(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】ダイシングフィルム基材用樹脂組成物、ダイシングフィルム基材、およびダイシングフィルム
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20240215BHJP
【FI】
H01L21/78 M
(21)【出願番号】P 2024501597
(86)(22)【出願日】2023-08-29
(86)【国際出願番号】 JP2023031241
【審査請求日】2024-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2022144100
(32)【優先日】2022-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000174862
【氏名又は名称】三井・ダウポリケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中野 重則
(72)【発明者】
【氏名】西嶋 孝一
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 雅巳
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼岡 博樹
【審査官】内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-109436(JP,A)
【文献】特開2017-98369(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー(A)と、
エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体のアイオノマー(B)と、
スチレン系エラストマー(C)と、
を含
むダイシングフィルム基材用樹脂組成物であり、
前記ダイシングフィルム基材用樹脂組成物に含まれる樹脂成分の全質量を100質量%とした場合に、前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー(A)、前記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体のアイオノマー(B)、および前記スチレン系エラストマー(C)の合計含有率が、90質量%を超えて100質量%以下である、
ダイシングフィルム基材用樹脂組成物。
【請求項2】
前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー(A)中の不飽和カルボン酸由来の構成単位の量が、前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー(A)の全構成単位の量に対して、1質量%以上30質量%以下である、
請求項1に記載のダイシングフィルム基材用樹脂組成物。
【請求項3】
前記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体のアイオノマー(B)中の、不飽和カルボン酸由来の構成単位の量が、前記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体のアイオノマー(B)の全構成単位の量に対して、1質量%以上30質量%以下である、
請求項1に記載のダイシングフィルム基材用樹脂組成物。
【請求項4】
前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー(A)の中和度が、10%以上90%以下である、
請求項1に記載のダイシングフィルム基材用樹脂組成物。
【請求項5】
前記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体のアイオノマー(B)の中和度が、10%以上90%以下である、
請求項1に記載のダイシングフィルム基材用樹脂組成物。
【請求項6】
前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー(A)および前記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体のアイオノマー(B)の合計質量を1とした場合に、前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー(A)の質量が、0.10以上0.95以下である、
請求項1に記載のダイシングフィルム基材用樹脂組成物。
【請求項7】
前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー(A)、前記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体のアイオノマー(B)、および前記スチレン系エラストマー(C)の合計質量を1とした場合に、前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー(A)および前記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体のアイオノマー(B)の合計質量が、0.60以上1.00未満である、
請求項1に記載のダイシングフィルム基材用樹脂組成物。
【請求項8】
JIS K 7210:1999に準拠して、190℃、荷重2160gにて測定されるメルトフローレートが、0.1g/10分以上30g/10分以下である、
請求項1に記載のダイシングフィルム基材用樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか一項に記載のダイシングフィルム基材用樹脂組成物を含む層を、少なくとも一層有する、
ダイシングフィルム基材。
【請求項10】
前記ダイシングフィルム基材用樹脂組成物を含む層の、JIS K 7127:1999に準拠して23℃で測定したMD方向の30%モジュラスおよびTD方向の30%モジュラスの平均値が、8MPa以上17MPa以下である、
請求項
9に記載のダイシングフィルム基材。
【請求項11】
前記ダイシングフィルム基材用樹脂組成物を含む層の、JIS K 7127:1999に準拠して-15℃で測定したMD方向の10%モジュラスおよびTD方向の10%モジュラスの平均値が、20MPa以上である、
請求項
9に記載のダイシングフィルム基材。
【請求項12】
請求項
9に記載のダイシングフィルム基材と、
前記ダイシングフィルム基材の少なくとも一方の面に積層された粘着層と、
を有する、
ダイシングフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイシングフィルム基材用樹脂組成物、ダイシングフィルム基材、およびダイシングフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
IC(集積回路)等の半導体装置の製造過程では、回路パターンを形成した半導体ウエハを薄膜化した後、半導体ウエハをチップ単位に分断するダイシング工程を行うことが一般的である。ダイシング工程では、半導体ウエハの裏面に伸縮性を有するウエハ加工用フィルム(本明細書では、「ダイシングフィルム」とも称する)を貼着し、ダイシングブレードやレーザー光等によって半導体ウエハをチップ単位に分断する。そして拡張工程によって、ダイシングフィルムを拡張することにより、チップどうしの間隔を広げ、チップを小片化する。当該拡張工程では、例えばダイシングフィルムの下に配置した拡張テーブルを押し上げ、ダイシングフィルムを拡張し、チップを分割する。
【0003】
その後、ピックアップ工程において、所望のチップのみをダイシングフィルムからピックアップして所望の用途に使用する。当該ピックアップ工程では、ダイシングフィルム側から、所望のチップのみを微細ピンで突き上げて、ピックアップすることが一般的である。
【0004】
ここで、ダイシングフィルムを構成する材料として、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体を金属イオンで架橋したアイオノマーが知られている。例えば特許文献1には、ポリエーテル成分を含む帯電防止樹脂と、上記アイオノマーと、を含む放射線硬化型ウエハ加工用粘着テープが記載されている。特許文献2には、上記アイオノマーと、エチレンと、(メタ)アクリル酸と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの共重合体と、を含むダイシングフィルム基材用樹脂組成物が記載されている。
【0005】
また、成型部品等に使用する樹脂組成物として、エチレンおよびα,β-エチレン性不飽和カルボン酸の共重合体のアイオノマーと、ポリアミドと、を含むアイオノマー/ポリアミド配合物が特許文献3に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-210887号公報
【文献】特開2012-89732号公報
【文献】特表2000-516984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、上述のピックアップ工程で、所望のチップのみを適切にピックアップするためには、チップの周囲のダイシングフィルムが十分に伸びること(以下、「常温伸び性」とも称する)が重要である。ダイシングフィルムが十分に伸びずに、微細ピンによって複数のチップが突き上げられてしまうと、ピックアップ対象ではないチップがダイシングフィルムから剥離する現象が生じることがある。また、ダイシングフィルムの常温伸び性が低いと、ピックアップ工程において、チップに応力が掛かり、チップ内の破損が起こることもある。これらの問題が生じると、製品の歩留まりが低下したり、製品不良が増加したりする。
【0008】
しかしながら、特許文献1には、ウエハ加工用粘着テープの伸び性自体に着目した記載がない。さらに、特許文献2では、ダイシングフィルムの耐熱性(例えば、120℃における伸び性)を評価しているものの、常温での伸び性には着目していない。さらに、特許文献3のアイオノマー/ポリアミド配合物は、ポリアミドを多量に含むことから、これをフィルム状に成形することが困難である。
【0009】
また、ダイシングフィルム基材用樹脂組成物には、前記の常温伸び性に加えて、常温や低温におけるダイシングフィルムのモジュラス強度が求められ、さらに低温における伸び性も求められることもある。具体的には、ダイシング・ダイボンド一体型フィルムの場合、低温でチップとダイボンドフィルムの分断と拡張(エキスパンド)を行う工程があり、分断に必要なモジュラス強度とエキスパンドに必要なフィルムの伸び性とが要求される。また、常温時には、分断後のチップ間隙を一定に維持するためのモジュラス強度と前記のとおりピックアップ工程時に必要なフィルム伸び性が求められる。しかしながら、従来、常温や低温でのモジュラス強度および常温および低温での伸び性を両立させることは試みられていなかった。
【0010】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものである。常温および低温における伸び性に優れ、さらには常温および低温におけるモジュラス強度にも優れたダイシングフィルム基材を実現可能なダイシングフィルム基材用樹脂組成物、ダイシングフィルム基材、およびダイシングフィルムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、以下のダイシングフィルム基材用樹脂組成物を提供する。
[1]エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー(A)と、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体のアイオノマー(B)と、スチレン系エラストマー(C)と、を含むダイシングフィルム基材用樹脂組成物。
[2]前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー(A)中の不飽和カルボン酸由来の構成単位の量が、前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー(A)の全構成単位の量に対して、1質量%以上30質量%以下である、[1]に記載のダイシングフィルム基材用樹脂組成物。
[3]前記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体のアイオノマー(B)中の、不飽和カルボン酸由来の構成単位の量が、前記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体のアイオノマー(B)の全構成単位の量に対して、1質量%以上30質量%以下である、[1]または[2]に記載のダイシングフィルム基材用樹脂組成物。
[4]前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー(A)の中和度が、10%以上90%以下である、[1]~[3]のいずれかに記載のダイシングフィルム基材用樹脂組成物。
[5]前記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体のアイオノマー(B)の中和度が、10%以上90%以下である、[1]~[4]のいずれかに記載のダイシングフィルム基材用樹脂組成物。
【0012】
[6]前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー(A)および前記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体のアイオノマー(B)の合計質量を1とした場合に、前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー(A)の質量が、0.10以上0.95以下である、[1]~[5]のいずれかに記載のダイシングフィルム基材用樹脂組成物。
[7]前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー(A)、前記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体のアイオノマー(B)、および前記スチレン系エラストマー(C)の合計質量を1とした場合に、前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー(A)および前記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体のアイオノマー(B)の合計質量が、0.60以上1.00未満である、[1]~[6]のいずれかに記載のダイシングフィルム基材用樹脂組成物。
[8]ダイシングフィルム基材用樹脂組成物に含まれる樹脂成分の全質量を100質量%とした場合に、前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー(A)、前記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体のアイオノマー(B)、および前記スチレン系エラストマー(C)の合計質量の割合が、50質量%以上100質量%以下である、[1]~[7]のいずれかに記載のダイシングフィルム基材用樹脂組成物。
[9]ダイシングフィルム基材用樹脂組成物に含まれる樹脂成分の全質量を100質量%とした場合に、前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー(A)、前記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体のアイオノマー(B)、および前記スチレン系エラストマー(C)の合計含有率が、90質量%を超えて100質量%以下である、[1]~[8]のいずれかに記載のダイシングフィルム基材用樹脂組成物。
[10]JIS K 7210:1999に準拠して、190℃、荷重2160gにて測定されるメルトフローレートが、0.1g/10分以上30g/10分以下である、[1]~[9]のいずれかに記載のダイシングフィルム基材用樹脂組成物。
【0013】
本発明は、以下のダイシングフィルム基材およびダイシングフィルムを提供する。
[11]上記[1]~[10]のいずれかに記載のダイシングフィルム基材用樹脂組成物を含む層を、少なくとも一層有する、ダイシングフィルム基材。
[12]前記ダイシングフィルム基材用樹脂組成物を含む層の、JIS K 7127:1999に準拠して23℃で測定したMD方向の30%モジュラスおよびTD方向の30%モジュラスの平均値が、8MPa以上17MPa以下である、[11]に記載のダイシングフィルム基材。
[13]前記ダイシングフィルム基材用樹脂組成物を含む層の、JIS K 7127:1999に準拠して-15℃で測定したMD方向の10%モジュラスおよびTD方向の10%モジュラスの平均値が、20MPa以上である、[11]または[12]に記載のダイシングフィルム基材。
[14]上記[11]に記載のダイシングフィルム基材と、前記ダイシングフィルム基材の少なくとも一方の面に積層された粘着層と、を有する、ダイシングフィルム。
【発明の効果】
【0014】
本発明のダイシングフィルム基材用樹脂組成物によれば、常温および低温での伸び性に優れ、さらには常温および低温でのモジュラス強度にも優れるダイシングフィルム基材が実現される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。また、「(メタ)アクリル酸」は、「アクリル酸」および「メタクリル酸」の双方を包含して用いられる表記であり、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」および「メタクリレート」の双方を包含して用いられる表記である。
【0016】
1.ダイシングフィルム基材用樹脂組成物について
本発明のダイシングフィルム基材用樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」とも称する)は、主にダイシングフィルムの基材に使用されるが、当該樹脂組成物の用途は、ダイシングフィルムの基材に限定されない。
【0017】
前述のように、ダイシングフィルム用の基材には、常温および低温におけるモジュラス強度だけでなく、常温および低温における伸び性も求められている。しかしながら、従来、これらを両立させることは試みられていなかった。
【0018】
これに対し、本発明者らが鋭意検討したところ、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー(A)と、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体のアイオノマー(B)と、スチレン系エラストマー(C)と、を含む樹脂組成物によれば、常温および低温におけるモジュラス強度と、常温および低温における伸び性とを兼ね備えるダイシングフィルム基材が得られることが明らかとなった。その理由は明確ではないが、以下のように推定される。例えば、樹脂組成物が、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー(A)(以下、単に「2元系アイオノマー(A)」とも称する)を含むと、樹脂組成物の凝集力(剛性)が向上するため、樹脂組成物から得られるダイシングフィルムの低温モジュラス性が良好になる。また、樹脂組成物が、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体のアイオノマー(B)(以下、単に「3元系アイオノマー(B)」とも称する)を含むと、不飽和カルボン酸エステルが含有されるため、樹脂組成物から得られる常温モジュラス性および常温伸び性が良好になる。さらに、樹脂組成物がスチレン系エラストマー(C)を含むと、2元系アイオノマー(A)と3元系アイオノマー(B)との相溶性が向上するため、樹脂組成物から得られる常温モジュラス性および常温伸び性が良好になる。一方で、これらを単独で含む場合には、ダイシングフィルムの低温伸び性が良好になり難い。しかしながら、これらを組み合わせると、2元系アイオノマー(A)と3元系アイオノマー(B)とスチレン系エラストマー(C)とが均一に混合され、相溶性が向上することで、低温伸び性も良好になり、常温および低温におけるモジュラス強度と、常温および低温における伸び性とを兼ね備えるダイシングフィルム基材が得られる。
以下、樹脂組成物が含む各成分について説明し、その後、樹脂組成物の物性について説明する。
【0019】
<エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー(A)>
2元系アイオノマー(A)は、エチレンと、不飽和カルボン酸との共重合体、すなわちエチレン・不飽和カルボン酸共重合体の酸の一部、または全てが金属イオンで中和されたものであり、複数のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体が架橋した構造を有する。樹脂組成物は、当該2元系アイオノマー(A)を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0020】
2元系アイオノマー(A)の主骨格となるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、エチレンと、不飽和カルボン酸とを主に含む。本発明の目的および効果を損なわない範囲で、エチレンおよび不飽和カルボン酸以外の単量体由来の構造を一部に含んでいてもよく、例えばエチレン・不飽和カルボン酸共重合体の全構成単位の量に対して、他の単量体由来の構造を20質量%以下含んでいてもよい。ただし、本明細書において、不飽和カルボン酸エステル由来の構造をさらに含むものは、エチレン・不飽和カルボン酸重合体に含まない。
【0021】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体におけるエチレン由来の構成単位の量は制限されないが、エチレン由来の構成単位の量が、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の全構成単位の量に対して、70質量%以上99質量%以下が好ましく、75質量%以上95質量%以下がより好ましく、78質量%以上90質量%以下がさらに好ましい。エチレン由来の構成単位量が70質量%以上であると、得られるダイシングフィルムにブロッキング等が生じ難くなる。一方、エチレン由来の構成単位の量が99質量%以下であると、相対的に不飽和カルボン酸の量が十分に多くなり、モジュラス強度や伸びが良好になりやすい。
【0022】
一方、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体における不飽和カルボン酸由来の構成単位の量は制限されない。不飽和カルボン酸由来の構成単位の量は、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の全構成単位の量に対して、1質量%以上30質量%以下が好ましく、5質量%以上25質量%以下がより好ましく、10質量%以上22質量%以下がさらに好ましい。不飽和カルボン酸由来の構成単位量が1質量%以上であると、モジュラス強度や伸び率が良好になりやすい。一方、不飽和カルボン酸由来の構成単位量が30質量%以下であると、得られるダイシングフィルムにブロッキング等が生じ難くなる。
【0023】
不飽和カルボン酸の例には、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸等の炭素数4~8の不飽和カルボン酸が含まれ、これらの中でも反応性や入手容易性等の観点で、アクリル酸またはメタクリル酸が好ましい。エチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、これら由来の構成単位を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0024】
上述のように、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、エチレンおよび不飽和カルボン酸以外の単量体由来の構成単位一種、または二種以上有していてもよい。エチレンおよび不飽和カルボン酸以外の単量体の例には、プロピレン、ブテン、1,3-ブタジエン、ペンテン、1,3-ペンタジエン、1-ヘキセン等の不飽和炭化水素;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等由来のビニルエステル;ビニル硫酸やビニル硝酸等の酸化物;塩化ビニル、フッ化ビニル等のハロゲン化合物;ビニル基含有1級アミン化合物;ビニル基含有2級アミン化合物;一酸化炭素;二酸化硫黄;等が含まれる。
【0025】
上記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、ブロック共重合体であってもよく、ランダム共重合体であってもよい。また、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、本発明の目的および効果を損なわない範囲で、ランダム重合体やブロック重合体に、さらに公知の化合物がグラフト重合したグラフト共重合体等であってもよい。
【0026】
また、2元系アイオノマー(A)において、上記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の酸を中和する金属イオンは特に制限されないが、その例には、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン、亜鉛イオン、マグネシウムイオン、マンガンイオン等が含まれる。これらの中でも、入手容易性等の観点でマグネシウムイオン、ナトリウムイオン、または亜鉛イオンが好ましく、ナトリウムイオンまたは亜鉛イオンがより好ましく、亜鉛イオンがさらに好ましい。
【0027】
2元系アイオノマー(A)におけるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体の中和度は、10%以上90%以下が好ましく、10%以上85%以下がより好ましく、15%以上82%以下がさらに好ましい。エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の中和度が10%以上であると、樹脂組成物をダイシングフィルムの基材としたとき、基材表面の硬度が高くなる。一方、中和度が90%以下であると、樹脂組成物の加工性や成形性が良好になる。中和度とは、2元系アイオノマー(A)(エチレン・不飽和カルボン酸共重合体)中の酸基(例えばカルボキシ基)のモル数に対する、金属イオンの配合比率の割合である。単位はモル%である。当該中和度は、赤外吸収スペクトル(IR)によって測定可能である。赤外吸収スペクトルによって、樹脂のC=O伸縮吸収ピークを測定することでイオン化していないカルボキシ基を定量でき、塩酸処理した2元系アイオノマー(A)のC=O伸縮吸収ピークを測定することで、樹脂全体のカルボキシ基を定量できる。両者を測定することで中和度が求められ、具体的には、以下の式で算出できる。
中和度(%)=(1-Pa1/Pa2)×100
Pa1:2元系アイオノマー(A)のC=O伸縮吸収ピーク高さ
Pa2:塩酸処理したエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のC=O伸縮吸収ピーク高さ
【0028】
また、2元系アイオノマー(A)のJIS K 7210:1999(ISO 1133:1997に相当)に準拠し、190℃、2160g荷重で測定されるメルトフローレート(MFR)は、0.2g/10分以上20.0g/10分以下が好ましく、0.5g/10分以上20.0g/10分以下がより好ましく、0.5g/10分以上18.0g/10分以下がさらに好ましい。2元系アイオノマー(A)のメルトフローレートが前記範囲内であると、樹脂組成物を成形しやすくなる。
【0029】
<エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体のアイオノマー(B)>
3元系アイオノマー(B)は、エチレンと、不飽和カルボン酸と、不飽和カルボン酸エステルとの共重合体、すなわちエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体の酸の一部、または全てが金属イオンで中和されたものであり、複数のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体が架橋した構造を有する。樹脂組成物は、当該3元系アイオノマー(B)を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0030】
3元系アイオノマー(B)の主骨格となるエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体は、エチレンと、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸エステルとを主に含む。本発明の目的および効果を損なわない範囲で、これら以外の単量体由来の構造を一部に含んでいてもよく、例えばエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体の全構成単位の量に対して、他の単量体由来の構造を20質量%以下含んでいてもよい。
【0031】
エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体におけるエチレン由来の構成単位の量は制限されないが、エチレン由来の構成単位の量が、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体の全構成単位の量に対して、60質量%以上94質量%以下が好ましく、75質量%以上90質量%以下がより好ましい。エチレン由来の構成単位量が60質量%以上であると、得られるダイシングフィルムにブロッキング等が生じ難くなる。一方、エチレン由来の構成単位の量が94質量%以下であると、相対的に不飽和カルボン酸や不飽和カルボン酸エステルの量が十分に多くなり、モジュラス強度や伸びが良好になりやすい。
【0032】
一方、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体における不飽和カルボン酸由来の構成単位の量は制限されない。不飽和カルボン酸由来の構成単位の量は、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体の全構成単位の量に対して、1質量%以上30質量%以下が好ましく、5質量%以上20質量%以下がより好ましい。不飽和カルボン酸由来の構成単位量が1質量%以上であると、モジュラス強度や伸び率が良好になりやすい。一方、不飽和カルボン酸由来の構成単位量が30質量%以下であると、相対的にエチレンや不飽和カルボン酸エステル由来の構成単位が十分に含まれやすく、ダイシングフィルムにブロッキング等が生じ難くなったりする。
【0033】
ここで、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体における不飽和カルボン酸の種類は特に制限されず、上述の2元系モノマーのエチレン・不飽和カルボン酸共重合体の不飽和カルボン酸と同様である。エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体は、不飽和カルボン酸由来の構成単位を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0034】
エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体における不飽和カルボン酸エステル由来の構成単位の量は制限されない。不飽和カルボン酸エステル由来の構成単位の量は、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体の全構成単位の量に対して、1質量%以上20質量%以下が好ましく、1質量%以上15質量%以下がより好ましい。不飽和カルボンエステル酸由来の構成単位量が1質量%以上であると、ダイシングフィルム用の基材の低温伸び性や常温伸び性が良好になりやすい。一方、不飽和カルボン酸エステル由来の構成単位量が20質量%以下であると、相対的にエチレンや不飽和カルボン酸由来の構成が十分に含まれやすく、ダイシングフィルムにブロッキング等が生じ難くなったりする。
【0035】
上記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体における、不飽和カルボン酸エステルは、上述の不飽和カルボン酸のカルボン酸が、カルボンエステルになった化合物が含まれる。不飽和カルボン酸エステルの例には、炭素数が1~12のアルキル基不飽和カルボン酸アルキルエステルが含まれる。アルキル基の炭素数は、1~8がより好ましく、1~4がさらに好ましい。アルキル基の例には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、セカンダリーブチル基、2-エチルヘキシル基、イソオクチル基等が含まれる。
【0036】
上記不飽和カルボン酸アルキルエステルの具体例には、(メタ)アクリル酸メチルエステル、(メタ)アクリル酸エチルエステル、(メタ)アクリル酸イソブチルエステル、アクリル酸n-ブチルエステル、アクリル酸イソオクチルエステル、マレイン酸ジメチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル等が含まれる。エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体は、不飽和カルボン酸エステル由来の構成単位を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0037】
また、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体は、エチレン、不飽和カルボン酸、および不飽和カルボン酸エステル以外の単量体由来の構成単位を一種または二種以上有していてもよい。これらは、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体が含んでもよい他の単量体由来の構成単位と同様である。
【0038】
上記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体は、ブロック共重合体であってもよく、ランダム共重合体であってもよい。また、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体は、本発明の目的および効果を損なわない範囲で、ランダム重合体やブロック重合体に、さらに公知の化合物がグラフト重合したグラフト共重合体等であってもよい。
【0039】
さらに、3元系アイオノマー(B)において、上記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の酸を中和する金属イオンは特に制限されないが、その例には、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン、亜鉛イオン、マグネシウムイオン、マンガンイオン等が含まれる。これらの中でも、入手容易性等の観点でマグネシウムイオン、ナトリウムイオン、または亜鉛イオンが好ましく、ナトリウムイオンまたは亜鉛イオンがより好ましく、亜鉛イオンがさらに好ましい。
【0040】
3元系アイオノマー(B)におけるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体の中和度は、10%以上90%以下が好ましく、10%以上85%以下がより好ましく、15%以上82%以下がさらに好ましい。エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体の中和度が10%以上であると、樹脂組成物をダイシングフィルムの基材としたとき、基材表面の硬度が高くなる。一方、中和度が90%以下であると、樹脂組成物の加工性や成形性が良好になる。中和度とは、3元系アイオノマー(B)(エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸共重合体)中の酸基(例えばカルボキシ基)のモル数に対する、金属イオンの配合比率の割合である。単位はモル%である。当該中和度は、赤外吸収スペクトル(IR)によって測定可能である。赤外吸収スペクトルによって、樹脂のC=O伸縮吸収ピークを測定することでイオン化していないカルボキシ基を定量でき、塩酸処理した3元系アイオノマー(B)のC=O伸縮吸収ピークを測定することで、樹脂全体のカルボキシ基を定量できる。両者を測定することで中和度が求められ、具体的には、以下の式で算出できる。
中和度(%)=(1-Pb1/Pb2)×100
Pb1:3元系アイオノマー(B)のC=O伸縮吸収ピーク高さ
Pb2:塩酸処理したエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体のC=O伸縮吸収ピーク高さ
【0041】
また、3元系アイオノマー(B)のJIS K 7210:1999(ISO 1133:1997に相当)に準拠し、190℃、2160g荷重で測定されるメルトフローレート(MFR)は、0.2g/10分以上20.0g/10分以下が好ましく、0.5g/10分以上20.0g/10分以下がより好ましく、0.5g/10分以上18.0g/10分以下がさらに好ましい。3元系アイオノマー(B)のメルトフローレートが前記範囲内であると、樹脂組成物を成形しやすくなる。
【0042】
<スチレン系エラストマー(C)>
スチレン系エラストマーとは、室温でゴム弾性体であるスチレン系重合体をいう。スチレン系エラストマーの例には、スチレンブロック(スチレン重合体)からなるハードセグメントと、アルキレンブロックからなるソフトセグメントとを含む、ブロック共重合体、またはその水素添加物;スチレンとアルキレンとのランダム共重合体、またはその水素添加物;あるいは当該スチレン系エラストマーを酸変性した酸変性スチレン系エラストマー等が含まれる。
【0043】
上記ブロック共重合体におけるスチレンブロックとは、2つ以上のスチレン重合した部位であればよく、アルキレンブロックとは、2つ以上のアルケンが重合した部位であればよい。アルキレンブロックは、一種のアルケンの単独重合体であってもよく、二種以上のアルケンの共重合体であってもよい。
【0044】
上記ブロック共重合体の例には、スチレン-ブタジエンブロック共重合体(SB)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレンブロック共重合体(SI)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)が含まれる。
【0045】
上述のように、スチレン系エラストマーは、上記ブロック共重合体の水素添加物であってもよい。当該水素添加物では、スチレンブロックおよびアルキレンブロックの両方が水素添加されていてもよく、スチレンブロックまたはアルキレンブロックのいずれか一方のみが水素添加されていてもよく、さらに、スチレンブロックおよびアルキレンブロックの一部のみが水素添加されていてもよい。
【0046】
上記ブロック共重合体の水素添加物の具体例には、スチレン-ブタジエンブロック共重合体(SB)の水素添加物であるスチレン-エチレン・ブチレンブロック共重合体(SEB)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)の水素添加物であるスチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)の水素添加物であるスチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)等が含まれる。
【0047】
上述のように、スチレン系エラストマーの例には、スチレンとアルキレンとのランダム共重合体も含まれる。その例には、スチレン-ブタジエンランダム共重合体、スチレン-イソプレンランダム共重合体、スチレン-エチレン-ブチレンランダム共重合体、スチレン-エチレン-プロピレンランダム共重合体、スチレン-イソブチレンランダム共重合体、スチレン-エチレン-イソプレンランダム共重合体等が含まれる。
【0048】
上述のように、スチレン系エラストマーは、上記ランダム共重合体の水素添加物であってもよい。その例には、スチレン-ブタジエンランダム共重合体の水素添加物(HSBR)等が含まれる。
【0049】
後述の酸変性がなされていないスチレン系エラストマーにおいては、上記の中でも水素添加物が好ましく、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)およびスチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)がより好ましく、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)が、樹脂組成物から得られるダイシングフィルム用の基材の低温伸び性や常温伸び性を良好にできるとの観点で特に好ましい。
【0050】
一方、スチレン系エラストマーは、上述のように、上記ブロック共重合体またはランダム重合体、もしくはこれらの水素添化物からなるエラストマーが不飽和カルボン酸やその誘導体によってグラフト変性された酸変性スチレン系エラストマーであってもよい。当該酸変性スチレン系エラストマーは、上記ブロック共重合体またはランダム重合体、もしくはこれらの水素添化物が、一種の不飽和カルボン酸またはその誘導体によってグラフト変性されたものであってもよく、二種以上の不飽和カルボン酸またはその誘導体によってグラフト変性されたものであってもよい。
【0051】
上記ブロック共重合体やランダム共重合体等にグラフト重合する不飽和カルボン酸の例には、(メタ)アクリル酸や、2-エチルアクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が含まれる。一方、スチレン系エラストマーにグラフト重合する不飽和カルボン酸誘導体の例には、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水イタコン酸等の酸無水物;マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル等の酸エステル;酸アミド;酸ハロゲン化物;等が含まれる。これらの中でも、マレイン酸または無水マレイン酸がスチレン系エラストマーとの反応性の観点等で好ましい。
【0052】
上記酸変性スチレン系エラストマーは、上記ブロック共重合体やランダム共重合体等をラジカル開始剤の存在下で、不飽和カルボン酸またはその誘導体をグラフト重合させることで得られる。ラジカル開始剤は、ポリオレフィンのグラフト反応に用いられるものであればよく、公知の化合物を使用できる。
【0053】
上記酸変性スチレン系エラストマーの酸価は、0mgCH3ONa/g超、20mgCH3ONa/g未満が好ましく、0mgCH3ONa/g超、11mgCH3ONa/g未満がより好ましく、0.5mgCH3ONa/g以上11mgCH3ONa/g以下がさらに好ましい。酸変性スチレン系エラストマーの酸価が当該範囲であると、低温、常温時の伸び性が良好になりやすい。
【0054】
スチレン系エラストマー(C)のメルトフレートは、0.1g/10分~100g/10分が好ましく、0.5g/10分~90g/10分がより好ましく、1.0g/10分~80g/10分がさらに好ましく、2.0g/10分~75g/10分がさらに好ましい。上記メルトフローレートは、JIS K 7210:1999(ISO 1133:1997に相当)に準拠し、230℃、2160g荷重で測定される値である。
【0055】
スチレン系エラストマー(C)のTanδピーク温度は、得られるダイシングフィルム用の基材の低温伸び性や常温伸び性を良好にできるとの観点から-60℃以上が好ましく、-55℃以上がより好ましく、-50℃以上がさらに好ましい。上記Tanδピーク温度は、JIS K 6394(ISO 4664-1:2005に相当)に準拠した動的粘弾性試験(温度依存測定10Hz)において、ピーク値を示す温度である。
【0056】
<他の重合体および添加剤>
樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて各種添加剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、充填材、その他の重合体等を含んでいてもよい。
【0057】
各種添加剤の例には、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、顔料、染料、滑剤、ブロッキング防止剤、防黴剤、抗菌剤、難燃剤、難燃助剤、架橋剤、架橋助剤、発泡剤、発泡助剤、繊維強化材等が含まれる。添加剤の含有量は、樹脂組成物に含まれる樹脂成分の全質量を100質量部とした場合に、20質量部以下が好ましく、18質量部以下がより好ましい。
【0058】
また、帯電防止剤の例には、低分子型帯電防止剤や高分子型帯電防止剤が含まれるが、高分子型帯電防止剤が好ましい。本明細書において、高分子型帯電防止剤とは、導電性部位(例えば、ポリエーテル由来の構造部位、四級アンモニウム塩基部位など)と非導電性部位(例えば、ポリアミド由来の構造部位、ポリエチレンなどのポリオレフィン由来の構造部位、アクリレート由来の構造部位、メタクリレート由来の構造部位、スチレン由来の構造部位など)とを含み、分子量が300以上(好ましくは1000~10000)の共重合体である。分子量はGPCで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量である。尚、導電性とは、ASTM D257に基づき測定される表面抵抗率が1010Ω/□以下であることを言う。当該高分子型帯電防止剤の例には、分子内にスルホン酸塩を有するビニル共重合体、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ベタイン等が含まれる。また、高分子型帯電防止剤の他の例には、ポリエーテルアミド、ポリエーテルエステルアミド、ポリエーテルアミドの無機プロトン酸の塩、またはポリエーテルエステルアミドの無機プロトン酸の塩等も含まれる。無機プロトン酸の塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、亜鉛塩、またはアンモニウム塩が挙げられる。
【0059】
紫外線吸収剤の例には、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系、ヒンダードアミン系等が含まれる。
【0060】
充填材の例には、シリカ、クレー、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、ガラスビーズ、タルク等が含まれる。
【0061】
添加剤や帯電防止剤、紫外線吸収剤、充填材の量は、その種類に応じて適宜選択される。
【0062】
その他の重合体の例には、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリアミドが含まれる。ただし、ポリアミドの量は、樹脂組成物に含まれる樹脂成分の全質量を100質量部とした場合に、5質量部未満が好ましい。樹脂組成物は、その他の重合体として、ポリアミドを含まないことが好ましい。
【0063】
<好ましい組成>
本発明の樹脂組成物において、上記2元系アイオノマー(A)の量は、樹脂組成物全量に対して、10質量%以上80質量%以下が好ましく、15質量%以上75質量%以下がより好ましい。さらに、上記3元系アイオノマー(B)の量は、樹脂組成物全量に対して、10質量%以上80質量%以下が好ましく、12質量%以上75質量%以下がより好ましい。また、スチレン系エラストマー(C)の量は、樹脂組成物全量に対して、5質量%以上35質量%以下が好ましく、7質量%以上32質量%以下がより好ましい。
【0064】
また当該樹脂組成物において、2元系アイオノマー(A)および3元系アイオノマー(B)の合計量を1とした場合の、2元系アイオノマー(A)の質量は、0.10以上0.95以下が好ましく、0.15以上0.90以下がより好ましく、0.20以上0.85以下がさらに好ましい。さらに、2元系アイオノマー(A)、3元系アイオノマー(B)、およびスチレン系エラストマー(C)の合計質量を1とした場合の、2元系アイオノマー(A)および3元系アイオノマー(B)の合計質量は、0.60以上1.00未満が好ましく、0.65以上0.95以下がより好ましい。また、樹脂組成物に含まれる樹脂成分の全質量を100質量%とした場合に、2元系アイオノマー(A)、3元系アイオノマー(B)、およびスチレン系エラストマー(C)の合計含有率が、50質量%以上100質量%以下であることが好ましく、60質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、70質量%以上100質量%以下であることがさらに好ましく、80質量%以上100質量%以下であることがさらに好ましく、90質量%を超えて100質量%以下がさらに好ましく、95質量%以上100質量%以下であることがさらに好ましく、95質量%を超えて100質量%以下であることがより好ましく、98質量%以上100質量%以下であることがさらに好ましく、99質量%以上100質量%以下であることがさらに好ましい。
【0065】
これらを満たすと、上述のように、フィルム成形性、常温および低温におけるモジュラス強度と、常温および低温における伸び性がいずれも良好になる。
【0066】
また、樹脂組成物に含まれる樹脂成分の全質量を100質量%とした場合に樹脂成分の全質量に対する、「2元系アイオノマー(A)中の不飽和カルボン酸由来の構成単位の量(質量)および3元系アイオノマー(B)中の不飽和カルボン酸由来の構成単位の量(質量)の合計」の割合が、5質量%以上20質量%以下となるように、各成分量を調整することが好ましく、7質量%以上15質量%以下となるように各成分量を調整することが、より好ましく、9質量%以上13質量%以下となるように各成分量を調整することが、さらに好ましい。樹脂組成物中の不飽和カルボン酸由来の構成単位の量が上記範囲であると、低温モジュラス性が良好になりやすい。
【0067】
さらに、樹脂組成物に含まれる樹脂成分の全質量を100質量%とした場合に樹脂成分の全質量に対する、「3元系アイオノマー(B)中の不飽和カルボン酸エステル由来の構成単位の量(質量)」の割合が、0.5質量%以上10質量%以下となるように、各成分量を調整することが好ましく、1質量%以上8質量%以下となるように各成分量を調整することがより好ましい。樹脂組成物中の不飽和カルボン酸エステル由来の構成単位の量が上記範囲であると、常温および低温における伸び性が良好になりやすい。
【0068】
また、当該樹脂組成物中のカルボン酸の中和度、すなわち「2元系アイオノマー(A)中の不飽和カルボン酸および3元系アイオノマー(B)中の不飽和カルボン酸」の中和度は、40%以上90%以下が好ましく、45%以上85%以下がより好ましく、50%以上80%以下がさらに好ましく、55%以上75%以下がさらに好ましく、60%以上70%以下がさらに好ましい。上記中和度は、例えば2元系アイオノマー(A)中の不飽和カルボン酸の中和度、および3元系アイオノマー(B)中の不飽和カルボン酸の中和度がそれぞれ判明している場合には、「2元系アイオノマー(A)および3元系アイオノマー(B)の総質量に対する、2元系アイオノマー(A)の質量の割合a」、および「2元系アイオノマー(A)および3元系アイオノマー(B)の総質量に対する、3元系アイオノマー(B)の質量の割合b」をそれぞれ算出し、「2元系アイオノマー(A)の中和度×a+3元系アイオノマー(B)の中和度×b」によって、特定できる。樹脂組成物全体における、不飽和カルボン酸の中和度が40%以上であると、樹脂組成物をダイシングフィルムの基材としたとき、基材フィルムの常温および低温におけるモジュラス強度が高くなる。一方、中和度が90%以下であると、樹脂組成物の加工性や成形性が良好になる。
【0069】
<樹脂組成物の製造法方法および樹脂組成物の物性>
本発明の樹脂組成物の製造方法は特に制限されず、2元系アイオノマー(A)、3元系アイオノマー(B)、およびスチレン系エラストマー(C)、さらに必要に応じてその他の重合体や添加剤等を混合可能な方法であれば特に制限されない。例えば、全ての成分をドライブレンドした後に溶融混練してもよく、一部の成分を先に混練してから、後の成分を加えてもよい。
【0070】
上記混練後の樹脂組成物の形状は特に制限されず、例えばペレット状等であってもよく、長尺状または枚葉状のシート状に加工してもよい。
【0071】
上記樹脂組成物のJIS K 7210:1999(ISO 1133:1997に相当)に準拠して、190℃、荷重2160gにて測定されるメルトフローレートは、0.1g/10分以上30g/10分以下が好ましく、0.2g/10分以上20g/10分以下がより好ましく、0.3g/10分以上10g/10分以下がさらに好ましく、0.4g/10分以上5g/10分以下がさらに好ましく、0.5g/10分以上3g/10分以下がさらに好ましい。樹脂組成物のメルトフローレートが当該範囲であると、当該樹脂組成物から得られる基材の常温および低温におけるモジュラス強度、ならびに常温および低温における伸び性が良好になりやすい。
【0072】
2.ダイシングフィルム基材
ダイシング基材は、上述の樹脂組成物を含む層を少なくとも一層有する基材であればよい。当該ダイシングフィルム基材は、上述の樹脂組成物を含む層を有するため、常温および低温において、優れたモジュラス強度や伸び性を発揮する。当該ダイシングフィルム基材は、ダイシングフィルムの基材として好適に用いられるが、当該用途に限定されない。
【0073】
当該ダイシングフィルム基材の構成は特に限定されず、上述の樹脂組成物を含む層を一層のみ有していてもよく、上述の樹脂組成物を含む層を2層以上有していてもよい。さらに、必要に応じて他の樹脂層が積層されていてもよい。
【0074】
ダイシングフィルム基材の例には、上述の樹脂組成物を含む層のみからなる1層構造の積層体;上述の樹脂組成物を含む層および他の樹脂層の2層からなる2層構造の積層体;上述の樹脂組成物を含む層/他の樹脂層/上述の樹脂組成物を含む層の3層からなる3層構造の積層体;等が含まれる。また、ダイシングフィルム基材は、上記以外にも、粘着剤を含む層や、粘着シート等をさらに含んでいてもよい。
【0075】
ここで、上述の樹脂組成物を含む層は、上述の樹脂組成物のみからなる層であってもよく、上述の樹脂組成物と、本発明の目的および効果を損なわない範囲で、他の成分とを含む層であってもよいが、実質的に上述の樹脂組成物からなる層であることが、ダイシングフィルム基材の伸び性やモジュラス強度の観点で好ましい。
【0076】
上述の樹脂組成物を含む層の厚みは特に制限されないが、ダイシングフィルム基材の強度や、モジュラス強度、伸び性等を良好にするとの観点で、50μm以上200μm以下が好ましく、60μm以上180μm以下がより好ましい。
【0077】
また、樹脂組成物を含む層の23℃で測定したMD方向(Machine Direction)の30%モジュラスおよびTD方向(Transverse Direction)の30%モジュラスの平均値は、8MPa以上17MPa以下が好ましく、10MPa以上15MPa以下がより好ましい。23℃における30%モジュラスの平均値が当該範囲であると、常温でのダイシングフィルム基材の伸び性が良好になりやすい。上記30%モジュラスは、上記樹脂組成物を含む層と同様の組成の、厚み100μm、TD方向長さ10mm、MD方向長さ180mmのフィルムを準備し、当該フィルムについてJIS K 7127:1999(ISO 527-3:1995に相当)に準拠し、測定装置である島津卓上型精密万能試験機AG-Xによって測定される値である。チャック間距離は100mm、試験速度は300mm/分とする。
【0078】
一方、樹脂組成物を含む層の-15℃で測定したMD方向の10%モジュラスおよびTD方向の10%モジュラスの平均値は、20MPa以上が好ましく、24MPa以上がより好ましい。-15℃における10%モジュラスの平均値が20MPa以上であると、低温でのダイシングフィルム基材の分断性と伸び性が良好になりやすい。上記10%モジュラスは、上記樹脂組成物を含む層と同様の組成の、厚み100μm、TD方向長さ10mm、MD方向長さ180mmのフィルムを準備し、当該フィルムについてJIS K 7127:1999(ISO 527-3:1995に相当)に準拠し、測定装置である島津卓上型精密万能試験機AG-Xによって測定される値である。チャック間距離は100mm、試験速度は1000mm/分とする。
【0079】
樹脂組成物を含む層は、23℃においてMD方向の200%モジュラスおよびTD方向の200%モジュラスを、いずれも測定可能であることが好ましい。23℃におけるMD方向の200%モジュラスと23℃におけるTD方向の200%モジュラスとがいずれも測定可能であると、ピックアップ工程において、チップに応力が掛かりにくく、チップ内の破損が起こりにくい。上記200%モジュラスは、上記樹脂組成物を含む層と同様の組成の、厚み100μm、TD方向長さ10mm、MD方向長さ180mmのフィルムを準備し、当該フィルムについてJIS K 7127:1999(ISO 527-3:1995に相当)に準拠し、測定装置である島津卓上型精密万能試験機AG-Xによって測定される値である。試験速度は300mm/分とする。
【0080】
樹脂組成物を含む層は、-15℃においてMD方向の200%モジュラスおよびTD方向の200%モジュラスを、いずれも測定可能であることが好ましい。-15℃におけるMD方向の200%モジュラスと-15℃におけるTD方向の200%モジュラスとがいずれも測定可能であると、低温でチップとダイボンドフィルムの分断と拡張(エキスパンド)を行う工程において分断と拡張(エキスパンド)を良好に実施しやすい。上記200%モジュラスは、上記樹脂組成物を含む層と同様の組成の、厚み100μm、TD方向長さ10mm、MD方向長さ180mmのフィルムを準備し、当該フィルムについてJIS K 7127:1999(ISO 527-3:1995に相当)に準拠し、測定装置である島津卓上型精密万能試験機AG-Xによって測定される値である。試験速度は1000mm/分とする。
【0081】
一方、他の樹脂層の例には、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、エチレン・αオレフィン共重合体、ポリプロピレン、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体またはそのアイオノマー、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル三元共重合体またはそのアイオノマー、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体、エチレン・ビニルエステル共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル・一酸化炭素共重合体、これらの不飽和カルボン酸グラフト物、ポリ塩化ビニル等を含む層が含まれる。他の樹脂層は、上記樹脂を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0082】
他の樹脂層の厚みは特に制限されないが、上記樹脂組成物を含む層のモジュラス強度や伸び性を損なわないとの観点で、10μm以上100μm以下が好ましく、15μm以上80μm以下がより好ましい。
【0083】
ここで、ダイシングフィルム基材全体の厚みは、ダイシングフィルムの構成部材として用いることを考慮すると、ダイシング時のフレーム保持の観点から50μm以上、拡張性(エキスパンド性)の観点から200μm以下が好ましい。
【0084】
上記ダイシングフィルム基材表面は、各種処理がされていてもよく、例えばコロナ処理等が施されていてもよい。さらに、電子線照射当が行われていてもよい。
【0085】
上記ダイシングフィルム基材の製造方法は特に制限されず、公知の成形法によって製造できる。例えば、上述の樹脂組成物を含む層のみからなるダイシングフィルム基材を製造する場合、従来公知のTダイキャスト成形法、Tダイニップ成形法、インフレーション成形法、押出ラミネート法、カレンダー成形法等によって、上記樹脂組成物等を成形すればよい。
【0086】
一方、ダイシングフィルム基材が、上述の樹脂組成物を含む層と、他の樹脂層との積層体である場合には、上述の樹脂組成物と、他の樹脂とを、共押出ラミネート法等によって成形すればよい。また、上述の樹脂組成物を含む層と、他の樹脂層とをそれぞれ別に作製し、これらを接着剤や接着シート等によって貼り合わせてもよい。接着剤や接着シートの材料の例には、各種エチレン共重合体、あるいはこれらの不飽和カルボン酸グラフト物等が含まれる。また、ダイシングフィルム基材が、上述の樹脂組成物を含む層と、他の樹脂層との積層体である場合、上述の樹脂組成物を含む層および他の樹脂層のうち、いずれか一方を先に形成し、当該一方の層上に、Tダイフィルム成形機、押出コーティング成形機等によって他方の層を形成し、積層してもよい。
【0087】
3.ダイシングフィルム
本発明のダイシングフィルムは、上述のダイシングフィルム基材と、その少なくとも一方の面に積層された粘着層と、を備えていればよく、必要に応じて他の構成を含んでいてもよい。なお、上述のダイシングフィルム基材が多層からなる場合、ダイシングフィルム基材中の樹脂組成物を含む層と、粘着層とが積層されていることが好ましい。
【0088】
粘着層を構成する粘着剤は一般的なダイシングフィルムの粘着層用の粘着剤とすることができる。粘着剤の例には、ゴム系、アクリル系、シリコーン系、ポリビニルエーテル系の粘着剤;放射線硬化型粘着剤;加熱発泡型粘着剤等が含まれる。なかでも、半導体ウエハからのダイシングフィルムの剥離性を考慮すると、粘着層は放射線硬化型粘着剤を含むことが好ましく、紫外線硬化型粘着剤を含むことがより好ましい。
【0089】
紫外線硬化型粘着剤は通常、ラジカル重合可能なラジカル重合性化合物(モノマー、オリゴマー、またはポリマーのいずれでもよい)と、光重合開始剤とを含み、必要に応じて架橋剤、粘着付与剤、充填剤、老化防止剤、着色剤等の添加剤等を含む。
【0090】
ラジカル重合性化合物の例には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸イソノニル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステルのモノマーまたはオリゴマー;(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシヘキシル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルのモノマーまたはオリゴマー;上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび/または(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルと、他の単量体(例えば(メタ)アクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、(メタ)アクリル酸アミド、(メタ)アクリル酸N-ヒドロキシメチルアミド、(メタ)アクリル酸アルキルアミノアルキルエステル、酢酸ビニル、スチレン、アクリロニトリル等)との共重合モノマーまたはオリゴマー;(メタ)アクリル酸グリシジルエステトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-へキサンジオール(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸と多価アルコールとのエステルモノマー、またそのオリゴマー;2-プロペニルジ-3-ブテニルシアヌレート、2-ヒドロキシエチルビス(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(2-メクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(2-メタクリロキシエチル)イソシアヌレート等のイソシアヌレート等が含まれる。
【0091】
光重合開始剤の具体例には、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル類;α-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどの芳香族ケトン類;ベンジルジメチルケタール等の芳香族ケタール類;ポリビニルベンゾフェノン、クロロチオキサントン、ドデシルチオキサントン、ジメチルチオキサントン、ジエチルチオキサントン等のチオキサントン類が含まれる。
【0092】
架橋剤の例には、ポリイソシアネート化合物、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリアミン、カルボキシル基含有ポリマー等が含まれる。
【0093】
上記粘着層の厚さは、粘着剤の種類に応じて適宜選択され、3~100μmが好ましく、3~50μmがさらに好ましい。
【0094】
また、ダイシングフィルムの粘着層は、セパレータによって保護されていてもよい。粘着層がセパレータで保護されていると、粘着層の表面を平滑に保つことができる。また、ダイシングフィルムの取り扱いや運搬が容易になるとともに、セパレータ上にラベル加工することも可能となる。当該セパレータは、ダイシングフィルムを使用する際に剥離される。
【0095】
セパレータは、紙、またはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の合成樹脂フィルム等であってもよい。また、セパレータの粘着層と接する面には、粘着層からの剥離性を高めるために、必要に応じてシリコーン処理やフッ素処理等の離型処理が施されていてもよい。セパレータの厚みは、通常10~200μm、好ましくは25~100μm程度が好ましい。
【0096】
上記ダイシングフィルムの製造方法は特に制限されず、例えば、上述のダイシング基材上に、粘着剤を公知の方法で塗布して製造してもよい。このとき粘着剤の塗布は、グラビアロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーター等によって行うことができる。また、剥離シート上に粘着剤を塗布して粘着層を形成し、ダイシングフィルム基材に当該粘着層を転写して、ダイシングフィルム基材と粘着層とを積層してもよい。また、ダイシングフィルム基材と、粘着層とを共押し出し等によって、同時に形成してもよい。
【実施例】
【0097】
以下において、実施例を参照して本発明を説明する。実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0098】
[材料の準備]
各成分は、以下のものを用いた。
<エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)>
IO1:エチレン・メタクリル酸共重合体のアイオノマー(エチレンに由来する構成単位の含有量:85質量%、メタクリル酸に由来する構成単位の含有量:15質量%、中和度:59%亜鉛、JIS K 7210:1999(ISO 1133:1997に相当)に準拠し、190℃、2160g荷重で測定されるMFR:8.9g/10分)
IO2:エチレン・メタクリル酸共重合体のアイオノマー(エチレンに由来する構成単位の含有量:80質量%、メタクリル酸に由来する構成単位の含有量:20質量%、中和度:40%亜鉛、JIS K 7210:1999(ISO 1133:1997に相当)に準拠し、190℃、2160g荷重で測定されるMFR:8.0g/10分)
【0099】
<エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体のアイオノマー(B)>
IO3:エチレン・メタクリル酸・アクリル酸ブチルエステル共重合体のアイオノマー(エチレンに由来する構成単位の含有量:80質量%、メタクリル酸に由来する構成単位の含有量:10質量%、アクリル酸ブチルエステルに由来する構成単位の含有量:10質量%、中和度:70%亜鉛、JIS K 7210:1999(ISO 1133:1997に相当)に準拠し、190℃、2160g荷重で測定されるMFR:1g/10分)
【0100】
<スチレン系エラストマー(C)>
・スチレン系エラストマー1:SEBS(スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(旭化成ケミカルズ社製、S.O.E.S1611(商品名)、JIS K 7210:1999(ISO 1133:1997に相当)に準拠し、230℃、2160g荷重で測定されるMFR:12.0g/10分、Tanδピーク温度:9℃)
・スチレン系エラストマー2:SEBS(スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(旭化成ケミカルズ社製、タフテックH1221(商品名)、JIS K 7210:1999(ISO 1133:1997に相当)に準拠し、230℃、2160g荷重で測定されるMFR:4.5g/10分、Tanδピーク温度:-19℃)
・スチレン系エラストマー3:SEBS(スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(旭化成ケミカルズ社製、タフテックH1062(商品名)、JIS K 7210:1999(ISO 1133:1997に相当)に準拠し、230℃、2160g荷重で測定されるMFR:4.5g/10分、Tanδピーク温度:-47℃)
・スチレン系エラストマー4:SEBS(スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(旭化成ケミカルズ社製、タフテックH1041(商品名)、JIS K 7210:1999(ISO 1133:1997に相当)に準拠し、230℃、2160g荷重で測定されるMFR:5.0g/10分、Tanδピーク温度:-45℃)
・スチレン系エラストマー5:HSBR(スチレン・ブタジエンランダム共重合体の水素添加物(JSR社製、ダイナロン1320P(商品名)、JIS K 7210:1999(ISO 1133:1997に相当)に準拠し、230℃、2160g荷重で測定されるMFR:3.5g/10分、Tanδピーク温度:-15℃)
・スチレン系エラストマー6:SEPS(スチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(クラレ社製、セプトン2002、JIS K 7210:1999(ISO 1133:1997に相当)に準拠し、230℃、2160g荷重で測定されるMFR:70.0g/10分)
【0101】
[実施例1~11および比較例1~5]
表1に示す割合(質量比)で、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー(A)、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体のアイオノマー(B)、およびスチレン系エラストマー(C)をドライブレンドした。次に、30mmφ二軸押出機の樹脂投入口にドライブレンドした混合物を投入して、ダイス温度230℃で溶融混練し、ダイシングフィルム基材用樹脂組成物を得た。得られたダイシングフィルム基材用樹脂組成物について、JIS K 7210:1999(ISO 1133:1997に相当)に準拠して、190℃、2160g荷重でMFRを測定した。結果を表1に示す。
【0102】
[評価]
得られたダイシングフィルム基材用樹脂組成物を、40mmφTダイフィルム成形機を用いて、加工温度230℃で成形し、100μm厚のTダイフィルムを作製した。得られたTダイフィルムをダイシングフィルム基材とし、下記の方法で評価した。
【0103】
さらに、不飽和カルボン酸由来の構成単位の総量は、「2元系アイオノマー(A)の含有割合×2元系アイオノマー(A)中のカルボン酸由来の構成単位の量」と「3元系アイオノマー(B)の含有割合×3元系アイオノマー(B)中のカルボン酸由来の構成単位の量」との和から算出した。
【0104】
不飽和カルボン酸エステル由来の構成単位の総量は、「3元系アイオノマー(B)の含有割合×3元系アイオノマー(B)中のカルボン酸エステル由来の構成単位の量」から算出した。
【0105】
中和度(モル%)は、「2元系アイオノマー(A)の中和度×(2元系アイオノマー(A)および3元系アイオノマー(B)の総量に対する、2元系アイオノマー(A)の量の割合)」+「3元系アイオノマー(B)の中和度×(2元系アイオノマー(A)および3元系アイオノマー(B)の総量に対する、3元系アイオノマー(B)の量の割合)」によって、特定した。さらに、「不飽和カルボン酸由来の構成単位の総量×中和度/100」も算出した。各結果を表1に示す。
【0106】
(1)常温モジュラス強度
上記ダイシングフィルム基材を10mm幅×180mm長の短冊状に裁断した。JIS K 7127:1999(ISO 527-3:1995に相当)に準拠し、測定装置として島津卓上型精密万能試験機AG-Xを使用して、試料(ダイシングフィルム基材)のMD方向(Machine Direction)およびTD方向(Transverse Direction)のそれぞれについて、23℃にて、30%モジュラスを測定した。チャック間距離は100mm、試験速度は300mm/分とした。
【0107】
上記試験により得られたMD方向の30%モジュラスおよびTD方向の30%モジュラスを平均し、以下の基準によりダイシングフィルム基材の常温モジュラス強度を評価した。
A(良好) :10MPa以上15MPa以下
B(やや良好):8MPa以上10MPa未満、または、15MPa超17MPa以下
C(不良) :8MPa未満、または、17MPa超
【0108】
(2)低温モジュラス強度
上記ダイシングフィルム基材を10mm幅×180mm長の短冊状に裁断した。JIS K 7127:1999(ISO 527-3:1995に相当)に準拠し、測定装置として島津卓上型精密万能試験機AG-Xを使用して、試料(ダイシングフィルム基材)のMD方向およびTD方向のそれぞれについて、-15℃にて、10%モジュラスを測定した。チャック間距離は100mm、試験速度は1000mm/分とした。
【0109】
上記試験により得られたMD方向の10%モジュラスおよびTD方向の10%モジュラスを平均し、以下の基準によりダイシングフィルム基材の低温モジュラス強度を評価した。
A(良好) :24MPa以上
B(やや良好):20MPa以上24MPa未満
C(不良) :20MPa未満
【0110】
(3)常温伸び性
上記ダイシングフィルム基材を10mm幅×180mm長の短冊状に裁断した。JIS K 7127:1999(ISO 527-3:1995に相当)に準拠し、測定装置として島津卓上型精密万能試験機AG-Xを使用して、測定対象のMD方向およびTD方向のそれぞれについて、23℃で200%モジュラスを測定した。
【0111】
得られた測定結果について、以下の基準でダイシングフィルム基材の常温伸び性を評価した。
A(良好):23℃で200%モジュラスを測定可能
C(不良):測定中にダイシングフィルム基材が破断してしまい、23℃で200%モジュラスを測定不可
【0112】
(4)低温伸び性
ダイシングフィルム基材を10mm幅×180mm長の短冊状に裁断した。JIS K 7127:1999(ISO 527-3:1995に相当)に準拠し、測定装置として島津卓上型精密万能試験機AG-Xを使用して、測定対象のMD方向、TD方向のそれぞれについて、-15℃で200%モジュラスを測定した。
【0113】
得られた測定結果について、以下の基準でダイシングフィルム基材の低温伸び性を評価した。
A(良好):-15℃で200%モジュラスを測定可能
C(不良):測定中にダイシングフィルム基材が破断してしまい、-15℃で200%モジュラスを測定不可
【0114】
【0115】
表1に示されるように、3元系アイオノマー(B)およびスチレン系エラストマー(C)を含まない比較例1では、常温モジュラス強度、常温伸び性および低温伸び性が低く、比較例2では、常温モジュラス強度および常温伸び性が低かった。
【0116】
一方、2元系アイオノマー(A)およびスチレン系エラストマー(C)を含まない比較例3では、低温伸び性が低かった。さらに、スチレン系エラストマー(C)を含まない比較例4では、低温伸び性が低かった。さらに、3元系のアイオノマー(B)を含まない比較例5では、低温伸び性が低かった。
【0117】
これに対し、2元系アイオノマー(A)と、3元系アイオノマー(B)と、スチレン系エラストマー(C)と、を含む実施例1~11の樹脂組成物を用いたダイシングフィルム基材では、常温モジュラス強度、低温モジュラス強度、常温伸び性、および低温伸び性に優れていた(実施例1~11)。2元系アイオノマー(A)と、3元系アイオノマー(B)と、スチレン系エラストマー(C)と、を組み合わせることで、2元系アイオノマー(A)と3元系アイオノマー(B)とスチレン系エラストマー(C)とが均一に混合され、常温または低温におけるモジュラス強度や常温伸び性を互いに補うだけではなく、低温伸び性が非常に良好になった。
【0118】
以上の結果から、本発明のダイシングフィルム基材用樹脂組成物によれば、常温モジュラス強度、低温モジュラス強度、常温伸び性、および低温伸び性に優れたダイシングフィルム基材を実現できることが確認できた。
【0119】
本出願は、2022年9月9日出願の特願2022-144100号に基づく優先権を主張する。当該出願明細書に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明のダイシングフィルム基材用樹脂組成物によれば、常温および低温での伸び性に優れ、さらには常温および低温でのモジュラス強度にも優れるダイシングフィルム基材が実現される。したがって、半導体装置の製造分野で非常に有用である。
【要約】
常温および低温における伸び性に優れ、さらには常温および低温におけるモジュラス強度にも優れたダイシングフィルム基材を実現可能なダイシングフィルム基材用樹脂組成物の提供を課題とする。上記課題を解決するダイシングフィルム基材用樹脂組成物は、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー(A)と、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体のアイオノマー(B)と、スチレン系エラストマー(C)と、を含む。