(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】はんだ組成物
(51)【国際特許分類】
B23K 35/363 20060101AFI20240216BHJP
B23K 35/26 20060101ALN20240216BHJP
C22C 12/00 20060101ALN20240216BHJP
C22C 13/00 20060101ALN20240216BHJP
【FI】
B23K35/363 D
B23K35/363 E
B23K35/26 310C
C22C12/00
C22C13/00
B23K35/26 310A
(21)【出願番号】P 2019229719
(22)【出願日】2019-12-19
【審査請求日】2022-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福原 康雄
(72)【発明者】
【氏名】山口 敦史
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-161673(JP,A)
【文献】特開2013-220466(JP,A)
【文献】特開2017-177196(JP,A)
【文献】特開2013-045650(JP,A)
【文献】特開2015-047615(JP,A)
【文献】特開2019-150873(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/363
B23K 35/26
C22C 12/00
C22C 13/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
はんだ粉末と、熱硬化性樹脂と、カルボン酸と、アミンと、アミン不活性化剤と、を含有し、
前記アミンは、トリエタノールアミン及び/又はトリプロピルアミンであり、
前記アミン不活性化剤は、
下記式(1)で表される化合物である、
はんだ組成物。
【化1】
【請求項2】
前記アミン不活性化剤の含有量が、前記アミンの全質量に対して、0.3質量%以上120質量%以下の範囲内である、
請求項1に記載のはんだ組成物。
【請求項3】
前記はんだ粉末の融点が80℃以上である、
請求項1又は2に記載のはんだ組成物。
【請求項4】
前記熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂を含む、
請求項1~3のいずれか1項に記載のはんだ組成物。
【請求項5】
チクソ性付与剤を更に含有する、
請求項1~4のいずれか1項に記載のはんだ組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般にはんだ組成物に関し、より詳細には熱硬化性樹脂を含有するはんだ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、はんだ組成物が記載されている。このはんだ組成物は、フラックス組成物と、はんだ粉末とを含有する。フラックス組成物は、熱硬化性樹脂と、活性剤とを含有する。活性剤は、カルボン酸付加物、及びアミン類を含有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、分子中に特定の構造を有するカルボン酸付加物を用いることによって、はんだ組成物の保存安定性を確保しようとしている。
【0005】
しかしながら、アミン類は、硬化剤としても働き得るので、はんだ組成物を保存している間に、アミン類の働きによって熱硬化性樹脂が硬化するおそれがある。熱硬化性樹脂が硬化すると、はんだ粉末が凝集しやすくなる。このように、特許文献1のはんだ組成物については、保存時における性能の経時変化の点でなお改良の余地がある。
【0006】
本開示の目的は、保存安定性を高めることができるはんだ組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係るはんだ組成物は、はんだ粉末と、熱硬化性樹脂と、カルボン酸と、アミンと、アミン不活性化剤と、を含有する。前記アミン不活性化剤は、前記アミンと水素結合可能なOH基を有する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、保存安定性を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(1)概要
本実施形態に係るはんだ組成物は、例えば、表面実装方式により部品を基板に固定するために用いられる。はんだ組成物は、例えばリフロー後において、部品と基板とを接合する接合部となる。接合部は、はんだ接合部と、補強部と、を有する。はんだ接合部は、部品と基板とを電気的に接合する部分である。補強部は、電気的絶縁性を有し、はんだ接合部の周囲を補強する部分である。
【0010】
はんだ組成物は、例えば、ペースト状をなしている。はんだ組成物は、はんだ粉末と、熱硬化性樹脂と、カルボン酸と、アミンと、アミン不活性化剤と、を含有する。はんだ粉末は、加熱されると溶融し、その後冷却されると一体化してはんだ接合部を形成する。はんだ粉末以外の成分は、加熱前はバインダーとして働き、加熱されると硬化して補強部を形成する。
【0011】
ここで、アミン不活性化剤は、アミンと水素結合可能なOH基を有する。アミン不活性化剤は、アミンと水素結合を形成し、アミンを一時的に不活性化する。これにより、アミンによるカルボン酸の活性化作用が抑制される。そのため、はんだ組成物の保存時において、はんだ粉末のカルボン酸塩が生成されにくくなる。はんだ粉末のカルボン酸塩は、はんだ粉末の凝集の原因の1つと考えられる。このように、はんだ組成物の保存時において、カルボン酸塩が生成されにくくなることで、はんだ粉末の凝集が抑制され、はんだ組成物の保存安定性を高めることができる。
【0012】
一方、アミン不活性化剤とアミンとの水素結合は、はんだ組成物の加熱時(例えばリフロー時)においては解離するので、アミンによるカルボン酸の活性化作用が元に戻る。すなわち、加熱により水素結合が切れるとアミンが遊離し、このアミンによりカルボン酸のフラックス作用が活性化され、溶融したはんだ粉末が円滑に一体化し得る。
【0013】
以上のように、本実施形態によれば、アミン不活性化剤がアミンを一時的に不活性化することにより、はんだ組成物の保存安定性を高めることができる。
【0014】
(2)詳細
<はんだ組成物>
本実施形態に係るはんだ組成物は、好ましくはペースト状である。はんだ組成物は、はんだ粉末と、熱硬化性樹脂と、カルボン酸と、アミンと、アミン不活性化剤と、を含有する。はんだ組成物は、チクソ性付与剤を更に含有してもよい。はんだ組成物は、イミダゾールを更に含有してもよい。ただし、イミダゾールは、アミンの一種であるが、本実施形態において、アミンにはイミダゾールは含まれない。なお、以下において、はんだ組成物からはんだ粉末を除いた組成物のことをフラックス組成物という場合がある。
【0015】
≪はんだ粉末≫
はんだ粉末としては、特に限定されない。はんだ粉末の化学成分には、鉛フリーはんだ、及び鉛含有はんだが含まれる。はんだ粉末の化学成分は、環境保全の観点から、好ましくは鉛フリーはんだである。
【0016】
鉛フリーはんだとしては、特に限定されないが、例えば、Snを含み、さらにBi、Sb、Cu、Ag、Zn、In、Ni、P、Ga、及びGeからなる群より選ばれた1種以上の元素を含む。すなわち、鉛フリーはんだとしては、例えば、Sn-Bi系はんだ、Sn-Sb系はんだ、Sn-Cu系はんだ、Sn-Ag系はんだ、Sn-Zn系はんだ、Sn-In系はんだ、Sn-Ag-Cu系はんだ、Sn-Cu-Ni系はんだ、Sn-Zn-Bi系はんだ、Sn-Ag-Cu-In系はんだ、Sn-Bi-Cu-In系はんだ、Sn-Ag-Bi-Cu系はんだ、Sn-In-Ag-Bi系はんだ、Sn-Cu-Ag-P-Ga系はんだ、Sn-Cu-Ni-P-Ga系はんだ、Sn-Ag-Cu-Ni-Ge系はんだ、及びSn-Bi-Ag-Cu-In系はんだが挙げられる。特にSn-Bi系はんだは、低融点でありながら、濡れ性が良好であるので好ましい。またSn-Ag-Cu系はんだは、信頼性が高く、濡れ性が良好であるので好ましい。
【0017】
はんだ粉末の融点は、好ましくは80℃以上である。これにより、多種多様なはんだ粉末の使用が可能である。はんだ粉末の融点の上限値は、特に限定されないが、例えば、部品(表面実装部品)の耐熱温度である。具体的には、はんだ粉末の融点の上限値は、例えば300℃である。
【0018】
はんだ粉末の粒子径分布の範囲は、好ましくは10μm以上40μm以下の範囲内である。はんだ粉末の粒子径が10μm以上であることで、はんだ組成物の粘度の上昇が抑えられ、印刷性を確保することができる。はんだ粉末の粒子径が40μm以下であることで、基板のランド又はパッドがファインピッチであっても、このようなランド等へのはんだ組成物の供給が可能となる。
【0019】
はんだ粉末の含有量は、はんだ組成物の全質量に対して、好ましくは80質量%以上90質量%以下の範囲内である。はんだ粉末の含有量が80質量%以上であることで、はんだ接合部の導電性が向上し得る。はんだ粉末の含有量が90質量%以下であることで、補強部によるはんだ接合部の補強効果が向上し得る。
【0020】
≪熱硬化性樹脂≫
熱硬化性樹脂は、はんだ組成物に熱硬化性を付与し得る。熱硬化性樹脂は、硬化物となって、はんだ接合部の周囲に補強部を形成する。
【0021】
熱硬化性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、及びポリイミド樹脂が挙げられる。好ましくは、熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂を含む。これにより、熱硬化性樹脂がフラックス作用を有しやすくなる。エポキシ樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ビスフェノールF型エポキシ樹脂が挙げられる。好ましくは、熱硬化性樹脂は、常温において液状である。これにより、はんだ組成物を常温においてペースト状にしやすくなる。
【0022】
≪カルボン酸≫
カルボン酸は、フラックス作用を有する。フラックス作用として、例えば、清浄化作用、酸化防止作用、及び表面張力低下作用が挙げられる。
【0023】
清浄化作用は、はんだ粉末の酸化膜を取り除いたり、基板のランド等の表面の異物を取り除いたりする作用である。基板のランド等にはんだ組成物が印刷される。
【0024】
酸化防止作用は、はんだ接合部の酸化を防止する作用である。
【0025】
表面張力低下作用は、溶融したはんだ粉末が丸くなることを抑える作用である。はんだの表面張力を低下させることで、はんだの濡れ性が良好になる。
【0026】
カルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、グルタル酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ブチリック酸、バレリック酸、カプロン酸、エナント酸、カプリン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ツベルクロステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸、リグノセリン酸、グリコール酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、ジグリコール酸、ダイマー酸、レブリン酸、乳酸、アクリル酸、安息香酸、サリチル酸、アニス酸、クエン酸、及びピコリン酸が挙げられる。
【0027】
カルボン酸が粉末であれば、好ましくは120メッシュ(目開き125μm)、より好ましくは150メッシュ(目開き100μm)を通過するものが好ましい。これにより、基板のランド等がファインピッチであっても、このようなランド等へのはんだ組成物の印刷量がばらつくことを抑制し得る。またカルボン酸のフラックス作用の低減も抑制し得る。
【0028】
カルボン酸の含有量は、フラックス組成物の全質量に対して、好ましくは6.0質量%以上15.0質量%以下の範囲内である。カルボン酸の含有量が6.0質量%以上であることで、カルボン酸のフラックス作用が向上し得る。カルボン酸の含有量が15.0質量%以下であることで、はんだ組成物の保存時においては、はんだ粉末の凝集が抑制される。さらにはんだ組成物を部品と基板との接合に用いた場合には、はんだ接合部などの金属の腐食が抑制される。
【0029】
≪アミン≫
アミンは、カルボン酸の活性化作用を有する。すなわち、アミンは、カルボン酸のフラックス作用を活性化する作用を有する。これにより、はんだ組成物中のカルボン酸の含有量を減らすことができる。カルボン酸は、熱硬化性樹脂と反応しないので、はんだ組成物中のカルボン酸の含有量は、少ないほど好ましい。カルボン酸の含有量が少なくても、加熱時(例えばリフロー時)にはアミンが共存することで、フラックス作用は確保される。
【0030】
さらにアミンは、熱硬化性樹脂(特にエポキシ樹脂)の硬化剤としても機能し得る。
【0031】
アミンとしては、特に限定されないが、例えば、トリエタノールアミン、及びトリプロピルアミンが挙げられる。ただし、本実施形態において、アミンにはイミダゾールは含まれない。
【0032】
アミンには、第一級アミン、第二級アミン、及び第三級アミンが含まれる。好ましくは第三級アミンである。第三級アミンは、第一級アミン及び第二級アミンに比べて、熱硬化性樹脂(特にエポキシ樹脂)との反応性が低いので、はんだ組成物の粘度の上昇を抑制することができる。
【0033】
アミンの含有量は、フラックス組成物の全質量に対して、好ましくは1.0質量%以上1.5質量%以下の範囲内である。アミンの含有量が1.0質量%以上であることで、カルボン酸のフラックス作用を十分に引き出し得る。アミンの含有量が1.5質量%以下であることで、はんだ組成物の保存時における熱硬化性樹脂との反応が抑制される。
【0034】
≪アミン不活性化剤≫
アミン不活性化剤は、アミンを不活性化する作用(アミン不活性化作用)を有する。すなわち、アミン不活性化剤は、アミンとカルボン酸との反応を一時的に抑制する作用を有する。これにより、カルボン酸がはんだ粉末と反応してカルボン酸塩を生成することを抑制することができる。カルボン酸塩の生成が抑制されると、はんだ粉末が凝集しにくくなる。したがって、はんだ組成物の保存安定性を高めることができる。
【0035】
アミン不活性化剤は、アミンと水素結合可能なOH基を有する。これにより、アミン不活性化剤は、アミンと水素結合を形成し、アミンを一時的に不活性化する。アミン不活性化剤とアミンとの水素結合は、常温以下では解離しにくい。そのため、常温以下ではアミンとカルボン酸との反応が抑制される。その結果、上述のように、はんだ組成物の保存安定性を高めることができる。一方、アミン不活性化作用は、一時的な作用である。はんだ組成物の温度が上昇すると、アミン不活性化剤とアミンとの水素結合は解離しやすくなる。これにより遊離したアミンは、カルボン酸を活性化する。活性化されたカルボン酸は、フラックス作用を発揮することができる。
【0036】
アミン不活性化剤は、特に限定されないが、好ましくは1分子中に複数のベンゼン環を有する。これにより、はんだ粉末の凝集を更に抑制することができる。
【0037】
より好ましくは、アミン不活性化剤は、下記式(1)で表される化合物(液状フェノール樹脂)、及び/又は下記式(2)で表される化合物(1,3:2,4-ビス-O-ベンジリデン-D-グルシトール(ジベンジリデンソルビトール))を含む。これにより、はんだ粉末の凝集を更に抑制することができる。
【0038】
【0039】
アミン不活性化剤の含有量は、アミンの全質量に対して、好ましくは0.3質量%以上120質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上100質量%以下、さらに好ましくは1質量%以上80質量%以下の範囲内である。アミン不活性化剤の含有量が0.3質量%以上であることで、はんだ組成物の保存安定性を更に高めることができる。アミン不活性化剤の含有量が120質量%以下であることで、はんだ組成物のリフロー時でのソルダボールの発生を抑制することができる。アミン不活性化剤の含有量が少ないほど、ソルダボールが発生しにくくなる。なお、ソルダボールとは、リフロー時にはんだ粉末が一塊にならずに部品などの周辺にボール状に残ったものをいう。
【0040】
≪チクソ性付与剤≫
チクソ性付与剤は、はんだ組成物にチクソ性を付与する。これにより、はんだ組成物の印刷性を向上させることができる。
【0041】
チクソ性付与剤としては、特に限定されないが、例えば、硬化ヒマシ油、ポリアミド類、ビスアマイド類、ジベンジリデンソルビトール、カオリン、コロイダルシリカ、有機ベントナイト、ガラスフリットなどが挙げられる。好ましくはアミド系ワックスであり、より好ましくはヒドロキシ脂肪酸アミドであり、さらに好ましくはN-ヒドロキシエチル-12-ヒドロキシステアリルアミドである。
【0042】
チクソ性付与剤の含有量は、フラックス組成物の全質量に対して、好ましくは1.5質量%以上3.0質量%以下の範囲内である。これにより、良好な印刷性を得つつ、印刷時の垂れを抑制することができる。
【0043】
≪イミダゾール≫
イミダゾールとしては、特に限定されないが、例えば、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物、及び2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾールが挙げられる。
【0044】
<調製方法>
本実施形態に係るはんだ組成物は、例えば、以下のようにして調製することができる。なお、以下では、チクソ性付与剤及びイミダゾールを使用しているが、これらは使用しなくてもよい。
【0045】
まず熱硬化性樹脂とチクソ性付与剤とを混合して加温し、チクソ性付与剤を溶解させて第1混合物を得る。このときの温度は、チクソ性付与剤が溶解する温度でよい。
【0046】
一方、アミンとアミン不活性化剤とを混合して第2混合物を得る。このときアミン不活性化剤が常温で液状であれば、そのまま常温でアミンと混合してもよい。アミン不活性化剤が常温で固形であれば、アミン不活性化剤の融点を超える温度で加温しながらアミンと混合してもよい。
【0047】
次に第1混合物、第2混合物、カルボン酸、及イミダゾールを混合し、混練機で混練することによりフラックス組成物を得る。
【0048】
その後、このフラックス組成物にはんだ粉末を投入し、引き続き混練することにより、はんだ組成物が得られる。なお、混練機としては、特に限定されないが、例えば、プラネタリーミキサーが挙げられる。
【0049】
<用途>
本実施形態に係るはんだ組成物は、例えば、表面実装方式により部品を基板に固定するために用いられる。表面実装方式のプロセスは、印刷工程、部品搭載工程、及びリフローはんだ付け工程を含む。
【0050】
印刷工程では、プリント配線板等の基板のランド等にはんだ組成物がスクリーン印刷等により印刷される。この工程ではアミンが不活性化されているので、はんだ粉末の凝集が抑制されており、はんだ組成物の印刷性は良好である。
【0051】
部品搭載工程では、印刷後の基板に部品が搭載される。基板のランド等に部品の電極を載せる。この工程までアミンの不活性化は維持され得る。
【0052】
リフローはんだ付け工程では、部品が搭載された基板を炉に入れて加熱する。これにより、部品と基板とが接合によって接合される。この工程では、アミンが活性化され、さらにアミンによってカルボン酸も活性化される。これによりフラックス作用が発揮され、溶融したはんだ粉末が円滑に一体化し得る。
【0053】
なお、はんだ組成物は、サーマル・インターフェース・マテリアル(TIM)としても利用可能である。
【0054】
(3)態様
上記実施形態から明らかなように、本開示は、下記の態様を含む。
【0055】
第1の態様は、はんだ組成物であって、はんだ粉末と、熱硬化性樹脂と、カルボン酸と、アミンと、アミン不活性化剤と、を含有する。前記アミン不活性化剤は、前記アミンと水素結合可能なOH基を有する。
【0056】
この態様によれば、保存安定性を高めることができる。
【0057】
第2の態様は、第1の態様に基づくはんだ組成物である。第2の態様では、前記アミン不活性化剤の含有量が、前記アミンの全質量に対して、0.3質量%以上120質量%以下の範囲内である。
【0058】
この態様によれば、保存安定性を更に高めることができる。
【0059】
第3の態様は、第1又は第2の態様に基づくはんだ組成物である。第3の態様では、前記アミン不活性化剤が、1分子中に複数のベンゼン環を有する。
【0060】
この態様によれば、はんだ粉末の凝集を更に抑制することができる。
【0061】
第4の態様は、第1~第3の態様のいずれか一つに基づくはんだ組成物である。第4の態様では、前記アミン不活性化剤が、下記式(1)で表される化合物、及び/又は下記式(2)で表される化合物を含む。
【0062】
【0063】
この態様によれば、はんだ粉末の凝集を更に抑制することができる。
【0064】
第5の態様は、第1~第4の態様のいずれか一つに基づくはんだ組成物である。第5態様では、前記はんだ粉末の融点が80℃以上である。
【0065】
この態様によれば、多種多様なはんだ粉末の使用が可能である。
【0066】
第6の態様は、第1~第5の態様のいずれか一つに基づくはんだ組成物である。第6態様では、前記熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂を含む。
【0067】
この態様によれば、熱硬化性樹脂がフラックス作用を有しやすくなる。
【0068】
第7の態様は、第1~第6の態様のいずれか一つに基づくはんだ組成物である。第7態様では、チクソ性付与剤を更に含有する。
【0069】
この態様によれば、はんだ組成物にチクソ性を付与し、印刷性を向上させることができる。
【実施例】
【0070】
以下、本開示を実施例によって具体的に説明する。ただし、本開示は、実施例に限定されない。
【0071】
<はんだ組成物>
はんだ組成物の調製に用いた材料は、以下のとおりである。
【0072】
≪はんだ粉末≫
はんだ粉末1:Sn-Bi系はんだ(Sn42Bi58、融点139℃、粒子径分布10~25μm)
はんだ粉末2:Sn-Ag-Cu系はんだ(Sn96.5Ag3Cu0.5、通称SAC305、融点219℃、平均粒子径10~25μm)
【0073】
≪熱硬化性樹脂≫
エポキシ樹脂:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、グレード「806」、エポキシ当量160~170g/eq、常温で液状)
【0074】
≪イミダゾール≫
イミダゾール1:四国化成工業株式会社製、製品名「2MA-OK」、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物
イミダゾール2:四国化成工業株式会社製、製品名「2PHZ」、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール
【0075】
≪カルボン酸≫
グルタル酸、120メッシュの篩を通過したもの
【0076】
≪アミン≫
アミン1:トリエタノールアミン
アミン2:トリプロピルアミン
【0077】
≪アミン不活性化剤≫
式(1)で表される化合物:明和化成株式会社製、液状フェノール樹脂、製品名「MEH-8000H」、OH当量139~143g/eq
式(2)で表される化合物:新日本理化株式会社製、製品名「ゲルオールD」、1,3:2,4-ビス-O-ベンジリデン-D-グルシトール(ジベンジリデンソルビトール)
【0078】
≪チクソ性付与剤≫
ヒドロキシ脂肪酸アミド(伊藤製油株式会社製、品名「ITOHWAX J-420」、フレーク状、N-ヒドロキシエチル-12-ヒドロキシステアリルアミド、融点105℃、酸価5.0mgKOH/g以下、水酸基価295mgKOH/g)
【0079】
<調製方法>
まず熱硬化性樹脂とチクソ性付与剤とを120℃に加温し、チクソ性付与剤を溶解させて第1混合物を得た。一方、アミンとアミン不活性化剤とを混合して第2混合物を得た。混合温度は、式(1)で表される化合物を用いた場合は常温であり、式(2)で表される化合物を用いた場合は120℃である。次に第1混合物、第2混合物、カルボン酸、及イミダゾールを混合し、プラネタリーミキサーで混練することによりフラックス組成物を得た。その後、このフラックス組成物にはんだ粉末を投入し、引き続き混練することにより、はんだ組成物を得た。なお、はんだ組成物の配合は、表1のとおりである。
【0080】
<評価項目>
はんだ組成物について、以下の試験を行った。
【0081】
≪ソルダボール試験≫
JIS Z 3284 附属書11に準拠して、ソルダボール試験を行った。実施例1~5、7、8については、はんだ組成物を160℃に加熱した。実施例6については、はんだ組成物を240℃に加熱した。
【0082】
A:はんだの凝集度合が1~3
B:はんだの凝集度合が4~5
【0083】
≪はんだ凝集≫
はんだ組成物を調製してから48時間常温にて放置した後、はんだ粉末の凝集の有無を確認した。
【0084】
A:はんだ粉末の凝集が見られなかった
B:平均粒子径100μm以下のはんだ粉末の凝集粒子が見られた
C:平均粒子径100μm超のはんだ粉末の凝集粒子が見られた
【0085】
≪ペーストライフ≫
はんだ組成物を調製した後、粘度(η1)を測定した。このはんだ組成物を48時間常温にて放置した後、再度粘度(η2)を測定した。なお、粘度測定は、E型粘度計を用いて、25℃、回転数0.5rpmにて行った。
【0086】
A:粘度の上昇が1.2倍以下である(η2/η1≦1.2)
B:粘度の上昇が1.2倍超1.5倍以下である(1.2<η2/η1≦1.5)
C:粘度の上昇が1.5倍超である((1.5<η2/η1))
【0087】