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特許7437509降伏比に優れた高強度熱延鋼板及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】降伏比に優れた高強度熱延鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240215BHJP
   C22C 38/04 20060101ALI20240215BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20240215BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
C22C38/00 301W
C22C38/04
C22C38/58
C21D9/46 T
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022538353
(86)(22)【出願日】2020-11-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-28
(86)【国際出願番号】 KR2020015769
(87)【国際公開番号】W WO2021125563
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-06-20
(31)【優先権主張番号】10-2019-0172004
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パク,キョンス
(72)【発明者】
【氏名】キム,ドゥクジュン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ハク‐ジュン
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-518596(JP,A)
【文献】特開2014-227583(JP,A)
【文献】特開2018-188675(JP,A)
【文献】特開2017-057472(JP,A)
【文献】特開2014-201781(JP,A)
【文献】特開2010-121191(JP,A)
【文献】特表2022-513993(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
C22C 38/04
C22C 38/58
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.12%以上0.3%未満、Si:0.5%以下(0除外)、Mn:0.1~2.5%、B:0.0005~0.005%、P:0.02%以下、S:0.01%以下、及びCr:0.5%以下及びTi:0.005~0.2%のうち1種以上をさらに含み、残りは鉄(Fe)及び不可避な不純物からなり、
微細組織は、95体積%以上のマルテンサイトを含み、
降伏強度が1,227MPa以上であり、
降伏比(降伏強度/引張強度)が0.75以上であり、
熱間連続圧延により製造され、冷間圧延及び熱処理の後工程省略が可能であることを特徴とする降伏比に優れた高強度熱延鋼板。
【請求項2】
前記微細組織は、フェライト、ベイナイト、残留オーステナイト及び炭化物のうち1種以上を合計5体積%以下で含むことを特徴とする請求項1に記載の降伏比に優れた高強度熱延鋼板。
【請求項3】
引張強度が1,250MPa以上であることを特徴とする請求項1に記載の降伏比に優れた高強度熱延鋼板。
【請求項4】
厚さが1.5mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の降伏比に優れた高強度熱延鋼板。
【請求項5】
降伏比に優れた高強度熱延鋼板の製造方法であって、
質量%で、C:0.12%以上0.3%未満、Si:0.5%以下(0除外)、Mn:0.1~2.5%、B:0.0005~0.005%、P:0.02%以下、S:0.01%以下、及びCr:0.5%以下及びTi:0.005~0.2%のうち1種以上をさらに含み、残りは鉄(Fe)及び不可避な不純物からなるスラブを再加熱する段階、
前記再加熱されたスラブを厚さ1.5mm以下で熱間連続圧延する段階、
前記熱間連続圧延の終了後5秒以内に熱延鋼板の冷却を開始して50~1,000℃/sの冷却速度で150~350℃の冷却終了温度まで冷却する段階、及び
前記冷却した熱延鋼板を巻取する段階を含み、
前記高強度熱延鋼板の微細組織は、95体積%以上のマルテンサイトを含み、
前記高強度熱延鋼板の降伏比(降伏強度/引張強度)が0.75以上であることを特徴とする降伏比に優れた高強度熱延鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車衝突部材用部品及び構造物支持台などの素材に用いられる熱延鋼板に係り、より詳しくは、熱処理及び冷間圧延などの後続工程を経ずに高強度特性を具備すると共に降伏比に優れた後工程省略型高強度熱延鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車衝突部材用部品及び構造物支持台などの素材に用いられる鋼材は、安全性の確保のために高強度特性が要求されるが、高い引張強度だけでなく高い降伏強度も要求される。鋼材の高強度化のために析出強化あるいは変態強化と関連した多様な研究が進行中である。
【0003】
熱延鋼板の強度を確保するための方法として次の特許文献が知られている。
【0004】
特許文献1は、合金元素の添加による析出強化によって強度を確保する技術を提案している。特許文献1は、Ti、Nb、V、Moなどの合金元素を添加して高強度特性を確保しようとするが、これら合金元素は、高価の元素であるので製造費用が過多に上昇して経済性の側面で好ましくない。
【0005】
特許文献2~4は、フェライトとマルテンサイト異常組織を用いるか、オーステナイトを残留させてフェライト、ベイナイト、マルテンサイトの複合組織を活用して強度と軟性を確保する技術を提案している。しかし、このようなフェライトや残留オーステナイトは、軟性は優秀であるが強度が劣位しているため、高強度特性を十分に確保できないという技術的難点が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】韓国公開特許第10-2005-0113247号公報
【文献】特開2005-298967号公報
【文献】米国特許出願公開第2005/0155673号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1396549号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的とするところは、降伏比に優れた後工程省略型高強度熱延鋼板及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の降伏比に優れた高強度熱延鋼板は、重量%で、C:0.12%以上0.3%未満、Si:0.5%以下(0除外)、Mn:0.1~2.5%、B:0.0005~0.005%、P:0.02%以下、S:0.01%以下、残りは鉄(Fe)及び不可避な不純物からなり、微細組織は、95体積%以上のマルテンサイトを含み、降伏比(降伏強度/引張強度)が0.75以上である。
【0009】
またCr:0.5%以下及びTi:0.005~0.2%のうち1種以上をさらに含むことができる。
【0010】
また、微細組織は、フェライト、ベイナイト、残留オーステナイト及び炭化物のうち1種以上を合計5体積%以下で含むことができる。
【0011】
また、引張強度が1,250MPa以上であってもよい。
【0012】
また、降伏強度が1,000MPa以上であってもよい。
【0013】
また、熱延鋼板の厚さは、1.5mm以下であってもよい。
【0014】
本発明の降伏比に優れた高強度熱延鋼板の製造方法は、重量%で、C:0.12%以上0.3%未満、Si:0.5%以下(0除外)、Mn:0.1~2.5%、B:0.0005~0.005%、P:0.02%以下、S:0.01%以下、残りは鉄(Fe)及び不可避な不純物からなるスラブを再加熱する段階、再加熱されたスラブを厚さ1.5mm以下で熱間連続圧延する段階、熱間連続圧延の終了後5秒以内に冷却を開始して50~1,000℃/sの冷却速度で冷却する段階、及び冷却した熱延鋼板を巻取する段階を含む。
【0015】
また、冷却する段階で冷却終了温度は150~350℃であってもよい。
【0016】
また、スラブは、Cr:0.5%以下及びTi:0.005~0.2%のうち1種以上をさらに含むことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、高強度であると同時に降伏比が向上した熱延鋼板及びその製造方法を提供することができる。
【0018】
また、熱処理及び冷間圧延などの後続工程を経ずに高強度特性を具備すると共に降伏比に優れた後工程省略型熱延鋼板及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施例による降伏比に優れた高強度熱延鋼板は、重量%で、C:0.12%以上0.3%未満、Si:0.5%以下(0除外)、Mn:0.1~2.5%、B:0.0005~0.005%、P:0.02%以下、S:0.01%以下、残りは鉄(Fe)及び不可避な不純物からなり、微細組織は、95体積%以上のマルテンサイトを含み、降伏比(降伏強度/引張強度)が0.75以上である。
【0020】
以下、本発明の実施例について添付図面を参照して詳細に説明する。以下の実施例は、本発明が属する技術分野において通常の知識を有した者に本発明の思想を十分に伝達するために提示するものである。本発明は、ここで提示した実施例に限定されず、他の形態で具体化できる。図面は、本発明を明確にするために説明と関係ない部分の図示を省略し、理解を助けるために構成要素のサイズを多少誇張して表現した。
【0021】
また、ある部分がある構成要素を「含む」と記載するとき、これは特に反対する記載のない限り、他の構成要素を除外するものではなく、他の構成要素をさらに含み得ることを意味する。
【0022】
本発明は、降伏比に優れた高強度熱延鋼板及びその製造方法に関するもので、以下では、本発明の好ましい実施例を説明しようとする。本発明の実施例は、様々な形態に変形され得、本発明の範囲が下で説明する実施例によって限定されるものであると解釈されてはいけない。本実施例は、当該発明が属する技術分野において通常の知識を有する者に本発明をより詳細に説明するために提供されるものである。
【0023】
本発明の実施例による降伏比に優れた高強度熱延鋼板は、重量%で、C:0.12%以上0.3%未満、Si:0.5%以下(0除外)、Mn:0.1~2.5%、B:0.0005~0.005%、P:0.02%以下、S:0.01%以下、残りは鉄(Fe)及び不可避な不純物からなる。
【0024】
以下、本発明の実施例での合金成分元素含量の数値限定理由に対して説明する。以下では特に言及しない限り、単位は重量%である。
【0025】
Cの含量は、0.12%以上0.3%未満である。
【0026】
Cは、鋼の強度向上に効果的に寄与する元素であるので、本発明は、熱延鋼板の強度の確保のために一定レベル以上のCを含むことができる。また、C含量が一定レベル以下である場合、熱間圧延後の冷却時に低温組織が多量形成されて本発明が目的とする微細組織を確保できないという問題が発生し得るので、本発明は、C含量の下限を0.12%に制限する。一方、Cが過多に添加される場合、強度は向上する一方、溶接性が低下する問題が発生し得るので、本発明は、C含量を0.30%未満に制限する。したがって、本発明のC含量は、0.12%以上0.30%未満の範囲であってもよい。
【0027】
Siの含量は、0超過0.5%以下である。
【0028】
Siは、酸素との親和力が強い元素であり、多量添加する場合、表面スケールによる表面品質の低下を誘発するために、溶接性の側面でも好ましくない。したがって、本発明は、Si含量の上限を0.5%に制限する。ただし、Siは、脱酸剤として作用するだけでなく鋼の強度向上に寄与する元素でもあるので、本発明は、Si含量の下限で0%を除外し得る。
【0029】
Mnの含量は、0.1~2.5%である。
【0030】
Mnは、鋼の強度及び硬化能の向上に効果的に寄与する元素である。また、Mnは、鋼の製造工程中に不可避に流入されるSと結合してMnSを形成するので、Sによるクラック発生を効果的に防止可能な元素でもある。したがって、本発明は、このような効果の達成のためにMn含量の下限を0.1%に制限する。ただし、Mnが過多に添加される場合、残留オーステナイトにより引張強度が低下する恐れがあるだけでなく溶接性及び経済性の側面で好ましくないので、本発明は、Mn含量の上限を2.5%に制限する。したがって、本発明のMn含量は、0.1~2.5%範囲であってもよい。
【0031】
Bの含量は、0.0005~0.005%である。
【0032】
Bは、鋼の硬化能の向上に効果的に寄与する元素であって、少量の添加でも熱間圧延後の冷却時にフェライト及びパーライトなど低温組織への変態を効果的に抑制可能である。したがって、本発明は、このような効果の達成のためにB含量の下限を0.0005%に制限する。一方、Bが過多に添加される場合、BがFeと反応して粒界脆性を誘発するために、本発明は、B含量の上限を0.005%に制限する。したがって、本発明のB含量は、0.0005~0.005%範囲であってもよい。
【0033】
Pの含量は、0.02%以下である。
【0034】
Pは、結晶粒界に偏析されて鋼の靭性低下を誘発する主要元素である。したがって、P含量をできるだけ低く制御することが好ましい。したがって、Pの含量を0%に制限することが理論上最も有利である。ただし、Pは、製鋼工程のうち鋼に不可避に流入される不純物であって、その含量を0%に制御するには過度な工程負荷が誘発される。したがって、本発明は、このような点を考慮してP含量の上限を0.02%に制限する。
【0035】
Sの含量は、0.01%以下である。
【0036】
Sは、MnSを形成して析出物量を増加させ、鋼を脆化させる主要元素である。したがって、S含量をできるだけ低く制御することが好ましい。したがって、Sの含量を0%に制限することが理論上最も有利である。ただし、Sも製鋼工程のうち鋼に不可避に流入される不純物であって、その含量を0%に制御するには過度な工程負荷が誘発される。したがって、本発明は、このような点を考慮してS含量の上限を0.01%に制限する。
【0037】
また、本発明の一実施例によると、Cr:0.5%以下及びTi:0.005~0.2%のうち1種以上をさらに含むことができる。
【0038】
Crの含量は、0.5%以下である。
【0039】
Crは、鋼の硬化能の形成に寄与する元素なので、本発明は、このような効果を達成するためにCrをさらに含むことができる。ただし、高価の元素であるCrの過多添加は経済的な側面で好ましくなく、Crが過多に添加される場合、溶接性を低下させるために、本発明は、Cr含量の上限を0.5%に制限できる。
【0040】
Tiの含量は、0.005~0.2%である。
【0041】
一般的に、Tiは、C及びNと結合して炭化物及び窒化物を形成することが知られている元素である。本発明は、硬化能の確保のためにBを鋼中に必須的に添加するが、鋼中に含まれたNとBが結合する場合、本発明が目的とするB添加効果を達成することができなくなる。一方、Tiが添加される場合、Bと結合する前のNがTiと結合して窒化物を形成するので、B添加効果をより効果的に向上させる。したがって、本発明は、このような効果を達成するために0.005%以上のTiを添加することができる。ただし、Tiが過度に添加される場合、スラブの製造段階で連鋳性が低下する問題が発生するので、本発明は、Ti含量の上限を0.2%に制限できる。したがって、本発明のTi含量は、0.005~0.2%範囲であってもよい。
【0042】
上述した合金元素を除外した琺瑯用鋼板の残りは、Fe及びその他不可避な不純物からなる。言及した鋼の組成以外の他の組成の添加を全面的に排除することではない。
【0043】
本発明の発明者らは、後工程を省略しても高い強度及び降伏比が確保可能な条件に対して研究を行った。従来では、高い強度及び降伏比を確保するためには、熱処理及び冷間圧延などの後工程を実施する必要があると認識されていたが、鋭意研究した結果、鋼の微細組織の種類だけでなく特定の微細組織の分率の制御により高い強度及び降伏比を同時に確保することができた。
【0044】
本発明の一実施例によると、微細組織は、95体積%以上のマルテンサイトを含み、フェライト、ベイナイト、残留オーステナイト及び炭化物のうち1種以上を合計5体積%以下で含むことができる。
【0045】
マルテンサイトを基地組織として含み、マルテンサイトの分率は、全体熱延鋼板の体積に対して95体積%以上であってもよい。本発明は、硬質組織であるマルテンサイトを95%以上含むので、高い強度及び降伏比を同時に確保することができる。マルテンサイト以外の組織が含まれることを全面的に排除することではない。ただし、フェライト、ベイナイト、炭化物及び残留オーステナイトなどは、強度確保に好ましくないので、その合計分率を5体積%以下に制限することができ、より好ましくは、その合計分率を3体積%以下に厳格に制限できる。また、熱延鋼板は、上述した組織外にセメンタイト及び析出物などを残部組織としてさらに含むことができる。
【0046】
本発明の一実施例によると、熱延鋼板の降伏比(降伏強度/引張強度)は、0.75以上であり、1,250MPa以上の引張強度(TS)及び1,000MPa以上の降伏強度(YS)を満足することができる。
【0047】
また、本発明の熱延鋼板は、その厚さが特に制限されるものではないが、優れた強度及び加工性を具備して薄物化を通じて最終製品の経済性及び軽量性の確保に効果的に寄与することができる。したがって、本発明の一実施例による熱延鋼板厚さは、1.5mm以下であってもよく、より好ましい厚さは、1.4mm以下であってもよい。
【0048】
次に、本発明の一実施例による降伏比にする高強度熱延鋼板の製造方法に対して説明する。
【0049】
本発明の一実施例による降伏比に優れた高強度熱延鋼板の製造方法は、重量%で、C:0.12%以上0.3%未満、Si:0.5%以下(0除外)、Mn:0.1~2.5%、B:0.0005~0.005%、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Cr:0.5%以下及びTi:0.005~02%のうち1種以上、残りは鉄(Fe)及び不可避な不純物からなるスラブを再加熱する段階、再加熱されたスラブを熱間連続圧延する段階、熱間圧延の終了後5秒以内に冷却を開始して50~1,000℃/sの冷却速度で冷却する段階、及び冷却した熱延鋼板を巻取する段階を含む。
【0050】
上述した鋼組成のスラブを再加熱して熱間圧延する。通常のスラブ製造工程によって製造されたスラブは、一定温度範囲で再加熱され得る。十分な均質化処理のために再加熱温度の下限を1,050℃に制限することができ、経済性及び表面品質を考慮して再加熱温度の上限を1,350℃に制限することができる。
【0051】
再加熱されたスラブは、熱間連続圧延によって1.5mm以下の厚さで仕上げ圧延することができる。本発明は、熱間圧延による薄い厚さの熱延鋼板を製造しようとするので、先行材と後行材を分離せずに連続的に圧延する連続圧延で行う。連続的に圧延する連続圧延は、熱延鋼板の厚さ確保の側面でより好ましい。圧延荷重制御及び表面スケールの低減のために仕上げ圧延温度は、800~950℃の範囲であってもよい。
【0052】
熱間圧延直後、熱延鋼板に対して急冷を実施する。熱間連続圧延の終了後、5秒以内に冷却を開始することができる。本発明は、熱延鋼板の微細組織を厳格に制御しようとするところ、冷却は、熱間圧延直後5秒以内に開始することが好ましい。熱間圧延後冷却開始時点までの時間が5秒を超過する場合、大気中での空冷により本発明が意図しないフェライト、パーライト、ベイナイトが形成され得るためである。熱間圧延後冷却開始時点までのより好ましい時間は、3秒以内であってもよい。
【0053】
熱延鋼板の冷却は、50~1,000℃/sの冷却速度で150~350℃の冷却終了温度まで行われ得る。冷却速度が50℃/s未満である場合、冷却中フェライト、パーライト又はベイナイトへの変態が起きるようになるので、本発明が目的とする微細組織を確保できないという問題点が存在する。本発明は、目的とする微細組織の確保のために冷却速度の上限を特に限定しないが、設備限界及び経済性を考慮して冷却速度の上限を1,000℃/sに制限できる。また、冷却終了温度が150℃未満である場合、降伏強度を十分に確保できないため、降伏比が低くなり、350℃を超過する場合もフェライト、パーライト又はベイナイトへの変態が不可避なので、本発明が目的とする微細組織を確保できないという問題点が存在する。
【0054】
その後、冷却した熱延鋼板を巻取することができる。
【0055】
以上の製造方法によって製造された熱延鋼板は、熱処理及び冷間圧延などの後工程を実施せずに1,250MPa以上の引張強度(TS)及び1,000MPa以上の降伏強度(YS)を確保でき、降伏比(降伏強度/引張強度)を0.75以上のレベルに確保できるので、後工程の省略が可能である。
【0056】
以下、本発明の好ましい実施例を通じてより詳しく説明する。
【0057】
実施例
【0058】
下記表1の組成を有するスラブを製造した後、下記表2の条件を用いて熱延鋼板試験片を製造した。それぞれのスラブは、通常の製造方法によって製造され、1,050~1,350℃の温度範囲で再加熱して均質化処理した。熱間圧延は、連続圧延で実施した。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
表2の条件で製造された各試験片に対して微細組織及び機械的物性を測定して下表3に示した。微細組織は、光学顕微鏡及び走査電子顕微鏡を用いて測定した後、イメージ分析を通じて評価した。機械的物性のうち引張強度は、DIN規格を用いてC方向に引張試験を実施して評価した。
【0062】
【表3】
【0063】
本発明の合金組成及び製造条件を全て満足する実施例1~5、8~11の場合、95体積%以上のマルテンサイト分率及び0.75以上の降伏比(降伏強度/引張強度)を全て満足することが確認できた。また、実施例1~11は、1,250MPa以上の引張強度及び1,000MPa以上の降伏強度を全て満足することが確認できた。
【0064】
一方、本発明の合金組成及び製造条件のうちいずれか一つ以上を満足しない比較例1~10の場合、マルテンサイトの分率が95体積%未満であるか、降伏比(降伏強度/引張強度)が0.75未満を示した。
【0065】
具体的に、比較例1は、冷却終了温度が150℃未満と低く、降伏比に劣ることが確認できる。
【0066】
比較例2は、圧延終了後冷却開始までの時間が5秒を超過する場合であって、本発明が目的とするマルテンサイト分率を確保することができず、引張強度と降伏強度に劣ることが確認できる。
【0067】
比較例3は、圧延終了後冷却開始までの時間が5秒を超過するだけでなく冷却終了温度が150℃未満と低い場合であって、引張強度、降伏強度及び降伏比の全てに劣ることが確認できる。
【0068】
比較例4は、冷却速度が低い場合であり、比較例5は、冷却終了温度が高い場合であって、マルテンサイトへの変態が十分に起きず、本発明が目的とする引張強度及び降伏強度を確保することができなかった。
【0069】
比較例6は、冷却終了温度が低い場合であって、降伏比が劣位して現われることが確認できた。
【0070】
比較例7は、Cの含量が低い場合であり、比較例8は、Bの含量が低い場合であって、マルテンサイト分率が50体積%にも及ばないレベルで現われて引張強度及び降伏強度に劣ることが確認できた。
【0071】
比較例9は、Mnの含量が高い場合であって、マルテンサイトへの変態が十分に起きないため残留オーステナイトが形成され、引張強度には優れる一方、降伏比に劣ることが確認できた。
【0072】
比較例10は、Tiが添加されるが、その含量が低い場合であって、マルテンサイトへの変態が十分に起きないため、引張強度及び降伏比に劣ることが確認できた。
【0073】
以上、本発明の例示的な実施例を説明したが、本発明はこれに限定されず、該当技術分野において通常の知識を有した者であれば、次に記載する特許請求の範囲の概念と範囲を脱しない範囲内で多様に変更及び変形が可能であることを理解すべきである。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明による熱延鋼板は、熱処理及び冷間圧延などの後続工程を経ずに降伏比及び強度を確保することができるので、自動車の衝突部材用部品及び構造物支持台などの素材に適用が可能である。