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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】熱処理方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/00 20060101AFI20240215BHJP
   C21D 1/18 20060101ALI20240215BHJP
   C21D 1/00 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
C21D9/00 A
C21D1/18 C
C21D1/00 112D
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022129738
(22)【出願日】2022-08-16
(62)【分割の表示】P 2018562405の分割
【原出願日】2017-01-25
(65)【公開番号】P2022166196
(43)【公開日】2022-11-01
【審査請求日】2022-08-18
(31)【優先権主張番号】102016202766.2
(32)【優先日】2016-02-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】315015977
【氏名又は名称】シュヴァルツ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴィルデン,フランク
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンケル,ヨルク
(72)【発明者】
【氏名】ライナルツ,アンドレアス
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/137308(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02548975(EP,A1)
【文献】国際公開第2010/150683(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0110961(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0090741(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/00- 9/44
C21D 1/02- 1/84
B21D 22/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼部材(200)の個々の領域を対象とした熱処理方法であって、
前記方法において、
a)前記鋼部材(200)は、まず、第1炉(110)において、Ac3温度以下の温度まで加熱され、
b)その後、該鋼部材(200)は処理ステーション(150)に移送され、その移送中に冷却され、
c)前記処理ステーション(150)では、前記鋼部材(200)の一つ又は複数の第1領域(210)及び一つ又は複数の第3領域(230)が滞留時間t151内に前記Ac3温度以上の温度まで加熱され、
d)その後、前記鋼部材(200)の前記一つ又は複数の第3領域(230)が冷却停止温度θまで冷却された後、
e)前記鋼部材(200)は炉チャンバを備える第2炉(130)へと移送され、
f)前記第2炉(130)で、Ac3温度以下であり、かつ、前記第2炉(130)の炉チャンバ全体に対して設定される炉温度に、前記鋼部材(200)がさらされ、
g)その後、前記鋼部材(200)はプレス硬化金型に移送され、
h)前記鋼部材(200)は前記プレス硬化金型においてプレス硬化処理され、
前記方法のステップa)~h)は、
主にオーステナイト組織が前記鋼部材(200)の前記一つ又は複数の第1領域(210)に形成され、そこから主にマルテンサイト組織がステップh)の前記プレス硬化金型にて焼き入れによって形成され、
前記鋼部材(200)の一つ又は複数の第2領域(220)に主にフェライト・パーライト組織が形成され、
前記鋼部材(200)の前記一つ又は複数の第3領域(230)に主にベイナイト組織が形成され
るように実行されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第2炉(130)への熱供給が、熱放射により行われる、
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記処理ステーション(150)では、前記鋼部材(200)の前記一つ又は複数の第1領域(210)が、レーザーによって滞留時間t151内に前記オーステナイト化温度Ac3以上の温度まで加熱される、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記処理ステーション(150)では、前記鋼部材(200)の前記一つ又は複数の第3領域(230)が、レーザーによって滞留時間t151内に前記オーステナイト化温度Ac3以上の温度まで加熱される、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記処理ステーション(150)では、滞留時間t152内に、前記鋼部材(200)の前記一つ又は複数の第3領域(230)に対してガス状流体を吹き込んで冷却を行う、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ガス状流体は水を含む、
ことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記処理ステーション(150)では、前記鋼部材(200)の前記一つ又は複数の第3領域(230)が、滞留時間t152内に該一つ又は複数の第3領域(230)よりも温度が低いスタンパーと接触して冷却される、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第2炉(130)内の温度θは、均一、かつ、Ac3温度よりも低い、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼部材の個々の領域を対象とした熱処理方法及び熱処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
様々な技術産業におけるいくつかの用途において、低重量部分を含む高強度板金部材が望まれている。例えば、自動車産業では、自動車の燃料消費の削減やCO2排出の削減と同時に、乗客の安全性の向上を目標としている。従って、好適な強度対重量比を有する車体部品に対する要望が急速に高まっている。このような部品には、特に、フロント・ピラー、センター・ピラー、ドアの側面衝突保護サポート、シル、フレーム部品、バンパー、フロア及びルーフ用クロスメンバ、前側及び後側の長手方向支持部が含まれる。現代の自動車では、安全ケージを備えたホワイトボディは、通常、約1,500MPaの強度を有する硬化鋼板から構成されている。この場合、数層のAl-Si層でコーティングされた鋼板が用いられている。硬化鋼板から部品を製造するために、いわゆるプレス硬化処理の開発が行われてきた。この場合、鋼板が、まず、オーステナイト温度まで加熱され、その後、プレス金型に配置されて、急速成形され、水冷金型によってマルテンサイト開始温度未満まで焼き入れが急速に行われる。こうして、約1,500MPaの強度を有する硬質かつ強固なマルテンサイト組織が生成される。しかしながら、このように硬化処理が施された鋼板は、破断伸度が低いため、衝突の運動エネルギーを変形熱へと適切に変換することができない。
【0003】
従って、自動車産業としては、どちらかといえば強固な領域(以下、第1領域と呼ぶ)と、最大限に伸張性のある領域(以下、第2領域と呼ぶ)と、伸張性のある領域(以下、第3領域と呼ぶ)とが形成可能で、それらが一つの部材に含まれるよう、該部材内に伸度及び強度が異なる複数の部分を有する車体部品を製造できることが望ましい。一方では、機械的負荷耐性が高く低重量の部品を得るためには、原則として高強度の部品が望ましい。他方では、高強度の部品であっても、部分的に軟質な領域を有するよう図られている。これにより、衝突時に備えて所望の多少強化させた変形性を得ることができる。こうして、衝突の運動エネルギーを消散させて、乗客及び車両の他の部分に作用する加速力を最小限に抑えることができる。また、現代の接合方法は、同一種類の材料又は異なる材料の接合を可能にする軟化点を要する。例えば、部品内に変形可能領域を必要とするシーム継ぎ目、圧着接合部、リベット継ぎ手を使用しなければならない。
【0004】
また、部品の軟質の端部領域によって、すでに金型における輪郭切断が可能となっているので、複雑なレーザー切断はもはや時代遅れと見なすことができる。
【0005】
この場合、プレス硬化システムではサイクル時間損失がなく、システム全体が概ね制限なく使用可能であり、該システムに対して各製品特有の変更を迅速に行うことが可能であるといった生産システムに対する一般要件についても考慮が必要である。処理はロバストで経済的である必要があり、生産システムは最小限のスペースしか必要としないことが望ましい。部品の形状や縁取りには高い精度が求められる。
【0006】
すべての既知の方法では、部品への対象の熱処理が時間のかかる処理工程で行われ、熱処理装置全体のサイクル時間に大きな影響を与えることとなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、鋼部材の個々の領域を対象とした熱処理方法及び熱処理装置であって、上記処理工程が熱処理装置全体のサイクル時間に及ぼす影響を最小限に抑え、且つ、硬度と延性が異なる領域を生産可能な熱処理方法及び熱処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、この目的は、独立請求項1の特徴を有する方法によって達成される。この方法の有利な発展形態が従属請求項2乃至8から明らかになる。
【0009】
鋼部材の個々の領域を対象とした本発明に係る熱処理方法によれば、該鋼部材の一つ又は複数の第1領域において、主にオーステナイト組織を形成することができ、そこから、主にマルテンサイト組織を焼き入れによって生成することができ、一つ又は複数の第2領域において、主にフェライト・パーライト組織を形成することができる。この方法では、鋼部材は、まず、第1炉においてAc3温度以下の温度まで加熱され、その後、該鋼部材は処理ステーションまで移送され、その移送中に冷却することができ、この処理ステーションでは、鋼部材の一つ又は複数の第1領域と一つ又は複数の第3領域が滞留時間t151内にAc3温度以上の温度まで加熱され、その後該鋼部材の一つ又は複数の第3領域は冷却停止温度θSまで冷却され、続いてこの鋼部材は第2炉へと移送され、そこで鋼部材は、一つ又は複数の第3領域に十分なベイナイト組織が形成されるまでオーステナイト化温度以下の温度に保たれる。
【0010】
このために、本発明の係る熱処理装置は、鋼部材をAc3温度以下の温度まで加熱する第1炉と、処理ステーションと、第2炉とを備えている。この処理ステーションは、第1及び第3領域を急速に加熱する装置と、該鋼部材の一つ又は複数の第3領域を急速に冷却する装置とを備え、第2炉は、熱を導入する装置を備えている。
【0011】
上記方法の好ましい実施例では、第2炉への熱の導入が、熱放射により行われる。
【0012】
鋼部材は、まず、炉でオーステナイト化温度以下まで加熱される。その後、処理ステーションにおいて、それぞれの領域に対して異なる処理が施される。
【0013】
上記処理ステーションでは、一つ又は複数の第1領域が、まず、例えば、高出力レーザーで数秒以内の間Ac3以上の温度まで加熱されることにより、組織が可能な限り最大限までオーステナイト化される。好適な実施例では、レーザー照射された領域は、該部材の表面に対して可能な限り垂直に配置されたチャネル壁によってはっきりと区画されている。
【0014】
その後、処理ステーションでは、一つ又は複数の第1領域に対して特別な処理がさらに行われることはない。すなわち、そこに流体の吹き込みが行われたり、他の特別な手段により加熱や冷却が行われることはない。この一つ又は複数の第1領域は、処理ステーションにおいて、例えば、自然対流や熱放射によってゆっくりと冷却される。この処理ステーションでは、一つ又は複数の第1領域の温度低下を抑える手段を講じると有利なことが証明されている。そのような手段としては、例えば、一つ又は複数の第1領域の部分に熱放射反射器を取り付けたり、及び/又は、処理ステーションの表面に断熱処理を施したりすることが挙げられる。
【0015】
また、処理ステーションでは、一つ又は複数の第2領域に対して特別な処理が行われることはない。すなわち、そこに流体の吹き込みが行われたり、他の特別な手段により加熱や冷却が行われることはない。この一つ又は複数の第2領域は、処理ステーションにおいて、例えば、自然対流や熱放射によってゆっくりと冷却される。この処理ステーションでは、一つ又は複数の第2領域の温度低下を抑える手段を講じると有利なことが証明されている。そのような手段としては、例えば、一つ又は複数の第2領域の部分に熱放射反射器を取り付けたり、及び/又は、処理ステーションの表面に断熱処理を施したりすることが挙げられる。
【0016】
この方法の実施時は、一つ又は複数の第2領域は完全にオーステナイト化されず、その後行われるプレス硬化処理で押し出された後でも、未処理の鋼部材の元の強度値と同様に低い強度値を有することになる。
【0017】
上記処理ステーションでは、一つ又は複数の第3領域が、まず、例えば、高出力レーザーで数秒以内の間Ac3以上の温度まで加熱されることにより、組織が可能な限り最大限までオーステナイト化される。好適な実施例では、レーザー照射された領域は、該部材の表面に対して可能な限り垂直に配置されたチャネル壁によってはっきりと区画されている。
【0018】
その後、一つ又は複数の第3領域は、処理時間t152内にできるだけ急速に直ちに冷却される。本発明の方法の好適な実施例では、一つ又は複数の第3領域は、そこに吹き込まれるガス状流体、例えば、空気や保護ガスによって急速に冷却される。このために、好ましい実施例では、処理ステーションには、一つ又は複数の第3領域に流体を吹き込むための装置が含まれる。この装置は、例えば、一つ又は複数のノズルを備えることができる。本発明の方法の好ましい実施例では、一つ又は複数の第3領域には、例えば、霧状の水を混合したガス状流体が吹き込まれる。このために、好ましい実施例では、上記装置は、一つ又は複数の噴霧ノズルを備えている。水を添加したガス状流体を吹き込むことで、一つ又は複数の第3領域から放散される熱の量が増大する。処理時間t152が経過すると、一つ又は複数の第3領域が冷却停止温度θSに到達する。この場合、処理時間t152は、通常、数秒の範囲内で変動する。
【0019】
本発明によれば、上記部材は、それぞれの領域の正確な位置決めを行う位置決め装置を備えることもできる処理ステーションにおいて数秒経過後に第2炉へ搬送される。この第2炉は、個々の領域に対してそれぞれ異なる処理を行うための特別な装置を好ましくは備えていない。この処理ステーションでは、はっきりと画定された境界がすでに形成されている。一実施例では、一つの炉温θ4、すなわち、炉チャンバ全体でほぼ均一な温度だけが設定され、この温度がオーステナイト化温度Ac3以下である。これにより、個々の領域の温度が互いに近づくことになり、これらの領域間の温度差が小さいので、鋼部材の反りが最小限に抑えられる。鋼部材の温度がほんのわずかに広がることにより、プレス機におけるさらなる処理において有利な効果が得られる。
【0020】
本発明の方法の他の好ましい実施例では、第2炉内の温度θ4がAC3温度よりも低い。
【0021】
一実施例では、上記第1炉として、連続加熱炉を備えることが好ましい。連続加熱炉は、通常、容量が大きく、大きな労力を費やすことなく充電や運転が行えるため、特に大量生産に適している。一方、第1炉としては、バッチ炉、例えば、チャンバ炉を用いることもできる。
【0022】
一実施例では、上記第2炉は、連続加熱炉であることが好ましい。
【0023】
この第1及び第2炉がいずれも連続加熱炉として設計された場合、一つ又は複数の第1及び第2領域に必要な滞留時間は、搬送速度や特定の炉の長さ寸法を設定することによって、鋼部材の長さに基づいて定めることができる。これにより、熱処理装置やその後のプレス硬化処理のためのプレス機を含む生産ライン全体のサイクル時間に影響を与えないようにすることができる。
【0024】
他の実施例では、第2炉は、バッチ炉、例えば、チャンバ炉である。
【0025】
好適な実施例では、上記処理ステーションは、鋼部材の一つ又は複数の第3領域を急速に加熱する装置を備えている。好ましい実施例では、この装置は、鋼部材の一つ又は複数の第3領域の照射を行う一つ又は複数の高出力レーザーを備えている。好適な実施例では、これらの領域は、対応する形状を有するチャネルによってはっきりと区画されている。
【0026】
好適な実施例では、上記処理ステーションは、鋼部材の一つ又は複数の第3領域を急速に冷却する装置を備えている。好ましい実施例では、この装置は、鋼部材の一つ又は複数の第3領域へとガス状流体、例えば、空気や窒素などの保護ガスを吹き込むノズルを備えている。このために、好ましい実施例では、上記装置は、一つ又は複数の噴霧ノズルを備えている。水を添加したガス状流体を吹き込むことで、一つ又は複数の第3領域から放散される熱の量が増大する。
【0027】
他の実施例では、一つ又は複数の第3領域の冷却は、熱伝導や、例えば、鋼部材よりも温度が低い一つ又は複数のスタンパーと接触させる接触冷却によって行われる。このために、スタンパーは、熱伝導性を有する材料からの製造、及び/又は、直接的又は間接的な温度制御が可能である。冷却方式を組み合わせることも考えられる。
【0028】
本発明に係る方法及び本発明に係る熱処理装置を用いることにより、複雑な形状を有することもある一つ又は複数の第1、第2及び/又は第3領域をそれぞれ有する鋼部材は、境界をはっきりと画定しつつ、各領域を必要な処理温度まで加熱することができるので、対応する温度プロファイルを経済的に得ることが可能である。
【0029】
本発明によれば、図示の方法と本発明に係る熱処理装置を用いることで、3つの異なる領域の数をほぼどんな数にも設定することができる。そして、第3領域はそれぞれ、必要に応じて互いに異なる強度値を有することができる。
【0030】
これらの部分に選択される形状も、自由に選択可能である。点状又は線状領域も考えられるし、例えば、大きな表面積を有する領域も考えられる。これらの領域の位置も重要ではない。これらの個々の領域は、他の領域に完全に含まれていても、鋼部材の端部に配置されていてもよい。また、全表面処理も考えられる。鋼部材の個々の領域を対象とした本発明に係る熱処理方法の目的としては、鋼部材を流れ方向に対して特定の方法で配向する必要がない。いずれの場合も、同時に処理が行われる鋼部材の個数は、熱処理装置全体のプレス硬化金型や資材運搬技術によって制限される。また、本発明の方法をあらかじめ形成された鋼部材に適用することも可能である。あらかじめ形成された鋼部材の表面を3次元成形することは、合わせ面の形成にはより高い設計の複雑さを伴うということを意味するにすぎない。
【0031】
さらに、既存の熱処理システムでも本発明に係る方法に適応可能であることが好ましい。このためには、炉を一つだけ備えた従来の熱処理装置の場合、処理ステーションと第2炉をこの炉の下流側に設置するだけでよい。設けられた炉の設計によっては、この元の一つの炉から第1及び第2炉を形成するよう分割することも可能である。
【0032】
本発明のさらなる利点、特徴及び好適な発展形態は、従属する請求項及び以下の図面に基づく以下の好適な実施例の説明から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
本発明のさらなる利点、特徴及び有利な発展形態は、従属する請求項及び以下の図面に基づく以下の好適な実施例の説明から明らかとなる。
図1】第1、第2及び第3領域を有する鋼部材の熱処理時の典型的な温度曲線を示す図である。
図2】本発明に係る熱処理装置を示す概略平面図である。
図3】本発明に係る別の熱処理装置を示す概略平面図である。
図4】本発明に係る別の熱処理装置を示す概略平面図である。
図5】本発明に係る別の熱処理装置を示す概略平面図である。
図6】本発明に係る別の熱処理装置を示す概略平面図である。
図7】本発明に係る別の熱処理装置を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1は、本発明の方法に係る第1領域210、第2領域220及び第3領域230を有する鋼部材200の熱処理時の典型的な温度曲線を示す図である。各領域は、複数設けることができる。すなわち、複数の第1領域210、複数の第2領域220、複数の第3領域230を設けることができる。また、任意の数の領域を組み合わせることも可能である。この鋼部材200は、第1炉110において、概略的に描かれた温度プロファイルθ200,110に従って、滞留時間t110中に、Ac3温度以下の温度まで加熱される。そして、鋼部材200は、移送時間t121に、処理ステーション150まで移送され、ここで鋼部材は熱を失う。この処理ステーションでは、鋼部材200の第1領域210と第3領域230がレーザー放射によってオーステナイト化温度AC3以上まで急速に加熱され、第2領域220は、描かれたプロファイルθ220,151又はθ220,152に従って熱を失う。これは数秒以内に行われる。その直後、第3領域230は、描かれた温度プロファイルθ230,152に従って、所望の冷却停止温度θSまで急速冷却される。この第3領域230の個々の部分的表面間の冷却停止温度θSは、一つの部材内の第3領域230が可変の物性を有することが望ましい場合、それぞれ異なる温度とすることができる。この第3領域230は、例えば、ガス状流体をそこに吹き込むことによって急速冷却することができる。
【0035】
鋼部材200の厚さによってはほんの数秒である冷却時間t152が経過すると、流体の吹き込みは行われなくなり、第3領域230が冷却停止温度θSに到達する。それと同時に、描かれた温度プロファイルθ210,152又はθ220,151、θ220,152に従って、処理ステーション150における第1領域210と第2領域220の温度も低下する。
【0036】
そして、処理ステーション150において滞留時間t150が経過すると、鋼部材200は、移送時間t122中に第2炉130へと移送される。第2炉130では、概略的に描かれた温度プロファイルθ210,130に従って、滞留時間t130中に鋼部材200の第1領域210の温度が変化する。そして、鋼部材200の第2領域220の温度も、滞留時間t130中に、描かれた温度プロファイルθ220,130に従った反応を示す。この温度プロファイルはAC3温度には到達しない。また、鋼部材200の第3領域230の温度も、AC3温度には到達せずに、滞留時間t130中に、描かれた温度プロファイルθ230,130に従った反応を示す。
【0037】
第2炉130は、それぞれの領域210、220、230に対してそれぞれ異なる処理を行うための特別な装置を備えていない。また、第2炉130の内部全体でたった一つの炉温θ4、すなわち、ほぼ均一な温度θ4が設定され、この温度がオーステナイト化温度Ac3以下である。
【0038】
その後、鋼部材は、移送時間t140中に、プレス機(図示せず)と一体化したプレス硬化金型160へと移送されることができる。
【0039】
各領域210、220、230間では、はっきりと境界を画定することができ、温度差が小さいので、鋼部材200の反りが最小限に抑えられる。鋼部材200の温度レベルがわずかに広がることにより、プレス硬化金型160におけるさらなる処理において有利な効果が得られる。第2炉130において鋼部材200に必要な滞留時間t130は、搬送速度を設定したり、第2炉130の長さを選択したりすることによって、鋼部材200の長さに基づいて定めることができる。これにより、熱処理装置100のサイクル時間にはほとんど影響を与えることがない、又は、全く影響を与えることがない場合もある。
【0040】
図2は、本発明に係る熱処理装置100を90度配置で示す図である。この熱処理装置100は、装填ステーション101を備え、それを介して第1炉110に鋼部材が供給される。また、熱処理装置100は処理ステーション150をさらに備え、主流れ方向Dにおけるその下流側に第2炉130が配置されている。さらにその主流れ方向Dにおける下流側には、位置決め装置(図示せず)を備えた除去ステーション140が配置されている。そして、鋼部材200のプレス硬化を行うプレス機(図示せず)内のプレス硬化金型160と一致するために、主流れ方向がほぼ90度にそれている。第1炉110及び第2炉130の軸方向には、不良部品を収容可能な容器161が配置されている。この配置では、第1炉110及び第2炉130は、連続加熱炉、例えば、ローラー炉床炉として形成されることが好ましい。
【0041】
図3は、本発明に係る熱処理装置100を直線配置で示す図である。この熱処理装置100は、装填ステーション101を備え、それを介して第1炉110に鋼部材が供給される。また、熱処理装置100は処理ステーション150をさらに備え、主流れ方向Dにおけるその下流側に第2炉130が配置されている。さらにその主流れ方向Dにおける下流側には、位置決め装置(図示せず)を備えた除去ステーション140が配置されている。また、引き続き直線状に伸びる主流れ方向において、鋼部材200のプレス硬化を行うプレス機(図示せず)内のプレス硬化金型160がその後続いて配置される。そして、不良部品を収容可能な容器161が、除去ステーション131に対してほぼ90度に配置されている。この配置でも同様に、第1炉110及び第2炉130は、連続加熱炉、例えば、ローラー炉床炉として形成されることが好ましい。
【0042】
図4は、本発明に係る熱処理装置100の別の変形例を示す図である。ここでも同様に、熱処理装置100は、装填ステーション101を備え、それを介して第1炉110に鋼部材が供給される。この第1炉110は、この実施例でも同様に、連続加熱炉として形成されることが好ましい。また、熱処理装置100は、本実施例では、除去ステーション131と合体した処理ステーション150を備えている。この除去ステーション140は、例えば、保持装置(図示せず)を備えることもできる。除去ステーション140では、例えば、その保持装置によって、第1炉110から鋼部材200の除去を行う。一つ又は複数の第2領域220及び/又は一つ又は複数の第3領域230に対して熱処理が行われ、第1炉110の軸に対してほぼ90度に配置された第2炉130へと、一つ又は複数の鋼部材200が投入される。この第2炉130は、本実施例では、例えば、複数のチャンバを有するチャンバ炉として設けられることが好ましい。第2炉130における鋼部材200の滞留時間t130が経過すると、この鋼部材200は、除去ステーション140を介して第2炉130から除去され、プレス機(図示せず)と一体化した反対側にあるプレス硬化金型160へと投入される。除去ステーション140には、このための位置決め装置(図示せず)を備えることもできる。主流れ方向Dに対して、第1炉110の軸方向における除去ステーション140の下流側には、不良部品を収容可能な容器161が配置されている。本実施例では、主流れ方向Dがほぼ90度の偏向を示す。本実施例では、処理ステーション150のための第2の位置決めシステムを必要としない。また、本実施例は、例えば、製造ホールにおいて、第1炉110の軸方向に十分な空間が確保されていない場合に有利である。本実施例でも、除去ステーション140と第2炉130との間で、鋼部材200の一つ又は複数の第1領域210と一つ又は複数の第3領域230の加熱処理を行うことができるため、固定式の処理ステーション150を必要としない。例えば、処理ステーション150を上記保持装置に組み込むこともできる。除去ステーション140は、第1炉110から第2炉130へ、そしてさらにプレス硬化金型160又は容器161へと鋼部材200を確実に移動するようにする。
【0043】
本実施例でも、図5からも分かるように、プレス硬化金型160と容器161の位置を入れ替えることができる。本実施例では、主流れ方向Dがほぼ90度の2つの偏向を示す。
【0044】
熱処理装置の設置スペースが限られている場合、図6に示す熱処理装置が有利である。すなわち、図4に示す実施例と比べて、第2炉130が第1炉110上方の第2面に移動されている。本実施例でも、除去ステーション140と第2炉130との間で、鋼部材200の一つ又は複数の第1領域210と一つ又は複数の第3領域230の加熱処理を行うことができるため、固定式の処理ステーション150を必要としない。同様に、第1炉110を連続加熱炉として、第2炉130を場合によっては複数のチャンバを有するチャンバ炉として設けることが好ましい。
【0045】
最後に、図7は、本発明に係る熱処理装置の最後の実施例を示す概略図である。図6に示す実施例と比べて、プレス硬化金型160と容器161の位置が入れ替わっている。
【0046】
ここで示す実施例は、単に本発明の例を示すものにすぎず、限定的に理解すべきものではない。当業者によって考慮される他の実施例も同様に本発明の保護の範囲に包含されるものとする
【符号の説明】
【0047】
100 熱処理装置
101 装填ステーション
110 第1炉
130 第2炉
140 除去ステーション
150 処理ステーション
151 高出力レーザー
152 冷却装置
160 プレス硬化金型
161 容器
200 鋼部材
210 第1領域
220 第2領域
230 第3領域
D 主流れ方向
110 第1炉での滞留時間
121 鋼部材の処理ステーションへの移送時間
122 鋼部材の第2炉への移送時間
130 第2炉での滞留時間
140 鋼部材のプレス硬化金型への移送時間
150 処理ステーションでの滞留時間
151 処理ステーションでの加熱時間
152 処理ステーションでの冷却時間
160 プレス硬化金型での滞留時間
θS 冷却停止温度
θ3 第1炉内温度
θ4 第2炉内温度
θ200,110 第1炉における鋼部材の温度プロファイル
θ210,151 加熱中の処理ステーションにおける鋼部材の第1領域の温度プロファイル
θ220,151 処理ステーションにおける鋼部材の第2領域の温度プロファイル
θ220,152 処理ステーションにおける鋼部材の第2領域の温度プロファイル
θ230,152 冷却中の処理ステーションにおける鋼部材の第3領域の温度プロファイル
θ210,130 第2炉における鋼部材の第1領域の温度プロファイル
θ220,130 第2炉における鋼部材の第2領域の温度プロファイル
θ230,130 第2炉における鋼部材の第3領域の温度プロファイル
θ200,160 プレス硬化金型における鋼部材の温度プロファイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7