(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】排ガス浄化触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 29/74 20060101AFI20240215BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20240215BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20240215BHJP
F01N 3/08 20060101ALI20240215BHJP
F01N 3/10 20060101ALI20240215BHJP
F01N 3/24 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
B01J29/74 A
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/94 280
B01J37/08 ZAB
F01N3/08 A
F01N3/10 A
F01N3/24 E
(21)【出願番号】P 2023568454
(86)(22)【出願日】2023-06-20
(86)【国際出願番号】 JP2023022728
【審査請求日】2023-11-06
(31)【優先権主張番号】P 2022134431
(32)【優先日】2022-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】杉岡 大輔
(72)【発明者】
【氏名】川上 祐紀
(72)【発明者】
【氏名】小川 亮一
(72)【発明者】
【氏名】千葉 明哉
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-126768(JP,A)
【文献】特開2022-114539(JP,A)
【文献】特表2016-532055(JP,A)
【文献】国際公開第2019/117183(WO,A1)
【文献】特開2003-260362(JP,A)
【文献】特表2018-506500(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0124486(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0236147(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
B01D 53/94
F01N 3/08- 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
BEA型ゼオライトを含む排ガス浄化触媒であって、
前記BEA型ゼオライトのFT―IR測定における、
3,730cm
-1以上3,740cm
-1以下にピークトップがあるピークの面積A1と、
3,720cm
-1以上3,725cm
-1以下にピークトップがあるピークの面積A2と、
1,978cm
-1以上1,983cm
-1以下にピークトップがあるピークの面積A0と
を用いて計算される、(A1+A2)/A0の値が
0.47未満であり、かつ、
前記BEA型ゼオライトのXRD測定における2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅が0.30°以下である、
排ガス浄化触媒。
【請求項2】
前記BEA型ゼオライトのシリカ/アルミナ比(SAR)が20以上である、請求項1に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項3】
前記(A1+A2)/A0の値が
0.45以下である、請求項1に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項4】
前記2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅が0.29°未満である、請求項1に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒の製造方法であって、
前記(A1+A2)/A0の値が0.50以上であり、かつ、前記2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅が0.30°以下である、BEA型ゼオライトを、650℃以上900℃以下の温度で焼成することを含む、
方法。
【請求項6】
前記焼成の温度が700℃以上800℃以下である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記焼成のときの雰囲気中の、焼成の温度における水分量が、1.00体積%以下である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記焼成のときの雰囲気中の、焼成の温度における水分量が、0.80体積%以下である、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
基材、及び前記基材上の触媒コート層を有する排ガス浄化触媒装置であって、
前記触媒コート層が1~4のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒を含む、
排ガス浄化触媒装置。
【請求項10】
アンダーフロア触媒である、請求項9に記載の排ガス浄化触媒装置。
【請求項11】
請求項9に記載の排ガス浄化触媒装置を含む、排ガス浄化触媒システム。
【請求項12】
内燃機関の排気系に請求項9に記載の排ガス浄化触媒装置を配置して、前記内燃機関から排出される排ガスを浄化することを含む、排ガス浄化方法。
【請求項13】
内燃機関の排気系に請求項11に記載の排ガス浄化触媒システムを配置して、前記内燃機関から排出される排ガスを浄化することを含む、排ガス浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジン等の内燃機関からの排ガス中には、窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)等が含まれる。これらの排ガスは、CO及びHCを酸化し、かつNOxを還元する排ガス浄化触媒を含む、排ガス浄化触媒装置によって浄化したうえで、大気中に放出されている。
【0003】
このうち、HCについては、エンジン始動時等の触媒が暖まっていないコールド時には、HCを触媒的に浄化することは困難である。そのため、排ガス浄化触媒装置にHC吸着材を含有させて、コールド時にはHCを吸着させ、ホット時にはHCを徐放して、触媒的な浄化に供することが行われている。
【0004】
例えば、特許文献1には、SiO2/Al2O3のモル比(SAR)が200未満のBEA型ゼオライトと、SARが200~1,000のBEA型ゼオライトとを含む、炭化水素吸着材が提案されており、これを排ガス浄化触媒装置に含有させることにより、総炭化水素(THC)エミッションが低減されると説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に提案されているように、HC吸着材としてBEA型ゼオライトを用いることは、HCエミッションの低減に有効であると考えられる。しかし、BEA型ゼオライトは、合成時に構造欠陥ができ易い。BEA型ゼオライトの構造欠陥では、Si-O-Si結合が切断されて、Si-OH基が生成していると考えられる。このSi-OH基は、水との親和性が強いため、構造欠陥を有するBEA型ゼオライトを排ガス浄化触媒として使用すると、Si-OH基に水が吸着して細孔の一部が閉塞されて、所期のHC吸着能が発現されない。
【0007】
吸着水による細孔の閉塞は触媒が暖まると解消するが、コールド時には吸着水の影響が顕著に表れ、コールド領域におけるHCエミッションの低減を著しく阻害する。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものである。
【0009】
本発明の目的は、構造欠陥が少なく、コールド時のHC吸着能に優れ、コールド領域におけるHCエミッションを低減させ得る、排ガス浄化触媒を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下のとおりである。
【0011】
《態様1》BEA型ゼオライトを含む排ガス浄化触媒であって、
前記BEA型ゼオライトのFT―IR測定における、
3,730cm-1以上3,740cm-1以下にピークトップがあるピークの面積A1と、
3,720cm-1以上3,725cm-1以下にピークトップがあるピークの面積A2と、
1,978cm-1以上1,983cm-1以下にピークトップがあるピークの面積A0と
を用いて計算される、(A1+A2)/A0の値が0.50未満であり、かつ、
前記BEA型ゼオライトのXRD測定における2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅が0.30°以下である、
排ガス浄化触媒。
《態様2》前記BEA型ゼオライトのシリカ/アルミナ比(SAR)が20以上である、態様1に記載の排ガス浄化触媒。
《態様3》前記(A1+A2)/A0の値が0.47未満である、態様1に記載の排ガス浄化触媒。
《態様4》前記2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅が0.29°未満である、態様1に記載の排ガス浄化触媒。
《態様5》態様1~4のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒の製造方法であって、
前記(A1+A2)/A0の値が0.50以上であり、かつ、前記2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅が0.30°以下である、BEA型ゼオライトを、650℃以上900℃以下の温度で焼成することを含む、
方法。
《態様6》前記焼成の温度が700℃以上800℃以下である、態様5に記載の方法。
《態様7》前記焼成のときの雰囲気中の、焼成の温度における水分量が、1.00体積%以下である、態様5に記載の方法。
《態様8》前記焼成のときの雰囲気中の、焼成の温度における水分量が、0.80体積%以下である、態様5に記載の方法。
《態様9》基材、及び前記基材上の触媒コート層を有する排ガス浄化触媒装置であって、
前記触媒コート層が1~4のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒を含む、
排ガス浄化触媒装置。
《態様10》アンダーフロア触媒である、態様9に記載の排ガス浄化触媒装置。
《態様11》態様9に記載の排ガス浄化触媒装置を含む、排ガス浄化触媒システム。
《態様12》内燃機関の排気系に態様9に記載の排ガス浄化触媒装置を配置して、前記内燃機関から排出される排ガスを浄化することを含む、排ガス浄化方法。
《態様13》内燃機関の排気系に態様11に記載の排ガス浄化触媒システムを配置して、前記内燃機関から排出される排ガスを浄化することを含む、排ガス浄化方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の排ガス浄化触媒は、構造欠陥が少なく、コールド時のHC吸着能に優れるので、コールド領域におけるHCエミッションを、効果的に低減させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
《排ガス浄化触媒》
本発明の排ガス浄化触媒は、
BEA型ゼオライトを含む排ガス浄化触媒であって、
BEA型ゼオライトのFT―IR測定における、
3,730cm-1以上3,740cm-1以下にピークトップがあるピークの面積A1と、
3,720cm-1以上3,725cm-1以下にピークトップがあるピークの面積A2と、
1,978cm-1以上1,983cm-1以下にピークトップがあるピークの面積A0と
を用いて計算される、(A1+A2)/A0の値が0.50未満であり、かつ、
BEA型ゼオライトのXRD測定における2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅が0.30°以下である、
排ガス浄化触媒である。
【0014】
本発明の排ガス浄化触媒に含まれるBEA型ゼオライトは、FT―IR測定における面積A1と、面積A2と、面積A0とを用いて計算される、(A1+A2)/A0の値が0.50未満である。本発明の排ガス浄化触媒におけるBEA型ゼオライトは、この要件により、構造欠陥に伴うSi-OH基の量が少ないBEA型ゼオライトであることが担保される。
【0015】
また、本発明の排ガス浄化触媒に含まれるBEA型ゼオライトは、XRD測定における2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅が0.30°以下である。本発明の排ガス浄化触媒におけるBEA型ゼオライトは、この要件により、結晶構造が十分に維持されているBEA型ゼオライトであることが担保される。
【0016】
本発明の排ガス浄化触媒に含まれるBEA型ゼオライトは、上記の2つの要件により、構造欠陥の少ないBEA型ゼオライトであることが担保されている。したがって、このようなBEA型ゼオライトを含む本発明の排ガス浄化触媒は、コールド時のHC吸着能に優れており、これを排ガス浄化触媒装置に含有させると、コールド時のHCエミッションを効果的に低減することができる。
【0017】
上述したように、本発明の排ガス浄化触媒に含まれるBEA型ゼオライトは、FT―IR測定における面積A1と、面積A2と、面積A0とを用いて計算される、(A1+A2)/A0の値が0.50未満である。
【0018】
BEA型ゼオライトのFT―IR測定において、3,730cm-1以上3,740cm-1以下にピークトップがあるピークは、孤立Si-OH結合の伸縮振動に由来すると考えられる。3,720cm-1以上3,725cm-1以下にピークトップがあるピークは、水素結合したSi-OH結合の伸縮振動に由来すると考えられる。また、1,978cm-1以上1,983cm-1以下にピークトップがあるピークは、Si-O結合の伸縮振動に由来すると考えられる。
【0019】
したがって、BEA型ゼオライトのFT―IR測定における、各ピークのピーク面積比(A1+A2)/A0の値が0.50未満であるとは、当該BEA型ゼオライトが有するSi-O結合に対するSi-OH基の割合が少ないことを意味する。したがって、(A1+A2)/A0の値が0.50未満であるBEA型ゼオライトは、構造欠陥に伴うSi-OH基の量が少ないから、コールド時であっても、Si-OH基に吸着する吸着水の影響が少なく、所期のHC吸着能を発現することができる。
【0020】
BEA型ゼオライトのFT―IR測定における面積比(A1+A2)/A0の値は、0.48以下、0.47以下、0.47未満、0.45以下、0.40以下、又は0.35以下であってもよい。しかしながら、この面積比(A1+A2)/A0の値を必要以上に小さくしようとすると、調製時の焼成温度を高くする必要が生じ、BEA型ゼオライトの結晶構造が破壊されて、HC吸着能が損なわれることが懸念される。この観点から、面積比(A1+A2)/A0の値は、0.10以上、0.15以上、0.20以上、0.25以上、又は0.30以上であってよい。
【0021】
BEA型ゼオライトのFT―IR測定における、面積A1、A2、及びA0は、得られたFT-IRスペクトルに基づいて、後述の実施例に記載したピークフィッティングによって定量されてよい。
【0022】
本発明の排ガス浄化触媒に含まれるBEA型ゼオライトは、XRD測定における2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅が0.30°以下である。XRD測定における2θ=22.5±0.1°の回折ピークは、BEA型ゼオライトに特徴的なピークである。この回折ピークの半値全幅が0.30°以下であるとは、本発明におけるBEA型ゼオライトが、BEA型の結晶構造が十分に発達したゼオライトであることが担保される。
【0023】
XRD測定における2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅は、0.29°以下、0.29°未満、0.28°以下、0.26°以下、又は0.24°以下であってよい。一方で、2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅が過度に狭くても、本発明の所期する効果がこれに反比例して増大するものでもない。したがって、2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅は、0.10°以上、0.15°以上、又は0.20°以上であってよい。
【0024】
本発明の排ガス浄化触媒に含まれるBEA型ゼオライトのシリカ/アルミナ比(SAR)は、合成の容易性を確保するため、20以上であってよく、25以上、30以上、35以上、又は40以上であってもよい。BEA型ゼオライトのSARは、HCの吸着能を高くする観点から、100以下、80以下、60以下、又は50以下であってよい。このSARは、シリカ(SiO2)/アルミナ(Al2O3)のモル比として定義される値である。
【0025】
本発明の排ガス浄化触媒に含まれるBEA型ゼオライトは、化学的に純粋なBEA型ゼオライトであってもよいし、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、貴金属等、及びこれらの酸化物が例示できる。このようなその他の成分は、BEA型ゼオライトの骨格中の元素を置換していてもよいし、BEA型ゼオライトと固溶していてもよいし、BEA型ゼオライトに担持されていてもよい。
【0026】
本発明の排ガス浄化触媒は、上記に説明したような所定のBEA型ゼオライトを含んでいる。本発明の排ガス浄化触媒は、所定のBEA型ゼオライト以外の成分を含んでいてもよい。本発明の排ガス浄化触媒に含まれるBEA型ゼオライト以外の成分は、例えば、BEA型ゼオライト以外のゼオライト、その他の無機酸化物等であってよい。
【0027】
本発明の排ガス浄化触媒は、所定のBEA型ゼオライトを、排ガス浄化触媒の全質量に対して、70質量%以上、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上、若しくは99質量%以上含んでいてよく、又は100質量%含んでいてもよい。
【0028】
本発明の排ガス浄化触媒は粒子状であってよい。本発明の排ガス浄化触媒は粒子状である場合、その平均粒径は、例えば、0.1μm以上、0.5μm以上、又は1.0μm以上であってよく、例えば、500μm以下、300μm以下、100μm以下、又は50μm以下であってよい。
【0029】
《排ガス浄化触媒の製造方法》
本発明の排ガス浄化触媒は、上述の特性を有する限り、どのような方法によって製造されてもよい。
【0030】
本発明の排ガス浄化触媒は、例えば、
FT―IR測定における上述のピーク面積比(A1+A2)/A0の値が0.50以上であり、かつ、
XRD測定における2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅が0.30°以下である、
BEA型ゼオライト(原料ゼオライト)を、650℃以上900℃以下の温度で焼成することを含む、
方法によって製造されてよい。
【0031】
上記のような原料ゼオライトは、BEA型ゼオライトの結晶構造を有するが、構造欠陥が比較的多く、したがって、Si-OH基の含有量が多いゼオライトである。この原料ゼオライトを650℃以上で焼成することにより、Si-OH基の脱水が起こり、Si-O-Si結合が生成して構造欠陥が修復される。一方、原料ゼオライトの焼成温度を900℃以下に留めることにより、BEA型ゼオライトの結晶構造の熱による破壊が回避される。原料ゼオライトの焼成温度は、670℃以上、700℃以上、720℃以上、又は750℃以上であってよく、880℃以下、850℃以下、830℃以下、又は800℃以下であってよい。
【0032】
原料ゼオライトの焼成温度は、典型的には、例えば、700℃以上800℃以下であってよい。
【0033】
原料ゼオライトを焼成するとき、周囲雰囲気中の水分が少ない方が、原料ゼオライトの有するSi-OH基の脱水がスムースに進む点で、好適である。この観点から、焼成のときの雰囲気中の、焼成温度における水分量は、10.0体積%以下、5.00体積%以下、3.00体積%以下、1.00体積%以下、0.90体積%以下、0.80体積%以下、0.60体積%以下、0.40体積%以下、若しくは0.20体積%以下であってよく、又は0体積%であってよい。
【0034】
原料ゼオライトの焼成時間は、10分以上、30分以上、60分以上、90分以上、120分以上、15分以上、180分以上、210分以上、240分以上、又は270分以上であってよく、1,500分以下、1,000分以下、720分以下、660分以下、600分以下、540分以下、480分以下、又は420分以下であってよい。
【0035】
本発明の排ガス浄化触媒は、例えば、上記のように製造されてよい。本発明の排ガス浄化触媒は、必要に応じて、粉砕分級した後に使用に供されてよい。
【0036】
《排ガス浄化触媒装置》
本発明の別の観点によると、排ガス浄化触媒装置が提供される。
【0037】
本発明の排ガス浄化触媒装置は、
基材、及び前記基材上の触媒コート層を有する排ガス浄化触媒装置であって、
触媒コート層が本発明の排ガス浄化触媒を含む、
排ガス浄化触媒装置である。
【0038】
〈基材〉
基材は、排ガス浄化触媒装置の基材として公知のものの中から適宜に選択されてよい。例えば、コージェライト、SiC、ステンレス鋼、無機酸化物粒子等の材料から構成されている、例えば、ストレートフロー型又はウォールフロー型のモノリスハニカム基材を用いてよい。
【0039】
〈コート層〉
本発明の排ガス浄化触媒装置のコート層は、本発明の排ガス浄化触媒を含む。
【0040】
本発明の排ガス浄化触媒装置のコート層は、本発明の排ガス浄化触媒の他に、必要に応じて、これ以外の任意成分を含んでいてよい。この任意成分は、例えば、無機酸化物、貴金属、バインダー等であってよい。無機酸化物は、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、希土類元素の酸化物等、及びこれらの2種以上を含む複合酸化物等であってよい。貴金属は、白金族であってよく、例えば、白金、パラジウム、ロジウム等から選択される1種又は2種以上であってよい。バインダーは、例えば、アルミナゾル、チタニアゾル等から選択されてよい。
【0041】
本発明の排ガス浄化触媒装置のコート層は、本発明の排ガス浄化触媒を含むコート層のみから成る単層構成のコート層であってもよいし、本発明の排ガス浄化触媒を含むコート層を2層以上含む積層構成のコート層であってもよいし、本発明の排ガス浄化触媒を含むコート層を1層又は2層以上有し、更にその他のコート層を有する積層構成のコート層であってもよい。その他のコート層は、例えば、無機酸化物、貴金属、バインダー等を含む任意のコート層であってよい。
【0042】
本発明の排ガス浄化触媒装置は、本発明所定のBEA型ゼオライトを一定量含むことが好ましい。本発明の排ガス浄化触媒装置では、基材容量1L当たりのBEA型ゼオライト量は、例えば、1g/L以上、5g/L以上、10g/L以上、15g/L以上、又は20g/L以上であってよく、例えば、200g/L以下、150g/L以下、100g/L以下、80g/L以下、60g/L以下、50g/L以下、又は40g/L以下であってよい。
【0043】
〈用途〉
本発明の排ガス浄化触媒装置は、例えば、内燃エンジンを含む機器(工具、発電機、高圧洗浄機等)の排ガス浄化装置、内燃エンジンを含む自動車のアンダーフロア触媒装置等として使用されてよい。
【0044】
《排ガス浄化触媒システム》
本発明の更に別の観点によると、排ガス浄化触媒システムが提供される。
【0045】
本発明の排ガス浄化触媒システムは、本発明の排ガス浄化触媒装置を含む。
【0046】
本発明の排ガス浄化触媒システムは、例えば、スタートアップ触媒装置と、アンダーフロア触媒装置としての本発明の排ガス浄化触媒装置を含むシステムであってよい。スタートアップ触媒装置は、内燃エンジンを含む自動車のスタートアップ触媒装置として公知のものの中から適宜に選択して使用してよい。
【0047】
《排ガス浄化方法》
本発明の更に別の観点によると、排ガス浄化方法が提供される。
【0048】
本発明の排ガス浄化方法としては、例えば、
内燃機関の排気系に本発明の排ガス浄化触媒装置を配置して、内燃機関から排出される排ガスを浄化すること;
内燃機関の排気系に本発明の記載の排ガス浄化触媒システムを配置して、内燃機関から排出される排ガスを浄化すること;
等の実施形態が例示できる。
【実施例】
【0049】
《実施例1~9及び比較例1~5》
実施例1~9及び比較例1~5では、ゼオライトのSiOH量、BEA型ゼオライト由来の回折ピークの半値全幅、及び水共存下のデカン吸着量が、焼成条件によってどう変わるかを調べた。ゼオライトのSiOH量、及び回折ピークの半値全幅は、それぞれ、以下のようにして測定した。
【0050】
1.ゼオライトのSiOH量
ゼオライトのSiOH量は、FT-IRを用い、JIS K0117:2017(赤外分光分析通則)に準拠して、以下の手順によって測定した。
各実施例又は比較例で得られたゼオライト試料を乳鉢で粉砕した。粉砕物10mgを10MPaの圧力下で圧縮成形して、直径10mmのディスク試料を作製した。得られたディスク試料のFT-IR測定を、下記の条件にて行った。
測定装置:日本分光(株)製、フーリエ変換赤外分光光度計、「FT/IR-6600」
測定法:透過法
測定波長範囲:4,000~1,000cm-1
分解能:4cm-1
検出器:ミッドバンド テルル化カドミウム水銀(MCT)検出器
積算回数:64回
測定温度:500℃
測定雰囲気:10体積%-O2/N2流通下
【0051】
ゼオライトのスペクトルについては、上記のディスク試料を測定装置の試料室に装填し、10体積%-O2/N2流通下、室温から20℃/分の昇温速度で500℃まで昇温し、500℃の温度において10分間保持した後、測定を行った。
【0052】
バックグラウンドスペクトルについては、ディスク試料の代わりに空セルを試料室に装填した他は、ゼオライトのスペクトルと同様にして測定を行った。
【0053】
得られたゼオライトのFT-IRスペクトルは、日本分光(株)製の解析ソフトウエア、「JASCOスペクトルマネージャ Ver.2」を用いて、試料のスペクトルからバックグラウンドのスペクトルを減じたうえで、以下のように解析を行った。
【0054】
(1)SiOH由来ピーク面積(A1、A2)の算出
波数4,000cm-1における吸光度と波数3,000cm-1における吸光度とを直線で結ぶ2点間補正により、ベースラインを設定した。波数3,900~3,500cm-1の範囲のスペックトルにつき、表1に記載のピーク番号1~5のピークにてフィッティングを行った。そして、ピーク番号1のピークの面積A1、及びピーク番号2のピークの面積A2を、それぞれ、ゼオライト外表面のSiOH量、及びゼオライト内表面のSiOH量と定義した。このフィッティングは、非特許文献「Materials Today:Proceedings 42(2021)pp211-216」を参考にして行った。
【0055】
【0056】
(2)SiO由来ピーク面積A0の算出
波数2,120cm-1における吸光度による1点補正により、ベースラインを設定した。波数2,000~1,500cm-1の範囲のスペックトルにつき、表2に記載のピーク番号1~3のピークにてフィッティングを行った。そして、ピーク番号1のピークの面積A0をゼオライトのSiO量と定義した。このフィッティングは、非特許文献「Applied Catalysis A:General 200(2000)pp125-134」を参考にして行った。
【0057】
【0058】
(3)ゼオライト試料に含まれるSiOH量の算出
ゼオライトの骨格(SiO)に含まれるSiOH量(外表面SiOH量及び内表面SiOH量の合計)を、下記数式によって算出した。
SiOH量=(A1+A2)/A0
【0059】
2.BEA型ゼオライト由来の回折ピークの半値全幅
BEA型ゼオライト由来の回折ピークの半値全幅は、JIS K0131:1996(X線回折分析通則)に準拠して、下記の条件にて測定したX線回折(XRD)の結果から、後述の手法によって求めた。
測定装置:(株)リガク製、X旋回折装置、「RINT-TTR III」
走査軸:2θ/θ
線源:CuKα
測定方式:連続式
電圧:40kV
電流:250mA
測定範囲:2θ=5~85°
サンプリング幅:0.02°
スキャン速度:8.00°/分
発散スリット:1°
発散縦制限スリット:10mm
散乱スリット:8mm
受光スリット:13mm
【0060】
得られたXRDパターンについて、(株)リガク製の統合粉末X線解析ソフトウエア、「PDXL2」を用い、下記の条件でデータ処理を行った。
データ処理モード:自動
ピークサーチ条件
σカット値:3.00
σカット範囲:0.50~20.00
【0061】
得られたピークのうち、ピークトップが2θ=22.5±0.1°のピークをBEA型ゼオライト由来の回折ピークとして、その半値全幅を算出した。
【0062】
3.水共存下のデカン吸着量
各実施例又は比較例で得られたゼオライト試料について、水共存下のデカン吸着量を、以下の手順により調べた。
【0063】
ゼオライト試料を乳鉢で粉砕した。粉砕物3.0gを26MPaの圧力下で1分間圧縮成形して、直径35mmのディスク試料を作製した。得られたディスク試料を乳鉢で粗く粉砕した後、分級して、0.5~1.0mmサイズのペレット試料を得た。
【0064】
ペレット試料を乾燥機中で250℃、30分間静置して、乾燥したペレット試料を得た。乾燥質量0.5gのペレット試料を吸着装置((株)堀場製作所製の触媒評価装置「SIGU-1000」)に装填して、10体積%-O2/N2流通下で室温から25℃/分の昇温速度で500℃まで昇温して、500℃で10分間保持した。これにより、ゼオライト試料の細孔内に残存する炭化水素類及び水を除去する前処理を行った。試料温度を100℃まで降温した後、吸着装置に下記組成のデカン含有モデルガスを流量5L/分にて15分間流通させて、ゼオライト試料にデカンを吸着させた。このときのガス濃度は、(株)堀場製作所のFTIR法エンジン排ガス測定装置「MEXA-ONE-FT」を用いて測定した。
デカン:3,000ppm-C(炭素質量換算で3,000ppm)
水:3体積%
窒素:バランス
【0065】
デカン含有モデルガスを15分間流通させた後、流通ガスを窒素100%に切り替えて、100℃にて5分間保持した。その後、窒素の流通を維持したまま、20℃/分の昇温速度で試料温度を550℃まで昇温して、ゼオライト試料からデカンを脱離させた。この脱離デカンの積算量を、水共存下のデカン吸着量(mg/g-ゼオライト)とした。
【0066】
〈実施例1〉
原料として市販のBEA型ゼオライト(東ソー(株)製、ハイシリカゼオライト「HSZ-940HOA」SiO2/Al2O3(SAR)=40)を用い、これを、大気圧下、700℃において、300分間焼成した。この焼成は、電気炉を用いて、大気圧下、室温から25℃/分の昇温速度で目的温度(700℃)まで昇温し、目的温度において300分間保持することによって行った。その後、電気炉のヒーターを消し、電気炉中で試料を室温まで放冷した。目的温度(700℃)における焼成雰囲気のH2O濃度は、0.90体積%であった。
【0067】
得られた焼成後のゼオライトについて、上述の測定を行った。結果を表3示す。
【0068】
〈実施例2~9及び比較例1~5〉
焼成条件を表3に記載のとおりに変更した他は、実施例1と同様に焼成を行って、それぞれ、ゼオライト試料を得た。得られたゼオライト試料について、上記の各種の測定を行った。
【0069】
比較例1では、原料のBEA型ゼオライトを焼成せず、そのまま、各種の測定に供した。実施例2では、20体積%酸素及び80体積%窒素から成る雰囲気下で焼成を行った。実施例3~6では、20体積%酸素及び80体積%窒素から成る混合ガスと、焼成温度における水分量(H2O濃度)が10体積%の加湿大気とを、所定の割合で混合することにより、H2O濃度を表3に記載のとおりに調整した雰囲気下で焼成を行った。実施例8では、焼成温度における水分量(H2O濃度)が10体積%の加湿大気下で焼成を行った。
【0070】
なお、比較例5のゼオライト試料のXRD分析において、2θ=22.5±0.1°の回折ピークは検出されなかった。
【0071】
結果を表3に示す。
【0072】
【0073】
表3から、以下のことが理解される。
【0074】
原料BEA型ゼオライトを焼成しない比較例1、並びに焼成温度が650℃未満である比較例2及び3の試料は、XRDにおける2θ=22.5±0.1°のピークの半値全幅が0.30以下であり、BEA型ゼオライトの結晶構造は維持されていたが、SiOH量が0.50以上と多かった。これらの試料についての、水存在下のデカン吸着量は、低い値であった。
【0075】
一方、原料BEA型ゼオライトの焼成温度が900℃を超える、比較例4及び5の試料は、SiOH量は0.50未満であり、低かったが、XRDにおける2θ=22.5±0.1°のピークの半値全幅が0.30超であるか、又は2θ=22.5±0.1°のピークが検出されず、BEA型ゼオライトの結晶構造が破壊されていることが示唆された。これらの試料についての、水存在下のデカン吸着量は極めて低い値であった。これは、BEA型ゼオライトの細孔構造が破壊されたことにより、デカンの吸着ができなくなったためであると考えられる。
【0076】
これらに対して、原料BEA型ゼオライトの焼成温度が650~900℃である実施例1~9の試料は、XRDにおける2θ=22.5±0.1°のピークの半値全幅が0.29未満であり、BEA型ゼオライトの結晶構造は維持されており、かつ、SiOH量は0.50未満であり、低かった。これらの試料についての、水存在下のデカン吸着量は、高い値を示した。また、実施例2~8の比較から、焼成温度が同じである場合、焼成時の雰囲気中の水分量(H2O濃度)が少ないほど、水存在下のデカン吸着量が多くなる傾向が見られた。
【0077】
《実車評価》
実施例2及び7、並びに比較例1それぞれ得られたゼオライト試料を用いて、実車評価におけるHCエミッション量を調べ、本発明の排ガス浄化触媒を含む排ガス浄化触媒システムの効果を検証した。
【0078】
排ガス浄化触媒システムは、
コージェライト製のストレート型ハニカム基材上に、Pdを含む触媒コート層(下層)及びRhを含む触媒コート層(上層)をこの順に形成したスタートアップ触媒装置と、
上記と同じハニカム基材上に、実施例2若しくは7、又は比較例1のゼオライト試料を含む触媒コート層(下層)、Pdを含む触媒コート層(中間層)、及びRhを含む触媒コート層(上層)をこの順に形成したアンダーフロア触媒装置と
から成る。
【0079】
また、比較例6として、
上記のスタートアップ触媒装置と、
ハニカム基材上に、Pdを含む触媒コート層(下層)、及びRhを含む触媒コート層(上層)をこの順に形成したアンダーフロア触媒装置と
から成る排ガス浄化触媒システムを用いて、実車評価を行った。
【0080】
上記の各排ガス浄化触媒システムを、排気量1,500ccのガソリンエンジン車両に搭載し、アンダーフロア触媒装置の出側に全炭化水素(THC)濃度測定装置を装着した。シャシダイナモメータ上で、WLTCモードにしたがってこの車両を運転し、LOWフェーズ(WLTCモードの0~600秒)におけるTHCの積算排出量を求め、これをコールド領域のHCエミッション量(mg/km)とした。結果を表4に示す。
【0081】
【0082】
ゼオライトを含む触媒コート層を有さないアンダーフロア触媒装置を用いた、比較例6の排ガス浄化触媒システムのコールド領域のHCエミッションは、16.81mg/kmであった。
【0083】
一方、本発明の規定を満たさない比較例1のゼオライトを含む触媒コート層を有するアンダーフロア触媒装置を用いた排ガス浄化触媒システムのHCエミッションは、14.16mg/kmであった。すなわち、比較例1の排ガス浄化触媒システムのアンダーフロア触媒装置によるHCエミッションの低減量は、比較例6のアンダーフロア触媒装置に比べて、2.65mg/km改善されている(16.81-14.16=2.65(mg/km))。
【0084】
これに対して、本発明の規定を満たす実施例2及び7のゼオライトを含む触媒コート層を有するアンダーフロア触媒装置を用いた排ガス浄化触媒システムのHCエミッションは、実施例2では13.00mg/kmであり、実施例7では13.26mg/kmであった。すなわち、比較例6のアンダーフロア触媒装置に比べて、
実施例2のゼオライトを含む触媒コート層を有するアンダーフロア触媒装置によるHCエミッションの低減量は、3.81mg/km(=16.81-13.00=3.81(mg/km))であり、
実施例7のゼオライトを含む触媒コート層を有するアンダーフロア触媒装置によるHCエミッションの低減量は、3.55mg/km(=16.81-13.26=3.55(mg/km))であった。
【0085】
したがって、本発明の規定を満たす実施例2及び7のゼオライトを用いることにより、本発明の規定を満たさない比較例1のゼオライトを用いる場合と比較して、HCエミッションが大きく改善されたことが分かる。HCエミッションの改善率は、
実施例2では、43.8%({3.81-2.65)/2.65}×100=43.8(%))であり、
実施例7では、34.0%({3.55-2.65)/2.65}×100=34.0(%))であった。
【0086】
表4の結果により、本発明の排ガス浄化触媒を含む排ガス浄化触媒システムは、コールド領域のHCエミッション量の低減に有効であることが検証された。
【要約】
BEA型ゼオライトを含む排ガス浄化触媒であって、前記BEA型ゼオライトのFT―IR測定における、3,730cm-1以上3,740cm-1以下にピークトップがあるピークの面積A1と、3,720cm-1以上3,725cm-1以下にピークトップがあるピークの面積A2と、1,978cm-1以上1,983cm-1以下にピークトップがあるピークの面積A0とを用いて計算される、(A1+A2)/A0の値が0.50未満であり、かつ、前記BEA型ゼオライトのXRD測定における2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅が0.30°以下である、排ガス浄化触媒。