2)を塗布して構成されている。いずれの電極も、通常、厚さが100μm未満であり、ゆえに非常に薄く形成されている。リチウムイオンセルの充電時には、活性金属のイオンが正極から流出し、負極に流入する。リチウムイオンセルの放電時には逆のプロセスが進行する。電極間のイオンの移動は、必要なイオン移動度を保証する電解質を介して行われる。先行技術から既知のリチウムイオンセルは、有機溶媒または混合溶媒に溶解した導電性塩からなる電解質を含む。導電性塩は、例えば六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)のようなリチウム塩である。混合溶媒は、例えば炭酸エチレンを含有し得る。有機溶媒または混合溶媒を用いることから、このようなリチウムイオンセルは「有機リチウムイオンセル」とも呼ばれる。
【0004】
有機リチウムイオンセルは、安定性および長期動作信頼性に関して問題がある。特に、有機溶媒または混合溶媒の可燃性によって安全性リスクが生じる。有機リチウムイオンセルが発火あるいは爆発すると、電解質の有機溶媒は可燃材料となる。そうした安全性リスクを回避するために、追加的な措置を講じる必要がある。こうした措置には、とりわけ有機リチウムイオンセルの充放電プロセスの極めて正確な制御や最適な電池構成がある。さらに、有機リチウムイオンセルは、火災時に融解する構成要素を含んでおり、この場合、融解した合成樹脂とともに有機リチウムイオンセルがあふれ出る可能性がある。しかしながら、こうした措置により、有機リチウムイオンセルを生産する際の製造コストが上昇し、体積と重量も増加する。さらに、こうした措置によって有機リチウムイオンセルのエネルギー密度が低下する。
【0005】
安全性および長期動作信頼性に関する前述の問題は、大電流用途向けの有機リチウムイオンセルの開発において、とりわけ深刻である。
【0006】
したがって、先行技術から既知の継続開発では、再充電可能な電池セルに、二酸化硫黄(SO2)をベースとする電解質を使用するものとする。SO2をベースとする電解質を有する再充電可能な電池セルは、とりわけ高いイオン伝導性を示す。「SO2をベースとする電解質」という用語は、本発明の範囲において、SO2を低濃度の添加物として含有するだけでなく、電解質に含有されて電荷移動をもたらす導電性塩のイオンの移動度の少なくとも一部、大部分、またはすべてがSO2によって保証される電解質を意味する。
【0007】
例えば、特許文献1は、ハウジング、正極、負極、および電解質を有する再充電可能な電池セルを開示している。この再充電可能な電池セルの電解質はSO2をベースとし、導電性塩を含有している。この再充電可能な電池セルにおけるエネルギー貯蔵の少なくとも一部を担っている正極の活物質は、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)からなる。このような再充電可能な電池セルは、電解質が不燃性であることに加え、許容電流、ならびに正極の理論容量の可用性に関して良好な電気性能データを有する。さらに、再充電可能な電池セルは、可能な充放電サイクル数の多さと自己放電の少なさによって特徴づけられる。例えば、さまざまな電流負荷で、正極とSO2をベースとする電解質とを用いたハーフセル測定から、とりわけ、放電電流値が1Cの時に容量が約155mAh/g、ならびに放電電流値が4Cの時に容量が約130mAh/gであることが明らかとなった。定義上、放電レートが1Cの時、セルの定格容量が1時間で放電される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
SO2をベースとする電解質を有する再充電可能な電池セルの適用可能性と性質をさらに向上させるために、本発明は、先行技術から既知の再充電可能な電池セルと比べて、
-電気性能データが向上した、特に、高エネルギー密度と大電流の取り出し(高出力密度)が同時に実現する、
-自動車内の過酷な環境条件下でも動作信頼性が高い、
-寿命が延長した、特に、使用可能な充放電サイクル数が多い、
-必要な出発原料と生産方法に関して製造コストが低下した、ならびに
-過充電性と過放電性が改善した、
再充電可能な電池セルを提供することを課題とする。このような再充電可能な電池セルは、特に、大電流用途にも適しているとされる。本発明の意味において大電流セルとは、定格電圧において、電極面積に基づく許容電流(以下、「単位面積当たりの許容電流」という)が、少なくとも10mA/cm2、好ましくは少なくとも50mA/cm2、および特に好ましくは少なくとも150mA/cm2である再充電可能な電池セルを指す。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題は、請求項1の特徴を備える再充電可能な電池セルによって解決される。有利な実施形態および別の形態は、請求項2~16に定義する。
【0011】
本発明による再充電可能な電池セルは、ハウジング、少なくとも1つの正極、少なくとも1つの負極、および少なくとも1つの導電性塩を含む電解質を有する。電解質はSO2をベースとする。正極は、組成AxM’yM”z(XO4-mSn)の活物質を含む。上式で、Aは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、周期表の12族の金属、またはアルミニウムである。好ましくは、Aは、ナトリウム、カルシウム、亜鉛、特に好ましくはリチウムである。M’は、元素のチタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、および亜鉛からなる群から選択される少なくとも1つの金属である。M”は、周期表の2、3、4、5、6、10、11、12、13、14、15、および16族の金属からなる群から選択される少なくとも1つの金属である。Xは、元素のリンとケイ素からなる群から選択される。xは0より大きい。yは0より大きい。zは0以上である。nは0より大きい。mはn以下である。Sは元素の硫黄である。
【0012】
「少なくとも1つの金属」という用語は、本発明の意味において、構成要素M’およびM”が、それぞれ、挙げられた金属の1つ、または2つ以上で構成され得ると理解すべきである。この時、添数yおよびzは、M’またはM”によって表される金属全体のモル数を表す。
【0013】
当然のことながら、一般式AxM’yM”z(XO4-mSn)に関して、電荷の中性条件を考慮する必要がある。つまり、構成要素A、M’、およびM”の正電荷の合計が、構成要素(XO4-mSn)の負電荷の合計と同じでなければならない。添数x、y、z、(4-m)、およびnは、式AxM’yM”z(XO4-mSn)の構成要素A、M’、M”、X、O、およびSのそれぞれのモル数を表す。nは、前述の式における硫黄原子のモル数を表す。mは、4モルの酸素原子がそのモル数だけ減じることを表す。n=mの場合、電荷が中性であるため、置換された酸素の負電荷は、硫黄の負電荷によって置換される必要がある。つまり、酸素O2-は硫黄S2-によって置換される。nがmより大きい場合、電荷の中立性が保たれなくなるため、一部の硫黄原子は電荷を持つことができない。つまり、この場合、化合物中には帯電したS2-イオンと帯電していないS原子がともに存在することになる。
【0014】
正極
以下に、正極に関する本発明による再充電可能な電池セルの有利な実施形態および別の形態を説明する。
【0015】
本発明による再充電可能な電池セルの第1の有利な実施形態では、mが、少なくとも0.001の値、好ましくは少なくとも0.005の値、さらに好ましくは少なくとも0.01の値、さらに好ましくは少なくとも0.05の値、および特に好ましくは少なくとも0.1の値を取るものとする。
【0016】
本発明による再充電可能な電池セルのさらに有利な実施形態において、活物質AxM’yM”z(XO4-mSn)のAは金属のリチウムであり、Xは元素のリンであり、M’は金属の鉄である。好ましくは、正極の活物質は、式LiFe(PO4-mSn)の化合物でもあり、この時、nは0より大きく、mはn以下である。この式の化合物の例に、LiPO4S0.025、LiFePO3.95S0.05、LiFePO3.975S0.025、またはLiFePO3.975S0.05がある。以下、式LiFe(PO4-mSn)の化合物は、硫黄をドープしたリン酸鉄リチウム(LEPS)とも呼ぶ。
【0017】
すでに前述したように、正極の活物質AxM’yM”z(XO4-mSn)は、とりわけ、活性金属として要素Aを有する。要素Aは、好ましくはアルカリ金属、特にリチウムであり得る。この場合、再充電可能な電池セルは、アルカリ金属セルまたはリチウムセルとして形成される。以下、SO2をベースとする電解質を含むリチウムセルは(一般原則を制限することなく)、リチウムSO2セルと呼ぶ。
【0018】
本発明による再充電可能な電池セルのさらに有利な実施形態では、正極の厚さは、少なくとも0.25mm、好ましくは少なくとも0.3mm、さらに好ましくは少なくとも0.4mm、さらに好ましくは少なくとも0.5mm、および特に好ましくは少なくとも0.6mmである。したがって正極は、有機リチウムイオンセルで用いられている電極と比べてはるかに厚い。このように厚さが厚いと、単位面積当たりの容量を大きくすることが可能となる。「単位面積当たりの容量」という用語は、正極の面積に基づく正極の容量を指す。正極の単位面積当たりの容量は、好ましくは少なくとも5mAh/cm2であり、この時、以下の最小値が、この順でより好ましい:7.5mAh/cm2、10mAh/cm2、12.5mAh/cm2、15mAh/cm2、20mAh/cm2、25mAh/cm2。正極の最大厚さは、5.0mm、好ましくは3.0mm、およびさらに好ましくは1.0mmを超えないものとされよう。
【0019】
本発明による再充電可能な電池セルのさらに有利な実施形態では、正極が、その面積に基づいて、少なくとも30mg/cm2、好ましくは少なくとも40mg/cm2、さらに好ましくは少なくとも60mg/cm2、さらに好ましくは少なくとも80mg/cm2、さらに好ましくは少なくとも100mg/cm2、さらに好ましくは少なくとも120mg/cm2、および特に好ましくは少なくとも140mg/cm2の活物質を含むものとする。正極の面積に基づく活物質の量は、この正極の充填量となる。正極の最大充填量は、好ましくは1000mg/cm2を超えず、さらに好ましくは750mg/cm2、および特に好ましくは500mg/cm2、およびさらに好ましくは250mg/cm2を超えないものとする。
【0020】
正極の活物質充填量が多く、それに伴い単位面積当たりの容量が大きいと、総容量が大きいながらも電極面積が比較的小さい、再充電可能な電池セルを製造することができる。例えば、LEPS電極に100mg/cm2を充填した場合、所望の容量1Ahに必要な面積はわずか60cm2となる。この必要な電極面積は、先行技術から既知の有機リチウムイオンセルと比べて3分の1の大きさである。有機リチウムイオン電池に使用される、LiFePO4を活物質として含む正極は、厚さが50~90μmで、単位面積当たりの充填量が4~6mAh/cm2である。そのため、1Ahの容量を得るには、170~250cm2の総電極面積が必要となる。
【0021】
正極の電極面積が小さくなることにより、セパレーターおよび負極に必要な面積も小さくなる。さらに、例えば複数の電極を有する角柱型セルの場合、セル極との接続に必要な誘導ラグ(Ableiterfahne)の数が減り、電極数が少ないとハウジング内の電極の相互接続もはるかに簡単になる。これにより、特に再充電可能な電池セルの製造が容易になり、製造コストが削減される。
【0022】
さらに有利な実施形態では、再充電可能な電池セルは、正極の面積に基づいて、少なくとも10mA/cm2、好ましくは少なくとも50mA/cm2、および特に好ましくは少なくとも150mA/cm2の許容電流を有する。
【0023】
本発明による再充電可能な電池セルのさらに有利な実施形態では、正極が多孔質であるものとする。空隙率は、好ましくは多くとも50%、さらに好ましくは多くとも45%、さらに好ましくは多くとも40%、さらに好ましくは多くとも35%、さらに好ましくは多くとも30%、さらに好ましくは多くとも20%、および特に好ましくは多くとも10%である。この空隙率は、正極の総体積に対する空隙体積の割合であり、空隙体積は、いわゆる細孔または空隙によって形成される。空隙があると、電極の内面積が拡大する。さらに、空隙率は電極の厚さに、またそれに伴い重量に大きな影響を及ぼす。正極の個々の細孔は、動作中に、好ましくは電解質で完全に満たされ得る。
【0024】
さらに有利な実施形態では、正極は、特に金属発泡体の形態で三次元多孔質金属構造を有する少なくとも1つの集電体を有する。つまり、正極は活物質の他に集電体も含む。「三次元多孔質金属構造」という用語は、薄板のように平板電極の長さおよび幅にわたってだけでなく、厚さ方向にもわたって延在する、金属からなるあらゆる構造を指す。三次元多孔質金属構造は、金属構造の細孔に正極の活物質を取り込むことができる多孔質である。この取り込んだ活物質の量が、前述した正極の充填量である。集電体は、正極の活物質の必要な導電接続を可能にする役割を果たす。そのために、集電体は正極の電極反応に関与する活物質と接触している。集電体と活物質が挿入正極を形成する。多孔質金属構造は、好ましくは、実質的に正極の厚さ全体にわたって延在できる。「実質的に」とは、多孔質金属構造が、電極の厚さの少なくとも70%、ただし好ましくは少なくとも約80%にわたって延在することを意味する。集電体の三次元多孔質金属構造は、正極の充填量を増大させることができ、それに伴い活物質の導電接続を向上させる。このため、集電体の三次元多孔質金属構造は、再充電可能な電池セルの電気性能データを向上させる。これに関して、本発明の範囲において、三次元多孔質金属構造は金属不織布または金属織物としても形成し得る。
【0025】
本発明による再充電可能な電池セルのさらに有利な実施形態では、正極の活物質は多孔質金属構造中に実質的に均一に分散しているものとする。このような均一な分散により、再充電可能な電池セルの電気性能データがさらに向上する。
【0026】
機械的強度を向上させるために、本発明のすべての態様のさらに有利な実施形態では、正極は少なくとも1つのバインダーを含む。このバインダーは、フッ素化バインダー、特に、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フルオロエチレンプロピレン(FEP)、パーフルオロアルコキシポリマー(PFA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ならびに/またはテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、およびフッ化ビニリデンのターポリマー(THV)であり得る。さらにバインダーは、共役カルボン酸のモノマー構造単位、またはこの共役カルボン酸のアルカリ塩、アルカリ土類塩、もしくはアンモニウム塩、またはこれらの組み合わせから構成されるポリマーで形成され得る。バインダーは、スチレンおよびブタジエンのモノマー構造単位をベースとするポリマーからも形成され得る。またバインダーは、カルボキシアルキルセルロースおよびその塩の群からのバインダーであり得る。本発明の範囲では、特にTHVおよびPVDFが実証されている。前述のバインダーの少なくとも1つは、正極中に、電極の総重量に基づいて、多くとも20重量%、さらに好ましくは多くとも15重量%、さらに好ましくは多くとも10重量%、さらに好ましくは多くとも7重量%、さらに好ましくは多くとも5%、および特に好ましくは多くとも2重量%の濃度で存在し得る。バインダーを添加することで、再充電可能な電池セルの長期安定性と寿命が向上する。
【0027】
負極
以下に、負極に関する本発明による再充電可能な電池セルのさらに有利な実施形態および別の形態を説明する。
【0028】
負極は同様に挿入電極である。すなわち、再充電可能な電池セルの充電時に活性金属のイオンが流入し、再充電可能な電池セルの放電時に活性金属のイオンが流出する電極材料からなる。例えば、リチウム系の導電性塩を用いると、再充電可能な電池セルの充電時にリチウムイオンを電極材料に流入させ、再充電可能な電池セルの放電時にリチウムイオンをここから流出させることができる。
【0029】
本発明による再充電可能な電池セルのさらに有利な実施形態では、負極は同様に多孔質であり、空隙率が、好ましくは多くとも50%、さらに好ましくは多くとも45%、さらに好ましくは多くとも40%、さらに好ましくは多くとも35%、さらに好ましくは多くとも30%、さらに好ましくは多くとも20%、および特に好ましくは多くとも10%であるものとする。空隙があると、負極の内面積が拡大する。さらに、空隙があることで、負極の厚さが、またそれに伴い重量も減少する。負極の個々の細孔は、好ましくは、動作中に電解質で完全に満たされ得る。
【0030】
さらに、本発明による再充電可能な電池セルのさらに有利な実施形態では、負極は、特に金属発泡体の形態で三次元多孔質金属構造を有する少なくとも1つの集電体を有する。つまり、負極は活物質の他に集電体も含む。すでに前述したように、「三次元多孔質金属構造」という用語は、薄板のように平板電極の長さおよび幅にわたってだけでなく、厚さ方向にもわたって延在する、金属からなるあらゆる構造を指す。三次元多孔質金属構造は、金属構造の細孔に負極の活物質を取り込むことができる多孔質である。この取り込んだ活物質の量が負極の充填量である。負極の集電体は、負極の活物質の必要な導電接続を可能にする役割を果たす。そのために、集電体は負極の電極反応に関与する活物質と接触している。集電体と活物質が挿入負極を形成する。多孔質金属構造は、好ましくは、実質的に負極の厚さ全体にわたって延在できる。「実質的に」とは、多孔質金属構造が、負極の厚さの少なくとも70%、ただし好ましくは少なくとも約80%にわたって延在することを意味する。集電体の三次元多孔質金属構造は、負極の充填量を増大させることができ、それに伴い活物質の導電接続を向上させる。このため、集電体の三次元多孔質金属構造は、再充電可能な電池セルの電気性能データを向上させる。これに関して、本発明の範囲において、三次元多孔質金属構造は金属不織布または金属織物としても形成し得る。
【0031】
本発明による再充電可能な電池セルのさらに有利な実施形態では、負極は活物質として炭素を含む。この炭素は、特に黒鉛化して存在し得る。炭素も黒鉛も、その結晶構造から、再充電可能な電池セルの充電時に活性金属のイオンを受け取るのに役立ち得る。炭素は、天然黒鉛(フレーク状または球形)、人造黒鉛(メソフェーズ黒鉛)、黒鉛化MesoCarbon MicroBeads(MCMB)、炭素被覆黒鉛、または無定形炭素(硬質炭素および軟質炭素)の形態でも存在し得る。
【0032】
本発明による再充電可能な電池セルのさらに有利な実施形態では、負極は、炭素を含有しないリチウムインターカレーションの負極活物質、例えばチタン酸リチウム(例えばLi4Ti5O12)を含む。
【0033】
本発明による再充電可能な電池セルのさらに有利な実施形態では、負極は、リチウムと合金を形成する負極活物質を含む。これは、例えばリチウム貯蔵金属および合金(Si、Ge、Sn、SnCoxCy、SnSixなど)、ならびにリチウム貯蔵金属および合金の酸化物(SnOx、SiOx、Sn、Siの酸化ガラスなど)である。
【0034】
本発明による再充電可能な電池セルのさらに有利な実施形態では、負極は、例えば遷移金属酸化物(MnOx、FeOx、CoOx、NiOx、CuOxなど)のようなコンバージョン系負極活物質、または金属水素化物(MgH2、TiH2、AIH3など;B系、AI系、およびMg系三元水素化物)を含む。
【0035】
本発明による再充電可能な電池セルのさらに有利な実施形態では、負極は、金属、例えば金属リチウムを含む。
【0036】
本発明による再充電可能な電池セルのさらに有利な実施形態では、負極の活物質は、負極の集電体の多孔質金属構造中に実質的に均一に分散しているものとする。このような均一な分散により、再充電可能な電池セルの電気性能データがさらに向上する。
【0037】
本発明による再充電可能な電池セルのさらに有利な実施形態では、負極の厚さは、少なくとも0.2mm、好ましくは少なくとも0.3mm、さらに好ましくは少なくとも0.4mm、さらに好ましくは少なくとも0.5mm、および特に好ましくは少なくとも0.6mmである。したがって、負極の厚さも、有機リチウムイオンセルで使用される負極と比べてはるかに厚い。
【0038】
本発明による再充電可能な電池セルのさらに有利な実施形態では、負極の活物質の量、すなわち電極の充填量は、その面積に基づいて、少なくとも10mg/cm2、好ましくは少なくとも20mg/cm2、さらに好ましくは少なくとも40mg/cm2、さらに好ましくは少なくとも60mg/cm2、さらに好ましくは少なくとも80mg/cm2、および特に好ましくは少なくとも100mg/cm2であるものとする。この負極の活物質の量は、再充電可能な電池セルの充放電プロセスに有利に作用する。
【0039】
負極の単位面積当たりの容量は、好ましくは少なくとも2.5mAh/cm2であり得、この時、以下の値が、この順でさらに好ましい:5mAh/cm2、10mAh/cm2、15mAh/cm2、20mAh/cm2、25mAh/cm2、30mAh/cm2。
【0040】
機械的強度を向上させるために、本発明のすべての態様のさらに有利な実施形態では、負極は少なくとも1つのバインダーを含む。このバインダーは、フッ素化バインダー、特に、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フルオロエチレンプロピレン(FEP)、パーフルオロアルコキシポリマー(PFA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ならびに/またはテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、およびフッ化ビニリデンのターポリマー(THV)であり得る。さらにバインダーは、共役カルボン酸のモノマー構造単位、またはこの共役カルボン酸のアルカリ塩、アルカリ土類塩、もしくはアンモニウム塩、またはこれらの組み合わせから構成されるポリマーで形成され得る。バインダーは、スチレンおよびブタジエンのモノマー構造単位をベースとするポリマーからも形成され得る。またバインダーは、カルボキシアルキルセルロースおよびその塩の群からのバインダーであり得る。本発明の範囲において、特に共役カルボン酸のアルカリ塩系ポリマーが実証されている。前述のバインダーの少なくとも1つは、負極中に、電極の総重量に基づいて、多くとも20重量%、さらに好ましくは多くとも15重量%、さらに好ましくは多くとも10重量%、さらに好ましくは多くとも7重量%、さらに好ましくは多くとも5%、および特に好ましくは多くとも2重量%の濃度で存在し得る。バインダーを添加することで、再充電可能な電池セルの長期安定性と寿命が向上する。
【0041】
SO2をベースとする電解質
以下に、SO2をベースとする電解質に関する本発明による再充電可能な電池セルの有利な実施形態および別の形態を説明する。
【0042】
本発明による再充電可能な電池セルは、すでに前述したように、「SO2をベースとする電解質」を含む。したがって電解質は、低濃度の添加物としてだけでなく、電解質に含有されて電荷移動をもたらす導電性塩のイオンの移動度の少なくとも一部、大部分、またはすべてがSO2によって保証される濃度でSO2を含有する。
【0043】
本発明による再充電可能な電池セルのさらに有利な実施形態では、電解質は、導電性塩1モル当たり、少なくとも1.5モルのSO2、2モルのSO2、好ましくは少なくとも2.5モルのSO2、さらに好ましくは少なくとも3モルのSO2、および特に好ましくは少なくとも4モルのSO2を含有するものとする。SO2と導電性塩がこのような濃度比である、SO2をベースとする電解質は、先行技術から既知の、例えば有機混合溶媒をベースとする電解質と比べて、より大量の導電性塩を溶解できるという利点がある。本発明の範囲において、驚くべきことに、導電性塩の濃度が比較的低い電解質は、それに伴って蒸気圧が高くなるにもかかわらず、特に再充電可能な電池セルの多くの充放電サイクルにわたる安定性に関して有利であることが確認された。
【0044】
これに関して、本発明の範囲において、SO2の濃度は、それぞれ導電性塩1モル当たり、好ましくは多くとも220モルのSO2、さらに好ましくは多くとも200モルのSO2、さらに好ましくは多くとも100モルのSO2、さらに好ましくは多くとも50モルのSO2、さらに好ましくは多くとも30モルのSO2、さらに好ましくは多くとも25モルのSO2、および特に好ましくは多くとも20モルのSO2である。電解質中のSO2の濃度は、その伝導性に影響を及ぼす。したがって、SO2濃度の選択によって、電解質の伝導性を、再充電可能な電池セルの計画用途に合わせることができる。
【0045】
好ましくは、電解質は、再充電可能な電池セルに含まれる電解質の総量に基づいて、少なくとも20重量パーセント(「重量%」)のSO2を含有し、SO2の値は、35重量%、45重量%、および55重量%であるとさらに好ましい。電解質は95重量%まででもSO2を含有することができ、SO2の最大値は、75重量%、85重量%の順で好ましい。
【0046】
本発明の範囲において、電解質は、好ましくは、少なくとも1つの有機物質または有機材料をわずかな割合しか、またはまったく有していない。好ましくは、例えば1つまたは複数の溶媒または添加剤の形態で存在する、電解質中の有機物質または有機材料の割合は、電解質の重量の多くとも50重量%であり得る。電解質の重量の多くとも40重量%、多くとも30重量%、多くとも20重量%、多くとも15重量%、多くとも10重量%、多くとも5重量%、または多くとも1重量%という低い割合が特に好ましい。さらに好ましくは、電解質は有機溶媒を含まない。有機物質もしくは有機材料がごくわずかの割合しか、または完全に存在しないため、電解質はほとんど、またはまったく燃えない。これにより、SO2をベースとするこのような電解質を用いて動作する再充電可能な電池セルの動作安全性が向上する。さらに、有機物質または有機材料は、好ましくは添加物ではなく、単なる不純物であり得る。このような不純物は、正極の活物質の炭素含有被覆により、または他の炭素含有材料、例えば負極によって生じる可能性がある。特に好ましくは、SO2をベースとする電解質は、実質的に有機材料を含まない。「実質的に」という用語は、存在する可能性のある有機物質または有機材料の量が、いかなる安全性リスクももたらさないほどに少ないことと理解すべきである。つまり、電解質は、好ましくは500ppmより多くの有機物質または有機材料を含有しない。
【0047】
SO2 1モルあたり1ファラデーで算出される、再充電可能な電池セルに含まれるSO2の電気化学的な電荷量は、好ましくは、理論上正極に電気化学的に貯蔵可能な活性金属の電荷量よりも大きい。
【0048】
本発明による再充電可能な電池セルのさらに有利な実施形態では、導電性塩は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のアルミン酸塩、ハロゲン化物、シュウ酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、ヒ酸塩、もしくは没食子酸塩、好ましくはリチウムテトラハロゲンアルミネート、特に好ましくはリチウムテトラクロロアルミネートであるものとする。電解質中の導電性塩の含有量は、好ましくは電解質の重量の70重量%未満、さらに好ましくは60重量%未満、50重量%未満、40重量%未満、30重量%未満、20重量%未満、または10重量%未満であり得る。
【0049】
SO2と導電性塩の総含有量は、好ましくは電解質の重量の50重量%超、さらに好ましくは60重量%、70重量%超、80重量%超、85重量%超、90重量%超、95重量%超、または99重量%超であり得る。
【0050】
セパレーター
本発明の範囲において、再充電可能な電池セルは、好ましくは、正極と負極とを電気的に分離するためのセパレーターを有している。このセパレーターは、不織布、膜、織物、編物、有機材料、無機材料、またはこれらの組み合わせで形成し得る。有機セパレーターは、非置換ポリオレフィン(例えばポリプロピレンまたはポリエチレン)、部分的または完全にハロゲン置換されたポリオレフィン(例えば部分的または完全にフルオロ置換された;例えばPVDF、ETFE、PTFE)、ポリエステル、ポリアミド、またはポリスルホンで構成し得る。有機材料と無機材料の組み合わせであるセパレーターは、例えば、ガラス繊維に適切なポリマーコーティングが施されたガラス繊維織物材料である。コーティングは、好ましくは、フッ素含有ポリマー、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)、パーフルオロエチレンプロピレン(FEP)、THV(テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、およびフッ化ビニリデンのターポリマー)、もしくはパーフルオロアルコキシポリマー(PFA)を含有する、またはアミノシラン、ポリプロピレン(PP)、もしくはポリエチレン(PE)を含有する。
【0051】
再充電可能な電池セルの構成
以下に、本発明による再充電可能な電池セルの有利な実施形態および別の形態を、構成に関して説明する。
【0052】
再充電可能な電池セルの機能をさらに向上させるために、本発明による再充電可能な電池セルのさらに有利な実施形態では、再充電可能な電池セルは、ハウジング内に交互に積み重ねられて配置された複数の負極および複数の正極を含み、各正極または各負極は、被覆に覆われているものとする。
【0053】
正極の被覆により、再充電可能な電池セル内のイオン移動およびイオン分布がより均一になる。特に負極におけるイオン分布が均一であればあるほど、電極の活物質の可能な充填量が多くなり、結果として再充電可能な電池セルの使用可能な容量が大きくなる。同時に、充填量のばらつき、およびその結果として生じる活性金属の析出に伴う可能性のあるリスクが回避される。これらの利点は、セルの正極が被覆に覆われている場合に効果がある。
【0054】
電極と被覆の表面寸法は、好ましくは、電極の被覆の外形寸法と被覆されていない電極の外形寸法とが、少なくとも1つの次元で一致するように、互いに合わせ得る。
【0055】
被覆の表面積は、好ましくは、電極の表面積よりも大きい可能性がある。この場合、被覆は電極の境界を越えて延在する。そのため、電極の両面を覆う2つの被覆の層は、正極の端部で、端部接続によって互いに接続させ得る。
【0056】
本発明による再充電可能な電池セルのさらに有利な実施形態では、負極は被覆を有するのに対し、正極は被覆を有していない。被覆は、正極と負極とを電気的に分離するセパレーターとして機能する。この被覆は、不織布、膜、織物、編物、有機材料、無機材料、またはこれらの組み合わせで形成し得る。被覆の材料は、例えば、セパレーターの項で説明した材料であり得る。
【0057】
本発明による再充電可能な電池セルは、先行技術から既知の再充電可能な電池セルと比べて、特に有機リチウムイオンセルと比べて、冒頭に記述した要件を満たし、それにより
-電気性能データの向上
-動作信頼性の高さ
-寿命の延長
-製造コストの低下、ならびに
-過充電性と過放電性の改善、を示すという利点を有する。
【0058】
本発明による再充電可能な電池セル、ならびにその有利な実施形態および別の形態の開発の範囲において、本出願人は、LEPSを活物質として含む正極を有する再充電可能な電池セルがどのような可能性を有するかを評価または確認できるように、予備試験を実施した。この予備試験では、本出願人は活物質としてLEPSを含む正極と、活物質として硫黄をドープしていないLiFePO4を含む正極とを用いて、室温で電気化学ハーフセル実験を実施した。以下、LEPSを活物質として含む正極に「LEPS電極」という用語を使用する。「LEP電極」という用語は、活物質として硫黄をドープしていないLiFePO4を含む正極に使用する。したがってハーフセルは、SO2をベースとする電解質に浸漬したLEPS電極またはLEP電極のいずれかと、リチウム負極、および参照電極であるリチウム電極を有していた。このような電気化学ハーフセル実験は、構成が単純で、それにより実験にかかる費用が少ないため、電極の性能データをテストするための標準的な試験である。そのため、構成がかなり複雑である再充電可能な電池セルの開発において、一般に認められた予備試験として使用される。
【0059】
例えば、SO2をベースとする電解質中のLEPS電極が安定しているかを調べるとする。SO2をベースとする電解質で問題となる特性に、高い腐食性がある。これに対し、有機溶媒をベースとする電解質は、腐食性が顕著に低いか、またはまったくない。再充電可能な電池セルでは正極も負極も電解質と接しているため、電極の組成は、SO2をベースとする電解質中での耐性に注意する必要がある。SO2をベースとする電解質中でLEPS電極が安定している場合のみ、再充電可能な電池セルの長期安定性が保証される。
【0060】
一方で、元素の硫黄はさまざまな酸化状態で存在し得ることが一般に知られている。これらは安定性が異なり、環境条件や反応相手によって容易に変化し得る。LEPSを活物質として含む正極の表面には、硫黄が非常に低い酸化状態で存在する。電解質中では硫黄は高い酸化状態で存在する。SO2をベースとする電解質中では、酸化状態の望ましくない均等化が起こり得る。
【0061】
本出願人の電気化学ハーフセル実験から、LEPS電極は最初の形成サイクル後に162mAh/gという、LEP電極と比べて高い定格容量を持つことが判明した。LEP電極の定格容量はわずか148mAh/gであった。したがって、LEPS電極を用いた再充電可能な電池セルは、より多くの電荷を貯蔵することができる。しかしながらその後の経過において、LEPS電極では、早くも数回のサイクル後にはるかに急激な容量低下が生じることが示された。その結果、約80サイクル後にLEP電極の容量に達した。したがって、利点であるLEPS電極のより大きな定格容量は、わずか約80サイクルで使い切られてしまう。また、LEP電極の容量域に達した後も、LEPS電極の容量は低下し続けた。そのため、SO2をベースとする電解質を用いた電気化学ハーフセル実験では、LEPS電極はLEP電極よりもはるかに悪いサイクル挙動を示す。「サイクル挙動」という用語は、充電と放電のプロセスを交互にくり返している間の電極の挙動を指す。
【0062】
ハーフセル実験におけるLEPS電極の結果がこのように否定的であったため、専門的な観点から言えば、この予備試験の後にLEPS電極を用いて実験を継続することはせず、本発明の基礎となる構想を破棄するというのが標準的な手順であっただろう。それにもかかわらず、本出願人は、再充電可能な電池セルを用いて、つまりフルセルを用いて、さらに実験を行った。このフルセルは、少なくとも1つの正極および2つの負極を有し、正極はLEPS電極またはLEP電極のいずれかとした。電極はセパレーターで分離し、電池ハウジング内に配置した。フルセルは、引き続きSO2をベースとする電解質で満たした。したがって、この再充電可能な電池セルまたはフルセルはリチウムSO2セルである。構成の詳細な説明は、以下の図面の説明に記載する。
【0063】
驚くべきことに、これらのフルセル実験では、SO2をベースとする電解質を用いた再充電可能な電池セルでLEPS電極を使用した場合、ハーフセル実験ではむしろ否定的な結果であったにもかかわらず、電気性能データの向上を実現できたことが確認された。正極の活物質としてLEPを含む再充電可能な電池セルと比べて、正極の活物質としてLEPSを含む再充電可能な電池セルでは、予測できなかったがはるかに良好なサイクル結果が得られた。
【0064】
特に、前述のLEPS電極とSO2をベースとする電解質との組み合わせにより、以下の改善点を有する再充電可能な電池セルを製造することができる。
-LEPS電極の理論容量が、少なくとも95%まで実際に利用できる。つまり、充電時に正極からリチウムイオンをほぼ完全に取り出し、放電時に再び正極に流入させることができる。再充電可能な電池セルの実際に利用可能な容量、すなわち定格容量は、LEP電極を用いた電池セルよりも大きい。
-LEPS電極を用いた再充電可能な電池セルの定格容量が大きいことにより、寿命が延長する。臨界放電容量(例えば定格容量の60%)には、複数回の充放電サイクルを経たのちに到達する。許容電流の容量依存性に関しても、本発明に従って、より良好な値が得られる。言い換えると、電流負荷が高い場合でも、電池セルの本来の容量の大部分を利用できる。
-最初のサイクルでの保護層形成における容量損失は、負極の理論容量の10%未満である。安定した保護層が形成され、充放電サイクル数を多くできる。
-許容電流が非常に高い。例えばLEPS電極は、単位面積当たりの電流負荷300mA/cm2が利用できる。
-大容量貯蔵に必要な、多い充放電サイクル数を実現できる。実験的試験では、10,000回超のフルサイクルを達成した。
-再充電可能な電池セルの自己放電が極めて少ない。そのため、充電した状態で長期間保管し、改めて充電せずにすぐに使用できる。
-正極の活物質に炭素系導電性向上剤を比較的高い割合で使用する必要がない。むしろ、導電性向上剤の量は比較的少量で十分である。好ましくは、正極の炭素含有量は10重量%未満であり、以下の最大値が、この順でさらに好ましい:7重量%、5重量%、2重量%。
【0065】
以下に、本発明のさらに有利な特徴を、図面、実施例、および実験を参照して詳細に記述および説明する。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【
図1】本発明による再充電可能な電池セルの一実施例の断面図。
【
図2】正極が被覆された電極積層体における正極1つおよび負極2つの斜視図。
【
図3】
図1に従った実施例で使用可能な金属発泡体の画像。
【
図4】最初のハーフセル実験でLEPS電極とLEP電極とを比較した放電容量のサイクル数依存性を示すグラフ。
【
図5】2回目のハーフセル実験でLEPS電極とLEP電極とを比較した放電容量の放電レート依存性を示すグラフ。
【
図6】最初のフルセル実験でLEPS電極とLEP電極とを比較した放電容量のサイクル数依存性を示すグラフ。
【
図7】2回目のフルセル実験でLEPS電極とLEP電極とを比較した放電容量のサイクル数依存性を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0067】
図1は、本発明による再充電可能な電池セル2の一実施例を断面図で示したものである。この再充電可能な電池セルは角柱型セルとして形成されており、とりわけハウジング1を有する。このハウジング1は、3つの正極4と4つの負極5を含む電極配置3を取り囲んでいる。正極4と負極5は、電極配置3内で交互に積み重ねて配置されている。しかしながら、ハウジング1は、より多くの正極4および/または負極5も収容できる。一般的に、負極5の数が正極4の数より1だけ多いと好ましい。その結果、電極積層体の外端面は、負極5の電極表面によって形成されることになる。電極4、5は、電極接続部6、7を介して、電池セルの対応する接続接点9、10に接続されている。再充電可能な電池セルには、SO
2をベースとする電解質が、すべての細孔または空隙、特に電極4、5の内部に可能な限り完全に入り込むように充填されている。
図1では、電解質は図示されていない。本実施例では、3つの正極4がLEPS電極として形成されている。つまり、本明細書に記載する特別な実施例に従って、これは活物質としてLiFePO
3.975S
0.025を有する。
【0068】
電極4、5は、本実施例では平らに、すなわち表面積に対して厚みが小さい層として形成されている。これらはそれぞれセパレーター11で互いに分離されている。図示した電池セルのハウジング1は、実質的に立方体に形成されており、電極4、5および断面図に示したハウジング1の壁は、図面に対して垂直に延びており、実質的にまっすぐかつ平らに形成されている。しかしながら、再充電可能な電池セルは巻回型セルとしても形成し得る。巻回型セルは、薄い層状の電極をセパレーター材料と一緒に巻いたものである。セパレーター材料は正極と負極とを空間的および電気的に分離するが、とりわけ活性金属のイオンにとっては透過性である。こうすることで、電気化学的に有効な表面が広くなり、相応に高い電流効率が実現する。
【0069】
図2には2つの負極5と1つの正極4を表す。電極はそれぞれ、セルの対応する接続接点9または10に接続するための電極接続線6または7を有する。図示した好ましい実施形態では、正極4(好ましくはセルのすべての正極4)は被覆13で覆われている。この時、被覆13の表面積は、電極4の表面積よりも大きく、その境界14は、
図2では破線で示している。電極4を両側から覆う被覆材料の2つの層15および16は、電極4の端部で端部接続部17によって互いに接続されている。
【0070】
さらに電極4、5は、各電極の活物質の必要な導電接続を可能にするのに役立つ集電体を有する。この集電体は、各電極4、5の電極反応に関与する活物質と接触している。正極4の集電体および負極5の集電体は多孔質の金属発泡体の形態で形成されている。金属発泡体は、電極4、5の厚さにわたって延在する。正極4および負極5の活物質は、この金属発泡体の細孔に取り込まれている。
【0071】
正極4の作製時には、LEPSは、金属構造の厚さ全体にわたって細孔を均一に満たすように、集電体の多孔質構造に取り込まれる。このようにして作製した材料は、その後、高圧でプレスされ、プレス工程後の厚さは、好ましくは元の厚さの最大50%、特に好ましくは最大40%となる。
【0072】
正極4は活物質の充填量が多いため、非常に厚い。図示した例では、充填量は約14mAh/cm2、厚さdは約0.6mmである。
【0073】
図3は、金属発泡体18の三次元多孔質構造の電子顕微鏡写真である。表示されたスケールバーから、細孔Pの直径は平均で100μm超、つまり比較的大きいことがわかる。
【0074】
集電体の多孔質金属発泡体18は、実質的に集電体の厚さd全体にわたって延在できる。「実質的に」とは、多孔質金属発泡体18が、正極4の厚さdの少なくとも70%、ただし好ましくは少なくとも約80%にわたって延在することを意味する。LEPSの活物質は多孔質金属発泡体18中で実質的に均一に分散しているため、均一な分散に偏差が生じることがあっても、セル機能はわずかしか損なわれない。
【0075】
機械的強度を向上させるために、正極4はバインダーを含有する。このバインダーはTHVである。
【0076】
負極5は、活物質として炭素を、リチウムイオンを受け取る挿入材料として適した形態で含有する。負極5の構造は正極4と同様である。負極5でも、集電体は、好ましくは、三次元多孔質金属構造を金属発泡体の形態で有する。負極5も、活物質の充填量が少なくとも2.5mAh/cm2と比較的多く、相応の厚さを有する。
【0077】
実施例1:比較電極としてのLEP電極の作製
LEP電極の作製は、以下に説明するように実施した。まず、以下の構成要素からペーストを作製した。
約92~96重量% 硫黄をドープしていないリン酸鉄リチウム(LEP、LiFePO4)、
約0~4重量% カーボンブラックを導電助剤として、
約2~6重量% THVをバインダーとして、
このために、まずバインダーを溶媒のアセトンに溶解した。次いで、撹拌下でカーボンブラックを溶液に添加した。最後に、同様に撹拌下で、LEPを追加の溶媒と交互に添加した。作製したペーストは、初期空隙率が90%超の金属発泡体に均一に埋め込み、50℃で1時間乾燥させた。冷却後、電極材料、すなわち金属発泡体に均一に埋め込んだLEPを、カレンダーを用いて、初期厚さ1.6mmから厚さ0.5mmにプレスした。次いで、180℃でアニール処理を行った。プレスしてアニール処理したこの電極材料から、1cm2の面積の試料を打ち抜き、LEP電極を得た。
【0078】
LEP電極は、以下に説明する実験で比較電極として用いた。この理論容量は約14mAhであった。参照電極と対向電極がそれぞれ金属リチウムからなる3つの電極配置を用いたハーフセルで試験した。ハーフセルに使用した電解質の組成は、LiAlCl4*1.5SO2であった。
【0079】
実施例2:LEPS電極の作製
実施例1で説明したLEP電極の作製方法に従って、LEPS電極を作製した。ただし、ペーストの作製には以下の構成要素を使用した。
約92~96重量% 硫黄をドープしたリン酸鉄リチウム(LEPS)、
約0~4重量% カーボンブラックを導電助剤として、
約2~6重量% THVをバインダーとして。
【0080】
理論容量が約14mAhであるこのLEPS電極も、参照電極と対向電極がそれぞれ金属リチウムからなる3つの電極配置を用いたハーフセルで試験した。ハーフセルに使用した電解質の組成は、LiAlCl4*1.5SO2であった。
【0081】
実験1:ハーフセル実験でLEPS電極とLEP電極とを比較した放電容量のサイクル数依存性の測定
実施例1で作製したLEP電極と実施例2で作製したLEPS電極とを用いたハーフセル実験で、充放電サイクルの回数に依存したそれぞれの放電容量(それぞれ1C)を測定した。ここでは、2つのハーフセルの違いが正極のみであることに注目されたい。つまり、LEPS電極かLEP電極のいずれかを正極として使用した。
【0082】
図4は、導電性塩1モル当たり1.5モルのSO
2を含有する、SO
2をベースとする電解質を用いてこの時に得られた結果を示す。導電性塩としてリチウムテトラクロロアルミネート(LiAlCl
4)を使用した。両方の電極で、
図4に示していないIU初期サイクル5回は、電流強度が1mAより低くなるまで、3.2~3.7Vの電位範囲で10mAの充放電電流強度で行った。この初期サイクルを用いて、定格容量と充放電レートを決定した。IU初期サイクルは、最初に電流Iを設定し(放電レート)、特定の電位または電圧Uに達するまでの一般的な充放電手順である。その後、電流Iが所定の最小値に低下するまで待つ(1mA未満)。これが一般的な充放電手順である。
【0083】
その後、電流強度が1mAより低くなるまで、3.2~3.7Vの電位範囲で、充放電レート1Cで100IUサイクルを開始する。
【0084】
図4は、活物質の配合組成から算出できる理論容量に対する放電容量(%)を、実施した充放電サイクル数に対してプロットしたグラフで、曲線AはLEP電極、曲線BはLEPS電極に該当する。測定は室温で実施した。
【0085】
ここでまず、LEPS電極の方がLEP電極よりも初期の放電容量が大きいことが確認された。いずれの電極でも、初期に放電容量のわずかな増加が認められる。その後、サイクル数の増加に伴って、両電極の放電容量が低下する。LEPS電極の容量低下の方がはるかに急激であることが目立つ。45サイクル後、LEPS電極の放電容量がLEP電極の値に達している。この値は理論放電容量の92%である。100サイクル後、LEP電極はなおも91%の放電容量を示す。この時点で、LEPS電極の放電容量は84%まで低下している。つまり、SO2をベースとする電解質を用いた電気化学ハーフセル実験では、LEPS電極はLEP電極と比べて急激な容量低下を示す。
【0086】
この結果に基づいて、本発明によるLEPS電極を、フルセル、すなわちSO2をベースとする電解質を用いた再充電可能な電池セルで使用した場合、それでも非常に良好な結果が得られることは期待できなかった。
【0087】
実験2:ハーフセル実験でLEPS電極とLEP電極とを比較した放電容量の放電レート依存性の測定
SO2をベースとする電解質において、さまざまな電流負荷でのLEPS電極とLEP電極の放電容量を測定するため、ハーフセルで充放電サイクルを100回実施した。充電はそれぞれ同じ1Cの充電レートで行った。各充電プロセスの後に放電プロセスが行われ、100サイクルの間に以下のレートでハーフセルを放電させた。
1Cで10サイクル
2C、4C、8C、および10Cで各10サイクル
1Cで50サイクル
電圧3.7Vまで充電を行った。放電は電圧3.2Vで終了した。
【0088】
図5は、定格容量に対する放電容量(%)を、実施した充放電サイクル数に対してプロットしたグラフで、曲線AはLEP電極、曲線BはLEPS電極に該当する。定格容量は、最初に実施したサイクルで各電極から放電させることができた放電容量である。測定は室温で実施した。
【0089】
1Cでの最初の放電サイクルでは、10サイクルの間にLEPS電極の放電容量の低下が認められる。2Cの放電では、LEPS電極とLEP電極はほぼ同じでなる。4Cと6Cの放電電流では、開始時はLEPS電極の放電容量の方が大きく、サイクルを重ねるうちにLEP電極の曲線に近づいていく。8Cでは、LEPS電極は同じ開始値でLEP電極よりも急激な容量低下を示す。放電レートを徐々に上げて40サイクルを行った後、さらに1Cの放電レートで50サイクル行った。LEPS電極の開始値は定格容量の94%であり、ゆえにLEP電極の定格値(101%)よりもはるかに低い。100サイクル後には、2つの電極の差はさらに大きくなる。LEPS電極は定格容量の83%、LEP比較電極は定格容量の97%である。
【0090】
このことから、SO2をベースとする電解質を用いたハーフセル実験では、LEPS電極はLEP電極に比べて高い放電レートでも性能が向上しないと推論される。また、LEPS電極の場合、大電流放電後に放電容量が顕著に低下する。
【0091】
この結果に基づいて、本発明によるLEPS電極を、再充電可能な電池セル、すなわちSO2をベースとする電解質を用いたフルセルで使用した場合、それでも良好な結果が得られることは期待できなかった。
【0092】
実験3:フルセル実験でLEPS電極とLEP電極とを比較した放電容量のサイクル数依存性の測定
前述した実験1および2でLEPS電極の結果が悪かったにもかかわらず、フルセルで試験を実施した。このようなフルセルは、ハウジング内に配置された正極および負極からなる。
【0093】
実験3は、炭素からなる活物質を有する2つの負極、導電性塩としてLiAlCl4を含む、SO2をベースとする電解質、ならびに正極としてLEPS電極またはLEP電極のいずれかを有するフルセルで実施した。正極は、活物質、つまりLEPSまたはLEPの充填量は約90mg/cm2であった。セルの定格容量は約100mAhであった。定格容量は、正極の理論容量から、最初のサイクルで負極の保護層形成のために消費される容量を減じて得られる。この保護層は、フルセルの最初の充電時に負極上に形成される。この保護層形成のためにリチウムイオンが不可逆的に消費されるため、以降のサイクルで利用できるフルセルのサイクル可能な容量が少なくなる。したがって、セルは、正極に用いる活物質の種類のみが異なる。
【0094】
いくつかのサイクル実験を実施した。充電終止電圧の3.6Vに達し、充電電流が40mAに低下するまで、0.1Aの電流に相当する1Cでフルセルを充電した。その後、2.5Vの電位に達するまで同じ電流強度でフルセルを放電した。充電と放電の間にそれぞれ10分間の休止時間を設けた。
【0095】
測定した放電容量は定格容量のパーセンテージで表した。
【0096】
各測定では、異なる活物質を用いた2種類のフルセルを調べた。示した曲線は、2回の同一測定(LEPS電極)または3回の同一測定(LEP電極)の平均値である。
【0097】
図6はこの実験結果をプロットしたものである。LEPS電極を用いたフルセルの開始値は定格容量の約90%である。LEP電極を用いたフルセルの開始値は定格容量の約83%である。いずれの電極も、サイクル数にわたって放電容量が低下している。LEPS電極を用いたフルセルの容量低下は、400サイクル目には18%となり、残存容量が72%となった。LEP電極を用いたフルセルでは、放電容量の低下は21%で、400サイクル後の残存容量は62%であった。つまり驚くべきことに、LEPS電極を用いたフルセルは、より安定した長期挙動を示す。
【0098】
先に実施したハーフセル実験では明らかに異なる挙動を示していたため、この結果は予想外で驚きであった。
【0099】
実験4:フルセル実験でLEPS電極とLEP電極とを比較した放電容量のサイクル数依存性の測定
3つの電極を用いたフルセルで非常に良好な結果が得られた後、さらに11個の正極と12個の負極を用いた別のフルセルを調べた。フルセルは、正極に用いる活物質の種類のみが異なる。
【0100】
負極は炭素からなる活物質を含み、電解質は、導電塩としてLiAlCl4を含む、4.5×SO2をベースとする電解質(LiAlCl4×4.5SO2)で構成されていた。正極は活物質としてLEPSまたはLEPを含んでいた。正極の活物質の充填量は約90mg/cm2であった。セルの定格容量は約1000mAhであった。
【0101】
複数のサイクル実験を実施した。充電終止電圧の3.6Vに達し、充電電流が20mAに低下するまで、0.1Aの電流に相当する1Cでセルを充電した。その後、2.5Vの電位に達するまで同じ電流強度でセルを放電した。フルセルの充電と放電の間にそれぞれ10分間の休止時間を設けた。
【0102】
測定した放電容量は定格容量のパーセンテージで表した。定格容量は、正極の理論容量から、最初のサイクルで負極の保護層形成のために消費される容量を減じて得られる。
【0103】
図7はこの実験結果をプロットしたものである。示した曲線は、それぞれLEPS電極を用いた8つの同一のフルセルまたはLEP電極を用いた4つの同一のフルセルを用いた測定の平均値である。LEPS電極を用いたフルセルの開始値は定格容量の約89%である。LEP電極を用いたフルセルの開始値は定格容量の約86%である。いずれの電極も、サイクル数にわたって放電容量の低下を示している。LEPS電極を用いたフルセルの容量低下は、500サイクル目には定格容量の24%、1000サイクル目には30%となった。そうすると放電容量は定格容量の59%となる。LEPS電極を用いたフルセルは、31%(500サイクル目)、35%(1000サイクル目)と低下し、最終的には定格容量の51%となる。また、LEPS電極を多数備えた電池セルは、より安定した長期挙動を示す。