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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】ユーティリティビークル
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/00 20060101AFI20240215BHJP
   B60W 30/10 20060101ALI20240215BHJP
   B60W 40/06 20120101ALI20240215BHJP
【FI】
G08G1/00 X
G08G1/00 J
B60W30/10
B60W40/06
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022527410
(86)(22)【出願日】2020-05-28
(86)【国際出願番号】 JP2020021165
(87)【国際公開番号】W WO2021240742
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】521431099
【氏名又は名称】カワサキモータース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 宏志
(72)【発明者】
【氏名】岩本 太郎
(72)【発明者】
【氏名】中島 健志
(72)【発明者】
【氏名】長坂 和哉
(72)【発明者】
【氏名】佐野 敦司
(72)【発明者】
【氏名】市川 和宏
【審査官】上野 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-120491(JP,A)
【文献】特開2008-185418(JP,A)
【文献】国際公開第2013/122065(WO,A1)
【文献】特開2005-215742(JP,A)
【文献】特開2019-169058(JP,A)
【文献】特開2009-205652(JP,A)
【文献】国際公開第2019/111535(WO,A1)
【文献】特開2000-300009(JP,A)
【文献】特開2005-077299(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
B60W 10/00-10/30
30/00-60/00
G05D 1/00-1/87
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪および後輪と、前記前輪に設けられた操舵装置と、前記前輪および/または前記後輪を駆動する駆動源と、を含む走行装置と、
所定の走行領域において有人操作を要しない自律走行を行うように、前記走行装置を制御する制御装置と、
自車位置を検知する自車位置検知部と、
車両の前方走行空間の状態を検知する前方空間検知部と、を備え、
前記制御装置は、前記自律走行時において、
前記走行領域を予め定められた複数の路面状況レベルに区分した路面状況データから、前記自車位置の進行方向前方における路面状況が前記複数の路面状況レベルの何れに属するかを判定し、
前記路面状況レベルは、分類する観点が互いに異なる第1種路面状況レベルと第2種路面状況レベルとを組み合わせた二次元の路面状況レベルを有し、
所定の複数の走行パラメータのそれぞれが前記二次元の路面状況レベルに対応して予め設定された許容範囲内となるように、前記走行装置を制御し、
前記前方空間検知部は、監視対象を検知可能に構成され、
前記制御装置は、前記監視対象を発見した場合に、そのときの自車位置を遭遇履歴データとして記憶し、前記自律走行時において、前記遭遇履歴データに基づいて走行経路を変更し、
前記第1種路面状況レベルが車両姿勢に基づく路面状況レベルであり、前記第2種路面状況レベルが路面の推定摩擦係数に基づく路面状況レベルである、ユーティリティビークル。
【請求項2】
車両の走行状態を示す少なくとも1つの走行指標を取得する走行指標取得器と、
前記走行指標から前記自車位置における路面状況を推定し、その推定結果から前記複数の路面状況レベルの何れに属するかを判定することにより、前記路面状況データを作成する路面状況推定装置と、を備えた、請求項1に記載のユーティリティビークル。
【請求項3】
前記走行装置を操作するための少なくとも1つの操作子と、
前記操作子への操作に応じた走行を行う有人操作モードと、前記制御装置により、所定の走行経路に従って前記操作子への操作を必要としない自律走行を行う自律走行モードとを切り替えるモード切替部と、を備え、
前記路面状況推定装置は、前記有人操作モードで走行した走行経路における路面状況を推定し、前記走行経路と前記路面状況レベルとを対応付けることにより、前記路面状況データを作成する、請求項2に記載のユーティリティビークル。
【請求項4】
前記路面状況データは、前記走行領域における地形データに基づいて形成される仮想の走行空間において仮想の車両を走行させる走行シミュレーションを行うことにより得られる前記仮想の車両の走行状態から路面状況を推定することにより予め作成される、請求項1に記載のユーティリティビークル。
【請求項5】
前記走行指標は、車両の姿勢を示す第1走行指標と、前記前輪および/または前記後輪にかかる力を示す第2走行指標と、を含む、請求項2または3に記載のユーティリティビークル。
【請求項6】
前記走行指標取得器は、車両の状態を示す少なくとも1つの車両状態値を検知し、前記少なくとも1つの車両状態値から車両の走行状態に関するデジタルモデルを形成し、前記デジタルモデルから前記走行指標を抽出する、請求項2,3または5に記載のユーティリティビークル。
【請求項7】
前記制御装置は、車両積載状況または車両の外部環境に関する所定のデータを取得し、前記所定のデータに基づいて、前記路面状況レベルに対応付けられた前記許容範囲を補正する、請求項1から6の何れかに記載のユーティリティビークル。
【請求項8】
前記走行パラメータは、速度、加速度、および操舵角の少なくとも何れか1つを含む、請求項1から7の何れかに記載のユーティリティビークル。
【請求項9】
前記路面状況レベルは、
車両の傾斜角が、第1角度未満である、または、ロール角が第1ロール角未満であるときの第1レベルと、
前記傾斜角が、前記第1角度以上かつ前記第1角度より大きい第2角度未満であるときの第2レベルと、
前記傾斜角が、前記第2角度以上であるときの第3レベルと、を含み、
前記走行パラメータは、速度を含み、
前記制御装置は、前記路面状況レベルが前記第1レベルであるときに前記路面状況レベルに基づく速度制限を行わずに前記走行装置を制御し、前記路面状況レベルが前記第2レベルであるときに前記速度が第1基準速度以下になるように前記走行装置を制御し、前記路面状況レベルが前記第3レベルであるときに進入を回避するように前記走行装置を制御する、請求項1から8の何れかに記載のユーティリティビークル。
【請求項10】
前記自律走行の走行経路を設定する経路設定装置を備え、
前記経路設定装置は、前記路面状況データに基づいて前記走行経路を設定する、請求項1から9の何れかに記載のユーティリティビークル。
【請求項11】
前記経路設定装置は、ユーザによる優先条件を設定可能であり、前記優先条件を満足するように前記走行経路を設定する、請求項10に記載のユーティリティビークル。
【請求項12】
前記制御装置は、前記路面状況推定装置が推定した自車位置の路面状況レベルを前記自車位置のデータに対応付けて記憶し、同じ位置における前記路面状況レベルのデータが既に蓄積されている場合には、蓄積されているデータと新しいデータとについて平均処理を行って前記路面状況レベルのデータを更新する、請求項2に記載のユーティリティビークル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ユーティリティビークルに関する。
【背景技術】
【0002】
不整地等を走行可能なユーティリティビークルは、例えば、農作物等の運搬作業や、敷地内の監視作業等に利用される。このような作業は、予め定められた走行経路を走行し、定期的に繰り返し行われることが想定される。
【0003】
また、近年、自動車において自律運転を行うための種々の技術が提案されている。例えば、下記特許文献1には、予め定められた走行経路を自律運転車両が走行するシステムが開示されている。これによれば、予め定められた走行経路の走行において有人操作を不要とすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-13379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような従来の自律運転車両では、不整地での走行が想定されていない。例えば、従来の自律運転車両では、前方に障害物があると判定された場合にはそれを回避するか車両を停止させる制御を行う。しかし、不整地を走行するユーティリティビークルは、多少の障害物は乗り越えて走行可能である。そのため、不整地を走行するユーティリティビークルにおける自律運転には、従来の平地を移動する自律運転車両とは異なる制御が必要となる。
【0006】
そこで、本開示は、不整地を走行可能なユーティリティビークルにおいて、適切な自律走行の制御を行うことができるユーティリティビークルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係るユーティリティビークルは、前輪および後輪と、前記前輪に設けられた操舵装置と、前記前輪および/または前記後輪を駆動する駆動源と、を含む走行装置と、所定の走行領域において有人操作を要しない自律走行を行うように、前記走行装置を制御する制御装置と、自車位置を検知する自車位置検知部と、を備え、前記制御装置は、前記自律走行時において、前記走行領域を予め定められた複数の路面状況レベルに区分した路面状況データから、前記自車位置の進行方向前方における路面状況が前記複数の路面状況レベルの何れに属するかを判定し、所定の走行パラメータが前記複数の路面状況レベルのそれぞれに対応して予め設定された許容範囲内となるように、前記走行装置を制御する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、ユーティリティビークルの自律走行時に、自車位置の進行方向前方における路面状況レベルに応じて異なる走行装置の制御が行われる。このため、路面状況の悪い場所では、例えば低速走行する等、自律走行における走行制御を路面状況の良い場所での制御とは変えることができる。したがって、不整地を走行可能なユーティリティビークルにおいて、路面状況に応じた適切な自律走行の制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、一実施の形態におけるユーティリティビークルを示す概略左側面図である。
図2図2は、図1に示すユーティリティビークルの制御系の概略を示すブロック図である。
図3図3は、本実施の形態におけるユーティリティビークルの走行領域の例を示す平面図である。
図4図4は、本実施の形態の自律走行モードにおける路面状況に応じた走行制御の処理の流れを例示するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら実施形態について説明する。全図を通じて、同一のまたは対応する要素には同一の符号を付して重複説明を省略する。
【0011】
(車両の構成)
図1は、一実施の形態におけるユーティリティビークルを示す概略左側面図である。図1に示すユーティリティビークル1(以下、単に車両1と称する)は、左右一対の前輪2と左右一対の後輪3とを備える。前輪2および後輪3は、車体フレーム4を支持している。車体フレーム4は、複数のパイプを互いに接続してなるパイプフレームである。
【0012】
車体フレーム4は、前列シート5Aおよび後列シート5Bを支持している。前列シート5Aは、運転席を含む。なお、座席は2列に限られず1列でもよい。車体フレーム4は、前列シート5Aおよび後列シート5Bを含む乗員空間Cを取り囲むように構成されている。すなわち、乗員空間Cは、車体フレーム4によって区画される。乗員空間C(前列シート5A)の前方には、ボンネット6が配置されている。ボンネット6は、車体フレーム4の前部に支持され、左右の前輪2の間のスペースを上方から開閉可能に覆っている。
【0013】
前列シート5Aの側方には、前列サイドドア7Aが設けられ、後列シート5Bの側方には、後列サイドドア7Bが設けられる。これらのサイドドア7A,7Bは、車体フレーム4に支持されている。各サイドドア7A,7Bは、車体フレーム4に対して、それぞれ前端部に設けられた回動軸回りに回動することにより、開閉する。これにより、乗員の車両1への乗り降りが可能となる。なお、図1においてサイドドア7A,7Bは、その内側(乗員空間C側)が透過するように示されている。
【0014】
乗員空間C(後列シート5B)の後方には、荷台8が配置されている。車体フレーム4の後部は、荷台8を支持している。荷台8の下方には、車体フレーム4に支持された駆動源9が配置されている。駆動源9は例えばエンジンである。これに代えて、駆動源9は電気モータまたはエンジンと電気モータとの組み合わせであってもよい。駆動源9は、駆動輪(前輪2および/または後輪3)を駆動する。
【0015】
運転席の前方かつ下方(運転者の足元領域)には、アクセルペダルおよびブレーキペダルを含む第1操作子10が設けられる。アクセルペダルを操作することにより駆動源9の駆動力が変化する。前輪2および後輪3には、図示しないブレーキ装置が設けられ、ブレーキペダルを操作することにより車両1が減速する。このように、第1操作子10は、車両1を加減速させるための操作子として構成される。
【0016】
前輪2には操舵装置11が設けられる。また、前列シート5Aのうちの運転席の前方には、第2操作子としてハンドル12が設けられる。ハンドル12は、操舵装置11に接続されており、ハンドル12への操作に応じて操舵装置11が動作し、前輪2を操舵する。このように、第2操作子は、車両1を方向転換させるための操作子として構成される。
【0017】
さらに、車両1には、駆動源9と駆動輪との間に接続される変速装置(図示せず)を備えている。変速装置は、図示しない変速レバー等の第3操作子への操作に基づいて変速比を変化させたり、走行方向(前進または後退)を変化させたりする。
【0018】
以上のように、車両1を走行させるための走行装置14は、前輪2、後輪3、操舵装置11、駆動源9、ブレーキ装置、および変速装置等を含む。また、走行装置14を操作するための操作子は、第1操作子、第2操作子、および第3操作子等を含む。
【0019】
さらに、車両1は、走行装置14を制御するための制御装置13を備えている。制御装置13には、後述する各種センサが接続される。制御装置13は、各種センサの検出値を取得する。制御装置13は、プロセッサ、揮発性メモリ、不揮発性メモリ(記憶器)およびI/Oインターフェース等を有し、不揮発性メモリに保存されたプログラムに基づいてプロセッサが揮発性メモリを用いて演算処理することで各種制御を実現する電子回路として構成される。
【0020】
(制御系の構成)
図2は、図1に示すユーティリティビークルの制御系の概略を示すブロック図である。図2に示すように、制御装置13には、各種センサが接続される。センサは、操作子および走行装置14を含む走行系の車両状態の検知を行う。
【0021】
センサは、例えば、アクセル開度センサ15、ブレーキ量センサ16、操舵角センサ17、駆動源回転数センサ18、車速センサ19、車輪回転数センサ20、サスストロークセンサ21、ピッチ角センサ22、ロール角センサ23等を含む。車両1は、これらのセンサのすべてを備えていてもよいし、これらのセンサのうちの一部を備えていてもよいし、これらのセンサ以外のセンサを備えていてもよい。
【0022】
アクセル開度センサ15は、アクセルペダルの操作量を検知する。ブレーキ量センサ16は、ブレーキペダルの操作量を検知する。操舵角センサ17は、ハンドル12の操作方向および操作量を検知する。駆動源回転数センサ18は、駆動源9の出力軸の回転数を検知する。車速センサ19は、車両1の速度を検知する。
【0023】
車輪回転数センサ20は、各車輪2,3の回転数を検知する。車輪回転数センサ20は、4つの車輪(左右の前輪2および左右の後輪3)のそれぞれに設けられ得る。なお、車速センサ19を設ける代わりに、駆動輪の車輪(例えば後輪3)の回転数から車速が求められてもよい。サスストロークセンサ21は、車両1の車輪2,3ごとに設けられるサスペンション(図示せず)の伸縮量を検知する。サスストロークセンサ21は、4つの車輪のそれぞれに設けられた4つのサスペンションのそれぞれに設けられ得る。
【0024】
ピッチ角センサ22は、車両1のピッチ軸(車両幅方向に延びる仮想の回転軸)回りの車両1の回転角を検知する。なお、ピッチ角センサ22を設ける代わりに、サスストロークセンサ21が検知する前側サスペンションと後側サスペンションとの間の伸縮量の差からピッチ角が検知されてもよい。ロール角センサ23は、車両1のロール軸(車両前後方向に延びる仮想の回転軸)回りの車両1の回転角を検知する。なお、ロール角センサ23を設ける代わりに、サスストロークセンサ21が検知する右側サスペンションと左側サスペンションとの間の伸縮量の差からロール角が検知されてもよい。
【0025】
制御装置13は、所定の走行領域において有人操作を要しない自律走行を行い得るように、走行装置14を制御する。制御装置13には、モード切替部50が接続される。モード切替部50は、操作子への操作に応じた走行を行う有人操作モードと、制御装置13により、所定の走行経路に従って操作子への操作を必要としない自律走行を行う自律走行モードとを切り替える。
【0026】
モード切替部50は、スイッチによる切り替えや、各種認証操作等に基づいたモード切替信号を制御装置13に送信する。制御装置13は、受信したモード切替信号に応じて制御モードを有人操作モードと自律走行モードとの間で切り替える。
【0027】
有人操作モードにおいて、制御装置13は、運転者が操作する各種操作子への入力に応じて走行装置14の制御を行う。例えば、制御装置13は、運転者のアクセルペダルへの操作に応じてアクセル開度センサ15が検知するアクセル開度に基づいて、駆動源9の出力調整(エンジンの場合はスロットル開度の制御等)を行う。また、例えば、制御装置13は、運転者のハンドル12への操作に応じて操舵角センサ17が検知する操舵角および操舵方向に基づいて、操舵装置11の舵角調整を行う。
【0028】
一方、自律走行モードにおいて、制御装置13は、所定の走行経路に従って操作子への操作を必要としない自律走行を行う。例えば、車両1は、車両1の前方走行空間)の状態を検知するための前方空間検知部29および自車位置を検知するための自車位置検知部30を備えている。
【0029】
前方空間検知部29は、例えば、カメラ、各種レーダ、およびレーザセンサ等の少なくとも1つを備えている。制御装置13は、カメラで撮像した前方空間の画像データ、および/または、各種レーダまたはレーザセンサで測距した距離データ等に基づいて、前方空間の解析を行う。制御装置13は、前方空間の解析結果に基づいて走行装置14を制御する。例えば、前方に障害物がある場合、制御装置13は、車両1を減速または停車させるように駆動源9および/またはブレーキ装置(図示せず)を制御したり、車両1の進行方向を変えるために操舵装置11を制御したりする。
【0030】
自車位置検知部30は、例えばGPSアンテナ等を備えている。制御装置13の記憶器には、予め設定された走行経路のデータが記憶される。制御装置13は、自律走行モードにおいて走行経路のデータを読み出し、自車位置検知部30からの自車位置の情報に基づいて走行経路に沿って走行するように走行装置14を制御する。さらに、制御装置13は、上記した前方空間の解析結果に基づいて走行経路を微調整する。例えば、前方に障害物がある場合、制御装置13は、走行経路のリルート設定を行う。
【0031】
車両1は、自律走行の走行経路を設定する経路設定装置41を備えている。経路設定装置41は、制御装置13の制御ブロックとして構成されてもよいし、別のコンピュータにより構成されてもよい。経路設定装置41が制御装置13とは異なる別のコンピュータにより構成される場合、経路設定装置41は、車両1内に設けられてもよいし、通信ネットワークを介して通信可能な携帯端末(タブレット端末)等のコンピュータにより構成されてもよい。
【0032】
経路設定装置41は、通信ネットワークを介して外部と通信可能に構成され、外部から所定のデータを受信するデータ受信部42が接続されている。走行経路のデータは、例えば予め車両1と通信ネットワークを介して通信可能な携帯端末(タブレット端末等)にユーザが走行経路を設定入力することにより、所定のサーバ装置を介して設定入力された情報が車両1の制御装置13に送信される。あるいは、制御装置13に接続され、ユーザが走行経路を設定入力するための操作端末が車両1に搭載されてもよい。
【0033】
上記構成によれば、モード切替部50により、操作子への操作に応じた走行を行う有人操作モードと、所定の走行経路に従って操作子への操作を必要としない自律走行を行う自律走行モードとが切り替えられる。したがって、定期的な作業等を行う場合には自律走行モードを実行することにより、有人操作を不要とし、作業負担を軽減することができる。また、臨時的な作業を行う場合等、必要に応じて有人操作モードを実行することにより、有人操作のユーティリティビークル1として使用することができる。したがって、上記構成によれば、所定の走行経路に従った自律走行が可能なユーティリティビークル1において、柔軟な運用を可能とすることができる。
【0034】
なお、本実施の形態において、車両1は、自律走行モードにおいても乗員空間Cへの乗車が可能である。すなわち、車両1は、自律走行モードにおいて有人または無人のいずれでも走行可能である。
【0035】
(自律走行モードの詳細)
以下、自律走行モードについてより詳しく説明する。例えば、ユーザが所定の起動操作を行うことにより、車両1が起動する。ユーザが自律走行モードへのモード切替操作を行うことにより、モード切替部50は、制御装置13に自律走行モードに切り替えるためのモード切替信号を送信する。その後、制御装置13は、経路設定装置41に走行経路の設定処理(走行経路設定プログラム)を実行させる。
【0036】
走行経路の設定は、記憶器に走行経路が予め記憶されている場合にはそれを読み出すことで行われてもよい。記憶器に走行経路が記憶されていない場合、または、前回とは異なる走行経路で走行させる場合には、走行経路の再設定を行い得る。この場合、例えば、車両1と無線または有線で通信接続可能な携帯端末で経路設定を行ってもよい。
【0037】
例えば、携帯端末に地図を表示し、地図上で経由地または目的地等を設定入力する。経路設定装置41は、走行経路設定プログラムを実行し、入力された経由地および目的地等の情報、自車位置の情報、および地図に対応して予め記憶された地形情報等から走行経路を設定する。また、例えば、車両1を所定の領域内を巡回警備するために用いる場合には、巡回領域を地図上で設定入力することにより、経路設定装置41が巡回領域の全域を走行するような走行経路を設定可能としてもよい。走行経路の設定後、制御装置13は、自律走行を開始する。
【0038】
(路面状況に応じた走行制御)
制御装置13は、自律走行モードによる自律走行時において、自車位置の進行方向前方における路面状況に応じた走行装置14の制御を行う。このために、制御装置13は、走行領域における路面状況データを取得する。路面状況データは、走行領域を予め定められた複数の路面状況レベルに区分したものである。路面状況データは、車両1内の記憶器または通信ネットワークを通じて通信可能な車両1外の記憶装置(サーバ装置または携帯端末等)に記憶されている。
【0039】
図3は、本実施の形態におけるユーティリティビークルの走行領域の例を示す平面図である。また、図4は、本実施の形態の自律走行モードにおける路面状況に応じた走行制御の処理の流れを例示するためのフローチャートである。図3の例において、車両1は、作業領域WA(例えば資材集積場等)で所定の作業を行うために用いられる。車両1は、作業領域WA内において、例えば、資材の搬送作業または作業領域WAの監視作業(巡回走行)等を行う。図3の例において、作業領域WAが車両1の走行領域SAとして予め設定される。
【0040】
例えば、作業領域WA内の第1位置P1と第2位置P2との間の往復移動の経路(第1位置P1から第2位置P2への第1経路R1および第2位置P2から第1位置P1への第2経路R2)が自律走行時の走行経路として設定され得る。例えば、第1位置P1は、資材の外部への搬出場に設定され、第2位置P2は、資材置場に設定される。
【0041】
この場合、自律走行モードの車両1は、第1位置P1から第2位置P2に移動し、停車する。第2位置P2では、資材が車両1の荷台8に積み込まれる。資材の積み込み後、車両1は、第2位置P2から第1位置P1に移動し、停車する。第1位置P1では、資材が積み下ろされる。このような作業を行うために、自律走行モードの車両1は、第1位置P1と第2位置P2との間を繰り返し往復移動する。
【0042】
また、例えば、作業領域WAの第3位置P3を起点として、作業領域WA内を所定の走行経路で巡回して監視作業を行う巡回走行の経路が自律走行時の走行経路(第3走行経路R3)として設定され得る。第3走行経路R3は、例えば、作業領域WAの第1方向Xに往復動しつつ方向転換時に第2方向Yへ移動する蛇行区間Mを含む。
【0043】
図3に示すように、走行領域SAとして設定される作業領域WAは、予め定められた複数(図3の例では4つ)の路面状況レベル(Lv1,Lv2-1,Lv2-2,Lv3)に区分されている。路面状況データは、走行領域SAの各位置における路面状況レベルを示すデータを含んでいる。
【0044】
制御装置13は、制御モードが自律走行モードに切り替えられた場合、経路設定装置41から設定された走行経路および路面状況データを読み出す(ステップS1)。例えば、路面状況データの読み出しは、自車位置走行経路の進行方向前方の領域の路面状況を示すデータ部分を逐次読み出すことで行われる。
【0045】
制御装置13は、自律走行時において、路面状況データから、車両1の自車位置の進行方向前方における路面状況が複数の路面状況レベルの何れに属するかを判定する(ステップS2)。制御装置13は、自車位置検知部30から自車位置と車両1の進行方向(方角)とを取得し、路面状況データから走行領域SAにおける自車位置の進行方向前方領域の路面状況レベルを照会する。
【0046】
例えば、路面状況レベルは、車両1の走行時に車両1の傾斜角θに応じて段階分けされる。車両の傾斜角は、ピッチ角またはロール角の何れか一方として設定されてもよい。また、車両の傾斜角は、ピッチ角およびロール角の双方を考慮した三次元的な角度としてもよい。第1レベルLv1は、車両1が走行したときに、傾斜角θが第1角度θ未満であるような領域に設定される。第2レベルLv2は、車両1が走行したときに、傾斜角θが第1角度θ以上かつ第1角度θより大きい第2角度θ未満であるような領域に設定される。第3レベルLv3は、車両1が走行したときに、傾斜角θが第2角度θ以上であるような領域に設定される。
【0047】
第2レベルLv2は、さらに、第1サブレベルLv2-1および第2サブレベルLv2-2に段階分けされる。第1サブレベルLv2-1は、車両1が走行したときに、傾斜角θが第1角度θ以上かつ第1角度θより大きく第2角度θより小さいサブ角度θ未満であるような領域に設定される。第2サブレベルLv2-2は、車両1が走行したときに、傾斜角θがサブ角度θ以上かつ第2角度θ未満であるような領域に設定される。
【0048】
制御装置13は、所定の走行パラメータが複数の路面状況レベルのそれぞれに対応して予め設定された許容範囲内となるように、走行装置14を制御する(ステップS3~S7)。より具体的には、制御装置13は、路面状況レベルが第1レベルLv1であるか否かを判定する(ステップS3)。制御装置13は、路面状況レベルが第1レベルLv1であると判定したときに(ステップS3でYes)、通常の(制限を行わない)制御を行う(ステップS4)。
【0049】
制御装置13は、路面状況レベルが第2レベルLvではないと判定したときに(ステップS3でNo)、路面状況レベルが第2レベルLv2であるか否かを判定する(ステップS5)。制御装置13は、路面状況レベルが第2レベルLv2であると判定したときに(ステップS5でYes)、走行制限制御を行う(ステップS6)。制御装置13は、路面状況レベルが第2レベルLv2ではなく、路面状況レベルが第3レベルLv3であると判定したときに(ステップS5でNo)、進入を回避する制御を行う(ステップS7)。
【0050】
例えば、以下の例では、走行パラメータに速度および操舵角を含む場合を示す。この場合、制御装置13は、路面状況レベルが第1レベルLv1であるときに、路面状況レベルに基づく速度制限および操舵角制限を行わずに走行装置14を制御する。これにより、車両1の姿勢が安定する路面状況においては、通常の走行制御が行われる。なお、この場合でも、車両1がコーナリング中の場合、予め定められた速度制限領域等を走行する場合等、路面状況レベル以外の速度制限を行うことは許容される。
【0051】
制御装置13は、路面状況レベルが第2レベルLv2であるときに、車両1の速度が第1基準速度V1以下になるように走行装置14を制御する。さらに、制御装置13は、路面状況レベルが第2サブレベルLv2-2であるときに、上記速度制限に加えて、操舵角の範囲を所定の基準範囲θ以下になるように走行装置14を制御する。なお、制御装置13は、路面状況レベルが第1サブレベルLv2-1または第1レベルLv1であるときには操舵角の制限は行わない。
【0052】
これにより、車両1が走破可能な障害物(岩場または窪地等)を通過したり、ある程度以上の斜面を通行したりするような路面状況においては、速度制限が行われる。さらに、障害物または斜面の程度によって操舵角範囲の制限が行われることにより、障害物の通過時等の車両1が傾斜している状態において大舵角で転舵することによる車両1の転倒可能性を低減することができる。
【0053】
このように、路面状況レベルが走行制限制御を行うべき第2レベルLv2であるときに、第2レベルLv2に属する複数のサブレベルLv2-1,Lv2-2に応じて異なる走行制限制御が行われる。異なる制限制御は、上記のように、制限される走行パラメータの種類(数)の増減でもよいし、同じ走行パラメータにおける許容範囲の増減でもよいし、それらの組み合わせでもよい。
【0054】
制御装置13は、路面状況レベルが第3レベルLv3であるときに、当該領域への車両1の進入を回避するように走行装置14を制御する。例えば、図3の車両1が位置Paに位置しているとき、制御装置13は、車両1の進行方向前方の領域Aaにおける路面状況レベルの判断を行う。領域Aaの路面状況レベルは、第3レベルLv3であるため、制御装置13は、その領域Aaへの進入は行わず、転舵を行う。経路設定装置41は、これに応じて走行経路の再設定を行う。
【0055】
上記構成によれば、車両1の自律走行時に、自車位置の進行方向前方における路面状況レベルに応じて異なる走行装置14の制御が行われる。このため、路面状況の悪い場所では、例えば低速走行する等、自律走行における走行制御を路面状況の良い場所での制御とは変えることができる。したがって、不整地を走行可能な車両1において、路面状況に応じた適切な自律走行の制御を行うことができる。
【0056】
なお、走行パラメータの許容範囲は、上限だけでなく下限も設定され得る。例えば、制御装置13は、路面状況レベルが走行制限制御を行うべき第2レベルLv2であるときに、速度の上限値を設定するとともに、速度の下限値(定常走行時における最低速度)を設定してもよい。これにより、低速で走行すると車両1がスタックする可能性のある路面に対しても適切な走行制御を行うことができる。すなわち、車両1がスタックする可能性を低減することができる。
【0057】
また、制御対象の走行パラメータは、上記例に限られない。例えば、走行パラメータは、上記速度および操舵角以外に、加速度、変速比、サスペンションの減衰力、車高等を含み得る。例えば、制御装置13は、路面状況レベルが走行制限制御を行うべき第2レベルLv2であるときに、加速度が所定の基準加速度以下になるように走行装置14を制御する。これにより、滑り易い路面において急加速によるスリップが発生すること等を防止することができる。
【0058】
また、例えば、車両1が複数の変速比(変速装置の出力軸の回転数に対する駆動源9の出力軸の回転数の比率)を選択的に切り替え可能な(複数段を有する)変速装置を備えている場合、制御装置13は、路面状況レベルが走行制限制御を行うべき第2レベルLv2であるときに、複数の変速比のうちの基準変速比以下(基準段以上)になるように走行装置14を制御する。これにより、滑り易い路面において出力トルクの増大によるスリップが発生すること等を防止することができる。
【0059】
また、例えば、車両1がサスペンションの油圧制御または電子制御等による減衰力調整機構を備えている場合、制御装置13は、路面状況レベルが走行制限制御を行うべき第2レベルLv2であるときに、サスペンションの減衰力が低くなるように走行装置14を制御する。また、例えば、車両1が車高調整機構を備えている場合、制御装置13は、路面状況レベルが走行制限制御を行うべき第2レベルLv2であるときに、車高が高くなるように走行装置14を制御する。
【0060】
制御装置13は、データ受信部42から車両積載状況または車両1の外部環境に関する所定のデータを取得し、取得したデータに基づいて、路面状況レベルに対応付けられた許容範囲を補正可能である。例えば、車両1は、荷台8への積荷の重量および/または各座席5A,5Bへの着座人数を検知する。検知した積荷の重量および/または着座人数は、データ受信部42を介して制御装置13に送られる。
【0061】
制御装置13は、例えば、積荷の重量が所定の基準重量以上である場合および/または着座人数が所定の基準人数以上である場合、路面状況レベルが第2レベルLv2であるときの走行制限制御における制御対象である走行パラメータの許容範囲をより狭く変更する。例えば、上記例において、制御装置13は、路面状況レベルが第1サブレベルLv2-1のとき、速度の許容範囲を、第1基準速度V1より低い第2基準速度V2以下に変更する。
【0062】
あるいは、制御装置13は、積荷の重量が所定の基準重量以上である場合および/または着座人数が所定の基準人数以上である場合、路面状況レベルを1段階高いレベル(制限が一段階厳しくなるレベル)に変更してもよい。すなわち、上記例において、制御装置13は、路面状況レベルが第1サブレベルLv2-1のとき、第2サブレベルLv2-2の走行制限制御、すなわち、速度制限を行うとともに、操舵角の制限を行ってもよい。また、制御装置13は、路面状況レベルが第2サブレベルLv2-2のとき、第3レベルLv3の制御、すなわち、当該領域への車両1の進入を回避する制御を行ってもよい。
【0063】
また、車両1は、車両1の外部環境に関するデータとして、例えば天候、気温、気圧、季節、日時、地域(気候帯)、地面の種別(泥濘地、湿地帯、砂浜、砂漠等)等を含み得る。これらのデータのうちの1つを用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。外部環境に関するデータ(例えば天候、季節、日時、地域等)は、例えば、車両1のデータ受信部42と通信ネットワークを介して通信接続されるサーバ装置に蓄積され、サーバ装置からデータ受信部42に送られる。あるいは、外部環境に関するデータ(例えば気温、気圧、路面の状態等)は、例えば、車両1に設けられたセンサで検知された値でもよい。
【0064】
例えば、制御装置13は、天候が雨である場合または気圧が所定の基準気圧以下である場合、路面状況レベルが第2レベルLv2であるときの走行制限制御における制御対象である走行パラメータの許容範囲をより狭く変更する、または、路面状況レベルをより高いレベルに変更してもよい。また、例えば、制御装置13は、泥濘地等のスタックしやすい地面上を走行中である場合または気温が所定の基準温度以下(例えば氷点下以下)である場合、定常走行時における最低速度を第3基準速度V3以上に設定してもよい。
【0065】
このように、車両1の重量変化や外部環境の変化に応じて路面状況レベルに応じた走行パラメータの許容範囲を変更することにより、より実情に沿った走行制御を行うことができる。
【0066】
(路面状況の推定)
車両1は、路面状況データを作成する路面状況推定装置43を備えている。路面状況推定装置43は、制御装置13の機能ブロックとして構成されてもよいし、制御装置13とは別の演算装置として構成されてもよい。
【0067】
路面状況推定装置43は、所定の走行指標から自車位置における路面状況を推定し、その推定結果から予め設定される複数の路面状況レベルの何れに属するかを判定することにより、路面状況データを作成する。走行指標は、車両1の走行状態を示す少なくとも1つの指標であり、走行指標取得器44により取得される。
【0068】
例えば、上記例において、走行指標は、車両1の姿勢を示すピッチ角および/またはロール角である。したがって、走行指標取得器44は、ピッチ角センサ22および/またはロール角センサ23を含む。なお、これに加えてまたはこれに代えて、走行指標取得器44は、取得すべき走行指標に応じてその他の各種センサ15~21を含んでもよい。図2には、走行指標取得器44が各種センサ15~23および後述するデジタルモデル形成部45を含むように例示されているが、所望の走行指標を得るためのセンサ等が走行指標取得器44として機能すれば他のセンサは走行指標取得器44として機能しなくてもよい。
【0069】
例えば、走行指標は、車両1の姿勢を示す第1走行指標を含んでもよい。これに加えてまたはこれに代えて、走行指標は、前輪2および/または後輪3にかかる力(以下、車輪への力)を示す第2走行指標を含んでもよい。
【0070】
車両1の姿勢を示す第1走行指標は、上記のようにピッチ角および/またはロール角を直接計測することで取得することができる。さらに、走行指標取得器44は、そのときのアクセル開度、ブレーキ量、操舵角、駆動源9の出力軸の回転数、車速、車輪回転数、サスペンションのストローク量等の中から一または複数の指標を用いて第1走行指標を補正してもよい。
【0071】
また、車両1の車輪への力を示す第2走行指標は、例えば各車輪のスリップ率を含む。スリップ率は、車速および車輪回転数を計測し、車速に対する車輪回転数の偏差を求め、偏差を車速で割ることで得られる。さらに、走行指標取得器44は、そのときのアクセル開度、ブレーキ量、操舵角、駆動源9の出力軸の回転数、サスペンションのストローク量、ピッチ角、ロール角等の中から一または複数の指標を用いて第2走行指標を補正してもよい。
【0072】
また、走行指標の取得は、各種センサが計測した値から直接的に取得することに限られない。例えば、走行指標取得器44は、車両1のデジタルモデルを形成するデジタルモデル形成部45を備えていてもよい。この場合、走行指標取得器44は、車両1の状態を示す少なくとも1つの車両状態値を検知する。デジタルモデル形成部45は、少なくとも1つの車両状態値から車両1の走行状態に関するデジタルモデルを形成する。走行指標取得器44は、デジタルモデルから走行指標を抽出する。例えば、デジタルモデル形成部45は、車両状態値としてピッチ角、ロール角等の車両1の姿勢に関する状態値を用いて車両1のデジタルモデルを形成してもよい。走行指標取得器44は、形成されたデジタルモデルの各車輪2,3におけるグリップ力を走行指標として抽出してもよい。
【0073】
さらに、走行指標取得器44は、走行指標の取得の際に、前方空間検知部29による検知結果に基づいて走行指標を補正してもよい。例えば、前方空間検知部29がカメラである場合、走行指標取得器44は、前方空間検知部29により撮像された車両1の前方の画像を解析して走行路面の摩擦係数を推定する。走行指標取得器44は、得られた摩擦係数を用いて計測またはデジタルモデルから得られた走行指標を補正する。また、例えば、走行指標取得器44は、前方空間検知部29により撮像された車両1の前方の画像を解析して車両1の姿勢を推定し、それに基づいて走行指標を補正してもよい。
【0074】
路面状況推定装置43は、有人操作モードで走行した走行経路における路面状況を推定し、走行経路と路面状況レベルとを対応付けることにより、路面状況データを作成する。この場合、走行指標取得器44は、有人走行モードによる走行中、自車位置における走行指標を取得する。路面状況推定装置43は、自車位置における走行指標から路面状況を推定し、自車位置の路面状況が複数の路面状況レベルの何れに属するかを判定する。
【0075】
制御装置13は、判定によって得られた自車位置の路面状況レベルを自車位置のデータに対応付けて記憶する。同じ位置における路面状況レベルのデータが既に蓄積されている場合には、制御装置13は、新しいデータをその位置のデータとして上書きしてもよいし、蓄積されているデータと新しいデータとについて平均等の処理を行って更新してもよい。また、走行領域SAにおいて過去に走行していない領域は、走行不能領域に設定される。路面状況データの記憶箇所は、車両1内の記憶器でもよいし、通信ネットワークを通じて通信可能な車両1外の記憶装置(サーバ装置または携帯端末等)でもよい。
【0076】
このように、路面状況推定装置43は、有人操作モードで走行した走行経路における路面状況レベルを自車位置と対応付けて記憶することにより、所定の走行領域SAにおける路面状況レベルのマッピングを行う。マッピングされたデータが路面状況データ(路面状況マップ)として記憶される。
【0077】
このように、有人操作による走行時に路面状況データを作成することにより、安全にかつ実際の路面状況に即した路面状況データを作成することができる。
【0078】
なお、路面状況推定装置43は、走行領域SAにおいて有人操作モードで走行していない領域部分の路面状況について、隣接する路面状況データを類推適用してもよいし、走行不能領域(第3レベルLv3)としてもよい。
【0079】
さらに、路面状況推定装置43は、上記有人操作モードで作成された路面状況データを用いて車両1が自律走行したときの走行経路における路面状況を推定し、路面状況データを更新してもよい。
【0080】
有人走行モードを用いた路面状況レベルのマッピングの代わりに、車両1を路面状況を考慮した走行制御を行わずに自律走行モードで走行させることにより、路面状況推定装置43が、走行指標の取得およびそれに基づく路面状況の推定を行ってもよい。
【0081】
例えば、制御装置13は、予め定められた走行パターンまたはユーザが設定した走行経路に従って車両1が自律走行するように走行装置14を走行させる。路面状況推定装置43は、そのときの路面状況を推定し、走行経路と路面状況レベルとを対応付けることにより、路面状況データを作成する。例えば、仮に車両1が転倒した場合、車両1の姿勢(ロール角、ピッチ角等)が基準の範囲を超えた場合、または、車両1がスタック等により走行不能になった場合等には、その位置における路面状況レベルは第3レベルLv3に設定される。
【0082】
このように、車両1を自律走行させて路面状況データを作成することにより、人手を掛けずに実際の路面状況に即した路面状況データを作成することができる。なお、路面状況推定装置43は、上記路面状況データを用いた自律走行モードで走行したときの走行経路における路面状況を推定し、路面状況データを更新してもよい。
【0083】
あるいは、路面状況データは、車両1を模した仮想の車両の走行シミュレーションを行うことにより作成されてもよい。走行シミュレーションは、路面状況推定装置43が行ってもよいし、車両1と通信ネットワークを通じて通信可能な車両1外のコンピュータが行ってもよいし、車両1とは通信を行わない独立したコンピュータが行い、その結果として得られた路面状況データが車両1の記憶器等に記録媒体等を介してデータ移送されてもよい。
【0084】
走行シミュレーションに際して、走行領域SAにおける地形データが用意される。地形データは、例えば衛星画像等から作成される。走行シミュレーションを行うコンピュータは、走行領域SAにおける路面形状データに基づいて仮想の走行空間を生成する。また、コンピュータは、車両1を模した仮想の車両を生成し、仮想の走行空間に配置する。
【0085】
コンピュータは、生成された仮想の走行空間において仮想の車両を走行させる走行シミュレーションを行う。仮想の車両は、仮想の走行空間における地形変化に応じて走行状態が変化する。このときの仮想の車両の姿勢または車輪への力等を走行指標として取得し、路面状況を推定する。コンピュータは、路面状況の推定結果に基づいて仮想の走行空間を複数の路面状況レベルに区分けすることにより、路面状況データ(路面状況マップ)を作成する。このような走行シミュレーションにおいては、機械学習が利用され得る。
【0086】
例えば教師あり学習により複数の路面状況レベルに分類するような機械学習が行われてもよい。あるいは、教師なし学習により複数に分類された路面状況の区分について互いに異なる路面状況レベルを割り当て、対応する走行パラメータの許容範囲が定められてもよい。
【0087】
このような走行シミュレーションにおいて得られた仮想の走行空間における路面状況データが実際の走行領域SAにおける路面状況データとして用いられる。さらに、路面状況推定装置43は、上記路面状況データを用いた自律走行モードで走行したときの走行経路における実際の路面状況を推定し、路面状況データを更新してもよい。
【0088】
このように、走行シミュレーションにより路面状況データを作成することにより、安全かつ走行領域SAの全域において漏れのない路面状況データを作成することができる。
【0089】
路面状況データに含まれる路面状況レベルは、図3に示す例のように、1つの観点(車両1の姿勢)に基づいて一次元に設定されてもよいが、複数の観点の組み合わせにより二次元またはそれより多い多次元に設定されてもよい。例えば、車両姿勢に基づく一次元の第1種路面状況レベルと路面の推定摩擦係数に基づく一次元の第2種路面状況レベルとをマトリクス的に組み合わせて二次元の路面状況レベルを有する路面状況データが生成されてもよい。
【0090】
例えば、第1種路面状況レベルが低い路面(平坦または傾斜の緩い路面)でも第2種路面状況レベルが高い路面(滑りやすい路面)の場合には、制御装置13は、急加速を制限したり、転舵時の最高速度を制限したりする制御を行い得る。また、このような場合には、ぬかるみまたは水上(渡河)である可能性もあるので、制御装置13は、車両1がスタックするのを防止すべく予め設定された最低速度以上で走行するように制御してもよい。
【0091】
また、車両1の走行時に路面状況を推定するともに、そのときの外部環境に関するデータ(例えば、上述したような、天候、気温、気圧、季節、日時、地域、地面の種別等)を取得し、その位置における路面状況レベルを外部環境の指標に応じて異なるレベルに設定可能としてもよい。例えば、晴天時における路面状況レベルは第1サブレベルLv2-1であり、雨天時における路面状況レベルは第2サブレベルLv2-2である等のように一の位置における路面状況レベルをその他の条件に応じて複数設定してもよい。
【0092】
また、制御装置13は、車両1の進行方向前方における路面状況として、左右の車輪2,3ごとに路面状況レベルの判定を行ってもよい。この場合、例えば、制御装置13は、ロール角を検知し、ロール角が基準値以上である場合に、車両1が傾斜に対して交差して進む状態にあると判定する。制御装置13は、車両1が傾斜に対して交差して進む状態にあると判定した場合、かつ路面状況レベルが走行制限制御(速度制限)を行うべき第2レベルLv2である場合、速度制限に加えて舵角範囲の制限を行い、車両1が傾斜に対して交差して進む状態にはないと判定した場合、かつ路面状況レベルが第2レベルLv2である場合、速度制限を行うが舵角範囲の制限は行わないとしてもよい。
【0093】
同様に、制御装置13は、車両1の進行方向前方における路面状況として、前後左右4つの車輪ごとに路面状況レベルの判定を行ってもよい。
【0094】
また、図3の例では、走行制限制御を行う路面状況レベル(第2レベルLv2)が、走行パラメータの許容範囲または走行パラメータの種類が異なる2つのサブレベルLv2-1,Lv2-2を含む例を示しているが、これに限られない。すなわち、走行制限制御を行う路面状況レベル(第2レベルLv2)は、1つの制御内容に対応してもよいし、3つ以上のサブレベルを含んでもよい。
【0095】
走行パラメータの許容範囲または走行パラメータの種類を異ならせ得る(走行制限制御を行い得る)複数の路面状況は、例えば、濡れた舗装路、砂利道、農地、草地、急坂、川の中、岩場、雪面、ぬかるみ、砂浜、砂漠等を含む。
【0096】
上記各態様で作成された路面状況データは、走行経路の設定に利用されてもよい。すなわち、経路設定装置41は、路面状況データに基づいて走行経路を設定してもよい。例えば、現在位置から所望の目的地まで車両1を移動させる場合に複数の走行経路が設定可能である場合、経路設定装置41は、路面状況レベルが走行可能な所定のレベル(例えば第2サブレベルLv2-2)以上となる走行経路上の距離がより短い走行経路を採用する。
【0097】
あるいは、経路設定装置41は、走行経路の設定に際してユーザが優先条件を設定可能な場合、その優先条件をより満足するような走行経路を設定する。例えば、所望の目的地まで車両1を移動させる際に、距離優先で走行経路を設定する場合、経路設定装置41は、路面状況レベルがある程度高いレベル(例えば第2サブレベルLv2-2)以上である経路の採用を許容する。また、例えば、所望の目的地まで車両1を移動させる際に、時間優先で走行経路を設定する場合、経路設定装置41は、路面状況レベルに応じた制限速度を考慮して到達時間がより短い走行経路を採用する。
【0098】
また、例えば、所望の目的地まで車両1を移動させる際に、車両1の姿勢変動の少なさを優先して走行経路を設定する場合、経路設定装置41は、路面状況レベルが走行可能な所定のレベル(例えば第2サブレベルLv2-2)以上となる走行経路上の距離がより短い走行経路を採用する。この場合、さらに、経路設定装置41は、左右の車輪2,3がそれぞれ接地する左右の路面の路面状況レベルが異なるような状態がより少なくなるような走行経路の設定を行ってもよい。
【0099】
また、実走行または機械学習による路面状況データ作成時に車両1または仮想の車両が走行した(走行不能にならなかった)経路群が、走行経路候補として登録されていてもよい。経路設定装置41は、経路群の中から目的地等の走行経路の設定データに基づいて最適な経路を選択する、または、経路群に含まれる複数の経路を組み合わせて、それを走行経路として設定してもよい。
【0100】
路面状況データに応じた走行経路が設定されることにより、自律走行時における走行経路の変更回数を少なくすることができ、車両1の効率的な走行を実現することができる。
【0101】
なお、路面状況以外のデータが走行経路を設定するための他の条件として含まれていてもよい。例えば、前方空間検知部29が、撮像画像を解析すること等により人や動物等の監視対象を検知可能に構成され、自律走行時または有人操作による走行時に、前方空間検知部29が監視対象を発見した場合に、制御装置13は、そのときの自車位置を遭遇履歴データとして記憶器等に記憶する。有人操作による走行時においては、車両1に乗車したユーザが所定の操作入力を行うことにより、操作入力時の自車位置を監視対象を検知した箇所として登録し得る。経路設定装置41は、遭遇履歴データに基づいて走行経路の一部または全部を変更してもよい。
【0102】
例えば、経路設定装置41は、監視対象に遭遇した頻度の高い箇所を避けるような走行経路を設定してもよい。これにより、人または動物との接触の危険性を下げることができる。また、例えば物資の搬送等のために紛争地域または治安のよくない地域において走行する際に、車両1が襲われたり、積荷を略奪されたりする可能性を下げることができる。
【0103】
あるいは、経路設定装置41は、監視対象に遭遇した頻度の高い箇所を優先的に通るような走行経路を設定してもよい。これにより、例えば広大な農地または山林等において車両1による走行領域SAにおける巡回警備(監視)のための走行をさせる際に、発見効率の高い走行経路を設定することができる。
【0104】
また、例えば、前方空間検知部29が、夜間の走行時における撮像画像を解析すること等により発光を検知可能に構成され、夜間の自律走行時または有人操作による走行時に、前方空間検知部29が発光(民家、サーチライト、火花等)を検知した場合に、制御装置13は、そのときの自車位置を発光履歴データとして記憶器等に記憶する。有人操作による走行時においては、車両1に乗車したユーザが所定の操作入力を行うことにより、操作入力時の自車位置を、発光を検知した箇所として登録し得る。経路設定装置41は、発光履歴データに基づいて走行経路の一部または全部を変更してもよい。
【0105】
(他の実施の形態)
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更、修正が可能である。
【0106】
例えば、上記実施の形態では、共通の制御装置13が有人操作モードにおける制御および自律走行モードにおける制御の何れをも行う態様を例示したが、これに限られない。例えば、車両1は、有人操作モードにおける車両1の制御を行う第1制御装置(第1ECU)と自律走行モードにおける車両1の制御を行う第2制御装置(第2ECU)とを備えてもよい。
【0107】
また、上記実施の形態では、有人操作による走行が可能な車両1を例示したが、自律走行専用の車両1において、上記実施の形態の自律走行モードにおける制御を適用してもよい。
【0108】
また、上記実施の形態では、路面状況推定装置43を備えた車両1を例示したが、路面状況推定装置43は、備えていなくてもよい。すなわち、制御装置13が、路面状況データを車両1の記憶部または外部の記憶装置から取得し、自車位置の進行方向前方における路面状況が複数の路面状況レベルの何れに属するかを判定し、所定の走行パラメータが複数の路面状況レベルのそれぞれに対応して予め設定された許容範囲内となるように、走行装置14を制御するように構成されていれば、その他の構成はなくてもよい。
【0109】
上記実施の形態における路面状況データは、複数の車種で共通のデータとしてもよい。ただし、車種によって走行能力が異なる場合には、一の路面状況レベルに対応する走行パラメータの許容範囲または走行パラメータの種類が車種ごとに異なってもよい。
【0110】
例えば、悪路走破性の高い第1車両の場合に、上記例のように、第1サブレベルLv2-1で速度制限を行い、第2サブレベルLv2-2で走行制限および操舵範囲の制限を行うように走行制御される。一方、第1車両より悪路走破性の低い第2車両の場合には、第1サブレベルLv2-1でより低い速度以下に制限するとともに操舵範囲の制限を行い、第2サブレベルLv2-2ではその領域への車両1の進入を回避する制御を行ってもよい。
【0111】
このために、車両1の走破能力に基づいて複数レベルに区分された走破レベルが、制御装置13が走行制御を行う際に読み出すデータとして記憶器等に記憶されてもよい。制御装置13は、路面状況レベルの判定後、その車両1の走破レベルを読み出すことで、路面状況レベルおよび走破レベルに対応する走行制御内容を決定してもよい。
【符号の説明】
【0112】
1 ユーティリティビークル(車両)
2 前輪
3 後輪
9 駆動源
10,12 操作子
11 操舵装置
13 制御装置
14 走行装置
30 自車位置検知部
41 経路設定装置
43 路面状況推定装置
44 走行指標取得器
50 モード切替部
図1
図2
図3
図4