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特許7437479保険料算出システム、保険料算出方法及び負担予測方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】保険料算出システム、保険料算出方法及び負担予測方法
(51)【国際特許分類】
   G06Q 40/08 20120101AFI20240215BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20240215BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
G06Q40/08
C12Q1/6869 Z
C12Q1/04 ZNA
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022176765
(22)【出願日】2022-11-02
(65)【公開番号】P2024018846
(43)【公開日】2024-02-08
【審査請求日】2023-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2022121710
(32)【優先日】2022-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514235307
【氏名又は名称】アニコム ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100169236
【弁理士】
【氏名又は名称】藤村 貴史
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 祐幸
(72)【発明者】
【氏名】松本 拳悟
(72)【発明者】
【氏名】天野 実穂子
(72)【発明者】
【氏名】坪内 千春
(72)【発明者】
【氏名】田中 英臣
【審査官】毛利 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-177344(JP,A)
【文献】特表2022-515607(JP,A)
【文献】特開2021-086210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
C12Q 1/04
C12Q 1/6869
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザが飼育する愛玩動物の腸内細菌叢の多様性データを取得する取得部と、
前記腸内細菌叢の多様性データと、愛玩動物の腸内細菌叢の多様性データと保険リスクとの相関関係とに基づいて、ユーザが飼育する愛玩動物の保険リスクを計算する計算部と、
を備える保険料算出システムであって、
前記取得部が、さらに、ユーザが飼育する愛玩動物の基礎情報を取得するものであり、
前記計算部が、前記愛玩動物の基礎情報を元に算出された保険料を、前記愛玩動物の腸内細菌叢の多様性データを用いて導き出される保険リスクに応じて修正することによって、保険料を算出するものである保険料算出システム。
【請求項2】
ユーザが飼育する愛玩動物の腸内細菌叢の多様性データを取得する取得部と、
前記腸内細菌叢の多様性データと、愛玩動物の腸内細菌叢の多様性データと保険リスクとの相関関係とに基づいて、ユーザが飼育する愛玩動物の保険リスクを計算する計算部と、
を備える保険料算出システムであって、
前記取得部が、さらに、ユーザが飼育する愛玩動物の基礎情報を取得するものであり、
前記計算部が、愛玩動物の基礎情報を元に算出された予測医療費を腸内細菌叢の多様性データを用いて導き出される保険リスクに応じて修正したものに基づいて、保険料を算出するものである保険料算出システム。
【請求項3】
ユーザが飼育する愛玩動物の腸内細菌叢の多様性データを取得する取得部と、
前記腸内細菌叢の多様性データと、愛玩動物の腸内細菌叢の多様性データと保険リスクとの相関関係とに基づいて、ユーザが飼育する愛玩動物の保険リスクを計算する計算部と、
を備える保険料算出システムであって、
前記取得部が、さらに、ユーザが飼育する愛玩動物の基礎情報を取得するものであり、
前記計算部が、愛玩動物の基礎情報を元に算出された予測医療費を腸内細菌叢の多様性データを用いて導き出される保険リスクに応じて0.5~2.0倍に修正したものに基づいて、保険料を算出する保険料算出システム。
【請求項4】
ユーザが飼育する愛玩動物の腸内細菌叢の多様性データを取得する取得部と、
前記腸内細菌叢の多様性データと、愛玩動物の腸内細菌叢の多様性データと保険リスクとの相関関係とに基づいて、ユーザが飼育する愛玩動物の保険リスクを計算する計算部と、
を備える保険料算出システムであって、
前記計算部が算出した保険リスクを、ユーザが飼育する愛玩動物が摂取しているフードの情報に基づいて修正する予測計算部を更に備える保険料算出システム。
【請求項5】
さらに、愛玩動物の腸内細菌叢の多様性データと保険リスクとの相関関係を設定する設定部を備え、前記計算部は、前記腸内細菌叢の多様性データと、前記設定部が設定した相関関係とに基づいてユーザが飼育する愛玩動物の保険リスクを計算する請求項1から4のいずれか一項記載の保険料算出システム。
【請求項6】
前記愛玩動物の腸内細菌叢の多様性データと保険リスクとの相関関係が、負の相関関係である請求項1から4のいずれか一項記載の保険料算出システム。
【請求項7】
前記愛玩動物の腸内細菌叢の多様性データが、シャノン指数である請求項1から4のいずれか一項記載の保険料算出システム。
【請求項8】
前記愛玩動物の基礎情報が、少なくとも品種及び年齢である請求項1から4のいずれか一項記載の保険料算出システム。
【請求項9】
腸内細菌叢の多様性データを取得するステップと、
ユーザが飼育する愛玩動物の多様性データ及び愛玩動物の腸内細菌叢の多様性データと保険リスクとの相関関係に基づいて、コンピュータがユーザが飼育する愛玩動物の保険リスクを計算するステップと、
を順に備える保険料算出方法であって、
さらに、コンピュータがユーザが飼育する愛玩動物の基礎情報を取得するステップを備え、
前記ユーザが飼育する愛玩動物の多様性データ及び愛玩動物の腸内細菌叢の多様性データと保険リスクとの相関関係に基づいて、コンピュータがユーザが飼育する愛玩動物の保険リスクを計算するステップが、コンピュータが前記愛玩動物の基礎情報に基づいて算出された保険料を前記愛玩動物の腸内細菌叢の多様性データを用いて導き出される保険リスクに応じて修正するステップである、
保険料算出方法。
【請求項10】
腸内細菌叢の多様性データを取得するステップと、
ユーザが飼育する愛玩動物の多様性データ及び愛玩動物の腸内細菌叢の多様性データと保険リスクとの相関関係に基づいて、コンピュータがユーザが飼育する愛玩動物の保険リスクを計算するステップと、
を順に備える保険料算出方法であって、
さらに、コンピュータがユーザが飼育する愛玩動物の基礎情報を取得するステップを備え、
前記ユーザが飼育する愛玩動物の多様性データ及び愛玩動物の腸内細菌叢の多様性データと保険リスクとの相関関係に基づいて、コンピュータがユーザが飼育する愛玩動物の保険リスクを計算するステップが、前記愛玩動物の基礎情報を元に算出された予測医療費を腸内細菌叢の多様性データを用いて導き出される保険リスクに応じて修正したものに基づいて保険料を算出するステップである、保険料算出方法。
【請求項11】
腸内細菌叢の多様性データを取得するステップと、
ユーザが飼育する愛玩動物の多様性データ及び愛玩動物の腸内細菌叢の多様性データと保険リスクとの相関関係に基づいて、コンピュータがユーザが飼育する愛玩動物の保険リスクを計算するステップと、
を順に備える保険料算出方法であって、
さらに、コンピュータがユーザが飼育する愛玩動物の基礎情報を取得するステップを備え、
前記ユーザが飼育する愛玩動物の多様性データ及び愛玩動物の腸内細菌叢の多様性データと保険リスクとの前記相関関係に基づいて、コンピュータがユーザが飼育する愛玩動物の保険リスクを計算するステップが、前記愛玩動物の基礎情報を元に算出された予測医療費を腸内細菌叢の多様性データを用いて導き出される保険リスクに応じて0.5~2.0倍に修正したものに基づいて、保険料を算出するステップである、保険料算出方法。
【請求項12】
腸内細菌叢の多様性データを取得するステップと、
ユーザが飼育する愛玩動物の多様性データ及び愛玩動物の腸内細菌叢の多様性データと保険リスクとの相関関係に基づいて、コンピュータがユーザが飼育する愛玩動物の保険リスクを計算するステップと、
を順に備える保険料算出方法であって、
前記ユーザが飼育する愛玩動物の多様性データ及び前記相関関係に基づいて、ユーザが飼育する愛玩動物の保険リスクを計算するステップにおいて導き出された保険リスクを、ユーザが飼育する愛玩動物が食べるフードの情報に基づいて修正するステップを更に備える保険料算出方法。
【請求項13】
さらに、愛玩動物の腸内細菌叢の多様性データと保険リスクとの相関関係を設定するステップを備え、前記ユーザが飼育する愛玩動物の多様性データ及び愛玩動物の腸内細菌叢の多様性データと保険リスクとの前記相関関係に基づいて、コンピュータがユーザが飼育する愛玩動物の保険リスクを計算するステップが、前記腸内細菌叢の多様性データと、前記愛玩動物の腸内細菌叢の多様性データと保険リスクとの相関関係を設定するステップが設定した相関関係とに基づいてユーザが飼育する愛玩動物の保険リスクを計算するステップである、請求項9から12のいずれか一項記載の保険料算出方法。
【請求項14】
前記愛玩動物の腸内細菌叢の多様性データと保険リスクとの相関関係が、負の相関関係である請求項9から12のいずれか一項記載の保険料算出方法。
【請求項15】
前記愛玩動物の腸内細菌叢の多様性データが、シャノン指数である請求項9から12のいずれか一項記載の保険料算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保険料算出システム、保険料算出方法及び負担予測方法に関し、詳しくは、動物の腸内細菌叢の多様性に関するデータ(以下「多様性データ」という)と保険リスクとの相関関係に基づいて、動物に適した保険料を算出する保険料算出システム、保険料算出方法及び動物の飼育者(以下「ユーザ」ということがある)に対して、当該動物の傷病による金銭的負担(医療費)を提示する負担予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
犬や猫、ウサギを始めとする愛玩動物、牛や豚を始めとする家畜は、人間にとってかけがえのない存在である。近年、人間が飼育する動物の平均寿命が大幅に伸びた一方で、動物がその一生の中で何らかの傷病を患うことが多くなり、飼育者が負担する医療費の増大が問題となっている。
【0003】
動物の健康を維持するためには、日頃の食事、運動などを通じた体調管理や不調への素早い対応が重要となるが、動物は、自己の言葉で体の不調を訴えることができないため、症状が進行して、外形的に観察可能な何らかの徴候が生じたときに飼育者が初めて動物の疾患の罹患に気付くのが実情である。また、カルシウムやビタミン不足等によって、筋骨格系が衰えている場合には、外形的な兆候が存在することは稀で、骨折等の怪我を被って初めて動物の異常に気付くのが実情である。
【0004】
そのため、簡易な方法で、保険料や、動物の飼育者が負う金銭的負担を予測する手段が求められている。
【0005】
特許文献1には、腸内細菌叢中、バクテロイデス門(Bacteroidetes)の細菌を増殖させ、ファーミキューテス門(Firmicutes)の細菌を減少させることによって、腸内細菌叢を有効に調整又は改善する効果を有する腸内細菌叢調整又は改善組成物が開示されているが、動物の腸内細菌叢に関するデータから当該動物が傷病を患うかどうかを予測する方法については開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開2017/094892号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、簡易な方法で、動物の多様性データと保険リスクとの相関関係に基づいて、動物に適した保険料を算出する保険料算出システム、保険料算出方法及びユーザに対して、当該動物の傷病等による金銭的負担を提示する負担予測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ペット保険に加入している動物の多様性データと、当該動物の保険請求の有無、すなわち傷病の有無についての膨大なデータを分析、検討した結果、動物の腸内細菌叢の多様性データを用いて、動物ごとに適した保険料の算定、及びユーザが負う金銭的負担(医療費)を予測することが可能になることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の[1]~[15]である。
[1]ユーザが飼育する愛玩動物の腸内細菌叢の多様性データを取得する取得部と、前記腸内細菌叢の多様性データと、愛玩動物の腸内細菌叢の多様性データと保険リスクとの相関関係とに基づいて、ユーザが飼育する愛玩動物の保険リスクを計算する計算部と、を備える保険料算出システム。
[2]前記取得部が、さらに、ユーザが飼育する愛玩動物の基礎情報を取得するものである[1]の保険料算出システム。
[3]さらに、愛玩動物の腸内細菌叢の多様性データと保険リスクとの相関関係を設定する設定部を備え、前記計算部は、前記腸内細菌叢の多様性データと、前記設定部が設定した相関関係とに基づいてユーザが飼育する愛玩動物の保険リスクを計算する[1]又は[2]の保険料算出システム。
[4]前記愛玩動物の腸内細菌叢の多様性データと保険リスクとの相関関係が、負の相関関係である[1]の保険料算出システム。
[5]前記愛玩動物の腸内細菌叢の多様性データが、シャノン指数である[1]の保険料算出システム。
[6]前記計算部が、愛玩動物の基礎情報を元に算出された保険料を、前記愛玩動物の腸内細菌叢の多様性データを用いて導き出される保険リスクに応じて修正することによって、保険料を算出するものである[2]の保険料算出システム。
[7]前記計算部が、愛玩動物の基礎情報を元に算出された予測医療費を腸内細菌叢の多様性データを用いて導き出される保険リスクに応じて修正したものに基づいて、保険料を算出するものである[2]の保険料算出システム。
[8]前記計算部が、愛玩動物の基礎情報を元に算出された予測医療費を腸内細菌叢の多様性データを用いて導き出される保険リスクに応じて0.5~2.0倍に修正したものに基づいて、保険料を算出するものである[2]の保険料算出システム。
[9]愛玩動物の基礎情報が、少なくとも品種及び年齢である[2]の保険料算出システム。
[10]前記計算部が算出した保険リスクを、ユーザが飼育する愛玩動物が摂取しているフードの情報に基づいて修正する予測計算部を更に備える[1]又は[2]の保険料算出システム。
[11]腸内細菌叢の多様性データを取得するステップと、前記ユーザが飼育する愛玩動物の多様性データ及び前記相関関係に基づいて、コンピュータがユーザが飼育する愛玩動物の保険リスクを計算するステップと、を順に備える保険料算出方法。
[12]さらに、ユーザが飼育する愛玩動物の基礎情報を取得するステップを備える[11]の保険料算出方法。
[13]愛玩動物の基礎情報が、少なくとも品種及び年齢である[12]の保険料算出方法。
[14]前記ユーザが飼育する愛玩動物の多様性データ及び前記相関関係に基づいて、ユーザが飼育する愛玩動物の保険リスクを計算するステップにおいて導き出された保険リスクを、ユーザが飼育する愛玩動物が食べるフードの情報に基づいて修正するステップを更に備える[11]又は[12]の保険料算出方法。
[15]ユーザが飼育する愛玩動物の基礎情報、及び腸内細菌叢の多様性データを取得するステップと、愛玩動物の腸内細菌叢の多様性データと負担リスクとの相関関係を設定するステップと、コンピュータが前記ユーザが飼育する愛玩動物の多様性データ及び前記相関関係に基づいて、ユーザが飼育する愛玩動物の負担リスクを計算するステップと、を順に備える金銭的負担の予測方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、保険料算出システム、保険料算出方法及び負担予測方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】保険料算出システムの模式図である。
図2】保険料算出方法を説明する図である。
図3】多様性データ(多様性指数)と保険リスクとの相関関係を示すモデル図である。
図4】多様性データと保険リスクとの相関関係を示す図である。
図5】相関分析の結果を示す図である。
図6】多様性データと保険リスクとの相関関係を示す図である。
図7】多様性データと保険リスクとの相関関係を示す図である。
図8】多様性データと保険リスクとの相関関係を示す図である。
図9】多様性データと保険リスクとの相関関係を示す図である。
図10】多様性データと保険リスクとの相関関係を示す図である。
図11】多様性データと保険リスクとの相関関係を示す図である。
図12】多様性データと保険リスクとの相関関係を示す図である。
図13】多様性データと保険リスクとの相関関係を示す図である。
図14】多様性データと保険リスクとの相関関係を示す図である。
図15】多様性データと保険リスクとの相関関係を示す図である。
図16】多様性データと保険リスクとの相関関係を示す図である。
図17】相関分析の結果を示す図である。
図18】多様性データと保険リスクとの相関関係を示す図である。
図19】多様性データと保険リスクとの相関関係を示す図である。
図20】多様性データと保険リスクとの相関関係を示す図である。
図21】多様性データと保険リスクとの相関関係を示す図である。
図22】多様性データと保険リスクとの相関関係を示す図である。
図23】フード数と多様性データとの関係を示す図である。
図24】フード数と多様性データとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[保険料算出システム]
本発明の保険料算出システムは、腸内細菌叢の多様性データを取得する取得部と、前記ユーザが飼育する愛玩動物の多様性データ及び前記相関関係に基づいて、ユーザが飼育する愛玩動物の保険リスクを計算する計算部と、を備える。本発明の保険料算出システムは、取得部が、さらに、ユーザが飼育する愛玩動物の基礎情報を取得することが好ましい。また、本発明の保険料算出システムは、愛玩動物の腸内細菌叢の多様性データと保険リスクとの相関関係を設定する設定部をさらに備えることが好ましい。
【0013】
[システムの概要]
図1は、本開示の一実施形態に係る保険料算出システムの概要を説明する図である。図1に示すように、本実施形態に係る保険料算出システムは、サーバ1とユーザ端末2とを含む。サーバ1及び端末2は、ネットワークを介して接続される。サーバ1は、処理演算部(CPU)10と、記憶部20と、インターフェイス部30とを含む。なお、本発明におけるユーザには、愛玩動物の飼い主の他、代理人、ブリーダー等を含む。愛玩動物としては、犬、猫、ウサギ、鳥、爬虫類、両生類が挙げられるが、犬、猫、ウサギが好ましい。
【0014】
さらに、処理演算部(CPU)10は、計算部11と予測計算部12から構成され、記憶部20は、少なくとも設定部21から構成され、インターフェイス部30は、取得部31と出力部32から構成される。設定部21は、腸内細菌叢の多様性データと保険リスクの相関関係に係る数式、関数、テーブル又はソフトウェアを記憶しているという構成であってもよい。このような構成の場合、計算部11が、ユーザが飼育する愛玩動物の基礎情報に基づいて設定部21に記憶されている数式、関数、テーブル又はソフトウェアを呼び出し、ユーザが飼育する愛玩動物の多様性データに基づいて保険リスクを算出することができる。なお、保険リスクとは、保険金の支払い対象となる事象の発生確率の高さを示す指標である。保険金の支払い対象となる事象とは、動物保険における傷病である。保険リスクは保険料に反映され、リスクが高いほど保険料は上がり、リスクが低いほど保険料は下がる。なお、保険料とは、ユーザが保険会社に支払う金銭であり、保険金とは、事象発生時に保険会社がユーザに支払う金銭である。
【0015】
ここで、計算部11は、ユーザが飼育する愛玩動物の多様性データ及び前記相関関係に基づいて、ユーザが飼育する愛玩動物の保険リスクを計算する。図1の実施態様は、さらに予測計算部12を備える。予測計算部12は、愛玩動物に与えるフードの情報に基づいて、ユーザが飼育する愛玩動物の将来の保険リスクを予想するものであり、例えば、計算部11が一旦算出した保険リスクを、フードの情報に基づいて修正をすることによって保険リスクを算出する。
また、設定部21は、愛玩動物の腸内細菌叢の多様性データと保険リスクとの相関関係を設定する。
さらに、取得部31は、腸内細菌叢の多様性データ、好ましくは、さらにユーザが飼育する愛玩動物の基礎情報を取得し、出力部32は、計算部11が算出した保険リスク、保険料、負担額等をユーザに送付する。
【0016】
[多様性データ]
多様性データとは、動物の腸内細菌叢の細菌の多様性に関連するデータである。腸内細菌叢の多様性が大きいということは、当該腸内細菌叢に様々な種類の菌が幅広く均等に含まれるということである。多様性データの指標、いわゆる多様性指数には幾つかの種類があるが、本発明では公知のいずれのものであってもよい。多様性指数としては、シャノン・ウィナーの多様性指数(以下「シャノン指数」と省略する場合がある)、シンプソン指数、シーケンサーにより検出されたユニーク配列の数(amplicon sequence variant: ASV)、OTU(operational taxonomic unit)数、Faith’s PD、Pielou's eveness等が挙げられる。
【0017】
[多様性データの測定]
腸内細菌叢の多様性データの測定は、NGSなどのシーケンサーを用いたアンプリコンシーケンス、ショットガンシーケンスなどの公知のメタゲノム解析法や細菌叢の解析方法を用いることができる。例えば、動物から糞便などの試料を採取し、試料中に含まれるあらゆる生物のDNAやRNAの塩基配列情報を次世代シーケンサーを用いて解析することによって、当該試料中に含まれる生物を同定する方法が挙げられる。好ましくは、試料中に含まれる16SrRNA遺伝子の全部又は一部を、必要に応じて増幅して、シーケンスを行い、得られた配列をソフトウェアを用いて解析し、試料中の細菌の組成データを得る方法が挙げられる。
【0018】
NGS(次世代シーケンサー)を利用した16SrRNA遺伝子のアンプリコン解析(メタ16S解析)の一例を具体的に説明する。まず、DNA抽出試薬を用いて試料よりDNAを抽出し、抽出したDNAからPCRによって16SrRNA遺伝子を増幅する。その後、増幅したDNA断片についてNGSを用いて網羅的に塩基配列を決定し、低クオリティリードやキメラ配列の除去を行った後、配列同士をクラスタリングしてOTU(Operational Taxonomic Unit)解析を行う。OTUとは、ある一定以上の類似性(例えば、96~97%以上の相同性)を持つ配列同士を一つの菌種のように扱うための操作上の分類単位である。従って、OTU数は菌叢を構成する菌種の数を表し、同一のOTUに属するリードの数はその種の相対的な存在量を表していると考えられる。また、各OTUに属するリード数の中から代表的な配列を選び、データベース検索により科名や属種名の同定が可能となる。このようにして、特定の科や門に属する菌種数を測定することができる。また、ASV(Amplicon Sequence Variant)による解析も可能である。ASVは、PCRおよびシーケンシング中に生成された誤った配列を除去した後に作成されるため、1塩基単位の配列変異を区別でき、より細かい同定が可能である。本発明の保険料算出システムは、予め測定された多様性データを用いてもよく、ユーザから糞便サンプルを受領して多様性データを測定し、その多様性データを用いることもできる。予め測定された多様性データを用いる場合、ユーザは、例えば、腸内細菌の分析業者に糞便サンプルを送付し、腸内細菌叢の測定を依頼し、依頼を受けた分析業者から多様性データを受領する。ユーザはそのようにして受領した多様性データを、ユーザ端末を通じて本発明の保険料算出システムに送信することができる。また、依頼を受けた分析業者がユーザに代わって、本発明の保険料算出システムに、多様性データを送信するという構成であってもよい。
【0019】
次に、本発明の技術的特徴について、詳細に説明する。
[多様性データに基づく保険リスクの計算]
以下、図3(モデル図)を参照しながら、多様性データに基づく保険リスクの計算方法の例について説明する。図3は、本実施形態に係る多様性データに基づく保険リスクの計算方法の一例を説明するためのグラフである。本グラフの縦軸は、保険リスクであり、横軸は多様性データである。具体的には、多様性指数(シャノン指数)が3.5(D1)のときには、保険リスク(R1)は1である。これは、多様性指数3.5の愛玩動物が傷病を患う確率は、全ての愛玩動物の平均と同様ということを意味する。言い換えると、全ての愛玩動物の平均治療費が5,000円/月の場合は、多様性指数3.5の愛玩動物の治療費(飼主の負担額)も5,000円/月になることを意味する。一方、多様性指数が3(D2)のときには、保険リスク(R2)は1.2である。これは、多様性指数3.5の愛玩動物の治療費は6,000円になることを意味する。
【0020】
より具体的に説明すると、図8は、0~3歳のトイプードルの保険リスクを示したものであり、縦軸は保険リスク、横軸は多様性指数(シャノン指数)である。なお、統計学的な解析を行うために、多様性指数を4つの区分((1)2.0以上、3.0未満、(2)3.0以上、4.0未満、(3)4.0以上、5.0未満、(4)5.0以上、6.0未満)に分けている。図8に記載の通り、0~3歳のトイプードルについて、多様性データと保険リスクに相関関係が存在することが解る。
【0021】
[設定部]
サーバ又は記憶部は、愛玩動物の腸内細菌叢の多様性データと保険リスクとの相関関係を設定する設定部を備えていてもよい。ここでの相関関係とは、多様性データがどの程度であれば、保険リスクがどの程度であるか、という対応関係を示す情報である。相関関係は、多様性データを入力として保険リスクを出力とするモデル(関数)として捉えられてもよい。例えば、複数の愛玩動物の多様性データと、当該愛玩動物の傷病及び治療に掛かった費用とを統計的に処理することで、相関関係を設定する。なお、相関関係の設定に用いられた愛玩動物と、保険リスクの計算対象となるユーザが飼育する愛玩動物とは、原則的に別の個体である。
【0022】
また、ユーザの飼育する愛玩動物の基礎情報に基づいて相関関係を設定してもよい。なお、基礎情報としては、年齢及び品種が挙げられる。例えば、サーバは、ユーザが飼育する愛玩動物の基礎情報と類似する基礎情報を有する愛玩動物の多様性データと、当該愛玩動物の傷病及び治療に掛かった費用とを統計的に処理することで、相関関係を設定する。サーバには、基礎情報のカテゴリ(例えば、年齢、品種等)ごとの相関関係を予め構築しておき、ユーザが飼育する愛玩動物の基礎情報に対応するカテゴリの相関関係を設定してもよい。設定部は、システムを走らせる毎に相関関係を設定する必要はなく、設定部が一度設定した相関関係を以後計算部が継続して使用するという構成であってもよい。また、順次、保険リスクと多様性データに係るデータが更新されるごとに、相関関係を設定するという構成であってもよい。
【0023】
多様性データと保険リスクとの相関関係が設定されることで、ユーザが飼育する愛玩動物の多様性データに基づく保険リスク及び保険料の計算を行うことが可能となる。
【0024】
[保険料算出方法]
図2は、本開示の一実施形態に係る保険料算出方法の概要を説明する図である。
図2に示すように、本実施形態に係る保険料算出方法は、ユーザが飼育する愛玩動物の基礎情報、及び腸内細菌叢の多様性データを取得するステップS1と、愛玩動物の腸内細菌叢の多様性データと保険リスクとの相関関係を設定するステップS2と、前記ユーザが飼育する愛玩動物の多様性データ及び前記相関関係に基づいて、コンピュータがユーザが飼育する愛玩動物の保険リスクを計算するステップS3と、を順に備える。
【0025】
ここで、さらに、ユーザの飼育する愛玩動物の基礎情報を取得するステップをさらに備えることが好ましく、ユーザの飼育する愛玩動物の基礎情報に基づいて相関関係を設定することが好ましい。ユーザの飼育する愛玩動物の基礎情報に合わせた相関関係を設定することで、より愛玩動物に適した保険料を算出することができる。まず、基礎情報に基づいて仮の保険料を算出し、その後に、多様性データに基づく保険リスクを加味して、当該仮の保険料を修正して最終的に保険料を算出することがより好ましい。このように、基礎情報に基づく仮の保険料を、多様性データに基づく保険リスクを加味して修正する場合、仮の保険料を0.5~2.0倍の間で修正することが好ましい。本発明者らが見出したところによれば、多様性データに応じて、愛玩動物個体の保険リスクは、平均に比べて0.5~2.0倍の間で変化することが分かっている。また、基礎情報に基づいて予想される医療費を一旦算出し、その医療費を、多様性データに基づいて導き出される保険リスクに応じて修正して得られる医療費に基づいて保険料を算出してもよい。
【0026】
さらに、ユーザが飼育する愛玩動物が食べるフードの情報に基づいて、ユーザが飼育する愛玩動物の将来的な保険リスクを予想するステップを備えていてもよい。愛玩動物が食べるフードによって多様性が上がるため、フードの情報を加味することで、将来的な保険料を算出することができる。
【0027】
なお、保険料は、一般的には、動物の医療費に保険会社の負担率を掛け合せ、更に保険会社の手数料・運営費等を加えたものである。したがって、上記保険料算出システムが保険料を算出するのと同様の方法で、ユーザが負う金銭的負担(医療費)を予測することが可能である。
【実施例
【0028】
以下本発明の実施例を示す。本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
【0029】
(犬の選定)
保険契約期間内(1年)に腸内細菌叢の多様性指数を糞便試料から測定した約11万個体について、同期間内の保険金請求から保険リスクを調査した。糞便試料採取前の傷病有無は考慮していなため、試料採取前から傷病を患っている個体も含まれる。
【0030】
(糞便試料からのDNA抽出)
以下のようにして、各犬から糞便試料を採取し、DNAを抽出した。
犬の飼育者が糞便の採取キットを用いて、犬の糞便試料を採取した。当該糞便試料を受領し、固定液(10%EtOH、1.07%NH4Cl、5mM EDTA、0.09%NaN3)に懸濁した。
次に、糞便懸濁液200 uLとLysis buffer(224 ug/mLのProtenaseKを含む)810 uLをビーズチューブに添加し、ビーズ式ホモジナイザーにてビーズ破砕(6,000 rpm、破砕20秒、インターバル30秒、破砕20秒)を行った。その後、検体を70℃のヒートブロック上にて10分間静置することでProtenase Kによる処理を行い、続いて95℃のヒートブロック上にて5分間静置することでProtenase Kを不活化した。溶菌処理を行った検体はchemagic 360(PerkinElmer)を用い、chemagicキットstool用プロトコルにてDNAの自動抽出を行い、100 uLのDNA抽出液を得た。
【0031】
(メタ16SRNA遺伝子シーケンス解析)
メタ16Sシーケンス解析はillumina 16S Metagenomic Sequencing Library Preparation(バージョン15044223 B)を改変して行った。まず、16S rRNA遺伝子の可変領域V3-V4を含む460 bpの領域をユニバーサルプライマー(Illumina_16S_341FおよびIllumina_16S_805RPCR)を用いたPCRで増幅した。PCR反応液は10 uLのDNA抽出液、0.05 uLの各プライマー(100 uM)、12.5 uLの2x KAPA HiFi Hot-Start ReadyMix(F. Hoffmann-La Roche、Switzerland)、2.4 uLのPCR grade waterを混合して調製した。PCRには95℃ 3分間の熱変性後、95℃ 30秒、55℃ 30秒、72℃ 30秒のサイクルを30回繰り返し、最後に72℃ 5分の伸長反応を行った。増幅産物は磁気ビーズを用いて精製し、50 uLのBuffer EB(QIAGEN、Germany)で溶出した。精製後の増幅産物はNextera XT Index Kit v2(illumina、CA、US)を用いてPCRを行い、インデックスを付加した。PCR反応液は2.5 uLの増幅産物、2.5 uLの各プライマー、12.5 uLの2x KAPA HiFi Hot-Start ReadyMix、5 uLのPCR grade waterを混合して調製した。PCRには95℃ 3分間の熱変性後、95℃ 30秒、55℃ 30秒、72℃ 30秒のサイクルを12回繰り返し、最後に72℃ 5分の伸長反応を行った。インデックス付加を行った増幅産物は磁気ビーズを用いて精製し、80-105 uLのBuffer EBで溶出した。各増幅産物の濃度はNanoPhotometer(Implen、CA、US)で測定し、1.4 nMに調製した後、等量ずつ混合し、これをシーケンス用ライブラリーとした。シーケンス用ライブラリーのDNA濃度および増幅産物のサイズを電気泳動にて確認し、これをMiSeqにより解析した。解析にはMiSeq Reagent Kit V3を用い、2×300 bpのペアエンドシーケンスを行った。得られた配列はQIIME2という解析ソフトウェアにて解析し、細菌の組成データを得た。
上記で用いたユニバーサルプライマーの配列は以下のとおりである。このユニバーサルプライマーは市販されているものを購入することができる。
Illumina_16S_341F
5′-TCGTCGGCAGCGTCAGATGTGTATAAGAGACAGCCTACGGGNGGCWGCAG- 3’

llumina_16S_805R
5′-GTCTCGTGGGCTCGGAGATGTGTATAAGAGACAGGACTACHVGGGTATCTAATCC- 3’
【0032】
上記方法に従って、0歳以上、3歳以下の全犬種について、腸内細菌叢の組成データを得て、QIIME2を用いて多様性指数(シャノン指数、ASV指数)の測定を行った。なお、外れ値を除外したためシャノン指数の場合は105335個体、ASV指数の場合は105677個体を有効個体数とした。
【0033】
(傷病・保険金請求の確認)
上記全犬種について、保険期間内に保険金支払請求があったか否かを調査した。上記の通り、糞便試料採取前の傷病有無は考慮していないため、試料採取前から傷病を患っている個体も含まれる。
【0034】
(相関関係図)
上記の実験で得られた多様性データと保険リスクとの相関関係を図4図6~13に示す。縦軸は保険リスク、横軸は多様性指数である。
図5は、図4(犬の品種限定なし、0-3歳)の相関分析の結果であり、多様性データと保険リスクの間には相関関係が成立することがわかる。
相関係数:-0.97(負の相関)
近似式:y = -0.2078x + 1.8795、
決定係数:R2 = 0.9438
【0035】
0歳以上、3歳以下の犬以外でも相関関係が示せることを説明するため、他の条件での相関関係を調査した(図14~16)。
図14は、0歳以上、3歳以下の全犬種(136033個体)についての多様性データと保険リスクとの相関関係図である。この結果から、0歳以上、3歳以下だけでなく、4歳以上においても多様性データと保険リスクの間には相関関係があることがわかる。
また、図15は、多様性指数をシャノン指数ではなくASV指数に変更した図である(105677個体)。多様性指数を変更しても多様性データと保険リスクの間には相関関係が成立することがわかる。
さらに、図16は、0歳以上、3歳以下の全猫種(36312個体)についての多様性データと保険リスクとの相関関係図である。犬だけでなく、他の愛玩動物でも多様性データと保険リスクの間には相関関係が成立することがわかる。なお、猫の多様性については、実施例3、4において詳細に説明を行う。
【0036】
(シミュレーション)
先ず、犬種限定の無い0-3歳の平均医療費は年間100,000円であり、50%補償の年間70,000円(内手数料・運営費等が20,000円)の動物保険商品が存在すると仮定する。ここで、年齢2歳、多様性データ4.3の柴犬Aに保険料を提示するシミュレーションする。
先ず、年齢と品種から「柴・0-3歳」の相関関係を設定する(図10)。ここで、柴犬Aは、多様性データが4.3であるから、保険リスクは約0.9と計算される。したがって、柴犬Aの医療費は90,000円と予測される。ここで50%補償の保険商品であるから、45,000円に手数料・運営費等が20,000円を加えて65,000円が提示される。
【0037】
[実施例2]
本発明者らの研究の結果、市販のドライフードを1種類のみ食べていたポメラニアンと、ドライフードを2種類併用して食べていたポメラニアンを比較すると、後者は多様性指数(シャノン指数)が約0.2上昇することがわかった(4.2→4.4)。すなわち、1種類のドライフードのみを食べていたポメラニアンが、2種類のドライフードを併用して食べ始めたという情報を加えることで、多様性指数が0.2程度上昇し、将来的な保険リスクが0.1程度低下することを予想できる(図13)。前記シミュレーションに当てはめると、ユーザに対して医療費が10,000円、保険料が5,000円程度低下することを提示することができる。
【0038】
[実施例3]
【0039】
(猫の選定)
保険契約期間内(1年)に腸内細菌叢の多様性指数を糞便試料から測定した約11万個体について、同期間内の保険金請求から保険リスクを調査した。糞便試料採取前の傷病有無は考慮していなため、試料採取前から傷病を患っている個体も含まれる。
【0040】
(糞便試料からのDNA抽出)
以下のようにして、各猫から糞便試料を採取し、DNAを抽出した。
猫の飼育者が糞便の採取キットを用いて、猫の糞便試料を採取した。当該糞便試料を受領し、固定液(10%EtOH、1.07%NH4Cl、5mM EDTA、0.09%NaN3)に懸濁した。
次に、糞便懸濁液200 uLとLysis buffer(224 ug/mLのProtenaseKを含む)810 uLをビーズチューブに添加し、ビーズ式ホモジナイザーにてビーズ破砕(6,000 rpm、破砕20秒、インターバル30秒、破砕20秒)を行った。その後、検体を70℃のヒートブロック上にて10分間静置することでProtenase Kによる処理を行い、続いて95℃のヒートブロック上にて5分間静置することでProtenase Kを不活化した。溶菌処理を行った検体はchemagic 360(PerkinElmer)を用い、chemagicキットstool用プロトコルにてDNAの自動抽出を行い、100 uLのDNA抽出液を得た。
【0041】
(メタ16SRNA遺伝子シーケンス解析)
メタ16Sシーケンス解析はillumina 16S Metagenomic Sequencing Library Preparation(バージョン15044223 B)を改変して行った。まず、16S rRNA遺伝子の可変領域V3-V4を含む460 bpの領域をユニバーサルプライマー(Illumina_16S_341FおよびIllumina_16S_805RPCR)を用いたPCRで増幅した。PCR反応液は10 uLのDNA抽出液、0.05 uLの各プライマー(100 uM)、12.5 uLの2x KAPA HiFi Hot-Start ReadyMix(F. Hoffmann-La Roche、Switzerland)、2.4 uLのPCR grade waterを混合して調製した。PCRには95℃ 3分間の熱変性後、95℃ 30秒、55℃ 30秒、72℃ 30秒のサイクルを30回繰り返し、最後に72℃ 5分の伸長反応を行った。増幅産物は磁気ビーズを用いて精製し、50 uLのBuffer EB(QIAGEN、Germany)で溶出した。精製後の増幅産物はNextera XT Index Kit v2(illumina、CA、US)を用いてPCRを行い、インデックスを付加した。PCR反応液は2.5 uLの増幅産物、2.5 uLの各プライマー、12.5 uLの2x KAPA HiFi Hot-Start ReadyMix、5 uLのPCR grade waterを混合して調製した。PCRには95℃ 3分間の熱変性後、95℃ 30秒、55℃ 30秒、72℃ 30秒のサイクルを12回繰り返し、最後に72℃ 5分の伸長反応を行った。インデックス付加を行った増幅産物は磁気ビーズを用いて精製し、80-105 uLのBuffer EBで溶出した。各増幅産物の濃度はNanoPhotometer(Implen、CA、US)で測定し、1.4 nMに調製した後、等量ずつ混合し、これをシーケンス用ライブラリーとした。シーケンス用ライブラリーのDNA濃度および増幅産物のサイズを電気泳動にて確認し、これをMiSeqにより解析した。解析にはMiSeq Reagent Kit V3を用い、2×300 bpのペアエンドシーケンスを行った。得られた配列はQIIME2という解析ソフトウェアにて解析し、細菌の組成データを得た。
上記で用いたユニバーサルプライマーの配列は以下のとおりである。このユニバーサルプライマーは市販されているものを購入することができる。
Illumina_16S_341F
5′-TCGTCGGCAGCGTCAGATGTGTATAAGAGACAGCCTACGGGNGGCWGCAG- 3’

llumina_16S_805R
5′-GTCTCGTGGGCTCGGAGATGTGTATAAGAGACAGGACTACHVGGGTATCTAATCC- 3’
【0042】
上記方法に従って、0歳以上、3歳以下の全猫種について、腸内細菌叢の組成データを得て、QIIME2を用いて多様性指数(シャノン指数)の測定を行った。なお、外れ値を除外したためシャノン指数は36312個体を有効個体数とした。
【0043】
(傷病・保険金請求の確認)
上記全猫種について、保険期間内に保険金支払請求があったか否かを調査した。上記の通り、糞便試料採取前の傷病有無は考慮していないため、試料採取前から傷病を患っている個体も含まれる。
【0044】
(相関関係図)
上記の実験で得られた多様性データと保険リスクとの相関関係を図16に示す。縦軸は保険リスク、横軸は多様性指数である。
図17は、図16(猫の品種限定なし、0-3歳)の相関分析の結果であり、多様性データと保険リスクの間には相関関係が成立することがわかる。
相関係数:-0.93(負の相関)
近似式:y = -0.1862x + 2.0147、
決定係数:R2 = 0.8712
【0045】
また、図18は(猫の品種限定なし、0歳)についての多様性データと保険リスクとの相関関係を示した図であり、図19は(猫の品種限定なし、1歳)における相関関係を示した図である。0-3歳の合計だけでなく、年齢ごとに分けても相関関係が成立することが解る。
【0046】
さらに、図20は(スコティッシュ・フォールド、0-3歳)についての多様性データと保険リスクとの相関関係を示した図であり、図21は(混血種、0-3歳)における相関関係を示した図である。品種ごとに分析しても相関関係が成立することが解る。
【0047】
さらに、図22は、0歳以上、7歳以下の全猫種(45400個体)についての多様性データと保険リスクとの相関関係図である。この結果から、0歳以上、3歳以下だけでなく、4歳以上においても多様性データと保険リスクの間には相関関係があることがわかる。また、犬だけでなく、猫の場合も同様に多様性データと保険リスクに相関関係が存在することが解る。
【0048】
(シミュレーション)
先ず、猫種限定の無い0-3歳の平均医療費は年間100,000円であり、50%補償の年間70,000円(内手数料・運営費等が20,000円)の動物保険商品が存在すると仮定する。ここで、年齢2歳、多様性データ5.8のスコティッシュ・フォールドAに保険料を提示するシミュレーションする。
先ず、年齢と品種から「スコティッシュ・フォールド・0-3歳」の相関関係を設定する(図20)。ここで、スコティッシュ・フォールドAは、多様性データが5.8であるから、保険リスクは約0.8と計算される。したがって、スコティッシュ・フォールドAの医療費は80,000円と予測される。ここで50%補償の保険商品であるから、40,000円に手数料・運営費等が20,000円を加えて60,000円が提示される。
【0049】
[実施例4]
本発明者らの研究の結果、フードを1種類のみ食べていた犬と、フードを2種類以上併用して食べていた犬を比較すると、後者は多様性指数(シャノン指数)が上昇することがわかった(図23)。猫についても同様の結果が得られた(図24)。すなわち、1種類のフードを食べていた愛玩動物が、2種類以上併用して食べ始めたという情報を加えることで、食べ始めたフードの種類数に応じて、多様性指数が上昇し、将来的な保険リスクが低下することを予想できる。すなわち、ユーザに対して、複数のフードを食べさせることで医療費がいくら下がるのかを提示できる。なお、本発明において、フードの銘柄や加工方法(ドライフードなのかフレッシュフードなのか)の情報については考慮していない。一般に市販されているペットフードは、総合栄養食であるものがほとんどであり、フードの銘柄や加工方法が多様性指数に与える影響は、フードの種類数が多様性指数に与える影響と比較すると、小さいためである。
【0050】
[実施例4-1]
フードを1種類のみ食べていた犬と、フードを3種類併用して食べていた犬を比較すると、後者は多様性指数(シャノン指数)が約0.025程度上昇する(図23)。1種類のフードを食べていた実施例1の柴犬Aが、3種類併用して食べ始めたという情報を加えることで、柴犬Aの多様性が4.3から4.325まで上昇することが考えられ、「柴・0-3歳」の相関関係(図10)を参照することで、保険リスクが約0.9から約0.89に低下すると予測できる。したがって、前記シミュレーションにあてはめると、ユーザに対して医療費が1000円程度低下するという予測を提示できる。
【0051】
[実施例4-2]
本発明者らの研究の結果、市販のドライフードを1種類のみ食べている猫と、ドライフードを3種類食べている猫を比較すると、後者は多様性指数(シャノン指数)が約0.03上昇する(図24)。すなわち、1種類のドライフードのみを食べていたスコティッシュ・フォールドAが、3種類併用して食べ始めたという情報を加えることで、スコティッシュ・フォールドAの多様性が5.8から5.83まで上昇することが考えられ、「スコティッシュ・フォールド・0-3歳」の相関関係(図20)を参照することで、保険リスクが0.8から0.79に低下すると予測できる。したがって、前記シミュレーションにあてはめると、ユーザに対して医療費が1000円程度低下するという予測を提示できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24