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特許7437695熱硬化性組成物、硬化物、機器、及び機器の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】熱硬化性組成物、硬化物、機器、及び機器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/66 20060101AFI20240216BHJP
   C08F 283/10 20060101ALI20240216BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20240216BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240216BHJP
   C08K 5/55 20060101ALI20240216BHJP
   C09J 4/00 20060101ALI20240216BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
C08G59/66
C08F283/10
C08L63/00 C
C08K3/013
C08K5/55
C09J4/00
C09J163/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020129617
(22)【出願日】2020-07-30
(65)【公開番号】P2022026245
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 遥
(72)【発明者】
【氏名】猿渡 崇史
(72)【発明者】
【氏名】篠▲崎▼ 裕樹
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/052021(WO,A1)
【文献】特開2018-172565(JP,A)
【文献】特開2020-045435(JP,A)
【文献】特開2000-154226(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00-59/72
C08F 283/10
C08L 63/00-63/10
C08K 3/013
C08K 5/55
C09J 4/00
C09J 163/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂(A)と、
一分子中に少なくとも二つのチオール基を有するチオール化合物(B)と、
ラジカル重合性化合物(C)と、
光ラジカル重合開始剤(D)と、
ラジカル捕捉剤(E)と、を含有し、
前記エポキシ樹脂(A)のエポキシ基1当量に対する前記チオール化合物(B)のチオール基の当量が0.80以上10.0以下である、
熱硬化性組成物。
【請求項2】
硬化触媒(F)を更に含有する、
請求項1に記載の熱硬化性組成物。
【請求項3】
前記硬化触媒(F)は、マイクロカプセル型潜在性硬化触媒(F1)を含有する、
請求項2に記載の熱硬化性組成物。
【請求項4】
有機ホウ酸化合物(G)を更に含有する、
請求項3に記載の熱硬化性組成物。
【請求項5】
カルボジイミド化合物(H)を更に含有する、
請求項1から4のいずれか一項に記載の熱硬化性組成物。
【請求項6】
無機充填材(I)を更に含有する、
請求項1から5のいずれか一項に記載の熱硬化性組成物。
【請求項7】
接着剤である、
請求項1から6のいずれか一項に記載の熱硬化性組成物。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の熱硬化性組成物を硬化させて得られる、
硬化物。
【請求項9】
第一の部品と、第二の部品と、前記第一の部品と前記第二の部品の間に介在して前記第一の部品と前記第二の部品とを接着する硬化物とを備え、
前記硬化物は、請求項1から7のいずれか一項に記載の熱硬化性組成物を硬化させて得られる、
機器。
【請求項10】
第一の部品と、第二の部品と、前記第一の部品と前記第二の部品の間に介在して前記第一の部品と前記第二の部品とを接着する硬化物とを備える機器の製造方法であり、
前記第一の部品と前記第二の部品との間に請求項1から7のいずれか一項に記載の熱硬化性組成物を介在させ、
前記熱硬化性組成物に光を照射することで前記第一の部品と前記第二の部品とを仮接着した後、前記熱硬化性組成物を加熱することで前記硬化物を作製することを含む、
機器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱硬化性組成物、硬化物、機器、及び機器の製造方法に関し、詳しくはエポキシ樹脂とチオール化合物とを含有する熱硬化性組成物、この熱硬化性組成物を硬化させて得られる硬化物、この熱硬化性組成物を用いて製造される機器、及びこの熱硬化性組成物を用いる機器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
接着剤の一種として、エポキシ樹脂とチオール化合物とを含有する接着剤がある(特許文献1参照)。この種の接着剤は低温硬化性に優れ、かつその硬化物は柔軟性を有しやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-123824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エポキシ樹脂とチオール化合物とを含有する接着剤は、エポキシ樹脂とチオール化合物との熱による反応性が高いため、保存安定性が悪く、かつエポキシ樹脂とチオール化合物は光反応性を有さないため仮接着できない。そのためこの種の接着剤をアラインメント精度が必要とされる用途に適用しにくかった。
【0005】
本発明の課題は、エポキシ樹脂とチオール化合物とを含有し、仮接着が可能であり、かつ保存安定性の良好な熱硬化性組成物、この熱硬化性組成物を硬化させて得られる硬化物、この熱硬化性組成物を用いて製造される機器、及びこの熱硬化性組成物を用いる機器の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る熱硬化性組成物は、エポキシ樹脂(A)と、一分子中に少なくとも二つのチオール基を有するチオール化合物(B)と、ラジカル重合性化合物(C)と、光ラジカル重合開始剤(D)と、ラジカル捕捉剤(E)とを含有する。
【0007】
本発明の一態様に係る硬化物は、前記熱硬化性組成物を硬化させて得られる。
【0008】
本発明の一態様に係る機器は、第一の部品と、第二の部品と、前記第一の部品と前記第二の部品の間に介在して前記第一の部品と前記第二の部品とを接着する硬化物とを備え、前記硬化物は、前記熱硬化性組成物を硬化させて得られる。
【0009】
本発明の一態様に係る機器の製造方法は、第一の部品と、第二の部品と、前記第一の部品と前記第二の部品の間に介在して前記第一の部品と前記第二の部品とを接着する硬化物とを備える機器の製造方法であり、前記第一の部品と前記第二の部品との間に前記熱硬化性組成物を介在させ、前記熱硬化性組成物に光を照射することで前記第一の部品と前記第二の部品とを仮接着した後、前記熱硬化性組成物を加熱することで前記硬化物を作製することを含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によると、エポキシ樹脂とチオール化合物とを含有し、仮接着が可能であり、かつ保存安定性の良好な熱硬化性組成物、この熱硬化性組成物を硬化させて得られる硬化物、この熱硬化性組成物を用いて製造される機器、及びこの熱硬化性組成物を用いる機器の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
まず、本発明の完成に至るまでの経緯の概略について説明する。
【0012】
カメラモジュールなどの精密機器の部品を接着する場合には、耐熱性の低い部品を使用することが多く、また接着時の温度変化による寸法変化を避ける必要性が高いため、低温で硬化可能な熱硬化性の接着剤がよく使用される。また、精密機器が落下による衝撃に耐えうるように、接着剤の硬化物の弾性率は低いことが好ましい。発明者は、これらの要求を満たしうる接着剤として、エポキシ樹脂とチオール化合物とを含有する熱硬化性組成物を使用することを検討した。
【0013】
しかし、エポキシ樹脂とチオール化合物とは低温で反応させることが可能な反面、保存安定性が悪い。また、アライメント精度が用いられる用途には、接着剤を光硬化させることで仮固定をすることがあるが、エポキシ樹脂とチオール化合物とのみでは光硬化による仮接着を行うことが難しいという問題があった。そのため、このような熱硬化性組成物を高いアラインメント精度が求められる精密機器用途に適用することは難しかった。
【0014】
発明者は、熱硬化性組成物に光硬化性を付与することで、熱硬化性組成物をまず光硬化させて仮接着し、続いて熱硬化させることで接着強度を確保することを、検討した。
【0015】
しかし、熱硬化性組成物に光硬化性を付与するためにラジカル反応性の化合物を含有させると、熱硬化性組成物の保存安定性が著しく低下することが判明した。
【0016】
そこで、発明者は、エポキシ樹脂とチオール化合物とを含有し、仮接着が可能であり、かつ保存安定性の良好な熱硬化性組成物を提供すべく、鋭意研究開発を行った結果、本発明の完成に至った。
【0017】
なお、本発明は上記の経緯により完成したものではあるが、本発明に係る熱硬化性組成物は、接着剤として用いた場合、いかなる物を接着するために用いてもよく、すなわち熱硬化性組成物の用途は、カメラモジュール等の精密機器における部品を接着することのみには限られない。また、本発明の係る熱硬化性組成物は、仮接着を行わない用途に適用されてもよい。また、本発明に係る熱硬化性組成物は、接着剤として用いることが好ましいが、接着剤以外の用途に適用してもよく、例えば電子部品の封止剤等として用いてもよい。
【0018】
以下、本発明の一実施形態について説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の様々な実施形態の一つに過ぎない。以下の実施形態は、本発明の目的を達成できれば設計に応じて種々の変更が可能である。
【0019】
本実施形態に係る熱硬化性組成物(以下、組成物(X)ともいう)は、エポキシ樹脂(A)と、一分子中に少なくとも二つのチオール基を有するチオール化合物(B)と、ラジカル重合性化合物(C)と、光ラジカル重合開始剤(D)と、ラジカル捕捉剤(E)とを含有する。
【0020】
このため、組成物(X)を露光すると、ラジカル重合性化合物(C)と光ラジカル重合開始剤(D)との作用、及びチオール化合物(B)とラジカル重合性化合物(C)と光ラジカル重合開始剤(D)との作用により、組成物(X)を硬化させることで、仮接着が可能である。また、組成物(X)がラジカル捕捉剤(E)を含有することで、組成物(X)の保存安定性が向上する。その理由は、次のとおりであると推察される。チオール化合物(B)は、エポキシ樹脂(A)と反応しうるだけでなく、ラジカル重合性化合物(C)とも反応しやすい。そのため、エポキシ樹脂(A)及びチオール化合物(B)が混在する系にラジカル重合性化合物(C)が加えられると、チオール化合物(B)とラジカル重合性化合物(C)との反応によって、保存安定性が悪化してしまう。しかし、系がラジカル捕捉剤(E)を更に含むと、ラジカル捕捉剤(E)が系内のラジカルを捕捉することで、チオール化合物(B)とラジカル重合性化合物(C)との反応が抑制される。このような機序により、組成物(X)の保存安定性が高められると考えられる。すなわち、本実施形態では、ラジカル捕捉剤(E)は単にラジカル重合性化合物(C)の反応を抑制するだけでなく、チオール化合物(B)とラジカル重合性化合物(C)との反応を抑制することで、保存安定性を向上したものである。
【0021】
組成物(X)の成分について、更に具体的に説明する。
【0022】
上記のとおり、組成物(X)は、エポキシ樹脂(A)とチオール化合物(B)とを含有する。このため、組成物(X)を比較的低い温度で硬化させることが可能である。また、組成物(X)を硬化させて得られる硬化物は、エポキシ樹脂(A)とチオール化合物(B)の各々の種類及び配合量が適宜設定されることで、低い弾性率を有することができる。例えば硬化物の弾性率が1500MPa以下、好ましくは1000MPa以下、より好ましくは500MPa以下であることも、実現可能である。
【0023】
エポキシ樹脂(A)は、エポキシ基を有する化合物であればよい。エポキシ樹脂(A)は、一分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物を含有することが好ましい。
【0024】
エポキシ樹脂(A)は、例えばビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、カテコール、レゾルシノールなどの多価フェノール、グリセリン、及びポリエチレングリコールなどの多価アルコールと、エピクロロヒドリンとを反応させて得られるポリグリシジルエーテル;p-ヒドロキシ安息香酸、β-ヒドロキシナフトエ酸などのヒドロキシカルボン酸とエピクロロヒドリンとを反応させて得られるグリシジルエーテルエステル;フタル酸、テレフタル酸などのポリカルボン酸とエピクロロヒドリンとを反応させて得られるポリグリシジルエステル;並びにエポキシ化フェノールノボラック樹脂、エポキシ化クレゾールノボラック樹脂、エポキシ化ポリオレフィン、環式脂肪族エポキシ樹脂、及びその他ウレタン変性エポキシ樹脂等からなる群から選択される少なくとも一種を含有する。
【0025】
エポキシ樹脂(A)は、特にビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、芳香族グリシジルアミン型エポキシ樹脂、及びジシクロペンタジエン構造を有するエポキシ樹脂からなる群から選ばれる少なくとも一種を含有することが好ましい。
【0026】
なお、エポキシ樹脂(A)が含有する成分は前記のみには限られない。
【0027】
エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量は、例えば、50g/eq以上1000g/eqである。エポキシ当量は70g/eq以上であればより好ましく、100g/eq以上であれば更に好ましい。また、エポキシ当量は700g/eq以下であればより好ましく、500g/eq以下であれば更に好ましい。
【0028】
エポキシ樹脂(A)とチオール化合物(B)とラジカル重合性化合物(C)との合計に対するエポキシ樹脂(A)の割合は、例えば5質量%以上、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上である。またこの割合は、例えば70質量%以下、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。
【0029】
チオール化合物(B)は、一分子中に少なくとも二つのチオール基を有する化合物であればよい。チオール化合物(B)は、一分子中にチオール基を3個以上6個以下有する化合物を含有することが好ましい。
【0030】
エポキシ樹脂(A)のエポキシ基1当量に対するチオール化合物(B)のチオール基の当量は、0.50以上10.0以下であることが好ましい。この当量は0.75以上5.0以下であればより好ましく、0.80以上3.0以下であれば更に好ましい。また、エポキシ樹脂(A)100質量部に対するチオール化合物(B)の量は、例えば1質量部以上200質量部以下、好ましくは5質量部以上200質量部以下、より好ましくは50質量部以上150質量部以下である。
【0031】
チオール化合物(B)は、例えばポリオールとメルカプト有機酸とのエステルを含有する。このエステルは、部分エステルと完全エステルとのうち少なくとも一方を含有する。
【0032】
ポリオールは、例えばエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール及びジペンタエリスリトール等からなる群から選択される少なくとも一種を含む。
【0033】
メルカプト有機酸は、メルカプト脂肪族モノカルボン酸、ヒドロキシ酸とメルカプト有機酸とのエステル化反応によって得られるチオール基及びカルボキシ基を含有するエステル、メルカプト脂肪族ジカルボン酸、及びメルカプト芳香族モノカルボン酸等からなる群から選択される少なくとも一種を含む。メルカプト脂肪族モノカルボン酸は、例えばメルカプト酢酸;3-メルカプトプロピオン酸等のメルカプトプロピオン酸;3-メルカプト酪酸及び4-メルカプト酪酸等のメルカプト酪酸等からなる群から選択される少なくとも一種を含む。メルカプト脂肪族モノカルボン酸の炭素数は、好ましくは2~8、より好ましくは2~6、さらに好ましくは2~4、特に好ましくは3である。炭素数が2~8のメルカプト脂肪族モノカルボン酸は、例えばメルカプト酢酸、3-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプト酪酸及び4-メルカプト酪酸からなる群から選択される少なくとも一種を含む。メルカプト脂肪族ジカルボン酸は、例えばメルカプトコハク酸、及び2,3-ジメルカプトコハク酸等のジメルカプトコハク酸等からなる群から選択される少なくとも一種を含む。メルカプト芳香族モノカルボン酸は、例えば4-メルカプト安息香酸等のメルカプト安息香酸を含む。
【0034】
ポリオールとメルカプト有機酸との部分エステルは、例えばトリメチロールプロパン ビス(メルカプトアセテート)、トリメチロールプロパン ビス(3-メルカプトプロピオナート)、トリメチロールプロパン ビス(3-メルカプトブチラート)、トリメチロールプロパン ビス(4-メルカプトブチラート)、ペンタエリスリトール トリス(メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトール トリス(3-メルカプトプロピオナート)、ペンタエリスリトール トリス(3-メルカプトブチラート)、ペンタエリスリトール トリス(4-メルカプトブチラート)、ジペンタエリスリトール テトラキス(メルカプトアセテート)、ジペンタエリスリトール テトラキス(3-メルカプトプロピオナート)、ジペンタエリスリトール テトラキス(3-メルカプトブチラート)、及びジペンタエリスリトール テトラキス(4-メルカプトブチラート)等からなる群から選択される少なくとも一種を含む。
【0035】
ポリオールとメルカプト有機酸との完全エステルは、例えばエチレングリコール ビス(メルカプトアセテート)、エチレングリコール ビス(3-メルカプトプロピオナート)、エチレングリコール ビス(3-メルカプトブチラート)、エチレングリコール ビス(4-メルカプトブチラート)、トリメチロールプロパン トリス(メルカプトアセテート)、トリメチロールプロパン トリス(3-メルカプトプロピオナート)、トリメチロールプロパン トリス(3-メルカプトブチラート)、トリメチロールプロパン トリス(4-メルカプトブチラート)、ペンタエリスリトール テトラキス(メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトール テトラキス(3-メルカプトプロピオナート)、ペンタエリスリトール テトラキス(3-メルカプトブチラート)、ペンタエリスリトール テトラキス(4-メルカプトブチラート)、ジペンタエリスリトール ヘキサキス(メルカプトアセテート)、ジペンタエリスリトール ヘキサキス(3-メルカプトプロピオナート)、ジペンタエリスリトール ヘキサキス(3-メルカプトブチラート)、ジペンタエリスリトール ヘキサキス(4-メルカプトブチラート)等が挙げられる。好ましくは、ペンタエリスリトール テトラキス(3-メルカプトプロピオナート)、ペンタエリスリトール テトラキス(3-メルカプトブチラート)、ジペンタエリスリトール ヘキサキス(3-メルカプトプロピオナート)及びトリメチロールプロパン トリス(3-メルカプトプロピオナート)からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む。
【0036】
チオール化合物(B)は、例えば、トリス[(3-メルカプトプロピオニルオキシ)-エチル]-イソシアヌレート、1,3,5-トリス(3-メルカプトブチルオキシエチル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン等を含有してもよい。
【0037】
チオール化合物(B)は、上記以外の化合物を含有してもよい。例えばチオール化合物(B)は、1,4-ブタンジチオール、1,6-ヘキサンジチオール、1,8-オクタンジチオール、1,10-デカンジチオール、3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール、及びビス-2-メルカプトエチルスルフィド等からなる群から選択される少なくとも一種を含有してもよい。チオール化合物(B)は、トリス(3-メルカプトプロピル)イソシアヌレート及び1,3,4,6-テトラキス(2-メルカプトエチル)グリコールウリル等からなる群から選択される少なくとも一種を含有してもよい。
【0038】
ラジカル重合性化合物(C)は、組成物(X)に光硬化性を付与できる。ラジカル重合性化合物(C)は、例えばアクリロイル基とメタクリロイル基とのうち少なくとも一方を有する化合物(以下、アクリル化合物という)と、ビニル基を有する化合物(以下、ビニル化合物という)とのうち、少なくとも一方を含有する。
【0039】
アクリル化合物は、例えばトリメチロールプロパントリアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジアクリレート、アクリロイルモルフォリン、テトラヒドロフルフリルアクリレート、及び4-ヒドロキシブチルアクリレート等からなる群から選択される少なくとも一種を含有する。
【0040】
ビニル化合物は、トリアリルイソシアヌレート、アリルグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル等からなる群から選択される少なくとも一種を含有する。
【0041】
エポキシ樹脂(A)とチオール化合物(B)とラジカル重合性化合物(C)との合計に対するラジカル重合性化合物(C)の割合は、5質量%以上30質量%以下であることが好ましい。この割合が5質量%以上であると、組成物(X)に十分な光硬化性が付与され、組成物(X)を用いた仮接着が実現されやすい。この割合が30質量%以下であると、組成物(X)の熱硬化後の接着強度を高くできる。この割合は8質量%以上であることがより好ましく、12質量%以上であれば更に好ましい。またこの割合は25質量%以下であればより好ましく、20質量%以下であれば更に好ましい。
【0042】
光ラジカル重合開始剤(D)は、例えば芳香族ケトン類、アシルフォスフィンオキサイド化合物、芳香族オニウム塩化合物、有機過酸化物、チオ化合物(チオキサントン化合物、チオフェニル基含有化合物など)、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、及びアルキルアミン化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有する。
【0043】
ラジカル重合性化合物(C)に対する光ラジカル重合開始剤(D)の割合は、1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。この割合が1質量%以上であることで、組成物(X)に、仮接着のための十分な光硬化性を付与できる。また、この割合が10質量%以下であることで、組成物(X)の塗膜に光を照射した場合に塗膜を深部まで硬化させやすくできる。この割合は3質量%以上であればより好ましく、5質量%以上であれば更に好ましい。またこの割合は10質量%以下であればより好ましく、8質量%以下であれば更に好ましい。
【0044】
ラジカル捕捉剤(E)は、例えばニトロキシド化合物とカルボニルチオ化合物とのうち少なくとも一方を含有する。ニトロキシド化合物(F)は、例えば、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジンオキシフリーラジカル(TEMPO)、4-アセトアミド-2,2,6,6-テトラエチルピペリジン-1-オキシフリーラジカル、4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシフリーラジカル、4-カルボキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシフリーラジカル、4-オキソ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシフリーラジカル、4-メタクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシフリーラジカル、及び[[N,N’-[アダマンタン-2-イリデンビス(1,4-フェニレン)]ビス(tert-ブチルアミン)]-N,N’-ジイルビスオキシ]ラジカルからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有できる。
【0045】
組成物(X)全量に対するラジカル捕捉剤(E)の割合は、0.01質量%以上0.6質量%以下であることが好ましい。この割合が0.01質量%以上であると、組成物(X)の保存安定性が特に高まりやすい。また、この割合が0.6質量%以下であると、組成物(X)を光硬化させる際の良好な反応性が得られやすい。この割合は0.03質量%以上であることがより好ましく、0.05質量%以上であれば更に好ましい。また、この割合は0.3質量%以下であることがより好ましく、0.2質量%以下であれば更に好ましい。
【0046】
組成物(X)は、硬化触媒(F)を含有してもよい。この場合、硬化触媒(F)は組成物(X)を加熱した際のエポキシ樹脂(A)とチオール化合物(B)との反応を促進して、組成物(X)の硬化性を高めることができる。
【0047】
硬化触媒(F)は、例えばイミダゾール類、シクロアミジン類、第3級アミン類、有機ホスフィン類、テトラ置換ホスホニウム・テトラ置換ボレート、ボレート以外の対アニオンを持つ4級ホスホニウム塩、及びテトラフェニルボロン塩等からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有する。
【0048】
硬化触媒(F)は、潜在性硬化触媒を含有することが好ましい。この場合、加熱されていない状態での組成物(X)中のエポキシ樹脂(A)とチオール化合物(B)との反応を抑制し、組成物(X)の保存安定性を高めることができる。潜在性硬化触媒は、液状潜在性硬化促進剤と固体分散型潜在性硬化促進剤とのうち少なくとも一方を含有できる。例えば硬化触媒(F)は、マイクロカプセル型潜在性硬化触媒(F1)を含有することが好ましい。マイクロカプセル型潜在性硬化触媒(F1)は、触媒活性を有する化合物からなるコアと、コアを覆うエポキシ樹脂などからなるシェルとを備える。マイクロカプセル型潜在性硬化触媒(F1)は、例えば触媒活性を有する化合物としてイミダゾール類を含むマイクロカプセル化イミダゾールを含有する。
【0049】
エポキシ樹脂(A)とチオール化合物(B)との合計に対する硬化触媒(F)の割合は、例えば3質量%以上20質量%以下である。この割合は5質量%以上であればより好ましく、8質量%以上であれば更に好ましい。またこの割合は15質量%以下であればより好ましく、12質量%以下であれば更に好ましい。
【0050】
組成物(X)がマイクロカプセル型潜在性硬化触媒(F1)を含有する場合、組成物(X)は、有機ホウ酸化合物(G)を更に含有することが好ましい。この場合、組成物(X)の保存安定性が更に高まりやすい。詳しくは、組成物(X)がマイクロカプセル型潜在性硬化触媒(F1)を含有するだけでは、マイクロカプセル型潜在性硬化触媒(F1)は、組成物(X)の保存安定性がそれほど高くならない場合があるが、組成物(X)が有機ホウ酸化合物(G)を更に含有すると、組成物(X)の保存安定性が十分に高くなりうる。その理由は、明確には解明されていないが、組成物(X)がマイクロカプセル型潜在性硬化触媒(F1)を含有するだけでは保存安定性が十分に高まらないのは、組成物(X)中にラジカル重合性化合物(C)とマイクロカプセル型潜在性硬化触媒(F1)とが併存するとマイクロカプセル型潜在性硬化触媒(F1)におけるシェルにラジカル重合性化合物(C)が作用することでシェルの内側にある触媒活性を有する化合物が露出しやすくなるからであると推察される。また、有機ホウ酸化合物(G)が保存安定性を高めるのは、前記のラジカル重合性化合物(C)の作用が有機ホウ酸化合物(G)によって阻害されることで、触媒活性を有する化合物が露出しにくくなるからであると、推察される。
【0051】
有機ホウ酸化合物(G)は、例えばホウ酸トリエチル、ホウ酸トリブチル、ホウ酸トリイソプロピルなどのホウ酸エステルを含有する。
【0052】
エポキシ樹脂(A)、チオール化合物(B)、及び硬化触媒(F)を含有するは硬化触媒(F)を更に含めた合計量に対する有機ホウ酸化合物(G)の割合は、0.03質量%以上2質量%以下であることが好ましい。この割合が0.03質量%以上であると、組成物(X)の保存安定性が特に高まりやすい。また、この割合が2質量%以下であると、組成物(X)の熱硬化後の接着強度を高くすることができる。この割合は0.05質量%以上であることがより好ましく、0.2質量%以上であることが更に好ましい。また、この割合は1.5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが更に好ましい。
【0053】
組成物(X)は、カルボジイミド化合物(H)を含有してもよい。この場合、組成物(X)の硬化物の信頼性が高まりやすい。詳しくは、エポキシ樹脂(A)とチオール化合物(B)との反応により組成物(X)を硬化させて硬化物を得ると、硬化物が高温高湿下で劣化しやすいが、組成物(X)がカルボジイミド化合物(H)を含有すると、硬化物が劣化しにくくなる。
【0054】
カルボジイミド化合物(H)とは、カルボジイミド基(-N=C=N-)を分子中に有する化合物である。カルボジイミド化合物は、ポリカルボジイミド、モノカルボジイミド及び環状カルボジイミドからなる群から選択される少なくとも一種を含むことができる。ポリカルボジイミドは、脂肪族ポリカルボジイミド及び芳香族ポリカルボジイミドのうち少なくとも一方を含むことができる。脂肪族ポリカルボジイミドは、主鎖が脂肪族炭化水素から構成される。芳香族ポリカルボジイミドは、主鎖が芳香族炭化水素から構成される。モノカルボジイミドは、脂肪族モノカルボジイミド及び芳香族モノカルボジイミドのうち少なくとも一方を含むことができる。
【0055】
モノカルボジイミドは、例えばN,N'-ジ-o-トルイルカルボジイミド、N,N'-ジフェニルカルボジイミド、N,N'-ジ-2,6-ジメチルフェニルカルボジイミド、N,N'-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド、N,N'-ビス(プロピルフェニル)カルボジイミド、N,N'-ジオクチルデシルカルボジイミド、N-トリイル-N'-シクロヘキシルカルボジイミド、N,N'-ジ-2,2-ジ-tert-ブチルフェニルカルボジイミド、N-トリイル-N'-フェニルカルボジイミド、N,N'-ジ-p-ニトロフェニルカルボジイミド、N,N'-ジ-p-アミノフェニルカルボジイミド、N,N'-ジ-p-ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド、及びN,N'-ジ-p-トルイルカルボジイミドなどからなる群から選択される少なくとも一種を含有する。
【0056】
ポリカルボジイミドは、例えば下記式で表される化合物である。
【0057】
2-(-N=C=N-R1-)m-R3
式中、m個のR1は各々独立に2価の芳香族基又は脂肪族基である。R1が芳香族基の場合、R1は、少なくとも1個の炭素原子を有する脂肪族置換基、脂環式置換基、及び芳香族置換基のうちの少なくとも一種で置換されていてもよい。これらの置換基は、ヘテロ原子を有してもよく、またこれらの置換基は、カルボジイミド基が結合する芳香族基の少なくとも1つのオルト位に置換してもよい。R2は、炭素数1~18のアルキル基、炭素数5~18のシクロアルキル基、アリール基、炭素数7~18のアラルキル基、-R4-NH-COS-R5、-R4COOR5、-R4-OR5、-R4-N(R52、-R4-SR5、-R4-OH、-R4-NH2、-R4-NHR5、-R4-エポキシ、-R4-NCO、-R4-NHCONHR5、-R4-NHCONR56又は-R4-NHCOOR7である。R3は、-N=C=N-アリール、-N=C=N-アルキル、-N=C=N-シクロアルキル、-N=C=N-アラルキル、-NCO、-NHCONHR5、-NHCONHR56、-NHCOOR7 -NHCOS-R5、-COOR5、-OR5、エポキシ、-N(R52、-SR5、-OH、-NH2、又は-NHR5である。R4は、2価の芳香族基又は脂肪族基である。R5及びR6は、各々独立に、炭素数1~20のアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数7~18のアラルキル基、オリゴ/ポリエチレングリコール類、又はオリゴ/ポリプロピレングリコール類である。R7は、R5の前記定義の1つを有するか、またはポリエステル基もしくはポリアミド基である。mは2以上の整数である。
【0058】
ポリカルボジイミドは、例えばポリ(4,4'-ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)、ポリ(N,N'-ジ-2,6-ジイソプロピルフェニルカルボジイミド)、及びポリ(1,3,5-トリイソプロピルフェニレン-2,4-カルボジイミド)などからなる群から選択される少なくとも一種を含む。ポリカルボジイミドの市販品の例として、脂肪族ポリカルボジイミド(日清紡ケミカル社製、エラストスタブH-01)、及びカルボジイミド変性イソシアネート(日清紡ケミカル社製、カルボジライトV-05)などが挙げられる。
【0059】
エポキシ樹脂(A)と、チオール化合物(B)と、ラジカル重合性化合物(C)との合計に対するカルボジイミド化合物(H)の割合は、0.2質量%以上35質量%以下であることが好ましい。この割合が0.2質量%以上であると、硬化物の信頼性が特に高まりやすい。また、この割合が35質量%以下であると、光硬化時の深部硬化性を担保することができる。この割合は1質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であれば更に好ましい。また、この割合は25質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であれば更に好ましい。
【0060】
組成物(X)は、無機充填材(I)を含有してもよい。この場合、組成物(X)が硬化して硬化物が作製される過程における硬化収縮が生じにくくなる。そのため、組成物(X)は、カメラモジュールなどの精密機器における部品の接着に更に適したものとなる。
【0061】
無機充填材(I)は、例えばシリカ、アルミナ、硫酸バリウム、タルク、クレー、マイカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、ホウ酸アルミニウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸ビスマス、酸化チタン、ジルコン酸バリウム、及びジルコン酸カルシウム等からなる群から選択される少なくとも一種を含有する。
【0062】
無機充填材(I)は、平均粒径1μm以上50μm以下の材料(以下、第一充填材(I1)ともいう)を含有することが好ましい。この場合、粘度の上昇を抑制しつつ無機充填剤の量を多く配合できる。なお、平均粒径は、レーザー散乱法により得られる粒度分布から算出されるメジアン径(D50)である。
【0063】
無機充填材(I)は、平均粒径10nm以上500nm以下の材料(以下、第二充填材(I2)ともいう)を含有してもよい。この場合、樹脂組成物に形状保持性を付与できる。なお、平均粒径は、動的光散乱法により得られる粒度分布から算出されるメジアン径(D50)である。
【0064】
無機充填材(I)は、第一充填材(I1)と第二充填材(I2)とのうち、いずれか一方を含有してもよく、両方を含有してもよい。
【0065】
組成物(X)に対する無機充填材(I)の割合は、0質量%以上90質量%以下であることが好ましい。この割合は10質量%以上であればより好ましく、20質量%以上であれば更に好ましい。またこの割合は、80質量%以下であればより好ましく、70質量%以下であれば更に好ましい。
【0066】
組成物(X)は、上記以外の添加剤を更に含有してもよい。添加剤は、例えば希釈剤、溶剤、顔料、可撓性付与剤、カップリング剤、酸化防止剤、チクソトロピー性付与剤、及び分散剤等からなる群から選択される少なくとも一種を含む。
【0067】
組成物(X)は、上記の組成物(X)の成分を混合することで調製できる。
【0068】
上述のとおり、組成物(X)を、接着剤として用いることができる。すなわち、組成物(X)を硬化させることで硬化物を得ることができ、この硬化物で、例えば機器を構成する二つの部品(以下、第一の部品及び第二の部品ともいう)を接着できる。
【0069】
本実施形態に係る硬化物は、組成物(X)を硬化させることで得られる。上記のとおり、この硬化物で、第一の部品と第二の部品とを接着することができる。
【0070】
本実施形態に係る機器は、第一の部品と、第二の部品と、これら第一の部品と第二の部品の間に介在して第一の部品と第二の部品とを接着する硬化物とを備える。この硬化物は、組成物(X)を硬化させて得られる。機器は、上述のとおり、例えばカメラモジュールなどの精密機器であるが、これのみには限られない。
【0071】
第一の部品及び第二の部品の各々の材質は、例えば液晶ポリマーなどの樹脂、ポリカーボネートなどの樹脂、ポリエステルなどの樹脂、ニッケル、銅などの金属、セラミック、ポリイミドなどの樹脂、ガラス、その他各種の基板材料などであるが、これらのみには制限されない。
【0072】
組成物(X)を用いて第一の部品と第二の部品とを接着する方法、及び第一の部品、第二の部品及び硬化物を備える機器を製造する方法について説明する。
【0073】
第一の部品と第二の部品との間に組成物(X)を介在させる。この状態で、組成物(X)に光を照射することで第一の部品と第二の部品とを仮接着する。
【0074】
組成物(X)に照射する光の波長は、組成物(X)中のラジカル重合性化合物(C)及び光ラジカル重合開始剤(D)の種類等に応じ、ラジカル重合性化合物(C)の光ラジカル重合反応が進行するように適宜選択される。この光は、例えば紫外線である。
【0075】
組成物(X)に照射した光は、上記のようにラジカル重合性化合物(C)の光ラジカル重合反応及びチオール化合物(B)とラジカル重合性化合物(C)とのエン・チオール反応を進行させるものの、エポキシ樹脂(A)とチオール化合物(B)との反応は進行させない。このため、光が照射されることで、組成物(X)は、完全には硬化していないものの、粘着性を有する状態になる。このため、第一の部品と第二の部品とは、組成物(X)の粘着性によって緩やかに接着された状態となる。この状態が仮接着である。仮接着においては、第一の部品と第二の部品との相互の位置関係を適切に調整することで、アラインメント精度を高めることが容易である。
【0076】
続いて、組成物(X)を加熱することで硬化物を作製する。すなわち、熱によって組成物(X)中のエポキシ樹脂(A)とチオール化合物(B)との反応を進行させて、組成物(X)を更に硬化させ、硬化物を作製する。これにより、硬化物によって、第一の部品と第二の部品とが、仮接着の場合と比べてより強固に接着される。加熱の条件は、エポキシ樹脂(A)及びチオール化合物(B)の種類、並びに硬化触媒(F)を使用してる場合は硬化触媒(F)の種類などに応じて、エポキシ樹脂(A)とチオール化合物(B)との反応が十分に進行するように適宜設定される。加熱条件は、例えば加熱温度60℃以上100℃以下、加熱時間30分以上120分以下である。このように本実施形態では、比較的低い温度で組成物(X)を硬化させることが可能である。
【実施例
【0077】
以下、本実施形態の、より具体的な実施例を提示する。なお、本実施形態は、下記の実施例のみに制限されるものではない。
【0078】
1.組成物の調製
表に示す原料を混合することで、組成物を調製した。表に示す原料の詳細は下記のとおりである。
-エポキシ樹脂1:液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、品番YD8125。
-エポキシ樹脂2:液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、品番YDF8170。
-エポキシ樹脂3:ナフタレン骨格含有液状エポキシ樹脂、DIC株式会社、品番HP-4032D。
-チオール化合物1:トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオナート)。
-チオール化合物2:SC有機化学株式会社、品名DPMP。
-ラジカル重合性化合物1:トリメチロールプロパントリアクリレート、大阪有機化学工業株式会社製、品名ビスコート#295。
-ラジカル重合性化合物2:トリアリルイソシアヌレート。
-光ラジカル重合開始剤1:1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン、IGM Resins B.V.製 品名Omnirad 184。
-光ラジカル重合開始剤2:2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、IGM Resins B.V.製 品名Omnirad TPO G。
-硬化触媒1:マイクロカプセル化イミダゾール、旭化成イーマテリアルズ株式会社製、品名ノバキュアHXA9322HP。
-ラジカル捕捉剤1:N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシアミンアルミニウム塩、富士フイルム和光純薬株式会社製、品番Q-1301。
-ラジカル捕捉剤2:三信化学工業株式会社、品番サンダント2246。
-ホウ酸化合物1:ホウ酸トリエチル。
-ホウ酸化合物2:ホウ酸トリイソプロピル。
-カルボジイミド化合物1:環状カルボジイミド、帝人株式会社製、品番TCC-FP20M。
-カルボジイミド化合物2:ポリカルボジイミド、日清紡ケミカル株式会社製、品名カルボジライトV-05。
-無機充填材1:球状シリカ、平均粒径15μm、デンカ株式会社製、品番FB-940。
-無機充填材2:球状シリカ、平均粒径0.6μm、アドマテックス社製、品番SO-25R。
-カップリング剤1:3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、モメンティブ社製、品番A-187。
【0079】
2.評価試験
(1)光硬化性
内径3mmの黒色のプラスチック製の円筒を長手方向が鉛直方向に沿うように配置し、円筒内に組成物を円筒上端まで流し込んだ。続いて、円筒の上端に向けてピーク波長365nmの紫外線を、照度500mW/cm2、照射時間3秒の条件で照射した。
【0080】
組成物における硬化した部分を円筒から取り出し、この部分の長さをデジタルノギスで測定した。その結果、この部分の長さが0.3mm以上である場合を「A」、0.2mm以上0.3mm未満の場合を「B」、0.2mm未満の場合を「C」と、評価した。
【0081】
(2)弾性率
ガラス板上にポリエチレンテレフタレート製の離型フィルムを配し、離型フィルム上に平面視5mm×150mm、厚み0.5mmの空間が有るシリコーン製スペーサーを配置した。スペーサー内空間に組成物を流し込んだのちにスペーサー上面にポリエチレンテレフタレート製の離型フィルムを配し、離型フィルム上にガラス板を配置した。上側のガラス板の上方から空間内の組成物へ向けて、ピーク波長365nmの紫外線を、積算照度1500mJ/cm2の条件で照射した。続いて、組成物を80℃で1時間加熱することで熱硬化させて、硬化物を作製した。この硬化物について、JIS K7127に基づき引張試験を行い、硬化物の引張弾性率を算出した。
【0082】
(3)保存安定性
組成物を遮光容器に入れ、25℃における粘度をB型粘度計で回転数20rpmの条件で測定した。粘度の測定を連続的に行い、25℃における粘度が初期値の1.5倍になるまでに要した期間を、保存安定性の指標とした。
【0083】
(4)接着強度(初期)
液晶ポリマー(品名E463i、ポリプラスチックス社製)で作製された被着体の上に組成物を塗布して直径5mm、厚さ0.5の塗膜を作製した。この塗膜にピーク波長365nmの紫外線を積算照度1500mJ/cm2の条件で照射してから、塗膜を80℃で1時間加熱することで熱硬化させ、硬化物を得た。シェアテスターにより被着体に対する硬化物のせん断接着強度を測定した。
【0084】
(5)接着強度(高温高湿試験後)
上記「(4)接着強度(初期)」と同じ方法で得られた硬化物を、被着体に重ねたまま、85℃/85%の高温高湿槽に100時間入れてから、取り出した。硬化物を高温高湿槽から取り出した時点から30分~60分経過した時点で、上記「(4)接着強度(初期)」と同じ方法で、被着体に対する硬化物のせん断接着強度を測定した。
【0085】
(6)収縮率
上記の「(2)弾性率」と同じ方法で硬化物を作製した。JIS K5600に準拠して、組成物の比重と硬化物の比重とから、収縮率を算出した。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】