(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】高クラフト温度アニオン性界面活性剤を使用した皮膚症状の処置
(51)【国際特許分類】
A61K 47/10 20170101AFI20240215BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20240215BHJP
A61K 8/55 20060101ALI20240215BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20240215BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20240215BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240215BHJP
A61K 45/08 20060101ALI20240215BHJP
A61K 47/06 20060101ALI20240215BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20240215BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20240215BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240215BHJP
A61P 17/04 20060101ALI20240215BHJP
A61P 17/08 20060101ALI20240215BHJP
A61P 17/16 20060101ALI20240215BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
A61K47/10
A61K8/34
A61K8/55
A61K9/06
A61K9/107
A61K45/00
A61K45/08
A61K47/06
A61K47/14
A61K47/24
A61P17/00
A61P17/04
A61P17/08
A61P17/16
A61Q19/00
(21)【出願番号】P 2022535474
(86)(22)【出願日】2021-05-06
(86)【国際出願番号】 US2021031144
(87)【国際公開番号】W WO2021226370
(87)【国際公開日】2021-11-11
【審査請求日】2022-07-08
(32)【優先日】2020-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518194257
【氏名又は名称】アーキュティス・バイオセラピューティクス・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100122644
【氏名又は名称】寺地 拓己
(74)【代理人】
【識別番号】100220098
【氏名又は名称】宮脇 薫
(72)【発明者】
【氏名】オズボーン,デビッド・ダブリュー
(72)【発明者】
【氏名】バーク,デビッド
【審査官】愛清 哲
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0365642(US,A1)
【文献】特開2018-203736(JP,A)
【文献】特表2012-532871(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00-47/69
A61K 8/00- 8/99
A61K 9/00- 9/72
A61K 45/00-45/08
A61P 17/00-17/18
A61Q 19/00-19/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表皮脂質の抽出を減少させる方法に使用するための、
セテアリルアルコール、ジセチルホスフェート、及びセテス-10ホスフェートを含む乳化剤ブレンド、保湿剤、及び水を含む医薬組成物であって、前記方法が、前記組成物を、そのような処置を必要とする患者へ局所投与するステップを含み、前記組成物がロフルミラスト又は角質溶解薬を含まない、医薬組成物。
【請求項2】
前記
乳化剤ブレンドが0.1~20%w/wの量である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記組成物が、水中油型エマルション、油中水型エマルション、マイクロエマルション又はナノエマルション、及び親水性又は疎水性軟膏からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記組成物が、溶媒、保湿剤、ポリマー又は増粘剤、消泡剤、保存剤、抗酸化剤、金属イオン封鎖剤、安定化剤、緩衝剤、pH調整溶液、皮膚浸透エンハンサー、膜形成剤、染料、顔料、エアロゾル形成剤、及び芳香剤からなる群から選択される少なくとも1つの追加成分をさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記組成物が3.5~9.0のpHを有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記組成物が局所投与に適した担体を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記組成物が活性医薬成分をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記活性医薬品が、アントラリン、アザチオプリン、タクロリムス、コールタール、メトトレキサート、メトキサレン、乳酸アンモニウム、5-フルオロウラシル、プロピルトウラシル、6-チオグアニン、スルファサラジン、ミコフェノール酸モフェチル、フマル酸エステル、コルチコステロイド、コルチコトロピン、ビタミンD類似体、アシトレチン、タザロテン、シクロスポリン、レゾルシノール、コルヒチン、アダリムマブ、ウステキヌマブ、インフリキシマブ、抗生物質、ホスホジエステラーゼ-4阻害剤、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記患者が湿疹
又は乾癬を患っている、請求項1~8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記患者がアトピー性皮膚炎、接触皮膚炎、及び/又は脂漏性皮膚炎を患っている、請求項
1~8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
白色ワセリン、イソプロピルパルミテート、
セテアリルアルコール、ジセチルホスフェート、及びセテス-10ホスフェートを含む乳化剤ブレンド、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、
並びに水を含む医薬組成物であって、ロフルミラスト又は角質溶解薬を含まない、
表皮脂質の抽出を減少させることに使用するための医薬組成物。
【請求項12】
ヘキシレングリコールをさらに含む、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記
乳化剤ブレンドがアニオン性界面活性剤である、請求項11
又は12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
活性医薬成分を含有しない、請求項11~13のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
白色ワセリン 10.0%w/w
イソプロピルパルミテート 5.0%w/w
クロダホスCES 10.0%w/w
(セテアリルアルコール/ジセチルホスフェート/セテス-10ホスフェート)
ジエチレングリコールモノエチルエーテル(トランスクトールP) 25%w/w
精製水 100まで適量
を含む組成物であって、活性医薬成分を含有しない、組成物。
【請求項16】
白色ワセリン 10.0%w/w
イソプロピルパルミテート 5.0%w/w
クロダホスCES 10.0%w/w
(セテアリルアルコール/ジセチルホスフェート/セテス-10ホスフェート)
ヘキシレングリコール 2.0%w/w
ジエチレングリコールモノエチルエーテル(トランスクトールP) 25.0%w/w
精製水 100まで適量
を含む組成物であって、活性医薬成分を含有しない、組成物。
【請求項17】
表皮脂質の抽出を減少させ且つ表皮バリア機能を高める方法において使用するための、
セテアリルアルコール、ジセチルホスフェート、及びセテス-10ホスフェートを含む乳化剤ブレンド、保湿剤、及び水を含む配合物であって、前記方法がそのような処置を必要とする患者へ配合物を局所投与するステップを含
み、活性医薬成分を含まない、配合物。
【請求項18】
前記
乳化剤ブレンドがアニオン性界面活性剤である、請求項
17に記載の配合物。
【請求項19】
前記患者がアトピー性皮膚炎を患っている、請求項
17又は18に記載の配合物。
【請求項20】
前記患者が脂漏性皮膚炎を患っている、請求項
17又は18に記載の配合物。
【請求項21】
前記患者が乾癬を患っている、請求項
17又は18に記載の配合物。
【請求項22】
前記患者が尋常性乾癬を患っている、請求項
17又は18に記載の配合物。
【請求項23】
前記組成物がクリーム又はフォームである、請求項1~8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項24】
ジエチレングリコールモノエチルエーテルをさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項25】
ジエチレングリコールモノエチルエーテルが25%w/wの量で含まれる、請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項26】
乳化剤ブレンドが10%w/wの量で含まれる、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項27】
へキシレングリコールが2%w/wの量で含まれる、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項28】
pHが4.0~8.0である、請求項5に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表皮バリアが減少した湿疹などの皮膚症状の処置に関する。表皮バリア機能は、高クラフト温度アニオン性界面活性剤を含有する配合物を使用することにより大幅に改善させることができる。
【背景技術】
【0002】
表皮バリアは、水分バランスの維持、酸化ストレスの低減、微生物及び抗原などの異物に対する保護、並びに紫外線ダメージに対する保護を含む、いくつかの機能を有する。表皮全体が表皮バリアに関与しているが、角質層が主にこれらの機能の多くに寄与している。角質層は、細胞間脂質ラメラを細胞の間に有する角質細胞のいくつかの層で構成される。細胞間脂質ラメラは主に、セラミド、コレステロール、及び脂肪酸で構成される。角質細胞は、角質層における保湿の生理的な維持に関与している小さい吸湿性化合物の混合物を含有する。これらの化合物は集合的に天然保湿因子(NMF)と呼ばれる。表皮バリアは、刺激物、不適切なスキンケア、低い周囲湿度、塗り薬、全身投薬にさらされることによって、並びにアトピー性皮膚炎、酒さ、糖尿病、及び高齢などの症状によって損傷されることがある。表皮バリアが減少すると、角質層中のタンパク質及び脂質が変化することがあり、経表皮水分喪失(TEWL)が増加し、損傷した、炎症の生じた皮膚につながることがある。表皮バリアが減少する表皮バリア機能障害は、かゆみを制御し、炎症を抑制し、皮膚バリアを修復するように治療される。表皮バリアが減少する表皮バリア機能障害は、乾癬及び角化症などの過剰増殖性の皮膚疾患をもたらす表皮バリア機能障害とは異なる治療を必要とする。過剰増殖性の皮膚疾患は、皮屑を除去しスケーリングを低減する角質溶解薬により治療することができる。角質溶解薬は表皮バリアが減少する表皮バリア機能障害を治療するのに使用するべきではなく、なぜなら表皮バリアのさらなる減少は望ましくなく、そのような薬剤は皮膚を乾燥させさらに炎症を生じさせることになるからである。
【0003】
化粧水、クリーム、及び軟膏などの皮膚軟化剤は多くの場合、表皮バリア機能低下の局所療法における第一選択療法として使用される。皮膚軟化剤は、表皮バリアの修復を助けることができる水及び脂質を供給する。エマルション、すなわち皮膚軟化剤クリーム又は化粧水では、乳化剤(通常は界面活性剤のブレンド)を使用することにより、高い水分量(20%を超える)を密封剤(ワセリン、ワックス、オイル、シリコーン)と組み合わせて安定な局所用製品を形成する。皮膚軟化剤クリーム又は化粧水は、医薬による局所療法の好ましいビヒクルである。皮膚軟化剤軟膏は界面活性剤の添加を必ずしも必要としないが、「油っぽい感触」が多くの場合に不快であることが分かり、そのため患者はクリーム又は化粧水を塗布することを好む。
【0004】
界面活性剤と角質層との相互作用、具体的には角質層の脂質との相互作用は、一部の界面活性剤が皮膚に対して非常に刺激性であるが一方でその他のものは比較的不活性と思われる理由を説明するのに使用されてきた。最も広い意味で、局所的に塗布される界面活性剤は角質層(SC)のバリア特性を変化させることがあり、これは潜在的な刺激物をより多く流入させる。刺激物は、界面活性剤自体、局所用製品に由来する別の賦形剤、活性剤/賦形剤の微量不純物として局所用製品中に持ち込まれた分解物若しくは不純物、又は界面活性剤系の局所用製品が以前に投薬された同じ解剖学的部位に不注意で接触する環境刺激物である場合がある。機構的に皮膚バリア機能の低下に結びつけられるアトピー性皮膚炎(AD)などの症状を治療すると、界面活性剤起因の皮膚炎症の可能性が劇的に増加する(Peter M.Elias、Yutaka Hatano、及びMary L.Williams. Basis for the barrier abnormality in atopic dermatitis:Outside-inside-outside pathogenic mechanisms. J Allergy Clin Immunol. 2008年6月;121(6):1337~1343. doi:10.1016/j.jaci.2008.01.022)。
【0005】
より具体的には、1)界面活性剤モノマーがSCの表面上に吸着し皮膚の湿潤性を高める、2)界面活性剤が二重層構造化表皮脂質と混じり合い二重層構造化表皮脂質の組織を乱す、及び3)界面活性剤ミセルが脂質をSCから可溶化させる/抽出するという、3つの概念上の界面活性剤-角質層脂質相互作用が皮膚のバリア特性を変化させる(Lemery E、Briancon S、Chevalier Y、Oddos T、Gohier A、Boyron O、Bolzinger MA. Surfactants have multi-fold effects on skin barrier function. Eur J Dermatol 2015;25(5):424-35 doi:10.1684/ejd.2015.2587)。アニオン性界面活性剤であるナトリウムドデシルスルフェート(SDS)のモノマーは非常に効果的に皮膚脂質を吸着し、皮膚脂質と混じり合い、皮膚脂質の組織を乱し、SDSミセルは効果的に表皮脂質を抽出し、これによりSDSの水溶液が皮膚に対して刺激性の高いものとなる。アニオン性界面活性剤は、正常な皮膚に対するよりもはるかに速くはるかに完全に、表皮バリアが損傷した皮膚の二重層構造化表皮脂質と混じり合いその組織を乱すことになる(ステップ2)ことに注意するべきである。
【0006】
乾燥した、かゆみのある皮膚の第一選択療法は一般に皮膚軟化剤クリーム又は化粧水の局所投与であるので、バリアが損傷した皮膚への界面活性剤の投与は避けることができない。皮膚軟化剤エマルションは好ましい局所的処置であるので、調合者は炎症の可能性が低い界面活性剤を使用しようと努める。特定の非イオン性界面活性剤は非常に嵩高いため二重層構造化表皮脂質とは混じり合わず(機構ステップ2)、非常に穏やかであることが知られている。具体的には、皮膚軟化剤エマルションの調合者は、界面活性剤がSC脂質マトリックス中に浸透するのを阻害する大きいPEG頭部基を有する非イオン性界面活性剤を好む。そのような界面活性剤としては、ポリ(オキシエチレン)-20ソルビタンラウレート、PEG-12ジメチコン(Lemeryらの論文の結論)、及びセテス-20が挙げられる。
【0007】
界面活性剤起因の表皮脂質の抽出、界面活性剤起因の皮膚炎症における第3の機構ステップは、さらなる説明を要する。皮膚軟化剤クリーム又は化粧水がバリアの損傷した皮膚へ塗り込まれると、配合物に由来する水がSCを保湿し、密封剤が水をSC内に「捕捉」して一時的にバリア機能を修復し皮膚炎症の緩和をもたらすことになる。皮膚軟化剤が入浴後に塗布される場合、エマルションに由来する水と合わせた皮膚上に保持される水は密封剤により捕捉されて皮膚バリアの回復及び炎症の緩和を長引かせることになるので、皮膚保湿は向上することになる。やがて、密封剤はすり減りSCの保湿水は失われ、次いで皮膚炎症が再発することになる。皮膚軟化剤クリーム又は化粧水の有益性の持続時間は、様々な要因によって決まるが、皮膚を取り巻く空気の相対湿度が主な要因である。皮膚軟化剤は、より湿潤した環境中での6~8時間と比較して、乾燥した環境中で数時間の緩和をもたらすことができる。皮膚軟化剤エマルションが密封剤に加えてバリアの回復を促進する脂質、例えばセラミドを含有する場合、有益性の持続時間は大幅に延長させることができる。同等の量の水及び脂質を含有する物理的に安定な局所用製品は、配合物が界面活性剤を含有することを必要とする。皮膚軟化剤配合物において使用される界面活性剤が角質層の表皮脂質と良く混ざり合う場合、局所用製品は表皮脂質を抽出する潜在的可能性があり、時間と共に皮膚のバリア機能を低下させる。この抽出ステップは界面活性剤ミセルが形成される場合に生じて、表皮脂質を可溶化させ抽出プロセスを完了させる。表皮脂質抽出効率は、皮膚バリア損傷の程度及び皮膚に炎症を生じさせる可能性と直接関連し得る。
【0008】
機構的に、界面活性剤起因の表皮脂質の抽出はミセルの存在下で生じる。水中に溶解すると、アニオン性及び非イオン性の界面活性剤モノマーの両方が特定の濃度範囲及び温度範囲にわたって会合してミセルを形成する。界面活性剤の濃度が臨界ミセル濃度(CMC)を超えると、最も顕著にはこの水溶液が著しい量の脂質を溶解させる能力において、界面活性剤溶液の物理特性が劇的に変化する。非イオン性の界面活性剤はたいていの場合、室温未満で自然にミセルを形成する。アニオン性界面活性剤は、ミセルの形成が、CMCを超える界面活性剤濃度を有することに加えて、周囲温度を超えて溶液を加温することを必要とする場合があるという点において、非イオン性の界面活性剤とは異なる。アニオン性界面活性剤がミセルを形成するのに必要な最低温度はクラフト温度として知られる(コロイドとしての石けんについての1894~1900年の彼の研究に関して、Friedrich Krafftにちなんで名付けられた)。クラフト温度未満では、CMCを超えて界面活性剤の濃度を増加させるとミセルの形成ではなくむしろ沈殿した固体界面活性剤が生じる。したがって、クラフト温度は界面活性剤が溶解する温度であり、これは濃度により影響を受ける。特定のアニオン性界面活性剤のクラフト温度は、界面活性剤の濃度がCMCを超えて増加すると最大で数度のセ氏温度の上昇又は低下をする場合がある。
【0009】
ミセルは、界面活性剤が特定の濃度範囲及び温度範囲にとどまるのに十分な水が存在する場合にのみ形成され得る。研究室環境では過剰の2%界面活性剤溶液を切除したヒトの皮膚に20時間当てることができるが、大部分の人々が入浴、シャワー、又は水泳の間にのみ界面活性剤起因の脂質抽出を経験することになる。著しい界面活性剤起因の表皮脂質の抽出についての最も一般的な「実生活」の状況は、高温の風呂に長くつかっている間の状況である。
【0010】
入浴する成人における許容可能な水の温度範囲はセ氏38~43度(109.4°F)である[Alberta Health Services Procedure for Safe Bathing Temperatures and Frequency、発効日2019年12月2日;extranet.ahsnet.ca/teams/policydocuments/1/clp-provincial-sh-safe-bath-temps-procedure.pdf]。43℃が安全な入浴の最高温度である場合、44℃以上のクラフト温度を有するいかなる界面活性剤も表皮脂質を抽出できないことになる。44℃以上のクラフト温度を有するアニオン性乳化剤を含有する局所用エマルションは、患者の皮膚症状(例えばアトピー性皮膚炎)を悪化させることなく、バリアが損傷した皮膚を有する患者に安全に塗布することができる。したがって、アルキルホスフェートであるセテス-10ホスフェート(TK=53℃)及びジセチルホスフェート(TK=58℃)のブレンドなどの、高クラフト温度乳化剤は、保湿性局所用配合物で処置される患者の表皮バリア機能を大幅に改善することになる。誰も意図的に熱湯で入浴はしないので、熱湯の温度よりも高いクラフト温度を有する乳化剤を配合することは患者に対してより大きな有益性をもたらさない。消費者製品安全委員会によれば[.accuratebuilding.com/services/legal/charts/hot_water_burn_scalding_graph]、成人は130°F(54.4℃)の水に30秒さらされると第3度熱傷を負うことになる。
【0011】
したがって、表皮脂質を抽出する界面活性剤を含有する皮膚軟化剤クリーム又は化粧水により、バリアが損傷した皮膚を処置することは、処置が繰り返し実施される場合に、低下した有効性のサイクルを引き起こす可能性がある。例えば、患者が低下した表皮バリア機能を有しアトピー性皮膚炎(AD)を示す場合、入浴直後(皮膚が乾燥する前)の塗布を含む1日2回使用するようにとの指示と共に皮膚軟化剤クリーム(医薬活性成分を含む又は含まない)が提供されることがある。皮膚軟化剤クリームは10~12時間をかけて皮膚バリアを修復し1日の大半で患者のAD症状を緩和させる。患者が毎日入浴すると仮定すると、それまでの24時間で2回の塗布の際に表皮脂質と混ざり合った界面活性剤が、入浴時にミセルを形成し、表皮脂質を可溶化及び抽出し、患者の皮膚バリアを著しく減少させる。皮膚軟化剤クリームは入浴直後に塗布され、皮膚バリアを修復する。この毎日のサイクルが4週間以上繰り返される。使用される界面活性剤が入浴中にミセルを形成し表皮脂質を抽出するので、患者は低下した有効性、おそらく彼らのAD症状の正味10%又は15%の改善を経験する。ミセルを形成しない可能性がある界面活性剤が使用される場合、有効性は低下せず、皮膚軟化剤クリームはおそらくAD症状の正味50%の改善を伴う最大限の有効性を有することになる。この皮膚軟化剤クリームは、AD症状のさらにより大きい改善をもたらす可能性がある活性医薬成分の添加においても最適なビヒクルとなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
表皮脂質を抽出せず時間と共に臨床的有効性を低下させない皮膚軟化剤エマルションの必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、高クラフト温度アニオン性界面活性剤を含む配合物は表皮脂質の抽出を減少させ且つ表皮バリア機能を高めることが分かった。表皮バリア機能の改善は、異常な落屑の低減、弾性の改善、並びに皮膚炎症の減少及び皮膚保湿の向上をもたらす皮膚硬さの低減につながる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】切除した皮膚を高クラフト温度配合物及び低クラフト温度配合物で処置した結果を示すグラフである。高クラフト温度ホスフェート界面活性剤を含有するクリーム配合物(クラフト温度53℃、実施例2の配合物2)による処置はセラミド抽出を生じさせなかった。低クラフト温度ナトリウムセトステアリルスルフェート界面活性剤を含有するクリーム(エリデルクリームビヒクル、実施例2の配合物5)による処置は、ヒトの皮膚からのセラミドの抽出において最も効率的であった。温水で3回洗浄後に4%ナトリウムラウリルスルフェート陽性対照よりも配合物5で処置した皮膚からより多量のセラミドが抽出された。
【発明を実施するための形態】
【0015】
表皮バリアが損傷した皮膚は、1種又は複数の高クラフト温度アニオン性界面活性剤を含有する皮膚軟化剤エマルションを使用して、時間と共に臨床的有効性を低下させることなく処置することができる。界面活性剤は組成物を乳化させ、配合物中の任意の活性物質又は賦形剤の表面を濡らすのを助ける。本明細書で使用する「界面活性剤」という用語は、水の表面張力及び/又は水と不混和性液体との間の界面張力を低下させることが可能な両親媒性物質(共有結合している極性領域及び非極性領域の両方を有する分子)を意味する。48℃を超えるクラフト温度を有する任意のアニオン性界面活性剤を本発明で使用できる。アニオン性界面活性剤のクラフト点は当技術分野において公知の方法を使用して決定することができ、例えばLiらの「Property Prediction on Surfactant by Quantitative Structure-Property Relationship:Krafft Point and Cloud Point」、Journal of Dispersion Science and Technology、26:799~808、2005を参照のこと。そのような界面活性剤としては、限定はされないが、アルキルアリールナトリウムスルホネート、アンモニウムラウリルスルフェート、コカミドエーテルスルフェート、コカミンオキシド、ココベタイン、ココジエタノールアミド、ココモノエタノールアミド、ココカプリレート/カプレート、二ナトリウムココアンホジアセテート、二ナトリウムラウレススルホスクシネート、二ナトリウムラウリルスルホアセテート、二ナトリウムラウリルスルホスクシネート、二ナトリウムオレアミドモノエタノールアミンスルホスクシネート、ドクサートナトリウム、ナトリウムドデシルベンゼンスルホネート、ナトリウムパルミテート、ナトリウムヘキサデシルスルホネート、ナトリウムステアリルスルフェート、ナトリウムステアレート、ナトリウムキシレンスルホネート、カリウムセチルホスフェート、カリウムC9~15アルキルホスフェート、カリウムC11~15アルキルホスフェート、カリウムC12~13アルキルホスフェート、カリウムC12~14アルキルホスフェート、カリウムラウリルホスフェート、C8~10アルキルエチルホスフェート、C9~15アルキルホスフェート、C20~22アルキルホスフェート、リン酸ヒマシ油、セテス-10ホスフェート、セテス-20ホスフェート、セテス-8ホスフェート、セテアリルホスフェート、セチルホスフェート、ジメチコンPEG-7ホスフェート、二ナトリウムラウリルホスフェート、二ナトリウムオレイルホスフェート、ラウリルホスフェート、ミリスチルホスフェート、オクチルデシルホスフェート、オレス-10ホスフェート、オレス-5ホスフェート、オレス-3ホスフェート、オレイルエチルホスフェートオレイルホスフェート、PEG-26-PPG-30ホスフェート、PPG-5セテアレス-10ホスフェート、PPG-5セテス-10ホスフェート、ナトリウムラウリルホスフェート、ナトリウムラウレス-4ホスフェート、ステアリルホスフェート、DEA-セチルホスフェート、DEA-オレス-10ホスフェート、DEA-オレス-3ホスフェート、DEA-C8~C18ペルフルオロアルキルエチルホスフェート、ジセチルホスフェート、ジラウレス-10ホスフェート、ジミリスチルホスフェート、ジオレイルホスフェート、トリセチルホスフェート、トリセテアレス-4ホスフェート、トリラウレス-4ホスフェート、トリラウリルホスフェート、トリオレイルホスフェート、及びトリステアリルホスフェートを挙げることができる。
【0016】
【0017】
【0018】
好ましい実施形態において、Croda社によりCRODAFOS(商標)CESの商標名で製造される、セテアリルアルコール(CAS 67762 30 0)、ジセチルホスフェート(CAS 2197 63 9)、及びセテス-10ホスフェート(CAS 50643-20-4)の乳化剤ブレンドが使用される。この市販の乳化剤ブレンドは、10~20%のジセチルホスフェート及び10~20%のセテス-10ホスフェートと組み合わされた、主としてワックス状材料のセテアリルアルコール(セチルアルコール(C16H34O)及びステアリルアルコール(C18H38O)の混合物である)である、自己乳化性ワックスである。自己乳化性ワックスは水とブレンドされるとエマルションを形成する。CRODAFOS(商標)CESを水に加えると、pHが約3であるエマルションを自然に形成する。pHを調整する薬剤を加えてpHを所望の値まで上昇又は低下させることができる。成分の最適なpHに応じて配合物のpHを調整することができる。pHは3.5~9.0、好ましくは4.0~8.0とするべきである。
【0019】
【0020】
好ましくは、本発明による組成物は以下の形態の1つである:
水中油型エマルション:製品は、疎水性成分の別個の相と、水及び場合により1種又は複数の極性親水性賦形剤、並びに溶媒、共溶媒、塩、界面活性剤、乳化剤、及び他の成分を含む連続水性相とを含む、エマルションであってもよい。これらのエマルションは、エマルションの安定化を助ける水溶性又は水膨潤性ポリマーを含んでいてもよい。
【0021】
油中水型エマルション:組成物は、疎水性成分の連続相と、水及び場合により1種又は複数の極性親水性担体、並びに塩又は他の成分を含む水性相とを含む、エマルションであってもよい。これらのエマルションは、油溶性又は油膨潤性ポリマー、並びにエマルションの安定化を助ける1種又は複数の乳化剤を含んでいてもよい。
【0022】
親水性又は疎水性軟膏:組成物には疎水性基剤(例えばワセリン、増粘された又はゲル化された水不溶性油など)が配合され、場合により少量の水溶性相を有する。親水性軟膏は一般に1種又は複数の界面活性剤又は湿潤剤を含有する。
【0023】
マイクロエマルション:これらは、油、水、及び界面活性剤を含有し、しばしば共界面活性剤と組み合わされた、透明で熱力学的に安定な等方性液体系である。マイクロエマルションは、水連続性、油連続性、又は共連続性混合物であってもよい。配合物は場合により60重量%以下の水も含有していてもよい。一部の組成物ではより高いレベルが適切である場合がある。共界面活性剤のクラスとしては、短鎖アルコール、アルカンジオール及びトリオール、ポリエチレングリコール及びグリコールエーテル、ピロリジン誘導体、胆汁酸塩、ソルビタン脂肪酸エステル及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが挙げられる。マイクロエマルションで使用するための適切な親水性成分としては、1種又は複数のグリコール、例えばポリオールなど、例えばグリセリン、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ポリエチレングリコール(PEG)、並びにエチレンオキシド、プロピレンオキシド、及び/又はブチレンオキシドのランダム又はブロックコポリマー、1分子当たり1つ又は複数の疎水性部分を有するポリアルコキシル化界面活性剤、シリコーンコポリオール、セテアレス-6及びステアリルアルコールのブレンド、並びにそれらの組み合わせなどが挙げられる。
【0024】
エアロゾルフォーム又はスプレー:製品は、疎水性成分の別個の相と、水及び場合により1種又は複数の極性親水性賦形剤、並びに溶媒、共溶媒、界面活性剤、乳化剤、及び他の成分を含む連続水性相とを含む、乳化性ワックス又はエマルションを含有するアルコール/溶媒ベースの溶液であってもよい。これらの溶媒又はエマルションフォーム濃縮物は、エマルションの安定化を助ける水溶性又は水膨潤性ポリマー、及び配合物とパッケージとの適合性を改善するための腐食防止剤を含んでいてもよい。フォーム又はスプレー製品が使用のために分注されるまで圧力を維持するように設計されたパッケージでは、炭化水素、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)、又はクロロフルオロカーボン(CFC)のエアロゾル高圧ガスを溶媒又はエマルションフォーム濃縮物へ加えることができる。
【0025】
溶媒
本発明による組成物は、皮膚浸透性又は配合物中に含有される他の賦形剤の活性を改質させる、1種又は複数の溶媒又は共溶媒を含んでいてもよい。溶媒としては、限定はされないが、エタノール、ベンジルアルコール、ブチルアルコール、ジエチルセバケート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジイソプロピルアジペート、ジメチルスルホキシド、酢酸エチル、イソプロピルアルコール、イソプロピルイソステアレート、イソプロピルミリステート、オレイルアルコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、及びSDアルコールが挙げられる。
【0026】
保湿剤
本発明による組成物は、保湿のレベルを高めるさらなる保湿剤を含んでいてもよい。保湿剤は湿潤剤を含む親水性材料であってもよく、又は皮膚軟化剤を含む疎水性材料であってもよい。適切な保湿剤としては、限定はされないが、1,2,6-ヘキサントリオール、2-エチル-1,6-ヘキサンジオール、ブチレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール200~8000、ブチルステアレート、セトステアリルアルコール、セチルアルコール、セチルエステルワックス、セチルパルミテート、ココアバター、ココナッツ油、シクロメチコン、ジメチコン、ドコサノール、エチルヘキシルヒドロキシステアレート、脂肪酸、グリセリルイソステアレート、グリセリルラウレート、グリセリルモノステアレート、グリセリルオレエート、グリセリルパルミテート、グリコールジステアレート、グリコールステアレート、イソステアリン酸、イソステアリルアルコール、ラノリン、鉱油、リモネン、中鎖トリグリセリド、メントール、ミリスチルアルコール、オクチルドデカノール、オレイン酸、オレイルアルコール、オレイルオレエート、オリーブ油、パラフィン、落花生油、ワセリン、プラスチベース-50W、及びステアリルアルコールが挙げられる。
【0027】
ポリマー及び増粘剤
特定の用途において、可溶性、膨潤性、又は不溶性の有機ポリマー増粘剤、例えば天然及び合成ポリマー又は無機増粘剤など、例えばアクリレートコポリマー、カルボマー1382、カルボマーコポリマータイプB、カルボマーホモポリマータイプA、カルボマーホモポリマータイプB、カルボマーホモポリマータイプC、アクリルアミド/ナトリウムアクリロイルジメチルタウレートコポリマー、カルボキシビニルコポリマー、カルボキシメチルセルロース、カルボキシポリメチレン、カラギーナン、グアーガム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ミクロクリスタリンワックス、及びメチルセルロースなどにより増粘化された製品を製剤化することが望ましい場合がある。
【0028】
追加成分
本発明による組成物には、化粧用及び医薬用局所製品において従来から見られる、フィラー、担体、及び賦形剤などの追加成分が配合されていてもよい。限定はされないが、消泡剤、保剤(例えばp-ヒドロキシ安息香酸エステル、ベンジルアルコール、フェニル水銀塩、クロロクレゾール)、抗酸化剤、金属イオン封鎖剤、安定化剤、緩衝剤、pH調整剤(好ましくは酸性pHをもたらす薬剤、限定はされないがグルコノラクトン、クエン酸、乳酸、及びアルファヒドロキシ酸が挙げられる)、皮膚浸透エンハンサー、皮膚保護剤(限定はされないが、ワセリン、パラフィンワックス、ジメチコン、グリセリルモノイソステアレート、イソプロピルイソステアレート、イソステアリルイソステアレート、セチルアルコール、カリウムセチルホスフェート、セチルベヘネート、及びベヘン酸が挙げられる)、キレート化剤、膜形成剤、染料、顔料、希釈剤、膨化剤、芳香剤、エアロゾル生成剤、及び安定性又は美粧性を改善するための他の賦形剤を含む追加成分を、組成物へ添加してもよい。アルコールは炎症を生じさせ皮膚から水及び脂質を抽出することが知られているが、アルコールは、表皮バリア機能の改善の観点から高クラフト温度界面活性剤を含む配合物中に加えられてもよい。アルコールは、溶解性を改善し活性医薬品の吸収を高めるために加えられてもよい。
【0029】
本発明による組成物には、処置される症状に応じて医薬活性剤が配合されるか又は配合されなくてもよい。追加の活性剤としては、限定はされないが、アントラリン(ジトラノール)、アザチオプリン、タクロリムス、タピナロフ、コールタール、メトトレキサート、メトキサレン、乳酸アンモニウム、5-フルオロウラシル、プロピルトウラシル(Propylthouracil)、6-チオグアニン、スルファサラジン、ミコフェノール酸モフェチル、フマル酸エステル、コルチコステロイド(例えばアクロメタゾン(Aclometasone)、アムシノニド、ベタメタゾン、クロベタゾール、クロコトロン(Clocotolone)、モメタゾン、トリアムシノロン、フルオシノロン、フルオシノニド、フルランドレノリド、ジフロラゾン、デソニド、デスオキシメタンゾン、デキサメタゾン、ハルシノニド、ハロベタゾール、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニカルベート、プレドニゾン)、コルチコトロピン、ビタミンD類似体(例えばカルシポトリエン、カルシトリオール)、アシトレチン、タザロテン、シクロスポリン、レゾルシノール、コルヒチン、アダリムマブ、ウステキヌマブ、インフリキシマブ、ホスホジエステラーゼ-4阻害剤(PDE-4阻害剤)、例えばロフルミラストなど、及び抗生物質(例えばエリスロマイシン、シプロフロキサシン、メトロニダゾール)が挙げられる。
【0030】
投与及び投与量
本発明による組成物は、限定はされないが、皮膚(局所的)、経皮及び粘膜(例えば舌下、頬側、鼻)を含む、任意の適切な投与経路により投与することができる。好ましい実施形態において、組成物が局所投与される。
【0031】
適切な医薬剤形としては、限定はされないが、エマルション、クリーム、化粧水、フォーム、マイクロエマルション、及びナノエマルションが挙げられる。
組成物は1日に1回又は複数回投与することができ、好ましくは組成物は1日に1~2回投与される。
【0032】
組成物は、表皮バリア機能障害と関連したあらゆる疾患及び症状、例えば増殖性、炎症性、及びアレルギー性皮膚疾患などの治療のために、動物及びヒト向けの薬において使用することができる。そのような皮膚疾患としては、限定はされないが、炎症性角化疾患、例えばアトピー性皮膚炎、乾癬(尋常性)、湿疹、座瘡、単純性苔癬、日焼け、そう痒、脂漏性皮膚炎、ダリエー病、ヘイリー・ヘイリー病、肥厚性瘢痕、円板状エリテマトーデス、及び膿皮症などが挙げられる。好ましい実施形態において、治療しようとする皮膚疾患はアトピー性皮膚炎である。
【0033】
以下の実施例は、当業者が本発明の方法及び組成物を作り使用することを可能にするために示される。これらの実施例は、発明者が本発明とみなすものの範囲を限定することを意図していない。さらなる利点及び修正は当業者にとって容易に明らかとなる。
【0034】
実施例1
以下の配合にしたがって、クリームを調製した。
配合物1
白色ワセリン 10.0%w/w
イソプロピルパルミテート 5.0%w/w
クロダホスCES 10.0%w/w
ジエチレングリコールモノエチルエーテル(トランスクトールP) 25%w/w
メチルパラベン 0.2%w/w
プロピルパラベン 0.05%w/w
精製水 100まで適量(49.75%)
配合物2
白色ワセリン 10.0%w/w
イソプロピルパルミテート 5.0%w/w
クロダホスCES 10.0%w/w
ヘキシレングリコール 2.0%w/w
ジエチレングリコールモノエチルエーテル(トランスクトールP) 25.0%w/w
メチルパラベン 0.2%w/w
プロピルパラベン 0.05%w/w
精製水 100まで適量(47.75%)
配合物3
白色ワセリン 10.0%w/w
イソプロピルパルミテート 5.0%w/w
ナトリウムドデシルスルフェート 2.0%w/w
セテアリルアルコール 8.0%w/w
ヘキシレングリコール 2.0%w/w
ジエチレングリコールモノエチルエーテル(トランスクトールP) 25.0%w/w
メチルパラベン 0.2%w/w
プロピルパラベン 0.05%w/w
精製水 100まで適量(47.75%)
配合物4(米国特許第10,195,160号-表1のタピナロフ2bの配合物)
中鎖トリグリセリド 10.0%w/w
ステアレス-2 1.8%w/w
ステアレス-20 1.1%w/w
ポリソルベート80 1.5%w/w
プロピレングリコール 10.0%w/w
ジエチレングリコールモノエチルエーテル(トランスクトールP) 2.0%w/w
安息香酸 0.25%w/w
ブチルヒドロキシトルエン 0.1%w/w
二ナトリウムエチレンジアミンテトラ酢酸 0.1%w/w
クエン酸塩/クエン酸緩衝剤 0.27%w/w
精製水 100まで適量(64.68%)
配合物5(欧州特許第0786986号実施例14のエリデルクリームビヒクルの配合物)
モノ及びジグリセリド 2.0%w/w
中鎖トリグリセリド 15.0%w/w
ナトリウムセトステアリルスルフェート 1.0%w/w
プロピレングリコール 5.0%w/w
セチルアルコール 4.0%w/w
ベンジルアルコール 1.0%w/w
ステアリルアルコール 4.0%w/w
オレイルアルコール 10.0%w/w
クエン酸塩/クエン酸緩衝剤 0.05%w/w
10%NaOH又は10%HCl溶液 pH=5.3+0.3とするために必要に応じて
精製水 100まで適量(57.95%)
実施例2
0.0012グラムのセテス-10ホスフェート(Moravek社、ロット671-144-000-A-20190821-JHO)を秤量して20mLのガラスシンチレーションバイアルへ入れた。10.0113グラムの蒸留水をシンチレーションバイアルへ加え、バイアルを密栓し、水浴中に置いた。温度を徐々に36.0℃から56.0℃まで上昇させた。52.5℃で150分間平衡化させた後、セテス-10ホスフェートは溶解しておらず、強く振とうすると試料は泡立たなかった。界面活性剤はバイアルの底に沈殿したワックス状粒子として残った。53.0℃で435分間の平衡化の後、セテス-10ホスフェートは溶解しており、振とうすると試料は泡立った。0.012%セテス-10ホスフェート水溶液のクラフト温度は53.0℃であると決定された。
【0035】
0.0019グラムのジセチルホスフェート(Sigma社、ジヘキサデシルホスフェート、ロットSTBH2863)を秤量して20mLのガラスシンチレーションバイアルへ入れた。11.2262グラムの蒸留水をシンチレーションバイアルへ加え、バイアルを密栓し、水浴中に置いた。温度を徐々に51.0℃から65.0℃まで上昇させた。57℃で120分間平衡化させた後、ジセチルホスフェートは溶解しておらず、強く振とうすると試料は泡立たなかった。58.0℃で450分間の平衡化の後、ジセチルホスフェートは溶解しており、振とうすると試料は泡立った。0.017%ジセチルホスフェート水溶液のクラフト温度は58.0℃であると決定された。
【0036】
0.0024グラムのナトリウムセトステアリルスルフェート(BASF社、ラネッテE顆粒、ロット0021826181)を秤量して20mLのガラスシンチレーションバイアルへ入れた。17.0763グラムの蒸留水をシンチレーションバイアルへ加え、バイアルを密栓し、水浴中に置いた。温度を徐々に35.0℃から42.5℃まで上昇させた。40.0℃で805分間平衡化させた後、ナトリウムセトステアリルスルフェートは溶解しておらず、強く振とうすると試料はわずかに泡立った。42.5℃で365分間の平衡化の後、ナトリウムセトステアリルスルフェートは溶解しており、振とうすると試料は泡立った。0.014%ナトリウムセトステアリルスルフェート水溶液のクラフト温度は41.0℃であると決定された。
【0037】
実施例3
乳化剤を含有しある範囲のクラフト温度を有するクリーム配合物が表皮脂質を抽出する能力は、500ミクロンの目標厚さとなるように採取された切除したヒトの死体皮膚を使用して決定することができる。切除したヒトの皮膚は、米国組織バンクから凍結した状態で入手し、使用まで-20℃で保存した。0.503cm2の抽出面積を有し、0.01%ゲンタマイシンスルフェートを含有し32℃で温度制御された3.0mlの4%の水中BSA(レセプター溶液)で満たされたレセプターチャンバーを有する、直径が8mmの垂直フランツセルへ、皮膚を装入した。容積式ピペットを使用して、5マイクロリットル用量のクリームを各フランツセルへ加えた(皮膚組織1cm2あたり10mgのクリーム)。拡散セルを32±1℃の皮膚表面温度で維持した。24時間のインキュベーション後、皮膚表面をQチップで拭って(湿ったQチップ及び乾燥したQチップで3サイクル)塗布された試験物品の表面残渣を除去した。次いで皮膚表面を45℃の温水で3サイクル洗浄した。次いで皮膚組織をフランツセルから取り出し、テープ剥離を行った。最初の2回のテープ剥離片は廃棄した。テープ剥離プロセスをさらに15回続けた。15枚のテープ剥離片を収集し、液体クロマトグラフィータンデム質量分析法(LC/MS/MS)を使用して定量し、「角質層」とラベリングした。表皮及び真皮層はメスを使用して分離した。表皮を収集し、クロロホルム/メタノール混合物を含有する浴を使用して、残っている角質層及び表皮から脂質を抽出した。浴を集め、蒸発させ、HPLC/MS/MS分析による定量のための適切な移動相に溶解させた。
【0038】
文献(参照)によれば、ヒトの皮膚には12種類の一般的なセラミドが存在する。N-リグノセロイル-フィトスフィンゴシン(セラミドNP)及びN-(2’-(R)-ヒドロキシリグノセロイル)-D-エリスロ-フィトスフィンゴシン(セラミドAP)は、ヒトの皮膚において最も豊富なセラミドのうちに入る。この脂質抽出研究におけるセラミドNP及びAPの定量に加えて、N-リグノセロイル-D-エリスロ-スフィンゴシン(セラミドNS)及びN-リグノセロイル-D-エリスロ-スフィンガニン(セラミドNDS)もこの実施例に記載されるテープ剥離片及び表皮抽出浴から定量された。温水(45℃)で3回すすいだ後の、「角質層」及び「表皮」とラベリングされた試料から抽出されたセラミドNP、AP、NS、及びNDSの総ナノグラム数を合計し、ヒトの皮膚の1平方センチメートルに正規化した。
図1に示すように、高クラフト温度ホスフェート界面活性剤を含有するクリーム配合物(実施例2の配合物2)で皮膚を処置すると、セラミド抽出はされなかった。3回の温水洗浄の後、配合物2で処置した皮膚中に残留するセラミドの量は、温水洗浄の24時間前に5マイクロリットルの水(不活性対照)を投薬された切除皮膚と同じであった。低クラフト温度ナトリウムセトステアリルスルフェート界面活性剤(実施例2の配合物5)を含有するクリームで処置された皮膚は、ヒトの皮膚からのセラミドの抽出において最も効率的であった。4%ナトリウムラウリルスルフェート陽性対照よりも、配合物5で処置した皮膚から3回の温水洗浄後により多量のセラミドが抽出された。
【0039】
実施例4
アトピー性皮膚炎臨床研究では、Eczema Area and Severity Index(皮膚炎面積及び重症度指数)(EASI)を認証された評価システムとして使用して、局所的に塗布された製品の有効性を測定する。EASIスコアはアトピー性皮膚炎の2つの側面:1)疾患の程度及び2)臨床兆候についての客観的な医師の見積もりを評価する。疾患の程度の採点は、影響を受けた皮膚のパーセンテージに関連づけられた0~6の数値スコアを割り当てることにより実行される。スコア0=皮膚の0%が影響を受けている;スコア1=皮膚の1~9%が影響を受けている;スコア2=皮膚の10~29%が影響を受けている;スコア3=皮膚の30~49%が影響を受けている;スコア4=皮膚の50~69%が影響を受けている;スコア5=皮膚の70~89%が影響を受けている、スコア6=皮膚の90~100%が影響を受けている。疾患の程度のスコアは、それぞれが0~3の段階で(0=なし、存在しない;1=軽度;2=中等度;3=重度)、4箇所の体の部位(頭及び首、胴体、上肢、及び下肢)についての、4つの臨床兆候(紅斑、硬結/丘疹形成、表皮剥離、及び苔癬化)の重症度の採点と併用される。中間のスコアが可能である。各々の体の部位は0~72の範囲のスコアを有することになり、最終的なEASIスコアは、これらの4つのスコアを平均する(頭及び首並びに上肢については0.2、胴体及び下肢については0.3を掛ける)ことにより得られることになる。したがって、最終的なEASIスコアはクリニックで患者が評価される各時点において0~72の範囲となる。「ベースラインからの変化のパーセンテージ」として報告されるEASIスコアは、局所用製品使用の時間経過に対して、アトピー性皮膚炎病害の改善又は悪化を臨床的に評価する標準的な方法である。例として、4週間の処置におけるEASI%CFBの1%の増加は、平均で、このクリームで処置されたすべての患者がアトピー性皮膚炎を悪化させたことを示唆する。代わりに、4週間の処置におけるEASI%CFBの55%の減少は、疾患の程度又は臨床兆候のいずれかにおける劇的な改善、又は典型的にはアトピー性皮膚炎病害の疾患の程度及び臨床兆候の両方における著しい改善を意味する。
【0040】
FDAにおける医薬品承認をもたらすのは、薬剤製品がビヒクル(活性医薬成分を含まない同じクリーム配合物)よりもはるかに良好にアトピー性皮膚炎を治療する能力である。EASIスコアは、アトピー性皮膚炎の治療について臨床的に評価された、医薬品及びそれらの溶媒対照群の局所用クリーム製品の両方に関して公開される。
【0041】
実施例2の配合物2を45人のアトピー性皮膚炎患者に対して1日1回、4週間投薬した。EASI%CFBは高クラフト温度界面活性剤(セテス-10ホスフェートでは53.0℃、ジセチルホスフェートでは58.0℃)のこのブレンドにより処置されたAD患者において55.8%減少し、1人の患者のみが塗布部位の灼熱感を訴えた。これは、136人のAD患者へ1日2回、4週間投与した後にEASI%CFBが1%増加したエリデル(登録商標)ビヒクル配合物とは対照的である。エリデル(登録商標)の添付文書によれば、このクリームビヒクル配合物は低クラフト温度界面活性剤(41℃)であるナトリウムセトステアリルスルフェートを含有し、17患者が塗布部位の灼熱感を訴えた。
本明細書は以下の発明の開示を包含する。
[項目1] 機能が低下した表皮バリアを処置する方法であって、高クラフト温度界面活性剤、保湿剤、及び水を含む組成物を、そのような処置を必要とする患者へ局所投与するステップを含み、前記組成物がロフルミラスト又は角質溶解薬を含まない、方法。
[項目2] 前記高クラフト温度界面活性剤が0.1~20%w/wの量である、項目1に記載の方法。
[項目3] 前記組成物が、水中油型エマルション、油中水型エマルション、マイクロエマルション又はナノエマルション、及び親水性又は疎水性軟膏からなる群から選択される、項目1に記載の方法。
[項目4] 前記組成物が、溶媒、保湿剤、ポリマー又は増粘剤、消泡剤、保存剤、抗酸化剤、金属イオン封鎖剤、安定化剤、緩衝剤、pH調整溶液、皮膚浸透エンハンサー、膜形成剤、染料、顔料、エアロゾル形成剤、及び芳香剤からなる群から選択される少なくとも1つの追加成分をさらに含む、項目1に記載の方法。
[項目5] 前記組成物が3.5~9.0のpHを有する、項目1に記載の方法。
[項目6] 前記組成物が局所投与に適した担体を含む、項目1に記載の方法。
[項目7] 前記組成物が活性医薬成分をさらに含む、項目1に記載の方法。
[項目8] 前記活性医薬品が、アントラリン、アザチオプリン、タクロリムス、コールタール、メトトレキサート、メトキサレン、乳酸アンモニウム、5-フルオロウラシル、プロピルトウラシル、6-チオグアニン、スルファサラジン、ミコフェノール酸モフェチル、フマル酸エステル、コルチコステロイド、コルチコトロピン、ビタミンD類似体、アシトレチン、タザロテン、シクロスポリン、レゾルシノール、コルヒチン、アダリムマブ、ウステキヌマブ、インフリキシマブ、抗生物質、ホスホジエステラーゼ-4阻害剤、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、項目7に記載の方法。
[項目9] 表皮バリアの機能が低下した前記患者が湿疹を患っている、項目1に記載の方法。
[項目10] 前記患者がアトピー性皮膚炎、接触皮膚炎、及び/又は脂漏性皮膚炎を患っている、項目9に記載の方法。
[項目11] 白色ワセリン、イソプロピルパルミテート、高クラフト温度界面活性剤、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、メチルパラベン、プロピルパラベン、及び水を含む医薬組成物であって、ロフルミラスト又は角質溶解薬を含まない、医薬組成物。
[項目12] 前記高クラフト温度界面活性剤が、セトステアリルアルコール、ジセチルホスフェート、及びセテス-10ホスフェートの混合物である、項目11に記載の医薬組成物。
[項目13] ヘキシレングリコールをさらに含む、項目12に記載の医薬組成物。
[項目14] 前記高クラフト温度界面活性剤がアニオン性界面活性剤である、項目11に記載の医薬組成物。
[項目15] 前記高クラフト温度界面活性剤が48℃を超えるクラフト温度を有する、項目11に
記載の医薬組成物。
[項目16] 前記高クラフト温度界面活性剤が50℃を超えるクラフト温度を有する、項目15に記載の医薬組成物。
[項目17] 前記高クラフト温度界面活性剤が52℃を超えるクラフト温度を有する、項目16に記載の医薬組成物。
[項目18] 活性医薬成分を含有しない、項目11に記載の医薬組成物。
[項目19] 白色ワセリン 10.0%w/w
イソプロピルパルミテート 5.0%w/w
クロダホスCES 10.0%w/w
ジエチレングリコールモノエチルエーテル(トランスクトールP) 25%w/w
メチルパラベン 0.2%w/w
プロピルパラベン 0.05%w/w
精製水 100まで適量(49.75%)を含む組成物であって、活性医薬成分を含有しない、組成物。
[項目20] 白色ワセリン 10.0%w/w
イソプロピルパルミテート 5.0%w/w
クロダホスCES 10.0%w/w
ヘキシレングリコール 2.0%w/w
ジエチレングリコールモノエチルエーテル(トランスクトールP) 25.0%w/wメチルパラベン 0.2%w/w
プロピルパラベン 0.05%w/w
精製水 100まで適量(47.75%)を含む組成物であって、活性医薬成分を含有しない、組成物。
[項目21] 表皮脂質の抽出を減少させ且つ表皮バリア機能を高める方法であって、高クラフト温度界面活性剤、保湿剤、及び水を含む配合物を、そのような処置を必要とする患者へ局所投与するステップを含む、方法。
[項目22] 前記高クラフト温度界面活性剤がアニオン性界面活性剤である、項目21に記載の方法。
[項目23] 前記高クラフト温度界面活性剤が48℃を超えるクラフト温度を有する、項目21に記載の方法。
[項目24] 前記高クラフト温度界面活性剤が50℃を超えるクラフト温度を有する、項目23に記載の方法。
[項目25] 前記高クラフト温度界面活性剤が52℃を超えるクラフト温度を有する、項目24に記載の方法。