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特許7437641非水電解質二次電池用正極活物質及び非水電解質二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用正極活物質及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20240216BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240216BHJP
   H01M 4/505 20100101ALN20240216BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M4/505
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020569500
(86)(22)【出願日】2020-01-16
(86)【国際出願番号】 JP2020001304
(87)【国際公開番号】W WO2020158420
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2022-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2019014808
(32)【優先日】2019-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杤尾 孝哉
(72)【発明者】
【氏名】青木 良憲
(72)【発明者】
【氏名】河北 晃宏
(72)【発明者】
【氏名】五島 佑治
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 毅
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/147179(WO,A1)
【文献】特開2016-110889(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0050835(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第1758465(CN,A)
【文献】特開2015-225741(JP,A)
【文献】国際公開第2017/098679(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/050359(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36-4/525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状構造を有し、Ni、Nb、Nb以外の4価以上の金属元素及び任意要素のCoを含むリチウム遷移金属酸化物と、W、B及びAlのうちの少なくとも1種の元素を含み、前記リチウム遷移金属酸化物の粒子表面に付着した外添粒子と、を有し、
前記リチウム遷移金属酸化物中のLiを除く金属元素の総量に対するNiの割合は、90モル%≦Ni<100モル%の範囲であり、
前記リチウム遷移金属酸化物中のLiを除く金属元素の総量に対するNbの割合は、0モル%<Nb≦3モル%の範囲であり、
前記リチウム遷移金属酸化物中のLiを除く金属元素の総量に対するCoの割合は、Co≦2モル%の範囲であり、
前記層状構造のLi層に存在するLi以外の金属元素の割合は、前記リチウム遷移金属酸化物中のLiを除く金属元素の総量に対して、1モル%以上2.5モル%以下の範囲であり、
前記リチウム遷移金属酸化物は、X線回折によるX線回折パターンの(208)面の回折ピークの半値幅nが、0.30°≦n≦0.50°であり、
前記リチウム遷移金属酸化物の総量に対する前記外添粒子中のW、B及びAlの割合は、0.01モル%以上0.3モル%以下である、非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記リチウム遷移金属酸化物は、X線回折によるX線回折パターンの解析結果から得られる結晶構造のa軸長を示す格子定数a及びc軸長を示す格子定数cが、2.870Å≦a≦2.877Å、14.18Å≦c≦14.21Åの範囲である、請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記リチウム遷移金属酸化物は、X線回折によるX線回折パターンの(104)面の回折ピークの半値幅からシェラーの式により算出される結晶子サイズsが、400Å≦s≦700Åの範囲である、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極活物質を含む正極を備える、非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用正極活物質及び非水電解質二次電池の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高出力、高エネルギー密度の二次電池として、正極、負極、及び非水電解質を備え、正極と負極との間でリチウムイオン等を移動させて充放電を行う非水電解質二次電池が広く利用されている。
【0003】
非水電解質二次電池の正極に用いられる正極活物質としては、例えば、以下のものが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、式1:LiNi1-y-z-v-wCoAlzM で表され、前記式1中の元素Mは、Mn、Ti、Y、Nb、MoおよびWよりなる群から選ばれた少なくとも1種であり、前記式1中の元素Mは、Mg、Ca、SrおよびBaよりなる群から選ばれた少なくとも2種であり、かつ、元素Mは、少なくともMgとCaとを含み、前記式1は、0.97≦x≦1.1、0.05≦y≦0.35、0.005≦z≦0.1、0.0001≦v≦0.05、および0.0001≦w≦0.05を満たす、非水電解液二次電池用正極活物質が開示されている。
【0005】
また、例えば、特許文献2には、組成が下記式(I)で示され、かつ、Mo、W、Nb、Ta及びReから選ばれる少なくとも1種以上の元素が、式(I)におけるMn、Ni及びCoの合計モル量に対して、0.1モル%以上、5モル%以下の割合で含有されていることを特徴とする非水電解液二次電池用正極活物質が開示されている。
【0006】
[L]3a[M]3b[O6c…(I)
(ただし、上記式(I)中、Lは少なくともLiを含む元素であり、Mは、少なくともNi、Mn及びCo、或いは、Li、Ni、Mn及びCoを含む元素であり、
0.4≦Ni/(Mn+Ni+Co)モル比<0.7
0.1<Mn/(Mn+Ni+Co)モル比≦0.4
0.1≦Co/(Mn+Ni+Co)モル比≦0.3
であり、M中のLiモル比は0以上、0.05以下である)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2006-310181号公報
【文献】特開2009-289726号公報
【発明の概要】
【0008】
ところで、Niの割合がLiを除く金属元素の総量に対して90モル%以上100モル%未満のリチウム遷移金属酸化物は、高い電池性能を示す正極活物質として期待されているが、低温時の電池抵抗が上昇するという問題がある。低温時の電池抵抗の上昇を改善するには、例えば、特許文献1のように、Coを5モル%以上添加することが好ましいが、コバルトは高価であるため、製造コストの観点から、Coの含有量を抑えることが望まれている。
【0009】
そこで、本開示は、Niの割合がLiを除く金属元素の総量に対して90モル%以上100モル%未満の範囲であるリチウム遷移金属酸化物において、Coの含有量を抑えても、低温時の電池抵抗の上昇を抑えることができる正極活物質及び非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【0010】
本開示の一態様である非水電解質二次電池用正極活物質は、層状構造を有し、Ni、Nb、Nb以外の4価以上の金属元素及び任意要素のCoを含むリチウム遷移金属酸化物と、W、B及びAlのうちの少なくとも1種の元素を含み、前記リチウム遷移金属酸化物の粒子表面に付着した外添粒子と、を有し、前記リチウム遷移金属酸化物中のLiを除く金属元素の総量に対するNiの割合は、90モル%≦Ni<100モル%の範囲であり、前記リチウム遷移金属酸化物中のLiを除く金属元素の総量に対するNbの割合は、0モル%<Nb≦3モル%の範囲であり、前記リチウム遷移金属酸化物中のLiを除く金属元素の総量に対するCoの割合は、Co≦2.0モル%の範囲であり、前記層状構造のLi層に存在するLi以外の金属元素の割合は、前記リチウム遷移金属酸化物中のLiを除く金属元素の総量に対して、1モル%以上2.5モル%以下の範囲であり、前記リチウム遷移金属酸化物は、X線回折によるX線回折パターンの(208)面の回折ピークの半値幅nが、0.30°≦n≦0.50°であり、前記リチウム遷移金属酸化物の総量に対する前記外添粒子中のW、B及びAlの割合は、0.01モル%以上0.3モル%以下であることを特徴とする。
【0011】
本開示の一態様である非水電解質二次電池は、上記非水電解質二次電池用正極活物質を含む正極を備える。
【0012】
本開示の一態様によれば、Niの割合がLiを除く金属元素の総量に対して90モル%以上100モル%未満の範囲であるリチウム遷移金属酸化物において、Coの含有量を抑えても、低温時の電池抵抗の上昇を抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示の一態様である非水電解質二次電池用正極活物質は、層状構造を有し、Ni、Nb、Nb以外の4価以上の金属元素及び任意要素のCoを含むリチウム遷移金属酸化物と、W、B及びAlのうちの少なくとも1種の元素を含み、前記リチウム遷移金属酸化物の粒子表面に付着した外添粒子と、を有し、前記リチウム遷移金属酸化物中のLiを除く金属元素の総量に対するNiの割合は、90モル%≦Ni<100モル%の範囲であり、前記リチウム遷移金属酸化物中のLiを除く金属元素の総量に対するNbの割合は、0モル%<Nb≦3モル%の範囲であり、前記リチウム遷移金属酸化物中のLiを除く金属元素の総量に対するCoの割合は、Co≦2.0モル%の範囲であり、前記層状構造のLi層に存在するLi以外の金属元素の割合は、前記リチウム遷移金属酸化物中のLiを除く金属元素の総量に対して、1モル%以上2.5モル%以下の範囲であり、前記リチウム遷移金属酸化物は、X線回折によるX線回折パターンの(208)面の回折ピークの半値幅nが、0.30°≦n≦0.50°であり、前記リチウム遷移金属酸化物の総量に対する前記外添粒子中のW、B及びAlの割合は、0.01モル%以上0.3モル%以下であることを特徴とする。
【0014】
通常、Niの割合がLiを除く金属元素の総量に対して90モル%以上100モル%未満の範囲であるリチウム遷移金属酸化物において、Coの含有量が2モル%以下であると、低温時の非水電解質二次電池の電池抵抗が上昇するという問題がある。しかし、本開示の一態様のように、Nb含有のリチウム遷移金属酸化物の粒子表面に、W、B及びAlのうちの少なくとも1種の元素を含む外添粒子が付着していると、W、B及びAlのうちの少なくとも1種の元素と、Nbとの間で電子的相互作用が働き、リチウム遷移金属酸化物の粒子表面の状態が改善されると考えられる。その結果、低温時の電池抵抗の上昇が抑制される。但し、リチウム遷移金属酸化物中のNbの含有量が多くなり過ぎると、リチウム遷移金属酸化物の層状構造中に2価のNiが多く存在することになり、当該層状構造が不安定になり、電池容量が低下する場合がある。また、リチウム遷移金属酸化物の総量に対して外添粒子中のW、B及びAlの割合が多くなり過ぎると、リチウム遷移金属酸化物中のLiが引き抜かれて、電池容量が低下する場合がある。そこで、リチウム遷移金属酸化物中のNbの含有量、リチウム遷移金属酸化物量に対する外添粒子中のW、B及びAlの割合を本開示の一態様で規定する範囲にすることで、低温時の電池抵抗の上昇を抑制するだけでなく、電池容量の低下を抑制することも可能となる。
【0015】
さらに、本開示の一態様のように、リチウム遷移金属酸化物中にNb以外の4価以上の金属元素が含まれること、及び層状構造のLi層に所定量のLi以外の金属元素が存在することで、層状構造のさらなる安定化が図られると考えられ、例えば、電池容量の低下を抑制することが可能となる。また、本開示の一態様のように、X線回折によるX線回折パターンの(208)面の回折ピークの半値幅が上記所定範囲にあることでで、層状構造のLi層と遷移金属層間の配列に適度な揺らぎが生じ、層状構造の安定化に繋がると考えられ、例えば、電池容量の低下を抑制することが可能となる。
【0016】
以下に、本開示の一態様である非水電解質二次電池用正極活物質を用いた非水電解質二次電池の一例について説明する。
【0017】
実施形態の一例である非水電解質二次電池は、正極と、負極と、非水電解質とを備える。正極と負極との間には、セパレータを設けることが好適である。具体的には、正極及び負極がセパレータを介して巻回されてなる巻回型の電極体と、非水電解質とが外装体に収容された構造を有する。電極体は、巻回型の電極体に限定されず、正極及び負極がセパレータを介して積層されてなる積層型の電極体など、他の形態の電極体が適用されてもよい。また、非水電解質二次電池の形態としては、特に限定されず、円筒型、角型、コイン型、ボタン型、ラミネート型などが例示できる。
【0018】
以下、実施形態の一例である非水電解質二次電池に用いられる正極、負極、非水電解質、セパレータについて詳述する。
【0019】
<正極>
正極は、例えば金属箔等の正極集電体と、正極集電体上に形成された正極活物質層とで構成される。正極集電体には、アルミニウムなどの正極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極活物質層は、例えば、正極活物質、結着材、導電材等を含む。
【0020】
正極は、例えば、正極活物質、結着材、導電材等を含む正極合材スラリーを正極集電体上に塗布・乾燥することによって、正極集電体上に正極活物質層を形成し、当該正極活物質層を圧延することにより得られる。
【0021】
正極活物質は、層状構造を有し、Ni、Nb、Nb以外の4価以上の金属元素及び任意要素のCoを含むリチウム遷移金属酸化物と、W、B及びAlのうちの少なくとも1種の元素を含み、上記リチウム遷移金属酸化物の粒子表面に付着した外添粒子と、を含む。以下、層状構造を有し、Ni、Nb、Nb以外の4価以上の金属元素及び任意要素のCoを含むリチウム遷移金属酸化物を「本実施形態のリチウム遷移金属酸化物」と称する。
【0022】
本実施形態のリチウム遷移金属酸化物の層状構造は、例えば、空間群R-3mに属する層状構造、空間群C2/mに属する層状構造等が挙げられる。これらの中では、高容量化、層状構造の安定性等の点で、空間群R-3mに属する層状構造であることが好ましい。
【0023】
本実施形態のリチウム遷移金属酸化物中のLiを除く金属元素の総量に対するNiの割合は、90モル%≦Ni<100モル%の範囲であればよいが、電池の高容量化等の点で、好ましくは92モル%≦Ni≦96モル%の範囲である。
【0024】
本実施形態のリチウム遷移金属酸化物中のLiを除く金属元素の総量に対するNbの割合は、低温時の電池抵抗の上昇を抑制する等の点で、0モル%<Nb≦3モル%の範囲であればよいが、好ましくは0.2モル%≦Nb≦2.0モル%の範囲、より好ましくは、0.2モル%≦Nb≦1.5モル%の範囲である。Nbの含有量が3モル%を超えても、低温時の電池抵抗の上昇を抑制することは可能であるが、層状構造中に不安定な2価のNiが多く存在することになるため、層状構造が不安定になり、電池容量が低下する場合がある。
【0025】
本実施形態のリチウム遷移金属酸化物中のLiを除く金属元素の総量に対するCoの割合は、Co≦2モル%の範囲であればよいが、製造コストの点で、好ましくはCo≦1.0モル%の範囲であり、より好ましくはCo=0.0モル%である。
【0026】
本実施形態のリチウム遷移金属酸化物中のNb以外の4価以上の金属元素は、例えば、Ti、Mn、Sn、Zr、Si、Mo、W、Ta、V、Cr等が挙げられる。リチウム遷移金属酸化物中にNb以外の4価以上の金属元素が含まれる場合、層状構造がより安定化され、電池容量の低下等の抑制に繋がる。上記例示した金属元素の中では、電池容量の低下を抑制する等の点で、Mn、Tiが好ましく、Mnが特に好ましい。Nb以外の4価以上の金属元素の含有量は、例えば、本実施形態のリチウム遷移金属酸化物中のLiを除く金属元素の総量に対して1モル%~5モル%であることが好ましい。
【0027】
本実施形態のリチウム遷移金属酸化物は、Li、Ni、Nb、Nb以外の4価以上の金属元素、Coの他に、上記の金属元素以外の他の金属元素を含んでいてもよく、例えば、Al、Fe、Mg、Cu、Na、K、Ba、Sr、Bi、Be、Zn、Ca及びB等が挙げられる。これらの中では、電池容量の低下を抑制する等の点で、Al、Feが好ましく、Alが特に好ましい。
【0028】
本実施形態のリチウム遷移金属酸化物を構成する元素の含有量は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-AES)や電子線マイクロアナライザー(EPMA)、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)等により測定することができる。
【0029】
本実施形態のリチウム遷移金属酸化物は、その層状構造のLi層にLi以外の金属元素が存在している。そして、層状構造のLi層に存在するLi以外の金属元素の割合は、電池容量の低下を抑制する等の点で、リチウム遷移金属酸化物中のLiを除く金属元素の総量に対して1モル%以上2.5モル%以下の範囲であり、好ましくは1モル%以上2モル%以下の範囲である。層状構造のLi層に存在するLi以外の金属元素は、本実施形態のリチウム遷移金属酸化物を構成する元素の割合から、主にNiであるが、その他の金属元素もあり得る。
【0030】
層状構造のLi層に存在するLi以外の金属元素の割合は、本実施形態のリチウム遷移金属酸化物のX線回折測定によるX線回折パターンのリートベルト解析結果から得られる。
【0031】
X線回折パターンは、粉末X線回折装置(株式会社リガク製、商品名「RINT-TTR」、線源Cu-Kα)を用いて、以下の条件による粉末X線回折法によって得られる。
測定範囲;15-120°スキャン速度;4°/min
解析範囲;30-120°
バックグラウンド;B-スプライン
プロファイル関数;分割型擬Voigt関数
束縛条件;Li(3a) + Ni(3a)=1
Ni(3a) + Ni(3b)=y
yはリチウム遷移金属酸化物中のLiを除く金属元素の総量に対するNiの割合(0.90≦y<1.00)
ICSD No.;98-009-4814
また、X線回折パターンのリートベルト解析には、リートベルト解析ソフトであるPDXL2(株式会社リガク製)が使用される。
【0032】
本実施形態のリチウム遷移金属酸化物において、上記X線回折によるX線回折パターンの(208)面の回折ピークの半値幅nは、電池容量の低下を抑制する等の点で、0.30°≦n≦0.50°の範囲であり、好ましくは0.30°≦n≦0.45°の範囲である。(208)面の回折ピークの半値幅nが、上記範囲外の場合、層状構造のLi層と遷移金属層間の配列の揺らぎが小さすぎたり大きすぎたりして、層状構造の安定性が低下し、電池容量の低下が引き起こされる場合がある。
【0033】
本実施形態のリチウム遷移金属酸化物は、上記X線回折によるX線回折パターンの結果から得られる結晶構造のa軸長を示す格子定数aが2.870Å≦a≦2.877Åの範囲であり、c軸長を示す格子定数cが14.18Å≦c≦14.21Åの範囲であることが好ましい。上記格子定数aが2.870Åより小さい場合、上記範囲を満たす場合と比較して、結晶構造中の原子間距離が狭く不安定な構造になり、電池容量が低下する場合がある。また、上記格子定数aが2.877Åより大きい場合、結晶構造中の原子間距離が広く不安定な構造になり、上記範囲を満たす場合と比較して、電池容量が低下する場合がある。また、上記格子定数cが14.18Åより小さい場合、結晶構造中の原子間距離が狭く不安定な構造になり、上記範囲を満たす場合と比較して、電池容量が低下する場合がある。また、上記格子定数cが14.21Åより大きい場合、結晶構造中の原子間距離が広く不安定な構造になり、上記範囲を満たす場合と比較して、電池容量が低下する場合がある。
【0034】
本実施形態のリチウム遷移金属酸化物は、上記X線回折によるX線回折パターンの(104)面の回折ピークの半値幅からシェラーの式(Scherrer equation)により算出される結晶子サイズsが、400Å≦s≦700Åの範囲であり、好ましくは400Å≦s≦550Åである。本実施形態のリチウム遷移金属酸化物の上記結晶子サイズsが上記範囲外の場合、層状構造の安定性が低下し、上記範囲を満たす場合と比較して、電池容量が低下する場合がある。シェラーの式は、下式で表される。
【0035】
s=Kλ/Bcosθ
式において、sは結晶子サイズ、λはX線の波長、Bは(104)面の回折ピークの半値幅、θは回折角(rad)、KはScherrer定数である。本実施形態においてKは0.9とする。
【0036】
本実施形態のリチウム遷移金属酸化物の含有量は、例えば、充放電効率を改善する等の点で、正極活物質の総質量に対して90質量%以上であることが好ましく、99質量%以上であることが好ましい。
【0037】
また、本実施形態の正極活物質は、本実施形態のリチウム遷移金属酸化物以外に、その他のリチウム遷移金属酸化物を含んでいても良い。その他のリチウム遷移金属酸化物としては、例えば、Ni含有率が0モル%~90モル%未満のリチウム遷移金属酸化物等が挙げられる。
【0038】
本実施形態の正極活物質は、前述したように、W、B及びAlのうち少なくともいずれか1種を含み、本実施形態のリチウム遷移金属酸化物の粒子表面に付着している外添粒子を有する。粒子表面とは、一次粒子が凝集した二次粒子の表面、二次粒子の内部の一次粒子の表面のうちの少なくともいずれか一方を指す。すなわち、外添粒子は、リチウム遷移金属酸化物の二次粒子の表面、二次粒子内部の一次粒子の表面、又はその両方の表面に付着している。なお、二次粒子の表面とは、二次粒子の表面に存在する一次粒子の表面と同義である。
【0039】
W、B及びAlのうち少なくともいずれか1種を含む外添粒子は、例えば、W、B及びAlを含む外添粒子、W及びBを含む外添粒子、W及びAlを含む外添粒子、B及びAlを含む外添粒子、Wを含む外添粒子、Bを含む外添粒子、Alを含む外添粒子のうちの少なくともいずれか1つである。
【0040】
W、B及びAlのうち少なくともいずれか1種を含む外添粒子は、例えば、W、B及びAlのうち少なくともいずれか1種を含む酸化物またはその塩である。Wを含む外添粒子としては、例えば、WO2、WO及びW等の酸化タングステン、タングステン酸リチウム等の酸化タングステンの塩等が挙げられる。Bを含む外添粒子としては、例えば、B等の酸化ホウ素、ホウ酸リチウム等の酸化ホウ素の塩等が挙げられる。Alを含む粒子としては、例えば、Al等の酸化アルミニウム等が挙げられる。なお、外添粒子は、酸化物又はその塩に限定されるものではなく、窒化物、水酸化物、炭酸化合物、硫酸化合物、リン酸化合物、硝酸化合物等でもよい。
【0041】
W、B及びAlのうち少なくともいずれか1種を含む外添粒子の含有量は、本実施形態のリチウム遷移金属酸化物の総量に対する外添粒子中のW、B及びAlの割合で0.01モル%以上0.3モル%以下であればよいが、好ましくは0.05モル%以上0.3モル%以下、さらに好ましくは0.05モル%以上0.25モル%以下である。上記のW、B及びAlの割合が0.01モル%未満の場合、低温時の電池抵抗の上昇抑制効果が得られない。また、上記のW、B及びAlの割合が0.3モル%を超える場合でも、低温時の電池抵抗の上昇を抑制することは可能であるが、リチウム遷移金属酸化物中のリチウムが引き抜かれて、電池容量が低下する場合がある。
【0042】
本実施形態のリチウム遷移金属酸化物の製造方法の一例について説明する。
【0043】
本実施形態のリチウム遷移金属酸化物の製造方法は、例えば、Ni、Nb以外の4価以上の金属元素及び任意要素の他の金属元素(Co、Al等)を含む化合物と、Li化合物と、Nb含有化合物と、を含む混合物を、焼成炉内で、酸素気流下、450℃以上680℃以下の第1設定温度まで第1昇温速度で焼成する第1焼成工程と、前記第1焼成工程により得られた焼成物を、焼成炉内で、酸素気流下で、680℃超800℃以下の第2設定温度まで第2昇温速度で焼成する第2焼成工程とを含む、多段階焼成工程を備えることが好ましい。ここで、第1昇温速度は、1.5℃/min以上5.5℃/min以下の範囲であり、第2昇温速度は、第1昇温速度より遅く、0.1℃/min以上3.5℃/min以下の範囲であることが好ましい。このような多段階焼成の方が、一段階焼成より、最終的に得られる本実施形態のリチウム遷移金属酸化物において、その層状構造のLi層に存在するLi以外の金属元素の割合、(208)面の回折ピークの半値幅n、格子定数a、格子定数c、結晶子サイズs等の各パラメータ等を上記規定した範囲に調整することが容易となる。以下、第1焼成工程及び第2焼成工程の詳細を説明する。
【0044】
第1焼成工程に用いられるNi、Nb以外の4価以上の金属元素及び任意の金属元素含有化合物は、例えば、Ni、Nb以外の4価以上の金属元素、任意要素の他の金属元素(Co、Al等)を含む酸化物等である。当該酸化物は、例えば、Ni、Nb以外の4価以上の金属及び任意要素の他の金属を含む金属塩の溶液を撹拌しながら、水酸化ナトリウム等のアルカリ溶液を滴下し、pHをアルカリ側(例えば8.5~14.0)に調整することにより、Ni、Nb以外の4価以上の金属元素及び任意要素の他の金属を含む複合水酸化物として析出(共沈)させ、当該複合水酸化物を焼成することにより得られる。焼成温度は、特に制限されるものではないが、例えば、400℃~600℃の範囲である。
【0045】
第1焼成工程に用いられるLi化合物は、例えば、水酸化リチウム、炭酸リチウム等である。第1焼成工程に用いられるNb含有化合物は、例えば、酸化ニオブ、ニオブ酸リチウム、塩化ニオブ等であり、特に酸化ニオブが好ましい。これらの原料を用いることにより、電池性能の高いリチウム遷移金属酸化物が得られる。
【0046】
本実施形態のリチウム遷移金属酸化物の製造方法に用いるNi、Nb以外の4価以上の金属元素及び任意の金属元素含有化合物にはNbが含まれず、また、Nb含有化合物には、Ni等の他の金属元素が含まれないことが好ましい。これらの原料を用いることにより、電池性能の高いリチウム遷移金属酸化物が得られる。
【0047】
第1焼成工程で用いられる混合物において、Ni及び任意の金属元素含有化合物と、Li化合物と、Nb含有化合物との混合割合は、適宜設定されればよいが、例えば、リチウム遷移金属酸化物の層状構造のLi層に存在するLi以外の金属元素の割合、(208)面の回折ピークの半値幅n、格子定数a、格子定数c、結晶子サイズs等の各パラメータを上記規定した範囲に調整することが容易となる点で、Liを除く金属元素:Liのモル比が、1:0.98~1:1.08の範囲とすることが好ましい。
【0048】
第1焼成工程における第1設定温度は、リチウム遷移金属酸化物の上記各パラメータを上記規定した範囲に調整する点で、好ましくは450℃以上680℃以下の範囲であり、より好ましくは550℃以上680℃以下の範囲である。また、第1焼成工程における第1昇温速度は、リチウム遷移金属酸化物の上記各パラメータを上記規定した範囲に調整する点で、好ましくは1.5℃/min以上5.5℃/min以下の範囲であり、より好ましくは2.0℃/min以上5.0℃min以下の範囲である。なお、第1昇温速度は、上記規定した範囲内であれば、温度領域毎に複数設定してもよい。第1焼成工程の焼成開始温度(初期温度)は、例えば、室温~200℃以下の範囲である。
【0049】
第1焼成工程における第1設定温度の保持時間は、リチウム遷移金属酸化物の上記各パラメータを上記規定した範囲に調整する点で、0時間以上5時間以下が好ましく、0時間以上3時間以下がより好ましい。第1設定温度の保持時間とは、第1設定温度に達した後、第1設定温度を維持する時間である。
【0050】
第2焼成工程における第2設定温度は、リチウム遷移金属酸化物の上記各パラメータを上記規定した範囲に調整する点で、好ましくは680℃超800℃以下の範囲であり、より好ましくは680℃以上750℃以下の範囲である。第2焼成工程における第2昇温速度は、リチウム遷移金属酸化物の上記各パラメータを上記規定した範囲に調整する点で、好ましくは、第1昇温速度より遅く、0.1℃/min以上3.5℃/min以下の範囲であり、より好ましくは0.2℃/min以上2.5℃/min以下の範囲である。なお、第2昇温速度は、上記規定した範囲内であれば、温度領域毎に複数設定してもよい。例えば、第1設定温度が680℃未満である場合、第2昇温速度を、第1設定温度から680℃までの昇温速度Aと、680℃から第2設定温度までの昇温速度Bとに分けてもよい。後段の昇温速度Bは、前段の昇温速度Aより遅くすることが好ましい。
【0051】
第2焼成工程における第2設定温度の保持時間は、リチウム遷移金属酸化物の上記各パラメータを上記規定した範囲に調整する点で、1時間以上10時間以下が好ましく、1時間以上5時間以下がより好ましい。第2設定温度の保持時間とは、第2設定温度に達した後、第2設定温度を維持する時間である。
【0052】
多段階焼成工程における酸素気流においては、リチウム遷移金属酸化物の上記各パラメータを上記規定した範囲に調整する点で、例えば、酸素気流中の酸素濃度を60%以上とし、酸素気流の流量を、焼成炉10cmあたり、0.2mL/min~4mL/minの範囲及び混合物1kgあたり0.3L/min以上とすることが好ましい。さらに、焼成炉内に加わる最大圧力は焼成炉外圧力に加え0.1kPa以上1.0kPa以下の範囲とすることが好ましい。
【0053】
W、B及びAlのうち少なくとも1種の金属元素を含む外添粒子を本実施形態のリチウム遷移金属酸化物の粒子表面に付着させる方法としては、例えば、本実施形態のリチウム遷移金属酸化物を含む懸濁液に、W、B及びAlのうち少なくとも1種の金属元素を含む化合物が溶解又は分散した溶液を添加する方法や、本実施形態のリチウム遷移金属酸化物の粒子を混合しながら、W、B及びAlのうち少なくとも1種の金属元素を含む化合物が溶解又は分散した溶液を添加(例えば噴霧)する方法等の湿式法、本実施形態のリチウム遷移金属酸化物の粒子と、W、B及びAlのうち少なくとも1種の金属元素を含む化合物の粒子と、を混合する乾式法等が挙げられる。
【0054】
上記のような方法を用いることにより、本実施形態のリチウム遷移金属酸化物の粒子表面に、W、B及びAlのうち少なくとも1種の金属元素を含む外添粒子を付着させることができる。W、B及びAlのうち少なくとも1種の金属元素を含む外添粒子が付着したリチウム遷移金属酸化物の粒子は、例えば100℃以上400℃以下で熱処理することが好ましい。100℃未満であると、W、B及びAlのうち少なくとも1種の金属元素を含む外添粒子の付着力が低く、リチウム遷移金属酸化物の粒子表面から脱離する外添粒子の量が増える虞があり、400℃を超えると、本実施形態のリチウム遷移金属酸化物の層状構造のLi層に存在するLi以外の金属元素の割合が増加し、電池容量の低下が起こる虞がある。
【0055】
以下に、正極活物質層に含まれるその他の材料について説明する。
【0056】
正極活物質層に含まれる導電材としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素粉末等が挙げられる、これらは、1種単独でもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
正極活物質層に含まれる結着材としては、例えば、フッ素系高分子、ゴム系高分子等が挙げられる。フッ素系高分子としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、またはこれらの変性体等が挙げられ、ゴム系高分子としては、例えば、エチレンープロピレンーイソプレン共重合体、エチレンープロピレンーブタジエン共重合体等が挙げられる。これらは、1種単独でもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0058】
<負極>
負極は、例えば金属箔等の負極集電体と、負極集電体上に形成された負極活物質層とを備える。負極集電体には、銅などの負極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極活物質層は、例えば、負極活物質、結着材、増粘材等を含む。
【0059】
負極は、例えば、負極活物質、増粘材、結着材を含む負極合材スラリーを負極集電体上に塗布・乾燥することによって、負極集電体上に負極活物質層を形成し、当該負極活物質層を圧延することにより得られる。
【0060】
負極活物質層に含まれる負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵・放出することが可能な材料であれば特に制限されるものではなく、例えば、炭素材料、リチウムと合金を形成することが可能な金属またはその金属を含む合金化合物等が挙げられる。炭素材料としては、天然黒鉛、難黒鉛化性炭素、人造黒鉛等のグラファイト類、コークス類等を用いることができ、合金化合物としては、リチウムと合金形成可能な金属を少なくとも1種類含むものが挙げられる。リチウムと合金形成可能な元素としてはケイ素やスズであることが好ましく、これらが酸素と結合した、酸化ケイ素や酸化スズ等も用いることもできる。また、上記炭素材料とケイ素やスズの化合物とを混合したものを用いることができる。上記の他、チタン酸リチウム等の金属リチウムに対する充放電の電位が、炭素材料等より高いものも用いることができる。
【0061】
負極活物質層に含まれる結着材としては、例えば、正極の場合と同様にフッ素系高分子、ゴム系高分子等を用いることもできるが、スチレンーブタジエン共重合体(SBR)又はこの変性体等を用いてもよい。負極活物質層に含まれる結着材としては、正極の場合と同様にフッ素系樹脂、PAN、ポリイミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等を用いることができる。水系溶媒を用いて負極合材スラリーを調製する場合は、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、CMC又はその塩、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩(PAA-Na、PAA-K等、また部分中和型の塩であってもよい)、ポリビニルアルコール(PVA)等を用いることが好ましい。
【0062】
負極活物質層に含まれる増粘材としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリエチレンオキシド(PEO)等が挙げられる。これらは、1種単独でもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
<非水電解質>
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水電解質は、液体電解質(非水電解液)に限定されず、ゲル状ポリマー等を用いた固体電解質であってもよい。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等を用いることができる。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。
【0064】
上記エステル類の例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート等の環状炭酸エステル、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート等の鎖状炭酸エステル、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン(GVL)等の環状カルボン酸エステル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル、γ-ブチロラクトン等の鎖状カルボン酸エステルなどが挙げられる。
【0065】
上記エーテル類の例としては、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、1,3,5-トリオキサン、フラン、2-メチルフラン、1,8-シネオール、クラウンエーテル等の環状エーテル、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、o-ジメトキシベンゼン、1,2-ジエトキシエタン、1,2-ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、1,1-ジメトキシメタン、1,1-ジエトキシエタン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等の鎖状エーテル類などが挙げられる。
【0066】
上記ハロゲン置換体としては、フルオロエチレンカーボネート(FEC)等のフッ素化環状炭酸エステル、フッ素化鎖状炭酸エステル、フルオロプロピオン酸メチル(FMP)等のフッ素化鎖状カルボン酸エステル等を用いることが好ましい。
【0067】
電解質塩は、リチウム塩であることが好ましい。リチウム塩の例としては、LiBF、LiClO4、LiPF、LiAsF、LiSbF6、LiAlCl4、LiSCN、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li(P(C)F)、LiPF6-x(C2n+1(1<x<6,nは1又は2)、LiB10Cl10、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、Li、Li(B(C)F)等のホウ酸塩類、LiN(SOCF、LiN(C2l+1SO)(C2m+1SO){l,mは0以上の整数}等のイミド塩類などが挙げられる。リチウム塩は、これらを1種単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。これらのうち、イオン伝導性、電気化学的安定性等の観点から、LiPFを用いることが好ましい。リチウム塩の濃度は、非水溶媒1L当り0.8~1.8molとすることが好ましい。
【0068】
<セパレータ>
セパレータは、例えば、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、セルロースなどが好適である。セパレータは、セルロース繊維層及びオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂繊維層を有する積層体であってもよく、セパレータの表面にアラミド樹脂等が塗布されたものを用いてもよい。セパレータと正極及び負極の少なくとも一方との界面には、無機物のフィラーを含むフィラー層が形成されてもよい。無機物のフィラーとしては、例えばチタン(Ti)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、マグネシウム(Mg)の少なくとも1種を含有する酸化物、リン酸化合物またその表面が水酸化物等で処理されているものなどが挙げられる。フィラー層は、例えば当該フィラーを含有するスラリーを正極、負極、又はセパレータの表面に塗布して形成することができる。
【実施例
【0069】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0070】
<実施例1>
[正極活物質の作製]
Ni、Co、Al及びMnを含む複合酸化物(Ni0.91Co0.01Al0.04Mn0.04)と、LiOHと、Nbとを、Ni、Nb、Co、Al及びMnの総量と、Liのモル比が1:1.03になるように混合して、混合物を得た。当該混合物を焼成炉に投入し、酸素濃度95%の酸素気流下(10cmあたり2mL/min及び混合物1kgあたり5L/minの流量)で、当該混合物を、昇温速度2.0℃/minで、室温から650℃まで焼成した後、昇温速度0.5℃/minで、650℃から710℃まで焼成した。この焼成物を水洗し、リチウム遷移金属酸化物を得た。これを実施例1のリチウム遷移金属酸化物とした。実施例1のリチウム遷移金属酸化物のNi、Co、Al、Mn、Nb、の割合は表1に記載される通りであった。
【0071】
また、実施例1のリチウム遷移金属酸化物に対して、既述の条件で粉末X線回折測定を行い、X線回折パターンを得た。その結果、層状構造を示す回折線が確認され、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合は、1.8モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅は0.48°であり、格子定数aは、2.872Åであり、格子定数cは14.20Åであり、結晶子サイズsは、459Åであった。
【0072】
実施例1のリチウム遷移金属酸化物の粒子に純水を加え撹拌した後に濾過・分離し、水分率を5%に調整した当該リチウム遷移金属酸化物を準備し、当該リチウム遷移金属酸化物に対するW元素の割合が0.1モル%となるようにWO粉末を添加した後、180℃で熱処理した。得られた粉末をSEM-EDXにて分析したところ、リチウム遷移金属酸化物の粒子表面に、タングステンを含む粒子が付着していることが認められた。これを実施例1の正極活物質とした。
【0073】
<実施例2>
実施例1の正極活物質作製方法において、WO粉末をHBO粉末としたこと以外は実施例1と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。実施例2のリチウム遷移金属酸化物のNi、Co、Al、Mn、Nbの割合は表1に記載される通りであった。また、実施例2のリチウム遷移金属酸化物に対して、粉末X線回折測定を行った結果、層状構造を示す回折線が確認され、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合は、1.6モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅は0.45°であった。
【0074】
また、得られた粉末をSEM-EDXにて分析したところ、リチウム遷移金属酸化物の粒子表面に、ホウ素を含む粒子が付着していることが認められた。これを実施例2の正極活物質とした。
【0075】
<実施例3>
実施例1の正極活物質作製方法において、WO粉末をAl(SO粉末としたこと以外は実施例1と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。実施例3のリチウム遷移金属酸化物のNi、Co、Al、Mn、Nbの割合は表1に記載される通りであった。また、実施例3のリチウム遷移金属酸化物に対して、粉末X線回折測定を行った結果、層状構造を示す回折線が確認され、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合は、2.2モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅は0.48°であった。
【0076】
また、得られた粉末をSEM-EDXにて分析したところ、リチウム遷移金属酸化物の粒子表面に、アルミニウムを含む粒子が付着していることが認められた。これを実施例3の正極活物質とした。
【0077】
<実施例4>
実施例1の正極活物質作製方法において、WO粉末に加え、Al(SO粉末を当該リチウム遷移金属酸化物に対するAl元素の割合が0.05モル%となるように添加したこと以外は実施例1と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。実施例4のリチウム遷移金属酸化物のNi、Co、Al、Mn、Nbの割合は表1に記載される通りであった。また、実施例4のリチウム遷移金属酸化物に対して、粉末X線回折測定を行った結果、層状構造を示す回折線が確認され、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合は、2.3モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅は0.49°であった。
【0078】
また、得られた粉末をSEM-EDXにて分析したところ、リチウム遷移金属酸化物の粒子表面に、タングステンを含む粒子とアルミニウムを含む粒子が付着していることが認められた。これを実施例4の正極活物質とした。
【0079】
<実施例5>
実施例1の正極活物質作製方法において、WO粉末に加え、HBO粉末を当該リチウム遷移金属酸化物に対するB元素の割合が0.1モル%となるよう添加し、Al(SO粉末を当該リチウム遷移金属酸化物に対するAl元素の割合が0.05モル%となるように添加したこと以外は実施例1と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。実施例5のリチウム遷移金属酸化物のNi、Co、Al、Mn、Nbの割合は表1に記載される通りであった。また、実施例5のリチウム遷移金属酸化物に対して、粉末X線回折測定を行った結果、層状構造を示す回折線が確認され、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合は、2.4モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅は0.5°であった。
【0080】
また、得られた粉末をSEM-EDXにて分析したところ、リチウム遷移金属酸化物の粒子表面に、タングステンを含む粒子、ホウ素を含む粒子、アルミニウムを含む粒子が付着していることが認められた。これを実施例5の正極活物質とした。
【0081】
<実施例6>
実施例1の正極活物質作製方法において、WO粉末に加え、HBO粉末を当該リチウム遷移金属酸化物に対するB元素の割合が0.1モル%となるよう添加したこと以外は実施例1と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。実施例6のリチウム遷移金属酸化物のNi、Co、Al、Mn、Nbの割合は表1に記載される通りであった。また、実施例6のリチウム遷移金属酸化物に対して、粉末X線回折測定を行った結果、層状構造を示す回折線が確認され、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合は、2モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅は0.44°であった。
【0082】
また、得られた粉末をSEM-EDXにて分析したところ、リチウム遷移金属酸化物の粒子表面に、タングステンを含む粒子、およびホウ素を含む粒子が付着していることが認められた。これを実施例6の正極活物質とした。
【0083】
<実施例7>
実施例1の正極活物質作製方法において、WO粉末をHBO粉末とし、HBO粉末を当該リチウム遷移金属酸化物に対するB元素の割合が0.01モル%となるよう添加したこと以外は実施例1と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。実施例7のリチウム遷移金属酸化物のNi、Co、Al、Mn、Nbの割合は表1に記載される通りであった。また、実施例7のリチウム遷移金属酸化物に対して、粉末X線回折測定を行った結果、層状構造を示す回折線が確認され、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合は、1.5モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅は0.43°であった。
【0084】
また、得られた粉末をSEM-EDXにて分析したところ、リチウム遷移金属酸化物の粒子表面に、ホウ素を含む粒子が付着していることが認められた。これを実施例7の正極活物質とした。
【0085】
<実施例8>
Ni、Co、Al及びMnを含む複合酸化物(Ni0.91Co0.01Al0.04Mn0.04)と、LiOHと、Nbとを、Ni、Nb、Co、Al及びMnの総量と、Liのモル比が1:1.03になるように混合したこと、Ni、Co、Al及びMnを含む複合酸化物のNi、Co、Al及びMnの総量とNbのモル比が100:0.05としたこと以外は実施例1と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。実施例8のリチウム遷移金属酸化物のNi、Co、Al、Mn、Nbの割合は表1に記載される通りであった。また、実施例8のリチウム遷移金属酸化物に対して、粉末X線回折測定を行った結果、層状構造を示す回折線が確認され、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合は、1.7モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅は0.39°であった。
【0086】
また、実施例8のリチウム遷移金属酸化物粒子を、実施例1と同様にWO粉末を添加した後、180℃で熱処理した。得られた粉末をSEM-EDXにて分析したところ、リチウム遷移金属酸化物の粒子表面に、タングステンを含む粒子が付着していることが認められた。これを実施例8の正極活物質とした。
【0087】
<実施例9>
Ni、Co、Al及びMnを含む複合酸化物(Ni0.905Co0.015Al0.05Mn0.03)と、LiOHと、Nbとを、Ni、Nb、Co、Al及びMnの総量と、Liのモル比が1:1.03になるように混合したこと以外は実施例1と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。実施例9のリチウム遷移金属酸化物のNi、Co、Al、Mn、Nbの割合は表1に記載される通りであった。また、実施例9のリチウム遷移金属酸化物に対して、粉末X線回折測定を行った結果、層状構造を示す回折線が確認され、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合は、1.4モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅は0.47°であった。
【0088】
また、実施例9のリチウム遷移金属酸化物粒子を、実施例1と同様にWO粉末を添加した後、180℃で熱処理した。得られた粉末をSEM-EDXにて分析したところ、リチウム遷移金属酸化物の粒子表面に、タングステンを含む粒子が付着していることが認められた。これを実施例9の正極活物質とした。
【0089】
<実施例10>
Ni、Co、Al及びMnを含む複合酸化物(Ni0.915Co0.01Al0.5Mn0.025)と、LiOHと、Nbとを、Ni、Nb、Co、Al及びMnの総量と、Liのモル比が1:1.03になるように混合したこと以外は実施例1と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。実施例10のリチウム遷移金属酸化物のNi、Co、Al、Mn、Nbの割合は表1に記載される通りであった。また、実施例10のリチウム遷移金属酸化物に対して、粉末X線回折測定を行った結果、層状構造を示す回折線が確認され、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合は、1.6モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅は0.5°であった。
【0090】
また、実施例10のリチウム遷移金属酸化物粒子を、実施例1と同様にWO粉末を添加した後、180℃で熱処理した。得られた粉末をSEM-EDXにて分析したところ、リチウム遷移金属酸化物の粒子表面に、タングステンを含む粒子が付着していることが認められた。これを実施例10の正極活物質とした。
【0091】
<実施例11>
Ni、Co、Al及びMnを含む複合酸化物(Ni0.92Al0.05Mn0.03)と、LiOHと、LiNbOとを、Ni、Nb、Al及びMnの総量と、Liのモル比が1:1.03になるように混合したこと以外は実施例1と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。実施例11のNi、Al、Mn、Nbの割合は表1に記載される通りであった。また、実施例11のリチウム遷移金属酸化物に対して、粉末X線回折測定を行った結果、層状構造を示す回折線が確認され、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合は、1.8モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅は0.38°であった。
【0092】
また、実施例11のリチウム遷移金属酸化物粒子を、実施例1と同様にWO粉末を添加した後、180℃で熱処理した。得られた粉末をSEM-EDXにて分析したところ、リチウム遷移金属酸化物の粒子表面に、タングステンを含む粒子が付着していることが認められた。これを実施例11の正極活物質とした。
【0093】
<比較例1>
実施例1の正極活物質作製方法において、WO粉末を添加しなかったこと以外は実施例1と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。比較例1のリチウム遷移金属酸化物のNi、Co、Al、Mn、Nbの割合は表1に記載される通りであった。また、比較例1のリチウム遷移金属酸化物に対して、粉末X線回折測定を行った結果、層状構造を示す回折線が確認され、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合は、2.8モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅は0.48°であり、格子定数aは、2.873Åであり、格子定数cは14.20Åであり、結晶子サイズsは、488Åであった。比較例1のリチウム遷移金属酸化物を比較例1の正極活物質とした。
【0094】
<比較例2>
Ni、Co、Al及びMnを含む複合酸化物(Ni0.91Co0.01Al0.04Mn0.04)と、LiOHとを、Ni、Co、Al及びMnの総量と、Liのモル比が1:1.03なるように混合したこと、WO粉末を添加しなかったこと以外は実施例1と同様に正極活物質を作製した。比較例2のリチウム遷移金属酸化物のNi、Co、Al、Mnの割合は表1に記載される通りであった。また、比較例2のリチウム遷移金属酸化物に対して、粉末X線回折測定を行った結果、層状構造を示す回折線が確認され、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合は、1.6モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅は0.41°であり、格子定数aは、2.872Åであり、格子定数cは14.20Åであり、結晶子サイズsは、479Åであった。比較例2のリチウム遷移金属酸化物の粒子に純水を加え撹拌した後に濾過・分離し、水分率を5%に調整した当該リチウム遷移金属酸化物を180℃で熱処理した。これを比較例2の正極活物質とした。
【0095】
<比較例3>
実施例9の正極活物質作製方法において、WO粉末を添加しなかったこと以外は実施例9と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。比較例3のリチウム遷移金属酸化物のNi、Co、Al、Mn、Nbの割合は表1に記載される通りであった。また、比較例3のリチウム遷移金属酸化物に対して、粉末X線回折測定を行った結果、層状構造を示す回折線が確認され、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合は、1.8モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅は0.42°であった。比較例3のリチウム遷移金属酸化物を比較例3の正極活物質とした。
【0096】
<比較例4>
Ni、Co、Al及びMnを含む複合酸化物(Ni0.905Co0.015Al0.05Mn0.03)と、LiOHとを、Ni、Co、Al及びMnの総量と、Liのモル比が1:1.03になるように混合したこと、WO粉末を添加しなかったこと以外は実施例9と同様に正極活物質を作製した。比較例4のリチウム遷移金属酸化物のNi、Co、Al、Mnの割合は表1に記載される通りであった。また、比較例4のリチウム遷移金属酸化物に対して、粉末X線回折測定を行った結果、層状構造を示す回折線が確認され、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合は、1.5モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅は0.39°であった。比較例4のリチウム遷移金属酸化物の粒子に純水を加え撹拌した後に濾過・分離し、水分率を5%に調整した当該リチウム遷移金属酸化物を180℃で熱処理した。これを比較例4の正極活物質とした。
【0097】
<比較例5>
実施例10の正極活物質作製方法において、WO粉末を添加しなかったこと以外は実施例10と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。比較例5のリチウム遷移金属酸化物のNi、Co、Al、Mn、Nbの割合は表1に記載される通りであった。また、比較例5のリチウム遷移金属酸化物に対して、粉末X線回折測定を行った結果、層状構造を示す回折線が確認され、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合は、1.2モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅は0.44°であった。比較例5のリチウム遷移金属酸化物を比較例5の正極活物質とした。
【0098】
<比較例6>
実施例11の正極活物質作製方法において、WO粉末を添加しなかったこと以外は実施例11と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。比較例6のリチウム遷移金属酸化物のNi、Co、Al、Mn、Nbの割合は表1に記載される通りであった。また、比較例6のリチウム遷移金属酸化物に対して、粉末X線回折測定を行った結果、層状構造を示す回折線が確認され、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合は、1.8モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅は0.48°であった。比較例6のリチウム遷移金属酸化物を比較例6の正極活物質とした。
【0099】
<参考例1>
実施例1のリチウム遷移金属酸化物の粒子に、純水を加え撹拌した後に濾過・分離し、水分率を5%に調整した当該リチウム遷移金属酸化物を準備し、当該リチウム遷移金属酸化物に対するW元素の割合が0.3モル%となるようにWO粉末を添加した後、180℃で熱処理した。得られた粉末をSEM-EDXにて分析したところ、リチウム遷移金属酸化物の粒子表面に、タングステンを含む粒子が付着していることが認められた。これを参考例1の正極活物質とした。
【0100】
<参考例2>
実施例1のリチウム遷移金属酸化物の粒子に、純水を加え撹拌した後に濾過・分離し、水分率を5%に調整した当該リチウム遷移金属酸化物を準備し、当該リチウム遷移金属酸化物に対するW元素の割合が0.4モル%となるようにWO粉末を添加した後、180℃で熱処理した。得られた粉末をSEM-EDXにて分析したところ、リチウム遷移金属酸化物の粒子表面に、タングステンを含む粒子が付着していることが認められた。これを参考例2の正極活物質とした。
【0101】
<参考例3>
Ni、Co、Al及びMnを含む複合酸化物(Ni0.925Co0.01Al0.055Mn0.01)と、LiOHと、Nbとを、Ni、Nb、Co、Al及びMnの総量と、Liのモル比が1:1.03になるように混合したこと、Ni、Co、Al及びMnを含む複合酸化物のNi、Co、Al及びMnの総量とNbのモル比が100:0.5としたこと以外は実施例1と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。参考例3のリチウム遷移金属酸化物のNi、Co、Al、Mn、Nbの割合は表3に記載される通りであった。また、参考例3のリチウム遷移金属酸化物に対して、粉末X線回折測定を行った結果、層状構造を示す回折線が確認され、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合は、2.2モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅は0.53°であった。参考例3のリチウム遷移金属酸化物の粒子を、実施例1と同様にWO粉末を添加した後、180℃で熱処理した。得られた粉末をSEM-EDXにて分析したところ、リチウム遷移金属酸化物の粒子表面に、タングステンを含む粒子が付着していることが認められた。これを参考例3の正極活物質とした。
【0102】
[正極の作製]
実施例1の正極活物質を95質量部、導電材としてアセチレンブラックを3質量部、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを2質量部の割合で混合した。当該混合物を混練機(T.K.ハイビスミックス、プライミクス株式会社製)を用いて混練し、正極合材スラリーを調製した。次いで、正極合材スラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔に塗布し、塗膜を乾燥してアルミニウム箔に正極活物質層を形成した。これを実施例1の正極とした。
【0103】
[非水電解質の調製]
エチレンカーボネート(EC)と、メチルエチルカーボネート(MEC)と、ジメチルカーボネート(DMC)とを、3:3:4の体積比で混合した。当該混合溶媒に対して、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1.2モル/リットルの濃度となるように溶解させて、非水電解質を調製した。
【0104】
[試験セルの作製]
実施例1の正極と、リチウム金属箔からなる負極とを、セパレータを介して互いに対向するように積層し、これを巻回して、電極体を作製した。次いで、電極体及び上記非水電解質をアルミニウム製の外装体に挿入し、試験セルを作製した。
【0105】
実施例2~11、比較例1~6及び参考例1~3も同様にして試験セルを作製した。
【0106】
(低温時の電池抵抗の評価)
各実施例、各比較例及び各参考例の試験セルを、-10℃の温度環境下、0.5Itの定電流で初期容量の半分まで充電した後、充電を止めて15分間放置した。その後、0.1Itの定電流で10秒間充電をした時の電圧を測定した。10秒間の充電容量分を放電した後、電流値を変更して10秒間充電し、そのときの電圧を測定した後、10秒間の充電容量分を放電した。当該充放電及び電圧測定を、0.1Itから2Itまでの電流値で繰り返した。測定した電圧値と電流値の関係性から電池抵抗を求めた。
【0107】
(電池容量の評価)
実施例1、参考例1~3の試験セルを、25℃の環境下、1Itの定電流で電池電圧が4.2Vとなるまで充電し、その後は、1Itの定電流で電池電圧が2.5Vとなるまで放電して、放電容量(電池容量)を求めた。
【0108】
表1に、各実施例及び各比較例の低温時の電池抵抗の評価結果を示す。また、表2に、実施例1、参考例1及び2の低温時の電池抵抗及び電池容量の評価結果を示す。また表3に実施例1、参考例3の電池容量の評価結果を示す。
【0109】
【表1】
【0110】
【表2】
【0111】
【表3】
【0112】
表1から分かるように、Ni、Nb、Nb以外の4価以上の金属元素を含むリチウム遷移金属酸化物の粒子表面に、W、B及びAlのうちの少なくとも1種の元素を含む外添粒子を付着させた実施例1~11はいずれも、Ni、Nb、Nb以外の4価以上の金属元素を含むリチウム遷移金属酸化物の粒子表面に、W、B及びAlのうちの少なくとも1種の元素を含む外添粒子を付着させていない比較例1~6より、低温時の電池抵抗が低い値であった。また、表2から分かるように、外添粒子に含まれるタングステンの含有量を増やすと、低温時の電池抵抗は低下するが、電池容量も低下した。また、表3から分かるように、リチウム遷移金属酸化物の(208)面の回折ピークの半値幅が0.5°以上になると、電池容量が低下した。