(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】電池の安全性推定装置および電池の安全性推定方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/42 20060101AFI20240216BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
H01M10/42 P
H01M10/48 P
H01M10/48 101
H01M10/48 301
(21)【出願番号】P 2019193093
(22)【出願日】2019-10-24
【審査請求日】2022-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2019086810
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】白根 隆行
(72)【発明者】
【氏名】藤井 幹也
(72)【発明者】
【氏名】森川 幸治
【審査官】高野 誠治
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-010648(JP,A)
【文献】特開2018-156739(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0164763(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/42 -10/48
H02J 7/00 - 7/12
H02J 7/34 - 7/36
G01R 31/36 -31/396
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池の設計パラメータを取得するパラメータ取得部と、
前記設計パラメータから、機械学習済み論理モデルに基づいて、前記電池の電圧挙動を算出する算出部と、
前記電圧挙動を前記電池の発熱に関する安全性の情報として出力する出力部と、を備え
、
前記設計パラメータは、前記電池の一部を構成する、(i)電極の寸法、(ii)前記電極の密度、(iii)セパレータの寸法、(iv)電解液の量、(v)前記電極または前記電解液の材料の組成、(vi)前記電極または前記電解液の材料の物性、および、(vii)前記電池の容量、のうち少なくとも1つを含み、
前記機械学習済み論理モデルは、学習用電池の学習用設計パラメータを説明変数とし、かつ、前記学習用電池の電圧挙動を示す学習用電圧挙動データを目的変数として、機械学習が行われた論理モデルであり、
前記電池の前記電圧挙動は、前記電池の電圧の平均、偏差、微分、及び積分のうち少なくとも1つによって算出される値である、
電池の安全性推定装置。
【請求項2】
前記学習用電池の
前記学習用設計パラメータと、前記学習用電池の電圧挙動を示す
前記学習用電圧挙動データとを取得する学習データ取得部と、
前記論理モデルに対して
前記機械学習
を行うことにより、前記機械学習済み論理モデルを構築する学習部と、をさらに備える、
請求項1に記載の電池の安全性推定装置。
【請求項3】
前記学習部は、前記機械学習における前記機械学習済み論理モデルを構築する方法として、勾配ブースティング法を用いる、
請求項2に記載の電池の安全性推定装置。
【請求項4】
前記算出部は、さらに、
前記学習用電池の電圧挙動と前記学習用電池の温度との相関関係に基づいて、前記算出部が算出した前記電池の前記電圧挙動から前記電池の温度を算出し、
前記出力部は、さらに、前記温度を出力する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の電池の安全性推定装置。
【請求項5】
電池の設計パラメータを取得するパラメータ取得ステップと、
前記設計パラメータから、機械学習済み論理モデルに基づいて、前記電池の電圧挙動を算出する算出ステップと、
前記電圧挙動を前記電池の発熱に関する安全性の情報として出力する出力ステップと、を含
み、
前記設計パラメータは、前記電池の一部を構成する、(i)電極の寸法、(ii)前記電極の密度、(iii)セパレータの寸法、(iv)電解液の量、(v)前記電極または前記電解液の材料の組成、(vi)前記電極または前記電解液の材料の物性、および、(vii)前記電池の容量、のうち少なくとも1つを含み、
前記機械学習済み論理モデルは、学習用電池の学習用設計パラメータを説明変数とし、かつ、前記学習用電池の電圧挙動を示す学習用電圧挙動データを目的変数として、機械学習が行われた論理モデルであり、
前記電池の前記電圧挙動は、前記電池の電圧の平均、偏差、微分、及び積分のうち少なくとも1つによって算出される値である、
電池の安全性推定方法。
【請求項6】
前記学習用電池の
前記学習用設計パラメータと、前記学習用電池の電圧挙動を示す
前記学習用電圧挙動データとを取得する学習データ取得ステップと、
前記論理モデルに対して
前記機械学習
を行うことにより、前記機械学習済み論理モデルを構築する学習ステップと、をさらに含む、
請求項
5に記載の電池の安全性推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池の安全性推定装置および電池の安全性推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話およびノートパソコンなどの電子機器および車載用電源などに用いる二次電池に対する高エネルギー密度化が要求されており、この観点から高エネルギー密度化が可能な非水電解質二次電池が広く普及している。非水電解質二次電池は、例えば、正極、負極、これらの間に介在するセパレータおよび非水電解質を備える。体積効率を高め、高エネルギー密度化を実現するために、正極および負極がセパレータを介して捲回された電極群を備える構造の電池が知られている。
【0003】
また、電池を繰り返し充放電した場合の電池容量の劣化は、寿命特性と呼ばれ、重要な電池特性の一つである。寿命特性は評価に長い期間がかかるのに加え、さまざまな条件において、劣化要因を分離しつつ評価する必要があり、その特性改良には莫大な時間がかかる。近年では、寿命特性の推定技術または長寿命化するための制御技術が開示されている(例えば、特許文献1、2および3)。
【0004】
一方で、非水電解質二次電池のエネルギー密度の増加に伴って、エネルギー密度と安全性とがトレードオフとなり、電池の安全性に関する課題は大きくなっている。
【0005】
一般的に、非水電解質二次電池の安全性は、材料の熱安定性、設計の余裕度および生産プロセスの妥当性などに影響される。安全性への影響は、正極活物質の熱安定性、特に、充電状態の正極活物質からの酸素放出に対する熱安定性に大きく依存する。正極活物質の熱安定性を高めるために、合成プロセスおよび材料組成の検討が多くなされている。近年では、より熱安定性の高い活物質の材料設計を、第一原理計算を用いた手法で導出する技術が開示されている(例えば、特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5561268号公報
【文献】国際公開第2014/155726号
【文献】特開2013-217897号公報
【文献】特開2017-162790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献4のように、電池の安全性を高める材料設計技術が報告されているものの、電池の発熱に関する安全性の推定技術に関しての報告はない。
【0008】
そこで、未知の設計の電池においても、電池の設計パラメータから電池の発熱に関する安全性を推定できる、電池の安全性推定装置などの実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本開示の一態様に係る電池の安全性推定装置は、電池の設計パラメータを取得するパラメータ取得部と、前記設計パラメータから、機械学習済み論理モデルに基づいて、前記電池の電圧挙動を算出する算出部と、前記電圧挙動を前記電池の発熱に関する安全性の情報として出力する出力部と、を備える。
【0010】
また、本開示の一態様に係る電池の安全性推定方法は、電池の設計パラメータを取得するパラメータ取得ステップと、前記設計パラメータから、機械学習済み論理モデルに基づいて、前記電池の電圧挙動を算出する算出ステップと、前記電圧挙動を前記電池の発熱に関する安全性の情報として出力する出力ステップと、を含む。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、電池の設計パラメータから電池の発熱に関する安全性を推定できる、電池の安全性推定装置などを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、電池の発熱に関する安全性の推定における課題を説明するための図である。
【
図2】
図2は、本実施の形態に係る電池の安全性推定装置の構成の一例を示す機能ブロック図である。
【
図3】
図3は、本実施の形態に係る電池の安全性推定装置における、電池の安全性推定の方法を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、本実施の形態に係る電池の安全性推定装置における、機械学習済み論理モデルを構築する方法を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、安全性の推定に用いた評価用電池の概略構成を示す断面図である。
【
図6】
図6は、評価用電池における、発生したガス量と経過時間との関係を示す図である。
【
図7】
図7は、評価用電池における、電圧と経過時間との関係を示す図である。
【
図8】
図8は、評価用電池における、電圧挙動とガス発生速度との関係を示す図である。
【
図9】
図9は、評価用電池における、推定した電圧挙動と実測した電圧挙動との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(本開示の基礎となった知見)
従来の電池に関する推定技術は、実測可能な電圧、電流および温度などを用いる技術、または、あらかじめ様々な条件で測定したマップデータを用いて電池の寿命特性を推定する技術である。また、寿命特性を推定することを目的とした従来の推定技術を、安全性推定に展開するのは困難である。そのため、未知の組み合わせの設計の電池において、電池の発熱に関する安全性が推定可能な技術の実現が望まれる。
【0014】
図1は、電池の発熱に関する安全性の推定における課題を説明するための図である。
図1に示されるように、電池の発熱に関する安全性と電池の温度挙動とは、相関性が高い。そのため、電池の発熱に関する安全性を推定するためには、温度挙動を推定することが直接的であり、一般的である。
【0015】
そのような中、本発明者らは、電池の発熱に関する安全性を推定する際に、以下の知見を見出した。温度挙動は、熱電対などを用いて容易に測定することができる。一方で、温度の挙動は、変化の時間分解能が悪く、環境および測定条件などによる誤差要因が大きい。そのため、電池の設計パラメータを説明変数とし、電池の温度挙動を目的変数として機械学習を行った論理モデルでは、温度挙動の誤差要因が大きく、高い精度で温度挙動を推定することができない。
【0016】
一方で、電池のガス発生速度は、電池の温度挙動と相関性が高い。また、電池の電圧挙動も、電池の温度挙動および電池のガス発生速度との相関性が高い。そのため、電池の電圧挙動を推定することにより、電池の温度挙動が推定でき、さらに、電池の発熱に関する安定性を推定することにつながる。また、電池の電圧挙動は、変化の時間分解能が高く、測定も容易である。
【0017】
本開示では、電池の設計パラメータから電池の発熱に関する安全性を推定することができる電池の安全性推定装置などを提供する。
【0018】
本開示の一態様の概要は以下の通りである。
【0019】
本開示の一態様に係る電池の安全性推定装置は、電池の設計パラメータを取得するパラメータ取得部と、前記設計パラメータから、機械学習済み論理モデルに基づいて、前記電圧挙動を算出する算出部と、前記電圧挙動を前記電池の発熱に関する安全性の情報として出力する出力部と、を備える。
【0020】
これにより、電池の設計パラメータから、電圧挙動が推定され、電圧挙動が電池の安全性の情報として出力される。よって、本態様に係る電池の安全性推定装置は、未知の組み合わせの設計の電池においても、電池の設計パラメータから電池の発熱に関する安全性を推定できる。
【0021】
また、例えば、前記安全性推定装置は、学習用電池の学習用設計パラメータと、前記学習用電池の電圧挙動を示す学習用電圧挙動データとを取得する学習データ取得部と、前記学習用設計パラメータを説明変数とし、前記学習用電圧挙動データを目的変数として、論理モデルに対して機械学習させることにより、前記機械学習済み論理モデルを構築する学習部と、をさらに備えてもよい。
【0022】
これにより、測定が容易であり、変化の時間分解能が高い、電圧挙動を目的変数として、機械学習された機械学習済み論理モデルが構築される。また、電圧挙動は、電池の温度との相関性が高い。よって、本態様に係る電池の安全性推定装置は、電池の設計パラメータから、電池の発熱に関する安全性を推定する場合において、推定精度の高い機械学習済み論理モデルを構築できる。
【0023】
また、例えば、前記学習部は、前記機械学習における前記機械学習済み論理モデルを構築する方法として、勾配ブースティング法を用いてもよい。
【0024】
勾配ブースティング法を用いて構築された機械学習済み論理モデルは、より高い推定精度で、電池の設計パラメータから電池の電圧挙動を推定することができる。
【0025】
また、例えば、前記算出部は、さらに、学習用電池の電圧挙動と前記学習用電池の温度との相関関係に基づいて、前記算出部が算出した前記電池の前記電圧挙動から前記電池の温度を算出し、前記出力部は、さらに、前記温度を出力してもよい。
【0026】
これにより、電池の設計パラメータから算出された、電池の電圧挙動を介して、電池の温度が出力される。よって、より直接的に電池の発熱に関する安全性を推定できる。
【0027】
また、例えば、前記設計パラメータには、前記電池の一部を構成する、(i)電極の寸法、(ii)前記電極の密度、(iii)セパレータの寸法、(iv)電解液の量、(v)前記電極または前記電解液の材料の組成、(vi)前記電極または前記電解液の材料の物性、および、(vii)前記電池の容量、のうち少なくとも1つが含まれてもよい。
【0028】
これにより、電池の設計パラメータに、電池の電圧挙動の推定への寄与が大きいパラメータが含まれる。このため、より高い推定精度で、電池の設計パラメータから電池の電圧挙動を推定することができる。
【0029】
また、本開示の一態様に係る電池の安全性推定方法は、電池の設計パラメータを取得するパラメータ取得ステップと、前記設計パラメータから、機械学習済み論理モデルに基づいて、前記電池の電圧挙動を算出する算出ステップと、前記電圧挙動を前記電池の発熱に関する安全性の情報として出力する出力ステップと、を含む。
【0030】
これにより、電池の設計パラメータから、電池の電圧挙動が推定され、電圧挙動が電池の安全性の情報として出力される。よって、本態様に係る電池の安全性推定方法は、未知の組み合わせの設計の電池においても、電池の設計パラメータから電池の発熱に関する安全性を推定できる。
【0031】
また、例えば、前記安全性推定方法は、学習用電池の学習用設計パラメータと、前記学習用電池の電圧挙動を示す学習用電圧挙動データとを取得する学習データ取得ステップと、前記学習用設計パラメータを説明変数とし、前記学習用電圧挙動データを目的変数として、論理モデルに対して機械学習させることにより、前記機械学習済み論理モデルを構築する学習ステップと、をさらに含んでもよい。
【0032】
これにより、測定が容易であり、変化の時間分解能が高い、電池の電圧挙動を目的変数として、機械学習された機械学習済み論理モデルが構築される。また、電池の電圧挙動は、電池の温度との相関性が高い。よって、本態様に係る電池の安全性推定方法は、電池の設計パラメータから、電池の発熱に関する安全性を推定する場合において、推定精度の高い機械学習済み論理モデルを構築できる。
【0033】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0034】
なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置および接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0035】
(実施の形態)
[電池の安全性推定装置の構成]
図2は、本実施の形態に係る電池の安全性推定装置100の構成の一例を示す機能ブロック図である。
【0036】
図2に示されるように、本実施の形態に係る安全性推定装置100は、パラメータ取得部10と、算出部20と、出力部30と、記憶部40と、学習データ取得部50と、学習部60とを備える。
【0037】
安全性推定装置100は、電池の安全性について推定する安全性推定装置である。具体的には、安全性推定装置100は、電池の短絡発生時の発熱に関する安全性を推定する。
【0038】
パラメータ取得部10は、電池の設計パラメータ11を取得する。パラメータ取得部10は、例えば、キーボードなどの入力インターフェイスであり、電池の設計パラメータ11が入力されることで、電池の設計パラメータ11を取得する。また、パラメータ取得部10は、外部との通信インターフェイスであってもよく、電池の設計パラメータ11のデータテーブルを読み込むことで、電池の設計パラメータ11を取得してもよい。
【0039】
電池の設計パラメータ11は、電池を構成する各要素の材料、特性、形状および寸法などである。電池の設計パラメータ11としては、電池の安全性の推定精度を向上させる観点から、例えば、電池の一部を構成する、(i)電極の寸法、(ii)電極の密度、(iii)セパレータの寸法、(iv)電解液の量、(v)電極または電解液の材料の組成、(vi)電極または電解液の材料の物性、および、(vii)電池の容量、である。
【0040】
算出部20は、パラメータ取得部10から、電池の設計パラメータ11を受け取る。算出部20は、電池の設計パラメータ11から、モデル式などの機械学習済み論理モデル41に基づいて、電圧挙動を算出する。電圧挙動は、例えば、電圧の平均、偏差、微分又は積分等によって算出される値である。
【0041】
また、算出部20は、さらに、電池の電圧挙動と、電池の温度との相関関係を示す回帰式42に基づいて、算出した電池の電圧挙動から、電池の温度を算出してもよい。電池の温度は、短絡発生後、一定時間経過した後の電池の温度であり、例えば、短絡発生から10秒後の温度である。
【0042】
また、算出部20は、電池の設計パラメータ11から、機械学習済み論理モデル41に基づいて、電池の圧力変化を算出してもよい。電池の圧力変化とは、例えば、圧力を状態方程式によりガス体積に変換した場合の、ガス発生速度などである。
【0043】
算出部20は、受け取った設計パラメータ11および算出した電池の電圧挙動などの情報を記憶部40に、記憶させてもよい。例えば、設計パラメータ11を含む電池に関する情報と、算出した電池の電圧挙動とが、対応付けられたテーブルとして、記憶部40に保持される。
【0044】
算出部20は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)およびROM(Read Only Memory)などにより構成される。
【0045】
出力部30は、算出部20から、電池の電圧挙動の算出結果を受け取る。出力部30は、電池の電圧挙動を電池の発熱に関する安全性の情報として出力する。出力部30は、例えば、CPU、RAM、ROMおよびディスプレイなどにより構成され、電池の発熱に関する安全性の情報を出力として表示する。また、出力部30は、電池の発熱に関する安全性の情報を、外部の記憶装置または外部端末に出力として送信するための通信インターフェイスを含む構成であってもよい。
【0046】
また、出力部30は、さらに、電池の温度の算出結果を出力してもよい。また、出力部30は、電池の温度の算出結果を、電池の発熱に関する安全性の情報として出力してもよい。
【0047】
また、出力部30は、記憶部40に記憶されている、機械学習済み論理モデル41および回帰式42についても出力してもよい。また、出力部30は、設計パラメータ11および算出した電池の電圧挙動などの情報が記憶部40に記憶されている場合には、記憶されている設計パラメータ11および算出した電池の電圧挙動などの情報を出力してもよい。
【0048】
記憶部40には、算出部20が用いる機械学習済み論理モデル41および回帰式42が記憶されている。また、記憶部40には、算出部20が算出した、電池の電圧挙動および電池の温度が記憶されてもよい。
【0049】
機械学習済み論理モデル41は、勾配ブースティング法、サポートベクターレグレッサー法およびランダムフォレストレグレッサー法などのモデル構築手法により構築された論理モデルに、機械学習させることにより構築された、機械学習済みの論理モデルである。電池の安全性の推定精度を向上させる観点から、機械学習済み論理モデル41は、例えば、勾配ブースティング法を用いて機械学習された、機械学習済みの論理モデルである。記憶部40には、1つの学習済み論理モデル41が記憶されていてもよく、異なるモデル構築手法を用いて機械学習された、複数の学習済みの論理モデル41が記憶されていてもよい。
【0050】
回帰式42は、電池の電圧挙動と電池の温度との相関関係を示す回帰式である。
【0051】
記憶部40には、後述する学習部60において機械学習させるための論理モデル、および、機械学習途中の論理モデルが記憶されていてもよい。
【0052】
また、記憶部40には、電池の電圧挙動に対応した、安全性判定基準が記憶されていてもよい。安全性判定基準は、例えば閾値以下の電圧挙動であれば、安全性が高いと判定する基準である。
【0053】
記憶部40は、ハードディスクドライブまたはソリッドステートドライブなどの書き換え可能な不揮発性のメモリで構成される。
【0054】
学習データ取得部50は、電池の学習用設計パラメータ51と、学習用電圧挙動データ52とを取得する。また、電池の温度を示す温度データ53を取得してもよい。学習データ取得部50は、例えば、キーボードなどの入力インターフェイスまたは通信インターフェイスなどにより構成される。また、学習データ取得部50は、電圧計などの電圧センサおよび熱電対、測温体などの温度センサを備え、電圧センサおよび温度センサが測定した学習用電圧挙動データ52および温度データ53を取得してもよい。学習データ取得部50は、取得した学習用設計パラメータ51、学習用電圧挙動データ52および温度データ53を、記憶部40に記憶させる。また、学習データ取得部50は、機械学習に用いられるモデル構築手法54も取得し、モデル構築手法54を学習部60に送信する。
【0055】
電池の学習用設計パラメータ51は、上記の設計パラメータ11と同じパラメータである。学習用設計パラメータ51は、実際の電池(例えば評価用電池)から実測されたデータである。
【0056】
学習用電圧挙動データ52は、電池の学習用設計パラメータ51に対応した電池の電圧挙動を示す実測データである。学習用電圧挙動データ52は、例えば、短絡発生後の電圧挙動などの実測データである。
【0057】
温度データ53は、電池の学習用設計パラメータ51に対応した電池の温度を示す実測データである。温度データ53は、例えば、短絡発生から10秒経過後など、一定時間経過した後の電池の温度である。
【0058】
モデル構築手法54としては、一般的に機械学習に用いられるモデル構築手法が用いられる。モデル構築手法54は、例えば、勾配ブースティング法、サポートベクターレグレッサー法およびランダムフォレストレグレッサー法などが挙げられ、これら単独のモデル構築手法であっても、複数のモデルを複合したモデル構築手法でもよい。それらの中でも、電池の安全性の推定精度を向上させる観点から、勾配ブースティング法を用いてもよい。
【0059】
学習部60は、学習用設計パラメータ51を説明変数とし、学習用電圧挙動データ52を目的変数として、取得したモデル構築手法54を用いて構築した論理モデルに対して機械学習させることにより、機械学習済み論理モデル41を構築する。学習部60は、構築した機械学習済み論理モデル41を記憶部40に記憶させる。
【0060】
また、学習部60は、学習用電圧挙動データ52と温度データ53とから、回帰式42を導出してもよい。学習部60は、導出した回帰式42を記憶部40に記憶させる。
【0061】
学習部60は、例えば、CPU、RAMおよびROMなどにより構成される。
【0062】
機械学習済み論理モデル41および回帰式42は、学習部60により構築されてもよく、あらかじめ構築された機械学習済み論理モデル41および回帰式42が記憶部40に記憶されていてもよい。
【0063】
[電池の安全性推定装置の動作]
次に、以上のように構成された電池の安全性推定装置100の動作について説明する。
【0064】
まず、電池の安全性推定装置100が、電池の安全性を推定する方法について説明する。
図3は、電池の安全性推定装置100における、電池の安全性推定の方法を示すフローチャートである。
【0065】
図3に示されるように、まず、パラメータ取得部10は、電池の設計パラメータ11を取得する(S11)。パラメータ取得部10は、取得した設計パラメータ11を、算出部20に送信する。パラメータ取得部10は、1つの電池の設計パラメータ11を取得してもよく、複数の電池それぞれの設計パラメータ11を取得してもよい。
【0066】
次に、算出部20は、パラメータ取得部10から送信された設計パラメータ11から、記憶部40に記憶されている機械学習済み論理モデル41に基づいて、電池の電圧挙動を算出する(S12)。算出部20は、算出した電池の電圧挙動を出力部30に送信する。また、算出部20は、算出した電池の電圧挙動を記憶部40に記憶させてもよい。パラメータ取得部10が、複数の設計パラメータ11を取得した場合には、算出部20は、複数の設計パラメータ11それぞれから、電池の電圧挙動を算出する。
【0067】
電池の電圧挙動は、電池の温度との相関性が高い。そのため、電池の電圧挙動を算出することで、電池の発熱に関する安全性を推定することができる。
【0068】
次に、算出部20は、電池の電圧挙動と電池の温度との回帰式42に基づいて、算出した電池の電圧挙動から当該電池の温度を算出する(S13)。算出部20は、算出した電池の温度を出力部30に送信する。算出部20は、算出した電池の温度を記憶部40に記憶させてもよい。
【0069】
次に、出力部30は、算出部20から受け取った電池の電圧挙動を、電池の発熱に関する安全性の情報として出力する(S14)。出力部30は、電池の電圧挙動を電池の発熱に関する安全性の情報として、そのまま出力してもよい。あるいは、出力部30は、電池の電圧挙動に基づいた情報として、電池の発熱に関する安全性の情報を出力してもよい。電池の電圧挙動に基づいた情報としては、例えば、安全性判定基準に基づいた判定結果などが挙げられる。
【0070】
次に、出力部30は、算出部20から受け取った電池の温度を出力する(S15)。なお、ステップS14とステップS15とは、順序が逆であってもよく、同時であってもよい。
【0071】
また、ステップS14において、出力部30は、電池の電圧挙動の代わりに、電池の温度を、電池の発熱に関する安全性の情報として出力してもよい。
【0072】
このように、安全性推定装置100は、電池の設計パラメータから、電池の温度と相関の高い、電池の電圧挙動を推定する。これにより、電池の発熱に関する安全性が推定される。よって、安全性推定装置100は、未知の組み合わせの設計の電池においても、電池の設計パラメータから電池の発熱に関する安全性を推定できる。
【0073】
次に、電池の安全性推定装置100が、機械学習済み論理モデル41を構築する方法について説明する。
【0074】
図4は、電池の安全性推定装置100における、機械学習済み論理モデル41を構築する方法を示すフローチャートである。
【0075】
図4に示されるように、まず、学習データ取得部50は、電池の学習用設計パラメータ51、当該電池の電圧挙動を示す学習用電圧挙動データ52、当該電池の温度データ53、および、機械学習に用いるモデル構築手法54を取得する(S21)。当該電池は、例えば、機械学習用に用意された学習用電池である。学習データ取得部50は、学習用設計パラメータ51、学習用電圧挙動データ52および温度データ53を記憶部40に記憶させる。学習データ取得部50は、例えば、100個以上、より好ましくは300個以上の学習用電池についての、学習用設計パラメータ51および学習用電圧挙動データ52の組み合わせを取得する。学習用設計パラメータ51および学習用電圧挙動データ52の取得に用いる学習用電池の数は、構築する機械学習済み論理モデル41が目的とする推定精度以上になる数であればよい。
【0076】
また、学習データ取得部50は、取得したモデル構築手法54を学習部60に送信する。
【0077】
次に、学習部60は、受け取ったモデル構築手法54により、学習用設計パラメータ51から学習用電圧挙動データ52を算出するモデル式などの論理モデルを構築する。学習部60は、記憶部40に記憶されている、学習用設計パラメータ51および学習用電圧挙動データ52を教師データに用い、学習用設計パラメータ51を説明変数とし、学習用電圧挙動データ52を目的変数として、構築した論理モデルに対して機械学習させる(S22)。これにより、学習部60は、機械学習済み論理モデル41を構築する(S23)。学習部60は、例えば、論理モデルにおけるパラメータを複数種設定し、それらのパラメータの組み合わせを網羅的に論理モデルに機械学習させる。学習部60は、構築した機械学習済み論理モデル41を、記憶部40に記憶させる。
【0078】
電池の電圧挙動は測定が容易であり、変化の時間分解能が高い。そのため、電池の電圧挙動を用いた学習用電圧挙動データ52は、推定精度の高い機械学習済み論理モデル41を構築する教師データとして有用である。
【0079】
ステップS23で構築された機械学習済み論理モデル41を用いて、電池の安全性を推定する精度を確認する場合には、例えば、機械学習には用いていない複数の電池における学習用設計パラメータ51及び学習用電圧挙動データ52を用いる。この場合に、例えば、機械学習済み論理モデル41で推定した電圧挙動と、当該電池の学習用電圧挙動データ52との相関係数R2が0.4以上であることが望ましく、0.7以上であることがより望ましい。
【0080】
次に、学習部60は、記憶部40に記憶されている、学習用電圧挙動データ52および温度データ53から、回帰式42を導出する(S24)。回帰式42は、例えば、学習用電圧挙動データ52と温度データ53との線形近似の回帰式として導出される。学習部60は、構築した回帰式42を、記憶部40に記憶させる。
【0081】
このように、安全性推定装置100には、測定が容易であり、変化の時間分解能が高い、電池の電圧挙動を目的変数として、機械学習された機械学習済み論理モデルが構築される。また、電池の電圧挙動は、電池の温度との相関性が高い。よって、安全性推定装置100は、電池の設計パラメータから、電池の発熱に関する安全性を推定する場合において、推定精度の高い機械学習済み論理モデルを構築できる。
【0082】
(実施例)
以下に、評価用電池を作製し、電池の発熱に関する安全性について推定した実施例について説明する。なお、以下に示す実施例は一例であって、本開示は以下の実施例のみに限定されない。
【0083】
[電池の構造]
まず、安全性の推定に用いた評価用電池について説明する。
図5は、安全性の推定に用いた評価用電池の構成を模式的に示す断面図である。
【0084】
図5に示されるように、安全性の推定に用いた評価用電池は、電池ケース1と、電池ケース1に収容された電極群4と、電極群4の上下にそれぞれ配置された絶縁リング8とを備えている。電池ケース1は上方に開口を有しており、その開口は封口板2によって封口されている。
【0085】
電極群4は、正極5および負極6を、セパレータ7を介して複数回渦巻状に捲回した構成を有している。正極5からは、例えばアルミニウムからなる正極リード5aが引き出され、負極6からは、例えばニッケルからなる負極リード6aが引き出されている。正極リード5aは、電池ケース1の封口板2に接続されている。負極リード6aは、電池ケース1の底部に接続されている。また、図示しないが、電池ケース1の内部には、電極群4とともに電解液が注入されている。
【0086】
[評価用電池の作製方法]
次に、評価用電池の作製方法について説明する。以下の作製方法により、評価用電池を作製した。
【0087】
(1)正極
100質量部のLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2に対して、アセチレンブラック2質量部と、ポリフッ化ビニリデン2質量部と、適量のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)とを、ミキサーで混合し、正極合剤スラリーを調製した。この正極合剤スラリーを、厚さ15μmのAl箔からなる集電体シートの両面に塗布し、乾燥させ、圧延して、帯状の正極を得た。帯状の正極を円筒型18650の電池ケースに対応する大きさに裁断し、アルミニウム製のリードを溶接して評価用電池に用いる正極を得た。正極の厚みは、128μmであった。
【0088】
(2)負極
平均粒径が20μmである黒鉛粒子を負極活物質として用い、負極活物質100質量部に対して、増粘剤であるカルボキシメチルセルロース1質量部と、結着剤であるスチレンブタジエンゴム1質量部と、適量の純水とを、ミキサーで混合し、負極合剤スラリーを調製した。この負極合剤スラリーを厚さ8μmの電解銅箔からなる集電体シートの両面に塗布し、乾燥させ、圧延して、帯状の負極を得た。
【0089】
満充電状態を4.2Vに規定した場合の負極充電容量と、正極充電容量とが関係式:
(負極充電容量)/(正極充電容量)=1.1
を満たすように負極合剤スラリーの塗工量を定めた。
【0090】
帯状の負極を円筒型18650の電池ケースに対応する大きさに裁断し、ニッケル製のリードを溶接して評価用電池に用いる負極を得た。
【0091】
(3)非水電解質
EC(エチレンカーボネート):EMC(エチルメチルカーボネート):DMC(ジメチルカーボネート)の体積比が1:1:8になるように混合し、混合物に1.2mol/Lの濃度でLiPF6を溶解させ、評価用電池に用いる非水電解質を得た。
【0092】
(4)電極群
上記で得られた正極と負極とを、厚さ16μmのポリエチレン製微多孔膜からなるセパレータを介して捲回し、渦巻き状の電極群を構成した。得られた電極群を、円筒型18650の電池ケースに収容し、負極および正極リードなどを接続した。その後、設計容量1Ah当たり1.59~1.72gとなるように上記非水電解質を電池ケースに加え、真空下で電極群に非水電解質を含浸させた後、電池ケースを封口板で封口した。封口に用いた封口板は、安全弁を備え、電池内圧が上限値に達すると作動し、内部で発生したガスを排出する機能を有する。
【0093】
上記のような工程を経て、
図5に示される円筒型電池を完成させ、評価用電池を得た。
【0094】
[初期の電池容量の確認方法]
25℃環境下において、得られた評価用電池を0.2C相当の電流値で4.1Vまで充電した後、45℃の恒温槽で3日間エージングを行った。ついで、充電した評価用電池を25℃環境にて0.2C相当の電流で3Vまで放電した。
【0095】
さらに、放電した評価用電池に最大電流値0.2C、充電電圧値4.2Vおよび充電終止電流0.05Cの条件で定電圧充電を行い、放電電流0.2Cおよび放電終止電圧3.0Vの条件で放電し、初期の電池容量を確認した。
【0096】
[設計パラメータの取得方法]
機械学習に用いる説明変数を取得するために、上記[評価用電池の作製方法]と同様の方法で、設計パラメータとして、(I)正極活物質の組成、(II)負極活物質の組成、(III)正極板および負極板の(i)厚み、(ii)長さ、(iii)幅、(iv)密度、(v)活物質の利用容量、(vi)合剤組成、(IV)セパレータの(i)厚み、(ii)長さ、(iii)幅、(iv)多孔度、および(V)電解液の(i)組成、(ii)量、を変えた評価用電池を作製した。また、作製した各評価用電池について、[初期の電池容量の確認方法]と同様の方法で、設計パラメータとして、初期の電池容量を確認した。さらに、同一の構成の評価用電池においても、試験条件として、試験時の充電深度および試験温度を変化させて評価を行った。評価用電池は480個作製し、480個の評価用電池について、試験条件を含めた電池設計パラメータのデータセットを取得した。
【0097】
[電圧挙動、温度および圧力の取得方法]
作製した評価用電池に、最大電流値0.2C、充電電圧値4.2Vおよび充電終止電流0.05Cの条件で定電圧充電を行った。次に、電圧測定用のニッケル製のリードを正極および負極それぞれの端子に溶接した。リードを溶接した評価用電池の高さ方向の中央付近に熱電対を耐熱テープで固定し、熱電対を固定した評価用電池を釘刺し試験機の試験槽内に設置した。釘刺し試験機としては、内部圧力を測定する圧力センサを搭載した密閉された試験槽内で、釘刺し試験が可能な釘刺し試験機を用いた。
【0098】
電池温度が65℃となるように試験槽内を制御し、鉄製の軸径3mmφの丸釘を用い、80mm/秒の速さで、評価用電池に釘を貫入させることにより、内部短絡を発生させた。内部短絡発生後の評価用電池の電圧、評価用電池の温度、および試験槽内部の圧力を計測した。さらに、試験槽内部の圧力は、温度によっても変化することから、各評価用電池および各試験条件での値を規格化するため、測定した試験槽内部の圧力を、状態方程式を用いて1気圧、20℃でのガス体積に換算し、短絡発生後に発生したガス体積を算出した。
図6は、評価用電池における、短絡発生後に発生したガス量を示す図である。また、
図7は、評価用電池における、短絡発生後の電圧挙動を示す図である。
図6および
図7は、評価用電池に釘が貫入され、内部短絡が発生した時間を0とした場合の図である。また、
図6および
図7には、上記[設計パラメータの取得方法]にて作製した480個の評価用電池のデータがプロットされている。
【0099】
[モデル式の構築および推定精度の算出の方法]
[設計パラメータの取得方法]および[電圧挙動、温度および圧力の取得方法]にて得られたデータを用いて、機械学習によりモデル式を構築した。
【0100】
機械学習には、勾配ブースティング法、サポートベクターレグレッサー法およびランダムフォレストレグレッサー法の3つのモデル構築手法を用いた。それぞれの手法で機械学習を行うことで、説明変数として試験条件を含む設計パラメータから、電池の電圧挙動、電池の温度および電池の圧力変化などの目的変数を推定算出可能な論理モデルとしてモデル式を3つの手法ごとに構築した。例えば、勾配ブースティング法では、Learning lateおよびMax featuresなどのパラメータを複数種設定し、それらのパラメータの組み合わせを網羅的に機械学習を行った。これらの機械学習のモデル構築手法はそれぞれ、説明変数として試験条件を含む設計パラメータから目的変数への非線形作用を含む手法であり、480個の評価用電池のデータセットにおいても、効率的に学習が可能であった。
【0101】
具体的には、得られた480個の評価用電池のデータセットを無作為な6つのグループに区分した。これらのうち任意の5つのグループに属する評価用電池のデータセット、つまり評価用電池400個のデータセットの、試験条件を含む設計パラメータを説明変数として機械学習の教師データとして用い、前述の機械学習方法にて、目的変数として電池の電圧挙動、電池の温度および電池の圧力変化などを推定する機械学習済み論理モデルとして機械学習済みのモデル式を導出した。言い換えると、評価用電池400個を学習用電池として用いた。ついで、教師データとして用いなかったグループに属する評価用電池のデータセット、つまり評価用電池80個のデータセットを検証用データとして、評価条件を含む設計パラメータを先に導出した機械学習済みのモデル式に代入して目的変数を推定した。推定した目的変数と実測値の目的変数との線形回帰時の相関係数R2を、推定精度として算出した。なお、以下の推定精度の算出結果においては、3つのモデル構築手法の中から、最も推定精度が高かったモデル構築手法を用いた場合の推定精度の値を示す。
【0102】
[比較例1]
比較例1では、電池の温度を目的変数として用い、電池の安全性を推定した。
【0103】
[モデル式の構築および推定精度の算出の方法]に記載した方法により、短絡発生から10秒後の電池温度を目的変数とした機械学習済みのモデル式を導出し、推定精度を算出した。推定した目的変数と実測値の目的変数との相関係数R2は、0.143であり、低い推定精度を示す結果が得られた。
【0104】
図6および
図7に示されるように、発生するガス体積および電圧が著しく変化する時間は、短絡発生後1秒以内である。それに対して、温度の変化は、短絡発生直後では変化幅が小さく、各評価用電池の間で差異の傾向が表れるのは10秒後以降であった。このことから温度の変化は、時間分解能が悪く、短絡発生後の挙動を推定するための目的変数には適さないと考えられる。
【0105】
[実施例1]
実施例1では、電池の電圧挙動を目的変数として用い、電池の安全性を推定した。
【0106】
(1)温度と圧力との相関性
まず、電池の温度以外の測定データを電池の温度の代替データとして用いることができるのかを確かめるため、電池の温度と、電池の圧力変化との相関性について確認した。
図6に示されるように、試験槽内のガス量つまり圧力は、短絡発生直後から変化しているため、時間分解能も高い。ほとんどの評価用電池のガス量は、短絡発生から1秒後までの時間帯で変化している。また、ガス発生量は、最大値に到達するまで、ほぼ一定の速度で増加しているため、圧力変化を示すデータとして、ガス発生開始から短絡発生1秒後までのガスの変化量を用いて、ガス発生速度を算出した。評価用電池480個の測定結果を用いて、ガス発生速度と短絡発生から10秒後の温度との相関係数を算出すると、相関係数R
2は、0.76であり、ガス発生速度と温度との相関性が高い結果が得られた。つまり、ガス発生速度が遅い評価用電池ほど、電池の温度が低く、より安全であり、電池の発熱に関する安全性を推定するためには、電池のガス発生速度を推定してもよい。
【0107】
(2)電圧と圧力との相関性
次に、電池の短絡発生時の圧力の経時変化と、電池の電圧挙動との相関性について説明する。
図7に示されるように、評価用電池の電圧は、短絡発生直後から著しく変化しているため、時間分解能は高い。また、ガス発生速度と同様に、ほとんどの評価用電池の電圧は、短絡発生から1秒後までの時間帯で変化している。そのため、短絡発生から1秒後までの電圧の結果を用いて、電圧挙動を算出した。
図8は、評価用電池における、短絡発生から1秒後までの電圧挙動と、短絡発生から1秒後までのガス発生速度との関係を示す図である。
図8に示されるように、算出した1秒後までの電圧挙動と、1秒後までのガス発生速度とは高い相関性を示した。評価用電池480個の測定結果を用いて、1秒後までの電圧挙動と、1秒後までのガス発生速度との線形回帰時の相関係数を算出すると、相関係数R
2は、0.92であった。
【0108】
なお、電圧挙動と短絡発生から10秒後の温度との線形回帰時の相関係数を算出すると、相関係数R2は、0.84であった。
【0109】
(3)推定精度の算出
次に、電池の電圧挙動を目的変数として用い、電池の安全性を推定した結果について説明する。[モデル式の構築および推定精度の算出の方法]に記載した方法により、電池の電圧挙動を目的変数とした機械学習済みのモデル式を導出し、推定精度を算出した。
図9は、評価用電池における、機械学習済みのモデル式に検証用データの設計パラメータを代入して推定した電圧挙動と、実測した電圧挙動との関係を示す図である。
【0110】
図9に示されるように、推定した電圧挙動と実測した電圧挙動との相関係数R
2は0.75であり、高い推定精度を示す結果が得られた。つまり、電池の電圧挙動を目的変数として機械学習させて導出したモデル式により、電池の設計パラメータから電池の発熱に関する安全性を精度良く予測することができる。
【0111】
[実施例2]
実施例2では、電池の電圧挙動を目的変数とし、表1に示されるモデル構築手法を用いて、電池の安全性を推定した。
【0112】
表1に示されるモデル構築手法を用いた以外は、[モデル式の構築および推定精度の算出の方法]と同じ方法にて、電池の電圧挙動を目的変数とした機械学習済みのモデル式を導出し、推定精度を算出した。算出した推定精度の結果を表1に示す。表1には、用いたモデル構築手法および推定精度の結果が、推定精度が高い順で上から記載されている。
【0113】
【0114】
表1に示されるように、どのモデル構築手法を用いた場合でも、比較例1での目的変数として短絡発生時の温度を用いた場合の推定精度よりも、推定精度が高くなった。また、モデル構築手法として勾配ブースティング法を用いた場合、その他のモデル構築手法を用いるよりも推定精度が高くなることが分かる。
【0115】
(その他の実施の形態)
以上、本開示に係る電池の安全性推定装置および電池の安全性推定方法について、実施の形態に基づいて説明したが、本開示は、これらの実施の形態に限定されるものではない。本開示の主旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を実施の形態に施したものや、実施の形態における一部の構成要素を組み合わせて構築される別の形態も、本開示の範囲に含まれる。
【0116】
例えば、上記実施の形態では、安全性推定装置100は、学習データ取得部50および学習部60を備え、学習部60が機械学習済み論理モデル41を構築したが、これに限らない。安全性推定装置100は、学習データ取得部50および学習部60を備えず、あらかじめ構築された機械学習済み論理モデル41を取得し、記憶部40に記憶させてもよい。
【0117】
また、例えば、上記実施の形態では、安全性推定装置100は、電池の温度を算出し、出力したが、これに限らない。安全性推定装置100は、電池の電圧挙動を、電池の安全性の情報として出力するのみの装置であってもよい。
【0118】
また、例えば、安全性推定装置100は、記憶部40を備えていたが、これに限らない。安全性推定装置100は、有線または無線の通信インターフェイスなどの通信部を介して外部のサーバなどと通信することで、外部のサーバなどを記憶部40の代わりに用いてもよい。
【0119】
また、例えば、安全性推定装置100は、取得した学習用設計パラメータ51および学習用電圧挙動データ52、の各々の一部を用いて、機械学習済み論理モデル41の推定精度を検証する検証部を備えていてもよい。検証部は、
図4におけるステップS23の後に、構築された機械学習済み論理モデル41の推定精度を検証してもよい。その場合、安全性推定装置100は、一定の推定精度を有する機械学習済み論理モデル41が構築されるまで、学習用設計パラメータ51、学習用電圧挙動データ52、および、モデル構築手法54の少なくとも1つを変更させながら、ステップS21からステップS23までを繰り返してもよい。検証部は、例えば、CPU、RAM、およびROMなどから構成される。
【0120】
また、例えば、記憶部40には、機械学習済み論理モデル41が複数記憶されており、算出部20が、複数の機械学習済み論理モデル41を用いて、それぞれの機械学習済み論理モデル41に対応した電池の電圧挙動を算出してもよい。その場合、出力部30は、いずれかの機械学習済み論理モデルが算出した電池の電圧挙動を、電池の発熱に関する安全性の情報として出力してもよく、推定精度を高める観点から、それぞれの機械学習済み論理モデル41が算出した電池の電圧挙動の平均を、電池の発熱に関する安全性の情報として出力してもよい。
【0121】
また、例えば、上記実施の形態に係る、電池の安全性推定装置および電池の安全性推定方法を構成する各構成要素が行うステップ(処理)を含む方法は、コンピュータ(コンピュータシステム)によって実行されてもよい。そして、本開示は、それらの方法に含まれるステップを、コンピュータに実行させるためのプログラムとして実現できる。さらに、本開示は、そのプログラムを記録したCD-ROMなどである非一時的なコンピュータ読み取り可能な記録媒体として実現できる。
【0122】
例えば、上記実施の形態が、プログラム(ソフトウェア)で実現される場合には、コンピュータのCPU、メモリおよび入出力回路などのハードウェア資源を利用してプログラムが実行されることによって、各ステップが実行される。つまり、CPUがデータをメモリまたは入出力回路などから取得して演算したり、演算結果をメモリまたは入出力回路などに出力したりすることによって、各ステップが実行される。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本開示に係る電池の安全性推定装置などによれば、未知設計の電池においても発熱に関する安全性の推定が可能となり、電池の制御技術およびより安全性の高い電池などの実現に好適に利用されうる。
【符号の説明】
【0124】
1 電池ケース
2 封口板
3 絶縁パッキング
4 電極群
5 正極
5a 正極リード
6 負極
6a 負極リード
7 セパレータ
8 絶縁リング
10 パラメータ取得部
11 設計パラメータ
20 算出部
30 出力部
40 記憶部
41 論理モデル
42 回帰式
50 学習データ取得部
51 学習用設計パラメータ
52 学習用電圧挙動データ
53 温度データ
54 モデル構築手法
60 学習部
100 安全性推定装置