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特許7437570窒化ケイ素粉末及びその製造方法、並びに、窒化ケイ素焼結体の製造方法
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  • 特許-窒化ケイ素粉末及びその製造方法、並びに、窒化ケイ素焼結体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】窒化ケイ素粉末及びその製造方法、並びに、窒化ケイ素焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/591 20060101AFI20240215BHJP
   C04B 35/626 20060101ALI20240215BHJP
   C01B 21/068 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
C04B35/591
C04B35/626
C01B21/068 D
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023550660
(86)(22)【出願日】2023-03-14
(86)【国際出願番号】 JP2023009857
【審査請求日】2023-08-22
(31)【優先権主張番号】P 2022060115
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】中村 祐三
(72)【発明者】
【氏名】宮下 敏行
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-162511(JP,A)
【文献】国際公開第2007/018050(WO,A1)
【文献】特開2007-189112(JP,A)
【文献】特開昭63-319264(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/584-35/596
C01B 21/068
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ケイ素及び炭素を含む窒化ケイ素粉末であって、
粉末全体に対する前記炭素の質量比率Cpが0.05%以上であり、
粉末全体に対する酸素の質量比率Opが0.3~1.6%であり、
前記粉末全体に対する前記粉末の表面部に含まれる炭素の質量比率Csが0.05%以下であり、
前記粉末全体に対する前記粉末の前記表面部に含まれる酸素の質量比率Osと、前記質量比率Csとが、下記式(I)を満たす、窒化ケイ素粉末。
Os/Cs≧10 (I)
(但し、前記質量比率Csは、前記窒化ケイ素粉末を大気雰囲気中、10℃/秒の昇温速度で20℃から1000℃まで昇温し、1000℃で15分間保持し、その間に生成する一酸化炭素及び二酸化炭素を赤外線検出器で検出して求められる。前記質量比率Osは、前記窒化ケイ素粉末をヘリウムガスの雰囲気中、8℃/秒の昇温速度で20℃から2000℃まで加熱し、窒素が検出される前までの酸素量を酸素・窒素分析装置で測定して求められる。)
【請求項2】
前記粉末全体に対する前記粉末の内部に含まれる、下記式(II)で求められる炭素の質量比率Ciに対する前記質量比率Csの比が0.6以下である、請求項1に記載の窒化ケイ素粉末。
Ci[%]=Cp[%]-Cs[%] (II)
【請求項3】
粉末全体に対する前記炭素の質量比率Cpが0.16%以下である、請求項1記載の窒化ケイ素粉末。
【請求項4】
前記粉末全体に対する前記粉末の前記表面部に含まれる酸素の前記質量比率Osが0.9%以下である、請求項1に記載の窒化ケイ素粉末。
【請求項5】
BET比表面積が10~14m/gである、請求項1に記載の窒化ケイ素粉末。
【請求項6】
α率が94%以上である、請求項1に記載の窒化ケイ素粉末。
【請求項7】
ケイ素粉末と有機バインダとを含む混錬物を成形して成形体を得る工程と、
前記成形体を900℃以上1100℃未満で1時間以上加熱して脱脂する工程と、
前記成形体を、窒素と水素及びアンモニアからなる群より選ばれる少なくとも一つとを含む混合雰囲気下で焼成して窒化ケイ素と炭素とを含む焼成物を得る工程と、
前記焼成物を粉砕する工程と、を有する、窒化ケイ素粉末の製造方法。
【請求項8】
前記窒化ケイ素粉末は、粉末全体に対する炭素の質量比率Cpが0.05%以上であり、前記粉末全体に対する前記粉末の表面部に含まれる炭素の質量比率Csが0.05%以下である、請求項7に記載の窒化ケイ素粉末の製造方法。
(但し、前記質量比率Csは、前記窒化ケイ素粉末を大気雰囲気中、10℃/秒の昇温速度で20℃から1000℃まで昇温し、1000℃で15分間保持し、その間に生成する一酸化炭素及び二酸化炭素を赤外線検出器で検出して求められる。)
【請求項9】
請求項1~6のいずれか一項に記載の窒化ケイ素粉末、又は請求項7又は8に記載の製造方法で得られる窒化ケイ素粉末を含む焼結原料を用いて窒化ケイ素焼結体を得る工程を有する、窒化ケイ素焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化ケイ素粉末及びその製造方法、並びに、窒化ケイ素焼結体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ケイ素は、強度、硬度、靭性、耐熱性、耐食性、耐熱衝撃性等に優れた材料である。このため、窒化ケイ素焼結体は、ダイカストマシン及び溶解炉等の各種産業用の部品、及び自動車部品等に利用されている。また、窒化ケイ素焼結体は、高温における機械的特性にも優れることから、高温強度、高温クリープ特性が求められるガスタービン部品に用いることが検討されている。
【0003】
焼結原料である窒化ケイ素粉末に含まれる炭素及び酸素が、窒化ケイ素焼結体の強度に影響を及ぼすことが知られている。特許文献1では、高い強度を有する窒化ケイ素焼結体を得るために、イミド分解法で得られた窒化ケイ素粉末を用いて酸素及び炭素の量を低減することが提案されている。また、特許文献2では、β分率が30~100%であり、酸素量が0.5重量%未満である窒化ケイ素質の粉末を用いて、高い曲げ強度を有する窒化ケイ素質焼結体を得る技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-193914号公報
【文献】特開2004-262756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
窒化ケイ素焼結体は強度に優れることから種々の用途に用いられているが、軽量であれば、例えば車両等のエネルギー効率の向上に寄与することができる。また、構造材料としても軽量である方が容易に設置できるうえに、構造体自体の耐久性も向上する。そこで、本開示は、製造コストが低く低密度で高強度を有する窒化ケイ素焼結体及びその製造方法を提供する。また、低い製造コストで、低密度で高強度を有する窒化ケイ素焼結体を製造することが可能な窒化ケイ素粉末及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面は、窒化ケイ素及び炭素を含む窒化ケイ素粉末であって、粉末全体に対する炭素の質量比率Cpが0.05%以上であり、粉末全体に対する粉末の表面部に含まれる炭素の質量比率Csが0.05%以下である、窒化ケイ素粉末を提供する。
【0007】
上記窒化ケイ素粉末は、粉末全体に対する炭素の質量比率Cpが所定値以上であることから、低コストの製造方法で製造することができる。また、粉末の表面部に含まれる炭素の質量比率Csが所定値以下であるため、焼結原料として用いたときに窒化ケイ素のβ相が生じやすい。柱状結晶のβ相はα相よりも緻密化し難い傾向にあるものの、α相よりも強度が高い。したがって、低密度(例えば、相対密度:95%以下)で高強度を有する窒化ケイ素焼結体を低い製造コストで製造することができる。
【0008】
上記窒化ケイ素粉末において、粉末全体に対する粉末の内部に含まれる炭素の質量比率Ciに対する質量比率Csの比は0.6以下であってよい。このような窒化ケイ素粉末は、粉末の表面部に含まれる炭素が少ないため、焼結原料として用いると、液相焼結の際にβ相が一層生じやすくなる。また、粉末の内部の炭素は炭化ケイ素を生成して窒化ケイ素と複合化する。このような要因によって、一層密度が低く且つ一層高強度の窒化ケイ素焼結体を得ることができる。
【0009】
上記窒化ケイ素粉末において、粉末全体に対する粉末の表面部に含まれる酸素の質量比率Osと、炭素の質量比率Csとが、下記式(I)を満たしてよい。このような窒化ケイ素粉末は、表面部において炭素に対する酸素の割合が十分に大きいため、焼結原料として用いたときに液相焼結を促進することができる。したがって、粒界強度が向上し、十分に高い強度を有する窒化ケイ素焼結体を得ることができる。
Os/Cs≧10 (I)
【0010】
上記窒化ケイ素粉末において、粉末全体に対する粉末の表面部に含まれる酸素の質量比率Osは0.9%以下であってよい。このような窒化ケイ素粉末は、焼結原料として用いたときに過剰な緻密化を抑制し、窒化ケイ素焼結体の密度が高くなり過ぎることを抑制できる。
【0011】
上記窒化ケイ素粉末のBET比表面積は10~14m/gであってよい。このような窒化ケイ素粉末は、焼結原料として用いたときに焼結が円滑に進行する。また、窒化ケイ素焼結体の微細組織の均一性を向上することができる。したがって、窒化ケイ素焼結体の強度等の特性のばらつきを低減することができる。
【0012】
上記窒化ケイ素粉末のα率(α相の割合)は94%以上であってよい。このような窒化ケイ素粉末は焼結し易くなるうえに、β相が生じることによって強度が向上しやすくなる。したがって、窒化ケイ素焼結体の密度を十分に低く維持しつつ、強度を十分に高くすることができる。
【0013】
本開示の一側面は、ケイ素粉末と有機バインダとを含む混錬物を成形して成形体を得る工程と、成形体を900℃以上1100℃未満で1時間以上加熱して脱脂する工程と、成形体を、窒素と、水素及びアンモニアからなる群より選ばれる少なくとも一つと、を含む混合雰囲気下で焼成して窒化ケイ素と炭素とを含む焼成物を得る工程と、焼成物を粉砕する工程と、を有する、窒化ケイ素粉末の製造方法を提供する。
【0014】
上述の製造方法では、ケイ素粉末と有機バインダとを含む混錬物を用いて、窒化ケイ素粉末を製造している。このため、有機バインダに由来する炭素が窒化ケイ素粉末に残存する。ただし、混錬物の成形体を900℃以上1100℃未満で1時間以上加熱して脱脂する。このため、有機バインダの大部分は飛散し、ケイ素粒子の表面部における炭素量を低減することができる。一方で、ケイ素粒子の内部に元々含まれていた炭素、及び加熱によってケイ素粒子の内部に拡散した炭素は、窒化ケイ素粒子の粒内に残存すると考えられる。このような製造方法では、ケイ素粒子が多少の不純物を含んでいてもよいことから、低い製造コストで窒化ケイ素粉末を製造することができる。また、このような窒化ケイ素粉末を焼結原料として用いると、粉末の表面部に含まれる炭素が十分に低減されているため、焼結の際に窒化ケイ素のβ相が生じやすい。柱状結晶のβ相はα相よりも緻密化し難い傾向にあるものの、α相よりも強度が高い。したがって、低密度(例えば、相対密度:95%以下)で高強度を有する窒化ケイ素焼結体を低い製造コストで得ることができる。
【0015】
上述の製造方法では、窒化ケイ素粉末は、粉末全体に対する炭素の質量比率Cpが0.05%以上であり、粉末全体に対する粉末の表面部に含まれる炭素の質量比率Csが0.05%以下であってよい。
【0016】
本開示の一側面は、曲げ強さが700MPa以上であり、かさ密度に対する曲げ強さの比が240MPa・cm/g以上である窒化ケイ素焼結体を提供する。このような窒化ケイ素焼結体は、低密度で高強度を有する。このため、例えば車両又は構造体の部材として好適に用いることができる。
【0017】
本開示の一側面は、上述のいずれかの窒化ケイ素粉末を含む焼結原料を用いて窒化ケイ素焼結体を得る工程を有する、窒化ケイ素焼結体の製造方法を提供する。この製造方法では上述のいずれかの窒化ケイ素粉末を含む焼結原料を用いることから、低密度でありつつも、高強度を有する窒化ケイ素焼結体を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
製造コストが低く低密度で高強度を有する窒化ケイ素焼結体及びその製造方法を提供することができる。低い製造コストで、低密度で高強度を有する窒化ケイ素焼結体を製造することが可能な窒化ケイ素粉末及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】酸素・窒素分析チャートの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示の実施形態を説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。なお、「~」の記号で示される数値範囲は、下限値及び上限値を含む。すなわち、「x~y」で示される数値範囲は、x以上且つy以下を意味する。各実施形態における各数値範囲の上限又は下限をいずれかの実施例の数値で置き換えた数値範囲も本開示に含まれる。各実施形態において並列に例示される複数の材料の一つを単独で含む場合と、複数の材料の二つ以上を組み合わせて含む場合の両方が、本開示に含まれる。
【0021】
一実施形態に係る窒化ケイ素粉末(Si粉末)は、窒化ケイ素及び炭素を含む窒化ケイ素粉末であって、粉末全体に対する炭素の質量比率Cp(全炭素量)が0.05%以上であり、粉末全体に対する粉末の表面部に含まれる炭素の質量比率Csが0.05%以下である。窒化ケイ素粉末に含まれる炭素は単体として含まれていてもよいし、例えば有機バインダに含まれるような有機化合物として含まれていてもよい。有機化合物のように化合物として含まれている場合、炭素の質量比率は、化合物を炭素換算して求められる。
【0022】
上記窒化ケイ素粉末は、炭素の質量比率Cp(全炭素量)が0.05%以上であることから、製造コストが高いイミド分解法を用いなくても製造することができる。また、原料に含まれる不純物の許容レベルも高い。したがって、低い製造コストで製造することができる。
【0023】
窒化ケイ素粉末全体に対する、窒化ケイ素粉末に含まれる炭素の質量比率Cpは、0.05%を超えてよく、0.07%以上であってよく、0.09%以上であってもよい。これによって、製造コストを一層低くすることができる。また、焼結原料として用いたときに炭化ケイ素(SiC)が生成して窒化ケイ素と炭化ケイ素が複合化するため、窒化ケイ素焼結体の高い強度を維持することができる。
【0024】
窒化ケイ素粉末全体に対する、窒化ケイ素粉末に含まれる炭素の質量比率Cpは、0.16%以下であってよく、0.13%以下であってもよい。これによって、焼結原料として用いたときにβ相が一層生成し易くなり、窒化ケイ素焼結体の密度を低く維持しつつ強度をさらに向上することができる。粉末全体に対する炭素の質量比率Cpの範囲の一例は、0.05%~0.16%である。
【0025】
窒化ケイ素粉末全体に対する、窒化ケイ素粉末の表面部に含まれる炭素の質量比率Csは、窒化ケイ素粉末の表面部に含まれる炭素の質量を窒化ケイ素粉末全体の質量で除して求められる。窒化ケイ素粉末全体に対する、窒化ケイ素粉末の内部に含まれる炭素の質量比率Ciは、窒化ケイ素粉末の内部に含まれる炭素の質量を窒化ケイ素粉末全体の質量で除して求められる。したがって、質量比率Cp、Cs,Ciには以下の式(II)が成立する。
Cp[%]=Cs[%]+Ci[%] (II)
【0026】
粉末全体に対する粉末の表面部に含まれる炭素の質量比率Csは、0.05%未満であってよく、0.04%以下であってよく、0.03%以下であってもよい。このように表面部に含まれる炭素を十分に少なくすることによって、粉末の表面部に含まれる酸素との反応が抑制され、液相焼結が円滑に進行する。また、焼結の際にβ相が生成し易くなって過剰な緻密化が抑制され、低密度で一層高い強度を有する窒化ケイ素焼結体を得ることができる。粉末全体に対する粉末の表面部に含まれる炭素の質量比率Csの下限は、製造コストを十分に低減する観点から、0.005%であってもよい。
【0027】
粉末全体に対する粉末の内部に含まれる炭素の質量比率Ciは、0.05%~0.15%であってよく、0.08%~0.12%であってもよい。このような質量比率Ciであれば、質量比率Cpと質量比率Csのバランスを十分に良好にすることができる。
【0028】
質量比率Ciに対する質量比率Csの比(Cs/Ci)は、0.6以下であってよく、0.5以下であってよく、0.3以下であってもよい。このような窒化ケイ素粉末は、粉末の表面部に含まれる炭素が少ないため、焼結原料として用いると、液相焼結の際にβ相が一層生じやすくなる。また、粉末の内部の炭素は炭化ケイ素を生成して窒化ケイ素と複合化する。このような要因によって、一層密度が低く且つ一層高強度の窒化ケイ素焼結体を得ることができる。上記比(Cs/Ci)は、製造コストを一層低減する観点から、0.05以上であってよい。上記比(Cs/Ci)の数値範囲の一例は、0.05~0.6である。
【0029】
本明細書における質量比率Cp、Cs、Ciは以下の手順で求められる。窒化ケイ素粉末の炭素量は、炭素・硫黄分析装置を用いて分析することができる。測定用の粉末試料を、酸素雰囲気中、10℃/秒の昇温速度で20℃から2000℃まで昇温する。昇温に伴って、脱離する炭素は酸素と結合して一酸化炭素又は二酸化炭素となる。窒化ケイ素は1400℃を超えると分解するので、粉末の表面及び内部の炭素は、全て一酸化炭素又は二酸化炭素となる。このようにして生成した一酸化炭素及び二酸化炭素を赤外線検出器で検出することによって、窒化ケイ素粉末全体に含まれる炭素の質量比率Cpを求めることができる。
【0030】
粉末全体に対する粉末の表面部に含まれる炭素の質量比率Csは、大気雰囲気中、窒化ケイ素が分解しない温度まで加熱して測定する。具体的には、10℃/秒の昇温速度で20℃から1000℃まで昇温し、1000℃で15分間保持する。この場合、窒化ケイ素粉末の表面部に含まれる炭素のみが酸素と結合して一酸化炭素又は二酸化炭素となる。このようにして生成した一酸化炭素及び二酸化炭素を赤外線検出器で検出することによって、窒化ケイ素粉末の表面部に含まれる炭素の質量比率Csを求めることができる。
【0031】
粉末全体に対する粉末の内部に含まれる炭素の質量比率Ciは、上述の手順で求めた質量比率Cp、Csを用いて上記式(II)から算出することができる。窒化ケイ素粉末に含まれる炭素は、原料として用いるケイ素粉末に由来するものであってもよいし、直接窒化法のプロセスで用いる有機バインダに由来するものであってもよい。脱脂時の加熱温度を高く又は加熱時間を長くすれば、表面部に含まれる炭素の質量比率Csを小さくすることができる。またこれに伴って、粉末全体の炭素の質量比率Cpも小さくすることができる。一方、炭素の含有量が少ないケイ素粉末を用いれば、粉末の内部に含まれる炭素の質量比率Ciを小さくすることができる。また、これに伴って、粉末全体の炭素の質量比率Cpも小さくすることができる。
【0032】
窒化ケイ素粉末全体に対する、粉末の表面部に含まれる酸素の質量比率Osは、0.9%以下であってよく、0.7%以下であってよく、0.5%以下であってもよい。このような窒化ケイ素粉末は、焼結原料として用いたときに過剰な緻密化を抑制し、窒化ケイ素焼結体の密度が高くなり過ぎることを抑制できる。窒化ケイ素粉末全体に対する、粉末の表面部に含まれる酸素の質量比率Osは、0.1%以上であってよく、0.2%以上であってよく、0.3%以上であってもよい。このような窒化ケイ素粉末は、焼結原料として用いたときに液相焼結によって十分に緻密化する。粉末の表面部に含まれる酸素の質量比率Osの範囲の一例は、0.1%~0.9%である。
【0033】
窒化ケイ素粉末全体に対する、粉末の内部に含まれる酸素の質量比率Oiは、0.7%以下であってよく、0.6%以下であってよく、0.5%以下であってもよい。このような窒化ケイ素粉末を焼結原料として用いると、十分に高い熱伝導率を有する窒化ケイ素焼結体を得ることができる。窒化ケイ素粉末全体に対する、粉末の内部に含まれる酸素の質量比率Oiは、0.1%以上であってよく、0.2%以上であってよく、0.3%以上であってもよい。このような窒化ケイ素粉末は、比較的容易に製造することができる。粉末の内部に含まれる酸素の質量比率Oiの範囲の一例は、0.1%~0.7%である。
【0034】
窒化ケイ素粉末全体に対する酸素の質量比率Op(全酸素量)は、0.3%~1.6%であってよく、0.5%~1.3%であってよく、0.6%~1.1%であってもよい。このような窒化ケイ素粉末は、直接窒化法による製造が比較的容易であるうえに、窒化ケイ素粉末の内部及び表面部に含まれる酸素の質量比率Oi、質量比率Osを、上述の範囲に調整し易いという利点を有する。
【0035】
窒化ケイ素粉末における酸素は、二酸化ケイ素(SiO)として含まれていてよい。酸素の各含有量は、このような酸化物を酸素換算して求められる。窒化ケイ素粉末の表面部に含まれる酸素の質量比率Osは、弗化水素を用いた表面処理の条件及び時間を変えることによって調節することができる。例えば、このような表面処理の時間を長くすれば、質量比率Osを小さくすることができる。また、これに伴って窒化ケイ素粉末全体の酸素の質量比率Opも小さくすることができる。
【0036】
窒化ケイ素粉末の内部に含まれる酸素の質量比率Oiは、例えば、直接窒化法の原料として用いるケイ素粉末の酸素含有量によって調整することができる。例えば、酸素含有量が小さいケイ素粉末を用いれば、窒化ケイ素粉末の内部に含まれる酸素の質量比率Oiを小さくすることができる。また、これに伴って窒化ケイ素粉末全体の酸素の質量比率Opも小さくすることができる。
【0037】
酸素の質量比率Op(全酸素量)は、窒化ケイ素粉末全体に含まれる酸素の質量を、窒化ケイ素粉末の質量で除して求められる。酸素の質量比率Osは、窒化ケイ素粉末の表面部に含まれる酸素の質量を窒化ケイ素粉末全体の質量で除して求められる。酸素の質量比率Oiは、窒化ケイ素粉末の内部に含まれる酸素の質量を窒化ケイ素粉末全体の質量で除して求められる。したがって、質量比率Op,Os,Oiには以下の式(III)が成立する。
Op[%]=Os[%]+Oi[%] (III)
【0038】
本明細書における窒化ケイ素粉末の酸素の質量比率Op,Os,Oiは、酸素・窒素分析装置を用いて以下の手順で求められる。測定用の試料を、ヘリウムガスの雰囲気中、8℃/秒の昇温速度で20℃から2000℃まで昇温する。昇温に伴って、脱離する酸素を検知する。昇温当初は、窒化ケイ素粉末の表面に結合している酸素が脱離する。脱離する酸素量を定量することで表面部に含まれる酸素の質量比率Osが求められる。
【0039】
その後、温度が1400℃近傍に到達すると、窒化ケイ素が分解し始める。窒化ケイ素の分解開始は、窒素の検出開始によって把握することができる。窒化ケイ素が分解し始めると、窒化ケイ素粉末の内部にある酸素が脱離する。この段階で脱離する酸素を定量することで内部に含まれる酸素の質量比率Oiが求められる。酸素の質量比率Opは、上記式(III)と、上述の手順で求めた酸素の質量比率Os,Oiから算定することができる。
【0040】
図1は、窒化ケイ素の酸素・窒素分析によって得られるチャートの一例である。ピーク1が窒化ケイ素粉末の表面部に含まれる酸素のピークであり、ピーク2が窒化ケイ素粉末の内部に含まれる酸素のピークである。ピーク3は窒素のピークである。直線4は昇温直線を示している。ピーク1とピーク2は、窒素が発生し始める温度Tで区画される。温度Tは、ピーク3の検知が開始される温度であり、通常は1350~1500℃の間にある。ピーク1の検知が開始される温度(ピーク1の左端の温度)は、例えば600~1000℃である。ピーク2の検知が終了する温度(ピーク2の右端の温度)は、例えば1600~1800℃である。ピーク1,2の積算値(面積)から、検量線に基づいて内部に含まれる酸素の質量比率Oiと表面部に含まれる酸素の質量比率Osが求められる。また、酸素の質量比率Oiと酸素の質量比率Osの合計が、窒化ケイ素粉末全体に含まれる酸素の質量比率Opとなる。
【0041】
炭素の質量比率Csに対する酸素の質量比率Osの比(Os/Cs)は、下記式(I)を満たしてよい。これによって、このような窒化ケイ素粉末は、表面部において炭素に対する酸素の割合が十分に大きいため、焼結原料として用いたときに液相焼結を促進することができる。したがって、窒化ケイ素焼結体の粒界強度が向上する。
Os/Cs≧10 (I)
【0042】
窒化ケイ素焼結体の粒界強度向上の観点から、比(Os/Cs)は、15以上であってよく、20以上であってもよい。一方、過剰な緻密化を抑制する観点から、比(Os/Cs)は、70以下であってよく、50以下であってもよい。比(Os/Cs)の範囲の例は、10~70、又は15~70である。
【0043】
窒化ケイ素粉末のBET比表面積は10~14m/gであってよい。このような窒化ケイ素粉末は、焼結原料として用いたときに焼結が円滑に進行する。また、窒化ケイ素焼結体の微細組織の均一性を向上することができる。したがって、窒化ケイ素焼結体の強度等の特性のばらつきを低減することができる。同様の観点から、窒化ケイ素粉末のBET比表面積は11~13m/gであってよい。
【0044】
本明細書におけるBET比表面積は、JIS Z 8830:2013「ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法」に記載の方法に準拠し、窒素ガスを使用してBET一点法により測定される値である。BET比表面積は、直接窒化法のプロセスであれば、窒化後の焼成物を粉砕する際の粉砕条件を変えることによって調整することができる。
【0045】
窒化ケイ素粉末のα率は、94%以上であってよい。このような窒化ケイ素粉末を焼結原料として用いたときにβ相が一層生じやすくなる。したがって、窒化ケイ素焼結体の密度を十分に低く維持しつつ、強度を十分に高くすることができる。なお、製造コストを一層低減する観点から、窒化ケイ素粉末のα率は、97%以下であってよく、96%以下であってもよい。窒化ケイ素粉末のα率は、X線回折の回折線強度に基づいて求めることができる。窒化ケイ素粉末のα率は、直接窒化法のプロセスであれば、窒化する際の加熱条件を変えることによって調整することができる。例えば、加熱温度を高くすれば、β相が生成し、α率が低くなる傾向にある。
【0046】
窒化ケイ素粉末の平均粒子径(D50、メディアン径)は、0.5~1.2μmであってよく、0.6~0.9μmであってもよい。本明細書における粒子径分布は、JIS Z 8825:2013「粒子径解析-レーザー回折・散乱法」に記載の方法に準拠して測定される。横軸を対数目盛の粒子径[μm]、縦軸を頻度[体積%]として示される粒子径分布(累積分布)において、小粒径からの積算値が全体の50%に達したときの粒子径が上述の平均粒子径(D50)である。
【0047】
上記粒子径分布において、小粒径からの積算値が全体の10%に達したときの粒子径(D10)は、0.1~0.45μmであってよい。上記粒子径分布において、小粒径からの積算値が全体の90%に達したときの粒子径(D90)は、1.3~2.5μmであってよく、1.5~2.0μmであってもよい。上記粒子径分布において、小粒径からの積算値が全体の100%に達したときの粒子径(D100)は、2.8~5.0μmであってよく、3.2~4.5μmであってもよい。
【0048】
上述の窒化ケイ素粉末は、焼結原料として好適に用いることができる。窒化ケイ素粉末の用途は、窒化ケイ素焼結体用であってもよいが、これに限定されない。窒化ケイ素粉末における窒化ケイ素の含有量は、95質量%以上、98質量%以上又は99質量%以上であってよい。窒化ケイ素粉末における窒化ケイ素の含有量は、例えばX線回折で測定することができる。
【0049】
一実施形態に係る窒化ケイ素焼結体は、曲げ強さが700MPa以上であり、かさ密度に対する曲げ強度の比が240MPa・cm/g以上である。窒化ケイ素焼結体の曲げ強さは、例えば、700~900MPaであってよい。本明細書における曲げ強さは、JIS R1601:2008に準じて測定される、室温での3点曲げ強さである。
【0050】
窒化ケイ素焼結体のかさ密度は、軽量にする観点から、3.1g/cm以下であってよく、3.0g/cm以下であってもよい。同様の観点から、窒化ケイ素焼結体の相対密度は、97%以下であってよく、95%以下であってもよい。また、窒化ケイ素焼結体のかさ密度は、強度向上の観点から、2.8g/cm以上であってよく、2.9g/cm以上であってもよい。同様の観点から、窒化ケイ素焼結体の相対密度は、88%以上であってよく、91%以上であってもよい。窒化ケイ素焼結体のかさ密度の範囲の一例は、2.8~3.1g/cmである。窒化ケイ素焼結体の相対密度の範囲の一例は、88~97%である。
【0051】
本明細書における窒化ケイ素焼結体のかさ密度は、アルキメデス法によって測定される。本明細書における窒化ケイ素焼結体の相対密度は、窒化ケイ素の理論密度3.17g/cmに対する上記かさ密度の相対値である。
【0052】
本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、窒化ケイ素と炭素以外の成分を含んでいてよい。炭素は、例えば炭化ケイ素として含まれていてよい。本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、低密度で軽量であるうえに、高い強度を有する。このため、例えば構造体及び車両の部材として、好適に使用することができる。
【0053】
一実施形態に係る窒化ケイ素粉末の製造方法は、ケイ素粉末と有機バインダとを含む混錬物を成形して成形体を得る成形工程と、成形体を900℃以上1100℃未満で1時間以上加熱して脱脂する脱脂工程と、成形体を、窒素と水素及びアンモニアからなる群より選ばれる少なくとも一つとを含む混合雰囲気下で焼成して窒化ケイ素と炭素とを含む焼成物を得る焼成工程と、焼成物を粉砕する粉砕工程と、を有する。
【0054】
成形工程で用いるケイ素粉末の酸素含有量は、例えば0.2~0.4質量%であってよい。ケイ素粉末の炭素含有量は、0.05~0.15質量%であってよい。ケイ素粉末の酸素含有量及び炭素含有量は、赤外線吸収法によって測定することができる。成形工程の前に酸素濃度を調整するために、弗化水素酸を含む前処理液を用いて、ケイ素粉末に結合する酸素を低減してもよい。前処理液は、弗化水素酸を含んでよく、塩酸等の酸との混酸であってもよい。
【0055】
有機バインダとしては、ウレタン樹脂、ビニルブチラール樹脂、ビニルアルコール樹脂、ビニルアセタール樹脂、ビニルホルマール樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、クマロン・インデン樹脂、アクリル樹脂、芳香族ビニル樹脂、セルロース及びセルロース誘導体、ワックス、及びでんぷん等が挙げられる。有機バインダの配合量は、例えば、ケイ素粉末100質量部に対して3~30質量部であってよく、5~20質量部であってもよい。
【0056】
混錬物は、溶媒を含んでよい。溶媒としては、水、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、芳香族炭化水素類、多塩基酸類等が挙げられる。このような混錬物を通常の成形方法で成形して成形体を作製する。成形方法としては、例えば、押出成形、及び一軸プレス成形等が挙げられる。乾燥後の成形体のかさ密度は、0.5~1.5g/cmであってよく、0.8~1.2g/cmであってもよい。
【0057】
脱脂工程では、成形体を加熱炉内において加熱して、成形体に含まれる有機バインダの少なくとも一部を分解及び/又は揮発させて除去する。溶媒を用いている場合には、脱脂工程の前に溶媒の沸点以上に加熱する乾燥工程を行ってもよい。
【0058】
脱脂工程では、成形体を、例えば水素ガスを含む雰囲気中において、900℃以上1100℃未満で1時間以上加熱する。これによって、成形体に含まれる有機バインダを効率よく低減することができる。脱脂工程における加熱温度は950~1050℃であってよい。脱脂工程における加熱時間は、成形体中における有機バインダを十分に低減する観点から、2時間以上であってよく、3時間以上であってもよい。脱脂工程における加熱時間は、製造プロセス効率化の観点から、20時間以下であってよく、10時間以下であってもよい。脱脂工程における加熱時間の範囲の一例は、1~20時間である。雰囲気は水素ガスであってよく、水素ガスの濃度が1.0~10.0体積%である混合ガスであってもよい。この体積比率は、標準状態(温度0℃,圧力1気圧)における値である。
【0059】
焼成工程では、脱脂した成形体を、窒素と、水素及びアンモニアからなる群より選択される少なくも一種と、を含む混合雰囲気下で焼成して窒化ケイ素と炭素を含む焼成物を得る。炭素は窒化ケイ素粒子の内部に含まれていてもよいし、窒化ケイ素粒子の表面に粒子として付着又は結合していてもよい。混合雰囲気における水素及びアンモニアの合計の含有量は、混合雰囲気全体を基準として、例えば、10~40体積%であってよい。焼成温度は、例えば、1100~1450℃であってよく、1200~1400℃であってもよい。焼成時間は、例えば、30~100時間であってよい。
【0060】
粉砕工程では、焼成工程で得られた上記焼成物を乾式で粉砕して粉砕物を得る。粉砕工程は、粗粉砕及び微粉砕を含む複数の段階に分けて行って、窒化ケイ素粉末の粒度分布を調整してもよい。例えば、粉砕工程は、ボールミル粉砕工程及び振動ミル粉砕工程の2つの工程を含んでよい。焼成物を粉砕した後、粒度を調整するために、分級工程を行ってもよい。
【0061】
粉砕工程又は分級工程の後に、酸素濃度を調節するために後処理工程を行ってもよい。後処理工程では、例えば、粉砕した焼成物を弗酸中に分散させて処理してもよい。その後、濾過及び乾燥を行って窒化ケイ素粉末を得ることができる。
【0062】
このような方法によって、窒化ケイ素粉末を製造することができる。この製造方法はイミド分解法よりも低い製造コストで窒化ケイ素粉末を製造することができる。この製造方法で得られる窒化ケイ素粉末の形状、組成及び性状は、窒化ケイ素粉末の実施形態において説明したとおりである。したがって、窒化ケイ素粉末の実施形態において説明した内容は、本実施形態の製造方法にも適用される。例えば、この製造方法で得られる窒化ケイ素粉末の粉末全体に対する炭素の質量比率Cpは0.05%以上であってよい。また、窒化ケイ素粉末全体に対する窒化ケイ素粉末の表面部に含まれる炭素の質量比率Csは0.05%以下であってよい。ただし、上述の製造方法は一例であり、窒化ケイ素粉末を製造する方法は、上述の製造方法に限定されない。
【0063】
一実施形態に係る窒化ケイ素焼結体の製造方法は、上述の窒化ケイ素粉末を含む焼結原料を成形して焼成する焼結工程を有する。
【0064】
焼結原料は、窒化ケイ素粉末の他に、酸化物系焼結助剤を含んでもよい。酸化物系焼結助剤としては、例えば、Y、MgO及びAl等が挙げられる。焼結原料における酸化物系焼結助剤の含有量は、例えば、3~10質量%であってよい。
【0065】
上記焼結工程では、上述の焼結原料を例えば3.0~30MPaの成形圧で加圧して成形体を得る。成形体は一軸加圧して作製してもよいし、CIPによって作製してもよい。また、ホットプレスによって成形しながら焼成してもよい。成形体の焼成は、窒素ガス又はアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気中で行ってよい。焼成時の圧力は、0.7~1.5MPaであってよい。焼成温度は1860~2100℃であってよく、1880~2000℃であってもよい。当該焼成温度における焼成時間は6~20時間であってよく、8~16時間であってよい。焼成温度までの昇温速度は、例えば1.0~10.0℃/時間であってよい。
【0066】
このようにして得られる窒化ケイ素焼結体は、過剰な緻密化が抑制されるとともにβ相が生じやすいため、低密度でありながら高い強度を有する。この製造方法で得られる窒化ケイ素焼結体の組成及び性状は、窒化ケイ素焼結体の実施形態において説明したとおりである。したがって、窒化ケイ素焼結体の実施形態において説明した内容は、本実施形態の製造方法にも適用される。ただし、上述の製造方法は一例であり、窒化ケイ素焼結体を製造する方法は、上述の製造方法に限定されない。
【0067】
以上、幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。本開示は以下の幾つかの実施形態を含む。
[1]窒化ケイ素及び炭素を含む窒化ケイ素粉末であって、
粉末全体に対する前記炭素の質量比率Cpが0.05%以上であり、
前記粉末全体に対する前記粉末の表面部に含まれる炭素の質量比率Csが0.05%以下である、窒化ケイ素粉末。
[2]前記粉末全体に対する前記粉末の内部に含まれる炭素の質量比率Ciに対する前記質量比率Csの比が0.6以下である、[1]に記載の窒化ケイ素粉末。
[3]前記粉末全体に対する前記粉末の前記表面部に含まれる酸素の質量比率Osと、前記質量比率Csとが、下記式(I)を満たす、[1]又は[2]に記載の窒化ケイ素粉末。
Os/Cs≧10 (I)
[4]前記粉末全体に対する前記粉末の前記表面部に含まれる酸素の質量比率Osが0.9%以下である、[1]~[3]のいずれか一つに記載の窒化ケイ素粉末。
[5]BET比表面積が10~14m/gである、[1]~[4]のいずれか一つに記載の窒化ケイ素粉末。
[6]α率が94%以上である、[1]~[5]のいずれか一つに記載の窒化ケイ素粉末。
[7]ケイ素粉末と有機バインダとを含む混錬物を成形して成形体を得る工程と、
前記成形体を900℃以上1100℃未満で1時間以上加熱して脱脂する工程と、
前記成形体を、窒素と、水素及びアンモニアからなる群より選ばれる少なくとも一つと、を含む混合雰囲気下で焼成して窒化ケイ素と炭素とを含む焼成物を得る工程と、
前記焼成物を粉砕する工程と、を有する、窒化ケイ素粉末の製造方法。
[8]前記窒化ケイ素粉末は、粉末全体に対する炭素の質量比率Cpが0.05%以上であり、前記粉末全体に対する前記粉末の表面部に含まれる炭素の質量比率Csが0.05%以下である、[7]に記載の窒化ケイ素粉末の製造方法。
[9]前記窒化ケイ素粉末の全体に対する前記粉末の内部に含まれる炭素の質量比率Ciに対する前記質量比率Csの比が0.6以下である、[7]又は[8]に記載の窒化ケイ素粉末の製造方法。
[10]前記窒化ケイ素粉末の全体に対する前記粉末の前記表面部に含まれる酸素の質量比率Osと、前記質量比率Csとが、下記式(I)を満たす、[7]~[9]のいずれか一つに記載の窒化ケイ素粉末の製造方法。
Os/Cs≧10 (I)
[11]前記窒化ケイ素粉末の全体に対する前記粉末の前記表面部に含まれる酸素の質量比率Osが0.9%以下である、[7]~[10]のいずれか一つに記載の窒化ケイ素粉末の製造方法。
[12]前記窒化ケイ素粉末のBET比表面積が10~14m/gである、[7]~[11]のいずれか一つに記載の窒化ケイ素粉末の製造方法。
[13]前記窒化ケイ素粉末のα率が94%以上である、[7]~[12]のいずれか一つに記載の窒化ケイ素粉末の製造方法。
[14]曲げ強さが700MPa以上であり、
かさ密度に対する曲げ強さの比が240MPa・cm/g以上である、窒化ケイ素焼結体。
[15]上記[1]~[6]のいずれか一つに記載の窒化ケイ素粉末、又は上記[8]~[13]のいずれか一つに記載の製造方法で得られる窒化ケイ素粉末を含む焼結原料を用いて窒化ケイ素焼結体を得る工程を有する、窒化ケイ素焼結体の製造方法。
【実施例
【0068】
以下、実施例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明する。ただし、本開示は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0069】
(実施例1)
<窒化ケイ素粉末の調製>
ケイ素粉末(酸素含有量:0.3質量%、炭素含有量:0.10質量%)と、有機バインダ(ビニルアルコール樹脂)と、溶媒(水)を混錬して混錬物を得た。ケイ素粉末100質量部に対する有機バインダの配合量は、10質量部であった。この混錬物を用いて一軸加圧成形(成形圧:8MPa)で成形体(かさ密度:1.0g/cm)を作製した。得られた成形体を、150℃の恒温槽中で、3時間乾燥した(乾燥工程)。乾燥後、成形体を電気炉内に静置し、水素ガスの雰囲気中、温度1000℃で2時間保持した(脱脂工程)。
【0070】
脱脂後の成形体を、別の電気炉中に載置し、1400℃で60時間焼成して、窒化ケイ素を含む焼成物を得た。焼成時の雰囲気として、窒素ガスと水素ガスとの混合ガス(NとHとを標準状態における体積比率で80%:20%となるように混合した混合ガス)を供給した。得られた焼成物を粗粉砕した後、ボールミルで乾式粉砕した。乾式粉砕して得られた窒化ケイ素粉末を、分級器を用いて分級した。
【0071】
分級によって、窒化ケイ素粉末から粗粒(凝集粒子)を除去した。分級前の窒化ケイ素粉末の全質量を基準とする、分級後の窒化ケイ素粉末の質量比率は、80%であった。分級後の窒化ケイ素粉末とは、粗粒を除去して得られる窒化ケイ素粉末を意味する。このようにして得られた窒化ケイ素粉末を、以下のとおり評価した。
【0072】
<炭素の質量比率の測定>
市販の炭素・硫黄分析装置(LECO社製、装置名:IR412型)を用いて窒化ケイ素粉末の炭素の質量比率Cpを調べた。測定手順としては、試料を、酸素雰囲気中、10℃/秒の昇温速度で20℃から2000℃まで昇温した。昇温に伴って生成した一酸化炭素及び二酸化炭素を赤外線検出器で検出することによって、窒化ケイ素粉末全体に含まれる炭素の質量比率Cpを求めた。
【0073】
同じ測定装置を用いて、窒化ケイ素粉末の表面部に含まれる炭素の質量比率Csを調べた。測定手順としては、試料を、10℃/秒の昇温速度で20℃から1000℃まで昇温し、1000℃で15分間保持した。その間に生成した一酸化炭素及び二酸化炭素を赤外線検出器で検出することによって、窒化ケイ素粉末の表面部に含まれる炭素の質量比率Csを求めた。上記式(II)によって、窒化ケイ素粉末の内部に含まれる炭素の質量比率Ciを求めた。炭素の質量比率Cp、Cs,Ciは、表1に示すとおりであった。また、質量比率Ciに対する質量比率Csの比も表1に示した。
【0074】
<酸素の質量比率の測定>
窒化ケイ素粉末の表面部に含まれる酸素の質量比率Os、内部に含まれる酸素の質量比率Oiを、酸素・窒素分析装置(株式会社堀場製作所製、装置名:EMGA-920)を用いて測定した。具体的には、窒化ケイ素粉末を、ヘリウム雰囲気中、昇温速度8℃/秒で20℃から2000℃まで加熱し、窒素が検出される前までの酸素量を定量することで、酸素の質量比率Osを求めた。また、窒素が検出され始めてからの酸素量を定量することで、酸素の質量比率Oiを求めた。さらに、酸素の質量比率Osと酸素の質量比率Oiを合計して、窒化ケイ素粉末全体における酸素の質量比率Opを求めた。酸素の質量比率Op、Os,Oiは、表1に示すとおりであった。また、質量比率Csに対する質量比率Osの比も表1に示した。
【0075】
<α率の測定>
窒化ケイ素粉末のα率を以下の手順で測定した。X線回折装置(リガク製、装置名:Ultima IV)を用い、CuKα線で窒化ケイ素粉末のX線回折を行った。α相は(102)面の回折線強度Ia102と、(210)面の回折線強度Ia210で代表し、β相は(101)面の回折線強度Ib101と、(210)面の回折線強度Ib210で代表した。これらの回折線強度を用いて、以下の式によってα率を算出した。結果は表2に示すとおりであった。
α率(%)=
(Ia102+Ia210)/(Ia102+Ia210+Ib101+Ib210)×100
【0076】
<BET比表面積の測定>
JIS Z 8830:2013に準拠し、窒素ガスを使用してBET一点法により、窒化ケイ素粉末のBET比表面積を測定した。結果は表2に示すとおりであった。
【0077】
<粒子径分布の測定>
レーザー回折・散乱法によって窒化ケイ素粉末の粒子径分布を測定した。測定は、JIS Z 8825:2013「粒子径解析-レーザー回折・散乱法」に記載の方法に準拠して行った。横軸を対数目盛の粒子径[μm]、縦軸を頻度[体積%]として示される粒子径分布(累積分布)において、小粒径からの積算値が全体の10%、50%、90%及び100%に達したときの粒子径を、それぞれ、D10、D50、D90及びD100として求めた。結果は表2に示すとおりであった。
【0078】
<窒化ケイ素焼結体の調製>
調製した窒化ケイ素粉末、平均粒子径が1.5μmであるY粉末、及び、平均粒子径が1.2μmであるYb粉末を、90:5:5の質量比で配合した。配合した粉末試料にメタノールを加えて4時間湿式混合した。乾燥して得た混合粉末(焼結原料)を10MPaの圧力で一軸加圧成形した後、さらに25MPaの圧力で冷間等方圧加圧(CIP)した。得られた成形体を、窒化ケイ素粉末及びBN粉末の混合粉末からなる詰め粉とともにカーボン製坩堝にセットし、1MPaの窒素加圧雰囲気下、温度1900℃で10時間焼成して窒化ケイ素焼結体を製造した。
【0079】
<窒化ケイ素焼結体の評価>
JIS R1601:2008に準拠して、窒化ケイ素焼結体の室温における3点曲げ強さを測定した。アルキメデス法によって、窒化ケイ素焼結体のかさ密度を測定した。これらの結果は表3に示すとおりであった。かさ密度に対する曲げ強さの比も表3に示した。
【0080】
(実施例2)
窒化ケイ素粉末を調整する際、脱脂工程における保持時間を、4時間にしたこと以外は、実施例1と同じ条件で窒化ケイ素粉末及び窒化ケイ素焼結体を調製した。そして、実施例1と同じ方法で、窒化ケイ素粉末及び窒化ケイ素焼結体の各測定を行った。結果は、表1、表2及び表3に示すとおりであった。
【0081】
(実施例3)
窒化ケイ素粉末を調整する際、脱脂工程における保持時間を、6時間にしたこと以外は、実施例1と同じ条件で窒化ケイ素粉末及び窒化ケイ素焼結体を調製した。そして、実施例1と同じ方法で、窒化ケイ素粉末及び窒化ケイ素焼結体の各測定を行った。結果は、表1、表2及び表3に示すとおりであった。
【0082】
(比較例1)
窒化ケイ素粉末を調整する際、脱脂工程における保持時間を、0.5時間にしたこと以外は、実施例1と同じ条件で窒化ケイ素粉末及び窒化ケイ素焼結体を調製した。そして、実施例1と同じ方法で、窒化ケイ素粉末及び窒化ケイ素焼結体の各測定を行った。結果は、表1、表2及び表3に示すとおりであった。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
【表3】
【0086】
表3に示すとおり、実施例1~3の窒化ケイ素焼結体は、比較例1よりも低密度且つ高強度であり、かさ密度に対する曲げ強さの比が大きかった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
製造コストが低く低密度で高強度を有する窒化ケイ素焼結体及びその製造方法を提供することができる。低い製造コストで、低密度で高強度を有する窒化ケイ素焼結体を製造することが可能な窒化ケイ素粉末及びその製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0088】
1,2,3…ピーク。

【要約】
窒化ケイ素及び炭素を含む窒化ケイ素粉末であって、粉末全体に対する炭素の質量比率Cpが0.05%以上であり、粉末全体に対する粉末の表面部に含まれる炭素の質量比率Csが0.05%以下である、窒化ケイ素粉末を提供する。ケイ素粉末と有機バインダとを含む混錬物を成形して成形体を得る工程と、成形体を900℃以上1100℃未満で1時間以上加熱して脱脂する工程と、成形体を、窒素と、水素及びアンモニアからなる群より選ばれる少なくとも一つと、を含む混合雰囲気下で焼成して窒化ケイ素と炭素とを含む焼成物を得る工程と、焼成物を粉砕する工程と、を有する、窒化ケイ素粉末の製造方法を提供する。
図1