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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】回動つまみの回動軸への取り付け機構
(51)【国際特許分類】
   G05G 1/12 20060101AFI20240215BHJP
   F16D 1/06 20060101ALI20240215BHJP
   F16B 21/08 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
G05G1/12 B
F16D1/06 330
F16B21/08
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022146767
(22)【出願日】2022-09-15
【審査請求日】2022-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000234937
【氏名又は名称】八重洲無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089956
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 利和
(72)【発明者】
【氏名】飯束 嘉庸
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】実開昭57-046915(JP,U)
【文献】実開昭59-081816(JP,U)
【文献】実開平04-010111(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05G 1/12
F16D 1/06
F16B 21/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回動軸にはその先端から軸方向へ一定長のDカット区間が形成されている一方、回動つまみは樹脂製であって、有底キャップ状の基本形態をなすと共に、その外筒部の内側で天板部に内筒部が立設形成されたものであり、前記回動つまみの内筒部を前記回動軸のDカット区間に嵌着させる方式による回動つまみの回動軸への取り付け機構において、
前記回動軸には、前記Dカット区間より後方位置に中心軸と略垂直で同中心軸を通過する貫通孔が穿設されていると共に、周方向に関して前記Dカット形成部分がなす中心角の範囲外にある前記貫通孔の一方の開口部側に同開口部を含み凹部が軸方向先端側へ所定長さ連続した係止凹部が形成されており、
前記回動つまみには、前記内筒部が前記回動軸に密接外嵌した取り付け状態で前記内筒部における前記回動軸の前記係止凹部に対向する領域の周方向両側に沿って軸方向へスリットを形成することにより片持ち梁状部分を構成し、前記片持ち梁状部分の前記領域に前記回動軸の前記係止凹部に内嵌する係止突起を形成した弾性係止部を有すると共に、前記取り付け状態で前記回動軸における前記係止凹部の形成側とは逆側となる前記貫通孔の開口部に対向する前記外筒部の位置に、前記貫通孔の孔径以上の幅で前記天板部側とは逆側へ伸びた長孔が穿設されている
ことを特徴とする回動つまみの回動軸への取り付け機構。
【請求項2】
前記回動つまみの前記弾性係止部は、前記内筒部が筒部分とその筒部分の端面から部分的な延長部分を有し、その延長部分が前記内筒部における前記回動軸の前記係止凹部に対向する領域に対応しており、同領域に前記係止突起が形成されたものである請求項1に記載の回動つまみの回動軸への取り付け機構。
【請求項3】
前記回動つまみの前記弾性係止部は、前記係止突起が前記回動軸の前記係止凹部に対向する領域における前記貫通孔との対向位置よりも前記天板部側寄りの領域にだけ形成されたものである請求項1又は2に記載の回動つまみの回動軸への取り付け機構。
【請求項4】
前記回動つまみの前記天板部には、同天板部における前記弾性係止部の前記係止突起を軸方向に投影させた場合の投影位置に、その投影された平面形状の孔が穿設されている請求項1又は2に記載の回動つまみの回動軸への取り付け機構。
【請求項5】
前記回動軸の前記貫通孔における前記係止凹部の形成側とは逆側の開口部の角部に面取り加工が施されている請求項1又は2に記載の回動つまみの回動軸への取り付け機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気通信機械器具の筐体や前面パネル等から突出せしめられた電子部品の回動軸に対して、回動つまみを着脱自在に取り付けるための機構に関する。
【背景技術】
【0002】
ボリューム(可変抵抗器)やロータリーエンコーダなどの電子部品の回動軸に対する操作用の回動つまみの取り付け方式としては、従来から様々な構成が採用されているが、回動軸側の先端側区間にDカットと称される軸断面をD字状とする切欠き部が形成されており、回動つまみ側に形成されている穴が前記回動軸側のDカット区間に嵌着せしめられて、回動つまみに作用するトルクを確実に回動軸に伝える方式が採用されていることが多い。
【0003】
その場合、回動つまみの抜け止めに関しては、前記嵌着条件をはめあい公差によって管理し、射出成形により樹脂素材で製造される回動つまみ側の穴に回動軸のDカット区間を圧入させ、圧接による摩擦力だけで抜け止め機能を持たせることが多いが、回動軸と回動つまみの密接面に凸部と凹部による係止関係を構成してより確実な抜け止め機能が得られるようにしている場合も少なくない。
【0004】
例えば、下記特許文献1においては、図10に示すように、回動つまみ101と回動軸102の嵌合構造において、回動軸102にはDカットと共に軸方向の所定位置に溝部103が形成されている一方、回動つまみ101における回動軸102の挿入穴104の内周面には前記溝部103に対応する所定位置に凸部105が設けられており、回動つまみ101を回動軸102に嵌合させた際に、溝部103と凸部105が嵌合するように構成されたものが開示されている。
【0005】
また、下記特許文献2においては、同文献の発明において改良対象となった従来技術として、図11に示すような回動つまみの回動軸に対する取り付け構造が開示されている。
この構造では、回動軸201と回動つまみ202との間に樹脂製のアダプタ(前記文献では「スペーサ」)203を介在させており、アダプタ203は回動軸201のDカット部分204の周囲に外嵌せしめられていると共に、回動つまみ202の穴205に内嵌している。
【0006】
回動軸201の軸方向の所定位置におけるDカット部分204以外の外周面に凹部206が形成されている一方、その凹部206に対してアダプタ203の前記外嵌部分に形成されている爪207が嵌合しており、その嵌合状態での係止関係により回動軸201に対するアダプタ203の抜け止め機構が構成されている。
また、回動つまみ202とアダプタ203の関係では、そのアダプタ203側の嵌合面には凸条208が形成されている一方、回動つまみ202側の嵌合面には溝209が形成されており、それらの嵌合状態での係止関係によりアダプタ203に対する回動つまみ202の抜け止め機能が構成されている。
【0007】
なお、下記特許文献2の発明自体は、前記基本構造に対する改善に関するものであり、別途に介装用の金属板状部材を用いることで、回動軸201に対する回動つまみ202の着脱が繰り返し行われた際に、部材が削られることなく、強い抜け止め力が保持できるようにするための提案である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】実開平5-79615号公報
【文献】特開2006-343794号公報(図5図6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
回動つまみの回動軸からの抜け止めに関して、圧入に基づく圧接摩擦力だけに依存するのでは安定性を欠いて常に回動つまみの抜け落ちの可能性があり、やはり特許文献1や2のような係止手段によって信頼性の高い抜け止め機能を持たせることが望ましいことは言うまでもない。
しかしながら、電子機器が故障した場合などには、内蔵の電子回路基板を取り外さざるを得ない場合が多いが、ボリュームやロータリーエンコーダなどの回動軸は筐体の孔を通じて外部へ突出させて回動つまみが取り付けられているため、いずれにしても回動つまみは一旦回動軸から取り外すことになる。
【0010】
その場合、回動つまみを軸方向へ強力に引いて回動軸との係止関係を強制的に解除させることになるが、その係止関係は軸と筒体の嵌合面における凹凸の嵌め合いになっているため、例えば図10及び図11の構成であれば、樹脂素材である凸部105や爪207が溝部103や凹部206の角部で強く擦過されて削り取られることが多く、後で再び取り付けた際に抜け止め機能が失われてしまっているか又は充分に発揮されないような状態に劣化していることが少なくない。
上記特許文献2の発明自体が本来的にそのような課題に対する対策であることは前述したとおりであるが、アダプタ203の爪207の外周側にさらに金属板状部材を別途介装させるという構成であり、部品点数が増えると共に回動つまみ202の取り付けに際して手間が多くなるという課題がある。
【0011】
そこで、本発明は、前記従来技術の各問題点に鑑みて、回動軸と回動つまみとの間で常に安定した係止関係を構成でき、回動つまみの取り外しもピンを用いたきわめて簡単な操作で係止関係を劣化させずに行うことができる回動つまみの回動軸への取り付け機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、回動軸にはその先端から軸方向へ一定長のDカット区間が形成されている一方、回動つまみは樹脂製であって、有底キャップ状の基本形態をなすと共に、その外筒部の内側で天板部に内筒部が立設形成されたものであり、前記回動つまみの内筒部を前記回動軸のDカット区間に嵌着させる方式による回動つまみの回動軸への取り付け機構において、前記回動軸には、前記Dカット区間より後方位置に中心軸と略垂直で同中心軸を通過する貫通孔が穿設されていると共に、周方向に関して前記Dカット形成部分がなす中心角の範囲外にある前記貫通孔の一方の開口部側に同開口部を含み凹部が軸方向先端側へ所定長さ連続した係止凹部が形成されており、前記回動つまみには、前記内筒部が前記回動軸に密接外嵌した取り付け状態で前記内筒部における前記回動軸の前記係止凹部に対向する領域の周方向両側に沿って軸方向へスリットを形成することにより片持ち梁状部分を構成し、前記片持ち梁状部分の前記領域に前記回動軸の前記係止凹部に内嵌する係止突起を形成した弾性係止部を有すると共に、前記取り付け状態で前記回動軸における前記係止凹部の形成側とは逆側となる前記貫通孔の開口部に対向する前記外筒部の位置に、前記貫通孔の孔径以上の幅で前記天板部側とは逆側へ伸びた長孔が穿設されていることを特徴とする回動つまみの回動軸への取り付け機構に係る。
【0013】
本発明においては、回動つまみの内筒部を回動軸のDカット区間に外嵌させて嵌着させることで弾性係止部の係止突起が回動軸側の係止凹部に内嵌し、その内嵌状態では、回動つまみの軸方向への引き抜き力が作用しても係止突起と係止凹部の係止関係を解除できず、回動軸から回動つまみを引き抜くことはできない。
一方、回動つまみの外筒部の長孔から回動軸の貫通孔にその孔径より小さい直径のピン棒を挿入すると、回動軸の係止凹部に内嵌している弾性係止部の係止突起の形成領域に突き当たるが、ピン棒で更に押圧すると、弾性係止部は片持ち梁状部分として構成されているために容易に外側へ撓み、係止突起が回動軸の係止凹部に対する内嵌状態から外れて係止関係が解除される。
したがって、その状態で回動つまみを引き抜き方向へ僅かに引くと、回動つまみは容易に移動し、回動つまみの係止突起は回動軸の係止凹部の領域から外れて外周面の位置に達するが、その状態ではピン棒を引き抜いても係止突起は回動軸の係止凹部に戻ることはなく、前記外周面に当接して軸方向へ摺動可能な状態となる。その場合、外筒部の長孔は、回動つまみの初期の僅かな引き抜きに対して、ピン棒が抵触してその移動の妨げにならないように、円孔ではなく長孔として形成されている。
以降、回動つまみは軽微な引き抜き力で回動軸から引き抜いてゆくことができる。
そして、この一連の操作の中で、回動つまみの係止突起は片持ち梁である弾性係止部の先端にあって梁に垂直な方向へ押圧されて回動軸の係止凹部から押し出されるだけであり、回動つまみの着脱が多数回繰り返して行われても係止機構が劣化するようなことは生じない。
【0014】
なお、本発明において、「前記内筒部における前記係止凹部に対向する領域」については、内筒部が筒部分とその筒部分の端面から部分的な延長部分を有し、その延長部分が前記領域に対応している場合と、内筒部の内周面に前記領域がある場合とを含むものとする。
したがって、前記回動つまみの前記弾性係止部は、前記内筒部が筒部分とその筒部分の端面から部分的な延長部分を有し、その延長部分が前記内筒部における前記回動軸の前記係止凹部に対向する領域に対応しており、同領域に前記係止突起が形成された構成になっている場合もある
【0015】
また、本発明において、前記回動つまみの前記弾性係止部は、前記係止突起が前記回動軸の前記係止凹部に対向する領域における前記貫通孔との対向位置よりも前記天板部側寄りの領域にだけ形成されたものとすることが望ましい。
回動軸側の係止凹部と回動つまみ側の弾性係止部の係止突起との係止関係は、係止凹部の先端側の面に係止突起の天板部側の面が引っ掛かり合った関係であり、係止突起は係止凹部の全体を埋めて内嵌するような形状にする必要はなく、むしろ貫通孔との対向位置よりも天板部側寄りの領域だけに形成しておき、それ以外の領域は弾性係止部の梁部の板厚が延長された部分にしておいた方が、係止解除の際のピン棒による押圧操作が容易になる。
【0016】
また、本発明において、前記回動つまみの前記天板部には、同天板部における前記弾性係止部の前記係止突起を軸方向に投影させた場合の投影位置に、その投影された平面形状の孔が穿設されていることが望ましい。
樹脂製の回動つまみは射出成形により製造されるが、弾性係止部の係止突起はアンダーカット処理によらなければ成形できず、天板部の孔は入れ子の抜き孔として不可避的に形成される。
この天板部の孔は、弾性係止部の両側に形成されているスリットが天板部に至るまで形成されていない場合に、回動つまみが回動軸に着脱される際の回動軸の内筒部内と外部との通気孔となって、着脱操作に支障が生じないようにする役割を果たす。
【0017】
また、本発明において、前記回動軸の前記貫通孔における前記係止凹部の形成側とは逆側の開口部の角部には面取り加工が施されていることが望ましい。
ピン棒を回動つまみの外筒部の長孔を通じて回動軸の貫通孔へ挿通させる際に、ピン棒の先端をより容易に案内することができるためである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の回動つまみの回動軸への取り付け機構は、安定した抜け止め機能を実現できると共に、回動軸に対する回動つまみの着脱を、抜け止めのための係止機構を劣化させることなく、きわめて簡単な操作で合理的に行うことができる。
なお、回動つまみを取り外す際に用いるピン棒はゼムクリップなどの針金を伸ばして代用することができ、特別に専用品として用意する必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態(回動つまみを回動軸へ装着した状態)に係る要部の軸断面図である。
図2】実施形態において回動つまみを回動軸から取り外す際の第1段階を示す要部の軸断面図である。
図3】実施形態において回動つまみを回動軸から取り外す際の第2段階を示す要部の軸断面図である。
図4】実施形態において回動つまみを回動軸から取り外す際の第3段階を示す要部の軸断面図である。
図5】実施形態において回動つまみを回動軸から取り外す際の第4階を示す要部の軸断面図である。
図6】回動軸の正面図(部分断面図)(A)、平面図(B)、左側面図(C)及び右側面図(D)である。
図7】実施例aに係る回動つまみの軸断面図(A)、左側面図(B)、底面図(C)、平面図(D)、軸断面図(A)に示すX-X矢視断面図(E)及びY-Y視断面図(F)である。
図8】実施例bに係る回動つまみの軸断面図(A)、左側面図(B)、底面図(C)、平面図(D)、軸断面図(A)に示すX-X矢視断面図(E)及びY-Y視断面図(F)である。
図9】弾性係止部を構成するスリットが内筒部の全長に亘って形成されていない場合の実施例aに係る回動つまみの軸断面図(A)及び実施例bに係る回動つまみの軸断面図(B)である。
図10】従来技術(特許文献1)に係る回動つまみの回動軸への取り付け機構の要部の軸断面図である。
図11】従来技術(特許文献2)に係る回動つまみの回動軸への取り付け機構の要部の軸断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の回動つまみの回動軸への取り付け機構の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
まず、図1は回動つまみ11を回動軸21へ装着した状態を示す。
この場合の回動軸21は電子部品であるボリューム22に係るものであり、ボリューム22自体はその軸受部をサブパネル51にナット52で締着することにより固定されており、回動軸21における回動つまみ11の取り付け部分は、フロントパネル53に形成された孔54を通じて前方へ突出している。
【0021】
この回動軸21の詳細は図6に示され、先端から一定区間が切り欠かれた態様で中心軸と平行な平坦面が構成されたDカット区間23になっており、そのDカット区間23より後方の位置には、中心軸と略垂直な方向で且つ同中心軸を通過する貫通孔24が穿設されている。
また、この実施形態では、前記貫通孔24の穿設方向はDカット区間23の平坦面に垂直な関係を有する方向になっており、その2つの開口部はDカット区間23の後方位置と周方向に関してその反対側の位置になるが、後者の位置にある開口部には、その開口部を含んで軸方向先端側へ凹部が所定長さだけ連続した係止凹部25が形成されている。
【0022】
なお、この実施形態での係止凹部25の平面形状は加工の容易性を考慮して両端が円弧となった長穴状になっているが、その形状に限定されるものではない。
また、回動軸21の先端のDカット部分以外の角部には、回動つまみ11側への挿入が円滑になされるように面取り加工が施されていると共に、係止凹部25の形成側とは逆側にある貫通孔24の開口部の角部にも、後述のピン棒を挿入し易くするための面取り加工が施されている。
【0023】
一方、回動つまみ11の実施例aに係る詳細は図7に示され、通常の回動つまみと同様に有底キャップ状の基本形態をなすが、射出成形により外筒部12と天板部13と内筒部14が一体的に構成された樹脂製品である。
ここに、内筒部14は外筒部12の内側で天板部13に立設形成されており、回動軸21のDカット区間23に密接して嵌合するようになっている。
【0024】
そして、この内筒部14には片持ち梁状の弾性係止部15が形成されている。
すなわち、図1に示すように、内筒部14が回動軸21のDカット区間23に密接外嵌した取り付け状態において回動軸21側の係止凹部25に対する対向領域の周方向両側に沿って、図7(E)に示すように、軸方向へスリット16a,16bが形成されており、これによって内筒部14の一部に天板部13を固定端とした片持ち梁が構成されるが、その片持ち梁における前記対向領域に回動軸21側の係止凹部25に内嵌する係止突起17が形成したものが弾性係止部15である。
【0025】
ただし、この実施形態において、弾性係止部15の係止突起17は回動軸21側の係止凹部25の全体に内嵌する形状にはなっておらず、図1及び図7(A)に示すように、前記取り付け状態で回動軸21側の貫通孔24との対向位置よりも天板部13側寄りの領域にだけ形成されている。
【0026】
また、回動つまみ11の外筒部12には、図1に示す前記取り付け状態で回動軸21における係止凹部25の形成側とは逆側にある貫通孔24の開口部に対向する位置に長孔18が穿設されている。
この長孔18については、回動軸21の貫通孔24の孔径より僅かに広い幅で、前記位置から天板部13とは逆側へ僅かに伸びた孔形状になっている。
【0027】
また更に、回動つまみ11の天板部13には、その天板部13における弾性係止部15の係止突起17を軸方向に投影させた場合の投影位置に、その投影された平面形状の孔19が穿設されている。
これは回動つまみ11が射出成形で製造されることによるものであり、弾性係止部15に係止突起17を形成するためのアンダーカット処理において入れ子を引き抜くための孔である。
【0028】
次に、回動つまみ11の回動軸21からの引き抜き手順について、図1から図5を用いて説明する。
まず、図1に示される状態、すなわち回動つまみ11が回動軸21へ取り付けられている状態においては、回動つまみ11の内筒部14には回動軸21のDカット区間23が密接内嵌されているため、回動つまみ11の操作によって作用する回動トルクは直接的に回動軸21へ伝達される一方、回動つまみ11に対して引き抜き方向の力が作用した場合には、弾性係止部15の係止突起17が回動軸21の係止凹部25の先端側内壁面に引っ掛かっているために引き抜くことはできない。
【0029】
回動つまみ11の引き抜きの際には、図2に示すように、回動軸21の貫通孔24の孔径よりも小さい径のピン棒55を用いる。
ピン棒55を回動つまみ11の外筒部12の長孔18を通じて回動軸21の貫通孔24に挿入し、さらに送り込むとその先端が貫通孔24を通過して係止凹部25側に達するが、係止凹部25における軸先端側には弾性係止部15の係止突起17が内嵌しており、ピン棒55の先端は弾性係止部15の係止突起17より先へ伸びた先端部分に突き当たって同部分を外側へ押すことになる。
すると、片持ち梁である弾性係止部15は先端荷重を受けた状態となって撓むが、その撓みに伴って、弾性係止部15の係止突起17は回動軸21の係止凹部25から外側へ移動して係止関係が解除された状態となる。
【0030】
そして、その係止関係の解除状態において、回動つまみ11に引き抜き力を加えると、図3に示すように、回動つまみ11側の内筒部14は、回動軸21のDカット区間23から回動つまみ11の長孔18の軸方向長さ分だけ、殆ど抵抗を受けることなく引き抜き方向へ移動する。
すなわち、ピン棒55によって弾性係止部15の先端部分を外側へ押して係止突起17を回動軸21の係止凹部25から外側へ外した状態で回動つまみ11を引き抜き方向へ移動させると、ピン棒55の先端と弾性係止部15の先端部分とが摺動しつつ、図3に示すように、回動つまみ11が僅かに移動しただけで回動軸21の先端側の外周面と対向する位置に移動する。
したがって、回動つまみ11の長孔18の軸方向長さは僅かな移動距離に対応する長さであれば足りる。
【0031】
図3の状態にまで回動つまみ11が引き抜かれた状態では、図4に示すように、ピン棒55を抜き取ったとしても、係止突起17は片持ち梁としての弾性係止部15の復元力によって回動軸21の外周面に当接しているだけである。
そのため、図5に示すように、更に回動つまみ11を引き抜くと、弾性係止部15の係止突起17が回動軸21の外周面に摺接しながら、内筒部14が回動軸21のDカット区間23から抜けてゆき、最終的に回動つまみ11が回動軸21から取り外されることになる。
そして、その引き抜き手順においても、係止関係は解除されているため、弾性係止部15の係止突起17と回動軸21の外周面の間での摺接摩擦力以外に何等の抵抗力もなく、回動つまみ11の取り外しを行うことができる。
【0032】
一方、回動つまみ11を回動軸21に取り付ける場合については、回動つまみ11の弾性係止部15の係止突起17を回動軸21の先端部で外側へ押圧して弾性係止部15を撓ませながら、回動つまみ11の内筒部14の開口端を回動軸21の先端部に外嵌させた後、回動つまみ11をそのまま軸方向に押圧すると、図5に示す状態のように(但し、矢印方向は逆向き)、回動つまみ11の内筒部14に回動軸21のDカット区間23が内嵌挿入してゆき、弾性係止部15の係止突起17が回動軸21の係止凹部25に弾発的に内嵌することにより取り付け作業が完了する。
【0033】
したがって、この実施形態に係る回動つまみ11の回動軸21への取り付け機構によれば、回動つまみ11の抜け止めのための係止手段の劣化を伴うことなく、簡単な手順で回動つまみ11を回動軸21に着脱することができる。
【0034】
ところで、図7の実施例aに係る回動つまみ11の内筒部14の構成については、図8の実施例bのような内筒部41の構成にしてもよい。
ただし、図8において、図7での回動つまみ11の構成要素と同一のものは、同一の符号を付してある。
図8の(A),(C),(E),(F)から明らかなように、この実施例bに係る回動つまみ11の内筒部41では、回動軸21のDカット区間23との密接部分だけが軸方向について短くなっており、回動軸21の他の外周面との密接部分は弾性係止部15と同等の長さになっている点に特徴があり、したがって、弾性係止部15の両側のスリット42a,42bも弾性係止部15と同等の長さである。
【0035】
また、実施例a及びbの各回動つまみにおいては、弾性係止部15の両側のスリット(16a,16b)(42a,42b)は天板部13の内側面に達しているが、弾性係止部15の片持ち梁としての係止突起17部分でのバネ定数を大きくして、係止突起17を回動軸21側の係止凹部25へより強く内嵌させておく場合には、スリット(16a,16b)(42a,42b)を短くして弾性係止部15のスパンを短くすることが有効である。
すなわち、回動つまみ11の実施例aの場合には図9(A)のように、実施例bの場合は図9(B)のように、スリット(45a,45b)(46a,46b)を天板部13の内側面まで形成せずに、内筒部14,41の途中までにすれば、弾性係止部47,48の係止突起17部分でのバネ定数を大きくできる。
このように、弾性係止部15の片持ち梁としてのスパンを短くする方法は、回動つまみ11を構成する樹脂のヤング率が低い場合や、その内筒部14,41の厚みを大きくとれないような場合に、最も簡単で有効な対応手段である。
【0036】
そして、図9のようにスリット(45a,45b)(46a,46b)を天板部13の内側面まで形成しない場合においては、天板部13に形成されている孔19が有効に機能する。
回動つまみ11の回動軸21への着脱の際には、回動軸21の先端面と内筒部14,41の内周面と天板部13の内側面に囲まれた空間は外部と通気状態になければならないが、図7図8のようにスリット(16a,16b)(42a,42b)が天板部13の内側面まで達していれば、常にそれらのスリット(16a,16b)(42a,42b)での通気が確保されているために問題はない。
【0037】
しかしながら、図9のようにスリット(45a,45b)(46a,46b)が天板部13の内側面まで達していない回動つまみ11の場合には、天板部13に孔19が形成されていなければ、回動軸21は回動つまみ11の内筒部14,41におけるスリット(45a,45b)(46a,46b)が形成されている区間よりも天板部13側へ挿入できない。
換言すれば、天板部13の孔19は、回動つまみ11が図9のようにスリット(45a,45b)(46a,46b)が天板部13の内側面まで達していないものである場合に、その回動軸21への着脱を可能にするという意味において有効である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、電子部品の回動軸に対して回動つまみを着脱自在に取り付けるための機構に適用できる。
【符号の説明】
【0039】
11…回動つまみ、12…外筒部、13…天板部、14…内筒部、15…弾性係止部、16a,16b…スリット、17…係止突起、18…長孔、19…孔、21…回動軸、22…ボリューム、23…Dカット区間、24…貫通孔、25…係止凹部、41…内筒部、42a,42b…スリット、45a,45b…スリット、46a,46b…スリット、47…弾性係止部、48…弾性係止部、51…サブパネル、52…ナット、53…フロントパネル、54…孔、55…ピン棒、101…回動つまみ、102…回動軸、103…溝部、104…挿入穴、105…凸部、201…回動軸、202…回動つまみ、203…アダプタ、204…Dカット部分、205…穴、206…凹部、207…爪、208…凸条、209…溝。
【要約】
【課題】回動つまみの回動軸への取り付け機構において、回動軸の凹部と回動つまみの凸部の嵌合方式の抜け止めでは着脱の繰り返しで劣化する。
【解決手段】回動軸21に中心軸と垂直交差する貫通孔24を穿設し、一方の開口部に係止凹部25を形成しておく。回動つまみ11の内筒部14には、回動軸21に外嵌した際の係止凹部25との対向領域の両側に軸方向スリットを形成して片持ち梁状の弾性係止部15を構成し、その対向領域部分に係止凹部25に内嵌する係止突起17を設けると共に、回動つまみ11の外筒部12における貫通孔24との対向位置に長孔18を形成しておく。係止突起17が係止凹部25に内嵌した係止関係で安定した抜け止め機能が得られ、ピン棒55を長孔18から貫通孔24を通じて挿入して係止凹部25内の係止突起17を押し出し、係止関係を解除して回動つまみ11を回動軸21から引き抜く。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11