(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】レーダ装置
(51)【国際特許分類】
G01S 7/02 20060101AFI20240216BHJP
G01S 13/34 20060101ALI20240216BHJP
G01S 13/931 20200101ALN20240216BHJP
【FI】
G01S7/02 216
G01S13/34
G01S13/931
(21)【出願番号】P 2019208153
(22)【出願日】2019-11-18
【審査請求日】2022-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸上 高明
【審査官】東 治企
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0120427(US,A1)
【文献】特開2018-146443(JP,A)
【文献】特開2016-050778(JP,A)
【文献】特開2017-032522(JP,A)
【文献】GONZALEZ, Hector A. at al.,"Doppler Ambiguity Resolution for Binary-Phase-Modulated MIMO FMCW Radar",2019 International Radar Conference(RADAR2019),IEEE,2019年09月,DOI: 10.1109/RADAR41533.2019.171412
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00-7/42
G01S 13/00-13/95
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースバンド信号を生成する信号生成回路と、
複数の直交符号系列を生成する符号生成回路と、
前記複数の直交符号系列のうち一部の直交符号系列に基づいた位相回転を、前記ベースバンド信号に付加し、符号多重した複数の送信信号を生成する位相回転回路と、
前記複数の送信信号をそれぞれ送信する複数の送信アンテナと、
を含み、
前記複数の直交符号系列の符号長は、前記複数の送信信号に対する符号多重数よりも大きく、
前記複数の直交符号系列は、奇数番目及び偶数番目の何れか一方の符号要素が同一であり、奇数番目及び偶数番目の他方の符号要素の符号が反転している直交符号系列の複数のペアを含み、
前記複数の直交符号系列のうち前記一部の直交符号系列と異なる他の直交符号系列が2つ以上ある場合、前記2つ以上の異なる他の直交符号系列のそれぞれは、前記ペアでない直交符号系列である、
レーダ装置。
【請求項2】
前記複数の直交符号系列は直交符号系列であり、前記符号長は2のべき乗である、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記複数の直交符号系列は擬似直交符号系列であり、前記符号長は2のべき乗と異なり、かつ、前記符号多重数に1を加えた値である、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記複数の送信アンテナのそれぞれは、前記レーダ装置における測位毎に、異なる位相回転が付加された送信信号を送信する、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記複数の直交符号系列の符号長は、前記レーダ装置における測位毎に異なる、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記複数の送信信号の送信周期は、前記レーダ装置における測位毎に異なる、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記複数の送信アンテナのそれぞれは、サブアレー構成である、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記複数の直交符号系列のうち前記一部の直交符号系列に基づいて符号多重送信された送信信号がターゲットに反射した反射波信号を受信する受信アンテナと、
前記複数の直交符号系列のうち前記一部の直交符号系列と異なる他の直交符号系列に基づいて、前記反射波信号におけるドップラ周波数領域での折り返しの判定を行う受信回路と、
をさらに、具備する
請求項1に記載のレーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高分解能が得られるマイクロ波又はミリ波を含む波長の短いレーダ送信信号を用いたレーダ装置の検討が進められている。また、屋外での安全性を向上させるために、車両以外にも、歩行者等の小物体を広角範囲で検知するレーダ装置(例えば、広角レーダ装置と呼ぶ)の開発が求められている。
【0003】
広角な検知範囲を有するレーダ装置の構成として、例えば、複数のアンテナ(又は、アンテナ素子とも呼ぶ)で構成されるアレーアンテナによってターゲット(又は物標)からの反射波を受信し、素子間隔(アンテナ間隔)に対する受信位相差に基づいて、反射波の到来する方向(又は、到来角と呼ぶ)を推定する手法(到来角推定手法。Direction of Arrival (DOA) estimation)を用いる構成がある。
【0004】
例えば、到来角推定手法には、フーリエ法(FFT(Fast Fourier Transform)法)、又は、高い分解能が得られる手法としてCapon法、MUSIC(Multiple Signal Classification)及びESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)が挙げられる。
【0005】
また、レーダ装置として、例えば、受信側に加え、送信側にも複数のアンテナ(アレーアンテナ)を備え、送受信アレーアンテナを用いた信号処理によりビーム走査を行う構成(MIMO(Multiple Input Multiple Output)レーダと呼ぶこともある)が提案されている(例えば、非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】J. Li, and P. Stoica, "MIMO Radar with Colocated Antennas", Signal Processing Magazine, IEEE Vol. 24, Issue: 5, pp. 106-114, 2007
【文献】M. Kronauge, H.Rohling,"Fast two-dimensional CFAR procedure", IEEE Trans. Aerosp. Electron. Syst., 2013, 49, (3), pp. 1817-1823
【文献】Direction-of-arrival estimation using signal subspace modeling Cadzow, J.A.; Aerospace and Electronic Systems, IEEE Transactions on Volume: 28 , Issue: 1 Publication Year: 1992 , Page(s): 64 - 79
【文献】V. Winkler, “Novel Waveform Generation Principle for Short-Range FMCW-Radars,” in Proc. German Microw. Conf., 2009, pp. 1-4.
【文献】Y.Kozawa and H.Habuchi, “Theoretical Analysis of Atmospheric Optical DS/SS with On-Off Orthogonal M-sequence Pairs”, Sixth International Conference on Information, Communications and Signal Processing (ICICS 2007), P0686(Dec. 2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、レーダ装置(例えば、MIMOレーダ)においてターゲットを検知する方法について十分に検討されていない。
【0009】
本開示の非限定的な実施例は、物標の検知精度を向上するレーダ装置の提供に資する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一実施例に係るレーダ装置は、ベースバンド信号を生成する信号生成回路と、複数の符号系列を生成する符号生成回路と、前記複数の符号系列のうち一部の符号系列に基づいた位相回転を、前記ベースバンド信号に付加し、符号多重した複数の送信信号を生成する位相回転回路と、前記複数の送信信号をそれぞれ送信する複数の送信アンテナと、を含み、前記複数の符号系列の符号長は、前記複数の送信信号に対する符号多重数よりも大きいを具備する。
【0011】
なお、これらの包括的または具体的な実施例は、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラム、または、記録媒体で実現されてもよく、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラムおよび記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本開示の一実施例によれば、レーダ装置における物標の検知精度を向上できる。
【0013】
本開示の一実施例における更なる利点および効果は、明細書および図面から明らかにされる。かかる利点および/または効果は、いくつかの実施形態並びに明細書および図面に記載された特徴によってそれぞれ提供されるが、1つまたはそれ以上の同一の特徴を得るために必ずしも全てが提供される必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施の形態1に係るレーダ装置の構成例を示すブロック図
【
図2】チャープパルスを用いた場合の送信信号と反射波信号の一例を示す図
【
図3】実施の形態1に係るドップラシフト量の一例を示す図
【
図4】実施の形態1に係るレーダ装置の構成例を示すブロック図
【
図5】実施の形態2に係るレーダ装置の構成例を示すブロック図
【
図6】チャープパルスを用いた場合の送信信号と反射波信号の一例を示す図
【
図7】実施の形態2のバリエーション1に係るレーダ装置の構成例を示すブロック図
【
図8】チャープパルスを用いた場合の送信信号と反射波信号の一例を示す図
【
図9】実施の形態2のバリエーション2に係るレーダ装置の構成例を示すブロック図
【
図10】チャープパルスを用いた場合の送信信号と反射波信号の一例を示す図
【
図11】他のバリエーション1に係るレーダ送信部の構成例を示す図
【
図12】他のバリエーション1に係るレーダ送信部の構成例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
MIMOレーダは、例えば、時分割、周波数分割又は符号分割を用いて多重した信号(レーダ送信波)を複数の送信アンテナ(又は送信アレーアンテナと呼ぶ)から送信する。そして、MIMOレーダは、例えば、周辺物体において反射された信号(レーダ反射波)を複数の受信アンテナ(又は受信アレーアンテナと呼ぶ)を用いて受信し、それぞれの受信信号から、多重された送信信号を分離して受信する。このような処理により、MIMOレーダは、送信アンテナ数と受信アンテナ数との積で示される伝搬路応答を取り出すことができ、これらの受信信号を仮想受信アレーとしてアレー信号処理を行う。
【0016】
また、MIMOレーダでは、送受信アレーアンテナにおける素子間隔を適切に配置することにより、仮想的にアンテナ開口を拡大し、角度分解能の向上を図ることができる。
【0017】
以下では、一例として、複数の送信アンテナから送信信号を同時に多重して送信する方法の一つである符号多重送信を用いたMIMOレーダ(例えば、特許文献1を参照)について着目する。
【0018】
例えば、符号多重送信を用いたMIMOレーダは、送信信号(例えば、チャープ信号)の繰り返し送信毎に、送信アンテナ毎に異なる符号列(以下、符号又は符号系列とも呼ぶ)に基づく位相変調を繰り返し付与して、複数(例えば、M個)の送信アンテナから符号多重送信する。また、MIMOレーダは、例えば、複数(例えば、N個)の受信アンテナを用いて受信した信号を検波処理することにより、符号多重された受信信号の距離情報を抽出する。
【0019】
また、MIMOレーダは、例えば、送信信号の繰り返し送信毎に得られた距離情報に対して、M個の速度方向のフーリエ変換処理を行う。MIMOレーダは、M個の速度方向のフーリエ変換処理結果に、検出された速度成分に基づく位相補正を加え、送信アンテナ毎に付与した符号列を分離する逆符号列を乗算することにより、符号多重された受信信号を分離する。このようなMIMOレーダの構成により、例えば、ターゲットとMIMOレーダとの間の相対速度がゼロではない場合でも、MIMOレーダは、符号多重された受信信号間の相互干渉を抑え、符号多重された受信信号を分離できる。
【0020】
しかしながら、上述したMIMOレーダの構成では、複数(例えば、M個)に分割した速度方向フーリエ変換処理が行われる。このため、MIMOレーダでは、M回の送信周期の間隔で速度方向フーリエ変換処理されるので、サンプリング定理によって規定されるドップラ折り返しが発生しない最大ドップラ周波数は、符号多重送信に用いる送信アンテナ数M分の1(=1/M)となる。サンプリング定理によって規定されるドップラ折り返しが発生しない最大ドップラ周波数を超えたドップラ周波数成分が含まれる場合、ドップラ周波数を確定できず曖昧性が発生する。このように、曖昧性なくドップラ成分が検出可能なドップラ範囲は、符号多重送信を用いない送信時(1アンテナ送信時、M=1)と比較して、1/Mに低減してしまう。なお、「ドップラ範囲」は、換言すると、「ターゲットの相対速度範囲」に相当する。なお、「曖昧性なくドップラ成分が検出可能なドップラ範囲」は、換言すると、当該のドップラ範囲において、ドップラ周波数を曖昧性なく確定できるドップラ範囲であり、以後、「曖昧性なく検出可能なドップラ範囲」と呼ぶ。
【0021】
そこで、本開示に係る一実施例では、符号多重送信において、曖昧性が生じないドップラ周波数の範囲を拡大させる方法について説明する。本開示に係る一実施例のレーダ装置は、例えば、ターゲット又はレーダ装置の移動に伴うドップラ変動が含まれる場合でも、符号多重された信号間の相互干渉の発生を抑え、かつ、曖昧性なく検出可能なドップラ範囲を、1アンテナ送信時と同等のドップラ範囲まで拡大することで、より広いドップラ周波数範囲において、ターゲットの検知精度を向上できる。
【0022】
以下、本開示の一実施例に係る実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、実施の形態において、同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明は重複するので省略する。
【0023】
以下では、レーダ装置において、送信ブランチにおいて、複数の送信アンテナから同時に多重された異なる送信信号を送出し、受信ブランチにおいて、各送信信号を分離して受信処理を行う構成(換言すると、MIMOレーダ構成)について説明する。
【0024】
また、以下では、一例として、チャープ(chirp)パルスのような周波数変調したパルス波を用いたレーダ方式(例えば、チャープパルス送信(fast chirp modulation)とも呼ぶ)の構成について説明する。ただし、変調方式は、周波数変調に限定されない。例えば、本開示の一実施例は、パルス列を位相変調又は振幅変調して送信するパルス圧縮レーダを用いたレーダ方式についても適用可能である。
【0025】
また、レーダ装置は、信号を符号多重送信する。
【0026】
(実施の形態1)
[レーダ装置の構成]
図1は、本実施の形態に係るレーダ装置10の構成例を示すブロック図である。
【0027】
レーダ装置10は、レーダ送信部(送信ブランチ)100と、レーダ受信部(受信ブランチ)200と、を有する。
【0028】
レーダ送信部100は、レーダ信号(レーダ送信信号)を生成し、複数の送信アンテナ106(例えば、Nt個)によって構成される送信アレーアンテナを用いて、レーダ送信信号を規定された送信周期にて送信する。
【0029】
レーダ受信部200は、ターゲット(物標。図示せず)により反射したレーダ送信信号である反射波信号を、複数の受信アンテナ202(例えば、Na個)を含む受信アレーアンテナを用いて受信する。レーダ受信部200は、各受信アンテナ202において受信した反射波信号を信号処理し、例えば、物標の有無検出又は反射波信号の到来距離、ドップラ周波数(換言すると相対速度)、及び到来方向の推定を行い、推定結果に関する情報(換言すると、測位情報)を出力する。
【0030】
なお、ターゲットはレーダ装置10が検出する対象の物体であり、例えば、車両(4輪及び2輪を含む)、人、ブロック又は縁石を含む。
【0031】
[レーダ送信部100の構成]
レーダ送信部100は、レーダ送信信号生成部101と、符号生成部104と、位相回転部105と、送信アンテナ106と、を有する。
【0032】
レーダ送信信号生成部101は、レーダ送信信号(換言すると、ベースバンド信号)を生成する。レーダ送信信号生成部101は、例えば、変調信号発生部102及びVCO(Voltage Controlled Oscillator:電圧制御発信器)103を有する。以下、レーダ送信信号生成部101における各構成部について説明する。
【0033】
変調信号発生部102は、例えば、
図2の上段に示すように、のこぎり歯形状の変調信号(換言すると、VCO制御用の変調信号)をレーダ送信周期Tr毎に発生させる。
【0034】
VCO103は、変調信号発生部102から出力されるレーダ送信信号(変調信号)に基づいて、周波数変調信号(以下、例えば、周波数チャープ信号又はチャープ信号と呼ぶ)を位相回転部105、及び、レーダ受信部200(後述するミキサ部204)へ出力する。
【0035】
符号生成部104は、符号多重送信を行う送信アンテナ106毎に異なる符号を生成する。符号生成部104は、生成した符号に対応する位相回転量を位相回転部105へ出力する。また、符号生成部104は、生成した符号に関する情報をレーダ受信部200(後述する出力切替部209)へ出力する。
【0036】
位相回転部105は、VCO103から入力されるチャープ信号に対して、符号生成部104から入力される位相回転量を付与し、位相回転後の信号を送信アンテナ106に出力する。例えば、位相回転部105は、位相器及び位相変調器等を含む(図示せず)。位相回転部105の出力信号は、規定された送信電力に増幅され、各送信アンテナ106から空間に放射される。換言すると、レーダ送信信号は、符号に対応する位相回転量が付与されることによって、複数の送信アンテナ106から符号多重送信される。
【0037】
次に、レーダ装置10において設定される符号(例えば、直交符号)の一例について説明する。
【0038】
符号生成部104は、例えば、符号多重送信を行う送信アンテナ106毎に異なる符号を生成する。
【0039】
例えば、以下では、符号多重送信を行う送信アンテナ106の数を「Nt」個とし、符号多重数を「N
CM」とする。
図1では、N
CM=Ntである。
【0040】
符号生成部104は、符号長(換言すると、符号要素数)Locの符号系列(例えば、互いに直交する関係となる直交符号系列(又は、単に符号又は直交符号とも呼ぶ))に含まれるNallcode個(以下では、Nallcode(Loc)個と記載することもある)の直交符号)の直交符号のうち、NCM個の直交符号を、符号多重送信用の符号に設定する。
【0041】
例えば、符号多重数NCMは、直交符号数Nallcodeよりも少なく、NCM<Nallcodeである。換言すると、直交符号の符号長Locは、符号多重数NCMよりも大きい。例えば、符号長LocのNCM個の直交符号をCodencm=[OCncm(1), OCncm(2),…, OCncm(Loc)]と表記する。ここで、「OCncm(noc)」は、第ncm番の直交符号Codencmにおける第noc番の符号要素を表す。また、「ncm」は符号多重に用いる直交符号のインデックスを表し、ncm=1,…, NCMである。また、「noc」は符号要素のインデックスであり、noc=1,…,Locである。
【0042】
ここで、符号長LocのNallcode個の直交符号のうち、(Nallcode-NCM)個の直交符号は、符号生成部104において用いられない(換言すると、符号多重送信に用いられない)。以下、(Nallcode-NCM)個の符号生成部104において用いられない直交符号を「未使用直交符号」と呼ぶ。未使用直交符号の少なくとも一つは、例えば、後述するレーダ受信部200の折り返し判定部212におけるドップラ周波数の折り返し判定に用いられる(一例は後述する)。
【0043】
未使用直交符号の使用により、レーダ装置10は、例えば、複数の送信アンテナ106から符号多重送信された信号を、符号間干渉を抑制した状態で、個別に分離して受信でき、かつ、検出可能なドップラ周波数の範囲を拡大できる(一例は後述する)。
【0044】
上述したように、符号生成部104において生成されるNCM個の直交符号は、例えば、互いに直交する符号(換言すると、無相関の符号)である。例えば、直交符号系列には、Walsh-Hadamard符号が用いられてよい。Walsh-Hadamard符号の符号長は2のべき乗であり、各符号長の直交符号には、符号長と同数の直交符号が含まれる。例えば、符号長2、4、8又は16のWalsh-Hadamard符号には、それぞれ2、4、8又は16個の直交符号が含まれる。
【0045】
以下では、一例として、符号数N
CM個の直交符号系列の符号長Locは次式(1)を満たすように設定する。
【数1】
【0046】
ここで、ceil[x]は実数x以上の最小の整数を出力する演算子(天井関数)である。符号長LocのWalsh-Hadamard符号の場合、Nallcode(Loc)=Locの関係が成り立つ。例えば、符号長Loc=2、4、8、又は16のWalsh-Hadamard符号は、それぞれ2、4、8又は16個の直交符号を含むため、Nallcode(2)=2、Nallcode(4)=4、Nallcode(8)=8、及び、Nallcode(16)=16が成立する。符号生成部104は、例えば、符号長LocのWalsh-Hadamard符号に含まれるNallcode(Loc)個の符号のうち、NCM個の直交符号を用いる。
【0047】
ここで、長い符号長について説明する。例えば、ターゲット又は従来のレーダ装置の移動速度に加速度が含まれる場合、符号長が長いほど符号間干渉を受けやすくなる。また、符号長が長いほど、後述するドップラ折り返し判定の際のドップラ折り返し範囲の候補が増大する。このため、同一の距離インデックスに異なる折り返し範囲に亘って複数のドップラ周波数のターゲットが存在する場合には、異なる折り返し範囲において検出されるドップラ周波数インデックスが重複する確率が増大し、従来のレーダ装置は、折り返しを適切に判定することが困難になる確率が増加し得る。
【0048】
このため、レーダ装置10は、後述するレーダ受信部200の折り返し判定部212における折り返し判定の演算量の観点から、符号長のより短い符号を用いてもよい。一例として、レーダ装置10は、式(1)を満たす符号長Locのうち最も短い符号長の直交符号系列を用いてもよい。
【0049】
なお、符号長LocのWalsh-Hadamard符号に、例えば、符号長Locの符号[OC(1), OC(2),…, OC(Loc-1), OC(Loc)]が含まれる場合、符号長LocのWalsh-Hadamard符号には、当該符号の奇数番目の符号要素が同一であり、偶数番目の符号要素が符号反転している符号[OC(1), -OC(2),…, OC(Loc-1), -OC(Loc)]も含まれる。
【0050】
また、符号長LocのWalsh-Hadamard符号と異なる他の符号であっても、例えば、符号長Locの符号[OC(1), OC(2),…, OC(Loc-1), OC(Loc)]が含まれる場合、符号長Locの符号は、当該符号の奇数番目の符号要素が同一であり、偶数番目の符号要素が符号反転している符号[OC(1), -OC(2),…, OC(Loc-1), -OC(Loc)]であってもよいし、又は、当該符号の偶数番目の符号要素が同一であり、奇数番目の符号要素が符号反転している符号[-OC(1), OC(2),…, -OC(Loc-1), OC(Loc)]であってよい。
【0051】
未使用直交符号の個数(Nallcode-NCM)が2以上の場合、レーダ装置10は、例えば、上述した関係の符号の組を未使用直交符号に含まないように、符号を選択してもよい。例えば、上述した関係の符号の組において一方の符号は符号多重送信に用いられ、他方の符号は未使用直交符号に含まれてもよい。この未使用直交符号の選択により、後述するレーダ受信部200の折り返し判定部212におけるドップラ周波数の折り返し判定精度を向上できる(一例は後述する)。
【0052】
以下、各符号多重数NCMにおける直交符号の一例について説明する。
【0053】
<NCM=2又は3の場合>
NCM=2又は3の場合、例えば、符号長Loc=4、8、16、32、…のWalsh-Hadamard符号を適用してもよい。これらの符号長Locの場合、NCM<Nallcode(Loc)となる。また、符号多重数がNCM=2又は3の場合、これらの符号長Locのうち、符号長がより短いWalsh-Hadamard符号(例えば、Loc=4)を用いてもよい。
【0054】
例えば、符号長LocのWalsh-Hadamard符号をWHLoc(nwhc)と表す。なお、nwhcは符号長LocのWalsh-Hadamard符号に含まれる符号インデックスを表し、nwhc=1,…, Locである。例えば、符号長Loc=4のWalsh-Hadamard符号には、直交符号WH4(1)=[1,1, 1, 1]、WH4(2)=[1,-1, 1, -1]、WH4(3)=[1,1, -1, -1]、及び、WH4(4)=[1,-1, -1, 1]が含まれる。
【0055】
ここで、符号長Loc=4のWalsh-Hadamard符号のうち、WH4(1)= [1,1, 1, 1]とWH4(2) = [1,-1, 1, -1]とは、相互の符号間において、奇数番目の符号要素が同一であり、偶数番目の符号要素が符号反転している符号の組である。また、WH4(3)= [1,1, -1, -1]及びWH4 (4)= [1,-1, -1, 1]も、WH4(1)及びWH4(2)の組と同様な関係の符号の組である。
【0056】
例えば、未使用直交符号の個数(Nallcode-NCM)が2以上の場合には、レーダ装置10は、このような関係の符号の組を未使用直交符号に含まないように、符号を選択してもよい。
【0057】
例えば、符号多重数NCM=2の場合、符号生成部104は、符号長Loc=4のWalsh-Hadamard符号のうち、2個の直交符号を符号多重送信用の符号に決定する。この場合、未使用直交符号の個数(Nallcode-NCM)は2個となる。
【0058】
例えば、符号生成部104は、WH4(1)とWH4(2)の符号の組、又は、WH4(3)とWH4(4)の符号の組が未使用直交符号に含まれないように、符号多重送信用の符号を選択してもよい。例えば、符号多重送信用の符号(Code1及びCode2)の組み合わせは、Code1=WH4(1)(= [1,1, 1, 1])及びCode2=WH4(3)(= [1,1, -1, -1])の組み合わせ、Code1=WH4(1)及びCode2=WH4(4)の組み合わせ、Code1=WH4(2)及びCode2=WH4(3)の組み合わせ、又は、Code1=WH4(2)及びCode2=WH4(4)の組み合わせでもよい。
【0059】
また、符号多重数NCM=2の場合、例えば、レーダ受信部200における折り返し判定部212は、符号長Loc=4のNallcode=4個のWalsh-Hadamard符号のうち、符号生成部104において用いられない(換言すると、符号多重送信に用いられない)2個(=Nallcode-NCM)の未使用直交符号の少なくとも一つを、折り返し判定に用いる(一例は後述する)。
【0060】
以下では、符号長LocのNallcode個の直交符号のうち、未使用直交符号を「UnCodenuc=[UOCnuc(1), UOCnuc(2),…, UOCnuc(Loc) ]」と表す。なお、UnCodenucは第nuc番の未使用直交符号を表す。また、nucは未使用直交符号のインデックスを表し、nuc =1,…, (Nallcode-NCM)である。また、UOCnuc(noc)は第nuc番の未使用直交符号UnCodenucにおけるnoc番の符号要素を表す。また、nocは符号要素のインデックスを表し、noc=1,…,Locである。
【0061】
例えば、符号多重数がNCM=2であり、符号生成部104が決定した符号多重送信用の符号が、Code1=WH4(1)(= [1,1, 1, 1])及びCode2=WH4(3)(= [1,1, -1, -1])の場合、未使用直交符号は、UnCode1=WH4(2)(= [1,-1, 1, -1])及びUnCode2=WH4(4)(= [1,-1, -1, 1])となる。なお、未使用直交符号(UnCode1及びUnCode2)の組み合わせは、WH4(2)及びWH4(4)の組み合わせに限らず、他の符号の組み合わせでもよい。
【0062】
同様に、符号多重数NCM=3の場合、符号生成部104は、例えば、符号長Loc=4のWalsh-Hadamard符号のうち、3個の直交符号を符号多重送信用の符号に決定する。この場合、未使用直交符号の個数(Nallcode-NCM)は1個となる。
【0063】
例えば、符号生成部104は、Code1=WH4(3)=[1,1, -1, -1]、Code2=WH4(4)=[1,-1, -1, 1]、及び、Code3=WH4(2)=[1,-1, 1, -1]を選択してもよい。
【0064】
また、レーダ受信部200の折り返し判定部212は、符号長Loc=4のNallcode=4個のWalsh-Hadamard符号のうち、1個(=Nallcode-NCM)の未使用直交符号を折り返し判定に用いる(一例は後述する)。例えば、符号多重数がNCM=3であり、符号生成部104が決定した符号多重送信用の符号が、Code1=WH4(3)=[1,1, -1, -1]、Code2=WH4(4)=[1,-1, -1, 1]、Code3=WH4(2)=[1,-1, 1, -1]の場合、未使用直交符号は、UnCode1=WH4(1)=[1,1, 1, 1]となる。なお、符号多重送信用の符号(Code1、Code2及びCode3)及び未使用直交符号(UnCode1)の組み合わせは、これらに限らず、他の符号の組み合わせでもよい。
【0065】
<NCM=4、5、6又は7の場合>
NCM=4、5、6又は7の場合、例えば、符号長Loc=8、16、32、…のWalsh-Hadamard符号を適用してもよい。これらの符号長Locの場合、NCM<Nallcode(Loc)となる。また、符号多重数がNCM=4、5、6又は7の場合、これらの符号長Locのうち、符号長がより短いWalsh-Hadamard符号(例えば、Loc=8)を用いてもよい。
【0066】
例えば、符号長Loc=8のWalsh-Hadamard符号には、以下の8個の直交符号が含まれる。
WH8(1)= [ 1 1 1 1 1 1 1 1],
WH8(2)= [ 1 -1 1 -1 1 -1 1 -1],
WH8(3)= [ 1 1 -1 -1 1 1 -1 -1],
WH8(4)= [ 1 -1 -1 1 1 -1 -1 1],
WH8(5)= [ 1 1 1 1 -1 -1 -1 -1],
WH8(6)= [ 1 -1 1 -1 -1 1 -1 1],
WH8(7)= [ 1 1 -1 -1 -1 -1 1 1],
WH8(8)= [ 1 -1 -1 1 -1 1 1 -1]
【0067】
ここで、符号長Loc=8のWalsh-Hadamard符号のうち、WH8(1)とWH8(2)とは、相互の符号間において奇数番目の符号要素が同一であり、偶数番目の符号要素が符号反転している符号の組である。また、同様に、WH8(3)とWH8(4)の組、WH8(5)とWH8(6)の組、及び、WH8(7)とWH8(8)の組も、WH8(1)とWH8(2)の組と同様な関係の符号の組である。
【0068】
例えば、未使用直交符号の個数(Nallcode-NCM)が2以上の場合には、符号生成部104は、このような関係の符号の組を未使用直交符号に含まないように符号を選択する一例として、WH8(1)とWH8(2)の符号の組、WH8(3)とWH8(4)の符号の組、WH8(5)とWH8(6)の符号の組、又は、WH8(7)とWH8(8)の符号の組が未使用直交符号に含まれないように、符号多重送信用の符号を選択してもよい。
【0069】
例えば、符号多重数NCM=4の場合、符号生成部104は、符号長Loc=8のWalsh-Hadamard符号のうち、4個の直交符号を符号多重送信用の符号に決定する。この場合、未使用直交符号の個数(Nallcode-NCM)は4個となる。
【0070】
例えば、符号生成部104は、符号多重送信用の符号(Code1、Code2、Code3及びCode4)の組み合わせは、Code1=WH8(1)、Code2=WH8(3)、Code3=WH8(5)及びCode4=WH8(7)の組み合わせ、又は、Code1=WH8(1)、Code2=WH8(4)、Code3=WH8(5)及びCode4=WH8(8)の組み合わせでもよい。なお、符号多重送信用の符号(Code1、Code2、Code3及びCode4)の組み合わせは、これらに限定されない。
【0071】
また、符号多重数NCM=4の場合、例えば、レーダ受信部200における折り返し判定部212は、符号長Loc=8のNallcode=8個のWalsh-Hadamard符号のうち、符号生成部104において用いられない4個(=Nallcode-NCM)の未使用直交符号の一部あるいは全てを折り返し判定に用いる(一例は後述する)。
【0072】
例えば、符号多重数NCM=4であり、符号生成部104が決定した符号多重送信用の符号が、Code1=WH8(1)、Code2=WH8(3)、Code3=WH8(5)及びCode4=WH8(7)の場合、未使用直交符号は、UnCode1=WH8(2)、UnCode2=WH8(4), UnCode3=WH8(6)及びUnCode4=WH8(8)となる。又は、例えば、符号多重数NCM=4であり、符号生成部104が決定した符号多重送信用の符号が、Code1=WH8(1)、Code2=WH8(4)、Code3=WH8(5)及びCode4=WH8(8)の場合、未使用直交符号は、UnCode1=WH8(2)、UnCode2=WH8(3), UnCode3=WH8(6)及びUnCode4=WH8(7)となる。
【0073】
同様に、例えば、符号多重数NCM=5の場合、符号生成部104は、符号長Loc=8のWalsh-Hadamard符号のうち、5個の直交符号を符号多重送信用の符号に決定する。この場合、未使用直交符号の個数(Nallcode-NCM)は3個となる。
【0074】
例えば、符号生成部104は、符号多重送信用の符号(Code1、Code2、Code3、Code4及びCode5)の組み合わせは、Code1=WH8(1)、Code2=WH8(3)、Code3=WH8(5)、Code4=WH8(7)及びCode5=WH8(8)の組み合わせ、又は、Code1=WH8(1)、Code2=WH8(4)、Code3=WH8(5)、Code4=WH8(7)及びCode5=WH8(8)でもよい。なお、符号多重送信用の符号(Code1、Code2、Code3、Code4及びCode5)の組み合わせは、これらに限定されない。
【0075】
符号多重数NCM=5の場合、例えば、レーダ受信部200における折り返し判定部212は、符号長Loc=8のNallcode=8個のWalsh-Hadamard符号のうち、符号生成部104において用いられない3個(=Nallcode-NCM)の未使用直交符号の一部あるいは全てを折り返し判定に用いる(一例は後述する)。
【0076】
例えば、符号多重数NCM=5であり、符号生成部104が決定した符号多重送信用の符号が、Code1=WH8(1)、Code2=WH8(3)、Code3=WH8(5)、Code4=WH8(7)及びCode5=WH8(8)の場合、未使用直交符号は、UnCode1=WH8(2)、UnCode2=WH8(4)及び UnCode3=WH8(6)となる。又は、例えば、符号多重数NCM=5であり、符号生成部104が決定した符号多重送信用の符号が、Code1=WH8(1)、Code2=WH8(4)、Code3=WH8(5)、Code4=WH8(7)及びCode5=WH8(8)の場合、未使用直交符号は、UnCode1=WH8(2)、UnCode2=WH8(3)及びUnCode3=WH8(6)となる。
【0077】
同様に、例えば、符号多重数NCM=6の場合、符号生成部104は、符号長Loc=8のWalsh-Hadamard符号のうち、6個の直交符号を符号多重送信用の符号に決定する。この場合、未使用直交符号の個数(Nallcode-NCM)は2個となる。
【0078】
例えば、符号生成部104は、符号多重送信用の符号(Code1、Code2、Code3、Code4、Code5及びCode6)の組み合わせは、例えば、Code1=WH8(1)、Code2=WH8(2)、Code3=WH8(3)、Code4=WH8(4)、Code5=WH8(5)及びCode6=WH8(8)でもよい。なお、符号多重送信用の符号(Code1、Code2、Code3、Code4、Code5及びCode6)の組み合わせは、これらに限定されない。
【0079】
また、符号多重数NCM=6の場合、例えば、レーダ受信部200における折り返し判定部212は、符号長Loc=8のNallcode=8個のWalsh-Hadamard符号のうち、符号生成部104において用いられない2個(=Nallcode-NCM)の未使用直交符号の一部あるいは全てを折り返し判定に用いる(一例は後述する)。
【0080】
例えば、符号多重数がNCM=6であり、符号生成部104が決定した符号多重送信用の符号が、Code1=WH8(1)、Code2=WH8(2)、Code3=WH8(3)、Code4=WH8(4)、Code5=WH8(5)及びCode6=WH8(8)の場合、未使用直交符号は、UnCode1=WH8(6)及びUnCode2=WH8(7)となる。
【0081】
同様に、例えば、符号多重数NCM=7の場合、符号生成部104は、符号長Loc=8のWalsh-Hadamard符号のうち、7個の直交符号を符号多重送信用の符号に決定する。この場合、未使用直交符号の個数(Nallcode-NCM)は1個となる。
【0082】
例えば、符号生成部104は、符号多重送信用の符号に、Code1=WH8(1)、Code2=WH8(2)、Code3=WH8(3)、Code4=WH8(4)、Code5=WH8(5)、Code6=WH8(6)及びCode7=WH8(7)を選択してもよい。なお、符号多重送信用の符号の組み合わせは、これらに限定されない。
【0083】
また、レーダ受信部200における折り返し判定部212は、符号長Loc=8のNallcode=8個のWalsh-Hadamard符号のうち、符号生成部104において用いられない1個(=Nallcode-NCM)の未使用直交符号を折り返し判定に用いる(一例は後述する)。
【0084】
例えば、符号多重数NCM=7であり、符号生成部104が決定した符号多重送信用の符号が、Code1=WH8(1)、Code2=WH8(2)、Code3=WH8(3)、Code4=WH8(4)、Code5=WH8(5)、Code6=WH8(6)及びCode7=WH8(7)の場合、未使用直交符号は、UnCode1=WH(8)となる。
【0085】
以上、符号多重数NCM=4、5、6又は7の場合について説明した。
【0086】
なお、レーダ装置10は、符号多重数NCM=8以上の場合も、符号多重数NCM=2~7の場合と同様に符号多重送信用の符号、及び、未使用直交符号を決定してもよい。
【0087】
例えば、符号生成部104は、式(2)に示す符号長LocのWalsh-Hadamard符号のうち、N
CM個の直交符号を符号多重送信用の符号に選択してもよい。この場合、N
CM<Loc=N
allcode(Loc)となる。
【数2】
【0088】
また、レーダ受信部200における折り返し判定部212は、符号長LocのNallcode=Loc個のWalsh-Hadamard符号のうち、(Nallcode-NCM)個の未使用直交符号を折り返し判定に用いてよい(一例は後述する)。また、未使用直交符号の個数(Nallcode-NCM)が2個以上の場合、符号生成部104は、例えば、符号長LocのWalsh-Hadamard符号のうち、相互の符号間において奇数番目及び偶数番目の何れか一方の符号要素が同一であり、奇数番目及び偶数番目の他方の符号要素が符号反転している符号の組が未使用直交符号に含まれないように、符号多重送信用の符号を選択してもよい。
【0089】
換言すると、符号長LocのWalsh-Hadamard符号のうち、相互の符号間において奇数番目及び偶数番目の何れか一方の符号要素が同一であり、奇数番目及び偶数番目の他方の符号要素が符号反転している符号の組の何れか一方が未使用直交符号に含まれ、他方が未使用直交符号に含まれなくてよい。
【0090】
なお、直交符号系列を構成する要素は実数に限らず、複素数値が含まれてもよい。
【0091】
また、符号は、Walsh-Hadamard符号と異なる他の直交符号でもよい。例えば、符号は、直交M系列符号又は擬似直交符号でもよい。
【0092】
以上、各符号多重数NCMにおける直交符号の一例について説明した。
【0093】
次に、符号生成部104において生成された符号多重送信用の符号に基づく位相回転量の一例について説明する。
【0094】
レーダ装置10は、例えば、符号多重送信を行う送信アンテナTx#1~Tx#Ntに対して、それぞれ異なる直交符号を用いた符号多重送信を行う。そこで、符号生成部104は、例えば、第m番の送信周期Trにおいて、第ncm番の送信アンテナTx#ncmに対して付与する、直交符号Codencmに基づく位相回転量ψncm(m)を設定し、位相回転部105に出力する。ここで、ncm=1,…, NCMである。
【0095】
例えば、位相回転量ψ
ncm(m)は、次式(3)に示すように、符号長Loc回の送信周期の期間毎に、直交符号Code
ncmのLoc個の各符号要素OC
ncm(1),…, OC
ncm(Loc)に相当する位相量を巡回的に付与する。
【数3】
【0096】
ここで、angle(x)は実数xのラジアン位相を出力する演算子であり、angle(1)=0、angle(-1)=π、angle(j)=π/2、及び、angle(-j)=-π/2である。jは虚数単位である。また、OC_INDEXは、直交符号系列Code
ncmの要素を指示する直交符号要素インデックスであり、送信周期(Tr)毎に、次式(4)のように1からLocの範囲で巡回的に可変する。
【数4】
【0097】
ここで、mod(x,y)はモジュロ演算子であり、xをyで割った後の余りを出力する関数である。また、m=1,…,Ncである。Ncは、レーダ装置10がレーダ測位に用いる所定の送信周期数(以下では、「レーダ送信信号送信回数」と呼ぶ)である。また、レーダ装置10は、例えば、Locの整数倍(例えば、Ncode倍)となるレーダ送信信号送信回数Ncの送信を行う。例えば、Nc=Loc×Ncodeである。
【0098】
また、符号生成部104は、送信周期(Tr)毎に、直交符号要素インデックスOC_INDEXをレーダ受信部200の出力切替部209へ出力する。
【0099】
位相回転部105は、例えば、Nt個の送信アンテナ106にそれぞれ対応する位相器又は位相変調器を備える。位相回転部105は、例えば、送信周期Tr毎に、レーダ送信信号生成部101から入力されるチャープ信号に対して、符号生成部104から入力される位相回転量ψncm(m)をそれぞれ付与する。
【0100】
例えば、位相回転部105は、送信周期Tr毎にレーダ送信信号生成部101から入力されるチャープ信号に対して、第ncm番の送信アンテナTx#ncmに対して付与する、直交符号Codencmに基づく位相回転量ψncm(m)を付与する。ここで、ncm=1,…,NCMであり、m=1,..,Ncである。
【0101】
Nt個の送信アンテナ106に対する位相回転部105からの出力は、例えば、所定の送信電力に増幅後に、Nt個の送信アンテナ106(例えば、送信アレーアンテナ)から空間に放射される。
【0102】
一例として、送信アンテナ数Nt=3、及び、符号多重数NCM=3において符号多重送信する場合について説明する。なお、送信アンテナ数Nt及び符号多重数NCMは、これらの値に限定されない。
【0103】
例えば、位相回転量ψ1(m), ψ2(m)及びψ3(m)が、第m番の送信周期Tr毎に符号生成部104から位相回転部105へ出力される。
【0104】
第1番(ncm=1)の位相回転部105(換言すると、第1番の送信アンテナ106(例えば、Tx#1)に対応する位相器)は、送信周期Tr毎にレーダ送信信号生成部101において生成されたチャープ信号に対して、送信周期Tr毎に、次式(5)のように位相回転を付与する。第1番の位相回転部105の出力は、送信アンテナTx#1から送信される。ここで、cp(t)は第m番の送信周期Tr毎のチャープ信号を表す。
【数5】
【0105】
同様に、第2番(ncm=2)の位相回転部105は、送信周期Tr毎にレーダ送信信号生成部101において生成されたチャープ信号に対して、送信周期Tr毎に、次式(6)のように位相回転を付与する。第2番の位相回転部105の出力は、送信アンテナTx#2から送信される。
【数6】
【0106】
同様に、第3番(ncm=3)の位相回転部105は、送信周期Tr毎に、レーダ送信信号生成部101において生成されたチャープ信号に対して、送信周期Tr毎に、次式(7)のように位相回転を付与する。第3番の位相回転部105の出力は、送信アンテナTx#3から送信される。
【数7】
【0107】
なお、レーダ装置10は、レーダ測位を継続的に行う場合に、レーダ測位毎(例えば、Nc回の送信周期(Nc×Tr)毎)に、直交符号Codencmに用いる符号を可変に設定してもよい。
【0108】
また、レーダ装置10は、例えば、Nt個の位相回転部105の出力を送信する送信アンテナ106(換言すると、位相回転部105の各出力に対応する送信アンテナ106)を可変に設定してもよい。例えば、複数の送信アンテナ106と、符号多重送信用の符号系列との対応付けは、レーダ装置10におけるレーダ測位毎に異なってもよい。レーダ装置10は、例えば、送信アンテナ106毎に異なる他レーダからの干渉の影響を受けて、信号を受信する場合に、レーダ測位毎に送信アンテナ106から出力される符号多重信号が変わることになり、干渉の影響のランダマイズ効果を得ることができる。
【0109】
以上、レーダ送信部100の構成例について説明した。
【0110】
[レーダ受信部200の構成]
図1において、レーダ受信部200は、Na個の受信アンテナ202(例えば、Rx#1~Rx#Naとも表す)を備え、アレーアンテナを構成する。また、レーダ受信部200は、Na個のアンテナ系統処理部201-1~201-Naと、CFAR(Constant False Alarm Rate)部211と、折り返し判定部212と、符号多重分離部213と、方向推定部214と、を有する。
【0111】
各受信アンテナ202は、ターゲットに反射したレーダ送信信号である反射波信号を受信し、受信した反射波信号を、対応するアンテナ系統処理部201へ受信信号として出力する。
【0112】
各アンテナ系統処理部201は、受信無線部203と、信号処理部206とを有する。
【0113】
受信無線部203は、ミキサ部204と、LPF(low pass filter)205と、を有する。ミキサ部204は、受信した反射波信号に対して、レーダ送信信号生成部101から入力される、送信信号であるチャープ信号をミキシングする。LPF205は、ミキサ部204の出力信号に対してLPF処理を施すことによって、反射波信号の遅延時間に応じた周波数となるビート信号を出力する。例えば、
図2の下段に示すように、送信チャープ信号(送信周波数変調波)の周波数と、受信チャープ信号(受信周波数変調波)の周波数との差分周波数がビート周波数として得られる。
【0114】
各アンテナ系統処理部201-z(ただし、z=1~Naの何れか)の信号処理部206は、AD変換部207と、ビート周波数解析部208と、出力切替部209と、ドップラ解析部210と、を有する。
【0115】
LPF205から出力された信号(例えば、ビート信号)は、信号処理部206において、AD変換部207によって、離散的にサンプリングされた離散サンプルデータに変換される。
【0116】
ビート周波数解析部208は、送信周期Tr毎に、規定された時間範囲(レンジゲート)において得られたNdata個の離散サンプルデータをFFT処理する。これにより、信号処理部206では、反射波信号(レーダ反射波)の遅延時間に応じたビート周波数にピークが現れる周波数スペクトラムが出力される。なお、ビート周波数解析部208は、FFT処理として、例えば、Han窓又はHamming窓等の窓関数係数を乗算してもよい。なお、レーダ装置10は、窓関数係数を用いることにより、ビート周波数ピーク周辺に発生するサイドローブを抑圧できる。また、Ndata個の離散サンプリングデータ数が2のべき乗ではない場合、ビート周波数解析部208は、例えば、ゼロ埋めしたデータを含めることで2べき乗個のFFTサイズとしてFFT処理してもよい。
【0117】
ここで、第m番目のチャープパルス送信によって得られる第z番目の信号処理部206におけるビート周波数解析部208から出力されるビート周波数応答をRFTz(fb, m)で表す。ここで、fbはビート周波数インデックスを表し、FFTのインデックス(ビン番号)に対応する。例えば、fb=0,…,Ndata/2であり、z=0,…,Naであり、m=1,…,NCである。ビート周波数インデックスfbが小さいほど、反射波信号の遅延時間が小さい(換言すると、物標との距離が近い)ビート周波数を示す。
【0118】
また、ビート周波数インデックスf
bは、次式(8)を用いて距離情報R(f
b)に変換してよい。そのため、以下では、ビート周波数インデックスf
bを「距離インデックスf
b」とも呼ぶ。
【数8】
【0119】
ここで、Bwは、チャープ信号におけるレンジゲート内での周波数変調帯域幅を表し、C0は光速度を表す。
【0120】
出力切替部209は、符号生成部104から出力される直交符号要素インデックスOC_INDEXに基づいて、送信周期毎のビート周波数解析部208の出力を、Loc個のドップラ解析部210のうち、OC_INDEX番目のドップラ解析部210に選択的に切り替えて出力する。換言すると、出力切替部209は、第m番目の送信周期Trにおいて、OC_INDEX番目のドップラ解析部210を選択する。
【0121】
信号処理部206は、Loc個のドップラ解析部210-1~210-Locを有する。例えば、第noc番目のドップラ解析部210には、出力切替部209によってLoc回の送信周期(Loc×Tr)毎にデータが入力される。このため、第noc番目のドップラ解析部210は、Nc回の送信周期のうち、Ncode回の送信周期のデータ(例えば、ビート周波数解析部208から出力されるビート周波数応答RFTz(fb, m))を用いて、距離インデックスfb毎にドップラ解析を行う。ここで、nocは符号要素のインデックスであり、noc=1, …, Locである。
【0122】
例えば、Ncodeが2のべき乗値である場合、ドップラ解析においてFFT処理を適用してもよい。この場合、FFTサイズはNcodeであり、サンプリング定理から導出される折り返しが発生しない最大ドップラ周波数は±1/(2Loc×Tr)である。また、ドップラ周波数インデックスfsのドップラ周波数間隔は1/(Ncode×Loc×Tr)であり、ドップラ周波数インデックスfsの範囲はfs = -Ncode/2, …, 0, …, Ncode/2-1である。
【0123】
例えば、第z番の信号処理部206のドップラ解析部210の出力VFT
z
noc(f
b, f
s)は、次式(9)に示される。なお、jは虚数単位であり、z=1~Naである。
【数9】
【0124】
また、Ncodeが2のべき乗でない場合には、例えば、ゼロ埋めしたデータを含めることで2のべき乗個のデータサイズ(FFTサイズ)としてFFT処理してもよい。例えば、ゼロ埋めしたデータを含めた場合のドップラ解析部210におけるFFTサイズをN
codewzeroとした場合、第z番の信号処理部206におけるドップラ解析部210の出力VFT
z
noc(f
b, f
s)は、次式(10)に示される。
【数10】
【0125】
ここで、nocは符号要素のインデックスであり、noc=1,…,Locである。また、FFTサイズはNcodewzeroであり、サンプリング定理から導出される折り返しが発生しない最大ドップラ周波数は、±1/(2Loc×Tr)である。また、ドップラ周波数インデックスfsのドップラ周波数間隔は1/(Ncodewzero×Loc×Tr)であり、ドップラ周波数インデックスfsの範囲はfs=-Ncodewzero/2,…,0,…, Ncodewzero/2-1である。
【0126】
以下では、一例として、Ncodeが2のべき乗値である場合について説明する。なお、ドップラ解析部210においてゼロ埋めを用いる場合、以下の説明においてNcodeをNcodewzeroと置き換えることにより、同様に適用でき、同様の効果を得られる。
【0127】
また、ドップラ解析部210は、FFT処理の際に、例えば、Han窓又はHamming窓といった窓関数係数を乗算してもよい。レーダ装置10は、窓関数を適用することでビート周波数ピーク周辺に発生するサイドローブを抑圧できる。
【0128】
以上、信号処理部206の各構成部における処理について説明した。
【0129】
図1において、CFAR部211は、第1~第Na番目の信号処理部206それぞれのLoc個のドップラ解析部210の出力を用いて、CFAR処理(換言すると、適応的な閾値判定)を行い、ピーク信号を与える距離インデックスf
b_cfar及びドップラ周波数インデックスf
s_cfarを抽出する。
【0130】
CFAR部211は、例えば、次式(11)のように、第1~第Na番目の信号処理部206のドップラ解析部210の出力VFT
z
noc(f
b, f
s)を電力加算し、距離軸とドップラ周波数軸(相対速度に相当)とからなる2次元のCFAR処理、又は、1次元のCFAR処理を組み合わせたCFAR処理を行う。2次元のCFAR処理又は1次元のCFAR処理を組み合わせたCFAR処理については、例えば、非特許文献2に開示された処理が適用されてよい。
【数11】
【0131】
CFAR部211は、適応的に閾値を設定し、閾値よりも大きい受信電力となる距離インデックスfb_cfar、ドップラ周波数インデックスfs_cfar、及び、受信電力情報PowerFT(fb_cfar, fs_cfar)を折り返し判定部212に出力する。
【0132】
次に、
図1に示す折り返し判定部212の動作例について説明する。
【0133】
折り返し判定部212は、例えば、CFAR部211において抽出された距離インデックスfb_cfar及びドップラ周波数インデックスfs_cfarに基づいて、ドップラ解析部210の出力であるドップラ成分VFTz
noc(fb_cfar, fs_cfar)の折り返し判定を行う。ここで、z=1,…,Naであり、noc=1,…,Locである。
【0134】
折り返し判定部212は、例えば、想定するターゲットのドップラ範囲を±1/(2×Tr)としてドップラ折り返し判定処理を行う。
【0135】
ここで、例えば、Ncodeが2のべき乗値である場合、ドップラ解析部210は、符号要素毎にFFT処理を適用するので、(Loc×Tr)周期で、ビート周波数解析部208からの出力を用いてFFT処理を行う。このため、ドップラ解析部210においてサンプリング定理によって折り返しが発生しないドップラ範囲は±1/(2Loc×Tr)である。
【0136】
よって、折り返し判定部212において想定するターゲットのドップラ範囲は、ドップラ解析部210において折り返しが発生しないドップラ範囲よりも広い。例えば、折り返し判定部212は、ドップラ解析部210の折り返しが発生しないドップラ範囲±1/(2Loc×Tr)のLoc倍のドップラ範囲±1/(2×Tr)までを想定して折り返し判定処理を行う。
【0137】
以下、折り返し判定部212における折り返し判定処理の一例を説明する。
【0138】
ここでは、一例として、符号多重数NCM=3であり、符号生成部104が符号長Loc=4のWalsh-Hadamard符号のうち、3個の直交符号Code1=WH4(3)=[1,1, -1, -1]、Code2=WH4(4)=[1,-1, -1, 1]、及び、Code3=WH4(2)=[1,-1, 1, -1]を用いる場合について説明する。
【0139】
折り返し判定部212は、例えば、符号長Loc=4のNallcode=4個のWalsh-Hadamard符号のうち、1個(=Nallcode-NCM)の未使用直交符号を折り返し判定に用いる。例えば、符号多重数がNCM=3であり、符号生成部104が決定した符号多重送信用の符号が、Code1=WH4(3)=[1,1, -1, -1]、Code2=WH4(4)=[1,-1, -1, 1]及びCode3=WH4(2)=[1,-1, 1, -1]の場合、未使用直交符号は、UnCode1=WH4(1)=[1,1, 1, 1]となる。
【0140】
例えば、レーダ装置10が符号長Loc=4の直交符号を用いて符号多重送信を行う場合、上述したように、ドップラ解析部210は符号要素毎にFFT処理を適用するので、(Loc×Tr)=(4×Tr)周期で、ビート周波数解析部208からの出力を用いてFFT処理を行う。よって、ドップラ解析部210においてサンプリング定理よって折り返しが発生しないドップラ範囲は、±1/(2 Loc×Tr)=±1/(8×Tr)となる。
【0141】
折り返し判定部212は、ドップラ解析部210におけるドップラ解析の範囲(ドップラ範囲)と比較して、直交符号系列の符号長Loc倍の範囲において折り返しの判定を行う。例えば、折り返し判定部212は、ドップラ解析部210において折り返しが発生しないドップラ範囲±1/(8×Tr)の4(=Loc)倍のドップラ範囲=±1/(2×Tr)を想定して折り返し判定処理を行う。
【0142】
ここで、CFAR211部において抽出される距離インデックスf
b_cfar及びドップラ周波数インデックスf
s_cfarに対応するドップラ解析部210の出力であるドップラ成分VFT
z
noc(f
b_cfar,f
s_cfar)には、例えば、±1/(2×Tr)のドップラ範囲において、
図3における(a)及び(b)に示すような折り返しを含むドップラ成分が含まれる可能性がある。
【0143】
例えば、
図3における(a)に示すように、f
s_cfar<0の場合、±1/(2×Tr)のドップラ範囲において、f
s_cfar-Ncode、f
s_cfar、f
s_cfar+Ncode、及び、f
s_cfar+2Ncodeの4(=Loc)通りのドップラ成分の可能性がある。
【0144】
また、例えば、
図3における(b)に示すように、f
s_cfar>0の場合、±1/(2×Tr)のドップラ範囲において、f
s_cfar-2Ncode、f
s_cfar-Ncode、f
s_cfar、及び、f
s_cfar+Ncodeの4(=Loc)通りのドップラ成分の可能性がある。
【0145】
折り返し判定部212は、例えば、未使用直交符号を用いて、
図3に示すような±1/(2×Tr)のドップラ範囲において符号分離処理を行う。例えば、折り返し判定部212は、未使用直交符号に対して、
図3に示すような折り返しを含む4(=Loc)通りのドップラ成分の位相変化を補正してもよい。
【0146】
そして、折り返し判定部212は、未使用直交符号に基づいて符号分離されたドップラ成分の受信電力に基づいて、各ドップラ成分が折り返しであるか否かを判定する。例えば、折り返し判定部212は、折り返しを含むドップラ成分のうち、受信電力が最小のドップラ成分を検出し、検出したドップラ成分を真のドップラ成分と判定する。換言すると、折り返し判定部212は、折り返しを含むドップラ成分のうち、最小の受信電力と異なる他の受信電力のドップラ成分を偽のドップラ成分であると判定する。
【0147】
この折り返し判定処理により、折り返しを含むドップラ範囲の曖昧性を低減できる。また、この折り返し判定処理により、ドップラ解析部210におけるドップラ範囲と比較して、曖昧性なくドップラ周波数を検出できる範囲を、-1/(2Tr)以上、かつ、1/(2Tr)未満の範囲に拡大できる。
【0148】
これは、未使用直交符号に基づいて符号分離することにより、例えば、真のドップラ成分については、当該ドップラ成分の位相変化が正しく補正され符号多重送信用の直交符号と未使用直交符号との間の直交性が維持される。よって、未使用直交符号と符号多重送信信号とは無相関となり、受信電力はノイズレベル程度となる。
【0149】
一方、例えば、偽のドップラ成分については、当該ドップラ成分の位相変化が誤って補正され符号多重送信用の直交符号と未使用直交符号との間の直交性は維持されない。よって、未使用直交符号と符号多重送信信号との相関成分(干渉成分)が発生し、例えば、ノイズレベルよりも大きい受信電力が検出され得る。
【0150】
よって、上述したように、折り返し判定部212は、未使用直交符号に基づいて符号分離されたドップラ成分のうち、受信電力が最小のドップラ成分を真のドップラ成分と判定し、最小の受信電力と異なる受信電力の他のドップラ成分を偽のドップラ成分であると判定できる。
【0151】
例えば、折り返し判定部212は、各アンテナ系統処理部201におけるドップラ解析部210の出力に基づいて、折り返しを含むドップラ成分の位相変化を補正し、未使用直交符号UnCode
nucを用いた符号分離後の受信電力DeMulUnCode
nuc(f
b_cfar,f
s_cfar,DR)を、次式(12)に従って算出する。
【数12】
【0152】
式(12)では、全てのアンテナ系統処理部201におけるドップラ解析部210の出力に対して、未使用直交符号UnCodenucを用いた符号分離後の受信電力の総和が算出される。これにより、受信信号レベルが低い場合でも、折り返し判定精度を向上できる。ただし、式(12)の代わりに、一部のアンテナ系統処理部201におけるドップラ解析部210の出力に対して、未使用直交符号を用いた符号分離後の受信電力が算出されてもよい。この場合でも、例えば、受信信号レベルが十分高い範囲では、折り返し判定の精度を保ちつつ、演算処理量を削減できる。
【0153】
なお、式(12)において、nuc=1,…,Nallcode-NCMである。また、DRはドップラ折り返し範囲を示すインデックスであり、例えば、DR=ceil[-Loc/2], ceil[-Loc/2]+1,…,0,…, ceil[Loc/2]-1の範囲の整数値をとる。
【0154】
また、式(12)において、
【数13】
は、要素数が等しいベクトル同士の要素毎の積を表す。例えば、n次ベクトルA=[a
1,..,a
n]及びB=[b
1,..,b
n]に対して、要素毎の積は以下の式(13)で表される。
【数14】
【0155】
また、式(12)において、
【数15】
は、ベクトル内積演算子を表す。また、式(12)において、上付き添え字Tはベクトル転置を表し、上付き添え字*(アスタリスク)は複素共役演算子を表す。
【0156】
式(12)において、α(fs_cfar)は「ドップラ位相補正ベクトル」を表す。ドップラ位相補正ベクトルα(fs_cfar)は、例えば、CFAR部211において抽出されたドップラ周波数インデックスfs_cfarが、ドップラ折り返しを含まないドップラ解析部210の出力範囲(換言すると、ドップラ範囲)とする場合に、Loc個のドップラ解析部210間におけるドップラ解析の時間差に起因するドップラ位相回転を補正する。
【0157】
例えば、ドップラ位相補正ベクトルα(f
s_cfar)は、次式(14)のように表される。式(14)に示すドップラ位相補正ベクトルα(f
s_cfar)は、例えば、第1番のドップラ解析部210の出力VFT
z
1(f
b_cfar, f
s_cfar)のドップラ解析時間を基準として、第2番のドップラ解析部210の出力VFT
z
2(f
b_cfar, f
s_cfar)から第Loc番のドップラ解析部VFT
z
Loc(f
b_cfar, f
s_cfar)のそれぞれにおけるTr,2Tr,…,(Loc-1)Trの時間遅れにより生じるドップラ周波数インデックスf
s_cfarのドップラ成分での位相回転を補正するドップラ位相補正係数を要素とするベクトルである。
【数16】
【0158】
また、式(12)において、β(DR)は「折り返し位相補正ベクトル」を表す。折り返し位相補正ベクトルβ(DR)は、例えば、Loc個のドップラ解析部210間におけるドップラ解析の時間差に起因するドップラ位相回転のうち、ドップラ折り返しが有る場合を考慮して、2πの整数倍のドップラ位相回転を補正する。
【0159】
例えば、折り返し位相補正ベクトルβ(DR)は、次式(15)のように表される。
【数17】
【0160】
例えば、Loc=4の場合、DR=-2,-1,0,1の整数値をとり、折り返し位相補正ベクトルβ(DR)は、式(16)、式(17)、式(18)及び式(19)のように表される。
【数18】
【数19】
【数20】
【数21】
【0161】
例えば、Loc=4の場合、
図3における(a)又は(b)においてドップラ解析部210の出力であるドップラ周波数インデックスf
s_cfarのドップラ成分が検出されるドップラ範囲(例えば、-1/8Tr~+1/8Tr)はDR=0に対応する。また、DR=0のドップラ周波数インデックスf
s_cfarに対する2πの整数倍のドップラ位相回転(例えば、β(1)、β(-1)及びβ(-2))により、DR=1に対応するドップラ範囲(例えば、1/8Tr~3/8Tr)のドップラ成分、DR=-1に対応するドップラ範囲(例えば、-3/8Tr~-1/8Tr)のドップラ成分、及び、DR=-2に対応するドップラ範囲(例えば、-1/2Tr~-3/8Tr及び3/8Tr~1/2Tr)のドップラ成分が算出される。
【0162】
また、式(12)において、VFTALL
z(f
b_cfar, f
s_cfar)は、例えば、次式(20)のように、第z番のアンテナ系統処理部201におけるLoc個のドップラ解析部210の出力VFT
z
noc(f
b, f
s)のうち、CFAR部211において抽出された距離インデックスf
b_cfar及びドップラ周波数インデックスf
s_cfarに対応する成分VFT
z
noc(f
b_cfar, f
s_cfar)(ただし、noc=1,…,Loc)をベクトル形式で表す。
【数22】
【0163】
例えば、折り返し判定部212は、式(12)に従って、折り返しを含むドップラ成分の位相変化を補正した未使用直交符号UnCodenucを用いた符号分離後の受信電力DeMulUnCodenuc(fb_cfar, fs_cfar, DR)を、DR=ceil[-Loc/2], ceil[-Loc/2]+1,…,0,…, ceil[Loc/2]-1の範囲においてそれぞれ算出する。
【0164】
そして、折り返し判定部212は、各DRの範囲のうち、受信電力DeMulUnCode
nuc(f
b_cfar, f
s_cfar, DR)が最小となるDRを検出する。以下では、次式(21)に示すように、各DRの範囲のうち、受信電力DeMulUnCode
nuc(f
b_cfar, f
s_cfar, DR)が最小となるDRを「DR
min」と表す。
【数23】
【0165】
以下、上述したような折り返し判定処理によって、ドップラ折り返し判定が可能な理由について説明する。
【0166】
式(20)に示すVFTALL
z(f
b_cfar, f
s_cfar)に含まれる第ncm番の送信アンテナ106(例えば、Tx#ncm)から送信されたレーダ送信信号成分は、例えば、ノイズ成分を無視すると次式(22)のように表される。
【数24】
【0167】
ここで、γz,ncmは、第ncm番の送信アンテナ106から送信されたレーダ送信信号がターゲットに反射した信号が第z番のアンテナ系統処理部201において受信された場合の複素反射係数を表す。また、DRtrueは、真のドップラ折り返し範囲を示すインデックスを表す。DRtrueは、ceil[-Loc/2], ceil[-Loc/2]+1,…,0,…, ceil[Loc/2]-1の範囲のインデックス値とする。以下、DRmin=DRtureとなるように判定できることを示す。
【0168】
第1番~第N
CM番の送信アンテナ106から送信されたレーダ送信信号成分に対して、未使用直交符号UnCode
nucを用いた符号分離後の受信電力の総和PowDeMul(nuc,DR,DR
true)は次式(23)で表される。
【数25】
【0169】
なお、式(23)に示すPowDeMul(nuc,DR,DR
true)は、式(12)における、
【数26】
の項の評価値に相当する。
【0170】
式(23)において、DR=DRtrueの場合、未使用直交符号UnCodenucと符号多重送信用の直交符号Codencmとの相関値はゼロ(例えば、UnCodenuc
*・{Codencm}T=0)となるため、PowDeMul(nuc,DR,DRtrue)=0となる。
【0171】
一方、式(23)において、DR≠DRtrueの場合、
【数27】
と符号多重送信用の直交符号Code
ncmとの相関値に依存したPowDeMul(nuc,DR,DR
true)が出力される。ここで、全てのUnCode
nucにおいてPowDeMul(nuc,DR,DR
true)がゼロにならない場合、例えば、次式(24)を満たせば、DR=DR
trueの場合、PowDeMul(nuc, DR
true,DR
true)の電力が最小となり、折り返し判定部212は、DR
true(=DR
min)を検出できる。換言すると、折り返し判定部212は、式(12)に従ってドップラ折り返し判定できる。
【数28】
【0172】
例えば、式(24)を満たすには、
【数29】
の項が他の未使用直交符号UnCode
nuc2に一致しなければよい。ここで、nuc2≠nucである。
【0173】
従って、未使用直交符号が1個の場合には式(24)を満たす。また、未使用直交符号が複数の場合には、例えば、符号生成部104は、
【数30】
の項が他の未使用直交符号に一致しないように、符号多重送信用の符号を選択してもよい。
【0174】
ここで、Walsh-Hadamard符号又は直交M系列符号といった符号を用いる場合、符号長Locの直交符号のうち、相互の符号間において奇数番目の符号要素が同一であり、偶数番目の符号要素が符号反転している符号の組が含まれる場合がある。
【0175】
一方で、β(0)=[1,1,…,1], β(-Loc/2)=[1, -1, 1,-1,….1,-1]となるため、
【数31】
の項は、UnCode
nucの奇数番目の符号要素が同一であり、偶数番目の符号要素が符号反転している符号に変換される。
【0176】
したがって、未使用直交符号の個数(Nallcode-NCM)が2個以上の場合には、例えば、符号生成部104は、符号長Locの直交符号のうち、相互の符号間において奇数番目及び偶数番目の一方の符号要素が同一であり、奇数番目及び偶数番目の他方の符号要素が符号反転している符号の組が未使用直交符号に含まれないように、符号多重送信用の符号又は未使用直交符号を選択してもよい。
【0177】
例えば、符号長Loc=4のWalsh-Hadamard符号には、WH
4(1)= [1,1, 1, 1]、及び、WH
4(2)= [1,-1, 1, -1]が含まれ、
【数32】
、又は、
【数33】
となる。このため、例えば、符号生成部104は、複数の未使用直交符号にWH
4(1)及びWH
4(2)の組を含めないように符号多重送信用の符号又は未使用直交符号を選択してもよい。また、WH
4(3)= [1,1, -1, -1]、及び、WH
4(4)= [1,-1, -1, 1]も同様な関係となるため、例えば、符号生成部104は、複数の未使用直交符号にWH
4(3)及びWH
4(4)の組を含めないように符号多重送信用の符号又は未使用直交符号を選択してもよい。
【0178】
なお、未使用直交符号UnCode
nucが複数ある場合、受信電力DeMulUnCode
nuc(f
b_cfar, f
s_cfar, DR)の代わりに、次式(25)のように、全ての未使用直交符号を用いた符号分離後の受信電力DeMulUnCodeAll(f
b_cfar, f
s_cfar, DR)を用いてもよい。
【数34】
【0179】
全ての未使用直交符号を用いた符号分離後の受信電力を求めることで、折り返し判定部212は、受信信号レベルが低い場合でも、折り返し判定の精度を向上できる。
【0180】
例えば、折り返し判定部212は、DR=ceil[-Loc/2], ceil[-Loc/2]+1,…,0,…, ceil[Loc/2]-1のそれぞれの範囲においてDeMulUnCodeAll(f
b_cfar, f
s_cfar, DR)を算出し、受信電力DeMulUnCodeAll(f
b_cfar, f
s_cfar, DR)が最小となるDR(換言すると、DR
min)を検出する。式(25)を用いる場合、以下では、次式(26)に示すように、DR範囲において最小となる受信電力を与えるDRを「DR
min」と表す。
【数35】
【0181】
また、折り返し判定部212は、例えば、未使用直交符号UnCode
nucを用いた符号分離後の最小受信電力DeMulUnCode
nuc(f
b_cfar, f
s_cfar, DR
min)と受信電力とを比較して、折り返し判定の確からしさを判定(換言すると、測定)する処理を行ってもよい。この場合、折り返し判定部212は、例えば、次式(27)及び式(28)に従って、折り返し判定の確からしさを判定してもよい。
【数36】
【数37】
【0182】
例えば、折り返し判定部212は、CFAR部211において抽出された距離インデックスfb_cfar及びドップラ周波数インデックスfs_cfarの受信電力値PowerFT(fb_cfar, fs_cfar)に所定値ThresholdDRを乗算した値よりも、未使用直交符号UnCodenucを用いた符号分離後の最小受信電力DeMulUnCodenuc(fb_cfar, fs_cfar, DRmin)が小さい場合(例えば、式(27))、折り返し判定が十分に確からしいと判定する。この場合、レーダ装置10は、例えば、以降の処理(例えば、符号分離処理)を行う。
【0183】
一方、例えば、折り返し判定部212は、受信電力値PowerFT(fb_cfar, fs_cfar)に、ThresholdDRを乗算した値よりも、未使用直交符号UnCodenucを用いた符号分離後の最小受信電力DeMulUnCodenuc(fb_cfar, fs_cfar, DRmin)が等しいか大きい場合(例えば、式(28))、折り返し判定の精度が十分ではない(例えば、ノイズ成分である)と判定する。この場合、レーダ装置10は、例えば、以降の処理(例えば、符号分離処理)を行わなくてもよい。
【0184】
このような処理により、折り返し判定部212における折り返し判定の判定誤りを低減でき、また、ノイズ成分を除去できる。なお、所定値ThresholdDRは、例えば、0から1未満の範囲に設定されてよい。一例として、ノイズ成分が含まれることを考慮すると、ThresholdDRは、0.1~0.5程度の範囲で設定されてもよい。
【0185】
なお、未使用直交符号UnCodenucが複数ある場合、折り返し判定部212は、受信電力DeMulUnCodenuc(fb_cfar, fs_cfar, DR)の代わりに、DeMulUnCodeAll(fb_cfar, fs_cfar, DR)を用いて受信電力との比較をして、折り返し判定の確からしさを判定(換言すると、測定)する処理を行ってもよい。この場合、折り返し判定部212は、例えば、式(27)及び式(28)におけるDeMulUnCodenuc(fb_cfar, fs_cfar, DR)の代わりにDeMulUnCodeAll(fb_cfar, fs_cfar, DR)を用いて、折り返し判定の確からしさを判定してもよい。全ての未使用直交符号を用いた符号分離後の受信電力を求めることで、折り返し判定部212は、受信信号レベルが低い場合でも、折り返し判定の確からしさの精度を向上できる。
【0186】
なお、未使用直交符号UnCode
nucを用いた符号分離後の受信電力DeMulUnCode
nuc(f
b_cfar, f
s_cfar, DR)の算出式は、例えば、式(12)の代わりに、次式(29)でもよい。
【数38】
【0187】
式(29)において、
【数39】
の項は、ドップラ成分のインデックス(ドップラ周波数インデックス)f
sに依らないため、例えば、予めテーブル化することで、折り返し判定部212における演算量を削減できる。
【0188】
以上、折り返し判定部212の動作例について説明した。
【0189】
次に、符号多重分離部213の動作例について説明する。
【0190】
符号多重分離部213は、折り返し判定部212における折り返し判定結果、及び、符号多重送信用の符号に基づいて、符号多重信号の分離処理を行う。
【0191】
例えば、符号多重分離部213は、次式(30)のように、折り返し判定部212における折り返し判定結果であるDR
minを用いた折り返し位相補正ベクトルβ(DR
min)に基づいて、CFAR部211において抽出された距離インデックスf
b_cfar及びドップラ周波数インデックスf
s_cfarに対応するドップラ解析部210の出力であるドップラ成分VFTALL
z(f
b_cfar, f
s_cfar)に対して符号分離処理を行う。折り返し判定部212にて、-1/(2Tr)以上、かつ、1/(2Tr)未満のドップラ範囲で、真のドップラ折り返し範囲であるインデックスを判定できることから(換言すると、DR
min=DR
trueとなるように判定できることから)、符号多重分離部213においては、-1/(2Tr)以上、かつ、1/(2Tr)未満のドップラ範囲で、符号多重に使用している直交符号間の相関値をゼロとすることができ、符号多重信号間の干渉を抑圧した分離処理が可能となる。
【数40】
【0192】
ここで、DeMulz
ncm(fb_cfar, fs_cfar)は、第z番のアンテナ系統処理部201におけるドップラ解析部210の距離インデックスfb_cfar及びドップラ周波数インデックスfs_cfarの出力に対する直交符号Codencmを用いて符号多重信号を符号分離した出力(例えば、符号分離結果)である。なお、z=1,…,Naであり、ncm=1,…,NCMである。
【0193】
なお、符号多重分離部213は、式(30)の代わりに、次式(31)を用いてもよい。
【数41】
【0194】
式(31)において、
【数42】
の項(ただし、式(31)では、DR=DR
min)はドップラ成分のインデックス(例えば、ドップラ周波数インデックス)f
sに依らないため、例えば、予めテーブル化することで、符号多重分離部213における演算量を削減できる。
【0195】
以上のような符号分離処理によって、レーダ装置10は、折り返し判定部212において、ドップラ解析部210の折り返しが発生しないドップラ範囲±1/(2Loc×Tr)のLoc倍のドップラ範囲±1/(2×Tr)までを想定した折り返し判定結果に基づいて、第ncm番の送信アンテナTx#ncmに対して付与される直交符号Codencmによって符号多重送信された信号を分離した信号を得ることができる。
【0196】
また、レーダ装置10は、例えば、符号分離処理時に、符号要素毎のドップラ解析部210の出力に対して、ドップラ折り返しを含めたドップラ位相補正(例えば、折り返し位相補正ベクトルβ(DRmin)に基づく処理)を行う。このため、符号多重信号間における相互干渉は、例えば、ノイズレベル程度にまで低減可能である。換言すると、レーダ装置10では、符号間干渉を低減でき、レーダ装置10における検出性能の劣化への影響を抑制できる。
【0197】
図4は、レーダ装置10の別の構成例を示す。
図1に示すレーダ装置10の構成において、式(12)、式(29)、式(30)及び式(31)に示すように、
【数43】
の項は、折り返し判定部212及び符号多重分離部213において共通的に用いられる。そこで、例えば、
図4に示すレーダ装置10aは、位相補正部215を備え、ドップラ成分VFTALL
z(f
b_cfar, f
s_cfar)に対してドップラ位相補正ベクトルα(f
s_cfar)を乗算した出力
【数44】
を、折り返し判定部212a及び符号多重分離部213aに出力してもよい。折り返し判定部212a及び符号多重分離部213aは、
【数45】
の項を演算しなくてよく、レーダ装置10aにおいて上記項の重複する演算処理を低減できる。
【0198】
以上、符号多重分離部213の動作例について説明した。
【0199】
図1において、方向推定部214は、符号多重分離部213から入力される距離インデックスf
b_cfar、ドップラ周波数インデックスf
s_cfarに対応するドップラ解析部210の出力に対する符号分離結果DeMul
z
ncm(f
b_cfar, f
s_cfar)に基づいて、ターゲットの方向推定処理を行う。
【0200】
例えば、方向推定部214は、式(32)に示す仮想受信アレー相関ベクトルh(fb_cfar, fs_cfar)を生成し、方向推定処理を行う。
【0201】
仮想受信アレー相関ベクトルh(f
b_cfar, f
s_cfar)は、送信アンテナ数Ntと受信アンテナ数Naとの積であるNt×Na個の要素を含む。仮想受信アレー相関ベクトルh(f
b_cfar, f
s_cfar)は、ターゲットからの反射波信号に対して各受信アンテナ202間の位相差に基づく方向推定を行う処理に用いる。ここで、z=1,…,Naである。
【数46】
【0202】
方向推定部214は、例えば、方向推定評価関数値PH(θ, fb_cfar, fs_cfar)における方位方向θを規定された角度範囲内で可変として空間プロファイルを算出する。方向推定部214は、算出した空間プロファイルの極大ピークを大きい順に所定数抽出し、極大ピークの方位方向を到来方向推定値(例えば、測位出力)として出力する。
【0203】
なお、方向推定評価関数値PH(θ, fb_cfar, fs_cfar)は、到来方向推定アルゴリズムによって各種の方法がある。例えば、非特許文献3に開示されているアレーアンテナを用いた推定方法を用いてもよい。
【0204】
例えば、Nt×Na個の仮想受信アレーが等間隔d
Hで直線状に配置される場合、ビームフォーマ法は次式(33)及び式(34)のように表すことができる。他にも、Capon, MUSICといった手法も同様に適用可能である。
【数47】
【数48】
【0205】
ここで、上付き添え字Hはエルミート転置演算子である。また、a(θu)は、方位方向θuの到来波に対する仮想受信アレーの方向ベクトルを示す。
【0206】
また、方位方向θuは到来方向推定を行う方位範囲内θmin~θmaxを方位間隔DStepで変化させたベクトルである。例えば、θuは以下のように設定される。
θu=θmin + uDStep、u=0,…, NU
NU=floor[(θmax-θmin)/DStep]
ここで、floor(x)は、実数xを超えない最大の整数値を返す関数である。
【0207】
また、式(33)において、Dcalは、送信アレーアンテナ間及び受信アレーアンテナ間の位相偏差及び振幅偏差を補正するアレー補正係数及びアンテナ間の素子間結合の影響を低減する係数を含む(Nt×Na)次の行列である。仮想受信アレーのアンテナ間の結合が無視できる場合、Dcalは、対角行列となり、対角成分に送信アレーアンテナ間及び受信アレーアンテナ間の位相偏差及び振幅偏差を補正するアレー補正係数が含まれる。
【0208】
方向推定部214は、例えば、方向推定結果を出力し、さらに、測位結果として、距離インデックスfb_cfarに基づく距離情報、ターゲットのドップラ周波数インデックスfb_cfar及び折り返し判定部212における判定結果DRminに基づくターゲットのドップラ速度情報を出力してもよい。
【0209】
方向推定部214は、例えば、ドップラ周波数インデックスf
s_cfarと折り返し判定部212での判定結果であるDR
minとに基づいて、式(35)に従って、ドップラ周波数インデックスf
es_cfarを算出してもよい。ドップラ周波数インデックスf
es_cfarは、例えば、ドップラ解析部210のFFTサイズをLoc×Ncodeに拡張した場合のドップラインデックスに相当する。以下、f
es_cfarを「拡張ドップラ周波数インデックス」と呼ぶ。
【数49】
【0210】
なお、ドップラ範囲±1/(2×Tr)までを想定しており、このドップラ範囲に対応する拡張ドップラ周波数インデックスfes_cfarの範囲は-Loc×Ncode/2≦fes_cfar<Loc×Ncode/2となることから、式(35)において、算出の結果、fes_cfar<-Loc×Ncode/2の場合、fes_cfar+Loc×Ncodeをfes_cfarとする。また、fes_cfar≧Loc×Ncode/2の場合、fes_cfar-Loc×Ncodeをfes_cfarとする。
【0211】
また、ドップラ周波数情報は相対速度成分に変換して出力されてもよい。ドップラ周波数インデックスf
es_cfarを相対速度成分v
d(f
es_cfar)に変換するには、次式(36)を用いて変換してもよい。ここで、λは送信無線部(図示せず)から出力されるRF信号のキャリア周波数の波長である。また、Δ
fは、ドップラ解析部210におけるFFT処理でのドップラ周波数間隔である。例えば、本実施の形態では、Δ
f=1/{Loc×N
code×T
r}である。
【数50】
【0212】
以上のように、本実施の形態では、レーダ装置10は、受信アンテナ202において、複数の直交符号系列のうち一部の符号系列に基づいて符号多重送信されたレーダ送信信号がターゲットに反射した反射波信号を受信し、折り返し判定部212において、複数の直交符号系列のうち、符号多重送信に用いた一部の直交符号系列と異なる他の直交符号系列に基づいて、反射波信号におけるドップラ周波数領域での折り返しの判定を行う。例えば、レーダ装置10は、符号多重送信を用いたMIMOレーダにおいて、符号多重送信数よりも多くの直交符号を生成可能な符号長の直交符号系列を用いて符号多重送信する。
【0213】
この構成により、レーダ装置10は、例えば、受信信号(例えば、符号多重信号の符号要素毎のドップラ解析部210の出力)に対して、符号多重送信に未使用の直交符号を用いて、ドップラ折り返しの判定を行うことができる。例えば、レーダ装置10は、ドップラ解析部210におけるドップラ解析範囲と比較して、直交符号系列の符号長倍のドップラ範囲において折り返しを判定できる。よって、本実施の形態によれば、レーダ装置10は、曖昧性なく検出可能なドップラ範囲を、1アンテナ送信時と同等のドップラ範囲に拡大できる。
【0214】
また、レーダ装置10は、例えば、ドップラ折り返しの判定結果に基づいて、符号分離の際に、折り返しを含めたドップラ位相補正を行うことにより、符号多重信号間の相互干渉をノイズレベル程度に抑えることができるので、レーダ検出性能の劣化を抑制して、MIMOレーダの符号多重送信が可能となる。
【0215】
よって、本実施の形態によれば、レーダ装置10は、例えば、ターゲット又はレーダ装置10の移動に伴うドップラ変動が含まれる場合でも、符号多重された信号間の相互干渉の発生を抑え、かつ、曖昧性なく検出可能なドップラ範囲を、1アンテナ送信時と同等のドップラ範囲とすることで、より広いドップラ周波数範囲において、ターゲットの検知精度を向上できる。
【0216】
(実施の形態2)
実施の形態1では、レーダ装置10において、レーダ送信信号として、チャープパルスを繰り返しNc回送信する際に、チャープ信号の中心周波数を一定にする場合(例えば、
図2を参照)について説明した。しかし、チャープ信号の中心周波数は、一定である場合に限定されない。
【0217】
本実施の形態では、チャープ信号の中心周波数が可変に設定される場合について説明する。
【0218】
[レーダ装置の構成]
図5は、本実施の形態に係るレーダ装置10bの構成例を示すブロック図である。なお、
図5において、実施の形態1(
図1)と同様の構成には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0219】
以下では、例えば、レーダ装置10bは、チャープ信号の中心周波数fcを送信周期Tr毎にΔf変化(例えば、Δf>0の場合には増加、Δf<の場合には減少)させたレーダ送信信号を送信する。
【0220】
レーダ送信部100bにおけるレーダ送信信号生成部101bは、変調信号発生部102と、VCO103bと、送信周波数制御部107とを備える。
【0221】
例えば、変調信号発生部102は、のこぎり歯形状のVCO制御用の変調信号を周期的に発生させる。ここで、送信周期をTrとする。
【0222】
送信周波数制御部107は、送信周期TrでVCO103bから出力される周波数変調信号(チャープ信号)の中心周波数fcを制御する。例えば、送信周波数制御部107は、周波数変調信号の中心周波数fcを送信周期Tr毎にΔf変化させてもよい。
【0223】
VCO103bは、送信周波数制御部107及び変調信号発生部102の出力に基づいて、周波数変調信号を位相回転部105及びレーダ受信部200(例えば、ミキサ部204)へ出力する。
【0224】
図6は、周波数変調された周波数変調信号(以下、チャープ信号)の一例を示す。
【0225】
図6では、例えば、VCO103bは、第1の送信周期Tr#1において、中心周波数fc(1)がf
0のチャープ信号を出力する。また、
図6に示すように、VCO103bは、第2の送信周期Tr#2において、中心周波数fc(2)がf
0+Δfのチャープ信号を出力する。同様に、
図6では、VCO103bは、第mの送信周期Tr#mにおいて、中心周波数fc(m)がf
0+(m-1)Δfのチャープ信号を出力する。このように、VCO103bは、送信周期Tr毎にチャープ信号の中心周波数をΔf変化させる。
【0226】
すなわち、
図6では、N
c番目の送信周期Tr#N
cにおけるチャープ信号の中心周波数fc(N
c)は、f
0+Δf×(N
c-1)となる。
【0227】
なお、各チャープ信号には、例えば、レンジゲートの時間幅T
Aにおける周波数変調帯域幅Bwが同一となるチャープ信号が用いられてよい。また、
図6に示す例では、Δf>0の場合(換言すると、中心周波数fcが増加する場合)について示すが、Δf<0の場合(換言すると、中心周波数fcが減少する場合)についても同様である。
【0228】
図5に示すレーダ送信部100bにおける他の動作は実施の形態1と同様でもよい。
【0229】
次に、レーダ装置10bのレーダ受信部200bにおける動作例について説明する。
【0230】
レーダ受信部200bにおいて、受信アンテナ202において受信した信号に対する各アンテナ系統処理部201の処理、後続するCFAR部211、折り返し判定部212、及び、符号多重分離部213における動作は実施の形態1の動作と同様である。また、レーダ受信部200bにおいて、方向推定部214bにおける符号多重分離部213の出力を用いた方向推定処理も実施の形態1の動作と同様である。
【0231】
レーダ受信部200bでは、例えば、方向推定部214bにおけるターゲットのドップラ速度情報に関する変換処理が実施の形態1と異なる。
【0232】
なお、距離情報R(fb)は、実施の形態1と同様であり、レーダ受信部200bは、例えば、式(8)に基づいて、ビート周波数インデックス(又は、距離インデックス)fbを用いて距離情報R(fb)を出力してもよい。
【0233】
方向推定部214bは、例えば、ドップラ周波数インデックスf
s_cfarと折り返し判定部212での判定結果であるDR
minとに基づいて、式(37)に従って、ドップラ周波数インデックスf
es_cfarを算出してもよい。ドップラ周波数インデックスf
es_cfarは、例えば、ドップラ解析部210のFFTサイズをLoc×Ncodeに拡張した場合のドップラインデックスに相当する。以下、f
es_cfarを「拡張ドップラ周波数インデックス」と呼ぶ。
【数51】
【0234】
なお、ドップラ範囲±1/(2×Tr)までを想定しており、このドップラ範囲に対応する拡張ドップラ周波数インデックスfes_cfarの範囲は-Loc×Ncode/2≦fes_cfar<Loc×Ncode/2となることから、式(37)において、算出の結果、fes_cfar < -Loc×Ncode/2の場合、fes_cfar+Loc×Ncodeをfes_cfarとする。また、fes_cfar≧Loc×Ncode/2の場合、fes_cfar-Loc×Ncodeをfes_cfarとする。
【0235】
また、方向推定部214bは、例えば、拡張ドップラ周波数インデックスfes_cfarと距離インデックスfb_cfarを用いて、以下のように検出したターゲットのドップラ速度情報vdを出力してもよい。
【0236】
例えば、チャープ信号の中心周波数fcを送信周期Tr毎にΔf変化させたレーダ送信信号を用いる場合、ターゲットの相対速度がゼロの場合でも、送信周期Tr毎にチャープ信号の中心周波数fcが変化している。このため、レーダ装置10bの受信信号には、送信周期Tr毎のチャープ信号における中心周波数の変化に伴う位相回転が含まれる。
【0237】
ターゲット距離R
targetに対する第m番の送信周期Trにおける中心周波数fcは、第1番の中心周波数を基準として(m-1)Δf変化しており、これに伴う位相回転量Δη(m, R
target)は、ターゲット距離R
targetからの反射波到来時間(2R
target/Co)を考慮すると式(38-1)で示される。なお、次式(38-1)は、第1の送信周期Trの位相を基準にした場合の相対的な位相回転量を表す。C
0は光速度を表す。このため、レーダ装置10bのLoc個の各ドップラ解析部210の出力には、送信周期Tr毎のチャープ信号における中心周波数の変化に伴う位相回転が含まれる。
【数52】
【0238】
よって、式(38-2)に示すように、方向推定部214bは、送信周期Tr毎のチャープ信号における中心周波数fcの変化量であるΔfを考慮した変換式に基づいて、ドップラ速度情報vd(fes_cfar, fb_cfar)を算出する。
【0239】
式(38-2)における第1項目は、式(36)に相当するもので、拡張ドップラ周波数インデックスf
es_cfarで示される相対ドップラ速度成分である。式(38-2)における第2項目は、チャープ信号の中心周波数fcを、送信周期Tr毎にΔf変化させることで生じるドップラ速度成分である。方向推定部214bは、例えば、式(38-2)に示すように第1項目から第2項目のドップラ成分を除くことで本来のターゲットの相対ドップラ速度v
d(f
es_cfar, f
b_cfar)を算出することができる。ここで、R(f
b_cfar)は式(8)より、ビート周波数インデックスf
b_cfarを用いた距離情報R(f
b_cfar)である。
【数53】
【0240】
なお、ターゲットのドップラ範囲は±1/(2×Tr)までを想定しているため、v
dが、v
d < - C
0/(4f
0Tr)となる場合、方向推定部214bは、次式(39)に従って、検出したターゲットのドップラ速度情報v
dを出力してもよい。
【数54】
【0241】
また、同様に、ターゲットのドップラ範囲は±1/(2×Tr)までを想定しているため、v
dが、v
d > C
0/(4f
0Tr)となる場合、方向推定部214bは、次式(40)に従って、検出したターゲットのドップラ速度情報v
dを出力してもよい。
【数55】
【0242】
以上のように、本実施の形態では、レーダ装置10bにおいて、チャープ信号の中心周波数fcは、レーダ送信信号の送信周期Trに基づいて変化する。例えば、レーダ装置10bは、レーダ送信信号として、チャープ信号の中心周波数fcを、送信周期Tr毎にΔf変化(例えば、Δf>0の場合には増加、Δf<の場合には減少)させて送信する。この場合でも、レーダ装置10b(例えば、MIMOレーダ)は、符号多重送信を適用できる。また、レーダ装置10bは、実施の形態1と同様、符号多重信号の符号要素毎のドップラ解析部210の出力(換言すると、受信信号)、及び、未使用直交符号を用いて、ドップラ折り返しを判定できる。
【0243】
また、レーダ装置10bは、実施の形態1と同様、符号分離の際に、折り返しを含めたドップラ位相補正を行うことにより、曖昧性なく検出可能なドップラ周波数範囲を±1/(Tr)とし、かつ、符号多重信号間の相互干渉をほぼノイズレベル程度に抑えることができる。よって、本実施の形態によれば、レーダ検出性能の劣化を抑制して、MIMOレーダの符号多重送信が可能となる。
【0244】
また、本実施の形態では、レーダ装置10bは、例えば、レーダ送信信号において、チャープ信号の中心周波数fcを送信周期Tr毎にΔf変化させて送信するので、チャープ信号の中心周波数変化幅によって、距離分解能を向上できる(例えば、非特許文献4を参照)。本実施の形態によれば、チャープ信号の中心周波数の変化幅によって距離分解能を向上できるため、チャープ信号の中心周波数を一定として送信する場合と比較して、チャープ掃引帯域(例えば、Bw)を低減できる。チャープ掃引帯域の低減により、例えば、距離分解能を向上しつつ、送信周期Trの短縮が可能であるので、符号多重送信において、曖昧性なく検出可能なドップラ範囲をさらに拡大できる。
【0245】
(実施の形態2のバリエーション1)
チャープ信号の中心周波数を変更する周期は、送信周期Trに限定されない。バリエーション1では、チャープ信号の中心周波数が、符号多重送信に用いる1つの直交符号の符号長Loc回の送信周期(Loc×Tr)毎(以下、「符号送信周期」と呼ぶ)に可変に設定される場合について説明する。
【0246】
[レーダ装置の構成]
図7は、バリエーション1に係るレーダ装置10cの構成例を示すブロック図である。なお、
図7において、実施の形態1(
図1)又は実施の形態2(
図5)と同様の構成には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0247】
バリエーション1では、例えば、レーダ装置10cは、チャープ信号の中心周波数fcを符号送信周期(Loc×Tr)毎にΔf変化(例えば、Δf>0の場合には増加、Δf<の場合には減少)させたレーダ送信信号を送信する。
【0248】
レーダ送信部100cにおけるレーダ送信信号生成部101cは、変調信号発生部102と、VCO103cと、送信周波数制御部107cとを備える。
【0249】
例えば、変調信号発生部102は、のこぎり歯形状のVCO制御用の変調信号を周期的に発生させる。ここで、送信周期をTrとする。
【0250】
送信周波数制御部107cは、符号生成部104cから出力される直交符号要素インデックスOC_INDEXに基づいて、符号送信周期(Loc×Tr)でVCO103cから出力される周波数変調信号(チャープ信号)の中心周波数fcを制御する。
【0251】
例えば、送信周波数制御部107cは、OC_INDEX=1となる送信周期Trにおいて、VCO103cから出力される周波数変調信号の中心周波数fcを送信周期Tr毎にΔf変化させてもよい。換言すると、送信周波数制御部107cは、OC_INDEX≠1となる送信周期Trにおいて、VCO103cから出力される周波数変調信号の中心周波数fcを、前回の送信周期Trにおける中心周波数fcと同一に制御する。この制御により、送信周波数制御部107cは、符号送信周期(Loc×Tr)毎に中心周波数fcがΔf変化するように制御できる。
【0252】
VCO103cは、送信周波数制御部107c及び変調信号発生部102の出力に基づいて、周波数変調信号を位相回転部105及びレーダ受信部200(例えば、ミキサ部204)へ出力する。
【0253】
図8は、周波数変調された周波数変調信号(以下、チャープ信号)の一例を示す。
【0254】
図8では、例えば、VCO103cは、第1の送信周期Tr#1(例えば、OC_INDEX=1)において、中心周波数fc(1)がf
0のチャープ信号を出力する。また、
図8に示すように、VCO103cは、第2の送信周期Tr#2(例えば、OC_INDEX=2)において、中心周波数fc(2)がf
0のチャープ信号を出力する。同様に、VCO103cは、第3の送信周期(例えば、OC_INDEX=3。図示せず)から第Locの送信周期Tr#Loc(例えば、OC_INDEX=Loc)それぞれにおいて、中心周波数fc(3)~fc(Loc)がf
0のチャープ信号を出力する。
【0255】
VCO103cは、第(Loc+1)の送信周期Tr#(Loc+1)において、中心周波数fc(Loc+1)がf0+Δfのチャープ信号を出力する。また、VCO103cは、第(Loc+2)の送信周期Tr#(Loc+2)から第(2Loc)の送信周期Tr#(2Loc)それぞれにおいて、中心周波数fc(Loc+2)~fc(2Loc)がf0+Δfのチャープ信号を出力する。
【0256】
同様に、VCO103cは、第mの送信周期Tr#mにおいて、中心周波数fc(m)がf0+floor[(m-1)/Loc]Δfのチャープ信号を出力する。
【0257】
すなわち、
図8では、N
c番目の送信周期Tr#N
cにおけるチャープ信号の中心周波数fc(N
c)は、f
0+(Ncode-1)Δfとなる。ここで、Ncode=N
c/Locである。
【0258】
なお、各チャープ信号には、例えば、レンジゲートの時間幅T
Aにおける周波数変調帯域幅Bwが同一となるチャープ信号が用いられてよい。また、
図8に示す例では、Δf>0の場合(換言すると、中心周波数fcが増加する場合)について示すが、Δf<0の場合(換言すると、中心周波数fcが減少する場合)についても同様である。
【0259】
図7に示すレーダ送信部100cにおける他の動作は実施の形態1と同様でもよい。
【0260】
次に、レーダ装置10cのレーダ受信部200cにおける動作例について説明する。
【0261】
レーダ受信部200cにおいて、受信アンテナ202において受信した信号に対する各アンテナ系統処理部201の処理、及び、後続するCFAR部211における動作は実施の形態1の動作と同様である。また、レーダ受信部200cにおいて、方向推定部214cにおける符号多重分離部213の出力を用いた方向推定処理も実施の形態1の動作と同様である。
【0262】
レーダ受信部200cでは、例えば、折り返し判定部212cの動作、符号多重分離部213cの動作及び、方向推定部214cにおけるターゲットのドップラ速度情報に関する変換処理が実施の形態1と異なる。
【0263】
以下、折り返し判定部212cにおいて実施の形態1と異なる動作例について説明する。
【0264】
例えば、チャープ信号の中心周波数fcを符号送信周期(Loc×Tr)毎にΔf変化させたレーダ送信信号を用いる場合、ターゲットの相対速度がゼロの場合でも、符号送信周期(Loc×Tr)毎にチャープ信号の中心周波数fcが変化している。このため、レーダ装置10cのLoc個の各ドップラ解析部210の出力には、符号送信周期(Loc×Tr)毎のチャープ信号における中心周波数の変化に伴う位相回転が含まれる。
【0265】
すなわち、ターゲット距離R
targetに対する第m番目の送信周期Trにおける中心周波数fcは、第1番の送信周期Trにおける中心周波数fcを基準として、floor[(m-1)/Loc]Δf変化する。このため、中心周波数の変化に伴う位相回転量Δη(m、R
target)は、ターゲット距離R
targetからの反射波到来時間(2R
target/Co)を考慮すると式(40-1)で示される。なお、式(40-1)は、第1番の送信周期Trの位相を基準にした場合の相対的な位相回転量を表す。C
0は光速度を表す。
【数56】
【0266】
チャープ信号の中心周波数fcをΔf変化させる符号送信周期(Loc×Tr)と、符号要素毎のドップラ解析部210への切り替え周期を一致させているため、Loc個の各ドップラ解析部210は、式(40-1)で示した位相回転を含めたドップラ解析を行うことになる。
【0267】
このため、折り返し判定部212cは、Loc個のドップラ解析部210間でのドップラ解析の時間差に起因するドップラ位相回転を補正する際に、式(12)のドップラ位相補正ベクトルα(f
s_cfar)に加えて、式(40-2)に示す中心周波数変化補正ベクトルξ(f
b_cfar)を用いて、位相を補正する点が異なる。すなわち、折り返し判定部212cは、α(f
s_cfar)の代わりに、
【数57】
を用いる。なお、R(f
b_cfar)は式(8)より、ビート周波数インデックスf
b_cfarを用いた距離情報R(f
b_cfar)である。
【数58】
【0268】
式(40-2)において、R(fb_cfar)からの反射波到来時間(2R(fb_cfar)/Co)でのΔf変化により位相回転量は、符号送信周期(Loc×Tr)内で、2πΔf×(2R(fb_cfar)/Co)となることから、各Loc個のドップラ解析部210間でのドップラ解析の時間差に起因する位相回転は、それぞれ第1のドップラ解析部210を基準として、第nocのドップラ解析部210は、(noc-1)/Loc倍となることから導出している。なお、noc=1,…,Locである。
【0269】
チャープ信号の中心周波数fcをΔf変化させる周期を、符号送信周期(Loc×Tr)とすることで、符号要素毎のドップラ解析部210への切り替え周期とが一致するため、折り返し判定部212cは、未使用符号を用いた符号多重信号の分離処理における位相補正(ドップラ位相補正ベクトルα(fs_cfar)に加えて、式(40-2)の中心周波数変化補正ベクトルを用いる)を容易に行うことができる。
【0270】
以上のような理由により、折り返し判定部212cは、未使用直交符号UnCode
nucを用いた符号分離後の受信電力DeMulUnCode
nuc(f
b_cfar, f
s_cfar、DR)を、式(12)の代わりに、式(41)のように算出してもよい。式(41)は、式(12)のα(f
s_cfar)の代わりに、
【数59】
を用いている点が異なる。ここで、nuc=1,…,N
allcode-N
CMである。また、DRはドップラ折り返し範囲を示すインデックスであり、DR=ceil[-Loc/2], ceil[-Loc/2]+1,…,0,…, ceil[Loc/2]-1の範囲の整数値をとる。
【数60】
【0271】
また、折り返し判定部212cは、式(29)の代わりに、式(42)を用いてもよい。
【数61】
【0272】
次に、符号多重分離部213cにおいて実施の形態1と異なる動作例について説明する。符号多重分離部213cにおいても、上記の折り返し判定部212cの動作例の説明と同様な理由から、式(30)の代わりに、式(43)を用いて、折り返し判定部212cでの折り返し判定結果であるDR
minを用いて、CFAR部211において抽出された距離インデックスf
b_cfar及びドップラ周波数インデックスf
s_cfarに対応するドップラ解析部210の出力であるドップラ成分VFTALL
z(f
b_cfar, f
s_cfar)に対して符号分離処理を行う。(式(43)は、式(30)のα(f
s_cfar)の代わりに
【数62】
を用いている点が異なる。
【数63】
【0273】
また、符号多重分離部213cは、式(31)の代わりに、式(44)を用いて、折り返し判定部212cでの折り返し判定結果DR
minを用いて、CFAR部211において抽出された距離インデックスf
b_cfar及びドップラ周波数インデックスf
s_cfarに対応するドップラ解析部210の出力であるドップラ成分VFTALL
z(f
b_cfar, f
s_cfar)に対して符号多重信号の分離処理を行うことでもよい。式(44)において、
【数64】
の項はドップラ成分のインデックスf
sに依存しないため、予めテーブル化しておくことで、演算量の削減が可能である。
【数65】
【0274】
このように、チャープ信号の中心周波数fcをΔf変化させる周期を符号送信周期(Loc×Tr)と一致させることで、符号要素毎のドップラ解析部210への切り替え周期を一致させることができ、符号多重分離処理における位相補正を容易に行うことができる。
【0275】
次に、方向推定部214cにおいて実施の形態1と異なる動作例について説明する。
【0276】
方向推定部214cは、例えば、ドップラ周波数インデックスf
s_cfarと折り返し判定部212cでの判定結果であるDR
minとに基づいて、次式(45)に従って、ドップラ周波数インデックスf
es_cfarを算出してもよい。ドップラ周波数インデックスf
es_cfarは、例えば、ドップラ解析部210のFFTサイズをLoc×Ncodeに拡張した場合のドップラインデックスに相当する。以下、f
es_cfarを「拡張ドップラ周波数インデックス」と呼ぶ。
【数66】
【0277】
なお、ドップラ範囲±1/(2×Tr)までを想定しており、このドップラ範囲に対応する拡張ドップラ周波数インデックスfes_cfarの範囲は-Loc×Ncode/2≦fes_cfar<Loc×Ncode/2となることから、式(45)において、算出の結果、fes_cfar < -Loc×Ncode/2の場合、fes_cfar+Loc×Ncodeをfes_cfarとする。また、fes_cfar≧Loc×Ncode/2の場合、fes_cfar-Loc×Ncodeをfes_cfarとする。
【0278】
符号送信周期(Loc×Tr)毎にチャープ信号の中心周波数fcをΔf変化させたレーダ送信信号は、ターゲットの相対速度がゼロとなっている場合でも、符号送信周期(Loc×Tr)毎にチャープ信号の中心周波数fcが変化しているため符号送信周期(Loc×Tr)毎にチャープ信号の中心周波数の変化に伴う位相回転を含む。
【0279】
ターゲット距離R
targetに対する第m番目の送信周期Trにおける中心周波数fcは、floor[(m-1)/Loc]Δf変化する。このため、中心周波数fcの変化に伴う位相回転量Δη(m、R
target)は、ターゲット距離R
targetからの反射波到来時間(2R
target/Co)を考慮すると、式(46)で示される。なお、式(46)は、第1の送信周期Trの位相を基準にした場合の相対的な位相回転量を表す。C
0は光速度を表す。
【数67】
【0280】
このため、方向推定部214cは、例えば、拡張ドップラ周波数インデックスfes_cfarと距離インデックスfb_cfarを用いて、式(47)に従って、検出したターゲットのドップラ速度情報vd(fes_cfar, fb_cfar)を出力してもよい。式(47)における第1項目は、式(36)に相当するもので、ドップラ周波数インデックスfes_cfarで示される相対ドップラ速度成分である。また、式(47)における第2項目は、チャープ信号の中心周波数fcを、符号送信周期(Loc×Tr)毎にΔf変化させることで生じるドップラ速度成分である。
【0281】
方向推定部214cは、式(47)における第1項目から第2項目のドップラ成分を除くことで本来のターゲットの相対ドップラ速度v
d(f
es_cfar, f
b_cfar)を算出することができる。ここで、R(f
b_cfar)は式(8)より、ビート周波数インデックスf
b_cfarを用いた距離情報R(f
b_cfar)である。
【数68】
【0282】
式(47)に示すように、方向推定部214cは、符号送信周期(Loc×Tr)毎のチャープ信号における中心周波数fcの変化量であるΔfを考慮した変換式に基づいて、ドップラ速度情報vdを算出する。
【0283】
なお、ターゲットのドップラ範囲は±1/(2×Tr)までを想定しているため、v
dが、v
d < - C
0/(4f
0Tr)となる場合、方向推定部214cは、次式(48)に従って、検出したターゲットのドップラ速度情報v
dを出力してもよい。
【数69】
【0284】
また、同様に、ターゲットのドップラ範囲は±1/(2×Tr)までを想定しているため、v
dが、v
d > C
0/(4f
0Tr)となる場合、方向推定部214cは、次式(49)に従って、検出したターゲットのドップラ速度情報v
dを出力してもよい。
【数70】
【0285】
以上のように、バリエーション1では、レーダ装置10cにおいて、チャープ信号の中心周波数fcは、1つの直交符号系列の送信周期(Loc×Tr)に基づいて変化する。例えば、レーダ装置10cは、レーダ送信信号として、チャープ信号の中心周波数fcを、符号送信周期(Loc×Tr)毎にΔf変化(例えば、Δf>0の場合には増加、Δf<の場合には減少)させて送信する。この場合でも、レーダ装置10c(例えば、MIMOレーダ)は、符号多重送信を適用できる。また、レーダ装置10cは、実施の形態1と同様、符号多重信号の符号要素毎のドップラ解析部210の出力(換言すると、受信信号)、及び、未使用直交符号を用いて、ドップラ折り返しを判定できる。
【0286】
また、バリエーション1によれば、レーダ装置10cは、実施の形態1と同様、符号分離の際に、折り返しを含めたドップラ位相補正を行うことにより、曖昧性なく検出可能なドップラ周波数範囲を±1/(Tr)とし、かつ、符号多重信号間の相互干渉をほぼノイズレベル程度に抑えることができる。よって、バリエーション1によれば、レーダ検出性能の劣化を抑制して、MIMOレーダの符号多重送信が可能となる。
【0287】
また、バリエーション1によれば、チャープ信号の中心周波数fcをΔf変化させる周期を複数の送信周期Trにする場合、符号送信周期(Loc×Tr)を一致させることで、符号要素毎のドップラ解析部210への切り替え周期とも一致することになり、折り返し判定部212cでの未使用符号を用いた符号多重信号の分離処理、及び符号多重分離部213cでの符号多重分離処理における位相補正を容易に行うことができる。
【0288】
また、バリエーション1では、レーダ装置10cは、例えば、レーダ送信信号において、チャープ信号の中心周波数fcを符号送信周期(Loc×Tr)毎にΔf変化させて送信するので、チャープ信号の中心周波数変化幅は、Δf×Ncodeとなり、距離分解能は、0.5C0/(Δf×Ncode)となる。
【0289】
これにより、Δf×Ncodeを大きくすることで、バリエーション1によれば、チャープ信号の中心周波数の変化幅によって距離分解能を向上できるため、チャープ信号の中心周波数を一定として送信する場合と比較して、チャープ掃引帯域(例えば、Bw)を低減できる。チャープ掃引帯域の低減により、例えば、距離分解能を向上しつつ、送信周期Trの短縮が可能であるので、符号多重送信において、曖昧性なく検出可能なドップラ範囲をさらに拡大できる。
【0290】
なお、実施の形態2のバリエーション1では、符号送信周期(Loc×Tr)毎にチャープ信号の中心周波数fcをΔf変化させたレーダ送信信号を用いる場合を説明したが、(Locの約数×Tr)毎にチャープ信号の中心周波数fcをΔf変化させたレーダ送信信号を用いてもよい。なお、Locの約数のうち、1を用いる場合は実施の形態2と同様に、Tr毎に中心周波数fcをΔf変化させることになる。
【0291】
Locの約数εとなる送信周期毎、すなわちε回の送信周期(ε×Tr)毎にチャープ信号の中心周波数fcをΔf変化させたレーダ送信信号を用いる場合、符号送信周期(Loc×Tr)毎にはΔf×Loc/ε分のチャープ信号の中心周波数fcが変化することになる。このため、式(47),(48),(49)におけるΔfを、Δf×Loc/εと置き換える。また、中心周波数変化補正ベクトルξ(f
b_cfar)は式(50)を用いる。以上により上述したバリエーション1と同様な効果が得られる。ここで、εはLocの約数である。
【数71】
【0292】
なお、実施の形態2のバリエーション1は、実施の形態1と組み合わせ実施することも可能であるが、実施の形態1で説明したような符号多重方法を適用しなくてもよい。
【0293】
例えば、符号生成部104cは、符号長Locの符号系列に含まれるNallcode個の直交符号のうち、符号多重数NCMを直交符号数Nallcodeに等しくする。位相回転部105は、符号長Locの符号系列に含まれるNallcode個のすべての直交符号を用いて符号多重し、かつ、符号送信周期(Loc×Tr)毎にチャープ信号の中心周波数fcをΔf変化させたレーダ送信信号を出力する。
【0294】
これによって、レーダ装置10cは、Δf×Ncodeを大きくすることで、チャープ信号の中心周波数の変化幅によって距離分解能を向上できるため、チャープ信号の中心周波数を一定として送信する場合と比較して、チャープ掃引帯域(例えば、Bw)を低減できる。このため、レーダ装置10cは、チャープ掃引帯域の低減により、例えば、距離分解能を向上し、送信周期Trの短縮が可能である。
【0295】
なお、実施の形態2のバリエーション1のレーダ装置cは、実施の形態1と組み合わせない場合、レーダ装置10の折り返し判定部212を適用しない構成となるため、ドップラ周波数範囲は±1/(2Loc×Tr)となるが、Δf×Ncodeを大きくすることで、チャープ掃引帯域が、1/Loc以下に低減するため、距離分解能を向上し、送信周期をTr/Loc以下に短縮が可能である。
【0296】
このため、実施の形態2のバリエーション1のレーダ装置10cは、符号送信周期(Loc×Tr)毎にチャープ信号の中心周波数fcをΔf変化させたレーダ送信信号を用いることによって、従来の符号多重送信であっても、曖昧性なく検出可能なドップラ範囲を拡大できる効果が得られる。
【0297】
(実施の形態2のバリエーション2)
周波数変調信号(チャープ信号)の中心周波数fcの制御方法は、実施の形態2(
図6)及びバリエーション1(
図8)に係る方法に限定されない。バリエーション2では、周波数変調信号(チャープ信号)の中心周波数fcの他の制御方法について説明する。
【0298】
[レーダ装置の構成]
図9は、バリエーション2に係るレーダ装置10dの構成例を示すブロック図である。なお、
図9において、実施の形態1(
図1)又は実施の形態2(
図5)と同様の構成には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0299】
バリエーション2では、例えば、レーダ装置10dは、チャープ信号の中心周波数fcを符号送信周期(Loc×Tr)内で、複数の送信周期にわたり周期的に可変する。この場合、レーダ装置10dは、チャープ信号の中心周波数fcの変化が一巡するタイミングを符号送信周期(Loc×Tr)に一致させることで、折り返し判定部212dにおける折り返し判定処理又は符号多重分離部213dの符号多重分離処理を可能とする(詳細は後述する)。
【0300】
レーダ送信部100dにおけるレーダ送信信号生成部101dは、変調信号発生部102と、VCO103dと、送信周波数制御部107dとを備える。
【0301】
例えば、変調信号発生部102は、のこぎり歯形状のVCO制御用の変調信号を周期的に発生させる。ここで、送信周期をTrとする。
【0302】
送信周波数制御部107dは、符号生成部104dから出力される直交符号要素インデックスOC_INDEXに基づいて、送信周期TrでVCO103dから出力される周波数変調信号(チャープ信号)の中心周波数fcを制御する。
【0303】
例えば、送信周波数制御部107dは、OC_INDEX=1となる送信周期Trにおいて、VCO103dから出力される周波数変調信号の中心周波数fcをf0に設定する。また、送信周波数制御部107dは、OC_INDEX=2となる送信周期Trにおいて、VCO103dから出力される周波数変調信号の中心周波数fcをf0+Δfに設定する。同様にして、送信周波数制御部107dは、OC_INDEX=3~Locの各々となる送信周期Trにおいて、VCO103dから出力される周波数変調信号の中心周波数fcを、(f0+2Δf)~(f0+(Loc-1)Δf)にそれぞれ設定する。
【0304】
この制御により、送信周波数制御部107dは、例えば、各符号送信周期(Loc×Tr)にわたりチャープ信号の中心周波数fcが周期的に変化するように制御できる。
【0305】
VCO103dは、送信周波数制御部107d及び変調信号発生部102の出力に基づいて、周波数変調信号を位相回転部105及びレーダ受信部200(例えば、ミキサ部204)へ出力する。
【0306】
図10は、周波数変調された周波数変調信号(以下、チャープ信号)の一例を示す。
【0307】
図10では、例えば、VCO103dは、第1の送信周期Tr#1において、中心周波数fc(1)がf
0のチャープ信号を出力する。また、例えば、VCO103dは、第2の送信周期Tr#2において、中心周波数fc(2)がf
0+Δfのチャープ信号を出力する。同様に、VCO103dは、第3の送信周期Tr#3から第Locの送信周期Tr#Locそれぞれにおいて、中心周波数fc(3)~fc(Loc)が(f
0+2Δf)~(f
0+(Loc-1)Δf)のチャープ信号を出力する。
【0308】
また、VCO103dは、第(Loc+1)の送信周期Tr#(Loc+1)において、中心周波数fc(Loc+1)がf0のチャープ信号を出力する。同様に、VCO103dは、第(Loc+2)の送信周期Tr#(Loc+2)から第(2Loc)の送信周期Tr#(2Loc)それぞれにおいて、中心周波数fc(Loc+2)~fc(2Loc)が(f0+Δf)~(f0+(Loc-1)Δf)のチャープ信号を出力する。
【0309】
同様に、VCO103dは、第mの送信周期Tr#mにおいて、チャープ信号の中心周波数fc(m)がf0+mod(m-1, Loc)Δfのチャープ信号を出力する。
【0310】
すなわち、
図10では、N
c番目の送信周期Tr#N
cにおけるチャープ信号の中心周波数fc(N
c)は、f
0+(Loc-1)Δfとなる。
【0311】
このように、
図10では、チャープ信号の中心周波数fcの変化は、複数の符号系列(例えば、直交符号)の符号長の約数倍のレーダ送信信号の送信周期で一巡する。
【0312】
なお、各チャープ信号には、例えば、レンジゲートの時間幅T
Aにおける周波数変調帯域幅Bwが同一となるチャープ信号が用いられてよい。また、
図10に示す例では、Δf>0の場合(換言すると、中心周波数fcが増加する場合)について示すが、Δf<0の場合(換言すると、中心周波数fcが減少する場合)についても同様である。
【0313】
図9に示すレーダ送信部100dにおける他の動作は実施の形態1と同様でもよい。
【0314】
次に、レーダ装置10dのレーダ受信部200dにおける動作例について説明する。
【0315】
レーダ受信部200dにおいて、受信アンテナ202において受信した信号に対する各アンテナ系統処理部201の処理、及び、後続するCFAR部211における動作は実施の形態1の動作と同様である。また、レーダ受信部200dにおいて、方向推定部214dにおける符号多重分離部213dの出力を用いた方向推定処理も実施の形態1の動作と同様である。
【0316】
レーダ受信部200dでは、例えば、折り返し判定部212dの動作、及び符号多重分離部213dの動作が実施の形態1と異なる。
【0317】
以下、折り返し判定部212dにおいて実施の形態1と異なる動作例について説明する。
【0318】
例えば、チャープ信号の中心周波数fcを、各符号送信周期(Loc×Tr)において送信周期Tr毎にf0、f0+Δf、…、f0+(Loc-1)Δfと変化させたレーダ送信信号を用いる場合、第1,2, …, Loc番目のドップラ解析部210には、中心周波数fcがそれぞれf0、f0+Δf、…, f0+(Loc-1)Δfのチャープ信号を送信した際のレーダ反射波が受信信号として入力される。
【0319】
このため、Loc個のドップラ解析部210のそれぞれは、入力されるレーダ反射波の中心周波数が同一である。
【0320】
一方、Loc個のドップラ解析部210間ではチャープ信号の中心周波数が異なるため、レーダ受信部200dは、Loc個のドップラ解析部210間でのドップラ解析の時間差に起因する位相回転を補正するのに、実施の形態1での折り返し判定部212に用いるドップラ位相補正ベクトルα(f
s_cfar)に加えて、式(51)に示す中心周波数変化補正ベクトルζ(f
b_cfar)を用いて、位相を補正する。すなわち、式(51)は、α(f
s_cfar)の代わりに、
【数72】
を用いる。
【数73】
【0321】
ここで、R(fb_cfar)は式(8)より、ビート周波数インデックスfb_cfarを用いた距離推定値R(fb_cfar)である。式(51)は、以下のことから導出される。第1番のドップラ解析部210での送信チャープ信号の中心周波数を基準とする場合、第2番から第Loc番目のドップラ解析部210での送信チャープ信号の中心周波数は、それぞれΔf、…, (Loc-1)Δf異なる。これにより、R(fb_cfar)からの反射波到来時間(2R(fb_cfar)/Co)内の位相回転量はそれぞれ異なる。
【0322】
すなわち、第1番のドップラ解析部210の出力を位相基準としたときの第noc番のドップラ解析部210における位相回転量は、2π(noc-1)Δf×(2R(fb_cfar)/Co)となる。このような位相回転を打ち消すように式(51)に示す中心周波数変化補正ベクトルζ(fb_cfar)を導出している。ここで、noc=1,…,Locである。
【0323】
このように、チャープ信号の中心周波数fcを符号送信周期(Loc×Tr)内で、複数のチャープ送信周期にわたり周期的に可変する場合、符号要素毎のドップラ解析部210への切り替え周期とチャープ信号の中心周波数fcの変化が一巡するタイミングとが一致するため、折り返し判定部212dは、未使用符号を用いた符号多重信号の分離処理における位相補正を容易に行うことができる。
【0324】
以上説明したように折り返し判定部212dは、未使用直交符号UnCode
nucを用いた符号分離後の受信電力DeMulUnCode
nuc(f
b_cfar, f
s_cfar、DR)を、式(12)の代わりに、式(52)のように算出してもよい。式(52)は、式(12)のα(f
s_cfar)の代わりに、
【数74】
を用いている。ここで、nuc=1,…,N
allcode-N
CMである。また、DRはドップラ折り返し範囲を示すインデックスであり、DR=ceil[-Loc/2], ceil[-Loc/2]+1,…,0,…, ceil[Loc/2]-1の範囲の整数値をとる。
【数75】
また、式(29)の代わりに、式(53)を用いてもよい。
【数76】
【0325】
次に、実施の形態2のバリエーション2における符号多重分離部213dの動作例について説明する。符号多重分離部213dは、上記の実施の形態2のバリエーション2における折り返し判定部212dの動作例の説明と同様な理由から、式(30)の代わりに、式(54)を用いて、折り返し判定部212dにおける折り返し判定結果であるDR
minを用いて、CFAR部211において抽出された距離インデックスf
b_cfar及びドップラ周波数インデックスf
s_cfarに対応するドップラ解析部210の出力であるドップラ成分VFTALL
z(f
b_cfar, f
s_cfar)に対して符号分離処理を行う。式(54)は、式(30)のα(f
s_cfar)の代わりに、
【数77】
を用いた一例である。
【数78】
【0326】
また、符号多重分離部213dは、式(31)の代わりに、式(55)を用いて、折り返し判定部212dにおける折り返し判定結果DR
minを用いて、CFAR部211において抽出された距離インデックスf
b_cfar及びドップラ周波数インデックスf
s_cfarに対応するドップラ解析部210の出力であるドップラ成分VFTALL
z(f
b_cfar, f
s_cfar)に対して符号多重信号の分離処理を行ってもよい。なお、式(55)において、
【数79】
の項はドップラ成分のインデックスf
sに依存しないため、予めテーブル化しておくことで、符号多重分離部213dにおける演算量の削減が可能である。
【数80】
【0327】
このように、符号多重分離部213dは、チャープ信号の中心周波数fcを符号送信周期(Loc×Tr)内で複数のチャープ送信周期にわたり周期的に変化させることで、符号要素毎のドップラ解析部210への切り替え周期とチャープ信号の中心周波数fcの変化が一巡するタイミングと一致し、符号多重信号の分離処理における位相補正を容易に行うことができる。
【0328】
次に、実施の形態2のバリエーション2における方向推定部214dの動作例について説明する。
【0329】
例えば、方向推定部214dは、ドップラ周波数インデックスf
s_cfarと折り返し判定部212dでの判定結果であるDR
minとに基づいて、式(56)に従って、ドップラ周波数インデックスf
es_cfarを算出してもよい。
【数81】
【0330】
なお、ドップラ周波数インデックスfes_cfarは、例えば、ドップラ解析部210のFFTサイズをLoc×Ncodeに拡張した場合のドップラインデックスに相当する。以下、fes_cfarを「拡張ドップラ周波数インデックス」と呼ぶ。なお、ドップラ範囲±1/(2×Tr)までを想定しており、このドップラ範囲に対応する拡張ドップラ周波数インデックスfes_cfarの範囲は-Loc×Ncode/2≦fes_cfar<Loc×Ncode/2となることから、式(56)において、算出の結果、fes_cfar < -Loc×Ncode/2の場合、fes_cfar+Loc×Ncodeをfes_cfarとする。また、fes_cfar≧Loc×Ncode/2の場合、fes_cfar-Loc×Ncodeをfes_cfarとする。
【0331】
なお、方向推定部214dは、例えば、拡張ドップラ周波数インデックスf
es_cfarを用いて式(57)を用いて検出したターゲットのドップラ速度情報を出力してもよい。
【数82】
【0332】
以上のように、バリエーション2では、レーダ装置10dにおいて、チャープ信号の中心周波数fcを複数の送信周期にわたり周期的に可変する。この場合、チャープ信号の中心周波数fcの変化が一巡するタイミングを、符号送信周期(Loc×Tr)に一致させる。なお、レーダ装置10d(例えば、MIMOレーダ)は、符号多重送信を適用してもよい。また、レーダ装置10dは、実施の形態1と同様、符号多重信号の符号要素毎のドップラ解析部210の出力(換言すると、受信信号)、及び、未使用直交符号を用いて、ドップラ折り返しを判定できる。
【0333】
また、バリエーション2によれば、レーダ装置10dは、実施の形態1と同様、符号分離の際に、折り返しを含めたドップラ位相補正を行うことにより、曖昧性なく検出可能なドップラ周波数範囲を±1/(Tr)とし、かつ、符号多重信号間の相互干渉をほぼノイズレベル程度に抑えることができる。よって、バリエーション2によれば、レーダ検出性能の劣化を抑制して、MIMOレーダの符号多重送信が可能となる。
【0334】
また、バリエーション2によれば、チャープ信号の中心周波数fcの変化が一巡するタイミングを、符号送信周期(Loc×Tr)とすることで、符号要素毎のドップラ解析部210への切り替え周期(すなわち符号多重に用いる符号の送信周期)と一致することになり、折り返し判定部212dでの未使用符号を用いた符号多重信号の分離処理、及び符号多重分離部213dでの符号多重分離処理における位相補正を容易に行うことができる。
【0335】
なお、バリエーション2によれば、チャープ信号の中心周波数fcの変化が一巡するタイミングを、符号送信周期(Loc×Tr)としたが、(Locの約数×Tr)としてもよい。チャープ信号の中心周波数fcの変化が一巡するタイミングを、(Locの約数ε×Tr)となる周期、すなわち、ε回の送信周期(ε×Tr)とする場合は、中心周波数変化補正ベクトルζ(f
b_cfar)として式(58)を用いてもよい。以上により上述したバリエーション1と同様な効果が得られる。ただし、εはLocの約数で、かつε>1である。
【数83】
【0336】
なお、バリエーション2によれば、チャープ信号の中心周波数fcを、符号送信周期(Loc×Tr)において、送信周期Tr毎にf0、f0+Δf、…、f0+(Loc-1)Δfとして、Δfの整数倍で変化させたレーダ送信信号を用いたが、これに限定されず、任意で周波数で可変してもよい。
【0337】
例えば、チャープ信号の中心周波数fcを、符号送信周期(Loc×Tr)の送信周期Tr毎にf
0、f
0+Δf
1、f
0+Δf
2、…、f
0+Δf
Loc-1と変化させたレーダ送信信号を用いてもよい。ここで、Δf
1、Δf
2、…、Δf
Loc-1は、符号送信周期(Loc×Tr)のそれぞれ送信周期Trのチャープ信号の中心周波数fcの周波数可変値である。この場合、中心周波数変化補正ベクトルζ(f
b_cfar)として式(59)を用いる。以上により上述したバリエーション1と同様な効果が得られる。
【数84】
【0338】
以上、本開示に係る一実施例について説明した。
【0339】
(他のバリエーション1)
上述したレーダ装置の送信アンテナは、サブアレー構成でもよい。例えば、レーダ装置は、サブアレービームフォーミング(サブアレーBF)と符号多重送信とを併用したドップラ多重送信を行ってもよい。
【0340】
送信アンテナのうちのいくつかを組み合わせてサブアレーとして用いることにより、送信指向性ビームパターンのビーム幅を狭めて、送信指向性利得を向上できる。これにより、検知可能な角度範囲は狭まるが、検知可能な距離範囲を増加できる。また、指向性ビームを生成するビームウェイト係数を可変にすることにより、ビーム方向を可変制御できる。
【0341】
図11は、本バリエーションに係るレーダ送信部100eの構成例を示すブロック図である。なお、
図11において、
図1に示すレーダ送信部100と同様の動作を行う構成には同一の符号を付し、その説明を省略する。また、本バリエーションに係るレーダ受信部は、例えば、
図1に示すレーダ受信部200と基本構成が共通するので、
図1を援用して説明する。
【0342】
図11に示すレーダ送信部100eは、位相回転部105の出力側に、送信位相制御可能な複数の送信アンテナ106eを備える。
【0343】
例えば、Nt個の位相回転部105それぞれの出力に対して、N
SA個の送信アンテナ106eを用いたサブアレーSA#1~SA#N
SA(例えば、Nt組のサブアレー)が構成される。なお、送信アンテナ106eのサブアレー構成は、
図11に示す例に限定されない。例えば、各位相回転部105の出力に対するサブアレーに含まれる送信アンテナ数(換言すると、N
SA)は、位相回転部105間で同数でなくてもよく、異なってよい。ここで、N
SAは1以上の整数である。なお、N
SA=1の場合は、
図1と同様になる。
【0344】
図11において、ビームウェイト生成部108は、サブアレーを用いて送信ビームの主ビーム方向を所定方向に向けるビームウェイトを生成する。例えば、N
SA個の送信アンテナを用いたサブアレーが、素子間隔d
SAで直線配置される場合の送信ビーム方向をθ
TxBFと表す。この場合、ビームウェイト生成部108は、例えば、次式(60)のようなビームウェイトW
Tx(Index_TxSubArray, θ
TxBF)を生成する。
【数85】
【0345】
ここで、Index_TxSubArrayは、サブアレーの要素インデックスを示し、Index_TxSubArray =1,…, NSAである。また、λはレーダ送信信号の波長を示し、dSAはサブアレーアンテナ間隔を示す。
【0346】
各ビームウェイト乗算部109は、対応する位相回転部105からの出力に対して、ビームウェイト生成部108から入力されるビームウェイト係数WTx(Index_TxSubArray, θTxBF)を乗算する。ビームウェイトWTx(Index_TxSubArray, θTxBF)が乗算された送信信号は、NSA個のサブアレーアンテナから送信される。ここで、Index_TxSubArray =1,…, NSAである。
【0347】
以降の動作に関しては、例えば、実施の形態1における送信アンテナ106(例えば、Tx#1~Nt)を、
図11に示す送信アンテナ106e(例えば、送信サブアレーアンテナTx#1~Nt
)に置き換え、同様な動作を行うことで、実施の形態1又は実施の形態2と同様の効果が得られる。
【0348】
以上の動作により、レーダ送信部100eは、符号多重されたレーダ送信信号を、サブアレーを用いて所定方向に送信指向性ビームを向ける送信が可能となる。これにより、所定方向の送信指向性利得を向上でき、検知可能な距離範囲を拡大できる。また、レーダ送信部100eは、送信指向性ビームを生成するビームウェイト係数を可変に設定することにより、ビーム方向を可変制御できる。
【0349】
なお、
図11では、位相回転部105による位相回転と、ビームウェイト乗算部109によるビームウェイト乗算とを別々に行う構成を示したが、この構成に限定されない。例えば、ビームウェイト乗算部109によるビームウェイト乗算に相当する位相回転を、位相回転部105に含める構成でもよい。
図12は、この構成を備えるレーダ送信部100fの構成例を示すブロック図である。
【0350】
図12に示すレーダ送信部100fにおいて、位相加算部110は、ビームウェイト生成部108fから出力される各サブアレーSA#1~SA#N
SAに対する位相回転と、符号生成部104から出力される位相回転量とを加算して、位相回転部105fに出力する。
【0351】
例えば、位相加算部110は、送信周期Tr毎に符号生成部104から出力される、第ncm番の送信アンテナTx#ncmに付与する位相回転量ψncm(m)と、ビームウェイト生成部108fから出力される、第ncm番の送信アンテナTx#ncmを構成する各サブアレーSA#1~SA#NSAに対する位相回転angle(WTx(Index_TxSubArray, θTxBF))とを加算する。そして、位相加算部110は、加算した値(ψncm(m)+angle(WTx(Index_TxSubArray, θTxBF)))を、送信アンテナTx#ncmに接続されるNSA個の位相回転部105f(例えば、位相器)に出力する。
【0352】
各位相回転部105fは、位相加算部110からの出力に基づいて、送信周期Tr毎にレーダ送信信号生成部101から出力されるチャープ信号に対して位相回転を付与する。ここで、ncm=1,…,NCMであり、m=1,…,Ncである。
【0353】
なお、本バリエーションにおいて説明したサブアレー送信を行う構成は、例えば、実施の形態1の構成(例えば、
図1)に限らず、他のバリエーション又は実施の形態(例えば、
図4、
図5、
図7又は
図9)にも適用できる。例えば、
図11及び
図12に示すレーダ送信部100e又は100fの構成は、レーダ装置10a、10b、10c及び10dに適用されてもよい。
【0354】
(他のバリエーション2)
上記実施の形態では、符号生成部104、104c、104dにおいて生成される符号として、Walsh-Hadamard符号を用いる場合について説明したが、符号は、Walsh-Hadamard符号に限定されず、他の符号でもよい。
【0355】
例えば、符号生成部104、104c、104dにおいて生成される直交符号として、直交M系列符号、又は、擬似直交符号が用いられてもよい。以下、直交M系列符号及び擬似直交符号を用いる場合の動作例について説明する。
【0356】
<直交M系列符号>
直交M系列符号は、例えば、M系列から生成された系列の後に、符号要素の「1」及び「-1」の数が等しくなるように(換言すると、平衡するように)符号要素を付加した符号系列である(例えば、非特許文献5を参照)。また、上述した符号要素を含む符号と、符号要素が全て「1」である符号とは互いに直交関係となるため、以下では、直交M系列符号に、全ての符号要素が1の符号も含める場合について説明する。
【0357】
一例として、符号長4の直交M系列符号には、以下のような符号が含まれる。
OMS4(1)=[ 1 1 -1 -1]
OMS4(2)=[-1 1 1 -1]
OMS4(3)=[ 1 -1 1 -1]
OMS4(4)=[ 1 1 1 1]
【0358】
ここで、符号長Locの直交M系列符号をOMSLoc(nomc)と表す。ただし、nomcは符号長Locの直交M系列符号に含まれる符号インデックスを表す。nomc=1,…,Locである。
【0359】
例えば、OMS4(1)とOMS4(2)とは、符号の偶数番目の符号要素が同一であり、奇数番目の符号要素が符号反転している符号の組である。例えば、未使用直交符号の個数(Nallcode-NCM)が2以上の場合、符号生成部104、104c又は104dは、OMS4(1)及びOMS4(2)のような関係となる符号の組を未使用直交符号に含まないように符号を選択してもよい。この符号選択により、例えば、レーダ受信部200の折り返し判定部212におけるドップラ周波数の折り返し判定を可能とする。
【0360】
同様に、OMS4(3)とOMS4(4)とは、符号の奇数番目の符号要素は同一であり、偶数番目の符号要素が符号反転している符号の組である。例えば、未使用直交符号の個数(Nallcode-NCM)が2以上の場合、符号生成部104、104c又は104dは、OMS4(3)及びOMS4(4)のような関係となる符号の組を未使用直交符号に含まないように符号を選択してもよい。この符号選択により、例えば、レーダ受信部200の折り返し判定部212におけるドップラ周波数の折り返し判定を可能とする。
【0361】
なお、直交M系列符号の符号長Loc=4に限定されず、他の符号長でもよい。例えば、符号長Loc=8の直交M系列符号には、以下のような符号が含まれる。
OMS4(1)=[-1 1 -1 -1 1 1 1 -1]
OMS4(2)=[ 1 -1 1 -1 -1 1 1 -1]
OMS4(3)=[ 1 1 -1 1 -1 -1 1 -1]
OMS4(4)=[ 1 1 1 -1 1 -1 -1 -1]
OMS4(5)=[-1 1 1 1 -1 1 -1 -1]
OMS4(6)=[-1 -1 1 1 1 -1 1 -1]
OMS4(7)=[ 1 -1 -1 1 1 1 -1 -1]
OMS4(8)=[ 1 1 1 1 1 1 1 1]
【0362】
例えば、符号数N
CM個の直交M系列符号の符号長Locは、次式(61)で表されてもよい。
【数86】
【0363】
ここで、ceil[x]は実数x以上の最小の整数を出力する演算子(天井関数)である。
【0364】
符号生成部104、104c又は104dは、例えば、符号長Locの直交M系列符号に含まれるNallcode(Loc)個の符号のうち、NCM個の直交符号を符号多重送信用の符号に設定する。例えば、直交M系列符号の場合、Nallcode(Loc)=Locの関係が成り立つ。例えば、符号長Loc=4、8、又は16の直交M系列符号には、それぞれ4、8又は16個の直交符号が含まれるため、Nallcode(4)=4、Nallcode(8)=8及びNallcode(16)=16となる。
【0365】
<擬似直交符号>
例えば、実施の形態1では、符号多重分離部213(例えば、
図1)において、直交符号を用いる場合、符号多重送信に用いた直交符号Code
ncmを用いて、符号多重された信号を分離する。これに対して、擬似直交符号を用いる場合、符号多重分離部213は、例えば、符号多重送信に用いた擬似直交符号Code
ncmに対して、符号多重分離のための逆符号「InvCode
ncm」を用いて、符号多重された信号を分離する点が直交符号と異なる。
【0366】
また、例えば、実施の形態1では、折り返し判定部212(例えば、
図1)において、直交符号を用いる場合、未使用直交符号UnCode
nucを用いて、折り返し判定を行う。これに対して、擬似直交符号を用いる場合は、折り返し判定部212は、例えば、未使用擬似直交符号UnCode
nucを分離するための逆符号「InvUnCode
nuc」を用いて、折り返し判定する点が直交符号と異なる。
【0367】
なお、逆符号InvCodencmは、擬似直交符号から導出される符号である。
【0368】
以下、本バリエーションに係る折り返し判定部212及び符号多重分離部213において、実施の形態1と異なる動作の一例について説明する。
【0369】
符号生成部104は、例えば、符号長Locの擬似直交符号系列(換言すると、対応する逆符号と直交関係の符号系列)に含まれるNallcode個の擬似直交符号のうち、NCM個の擬似直交符号を、符号多重送信用の符号に設定する。
【0370】
例えば、符号多重数NCMは、擬似直交符号数Nallcodeよりも少なく、NCM<Nallcodeである。換言すると、擬似直交符号の符号長Locは、符号多重数NCMよりも大きい。例えば、符号長LocのNCM個の擬似直交符号をCodencm=[OCncm(1), OCncm(2),…, OCncm(Loc)]と表記する。
【0371】
なお、擬似直交符号の符号長Locは2のべき乗に限定されず、任意の符号長でもよい。よって、例えば、擬似直交符号の符号長Locは、符号多重数NCMに1を加えた値(Loc=NCM+1)でもよい。この場合、例えば、Nallcode=NCM+1であり、符号長Loc=Nallcodeの擬似直交符号系列が生成されてもよい。
【0372】
以下では、一例として、符号数N
CM個の擬似直交符号系列を生成するために、符号長Locが
【数87】
であるWalsh-Hadamard符号の一部を用いる場合について説明する。ただし、擬似直交符号系列の生成方法は、これに限定されない。
【0373】
一例として、符号多重数NCM=4とし、Nallcode=NCM+1=5となる符号長Loc=5の擬似直交行列を生成するために、符号長8のWalsh-Hadamard符号の一部を用いる場合について説明する。
【0374】
例えば、符号生成部104は、符号長8のWalsh-Hadamard符号のうち5個(=Loc)の符号要素(例えば、各符号要素1番目から5番目:WH8(1)~WH8(5))を用いて、以下のような擬似直交符号PWH5(1)~PWH5(5)を生成してもよい。
PWH5(1)= [ 1 1 1 1 1 ]
PWH5(2)= [ 1 -1 1 -1 1 ]
PWH5(3)= [ 1 1 -1 -1 1 ]
PWH5(4)= [ 1 -1 -1 1 1 ]
PWH5(5)= [ 1 1 1 1 -1 ]
【0375】
例えば、擬似直交符号PWH
5(1)~PWH
5(5)を行要素とする符号行列「POC」に対する逆符号行列「InvPOC」は、次式(62)に従って導出されてよい。ここで、上付き添え字Hは複素共役転置演算子である。
【数88】
【0376】
例えば、上記擬似直交符号PWH
5(1)~PWH
5(5)から構成されるPOCは、次式(63)に示される符号行列である。
【数89】
【0377】
また、式(63)に示す符号行列POCに対する逆符号行列InvPOCは、例えば、次式(64)のように算出される。なお、逆符号行列InvPOCの各行を逆符号InvPWH
5(1)~InvPWH
5(5)と表記する。
【数90】
【0378】
ここで、擬似直交符号PWH
5(npoc1)と逆符号InvPWH
5(npoc2)とは、次式(65)のような関係を有する。ただし、npocは擬似直交符号又は逆符号に含まれる符号インデックスを表す。例えば、npoc1=1,…,Loc, npoc2=1,…,Locである。また、npoc1は、例えば、擬似直交符号PWH
5の符号インデックスnpoc1を示し、npoc2は、例えば、逆符号InvPWH
5の符号インデックスnpoc2を示す。
【数91】
【0379】
例えば、符号生成部104において生成される擬似直交符号PWH5(npoc)に対して、符号多重数NCM=4の符号多重送信用の符号を、Code1=PWH5(1)、Code2=PWH5(2)、Code3=PWH5(3)及びCode4=PWH5(4)とする。この場合、未使用擬似直交符号は、UnCode1=PWH5(5)となり、未使用擬似直交符号UnCode1に対する逆符号は、InvUnCode1=InvPWH5(5)となる。
【0380】
例えば、符号生成部104は、未使用擬似直交符号の個数(Nallcode-NCM)が2以上の場合、符号長Locの擬似直交符号に対する逆符号のうち、相互の逆符号間で奇数番目の符号要素が同一であり、偶数番目の符号要素が符号反転している符号の組を、未使用擬似直交符号に含まないように符号を選択してもよい。この未使用擬似直交符号の選択により、レーダ受信部200の折り返し判定部212におけるドップラ周波数の折り返し判定精度を向上できる。
【0381】
なお、符号長Locの擬似直交符号に対する逆符号のうち、相互の逆符号間で奇数番目の符号要素が同一であり、偶数番目の符号要素が符号反転している符号の組は、相互の符号間で奇数番目の符号要素が同一であり、偶数番目の符号要素が符号反転する関係となる。このため、符号生成部104は、未使用擬似直交符号の個数(Nallcode-NCM)が2以上の場合、符号長Locの擬似直交符号のうち、相互の符号間で奇数番目の符号要素が同一であり、偶数番目の符号要素が符号反転している符号の組を、未使用擬似直交符号に含まないように符号を選択してもよい。この未使用擬似直交符号の選択により、レーダ受信部200の折り返し判定部212におけるドップラ周波数の折り返し判定精度を向上できる。
【0382】
他の例として、符号多重数NCM=4とし、Nallcode=NCM+2=6となる符号長Loc=6の擬似直交行列を生成するために、符号長8のWalsh-Hadamard符号の一部を用いる場合について説明する。
【0383】
例えば、符号生成部104は、符号長8のWalsh-Hadamard符号のうち6個(=Loc)の符号要素(例えば、各符号要素1番目から6番目:WH8(1)~WH8(6))を用いて、以下のような擬似直交符号PWH6(1)~PWH6(6)を生成してもよい。
PWH6(1)= [ 1 1 1 1 1 1 ]
PWH6(2)= [ 1 -1 1 -1 1 -1 ]
PWH6(3)= [ 1 1 -1 -1 1 1 ]
PWH6(4)= [ 1 -1 -1 1 1 -1 ]
PWH6(5)= [ 1 1 1 1 -1 -1 ]
PWH6(6)= [ 1 -1 1 -1 -1 1 ]
【0384】
例えば、擬似直交符号PWH6(1)~PWH6(6)に対する逆符号InvPWH6(1)~InvPWH6(6)は、次以下のように算出されてよい。ここで、擬似直交符号PWH6(npoc)に対する逆符号はInvPWH6(npoc)である。ただし、npoc=1,…,Locである。
InvPWH6(1)= 0.25×[ 0 0 1 1 1 1 ]
InvPWH6(2)= 0.25×[ 0 0 1 -1 1 -1 ]
InvPWH6(3)= 0.25×[ 1 1 -1 -1 0 0 ]
InvPWH6(4)= 0.25×[ 1 -1 -1 1 0 0 ]
InvPWH6(5)= 0.25×[ 1 1 0 0 -1 -1 ]
InvPWH6(6)= 0.25×[ 1 -1 0 0 -1 1 ]
【0385】
ここで、逆符号のうち、InvPWH6(1)とInvPWH6(2)とは、相互の符号間において奇数番目の符号要素が同一であり、偶数番目の符号要素が符号反転している逆符号の組である(ただし、符号要素が0となるものは除く)。また、InvPWH6(1)とInvPWH6(2)のそれぞれに対応する符号PWH6(1)とPWH6(2)も、相互の符号間において奇数番目の符号要素が同一であり、偶数番目の符号要素が符号反転している符号の組となる。
【0386】
同様に、InvPWH6(3)とInvPWH6(4)の組、及び、InvPWH6(5)とInvPWH6(6)の組も、InvPWH6(1)とInvPWH6(2)の組と同様な関係の逆符号の組である。また、InvPWH6(3)とInvPWH6(4)の組、及び、InvPWH6(5)とInvPWH6(6)の組も、InvPWH6(1)とInvPWH6(2)の組のそれぞれに対応する符号の組、すなわちPWH6(3)とPWH6(4)の組、及び、PWH6(5)とPWH6(6)の組も、PWH6(1)とPWH6(2)の組と同様な関係の符号の組である。
【0387】
例えば、未使用擬似直交符号の個数(Nallcode-NCM)が2以上の場合には、レーダ装置10は、このような関係の逆符号の組に対応する擬似直交符号を、未使用擬似直交符号に含まないように符号を選択してもよい。
【0388】
例えば、符号多重送信用の符号(Code1、Code2、Code3及びCode4)の組み合わせは、例えば、Code1=PWH6(1)、Code2=PWH6(3)、Code3=PWH6(5)、及び、Code4=PWH6(6)の組み合わせでもよい。この場合、未使用擬似直交符号は、例えば、UnCode1=PWH6(2)及びUnCode2=PWH6(4)となる。なお、符号多重送信用の符号及び未使用擬似直交符号の組み合わせは、これらに限定されない。
【0389】
次に、擬似直交符号を用いる場合の折り返し判定部212の動作例について説明する。
【0390】
折り返し判定部212は、例えば、符号長Locの擬似直交符号のうち、(Nallcode-NCM)個の未使用擬似直交符号に対応する逆符号を用いて折り返し判定を行う。折り返し判定部212において、直交符号の代わりに、擬似直交符号を用いる点の他は、実施の形態1と同様の動作となる。
【0391】
例えば、折り返し判定部212は、各アンテナ系統処理部201におけるドップラ解析部210の出力に基づいて、折り返しを含むドップラ成分の位相変化を補正し、未使用擬似直交符号UnCode
nucに対応する逆符号InvUnCode
nucを用いた符号分離後の受信電力DeMulUnCode
nuc(f
b_cfar,f
s_cfar,DR)を、式(12)の代わりに、次式(66)に従って算出する。
【数92】
【0392】
式(66)では、全てのアンテナ系統処理部201におけるドップラ解析部210の出力に対して、未使用擬似直交符号UnCodenucに対応する逆符号InvUnCodenucを用いた符号分離後の受信電力の総和を算出することで、受信信号レベルが低い場合でも、折り返し判定精度を向上できる。ただし、式(66)の代わりに、一部のアンテナ系統処理部201におけるドップラ解析部210の出力に対して、未使用擬似直交符号に対応する逆符号を用いた符号分離後の受信電力が算出されてもよい。この場合でも、例えば、受信信号レベルが十分高い範囲では、折り返し判定の精度を保ちつつ、演算処理量を削減できる。
【0393】
なお、式(53)において、nuc=1,…,Nallcode-NCMである。また、DRはドップラ折り返し範囲を示すインデックスであり、例えば、DR=ceil[-Loc/2], ceil[-Loc/2]+1,…,0,…, ceil[Loc/2]-1の範囲の整数値をとる。
【0394】
また、同様に、式(29)の代わりに、未使用擬似直交符号UnCode
nucに対応する逆符号InvUnCode
nucを用いた符号分離後の受信電力DeMulUnCode
nuc(f
b_cfar,f
s_cfar,DR)の算出式は、次式(67)のように変形してよい。
【数93】
【0395】
次に、擬似直交符号を用いる場合の符号多重分離部213の動作例について説明する。
【0396】
符号多重分離部213は、折り返し判定部212における折り返し判定結果に基づいて、符号多重信号の分離処理を行う。例えば、符号多重分離部213は、符号多重信号の分離処理において、符号多重送信に用いた擬似直交符号Codencmに対応する逆符号InvCodencmによって符号多重信号を符号分離する。
【0397】
例えば、符号多重分離部213は、式(30)の代わりに、次式(68)のように、折り返し判定部212における折り返し判定結果であるDR
minを用いた折り返し位相補正ベクトルβ(DR
min)に基づいて、CFAR部211において抽出された距離インデックスf
b_cfar及びドップラ周波数インデックスf
s_cfarに対応するドップラ解析部210の出力であるドップラ成分VFTALL
z(f
b_cfar, f
s_cfar)に対して符号分離処理を行う。
【数94】
【0398】
ここで、DeMulz
ncm(fb_cfar, fs_cfar)は、第z番のアンテナ系統処理部201におけるドップラ解析部210の距離インデックスfb_cfar及びドップラ周波数インデックスfs_cfarの出力に対する擬似直交符号Codencmに対応する逆符号InvCodencmを用いて符号多重信号を符号分離した出力(例えば、符号分離結果)である。なお、z=1,…,Naであり、ncm=1,…,NCMである。
【0399】
なお、符号多重分離部213は、式(68)の代わりに、次式(69)を用いてもよい。
【数95】
【0400】
式(69)において、
【数96】
の項(ただし、式(69)では、DR=DR
min)はドップラ成分のインデックス(例えば、ドップラ周波数インデックス)f
sに依らないため、例えば、予めテーブル化することで、符号多重分離部213における演算量を削減できる。
【0401】
以上のような擬似直交符号と対応する逆符号を用いた符号生成部104、折り返し判定部212及び符号多重分離部213の動作によって、擬似直交符号を用いる場合でも、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0402】
なお、本バリエーションにおいて説明した符号を用いる構成は、例えば、実施の形態1の構成(例えば、
図1)に限らず、他のバリエーション又は実施の形態(例えば、
図4、
図5、
図7又は
図9)にも適用できる。例えば、本バリエーションにおける符号(例えば、直交M系列符号又は擬似直交符号)は、レーダ装置10a、10b、10c及び10dにおけるWalsh-Hadamard符号の代わりに適用されてもよい。
【0403】
(他のバリエーション3)
例えば、同一の距離インデックスfb_cfarにおいて、受信レベルのほぼ等しい複数ターゲットが存在し、複数のターゲットのドップラピークの間隔が、ドップラ折り返しの間隔に一致する場合の折り返し判定部212の動作について説明する。
【0404】
ここで、複数のターゲット間のドップラ周波数は異なり得ることから、ターゲットとレーダ装置10との間の相対移動速度は異なり得る。そのため、レーダ装置10において、レーダ観測を続けて行うことにより、或る時点のレーダ測位出力において折り返しを判別が困難な場合でも、続く時点のレーダ測位出力では、複数のターゲット間の距離が異なって測定される可能性が高くなり得る。
【0405】
更に、複数のターゲットに対応する信号をより確実に分離するため、例えば、レーダ装置10は、レーダ測位を継続的に行う場合、レーダ測位毎(例えば、Nc回の送信周期(Nc×Tr)毎)に、送信周期Tr及び符号生成部104において生成される直交符号(又は擬似直交符号)の符号長の少なくとも一方を可変に設定してもよい。
【0406】
例えば、レーダ装置10は、レーダ測位毎に、符号生成部104において生成される直交符号(又は、擬似直交符号)の符号長を切り替えて、符号多重送信してもよい。
【0407】
例えば、Loc=NCM+δとし、レーダ装置10は、レーダ測位毎にδを可変に設定することで、ドップラ折り返しの間隔を可変にできる。この際、レーダ装置10は、例えば、Locが2のべき乗である場合には直交符号を用いて送信してよく、Locが2のべき乗ではない場合には擬似直交符号を用いて送信してよい。例えば、レーダ測位毎にδは1、2、1、2,…,となるように周期的に可変に設定されてよい。
【0408】
または、レーダ装置10は、例えば、レーダ測位毎に、以下の(a)及び(b)を切り替えることにより、符号多重送信用の符号の符号長及び符号の種類を切り替えて符号多重送信してもよい。これにより、ドップラ折り返しの間隔を可変にできる。
【0409】
(a):符号生成部104は、符号長が
【数97】
であるWalsh-Hadamard符号又は直交M系列符号のうち、N
CM個の直交符号を符号多重送信に用いる。
【0410】
(b):符号生成部104は、符号長Loc=N
CM+δの擬似直交符号のうち、N
CM個の擬似直交符号を符号多重送信に用いる。ただし、
【数98】
となるδを用いる。
【0411】
これにより、例えば、同一の距離インデックスfb_cfarにおいて、複数のターゲットのドップラピークの受信レベルがほぼ等しく、ドップラピークの間隔がドップラ折り返しの間隔に一致する場合でも、他のレーダ測位(例えば、次のレーダ測位)においてはドップラ折り返しの間隔が異なる可能性をより高めることができる。よって、レーダ装置10は、複数のターゲットに対応する信号をより確実に分離できる。
【0412】
また、レーダ装置10は、例えば、レーダ測位毎に送信周期Trを可変に設定することにより、ドップラ折り返しの間隔が変化することになり、同等の効果が得られる。
【0413】
なお、本バリエーションにおいて説明した構成は、例えば、実施の形態1の構成(例えば、
図1)に限らず、他のバリエーション又は実施の形態(例えば、
図4、
図5、
図7又は
図9)にも適用できる。例えば、本バリエーションにおける送信周期Tr及び符号長Locの少なくとも一つの設定は、レーダ装置10a、10b、10c及び10dにおいて適用されてもよい。
【0414】
以上、他のバリエーション1~3について説明した。
【0415】
本開示の一実施例に係るレーダ装置において、レーダ送信部及びレーダ受信部は、物理的に離れた場所に個別に配置されてもよい。また、本開示の一実施例に係るレーダ受信部において、方向推定部と、他の構成部とは、物理的に離れた場所に個別に配置されてもよい。
【0416】
本開示の一実施例に係るレーダ装置は、図示しないが、例えば、CPU(Central Processing Unit)、制御プログラムを格納したROM(Read Only Memory)等の記憶媒体、およびRAM(Random Access Memory)等の作業用メモリを有する。この場合、上記した各部の機能は、CPUが制御プログラムを実行することにより実現される。但し、レーダ装置のハードウェア構成は、かかる例に限定されない。例えば、レーダ装置の各機能部は、集積回路であるIC(Integrated Circuit)として実現されてもよい。各機能部は、個別に1チップ化されてもよいし、その一部または全部を含むように1チップ化されてもよい。
【0417】
以上、図面を参照しながら各種の実施形態について説明したが、本開示はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。また、開示の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0418】
また、上述した実施の形態における「・・・部」という表記は、「・・・回路(circuitry)」、「・・・デバイス」、「・・・ユニット」、又は、「・・・モジュール」といった他の表記に置換されてもよい。
【0419】
上記各実施形態では、本開示はハードウェアを用いて構成する例にとって説明したが、本開示はハードウェアとの連携においてソフトウェアでも実現することも可能である。
【0420】
また、上記各実施形態の説明に用いた各機能ブロックは、典型的には集積回路であるLSIとして実現される。集積回路は、上記実施の形態の説明に用いた各機能ブロックを制御し、入力端子と出力端子を備えてもよい。これらは個別に1チップ化されてもよいし、一部または全てを含むように1チップ化されてもよい。ここでは、LSIとしたが、集積度の違いにより、IC、システムLSI、スーパーLSI、ウルトラLSIと呼称されることもある。
【0421】
また、集積回路化の手法はLSIに限るものではなく、専用回路または汎用プロセッサを用いて実現してもよい。LSI製造後に、プログラムすることが可能なFPGA(Field Programmable Gate Array)、LSI内部の回路セルの接続又は設定を再構成可能なリコンフィギュラブル プロセッサ(Reconfigurable Processor)を利用してもよい。
【0422】
さらには、半導体技術の進歩又は派生する別技術により、LSIに置き換わる集積回路化の技術が登場すれば、当然、その技術を用いて機能ブロックを集積化してもよい。バイオ技術の適用等が可能性としてありえる。
【0423】
<本開示のまとめ>
本開示の一実施例に係るレーダ装置は、ベースバンド信号を生成する信号生成回路と、複数の符号系列を生成する符号生成回路と、前記複数の符号系列のうち一部の符号系列に基づいた位相回転を、前記ベースバンド信号に付加し、符号多重した複数の送信信号を生成する位相回転回路と、前記複数の送信信号をそれぞれ送信する複数の送信アンテナと、を含み、前記複数の符号系列の符号長は、前記複数の送信信号に対する符号多重数よりも大きい。
【0424】
本開示の一実施例において、前記複数の符号系列は直交符号系列であり、前記符号長は2のべき乗である。
【0425】
本開示の一実施例において、前記複数の符号系列は擬似直交符号系列であり、前記符号長は前記符号多重数に1を加えた値である。
【0426】
本開示の一実施例において、前記複数の符号系列に含まれる第1の符号系列及び第2の符号系列は、奇数番目及び偶数番目の何れか一方の符号要素が同一であり、奇数番目及び偶数番目の他方の符号要素の符号が反転しており、前記第1の符号系列及び前記第2の符号系列のうち何れか一方が前記複数の符号系列のうち一部の符号系列と異なる他の符号系列に含まれる。
【0427】
本開示の一実施例において、前記複数の送信アンテナのそれぞれは、前記レーダ装置における測位毎に、異なる位相回転が付加された送信信号を送信する。
【0428】
本開示の一実施例において、前記複数の符号系列の符号長は、前記レーダ装置における測位毎に異なる。
【0429】
本開示の一実施例において、前記複数の送信信号の送信周期は、前記レーダ装置における測位毎に異なる。
【0430】
本開示の一実施例において、前記複数の送信アンテナのそれぞれは、サブアレー構成である。
【0431】
本開示の一実施例に係るレーダ装置は、ベースバンド信号を生成する信号生成回路と、複数の符号系列を生成する符号生成回路と、前記複数の符号系列のうち一部の符号系列に基づいた位相回転を、前記ベースバンド信号に付加し、符号多重した複数の送信信号を生成する位相回転回路と、前記複数の送信信号をそれぞれ送信する複数の送信アンテナと、を含み、前記複数の送信信号はチャープ信号であり、前記チャープ信号の中心周波数は、前記送信信号の送信周期毎、又は前記符号系列の送信周期毎に変化する。
【0432】
本開示の一実施例に係るレーダ装置は、ベースバンド信号を生成する信号生成回路と、複数の符号系列を生成する符号生成回路と、前記複数の符号系列のうち一部の符号系列に基づいた位相回転を、前記ベースバンド信号に付加し、符号多重した複数の送信信号を生成する位相回転回路と、前記複数の送信信号をそれぞれ送信する複数の送信アンテナと、を含み、前記複数の送信信号はチャープ信号であり、前記チャープ信号の中心周波数の変化は、前記複数の符号系列の符号長の約数倍の前記送信信号の送信周期で一巡する。
【0433】
本開示の一実施例に係るレーダ装置は、複数の符号系列のうち一部の符号系列に基づいて符号多重送信された送信信号がターゲットに反射した反射波信号を受信する受信アンテナと、前記複数の符号系列のうち前記一部の符号系列と異なる他の符号系列に基づいて、前記反射波信号におけるドップラ周波数領域での折り返しの判定を行う受信回路と、を具備する。
【0434】
本開示の一実施例において、前記受信回路は、前記反射波信号に対するドップラ解析範囲と比較して、前記符号系列の符号長倍の範囲において前記折り返しの判定を行う。
【0435】
本開示の一実施例において、前記受信回路は、前記折り返しの判定結果、及び、前記一部の符号系列に基づいて、前記反射波信号に対して符号分離処理を行う。
【産業上の利用可能性】
【0436】
本開示は、広角範囲を検知するレーダ装置として好適である。
【符号の説明】
【0437】
10,10a,10b,10c,10d レーダ装置
100,100b,100c,100d,100e,100f レーダ送信部
101,101b,101c,101d レーダ送信信号生成部
102 変調信号発生部
103,103b,103c,103d VCO
104,104c,104d 符号生成部
105,105f 位相回転部
106,106e,106f 送信アンテナ
107,107c,107d 送信周波数制御部
108,108f ビームウェイト生成部
109 ビームウェイト乗算部
110 位相加算部
200,200a,200b,200c,200d レーダ受信部
201 アンテナ系統処理部
202 受信アンテナ
203 受信無線部
204 ミキサ部
205 LPF
206 信号処理部
207 AD変換部
208 ビート周波数解析部
209 出力切替部
210 ドップラ解析部
211 CFAR部
212,212a,212c,212d 折り返し判定部
213,213a,213c,213d 符号多重分離部
214,214b,214c,214d 方向推定部
215 位相補正部