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特許7437648LATS2変異疾患のための分子標的及びその利用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】LATS2変異疾患のための分子標的及びその利用
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20180101AFI20240216BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240216BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240216BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20240216BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
C12Q1/68 ZNA
A61P35/00
A61K45/00
G01N33/50 P
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019191790
(22)【出願日】2019-10-21
(65)【公開番号】P2021065121
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-09-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2018年12月17日にウェブサイト(https://kaken.nii.ac.jp/ja/report/KAKENHI-PROJECT-17K18436/17K184362017hokoku/)において公開された実施状況報告書で公表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2019年6月13日に大阪国際交流センターで開催された第23回日本がん分子標的治療学会学術集会で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】502285457
【氏名又は名称】学校法人順天堂
(73)【特許権者】
【識別番号】304031427
【氏名又は名称】愛知県
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 優子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 浩也
(72)【発明者】
【氏名】三井田 孝
(72)【発明者】
【氏名】関戸 好孝
(72)【発明者】
【氏名】向井 智美
(72)【発明者】
【氏名】山岸 良多
【審査官】市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-518980(JP,A)
【文献】特表2019-502753(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MG6を阻害する化合物による治療応答性を調べるために、がん患者由来のがん細胞におけるLATS2遺伝子の不活性化変異を検出する方法。
【請求項2】
がん患者が悪性中皮腫、前立腺がん又は非小細胞肺がんの患者である請求項1記載の方法。
【請求項3】
SMG6の阻害を指標として被験化合物を評価することを含む、悪性中皮腫、前立腺がん又は非小細胞肺がんであるLATS2変異疾患のための薬剤のスクリーニング方法。
【請求項4】
SMG6を阻害する化合物を有効成分として含む、悪性中皮腫、前立腺がん又は非小細胞肺がんであるLATS2変異疾患のための薬剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LATS2変異疾患のための分子標的及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
LATS2遺伝子は、悪性中皮腫、前立腺がん、非小細胞肺がん等のがん原因遺伝子として知られている。悪性中皮腫ではその約25%においてLATS2遺伝子の不活性化変異がみられる(非特許文献1)。LATS2遺伝子を含めて悪性中皮腫における遺伝子変異はがん抑制遺伝子変異が多いため、原因遺伝子を直接の標的とする悪性中皮腫の分子標的治療は困難とされている。
【0003】
一方、近年、がん治療の新しい方法として「合成致死」の概念に基づいた治療法が提案されている。「合成致死」とは、2つの遺伝子の発現抑制によって始めて誘導される細胞死であり、遺伝子の不活性化変異を持つがんにおいてもがん細胞を特異的に死滅させる分子標的薬の開発が可能となる。
これまでに、悪性中皮腫の原因遺伝子に対して合成致死表現型を示す遺伝子の探索が行われており、例えば、NF2(Neurofibromatosis type 2)変異とFAK(focal adhesion kinase)阻害剤、BAP1(BRCA1 associated protein 1)変異とclass1 HDAC(Histone deacetylases)阻害剤の報告がある(非特許文献2,3)。しかしながら、LATS2遺伝子に対して合成致死表現型を示す合成致死パートナー遺伝子は得られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】H Murakami, T Mizuno, T Taniguchi, M Fujii, F Ishiguro, T Fukui, S Akatsuka, Y Horio, T Hida, Y Kondo, S Toyokuni, H Osada, and Y Sekido. “LATS2 Is a Tumor Suppressor Gene of Malignant Mesothelioma. Cancer Research”,2011, 71(3):873-83
【文献】NR. Shah, I Tancioni, KK. Ward, C Lawson, XL. Chen, C Jean, FJ. Sulzmaier, S Uryu, NL.G. Miller, DC.Connolly, and DD. Schlaepfer. “Analyses of merlin/NF2 connection to FAK inhibitorresponsiveness in serous ovarian cancer. Gynecologic oncology”,2015, 134(1):104-111
【文献】JJ. Sacco, J Kenyani, Z Butt, R Carter, HY Chew, LP. Cheeseman, S Darling, M Denny, S Urbe, MJ. Clague, JM. Coulson. “Loss of the deubiquitylase BAP1 alters class I histone deacetylase expression and sensitivity of mesothelioma cells to HDAC inhibitors. Oncotraget”, 2015,6(15):13757-13771
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、LATS2遺伝子と合成致死表現型を示す遺伝子を同定し、LATS2変異疾患の治療標的として利用することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、悪性中皮腫をモデルとして利用し、候補遺伝子群についてsiRNAによるノックダウン法を用いて個々に候補遺伝子の致死性を確認し、合成致死遺伝子の確定を進めた結果、LATS1/2とmRNAエンドヌクレアーゼの一種であるSMG6を共発現抑制することにより合成致死表現型が誘導されることが確認され、LATS2とSMG6が合成致死の関係にあることを見出した。
【0007】
かかる知見に基づいて、本発明は、以下の〔1〕~〔3〕を提供するものである。
〔1〕がん患者由来の生体試料を用いてLATS2遺伝子の不活性化変異の有無を検出すること、当該変異を有するがん患者を、SMG6を阻害する化合物による治療対象者として選別することを含む、SMG6を阻害する化合物による治療対象者を選別する方法。
〔2〕SMG6の阻害を指標として被験化合物を評価することを含む、LATS2変異疾患のための薬剤のスクリーニング方法。
〔3〕SMG6を阻害する化合物を有効成分として含む、LATS2変異疾患のための薬剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、SMG6がLATS2の合成致死標的として明らかになった。SMG6を阻害する治療は、LATS2遺伝子の不活性化変異を持つがん細胞を特異的に死滅させることができるので、LATS2変異疾患に対して、副作用が少なく、効果の高い治療が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】HOMC-D4由来LATS1/2ノックダウン細胞、MeT-5A由来LATS1 ノックアウト細胞及びLATS2 ノックアウト細胞にSMG6を発現抑制し、WST assayによる細胞生存率を測定した結果を示す。
図2-1】(a)HOMC-D4由来LATS1/2ノックダウン細胞にTERT阻害剤(Trichostatin、Doxorubicin、BIBR1532)を反応させ、WST assayによる細胞生存率及びLD50の結果を示す。
図2-2】(b)MeT-5A由来LATS1 ノックアウト細胞及びLATS2 ノックアウト細胞にTERT阻害剤(Trichostatin、Doxorubicin)を反応させ、WST assayによる細胞生存率及びLD50の結果を示す。
図3】LATS1/2ノックダウン細胞にSMG6を発現抑制し、細胞をTUNEL染色後、FACSを用いて解析した結果を示す。
図4-1】(a)HOMC-D4由来LATS1/2ノックダウン細胞、MeT-5A由来LATS1 ノックアウト細胞及びLATS2 ノックアウト細胞にSMG6を発現抑制し、day6における細胞を冷メタノールで固定後、γH2A.X抗体、核染色像を示す。
図4-2】(b)視野内における全核数に対するγH2A.X陽性数の割合を比較解析した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「LATS2変異疾患」は、LATS2遺伝子の不活性化変異を有する疾患であり、例えば、悪性中皮腫、前立腺がん、非小細胞肺がん等が挙げられる。LATS2遺伝子の不活性化変異は、ナンセンス変異、遺伝子の部分的欠失等より生じるが、本明細書において、LATS2遺伝子を不活性化させる限り特に制限されない。
「LATS2」は、LATS腫瘍抑制因子ファミリーに属するセリントレオニンタンパク質キナーゼである。
【0011】
本明細書において、「SMG6」は、EST1A (ever-shorter telomeres 1A)をエンコードする17番染色体のSMG6遺伝子のことである。SMG6は、全身の器官に発現し、異常なmRNAを排除するmRNAエンドヌクレーゼの機能とTERT (telomere reverse transcriptase)と協働し、テロメア伸長を制御する機能を併せ持つ(AS. Venteicher, EB. Abreu, Z Meng, KE. McCann, RM. Terns, TD. Veenstra, MP. Terns, SE. Artandi. “A Human Telomerase Holoenzyme Protein Required for Cajal Body Localization and Telomere Synthesis. Science”, 2009,323(5914):644-8、T Fatscher, V Boehm, NH. Gehring. “Mechanism, factors, and physiological role of nonsense-mediated mRNA decay. Cellular and Molecular Life Sciences”, 2015,72(23):4523-44)
【0012】
本明細書において、「TERT」は、テロメア逆転写酵素のことであり、TERTの活性化に伴いテロメア長を伸長させ、ひいては体細胞の老化及び寿命を司る酵素のことである。TERTを人為的に阻害することでDNA損傷を伴うアポトーシスを誘導することが知られている(X Ling, W Yang, P Zou, G Zhang, Z Wang, X Zhang, H Chen, K Peng, F Han, J Liu, J Cao, L Ao. “TERT regulates telomere-related senescence and apoptosis through DNA damage response in male germ cells exposed to BPDE in vitro and to B[a]P in vivo. Environmental Pollution”, 2018,235:836-849)
【0013】
本明細書において、「がん患者」は、がんに罹患している或いは罹患の疑いのあるヒトであり、「がん」は、悪性腫瘍(悪性新生物)全般を指す。
【0014】
本明細書において、「生体試料」は、ヒトから得られゲノムDNAを利用可能な試料であり、例えば、組織、全血、血漿、血清、リンパ球、リンパ液、血小板、単核球、顆粒球、唾液、尿などが挙げられる。
【0015】
(治療対象者を選別する方法)
本発明のSMG6を阻害する化合物による治療対象者を選別する方法は、がん患者由来の生体試料を用いてLATS2遺伝子の不活性化変異の有無を検出すること、当該変異を有するがん患者を、SMG6を阻害する化合物による治療対象者として選別すること、を含む。
LATS2遺伝子の不活性化変異が検出された場合、当該変異を有するがん患者は、SMG6を阻害する化合物による治療に応答性があると判断することができ、SMG6を阻害する化合物による治療対象者として選別すれば、LATS2とSMG6の合成致死の効果により治療成績の向上が期待される。
LATS2遺伝子の不活性化変異は、悪性中皮腫、前立腺がん、非小細胞肺がんにおいて認められることから、がん患者は当該悪性中皮腫、前立腺がん、非小細胞肺がんのがん患者であることが好ましい。
【0016】
LATS2遺伝子の不活性化変異の検出は、特に限定されず、変異を検出できる公知の手法、例えば、直接シークエンス法、RT-PCR 法、PCR- RFLP法、PCR-SSCP法、インベーダー法、TaqMan Genotyping法、マイクロアレイ法、次世代シークエンス法等により行うことができる。
【0017】
SMG6を阻害する化合物は、天然に存在する物質であっても、化学的又は生物学的方法等で人工的に合成した物質であってもよく、また、組成物や混合物であってもよい。後述するスクリーニング法により同定される化合物であってもよい。
本明細書において、SMG6の阻害は、SMG6の活性の阻害、SMG6の発現の阻害の両方を含む。LATS2とSMG6の関係では、SMG6の活性変異体を用いた解析により、SMG6のヌクレアーゼ活性の変異がLATS2との合成致死性を示すのに必要であることが示唆されたため、SMG6の阻害は、好ましくはSMG6のヌクレアーゼ活性の阻害である。SMG6のヌクレアーゼ活性は、濃度既知のRNAをサンプルと37℃条件下で1時間反応させ、Bioanalyzerを用いてRNAのRIN値(RNA integrity number)を比較することで検討可能である。
【0018】
(薬剤のスクリーニング方法)
本発明のLATS2変異疾患のための薬剤のスクリーニング方法は、SMG6の阻害を指標として被験化合物を評価することを含む、方法である。
被験化合物は、特に制限されず、天然に存在する物質であっても、化学的又は生物学的方法等で人工的に合成した物質であってもよく、また、組成物や混合物であってもよい。
評価の指標となるSMG6の阻害は、上述したとおり、SMG6の活性の阻害であっても、SMG6の発現の阻害であってもよい。
【0019】
スクリーニングは、例えば、上記SMG6のヌクレアーゼ活性の検出系に被験化合物を作用させ、SMG6のヌクレアーゼ活性を検出し、SMG6のヌクレアーゼ活性を低下させる被験化合物をLATS2変異疾患のための薬剤として評価することによって行うことができる。被験化合物の評価は、例えば、被験化合物添加群と被験化合物非添加群もしくは対照物質添加群とを比較して行えばよい。
【0020】
また、スクリーニングは、例えば、SMG6発現細胞に被験化合物を接触させること、当該細胞におけるSMG6の活性又は発現を検出すること、当該検出の結果に基づいて、SMG6の活性又は発現を阻害する被験化合物をLATS2変異疾患のための薬剤として評価することによって行うことができる。被験化合物の評価は、例えば、被験化合物の添加前後で、又は被験化合物添加群と被験化合物非添加群もしくは対照物質添加群とを比較して行えばよい。
【0021】
ここで、SMG6発現細胞としては、生来的にSMG6遺伝子を有し、これを発現する能力のある細胞や外来的にSMG6遺伝子を発現可能に導入された細胞が挙げられる。これらは、生体から採取された細胞、生体から採取された組織や器官に含まれる細胞、培養細胞であってよい。好ましくは、ヒト由来の細胞である。
外来的にSMG6遺伝子を発現可能にした細胞は、公知の手法を用いて、例えば、SMG6遺伝子を組み込んだ発現ベクターを任意の哺乳動物細胞に導入し、当該細胞を形質転換させることによって得ることができる。
SMG6発現細胞への被験化合物の接触は、被験化合物の細胞培養培地への添加や細胞への直接的な添加(例えば、滴下、塗布、散布、噴霧、パッチ等)が挙げられる。被験化合物の接触量や条件は、適宜設定すればよい。
【0022】
SMG6の活性又は発現の検出は、mRNAレベルで検出する場合は、例えば、ノーザンブロット法、RT-PCR法、リアルタイムRT-PCR法、RNaseプロテクションアッセイ法等により行うことができる。
SMG6タンパク質発現を検出する場合は、例えば、SDS-PAGE、クロマトグラフィー法、免疫学的測定法(例えば、免疫組織化学、ELISA、ウェスタンブロット、免疫沈降等)、比色定量法、質量分析等により行うことができる。
SMG6遺伝子のプロモーターの活性を検出する場合は、レポーター遺伝子を用いたプロモーター活性や転写活性の蛍光・光学的測定(レポーターアッセイ)等により行うことができる。
SMG6タンパク質の活性を検出する場合は、SMG6タンパク質に対する結合基質の結合量を測定すること等により行うことができる。
【0023】
かくして、SMG6を阻害する被験化合物は、LATS2変異疾患のための薬剤として評価され、LATS2変異疾患の治療のために用いることができる。SMG6を阻害する被験化合物は、LATS2とSMG6の合成致死の効果により、LATS2遺伝子の不活性化変異を持つがん細胞を特異的に死滅させる分子標的薬となり得る。
【0024】
(LATS2変異疾患のための薬剤)
LATS2変異疾患のための薬剤は、SMG6を阻害する化合物を有効成分として含み、当該化合物は、公知の化合物であっても、上記のスクリーニング法により同定された化合物であってもよい。SMG6の阻害は、上述したとおり、SMG6の活性の阻害であっても、SMG6の発現の阻害であってもよい。
LATS2変異疾患のための薬剤の形態は、任意であり、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、トローチ剤、シロップ剤等による経口投与;注射剤、坐剤、吸入薬、経皮吸収剤、外用剤等による非経口投与が挙げられ、いずれであってもよい。
当該薬剤には、SMG6を阻害する化合物の他、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、pH調節剤・緩衝剤、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、矯味・矯臭剤、安定化剤等、薬学的に許容される担体を適宜配合して用いることができる。
薬剤を生体に投与する場合、その用量や用法は、投与対象者の状態、体重、性別、年齢又はその他の要因に従って変動し得る。
【実施例
【0025】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0026】
実施例1 LATS2、SMG6共発現抑制における合成致死表現型の誘導
1. 細胞
LATS1及びLATS2を発現抑制するため、ヒト正常中皮由来の細胞株(HOMC-D4、T Kakiuchi, T Takahara, Y Kasugai, K Arita, N Yoshida, K Karube, M Suguro, K Matsuo, H Nakanishi, T Kiyono, S Nakamura, H Osada, Y Sekido, M Seto and S Tsuzuki. “Modeling mesothelioma utilizing human mesothelial cells reveals involvement of phospholipase-C beta 4 in YAP-active mesothelioma cell proliferation”,2016, Carcinogenesis, 37(11): 1098-1109)にレンチウィルスにより細胞内にshRNAを遺伝子導入した。使用したshRNA (shNT) はSIGMA (MISSION pLKO.1-puro Non-Mammalian shRNA(SHC002))であり、shLATS1/2はpLKO.1 puroに以下の表1に記載の配列のshRNAを入れたものである。
【0027】
【表1】
【0028】
2. LATS1及び2発現抑制細胞株
HOMC-D4細胞にshRNAを導入する手法として293T細胞に対するレンチウィルスベクターシステムにより、shRNAを封入したレンチウィルス(lenti-shRNA)を作製した。具体的には、293T細胞を6×104細胞/cm2になるように播種し、ダルベッコ改変イーグル培地:DMEM(Wako:カタログ番号04429-675)にFetal Bovine Serum:FBS (GIBCO:カタログ番号10270)を10%になるよう添加し(以下10%FBS-DMEM)、10%FBS-DMEM中で24時間培養した。8μg/ml psPAX2、2.8μg/ml pMD2.G、10μg/ml shRNAになるよう270μl OPTIMEMに混合した(1)。270μg/ml OPTIMEMにPEI-Maxを2mg/mlになるように混合した(2)。前記(2)に(1)を添加し、転倒混和した後室温で20分間静置し、レンチウィルス導入混合液とした。10%FBS-DMEMを完全に除去し、OPTIMEMを0.08ml/cm2になるように加え、レンチウィルス導入混合液を添加し、37℃で4時間培養した。培養後10%FBS-DMEMに培地交換し37℃で48時間培養した。48時間後、培養液を回収し0.22μmのMillEX-GV (Millipore:カタログ番号SLGV033RS)を通過させレンチウィルス (lenti-shNT、lenti-shLATS1/2)とした。HOMC-D4にlenti-shNT、lenti-shLATS1/2を感染させ、LATS1/2をノックダウン (KD:Knock down)した。その後、ピューロマイシン、ブラストサイジン16μg/mlで細胞をセレクションし、非単一安定細胞株 (NT細胞、LATS1/2 KD細胞)を樹立した。
【0029】
3. siRNA遺伝子導入
SMG6の発現を抑制するため、リポフェクタミンを用い細胞内に以下の表2のsiRNAを遺伝子導入した。
【0030】
【表2】
【0031】
使用したsiRNA (siSMG6-1:GCCAGUGAUACAGCGAAUU、siSMG6-2:ACACCAACGGCUUCAUUGA、siNegative Control:CGUACGCGGAAUACUUCGA)は、ニッポンジーンのsiRNA合成サービスを利用し作製した。作製したsiRNAは、細胞導入直前に4% OPTIMEM、1.34% RNAiMax (Invitrogen:カタログ番号13778030)、2nM siRNAになるように混合し、15分間室温でインキュベートした。その後、RPMI (Wako:カタログ番号189-02025)にFBSを10%になるよう添加(以下、10%FBS-RPMIとする)したものを加え、ノックダウン用混合液とした。ノックダウン前処理として、樹立したNT細胞、LATS1/2 KD細胞、MeT-5A WT細胞、LATS1 KO細胞、LATS2 KO細胞をそれぞれ5×103細胞/cm2/ウェルになるように細胞培養プレート (96ウェル Corningカタログ番号:3598、6ウェル VioLAMO:カタログ番号2-8588-01)に播種し、10%FBS-RPMI中で24時間培養した。その後、10%FBS-RPMIを完全に取り除き、ノックダウン用混合液をウェルの底面積に対し0.13ml/cm2になるように添加し、72時間培養した。
【0032】
ノックアウト用プラスミド(pX330, Addgene #42230)のBbsIサイトにLATS1またはLATS2の標的配列(LATS1; AGCAAGAAAAGTAGATACTA(配列番号7), LATS2; AGGAAACTGGACTAACAATG(配列番号8) )を導入した。MeT-5Aに作製したノックアウト用プラスミドを、Thermo Fisher社Lipofectamine 2000を用いてトランスフェクションし、CO2インキュベーターでインキュベーションした。48時間後、細胞を1 cell/wellとなるよう96wellプレートに播種し、順次スケールアップを行い、シングルクローンを得た。
【0033】
4.TERT阻害剤投与
TERTを阻害するため、トリコスタチン(SantaCruz:カタログ番号sc-3511)、ドキソルビシン (SantaCruz:カタログ番号sc-200923)、BIBR1532 (SantaCruz:カタログ番号sc-203843)を細胞に直接添加し、反応させた。各TERT阻害剤は、10%FBS-RPMIを溶媒とし、50μM、10μM、5μM、1μM、500nM、100nM、50nM、10nM、5nM、1nMになるように段階希釈した。樹立したNT細胞、LATS1/2 KD細胞、MeT-5A WT細胞、LATS1 KO細胞、LATS2 KO細胞をそれぞれ1×104細胞/cm2/ウェルになるように細胞培養プレート (96ウェル Corningカタログ番号:3598)に播種し、10%FBS-RPMI中で24時間培養した。培養後、10%FBS-RPMIを完全に取り除き、希釈した各TERT阻害剤100μlを各ウェルに添加し72時間培養した。
【0034】
5. 細胞生存率測定
ノックダウン処理した細胞において、ノックダウン処理から72時間後96ウェルプレート内のノックダウン用混合液を10%FBS-RPMI 100μlに交換し、さらに37℃で72時間培養した。培養後、10%FBS-RPMIを完全に除去し、Cell Counting Kit-8 (同仁化学研究所:カタログ番号 CK04)を10%になるように10%FBS-RPMIに添加し、各ウェルに100μl加え37℃で1時間培養した。培養後SPECTRA Max (Molecular Devices)を用いて450nm-ref.630nmの波長条件で測定した。TERT阻害剤処理した細胞において、阻害剤処理から72時間後同様に細胞生存率を測定した。未処理群における吸光度を基準に各ノックダウン群及び阻害剤処理群を正規化し、比較検討した。
【0035】
6.半数致死量の算出
TERT阻害剤を段階希釈し細胞と反応させた後、細胞生存率の測定を行い得られた生存率から半数致死量(LD50:lethal dose,50%)を算出した。Image Jの解析アルゴリズムを利用し、以下のシグモイド曲線の係数を算出した。得られたシグモイド関数よりLD50を算出した。
【0036】
【数1】
【0037】
7.アポトーシス検出
NT細胞、LATS1/2 KD細胞をノックダウン処理から72時間後にトリプシン/EDTAを用いて細胞懸濁液を回収した。血球算定板を用い細胞数を測定した後、BD Cytofix/CytopermTM Fixation/Permeabilization Solution Kit (BD:カタログ番号BDB554714)を用いて細胞固定と膜透過処理を行った。その後TUNEL Assay Kit - BrdU-Red (Abcam:カタログ番号ab66110)を用いてTUNEL染色を行った。染色後LSRFORTESSA(BD)を用いて測定し、Flowjoにより解析を行った。
【0038】
8.DNA損傷検出
NT細胞、LATS1/2 KD細胞、MeT-5A WT細胞、LATS1 KO細胞、LATS2 KO細胞をノックダウン処理から72時間後に冷メタノール中に浸漬し、-20℃で10分間固定した。PBSで1回洗浄した後、1%BSA含有PBSと室温で1時間反応させた。その後、マウス抗ヒトγH2AX抗体(Millipore:カタログ番号05-636、5μg/ml)に浸漬し4℃で18時間反応させた。PBSで3回洗浄した後、Alexa488標識抗マウス抗体(サーモフィッシャー:カタログ番号A32723、5μg/ml)に浸漬し室温で1時間反応させた。PBSで3回洗浄した後、DAPI(4',6-diamidino-2-phenylindole、BIO-RAD:カタログ番号133061-2、1μ/ml)と15分反応させ核染色した。PBSで3回洗浄後、Fluorescence Mounting Medium(Dako:カタログ番号s3023)に封入した。染色後LSM800(カールツァイス)を用いて観察した。
【0039】
9.統計解析
NT細胞とLATS1/2 KD細胞の二群間における生存率の比較検討は、スチューデントのt検定を行った。MeT-5A WT細胞、LATS1 KO細胞、LATS2 KO細胞の三群間における生存率は、Steel-Dwass検定を用い比較検討した。
結果を図1に示した。
【0040】
10.結果
図1に示すように、LATS1/2 KD細胞においてSMG6発現抑制により有意な生存細胞の減少が認められた。加えて、LATS2 KO細胞においてのみ有意な線損細胞の減少が認められLATS2とSMG6を共発現抑制することにより合成致死表現型が誘導されることが確認された。
【0041】
図2で示すように、SMG6の下流候補であるTERT阻害剤を反応させ、細胞死を誘導するLD50を検討した結果、LATS1/2 KD細胞、LATS2 KO細胞において正常細胞と比較し低用量のTERT阻害剤による細胞死の誘導が確認された。
【0042】
図3で示すように、HOMC-D4由来の安定細胞株において、SMG6の発現抑制に伴いTUNEL陽性細胞が検出された。また定量評価を行った結果、LATS1/2 KD細胞にSMG6を発現抑制した群は、NT細胞にSMG6を発現抑制した群及びLATS1/2 KD細胞にNegaive Control処理した群に対して有意にTUNEL陽性細胞の上昇が認められた。本結果より、LATS2、SMG6の共発現抑制による合成致死表現型はアポトーシスによって惹起されることが認められた。
【0043】
図4で示すように、SMG6の発現抑制によってLATS1/2 KD細胞においてγH2A.Xの染色陽性数の増加が認められた。本結果より、LATS2、SMG6の共発現抑制による合成致死表現型はDNA損傷に伴うアポトーシスによって惹起されることが示唆された。
図1
図2-1】
図2-2】
図3
図4-1】
図4-2】
【配列表】
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