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特許7437417実ターボマシンシステムの物理パラメタを物理パラメタセットポイントパラメタをもとに調節するシステム及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】実ターボマシンシステムの物理パラメタを物理パラメタセットポイントパラメタをもとに調節するシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 13/02 20060101AFI20240215BHJP
【FI】
G05B13/02 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021564970
(86)(22)【出願日】2020-05-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-26
(86)【国際出願番号】 EP2020062302
(87)【国際公開番号】W WO2020239366
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-04-11
(31)【優先権主張番号】1905707
(32)【優先日】2019-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】516227272
【氏名又は名称】サフラン・エアクラフト・エンジンズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジェラッシ セドリク
【審査官】田中 友章
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0031359(US,A1)
【文献】特開昭62-187903(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターボマシンの実システムF(p)の物理パラメタ(y)を、物理パラメタセットポイント(yc)をもとに調節する調節システム(REG)であり、ある応答時間を呈する調節システム(REG)であって、
補正関数C1(p)及びパラメタ化利得Kを有する補正器と、
上記実システムF(p)の理論的逆伝達関数F-1(p)と、
調節中に上記パラメタ化利得Kを最適化するシステム(OPTK)と、
を備え、上記最適化システム(OPTK)が、
i.上記物理パラメタ(y)の調節を経て本調節システム(REG)の不安定性が検出されたときに正値の第1利得定数K1を決定するよう構成された安定性補正モジュール(2)を備え、
ii.本調節システム(REG)の応答時間を補正するモジュール(3)として、上記物理パラメタ(y)の調節を経て遅延が検出されたときに負値の第2利得定数K2を決定するよう構成されたものを備え、上記安定性補正モジュール(2)が、上記物理パラメタ(y)の調節を経て不安定性(TopIS)が検出されたときにこの応答時間補正モジュール(3)を阻害するよう構成されており、
iii.先に決定されている第1利得成分K1及び第2利得成分K2の関数として上記パラメタ化利得Kを決定するよう構成された決定モジュール(4)を備える、
調節システム。
【請求項2】
請求項1に係る調節システム(REG)であって、上記物理パラメタ(y)・上記物理パラメタセットポイント(yc)間の偏差(ε)が定義されていて、上記安定性補正モジュール(2)が、その偏差(ε)をハイ偏差閾値(SH)及びロー偏差閾値(SB)と比較するよう構成された安定性検出モジュール(21)を備え、その安定性検出モジュール(21)が、その偏差(ε)が当該ハイ偏差閾値(SH)より大きくなり引き続いて当該ロー偏差閾値(SB)よりも小さくなったことを以て不安定性(TopIS)として検出するよう、構成されている調節システム。
【請求項3】
請求項2に係る調節システム(REG)であって、不安定性(TopIS)の期間に上記偏差(ε)が振動し、上記安定性検出モジュール(21)が、不安定性(TopIS)の検出に後続して振動回数を計数するよう、且つその振動回数の計数値(NB-osc)の関数として安定性補正パラメタ(TopCS)を決定するよう構成されており、上記第1利得成分K1がその安定性補正パラメタ(TopCS)に依存している調節システム。
【請求項4】
請求項3に係る調節システム(REG)であって、上記安定性補正モジュール(2)が、上記物理パラメタセットポイント(yc)の有意変動により生じた過渡フェーズが検出された場合に上記振動回数計数値(NB-osc)を0にリセットするよう、構成されている調節システム。
【請求項5】
請求項1~4のうち一項に係る調節システム(REG)であって、上記安定性補正モジュール(2)が、オーバシュートパラメタ(TopOS)を決定するよう構成されたオーバシュート検出モジュール(22)を備え、上記第1利得成分K1がそのオーバシュートパラメタ(TopOS)に依存している調節システム。
【請求項6】
請求項5に係る調節システム(REG)であって、上記物理パラメタ(y)・上記物理パラメタセットポイント(yc)間の偏差(ε)が定義されていて、上記オーバシュート検出モジュール(22)が、そのパラメタセットポイント(yc)の有意増加変動に後続してその偏差(ε)についての監視期間を開始させるよう構成されており、そのオーバシュート検出モジュール(22)が、その監視期間中にその偏差(ε)を少なくとも一通りのオーバシュート閾値(SD1,SD2)と比較するよう構成されており、そのオーバシュート検出モジュール(22)が、その偏差(ε)がそのオーバシュート閾値(SD1,SD2)を越えたことを以てオーバシュート(TopOS)として検出するよう構成されている調節システム。
【請求項7】
請求項1~6のうち一項に係る調節システム(REG)であって、上記応答時間補正モジュール(3)が、上記物理パラメタセットポイント(yc)を巡る許容範囲を決定するよう、且つ上記物理パラメタ(y)がその許容範囲内に収まっていない場合に第2利得定数K2を決定するよう、構成されている調節システム。
【請求項8】
請求項1~7のうち何れかに係る調節システム(REG)を実施することで物理パラメタ(y)を調節する調節方法であって、
上記物理パラメタ(y)の調節を経てその安定性を監視するステップと、
上記物理パラメタ(y)の調節を経て不安定性(TopIS)が検出されたときに正値の第1利得定数K1を決定するステップと、
不安定性(TopIS)欠如時に上記物理パラメタ(y)の調節を経て上記調節システムREGの応答時間を監視するステップと、
上記物理パラメタ(y)の調節を経て遅延が検出されたときに負値の第2利得定数K2を決定するステップと、
上記応答時間の最適化中に上記調節の安定性が確保されるよう、上記第1利得定数K1及び上記第2利得定数K2をもとに上記補正器C(p)のパラメタ化利得Kを決定するステップと、
を有する調節方法。
【請求項9】
命令群で構成されるコンピュータプログラムであり、コンピュータにより実行されたときに、請求項8に係る調節方法の諸ステップが実行されることとなるコンピュータプログラム。
【請求項10】
請求項9に係るコンピュータプログラムを構成する命令群が備わるメモリを備えるターボマシン用電子制御ユニット。
【請求項11】
請求項10に係る電子ユニットを備えるターボマシン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボマシンの実システムの物理パラメタを、物理パラメタセットポイントをもとに調節するシステムに関する。例えば、その物理パラメタを、ターボジェットバルブの変位速度、燃料流量、ベーン(羽根)の配向角等々に対応付けることができる。
【背景技術】
【0002】
既知方式の調節システムREGは、補正関数C1(p)及びパラメタ化利得Kを有する補正器を備えている。この調節システムの性能は、特にその応答時間及び安定性によって評価される。実際上、調節システムは、応答時間・安定性間で確と折衷されるようパラメタ化される。
【0003】
実際上、ターボマシンの実システムは、経時的に変化及び劣化しがちな特性及び変数を有している(摩耗、ドリフト等々)。そのため、就役時にはその動作が最適であった調節システムも、数か月後には、とりわけ安定性の面で非最適なものとなりうる。この潜在的難点をなくすため、就役中の調節システムは、その応答時間に影響する安定性マージンが大きくなるようパラメタ化される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許出願公開第2004/0123600号明細書
【文献】米国特許第5537310号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、良好な安定性及び応答時間性能を経時的に呈することとなるよう動的に適応させうる調節システムを提供することで、こうした難点のうち少なくとも幾つかをなくすことにある。
【0006】
ちなみに、特許文献1記載の従来技術によれば、経時的に現れる欠陥及び誤動作を集積すべく実システムの定義を経時的に最適化することを教示する調節システムが、知られている。そうした実システムの最適化は厄介であり(新たな伝達関数の定義等々)、即応的な調節が可能でない。その情報処理コストが非常に高い。
【0007】
また、特許文献2によれば、実システムモデルのパラメタ化利得を過渡フェーズ中に適応させる適応的補正モデルが知られている。この文献で扱っているのは過渡に係る安定性だけであり、迅速性欠陥には対処していない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ターボマシンの実システムの物理パラメタを、物理パラメタセットポイントをもとに調節(レギュレート)するシステムであり、ある応答時間を呈する調節(レギュレーション)システムであって、
補正関数及びパラメタ化利得Kを有する補正器と、
上記実システムの理論的逆伝達関数と、
調節中にそのパラメタ化利得Kを最適化するシステムと、
を備え、その最適化システムが、
上記物理パラメタの調節を経て本調節システムの不安定性が検出されたときに正値の第1利得定数K1を決定するよう構成された安定性補正モジュールを備え、
本調節システムの応答時間を補正するモジュールとして、上記物理パラメタの調節を経て遅延が検出されたときに負値の第2利得定数K2を決定するよう構成されたものを備え、上記安定性補正モジュールが、上記物理パラメタの調節を経て不安定性が検出されたときにその応答時間補正モジュールを阻害するよう構成されており、
先に決定されている第1利得成分K1及び第2利得成分K2の関数としてパラメタ化利得Kを決定するよう構成された決定モジュールを備える、
調節システムに関するものである。
【0009】
本発明の特筆点は、本調節システムでは、パラメタ化利得を増加させることで安定性欠陥を、またパラメタ化利得を減少させることで遅延を動的に補正でき、それにより本調節システムの性能が最適になることである。本調節システムはこのように自己適応的である。上首尾なことに、もはや、従来技術の如く安定性と引き換えに応答時間を犠牲にする必要がない。従ってその調節がより即応性のものとなる。上首尾なことに、不安定性がある場合は迅速性の改善が阻害・禁止される。言い換えれば、その安定性が優先的に補正されるのであり、応答時間が改善されるのは本調節システムが安定なときだけである。本発明に係る調節システムによれば、その調節が、回動要素を有するターボマシンに特徴的であり物理パラメタの調節に経時的に影響してくる周期的現象への対処において、ひときわ効果的である。
【0010】
このように、本調節システムによれば、それ自体の応答に従いそれ自体を補正することができる。
【0011】
好ましくは、上記物理パラメタ・上記物理パラメタセットポイント間の偏差を定義する。上記安定性補正モジュールを、その偏差をハイ偏差閾値及びロー偏差閾値と比較するよう構成された、安定性検出モジュールを備えるものとする。その安定性検出モジュールを、その偏差が当該ハイ偏差閾値より大きくなり引き続いて当該ロー偏差閾値よりも小さくなったことを不安定性として検出するよう、構成する。言い換えれば、この安定性検出モジュールにより、所定範囲からの偏差を計測することが可能となる。そうした検出は迅速且つロバストである。
【0012】
好ましくは、上記偏差が不安定性期間に振動することを踏まえ、上記安定性検出モジュールを、不安定性の検出に後続して振動回数を計数するよう、且つその振動回数の計数値NB-oscの関数として安定性補正パラメタTopCSを決定するよう構成し、第1利得成分K1をその安定性補正パラメタTopCSに依存させる。このように、振動回数を計数して不安定性の度合いを求め、それをもとに適切な補正度合いを導出することができる。
【0013】
好ましくは、上記安定性補正モジュールを、上記物理パラメタセットポイントの有意変動により生じた過渡フェーズが検出された場合に振動回数計数値NB-oscを0にセットするよう、構成する。
【0014】
言い換えれば、上記安定性検出モジュールを定常フェーズ中の安定性の確保に専用し、過渡フェーズ中の安定性を専用の手段により確保する。これにより、不安定性の種類に従い最適な補正値の計算を行うことが可能になるため、補正が改善される。
【0015】
好ましくは、上記安定性検出モジュールを、第1利得成分K1からのパラメタ化利得Kの決定に後続して上記振動回数計数値を0にセットするよう構成する。言い換えれば、先行する補正がまだその効果をもたらしていないうちは、新たな補正が禁止される。
【0016】
本発明のある態様では、上記安定性補正モジュールを、オーバシュートパラメタTopOSを決定するよう構成されたオーバシュート検出モジュールを備えるものとし、第1利得成分K1をそのオーバシュートパラメタTopOSに依存させる。本発明によれば過渡フェーズ、ここでは物理パラメタセットポイントの増加に対応する加速過渡フェーズ中の安定性を専用手段により監視することで、最適な補正が確保される。
【0017】
好ましくは、上記物理パラメタ・上記物理パラメタセットポイント間の偏差を定義し、上記オーバシュート検出モジュールを、そのパラメタセットポイントの有意増加変動に後続して偏差監視期間を開始させるよう構成する。そのオーバシュート検出モジュールを、その偏差を少なくとも一通りのオーバシュート閾値と比較するよう構成し、且つそのオーバシュート検出モジュールを、その監視期間中にその偏差がそのオーバシュート閾値よりも大きくなったことを以てオーバシュートとして検出するよう、構成する。言い換えれば、先に確認された過渡フェーズ中のオーバシュートだけが勘案される。定常フェーズ中のオーバシュートは、上首尾なことにオーバシュート検出モジュールにて無視される。オーバシュートの分別処理により、上首尾にも即応的な補正を行うことが可能となるため、初期オーバシュートが生じるや否や後続の全オーバシュートが抑圧されることとなる。その監視窓が狭いため、その補正をより妥当且つ即応的なものとすることができる。
【0018】
好ましくは、上記オーバシュート検出モジュールを、上記パラメタセットポイントの減少変動が検出された場合にオーバシュート検出を禁止するよう構成する。言い換えれば、増加過渡条件がもはや成立していない場合に監視期間が停止される。これによりあらゆる誤補正が回避される。
【0019】
本発明のある態様では、上記安定性補正モジュールを、アンダシュートパラメタTopUSを決定するよう構成されたアンダシュート検出モジュールを備えるものとし、第1利得成分K1をそのアンダシュートパラメタTopUSに依存させる。上首尾なことに、加速過渡と減速過渡とを別々に処理することで、不安定性の種類毎に相応な調節を果たすことができる。
【0020】
好ましくは、上記安定性補正モジュールを、上記物理パラメタの閉ループ応答yBFをもとに偏差εの変動を計測するよう構成された、過渡検出モジュールを備えるものとする。言い換えれば、過渡を検出するため理論的閉ループ応答が前以て計算され、それにより比較標準が形成される。こうした動的な比較標準は、監視期間を決定し即応的な補正を実行する上で有益である。
【0021】
好ましくは、上記応答時間補正モジュールを、上記物理パラメタセットポイントを巡る許容範囲を決定するよう、且つ上記物理パラメタがその許容範囲内に収まっていない場合に第2利得定数K2を決定するよう、構成する。従って、過剰な遅延又は先行が検出された場合には、補正が動的に行われる。
【0022】
本発明は、上述した調節システムREGを実施することで物理パラメタを調節する方法であって、
その物理パラメタの調節を経てその安定性を監視するステップと、
その物理パラメタの調節を経て不安定性が検出されたときに正値の第1利得定数K1を決定するステップと、
不安定性欠如時にその物理パラメタの調節を経て調節システムREGの応答時間を監視するステップと、
その物理パラメタの調節を経て遅延が検出されたときに負値の第2利得定数K2を決定するステップと、
上記応答時間の最適化中に上記調節の安定性が確保されるよう、第1利得定数K1及び第2利得定数K2をもとに上記補正器C(p)のパラメタ化利得Kを決定するステップと、
を有する調節方法をも指向している。
【0023】
本発明は、命令群で構成されコンピュータにより実行されるコンピュータプログラムであり、上述した制御方法の諸ステップを実行するためのプログラムにも関する。
【0024】
本発明は、更に、上述したコンピュータプログラムを構成する命令群が備わるメモリを備えるターボマシン用電子制御ユニットに関する。
【0025】
本発明は、上述した電子ユニットを備えるターボマシンにも関する。
【0026】
専ら例示により与えられている後掲の記述を読むこと、並びに非限定的な例として与えられており類似物に同一参照符号が付されている以下の添付図面を参照することで、本発明についてより良好に理解頂けよう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】従来技術に従い逆モデルによって実システムを補正するシステムの模式図である。
図2】逆モデルによる実システム補正システム向けの、本発明の一実施形態に係る調節システムの模式図である。
図3】安定性補正モジュールの一実施形態の模式図である。
図4】不安定性検出モジュールの一実施形態の模式図である。
図5】不安定性検出に関する偏差εの経時変化曲線を示す図である。
図6】オーバシュート検出モジュールの一実施形態の模式図である。
図7】パラメタセットポイントの増加変動即ち増加過渡フェーズに後続する、物理パラメタの経時変化曲線を示す図である。
図8】過渡フェーズ中におけるそれら物理パラメタ及び偏差の経時変化並びにそれによるオーバシュート補正値の決定を表す一組の曲線を示す図である。
図9】応答時間補正モジュールの一実施形態の模式図である。
図10】定常フェーズでの物理パラメタy及びその基準たる物理パラメタセットポイントycの経時変化曲線を示す図である。
図11】実システムに影響する周期的遅延に後続する、その物理パラメタの経時変化を表す一組の曲線を、従来技術に係る調節システムに関し示す図である。
図12】実システムに影響する周期的遅延に後続する、その物理パラメタの経時変化を表す一組の曲線を、本発明に係る調節システムに関し示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
注記すべきことに、これらの図面は、本発明を実施しうる詳細な要領で本発明を説明するものであり、無論のこと、本発明をより良好に定義するため必要に応じ用いることができる。
【0029】
図1に、制御パラメタyをパラメタセットポイントycの関数として決定するよう構成された補正システムSCを示す。本例の補正システムSCは逆モデル補正器を体現している。言い換えれば、補正システムSCは順に補正器C(p)、逆モデルF-1(p)及び実システムF(p)で構成されている。実システムF(p)は制御パラメタyに作用するターボマシンの実システムに対応している。実際には、実システムF(p)は幾通りかの伝達関数を体現する。性質上、実システムF(p)は経時変化(ドリフト、摩耗等々)するので、パラメタセットポイントycと同様には応答しない。
【0030】
逆モデル補正器を体現する補正システムSCでは、実システムF(p)を数学的に反転することで逆モデルF-1(p)を定義できるものと仮定される。この仮定によればF-1(p)*F(p)=1であるので、補正システムSCが本質的に補正器C(p)に依存する。言い換えれば、この補正システムの応答時間及び安定性を、補正器C(p)により直に決定付けることができる。
【0031】
既知方式の補正器C(p)は、本件技術分野に習熟した者(いわゆる当業者)にとり既知の伝達関数C1(p)及び調整利得Kにより、式C(p)=C1(p)*1/Kが成り立つように構成される。
【0032】
本発明では、調整利得Kを経時修正することで補正器C(p)の応答時間及び安定性が調整される。即ち、実システムF(p)に純遅延が生じた場合や実システムF(p)の統計利得が変化した場合に、調整利得Kを修正して最適な性能を保つことができる。
【0033】
以下では、補正器C(p)及び逆モデルF-1(p)を備えるセットのことをレギュレータ(調節器)REGと呼んでおり、そこから実システムF(p)へと予備物理パラメタyaを供給している。図2に、本発明の一実施形態に係るレギュレータREGを示す。レギュレータREGはある応答時間を呈する。
【0034】
図2に示す補正器C(p)は、伝達関数C1(p)と、パラメタ化利得Kを最適化するシステムOPTKとを有している。
【0035】
最適化システムOPTKは、第1利得成分K1を決定するよう構成された安定性補正モジュール2、第2利得成分K2を決定するよう構成された応答時間補正モジュール3、並びに先に決定されている利得成分K1,K2の関数としてパラメタ化利得Kを決定するよう構成された決定モジュール4を備えている。以下、偏差εを、物理パラメタセットポイントyc・物理パラメタy間差異相当のものとして定義する(ε=yc-y)。
【0036】
以下、様々なモジュールを詳細に説明する。
【0037】
図2に示す安定性補正モジュール2は、第1利得成分K1及び不安定性TopISを制御パラメタy及びパラメタセットポイントycの関数として決定・判別するよう、構成されている。
【0038】
・安定性補正モジュール2(図3
図3に、安定性補正モジュール2を模式的に示す。これは、偏差ε及びパラメタセットポイントycをもとに不安定性TopISを検出し安定性補正パラメタTopCSを決定するよう構成された、不安定性検出モジュール21を備えている。実際のところ、後述の通り、不安定性検出モジュール21により、パラメタセットポイントyc付近で不安定性を検出することができる。
【0039】
安定性補正モジュール2は、更に、偏差ε、制御パラメタy及びパラメタセットポイントycをもとにオーバシュートTopOSを検出するよう構成された、オーバシュート検出モジュール22を備えている。言い換えれば、パラメタセットポイントycの迅速な増加変動中に、物理パラメタyがそのパラメタセットポイントycに対しオーバシュートし、過渡フェーズに関わる不安定性が生じることがある。以下、略語「過渡」を、過渡フェーズを指す意味でも用いる。
【0040】
同様に、安定性補正モジュール2は更に、偏差ε、制御パラメタy及びパラメタセットポイントycをもとにアンダシュートTopUSを検出するよう構成された、アンダシュート検出モジュール23を備えている。
【0041】
そして、安定性補正モジュール2は、自安定性補正モジュール2の他モジュール21,22,23により得られたオーバシュート検出パラメタTopOS、アンダシュート検出パラメタTopUS及び安定性補正パラメタTopCSの関数として第1利得成分K1を決定するよう構成された、安定性補正モジュール24を備えている。
【0042】
・安定性検出モジュール21
図4に、安定性検出モジュール21を模式的に示す。安定性検出モジュール21は、偏差εの値がハイ閾値SH-CSより大きく又はロー閾値SB-CSより小さい場合に不安定性TopISを検出する、第1モジュール211を備えている。不安定性TopISが検出されるのは、ハイ閾値SH-CS及びロー閾値SB-CSが相次いでオーバシュート又はアンダシュートされたときである。
【0043】
例えば、第1モジュール211を、一方では偏差εをハイ閾値SH-CSと比較し、他方では偏差εをロー閾値SB-CSと比較するよう、構成する。偏差εがハイ閾値SH-CSよりも大きい場合は、オーバシュートした旨がメモリ内に格納される。同様に、偏差εがロー閾値SB-CSよりも小さい場合は、アンダシュートした旨がメモリ内に格納される。図5に描かれている通り、その性質が異なる二種類のクロッシング即ちオーバシュート及びアンダシュートが相次いで検出されたときに、不安定性TopISとして検出される。閾値SB-CS,SH-CSとのクロッシングがない場合は、不安定性TopISとして検出されない。
【0044】
図4に描かれている通り、安定性検出モジュール21は更に、不安定性TopISが検出されたときに物理パラメタyの振動回数NB-oscを計数する、第2モジュール212を備えている。振動回数NB-oscは、至便なことに、定常フェーズ中にオーバ又はアンダシュートの相次ぐ発生を計数しそれをメモリ内に格納することで、得ることができる。
【0045】
第2モジュール212は、ゼロリセットコマンドを受け取り振動回数NB-oscを0にリセットするようにも、構成されている。この目的を果たすため、図4に描かれている通り、安定性検出モジュール21は、ゼロリセットRAZを決定するための第3モジュール213及び第4モジュール214を備えている。
【0046】
図4に描かれている通り、安定性検出モジュール21は、振動回数NB-oscをもとに補正パラメタTopCSを決定するよう構成された、第5モジュール215を備えている。本実施形態では振動回数NB-oscが3よりも大きい場合に補正が実行されるのであり、補正パラメタTopCSが安定性検出モジュール21により送信される。図4に描かれている通り、補正中には、同じ補正の反復を避けるためゼロリセット情報RAZも送信される。
【0047】
また、図4に示す安定性検出モジュール21は、パラメタセットポイントycの有意変動即ち過渡を検出し、過渡検出に後続して振動回数NB-oscを0にリセットする、第3モジュール213を備えている。この目的を達成するため、第3モジュール213は、偏差εが第2ハイ閾値SH2・第2ロー閾値SB2間に保たれているか否かを監視する。好ましくは、先に用いられたハイ閾値SH-CSよりも第2ハイ閾値SH2を大きくし、ロー閾値SB-CSよりも第2ロー閾値SB2を小さくすることで、不安定性TopISの検出に関しマージンが保たれるようにする。第2閾値SB2,SH2を超過したことを以て過渡の存在が検出され、それによって振動回数NB-oscが0にリセットされ且つ安定性補正が停止される。実のところ、過渡関連補正の処理はオーバシュート検出モジュール22及びアンダシュート検出モジュール23により行われる。
【0048】
図4に描かれている通り、安定性検出モジュール21は、補正が行われたか否かを検出し、検出時にはゼロリセットRAZを指令するよう構成された、第4タイミングモジュール214を備えている。言い換えれば、先の補正がまだ効果を発揮していないときに、第4モジュール4により新たな補正を禁止・阻害することができる。本例では、第4モジュール214が、実システムF(p)の応答時間の関数としてタイミングを付与する形態とされている。
【0049】
上首尾なことに、安定性検出モジュール21により、補正パラメタTopCSを、不安定性TopISの検出に後続し振動回数計測値NB-oscの関数として決定することができる。上首尾なことに、過渡の場合、即ち実システムF(p)により補正がまだ取り入れられていない場合に、あらゆる補正が禁止・阻害される。こうしたやり方で計算された補正パラメタTopCSであるので、後述の通り調節安定性を改善することができる。
【0050】
・オーバシュート検出モジュール22
図3に、オーバシュート検出モジュール22を模式的に示す。調節対象物理パラメタyが過渡終了期にオーバシュートした場合に、これにより上補正値TopOSを決定することができる。言い換えれば、オーバシュート検出モジュール22は、パラメタセットポイントycの増加変動に後続しての即時補正を行えるようにしている。
【0051】
実際のところ、図6に示す通り、オーバシュート検出モジュール22は、物理パラメタセットポイントycの受領に後続し閉ループYbにおける実システムF(p)の応答を求める、モジュール221を備えている。これにより、実システムF(p)の理論的理想応答を求めることができる。本例では、決定モジュール221により「ローパス」型のフィルタ、とりわけ一次又は二次のそれが実現されている。
【0052】
オーバシュート検出モジュール22は、更に、閉ループ応答yBF、とりわけその導関数のそれをもとに偏差εの変動即ち過渡を検出するモジュール222を備えている。このやり方では、その調節が実際に増加過渡フェーズにあるか否か、即ち制御セットポイントycの増加変動であるか否かが判別される。偏差εが閉ループ応答yBFから乖離している場合、加速TopAccelとして検出される。図7に、その過渡の出力に不安定性がある過渡の例を模式的に示す(ダンピング効果)。
【0053】
また、図6に示すオーバシュート検出モジュール22は更に、加速TopAccelが検出されたときに監視期間を開始させるよう構成された、ストレージモジュール223を備えている。即ち、オーバシュート検出モジュール22では、過渡加速フェーズ中の不安定性の検出に注目している。実のところ、オーバシュート検出モジュール22は、パラメタセットポイントycが定常的であるときの物理パラメタyのオーバシュートの検出、即ち調節不安定性に相当するそれの検出を狙っていない。
【0054】
オーバシュート検出モジュール22は、更に、オーバシュート閾値SD1,SD2を基準にして偏差εを監視するモジュール224を備えている。本実施形態では、監視モジュール224が二通りのオーバシュート閾値SD1,SD2を有しており、本例ではそれらがヒステリシス型閾値とされている。
【0055】
図6に描かれている通り、監視期間中にオーバシュート閾値SD1,SD2に対するオーバシュートが検出された場合、オーバシュート検出モジュール22によりオーバシュート補正値TopOSが出力される。
【0056】
上首尾なことに、オーバシュート検出モジュール22は、ストレージモジュール224の監視期間を停止させるモジュールとして、安定化が検出された場合にそうするもの(モジュール225)や減速セットポイントの場合にそうするもの(モジュール226)を備えている。実のところ、物理パラメタセットポイントycの減速によりオーバシュートが検出されることは、避ける必要がある。これにより、不安定性の源泉たる時期外れな補正が回避される。
【0057】
図8に、オーバシュート検出の実現形態例を示す。本例では、過渡加速フェーズに後続し、偏差εが第1オーバシュート閾値SD1に上からクロスすることでオーバシュート補正TopOSが起動され、その後、第2オーバシュート閾値SD2に上からクロスすることでオーバシュート補正TopOSが再び起動される。言い換えれば、補正が即応的であり、過渡終了期にオーバシュートが生じたら直ちに、調節量を補正することができる。こうした補正が行えるのは、過渡発生時だけそれが実行されるためである。
【0058】
・アンダシュート検出モジュール23
図3に、アンダシュート検出モジュール23を模式的に示す。これは、オーバシュート検出モジュール22と同様であるため詳述しないが、パラメタセットポイントycの減少変動中、即ち物理パラメタセットポイントycの減速中にアンダシュートを検出することを狙うものである。
【0059】
オーバシュート検出モジュール22と同様、過渡フェーズが検出され下閾値越えが検出された場合、アンダシュート検出モジュール23からアンダシュート補正値TopUSが出力される。
【0060】
・計算モジュール24
図3に計算モジュール24、即ち補正値TopCS、TopOS及びTopUSをもとに第1補正成分K1を決定する機能を有するそれを、模式的に示す。
【0061】
・応答時間補正モジュール3(図9
図9に、応答時間補正モジュール3を模式的に示す。これは、パラメタセットポイントycが実際に安定であることを検出するよう構成された、安定性検出モジュール31を備えている。実際には、安定性検出モジュール31は、パラメタセットポイントycが大きく変化していないこと、即ち過渡を伴っていないことを確かめる。安定性検出モジュール31は安定性確認信号ConfSを計算モジュール33向けに提供する。
【0062】
また、図9に示す応答時間補正モジュール3は、物理パラメタセットポイントycを巡る許容範囲を決定するモジュール32を備えている。本例ではローテンプレートGabBTR及びハイテンプレートGabHTRが前以て決定され、yc-GabBTRとyc+GabHTRとに挟まれ定義される許容範囲がそれらから導出される。この許容範囲は、物理パラメタy・物理パラメタセットポイントyc間で許容されると思しきラグ(遅延)に対応している。好ましくは、テンプレートGabBTR,GabHTRが、物理パラメタセットポイントycの受領に後続し、実システムF(p)の閉ループ応答をもとに決定されるようにする。このように、テンプレートGabBTR,GabHTRが理想的に決定され、それにより参照許容範囲が定義される。
【0063】
応答時間補正モジュール3は、更に、確認信号ConfSにより確認された定常フェーズにて物理パラメタyが許容範囲に属していない場合に第2利得定数K2を決定するよう構成された、計算モジュール33を備えている。
【0064】
実際、応答時間補正モジュール3により、物理パラメタセットポイントycに対する物理パラメタyのあらゆる遅延を監視することができる。そうした遅延のなかには、例えば、パラメタ化利得Kの過剰増加、とりわけ不安定性の検出に後続するそれに関連するものがある。負値を有する第2利得定数K2により、応答時間を改善することが可能となる。上首尾なことに、こうして数点での補正を実行することができる。
【0065】
図10に描かれている例では、物理パラメタyが、調節の遅延を反映し、ゾーンP31及びP32にて監視範囲から逸脱している。応答時間補正モジュール3は、偏差が監視範囲外になった回数に基づき第2利得定数K2を決定する。
【0066】
・パラメタ化利得Kを決定するモジュール4(図2
図2に描かれている通り、パラメタ化利得Kを決定するモジュール4は、安定性補正モジュール2により決定された第1利得定数K1と、応答時間補正モジュール3により決定された第2利得定数K2とを総和するよう、構成されている。好ましくは、静的利得定数をも加算してパラメタ化利得Kを決定する。事実上、パラメタ化利得Kはリアルタイムに修正される。
【0067】
第1利得定数K1が正、第2利得定数K2が負であるので、調節中にパラメタ化利得Kを動的に修正すること、ひいては経時変化に適応しあらゆるドリフトを補正することができる。
【0068】
・調整利得Kの動的最適化を伴う調節方法の実現形態例
本発明に係る調節方法は、物理パラメタの調節を経てその安定性を監視するステップと、その物理パラメタyの調節を経て不安定性が検出されたときに正値の第1利得定数K1を決定するステップと、不安定性欠如時にその物理パラメタの調節を経て応答時間を監視するステップと、その物理パラメタの調節を経て遅延が検出されたときに負値の第2利得定数K2を決定するステップと、応答時間の最適化中に調節の安定性が確保されるよう、第1利得定数K1及び第2利得定数K2をもとに補正器C(p)のパラメタ化利得Kを決定するステップと、を有する方法である。
【0069】
図11に、従来技術に対する本発明の長所を説明するための例として、静的パラメタ化利得(下側の曲線)の許で実システムF(p)が周期的遅延RET(中葉の曲線)を被っているときの物理パラメタyの経時変化(上側の曲線)を、物理パラメタセットポイントycの関数として示す。本例ではその遅延RETが0.2s~3s間で変動する。
【0070】
図11に描かれている通り、安定動作中及び過渡中の何れでも、遅延RETが顕著になると物理パラメタyの顕著な不安定性が現れる。更に、その迅速さが最適でなくなる。こうした調節は満足のいくものではない。
【0071】
図12に、本発明に係る調節システムREGにより最適化される動的パラメタ化利得(下側の曲線)の許で実システムF(p)が周期的遅延RET(中葉の曲線)を被っているときの物理パラメタyの経時変化(上側の曲線)を、物理パラメタセットポイントycの関数として示す。
【0072】
図12に描かれている通り、遅延RETが顕著になると物理パラメタyの不安定性が現れ、それがパラメタ化利得Kの増加により即応的に補正される。この増加は、安定性補正モジュール2にて、不安定性TopISの検出に後続し第1利得定数K1が増加されることに関連するものである。遅延RETが短くなったときには、パラメタ化利得Kの過去の増大が応答時間にとり有害になり、遅延が入り込む。この遅延は、パラメタ化利得Kの減少により即応的に補正される。この減少は、応答時間補正モジュール3にて、遅延の検出に後続し第2利得定数K2を減少させることに関連するものである。
【0073】
本発明によれば、調節システムREGの安定性及び応答時間が動的且つ即応的に経時補正される。調節システムREGの性能が、その自己適応により最適となる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12