(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】保護用ヘルメット
(51)【国際特許分類】
A42B 3/12 20060101AFI20240215BHJP
【FI】
A42B3/12
(21)【出願番号】P 2021576029
(86)(22)【出願日】2020-06-17
(86)【国際出願番号】 EP2020066770
(87)【国際公開番号】W WO2020254411
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】102019000009369
(32)【優先日】2019-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】502016471
【氏名又は名称】アルパインスターズ リサーチ ソシエタ ペル アチオニ
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジョバンニ マッツァローロ
(72)【発明者】
【氏名】ロベルト パリセンティ
【審査官】冨江 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-508594(JP,A)
【文献】特開2014-122726(JP,A)
【文献】特開2000-154417(JP,A)
【文献】特表2012-518097(JP,A)
【文献】国際公開第01/72160(WO,A1)
【文献】中国実用新案第211407769(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A42B3/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザによって着用され、衝撃時にユーザの頭部(H)を保護するように設計された保護用ヘルメット(1)であって、このようなヘルメット(1)は:
- 剛性アウターシェル(6)と;
- 前記ヘルメット(1)がユーザによって着用されるときに前記ユーザの頭部(H)と接触するように設計される内面(18)と、前記内面(18)の反対側の外面(20)と、を有するコンフォートライナー(10)と;
- 前記剛性アウターシェル(6)と前記コンフォートライナー(10)との間に介在され、前記コンフォートライナー(10)の前記外面(20)に面する内面(22)とを有する、衝撃吸収ライナー(8)と;を備え、
前記衝撃吸収ライナー(8)の前記内面(22)が、使用中の前記コンフォートライナー(10)と接触しているエポキシ樹脂で作られる少なくとも1つの層(36)を備えることを特徴とする保護用ヘルメット(1)。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂(36)の少なくとも1つの層が、0.08mmから0.2mmの間で構成される厚さを有することを特徴とする請求項1に記載の保護用ヘルメット。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂が60から70のショアDの間で構成される硬度を有することを特徴とする請求項1に記載の保護用ヘルメット。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂が3800から4200mPa・sの間で構成される粘度を有することを特徴とする請求項1に記載の保護用ヘルメット。
【請求項5】
前記衝撃吸収ライナー(8)の内面(22)が、上下に塗布されるエポキシ樹脂(36)の複数の層を備えることを特徴とする請求項1に記載の保護用ヘルメット。
【請求項6】
前記コンフォートライナー(10)がドーム形状を有することを特徴とする請求項5記載の保護用ヘルメット。
【請求項7】
前記コンフォートライナー(10)は、前記ユーザの頭部(H)
の側部を包含するように適合される、クラウンパッド(24)と、前記ユーザの頭部(H)
の上部を覆い、接触するために適合される、トップパッド(26)と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の保護用ヘルメット。
【請求項8】
前記コンフォートライナー(10)は、布地または織物で作られていることを特徴とする請求項1に記載の保護用ヘルメット。
【請求項9】
前記トップパッド(26)が、前記クラウンパッド(24)に接続される付属物を有する中央部(28)を備えることを特徴とする請求項7に記載の保護用ヘルメット。
【請求項10】
前記コンフォートライナー(10)を前記衝撃吸収ライナー(8)に取り外し可能に固定するための手段(34)を備えることを特徴とする請求項1に記載の保護用ヘルメット。
【請求項11】
前記エポキシ樹脂の層(36)を塗布するステップが空気またはエアレススプレーによって実行されることを特徴とする、請求項1から10のいずれかに記載の保護ヘルメット(1)の衝撃吸収ライナー(8)にエポキシ樹脂(36)の層を塗布する方法。
【請求項12】
前記エポキシ樹脂の層(36)を塗布するステップがブラシまたはフォームローラーの手段を使用して実行されることを特徴とする、請求項1から10のいずれかに記載の保護ヘルメット(1)の衝撃吸収ライナー(8)にエポキシ樹脂(36)の層を塗布する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃の場合に頭部を保護するためにユーザが着用するように適合された保護用ヘルメットに関する。特に、排他的ではないが、本発明は、オートバイ、スキー、サイクリング、およびユーザの頭部のために保護が必要とされる他の同様のスポーツで使用するのに適したヘルメットに関する。
【0002】
簡単にするために、説明の続きでは、オートバイ用ヘルメット、好ましくはモトクロス用ヘルメットについて言及する。
【背景技術】
【0003】
当技術分野でよく知られているように、オートバイ用ヘルメットは、その間に固定され、それぞれが特定の機能を有する異なる材料で作られた一連の重なり合う層を備える。
【0004】
特に、このようなヘルメットは、合成剛性材料で作られたアウターシェルと、ヘルメットの着用時にユーザの頭部に接触させることを意図したインナーコンフォートライナーと、およびアウターシェルとコンフォートライナーとの間に配置された衝撃吸収ライナーとを備えることができる。
【0005】
したがって、頭部を収容するために設計されたヘルメットの外側から内側の空間に向かうヘルメット層の配置は、アウターシェル、衝撃吸収ライナー、およびコンフォートライナーを想定している。
【0006】
アウターシェルは、ポリカーボネート、ABS、PVC、ガラス繊維、炭素繊維、またはケブラーを含むグループで選択された複合材料または熱可塑性材料で作ることができ、衝撃力を分散するために外部からの衝撃を受ける第1の表面になるように設計されている。
【0007】
衝撃吸収ライナーは、例えば、EPS(発泡ポリスチレン)、EPU(発泡ポリウレタン)、EPP(発泡ポリプロピレン)または他の折りたたみ可能な材料などの発泡材料で作ることができる。
【0008】
さらに、衝撃吸収ライナーは、衝撃力を吸収するためにアウターシェルの内側に固定されるように設計されている。特に、衝撃吸収ライナーの材料は、通常の厚さの50%以上で平らになるまで、かなりの塑性変形によって衝撃を吸収するように設計されている。
【0009】
さらに、コンフォートライナーは、例えば発泡体、織物、または布などの柔らかい材料で作ることができ、その機能は、ヘルメットを着用者の頭部の上に快適に置くことを可能にすることである。コンフォートライナーは、適切な固定手段により、衝撃吸収ライナーに取り外し可能または安定して固定することができる。
【0010】
周知のように、これらのヘルメットは、径方向の衝撃、接線方向の衝撃、または斜めの衝撃を含む、打撃または衝撃からユーザの頭部を保護することを目的としている。
【0011】
特に、径方向の衝撃は、外力が径方向に沿ってアウターシェルに当たるときに発生し、接線方向の衝撃は、外力がシェルの外面に接線方向に沿ってアウターシェルに当たるときに発生する。
【0012】
径方向および接線方向の衝撃は非常にまれであり、それぞれ、ヘルメットに、ひいてはユーザの頭部に加えられる直線加速度または回転加速度をもたらす。
【0013】
直線加速度は頭蓋骨骨折、硬膜外血腫、脳の並進加速度を引き起こすかもしれなく、回転加速度は頭蓋骨内で脳を回転させるかもしれない。脳の回転は、脳震盪、びまん性軸索損傷(DAI)、硬膜下血腫、脳挫傷、脳内血腫などの損傷を引き起こすかもしれない。
【0014】
斜めの衝撃は、ヘルメットに当たる力が通常の(径方向の)力と接線方向の力のベクトル和であり、最も一般的なタイプの衝撃である場合に引き起こす。実際のところ、斜めの衝撃は直線加速度と回転加速度の組み合わせをもたらす。
【0015】
衝撃、特に径方向の衝撃を吸収する能力を改善するために、衝撃吸収ライナーとコンフォートライナーとの間に配置された追加の層を備えるヘルメットが提供される。
【0016】
例として、そのような種類のヘルメットは特許文献1に開示されており、追加の層は、PVC(ポリ塩化ビニル)、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)、PETP(ポリエチレンテレフタレート)、PC(ポリカーボネート)、ポリアミド、PMMA(ポリ(メチルメタクリレート)またはPS(ポリスチレン)から作ることができる。
【0017】
これらのヘルメットが既知のヘルメットと比較して衝撃吸収能力を向上させることができたとしても、欠点がないわけではない。
【0018】
特に、これらのヘルメットの欠点は、斜め方向の衝撃の力を効率的に吸収することができないため、脳の回転加速度を回避することが全くできないことである。
【0019】
この欠点は、斜めの衝撃の場合に、衝撃吸収ライナーとアウターシェルの両方に関して、ユーザの頭部が完全に静止したままであるという事実に由来する。
【0020】
この解決策の別の欠点は、径方向の衝撃を吸収する改善が、当該技術分野で知られているヘルメットに関してそれほど顕著ではないことである。
【0021】
さらに、衝撃吸収ライナーと装着デバイスとの間に配置され、ユーザの頭部に接触してヘルメットを装着させるために使用されるスライド式ファシリテータ(facilitator)を有する新しいヘルメットが考案されている。これらの新しいヘルメットの例は、特許文献2に開示されている。
【0022】
この種のヘルメットでは、スライド式ファシリテータは、斜めの衝撃から派生する力の吸収をよりよく制御し、それによって頭蓋骨内の脳の回転加速度を回避するために、衝撃吸収ライナーまたは取付デバイスに固定され、その間のスライドを可能にすることができる。
【0023】
この目的のために、スライド式ファシリテータは、低摩擦係数を有する材料で作られているか、または低摩擦材料、特にPTFE(ポリエチレンテレフタレート)、ABS、PVC、PC、ナイロン、または布地材料でコーティングすることができる。
【0024】
スライド式ファシリテータは、成形によって衝撃吸収ライナーまたは取付デバイスと統合させることができ、または少なくとも1つの固定部材を使用して衝撃吸収ライナーまたは取り付けデバイスに固定することができる。
【0025】
しかしながら、特許文献2で開示されているヘルメットは、いくつかの欠点がある。まず、このような技術的解決策は、上述したヘルメットで、径方向の衝撃の吸収を改善させるための追加の層を設けても、容易に実施することはできない。
【0026】
この解決策のさらなる欠点は、径方向の衝撃を吸収する改善が、当該技術分野で知られているヘルメットに関してそれほど顕著ではないことである。
【0027】
この技術的解決策の別の欠点は、ヘルメットの構造が既知のヘルメットよりも複雑であり、したがってさらに高価であるということである。
【0028】
この解決策のもう1つの欠点は、スライド式ファシリテータに備えられた取り付けデバイスまたは衝撃吸収ライナーが、既存のヘルメットに使用できないことである。
【0029】
本発明の目的は、上記の欠点が解決されるための保護用ヘルメットを提供することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0030】
【文献】欧州特許0166691号
【文献】欧州特許2896308号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0031】
特に、本発明の意図は、ヘルメットに当たる径方向の衝撃の力を効果的に吸収することを可能にするヘルメットを提供することである。
【0032】
本発明の別の意図は、径方向の衝撃の力の効果的な吸収および斜めの衝撃の力の部分的な吸収を可能にするヘルメットを提供することである。
【0033】
本発明のさらなる意図は、径方向の衝撃を受けたときにヘルメットが通常受ける直線加速度と、斜めの衝撃を受けたときにヘルメットが通常受ける回転加速度の一部と、を低減することを可能にする保護用ヘルメットを提供することである。
【0034】
これらおよび他の目的および意図は、請求項1に記載のヘルメットによって、および請求項11および12に記載のその製造のためにそれぞれの方法によって達成される。
【0035】
本発明の利点および特徴的な機能は、添付の図を参照した保護用ヘルメットを好むが、排他的ではない実施形態の以下の説明からより明確に現れるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】
図1は、本発明による保護用ヘルメットの側面図を示している。
【
図2】
図2は、
図1のヘルメットの断面側面図を示しており、ヘルメットのベースは仮想線で示されている。
【
図3】
図3は、
図2と同様のヘルメットの断面側面図を示しており、ユーザの頭部とコンフォートライナーは示されていない。
【
図4】
図4は、本発明によるヘルメットの要素の斜視図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0037】
添付の図を参照すると、本発明によるユーザよって着用され、ユーザの頭部を保護するように設計されたヘルメットは、全体として参照番号1で示されている。
【0038】
ヘルメットは、特にモーターサイクリスト、つまりモトクロスライダーによって使用されるのに適している。それにもかかわらず、以下の説明から明らかなように、ヘルメットは、サイクリスト、スキーヤー、または、ユーザの頭部の効果的な保護が必要とされる他の分野で有利に使用することができる。
【0039】
知られているように、ヘルメットは、ユーザの頭部Hを挿入するための内部空間を区切っており、内部空間2は、ヘルメットが着用されたときにフトント開口部4を介して外側と連通している。
【0040】
本明細書の目的のために、ヘルメット1は、ユーザによって正しい方法で着用されること、すなわち、
図2に示されるように、開口部4を通して見ることができるように、フロント開口部4がユーザの顔面に配置された状態で着用されることを意図している。
【0041】
図2によりよく示される好ましい実施形態では、ヘルメット1は、外側から内部空間2に向かって、剛性のアウターシェル6、衝撃吸収ライナー8、およびコンフォートライナー10を備える。また、
図3のヘルメット1は、図示していないが、コンフォートライナー10を備える。
【0042】
好ましくは、ヘルメット1は、ヘルメット1をユーザの頭部Hに取り付けるための図示しない取付手段、例えば、よく知られた顎ストラップをさらに備えていてもよい。
【0043】
有利には、衝撃吸収ライナー8は、アウターシェル6の内面12に恒久的に固定されることができ、コンフォートライナー10は、以下でよりよく説明するように、衝撃吸収ライナー8に取り外し可能に結合されることができる。
【0044】
衝撃吸収ライナー8は、当技術分野で広く知られているように、接着剤の手段によって、または衝撃吸収ライナー8をアウターシェル6の内面12上に注入することによって、アウターシェル6の内面12に固定させることができる。
【0045】
さらに、アウターシェル6は、ヘルメット1のより大きな部分に衝撃力を分散させるために、外部からの衝撃を最初に受けるように設計されている。
【0046】
このため、アウターシェル6の材料は、複合材料または熱可塑性材料であり、ポリカーボネート、ABS、PVC、ガラス繊維、炭素繊維、またはケブラーを含むグループから選択することができる。
【0047】
図1によく示されているように、アウターシェル6は、顎ガード14およびバイザー16を備えてもよい。顎ガード14は、好ましくは、アウターシェル6の残りの部分と一体であり、一方、バイザー16は、図に示されていない適切な固定手段によってアウターシェル6に取り外し可能に結合することができる。
【0048】
衝撃吸収ライナー8は、公知の方法で、衝撃のエネルギーを吸収するために、EPS(発泡ポリスチレン)、EPU(発泡ポリウレタン)またはEPP(発泡ポリプロピレン)を含むグループにおいて選択される折りたたみ可能な材料から作られることができる。
【0049】
衝撃吸収ライナー8は、好ましくはEPSで作られ、
図2の断面図に示すように、衝撃力をよりよく吸収するために、アウターシェル6およびコンフォートライナー10の厚さよりも厚い厚さを有する。
【0050】
すでに上述したように、衝撃吸収ライナー8は、衝撃を吸収するために、その通常の厚さの50%以上平坦になるまで塑性変形を受けてもよい。
【0051】
コンフォートライナー10は、順に、ヘルメット1がユーザによって着用されたときにユーザの頭部Hと接触するように設計された内面18(
図2参照)と、内面18と反対で衝撃吸収ライナー8の内面22(
図2参照)に対向する外面20とを備える。したがって、衝撃吸収ライナー8は、アウターシェル6とコンフォートライナー10との間に挿入される。
【0052】
コンフォートライナー10の目的は、ヘルメット1を着用者の頭部Hの上に快適に置くことを可能にすることであり、それは、例えば、布または織物などの柔らかい材料で作ることができる。それはまた、着用者の快適さを改善するために、図には示されていない内側の裏地を備えてもよい。
【0053】
図4に示されるように、コンフォートライナー10は、ドーム形状を有してもよい。コンフォートライナー10は、ユーザの頭部Hの側部を包含するように適合されるクラウンパッド24と、ユーザの頭部Hの上部を覆い、接触するように適合されるトップパッド26とを備えることができる。
【0054】
特に、トップパッド26は、ユーザの頭部Hに接触したままであることが意図され、クラウンパッド24に接続された付属物を有する中央部28を備えてもよい。トップパッド26は、衝撃を受けるとクラウンパッド24に対して引き伸ばされて変形するように適合される。
【0055】
トップパッド26の中央部28、特にその付属物は、図には示されていない、弾性バンドによってクラウンパッド24に固定されることができる。さらに、
図4に示すように、径方向の開口部32は、トップパッド26とクラウンパッド24との間に設けられることができる。
【0056】
したがって、コンフォートライナー10の上記の指示される表面20は、クラウンパッド24の外面によって、およびトップパッド26の外面によって、形成される。
【0057】
コンフォートライナー10は、
図2から
図4によく示されており、適切な固定手段34によって衝撃吸収ライナー8に取り外し可能に固定されることができる。
【0058】
本発明によれば、衝撃吸収ライナー8の内面22は、エポキシ樹脂で作られる少なくとも1つの層36を備える。使用中のこの層36は、コンフォートライナー10と、特にその外面20と、より具体的にはクラウンパッド24およびトップパッド26の外面と接触している。エポキシ樹脂の層36は、
図2と
図3、特に
図3によく示されている。
【0059】
したがって、エポキシ樹脂36の層は、ヘルメット1の内側に固定される衝撃吸収ライナー8とコンフォートライナー10との間に順に配置される。
【0060】
エポキシ樹脂36の層の主な機能は、ヘルメット1がユーザの頭部に作用する径方向の衝撃をよりよく吸収することを可能にすることである。
【0061】
実際のところ、層36は、衝撃吸収ライナー8のより広い領域にわたって衝撃力を分散させるように共働し、したがって、ヘルメット1の並進加速度を低減させる。
【0062】
さらに、衝撃吸収ライナー8の内面22にエポキシ樹脂の層36を設けることにより、特に斜め方向の衝撃を受けた場合に、衝撃吸収ライナー8とコンフォートライナー10との相互変位、ひいてはユーザの頭部Hと衝撃吸収ライナー8との相互変位を妨げないインターフェースを形成できることが見出された。
【0063】
有利なことに、エポキシ樹脂36の層は、ヘルメット1が、斜めの衝撃の間にユーザの頭部Hおよび脳に通常作用する回転加速度を部分的に低減することを可能にする。このようにして、斜めの衝撃の場合に脳に損傷を与えるリスクは、少なくとも部分的に減少させる。
【0064】
この点では、例えばポリカーボネートやアクリロニトリルブタジエンスチレンのような他の部材は、上記に示された技術的効果の両方を有さないため、エポキシ樹脂の代わりに使用されることに適さないことは、注目に値する。
【0065】
実際のところ、本発明のエポキシ樹脂は熱硬化性ポリマーであり、それにより注入することができなかったが、他の上記の材料はすべて熱可塑性材料である。
【0066】
さらに、エポキシ樹脂の層36は、内面が任意の層でもコーティングされていない場合に関して、衝撃吸収ライナー8の均一で規則的な内面22を有することを可能にする。
【0067】
図面、特に
図3から分かるように、樹脂層36は、衝撃吸収ライナー8の内面22を全てを覆っている。代替的には、図に示されていないさらなる実施形態によれば、エポキシ樹脂の層36は、衝撃吸収ライナー8の内面22を部分的にだけ覆ってもよい。
【0068】
好ましくは、エポキシ樹脂36の層は、空気またはエアレススプレーの手段によって、衝撃吸収ライナー8の内面22に塗布させることができる。代替的には、エポキシ樹脂36の層は、ブラシまたはフォームローラーの手段によって衝撃吸収ライナー8の内面22に塗布させることができる。
【0069】
衝撃吸収ライナー8の内面22にエポキシ樹脂を塗布するために使用される方法に関係なく、エポキシ樹脂36の層は、好ましくは、0.08mmから0.2mmの間で構成される厚さを有する。
【0070】
有利には、衝撃吸収ライナー8の内面22へのエポキシ樹脂の塗布は、エポキシ樹脂36の複数の層の、1つが他の上にある塗布することを想定することができる。
【0071】
このように、衝撃吸収ライナー8の内面22に塗布されるエポキシ樹脂の層の数を変えることにより、エポキシ樹脂の塗布層36の厚さは、運用上の要求に応じて上記で示した範囲内に調整することができる。
【0072】
エポキシ樹脂は、架橋されるベース成分と硬化剤との反応により得られるチキソトロピー樹脂であり、触媒として作用する。
【0073】
好ましくは、エポキシ樹脂は、標準ASTM D2240に従って測定された60から70ショアDの間で構成される硬度と、標準ASTM D2393に従って測定された3800から4200mPa・sの間で構成される粘度を有する。
【0074】
さらに、エポキシ樹脂の摩擦係数はそれほど高くないので、エポキシ樹脂36の層は、コンフォートライナー10と衝撃吸収ライナー8との間の相互変位を妨げない。
【0075】
以下、エポキシ樹脂層を有しない衝撃吸収ライナーを備えるヘルメットと、エポキシ樹脂層をコーティングした衝撃吸収ライナーを備えるヘルメットとで、異なる衝撃点に対して測定したピーク直線加速度(PLA)とピーク回転加速度(PRA)の数値を報告する比較表が提供される。
【0076】
【0077】
上の表では、P+、R+、P-、R-という表記は、特にヘルメットの異なる衝撃点を識別するものであり、特に:
- P+は、ヘルメットのリア部への衝撃を識別し;
- P-は、ヘルメットのフロント部への衝撃を識別し;
- R+は、ヘルメットの右部への衝撃を識別し;
- R+は、ヘルメットの左部への衝撃を識別している。
【0078】
衝撃試験は、関連技術分野で知られている標準的な機器と手順を使用することによって実施される。
【0079】
上記の表から、エポキシ樹脂の層を備えるヘルメットの直線加速度および回転加速度のピーク値は、エポキシ樹脂の層を備えていないヘルメットの直線加速度および回転加速度の値に対して、大幅に減少していることがわかる。
【0080】
したがって、本発明のヘルメットは、ユーザの頭部に作用する直線加速度を効率的に低減し、それによってヘルメットの衝撃吸収を改善していると評価することができる。
【0081】
さらに、意外なことに、本発明のヘルメットは、斜めからの衝撃の場合にユーザの脳に作用する回転加速度を低減する効果も有すると評価することができる。
【0082】
本発明はまた、ヘルメット1の衝撃吸収ライナー8、特にその内面22上に、上記のタイプのエポキシ樹脂36の層を塗布するための方法を包含する。
【0083】
好ましくは、衝撃吸収ライナー8の内面22にエポキシ樹脂36の層を塗布するステップは、エポキシ樹脂の層の空気またはエアレススプレーによって実行される。あるいは、エポキシ樹脂36の層は、ブラシまたは発泡ローラーの手段によって塗布されることができる。
【0084】
本開示のこの時点で、本発明によるエポキシ樹脂の層を設けるヘルメットを用いて、所定の目的がどのように達成されるかは明らかである。
【0085】
実際のところ、衝撃吸収ライナー上に塗布され、上記のような機能を有する、エポキシ樹脂の層は、通常の衝撃と斜めの衝撃の両方をよりよく吸収するようなヘルメットを可能にする。
【0086】
さらに、エポキシ樹脂層は、衝撃吸収ライナーとコンフォートライナーの間の相互変位を妨げないため、斜めの衝撃による回転加速度をどうにか低減することができる。
【0087】
上述したヘルメットデバイスの実施形態に関して、当業者は、特定の要件を満たすために、それによって添付の請求項の範囲から逸脱することなく、記載された要素に変更を加え、及び/又は同等の要素に置き換えることができる。
【0088】
例えば、当業者は、本発明の保護の範囲を害することなく、コンフォートライナーの形状を変更するか、またはコンフォートライナーを衝撃吸収ライナーに固定するための異なる手段を提供することができる。